「待ってくれ、マスター!」
呼びかけに足を止めて振り返る。聞き間違えようのない声だ。パーシヴァル、と返そうとした喉が固まって、凍りつく。
『それ』は、大きな着ぐるみらしきものだった。灰色がかった銀の毛並みは長く、その毛では誤魔化せない頑健そうな体躯が伺える。ぱっと見た顔の印象としては、デフォルメした狼のようだった。カルデアには大柄なサーヴァントも多く召喚されてはいるが、ここまで異様なファンシーさは持ち合わせていない。顕光殿でももう少し禍々しい。
着ぐるみは戸惑いを察して、大袈裟な動きで腕を振った。
「驚かせてしまったかな、私だよ。パーシヴァルだ。……うん、気持ちはわかるよ。見た目がこの通りだから、マスターも私とわからなかったろう。勿論ふざけているわけではないよ。これは着ぐるみではなくて、私がぬいぐるみになってしまったようなんだ。鎧もないし、この手では槍も持てそうにない。ほら、こんな感じだ」
着ぐるみ──パーシヴァルの腕が両頬に触れる。途端に、もふ、と柔らかな感触に包まれた。着ぐるみではないということは中身も綿なのだろうが、低反発枕のようなしっかりとした手応えも感じられる。これのおかげで二足歩行ができているのか、そもそも重さはどうなのか─どんどん思考が横道へ流れていく。
「マスター?」
我に返る。
「ご、ごめん! その、あんまり手がもふもふで」
「はは、構わないよ。私こそ驚かせてすまない。こんな有様だから、早いうちにマスターに会えて安心したよ」
「……不安そうには見えなかったけどな?」
思わず首を傾げると、パーシヴァルが苦笑したような気配があった。
怪 文 書 ス レッ ド 3
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