突然の質問にパーシヴァル卿が驚いているのを見てカリオストロ伯爵は言葉を足した。
「失礼、カルデアでのあなたはいつも穏やかな表情をしているので…ちょっとした好奇心から聞きました。」
「そうでしたか。確かに声をがなりたてるようなことはないですが、私とても悟りを開いているわけではないので怒りが湧く時もあります。」
「そうでしたか。怒りは人間が普遍的に持つ感情ですが、パーシヴァル卿は怒りの扱いが上手いように見えます。」
パーシヴァルは目を丸くして驚いた。褒められるほどに自分は特別なことを言ったのか不思議に思った。カリオストロ伯爵は一口だけアイスティーを飲み話を続けた。
「そもそも怒りというのは自分の欲望が妨げられた時に起きる2次的な感情です。まあ欲望というと汚く聞こえるかもしれませんが『平和』でも『名声』でも『金銭』でも『友人』でも欲しいと思う感情は全て欲望とお考えください。そこに貴賤はあるでしょうか?」
カリオストロ伯爵は目線をパーシヴァル卿に合わせた。パーシヴァル卿はまっすぐに見返してきた。
「さて、そうすると怒りを放棄するということは欲望を諦めることになります。無論それが賢明な判断となることもあるでしょうが…何もかもを諦めて生きるのは実に…実に惨めな人生だと思いませんか?」
パーシヴァル卿は小さく「確かに」と呟いた。そして自分のコップを手に取り一口アイスティーを飲んだ。
「怒りについてここまで肯定的な意見は初めてです。成程と思いました。」
「一般的に怒りという感情が忌避されるのは強いエネルギーを内包する故です。このエネルギーが時に人間関係や自分の立ち位置、場合によっては財産を損なうことも少なくなりません。世人が怒りに対し慎重になるのはそういった破滅を恐れるためです。」
「お詳しいですね。」
「ご存知の通り、私は詐欺師です。怒りというのは人を突き動かす最も強い感情故、人を動かす詐欺師であれば知っていて当然のことです。」
ふとカリオストロ伯爵は思った。フランス革命は民衆の怒りから起こったが、あれは賢明なものだっただろうか。
「怒りを潜め欲望を捨て去り身の丈で生きることも怒りのエネルギーを武器に欲望を満たそうとすることも結局はケースバイケースです。この手の問題に絶対の正解はないですね。」
パーシヴァル卿は相槌を打ちながら食い入るように話を聞いている。
怪 文 書 ス レッ ド 3
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