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「それが、デュランベルジェ家の跡取りの力か」
瞬間、ガトリング砲のごとき魔弾が己に対して殺到した。高級な作りの机には風穴が空き、同じく椅子も脚を折られて床に倒れる。その結果巻き起こった煙によって、ヴィクトルの姿が完全にかき消えた。
「ヴィクトルさん!」
焦りと動揺がそのまま態度に出たような、少しだけ震えを覚えるような声でロウィリナが叫んだ。──あぁ、また心配させてしまった。ヴィクトルは内心でまた申し訳なく思ってしまう。なので、煙が晴れた時、ヴィクトルは……
「心配するな、ロウィリナ。全くもって問題無い」
王の周りに舞う黒と赤のカード。トランプの鎧が、魔弾を全て防いでいた。兵団は魔弾から主を守った結果ボロボロだが、よく防いでくれたモノである。フゥ、と一息ついてから、王は銃撃の主の顔を見やる。>>3
知らない顔だ。とヴィクトルは思った。品の良いストライプ柄のスーツに整えられた顎鬚、それなりに整った顔、と所謂イケオジという奴なのだろうか。
「貴様は、何者だ?少なくとも王(オレ)の記憶にはない顔だが王を知っているというならば、王も認識している筈。だが、王は愚民(キミ)の事は知らんぞ」
正しく眼中に無い、という扱いを受けても、フフン、と余裕そうな、不敵な笑みを浮かべており、あまつさえ拍手すらしている。
「ま、そうだろうねぇ。私は実はだね、君という王との権力闘争に敗れた男、という事になる訳なのでね。デュランベルジェ家の末端さ。ヴィクトルくん、君という男が現れなければデュランベルジェ家の次の当主は私だったのだよ。……全く、君のご両親への売り込みには苦労したモノだ。あともう一歩という所だったのだが」
肩をすくめ、滔々と語るスーツの男。ヴィクトルはそれに苛立つでもなく、かと言って平気そうでもなく、思案顔で聞いている。
「そういう訳でね。私としては、君に勝負を挑みたいのだ。賊王よ。あぁ安心して欲しい。この勝負の一回だけさね。一族の末端ではあったが、一応は上り詰めたと考えている私の実力と、スラムの片隅から拾われた君。その力の差という奴を実感したいというのが理由だからね。数をそろえた私を、君がどう打倒するのかを含めての観察がお望みなのさ」
どうかね?という男。自己紹介はしていないが、本人曰く、王が倒すモノなど、路傍の石だろう、などと言って、口を開く気は無さそうである。
「そうか、分かった。では、くたばれ。王は気にせんが、人のプライバシーを許可なく喋る、という行為には他者への敬意が不足しているだろう?」
完全に一対一の雰囲気となってしまった。先に仕掛けたのはヴィクトルである。指を揃え、自己流の魔弾を撃ち込む。
「おっと危ない。フフン、成程とても速い。君が確実なるギロチンと呼ぶのも納得という話だ。さぁて、今度はこっちの手札を切らせて貰おうか。……ところで屍腕手のロウィリナくん。君が懇意にしているヴィクトルという男は意外にも完全なゼロからの成り上がりな訳だがね。君はどう思ったんだい?」
ある種の不意打ちとなった形で、スーツの男は、少々置いてきぼりの代行者に話し掛けた。それが示すのは、余裕か、或いは。「……へ?」
問いかけられ、ロウィリナは狼狽える。テロリストたちの長と思しき男性とヴィクトルとの会話に関して自分は完全に蚊帳の外だった。他人以外の何者でもなく、またデュランベルジェ家について外聞でしか知らないでいた身としては当主争いなどもまるで与り知らぬ内容だった。
いや、いや。そんなことよりも。ロウィリナにとっては、そんなことよりも男性が一言一句敢えて明瞭な調子で語ったヴィクトルの出自についての方が衝撃的という他なかった。
ヴィクトルさんが、成り上がり?会話を聞く中でも、「スラムの片隅から拾われた」などと言われていた。彼のような人が?俄には信じがたい。
だが、彼の方を窺ってみてもその様子に否定を指し示す挙措は見受けられない。ヴィクトルほどの人間であれば、虚言による自身の名誉の毀損などは許すまじと断ずるだろうに。それがない、ということは事実と見て良いのだろうか。
成り上がり。その言葉が魔術師の社会で、貴族的と呼ばれる世界においてどれだけ疎まれるものであるかはロウィリナも理解している。社交の場には殆ど顔を出さず、ひたすら研鑽に注力していた自分でも、友人たちの雑談は記憶に残っている。それは、彼の現代魔術科のロードについてだった。
「────そういえば、またあの現代魔術科のロードが…」
「あら、あの火事場泥棒の略奪公?一体どれだけの魔術師を陥れれば気が済むのでしょうね」
「そもそも、ロードという地位だって…」
「出世なんて言葉が罷り通るようじゃ、時計塔も程度が知れてしまうわ…」
井戸端会議のように忖度も遠慮会釈もなく展開されたロードへの評価は、しかし貴族社会における一般的な成り上がり者への限りなく透明な認識なのだろうと思われた。
友人たちのみならず、家族も現代魔術科の台頭を良くは思っていなかった。優れた歴史、秀でた神秘を修める血統より生まれた人間、それこそがこの世界では意味を成し、存在を認められる。歴史も血統もない人間が幅を効かせるなどというのは魔術師にとっては心外中の心外といった案件だ。これは、貴族の伝統が跋扈する時計塔の外であっても血中を泳ぐヘモグロビンが如く充満した思想だろう。>>5
そんな社会で、あろうことかスラムから素養アリと判断したとしても輩を拾い自家の神秘を晒し、当主にまでさせようとは。正気を疑う行為と言わざるを得ない。気が触れたと一方的に宣言されたとて文句を言えない話だ。
信じられない、否、信じたくない。しかし、未発達な体躯や戦闘中などに随所で感じた彼の牙を剥くような野蛮な色がそういった出自故のものと考えると不思議でないように思えてしまう。それが一層憎らしい。あんなに気遣ってくれたヴィクトルに不信の念を向けずにはいられない自分が憎い。
「────────っ」
ロウィリナの呻吟に満ちた静寂を強いて崩さんと試みる者はいなかった。男性は愉快げに動揺するロウィリナを見ている。如何にもこれからまた一言二言と衝撃的な弾劾をしそうにしていながら、口は微笑を浮かべたまま開こうとしないのが何ともいやらしく、焦ったい。
そんな男性と、ロウィリナを前にしながら、ヴィクトルは無言を貫いていた。まるで黙秘権を行使し続ける被告人のようで、ただ成り行きに身を任せているようにも見えた。ロウィリナの不安はより影濃く強さを増し、耐えきれず是非を問おうと声を上げ、彼の顔を見て────この時ばかりは率直に表現しよう────心底から驚いた。
ヴィクトルは、その金色の眼差しを、ただ一途に真っ直ぐに、ロウィリナに向けていた。
そこに、自身の過去を暴露されたことへの焦りはなかった。またそれへの弁明などは寸分も見られず、この時は動揺するロウィリナを心配しようなどという気遣わしげな趣も介在はしていなかった。
その瞳が現す言葉といえば、それこそ「だから何だ」の一言だ。魔術社会において侮蔑しか向けられないような忌むべき素性を彼は隠そう、誤魔化そうなどとはしていない。語らずにいたのは己を拾った家への恩義がそうさせるものであって、彼自身に生まれを恥じるような心は欠片ほどもないのだ。
それを傲慢と呼ばずしてなんと呼ぼう。それを尊大と例えずしてなんと例えよう。世間では悪とも形容されようはずの唯我独尊、それが眼の裡より君臨していた。>>6
ロウィリナは生唾を飲み下した。言うべき言葉を模索し、話すべき心情を必死に頭脳を動かして固めた。こんなこと言ってしまって良いのだろうかという惧れは溢れんばかり。けれども、自分が声を出すとすれば、言葉を尽くすとすれば、これしかないと。
「…おそらく、ヴィクトルさんがスラムの…出身だというのは事実だろう。それが意味するところも、勿論わかる」
「ほう、やはり君も彼のプルウィセト家のご令嬢だな」
「…あぁ。僕は、私は、プルウィセト家の人間だ。だから、本来なら失望なり何なりすべきだと思う。でも。でも…それでも私は、ヴィクトルさんを良しとしたい」
嗚呼、言ってしまった。魔術師としてあるまじき発言だ。だけれど、ロウィリナは、その時だけは魔術の徒としてではなく一人の人間としてヴィクトルを評価したかった。魔術師として彼の素性を蔑むよりも、人として彼のこれまで費やしてきた努力とその決然とした姿を支持したかった。自分も、努力をせんとしてきた人間だから。その重ねられた研鑽の末の姿を認めたかった。
「…ロウィリナ」
「…言いたいことを言っただけ、ですから。違っていたらすみません」
「まさか、こんなところでこのパーティの意義が果たされるとはね。つくづく予想外だ」
「…矮小な御託も尽きたか」
「あぁ、小賢しい真似をしてしまったことは詫びよう。だがこれで公平(フェア)というものだ。さて…」なるほど
>>8
「ふふ……」
思わず笑みがこぼれる。己の出自をいつロウィリナに伝えるべきか、受け入れてくれるのだろうか、と悩んでいたが、期せずして認知して貰い、そしてロウィリナには自分の過去をを好意的に受け入れてくれた、という点は非常に有難く、嬉しい結果だったからである。
なので今向き合っているスーツの下郎に感謝の気持ちがない、という訳でもないが、同時に容赦をするつもりも全くない。故に、己が魔弾を油断なく装填する。
少なくとも今この戦闘舞台において、王者の一族に籍をおく二人の男の魔弾の性質は真逆である。
ヴィクトルのギロチンは威力が高く、防御を貫通し、出も速いという強みがあるのだが、実は太陽光が直に届いていないこのホールでは、少しばかり燃費が悪いという弱点もある。
そして王に相対する男の銃弾は、速度や威力こそ月並みだが、連射数が凄まじいという強みを持っている。>>10
「さて、では始めようかね。ああそうだロウィリナくん。君、コイントスなどしてくれないかね?決闘なのだ、撃ち抜くタイミングもフェアに行きたいというモノだからね」
唐突な提案。だが暫しの逡巡と困惑の後、ロウィリナは承諾した。弾き上げられるコインが甲高い音を立て、数秒後には硬質で無機質な落下音が響いた。
決着は一瞬であった。ヴィクトルのギロチンが敵対者の腕を抉り、彼は苦悶の声をあげて膝をついた。
悔しそうな表情をしていたが、それはすぐに現状に納得し、受容する者のそれに変わった。
「ふふ。やはりあの二人が後継者に選んだだけはあるようだね。私はやはり、未熟だったという事実を受け入れざるを得ないようだね。仕方ない、よく反省し、今後に活かすとしようかね」
「ふん。愚民(キミ)に今後があるとでも?王(オレ)が逃がす訳が無いだろうに」
先ほどまでの緊張を、”敵を射抜いた”事によって多少緩めつつも、ヴィクトルは油断せずにスーツの男、もしかしたら自分の立場になっていたかもしれない相手に詰め寄った。
「そうだね、そうだろうとも。しかし、私とて一端の魔術師なのでね。こういった逆境にも逃げの手札は用意しているのでね」>>11
その言葉を言い終わるか否か、といったタイミングで、今度は勝利者であるヴィクトルが膝を付く。
「……っ!?なんだ……!?」
「ふふん、毒、ではないがね。まぁ概ね似たようなモノさ。ああ心配しなくてもいい。後遺症が残る訳では無いからね。では私は君に納得もしたし……、屍腕手殿に恨みを買うのも御免なのでね、これにて失礼させていただこうかね。今後ちょっかいをかけるつもりはないのでね、安心してくれたまえ」
そういって彼は周囲に煙幕を張り巡らした。ヴィクトルは慌てて立ち上がり、追い詰めようと動く。それよりも先にロウィリナが煙の中を突っ込み、スーツの男を捕捉しようとするも、目星をつけた場所に男は既にいなかった。動揺しながら周囲を索敵するが、居ないモノはしょうがない、と切り替え、荒い息を吐くヴィクトルの元に急いだ。
「大丈夫ですか、ヴィクトルさん。えっと、お水とか要りますか!?それとも……」
動揺しつつも、なんとか介抱しようとするが、それはヴィクトルに遮られた。
「すまんな……ロウィリナ。最後の最後で、少々恰好の悪い所を見せてしまった……。だが、もう問題ない。落ち着いてきた……」
少し恥ずかしそうに笑うヴィクトル。膝を付いた状態から胡坐の姿勢に移り、本格的に力を抜いているようである。……とそうこうしている内に、テロ紛いの騒動の鎮圧、対応をする為に、警護の集団がホールに集まってきた。ヴィクトルはスーツ男の置き土産の毒で体調が崩れており、警護のコミュニケーションをロウィリナに頼みつつ、背中から倒れ込み、目を瞑って意識を心身の奥底に沈めて行った。>>12
「───痛つつ……。ふむ」
ヴィクトルが目を覚ますと、そこはベッドの上のようであった。どうやら誰か(ロウィリナだと嬉しい)が運んでくれたようだ。白い天井を尻目に、ヴィクトルは起き上がる。すると傍にはロウィリナがいた。パイプ椅子に座り、うたた寝をしている。
「疲れているのは同じか……。ふふ、寝顔も美しいな、美姫(オマエ)は」
知らず知らず微笑を浮かべていたようだ。そんな自分の頬を触りつつ、ロウィリナを暫く眺めていると、彼女が目は覚ました。
「……ぁ、と……。その、おはようございます、ヴィクトルさん。体調はもう大丈夫でしょうか?」
寝顔を見られたからか、少々赤面しつつ問いかけるロウィリナ。それを受けて、ヴィクトルは”問題ない”と首肯し、口角を上げる。
「それで、だ。王がお前にした求婚の事だが……」
と発言すると、ロウィリナは心臓が大音量スピーカーと化なったような勢いで顔に緊張が走り、椅子の上で”気を付け”をするかの背筋を伸ばした。猫が大声に驚く様に似ているな、と思いつつも、ヴィクトルは続ける。
「ああ、案ずるな。今スグに返答が聞きたい、という訳ではない。王も出自についてなど、ロウィリナに認知させずの状態で接していた故な。そういったなので、改めて今後……、その……親睦を深めて、将来的には……という事で、どうだろうか……?」
断られるかも、と不安になりつつも提案する。彼女の返事は、どうだろうか……、受け入れて貰えたら、そうだな。どこからかBGMが聞こえてくる。それに合わせたダンスを申し込もう、と考えつつ、ヴィクトルはロウィリナの回答を待つ。
そして────。>>13
「将来的には……という事で、どうだろうか……?」
今までに見せていた自信に満ちあふれた態度とは対極の、気遣わしげで、恥ずかしげで、不安げな物言い。ある意味外見年齢相当とも捉えられる初心な彼の一世一代のプロポーズは、同じく気遣わしげで恥ずかしげで不安げなロウィリナの心境を一層深めた。
だが、既に答えと答えを伝える意志はあった。ただそれをどう言葉にしようかという苦心が彼女の中にあったのも事実で、だからこそ二人の間には気まずい沈黙が続いた。その間中、お互いは強いて相手を見ないようにとして、だのにその思惑を同じとするせいか時々ぶつかってしまって、それがまた気まずさを強めた。
「わっ、私、も」
「……」
「貴方に話せていないこと、沢山あります」
嗚呼なんとぎこちない喋り方だろう。気持ちだけが急いて話し始めたことを話しながら後悔する。今までに味わったどんな鍛錬よりもどんな試練よりも息が上がっている。
彼は、そんな自分の次の言葉を待ち遠しそうに、しかしそれを臆面もなく出せば相手が緊張するだろうことを理解しているため何と言うこともないように振る舞って見せた。その気遣いのために、ロウィリナは自分の心を持ち直して言葉を継いだ。
「だから、その…」
「……その…?」
「こ、これから、会ってお喋りしたり、しませんか。お互いの過去でも、未来でも、今でも…何でも、話せるように」
金色の瞳がらんと揺れた。真白い肌に乗った唇が小さく震えた。その微かな動作にさえ、彼の感情は漏れ出ていた。喜び。確かに、お互いに一歩進むことができた、そのことへの喜びが次々に湧いては溢れている。>>14
「…ありがとう。なら、その前段階としてだが。一曲、王(オレと)踊らないか?」
先ほどから流れ始めたワルツは軽やかで、それがむしろ先刻の沈黙においては場違いなようでなんとも言えないものだった。しかし何だか今ではそれとは別の感慨を懐くことも出来る。幻想的で、メロディックで、さながら凱旋のようで。
クラシックに詳しくないロウィリナでも、ここから曲は盛り上がっていくだろうことは想像できた。だから、乗り遅れないよう、差し出された彼の手を取って、
「私で良ければ、喜んで」
タイトルに「皇帝」を含むお誂え向きとも感じるその曲の中で、二人の円舞は初心者たちの動きだった。壮大なバックミュージックに踊らされているようでさえあった。慣れていないというのは当然で、付け加えて言えばお互いこんなにも異性と距離を近くして触れ合ったことなどないのだ。必然、おぼつかない足取りはよりおぼつかなくなる。
けれども、二人にとってはそれで良かった。見栄なんて張らなくて良い、背伸びなんてしなくて良い。いずれ過去も未来も今もさらけ出し合う身だ。これが群衆の中であっても、あまりの不格好さに奇異の目に当てられようとも、その時に心の裡から浮かび上がった笑みは崩れなかっただろう。
◇◇◇
「───おぉ、来てくれたか」
「はい、お待たせしてしまってすみません…」
「いや、王(オレ)も今しがた来たところだ、畏まらなくとも良い」
─────さて、あれから幾月経ったろう。二人の距離感は結局現在でも出会った当初からそこまで変わってはいなかった。それぞれの過去話というのも思ったほど進んでいない。しかし月に3度ほど会って食事と一緒に喋り合う、その予定がなくなることもなかった。
息を整え髪を掻き分けた指からは爽やかな香水のかおりが仄かにする。自分の手をひた隠し、他者の意識を出来る限り手から遠ざけようとしていた自分がこんなことをする日が来るなんてな、とショーウィンドウに映る自分の姿を見ておかしくなって口の端から笑いが溢れる。>>15
ヴィクトルはそれとは別の相手の変化を認め、晴れ晴れしげに唇をほころばせ、
「つけてきてくれたのか」
「はい。その…似合っていますか?」
「言わせるな。わかっているだろうに」
「貴方の口から聞きたいのです」
「…もちろん、似合っているとも。素敵だ」
ちょっと欲張ってみたが、実際にそう褒められるとむずがゆくなってしまうのは心の何処かがやっぱり不安だった証拠だろう。以前にプレゼントされた白いレースのあしらわれた手袋をつけて、服装もそれに合わせた白基調のもの。露出は低いが、それでもフリルだったりスカートだったりは物心つく前から着ることをやめていた代物であって、配色も相まって心が中々落ち着かない。
だから、照れながらも、きちんと言葉で伝えてくれたことが堪らなく嬉しかった。
「では、今度は王(オレ)の番、ということで良いか?」
「えぇ。選んで良かったって思ってます、とっても似合ってる」
「…ううむ…照れくさいな、なんか」
「それはお互い様ですよ」
対するヴィクトルの服装もこれまでとは少し趣向が違っている。穏やかなオフホワイトをベースとしたスリーピーススーツはその背丈では大人ぶっているなどと後ろ指を指されかねないが、一方で折り目正しく着こなす姿はやはり王者の風格が備わっているものと見え、そこに差し色として挟まれた紺色のネクタイと金のピンは同色のカフスボタンと合わさって何者にも代えがたい特有の趣を演出している。
神官然としたゆったりとしたファッションが多めだった彼のこういった様相は見るにも鮮やかで、何よりも自分の薦めそれに袖を通してくれたというのがロウィリナにとっては幸福感に他ならなかった。彼の持ち味を活かす服を見繕うことができた、という点では誇らしさもあった。>>16
「今日は、食事の後にもう少し付き合って欲しい。構わないか?」
「?もちろん構いませんけど、お買い物ですか?」
「いいや。あれから、ワルツというのを、少し練習して、な。良ければ再チャレンジといきたい」
「…私も、実はちょっと習ってみて。ついていければ良いのですが」
「案ずるな。何かあれば、リードする側として支える」
「それは頼もしいですね」
少しづつで良い。少しづつだから良い。それが自然と二人の絆の共通理念になっていた。どちらともなく、或いは同時期に至った観念だった。ゆっくりゆっくり振り向いて、ゆっくりゆっくり歩を進めて。その速度がなぜだか心地よくて。
ヴィクトルがエスコートすべく手を伸べる。白い肌に白い手袋が乗って、肌理を通して溶け合うよう。あのワルツの時と比べて、足取りも随分心安らかになったものだ。確かに今回は上手く踊りきれそうに思える。ロウィリナ自身も、彼の呼吸と歩幅、歩速に馴染めるようになってきた。
「なんだか、オクラホマミキサーみたいですね」
「ふむ、確かに。準備運動にでも踊ってみるか?ワルツと一緒に一通り教わった」
「予約の方は大丈夫なんですか?」
「気にすることではない。何なら、お前とならどこでだって鎌わんさ」
「…もう少しそういうこと言うの、ためらってくださいよ…」
「良いじゃないか。王(オレ)が時間を気にするというのも変だろう」
「王様ですものね」
「まだまだではあるが、何事も気持ちからだからな。さて、どうする?」>>17
二人の間で変わらないものはまだ色々にあるが、身長差というのもそのうちの一つだ。ロウィリナがヴィクトルの表情を窺おうとすると自ずと目線のみならず頭も下に向ける必要があるし、ヴィクトルがロウィリナを見詰めようとすると自ずと顔を持ち上げることになる。それは恣意的な行為であるために、目合いも必然的なものになる。
ヴィクトルは言葉の通りに挑発じみた表情をしていて、しかし思いやりは欠かさない。それを受けてのロウィリナの顔にはもはや戸惑いや迷いはなく、まっすぐに彼を見据えて、
「私で良ければ、喜んで」
過去を置き去りにするように、けれどもその影を歩くお互いを想うことは忘れずに、真白い二人の手はそうしてまた重なり合った。「結局の所、何も解りませんでしたわね」
海苔の代わりに焼いた肉を巻いたおにぎりを食べている少女が映し出されたモニターを見ながらそう溢す。
その少女、茅理銀河は聖杯大会全体でも類を見ない程に強力で得体の知れない力の持ち主だが、伝承科の提言により彼女及びその周囲に関しては不干渉が徹底される事となった。
故に、彼女が何者なのかは知る術は無いに等しく……この聖杯大会の勝者が彼女達かどうか、それが唯一これから解る事、といったところでしょうね。
「まあ、それよりも……これからのほうが大事ですわね」
モニターの画面を切り替える。
残っている陣営の情報が映し出される中で、思考を切り替える。
聖杯大会の決戦では、『何の意図もないのにその聖杯大会という物語の終わりに相応しい結末が描かれる』というジンクスが語られる。
例えば、オセアニアの聖杯大会にて日本の売れないアイドルをマスターとしながらもキャスター:アーネスト・トンプソン・シートンとバーサーカー:ベルシラックを討つもその苛烈さをマスターが制御し切れなくなり、暴走するダークホースと謳われたランサー:ピサールを、その荒れ狂う力から民の暮らしを護らんとしたセイバー:ルイ=デュードネが打倒したように。
エジプトの聖杯大会マスターと心を通わせたバーサーカー:グレンデルが、アサシン:クルティザンヌ、ランサー:チャールズ・チャップリン、キャスター:ベンジャミン・フランクリン、ライダー:アメリア・イアハート、セイバー:ロット王の五騎全てを葬ったアーチャー:始皇帝の霊核を貫いたように。
今大会に近い構図ならば、ドイツの田舎村での聖杯大会にて、ランサー:フィン・マックールとプリテンダー:ごんぎつねがアーチャー:ハドリアヌスと対峙し……いえ、ここから先を思い返すのは野暮というものでしょう。
「ここから先の運命が、彼等の納得の行くものでありますように」
決戦は明日。
その準備を進める中で、私はそう呟いた。短いですが、第■回の更新でした。
伏神聖杯戦争の最新話更新します。
あの激戦の日から一夜明けて、いつものように学校へ登校していた。
クラスは昨日の騒動で持ちきりだ。ビルの屋上で黒い煙を見ただの、動画を撮ろうとしたけれど警察が邪魔して撮影出来なかっただの、そんな話ばかり。
昨日の真実を知っている人は居ない。聖杯戦争ももう佳境を迎えつつあるが、運営役は上手に隠蔽工作をしているらしい。
今日一日、玲亜の姿が見当たらなかった。
学校の屋上や彼女のクラス、思い当たる場所をふらっと探してはみたが何処にもおらず、クラスメイトに尋ねたところによると今日は休みだったそうだ。
昨日公園で分かれた後から会っていないので、今後の作戦会議もかねて顔を見たかったのだが。
「しょうがない、玲亜の家に顔出すか」
放課後亥狛は玲亜の家に向かった。
もう夕方だと言うのに屋敷に灯がともっておらず、少しばかり陰鬱な空気が漂っているようだ。>>22
亥狛は屋敷のドアを叩く。すぐに返事はなかったが、しばらく待っているとゆっくりと扉が開いた。
玲亜の顔にいつもの気丈さは感じられなかった。亥狛が疑問を口にする前に、玲亜が口火を切る。
「私、負けちゃった」
一瞬、何を言ってるのかよく分からなかった。しかしふと彼女の右手を見やると、昨日まであった筈の令呪がないことに気付く。
「────」
言葉に出来ない。昨日まで居たはずのアヴェンジャーの気配もなく、屋敷はがらんとして見えた。
一体何があったのか、誰にやられたのか、皆目見当もつかない。
「………とりあえず、中入って?」
困ったように笑いながら、玲亜は小首を傾げてそう言った。亥狛はこんな時になんて言ったらいいのか、気の利いた言葉を持ち合わせてはいなかった。
「さっきも言ったけど、私負けちゃったから」
あっけらかんとそう言った玲亜の表情は先ほどとは違っていつも通りだった。
薄らぼんやりと点いた灯りがゆらめいている。
「……一体誰にやられたんだ?あのアヴェンジャーが簡単に誰かにやられるだなんてとても思えない」
紅茶を持つ手が震えている。気丈に振る舞ってはいるがやはり昨日の敗北が癒えていないのだろう。
「……分からない。相手は薄いモヤのような、実体のない雲みたいなヤツよ。攻撃が当たってる感触さえなかった」>>23
「雲……?」
玲亜の発言を聞き、亥狛は先日遭遇したある怪異現象を思い出す。ランサーと二人でいる時に見つけた、突如現れて何事もなく消滅した黒い霧。
アレがなんだったのかは不明だが聖杯戦争となんらかの関係がある事は間違いなさそうだ。
「サーヴァントかどうかさえもハッキリしない、バケモノみたいな存在だったわ。
アヴェンジャーも私も全力を出したのだけれどなす術なく。アヴェンジャーはバーサーカーに呑み込まれるようにして消滅した」
けれど、と言葉を続ける。
「そのバケモノのマスターが誰であるかは確認できたわ」
「そっか。なら話が早い。玲亜の代わりに俺たちがソイツと戦って───」
「亥狛」
亥狛が話すのを玲亜が遮る。一口紅茶を口に含むと、改まった様子で亥狛に向き合った。
「そう言ってもらえるのは有り難い、けどココからは覚悟して聞いてほしいの。亥狛にとっても、きっと、決断を求められると思うから」
「よく聞いて。聖杯戦争の最後のマスターは、貴方の恩人でもある魔術師、シスカ・マトウィス・オルバウスよ」とりあえず今回は以上です。
リレー的に多分まだ自分のターンでしょうから、また後日投稿します。「そんな、信じられない」
真実を聞かされた亥狛は目を見開いて首を振る。無理もない話だ、今まで信じていた自分の師が自分の敵でもあるだなんて考えたくもない。
「けれど真実なの」
「今残ってるサーヴァントはランサーとバーサーカー、つまり貴方とシスカの二人だけ。最終決戦までもう時間は残されてないわ。受け入れるには時間がかかるだろうけどなるべく早く────」
玲亜の言葉が止まった。彼女の視線が亥狛の背中側にある窓へ向けられてる事に気付くと、亥狛は振り返る。
窓の景色は真っ暗闇だ。まだ夕方だと言うのに外は深夜みたいに黒一色で、流石にこれはおかしいと眉を顰める。
「やぁ。ごきげんよう諸君」
聞き慣れた声がしたと思えば、窓硝子が突然割れた。呆気なく粉々に散らばる破片をヒールで踏みながら闖入者は優雅に登場した。
「聖杯戦争を終わらせに来たぞ」
シスカは不敵に笑みを浮かべる。
ーーーーーーーー>>26
結果として、手も足も出なかった。
ランサーは全力を尽くしてバーサーカーに応戦した。彼女の名誉のために言っておくと、ガレスという英霊は並みいるサーヴァントの中でも上位に位置する強さである。
円卓の騎士の一員として名を馳せた彼女であればたとえどんな強敵だろうと一矢報いることくらい出来たはずだ。
だが先刻の戦いは、戦いにすらならなかった。
傷一つ付ける事も出来ずただ手をこまねくだけで、勝つ見込みなんて皆無。あのまま戦いを続けていればジリ貧は免れなかっただろう。
だから亥狛達は逃走という選択をとった。「敗走ではなく、一時撤退」そう自分の心に言い聞かせながら。
玲亜の邸宅はバーサーカーに手酷く破壊されたので、緊急避難として一行はビジネスホテルに宿泊していた。
飛び込みで空いてる部屋がダブルベッドしかなかったのが非常に手痛いが、贅沢をいってられる余裕はなかった。
「取り敢えず体を洗いたい」といった玲亜はそそくさとシャワールームへと入っていった。思い出の詰まった家を壊されて内心穏やかではないだろうが、彼女は至って落ち着いてみえた。
亥狛はソワソワと落ち着かない様子で玲亜を待つ。野宿には慣れっこだがこういったホテルに入るのはまだ慣れない。それも年若い女性と一緒に、となると初めての経験だ。
「いやはや若いですねぇ」とランサーに茶化されたけど、上手くいなす余裕はなくただ居心地悪そうに俯くばかりである。
「お待たせ」と声がしたので振り返ると、寝巻きに着替えた玲亜がいた。湯で上気した肌のせおか、なんだかいつもと違う彼女みたいにみえてならない。
そんな事はお構いなしと玲亜はベッドに飛び乗ると、手持ちの鞄からスマートフォンを取り出して操作しだした。
「さ、情報を整理しましょ」
「真名当てクイズの時間よ」駆け足も甚だしいですが、一旦これで一区切りです
伏神の続きです。
「そもそもの話、全く攻撃が効かない英霊だなんて存在するのか?」
「世界の神話では無敵の英雄、ってのは存在するわ。ただし条件付きなのがほとんど、内臓だったり踵だったり部位が弱点ってパターンもあれば、時間帯で強さが変わってくる英雄もいたりする」
「兄様みたいな英雄ですね!」
「そう、日中だけ最強になるガウェイン卿なんかはまさにそれよね」
何故だかランサーは誇らしげだ。
「でもあのサーヴァントは無敵、って感じでもないんだよなぁ」
亥狛は顎に手を当てて呻る。彼が自信なさげに発したその言葉に引っかかるものがあったのか、玲亜はさらに追及する。
「というと?」
「いや、無敵というよりも……そもそも当たってない、条件を満たしてない、って感じか?」
「あ、それは確かにそうかもしれません」
姿勢を正したランサーが挙手をしていた。
「あのサーヴァントに何度も攻撃を仕掛けましたがどれも命中した手応えがまるでありませんでした。生前何度か日中のガウェイン兄様と手合わせした事がありますが、その時とはまるで違う」
ランサーはうーんと思案して、
「煙みたいに掴みどころのない、まるで正体不明の怪物のようでした」
「正体不明の、怪物」
不意に部屋が静まり返る。何かしら手がかりが見つかれば対処のしようはあるが、正体不明の怪物となると手の施しようが見つからない。
その後もああでもないこうでもないと議論を交わすも確証を得られる事はなく只々時間ばかりが過ぎていった。
煮詰まった会議ほど重苦しい空気を帯びるものはない。そもそも会議のうち一人は人外、もう一人は遥か昔の英雄なのだから実質玲亜一人で推論を立てる形になってしまっていたのだ。>>29
ギリシャ、インド、ブリテン、北欧───どの神話体系にも該当せず、尚且つ無敵の逸話を持つ英霊。
玲亜はじめ、三人は途方に暮れていた。気づけば夜もとうにふけて、時刻は午前三時。亥狛は手元にあったお菓子を軽くたいらげて、どこか落ち着きのない様子で座っている。どうやら小腹が減っているらしい。
「食べていいわよ」と玲亜が差し出したチョコ菓子を嬉しそうに頬張っていた。そうこうしているうちにランサーがぽつりと呟いた。
「そういえば攻撃手段も実に多彩でしたね。触手を使ったりナイフが飛んできたり、変な笑い声や叫び声、ゲーム音が聞こえてきたり……何と言いますか、ごった煮って感じでした」
「ごった煮……もしかして単独の英雄じゃない、とか」
「そんな事ってあり得るのか?」
玲亜は自信なさげに首肯する。
「考えられなくも、ないのかしらね。複合霊基……いやそんなの普通あり得ない、だとすれば───」
そういって玲亜はおもむろにスマートフォンをいじり始めた。精密機器の操作が苦手な残る二人は玲亜の背中から画面を覗いている。
「なんか分かったのか?」
「多分ね、概念がサーヴァント化したものじゃないかって」
「ガイネン?」
「そう、単独の英雄ではなくて色んな事象をひっくるめた『概念』。たとえば物語に登場する人物がサーヴァントになるんじゃなくって、物語そのものがサーヴァントになるってケースね」
亥狛は今ひとつ得心がいかない様子だが、ランサーが助け舟を出してくれる。
「ギリシャ神話のヘラクレスが英霊になるんじゃなくって、ギリシャ神話そのものが英霊になるって事ですね」
「……?……なるほど」
「そういうコト。そして攻撃手段の中に『ゲーム音』が出てきた。って事はかなり新しい概念になる、と考えると───」
そう言って、玲亜の指がぴたりと止まった。
「都市伝説を一纏めにした概念、クリーピーパスタ。これじゃないかしら」終わりです。また折を見て投下していきますね!
第■回、投下しますね。
「二人だけで、大丈夫かなあ」
午前の喫茶店で、キャスターと二人。
私の前にはエクレア、キャスターの前にはコーヒー。
そんな状況で、とある作戦に出た同盟相手の結果待ち。
とはいえ、相手は私達と互角に戦ったアサシンすらも倒した、セイバーの見立てだと今大会最強のランサー陣営。
昨日の夜に話し合って一番良い作戦を選んだからって、不安はある訳で。
「キムチもジハードも輝く拳の前に敗れ去った。《あの二人なら大丈夫だ。それに、果たし状を渡して帰るだけだろう》」
二人揃って出かけたのは果たし状を渡す為。
最初は全員でランサー陣営の拠点を探して攻め込めば良いかと思ってたけど、ハリーさんがキャスター:刑部姫が工房化したスケート場にバーサーカー:フローレンス・ナイチンゲールを誘い込んで倒したっていう過去の放送を思い出したので中止になり。
だから、相手の工房で戦わない為に、広くて被害を気にせず戦える場所での決闘を申し込む事に。
決闘の舞台に選んだのは南東部の廃工場。
霊地じゃないから、キャスターでは工房にすることは出来ないけれど、人気が無くて広いからランサー陣営だって乗ってくれる筈。
後は果たし状を渡しに行った所を狙われないように色々やったけど、待つしか無いのは苦手だなあ。来栖市北部の公園で行われる人形劇。
ランサー陣営によって公演されるそれは、遠巻きに見ても観客の心を掴んで居るようで、今日が休日な事もあってか満員御礼といった所。
そんな観客の中に紛れ込んだのは、キャスターの魔術で戦闘能力を一般人並に低下させるのと引き換えにサーヴァント特有の気配やステータスを隠し、普段は着ないような肩と胸元を出した青いトップスと黒に近いグレーのタイトスカートに身を包む事で変装し、スキル:一般命令81号を駆使して押しが強めな外国人観光客を演じてさえいるセイバーだ。
やがて劇は終わり、一部のファンがランサーのマスター:天音木シルヴァに押しかけてサインをねだったりする流れになり、その流れにセイバーも入り込み……。
『マスター、無事に渡せました』
ファンレターに偽装した果たし状を渡したセイバーが、その場を離れ始めると同時に念話をしてきた。
ランサー陣営はセイバーに気付かなかったか、それとも気付いた上で敢えて見逃したか……どちらにせよ、セイバーを抱えて空を飛んで逃げ回る事になるのは避けれたらしい。
外見も仕草も別人に見えて違和感が凄いけど、そこは気にしない事にして……後は、このまま人混みに紛れて移動すれば良いだけだ。
『OK、このまま銀河達の待つ喫茶店で落ち合おう』
午後8時、南東部最大の廃工場で決戦だ。以上です。
廃工場については、概ね双方が割と制限なく戦える場所位の認識で大丈夫です。「はぁ……聖杯大会はこれまでも何度も開催されていたけれど……これが“欠点”よねぇ………」
「欠点、というのは?」
「見てわかるでしょう。こういうエンターテイメントのお誘いをかけられると、かけられた側は不名誉を賜るか意気揚々と挑むかの二択なのよ。ホントにもう……」
別に、自分を見せ物としたやり取りが嫌いなわけではない。人形劇だって、人形と物語が主役と言えどもある種人形師の技術を見せ物としだのだし、そもそも私自身もそれなりにメディアの露出はしている。それなりに表舞台に立つ魔術師というのはそう少なくないけれど、この私もその類だ。だから別に、抵抗はない。他人の作った舞台に乗っかるのも、自分を売り物して魅せるのも。
けれどそれは、明確な利があるからだ。天音木シルヴァは非合理を良しとするが、魔術師として己を定めたオーレリアはそうではない。それが一族の定めた根源到達のプロセスに対して如何に役に立つのか。その為の道程として合理的か。その一点で生きてきた。その一点で動いてきた。そしてこれは聖杯大会。根源に手をかけるにはあまりにも莫大なショートカットだ。「だから、本当はやりたくないの。どれだけ卑怯と言われても、コソコソ闇討ちが一番よ。魔術師だもの。どうやって勝つか、どうやって倒すかなんて選択肢はいくらでもある。でもそれはできない。だってこれはみんなが見ているから。勝てば良いわ。でも負けた時は?私は、どういう評価を受ける?」
「名声ガタ落ち、ですか。魔術師としては致命的ですね。変に傲慢なのがあなた達だから」
「そうよ。目的のためなら人を気兼ねなく使い潰せる非人間のくせに、変に拘ってプライドにしがみつく矛盾した生き方をする。それが魔術師よ。だからね……そんなことして負けたとして、それをたくさんの人が見てるこの大会じゃねぇ……負けた後のことを考えるならば、それはできない。負けるにしてもかっこよく負けないといけない」
だから、やるしかない。だってそれをみんなが見ているから。だってそれを望まれているから。望まれたことを、望まれたように。多種多様な人間がひしめくこの社会で生きるには、誰かの誘いを受けることも大事だ。嫌ではあるが、それはそれ。私は逃げずに戦うべきだ。
「さぁ、行くわよ。泣いても笑ってもどうせこれで終わり。どうせ私の代で全て終わりですもの」
「人間というのは本当に面白いですね。ええ、どうか私にも付き合わさせてくださいマスター。あなたのその思いの行末を」「あら、こんにちは。随分なご挨拶をくれたわね。話を聞くにはあなたはそういうタイプでもなさそうだったのに」
選ぶ手段は真正面から。どうせ私が何をしたところで最優であるセイバーの対魔力など貫けないだろう。ランサーはそういうのが得意なタイプでもないし。それにもう一騎。キャスターというクラスを考えると、やはり搦手が有効に働くとは思えないから。
「返答はいいわ。やりましょう?」
マスターとサーヴァント。二つの括りに分けるように草木のカーテンははためき動く。ここで勝負をつけるために。ここで全てを終わらせるために。手に入れた小聖杯のブーストも使用して、魔力制限は解放だ。最初から、全力で。
「ごめんあそばせ」
鉄筋をも軽くへし折る一撃が、まるでただの素振りが如く、セイバーたちに打ち放たれた。以上です
手札を伏せることは宝具以外はなし、最初から全開です来栖市南東部、第■回聖杯大会の決戦が行われる廃工場へと続く道。
只でさえ人気のない区域で人払いが行われ、誰も通らない筈の道にやってきたのは一人の男。
黒髪を緩いアフロにし、筋肉質な褐色の上半身の上から黒いジャケットだけを羽織った分厚い唇の男……アメリカの迷惑系動画投稿者スタン・マスターグ。
聖杯大会の決戦に乱入して名前を売ろうとした愚か者……そもそも聖杯大会の映像自体に認識阻害の術が仕組まれているのですが、だからといって見逃す理由など無い訳で。
神秘の漏洩を気にせず際どいやり方を続け、魔術協会にマークされてる事にも気付かないスタンは、私を発見すると大きく口を開けて火球を放つ。
一工程(シングルアクション)の魔術、しかし動作が奇抜なだけで魔力避けのアミュレット程度でも防げるそれは、案の定私に触れる事すらなく霧散した。
避けても良かったのですけど、火事になってはいけませんし……終わらせましょう。
「あべらばあっ!?」
全身に裂傷が発生し、致死量の血液を撒き散らしながら倒れ、命を落とすスタン。
まともな魔術師・魔術使いならまず効かないようなレベルの霊障ですが、これで十分でしたね。
こんな悪質な者でなければ暗示の掛け直しで済ませれるのですが……。
「っ……!?」
廃工場付近での急激な魔力の上昇。
Km単位で離れた位置からも確認出来る程の大きさ……それが指し示すのはサーヴァントが攻撃体制に入ったという事。
第■回聖杯大会、その決戦が始まった。【ANIMA!】
ランサーの素振りでもするかのような一撃とキャスターとハリーさんが風を纏わせてセイバーが投げたサーベルが激突して、サーベルが叩き落とされる。
次にセイバーが踏み込みの勢いを乗せた袈裟斬りを放つもランサーの槍に押し返される。
けど、今度はアニマを装着したあたしが白熱化した右腕の爪を振り下ろす。
アニマが持つ切り札、これならどうだ。
「残念、貴女は向こう側です」
白熱化した爪を槍で受け止めたランサーが、そのまま私を植物で出来た壁の向こうに弾き飛ばす。
壁を突き破り、コンクリートの床に叩き付けられそうになったけど受身を取って着地し……周囲にはハリーさんとランサーのマスター、そして二日目で戦った人形達。
しかも、奥の方は暗くて見えないから、まだ他の人形とかがいるかもしれない。
「分断されちゃったね」
「仕方ないよ。銀河が出てきた穴はもう塞がってるし……プランBで行こう」
「うん、あたし頑張るよ」プランBってことは、どうにかして隙を作ってハリーさんがランサーのマスターから小聖杯を奪えるようにしないと。
というわけで、手近な人形の胴体に飛び膝蹴りを叩き込む。
着地すると向かって来た人形を殴り付けて、頭突きで首をへし折り、次に来た人形を殴り飛ばすと今度は左右から人形が来る。
左手の爪をアイアンクローのように突き出して左側から来た人形の頭を粉砕して、反対側の人形は右手の爪で袈裟斬りにする。
「お次はこれ!」
【INVELEMENT!】
インヴェレメントに換装して、両手の甲から光の触手を展開し、右手の触手をカウボーイのように頭上で振り回して構え直す。。
左手の触手を手裏剣を投げようとした人形に突き刺し、右手の触手を鞭のように振るって別の人形を破壊し、それらを潜り抜けた人形は跳躍しながらの膝蹴りで吹っ飛ばす。
晩御飯にハリーさんお勧めの店で粗挽き肉のハンバーガー食べたし、負ける気がしない。
「今度はこれだ!」
【PRIMAL!】プライマルに換装して右と左で交互にパンチして近くに居た人形の姿勢を崩し、右のアッパーで殴り飛ばす。
回し蹴りで次の人形をへし折ってジャンプ、飛び蹴りで別の人形の頭を潰す。
すると、人形が三体向かって来たので手甲から刃を伸ばし、一体目を両手の刃で挟むかのように斬り付け、二体目にバツの字を描くように両手の刃を振り下ろす。
そして、三体目の胸と腰を横に斬り裂き、ダルマ落としのように人形の腹部だけを蹴り飛ばす。
【GUNCERESS!】
「魔法少女、参上!」
ガンサレスに換装してカードホルダーからカードを引き抜き、そのカードの力を込めた弾丸を真上に発射。
続いて魔女帽子からリング状のカッターを放って人形を両断すると、さっき発射した弾丸が急降下して別の人形を撃ち抜く。
次に魔女帽子から放ったエネルギーリングで拘束された人形を、そのまま小悪魔型ビットが集中砲火でトドメを刺す。
「まだまだ!」
射撃で一体、後ろに縦回転しながらジャンプして空中射撃でもう一体、新たに引き抜いたカードの力で浮遊してからの射撃で更に一体と人形を撃ち抜く。
そして、ライフルをメイスに変形して大きくジャンプ……縦回転で勢いを付けて人形目掛けて振り下ろし、叩き潰す。
その時、風の魔術で援護射撃してくれているハリーさんの声が聞こえた。「銀河、囲まれてるぞ」
「けど、これなら大丈夫」
【NINJA PHASE!】
【心に忍ばす無慈悲な刃……………影に潜めば者と化す!】
「大変身(トランス・エボリューション)!」
【METAMORPHOSE!NINJA GLADIUS!】
四方八方から撃ち込まれた刃を、ニンジャグラディウスの全身から出現した刃で叩き落とす。
胸のハートマークから引き抜いたグラディ影刀で薙ぎ払って刃に紛れて接近してきた人形を真っ二つ。
そのまま影と同化して、人形の右側に現れてグラディ影刀を振り下ろし、別の人形の左側に現れて横薙ぎ、更に別の人形の正面に現れてその胴体を真っ二つ。
そして、次に使うのはフォーリナーを封印した後に手に入れた二つのアーマーの内の一つ。【GIGANT MUSCULAR】
巨大戦特化型アーマー、ギガントマスキュラー。
建物の中で戦うから追加装甲は一番小さいものだけ装着したけど、それでも身長3mにまで大型化、単純なパワーは今使えるアーマーの中で一番上。
私は、その右腕を振り下ろし、一番近い人形をコンクリートごと叩き割った。
「キャスター、宝具は」
「拳が熱いぞ。《間に合わんな》」
「ならば……!」
前傾姿勢のまま接近し、軍刀で左下から右上へと斬り上げるが、ランサーは後ろに跳んでそれを回避。
キャスターが追撃とばかりにその肉体から触手の如き魔術式を放つが、着地したランサーの乱れ突きによってあっさりと千切れ飛ぶ。
続いてランサーの突きが放たれ、横に跳んでどうにか回避する。
「ココアにソーダとクエン酸を混ぜよう。《マスター達が小聖杯を奪うまで持ち堪えるしかない》」迫り来るランサーに対し、キャスターが風を纏わせた軍刀を振り上げる。
すると同時に下から上へと風が巻き起こり、更に上下に軍刀を振るい続ける事で砂埃が舞い上がり、ランサーは反射的に足を止める。
すかさず私は跳躍して回転斬りを放ち、風を纏った軍刀がつむじ風を巻き起こす。
攻撃範囲の増大に気付いて後ろに跳躍するランサーを追撃する為、私は着地と同時に疾走。
「なるほど……ですが、小手先の技でしかありませんね」
そう言うランサーは大上段に構えた槍を振り下ろし、砕けたコンクリートが土と共に吹き上がった。
咄嗟に軍刀を盾にして衝撃から身を護ったものの、軍刀が纏っていた風は掻き消されてしまっていた。
「っ……力で駄目なら……!」
軍刀をもう一本作成し、二刀流の構えで走り出し、手数で勝負とばかりに連続で斬撃を放つ。
しかし、ランサー相手には威力が足りず一合毎に押し返されていき、たったの六合で軍刀の間合いの外に追いやられた。
「付け焼き刃では、怪物には届きませんよ」新体操のバトンのように槍をくるくると回しながらそう言うランサー。
そして放たれた強烈な刺突を私は二本の軍刀を重ねて受け止め、軍刀の刃が砕けると同時にに後ろに跳んで衝撃を抑え込む。
それでもダメージをゼロには出来なかったらしく、着地すると柄だけになった両手の軍刀が滑り落ちた。
「……そうですね。では、これならどうでしょう」
私は両手の指の間に軍刀を作成し、そのまま投擲。
その直後に再び軍刀を作成、そのまま投擲と作成を繰り返す。
「この弾幕、受け切れますか」以上、第■回の更新でした。
「空気打ち……風の特徴は不可視であること。不可視であるが故に対処が難しい、というのは特徴の一つだけど……うん、大体わかった。本命は、そこね」
起こりの句がなくとも魔法陣による軌道が見えるのならば対処は可能だ。しかしながら、大暴れするあの少女を抑えながらというのはなかなかに困難だ。おそらく、そこが狙いだろう。単純に人数差というのは厳しいものだ。それに、相手がとんでもない化け物であった際には戦闘経験の差などあっさりと覆りかねないし。そこも含めて、上手く立ち向かうには工夫が必要だ。使うのは知識と技術。力で勝つな。私はそんな大層な魔術師ではない。
「何が効くか、一から百まで試してみましょう?」
夜穿の逢花は四大属性の全てを魔力弾に。電機人形を併用して直接操作しつつ投入。大量の人形たちの魔術式制御に使う魔術回路はオフにして、極めて単純的な行動プログラムを挿入。そもそも自立人形ですらない木偶の坊で、この大量の人形を動かすとなると私の才能では到底無理な話である。だから人形の動作に大した違いは出てこない。唄鬼の刹菜は人形に紛れて不活性状態で設置。ここぞという時に放つべきだ。「糸は使えるわね。よし、やることやって行きましょうか」
小聖杯を取られることが最も警戒すべき負け筋。それを考慮すると、私自身ができることはただ一つ。糸を展開し、対応できるようにする。そのために大量の人形を制御することは諦めた。先程も考えたように普通に非効率だし、なにより魔術回路が持たないから。遊びは捨てる。本気でやる。あの強大な力に手をこまねいていては勝てないから。
「私は、油断しない。ハリー君だったわね。あなたのことも、ちゃんとみてる」
「…………あまり嬉しくは………」
「そう警戒しないで。どうあれ、勝つか負けるかよ。そうでしょうランサー。そっちにも色々送ってあげる」「ええ、ありがとうございます。では遠慮なく」
大量の軍刀の群れをあえて受ける。もちろん危ないものは叩き落とすし、避けれそうなものは避けるが、“本来の姿の一端”を晒すことで対処できたものはできないので、所々に傷ができる。今のランサーは人間体へと変化している代償により本来の人外としての耐久力が変化しているから、刺さるときは刺さる。だが、それで良い。本来の性能を誤認させれば良い。別に宝具を使わなければ一端すら晒せないわけではないから。そして出来た傷は、今治してもらえる手筈が整った。
「……魔術?」
「ええ。マスターによる治癒魔術と強化魔術です」
夜穿の逢花。あらかじめ作り出している魔術結晶を蕾に吸収させることでさまざまな魔術効果を放つ魔術礼装。治癒魔術も、強化魔術も、あらかじめ結晶として作っていたものを放出するだけ。この礼装を起動する以外でマスターの魔力を消費するわけではない。だから結晶がある限り、マスターの魔力消費を気にすることなくそれなりにやれる。そう、小聖杯のリソースを今まで通りに割けるわけだから……「さらに早めます。あちらにいる少女の形をした何かはどうやらあまりにも強いようですから」
振るう槍はさらに激しく。さらに奔ってうねり、暴れる。その本質を隠すかのように、暴れ回る。仮に特大の一手が来たのならば、その時こそ……
『身体の一部だけでも、随分と。私の身体は大きいので。負けかけてまで秘匿する必要はもうありませんしね』
方針としてはマスター側はとりあえず色々乱打して試してみながら自己防衛を最優先、サーヴァント側は重めの攻撃をかまされた時のカウンター狙いみたいな感じです第■回の投下……とその前に、前回投下したものの内>>44と>>45の間に抜けた部分があったので投下します。
特に展開等に変更はありません。
キャスターの魔術が私を強化する。
三人がかりでキャスターの宝具が発動するまでの時間を稼ぐというプランAは破綻したが、それで勝負が決まる訳ではありません。
そういう訳で距離を詰め、縦・横・斜めと三連撃。
それを防がれたら心臓目掛けて突きを三連。
それが槍の柄で反らされたら、次は八つの斬撃……しかし、それすらもランサーには届かず、後ろに下がる余裕をランサーに与える始末。
「海の怪物でありながら日本人の美女らしき姿を持つ……ランサー、貴女は何者なのです?」
「そちらこそ。剣技に変装に演技……多芸過ぎじゃありませんか、セイバー」
そう返すとランサーは跳躍し、空中から床に向けて突きを放つ。
咄嗟に飛び退いて躱したら次の刺突、それをまた躱し……四発目を躱した所で漸くランサーが着地。
そのまま私に向かって駆け出す。
「黄身と蕎麦をフライにする。《私を忘れるなよ》」それでは改めて、第■回の投下を。
「わわわわわわっ!?」
火、水、風、土……四属性の魔力弾が巨大な花から雨の様に撃ち込まれる。
ギガントマスキュラーの防御力なら殆どダメージは無いけど、これじゃ衝撃で動けない。
そして、その攻撃が止んだと思ったら目の前には人間サイズのロボットが居て、電撃を纏ったパンチを浴びせてきた。
「こうなったら……」
【PRIMAL!】
ギガントマスキュラーの追加装甲をパージして、プライマルに換装。
両拳を突き出して、換装の隙を突こうとした人形を吹っ飛ばし、右腕のパンチでもう一体の人形を倒す。
更に、右パンチで一体目、左パンチで二体目、拳を振り下ろして三体目、蹴り上げで四体目、ジャンプして組んだ両手を振り下ろして五体目。
「銀河、人形は僕が何とかする」
そう言うと、ハリーさんは攻撃に打って出て、風の弾丸や刃で次々と人形を壊していく。
なら、私はロボットとお花を……そうすれば。【METAMORPHOSE!NINJA GLADIUS!】
ニンジャグラディウスに換装。
すると、再びお花から魔力弾が放たれたので、全力で回避。
軽装なニンジャグラディウスだとお花に近付くのは危険……けど。
『絶命NINPOW』
そのままロボットとの距離を詰めて、その両手足を蹴り上げる。
すると、宙に浮かび上がったロボットを十字架状のエネルギーが磔にするかのようにして拘束。
『GRAND CRUSADE!』
それを確認したら天井ギリギリまでジャンプ。
フォーリナーを追い詰めた飛び蹴りをロボットに叩き込む。
コンクリートの床に叩き付けられ、動かなくなるロボット。
そして、次に換装するのはもう一つの新アーマー。
「これならどうだ!」
【METAMORPHOSE!KARATE BUSTER!】ライダーとの戦いで見せた強化魔術によるものか、更に勢いを増すランサーの槍。
その僅かな隙を突いて喉元へ刺突を放つも、大きく後ろへ跳んで躱される。
細かく前方へと跳躍を繰り返し、時には壁を足場にしながら前進し、側面から首への斬撃を放つも、ランサーは余裕を持ってそれを躱す。
「全く、幾つ技を持っているのやら……けど、アサシン程極めては居ないようですね」
先に構え直したランサーが二発の突きを放つ。
それを躱しながら距離を詰め、流れる様に連続した斬撃を放つが、ランサーは槍の柄を巧みに操って防ぎきる。
だが、この攻撃の目的はもう一つ。
『マスター、宝具を!』
軍刀を振るいながら念話でマスターに呼び掛ける。
そして、軍刀を突き下ろし、それを躱したランサー目掛けてそのまま斬り上げる。
大きく距離を取ったランサー……時間は稼げました。
『令呪を持って命ずる。セイバー、宝具を使え!』短い念話だけで察したマスターが令呪を使う。
長時間の宝具使用を可能とする魔力リソースの元、此処で宝具を使う。
「伝統を守り、意思を伝え、次代へ繋ぐ。人間の宿す輝きを此処に……『我、合衆国の守護者(リバティ・ガーディアンズ)』」
稲妻の如く眩い閃光が身体を包む。
増大するステータス……その圧倒的なスピードで踏み込むと同時に横薙ぎの一閃。
ランサーは槍で受け止めるが……始めて衝撃をころす為に後ろに跳ぶ姿を見せた。
だが、それはステータス差を大きく縮めても尚、ランサーには届かないという事でもあり……だからこそ、次の一撃で決めます。
故に私は、突きに特化した構えを取り……大きく踏み込んだ勢いを乗せた刺突を放った。以上です。
今回のセイバー宝具使用時ステータスは、筋力B 耐久C 敏捷EX 魔力D 幸運B。
セイバー、ランサー共に更に強化魔術等が上乗せされてる感じですね。「まるで紙屑ね」
何もかもを吹き飛ばし、粉砕していくそれはまさしく常識の埒外にあるもの。呆れるほどに速く、呆れるほどに強い。ぶっちゃけてしまうと勝ちが見出せない。こんな化け物を相手に勝てるわけがない。タイマンならまだやりようがあるというものの、もう一人、サポーターとしてのコンビネーションが的確なマスターもいる。戦いの経験値はこちらが上だとしても、そもそもの能力値の違いというものはある。歴戦の兵士がステゴロで巨人を倒せるか否か、というような話。もちろん、巨人の方が強い。
「だから、そう。足掻くだけ足掻いてみましょうか」
本命となる唄鬼の刹菜は活動を停止した状態で紛れ込ませている。アレを察知するのは相当難しく……最初からフルパワーで起動できたのならば良い感じに一撃は与えられそうだ。とはいえ、こんな様子じゃ効くようにも思えないけれど。
「でもそれは、諦める理由にはならないわ」
この戦いの中、一つ決めたことがある。令呪も、小聖杯も、ランサーに集中させる。自分が使える魔力リソースは魔術回路から生産した分の魔力だけ。必要以上に酷使するということは、体を追い詰めまくるということで。「私の指先は断頭台。私の目は裁きの鉄槌。私の声は汝を吊る首縄である」
第五架空要素。エーテルを、全力で撃ち出す。血の涙で罪を焦がす。己が血液すら燃料に、この悍ましい樹木を起こす。
「次いで、令呪をもって命じる。ランサー、海の化生としての己を楽しみなさい」「もちろん、あなたの願いに応えましょう」
雷光の如き美しき刺突は、確かにランサーの心臓を捉えただろう。あのままでは、そこで終わっていた。セイバーの見立ては間違っていない。完璧だ。相手の限界を捉え、そこを突いた至高の一撃。しかしそれは、相手の底がまだ奥深くなければの話。
『マスターの意のままに。ですが、全てを晒すのはやめましょう。私は全力ですが、底の底まで見せることはまだできない。だってまだ、一人も仕留められていないから』
赤い、赤い何かがセイバーの一撃を受け止めていた。何だか巨大な壁のようで、ただ光を反射するその表面は海に住まう生き物のよう。硬さも硬すぎるわけではない。ただ分厚い。分厚く、大きい。だからこそセイバーの刺突は貫き切ることができなかった。その巨大な壁は、どうやらランサーの片腕が変化したものらしい。
「柔な女でいるのも楽しいものですが……ええ、やはりこちらの方が痛くはない」
巨大な丸柱のようなものが、とてつもない速度でセイバーの天上から降り落ちる。先は鋭利で、当たれば容易く人体を貫くもの。先端から滲む猛毒は周囲を汚染しながら降り注ぐ雨の大災だ。
「お覚悟、どうぞ」第■回投下します。
「しまった……!」
相手の切り札に気付けなかった。
先程まで隠れ潜んでいた樹木から放たれた魔力弾は、直撃せずとも銀河のアーマーの一部を抉り取っていた。
サーヴァントの攻撃にさえ耐えるアーマーを容易く傷つける攻撃……彼女の弱点を突かれたとしか考えられない。
更に悪い事が重なるようで、轟音と共にセイバーの悲鳴が聞こえた。
「キャスター!令呪二画で、セイバーを助けて!」
咄嗟に銀河がそう叫ぶ。
ああ、僕は一体何をやってるんだ……狼狽えてる場合じゃない。
アーマーへの直撃を防げたのは、たまたま銀河が樹木から離れた場所で動き回っていただけ。
逆に、樹木を破壊するには銀河の力が必要……だけど、そうなれば樹木は魔力弾で銀河と相討ちに持ち込んでくる……ならば。
「銀河、僕が花の前まで送るから、花を倒して。そしたらプランCだ」巨大花を倒した後は小聖杯奪取を諦めて時間稼ぎに徹し、セイバーとキャスターに全てを賭ける……これしか無い。
という訳で、銀河が頷くのを確認したら、魔術陣の線路で銀河を巨大花の前へと運ぶ。
銀河自身も魔術陣に合せて走り出したのもあり、驚異的な速さで距離を詰める事が出来て……。
『必殺KENPOW・MAXIMUM STRIKE!』
五秒間に叩き込まれる打撃の嵐……それが、巨大花を破壊し尽くす。
更に、銀河は振り向きながらアーマーを換装。
【GUNCERESS!】
真上から振り下ろされたメイスが、背後から追って来ていた人形を粉砕した。振り下ろされる異形の腕、鳴り響く轟音、声にならないセイバーの悲鳴。
片腕を怪物のものへと変えたランサーの一撃は、セイバーの左腕を粉砕した。
おまけに毒を浴びたのだろう、動きが鈍いセイバーを逃がす為、風の弾丸を放つ。
ランサーには全く通用しなかったが注意を引く事は出来たので更に風の弾丸を連射した後、より強力な弾丸を放ち、セイバーが距離を取る時間を稼ぐ。
ランサーが私の実力を確認するのを優先したからどうにかなったが、恐らく次は無いだろう。
そう思考を巡らせた時、壁越しでも聞こえる程のマスターの声が響いた。
「キャスター!令呪二画で、セイバーを助けて!」
身体を駆け巡る令呪二画分の魔力。
本来なら私では扱えないような規模の治癒魔術がセイバーの左腕を復元し、全ての傷を癒やし、その身体を侵す毒を取り除く。
余った魔力でセイバーを強化すると、セイバーは急加速。
ランサーを中心とした五芒星を描くかの様な軌道ですれ違い様に何度も斬り付けるが、ランサーは異形の腕を身体に巻き付ける事で防ぎきる。
逆にランサーは巻き付けた異形の腕を振り解く勢いを利用して薙ぎ払い、背後に居るセイバーを攻撃しようとするが、セイバーは後方宙返りでランサーを飛び越えながら回避。
ランサーと向き直ったセイバーは軍刀を投擲すると同時に駆け出し、異形の腕に浅く突き刺さった軍刀を引き抜き、そのまま全力で斬撃を放つ。
しかし、ランサーもまた異形の腕を振るい、軍刀と異形の腕が激突。
刀身が砕ける音と共にセイバーが吹き飛ばされ、そのまま廃工場の壁を突き破り敷地の外へと消えた。「あら、順番が変わってしまいますね」
これは不味い。
セイバーが死にはしないだろうが、令呪を使ったとしてもセイバー復帰するよりもランサーが私を倒すほうが早い。
此度の現界で食べた納豆とやらよりも不味い等という冗談すら浮かぶ程に絶望的になる思考を振り払う様に無限頁項と風の刃を放つが、無限頁項は容易く引き千切られ、風の刃は異形の腕に浅い傷を付けるだけに終わった。
今使える最大の攻撃手段が呆気なく無力化されたその時、再び壁の向こうからマスターの声が聞こえた。
「最後の令呪……キャスター、勝って!」
最後の令呪だ。
曖昧な願いであるそれは、単純な強化として発揮された。
それでもランサーには届かないが、セイバーを勝たせる為に少しでも消耗させる事位は出来る筈だ。
『ぐしゃっと潰れた顔が笑う、ならば翼は剣となる《ありがとうマスター、私も全力を尽くそう》』
例外が無ければまともに喋れないこの身を恨めしく思いつつ、令呪一画分の魔力をこの一撃に込める。
そして放つは、渦巻く風の魔力砲撃。
つむじ風を横倒しにしたようなそれを、真正面からランサーに叩き込む。以上です。
この状態のランサーとの長期戦は無理があるので、そろそろ決着に向けていこうかなと。「つまらない生き方はしたくないわね」
大事なのは魔術刻印だけ。魔術回路も必要だけど、まあ片手分ぐらいなら壊死しようともなんとでもなる。糸で無理くり体を動かせば良いだけだし、それでも聖杯というリソースを手に入れればお釣りがくる。それすらダメならゲームセット、一切合切放り投げてただの人形師になれば良い。これはラストチャンスだ。だから命を賭けている。他のみんなは違うかもしれないけれど、私は、魔術師としての命を賭けている。
「最後の最後まで踊るわよ。身体が動かないなら糸で無理くり動かすわ。私の全てが灰になるまで、ね!」
痛みに堪えること。それは魔術師ならまず誰もが通る道。だからこそ、消耗戦で負ける気はしない。少なくとも、サーヴァント側に勝敗がつくまで。
『だから、ランサー。令呪使ってるのよ、その程度でまた使わせる気?』「ええ、その通り。何故なら私は怪物なのだから。片腕でダメなら両腕を。人でないことはもうバレてしまいますし、令呪で補強した分は削られて、さらにある程度かまされましたがこれでトントンです。そうでしょう?だってそもそもの耐久力が違うもの」
額から血を流しながら妖艶に、しかして獰猛な獣の笑みを浮かべる。初めてだ、本当に初めてだ、自身の命に指をかけられたことがあるのは初めてだ。これか、これが殺し合うという感覚か。なるほど、これは存外に……
「面白くないものですね。痛いし怖いし、嫌いです。さようなら、キャスター。あなたがもう少し早く私の本性に気づいていれば」
胸鰭の一撃で押し潰す。これ以上はもう不要だ。ここからは、一対一のぶつかり合い。私が生前にしたことのない、命の削りあい、凌ぎあいだ。普通に嫌だが、嫌だからこそ綺麗に終わらせるべきだ。自身の命が危ういのならば外敵として叩き潰す。野生に生きた獣として、実にシンプルな生存競争のルールだから。
「やりましょう、セイバー。私はもう魔性を隠しません。余計な小細工をすればするほど私が痛い目を見てしまうのです。ならば、もうそれはやめましょう」異形の腕……否、異形の鰭と尾を隠さないことで、私自身の姿はもうほぼ人ではない、と言えるかもしれない。両腕は鰭となり、両足もない。胴体と、頭と、それらが人間の女のように見えるだけ。側から見たら巨大な海棲生物のようなものに取り込まれた女性、なのだろうか?マスターに借りた映画で見た、これはかなりホラー画像だ。
「人の矜持を見せてくださいまし」
こっちも消耗して令呪的にも身体の状態的にもおそらくトントンみたいな状態から短期決戦の意向を受け取った形になります一応キャスターを消滅させたわけではないのでマスターとお話をする時間はあると思いますはい
ここは夜のペレグリヌスベース某所。両腕にドラゴンと悪魔の要素を重ねた異形のソレへと変貌させ、双角と翼を肥大化させる本格的な戦闘形態となり飛翔を続けるとサタン──アサシン───は高揚していた。
「素晴らしい……ッ!先日の廃工場でもそうでしたが、己がこのように聖杯戦争において嵐の中心、即ち試練が一つとして暴れる事が出来ようとは望外の喜び!」
哄笑を響かせ、真夜中の蒼穹を翔ける魔王である。天地を裂く豪爪によって全てを斬り裂きながら駆け続けている。
まさしく災害、災厄と例えるに相応しい所業であり、暗殺者たる魔王の基本戦術であった。
かの”障害”が降り落とす黒雷は最速の矛であり、同時に盾である。近寄る者を貫き、向かってくる攻撃は叩き落とす。彼の悪魔は、この手法でもって、アーチャー……狼であり狩人でもある少女を討ち取ったのである。
撃ち込まれる弾丸と降りしきる黒雷の対決は、高速で飛行しながら電撃をぶっ放す爆撃機さながらの戦法を取るサタンに軍配が上がっていた。
さて……と暗殺者は状況を考察する。現在の戦闘相手は数日前に己が廃工場での戦闘の最後に戦った推定ランサー。そして先日、黒衣のサーヴァントに対して共同戦線を張った少年である。あの2騎は己の試練にどう対応するのか、サタンは獰猛な笑みで思案する。我がマスターである刹那・ガルドロットに関してはあまり心配していない。彼女はまず結界術の名手である為、自衛の手段が豊富であるので己が暴れている戦況からある程度離れた距離にいれば巻き込まれる恐れは非常に低い。万が一結界を破壊されたとしても観視の魔眼の”己存在の希薄化”がある。
そういう訳で、暗殺者は自己のクラス霊器の基本からかけ離れた戦法を行いつつ、これから己と主に襲い来るであろう試練を心待ちにして空を舞っていた。
聖杯大会本戦統合スレNO.6
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