その日ナポレオンがパーシヴァルに声をかけたのは前日に読んだ一冊の本がきっかけだった。特別な用事があったわけではなく、要するに興味本位だ。軽い挨拶もそこそこにナポレオンは本題に入った。
「あんた奥さんがいたんだって?隅に置けねえ男だな。」
揶揄うように言えば、相手のパーシヴァルは目を丸くしていた。
「いえ、私は生涯独身で妻がいたことはないのですが…どこでその話を?」
「そうなのか?昨日図書館で読んだ本には妻子がいると書いてあったんだが…」
気まずそうに言葉を濁すナポレオンに、パーシヴァルは笑顔で答えた。
「ああ、同僚の誰かの悪戯ではないのですね。安心しました。アーサー王物語の話は長い間語られる間に多くの派生が生まれました。あなたの読んだ本はその一つでしょう。それだけ私たちの物語が人々に愛されていた証左です。」
随分と前向きで素直な奴だなとナポレオンは思った。
「そうか、そりゃあいいことだ。だが、あんた程のいい男に女がいないのは勿体無いと俺は思うなあ。」
「ははは…そればっかりは私一人でどうにかできるものではありませんからね。相手にも選ぶ権利はありますし。」
笑顔を崩さずにパーシヴァルは答えた。ナポレオンが思うに、パーシヴァルには妻はいないがどうやら女に全く興味がないタイプではなさそうだ。
紳士的な騎士であるこの男がどんな女性が好みかナポレオンは興味が湧いた。
「確かになあ。そう言えばそろそろ昼時だが、食堂に行かないか?今日から新メニューが出るらしい。」
「新メニュー、それは気になります。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「いいぜ、そうと決まったら早く行こう。急がないと売り切れちまうかもしれないからな。」
そう言ってナポレオンは食堂に向けて歩き出した。後ろからパーシヴァルがついていく。そんなパーシヴァルを見てナポレオンは考えた。『さてどうやって次の話を切り出そうか。』
怪 文 書 ス レッ ド 3
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