苦しい。苦しい。苦しい。
傷はない。それなのにひどく苦しい。霊基が軋んでいる。原因は知っていた。呪いの再演だ。立っていられずに、傍のベッドへ倒れ込む。スプリングの反動でさえ、今は身を苛む痛みを齎した。苦痛を噛み潰すように強く歯を食い縛る。ぐ、と身体の内側から抉られるような痛みが走り、嘔吐きそうな喉に手を添える。めり、とどこかで厭な音がした。横目に、無意識に握り締めた枕が破れて、中身をはみ出させているのを捉える。ぐしゃり、潰した羽根の感触がいやにはっきりと伝わってくる。自身の手のひらすら裂いたのか、薄っすらと血の匂いが漂ってきている。存在しないはずの傷が疼く。苦しい。
「……ぅ、う……ッ……!」
嫌だ、と叫びたい喉が、血に飢えた呻きを吐き出す。
血が。
手のひらに爪がより深く食い込む。血の匂いが濃くなる。渇いた喉をささやかに生唾が湿らせて、渇きの苦しみを引き延ばした。ぎりぎりと噛み締める臼歯の感触に、柔い口内で肉の裂けた感覚が交ざる。
血の、味が。
思わず漏れた、絹を裂くより細い悲鳴を、喉の奥で潰す。
求めているものはこれではないのに、渇いた舌が切実にそれを味わおうとする。苦しみが折り重なって長引くだけだと知りながら、本能に近い行動を止めることができない。口端から流れる涎にも、血が混じる。その味わいが、苦痛よりも遥かに苦かった。自らの腕に齧りついて飢えを凌ごうとするかのように愚かしく、ひどく浅ましい。女王の後継の名も、与えられた着名も、輝かしいすべてを汚してしまいそうだ。
怪 文 書 ス レッ ド 3
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