聖杯大会運営本部【リレー相談・雑談】#226

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スレ立て乙ですの！
…今思えば本当にギリギリだったし感想は次スレのここで言っておくべきだったかもしれませんわ、あいすみませぬ…

そしてメシマズ…随分昔にグランデとデイヴィくんとメシマズの話を書きましたね、そういえば。デイヴィくんはメシマズというわけではない(味覚が麻痺ってただけ)ですがメシマズ鯖と一緒だとどうなるかな…

これはメシマズとは別に厨房に立つ度に何かしらを破壊する男夕ウタ
なお本人は「何もしてないのに壊れた」とのたまう模様

「父さんはさ、優しいよね」

「何が？」

「………色々。母さんは強いしさ」

「えっと……拳が！みたいな？」

「色々だよ。僕は生まれてきてよかったって本当に思ってたりするんだ」


　現在、自分こと綾姫ナキは14歳。日本ではまだ中学生となる年齢だ。対して父は27歳、母は28歳。年齢差、おおよそ10歳と少し。これが少し周りと変わってることなんだっていうのは、小学生になる前からわかってることだった。
　親族の集まりで、うっすら聞こえたことがある。自分は父の実の子ではない。母の実の子ではあるらしいが……母が自分を産んだ歳のことを考えるとその背景はさぞかし辛いものであるのだろうなと言うのはわかる。わかっているから、そこから先のことは聞かなかったのだけど……ある時、二人からその真実を聞かされた。
　母国から遠いこの日本で、言うも悍ましい卑劣な暴力で僕を孕んだらしい母は、堕ろす選択肢を選ぶことはなかった。しかしどうすればいいのかと絶望の淵にありながら、僕を抱いてふらふらと雨の降る中、傘もささず公園を彷徨い歩いていた。その時に出会ったのがまだ中学生の時の父だと言うのだ。
　対して父も絶望していた。いつか自分の家庭が持ちたいと強く望んでいた彼は“自身は不妊体質である”という検査結果を知り、絶望に打ちひしがれていたらしい。家柄が高いため、色々な格式に縛られている父にとって家族を得るというのは大事な話だったから。それに何よりも、父自身が家族というものに恋焦がれていたらしいから。そんな二人が、偶然雨降る中で互いの境遇について理解を進め……その中で、自ずと父が言い出したらしい。

“あの、俺をあなたの家族にしてくれませんか。絶対に苦労はさせません”

　13歳、14歳、けれど父は金と権力があったし、母も働く能力があった。二人は大人の力を借りることなく僕を育ててくれた。すごい話だと思う。本当に、凄すぎて二人の強さを羨んでしまうぐらいに。僕は二人のことが大好きだけど、それはそれとして嫉妬してしまうぐらいにはどっちも凄い人なんだ。

「二人が僕の両親じゃなかったら、きっと僕はこんな風に生きてこれなかったと思うから」

「そんな照れ臭いこと言っちゃって……俺のお財布が緩くなるぐらいしかしてあげないよ！」

「お父さん？あまり甘やかしすぎたら明日のお弁当抜きますからね」


　近くに新しく出来た遊園地。そこの冬季限定イルミネーションを見ながら、三人で仲良く並んで歩いちゃったりして。中学生にしては随分と背が伸びた方で、周りから見たら兄弟みたいに見えるかも。でも、それでも、僕にとっては自慢の両親─────





「あ……ぇっ、と……？」


　イルミネーションを見ていたはず、なのだが。目の前にあるのは光の装飾ではなく、炎ではないだろうか。というか自分は地面に倒れ込んでいるのではないだろうか。体が頑丈であったからか、そんなに大きな傷はない。多少の切り傷や擦り傷が目立つぐらい。それは良い。自分のことはいい。問題は……

「父さん、母さん、どこ……どこ行ったの……」

　二人が見当たらない。というか、今さっきまで自分がいた場所とはおそらく別のところに自分が居る。それが自ら移動したのか移動させられたのかはわからないが、少なくともこんなひらけた公園にはいなかったはずだ。遠くから人の悲鳴が聞こえるから、きっと多くの人たちはあっちにいる。自分だけがここにいる。そんな状況で一緒にいたはずの両親を気にするのは当たり前だろう。戦う力を習った自分と違って、二人とも一般人だから。だからきっと……


「っ、いた、い。なに？なんで、いつのまに、茨……ッ！」


　血の匂いがする。とても強い血の匂い。低い唸り声と一緒に“それ”が近づいてくる。黒いモヤに覆われた、獣のような唸り声と体臭の、けれどカタチは紛れもなく人の姿をしたそれがくる。その手は長々とした獣の爪が浮き出ていて、そこから血が垂れている。いつもなら逃げれただろうが、周囲に気を取られた瞬間に地面から薔薇の茨が溢れ出て拘束してくる。強化を使っても引きちぎれない、魔術や神秘の類だろう。


「あ゛っ……！っ、うぅ………」

　手首を無理やり、茨がキツく擦り上げる。その鋭い棘が柔らかな皮膚を破り、肉を破り、ゴリゴリと削ってくる。プシュッ、と血液が噴き出てそのままドクドクと止まらなくなってくる。やばい、本当にやばい。こんなんじゃまず死ぬ。治癒の魔術は苦手だし、絶えずケガを与えられているこんな状況じゃ治したところでジリ貧だ。嫌だ、死にたくない。まだもっと色んなことがしたい。人の役に立ちたい。二人に胸を張れる息子になりたい。なのにここで死にたくない。


「たす、けて………誰か、助けて………！」


　血に浸された地面が光る。ナキは知らなかった。己がとある召喚儀礼の贄にされようとしたことを。そしてそれを企んだものも知らなかった。その血が触媒となり、ナキを主と仰ぐ殺人騎が生まれ出でることを。

「サーヴァント、キャスター！ご機嫌よう、可愛らしいあなた！私はジャック。ジャック・ザ・リッパー！気軽にジルとお呼びください。それで、あなた。あなたは悪人ですか？」


　悪あるところに幽魂の殺人鬼あり。煤焦げたロングコートを身に纏い、蒼眼銀髪の殺人鬼がゆらりゆらりと姿を現した。ご丁寧に、マスターを縛り付ける茨を全て切り捨て解いた状態で。


「えっと……意味が、わからない。でも、助けてくれたんだよね？ありがとう」

「いえいえ。……失礼して」

「え？……ぐ、ぅ゛ッ！！！」

「んー……あんまり悪っぽくない？でもそこはかとなく……ありゃ、私を呼ぶ時点で相当歪んだ化け物だと思ったんですが」

　柔らかく手に取ったナキの手首に口をつけ、容赦なくその血を啜る。傷をほじくられるようなものだからとても痛い。すごく痛い。明らかにキャスターと名乗った女の趣味である。そのまま口を離せば、身体中の怪我が治ったのは唯一の利点だろうか。でも、こんな傷の治し方以外にも絶対に方法はあったはずだ。100%趣味である。


「ご安心ください。詳しい話もひとまず全て置いてしまって、今はただ、私という駒に全てを委ねれば良いのです。私はあなたの剣。あなたは私の持ち主。であれば立ち塞がる敵を斬り刻み抉り出し屠り続けるのは自明の理なのですから」

　人並み外れた挙動で黒いモヤを斬り裂くキャスター。その手に握った黒い剣が煌めけば、モヤは鮮血を撒き散らしながら息絶えていく。骨のように真っ白な投げナイフは丁寧に急所を刺し貫き、大量の血を浴びている。どれほど血で赤く染まってもナイフの内側に吸い込まれ最後に純白へと戻るその様子は美しいよりも悍ましいが勝る。

　この二つの武器はどうやら魔術の触媒としても作用するようで、斬撃が届かない場にいるモヤたちも苦しみ悶えて死に果てる。詠唱すらすることなくやっているそれは埒外にあるものだ。本人が言っていた言葉……「ジャック・ザ・リッパー」が事実であるならばあまりにも神秘と歴史が結びつかない。なにか絡繰がある。だがわからない。そもそもなぜそんな殺人鬼が目の前にいるのかすらわからない。産業革命の頃の話なのでは？


「さてさて、ここで一つ。どうやらこの人モドキは単体ではなく総体。本体がいると見ました。おそらく……この燃え盛るアミューズメントパークを覆う黒い霧」

「え？………といかキャスターさん、血塗れ……」

「これで良いんですよ。マスター？グロテスクでスプラッターなB級映画はお好きですか？」

「嫌いじゃない、けど」

「それはよかった。では、どうかご覧ください。血液を浴槽に満たし、臓物を暖かい布団とし、あなたに、優しさに包まれた眠りをもたらせますように」


　霧に満ちた夜。殺人騎は悪を斬る。それは義によるものではなく、ただの純粋な悪意、エゴからなるもの。悪を殺して悦を得る。その衝動のまま、彼女は呪った。大魔術であり、貴き神秘。英霊となったことで昇華した殺しの手口そのものが。
　大量の血液、剣で刻んだ呪印、対象との距離が近いこと。これらの条件をもって発動される宝具は敵の臓腑を、血液を、全て“弾き出す”ものだ。生き物であるならば、内臓がなければ生きていくことはできない。それが人でなくとも、“核”と思われる部位を弾き出されればそれでもうそれでお終いだ。空から血の雨が降り注ぎ、絶叫が響き渡る。そうして黒い霧は晴れて逝った。静寂と安寧を取り戻したのだ。………ダメ押しの一撃がナキを狙い降り注いだことを除けば、だが。
　元々、英霊召喚のために使用された生き物だ。自分たちの存在に密接に関わっているからか、目の前の英霊には主人がいて、それを殺してしまえば消えてしまうということもわかっていた。道連れにしようとするその動きが彼らを使役する主の意図なのか、それともただの悪あがきなのかはわからないが……黒い霧で形成された巨大な爪と拳がナキを押し潰そうとしているのははっきりとわかる。

「あっやば。私たちのマスターがあの子だってことをわかってる！………姫ー！！」

「仕方ないわね。つまらない下僕を持つと苦労するわ」


　眼前に迫った拳が跡形もなく砕け散る。悪あがきを果たす前に寿命が尽きた？いや、違う。赤く鋭く輝く槍に何もかもを切り刻まれたのだ。巧く、そして、単純に速い。おそらくこの場にいた何よりも、基礎の身体能力が違う。生物としての規格が違う。キャスターと呼ばれた女の上を行く。姫と呼ばれた、この悠然と立ち踊る女性の正体は一体なんだろうか。どうしてこちらをご飯でも見るような目で見てくるんだろう。


「……人ではない、か」

「え？」

「気にしなくとも良いわ。今はおやすみなさい。あなたの身に刻まれた茨の呪いは吸い出してあげる」

「は……ん、むぅっ！？」


　食いつかれるように唇を合わせられ、そのまま貪られてしまう。身体の怠さや微かに残る痛みが全て消えていく感覚があるけれど、それと同時にとても眠たくなる。何か呪いがかけられていたらしいけどもしかして一大事だったりする？よくわかんない。よくわかんないけどなんだかこれはダメだ。だって自分は15歳。この状況は、なんというか、その……

「えっちなのは………よくない………」

「あら、ごめんなさいね」

「あっ、体内の気がなんか幼い！もしかして背丈が高いだけでもしかしてまだ子供！？ダメですよ姫！それ犯罪！」

「手首から血を啜るよりマシだと思うわ」


　………いや、ファーストキスだったのだが。まあ良いや。おやすみなさい。


おしまい。過去回想

【元ネタ】歴史
【CLASS】アーチャー
【マスター】
【真名】ジェべ
【異名・別名・表記揺れ】ジルゴアダイ、者別、“魁のアーチャー”
【性別】男
【身長・体重】187cm・70kg
【肌色】肌色【髪色】黒色【瞳色】焦茶色
【外見・容姿】
悪魔の尻尾を生やした長身痩躯の男性。眉目秀麗だが側頭部から顔面にわたって派手な刺青が入っており、見るからにアブナイ空気を漂わせる。動物で喩えると「蛇」。
暇さえあれば煙を燻らせてる愛煙家。愛用する煙草は『煙龍』。

更に髪も長く黒いスーツを着用し、そこにきて柄も悪いので、どう見ても極道の若い衆にしか映らない。
【地域】アジア・モンゴル帝国

>>37
【年代】13世紀
【属性】中立・悪
【天地人属性】人
【その他属性】騎乗、人型、愛する者
【ステータス】筋力：B 耐久：C 敏捷：A++ 魔力：E 幸運：E 宝具：B
【クラス別スキル】
対魔力：C 単独行動：C
【固有スキル】
反骨の相：B
一つの場所に留まらず、また、一つの主君を抱かぬ気性。 自らは王の器ではなく、また、自らの王を見つける事のできない放浪の星である。
同ランクの『カリスマ』を無効化する。

無辜の怪物：C
生前の行いから生じたイメージによって、過去や在り方をねじ曲げられた怪物の名。
能力・姿が変貌してしまう。ちなみに、このスキルは外せない。
西征の際、そのあまりの容赦のなさからモンゴル人は西洋諸国から「タルタル（地獄からの使者）」と呼ばれ、さながら悪魔の来襲だと恐れられた。
その影響か身体の一部に悪魔の特徴を有しており、霊基再臨の度により顕著になっていく。

>>38
軍略：C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
チンギス・カアンに仕えた「千人隊長（ミンガン）」として、多くの兵隊を動かす技能に長けている。
先手必勝：A+
機先を制して先に攻める事で勝利をもぎ取る手練。転じて、色んな意味での手の早さとも。
対人戦闘で先手を取れた場合、最初の攻撃のダメージ値にプラス補正をかける。
【宝具】
『先魁の鏃(さきがけのやじり)』
ランク：B 種別：対軍宝具 レンジ：40~90 最大捕捉：70人
西征に於いて先鋒を務め上げ戦功を重ねた逸話と、真名の由来にまつわる逸話が統合されて生まれた宝具。
同じく四狗が一人スブタイと組んだ先鋒軍（アルギンチ）はモンゴル最強とされ、ひとたび遠征軍として出陣すれば放たれた矢のようにどこまでも進軍したという。
真名解放により自分の霊基を「鏃」に変換させ、モンゴル帝国の概念が形質化されできた「弩」に装填された後、超大射程の開戦の一射として射出される。

純粋な飛距離は対軍宝具の規格に収まらない大技だが名前の通り先魁、つまりは初撃にしか使えない。
また消耗も激しく、使う度に霊基が損傷してゆく危険性も孕んだ荒技でもある。
だが戦闘狂のアーチャーは自分の霊基などお構いなしに宝具で最前線に突っ込みたがる為、マスターは彼の手綱をしっかり握ってあげる必要がある。

ちなみに史実でもアーチャーは自分の補給部隊を置いて最前線へ突撃をぶっかました逸話が遺されており、同じく先鋒軍のスブタイ共々「せめて補給の管理くらいはちゃんとしろよ」とチンギス・カアンから注意されたこともある。

>>39
【Weapon】
『無銘・短弓』
馬上でも取り回しが効きやすい比較的小型の弓。今回の召喚では馬を連れていないが、彼我の距離がめまぐるしく変わる英霊との戦闘ではけっこう重宝している。

その他にも黒塗りの曲刀を携えており、接近戦ではそれを逆手持ちして応戦する。
【解説】
モンゴル帝国の建国者チンギス・カアンに仕え、年代記『元朝秘史』において「四頭の駿馬・四匹の狗」と讃えられた、優秀な八人の最側近『四駿四狗』の一人。
西遼攻略において功篤く、また弓の名手としても名高い武将。

元はベスート部に属し、チンギス・カアンと敵対するタイチウト氏に仕え、元の名をジルゴアダイと言った。
1201年、氏族同士の戦いの際、チンギス・カアン自身とその愛馬を毒矢で射かけ、一時昏睡状態にまで追い詰めるも敗れ降伏。降伏後は持ち前の潔い人格を買われて臣下に迎えられ、それ以後「ジェベ（木の鏃、という意）」と名を改める。
そこから僅か三年で有力な将帥として頭角を現し、四狗の一人に名を連ねるまでになった。

>>40
第一次金遠征での活躍を経て、西遼のクチュルクと対峙、現地のイスラム教徒を扇動した末に討ち果たし、その翌年の西征でも最前線を駆け抜けた。
ホラズム攻め後のアラーウッディーン・ムハンマドの追撃が追撃対象の病死により頓挫すると、今度はスブタイと共にアゼルバイジャンからグルジア、そこからルーシ奥深くまで侵略を敢行。
そこでの破壊と蹂躙は後の文献で「地獄の悪魔の所業」とまで評され、それがギリシャ神話の冥府『タルタロス』と結びついた結果、モンゴル帝国の遊牧民は西洋諸国から「タルタル（地獄からの使者）」と称されるようになった。
その悪魔の所業たるカルカ河畔の戦いでの大勝ののち軍を引き上げるが、その途上で急死した。

【人物像】
享楽主義の戦闘狂。
強者を力で圧倒し屈服させる事に悦びを見い出す加虐嗜好の持ち主で、敵とあらば積極的に喧嘩をふっかけ、完膚無きまで叩き潰し、反抗心すら沸かせぬ程の恐怖を植え付ける。
また倒せる敵は倒せる内に倒す主義であり、弱った相手を重点的に狙ったり、不意打ちや奇襲などダーティな戦法を好んで使用する。
まさしく悪魔のような人物。
これはかつて西洋諸国が恐れた「地獄からの使者」としての側面での召喚のため。

>>41
「力こそ正義」を絶対信条とし、それ故に情けを掛けられるのが大嫌い。赦されるくらいなら迷わず死を選ぶ、ある種の高潔さも持ち合わせている。
また他人に対してもシビアで冷徹。召喚されるや否や「弱い奴の指図は受けたくねぇ」とマスターに腕試しを持ち掛ける。
だがこれは勇敢さを試す儀式であり、たとえ勝つ見込みが無くとも戦う覚悟さえ示せれば、ちゃんと主人と認識してくれる。

一度主人と認めれば意外なほどに従順。タルタロスよろしく地獄の底まで忠義を通す、頼り甲斐のある味方となってくれるだろう。
ただし過信は禁物。
英雄色を好むと言うべきか、女癖が悪いので女性のマスターは注意されたし。

特技：殴り込み、調教（馬だと思いたい）
好きなもの：命知らずな男、破滅願望のある女
嫌いなもの：臆病者
天敵：バイバルス、サラディン
願い：ないからとりあえず手に入れてから考えたい。
【一人称】俺
【二人称】坊（ボン）、お嬢、アンタ、テメェ
【三人称】アイツ

>>42
【セリフ例】
「アンタが俺のマスター？あぁそう。言っとくけど俺、よえーヤツの命令に従う気はないから」
「従えたきゃ力を示してみな。世の中『力こそ正義』でしょ？」
「現代の色恋もあわない相手はスパッと切って次いくでしょ？主従も一緒。あわねぇ奴と居るのはお互いに時間と労力の無駄だと思わね？」
「改めまして『四駿四狗』が一人、千人隊長のジェべでーす。因みに四狗の方でーす。わんわん」

「好きな物？もう人生どうにでもなっちまえ、って思ってるような子とか超好きー。だって面白いもん」
「嫌いな物？臆病な奴かな。つい殺したくなる」

「───お前ら俺抜きで楽しそうなコトしてんじゃん。俺も混ぜろよ、なぁ」
「おもれー、超面白いわアンタ。潰し甲斐の塊だわ」

「いいじゃん、刹那的で。俺と一緒に地獄を見ようよ、お嬢」

【因縁キャラクター】
ザミエル
悪魔で、狩人で、アーチャークラスでと共通項が多々ある御仁。向こうが憂いと影が似合うタイプの悪魔で、こちらは女とか躊躇なく殴るタイプの悪魔なので全然違います。
「何それ武器が銃とかかっけぇ。なあちょっとソレ貸してみ？いーから貸せって。絶対返すから」

>>43
チンギス・カアン（テムジン）
かつて忠義を尽くしたモンゴル帝国始祖。自分より強い存在を中々認めたがらないアーチャーが「絶対勝てない」と感じたただ一人の男。
史実ではアーチャーが彼の愛馬を矢で狙い撃ったとされている。
「いや違う、俺は間違いなく本人を狙った。けどな？あの旦那がこう……キッ！とひと睨みきかせたらさ、矢の軌道が勝手に逸れやがったんだよ……分かるか？俺の意思とは無関係に、矢が旦那の『凄味』にビビっちまったワケ」
「結局首に命中させても死なねぇし、なんなのあの人」

スブタイ
チンギス・カアンが有する優秀な最側近『四駿四狗』の内、ジェべ同様『四狗』に該当する千人隊長（ミンガン）。
先鋒軍として共に草原を駆け抜けた仲であり、アーチャーにとって唯一無二の親友。

【他クラス適性、変化傾向】
『暗殺者（アサシン）』と『狂戦士（バーサーカー）』の適性をもつ。
『暗殺者（アサシン）』の場合は矢が全弾毒矢となり、確実に獲物を仕留める狩人としての側面が強くなる。
『狂戦士（バーサーカー）』の場合は地獄からの使者としての側面がより顕著となり、生前全く縁のなかった冥界の虚タルタロスからの恩寵を獲得する。
【製作者】
亥狛の人

以上です。宝具の詠唱をどうするかが出てこない…！

イベント話も解禁ですかね？

私としては武田信玄に上杉謙信と戦国鯖のトップ組がだいたい揃ってきたことで「公式の考える戦国大名鯖のスペックはこのくらい」っていうラインが見えてきたのが収穫
収穫…だったんですが…おかげで私の考えている毛利元就の性能がかなり地味or被りまくりになってしまうことも確定して……うーん、どうしましょ

こっちは新八を削らんで済んだから内心かなりホッとしてる。

>>91
戦国武将でも功績があんまりないだとか、武勲がほとんどないみたいな人なら兎も角、毛利元就となると確かにそうですね。二次会に参加した信玄、謙信、信長、義元とかと並んでも遜色無い武将ですから。

私の場合、道雪はもう少し強めに設定してもよかったかと思うものの、スキルも雷切も今のところ強化の余地はないかなと。

【出典】史実
【CLASS】アサシン
【真名】浅野薫/Kaoru Asano
【異名・別名・表記揺れ】浅野忠雄、浅野藤太郎、鬼の懐刀
【性別】女性
【身長・体重】163cm・50kg
【肌色】黄色人種
【髪色】白花
【瞳色】勿忘草
【地域】日本
【年代】19世紀
【属性】中立・悪
【天地人属性】人
【その他属性】女性
【ステータス】筋力:D　耐久:E　敏捷:B　魔力:E　幸運:D　宝具:A
【クラス別スキル】
気配遮断:B
　サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
　完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
　多くの隊士にその動向を悟られずに海外へ渡った逸話が由来。

>>99
【固有スキル】
人体理解:B
　医者として精密機械としての人体を正確に把握していることを示す。
　治療系のスキルや魔術の行使にプラス補正。相手の急所をきわめて正確に狙うことが可能となり、攻撃時のダメージにプラス補正が加えられ、被攻撃時には被ダメージを減少させる。

病弱:C
　生前罹患した肺結核が由来。
　発動する確率こそ低いものの、あらゆる行動に急激なステータス低下のリスクを伴い、特に戦闘中だと致命的な隙を生む危険がある。

魔術:E
　生前に学んだ蘭学(西洋の学問の総称)の一部がスキルになったもの。まだ医学、特に薬学が呪術やまじないと同一視されていた頃の医療の知識。
　対象に魔力を流し止血や傷の治療、痛みの軽減を行える。アサシンは本職ではない上にそもそも魔術と呼んでいいかすら怪しい代物なので最低ランクになっている。

>>100
大医王善逝剣(オン・センダリ・マトウギ・ソワカ)
ランク:B　種別:対人施術　レンジ:1〜10(おおよそ手術室程度)　最大補足:1人
　かつて彼女が帰依しようとしていた御仏を奉る言霊とその医術の腕前が習合された術理。
　触診・執刀・縫合という大まかな病巣摘出の流れを一瞬三斬の剣技で再現する。
　青白く輝く太刀筋が煌めくその様は、衆生を遍く病苦から救う薬師如来の背負う瑠璃光に似ている。
　この術技の要はその構成する要素の多くを『摘出』という概念が占めていることにある。
　摘出とは内部の物体を外部に取り出すこと。突き詰めて言えばそれは病巣である必要すら無く、骨や内臓、ひいては霊核や魔術回路、魔力炉心に至るまで、『内部にある』ということが事実であれば摘出が可能となる。
　レンジ内に対象がいる限り病巣を取り除くことも臓腑を奪い取ることも出来る活人剣にして殺人剣。
　防ぐには一瞬でレンジ外まで回避出来る敏捷が必要。

【宝具】
誓いの羽織(ちかいの羽織)
ランク:C　種別:対人宝具　レンジ:1　最大補足:1人(自身)
「新撰組」の隊服として有名な袖口にダンダラ模様を白く染め抜いた浅葱色の羽織。
装備する事によりパラメータを向上させる。
向上する項目は個々人によって異なり、アサシンの場合耐久がEランクからDランクに上昇する。

>>101
【解説】
　新撰組隊士。副長(土方歳三)助勤。
　本来は医療畑の人間であり、隊士の健康管理や治療、手術の際の執刀などが主な任務だったという。
　文武に優れ、禁門の変においては軍事方を務めた。
　また、死した同胞に弔歌を詠むなど詩吟の才能も持っていた。
　土方、並びに近藤に徴用されるなど本来なら隊長になっていてもおかしくなかった人材ではあったが、ある時期を境に彼女の名前は一度表舞台から姿を消すこととなる。

　後世にはある失態がきっかけとされる彼女の転落、その真相はそもそもその時期に彼女は日本にいなかったという単純明快な理由に過ぎない。

　1865年、彼女は海外に渡航した、当時珍しかったその渡航理由は「医者としての見識を広めること」にあった、
　その目的はただ一つ、当時肺結核を発症し床に伏していた沖田総司を病床から救うためである。

　特筆すべき理由は無い。
　多くの隊士がそうだったように、彼女にとって新撰組は自身にとっての家族だった。
　実の姉が妹に無償の愛を捧げるように、彼女も沖田に無償の愛を捧げようとしたに過ぎない。

>>102
　武士道とは死ぬことと見つけたり、という言葉があるように新選組内部には死を誉れとして考える隊士が一定数いたという。本来受け入れるべき天命に抗おうとした彼女は当然非難された。当時日本にいなかったはずの彼女が日本にいたことになっており、更に醜態を晒したことになっているのはそういった思想を持った隊士達によるものである、
　結果として、彼女の旅は失敗に終わる。当時の最先端医療をもってしても肺結核を完全に治療することは叶わず、彼女は失意のままに帰国する。
　そんな折、彼女が御陵衛士という組織を知ってしまったのは後の末路を考えれば不幸と言えるかもしれない。
　高台院に新たな居を構えたということを聞きつけた彼女は合流することを決心した。最早彼女には、仏門に帰依する道しか残されていなかった。
　新選組を抜けたものはその罪を己の死を以て償うこととなる。
　高台院に向かう最中―――彼女の前に現れたのは、彼女の処刑を命じられた沖田総司その人だった。
　不思議と恐怖はなく、自然と罰と思うことができた。
　何も果たせなかった罰、最愛の妹を救ってあげられなかった罰。
　そして何よりも、医者の立場でありながら学問を捨て、奇跡にすがった罰。
　そんな悔恨を最期に、彼女はその生涯を終えた。
　その後、沖田総司の病状はより悪化し、奇しくも彼女が最後に命を奪った相手が浅野薫になったという。　
　切り捨てられた浅野の遺体は桂川に放り込まれ流されたとか。

「志ばしまて　おなじ浮世の人ならば　
　共に三つ瀬の　川や渡らん」

　かつて同胞の死を弔った際に吟じた句、その内容と同じような最期を辿ったのは運命の悪戯なのかもしれない。

>>103
【人物】
　色素の抜けた髪と碧眼、そして浅葱の羽織の上から羽織った白衣が目を引く女性。
　髪は本来黒髪で本人は過労に由来するものと判断していたが、その実態は度重なった沖田の診察によって自身も肺結核に罹患したというもの。本人はそのことに生涯気づかずじまいだったという。
　どこか浮世離れした睡蓮のような佳人。隊士ではあるがそれ以前に医者ということで、生前は新撰組の面々ともどこか一線を引いていた。
　本人も生来内向的で、喧騒の中に加わるよりも喧騒から一歩身を引いてそれを眺めながら笑っている方が性分にあっていると彼女は語る。
　動乱の幕末の世に行きながら殺人に後ろ髪を引かれる程度の忌避感を持つ。割り切っているつもりではあるし本人も必要とあれば躊躇うことはないのだが、それはそれ、これはこれという感じ。医者が人の命を奪ってどうする、という職業意識に近い。
　新撰組である以前に医者である彼女、そんな彼女が新撰組に加わったのは「この国は膿んでいる。膿んでいるのなら、その原因たる病巣は摘出しなければならない」という思想から来るもの。
　私人としてはともかく医者としては必要であれば殺人も辞さない。患者への医療行為を妨害するものがいれば即座に切り捨てるだろう。
　本人は自覚がなかったが、ある種二面性にも近いその精神構造は新撰組とも水が合っていた。
　良識と見識があり、ほとんどの隊士と関わりがあり、立場上強い言葉で諌めても受け入れやすい……いわば、新撰組きっての突っ込み担当である。
　事実、宴席では土方の隣を陣取り、ボケ倒す周囲の面々を淡々と捌いていたとかいなかったとか。

特技:触診、診察、マッサージ、その他医療行為全般
趣味:読書(主に医学書)
好きなもの:羊羹、汁粉、熱い日本茶。
嫌いなもの:傷、病、医者の言葉を聞かずに戦場へ飛び出す愚か者集団。
天敵:沖田総司、ペイルライダー
願い:沖田総司の鎮魂、ただそれのみ……本当は、沖田を健康な身体にしてあげたい。

>>104
【一人称】私
【二人称】君、貴方
【セリフ例】
「サーヴァント・アサシン。新撰組副長助勤、浅野薫。よろしく」
「……人が斬れればそれでいい、か。そうね。どれだけお題目を立てても剣術はそういうもの……不思議な気分ね。まさか貴方と意見が一致するとは思ってなかった」田中新兵衛に対して
「へえ。彼にも医療の心得が……私に彼ほどの才能があれば、きっと彼女も救えていたでしょうに」平賀源内に対して
「……巡り合わせというべきなのかしら。正直な話、貴方が最期まで生き残るとは思ってなかったのだけど。貴方はどう思う？　新八」永倉新八に対して

「触診、完了。病巣、補足、摘出、開始―――大医王善逝剣！」
「これより執刀を開始します」

【関連人物】
沖田総司……いわずもがな最も深く最も濃い因縁で結ばれた相手。沖田自身は思うところがないでもないがアサシン本人は「最期を看取って貰えただけ上々。彼女が最後に手に掛けたのが自分ならなお良し」と特段気にしていない。彼女が沖田に暗い感情を抱くことがあるならばそれは「沖田の病状の進行」ただ一つであろう。

「そうですか。総司がここに。あまり無理はさせないであげてください……最も、言ってわかるような子ではないでしょうけど」

土方歳三……かつての上司。感情の土方と理性の浅野ということで相性は良かった模様。沖田という前例がいる以上女性だからといって無碍に扱うことはなく「力あり志同じくするものならば来るもの拒まず」という新撰組の理念の一端を担っている……とは土方の談。

カーミラ……人の上司に色目を使う泥棒猫……え？　副長も悪い気はしてない？　…………最低よ。最低。

>>105
以上です

>>84
了解しました！……と快諾したいところですがプトレマイオスさんは監獄長産の倭建命と比べてSS(個人ss異聞帯 深淵侵食神話エジプトなど)の露出があるのでその辺の扱いが難しいところですね……
もちろん、最終的にはディックさんの判断になりますが、個別ページは削除し、該当SSに折り畳みで簡易プロフ(↓のような感じ)を残すというのはどうでしょうと提案させていただきます

【CLASS】アーチャー
【真名】プトレマイオス1世
【性別】男性
【身長・体重】189cm・85kg
【出典】史実【地域】マケドニア、エジプト【年代】プトレマイオス朝
【属性】中立・善
【ステータス】筋力C　耐久C　敏捷B　魔力B　幸運A+　宝具EX
【クラス別スキル】
対魔力：C 単独行動：C
【保有スキル】
カリスマ：B 皇帝特権：A 神の寵愛：A 神性：B
【宝具】
熱砂の車輪(アブホル・ホイール)
遍く照らす光輝よ、神威を此処に(アレクサンドリナ・セラペウム)
語を抄し、名句を執し、叡智を蒐集する王の書架(ビブリオテケ・アレクサンドリナ)
輝き照らせ大灯台、神王の威光を放て(ファロス・アレクサンドリナ)

>>113
投下、投下ー。



「オラ！　ビオちゃーん。グレゴリーがビックリするだけあって、相変わらずの食べっぷりよね」

打ち上げ開始から10数分後。
自身への挨拶と、直後の捲し立てるような喋り方を背後から聞き取り、ビオランテは振り向く。
そこには、バルセロナの一件以来の友人である、裂月・Ｃ・ダークローズ・伊織が予想通りにいた。

「オラ、裂月。守秘義務があるだろうから詳しくは聞かないけど、護衛の依頼でも受けたの？」

軽く挨拶を交わした後に、ビオランテは裂月に質問する。
彼女が所属する人材派遣組織『WASP』の在り方を考えると、そういう質問になるのも致し方ないかもしれない。

>>114

「依頼の方は完遂済みー。成果の方は依頼人の方から追加で料金請求してくれって頼まれたぐらい上々でね。ビーハイヴが新潟港を目指してるから、到着の連絡来るまで休んどけって。ビオちゃんの方は？」

「3日後に東京でアフレコの仕事。特撮の怪人役で。そっちが終わり次第エスパーニャに帰るわ。あ、この人は友人の裂月・Ｃ・ダークローズ・伊織って言います」

「あ、皆さん初めましてー」

短い会話の後、ビオランテが劇団の面々や雑誌記者に紹介してくれたのを受けて、裂月も軽く自己紹介。
そのまま、空いてる座布団に案内され、打ち上げに混ざることとなった。



それから更に時間が過ぎて、打ち上げもお開きとなり劇団の面々も雑誌記者も既に温泉宿を離れている。
ビオランテも明日、朝食を済ませてから早めにチェックアウトした後、J.C.バルベルデが手配したレンタカーで新潟駅へ向かってそこから新幹線に乗り、東京へ行く手筈だ。
つまり安田温泉の湯に浸かれるのは今日が最後となるので、ビオランテは3日後の収録に思いを馳せながら、少し早めに温泉に浸かっていた。

（やっぱり、声優は声優業で稼いでナンボよねぇ……）

>>115

事務所の方針で顔出しの仕事も多いビオランテにとって、声優業の仕事は一種の癒しとなっている節がある。
実際、今回の座談会でも彼女は終始上機嫌ながら声優業への拘りと情熱も語っていた。
ふと、右肩に人肌が当たる感触が走り、全力で飛び退きながらそちらを向くと、伊織がちょっと気まずそうな表情で湯船に浸かっているのが見える。
ビオランテは安堵し、隙間を開けつつ自身も湯船に浸かり直す。

「ゴメンゴメン。あの色ボケに付けられたPTSD、完全には治ってなかったっけ……」

ここでは詳細を語らないが、伊織が色ボケ呼ばわりしたとある魔術使いはビオランテに負わせたPTSDの件で、バルベルデ家の怒りと恨みを買っており、ソフィ・セーレイズとの繫がりでWASPにも伝わっている。

「裸の時に肌が当たらなければ、全然平気な状態までには回復したけどね」

「そっか。…今度、スケジュールに空きがあったら、遊びに来ない？　ソフィとタゲリアもかなり心配してたから」

「そうね。近いうちに顔を出すわ」

伊織の誘いをビオランテは快諾するのであった。
……この後、先ほどの大衆演劇を見ていた女性客達がビオランテに気付き、『死神ちゃん』と親し気に話しかけてきたので彼女と伊織が反応に苦慮したのは別の話。

ぴーすぴーす.krd

枕元に土産を置いていくﾈｺ．rkgk

どうにか年内に間に合った……！よかった、書ききれた！
というわけで冒険旅行記、博物館編の続きを投下していきまーす！

「……いいかげんに起きな、さい！」
「いだあっ！？」

　こめかみにはじかれるような痛みが走る。痛みに跳び起きれば見慣れない顔がぷりぷり怒りながら見下ろしていた。
　赤紫の長髪を揺らしながら橙色のツンと立った目から放たれる視線が私を刺す。
　え、誰この人……って、ああ、そっか。

「カヴン先輩だ」
「は？　他のなにに見えてんのよ」
「いやほら、一応、初対面だし」
「？　……ああ。まだアタシの　顔が見慣れてないってワケ」
「うん。いっつも見てるのはしゃべるネズミなんだしさ」
「アタシはいつもと同じ気の抜けたニヤケ顔見てるからイマイチわからないわ。ほんっとどこにいても同じように笑ってるのねルナは」
「そ、そう？」
「言っとくけど照れるとこでもなんでもないわよ今の。てかアンタここがどこかわかってんの？」
「え？　どこって、そりゃ博物館……」
「の、上層にある職員用の休憩室よ」

>>123
　言われて見回せばそこはたしかにさして広くもない一室だった。簡素な机と椅子がいくつか。小さなシンクのそばにはポットもある。
　私はこの部屋の長椅子に寝かされていたらしい。枕代わりに折り畳まれたタオルが置かれていた。

「アンタ最下層でぶっ倒れてここまで運ばれてきたの、覚えてないの？」
「…………あー」

　覚えてる。思い出したくない魔神のことは忘れられないし倒れたところまでは覚えてる。
　そこから先がまったく記憶にないんだけど、いっぱい迷惑かけちゃったんだろうってことはわかる。あんな場所から命を保ったまま戻れているんだから。
　
「先輩、私をここまで運んでくれた人って……」
「ウチの上司のことならもう忙しいからってどっか行ったわよ」
「そ、っか」
「なんか妙にルナのこと気に入ってたけど……気をつけなさいよ。アンタ変なのに好かれやすいんだから」
「それマイアさんも変って言っちゃってるけど」
「言ったわよ。アレは変で妙で頭のおかしいニンゲンなの。ここにいるのは大体そうだけど」
「てか先輩も……」
「それよりルナ、身体の調子はどう？　どこもおかしいところはない？」
「ん？　うん、とくにおかしなところはなさそうだけど……」
「ホント？　ちょっと顔こっち向けてみなさい」

>>124
　言われるまま顔をカヴン先輩のほうに向け───"バチィッッッ！"

「あいだっ！？」

　再びこめかに鋭い痛み。これ起きたときにやられたやつだ。
　不意打ちぎみにデコピンを喰らわしてきた先輩は怒ってますオーラ全開で私を見下ろしている。

「せ、先輩……？」
「お説教よ、ルナ。ただの見学をここまで長引かせたこと。ママをいっぱい待たせたこと。いきなり倒れてきて心配させたこと。ぜんぶまとめて骨身に叩き込んであげる」
「……はぁい」

　嗚呼。自業自得の我が身が恨めしい。もっと考えて行動しろ私。

>>125
　・　・　・


　……………………。
　……………。
　……で、

「どう？　足出すぎてない？」

　あれから一通りのお説教を受けて、もう小一時間くらいは反省し通しの時間が終わったあと。ようやく、ほんっとうにようやくバイトが始まろうとしていた。
　なにをするにもまずは制服を着てから、ということなので、

「そんなもんじゃない？　似合ってるわよ」

　渡された制服に袖を通して、カヴン先輩に見てもらう。両腕を広げたり背中を見せたりしたあとでクルリと一回転。うん、とくに違和感もない。
　一通り問題ないことを確認してから、改めて自分の着た制服を見下ろしてみる。

「ちょっと高級感あるなぁ」

>>126
　色はシックな黒がベース。動きやすいようにかスカートの一部に切れ込みがある。スリットって言うんだったっけ？
　それから首元にはゆるく巻いた黄色いスカーフ。正直けっこう邪魔なんだけど博物館の『下層』という場所に降りるには絶対必要な礼装になってるらしい。
　そのへんの機能はどういう風に組み込まれてるんだろ。糸……布そのもの？　それとも編み方かな？　色は関係あるのか……染料自体に仕掛があったり？
　………。
　………ちょっとだけ。

「間違ってもバラして調べようとしたらダメよ」
「！　ま、ままま、まさかぁ～」
「大雑把でいいならどう造られたかはアタシが教えてあげるから、今は我慢なさい」
「えっ」
「なによ。何に驚いたのよ今」
「いや、だって……先輩ってこういう礼装とかの仕組み分かるヒトだったんだなって」
「アタシの上司が目の前で造ってたから知ってるってだけ。アタシがそーゆーのに詳しくないのはアンタの思ってる通りよ」
「ああそっかマイアさん」

　今まさに首に巻いてるこの黄色いスカーフ型の礼装。その製作者にそばで仕事をしているなら、詳しくなるのがむしろ自然だ。

「あと、一応言っとくけどね」

>>127
「んえ？」
「アンタはこれからアタシと仕事、つまり労働をするんだからね。ちゃんとわかってる？」
「うん！　大丈夫！」
「返事はいいのよねぇ、返事は」
「それより先輩先輩！」
「なに」
「カヴン先輩が博物館でしている仕事ってなに！？　おしえて！」

　カヴン先輩は時計塔ではネズミの使い魔を分身に使って日々を過ごしている。それはつまり使い魔ではない本体は動かせない理由があるということ。
　わざわざ分身を使ってまで時計塔にいる理由はわからないけど、本体が動かない理由は予想がつく。この博物館だ。きっと先輩は本体にしかできない特別な仕事や代えのきかない役割があって、だからこの博物館から動くことができない。
　そして、こんな場所での特別な仕事といえばそれはもう絶対に神秘がからんでいる。まちがいない。断言してもいいし賭けたっていい。

「ん。上司のマイアと話をするのがアタシの仕事ね」
「うんうん」
「……」
「……」
「……」
「……？　ほかは？」

>>128
「以上よ」
「えー！？」

　じゃあ話が仕事ってこと？　話すだけの仕事ってなに！？　お喋りだけで労働って成立するの！？

「え、じゃあ先輩って博物館でほかの仕事とかしたことない？」
「ないわね。そういう意味じゃアンタとそう変わらないわ」
「先輩先輩どうしよう」
「なにが」
「仕事がわかる人がいない」
「安心なさい。ここにマニュアルがあるわ」
「不安！」


　・　・　・


「本当に素人二人だけで仕事させるなんて……」
「なに言ってんの。新人アルバイトひとりにベテラン職員が付きっきりよ？」

>>129
「じゃあ先輩、仕事教えてください」
「わかんないからテキトーにマニュアル読んどいて」
「くそぅ！」

　悪態をつきながらずっしり重い紙束のマニュアルを受け取る。手にしたマニュアルは見るからに使い込まれてる様子だけどとくに劣化してはいない。ぺららら……とテキトーにめくってみても同じ。きっとマニュアルに魔術的保護をかけているか、もしくはこの紙束自体の素材が神秘に由来する品なんだろう。
　こういうところを見ると神秘に携わる仕事ができるんだってワクワクするのに。
　いつもならきっと、もっと、テンション上がってたのに。

「先輩がなぁ……」
「ため息をつくなそこの後輩。ホラ仕事するわよ仕事」

　ぐいぐいと背中を押されるまま歩いていく。……この、普段はネズミでしかない先輩に背中を押されるって体験もなんだか不思議な……。
　さて。
　そうして私たちは仕事場に到着した。
　階層は変わらず上層のまま。前に向いた視界には白くて広い床を埋め尽くさんと多種多様な展示品───神秘に連なる遺物たちが並んでいる。
　この展示品たちの管理・確認が私たちの本日のお仕事。

「全部を見ようとしちゃダメよルナ」

>>130
「え。全部見てやる気まんまんだったんだけど」
「やる気があってなにより。でもママから優先してチェックしておきたい展示品のリストもらってるから、まずはそれに従いなさい」
「はぁい」

　先輩からリストを受け取ってざっと目を通す。

「『削り取られた砂の貌』…………『螺旋剣の柄頭』…………『姿隠しの布切れ』…………」
「どう？」
「ワクワクしてきた！」
「そう。聞いたのはできそうかどうかなんだけど」
「それも、大丈夫！」
「じゃ始めましょうか。どれからやる？」
「コレ！　コレが気になる！　『石化した人』！」
「いいの？　ただの石よコレ」
「いいの！　来るときに見てからずっと気になってたんだ」
「あの石ころの群れが置いてるとこは……えーっと……」
「あ、逆だよ逆。こっちこっち」

>>131
「そっちね。……なんでバイト初日なのにもう覚えてんの？」
「ふふん、神秘絡みのあれこれを私に覚えるなってのが無理な話なんだよ」
「得意げだこと」
「あ、あったあった！　あれだあれ！」

　すぐに見つけた『石化した人』の置き場にはそこそこのスペースが設けられている。『石化した人』は文字通り標準的な人の形、大きさをした石の塊なので人ひとり分の場所を取る。それも一体ではなく複数あるので広めのスペースは必須だ。
　壁を背にした広いショーケースの中で様々なポーズで石になっている人々の姿は、博物館の中にありながらちょっとした動物園のような雰囲気も持ち合わせている。私のリアクションに笑顔で手を振り返してくれたら完全にソレなんだけども残念、ショーケースの中にいる人たちは石なので動きようがない。
　なのでショーケースの裏、背にした壁側に隠された出入口から入って私と先輩は『石化した人』の間近にせまっていく。

「はぁぁぁぁ……すごい、ホントに石だけになってるよ先輩」
「そら石でしょうよ。人の形した石ころのなにがそんな面白いの」
「だって石化だよ石化！　世界一有名な魔眼が起こす事象だもん！　楽しいに決まってるじゃん！」
「『石化の魔眼』でしょ？　聞いてる聞いてる。でもそれホントなの？　実はただの石像とかじゃなくて？」
「それは私にもわかんない」
「なんでよ。わかれ」
「これがホントに石化した人たちなのか、それとも『石化した人』っていう題材の作品として作られた石像なのかはわかんないんだよ。わかりやすく鑿なんかで彫られた痕はないから石化の現象に呑まれた人たちだっていうのが一般的な見方みたい。けど材質自体は古代ギリシャの彫刻に使われてる大理石に近くて、そういう方向では人の手によるものとも取れるんだよね。そもそも『石化の魔眼』で石になってしまうことは有名だけど、その"石"がどういう材質はハッキリとしていないんだよね。絶対に同一のものになるのか、それとも個体差や種族差があるのか、あと───」
「長い長い！　石ひとつでどんだけ語る気よアンタ！」
「石の世界は奥が深いんだよ。そこらで拾える石、地中深くにしかない宝石、どちらでも人に神秘を感じさせるのが石っていうもので、」

>>132
「いい！　もういいから仕事しなさい！」
「はぁい」

　ぶう。まだいろいろあったのに。『石化した人』についての話ならギリシャと彫刻の話は絶対に必要のなのにぃ。ああそうだそこらへんの関連性を話していくピグマリオンについても……

「仕事」
「はい」

　そろそろ本当に怒られる。仕事しよう。そうしよう。
　えーっとマニュアルに載ってる『石化した人』の管理方法は……っと……。

「なになに？　『全身にひび割れがないか確認する』『表面の埃などを軽くふき取る』……以上と。……これだけ？」
「楽でいいじゃない」
「楽だけどぉ…………わかった！　じゃあ徹底的に観察……確認する！」
「ほどほどになさい」
「うん！」

>>133
　・　・　・


「全然ほどほどじゃなかった…………」
「はふぅ……堪能した……」
「ルナ」
「はい」
「明日からはもっとまじめに仕事しなさい」
「ごめんなさいでした」

　そんなこんなでバイト初日終了。
　……うん。明日からはもうちょっと欲望を控えめにします。

>>134
一旦ここまでー
長いので何回かに分けてだしていきます



>>121
それはもしかしてネコちゃんが大好きな缶詰なのかいﾈｺﾁｪﾝ
ウサギが食べるものじゃないから一緒に食べておくれﾈｺﾁｪﾝ

白衣差分

>>107
自分も新撰組周り漁ってたら見つけたんですが沖田に殺された元隊士ってだけでめっちゃ美味しいなこれとなり……
ジョネスどんなんだっけと思ってググッたら思いのほかイメージに近くて笑いました

>>112
経歴わかんないならわかんないで練りようあるな、独自設定お出しするなら説得力いるよな……って感じに書き連ねてたらこんなことに……

>>113
おお……もう……(顔を手で覆う)
あやかさん作の新八とは絡めてみたいのでクリスマスになんかやるかもしれません

>>118
「この国は膿んでいる」って思想は自分も気に入ってます。ありがとうございます

>>119
「運命……か。別に、そんな大層なものじゃないわ。でもそうね……総司が、あの子が産み続けてきた死が私で止まったってことは私にしては上出来な最期と思ってるわ。本心よ……私みたいな何もなし得なかった女の最期としては、もったいないくらいだわ」

「楽しかった～！」

　喜びの声を上げながらまっしろなベッドにダイビング。枕を巻き込みながら私は自分の身体を沈ませた。
　ばふんばふん、と音を立てながらベッドの上で転がりまわる。こうでもしていないと落ちつかない。いや落ちついてないからこうしてるのかもしれない。

「何はしゃいでんの」
「だってぇ」
「ハイハイ、バイト初日楽しかったわね。もう百回聞いたから」

　カヴン先輩は呆れながらしっしと手で追い払うようなポーズ。ひとりで勝手にやってろということだろう。
　あれから、ひとまずバイト初日の業務のあれこれを先輩と一緒にティムさんに報告して、それで今日の分は終わりということになった。
　そのまま博物館の見学をしようとしたところでカヴン先輩の触手に捕まり、お風呂とゴハンもろもろをすませて、今に至る。

「百一回目を聞いてくれたりとかは……」
「するか。それより明後日までこの部屋にいるんだから、あんまり汚すんじゃないわよ」
「ほーい」

>>138
　明後日。つまりバイト３日目にしてバイト最終日。私がこの博物館での短期アルバイトを終える日だ。
　この部屋はその期間中、私が寝泊まりできるよう用意された従業員用の部屋だ。ただの従業員用の部屋……の、はず……なんだけども。

「豪華すぎる」
「アンタの眼から見てもそう思うのね」
「思うよ、なにこのベッド！　なにこの絨毯！　なにあのおしゃれな照明！」

　一人用の部屋って聞いてるのにどう見てもひとりじゃ持て余しそうな大きなベッド。オリエンタルな意匠と、意匠そのものから神秘の気配を漂わせる絨毯。少しばかりの歪みを混ぜた大小さまざまに並ぶ照明。窓を見ればそれはもう綺麗な景色が広がっている。
　従業員用の部屋にしては豪華すぎる。絶対に。

「別にこれアンタが特別扱いってわけじゃないわよ」
「まじ？」
「マジよ。客用も従業員用もぜーんぶ豪華あーんど豪華。それも年代や形式を部屋ごとに変える豪華っぷりよ」
「しゅげぇー……」

　そんな言葉を吐くことしかできない。借金持ちの身からすれば遠すぎる世界だ。
　そういえばお風呂もプールと見紛うほどに広かった。なんか柱とか立ってたし。ゴハンも……あんなでっかいエビを食べても特にバイト代から引かれたりしないというのは、どういう魔術なんだろう……気にはなるけど私に料理のことはわからない。お風呂も同様。なので早々に思考を打ち切って窓に視線を向ける。
　窓の向こうを見下ろせば大きな湖が広がっている。……もちろん博物館の外にも中にもこんな湖はなかった。ないものが見える、というのならこれもまた何かの神秘の産物なのだろう。
　もちろんそんなものを見せられて、ただ景色を楽しむなんてもったいないことはできない。窓そのものと、窓枠と、いっそ部屋全体を調べ尽くしてやろうと考えていたとき───

>>139
「で？」

　水を差すような一声。ぬぅ……。
　不満げに振り返ればカヴン先輩はちょっとだけマジな顔で私を見ている。お楽しみ半分で答えるのは許されない、そんな雰囲気で。
　さっきのは"ような"ではなくて、確実に私の止めるための一声だったのか。

「で、ってなにが？」
「そろそろちゃんと話せってんのよ。この突然始めたバイトの理由を」

　……ああ、あんま聞かれたくないのがきちゃったなぁ。

「えー？　だからそれはお金が必要で……」
「聞きたいのはそのカネの使い道よ。ハッキリ聞くけど、アンタなんか隠してるでしょ」
「……バレてる？」
「バレバレよ。ルナは隠し事とか向いてないわ」

　隠し事が下手な魔術師ってそれ魔術師として全部ダメってことなんじゃ。
　ダメって言われたのか。くやしい。

>>140
「ていうか、隠してるって気づいたならそっとしといてよ」
「アタシのかわいいかわいい後輩がヘンなことしてたら気になるに決まってんでしょうが」

　ダメか、逃がしてくれそうにないや。
　じゃあどうしよっかな。
　すぐさま切り替えて数舜、思考に没頭する。
　カヴン先輩の言う"隠していること"をそのまま言うか、この場でテキトーなそれっぽい悩みをでっち上げるか。
　後者はそれほど難しくない。カヴン先輩の目の届かない旅先の話、興味もないだろう実家の話、私とメレクだけの個人間の話……先輩がすぐに真偽を確かめようがない話は、いくらでも出せる。
　言いたくない私の本心は隠し通せる。



「私ね、メレクのことは、なにひとつだって信用してないんだ」



　なのに私の口から出ていたのは隠したかった本心で。
　あーあ。なにやってんだろうなぁ。

>>141
　私の言葉にわかりやすく顔色を変えているカヴン先輩としっかり目を合わせて、それから頭の中で言葉を選んでいく。
　こうなったら、ごまかすのもむずかしい。ならできる限り誤解されないよう言葉を重ねるだけだ。

「どういうことよ」
「そのまんまだよ。私はメレクが絶対に味方だって信じられないし、友達だとも思えない」
「あんなに一緒にいるのに？」
「一緒にいる……から、信じられないっていうか。わからなくなるの。私と一緒にいて、メレクが得することなんてなにもないのに」
「……ふぅん？　いいわ、ぜんぶ話してみなさい」
「えっと……先輩はさ、メレクがなんで私の冒険についてくるかは、知ってる？」
「アンタの借金がどうとかってくらいしか知らないわね」
「うん、そう、私の借金。それを返さないまま死なれたら困るからって言いながら、メレクは私と一緒にいるの」

　けれどその言葉からどこまで信用できるものか。
　そもそも私がメレクに借金することになった経緯が経緯だ。私のミスで壊した教室の弁償代を、たまたま、本当にたまたま居合わせただけのメレクが立て替えたというだけの話。口約束ですらないほんの少しの会話でメレクはポンと大金を出して私の窮地をすくってみせた。
　メレクは別に正義の味方ってわけじゃない。困ってる人がいたら我が身を顧みずに助けるような真似はしない。なによりもメレクは、メレクもまた魔術師だ。
　打算と合理の下に行動し、立場と理屈で敵と味方をきっちり区分け、感情で双方を混同するような愚は犯さない。
　だからきっと私を助けたことにもなんらかの理由がある。
　ある、はずなのに。

>>142
「…………わかんないんだ」
「なにがよ」
「メレクが私と一緒にいて、得することっていうのが」

　私が冒険する一番の理由は、魔術だ。
　世界中に隠れてる魔術や神秘を見つけて、暴く。それが楽しみで、それを原動力に私はどこにでも行ける。
　その旅路で得られるものはきっと今の魔術師にはそぐわない。根源への近道を探すなら世界中を回るようなこどなどせずに研究室にこもるのが一番早い。
　なら魔術師として使える財がほしい？　人がほしい？　そういう理由ならそれこそ時計塔から離れるのはありえない。現代魔術師の中心は間違いなくイギリスのロンドンにあるのだから。
　そういう事柄も含めて私の行いは異端と言っていい。一か所にとどまって研究に没頭するでもなく、魔術師の利権を求めて争うでもなく、ただ魔術を見たいがために旅をする。人によっては人生の無駄遣いと言ってもおかしくないくらいの所業。
　でも、私はそれでいい。
　スタート地点からまわりとはなにもかもが違う私が、わかりやすい近道を走ってもきっと追いつけない。
　だからいい。私は、いいんだ。
　けれど、じゃあ、メレクは？

「メレクはどう見ても私とはタイプが違う魔術師じゃん」
「そうね、メレクはイマドキの時計塔が似合うタイプ。アンタは生まれる時代を間違えてるタイプ」
「私と一緒にいても根源に近づくわけじゃないし、魔術師らしい財産が手に入るわけでもない」
「なのに一緒にいる。それがアンタにはどーしてもわからない、理解できない、と」
「……そういうこと」

>>143
　魔術師として得することはなにもない。
　メレクの個人的な利得も見当がつかない。
　むしろ私から見れば損だ。冒険に必要なお金だってメレクが出して、ピンチのたびに高価な宝石も消費して、時には気力も体力も注ぎ込んでついてきて、そこまでして得られるものはなにもない。
　損ばっかりだ。時間の無駄でお金の無駄。良いことなんかひとっつもない……のに、一緒にいる。いてくれる。
　どうして？

「どうしてもなにもアタシからすればオスがメスと一緒にいる理由なんて、わかりやすすぎるくらいだけどねぇ」
「メレクは絶対そういうこと考えてないと思うけど」
「じゃーアタシにもわかんないわ。パスよパス」
「だったらなんで話させたの……なんかありがたいコトでも言ってくれると思ったのに」
「べっつになに言っても無駄でしょ」
「無駄て」

　そんな会話ってものを根本から否定するようなこと言われても……。　

「アンタはひとりで考えて、ひとりで勝手に結論出すんだから」

　…………。

>>144
「そんなこと……ないけど」
「ないわけあるかっての。ルナが自分から誰かに助けを求めたことなんかないじゃない。一度も頼られたことのない先輩が言うんだから間違いないわ」
「いやそれはネズミの先輩なんて頼りようがないっていうか……」
「だまらっしゃい。とにかくよ！　アンタは勝手に結論出すからアドバイスなんか無駄！　だったら言葉で吐き出させて少しでも頭と心に整理つけさせるのが一番でしょーが」
「……………」
「なによその顔は」
「先輩が……先輩らしいこと言ってる……！？」
「この博物館なら二重に先輩よ。恐れおののくがいいわ」
「ははーっ」

　ベッドの上で深々とおおげさに頭を下げる。言われてみればどこかにあったもやもやがすっきりしている気がした。

「さーて、ここまでが聞きたかった大前提。そのうえで、アンタがバイトしてる理由ってのを聞かせてもらいましょうか」
「プレゼントを買ったの。後払いで」
「プレゼントぉ？　誰によ」
「メレクに」
「……はぁぁぁ？」
「私にはメレクが私と一緒にいる理由がわからない。───だから！　渡したいプレゼントがあるの！」

>>145
　頭を上げて、胸を張って、言い切った。先輩のおかげでちょっとの迷いも吹っ切れた気がする。
　……対して、当の先輩は私の宣言をびみょ～な顔で聞いていて。

「……アタシはルナのこともわかんなくなってきたわ」
「なんでよー！？」

【CLASS】アサシン
【真名】原五郎妹女(はらごろうめ)
【出展】『戦友姿絵』・ブリヤート民話・ギリシャ神話
【地域】日本・モンゴル・ギリシャ
【性別】女性
【身長・体重】160cm・49kg
【容姿】黒い瞳に長い黒髪を後ろで結ったポニーテール、動きやすい男性用の上衣と袴を着用している。
【容姿(第3再臨)】白目と黒目が反転した人外の眼、黒い髪の末端は鳥の羽に生え変わり白く変色、羽が生えた肩から上衣を着崩している他、足首から爪先にかけてが禽鳥のソレへと変化。
【属性】中立・悪
【天地人属性】人(霊基第3再臨では地)
【ステータス】筋力C+　耐久C　敏捷C　魔力B　幸運E　宝具C
【クラス別スキル】
気配遮断：B+
　サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
　武芸者の無想の境地と女怪としての性質から他者に害意や敵意を認識させないことに長けている。

狂化：C++
　人喰い、魔性としての本能と『誠を背負う者達』と共に戦った剣士としての精神の矛盾。
　平時は宝具により魔性を抑え込み、剣士としての振る舞いをしているが、食欲による衝動を常に抱えている。

>>149
【保有スキル】
妖艶の魔：B-
　麗しき容貌を用いて他者を惑わし喰らう魔性を示すスキル。
　フェロモン・怪力・天性の魔・吸血などの混合スキルだが、霊基の混晶によりランクが低下している。

戦場の鬼：C+
　個人の武勇により自陣営を奮起させるスキル。
　本来の能力を超えて自身や率いる軍勢を強化する。
　かの『鬼の副長』と同じ戦場に立った経験を持ち、サーヴァント化に際して
　魔性を取り込み強化を図ったアサシンは真性の鬼にも匹敵するモノとしてこのスキルを獲得した。

幻獣憑依：B
　原五郎妹女に悪鳥モー・ショボーと吸血鬼モルモリュケーが憑依し、霊基補完を行った状態を示す。

モルモーの面：EX
　劇に使用される造り物の面には生物の頭部にあるはずの脳髄は詰まっていない……
　転じて、見た目や肩書きのみで中身が伴わない者を指すイソップ寓話の一篇。
　絵巻にのみ記されたアサシンは本来サーヴァントが持つはずの生前のパーソナリティが欠落している、幻霊複合体としての在り方。

>>150
【宝具】
『不滅の真影(せんゆうすがたえ)』
ランク：C　種別：対人宝具　レンジ：0　最大捕捉：1人
　「新選組」の面々と共にアサシンの姿が描かれたという巻子本に由来する自己強化宝具。
　人斬り集団「新選組」に所属するサーヴァントが持つ『誓いの羽織』と同様のパラメーター向上効果に加え、
　これによって巻子本に描かれた「原五郎妹女」としての存在を確立することで、霊基の『人』としての要素を強調し、
　怪物の構成要素から生じる捕食衝動を抑え込んでいる。　

『惑わせ喰らう害なる悪鳥(ハームフル・マンイーター)』
ランク：C　種別：対人宝具　レンジ：1〜4　最大捕捉：1人
　秘匿された第二宝具。
　『不滅の真影』による強化が薄れた際に偶発的に発動する人喰いの『魔』としての特性。
　「悪鳥モー・ショボー」が持つ少女の外見によって旅人を誘惑し、油断したところを喰らうという習性が
　この霊基では容姿以外と最低限の情報を除いて空白がある「原五郎妹女」という外殻と
　「吸血鬼モリモリュケー」に由来する見た目やのみで中身(脳髄)が伴わない『モルモーの面』の寓話が習合した宝具として顕現した。
　普段は仮想人格「原五郎妹女」として行動し、捕食対象の警戒を解くことでこの宝具の発動条件は満たされ、
　魔性「モー・ショボー」の本能が励起することによって油断した対象に情け容赦のない捕食行動を行う。
　なお、アサシンが仮想人格として行動している間はこの宝具の存在を認識することは出来なくなっている。

>>151
【解説】

　───會藩　原五郎妹女　行年十七才

　原五郎妹女とは新選組隊士・中島登が描いたとされる『戦友絵姿』の中に登場する女剣士。
　近藤勇や土方歳三、中島登本人を含む新選組隊士達と共に描かれているが彼女について書かれているのはこの絵巻での姿と名前、會藩(会津藩)、17歳という部分のみで詳細は不明とされる。
　絵巻の中では女だてらに男の首を刀で以て刎ね飛ばす豪快な姿が見て取れる。

　その不確かな存在性から英霊になるには霊基数値が及ばず、幻霊に分類される。
　サーヴァントとして成立した彼女はとある異聞帯において、第三者の介入により
　モンゴルにおける悪鳥モー・ショボーとギリシャ神話の吸血鬼モルモリュケーの霊基が混晶されている。
　元来の剣士としての性質に加えて、魔物としての身体能力や異能、魔術等の知識を獲得している。
　反面、人を食らう魔としての性質を持ち合わせ、常にその衝動に苦悩している。
　そうしたパーソナリティの変化によって自らを『原五郎妹女ではあるが原五郎妹女ではない』と認識している。
　“本来の原五郎妹女”に焦がれている節があり、新選組隊士のような共に戦う仲間に憧れている。

>>152
◆悪鳥モー・ショボーについて
　モンゴルのブリヤート人に伝わる若い少女の姿をした鳥の魔物。
　人を騙して喰らう妖艶でありながらその本質は醜怪なる怪物。
　アサシンは真名こそ「原五郎妹女」だがその実、この霊基の本質を成すのは「悪鳥モー・ショボー」の方である。
　「外見と最低限の情報を除いて不明がある」原五郎妹女の霊基の空白を強調すべく
　吸血鬼モルモリュケーの「見た目や肩書きのみで中身が伴わない者」の寓話を付与し、
　その空白に「外見によって人を騙して喰らう」悪鳥モー・ショボーの情報を挿入した複合霊基。
　そのため、悪鳥モー・ショボーにとって原五郎妹女と吸血鬼モルモリュケーは敵を喰らうための囮・撒き餌に過ぎない。
　霊基再臨を繰り返すことにより本質が浮き彫りとなり、第3再臨ではコチラが主人格となる。
　プリテンダーやアルターエゴのクラスでないのはそれぞれが単体の霊基として成立する存在ではないからであろう。

◆吸血鬼モルモリュケーについて
　ギリシャ神話の冥界の住人にして魔術の神・ヘカテーに女怪エンプーサと共に仕える吸血鬼の一種。
　この霊基ではイソップ寓話における『モルモーの面』に由来する「見た目や肩書きのみで中身が伴わない者」としての性質を抽出しているため、
　吸血鬼モルモリュケーとしてのパーソナリティは極めて希薄である。
　仕えている魔術の神・ヘカテーや事実上の同僚とも言える女怪エンプーサあたりには辛うじて反応する。

>>153
【台詞例】
「アサシンのサーヴァント原五郎妹女。今の私に言えるのはここまで……本当にこれだけなのです」
「私自身、サーヴァントになってから把握出来ているのは原五郎妹女の名と……かの新選組隊士達と共に戦えた誉れだけ……けれど、人理のために戦う理由はそれで十分でしょう？」
「足りない……もっと、血肉を、脳漿を…！ 嫌だ、私はまだ人でいたいのに……」

「歳三さんに二郎さん、サーヴァント原五郎妹女として私が彼らと共に戦える日が来るとは……」(土方歳三・斎藤一について)
「沖田総司……新選組と面々と肩を並べたという天才剣士。私も同じ女剣士として尊敬の念を禁じ得ません」(沖田総司について)
「浅野薫、彼女もまた歳三さんと共に戦った女剣士……どこかシンパシーを感じます」(浅野薫について)
「メンテー・プルトランプ……私は彼女を……」(メンテー・プルトランプについて)

【台詞例(第3再臨)】
「あぁ──── この時を私は待ちわびていた。血肉も、脳漿も……余すところなく啄みましょう。」
「見た目に騙されて誘われ出されるような考え無しには───どの道、脳髄は不要でしょう？ 美味しく戴いてあげるのだから感謝しなさい」
「よくもまぁ、私を引き摺り出したものね……脳髄を啜られるのが怖くないのかしら？ ……呼び方？ 面倒だからこのまま「原五郎妹女」とお呼びなさい。その方が私も都合がいいしね」
「異聞帯での召喚では終ぞ「この私」が出張ることは無かったわね……忌々しいことだけれど」
「私は莫臥児、大和、希臘にそれぞれ起源を持つ存在……だから縁も縁もないはずなのだけど、気になるのよね」(呼延灼について)
「あの豊かなる湖から草原へと駆けた蒼き狼の裔……なんでこんな所にいるのかしら？」(テムジンについて)
「異聞帯のことはお互い言いっこなしでしょう……それでも触れるようのなら頭蓋骨をかち割って脳味噌啜ってやるわよ」(サッフォー(ランサー)について)

　仕事って大変だ。
　その日にできなかった仕事はなくなるわけじゃなくて、次の日にやらなければいけない。けれど次の日には次の日の分の仕事もあるわけで。
　つまり仕事はやらなければ、やらなかった分だけ積みあがっていくのだ。
　まあなにが言いたいかっていうと───

「こらルナぁ！！　掃除はちゃんと集中してやれー！！」
「ごめんなさーい！！」

　仕事って大変だぁ。


　・　・　・


　───昨日できなかった分の仕事と今日の分の仕事、まとめてやるわよ。


　朝食と身支度を終えて、むんっと気合いを入れていたところに先輩から告げられたのはそんな一言。

>>161
　最初こそ昨日よりやること多いんだなぁくらいとしか思わなかったけど、やってみればこれが本当に大変だった。
　お仕事の内容はただの掃除。新人バイトの素人でも任せられるような……従業員用の廊下とか、展示品から離れた壁の掃除とかをやることになった。
　これが、つらい。手に持ったモップも落としそうになるくらい。
　いや仕事自体はつらくない。多少広くてもただの掃除くらいで音を上げる魔術師なんていない。本当につらいのは、

「うぅぅ神秘が、神秘が遠い……これがなまごろし……」

　展示品から、私が大好きな神秘由来の展示品から離されて仕事をしなきゃいけないという現状が一番つらいのだ。
　仕事を掃除と展示品の管理とで分けて、後者を自分が担当することを提案したのはカヴン先輩だ。昨日『石化した人』だけで私があれだけの時間をかけたことを考えれば当然の対応ではある。あるのだけど……

「……仕事って大変だなぁ……」
「当ったり前よ。楽な仕事なんかあるわけないでしょ」
「そだね……」
「ま、アタシの仕事は上司とお喋りするだけなんだけど」
「世界って理不尽なんだね」
「そうよ。覚えておきなさい」

　覚えておこう。そして考えるのはやめよう。

>>162
　この世界の真理を理解してしまう前にがんばってこの掃除を終わらせてしまおう。そうしよう。
　私は気合を入れ直して、再びモップを握る手に力を込めた。


　・　・　・


「やぁっと終わったぁ……」
「うんうん、頑張ったほうじゃない？」

　苦しい苦しい……好きなものを我慢する時間は終わりを告げた。目の前にある好きなものを我慢するのってきっついなぁ……ちょっと魔術使えなかった頃を思い出しちゃった。
　さてさて時刻はいい感じにお昼前。ちょうどお腹もすいてきた頃。

「やーお二人さん。おっつかれー」
「あ、変な上司がきた」

　カヴン先輩の上司のマイアさんがやってきた。なんだか上機嫌そうに、自らの手袋をギュッと確かめながら近づいてくる。
　そして対照的に先輩はちょっと不機嫌……というか訝しげだ。

>>163
「いやいやちょっとカヴンくーん？　そんなイヤそうにしなくてもいいじゃん、これでも上司よ俺？」
「べっつにアタシひとりの時ならなんでもいいわよ。でも今はこの子がいるでしょーが」
「うん、まあ用があるのはルナちゃんだからね」
「ほら見なさい」
「私に用事？」

　なんだろ、お腹すいてきてるんだけどなぁ……。

「お昼ごはん前に悪いね、ちょっとお世話してほしい幻想種がいるんだけど」
「全然大丈夫です！　ごはんくらい食べなくたって死にません！」
「死ぬわよ」

　無視。聞こえないフリ。ごはんを優先して幻想種をお世話する機会を逃してなんかいられない。

「行きましょう行きましょうすぐ行きましょう！　どこにいるんですかその幻想種！？」
「食いつきすごいな。まあまあちょっと移動するから、ね？　落ち着いて」

>>164
「なに、中層かその下にでも行くつもり？」
「いや位置的には上層だよ。ちょっと壁際だけどね」


　・　・　・


　先導するマイアさんについていって歩くこと十分とすこし。右に左にと並ぶ展示品たちに目を奪われているうちに目的地についていた。
　まず、柵があった。
　木製らしいソレは縦と横のシンプルな造りで組み合わされ、ゆるやかな曲線を描いて囲いを作っている。
　腰ほどの高さしかない囲いの中は博物館にまるで似合わない草地が敷かれていた。
　そして草地を踏みしめてのびのびと過ごすイキモノたちの姿が一番目を引く。囲いも、草地も、すべてこのイキモノたちのためだろう。

「……牧場？」

　見た目とか雰囲気は完全に牧場だ。中にいるのが牛やヤギなら、このあと乳搾り体験コーナーに連れていってもらえると期待しちゃう。
　けれど中にいるイキモノは牛でもヤギでもない。正確に言えば牛もヤギもいるのだが、牛は頭だけでヤギは身体だけの珍妙な姿になっている。
　異なる生物の特徴をひとつの身体に納めたイキモノ。混合獣として知られる幻想種。つまり、

>>165
「キメラだー！！」
「そ、ここはキメラ牧場だからね」
「キメラ牧場！！」

　なんってワクワクするワードなんだろうか、キメラ牧場。
　見ればたしかに普通の動物は一匹だっていない。端から端までなにかしらの異形がそこかしこにいた。
　トナカイの頭から角代わりに蛇が生えているもの。
　羊のもこもこした毛の中から狼の頭を出したもの。
　ウサギの身体にリスの頭、そしてくるくると曲がるぶたのしっぽがついたカワイイのもいたりする。
　いずれにも鈍色に光る突起のついた首輪がはめられている。目を凝らせば番号札もあれについているらしい。

「この一帯全部でひとつの展示品ってわけなんですか」
「わかりやすくお客様にお見せできるところだけね」
「わかりやすくないところもあるんですか？」
「そりゃあ実験場だからねぇ」
「んぇ？」
「いやぁ、なんでもないよー？　それよりホラホラ、ルナちゃんはこっち来て」
「あ、はーい！」

>>166
「アタシは？」
「カヴンくんはそこで見学しててよ、まー悪いようにはしないから」
「どこですかどこ行けばいいんですか！」
「こっちね、こっちこっち」

　柵にそって歩きだしたマイアさんについていく。

「あのう、この柵とびこえちゃダメなんですか？」
「んー？　やってもいいけどたぶん無理じゃない？　それ結界の基点になってるから」
「えっ」

　驚きつつ再び柵を見るが、私の目にはただの木でできた柵にしか見えない。魔力で感じようにもこの博物館にはいろんな魔力であふれてるからアテにならないし。
　唸りつつ観察を続けているとマイアさんが笑いながら教えてくれる。

「そりゃ見ただけじゃわかんないよ。キメラたちのストレスにならないよう隠密性を最優先して造ってるからね」
「これもマイアさんが造ったんですか？」
「中にいるキメラたちの首輪も造ってるよぉ？　いざって時にも抑えられるように」

>>167
　だから生身で入っても危険なことはないよ、と続けるマイアさん。
　柵と首輪の造りについてあれこれと聞いているうちに柵と柵の間にできた出入口らしき場所へやってきていた。

「さってっと、ルナちゃんにはここから入って中のキメラたちに餌やりをしてもらいます」
「はい！」
「今表に出しているのは肉食で統一してるから～……はい、この骨付き生肉を持って入ってね」

　ひょいとなんでもなさげに出てくる特大サイズの骨付き生肉。どこから出したんだろう。
　赤紫の色とみょうにぶよぶよした感触。毒草をすりつぶした時のような臭いもくわえて普通の生肉じゃないことは一発でわかった。……一口くらい食べちゃだめかなこれ。

「……言っとくけど人間用のお肉ではないからね？　大丈夫？」
「もっちろんわかってます！　大丈夫です！」

　あぶないあぶない。ヘンなことして「やっぱりダメ」と言われてしまう前に真面目にやろう。
　このお肉のことは時計塔に戻ってから類似したものを調べてから研究しよう。そうしよう。

「じゃ、このお肉をあのキメラたちにひとつずつあげていけばいいんですね？」
「そういうこと。キメラたちが大人しくしてればすぐ終わるよ」

>>168
「生肉と間違えて私が食べられたりは？」
「首輪で抑えつけているうちはそんなことさせないよ。ああ、でも───」

　そこで言葉を切って、マイアさんは持ち上げた片手で指をぱちんと鳴らす。
　途端、のびのびと過ごしていたはずのキメラたちの視線が集中する。
　視線の先には私と、生肉。
　………………あれぇ？

「……マイアさん？」
「うん、グッドラック」
「ウソでしょ！？」

　私が叫んだのと同時に───キメラたちが駆けだした。狙いは言うまでもない。

「ちょぉぉおおおぉ！？」

　そして私とキメラたちの追いかけっこが始まった。

>>169
「うわったたたた！！」

　走る。
　走る。
　丁寧に敷かれた草地の上を踏みつけて、走る。
　ひったすらに走る、走る、走る。走って逃げる。
　じゃないと多分、死ぬ。

「うわっ！！　っぶな！！」

　叫びながら横合いから飛んできたキメラの噛みつきをすんでのところで避ける。
　避けた先で待ち構えていたように、身体を伸ばしていた蛇の頭も飛びこえてかわす。
　ハイジャンプでかわした私の鼻先に同じくうさぎ跳びのハイジャンプで迫るリス頭のキメラ。コレは普通に引っぱたいて地面に落とす。
　そして着地。と同時にまた走る。
　これで状況は良くも悪くもならない。また振り出しに戻って、また走り続けるだけだ。
　あまりもあんまりな事態に思わず叫ぶ。

「リスとウサギがくっついてて肉食っておかしいでしょーが！？」

>>170
　もちろん叫んだところで状況は変わらない。むしろ叫んだぶん呼吸が乱れてあとが苦しくなるだけ。
　落ちつこう。落ちつけ。
　ちょっとでもミスればその場でキメラたちのお昼ごはんだ。
　一瞬だけ頭を冷やして全身に巡らせた『強化』の魔術の具合を確かめる。頭のてっぺんからつま先まで魔力の流れに淀みは無し、穴や抜けも無し。まだまだイケる。

「……っとと！」

　落としかけた『生肉』を抱えなおしてもう一度草地を蹴って走る。
　走り出してはたと気づく。
　この『生肉』をポイと放り投げてしまえばそれで終わるんじゃ？　走って逃げる必要も意味もないんじゃ？
　そんな思考は一秒後の声に全否定される。

「ルナちゃーん！　その生肉は"一匹分"だから気をつけてねー！」

　声の主はもちろんマイアさん。
　まるで私の思考を読んだかのようなタイミングとその内容に毒のひとつも吐きそうになる。
　生肉は一匹分。その言葉通りなら私が今すぐ『生肉』を手放したところで根本的には変わらない。私を狙うキメラが一匹減るくらいか。
　いや私が狙われるだけならまだいい。それなら牧場から出れば簡単に逃げ切れる。

>>171
　問題は『生肉』というわかりやすい目標を失ったキメラたちの食欲がどこへ向かうのか、ということ。
　その矛先が向かうのはすぐそこにいるカヴン先輩？　その隣で笑いながら見てるマイアさん？
　どちらもきっと違う。
　答えはもっと近くで短絡的。キメラたちの食欲はおそらく隣り合うキメラにこそ向けられる。そうなればキメラ同士で喰って喰われての生存競争が始まるだろう。

「そんなこと、絶対させるもんか」

　そのような悲劇があっていいはずがない。
　神秘と神秘が喰い合って、どうなってもなにかしらの神秘が喪われる。私が負ければ、そういうことになる。
　イヤだ。絶対にイヤだ。
　私の目の前でそんなこと、許してたまるか。
　そんなにイヤなら考えろ。認められないなら行動で変えてみせろ。

「ふぅっ……」

　呼吸を意識して深く。視界をなるべく広くもって思考をまとめていく。
　すぐに浮かぶ解決策はふたつ。ひとつ目はマイアさんを説得してキメラたちを抑えこむ首輪をもう一度起動してもらうこと。
　キメラたちに対して完全に上位の位置に立つマイアさんなら一手でこの状況を終わらせることもできるはず。……けど、状況を終わらせるどころか始めた原因がマイアさんだ。

>>172
　私がゼーゼー言いながら言葉を並べ立てたところで聞いてくれるかはあやしい。現に隣のカヴン先輩のわめき声も完全スルーしている。
　だったら選択肢は残るひとつしかない。それはひたすら走ることだ。
　私も生肉も食べられることなく、キメラたちの食欲が失せるくらいに走って走って走り回らせて疲れさせる。そうして一旦でも落ち着かせる。これしかない。
　わかってる。こんなの無茶だってことくらい。けどやらなきゃ消えてしまうものがある。消えてほしくないものがあるんだ。だからやらなきゃいけない。
　なにより相手はキメラだ。そこらじゃ絶対に出歩いていることなんてない幻想種。その、群れ。
　そんな相手との追いかけっこなんてここでしかできないんだ。
　やらなきゃいけない、以上に───やってみたい！

「来ォい！！！」

　全身に魔力とやる気を漲らせて、獣さながらに私は吠えた。


　・　・　・

>>173
　物心がついてから"それ"はいつも感じていた。
　先細りしていく魔術師の家に生まれた、未来を覆す才を持ちあわせていた自分。それはきっと両親とまわりの大人たちにとって希望の光だったのだろう。
　しかし、そんな幼い自分に溢れんばかりの期待と安堵を傾ける大人たちに失望と退屈を感じるのは当然のことだろう。
　同時に、この程度で喜んでいるアルマソフィアという家の先の無さもまた見て取れた。

『お前の才があればアルマソフィアの未来は安泰だ』
『ははは、もはや私たちの出る幕はないな』
『違いない。我らの仕事はこの才の邪魔をしないことに尽きる』
『これでやっとお母さんも安心して任せられるわ』

　自分でなにかを変えようという気概を持たず。自分の考えというものすら持たずただただ過去の奴隷となるしかないこの家に未来などない。
　しかしそれを悪とすることもできない。そも魔術師は過去に向かって進んでいく生き物だ。過去の奴隷と呼ぶのも場合によっては誉れにすらなるだろう。
　なにもアルマソフィアという家に限った話ではない。現代の魔術師で『根源を目指す』という目的に純粋なまま全うできる者がどれだけいるだろうか。
　魔術の最後の時代とも呼ばれる現代で到底実現不可能な過去からの宿題を本気で果たそうとする者は、少ない。
　むしろ人間らしい欲望にのっとって、古くから積み上げた財と権力を振りかざす姿こそが"らしい"のかもしれない。

>>174
　そんな魔術師たちの現状をつまらないと思った夜はいくつもあった。
　自分もまたそんな魔術師たちのひとりでしかないと自嘲した夜もあった。
　だから、なのだろう。

　魔術が好きだと口にする彼女が、その通りに行動する姿が、ひどくまぶしく見えたのは。

　魔術を愛し、魔術を学ぶ。そんな時計塔の魔術師であれば当たり前としか言いようのない行動にすら異常性を感じさせる。彼女の『魔術を愛する』とは、それほどに度の過ぎたものだった。
　本来、魔術とは秘すべきものだ。自他共に変わることはない。それは全ての魔術師にとっての常識だ。
　その常識を彼女はなんとも思わないような顔で無視してしまう。
　魔術と聞けば目を輝かせ、誰彼構わず正面からぶつかりに行く。無遠慮なその姿勢が諍いを生むこともままあり、事実相手を怒らせて痛い目にあう姿を何度も見てきた。
　ところが彼女ときたらまったく懲りた様子がない。感じる心がないわけでもなかろうに、すぐさま元気をとりもどして自分の"好き"を追いかける。
　魔術を用いた戦闘訓練などは終始興奮した様子で過ごし。
　飛ぶ鳥を見れば自身もまた空に飛びあがって間近で見ようとしたり。
　未知の呪いを自分の身体で受けて実験することもあった。
　そして、自分の魔術を行使する時などはとびっきり楽しそうで。
　自分の手のひらの上で、小さな火を灯す。たったそれだけの、魔術師なら誰にでも出来てしまうような小さく、弱く、意味の薄いその現象にすら───彼女は目を輝かせるのだ。
　そこに疑いようは無い。彼女が口にする「魔術が好き」という言葉は強い真実味に溢れていて、限りなく純粋だった。
　ある意味で現代の魔術師には似つかわしくない。異質とすら言えるだろう。
　しかし、いや、そんな在り様だからこそ自分は、彼女の───……

>>175
「…………」

　一度、思考を切って遠くに向けた視界だけに集中する。
　そこには柵に囲まれた牧場の中で、多種多様なキメラの群れと追いかけっこを繰り返す彼女の姿があった。

「はははは！　ははあ！　やばい死ぬ！　やばいやばっははははは！！」

　息を切らして、汗にまみれて、けれどずっとずっと楽しそうに。
　彼女はずっとそうだ。彼女の名を聞けば明るく笑う姿を連想する者ばかりだろう。自分もまたそのひとりなのだから。
　どこで、誰といようとも、それは変わらない。
　そんな彼女が、今回だけは違っていた。
　自分を相手になにかを隠し、自分に隠れてこのような遠い場所にまでやってきた。
　当然ながら彼女になんらかの報告の義務などはない。自分と彼女を結びつけるものなど客観的には『金銭』のみであり、その関係性は友人や仲間と呼べるものでも、ましてや男女のそれでもない。
　なにより隠し事というものは魔術師どころか、普通に生きている人間にも当然に存在する。なにもおかしなことではない。
　そうだ、こんな風に隠し事をしている相手の元まで押しかけて、あまつさえその胸の内を暴かんとしている自分になんの正当性があると言うのだろうか。こんなことは紳士という言葉から最も離れた行いであろうに。
　わかっている。そんなことはわかっている。頭ではわかっているのに自分で自分の行動が止められなかった。その事実にまた嫌気が差す。
　自分もまだまだ感情に振り回される子供でしかないと改めて思い知る。
　……もし、このようになっている自分が彼女の道行の枷となっているのなら、そのような枷はすぐに砕くべきだ。

>>176
　もちろん彼女の輝くような瞳と、その視線の先を見届けたいという気持ちはある。
　だが自分の存在がその邪魔になりかねないのならば、身の振り方を改める必要も出てくるだろう。
　無論、自分の欲を諦める気は毛頭ない。しかし、しかしだ、自らの行いによって彼女の輝きを鈍らせるようなことなどあってはならない。
　それは耐えがたい損失であり、また許しがたい愚行だ。
　メレク・アルマソフィアという魔術師が彼女にとって邪魔なのか、それとも。

「……ルナ」

　それだけは、この博物館にいるうちに確かめておきたい。
　無意識のつぶやきでさまよいかけた思考を終わらせて、そしてまた視線を向ける。
　今はただ、彼女の姿だけを見ていたかった。

「サンタ部隊デッパツです」「086Mからの増援要請なのです」「速やかかつ隠密な配送にピカピカのマスターキーが役に立ちます」
『今夜は早めに上がります。想定外の騒ぎには加担しないように』
「Yes,BOSS．このために普段より早い出勤だったのですね」「人より遅く出勤し、そして遅く退勤する。それが管理人のSTYLE…」「ちゃんと起きられて偉いですよ、イヅモ」
『黙らっしゃい』

>>182
・明治英霊奇伝 side：セイバー

　志村千早は武家の娘である。
　いや、正確には武家の娘『だった』と言うべきだろうか。
　明治維新により士農工商の仕組みが消え、士族という枠組みを与えられて早四年。武家としての志村家は最早肩書きばかりの侘しい有り様となっていた。
　元々が江戸の下級旗本という、武家の中でも末端の末端。一応屋敷と使用人こそあれど、いずれも武家としては必要最低限もいい所なお粗末さ。
　糊口をしのぐべく内職に明け暮れる事も日常茶飯事で、そしてそれは明治の世に変わっても何ら変わりはしなかった。
　そう。何も変わる事はないのだと、千早は考えていた――。

「ふっ、ふっ、ふっ……ふんっ！」
　日課である素振り鍛錬を終え、千早は一息つく。
　季節は既に十二月。暖房らしい暖房もない道場の中は冷え切り、非常に寒々しかったが千早はまるで気にしない。
　むしろこの寒さがちょうどいい。そう強がり、手拭いで汗をぬぐった。
「千早ー、朝ごはん出来たわよー？ 鍛錬も程々にして、食べなさい」
「わかった、すぐ行く」
　木刀を戻し、道場を後にする。
　武家屋敷とはいえ元々たかの知れた敷地、一分とかからず居間に戻り食事の席に着いた。
「いただきます！」
「はい、いただきます。……また朝から鍛錬してたの？ よくもまあ、飽きないわねえ」

>>183
「まあまあ母さん、良いじゃないか。千早も好きでやっているんだし」
「そうは言いますけどねあなた。千早もいい年頃なんだし、剣術よりそろそろ花嫁修業の方を……」
　両親のやり取りを、千早は食事に集中する事で聞き流す。
　白米に御御御付、そして漬物の沢庵といつも通りの質素な献立。それでも今の千早には十分すぎる贅沢で、噛み締める程に活力が湧き上がっていた。
「――そういえば千早、今日は青柳亭での手伝いがあるんだろう？」
「むぐっ？ う、うん。そうだけど、どうかした？」
「いや、最近は何かと物騒と聞いてね、やれ下町の方で抗争があっただの、異人や薩摩隼人と思しき連中がたむろしてるだの……とにかく、あまり良くない噂があるんだ」
「へえ……」
　噂とはいえ、中々に剣呑な内容。
　抗争に異人と薩摩隼人、因果関係こそ分からなかったが注意するに越した事はないだろうと。千早は頭の隅に聞き留める。
「千早、あなたもしばらくの間は真っ直ぐ帰りなさいね。いくら鍛えてると言ってもあなたは女の子なんだから。間違っても物騒な連中とやり合おうなんて考えちゃ駄目よ」
「はーい」
　父と母、それぞれの身を案じる言葉に、千早は気のない返事で答える。
　別に鬱陶しいだとか、大げさだと思っているわけではない。ただ現実味が湧かないだけだ。

>>184
　そもそもの話、家と奉公先を行き来しているだけの自分がどうやったらそんな荒事に巻き込まれるというのか……
　そんな風にぼんやりと考えていた所で、千早は既に自分の朝食を一通り食べ終えていた事に気づいた。
「ご馳走様。それじゃ、そろそろ行ってくるね」
「ああ、行ってらっしゃい千早」
「なるべく早く帰ってきなさいね。くれぐれも遅くなったりしないように」
「分かってるってー」
　バタバタと家を後にする。
　途中で使用人のお清婆さんへの挨拶も済ませると、千早は勢いよく家の門を飛び出していった。

「おはようございます、女将さん！」
「はいおはよう。千早ちゃん、今日もよろしくね」
　千早の奉公先、青柳亭はごくごく普通の小料理屋である。
　江戸時代より続くこの店は、多様なお品書きと手頃な値段、そして何より確かな味で多くの客を惹きつけている。その甲斐あって小さな店ながら名店として知られており、明治の世になっても変わらず繁盛が続いていた。
　さらに言えば、千早にとっては幼少期より何かとお世話になっている店でもある。
「それじゃ早速だけど、食卓の掃除からお願い。それが終わったらお品書きを並べておいてね」
「はい！」
　言われた通り、ちゃっちゃと各食卓を拭き上げていく千早。
　慣れた手つきで片づけ、やがてその数が半分になった頃。

>>185
「あら？ 千早ちゃん、その手どうしたの？」
「えっ？」
「ほら右手、痣ができているじゃない。どこかでぶつけたりした？」
　女将の言う通り、千早の右手には痣のようなものが浮かんでいた。
　途切れ途切れに浮かんだ、奇妙な赤い紋様。だが痣にしては痛みもなく、さすっても特に違和感はない。
　鍛錬中にぶつけでもしたのだろうか、と千早は考えたがそれらしい心当たりもなかった。
「大丈夫？ 何なら包帯でも巻いておく？」
「いえ、大丈夫です。特に痛みとかもありませんし」
「そう？ ……いえ、でもやっぱり念の為巻いておきましょう。奉公人が怪我しているかもしれないのにほったらかしだなんて良くないわ」
「そんな、大丈夫ですよ」
「いいからいいから。さ、こっち来て」
　結局、女将にされるがまま千早は包帯を巻きつけられた。
　その後は特に問題らしい問題も起こらず――あっという間に開店時間を迎えた。
「いらっしゃいませ！」
「おう、千早ちゃんおはよう。今日も元気がいいねえ」
「ありがとうございます！ 源さんもお元気そうで！」
「千早ちゃーん、こっちにどじょう汁のおかわり頼む！」
「はーい、今用意します！」
「こっちは天ぷら蕎麦だ、ちゃっちゃとよこしてくんな！」

>>186
「はい、ただいま！」
　次から次へと客が訪れ、注文しては去っていく。
　午前の開店時間からあっという間に時は流れ、気が付いた時は正午の昼休憩となった。
「つ、疲れた……」
「お疲れ様、千早ちゃん。まだまだ昼からも働いてもらうけど、大丈夫かい？」
「は、はい！ 大丈夫です……！」
「そうかい、じゃあこれ」
　休憩に入った千早に、女将があるモノを差し出す。
　握り飯と漬物、そして焼き魚に暖かいお茶。要するに賄い飯である。
「腹が減っては戦ができぬ、なんて武家の娘さんには念仏もいい所だったね。それ食べて、しっかり英気を養っておくれ」
「――。はい！ ありがとうございます女将さん！」
　かくして。女将の温情と賄い飯を糧に補給を済ませる千早。
　一時ではあったものの休息の甲斐もあり、千早は再び活力を取り戻していた。

「いらっしゃいませ！」
「握り飯と沢庵、それとこっちには掛け蕎麦一つ頼むよ」
「はい、 かしこまりました！」
「嬢ちゃん、お冷のおかわりおくれな」
「はい、ただいま！」

>>187
　昼下がりも、青柳亭の客足に変わりはない。
　常と変わらず客はひっきりなしに訪れ、注文しては食べて去っていく。
　千早も一心不乱にさばき続け、ようやく落ち着いてきたかと思った頃。『彼ら』は店にやってきた。
「御免」
「いらっしゃいま、せ……！？」
　それは、見るからに厳めしい顔をした三人組だった。
　腰に刀を差した、士族と思しき男たち。流石に丁髷は結っていなかったものの、総身から放たれる凄味は否応なしに筋者である事を悟らせる。
　千早だけでなく、店内にいた他の客たちも若干身を竦ませるが――一拍の内に皆、我関せずとばかりに己の食事を再開していった。
「あ、あの……」
「なんじゃ」
「い、いえその。ご注文は……？」
「ああ？ ――握り飯と茶、人数分でよか。はよう持ってこい」
「は、はい！ ただ今！」
　それでもどうにか注文を受け取り、千早は足早に戻っていく。
　次いで女将に注文を伝えると、おっかなびっくり三人組が座った席の方を覗いた。
（何なのあいつら……昼間っからばら撒いていい鬼気じゃないでしょ）
　喋り方からして、恐らくは薩摩者。もしくは九州辺りの出だろうか。
　比較的奥側の席に着いた彼らは、ぼそぼそと何事か相談し合っている。
　何を話しているのかまでは流石に分からないが、千早の目から見てもただ事ではないのは明らかであった。

>>188
　――異人や薩摩隼人と思しき連中がたむろしてるだの……

　そこでふと、朝の会話を思い出す。
　あのとき父が言っていた『薩摩隼人』という単語、もしやそれは目の前にいる連中の事ではあるまいか？
　いやでもまさか……そこまで考えていた所。
「――はやちゃん、千早ちゃん？ ちょっとあんた、大丈夫かい？」
「ふわっ！？ お、女将さん？」
「おかみさん？じゃないよ、ほら握り飯とお茶。出来上がったから持って行っておくれ。……それとも、あたしが代わりに行こうか？」
　千早の警戒心を悟ったのか、女将は心配げに見つめてくる。
「い、いえ！ すいません大丈夫です！ 今持っていきます！」
　女将の心配を慌てて振り切り、千早は注文の品が乗った盆を受け取る。
　その勢いのまま、疑惑の薩摩隼人？たちの席に向かう。
「――じゃから、言うとるじゃろ！ もっと捜索範囲を広げるべきじゃと！」
「じゃっどん、桐野どんからも言われとったじゃろ。『今は事を荒立てず、なるべく慎重に立ち回れ』と」
　どうやら行動方針か何かで揉めているらしい。席に近づけば近づく程、男たちの荒れ様が伝わってきた。
「それが弱腰じゃと言うちょるんじゃ！ 大体、なんであん桐野が俺らの指図ばしちょると！？ 元を辿れば、俺らは西郷どんに頼まれたからこそ集ったんじゃろうが！」
「太助どん、声が大きか……！ 誰が聞いちょるかも分からんのに」
「うるさい！！」
「ひゃっ！？」

>>189
　太助、と呼ばれた男がドン！と食卓を叩く。
　その衝撃と音に驚き、千早は持っていた盆の重心を崩してしまう。
「あっつ！？ あーっ！」
　まさに、約束された破滅である。
　右手にかかったお茶の熱さにたまりかね、反射的に左手も放してしまう。当然支えを失った盆が持ちこたえる道理もなく、握り飯共々あえなく落下した。
　後に残るのは、無惨に散らばる握り飯と割れた湯飲みの成れの果てである。
「ちょっと千早ちゃん！ 大丈夫かい！？」
「ご、ごめんなさい！ 驚いた拍子に、つい……！」
「何をやっとるんじゃ、おまんらは――！？」
　落下音を聞きとがめ、女将が慌てて近寄ってくる。
　男たちも舌戦を中断し、千早の方に各々振り返るが――そこで一斉に凍り付いた。
「……？ あ、あの……お客、様……？」
「――おはん。その、右手は」
　男たちの反応に、千早は己が右手に目を向ける。
　見れば、巻かれていた包帯は濡れた事で透過しており、その下に隠されていたものを写し出していた。
　そう。隠されていたもの、すなわち右手の『痣』を。
「貴様――どういう事じゃ、その右手はァ！」
　次の瞬間、千早の右手を見つめていた男が激昂した。
　そのまま千早の右腕を掴み、感情任せに詰め寄ってくる。

>>190
「きゃっ！？ ちょっ、ちょっと何！？」
「惚けるな！ この右手の『痣』、まごう事なき令呪のそれじゃろうが！」
「れ、令呪……！？」
　何を言っているのか、目の前の男が何故猛っているのか。千早にはまるで分らない。
　ただ一つ分かるのは、男の豹変した理由が己の痣らしき何かにあるという事のみ。
「……落ち着け、太助どん。まだその女子が我らが目的と決まったわけじゃなか」
「そ、そうじゃ！ 単なるよく似た怪我か、正真正銘の痣かもしれんじゃろ！」
　静止に入る残りの二人も、口では冷静を促しつつも顔は険しいまま。そればかりか腰の得物に手をかけ、今にも抜きかねない有り様だった。
「ちょっとお客さん、うちの子に何をするんですか！」
「女将さん――」
「女将、じゃと……！？ まさか、あの婆も仲間か！ おまんら、店ごと嵌めようとしたつもりか！」
「何を言って――とにかく、放してってば！」
　異変に気付いた女将が割って入ろうとするも、男の猛りは収まらない。
　そればかりか一層顔を険しくし、いよいよ抜き放たんとばかりに刀の柄を握りしめる。
　このままでは間違いなく荒事になる――千早が絶望しかけたその時。

>>191
「ヘーイそこのおっさん達。イキり散らかすのは他所でやってくれないかい？率直に言って飯の邪魔なんですけどー？」

　救世主は、全く空気を読まない言葉と共にやってきた。
「ああ！？ 何じゃ、貴様――！」
　怒りのまま、男が声の主の方を向く。
　そこにいたのは、当世風の着物を着崩した若者だった。傾奇と奇矯、その境界線で成立する独自の格好。凡人が模倣すればただ異様でしかないそれは、しかし若者が放つ威風により見事の領域に昇華されている。
未来の言葉で表すならば『チャラい』とでも呼ぶべきだろうか。千早に詰め寄る男たちと比べれば断然痩身でありながら、しかしまるで怯む事も臆する様子もない。
否、むしろこの場で臆している方は――
「お、おはん……！」
「おっ僕の事知ってる感じ？ なら話が早い」
　にっこりと笑顔を浮かべ、人のよさそうな声で語りかける若者。
　だが。次の瞬間放たれた言葉は、それとは真逆のものだった。

「失せよ下郎、昔の話と言えども、余の膝元でこれ以上の乱暴狼藉見過ごせぬ。――それとも。侍であるならばその刀で責を取るか？」

　纏う空気を一変させ、若者は狼藉者たちを威圧する。
　男たちのみならず、千早も、女将も。様子を伺っていた他の客たちですらその重みに震え上がる。
　それはまるで、伝え聞くかつての将軍家のような――
「……い、行くぞ皆」

>>192
「虎次郎どん！？ じゃっどん！」
「黙れ！ 娘、勘定じゃ！ 釣りはいらん、取っておけ！」
「えっ、あっ、ちょっと！？」
　若者の剣幕に気圧され、男たちは撤退を選ぶ。
　千早の右腕を掴んでいた男を引っ張り、勘定も乱暴に放り捨てて、逃げるように去っていく。
　あまりの急展開に呆然としていた千早と女将、そして他の客たちだったが――当の若者は全く気にする事なく席に着いた。
「やれやれ、人に慣れない事をさせるんじゃないよ。――君も、大丈夫だったいかい？」
「へっ？ わ、私、ですか？」
「うん君。さっきあいつらに詰め寄られてただろ？ 怪我とか、してないかい？」
　怪我、という言葉に同じく呆然としていた女将も我に返った。
「そ、そうだった！ 千早ちゃん、怪我は！？ 手とか見せてみな！」
「え、あ。は、はい！」
「ふむふむ。見た所、軽く火傷してるっぽいね。じゃ、とりあえず……」
　若者がゴソゴソと手元を弄る。
　そこから取り出したのは、液体のようなモノを湛えた小瓶だった。
「これ、火傷に効く薬。即効性あるやつだから使ってみな」
「そ、そんな！ お客様に気遣っていただくなんて！ それに私、お代を払える余裕も」
「いーっていーって。僕、こう見えても偉い所の坊だからさ。こういう事に多少融通利かせられるわけ。そんな事より、注文いい？ おススメとかある？」
　慌てる千早を他所に、若者は本当に大した事でもないとばかりに軽くあしらう。

>>193
　女将に助け舟を求めるも、当の女将は千早がぶちまけたモノの後始末に集中しており、ただ首を横に振るばかりであった。
　「言う通りにしておけ」という事なのだろう。女将の方も、お礼と共に若者に頭を下げてからは何を言う事もなかった。
「あ、ありがとうございます！ 何から何まで、本当に……！」
「だから、そういうのいいって。それよりおススメは？」
「あ、はい！ 今日は焼き魚定食がおススメです！ ちょうど、新鮮な鰯が入ったばかりで」
「んじゃそれお願い」
　かしこまりました！と千早は厨房へと戻っていく。
　――その後ろ姿を、若者が興味深げに見つめていた事に。ついぞ気づく事はなかった。

　それから、あっという間に日が暮れて。
　気づけば青柳亭は閉店時間を迎えていた。
「それじゃ、お疲れ様千早ちゃん。今日も一日、ありがとう」
「いえ、こちらこそすいませんでした。特に、今日は色々とやらかしてしまって……」
　あの後、男たちと若者の一件からは特に異常らしい異常もなく。
　つつがなく店の手伝いを全うできたわけだが――それでも、一度のやらかしは千早に負い目を抱かせていた。
　そんな千早を前に、女将はどこまでも寛大に笑いかける。
「お昼の事なら気にしないの。何だかんだ上手く収まってくれたわけだし、あの若い人もたいそう気に入ってくださったみたいだしね」
「ありがとう、ございます」
「今日はもう上がっていいから、早く帰りなさい。ここの所は何かと物騒だし、何かあったらそちらのお父上とお母上に申し訳が立たないからね」

>>194
「え、でも後片付けの方は」
「私一人で大丈夫よ。改めてお疲れ様千早ちゃん、また明日からもよろしくね」
「は、はい。今日も、お疲れさまでした！」
　半ば女将に圧される形で、千早は店を後にする。
　が。仕事上がりというのに気分は上がらず、家路につく足取りもどこかトボトボとしたものだった。
「はぁ……情けない。あんな事で怯んじゃうなんて」
　思い出すのは昼の失態。男の怒声で怯み、運んでいたものを取り落とし自分も怪我をしたという事実。あまつさえ女将が丹精込めて作った料理も台無しにしてしまった事。その全てが、彼女の心を沈ませていた。
　日頃から鍛えておきながら、いざ直面してみればこの有り様。肉体的な鍛錬より精神的な特訓の方が必要なのかもしれない……
　そんな風に、考えていたせいでもあったのだろう。
　千早が異変に気付いた時、周囲の様子は既に手遅れとなっていた。
「――――あれ？」
　最初に気づいたのは、周囲の気配。
　時刻は夜の二十一時を回った所。日暮れというには遅く、されど夜更けと呼ぶには少し早い。
　にもかかわらず、周囲には人っ子一人見当たらない。自分と同じ家路につく者も、夜の巡回に動く警邏も、そればかりか屋台に酔客の姿すらいない。
　いくら冬場とはいえ、この人気のなさはおかしい。
　そう思った、まさにその瞬間だった。

>>195

「チェェストォオオオオ！！」

「ッ！？」
　轟く猿叫、背後から迫る気配。否――殺気！
　咄嗟にその場から飛び退いたのは正解だった。一瞬前まで自分がいたその場所に、何者かの一振りが下ろされる。
「な、何！？」
「チィ！ 外したか！」
「怯むな！ 一斉にかかれ、かかれェ！」
　振り下ろされたそれが、何者かの襲撃であると。
　そう理解するよりも早く、二の手、三の手と新手が迫りくる。
　刀を構えた、集団だった。明治の世にあってはいっそ時代錯誤とも言える、しかし幕末の頃には確かな脅威として夜の闇に在った者たち。
　すなわち――人斬り集団！
「な、なんで……っ！？　どうして！？」
　理解できない、理解できない！
　自分は、ただの下級旗本の娘だ。大それた役職の親がいるわけでも、人斬りに目を付けられるような思想を抱えていたわけでもない。
　だが。目の前にいる者たちは、確かな殺意を込めて自分に狙いを定めている！
「っ！ じょ、冗談じゃないっ！！」
　囲まれるより早く、千早は動いた。

>>196
　戦うなど最初から論外。人数で負け、手元には得物らしい得物もない。
　仮にあったところで、せいぜいが僅かに永らえるだけの気休めでしかない。
　ならば――ここは、全力逃走あるのみ！
「逃げたぞ！」
「追え、逃すな！ 何としても、ここで確実に命ば獲る！」
　幸い、この辺りは大通りに程近い。
　半刻もかからぬ間に走れば、大通りに出られる。そこまで出られれば、他の人に助けを求められる――
　
「ほう。中々どうして、肝の据わった女子もいるものだ」

　そんな甘い考えは、空から降ってきた声と共に断ち切られた。
「――ッ！？」
　落着、そして衝撃。
　隕石落下の如き爆撃が、空から降ってきた何者かの着地であったと。そう気づくより先に、千早は吹っ飛ばされていた。
「ぐっ、あっ！？」
　日頃の鍛錬の賜物というべきか。地面に転がる刹那、咄嗟に受け身を取った事で肉体へのダメージは最小限に抑えられた。
　だが、それだけだ。たったそれだけで逃れるには――眼前の脅威はあまりにも大きすぎた。
「な、何、が……っ！？」
　それは、野獣の如き大男だった。

>>197
　人というよりは、正しく猛獣。熊か猪か分からぬ毛皮を身に纏い、二メートル近い巨躯をもって立ち塞がる。
　抗いようもない威圧感。千早が今、どのように振舞った所で容易く制されて終わるだろう。
「……ッ！」
　それでも、千早は立ち上がる。
　死ぬわけにはいかない、殺されてなどやらないと。ただ意地だけで目の前の大男に訴えかける。
　その様を見て、大男は一瞬だけ目を細めたが。
「――ガッ！？」
「無駄な抵抗をするな。苦しみが長引くだけだ」
　男の足が、目にもとまらぬ速さで動いた。
　そう思った次の瞬間、千早の身体は再び吹っ飛ばされていた。
　今度は受け身を取る事も叶わず、近くにあった植え込みに叩きつけられた。
　叩きつけられた先が植え込みだったのは、幸運だったのか否か。少なくとも、板や石壁の類であればぶつかった瞬間に命を落としている。
　それでも千早の身体をくじくには十分で、事実今度こそ千早は立ち上がる事すらできなくなった。
　大男が千早に接近する。今度こそ終わると、確信したその時。

「待てバーサーカー。その女子へのトドメは俺が刺す」

>>198
　大男が立ち止まる。
　代わって、入れ替わるように一人の男が現れた。
　軍刀を携え、動きやすい洋装に身を固めた男。壮年と思しきその顔立ちには決意が湛えられており、一切の迷いも躊躇いも感じさせなかった。
「……名も知らんマスター候補の一人よ。お前に降りかかったこの度の理不尽・不条理、察するに余りある」
　だが、と。
「全てはこの日ノ本が未来の為。お前の無念・怨恨全て、この桐野利秋が受け取ろう。――さらばだ」
　軍刀を振り上げる。振り下ろす。
死.に際の光景は緩やかになる、という話は事実だったのか。それとも、最早正しく状況を認識する余力もないのか。千早の目には、その切っ先がひどく鈍いものに映った。
（――いや、だ）
　死.にたくない、まだ死.ねない。
（いや、だ）
　だって、自分はまだ何も為していない。まだ何も、報いる事ができてない。
（いやだ！！）

　 わたし
　志村千早はまだ、こんな所で終われない――！

>>199
　千早の右手に熱が宿る。
　痣が、明確な形を取る
　断片的だった模様は、今やはっきりとした紋様に。三画から成り立つ、交差する竜とも蛇ともとれる形に。そして――雷が降臨する。
「何っ！？」
「マスター！」
「な、なんじゃあ！？」
　桐野、バーサーカー、そしてその同志たちは、見た。
　雲一つなかった空から轟いた雷鳴、直後に降り立った雷。
　間一髪、バーサーカーが庇った事で桐野には何の手傷もなかったが――それでも、彼らは動けなかった。
　彼らと千早、その間を分かつように降り立った者がいたから。

「……やれやれ。呼び声に応えてきてみれば、よもや早速死にかけているとはの。此度は外れでも引いたかの？」

「な……な、に……？」
「ふむ、どうやらまだ意識はあるらしい。ならば早々にすませるとしよう」
　何が起こったのか、そもそも何が起きているのか。
　まるで理解が追いつかない中、一つだけ分かっている事があった。
「サーヴァント、セイバー。召喚に応じここに推参。貴様が妾のマスターということで相違ないな？」
　――自分はきっと、とんでもない事に巻き込まれてしまったのだ、と。

マレオ「トレノー！クリスマスしようぜー！！(なかじまくんのノリで)」

お久しぶりです。
ちょっと色々あって全然顔出せないのですが、せめて年内の挨拶に参りました。
トラブルとか病気とかではありませんが落ち着くのは来年になりそうです……それでは少し早いですがよいお年を

>>178
素晴らしい……

「はい、おーしまい」
「へっ……？」

　私とキメラたちの追いかけっこは唐突に終わった。
　マイアさんが指をぱちんと鳴らした、その途端にキメラたちの様子が変わった。始まったときとは真逆に大人しくなったキメラたちを見て私は呆然とする。

「いや……え？　ええ？」

　だんだん楽しくなってきたところだったのに……これじゃ肩すかしだ。ガッカリにもほどがある。
　というか意味がわからない。なんのための時間だったの、今の。

「お疲れさま。いやぁ大活躍で助かっちゃったよ、ありがとうね？」

　人を命の危機に晒したと思えないくらいの軽さで、マイアさんはにこやかに話しかけてくる。
　えっと……なに？　さっきのはなに？　なんだったの？　気まぐれ？　にしては危なすぎ……ああいや、指パッチンで止められるならマイアさんにとっては大したことじゃなかった？

>>209
「いっぱい走り回って疲れたでしょ？　おかげで運動不足のキメラたちも遊ばせてやれたよ」
「へ……？　運動不足？」
「そう運動不足。今日、表に出してたのはのんびりだらだらしてばっかりのキメラたちでね、すこしは体を動かしてあげないといけなくてさー」
「…………あー。だから、私を？」
「うん。テキトーにピンチ煽ってその気にさせればルナちゃんもキメラたちもやる気出すかなって」
「……出たよ、出ました……」
「っはは、恨みがましい目ぇしてんね」
「……そりゃあね」
「でも楽しかったろ？」
「楽しかったです！　ありがとうございます！」

　言葉通りの感謝とちょっぴりの怒りを込めてそう叫んでおく。……と同時に体から力が抜けて、牧場の草地の上にへたり込んでしまう。
　気づけば足は痛いし、汗まみれだし、服だってボロボロだ。……コレ弁償とかになったらどうしよ。

「ははは気が抜けちゃったのかな？　でもざーんねん、休むにはまだちょっと早いみたいだよ？」
「え、えぇー……ここのバイトってお昼ごはんも食べさせてくれないんですか？」
「いや全然食べていいよ。なんならキメラたちの世話する前から食べてもいいんだけど……お客様を待たせてるみたいよ？」
「へ？」
「ほらあっちあっち」

>>210
　マイアさんがひょいと指を指す。
　そこには白い服を丁寧に着こなした金髪紫眼の少年。メレクがいた。

　…………えっ。

　驚いている暇などない。
　メレクはすでにマイアさんと話をつけていたのか、牧場の出入口から悠々と入ってきて、しりもちをついたまま動けない私の前で立ち止まる。

「お疲れ様でしたルナ。大活躍でしたね」

　マイアさんと同じ言葉のはずなのにどうしてちょっと意地悪に聞こえてしまうんだろう。
　いやどうしてもなにもない。メレクがなにか意地悪なことを考えているからに決まっている。……まずい。まずいまずいまずい。せめてバイトが終わるまでは会いたくなかった相手がなんでこんな動けないタイミングで……動けないタイミングだからか！

「お疲れのところ恐縮ですが……少々話したいことがありまして」
「いや……あのねメレク、見たまんまに私けっこうボロボロというか動けなくて……」
「ええ。見ればわかります。いかにも疲労困憊といった様子ですね」
「で、でしょ？　だから今はちょっと無理かなーって……」
「つまり今なら逃げ隠れする元気もない、と。そういうことでしょう？」
「オニか！」

>>211
　そうだった。メレクってこういう男の子だった。
　最近はちょっと扱いが甘くなってきてくれたかなと思ったけどそんなことはなかった。
　たぶんけっこう前……それこそ牧場に入る前から見られていたに違いない。私が逃げられない状態になったのをしっかりと確認して近づいてきたんだ。

「それでは質問を始めたいのですが。貴女が隠しているものについて」

　隠しているもの。
　それはアレだろう。アレしかない。今も私が隠し持っているメレクへのプレゼント。
　
「な、なんか尋問みたいな雰囲気になってない？」
「ルナがごまかさずに答えてくれれば結果は変わりませんよ」

　つまり質問が尋問に変わる前にさっさと吐けと。
　一縷の望みをかけてカヴン先輩とついでにマイアさんにアイコンタクトで助けを求める。
　身振り手振りで返ってきた答えは……カヴン先輩が「勝手にやってろ」で、マイアさんはたぶん「面白そうだから見物するね」かな。
　だめだね、味方がいないや。
　ちくしょうめ。

>>212
「おや、どうしたんですルナ？　よそばかりを見て……嫉妬してしまうではないですか」

　ウソだ、ぜぇったいウソだ。その鉄面皮のどこらへんが嫉妬しているって言うんだ。
　ああ鉄面皮の眼が細まっていく。時間が止まってしまいそうな錯覚を感じながらも、ゆっくりとメレクは言葉を吐きだす。



「では問いましょうか。貴女が僕に隠しているものは、なんですか？」



　ああ、もう言うしかないんだろうな。
　できれば博物館のバイトが終わってから、ちゃんとした形で言って、それから渡したかったけどこうなればしょうがない。

「ちょっとだけ、長くなってもいい？」
「もちろん」
「じゃあ……えーっと…………。私は……私ね、メレクのこと、全然信用してないんだ」
「…………」

>>213
　メレクが無言で続きを促していることを確認して、言葉を続ける。

「私と一緒にいても得することなんかないのに、それでもずっと一緒にいてさ。お金は出してくれるし面倒事に巻き込まれても付き合ってくれるし……そのくせ私に要求するのは借金の心配だけじゃん。メレクなら私に使う分の時間と手間をかければ貸した分の額くらいすぐ稼げるはずなのに……なんかメレクがそういう非効率なことするってのは……ええっと……なんだろ……」
「似合いませんか？」
「そう！　似合わない！」
「なるほど。それで？」
「えっ」
「『信用できない』その言葉に上に、重ねたい言葉があるのでしょう？」
「そんなに気にして……なかったり、する？」
「魔術師同士で信用できないなんて日常茶飯事でしょう。そう簡単に信用されても困ります。……いいから続きをどうぞ」
「あ、うん。だからメレクが信用できなくて、信用できないのはメレクのことがわかんないからで、えっと……だから！　メレクに渡したいプレゼントがあるの！」
「……うん？　いえ失礼。ルナの話が僕の中でうまく繋がらないのですが」
「だからね。私からしたら、メレクが私と一緒にいてなんの意味があるかわかんないんだよ。どんなメリットがあるかもわかんないし、そもそもないかもしれない」
「それを僕に直接聞こうと思わないんですか？」
「思うけど、聞いたところで素直にぜんぶ話してくれるとも思わないから」
「そうですか……それで？」
「うん。わかんないから、一旦無視することにした。メレクの思惑とは完全に別で、私と一緒にいて良いことがひとつでもあった！って思ってほしくて、」
「その答えがプレゼント……ですか？」

>>214
「そういうこと！　メレクが気の迷いで完全に無駄なことしてても関係ないようにって……ほら見て！　コレ！」

　そうして私は一枚の紙を取りだしてバッと広げて見せる。さして大きくもないし大した神秘が宿るわけでもなく、私の手のひらからちょっとはみ出る程度の大きさをしたその紙は、時計塔の魔術師にとって大きく意味があるものだ。
　特定個人の魔力にのみ反応する、という術式だけが仕込まれたその紙は、個人を証明するために使われる。

「それは？」
「整理券だよ！」

　闇チケットとも呼ばれてる。

「はぁ？」
「だから整理券だよ。あの！　エルメロイ教室の！！」

　私が名前を出したその教室は、時計塔では知らぬ者なしの有名な教室。
　現代魔術科の君主が取り仕切るエルメロイ教室は時計塔の最先端をひた走っていると言っても過言にはならない。過去を目指す時計塔の本義からしたら邪道そのものかもしれないけど、私みたいなタイプの魔術師にはうってつけだ。
　そんな教室に優先して入れる整理券……闇チケットとも呼ばれるそれが、今、私の持っている紙きれだ。……あくまで聴講生として、だけど。

「それを買うためにバイトしてたんですか？」

>>215
「買うためっていうか、後払いで買っちゃったからバイトするしかなくなったっていうか」
「そのためだけに、僕にも隠れて？」
「だ、だってプレゼントだし……サプライズ的なことしたほうがいいのかなって……その」
「…………」
「いやその言おうと思ったりもしたよ？　でもなんかメレクに言ったらそのままお金払ってきそうだったし」
「…………」
「第一さ、私から渡すプレゼントなんだからそのへんをちゃんとしたかったのあるし」
「…………ふふ」
「……メ、メレク？　ど、どうしたの？」

　私の話に言葉もなくなっていたメレクの肩がなんだか揺れているような……そう思った矢先に噴出した。


「ふふ…………ふははっ、はっははははははははは！！」


　笑った。お腹を抱えて思いっきり笑っている。あのメレクが。
　予想外の出来事に引っぱられて私の声も大きくなる。

>>216
「なっ、なんで笑うのさ！？」
「いえ、すみません。あまりにもルナらしくて、つい」
「らしいってなにさ！　なにが！」
「曲がりなりにも異性への贈り物が整理券ですよ？　らしいと言わずしてなんとするべきか」
「だ、だってエルメロイ教室だよ！？　メレクだって興味あるでしょ！？」
「もちろんありますとも。ですので、ええ、良いチョイスですよ」
「なんかバカにしてない！？」
「ああいえ、ケチをつけるつもりなど勿論ありません。嬉しいですよ。とてもね」

　お腹をかかえるほどの笑いを一旦収めて、メレクはにこりと微笑んだ。
　……むー。
　こういう風に笑うのは何度も見てきたはずなんだけど。さっきの大笑いを見ちゃうと…………コレは…………
　あっ、そうだ。

「メレクメレク。言い忘れてたけどその整理券、私の魔力以外には反応しないから気を付けてね」
「はい？　ではどうやって僕に使えというんですか。そのチケットは」
「私と一緒に行くんだよ？　コレちゃーんと"二人分"で発行してもらってる整理券だから」
「……僕へのプレゼントと言いながら、ちゃっかり自分も得するようにしていたんですか？」

>>217
「いや……それは……そうとも言う、けれど……」
「なるほどなるほど。抜け目ないことで」
「だって…………エルメロイ教室なんだもん…………行きたいじゃん…………」
「…………。……ふっ、ははははは！！」
「また笑ったーーー！！？」

　一度は収まったはずなのに、なにがおかしいのかメレクは笑い続ける。
　やっぱりわからない。目の前で声を上げて笑う男の子の真意なんかさっぱりだ。
　あんなにいっぱい考えたのに、予想していたどれとも違う反応をされて私の内心は不満どころじゃない。わからない、わからないのに───楽しい、なんて。

「ああもう！　笑うなぁ！　わーらーうーなー！！」
「はははははっ！！」

　自分でもよくわからなくなってきた内心をごまかすべく、メレクの笑い声に負けないよう私は精一杯の声を上げるのだった。

・おまけ　～ダイジェスト本編～

　桐野一党の襲撃に遭い、なし崩し的にセイバーを召喚してしまった千早。
　命からがら帰宅した彼女に、翌朝とんでもない呼び出しが訪れた。

「お初にお目にかかります、志村家の皆さん。早速ですが、どうか我々に付いてきて頂きたい」
「付いていく、ってどこへ？」
「――江戸城。今は皇居と呼ばれている場所です」

　両親（とセイバー）共々皇居に招かれた千早。
　そこで彼女は、新政府の重鎮たちから盃月の大戦のあらましについて説明を受ける。

「初めまして志村家のお嬢さん。私は大久保利通、今は新政府で内務卿を務めさせてもらっている」
「同じく、木戸孝允。新政府では太政官として働いている者だ。以後、よろしく頼む」
「山形有朋。一時期は隠居していたが、今は陸軍卿をやらせてもらっている。……中々難儀な目に遭われたようだな、お嬢さん」
　
　彼らは語る。今、帝都で未曽有の魔術儀式が進められていると。
　彼らは乞う。それを阻止できるのは、儀式に選ばれたマスターのみだと。

>>225
「待ってください！ 千早はただの女の子です！ そんな、殺し合いだなんて！」
「どうしてもというならば、父である私が代わります！ セイバーさんも、どうか……！」
「――残念ながら。マスターの資格は相応の力を持つ者にしか与えられない。御父上ではなく娘さんの方に令呪が宿ったという事は、そういう事なのでしょう」
「というか、妾としても安易な鞍替えなぞ認めんぞ。仮にも妾はこ奴に呼ばれた身じゃ、ならば愛想つかすまでは付き合ってもらう」

　反発、否定、そして拒絶。
　混沌を極めつつある場に在って、少女は決意を示す。

「――私、やります」
「「千早！？」」
「ほう？ ずいぶんと青ざめておるようだが、そんな様で戦場に臨めるとでも？」
「青くても、何でも。私がやらなきゃ、昨日みたいに誰かがまた殺されるんでしょ？ ――だったら、やる。この馬鹿げた戦いを、終わらせてやる……！」

　かくして、盃月の大戦が真に幕を開ける。
　立ち塞がるのは六人六騎。各々が野心と欲望を掲げしマスターとサーヴァント達。

「私は……！ どんな非道をもってしても！何を犠牲にしてでも勝つ！ 勝って、大清国の栄光を取り戻さねばならんのだ！！」
「ようこそ、悪魔（アタシ）の楽園へ。もう、アナタたちは逃げられないわよ？」

>>226
「軍艦まで持ち出してくるとはねー……さっすが死にかけの獅子、なりふり構っていられないって感じ？」
「いかがいたしましょうか、汝様（マスター）？」
「んー、とりあえず様子見しましょっか！ 流石の私たちも兵器までは持ち込めてないし。あ、でもこの場合魔王様が兵器みたいなものかしら？」
「ふふふ……」

「ずいぶんと派手にやっているようだ。どうする、マスター」
「分かり切った事を聞くな、アヴェンジャー」
「――皆殺.しだ。軍艦だろうと何だろうと、立ち塞がるなら全部壊してぶち殺.す」

　苛烈を極めていく盃月の大戦。
　退場する者、手を組む者、暗躍する者。
　思惑は交差し、戦況は混迷の一途を辿る――


「お願いします、助けて下さい千早さん！！ もう私だけじゃ色々限界なんですぅううう……！」
「え、ええー……」
「マスター、こ奴に雷を落としてよいか？ 無論、物理的な意味で」
「うーん。流石にそれはちょっと勘弁していただけると有り難い。それやられると僕も消えちゃうし」

>>227
「初めましてお嬢さん。僕はメレク・アルマソフィア、ここより遥か西の島国、ブリテンは時計塔より派遣されてきたマスターです」
「す、すごいメレクさん……。ひょっとして、憲雪さんより優れた術者なんじゃ」
「私だってあれくらい出来ますけど！？ しれっと酷い事言わないでくれますか！」
「予想はしてたけど、やっぱ時計塔も出張ってきたかー。ま、何とかなるなる！」

「清国にイギリス……どいつもこいつも、日ノ本で好き放題してくれる……！ 新生精忠組、出るぞ！」
「精忠組？」
「……昔、我々が一介の隼人でしかなかった頃に組んでいた徒党の名だ。まさか、今になって再び耳にする日が来ようとは……」
「桐野さん――私はあなたを倒します。倒して、前に進みます！」
「ほざけ小娘が！ 道場剣術をかじった程度で、中村半次郎の太刀に敵うと思うちょっじゃなかぞ！！」
「……セイバー。お前の召喚を阻止できなかった事が、俺の最大のしくじりだった」
「妾は感謝しておるぞバーサーカー？ お主のような益荒男と、こうして殺し合う事ができるのだからなぁ！」

　それでも。永遠に続く闘争など存在し得ない。
　退場者は重なり、やがて終局の時が訪れる――

>>228
「あの獣……いえ、怪物は……成る程、この為に手を組んでいたというわけですか」
「中々に見事でしょう？ 人の感情も、極まればあんな風に成り得るという実験結果ですわ♪」
「悪趣味、の一言に尽きますね。付け加えて言えば見事でも何でもない、ただ哀れで物悲しいだけです」

「コロシテヤル！ ナニモカモスベテ！コロシテヤル……！」
「よもや、神秘の薄れたこの世でかのような化生に再び相まみえるとはの。人の怨念、甘く見るなという事か。――それで？ 如何する、チハヤ」
「手を貸して、セイバー。……あの人は、私が止める」

「ふむ。貴方と私の間に、因縁はないものと思っておりましたが」
「因縁ならあるさ。いつの世も、英雄とは悪を滅ぼす為に戦うものだろう？」
「成る程、成る程。――実に！ 正論！ 正しく！ 道理！」
「嗚呼、ならば殺し合いましょうアーチャー！ 貴殿の『牙』が、我が首に届くというのならば！」
「届かせるさ。猟犬の牙を舐めるなよ、悪魔」

「どこもかしこも盛り上がってるみたいだけど――君は、私と踊ってくださるという事でいいのかしら？ アルマソフィアの次期当主くん？」
「ええ勿論。それに、こちらとしても貴女を見逃す理由はありませんからね。ラジェンスキーの生き残り……いえ、勝者とでも呼びましょうか？」
「――言うじゃない。私、口が減らない男は嫌いじゃないわよ？」
「せっかくの誘いですが、丁重にお断りします。素敵な女性は既に一人、押さえていますので」

>>229
「この期に及んで、まだ抗うというのかランサー？ お前の主は、最早正気も理性も失っているというのに」
「……あのように成り果てても。あれは我が第二の主で、そして無二の友だ。ならば、どうして俺が見捨てる理由に成り得よう」
「そうか。――ならば死ぬがよい、麒麟と呼ばれし小童よ」
「ああ、討ち果たしてみせるとも。雷の化身たる獣よ」


「――ずっと、考えてたんだ。あなたが言った願いについて」

>>230
「『全てを殺.し、全て滅ぼす』と、あなたは確かにそう言った。『この世の全てを憎んでいる』とも」
「でも、それだけじゃなかった」
「憎しみもある、怒りもある。全てを殺.したいというのも、嘘じゃないんだ」
「あなたは――ずっと、悔やんでいたんだ。自分だけが生き残った事、生き残ってしまった事。そして――あんな終わり方を迎えてしまった事を」

「だから。私はあなたに言わなければならない」

「あなたの願いは間違いだって。こんな終わらせ方は間違っているって」

「私がこの戦いで見て、得て、そして――この時の為に鍛えてきた、一太刀にかけて」

「黒野双介。私は――貴方の願いを斬り捨てる」


　それは、少女の生涯（すべて）を捧げる一振り。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 カタナ
　憎悪を断ち、願いを葬り、未来を切り開く――運命の一閃。

Fate/Last KATANA 明治英霊奇伝 ―完―

>>231
セイバー陣営設定

・志村千早

　セイバー陣営のマスターにして、明治英霊奇伝の主人公。
　元下級旗本・志村家の長女として生まれ、武家の娘として育てられてきた。
　とはいえ明治維新以前から家計は苦しく、本人も武家というより一介の町娘としての感覚が強かったりもする。だが胸の内には確かな侍の魂を受け継いでおり、要所で芯や責任感の強さとして表れていた。
　本人も知らない事ではあったがマスター適性を有しており、その縁で令呪が浮かび盃月の大戦に巻き込まれる羽目になる。
　奉公帰りの夜あわや殺されかけたがセイバーを召喚する事で難を逃れ、間一髪無事？に帰宅。
　その後はセイバーから儀式について聞かされるもどうしたものか困り果てていた所で、大久保ら新政府勢力に召集され、なし崩し的に参戦する事となった。
　以降はセイバーと共に死闘を繰り広げ、最終的に魔獣化して暴走する黒野を討ち取る事で盃月の大戦に幕を引いた。
　大戦後は日常に戻り、共に大戦を戦い抜いた護衛兼監視役の巡査と結ばれ平穏な余生を送ったという。
　盃月にかける願いはなし。願いを叶えるのではなく、帝都とそこに住む人々の日常と安寧を護るべく。そして己が戦いから降りる事で生まれるだろう、『代わり』となる誰かの身を案じたが故に戦った。

　余談ではあるが、千早視点から見た他マスター及びサーヴァントへの感情は下記の通り。

・西文遠：一番最初に戦う事となったマスター。お国の為に戦う信念には共感するが、その為に自分たち日本を犠牲にするやり方を許せず最後まで相いれる事はなかった。

・桐野利秋：会敵という意味では文遠より先のマスター。当初は怖い人だと思っていたが、共闘したり刃を交わす内にある種の師匠のような感情を抱くに至った。西南戦争後に彼の訃報を耳にした際は、人知れず涙を流したという。

>>232
・メレク=アルマソフィア：時計塔？なる場所、いや組織？からやってきた異人さん。やや気障ったらしい態度に思う所はあったものの、優れた魔術や頼もしい立ち回りに信頼を寄せるようになる。ぶっちゃけ憲雪さんよりよっぽど……いえ何でもないです。

・加茂憲雪：盃月の大戦の仕掛人、と聞いて最初は警戒＆敵対心MAXで乗り込んだが――まさかの本人から全力お願いされた事でドン引き。以降は呆れ半分同情半分で共闘する事となり、最後まで協力関係を維持し続けた。大戦後も友誼は続いており、時々お邪魔することがあったとかなかったとか。

・エリザヴェーダ=ラジェンスキー：敵。絶対に許してはならない女（ヒト）。文遠のように立場上の理解を示す事もなく、メレクのように魔導の業に惹かれる事もない。ただただ日本を脅かし、他者を傷つけるその姿に千早は生きてきた中で最大の憤怒を覚える事となった。大戦を通して千早が明確に敵意を抱いた、ほぼ唯一の相手とも言える。引導を渡す事こそ叶わなかったが――彼女を倒したとメレクから聞いた時、千早は心の底から安堵したという。

・黒野双介：最初は殺意と憎悪をばら撒く怖い人だと思っていた。だけど、何度か戦う内にそれだけではない、と感じ取った。そして――エリザヴェーダに嵌められ、魔獣として咆哮する彼の姿を見た時。その疑心が正解である事に気が付いた。

　――彼の嘆きは正しい。
　――彼の絶望は当然のものだ。
　それでも。その悲願（いのり）は断たねばならないものだと、切っ先を向けた瞬間覚悟した。

　後に、帝都より遠く離れた会津の地へ弔いに訪れる女性の姿があったという。

>>233
・セイバー：召喚したサーヴァント。……なのだが、最初はセイバー自身の振る舞いもあり、やや苦手意識を抱いていた。それでも幾度となく死闘を乗り越えていく内に彼女の本質に気づくようになり、最終的には最高の味方として信頼を寄せるようになった。
　でも、傍にいてビリビリするのはどうにかならないものだろうか（作中季節は真冬）。

・アーチャー：希臘（ギリシャ）？辺りの英雄さん。西洋の神話とか全然馴染みなかった為、正直真名が明かされた時もピンとこなかった。でも弓の腕前はすごい。あとワンコたち可愛い。
：
・ライダー：卑猥なのはいけないと思います！！ あと、近寄ったらヤバいと本能が訴えていた。

・バーサーカー：真っ先に出くわしたサーヴァント。殺されかけた事もあり、サーヴァント達の中では一番トラウマになっていた。怖い、野獣怖い……

・キャスター：恩人であり、昔の偉い人。真名を聞かされた時は思わず全力土下座した。当人の気さくさに困惑する事もあったが、何かと助言を貰ったり背中を押される事も何度かあった。本編におけるお助けキャラポジ。

・アサシン：エリザヴェーダ同様、敵。ライダー同様、決して心を許してはいけない存在だと本能レベルで察知した。

・アヴェンジャー：真名を知った時、キャスター同様驚愕した。寝物語に武勇伝を聞かされていたという事情もあったが、それ以上に伝え聞いた『彼』の姿からかけ離れた有り様に絶句したのもある。最終的に真意を知った時は、やり場のない悲しさがこみあげてきたという。

>>234
・セイバー/雷竜

　千早が召喚したサーヴァント。
　大まかな設定は製作者様のそれに準拠。
　千早の祈りに応える形で召喚されたようにも見えたが、その実帝都に蔓延らんとしていた悪逆に対するカウンター……一種の天罰として現界した事情もあったとかなかったとか。
　ともあれ、召喚後は千早と共闘。当初は千早の非力さに呆れたり己を恐れすぎる姿にうんざりする事もあったものの、徐々に絆を築き上げていき、最終的には雷神の徒たるにふさわしい存在として認める事となった。
　最終決戦にてアヴェンジャーとの戦いを制し、残った魔獣黒野も討ち取って消滅。突き立った雷の柱は、帝都にいた全ての人間が目にしたという。

>>235
以上！これにて明治聖杯戦争こと、Fate/Last KATANA 明治英霊奇伝は本当に完結です！

思ってた通りぐだりにぐだってしまいましたが、どうにか年内中に完結へと持ち込めて一安心

マスター及びサーヴァントをお貸し頂いた製作者の皆様方、改めましてありがとうございました！
どのキャラクターも魅力的なものばかりで、自分の拙い筆でまともに描写できたか不安でしたり…

感想などございましたらお待ちしております

イマジナリー志村千早さんを描きました
ショートポニーもいいけど剣術娘ならロングもええな……どうすっペ……時系列別に両方描けばいいじゃん！ってことでこんな感じに

>>206
メリー・クリスマス！
良いお年を。

>>236
千早が平穏な余生を送れて本当に良かった…。
キャスター「僕はとっくに死んだ人間だし、そもそも影法師なんだけどよぉ。とはいえ、幕府が無くなって間もない時期に余が言えた義理ではないのも確かだからな…。」

>>238
ざっとですがこんな感じですかね？

かへっかへっ、メリークリスマス！(一日遅れェ)
余裕がある時で構わないので、その時になったらレージュさん的鯨判定お願いします～
こういうので……いいのか……？
マリーモルガンになったのじゃ、というイスの伝説のオチを使いたいがあまり都市≒鯨のウルトラC理屈

〇鯨憑き
マリー・モルガン/mari-morgan
「Pa vo beuzet Paris　(パリの街が沈む時)
Ec'h adsavo Ker Is　(イスの街が蘇る)」
都市を王冠のように戴く、『鯨』のように巨大で特異な霊体の依り代。
その正体はブルターニュ地方で語られる伝説、大洪水によって滅びた都市イスの『童話』。
元々はイスの王女ダユーによって引き起こされた大洪水によって発生した土地と人間たちの断末魔が収束したもの。土地の痛み、為す術なく死滅した人間たちの叫び。それらが混ざり合い、時空間の歪みとして場に残り続けた残留霊基(ゴースト)。特異点収束体とも。
『恋するオルランド』において魔女アルチーナが使役した鯨。島と見誤るほど巨大で、アストルフォを乗せて連れ去った。この鯨が去ると恐ろしい嵐が海と空を覆い隠したので、リナルドとドゥトンは彼の救出を諦めなければならなかった。『狂えるオルランド』では、波頭からはみ出たそのひろい肩は、五メートル以上もあった。それは波ひとつ立てず、身動きもせず頭のてっぺんと尾の先はずっと遠くに離れていた。と言う。
無数の人間霊の持つ質量によって霊基が自己崩壊、意味消失したが、島・土地の概念を有するこの鯨のカタチを利用して悪霊(自然霊)に変生した。
自ら≒イスを蘇生させるためにパリや都市に向けられた破壊衝動が存在する。
捕食とはすなわち市民の獲得であり、その体内では龍涎香のように怨念が醸造されている。

トリトン・ポート（仮）
【方針・属性】秩序・善
【活動地域】大西洋
【継続期間】16世紀～現代
【構成人員】約500人(増減あり)
【歴史解説】
〇時計塔の考古学科、オーセン教室の実習施設。
大西洋のとある到達不可能極点(POI)に建造されたテラリウム。
到達不可能極点とは言うが、太平洋のポイント・ネモとは異なり、魔術的な意味合いが強い。
魔術協会、時計塔とアトラス院による合同発掘調査団によって管理されており、“完全環境都市(アーコロジー)”として海中にありながら循環型社会として独立している。
現代になって、ある種の巨大な潜水艇とも言える都市型テラリウムが建造されたのは、科学技術の発展により、すべてに(時代の流れに逆らうが故に金食い虫となる)魔術を使用せざるを得なかった前時代に比べて、必要な箇所にのみ魔術を使用するという最低限度の活用。海底探索がより安価に済むというメリットが存在したからだ。

>>245
【関連人物】
〇ノルドナイト・メルアステア・オーセン
「Es war ein König in Thule.(古き世のトゥーレに王ありき)」
「時計塔で囁かれる『魔術が成立する最後の紀』が今であるという噂は、事実だ。
　これが我々、魔術師に与えられた“最後の機会(ラスト・アタック)”となるだろう」
時計塔の考古学科の“君主(ロード)”メルアステアの分家、クローク家の当主。
使用する礼装は、魔銀(ミスリル)で設計され、世界樹と九つの領域が刻まれた冥界靴『死者の軍靴(ヘルスコール/ Helskór/ᚼᛁᛚᛋᚴᚢᚱ)』。
これは『スールの子ギースリのサガ』において語られる、死者がヴァルハラまで歩いて行けるように遺体の上に置かれたという礼装。ヘルスコールを着用した死者の魂は九つの領域のひとつ、冥府領域ヘルヘイムを歩いて渡り、グラズヘイムにあるヴァルハラ館まで到達することができたという。
魔術師に外見年齢は当てに出来ないが、初老の男性。身なりは補給が限られる海中都市ながら、整えられたスーツであり、彼の魔術師的だが貴族としての矜持を現している。
大団長。総司令。オーセン家の悲願である『最果て』への到達を掲げ、時計塔とアトラス院の合同発掘調査団を牽引してきた。結果が出ないことから周囲の圧力は年々強まっているが、テラリウム『トリトン・ポート』の建設によって才能ある人々を招き入れる基盤を作り上げたことは評価されている。
余談ではあるが名前の由来は「ノルド(北)語」と「〇〇ナイト(鉱石)」の捩り。

〇エルディ・クルドリス・レムリア
「私たちが挑戦しているのは、この惑星の八割を覆う神秘デスよ？」
合同発掘団のアトラス院側の代表、というかアトラス院の錬金術師は彼女ひとり。
アトラスの六源がクルドリスの出身。
クルドリスの家伝特質であるエグゾフォルムを用いた竜牙兵が全般的な作業を行う。
自然界には通常ありえない青髪と、紫の瞳。バランスの悪い背丈、ひょろ長いという印象を受ける女性。白いシャツの上に羽織った紫のジャケットとケープ、それにミニスカート、クルドリスを示す紺色のネクタイが特徴のアトラス院制服が特徴的。白衣を着ているため付いたあだ名は『博士』。「安直デスよ」と言いつつも、生まれて初めてのあだ名が嬉しいエル博士であった。

>>246
〇バジル・マゼラース
「よう、兄弟！」「海が俺を呼んでいるのさ。血が俺に叫んでいるのさ！」
七代続く時計塔の名門、マゼラース家の俊英。
マゼラース家が代々所属する伝承科をメイン、動物科をサブ学科にしている。
『波濤万里の羅針(マナイアカラニ)』というブーメラン大の釣り針型の魔術礼装を扱う。これは縮地の概念礼装であり、彼我の“規模(スケール)”を省略することで、島だろうが釣り上げたマウイの権能を追う。
魔術刻印の継承から外れた“後継ぎ(スペア)”ではあるが、『海洋魔術(オーラ・マギア)』への適性は目を見張るものがある、とかなんとか。彼の快男児、熱血漢である在り方は魔術師特有の陰鬱さを感じさせない清々しいもの。頭が悪いとも言う。基本的に家内・社会政治からは離れており、海洋という冒険の舞台、未知への遭遇を楽しみにしている。
魔術基盤的にはポリネシアでの行使が最も魔術の効果が強いのだが、それはそれ。

〇シャルドネ・エグマリヌ
「Nous devons prier pour être un esprit sain dans un corps sain. (美食とは魂のみが生み出す)
　さあ、いただきましょう」
鯨憑き。
霊障に由来するある種の悪食、“異常な”食欲に忠実な魔人。マリー・モルガン。
『謝肉魔術(カルネム・マギア)』の大家の令嬢であり、界隈では美食家としても有名。

〇秘海集積船
通称、船。
船の寄港地のひとつ。
採掘資源・人的資源の交流を兼ねて、相互に港(船の場合はポートサイド)を開いている。

>>223
ルナはけっこう鈍い子なのです。好意寄りの感情がよくわかんない。でも無責任な期待や陰湿な悪意には敏感でしてよ
めっちゃいっぱい出会わせたい……けどそんなことしたら私が耐えられないので書けるのはきっと入り口までです

>>243
「二人で行きたいから」とかいじらしいこと言ってペアチケにしてたらよかったんですけどね。あるのは純粋な講義への興味だけですよ…
絶対に使えると思ったので頭の隅から離れませんでした。使えました。やったぁ


>>236
うわぁ～……ぐぁぁ……最後のやつが見たい……もっと見たいです……！
最終決戦の相手アベンジャーなんですかやつなんですか！うわぁぁ見たいすごく見たい
無事に生き残れたということは、きっちり倒されたんだなぁ…よかったぁ

>>248
あ～…わりと独自でやることやってる感じなんですね？
『船』の下部組織案もあったから同じようなことやってるのかと

>>239
史実が史実なのでギリギリではありましたが、どうにか生きてる間は平穏に余生を送れました

故人であっても、影法師であろうとも。武家の娘として育てられた千早にとって徳川将軍という重みは幼少より刻まれてるものなのです

>>241
最の高（感無量）

元々千早のモデルに刀使ノ巫女の衛藤可奈美があった事もあって、千早といえばポニテと半ば思い込んでたんですがこのロング姿も捨てがたい…！
やはりキャラクターというのは他者様の意見も反映してなんぼなんだなぁと思わされました

>>243
本編を書くつもりはないと言ったな、あれは嘘だ

という冗談はさておき。やはり他制作者様のキャラをお借りしてただけに、一度くらいはちゃんとした、そして大まかな内容を投下しておこうと思い直してこうなりました
お気に召して頂けたようで何より…

(残業続きでIN気力がなかったの顔)とりあえず一日遅れのメリクリです
>>113
＞刹那はエルメロイ教室のみんな（公式化ここ産か問わず）のこと、どう思ってんだろ？
多分めっちゃ年下の類友。

彼女自身が大分厄ネタ(紀元前の魔女、人工妖精、魔眼持ち)なのでね。
しかも２世に色々図星刺されて「なんかウザい！」でエルメロイ教室には偶に顔見せる程度で基本的には時計塔をふざけ回ってるし
>>236
「成る程、成る程。――実に！ 正論！ 正しく！ 道理！」
「嗚呼、ならば殺し合いましょうアーチャー！ 貴殿の『牙』が、我が首に届くというのならば！」

だいたいいつも楽しそうだな、この魔王サマ。千早さんの「コイツ駄目だわ！」って警戒MAXされても
「おお！己を”悪”として憎むその心根！いいですね！(グッ！)」するからタチわりぃんだ
どんな結果になっても自分の不利益にならないサーヴァントだし

>>252
まぁ、II世とフラットは説明不要だし、イスマエルも実家が厄ネタ持ち（魔術系統がキルケ―の直系、魔術回路と刻印の複製方法持ち）だからなぁ…。＞類友



>>251
納得しかない。＞徳川将軍という重み

>>250
ふーむ……そういうことなら一旦『船』との関連性は全部カットして設定を考えてみてはどうでしょう？
下手に別組織と関連付けて設定引きずられるよりもまず独立した組織として成立させて、そこから関係を持たせられるようならすり合わせていく
っていう形にした方がやりやすいと思います

>>253
アヴェンジャー…アヴェンジャーお前ってやつは…！
無念に苛まれた鹿之助ってのも本気で考えてみるべきかもしれぬ…

>>155
ぐれお2部ですって！？！？
というかエッセンスのチョイスが渋い……なるほどそうきたかとなる面子
>>236
明治時代のifっていうのもなかなかに良いものですね、江戸とか現代とは違う西洋東洋織り混ざった聖杯戦争が見ていて面白かったです
アクタイオンを描写していただき改めてありがとうございました
>>219
ルナちゃんとメレクくんの関係性がぁ……あくまで「魔術師」同士なのがとても心地よくてぇ……
あとまあマイアはそういうことする。がんばれ♡って応援する
>>248
良いですね、なかなかに好きな感じの団体。みんな色々な神秘抱えてるのが実に興味をくすぐられて良


>>23の続き(？)です前後編で全く内容が繋がってないですが物語的には同一世界線

「………ユリア」

「何です？……げっ、日本かぁ。嫌いじゃないけど……というかちゃんと喋ってくださいよ。任務なのはわかるんですけど」

「隠してた色んなことを姉さんがマリナにバラした。もう生きていけない」

「キッショ。……ルナちゃんも連れてきてるんだからそんなへこたれ方やめてくださいよ」

　魔導円卓騎士団の執務室。普段は意気揚々としているアインが凹みまくった様子で項垂れているのは中々に見ない光景だ。こういう時は大体恋人がらみで、実際今回も恋人がらみだった。見慣れているユリア・フォン・ツァルクレオはともかく、なぜか連れてこられたルナ・アードゥルは困惑している。彼女は騎士団の団員ではない。例の一件以降はほとんど関わりがなかったのだからそれは困惑する。


「あー、ごめんねルナさん。……別に君に日本に行ってもらうわけじゃない。君にはこの試験管に魔力を込めて欲しくて。こっち謝礼ね」

「わ……えっなんですかこの札束。これ全部私が？」

「そうだよー。……足りない？」

「いや全然。やりますやります。というかもうやりました」

　ドサリ、と鈍い音と共に机に投げ捨てられる札束。目の前の男はこれがどれほどの価値を誇るのか理解しているのだろうか。いや、理解してこの態度なのだろう。“お前たちには大金かもしれないが俺にとっては端金”という気持ちの表れだ。ルナもそれほどそのような態度を気にする人間ではないので、さっさと金をバッグに入れて、試験管に魔力を込めた。謎の術式によりコポコポと藍色の液体になって満たされたようだ。ちょっと気になる。なんの魔術だろうこれ。

「錬金術だよ。君の夜の神秘が必要だったからちょっと魔力をもらった。前の一件みたいに現地に行ってもらう必要はないからここで済ませたのさ」

「そうですか……えっと、その、良いですか？」

「何？あ、今回の一件は秘密だよ」
「さっきからアインさんがずっと撫で回してるその子はいったい……？」

　身長はルナより少し高いぐらい。金色の刺繍が施された黒い礼服が特徴的だ。基本の黒髪に金色のメッシュがキラキラと光を反射している感じだ。多分、顔と声は良い。多分と評したのはルナからは顔が見えないから。真っ黒なモヤで顔が覆われている。撫でられる度に心地良さそうに喉を鳴らすが、それすらノイズがかかっている。なのにそう思ったのは、ただ、なんとなくそんな気がしただけ。

「俺の使い魔で、礼装だ。ハル兄さんに作ってもらった」

「へぇー！！自意識を持ってるんだ！？それって超レアっていうかかなりの高等技術じゃ！？」

「俺の兄はハル・グローリアンだよ。それぐらいできる。……ほら、そんなに拗ねないで。確かにユリアに一時的に譲渡するのは悪いと思うけどさ」

『……おれはあなたのものだもん。あなたいがいにかしずくなんてかんがえられない、です』

「ごめんごめん。……帰ってきたらたっぷり使ってあげる。もう嫌だって言っても、壊れちゃうって泣いても聞いてあげないぐらい使い潰す。お前は俺の道具だもんな」

『やくそくしましたからね。うそついたらころしてやる』

　パチリ、と指を鳴らせば使用権の譲渡が行われたらしい。カラス、黒猫、黒犬、その３つの形に分かれた後、また合わさって黒々としたナイフになる。アインから渡されたそのナイフをユリアが両手で受け取れば、そこでこの儀式は終わり。完全にとは言わないが、ある程度はこの使い魔、もとい自律礼装の性能を引き出せるはずだ。

「大事に使ってくれよ。俺のだから」

「私は恋人がいればそれで十分なんですけど。……よろしくね。えーと……」

『黒金(ニエロ)で良い。我も貴様なんていらないからそうしてくれ』

「そう。……急にハキハキ喋るなんてびっくりするぐらい猫被ってたんだね。まあよろしく。………なぁにルナちゃん。気になるの？」

「もちろん」


　色位が作った自律礼装。そんなもの凄い気になるに決まってる。使えなくても触ってみたい、話してみたいと思うのは当然だろう。本当は許可を得るべきなのだろうけど、触るならともかく話しかけるだけなら許可はいらないかなと思ったのでその工程は省く。とりあえず話しかけてみてそこから……

「痛いっ！静電気！？」

『気安く我に関わるな。我は主様だけのもの。特に貴様はなぜか不快だ。見られたくもない』

「なにそれー！！」

　唸る声がナイフから聞こえる。何故だか嫌われてしまっているらしい。ユリアに比べても言葉遣いがなんだかフレンドリーさを損なっているというか、なんかチクチクしてる。嫌な感じだ。だけどなんか何処かで似たようなものを受けた気がする。よくわかんないけど。


「ははっ、ごめんねルナさん。コイツはとても気難しい。ただ……うん。俺の可愛い道具だからさ。また今度話す機会は作ってあげても良いから」

「なら良いや。それじゃあ！」

「いや凄いあっさりしてる〜！もう扉開けて行っちゃったよ」

『初対面なのにあの不躾な踏み込み加減が気に入らない。顔を見せずにいてよかった』

「………初対面、か。いや、うん。そうだね。まあ今はどうでも良い。ユリア、向かってくれ。行き先は日本。秘匿聖歌隊との共同作業だ」



おしまい。わかる人はわかるかもしれないこの使い魔。続いて後編

「ナキが見つかったって！？怪我は！！」

「大丈夫、気は失ってはいるけど擦り傷や切り傷はそんなに重くないって」

「よかった……いや良くない！早く行こう！」

　綾姫絲栗と綾姫セレナ。互いに正体を隠してはいるものの彼らは魔術師や聖堂教会に属する者である。今回の事故が神秘にまつわるものであるということは即座に分かった。分かったが故に、彼らはそれぞれがそれぞれの手段で鎮圧や避難活動にあたったのである。おかげで怪我人は多数出たが死傷者はいない。幸運にもだ。ただ、それはそれとして彼らは父と母である。自分の息子がどうなっているかというのは気になる。

「いた！イトくん、ナキこっちにいる！」

「ありがとセレナ！……よかった、ちゃんと息してる……生きてて良かったぁ……！」

「本当に……本当に、よかっ………ぁ……」

「ん？どうしたの………っ………」


　絲栗は魔術師であり、セレナは教会の一員である。特に絲栗は東西霊地協約を巡る此度の聖杯戦争に詳しく、セレナもその情報を教会の協力者から聞いていた。そう、彼らはわかっている。ナキの右手に施された大きな赤い痣、いや、刻印の正体を。ただそれを、相手に言えないから黙り込んでしまっただけ。その胸の内側に湧き出た絶望を、共有できないだけ。ただ、そうだ。彼らが思ったこと。慟哭はどちらも同じものだった。

すなわち、“どうしてナキが聖杯戦争に巻き込まれてしまったのか”という後悔である。

「……ま、こんな感じの仕組みが聖杯戦争なのですよ。おわかりいただけました？マスター」

「う、うん。つまり……僕は、その、戦うんだよね」

「ええ。あーいや、棄権もできますよ。多分。私たちも願いはないですし」

　ソルシュクライン。ナキが属する“何でも屋”では現在、聖杯戦争についての会議が開かれている。そもそも聖杯戦争とはなんなのか。ナキはどういう立場なのか。仲間である二人はどのような立ち振る舞いをすべきなのか。それら全てが早急に話し合わなければならないことだ。ツユはニコニコしているし、ルフはイライラしている。キャスターたちは済ました顔で紅茶を嗜んでいる。なんだかよくわからなくて、手元に注いだウィスキーを何かで割ることもなく一気に飲み干した。あんまり美味しくない。


「俺は反対です。ビタ一文にもなりゃしない。ここまで大掛かりな儀式だ、きっとそっちにつきっきりになる。さっさと切って金を稼いだほうが何倍も得ですよ」

「ルフったらつれないな〜。ナキくんが心配なだけでしょ？」

「うるせぇ」

「もう。……私はナキくんの好きなようにしたら良いと思うよ。ソルシュクラインの活動は気にしなくて良い。というか、キャスターさんたちが強いなら彼女たちの力を借りればもっと楽になるかもしれないし？話を聞いた限り、“ナキくん”には絶対服従らしいし」

「今のところは、ですけど。そこのコート女はいい。問題は吸血鬼です。コイツの目は知ってる。下賎なものを見て楽しむ上級国民面したカスの目だ。飽きたら容赦なく切り捨てにかかりますよ。そうでなくとも興が乗ったら吸い殺されかねない」

　ルフの指摘は正しい。姫がナキに付き従っているのはナキの人生に“面白み”を感じたからだ。興味がある。見ていて楽しい。だから彼に力を貸すし、付き従う。興味を惹けなくなれば、あるいは彼を殺してしまうことで更に興味を惹くものを得られるならば、容赦なく、呵責なく、殺.せるだろう。かつてスラム街を生き、今は裏の社会を生きるからだろうか。ルフはそういうものをひどく嫌う。メリットが存在しない限りは自分を、そして自分に関係がある者を見下す者を見ると憎悪を隠さないのだ。

「そう？ナキくんは面白いし良い子だから、きっと大丈夫だと思う。私が怖いのはこっちのコートのお姉さんかな〜。……だってあなた、そっちのお姫様より倫理観ないもん」

「あら心外。訴訟です」

「私とルフを殺したくて仕方ない目をしてる。それだけじゃない。この店にナキくんが入ってきた瞬間、明らかにナキくんへの殺意も増した。悪いことをした子を見るとそんなに殺したくなる？お姫様がいないととっくに私たち殺されてたよ。お姫様が興味を示したから止めてる。違う？」

「……お怒りですか？」

「私はまあ、殺されてもいいけど。この二人は絶対にダメ。私の可愛いお友達。人智を超えた境界記録帯(ゴーストライナー)であっても地獄を見せてあげるよ」

　ツユの指摘は正しい。従者は悪人を見ると殺したくなる。その悪の判断は従者の主観によって定められるもので、だからこそ彼女は生前に娼婦を手にかけた。道徳的に悪いこと、でも引っかかる可能性が高いだなんてありえないかもしれない。でも人ではないのだから人の理屈は通じない。いつ起爆するかわからない爆弾が姫ならば、いつもいつでも刃先を向けているナイフが従者だ。持つ者(姫)がいなければどうなっていたか。ツユが仲間を溺愛しがちなのは今更である。だからこそ、本気で従者を警戒する。一度枷が無くなると逃げる余地すらないから。


「あ！でもでも！お姫様もちょーっと許せないことがあるなぁ！ナキくんのファーストキス！奪ったでしょ！？」

「あら、初めてだったのね。ごめんなさい」

「い、いや、それはその……まあ、嫌じゃなかったから……」

　あのことを思い出すとどうにも小っ恥ずかしい。身なりは高身長の青年の類だが、年齢はまだ中学生なのだ。ファーストキスだなんて、頭をぐるぐると駆け巡って恥ずかしくなってしまう。そんなの当然だ。恥ずかしくないわけがない。気を失いかけてあんまりよく覚えてなかったのが幸いだったのか、そこまで恥ずかしくはないけど。

「責任、取りましょうか？今生に限ってあなたを娶ってもいいわ」

「へ？えっと……僕にはまだ早いような」

「冗談よ。……案外図太いのね。ますます気に入ったわ。ここに宣言しましょうか。私はマスターに付き従うわ。悪人の誅伐でも、なんでも。私の意思は私の従僕の意思。私の行動と彼女の行動が反することは基本ありえない」

「……期間は」

「私があなたを捨てたいと思うまで。どうか私を愉しませて。ああ、そうね。これからは現界も私の従僕に任せるわ。身の回りの世話をするのにもこの子の方が長けている」


　その言葉を最後に、姫は霧のように消えてしまった。その代わりに従者の周りをふよふよと飛ぶ蝙蝠のようなナニカが一匹。これがおそらく姫、なのだろう。呼ばれない限りはこうやってこれからを過ごすようだ。それに対して従者は何も言わない。ただ笑顔で、ナキに微笑みかけるだけ。


「そういうわけです。よろしくお願いしますね、マスター。私はあなたの剣。あなたの牙。あなたが思うままに私を使ってください。いずれ来たるかもしれないその時まで。自慢ではありませんが、炊事、掃除、洗濯、裁縫、力仕事、交渉術、魔術、戦闘、暗殺、などスキルになるほどではありませんが一通りは修めています。出来ないのは軍略ぐらい」

「よろしく。えっと……とりあえず僕は家に帰るね。父さんと母さんに迷惑かけたくないし。あ、ソルシュクラインの活動もこのまま続けていきたいな。聖杯戦争は……様子見で。他のマスターたちが被害を及ぼすなら、僕は戦うと思う」


　随分と割り切りのいい少年だ。一度心の中でスッと決めてしまったのならそれを譲ることはない。きっと自分がやることに間違いはないと思っているのだろう。健気なものだ。青く薫る若葉であるのか、それとも狂ったように光り続ける星なのか。さほど興味はない。どちらにせよ、まだ美味しそうではなかったから。しばらく様子見だ。従者は、キャスターは、そう考えた後に微笑むことにした。とても面白くなりそうだ。彼が巻き込まれる運命は、きっと碌なものではない。仲間たちを見てもそう思う。

「うん。それでいいんじゃない？……いつも、何度も言っているけれど。私は絶対にナキくんの味方だからね。何があっても、どうしても、ナキくんの願いを叶えてあげる」

「ありがとう！ツユちゃんは可愛くて優しいね！また連絡する！」

「そんな、今日は女装してないし……！ってかルフ？そっちも帰るの？」

「ええ。明日は小テストがありますから。俺はナキと違って人並みに努力しないと賢くなれない凡才ですから。それじゃあナキ、また明日」

「私はー？」

「お前は高校生。俺たちは中学生だ。……いや、癪なことに中高一貫だけどな」

　年下の二人は帰っていく。その場に残されたのは年長者のツユ独り。なんだか一気に静かになったことをほんの少し寂しく思いつつ、爪をいじって独りソファに寝そべる。家に帰るつもりはない。帰ったところで何があるわけでもないから。それなら早いところ寝てしまって、陰陽のバランスを整えたほうが良い。物思いに耽りながら、少年たちの夜は過ぎていくのである。




「細工師ロートゥス。………早いところ見つけて話を聞こう。今回の事の始末には彼が必要だ。そう、彼が紛れててよかった。私たちには力がない。人の物に手を出した報いはあって然るべきだ。たとえ血を分けた同胞であっても」

「はい。わかっています。………今はまだ様子見で。情？あるに決まっているでしょう。私は情で今まで生きてきたんだ。けど依頼は依頼です。花縁組……◾️◾️◾️◾️◾️のみなさん。もしそうなった時は、私が─────」

ツユ
ソルシュクラインのリーダー兼事務担当。女装をよくする男子高校生
三人の中で一番魔術について詳しい。苗字は教えてくれない

ナキ
ソルシュクラインの経理兼潜入工作担当。国外のスラム育ちでお金が好き、スリが得意
リアリストで努力家なので甘いことを言うナキに厳しい時がある

以上です
今までの話はここで
https://fatetv1830.wiki.fc2.com/wiki/Fate%252FFalling%20Star

>>258
イエス。イエスです。魔術師やってたから出会ったふたりなので主題もそこになります
ああよかった間違えてなくて…マイアさん楽しみながら見守ってて…


>>262
またそんなほいほいと魔力渡して……お金の使い道ロクにないくせに……
ところでこの使い魔さん……？もしかしなくてももしかしますよね！？ですよね！？

>>269
まぁダメってことはないです。『船』サイドが損することもとくにないですし
ただダメなことはないぶん良いこともないというか。このくらいの距離感ならわざわざ関わらせる旨味がないなぁ…これ関連付ける意味あるかなぁ…？ってなっちゃうといいますか
それなら独自でのびのびやってもらったほうが旨味出るんじゃないかって考えちゃうんですよね
あと「エタった時に」なんていうネガティブな理由で関わるのはよろしくないかと。作るだけ作ってあとは任せた、みたいに捉えられかねませんので

>>271
二人とも家族の前では魔術師や教会の仕事を隠してたぐらにいは裏の世界に関わらせたくないですからね、愛息子が関わってて大きなショック
>>273
お金なんてなんぼあってもいいですから……
まあはい、とある魔術師の魂と魔術刻印を素体にして作り上げたものですね
厳密に同じわけではないので記憶もほとんど引き継いでいませんが「俺はアイン・グローリアンの所有物」ってことと「ルナ・アードゥルは好きじゃない」ってことはなんとなく覚えています
アインと話す時は全力で甘えた声で懐きまくるけど他の人と話す時は「我」「貴様」みたいな感じです塩対応極まる感じに

ふと思ったこと。
そろそろJ.C.バルベルデの項目作ったほうがええんかな？

　潮の香りがする。
　すこし目を凝らせば太陽の光を反射しながら揺れる海が見える。
　博物館の中にいたら決して見れない景色をさして意識せず、私はぐぐーっと大きく体を伸ばす。
　ここは博物館の出入口。バイト初日、カヴン先輩が迎えに来ていたあの場所に私は来ていた。三日間のバイトをすべて終えて。
　来たときと同じように、カヴン先輩もこの場にいる。

「別に見送りとかしなくてもよかったのに」
「いいじゃないの。次に会うときはこの顔見れないのよ？」
「そりゃ、時計塔にいるのはネズミだもんね」

　そろそろ見慣れてきた先輩の顔ともお別れと思うとちょっとさびしい気もする。
　まあ、またすぐに見ることになる気もするけど。

「これで見納めなんだからしっかり見ときなさいっての」
「えー別にいいよ。私またここにバイトしにくるから」

　一日目と二日目に比べて三日目のお仕事は順調そのもので終わった。終わってしまった。やったことは午前中にお掃除と遺物管理。午後にまたキメラたちのお世話と、どれもすでにやった仕事なんだからミスることも少ない。

>>277
　慣れてきた頃が……とも言うけど、たぶん博物館の超基本的な仕事だけは、これで覚えられたハズ。
　これなら、またここでバイトしたいと言っても邪険にされたりはしないだろう。たぶん。

「はあ？　アンタ、また来る気？」
「そりゃ来るよ。今回だけじゃ全然この博物館を回れてないんだもん」
「物好きねぇ……」
「いいじゃん楽しいことばっかりだったんだから。それに今回は上層にしか行けてないから中層でも働いてみたいし。あと危ないって言われるかもだけど下層でもやってみたいんだよ。あそこにいた魔神……魔神？　ともう一回話してみたいし。そうだ話すと言えばマイアさんに礼装作りについての話も聞いてみたいな、そのへんは私まだノータッチだからもっと勉強しないといけないし、それに」
「はいはいわかったわかった。アンタがまた来たいのはよく伝わったから」
「あ、そうだ！　今度は名無しのみんなで来るとかどう？　先輩の顔見せてあげたいし」
「……まるで旅行気分じゃないの」
「いいじゃん楽しいよ！　旅行も───」
「───冒険も？」

　にやりと笑いながら先輩は私の内心をずばり言い当てる。
　私は声も出さず、同じくにやりと笑って同意を示す。

「それじゃこんな何もない出入口なんかでダラダラしてられないでしょ。さっさと帰んな」
「そうする！　バイトの成果もあることだしね！」

>>278
「あーなんか言ってたわね、エルなんとかって教室のこと。そんなに楽しみなワケ？」
「そりゃあ！　もう！　帰ってからも一番のお楽しみだもん！！！」
「あらいい笑顔。でもアタシはキョーミないから、メレクと二人で行ってきなさい」
「うん！！！」

　涙もなにもなく笑顔で大きく手を振って私は博物館を発った。
　海岸にはタクシー代わりにとお願いした水陸両用車のあの人がいるはずだ。博物館から海へ続いていく坂道を駆け下りていく。
　走る。まだまだ走る。足を止めている暇はない。
　そうこうしているうちに見えてきた。
　水陸両用車のそばで私を待っている運転手のシメオンさんと、私より先に行っていた金髪紫眼の男の子。
　それまでただの鉄面皮にしか見えなかったその表情が、今日はなんだか違って見えた気がして、私は。
　私は…………。


　・　・　・

>>279
　そして。
　その日がきた。
　それほど大きくも広くもない教室に、わんさわんさと人が押し寄せている。今日ばかりは私も押し寄せる群衆のひとりだ。
　なにせこれから始まるのはかの現代魔術科のロードが教鞭を振るう、エルメロイ教室の授業なのだから。
　私とメレクは聴講生としてこの場にいる。いるのだけど、例の整理券は使っていない。というか使えなくなった。
　理由は至極まっとうなもので、単純なもの。ロードにバレたからである。
　怪しい物品の取引現場みたいな空気を醸しながらお金と整理券のやりとりをしていたところに、しかめ面のロードが現れたのはほんの二十分程度前のこと。その場で「売るな」「買うな」のお叱りを受けて、そのまま教室に放り込まれた。
　そんなものなくても授業は受けさせてやる、ということだろうか。太っ腹なロードだ。
　
「ほらメレクもっと前いこう前！　始まっちゃうよ！」
「そんな、引っぱらなくてもっ、歩けますから！」
「ダメだよ！　これメレクのプレゼントでもあるんだから！　ほらこっちこっち！」

　あらん限りの力を込めてメレクの手を引きながら聴講生に許されたゾーンギリギリ前まで詰める。
　さすがエルメロイ教室というべきか、まわりの聴講生たちのモチベーションも高く熾烈な争いとなった。でも私は勝った。
　代償としてメレクの体力が始まる前からボロボロになっている気がするけど。
　それはさておき。

「あ、ほらあそこにいる人だよメレク！　この前知り合ったアクアステラって人！」

>>280
　聴講生ではなくエルメロイ教室に在籍する生徒のアクアステラ＝リキッドクラウン。あちらも私に気づいているようで、笑みを浮かべながらこちらに手を振っている。
　当然、私も手を振り返すべく両手をあげる───あげようとして、しかし片手しかあがらない。
　
「？」

　あがらないのはある意味当然で、さっきメレクを引っぱるときに繋いだ手がそのままになっていたから。
　繋いだメレクが離さないでいたから。

「……メレク？」
「これだけ白熱してる人の群れの中で離したらまた呑まれるでしょう？」

　だから離すわけにはいかないだろうと、そう言っている。
　なるほどたしかに。そういう理由ならこの手を離すわけにもいかない。

「じゃ、挙手をするときは二人一緒にだね」
「は？　いやもう片方の手を……」
「質問の内容考えておいてね。私最低百個は質問するつもりだから！」
「いや、だから───」

>>281
　メレクの抗議は直後の歓声にかき消される。ロードがついに授業を始めようと言うのだ。
　さあ夢の時間が始まる。
　がんばってがんばってがんばったバイトの時間のその先で。
　私は、知らないものを知りにいく。