密かにだが自分はロマンと禁書で一つ書いてみようと思ってる(小声)
マシュを観光連れてくss。 でもどこに投稿すればいいんだ?
ども>>1です。スレ承認やったー!投稿は是非ともここで!
少し長くなりそうなら、申し訳ないですが別に建てさせていただきます。そのご要望がございましたら、私に一報お願いします。今年の始め、書こう書こうと思いつつ仕事に忙殺されたため諦めたアルテラさんの初夢ものをいつか投下したい
とりあえずエクステラをもう一度確認してからになるけどずっとずっと加工と思っているけど書く時間がないから書けないやつ
プロット
仮面ライダーゴースト fgo
主人公はタケルというぐだ男。特異点Fが始まる際、謎の男からゴーストドライバーを渡される。燃える都市で無我夢中に変身して、なんとか戦っていく。ラストで兄貴のゴーストアイコンゲットしてオルタに勝利。所長はユルセンになる。
その後二章で闘魂アイコン。四章でグレイトフル。六章でムゲンアイコンをてに入れて、ラストバトルはソロモンゴーストアイコンを使ってゲーティアと戦うってのを考えた。SSかぁ。色々考えては見るものの、いざカタチにしようとすると難しいよね。今考えているのだと3つ。
・特に何も無いある日(草十郎と有珠がリビングで話をするだけ)
・カルデア戦闘シミュレーション記録No.31(大英雄ジークフリードVS人になった兵器エルキドゥ。勝つのはどちらか)
・木下ひなた「サーヴァント?」(Fate/GO×アイドルマスターミリオンライブ!のクロス。偶然、カルナさんのマスターになった765プロのアイドル候補生、木下ひなたが聖杯戦争を駆ける──話ではない)
うーん、アイディアばかりが先走り過ぎてどれも完成しそうにないネ!既にありそうだけどZEROで戦闘にFGOのルールを導入したギャグSS
セイバーに押されるディルムッド、そこに乱入する征服王とバサスロットに英雄王。
戦いの最中、バサスロットはセイバーに襲いかかるが征服王に轢かれて死亡する
その後もハサンに壊滅される王の軍勢、大海魔を倒せぬなら食ってしまえと王の軍勢が大海魔で大宴会
完全ギャグテイストのストーリー
やっぱもう誰かやってる気がするなちょっと前から少し考えてたものとしては、ドクター・ストレンジのエンシェント・ワンがケルト人らしいんで、なんかうまいこと兄貴と絡ませらんないかな、と思ってる。設定(仮)としては、Apo時空の亜種聖杯戦争の一つをNYでやって、ゼロッツの侵攻かと様子を見に来たエンシェント・ワンと召喚されてた兄貴が出会う→ここから先を考えてない。
ここで安価SSとかやっちゃって良いのだろうか?
>>12
内容と時間によるけど、ここに仮面ライダーFateというのを考えたんだが、大まかな設定やストーリーとしては
・ストーリーはセイバールートに凛ルートと桜ルートの要素を足したような流れ
・サーヴァントは戦闘時には自分のベルトとクラスカードで変身する。変身しなくても武器を出して使うぐらいはできるが変身後は変身前と比べてすべての能力が飛躍的に上昇する
・ラスボスはギルガメッシュと言峰のコンビ。言峰は物語後半に、桜の体内の聖杯の欠片を移植したこととこの世全ての悪に選ばれたことにより第9の仮面ライダーである仮面ライダーアンリマユに変身する能力を得る
・士郎はアーチャーや無限の剣製の影響と「いずれ英霊になる可能性」により仮面ライダーエミヤ(能力はアーチャーと同じ)に変身する能力を得てセイバーと共に最終決戦に挑む
まで妄想したけど文才が無いので挫折してるorz本文入力画面見ていると、1レス最大20行1000文字までって制限があるので、5千字程度でも改行を入れるとけっこうなレス数を使わないといけない気がするんですが、最大どのくらいまでのレス数で別スレ行きとか基準はありますかね?
一応本文が5千字程度の短めのSSが一本あるんですが、改行の関係で10レス超えるかもしれないので、S掲示板でのSS投稿もしたことがないのもあって、何か目安があるなら確認しておきたくて。ステンノ様ろとぐだ男のSSは考えたことあったなー。
第1特異点で唯一のアサシンとして上姉様召喚。上姉様はぐだと戦友的な感じで関係を詰めて行くが第3特異点で再開するエウリュアレに「私、少し変わったわね」と言われ自分の気持ちが少しづつ変わっていくことを自覚する。でも彼女は神霊だし、人間は忌むべき存在だし、愛しているのは姉妹だけの筈だしで心が揺れに揺れる。みたいな上姉様の純愛物。
これも全部絆5ボイスの破壊力のせい。あんなん勇者じゃなくても勘違いしたくなる。憐憫の獣が夢を見た世界では、比較の獣はヒトを殺さなかった。
彼が美しく気高い人々の傍らに在る世界では、
――月の姫はただ一度の敗北の後、目を覚まさないまま。
蛇は待った。憎い姫君を完膚なきまでに滅ぼさんと。
待って、待って、死んで(まって)、生まれて(まって)、殺して(まって)、死んで(まって)
待ち続けて、待ちわびて、待ち呆けた頃。
「姫君のことが好きなんじゃないのか?」
当代の肉体。鬼の子がそんなことを言った。否定しようとした。出来なかった。
魔術の能力に長けた鬼の子は、いつか蛇になり替わられたときに
妹を傷つけるのを恐れて家を出て、どうしたわけか雪山の観測所。
身のうちに蛇を抱えたまま、うっかり生き延びて。
「……『犬』か?」
少女の抱えた白いイキモノ。いつかの、あるいはどこかの記憶。
獣は何かに気付きながらも、何も知らぬ顔で『フォウ』と鳴いた。
みたいな四季/ロアが二重人格風になって、
カルデアで働いてるSSを書きたかったんだけど、
人理って人間が救ってこそだから死徒の入る余地はないなと悩ましい。ぐだ子とザビ子の共演物とか考えてたなぁ
サーヴァントと離れ離れになって、ぐだ子と玉藻 ザビ子とマシュ とパートナー入れ換えでそれぞれ再会を目指すみたいな話
黒幕はBB&魔神柱コンビで
ザビ子のサーヴァントが玉藻なのは私的イメージの問題
ネロはザビ夫で玉藻はザビ子ってイメージがなんかある>>20
忘れもしない…赤評価だから読んだらただの士郎らしきナニカがジャンヌといちゃいちゃするだけの奴を…
せめてキャラを掴んでやってほしかった…タケルの息子のアユムがデミアを倒した後にFGO世界線に飛ばされてぐだ子&マシュと協力して戦うネタが浮かんだ
プロットだけ考えてみるか自分も仮面ライダー×FGOのは考えたな
主人公は死んだ(ゲームオーバー)はずの貴利矢で、冬木の特異点に召喚され、カルデアのマスターや英霊、召喚された仮面ライダーたちと共に七つの特異点と仮面ライダー世界ベースの特異点を戦い抜く感じ
仮面ライダーと英霊のコンビネーションとか面白いと思ったからそういうの固まってから書きたい。タッグの組み合わせでやりたいのは
レーザー×牛若丸
スカル×エミヤ
ファイズ×クー・フーリン(ランサー)
ドライブ×モードレッド>>19
あれ?なろうは二次創作作品の投稿はできなかったはずでは笛吹は時々、黄色でも良い作品がある。
ただ、赤色で最悪の作品も時々ある。
なろうはエジプトレベルタマモキャットとステンノ様の話、書きたい……。
少女とバーサーカーの組み合わせだし、キマシでも普通に友達としてでも良いと思うんだ。
問題はキャットもステンノ様もうちのカルデアにいないことだ前に、EXTRAで何かの拍子に自鯖が幼くなる妄想をしたことがある
ロリネロ、ロリ玉藻、士郎、子ギルとザビの組み合わせが面白そうだと思って
士郎編は実際に書いたんだけど、今度ロリネロ編でも書いてみようかな地雷といえば冬木ちゃんねるとかいう悍ましいものを思い出す
「レーッツ! グランド・バベッジッ!」
人類最後のマスターによるグランド・オーダー。それは、人理保障機関カルデアによる合体指令。
掛け声と共に空へと飛翔する巨人の影が三つ。
蒸気が舞い、勇者バベッジを中心に美しきラウンドフォーメーションをとる。
『ドッキング開始します! 先輩、衝撃に備えて下さい!』
フロントモニターに映る少女の名はマシュ・キリエライト。英霊機神ギャラハッドのメインサポートAI。頼れる最愛の後輩。
盾の英霊機神ギャラハッドを右腕に、剣の英霊機神アルトリアを左腕に変形させ、黒鉄の巨人と結合する。
「英霊合体!」
少年は叫ぶ。人類の希望を。最強の勇者の名を。
立ち上がれ! 我らが勇者!
『グランド・バベッジ!』
的なssを思いついた。詳しい設定はこれから考える書いた奴ってどこに投下すればいいんですかね
シビル・ウォーでスタークとの対決直後のキャプテン・アメリカが特異点Fへ。
そこでマシュと出会いマスターとして人理修復の戦いに出るとか思いついてる。
キャップが戦士としての先達、人生の先達としてマシュを導いたりキャップが人理修復の旅を通して学んで行ったりする話が書きたい。
ぶっちゃけ実写版しかマーベル知識ないけどSSここに投稿していいの?
新しいスレ立てる?一応スレ主さんが「投稿も是非ここで」とおっしゃってくれているので、次レスから本文5千字程度のSSを投下させていただきます。
行数の関係で10レス超えるかもしれないので、鬱陶しいと感じた人はコテハン横のIDをNGにすることで自衛をお願いします。
内容としては、アステリオス君ととあるカルデア女性職員が交流する話になっております。
そんなに長くないのもあって時系列はあんまり考えていませんが、ラストだけは一部クリア後の時系列です。
会話する関係で職員に多少の個性がついているので、ご注意ください。
では、次から投稿させていただきます。『アステリオスと女性職員』
ある夜のこと、消灯が済んだカルデアの廊下を、一人の女性職員が懐中電灯を片手に歩いていた。
しんと静まり返った廊下に自らの靴の音だけが、コツコツと響いている。
(やっぱり、朝になってから出直そうかな)
寝る前にミーティングルームに忘れ物をしたことに気づき、忘れない内にと思い立ってこうして部屋の外に出たのはいいが、ただ電気が消えているだけでいつもと違う雰囲気を醸し出している廊下の様子に、恐がりな彼女の心は既に挫けかけていた。
(でも、ここまで来たら、ミーティングルームまでもう少しだし)
震える自分に言い聞かせるように唱え、小さく頷いて、女性職員は角を曲がろうとした。
その時、角の陰から巨大な影が現れた。
「ひっ!」
驚いた女性職員は、反射的に影の正体を見ようと懐中電灯を上へと向ける。
トゲトゲとした突起がついた腹当て、傷だらけの巨体、両手には巨大な斧。
そして、仮面に覆われた頭からは、二本の角が――。
(お、おば、おばば、お化け!)
ガクガクと震える女性職員に向かって、お化けが一歩近づく。
そして、ずいっと頭を下ろし、彼女に顔を近づけて来た。
「ひっ、や、いやああああ!!」
哀れな女性職員は、廊下中に響き渡る大声をあげて、死に物狂いで自室まで逃げ帰ったのだった。
**>>34
**
―― 一晩明けて、朝のこと。
カルデアのマスターであるぐだ男のところに、一人の女性職員が同僚と共に訪れていた。
「ええっと、それで、俺に用事って言うのは」
「それがさあ。この子、英霊の誰かを、お化けと勘違いしちゃったみたいで」
同伴した職員はそう言いながら、後は自分で話せと言うように女性職員を前に押し出した。
「私、恐がりな癖に夜中に廊下を歩いちゃって、その時に巨大な人と遭遇して、お化けだと思い込んで、悲鳴をあげて逃げちゃったんです」
うう、と、恥ずかしそうに唸りながら、女性職員はぐだ男に事情を話して聞かせた。
「でも、一晩明けてよくよく考えてみたら、あれは、私の考えていたようなお化けとかではなくて、サーヴァントの誰かだったんじゃないかなって。顔を覗き込んで来たのも、もしかして、震えている私を心配していたのかもって。そう思ったら、私、すごく失礼なことをしてしまったんだと思って、だから、あの」
話している間中、恥ずかしさから俯いていた女性が、おどおどしながらも顔を上げて言葉を続けた。
「許してもらえるかは分からないんですが、そのサーヴァントに、一言、謝りたくて」
「俺ならその英霊のことが分かるだろうから、聞きに来た、と」
頷いたぐだ男を、女性職員は不安そうな顔で見つめた。
「あ、あの。本当に、私、協力してくださっている方に、失礼なことしちゃって。貴男にとっても大事なサーヴァントなのに、本当にごめんなさ」
「その先は、俺じゃなくて、まずサーヴァントに言ってやってください」
ぐだ男は片手をあげて、謝罪の言葉を口にしそうになった女性職員を制した。>>35
ぐだ男が端末を起動して、現在召喚されている英霊たちの霊基の一覧を調べていると、すぐに一体のサーヴァントにたどり着いた。
「ああ、彼のことかな。アステリオス」
「はい、この人です!ああ、やっぱりサーヴァントだったんだ…」
「ぐだ男くんのサーヴァントでよかったじゃん!ふれんどさん?とかいう人たちの所から援軍に来てくれているサーヴァントだったら、話がこじれるところだったよ」
改めて己の勘違いを思い知って恥ずかしげに俯いている女性職員の肩を、同伴した同僚が励ますように叩いた。
「じゃあ、アステリオスを呼んでみますけど、大丈夫ですか?」
ぐだ男の問いかけに、女性職員はこくりと頷いた。
ぐだ男もそれに応えるように頷いた後、口の横に手を当て息を吸った。
「おーい、アステリオスー!近くにいたら出てきてくれ!!」
ぐだ男の呼びかけに少し間が空いた後、部屋の中にアステリオスが姿を現した。
「なん、だ?」
仮面越しのくぐもった声で、アステリオスは己のマスターの用向きを尋ねた。
「お前に用事がある人がいてさ、今から少し話を聞いてあげてくれないかな?」
そう言ってぐだ男が手を指示した方向に、アステリオスは大人しく体の向きを変え、女性職員の方に向き直った。
そのまま一言も発さず、彼女に用向きを尋ねることもなく、ただ静かに、じっと、彼はマスターの頼みの通り、女性職員の言葉を待った。
「あの、私、夕べは、あなたをお化けと勘違いして悲鳴をあげるなんて失礼なマネをしてしまって、本当に、ごめんなさい!」
がばり、と大きく頭を下げて謝った女性職員を、感情の覗けない仮面がじっと見つめていた。>>36「そ、それで、ですね。お詫びの品になるか分からないのですが、これ、私のとっておきの、お気に入りのお店のクッキーです!カルデア内に持ち込んでいた分で、ドクターロマンにも好評でしたので、味は保証されています。ご迷惑でなければ、是非!!」
「え?あんた、そんなもの持って来ていたの?」
「あ、それ、マシュがおいしいって言っていたやつだ。職員さんの私物だったのか」
「大好物なので、買い占めを許されている限界まで買い占めて、持ち込めるギリギリ限界まで持ち込んで、人理焼却前は、このおいしさを共有してくれそうな方に、片っ端から配り歩いていました」
ずいっと、クッキーの入った袋を差し出しながら語る女性職員の姿を、やはりアステリオスは無言で眺め続けていた。
「…あ、すみません。クッキーはお好きじゃありませんでしたか」
しょんぼりと眉を下げて、女性職員がクッキーをしまおうとした時、
「うぅ」
無言を貫いていたアステリオスが、短く唸り声をあげた。
そして、驚いて動きを止めた女性職員の手から、つまみ上げるようにしてクッキーの袋を持ち上げた。
「あ…」
「…いる」
「えっ?」
「なれて、いる、から、き、に、す、る、な」
そう言ってアステリオスは、クッキーの入った袋を持ってのそのそと部屋を出て行った。
「慣れている、って…」
残された女性職員は、呆然とした顔で先ほどのアステリオスの言葉を繰り返した。
(慣れている、って。それって、何度も怖がられたってことで。だったら、私は、本当に、本当に、酷い、ことを)
もしかして己は、想像以上に酷い仕打ちを彼にしてしまったのではないだろうか。
溢れてくる罪悪感と、アステリオスの言葉のやるせなさに、女性職員は項垂れた。>>37
「あー。ま、まあ、クッキーを受け取ってくれたってことは、彼もあんたの謝罪を受け入れてくれたってことだよ!よかったじゃん!!」
重苦しくなった空気を変えようと、同僚の職員が彼女の背中をバシバシ叩いて笑った。
しかし、女性職員は項垂れ続けたままだった。
「うーん、んん…。とりあえず、用事はこれで終わりってことで!ほら、長居しすぎると彼にも迷惑だよ、行こ!ごめんね、ぐだ男くん。なんか最後、暗い雰囲気になっちゃってさ」
「おじゃま、しました」
落ち込んだままの女性職員を押しながら、同僚の職員はぐだ男に頭を下げ、部屋を出て行った。
残されたぐだ男は、静かになった部屋の中で、彼なりに先ほどの出来事について反芻した。
(アステリオスのことは、俺もまだ出会ったばかりで分からないことの方が多いけれど)
(でも、「慣れている」って言ったのは、確かに彼なりにあの女の人を気遣ったからで、一方あの女の人が、「慣れている」って言葉を悲しんだのは、それもきっとアステリオスを思ってのことで)
うーんと、唸り声を出しながらぐだ男は思考を巡らせた。
しかし、いくら考えても今の自分には、二人のことをすっきりと解決させる方法が分からなかった。
「あー!人とか英霊とか関係なく、人間関係って難しいー」
ボフンと、ベッドに突っ伏して、胸の中のモヤモヤと無力感を振り払うようにぐだ男は枕に頭をぐりぐりとこすりつけた。
(でも――)
いつか、そういう悲哀とかモヤモヤとか複雑さを気にすることなく、アステリオスとあの職員が話せているようになればいいなと、ぐだ男は未来に思いを馳せたのだった。
**>>38
**
夜中、消灯が済んだカルデアの廊下を、ある女性職員が懐中電灯片手に歩いていた。
彼女が廊下の角を曲がろうとした時、ぬっと巨大な影が現れた。
「あら、アステリオスさん」
巨大な影を懐中電灯で照らして正体を確認した女性は、親し気にその大柄な仮面の男に話しかけた。
「今日は、再臨前の姿なんですね」
珍しいですねーと微笑む女性に、アステリオスはぬっと顔を近づけてガチャリ、と仮面を外した。
「こわく、ないね」
「?」
「もう、まえみたいに、こわがらない、ね」
にいっと、いたずらを成功させた子供の様に笑う青年に、女性はあっと、声をあげた。
「も、もしかして、私のことをからかおうと思って、その姿に!?ひどい!そ、そりゃあ、今でもハサンさんたちとか、スパルタクスさんに消灯後の廊下で会うと、悲鳴をあげそうになることも、あるにはありますけど。でも、これでも私、大分とましになったのではなかろうかと」
唇をとがらせて抗議する女性職員の様子に、アステリオスは少しだけ考える仕草をしてから、言葉を返した。
「ん、ごめん。こわくないなら、いいなって」
「そりゃあ、さすがに最初の頃からいるアステリオスさんには、慣れましたよ。と言うか、本当に、初対面の時は失礼な反応をしてしまって、ごめんなさい」
同じ廊下で初めてアステリオスに遭遇した時のことを思いだして、女性職員は顔を赤くして俯いた。
サーヴァントをお化けと間違えて悲鳴をあげた挙句逃げ出すなんて、本当にあの時の自分はなんてことをしてしまったのだろうか。
今思い出しても、恥ずかしいし申し訳ない。
「うれしかった、よ」>>39
「え?」
思いがけない言葉に女性職員が顔を上げると、アステリオスがむず痒そうな顔で彼女を見おろしていた。
「ぼくは、あのとき、むかしのように、こわがらせてしまった、ぼくが、わるい、と、おもっていた。けれど」
ゆっくりと、たどたどしい言葉遣いで、アステリオスは女性職員に気持ちを語った。
「だけど、おまえは、こわかったのに、ぼくに、ごめん、って。こわがったせいで、ぼくが、かなしいとおもったから、ごめん、って。わざわざ、マスターにたのんで、さがしてまで、ごめん、って、ぼくに、いってくれて。そんなふうにあやまられたことが、なかったから、ぼくは、あのとき、じぶんでも、どんなきもちか、よく、わかっていなくて」
「でも、マスターとか、えうりゅあれとか、みんなにであったいまなら、わかるから。ぼくは、あのとき、おまえが、あやまりに、きてくれて。こころが、きずつくそんざいなんだと、あたりまえのように、かんがえてくれたのが」
話すのに疲れたのか、ふうと一度小さく息を吐き出してから、アステリオスは恥ずかしそうに笑った。
「とても、とても、うれしかった、よ」
「そう、ですか」
震える声で、女性職員はやっとその一言を絞り出した。
悲しいような嬉しいような、とにかく感情があふれて泣いてしまいそうになるのを堪えるのに必死だったのだ。
「あの、私も、今それを聞けて、嬉しい、です」
震える唇を、それでも心からのものになるようにと彼女は願いながら、笑みの形を作った。
アステリオスに上手く伝わったようで、彼は応えるようににっと歯を見せて笑った。>>40
「そうだ、アステリオスさん」
女性は思い出したように、ポンと手を叩いた。
「外と連絡が繋がるようになったおかげで私、遂にあのお店のクッキーを取り寄せるのに成功したんです!」
「おお」
嬉しそうに報告する女性職員に合わせて、アステリオスがぱちぱちと控え目に手を叩いた。
「よろしければ、明日のおやつ時にでもどうですか?」
「ん。あのくっきー、おいしかった」
こくりと頷いたアステリオスの目は、嬉しそうに輝いていた。
「えうりゅあれやますたーも、よぼう」
「いいですね。あ、ナーサリーライムさんも呼んだ方がいいでしょうか?」
「あと、じゃんぬ・だるく・おるた・さんた・りりぃと、じゃっく、も」
「うふふ。ダ・ヴィンチさんに話を通して、広めのお部屋を確保しておきますね」
「とても、たのしく、なるね」
「ええ、とても」
楽しげに明日の計画を話し合う二人は自然な様子で仲良く横に並び、女性職員の部屋までゆっくり歩いて行ったのだった。
終>>42
お疲れ様でした。
私もssを書き溜めているところなのですが、だいぶ分量が多くなりそうです…
ひょっとしたら別にスレ立てした方がいいかもしれませんね既存設定集めたprototype本編の妄想って需要あるかな?まぁ、鬼門多過ぎるんだが…
>>42
乙ですあげ
SSかあ……自分クロスオーバーが大好物だから
・初代ゴッドイーターのed後の第一部隊と四次組の座談会
・というか切嗣というヨハンに似た相手とどう関わるか
・ガイアの抑止力としてHF√で介入してくるシオ
とかそんなのばっか浮かんでしまうSS書こうとずっと思ってて何回か書こうとしたけど設定纏まらなかったり思いつかなかったりで設定ちゃんとできても文が書けなかったりで上手くいかない。
現在考えてるのはぐだおが鯖としてぐだこに召喚されるやつだけどぐだおが鯖になった理由と宝具で詰まってる>>44
ある
ある程度まとまっているなら読んでみたい>>2 禁書のソロモンってどう考えても魔神ですよねぇ…
>>48設定や理由付けに困っているなら、書きたい場面や思い浮かんだ場面だけまず書いてみるといいかもよ。
召喚シーンでも、鯖ぐだおとぐだこにさせたいやりとりでも、何でもいい。
シーンだけ書いた後に前後を繋げる文を考えているうちに、キャラが何故そうなったのかとも自然と向き合うことになるから、設定段階で詰まっていた答えがすんなり出ることもあるし、とりあえずやりたいシーンだけでもキャラクターを動かすと書いている側もモチベーション上がるので、作品が形になりやすかったりする。
書きたい場面のための設定に詰まっていたなら、見当外れな意見でごめんね。SS書こうとしたことはあるけど上手く文章にできなくて設定だけが固まっていく
>>52
下手でいいのです…
いきなりゴッホのような絵を描ける人間はいないのです…
文章も同じなのです…投稿してます
どれくらいのレス数かは不明
やってみて分かったけど、地の文なしってやっぱりきついんやなと思いました
次からちょっとの間連投します
注意事項としてエリザはCCC要素あり、その他に魔法使いの夜要素ありです
ロビン・フッド「第三霊臨の姿を見せたらドラゴン娘が騒ぎ出した」>>55
ぐだ「変な庭に出た。なんか自然が豊かだね」
ロビン「植物園ってとこか」
ぐだ「変な彫刻があるね」
ロビン「なんだこりゃ。ライオンの頭に鳥の体……? 悪趣味すぎんだろ」
ぐだ「鳥って言ったら、第三霊臨したらロビンの方にコマドリがいるようになったよね」
ロビン「あれは何かなんざ聞かれても困りますがね。勝手についてきやがるからなぁ」
ぐだ「今もいるの?」
ロビン「まぁな、この通り」バサバサ(コマドリが飛び出す音)
ぐだ「かわいいよね」
ロビン「オレはコイツ見てるとなんか気に障るんですがね……。なんつーの、こっちを小馬鹿にしてる感じ?」
ぐだ「そんなことないと思うけど」
ロビン「っと、下らねえ話はここまでだ。マスター、なんか来るぞ」
ぐだ(心構えだけでもしておこう)>>56
???「ぐっ、私が後れを取るとは……」ガサガサ
ぐだ「ディルムッド!」
ディルムッド「マスター!? 御無事でしたか!」
ロビン「おいおい、ずいぶんボロボロじゃねーですか。いったい何があるってんだ?」
ディル「皐月の王……よくぞマスターを守った」
ロビン「いやそういうのはいいんで、何があったかをだな……」
ぐだ「みんな静かに、何か来る音がする!」
ディル「馬鹿な……もう追いついたとでも!?」
ぐだ「何が来るのか知ってるの?」
ディル「はい。マスターは下がっていてください。皐月の王、マスターを頼む」
ロビン「はいよっと。オタクがここまでマジになる奴だ、オレなんかじゃ役に立たねえだろうしな」
ぐだ(音が近づいてくる)
ディル「来い!」スチャ(二槍を構える音)
ぐだ(来る……!)>>58
ウリ坊「ウリー!」タッタッタ
ぐだ「ディルムッドと遊びたいのかな、ディルムッドに向かってるね」
ディル「くっ、なぜ私が狙われるのか……!」
ロビン「なんであんなに焦って……ん?」
ぐだ「あれ? なんか、段々早くなって……」
うり坊「ウリー!」ドゴォッ!
ディル「ぐはっ!」ドサー!
ぐだ「ランサーが死んだ!?」
ロビン「っ、マスター! あいつはマジにやべえ奴だ!」
ぐだ「そうみたいだ! 逃げよう!」
ウリ坊「ウリー!ウリー!」ガッガッガ
ぐだ「地面削りながら走って来てる!?」
ぐだ「ロビン、何かいい手はない!?」
ロビン「一度逃げられりゃ話は別ですがね、正面からってのは得意じゃねえ!」
ぐだ「ここまで使うしかない……!」>>61
――少し前――
ロビン(第三霊臨)「結局オマエはどっから来たんだ?」
コマドリ「チチチ(ジブンにも分からないッス。マイ天使はどこッスか?)」
ロビン「なーんか、言ってることが分かるような、分からないような……」
コマドリ「チチチ(どうにも伝わってないッスねー)」
???「ちょっとそこの緑!」
ロビン「げ、この妙に甲高い声はまさか……」
???「アナタ、いいものを持っているじゃない? それ、寄越しなさいよ」
ロビン「うわ、やっぱりドラゴン娘かよ……。それってのはいったい何のことで?」
エリザ「そいつよそいつ、そのコマドリ。アイドルを引き立てるマスコットに相応しいわ」
ロビン「あー、こいつか」チラッ
コマドリ「チチチ(あれに捕まるのは何かまずいと全細胞が言ってるッス!)」
ロビン「……あー、なんですか。コイツがいやだっつってる気がするからダメだな」
エリザ「何それ? この私(アタシ)への言い訳?」
ロビン「言い訳じゃねえですよ、だいたいオタク、こいつをどうするつもりなわけ?」
エリザ「決まってるじゃない! 私の肩に乗せて一緒に歌うのよ!」
コマドリ「チチチ(いやーほんと勘弁してくださいッス!)」
ロビン「んー、やっぱ嫌がってる気がするんですよねえ……」
エリザ「何よ! そんなデタラメ言ってまで渡したくないってこと!?」>>63
??「随分と貧相な小鳥を肩に乗せているじゃない、アーチャー!」
ロビン「この声は……!」
ぐだ「エリザベート! 何度も出てきて恥ずかしくないの!?」
エリザ「は、恥ずかしくないわよ! こほん、ようこそ、私のテーマパークへ!」
ロビン「マスター、あいつ聖杯を持ってるみたいだ」
ぐだ「そうだね、やっぱり彼女がこの特異点を……」
エリザ「こそこそしてないで私の話を聞きなさいよー!」
ロビン「ちっ、しゃあねえ、聞いてやらないとマズそうだ」
ぐだ「うん、とりあえず聞いてみよう……」
エリザ「それでいいのよ、子イヌ」
エリザ「正直、どうしてこんな場所に来たのか、自分でもさっぱり分からないんだけど」
エリザ「ここで私、素晴らしいマスコットに出会ったのよ!」
エリザ「そんな貧相なコマドリじゃない、素敵なマスコットにね!」
エリザ「紹介するわ! カモン、マイマスコット!」パァァ(聖杯が輝く音)
ぐだ「何かごごごごって聞こえるんだけど……」
ロビン「やぁな予感しかしねえですよ。構えろよマスター、何が来たっておかしくねえ!」
エリザ「さぁ、お披露目よ! 私のマスコット!」>>64
ドラゴン「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
ロビン「ドラゴンじゃねえか!」
ぐだ「しかも大きい!」
エリザ「私はこの頭の上で歌うのよ! どう? 貴族に相応しい演出でしょ?」
エリザ「称賛したくなるわよね? 称賛しなさい? 称賛してよ!」
エリザ「何よその曖昧な笑顔。頭痛がするわ。何の不満があるの?」
ロビン「おいマスター、何かやばそうだぞ」
ぐだ「ロビン、構えて!」
エリザ「私を称賛しないなら消えちゃえばいいのよ……!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」スゥゥ
ロビン「まずい、火を吐く気だ! アレは避けらんねえ……!」
ぐだ「手を!」
ロビン「あ、ああ!」
ぐだ「令呪を持って命じる! あの炎を避けてロビン!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAAA!」ゴォォォ!
ロビン「助かったぜマスター!」
ぐだ「宝具を!」
ロビン「はいよ! 弔いの木よ、牙を研げ! ――祈りの弓(イー・バウ)!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAA!」>>65
ぐだ(よし、命中した! いくらドラゴンでもこれで――)
ロビン「おいおい、マジかよ……」
ドラゴン「GAAAAAAAA!」スゥゥ
ロビン「効き目はなかった! 逃げるしかないぞマスター!」
ぐだ「令呪を持って命じる! かわしてロビン!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAAA!」ゴォォォ!
エリザ「無駄よ! ドラゴンは魔力を纏って防御を上げているもの!」
ロビン「だろうな。せめてそれさえ破れれば話は違うんだが……」
ぐだ「ガンドを使えればよかったんだけど……」
ロビン「いいやマスター、オタクに責任はねえよ。とはいえ、どうしたもんか……」
???「魔力の防御を削ればいいんだな」
ロビン「ああ、それさえできれば――って、何でオタクがいるんだ!?」
???「マスターの危機に駆けつけられずに何が騎士か」
???「このディルムッド・オディナ、マスターをみすみす死なせはしない!」
ぐだ「ディルムッド!?」
ディル「不甲斐ない姿をお見せしたこと、謝罪しますマスター」
ディル「ですが、あの醜態ここで返上してみせましょう」
ロビン「……行くのか? もうとっくにオタクの霊基は――」>>66
ディル「当たり前だ。騎士が主の命より自らの命を優先するわけがない」
ロビン「……なら、こいつを使え」バサッ
ロビン「オレの宝具だ。ドラゴンでも欺けるさ」
ディル「助かる。マスター、アーチャー、隙はおそらく一瞬です。見逃さないよう」
ぐだ「ディルムッド、大丈夫?」
ディル「お心遣い感謝しますマスター。ええ、問題ありませんとも」
ディル「では!」シュバッ
ロビン「さて、ちったぁ援護しますか! こっちだぞ、ドラゴン!」
ドラゴン「GAAAAAAAA!」スウウ
ロビン「また火を吐くだけか!」
ドラゴン「GAAAAAAAA!」ビーッ
ロビン「は? 目からビーム……って、溜め短すぎんだろ!」ゴロゴロ!
ロビン「何とかかわせたが……」
ロビン「威力は低めか……溜め時間と対応してるってことか」
ドラゴン「GAAAAAAAA!」ビーッ
ロビン「二発目!?」
ぐだ(令呪――ダメだ、間に合わない!)
ロビン(当たっても死にゃあしないだろうが、こいつはキツイか!?)>>67
コマドリ「チチチ!」バサバサ
ロビン「な、コマドリ!?」
コマドリ「チチチ!」ジューッ!(ビームに当たる音)
ロビン「な、何してんだ!」
コマドリ「……」プスプス
ディル「有効圏内、行きます、マスター!」
ロビン「――っ、マスター、準備しろ!」
ぐだ「う、うん! 全体強化!」
ディル「――破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!」
ロビン「今だマスター!」
ぐだ「うん! 令呪を持って命じる! 宝具解放!」
ロビン「弔いの木よ、牙を研げ! ――祈りの弓(イー・バウ)!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAAA!!?」ドゴォッ
エリザ「え、ちょっと!? 倒れるの!? ていうか倒れたら私も危ないじゃない!」
エリザ「きゃああああああぁぁああぁあああ!」>>69
ぐだ「ディルムッド!」
ディル「ご無事でしたか、マスター」
ぐだ「無理してたんだね……ごめん」
ディル「いいえ、マスター。私はこの上なく幸福でした」
ぐだ「ゆっくり休んでね、ディルムッド。ありがとう」
ディル「マスター……」
ぐだ「ディルムッドのこと、忘れないから」
ディル「いえ、自分はカルデアに行けばまたいるのですが……」
ぐだ「今日、ここに来たのはさ」
ぐだ「特異点修復よりも、やる気を出して健康診断をしているナイチンゲールから逃げる面も大きかったんだ……」
ぐだ「ここは特異点と呼ぶにはあまりに小さくて、どうでもよかったしね……」
ディル「……なん、だと!?」
ぐだ「カルデアに戻っても、すぐに完全回復ってわけじゃないから……」
ぐだ「……ごめん」
ディル「うおおぉおぉおおぉぉおっ!」スウウ――>>70
ぐだ「ディルムッドのことは見送ってきた」
ロビン「そうか。こっちも穴が掘り終わったところだ」
ぐだ「残念だったね……」
ロビン「ま、勝手について来てただけとはいえ、いなくなられると寂しい部分もあるのは否定しませんがね」
ロビン「ゆっくりしてくれ、オマエのことは忘れないさ」
ロビン「後は穴を埋めてっと」
コマドリ「チチチ!(ちょ、何で埋めるッスか! ジブンのこと死なせる気ッスか!?)」
ロビン「うお、いきなり羽ばたきやがった!?」
ぐだ「怪我も治ってる……!?」
コマドリ「チチチ!(この程度で死ぬと負われてたッスかジブン!)」
コマドリ「チチチ!(いや死んでたッスけど!)」
ぐだ「元気に羽ばたいてる……」
ロビン「何かよく分からねえが、生きてたんならそれでいいか」
ぐだ「そうだね」
ロビン「さて、特異点も修復されつつあるようですし、戻りますかね、マスター」
ぐだ「うん」>>71
ロビン「っと、その前に……」スタスタ
ロビン「このあたりか。おい、ドラゴン娘! と、尻尾が出てるな。引っ張ってみるか」
エリザ「うぐぐ、痛いじゃない! ひどいじゃない!」
ロビン「うるせえ、これだけの騒ぎ起こしたんだ。当然お咎めなしってわけにはいかない」
エリザ「ちょっと、何する気よ! 何よその矢!」
ロビン「そりゃ、引っ掻くんですよ」スッ
エリザ「いった――くない?」
ロビン「オタク、今日はカルデアの健康診断日だって知ってる?」
エリザ「それが何? こほ、私は、こほ、アイドルよ? ゴホゴホ!」
ロビン「さっきの矢は体調を悪化させる毒を塗っておいた」
ロビン「今カルデアに戻ればさぞ献身的な看護が受けられるだろうよ」
エリザ「ごほ、ちょ、ごほ、何言ってるのよ!」
ぐだ「そろそろ戻るみたいだね」
エリザ「いやよ、戻りたくない! ――ハクシュ!」
ロビン「マスター、帰ったら分かってるよな」
ぐだ「うん」>>72
レイシフトが終わり、カルデアに帰りつく三人。
強制的に作らされた列の先頭には逃げたそうな茨木童子の姿があった。
ぐだ「オーダーチェンジ!」
エリザ「え、ちょっと、冗談でしょ!? 冗談よね!?」
ぐだ「茨木童子とエリザベート!」
茨木「何だ!? 逃げてよいのか!? よいのだな逃げる!」スタコラサッサー
エリザ「きゃあぁああ! クシュン!」
ナイチンゲール「風邪ですか。分かりました、まずは殺菌です」
エリザ「ちょっと待って! 待ちなさいよ! それ、どう見ても消毒じゃないじゃない――」
ロビン「ふぅ、これで一件落着ですかねえ」
ぐだ「うん、疲れたね」
コマドリ「チチチ(ジブンも疲れたッす)」
カルデアには一日以上、エリザベートの悲鳴が轟いたという。
ちなみに強制入院されたエリザベートの元には見舞客としてヴラド三世(バーサーカー)が訪れ、
彼女のために肩に乗せる道化を作ったとかなんとか。
それを肩に乗せて歌う姿がちょくちょく目撃されている。
なお、九割の確率で観客はいない。>>73
以上ッス
大体六千字で二十レスくらいでした
これを書いた翌日、バーカーカーヴラド公が来たので、書いたら来る教はガチだと思いましたクロスオーバーの際に大活躍の宝石剣ゼルレッチですが、fgoの存在でレイシフトや特異点という手段が増えましたね。
ちょっと見にくいから行間空けた方がいいかもしれん
PortalとCCCのクロスオーバーでPortal2後のAperturelaboratoryにBBが現れグラドスとお話し(皮肉時々真面目な話)みたいなやつを読みたい…
>>76
最初は開けてたんすよ…
行数制限でレス数が倍になるから消したんすよ…>>79
7章の後すぐに終章だからあかんってのと、
7章と6章の間は明確に期間が空いている(レイシフトの調整云々)というのがあるんじゃないかな
あとは主人公の精神的成長とかのタイミング?みたいな?
うん、自分で言ってて意味わからなくなった>>79ロマニが出てきているやつなら、終章後だとロマニが出せないのはあるかもしれない。
解説兼つっこみ役として彼はかなり動かしやすいと思うから。
それと、終章の後だと人理が救われてこれからお偉いさんへの説明が大変だみたいなことも言及されていたから、特異点ができたとして気軽にレイシフトさせていいものなのか、そもそも修復完了って言っているのに特異点を作っていいものなのかって悩む部分もあったんじゃないかな。
1.5章も始まったし、これからは終章後のオリジナル特異点で考える人も出てくるかもよ。
1章3章の後があまりないのはよく分からん。
ストーリークリア後に追加されるサーヴァントが出したいとか、登場させるサーヴァントが3章以降での記憶を持っている設定にしたい(例:アルジュナが第五特異点での経験を覚えている設定でインドの特異点ネタを作りたい等)とか、単純に書いている側の記憶が新しい分後の章の方が書きやすいからとかがぱっと思いついたけど、正解なのかは本当に分からない。FGO×問題児たちが異世界から来るそうですよ?
箱庭にぐだ達がノーネームに召喚される。サーヴァントはマシュとクラス違いの七騎。
書きたいけど時間が取れないし、笛吹にあるEXTRAとクロスしてる作品の二番煎じになりそう悠久特異点 魔法学園都市 アマノミハシラ
そんな感じのネギま?UQ?とのクロスを考えたことはあった。第1部が終わって平和になった世界でマシュが学校に通って青春する話をください
クロスオーバーだとどこがいいんだろうか、帝丹か空座しか思いつかない自分がいる>>79
別平行世界の冬木の聖杯戦争の勝者組みが特異点Fに飛ばされる話なら考えたことあったなage
マリーとデオンのやつはここでやれよスレ立てする必要ねーよ>>87
1000まで埋まるくらい長いなら良いのではないでしょうか
スレ立て検討スレもあるので一度覗いて見ては如何でしょうか昔SS書いたことあるけどキャラがおかしいだなんだと言われて以後書くのが怖くなり読み専になった
正直SSなんてただの自己満足だからねえ
書いた人は読んで貰いたいと思うけど、大勢は興味すらないわけで、そういう人からすればどんなに長くても1000行く確率の低い単発SSスレなんて不要なわけですよジャンヌオルタとぐだこがぐだぐだと男サーヴァントが攻略対象の乙女ゲームの構想を練る話って需要ありますかね?
『マシュ・イン・ザ・ナイトメア』というプロットが脳裏に浮かんだ。書く予定は無いが勝手に誰か使ってもかまわない。
いつものように霊基のざわつきに従ってランスロットを侮辱したマシュ。流石に見かねたぐだからやんわり注意されて、自分でもよくない態度だと思ったマシュだが、しかし思わず先輩に叱られたことへの反発心が勝りさらにランスロットと霊基に責任を転嫁してその場から逃げてしまう。階段で躓いて倒れ込みながらカルデアの奥への走るマシュ。
気がつくと見知らぬ薄暗い場所におりそこで蹲る狂ランスと同じフルフェイスの鎧を着た影が現れる。
「返して……」と少女の声でその鎧の影が近づいてくる。
「あなたは本当にマシュ・キリエライトなの?」「貴女の意思は貴女の行動は本当に貴女のものなの?」
不気味な鎧姿の影に追いすがられて思わず振り払うマシュ、しかし兜が外れてそこから現れた顔はマシュ自身の顔。びっくりして固まったマシュにその影は「サーヴァントの霊基に操られる人形……返してカルデアを…先輩を返して!」
マシュはその影に「違います!私は…私がマシュ・キリエライトです!」と叫んだときに後ろから光がさして手が伸びてくる、先輩の声は聞こえてそれを掴んだところで…
そこで目を覚ましたマシュ。横ではぐだが手の握っていた。そしてランスやダヴィンチを始めとしたカルデア面々が必死に階段から落ちて気を喪ったマシュの介抱をしていたのだ。感極まって思わず涙目でぐだに抱きつくマシュ。ランスロットにもきちんと謝り、以来、霊基のざわつきが一切気にならなくなった。
……踊り場近くの部屋ではギルガメッシュが蔵に何かの道具を収納していた。ベッドで一緒にくつろぐエルキが「あいかわらず荒良治だねギル」などと言っていたがギルガメッシュは「所詮は雑念、大事なのは意志一つよ」などと優雅に寝転んで酒を飲んでいた。雑なパロディものですが、ネタバレには注意してください
ソードマスターオルタ 誤植編
邪ンヌ「もうなによコレ!文句いってやるわ!」
「ちょっとマスター!どうなってるのかしら!?酷いじゃないの今月号 の私の漫画!」
ぐだ(電話の向こう)「え、ストーリーが?」
邪ンヌ「ぐぬぬ…違うに決まってるでしょ!誤植よ誤植!」
「ほら、オルタがバーサーカー戦の後幻影魔神同盟の1人、アサシンにマスターを攫われた時の台詞!」
オルタ『アイツだけは、許さない…』
邪ンヌ「って台詞が!」
オルタ『パンツだけは、許さない…!』>>94
邪ンヌ「お前がアルタかって何よ!いくら日本人じゃなくて日本語わからないかもしれないとはいえおかしいでしょ!!」
「またやっちゃったとか言うんじゃないわよ!」
ぐだ 「やっちゃったゼ☆」
邪ンヌ「何ちょっとカッコ良さげに言ってるの!誤植はまだあるのよ!」
ぐだ 「えー?彼女いない歴ゼロ年の俺にどんな間違いが?」
邪ンヌ「その次のコマ!オルタの台詞よ」
オルタ『私がオルタだ!』ドンッ
邪ンヌ「って名乗りをあげるキメッキメのシーンが!」
オルタ『私がパルコだ!』ドンッ
邪ンヌ「何で主人公いきなりお店屋さん宣言しちゃってるの!?」
ぐだ 「あ、ホントだ間違ってる」
邪ンヌ「間違い過ぎよ!」
ぐだ 「ははは、やっちゃったゼ☆」
邪ンヌ「腹たつわね、気に入ったのその言い方!?」>>99
アンデルセン「ともかく、次回でソードマスターオルタは最終回だ」
「悪く…いや、より正確に言えば打ち切りだな」
邪ンヌ「何でわざわざ口汚く言い直すのかしら!悪意を感じる!」
アンデルセン「もともと人気はこれ以上ないほどドン底だったが今月号はそれをさらに凌駕する形容する言葉も見つからないほどの不人気でな。四コマ漫画のどすこい金時くんより人気が無かった」
邪ンヌ「そんなに!?でも急に言われても困るわよ!せっかく敵幹部とか出てきて盛り上がってきたのに!」
アンデルセン「アンケート至上主義だからな、人気がないものは仕方ない。『私たちの戦いはこれからだ!』とでもしておけ」
邪ンヌ「でもそれじゃあなんかしっくり来ないのよ…」
「この漫画の場合は敵の大ボス、魔神に味方的なキャスターが囚われの身になってて、毎日ごはんはコンビニのおむすびだけで地獄の如き重労働を強いられてるし」>>100
アンデルセン「おにぎりで体力を回復するどすこい金時くんと被っているな」
邪ンヌ「被ってないわよ!でもほら、これじゃあ打ち切りエンドじゃスッキリしないじゃない。やっぱりラスボスを倒さないと」
アンデルセン「まあ、そうかもしれんな?」
邪ンヌ「しかもそのためには色々と条件が有るのよ。ラスボスの本拠地、バレルタワーに入るためには幻影魔人同盟を倒さないといけないでしょ?そのためには戦力を集めなきゃいけないし。しかもブレイクシステムって奴があるから今戦ってるアサシンは二回倒さないと倒せないのよ」
アンデルセン「労力が増えるだけだろう!?なんでそんな設定を作った!」
邪ンヌ「宝具ターンまで引き延ばそうかと思って…」
「あと、新宿には別のアヴェンジャーと探偵が潜んでることを第1節から仄めかしてるんだけど」
アンデルセン「(呆れている)…上手く纏めろ」
邪ンヌ「(なんか冷たいわね…)で?最終回は何ページ確保できてるの?」>>102
ソードマスターオルタ 〜全てを終わらせる時〜
オルタ『うおおおお!喰らえ、エクスカリバー・モルガーン!!』バン
新アサ『さあ来いオルタ!俺は実は一回倒されたら消えるぞ!』
新アサ『バ、バカな…!こんな所で!』スゥ....
アーチャー『アサシンがやられたようだね』
エミヤ『奴は我々の中でも最弱…』
アヴェンジャー『グルル…(オルタ如きに負けるとは我々の面汚しよ…)』
オルタ『モルガーン!』ドバ-
みんな『ぐあああ』スゥ...
オルタ『遂に幻影魔人同盟を倒した…残るは魔神、貴様だけだ』
魔神『待ちくたびれるところだったぞ』
『戦う前に言っておく。貴様らは戦力を集めなければ私を倒す事ができないと思っているが、別に単騎でも倒せる』
オルタ『何、だと…!』
魔神『あとマスターはCBCガチャを回しにカルデアに帰ったしキャスターは過労で倒れたから病院に送っておいたぞ。後は私を倒すだけだな』
オルタ『ふっ、上等だ。私も一つ言っておく…新宿に巌窟王と名探偵が潜んでいる気がしたが、別にそんなことは無かった!』
魔神『そうか』2017/03/28から書き込まれていないこんなスレがあるんだゾ
期待あげ
SSスレがあったなんて……
即興で書くので時間がかかります……
私がその男と出会ったのは齢が十七になり少しずつ少年から青年へと変わっていっている多感な時期であった。
いつもよれよれの帽子とよれよれの服を着てこれまたよれよれなマフラーを愛着する生活無能力者であるものの、その釣り上がった目と鋭い眼光からはその白髪も合わさって一人風に佇む狼のようにも見えた。
性格は皮肉屋であり人の気にしていることを何の遠慮もなく指摘し、正論で相手を叩き潰すことを厭わず、遠回りな言動で私を惑わすことを好み、笑い方が悪役その物。 おまけに煙管で噴かした煙を時々私の方へと吹きかける。 これがまた私の腹を煮えたぎらせる。
そんな私に言わされば最低最悪という字を鍋の中に煮込んで三日熟成させてできたような男と奇妙な縁が出来たのは大正と呼ばれる日本が大きく成長を迎えていた時代、私の住んでいる帝都で奇妙な噂と事件が広まっていた時であった。>>106
「ここの喫茶店のオムライスは最高よね……」
「姉さん、口に赤いのついてる」
「ケチャップよ、ケチャップ」
その日私と姉は学校も休みとあって行きつけの喫茶店で昼食を摂っていた。
当時乱立していた料理店をあちらこちらと食べ歩いている姉のお気に入りと言うことで、中々の美味であり料金もなかなか安い方である。
オムライスと言う料理に女性とは思えぬ食欲で掻き込んでいく姉の様を見て未だに許嫁としてもらってくれる家が無いことに納得しつつ、一足先に食べ終わっていた私はフルーツへと手を伸ばしていく。
姉は私と一つ違いであり高等女学校に入学して女性としては珍しく大学への進学も決まっている才女であった。
赤栗色の髪の毛と目をしたやや童顔の姉は、その童顔と比べてやや成長しすぎている胸も合わさって身内視点から見ても美人の類なのは間違いないが、その男勝りな性格で男より女に好意を抱かれやすく、本人にも全く異性に興味を示さない。
肝心の両親もそれはそれは蝶よ花よと育てた姉を離したくないらしく、私には早く嫁を貰えと言う癖に姉には嫁に行けなんて一言も言わず縁談さえも断る始末である。大正期待上げ
>>107
そんな姉の将来を心配しながらぶどうを一粒口の中に放り込んでいると、ようやくオムライスを食べ終えた姉が口を拭きながら何気ない会話と共にある噂を口にした。
「そうそう、この頃行方不明の事件が多発しているそうじゃない? ある日煙のようにご令嬢や御子息の姿が消えてしまっていくら探そうが髪の毛一本見つからないんですって、妖怪の仕業かしらね」
「へぇ、姉さんが噂話とは珍しい、この前妖怪なんて馬鹿らしいって化け学の本を持ちながらオレの小説を大笑いしたの人とは思えないぐらいだ」
「あら、人の揚げ足を取るからそんなに背が伸びたのかしら? いつの間にか私より大きくなって、生意気ね」
そういうと姉は自分の頭に手を乗せながら恨めしそう私の背をにらみつける。 幼少のころは姉の方が背が高く私の頭に乗せて勝ち誇っていたのだが、背の順が逆になった途端事あるごとに私の背の事で恨み節をぶつけてくる。 姉曰く背の高さも威厳にかかわるらしいが、こればかりはどうしようもなかった。
「まぁ、そのことは置いといてあんたも気を付けなさいってことよ、妖怪の仕業だろうが人間の仕業だろうが人が消えているのはどうやら事実らしいし」
「やけに詳しいね」
「巡査さん達がよくそういって帰りを送ってくれるからいつの間にか覚えてしまったのよ」
そういう事かと、私は納得した。 なるほど人当たりの良い姉は町の巡査たちにも人気らしい。
もっとも私には巡査たちの方が下心が見え見えで姉には危険のように思えた。 行方不明もどうせ駆け落ちか何かに決まっている。おぉ始まってる
>>109
自由奔放、奔放不羈な姉から言わせてみれば世の中の男子や女子の行方不明は人が攫われるか妖怪から襲われるかしか想像出来ないのであろうが、私の時代は結婚相手は親が決めるものである。
時には生まれてから物心つくまでに結婚相手が決まっていることだってあるのだ、それに耐えきれない男女が家から僅かな財産を持ち去って遠くへ駆け落ちすることだって珍しい事ではなかった。
そのことを姉の立場が特別だということを付け加えて私が口にすると。
「そんなことは分かってるの。 でも目の前の女子が物陰に入った瞬間姿が何処にもいなくなったところ見たっていう巡査さんもいたのよ? なんだかわくわくしてこない?」
「オレの事を心配してるのか、わくわくしているのかどっちだ」
結局自分が気になっているから私に聞かせているだけではないか、しかもワクワクとはなんなのか。 さっきまでの言葉とは正反対の事言いだした姉に思わずため息が出た。
「無論心配しながらワクワクしてるわ。 可愛い弟を守るのも姉の務めなのよ? 絶体絶命の弟に颯爽と駆けつける姉! どう、かっこよいでしょう?」
「それなら事あるごとに弟を顎で使うことを止めてくれた方が手っ取り早く感謝されると思うけど……」
「可愛い子には旅をさせよって良く言うでしょ?」
「あのなぁ……」
「ま、あまり人通りのない所を通らないよーに。 そのことで巡査さん達もピリピリしているってのも事実だしね。 姉の忠言口に苦し耳に痛し」
そういってもうその話に興味が無くなったのかサイダーを飲みながら給仕に会計を頼む姉に、あまりの傍若無人さに更に溜息が出たことを覚えている。
だが此処で姉の言うことを一片でも覚えていれば私は何事もなく只の平和を満喫することが出来ていたことであろう。 人生とは全く何があるか分からない。
すいません、今日は此処まで……改行しないとちょっと読みにくいかな……
個人的にはこのくらいでちょうど良いな。
改行しすぎてテンポ悪くなってもアレだしいきなりすみません。
現在立ち絵のみで未実装のキャラクターがメインの凸凹すちゃらか珍道中的中長編を書いているところなのですが、需要はありますでしょうか?>>115
ありがとうございます。現在マジカルサファイアの口調がよくわからず苦労しているところなのでがんばります。>>111
「あのう……お代が八円四十銭になっておりますが……そのう……」
姉に呼ばれて会計に来た割烹着の上にフリルを付けたメイドが伝票を見るとその眼を丸くして私達を交互に見る。
どうやらまだ学生の二人が払うには少しばかり高い料金だったらしくそのメイドの目にはもしや無銭飲食の類かという疑いをその眼の奥に潜ませている。
「あぁ、間違わってないわ。 はいこれ、お釣りはとっといて」
「えっ、ええ!? あっありがとうございました!?」
一方の姉は当たり前とばかりに懐から十円ばかりを取り出すとメイドの手に乗せてそのまま出入り口まで歩いて行ってしまう。
まさかの事態にメイドは両手に乗ったお金の量にあたふたとするばかりである。
「さっきの子新人さんかしら? 結構常連なんだけど」
「普通の人間なら八円も飲み食いに使ってたら驚くっての」
そういいながら私達が出入り口のドアに近づくと近くに立っていた紳士服を来た男がドアを開けて私達を通して、丁寧にお辞儀をしながら見送っていく。
外を見ると空は鉛色の曇天であり、今にも雨が降り出しそうな天気であった。
「あらら、一雨降りそうね。 傘、持ってくればよかったかしら」
姉が空を見ながら呟く。 料理店に着くまでは晴れていたので傘持っていなかったのでこのまま降り出したら二人とも濡れてしまうのは確実である。 ここから私の家までは歩いて三十分もかかる距離であった。
「お嬢様、お嬢様ー!」
どうしようかと二人悩んでいると私達の前に一台の車が止まると、中から一人の老人が出てきた。
すいません明日早いので今日はこれだけです……因みにこの時代のカレーは大体十銭程度。某野球も出来るギャルゲーの裏サクセスで、一円の価値に驚いたのを思い出す。(あれは明治だったけど)
支援>>117
「あら? 居場所伝えてたかしら?」
「お嬢様たちならこちらにいらっしゃると思いまして……」
そういって笑う老人は私達の家に仕えている使用人であった。 私達が小さい頃から私の家にいる使用人であり、我が家では一番の古者であった。
齢は六十を超えており長寿であったが、その姿は私の小さい頃から老人でありその外見は皺ひとつ変わっていない。 噂では私の父の頃から老人であったらしい謎の老人でもあった。
「さっすが、我が家の長老ね……何時の間に車の運転なんか覚えたの?」
「ほっほ、人間やればできない事はございません。 さ、雨粒が落ちる前にお車に……」
「あぁ、オレはいいです。 帰りに買いたい本があるから先に姉さん送ってやって」
ドアを開けて待っている使用人に手を振って遠慮すると、先に車乗った姉が怪訝そうな顔をして私を見た。
「別に車で寄っていけばいいじゃない、濡れるわよ?」
「いいよ、帰りは円タクに乗って帰るから」
円タクとは市内を一円均一で乗せていってくれるタクシーの事である。
しつこく私が断ると姉は何か閃いたらしく口元を抑えながら私に向けて何かを察するような目線を向けた。
「あー……なるほどねぇ……アンタも男だものねぇ……」
「何を勘違いをしているか知らないけど姉さんが想像していることは絶対ないから」
「分かった分かった! じいや行きましょ、年頃の男にはそれ位の一つや二つしなきゃね!」
すいません、冗長になってますがやっと話が進みます……本文と作者さんの言葉の間に一行開けてくれたら区別がついて分かりやすいかなって
無理なら大丈夫です
面白いです支援>>119
そのまま姉は耳まで届きそうに口をにやけさせながら使用人に車を走らせると、
「隠すときは蔵に隠しなさいよー」
と大声で余計な事を言いながら窓から手を振って姿を消していった。
周りの通行人が変人を見る目で私を見るので私は急いでその場を離れなければならず、私は姉を怨みながらその場を後にすることになった。
私が買いたかった本はそんな春画でも何でもなく、当時安価で提供されていた円本という類の本であった。 一冊一円、全本予約制ではあったが本が一円と言う安さで手に入る魅力と比較するとそんなものは気にもならない。
姉はそんな私を見て「普通に買えばいいじゃない」と何とも不思議そうに首をかしげたものであるが、私は姉のように食事に十円を気軽に出せるほど太っ腹でもなかった。
太っ腹と言うと姉は決まって私を殴るので口には出さないが、十円と言うと大学出の初任給のおおよそ二割である。
そして今日は予約していた円本が入荷する日であった。 本が雨に濡れるのは勘弁したいが、外套に隠せば良いだろうし、帰りは円タクで良い。
私は今にも走り出そうとする気持ちを抑えながらゆっくりと優雅に行きつけの本屋へと足を進めていった。>>120 すいません、行数制限を気にするあまり……
>>121
「おじさん、予約してた本入ってる?」
結局抑えきれずに走って本屋へと突撃した私が息を切らしながらそのドアを開けると、古本と新本が混ざった匂いが私の鼻孔を擽った。
私の背丈以上の本棚にこれでもかと詰め込まれた本たちが、手に取ってくれと私を誘惑しその題名をひときわ輝かせている。
江戸時代から続いていると店主が豪語しているこの本屋は正に本の虫達の楽園であり、その虫たちを掴んで離さない虫食い草でもあった。 此処に会って此処にない本は無いと言うぐらいに本の品ぞろえが豊富であり中には外国語で書かれた本もある。
「おじさん……?」
だが、肝心の店主が何処にもいない。 店主を呼んでも返事は、ちょうど他の客もおらず店内は私一人であった。
「また本の修繕でもしてるのかな、おじさーん?」
常連であり、店主と見知った仲である私はそのまま店の奥へと入っていく、すると部屋の中から誰かがすすり泣く声と共に話し声が聞こえてくるので私はつい立ち止まってしまった。
「私が悪いんです、私がせがれにお使い任せたばっかりに狙われて……」
「誰もお前を責めはしない、知りたいのはそのせがれがいつこの店を出て、何処に行こうとしたのかだ」
部屋の中から聞こえる声は二つ、一人は店主の声であるが、もう一つは聞き覚えがなかった。
その声は泣きじゃくる店主と比べて冷静で淡々としておりあまり感情を読み取れない何処か冷たい印象を私は感じていた。
「その時は、昼間、十一時ぐらいで……切手を買いに行かせに郵便局にもう大きくなったから郵便局までなら一人でも大丈夫だろうと……あぁ五円も持たせたから、うぅ……」
すいません今日は此処までで……次でやっと探偵との出会いと非日常への突入に……多分……桜「私のターンから行きますね・・・。私は、沼をセットしてから1マナで暗黒の儀式を唱えて、マナプールに3マナ加えます。そして、この3マナを使ってファイレクシアの抹殺者を召喚!トランプル持ちだからチャンプブロックを貫通しますよ?姉さん、これで先輩とのデートの権利は私のものですよ?うふふ・・・。」
凛「1ターン目から5/5でトランプル持ちなんて困ったわね〜(棒)」
桜「随分と余裕ですね・・・。4ターンです、4ターンで姉さんを血祭りにあげてみせます・・・!」
凛「では私のターン。山セットしてから1マナで抹殺者に稲妻。ところで桜、抹殺者のテキストの続きってどんな感じだったかしら?(ゲス顔)」
桜「・・・抹殺者が受けダメージの数値分私のパーマネントを生贄に捧げる(小声)」
凛1-0桜落陽の英雄達
龍の憤懣
敗北者達 生死の境界
龍脈回路
嵐に沈む不沈艦
――日の本全ての悪――
緋牡丹 終末の将軍
鋼の心
「ゲンジバンザイ」 罪歌の雷
奪存被名の大蛇斬り
皇紀2671年、【大和激震殲争】
正義を語れ。落陽の地に住む者よ。
――not to be continued.>>122
どうやら取り込み中だったらしく、出直そうと私が後ずさりをしたときに丁度後ろにあった本の山に当たってしまい、振動を受けた高く積まれた本が次々と私の頭めがけて落下して来てしまった。
「うわっうわわっ!?」
「……誰だ」
当然その私の頓狂な声と物音は部屋の向こうにいる人間にも聞こえてしまい、勢いよく戸が開かれ二つの顔が本に埋もれてしまった私を見下ろした。
「……何だ?」
「いやっ、あのっ。 立ち聞きするつもりは無くて……」
一人の男が私に近寄ると顔を寄せて、まるで珍獣を見るかのような目で眉をしかめた。
癖のある銀髪に金色の目をしておりこの国の人間ではない異邦人であり、その風貌は私に一人月夜に佇む狼を思わせた。 よれよれのコートによれよれの西洋帽子を着用し、私を覗き込む姿勢からして長身であり細身の体つきをしていた。
「坊ちゃん? あぁそうか今日は円本の……」
本屋の店主が私を見ると、少しだけ驚いた顔をすると目の前の謎の男に怪しい物ではないと告げる。
「知り合いか?」
「はい、この店を贔屓にしてもらっていておりまして……」
「坊ちゃんか、ククっなるほど良い身なりをしている」
そういうと、謎の男は煙管から吸い込んだ煙を私に向けて吹きかける。 その嗅ぎなれない強烈なにおいに私は大いに咳き込むとその様を面白そうに見ていた男を睨みつける。
「ごほっ!? なん、なんですかあんた!」
「フン、はずれだな。 とても誘拐なんて真似はできん顔だ」
「は、はぃい!?」
それが後に納豆が腐るほどの縁になるこの探偵と名乗る謎の異邦人と私の最初の出会いであった。
↑すいません、今日はこれだけで……ひゃっはー!
脳内にしたためた妄想を投下するぜー。
元ネタはこのサイトでも取り扱われた、ランスロットと武蔵の二次絵より。>>129
(この女性、なんという目をするのだ。どれほどの修羅を潜り抜け、死線を交わせば、これ程鈍色のひかりを目に宿すというのかー)
ランスロットが武蔵について思案していると、当の武蔵は、何を思ったか廊下の端に寄り、腰を屈める様な姿勢をとった。
突然の行動に虚を突かれたランスロットであったが、やや遅れて、彼女が道を譲ってくれているのだと思い至り、衝撃を受ける。
(な、なんという謙虚さかっ!これがYAMATONADESIKOというものかー!
あまりにも可憐だ。是非叶うならばお茶に…)
その彼女の可憐さに、感極まったランスロットではあったが、その思考は唐突に断絶する。彼の顔に、何か柔らかいものがぶつかったのだ。
そして、それがさっきまで彼女が抱えていた、芋の入った袋だと気づくのと、>>132
どちらか片方を防ぐならば、まだ納得のいく話だ。だがその両方。左右から同時に襲い来る刃を両とも防ぎきるとは、一体どういう離れ業だというのか。
「レ、レディ?これは一体どうした事でしょうか?」
それをやってのけたランスロットは、当惑の表情を浮かべていても、驚きはしていない。
まるで、武蔵の剣など驚くに値しないとでも言うようではないか。
そう思ったとき、武蔵の心の中に、僅かばかり湧き上がるものがあった。
「……」
「失礼、レディ。そろそろこの刀を下げてはくれないだろうか。」
彼の言葉を受けて、武蔵も振り抜いた腕を脱力し、ふた振りの刀を鞘に収める。
カチンという刀に鞘が収まった小気味のいい音が響き、空気がやや弛緩する。>>134
「まあ、厳密には違うんだけどそうみたいねー。いや有名人だから、最初はマスターに驚かれたもんよー。『え、宮本武蔵が女!?またですか』ってね」
「貴女もでしたか。我が王も、召喚された際にはマスターに大変驚かれたそうですよ。かのアーサー王が女性だったなんてと。」
はははと二人で朗らかに笑いあうと、二人の間に和やかな空気が流れる。先ほどまでの逼迫した空気が嘘のようであった。
それゆえだろう、ランスロットはつい口がいつもより回ってしまった。
「いやしかし、これがちょっとした戯れで良かった。あれ以上続けば貴女を傷つける事となっていた。いくら剣士とはいえ、女性を傷つけたとあっては騎士失格ですからな。」
瞬間、空気がガラリと豹変した。
「…へえ、それはつまり戦おうと思えば、私なんか簡単に下せると、そう言いたいのかしら?」
「え、いや…」
しまった、という表情を浮かべるランスロットに対して、武蔵は鋭利な笑みを浮かべる。>>135
「じゃあ、実際に試してみようじゃないの。私の刀と貴方の剣、どちらが上かしら。」
言いながら、スラリと腰に帯びた刀を抜く武蔵に対し、ランスロットは待ってほしいとばかりに両手を広げる。
「武蔵殿、わたしはその様なつもりで言ったのでは無くてですね、女性を傷つける様な事は騎士にとって恥であるが故に戦えぬと…」
「ほう、つまり女は傷つけずとも侍としての誇りは穢しても良いと?」
「……」
武蔵の刺すように返した言葉に、ランスロットもこれ以上反論は返せない。否、言葉で解決するつもりなど、武蔵には元から無いのだ。
「さあ、剣をとれ乱素人。同じ得物を持つものとして、侍を辱めるな。」
ランスロットは彼女のその眼差しを受け止めると、やがて観念した様に剣を構えた。
「…ふう。一合だけ、お付き合いしましょう」>>137
楽しみです! ワクワクしながら待ってます!>>125
数分後私は店主から出されたお茶を啜りながら謎の男の事情聴取を遠目で見ていた。
店主に聞くとその男は探偵らしく、話によると道を歩けば事件に当たる事件誘発性の名探偵らしい。
うさん臭さもここまで来ると逆に清々しいものだが、実際に見てみると事件に対する執着心は本物らしく事件当日の事から、対象の日々の行動まで隅々まで聞き出してメモ帳へと書き込んでいっていた。
探偵は本屋の店主に雇われているわけではなく、自主的にこの短期間に失踪した被害者全員に聞きまわっているらしく、店主で五人目らしかった。
「今回の失踪事件にはいくつかの共通点がある」
一通り店主から聞き終わった後探偵は煙管から煙を噴かせながら口にした。
「一つ、裕福な生まれの出であること。 一つ、年が十五から十七の間であること。 一つ、大金を持ち歩いていたこと、これには大差があるがおおよそ五円以上である」
手帳を捲りながら、探偵はぼろぼろの鉛筆を取り出して机の上に置かれていた地図に何かを書き込み始める。
「今回の被害者はまだ十になったばかりの子供であり、裕福の生まれでもない、当てはまるのは五円と言う金を役所へと持っていく途中だったということ。 一時期は別口の犯罪かと思ったが……」
そういって金色の目を店主へと向けると、地図に丸で囲んだある場所を鉛筆で叩いた。 そこは表通りから裏道に入った狭い通路であり、建物に囲まれた所謂裏路地というあまり日も明かりも入ってこない場所であった。
「だが、此処の路地を良く近道として使っていたという店主の証言が引っかかった。 ある将校から聞き出した情報によると、今まで行方不明となった被害者たちは消える直前まではある地域にて目撃証言が多々報告されている。 それが……」
ごめんなさい、今日はここまでです……>>150
ガチガチの斬り合いだと思った?
残念でした、日常ギャグ系ssだよ!
という事でご閲覧ありがとうございました。
出来れば感想など聞かせていただければ幸いです。
ランスロットにだけ厳しいマシュ可愛い。- 152名無し2017/04/14(Fri) 09:03:44(1/1)
このレスは削除されています
>>139
「此処から、此処までの範囲内だ」
「これって……」
探偵が印した場所は、いなくなった店主の息子が良く通っていたという裏路地を含めた市役所に通じる範囲であった。 思わず私も店主と一緒に地図を覗き込んでしまう。
「今回の事件はこれまでの失踪者との共通点の少なさを含めて、被害者は巻き込まれたのだと推測している。 おそらく人通りのない裏路地での犯行を目撃してしまったのだろう」
「それで、うちのせがれは攫われたと……?」
探偵は頷きながらも店主の今にも崩壊しそうな目頭を見つめてこう付け加えた。
「そしてもう一つ。 正直に言おう、今回の被害者が生存している確率はかなり低い」
「そ、そんな……!」
その何の気負いもない淡々とした探偵の言い方に店主の顔が絶望に染まっていく。
「犯人からしてみれば何の利用価値もない子供、生かしておく方が犯人たちのリスクが高まるのは必然だ。 今頃は川の底か、もしくは森の中かもしれない」
「ちょっと! もう少し言い方ってものがあるんじゃないですか!」
店主の顔が真っ青に変わっていくにつれて、あまりの言い方に我慢がならなかった私は探偵へと突っかかっていくが、探偵は私には一目も移さずにただ店主を見つめていた。
「どうする? そちらが望むのならば死体であっても見つけて連れて帰ることを約束しよう。 だだし依頼として金は頂く」
「お前っ……!」
人の命を何とも思わない言いぐさに、思わず私は頭に血が上り探偵のそのよれよれなコートをさらにしわくちゃにする様に掴みかかったがそれでも探偵は私は眼中にないという様にただ店主だけを見つめていた。
店主は青ざめた顔を掌で覆いながら、呟くように答えた。
「お、お願いします……」
「おじさん……!」
すいません、今日もここまでで……>>153
「こ、このまませがれが無事に帰ると信じて待っている方が楽でしょう。 で、でもそれ以上に私のせがれが惨たらしくどこかの道に投げ捨てられているのかもしれないと考えると私は耐えられないのです……責めて、せめてその体だけでも……だけでも……」
もしかしたら店主自身がもはや心のどこかで分かっていたのかもしれない。 小さな子供が何日も姿をくらませて無事に帰ってくることなんて有り得ないのだと。 そう思いながら諦めきられなかったのは親の心その物であろう。
喉の奥から声を必死に絞り出しながら探偵に震える頭を下げる店主を見ながら、私はどうしようもない無料感を感じ、掴んでいた探偵の服を離すしかなかった。
ふと屋根に雨粒が落ちる音が聞こえたと思うと、次第にその音は音量と数を増していき、ついに雨となって店主の嗚咽をかき消すように勢い強く振り始めていった。
「承知した。 必ずお前のせがれは連れて戻る、それがどんな形であれ約束しよう」
そういって探偵は少しだけ心ばかり優しく微笑むと、外套を翻して雨が降っているにもかかわらず傘も差さずに店外へと出て行った。
自分が追い詰めた癖に、と私は探偵の微笑みにむしゃくしゃした胸糞悪さを得ると同時にあの探偵もまた人間なのだとどこか安心している私もいた。 雨は勢いを増すばかりである。
書き貯めせずに書くと展開が二転三転してぐちゃぐちゃになっちゃいますね……>>154
その後の私と言えば、店主に気の利いた言葉一つもかけること事も予約した本を受け取ることも出来ずにただ家への帰り道を歩いていた。
円タクを使う気にもなれず、傘に落ちる雨粒の音と濡れた煉瓦とアスファルトの濡れた匂いを嗅ぎながら一人歩いていると店主の涙にぬれた顔が頭をよぎって追い出すように顔を横に振る。
自分が出来ることは何もない。 それは自分でもわかっている、立った齢十七の小僧に何が出来るというのだ。
そう思いながらも自分の息子を死体でも良いから連れて帰ってほしいと言った父親の気持ちを考えるとやるせない何かが私の胸を締め付けるのだった。
「あの探偵はどうしているのだろうか」
ふと、この雨の中傘も差さずに一人姿を消した探偵の事を考える。 全く信頼して良いのか分からない人物であったが、店主の依頼を受けた時の顔と言葉にはどこか安心感があった。
白い髪と金色の目をした異邦人、あの探偵は必ず見つけてみせると言った。 しかしどうやって見つけ出そうというのだろうか、何の証拠もない行方不明事件警察でも軍隊でも手を焼いている事件にたった一人の奇妙な男が解決できるというのだろうか。
「ふぅ……」
だが、何が起こるにせよ私が蚊帳の外なのは変わりない。 心に圧し掛かる無力感を払拭するように大きなため息を吐くが余計心が沈んでいくようで楽にはならなかった。
「ぼっちゃん……」
そんな時であった。
一日一投稿……懲りずに投稿するぜ!
槍種火を回ってて思いついたSS
apo後のモーさんとSN後のセイバーが膝を合わせたらどうなるだろうという妄想。
あと、自分の中で士郎とセイバーの絆、ぐだ男とアルトリアの絆の差異をはっきりしておきたいなって。>>156
あ、時系列的には5章〜6章の間です。
浮遊するような、落下するような、矛盾した感覚を抱きながらゆっくりと目を開ける。
シュインと、コフィンの扉がスライドすると、ぐだ男の目には見慣れた景色が映る。
赤く燃えた巨大な地球儀。藍と黒で縁取られた幾何学模様の壁。ここはカルデアのレイシフト場だ。
何となく視線を管制室の方に向けると、ガラス越しにロマ二・アーキマンが笑顔で手を振ってくるのが見えた。
『ご苦労様、ぐだ男くん、マシュ。それとサーバントの皆さん。きょうの演習はこれで終了だ。後はそれぞれ休んでくれ。』
狭いコフィンから這いだし、マイク越しにロマンの朗らかな声を聞くと、ホッと一息安堵の息が漏れる。>>158
「お疲れ様ですマスター、マシュ。えぇ、最近の貴方の指示は精度が上がってきている。マシュと共に、マスターも大きな成長を遂げているようだ。」
ブリテンの騎士の王、誉も高きアルトリアだ。
今日の演習は、アルトリアを始めとした剣の英霊達との演習だったのだ。
「アルトリアもお疲れ様。そっか、やっぱりアルトリアに褒めてもらえる自身がつくな。英霊達に俺なんかが指示を出すなんて、最初は思ってたんだけど…」
ぐだ男がそう言うと、アルトリアはやや呆れた顔で自身の腰に手を置いて、言葉を遮る。
「まだそんな事を言うのですか。貴方は最初から、自分に力量が足りないと理解しながら、自分にできる全力を尽くしてきた。その事を卑下する英霊など一人も居ないと言ったでしょうに」>>160
「えっと、その…あの…」
言い淀むモードレッドに、アルトリアは先ほどとは打って変わった無表情で言葉を返す。
「モードレッド卿か。槍の種火演習ご苦労だった。剣の英霊の中で全体宝具を持つのは、カルデア内では私と卿のみだ。その宝具はマスターにとって大きな助けとなろう」
「いや…そうじゃなくて…!」
「他に何か?」
明らかに何か言いたそうにしているモードレッドに、アルトリアはあくまで事務的に言葉を返す。
「…っ!いえ、王からのお言葉、ありがたく拝領致します。」
「そうか、では戻って休むがいい。明日からもマスターの力となれるようにな。」
アルトリアの言葉に、モードレッドはギリッとぐだ男の所まで聴こえる程の歯ぎしりをして、堪えるようにして1人でレイシフト場を出て行った。>>162
数日後、
ぐだ男がマイルームで紅茶を準備しつつ、人を待っていると、やがて扉をノックする音が聞こえた。
ぐだ男がどうぞー、と声をかけると電子扉が音もなく開き、アルトリアが入って来た。
…鎧姿でマントを羽織る完全武装である。
「マスター、部屋を尋ねるように、と言われて来ました。一体どの様な要件でしょうか。」
「あ、ああいや、そんなキチンとした事じゃ無いんだ。ただアルトリアとお茶をしようとしただけだよ。」
「は、お茶を?」
アルトリアが呆気に取られたようにぐだ男を見て、次いでその視線がテーブルへと向けられる。
そこにはティーポットと、空のティーカップが2対。そして中央には色取り取りな洋菓子が置かれている。>>163
「うん、だからそんなに鎧を着込まないで、もっと気楽にして。」
慌てるように言うぐだ男に、アルトリアもとりあえず魔力で編まれた鎧を消すことにする。
「さあさ、座って座って。」
「…しかしマスター。もし私と二人で話をしようと言うなら、私にお茶菓子は必要ありません。ここの英霊たちは既に、充分な魔力を施設から貰っています。食事による魔力供給は必要無いのです。」
お茶の席に着きながらも、苦言を呈するアルトリアに、ぐだ男は苦笑いをしながらも言葉を返す。
「うん、まあアルトリアならそう言うと思ったけどね。でもそう言わないで楽しもうよ、普段のお礼も兼ねてるんだから。それに、今日はエミヤご謹製の洋菓子だよ。」
エミヤと言う言葉を聞いて、アルトリアは少し目の色を変える。>>164
「ほ、ほう。彼の作ったお菓子であれば、さぞ味は素晴らしいのでしょう。しかし彼は洋菓子まで網羅していたのですか。」
「うん、ナーサリーにねだられたらしくてね、最近手をつけ始めたんだって。私の本領では無いのだがね、なんて顰めっ面をしながら楽しそうに作ってるよ。」
アルトリアはあくまで冷静な風を装っているが、それでもチラチラとお菓子の方に視線が行ってるのを、ぐだ男は見逃さなかった。
ぐだ男は自然な仕草で、ティーポットの紅茶をアルトリアのカップに注ぐ。次いで、受け皿に適当に洋菓子を並べると、アルトリアの前に置いた。
それを受けたアルトリアは、少しだけ悩むような顔をしていたが、やがて諦めたようにフウっと息を吐く。
「仕方ありませんね。彼に菓子を用意して貰って、マスターにお茶を注がせたのであれば、無碍にはできません。ありがたく頂きましょう。」
ぐだ男はニッコリと微笑む。アルトリアがエミヤの料理を口にする時、口元を柔らかく綻ばせる事を、彼は知っているのだ。>>166
ぐだ男の質問はあまりも愚かしいものだったろう。なにせ、自分が大切に守ってきた国を滅ぼした最大の要因だ。本来ならば、その場で斬りかかったとしてもおかしくないはずだ。
しかしアルトリアは、穏やかな声で「いいえ」と言った。
「確かにモードレッドの行いは許される物では無いのでしょう。ですがあれは同時に、国民達の真意でもあった。例え彼女が叛逆をしなかったとしても、結末は同じだったのです。国が滅びた最大の要因は、民たちの悲鳴を聞けなかった私にあった。」
「…そっか」
アルトリアの言葉に、ぐだ男は頷くことしか出来ない。結局のところ、国を一つ背負ったことのないぐだ男にはそれを批評する事など出来ない。
アルトリアを王としてではなく、一人の女性として見る事が出来ればまた別なのだろうが、それはまた別の者の役割である。>>167
とにかく今は、アルトリアはモードレッドを恨んでいない、ということが分かれば充分なのだ。
「…じゃあ、モードレッドと仲良くする事は出来ない、かな?モードレッドが、我が王憎しだけで声を掛けてるわけじゃ無いのは、アルトリアも気づいているだろう。」
「そうですね、それは…」
珍しく、アルトリアも言い淀む。
やはり少なからず、アルトリアは憎々しく思っているのだろうかと、懸念したぐだ男だったが、アルトリアは慌てて否定する。
「いえ、そう言うことでは無いのです。私にはモードレッド卿に対して恨みはない、それは確かです。
しかし、そのですね…モードレッド卿は実は私のホムンクルス、言わば私の遺伝子を引き継いだ子どもの様な者では無いですか。」>>169
取り敢えず今日はここまで。
この先は大切な場面になるので、じっくり考えて2.3日中に投稿します。乙 & 支援
俺も書き留めているが長くなりそうだなあ……>>155
雨の中傘をさして私の目の前に現れたのは我が家の使用人であった。
姉を送り届けて私も迎えに来てくれたのだろうか。 優しく私に微笑む皺だらけの使用人の顔を見るだけでなんだか心が軽くなるようであった。
「雨が予想より強くなってまいりましたし、この頃は何かと物騒だとお嬢様が申しておりましたので心配になりまして……」
「あ、うん。 ありがとう、助かります」
「すれ違いになってはいけないとこちらでお待ちしておりました。 車はこちらに停めております、ささ……」
もう一つニコリと笑うと車の止めてあるという場所へと先導して使用人が歩いていく。。
「お嬢様はお先に館へとお戻りになっております、坊ちゃんが濡れて帰ってないか心配して……」
「姉さんが? まさか、濡れて帰っても馬鹿は風邪ひかないから楽よねって笑うぐらいの奴ですよ?」
「ほっほっほ、それはそれは……」
二人で笑いあうと先ほどの重い気持ちが何処かへ消し去る様に軽くなっていく。 昔からこの使用人は私が何か落ち込んでいたりすると隣にいて笑い合って良いアドバイスをくれる良い先生でもあった。
「さ、この奥でございます」
そうだ、先ほどの本屋でのことも相談してみよう。 そう私が思っていると、使用人は大通りから路地に入りそのまま足を進ませていく。 薄暗く湿気の籠った舗装されていないぬかるみだらけの道を構わず歩いていく使用人に私は何か違和感を感じて足を止めてしまう。
「……じいや?」
「大丈夫です、さぁこちらに」
私の記憶となんら変わりのない使用人の笑顔に不安を感じながらも、一歩路地へ足を進める。
「つっ……!?」
だがそのぬかるみに足を踏み入れた瞬間、私の頭に鋭い痛みが走り思わず頭を押さえてしまう。 まるで金槌で殴られた様な痛みに、視界が点滅し私は使用人に助けを求める。
「大丈夫です、さぁこちらに」
だが異変はすでに私の頭以外にも発生していた。 ←すいません今日は此処まで……書きたくなったので書きます。
>>173
七つの特異点を乗り越え、聖杯を回収したマスターと、そのサーヴァントである英霊達。
最後の戦いを終えカルデアに戻った時に、それは確認された。
「ロマンが消え、哀しんでいる所申し訳ないが新しい特異点が見つかった。」
「どういうことですか?ドクターの宝具によりゲーディアは滅び人類史は救われたはずではないのですか?」
そうだ、今までの特異点の黒幕であるゲーディアはあの時滅んだ。...ロマンが命をかけて私達を私達を護ってくれたのだから。
「そうだ、君達が悩むのはあたりまえの事だ。この天才たるダ・ヴィンチちゃんでさえこの特異点には困惑しざる得ないのだから。」
どういうことなのだろうか?
「簡潔に言おう。今回見つかった特異点は2100年……未来の出来事なんだ。」
「未来の特異点...確かに妙ですね。でもそんな事がありえるのですか?」
悩むマスターと相棒である少女。
本来なら有り得ない出来事であり、普通ならそれを肯定することは無理なことであり、信じられないと否定することだろう。
しかし、その常識では考えられないことであり、いつになく真剣なダ・ヴィンチちゃんは、
先ほど述べた有り得ない特異点の意味を語る。
「君達が悩むのはあたりまえの事だ。正直私でさえ信じられないんだけど、これから紛れもなく事実なんだ。」
例え、それがあまりにも非現実的であろうとしても、例えそれがどれほど驚愕的なものであったとしても
これは、紛れもない事実であるのだから。
「今回、確認されたに特異点は2100年ルーマニアそれも聖杯が2つ観測されているんだ」
危険なのは当たり前。しかし放っておくのも出来るわけなく最後のマスターと少女は覚悟を決め、その特異点に向かうのだ。例えどれほどの困難が待ち受けようとも彼らは、決して諦めらめを知らぬのだから。>>174
……とある城跡にて……
地獄をみた...終わりのない地獄を見てきた。
かつて極東の聖人の願いである人類救済を否定
して祝福をもたらすはずたった第三魔法を幻想種しか存在しない世界の裏側で流し、役目を終えた大聖杯(戦利品)を隣に置き少年は考えた。
自分の恋人である聖女が信じた人間を信じることにしたが未まだに人間は前に進んでいかない。だったら邪竜である自分が絶対悪になれば人類は協力しあい前に歩んでいくのでないかと。
「人間はあの聖人のいうとおり誰かが救わなければならないのか?否!人類は自分たちで歩んでいかなければならないのだから!」
ドンっと椅子に邪竜は拳でたたく
彼としては軽く叩いたつもりでも周りにいるワイバーンにとっては竜の咆哮にも匹敵する轟音とさえとれるほどだ。
もし、それに耐える者がいたとしたら…それは、邪竜に従う英霊たちぐらいであろう。
「セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、バーサーカー、アサシンよ。
もうすぐ我々の計画は成功する。しかしあの英霊の存在が邪魔だ。どんな手段を用いても構わん捕縛もとい始末を願いたい」
「「「御意」」」
そのまま城を出て行きこの場には邪竜しかいなくなった。
「あぁ、ジャンヌ。やっとだやっと人類は救われるぞ。」
光り輝く聖杯を背後に、狂った邪竜はこれこら起こる戦争に心を踊らせ牙をむきだしにして嗤う。
……さぁ、ギャランホルンの笛を吹こう>>172
地面が変色していく、空が落ちてくる。 鉛色の空は薄暗い石の天井に、濁った土は苔が生えた石畳に、雨だまりは血だまりに、雨音が悲鳴に、それぞれ置き換わっていく。
世界が、私の知る世界が組み変わっていく。
「なん、だ、これ……」
「大丈夫です、さぁこちらに」
使用人であるはずの目の前の老人の首が一回転すると、顎が外れ舌が足元まで伸びる。 その様は人下とは思えないほどにおぞましい。
「大丈夫です、さぁこちらに」
「ひっ……」
それでも目の前の老人はにこやかな笑顔で私へと手を伸ばしてくる。 この時私が拳銃を持っていれば間髪入れずに私は自分の頭を打ち抜いただろう。 それほどにこの世界は狂っていた。
「だ、だ、だですです。 ぼ、坊ちゃん……?」
「じ、じい……こ、来るな!」
一歩一歩と私へと近づいてい来る物体に私は心の底から恐怖を感じ、この狂った空間から逃げようと走り出そうとするが、それもかなわない。
「壁……!? そんな、こっちから入ってきたのになんで……」
「ぼっぼぉ、大丈夫です、さぁこちらに」
耳元で使用人に似た声が聞こえ、私の肩を強く掴んだ。 驚くほどに冷たく、生きている人間とは思えないほどの握力に思わず私は大声で悲鳴を上げた。
「ん~、良い声!」
↑すまない……推理物ではないんだ……活劇なのだ……>>176
それは少女の様な可愛らしい声であった。 少なくともこの空間には全く似合うことのない溌剌とした声であり、それだけに私は恐怖を感じた。
「心の底から温まるような悲鳴……絶望に染まった表情、素晴らしいわ……でもぉ……女じゃないじゃない! 」
「大丈夫です、ささああああ」
その姿の見えぬ少女が叫んだと思うと、私の肩を握りつぶさんばかりに掴んでいた老人の顔がザクロのように飛び散る。 飛び散った血と肉片が私の顔を濡らし、血が私の服を赤色に染め上げていく。
「ひっ……!」
「私は、女を、連れてこいって、いったの! この前は小汚いガキ! 私を馬鹿にしてるワケ!? 」
少女が叫ぶごとに老人の頭がつぶれていき、ついにはその体が空へと持ちあがったと思うと、真っ二つに裂けていく。
「アンタなんてもういらない」
真っ二つになった老人が投げ捨てられると同時にその少女が姿を現した。
華奢な体を血で塗りたくり、肌の色が見えない程にその体は赤で染まっており、手にはその背丈を超えるほどの槍を持っていた。
だがそれ以上に目を引くのはその頭と臀部付近についているヒトではないものであった。
角と尻尾。 まるで鬼のような角とトカゲの様な尻尾がその少女にはついていた。
「あぁぁ、痛い痛い痛い! 頭が痛い! あの役立たずが何時まで経っても女を連れてこないから! あぁぁっ!」
少女が私の腕の半分しかないほどの華奢な腕でその大きな槍を重さを感じないような仕草で振り回すと、その切っ先を私の方に突き刺した。
「ぐっああああああ! ひぃぃぃぃぃぃあああああ!」
「あぁぁダメ! やっぱり駄目男じゃダメ! ぜん、ぜん痛みが治まらないぃ!」大正更新マダー?楽しみにしてるんだか
これはFGOと電撃文庫の妖怪ライトノベルほうかご百物語のクロスオーバーSSです
マイナーすぎて誰得とかこいつはこんなキャラじゃねえよとか思うかもしれませんがご容赦ください
時間神殿から逃げ延びた魔神が辿り着いたのは無数にある並行世界のはるか向こう、もはや同じ木ではなく別の木の枝ではないかと思えるほど遠い異世界。その世界のとある町のとある神社だった。
そこには偶然か必然か自分以外の魔性すべてを消し去る『神』の残滓が残っていた。それを見つけた魔神は歓喜した。
『全知全能、唯一無二の神の概念……いや、おのれと異なる全てを排斥し消し去ろうとする意志の具現か……ハ、ハ、貴様は我が依代に相応しい……私も私以外に飽き飽きしていたところだ……』
魔神にはもはや世界をやり直すことにも自分たちの邪魔をした者たちにも興味はなかった。自我が生まれた彼の心に浮かんだのはただ一つの妄念のみ。
自分と違う存在が恐ろしい。自分以外の全てが煩わしい。だから、ゲーティアとの結合も拒否し逃げ出したのだ。
「貴様の願い、私が受け継ごう」
早速彼は『神』の残滓を取り込み、その願いを叶える術式としての自分を構築し始めた>>179
構築を終え、魔神ではなく『神』となった彼は目を覚ました。しかし全てを消し去る術式『大祓』を行うためにはまだ準備が必要だった。自分の存在もまだ小さく不安定だ。故に彼はかつての『神』と同じように自分の手足となる存在を作り出すことにした
「来たれ、セイバー長鳴き鳥」刀を差し、鋭い雰囲気を放つ男が現れた
「来たれ、アーチャー鳴き女」弓を背負い、鎧が特徴的な男が現れた
「来たれ、ランサー八咫烏」錫杖を持った修験者風の男が現れた
「来たれ、ライダーにはくなぶり」あでやかな着物を着た女が現れた
「来たれ、キャスターくぐい」狩衣を着た狐顔の男が現れた
「来たれ、バーサーカー武夷鳥」弓を背負い、刀を差し、巌のような屈強な男が現れた
「来たれ、■■■■天夷鳥」直剣を差し、女と見まがうような美貌を持った少年が現れた
彼は元からあった『神』を迎えるシステムに英霊召喚を組み込み、より強大な手足を作り出した。
「汝らは我が先触れであると同時にサーヴァントである。私が完全に顕現するための準備を行い、それをを妨げようとする輩は全て滅ぼせ」
彼の命に七羽の先触れは一斉にひざまづいた。>>181
遡ること数時間前。僕は美術室に行く途中の階段で僕は固まっている彼に出会った。その視線の先には見慣れた黒い影。
「……見越した」
僕はため息をついていつものフレーズを口にする。そのとたんに黒い影はきれいさっぱり消えてなくなった。
「おっと……!」
黒い影から解放された彼は間一髪で転ばずその場に踏みとどまった。
「あ、あれ何だったの?」
深呼吸しながら彼は質問してきた。
「いや、何ってのびあがりだろ?見越したって言ったら消えるんだ。眼鏡かけたちっこい先輩から教えてもらってない?」
あのジャージめ、面倒くさがってやらなかったんじゃあるまいな。我らが妖怪博士の憎たらしい顔を思い浮かべながら僕は顔をしかめる。
「いや、オレ今日転校してきたばっかりで、この学校のこと何も知らないんだ。こういうことよくあるの?」
彼は頭を掻きながら苦笑する。
転校生だったのか。道理で見慣れないと。
「うーん、他によくあるのは馬の首が天井から下がってきたり、やかんがぶら下がってきたリぐらいかな?他は音とか気配だけがほとんどだから大したことないよ」
「へ、へえ……」
彼の笑みがこわばる。当然だ。この一年半で慣れてなきゃ同じ表情をしただろう。>>182
「あ、お礼を言うのを忘れてた!ありがとう、俺は藤丸立夏!君は?」
こわばった笑みを瞬時に満面の笑みに切り替え、彼もとい藤丸立夏は手を差し出してきた。
「はぁ、白塚真一です。一応美術部部長です」
いきなりのフレンドリーな対応に思わず敬語で返してしまった僕はおずおずと差し出された手を握り返した。
僕は握った彼の手の何の変哲のない顔に似合わない、ごつごつとした感触に首を傾げた。いや、手だけじゃない。服で分かりにくいが首から下もよく見ると、並大抵の運動部じゃ比べ物にならないほど鍛えられた筋肉をしている。
「藤原君、何かスポーツでもやってる?」
「リッカでいいよ。特にやってないけど知り合いに筋トレが好きな人がいて、よく付き合わされるんだ」
藤原立夏、リッカはやはりフレンドリーに答える。
筋トレに付き合ったぐらいでこんな筋肉がつくだろうか、僕は納得できないまま手を離した。
「先輩、何をしてるんですか?もうみんな集まってますよ」
廊下の影から薄い色の髪をした少女がひょこっと顔を出した。
「ごめんマシュ!すぐ行くよ」
少女に呼ばれてリッカは焦ってそちらに向かう。
「改めてありがとうシンイチ!また明日!」
途中で振り返り、別れのあいさつを告げると今度こそ彼は少女と一緒に廊下の向こうへ消えていった。
「リッカでいいよ。>>183
そしてついさっき、僕はイタチさんとの帰り道でそのことを話している途中(当然のごとくイタチさんに見とれて会話は飛び飛びだったが)、いきなりすさまじいスピードの何かが僕に襲い掛かった。それが矢であることに当たる直前まで気づけなかった。
「危ない真一!」
とっさにイタチさんは僕を突きとばしてくれたおかげで、僕は矢に直撃することはなかった。しかし、僕をかばったイタチさんの肩を矢は容赦なく抉っていた。
「イタチさん!」
駆け寄ろうとした僕を再び放たれた矢が遮る。
「弱し……」
心底失望したような重々しい声が辺りに響き渡る。声をした方を向くと道路の向こうにいつの間にか武者鎧を着た男が弓に矢をつがえて立っていた。
「役立たずをかばった上に傷を負う、か。先代の先触れはこの程度の輩に敗れたのか。情けないことだ」
独り言のように何かぶつぶつ呟きながら、男は三度矢を放った。
「ッ!」
僕とイタチさんは転がるようにそれを回避する。
四度、五度、六度、矢は次々と僕たちに向けて放たれる。
「いきなり、何を、するの!」
何とか矢の合間をぬって立ち上がったイタチさんが肩の痛みに顔をしかめながら、手のひらを突き出した。戦闘態勢に入ったことで鼬の尻尾と耳が現れている。周囲の空気が集まり、風の刃を作り出す。イタチさんの十八番、かまいたちだ。よほどの硬度のものでない限り真っ二つにできるこれなら矢だって怖くない!
>>184
「それも悪手だ」
そのかまいたちを待っていたかのように、イタチさんの目の前にまで矢が迫っていた。かまいたちの体勢を取っていたイタチさんは当然回避できない。
動け、動くんだ白塚真一!そう心で思うより先に身体が動いていた。でも、それでも僕の手はイタチさんには届かない。絶望で僕は崩れ落ちる――――
「ハァッ!!」
それよりも先に弾丸の様に黒と白のコントラストが映える少女が僕たちの前に立ちふさがり、矢を弾いていた。
そして今に至る。
「何で、リッカがここに?」
突き飛ばされたイタチさんを抱きとめた僕はこんな状況にも関わらず(イタチさんやわらかいなーかわいいなー)と理性が飛びつつも、声を絞り出して尋ねた。
よくよく見ると僕たちを守ってくれた少女も昼間リッカを呼びに来たマシュとかいう名前の子だった
「ごめん!オレもシンイチが何故狙われたのか気になるけど、お互い詳しい話はあとにしよう!」
こちらを振り向きもせずリッカは真剣な声で答えた。
「クーフーリン、茨木は前へ出てあいつの相手を!エミヤは二人の後方支援を頼む!ジェロニモはマシュと一緒に俺たちを守ってくれ!マルタさんはその子の治療をお願い!」
そしてそのまま誰かに指示を出す。するといつの間にかリッカの隣には浅黒い肌の男が、盾の少女の前には青いタイツのような服を着た槍を持った男と金髪で角の生えた小柄な女の子が、僕とイタチさんの側にはやたらと露出度が高い服を着た長髪の美女が立っていた。「貴様らが主が言っていたカルデアのマスターとそのサーヴァントか。中々に骨がありそうだ」
やはり意味の分からない用語を呟き、武者鎧が不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあここでやりあってみるか?見たところテメエも大した腕前の持ち主みたいだが、この状況じゃさすがに旗色が悪いんじゃねえか?」
槍を持った男もまた挑発するように笑う。
「く、く、確かに。これではいささか多勢に無勢だ。今日のところは大人しく引き下がるとしよう」
言うが早いか、男はすうっと透き通り姿を消してしまった。そして彼の声だけが辺りに響き渡る
「俺は、俺たちは、英霊にあって英霊にあらず先触れにあって先触れにあらず。神を迎える神使にして神の敵を滅ぼす戦士。カルデアの者共よ、神に逆らった雑妖共よ、貴様らに我らが主の邪魔はさせん」
先触れ……?大祓……?もう聞くことがないと思っていた、僕たちにとってとても不吉な意味を持つその単語に僕は耳を疑った。
「真一、今大祓って……」
イタチさんが心配そうな顔で僕を見つめていた。やっぱり僕の聞き間違いじゃないようだった。
大祓とはその地域の妖怪とそれに関係するものすべてを消し去る神を呼び出す儀式、そしてその神を迎える準備を手助けし神を守る七羽の神の使いの名前が先触れだ。
数ヶ月前、僕たちは大祓に巻き込まれ、必死の思いで神を倒したその時に先触れたちも一緒に消えたはずだ。神が倒された以上生き返ることはない、と彼ら自身が言っていた。それに、先触れたちの中にあんな鎧をつけた男はいない。
それに妙な人たちを引き連れた転校生リッカ。あの先触れを名乗る男は知っていたようだけど、彼も何者なのか?
「一体、何が起こってるんだ……?」
イタチさんと過ごした一年半で大概のことには慣れたと思った僕だったが、動揺せずにはいられなかった。ハンティングクエスト6日目。今日も俺はいそいそと居住区を訪れる。
目的は言わずもがな、エネミー狩りのメンバーの招集である。
さぁ今日も素材を狩るぞ…
そう意気込みつつすっかり見慣れた角を曲がると、彼女の名札が付いた自動扉が目に飛び込ん―――
「ん?」
扉の下方には、かのファラオが命同様大事にしているはずの鏡が鎮座ましましていた。鏡の前には便箋が一枚。隅っこにはメジェド神が何処ぞのファンシーキャラめいて描かれている。
そこにはこうあった。
旅に出ます。探さないで下さい。
追伸 鏡はご自由にどうぞ
はっと気配を感じて横を見ると、メジェド神が上目遣いで俺を凝視していた。
心なしか遺憾の意を表明されている気がする。
…反省。鬼灯の冷徹クロス
明日のお盆の準備に追われるカルデア。そんな時、ぐだが目を覚ますと何故か地獄にいた。また面倒ごとかな、と溜息をつくぐだに鬼灯が来て一言。
鬼灯「貴方に亡者に対する不法就労の疑惑がかかっているのですが……ちょっと地獄まで御同行願えますか?」「‥‥」
慣れない香気に僅かに顔をしかめる。
「苦いなら砂糖を入れなさい。この茶葉とミルクは合わないわ」
「‥‥どうもいけねぇな。飲むなら酒か麦湯だ」
「タクアン、と言ったかしら。あれを食べる時に飲むものと一緒にしないで」
「洋酒は好きだぜ。わいんは駄目だったがういすきーはいける」
だが、やっぱりこれは合わねぇ。
砂糖を五杯入れ、香気も飛んでしまった紅茶をお猪口でも傾けるように流し込んだ。
「茶でもどうだ、なんて誘ったのは貴方じゃない」
「まさか本当に茶を飲む奴があるかよ」男は土方歳三。出身は日本、クラスはバーサーカー。
乳の大きな女が好みだ。
女はカーミラ。出身はハンガリー。クラスはアサシン。
可憐な処女が好みだ。
女は大抵男を袖にしていた。
特に興味もなければ血もまずそうで、何より品がない。
風流を謳ってはいるがこの男のセンスは語彙の教養も関係なく落第点。
カーミラが嫌うたちの男であり、カーミラはそもそも男が嫌いだった。「貴方と寝るつもりはないわよ」
「じゃあなんで乗ったんだ」
「‥‥気まぐれよ。マスターにこそ肌は許したけど身体は誰にも許さないわ。丁寧に折り畳んでアイアンメイデンに押し込んであげる」
「そう、それだ」
「‥‥?」
「お前と拷問について話をしに来た」
「‥‥ああ、成程。マスターが妙なことを口走ったのね」拷問。
そんな話題で盛り上がろうとは、世も末だ。
最も、最近まで本当に世界は終わりかけていたのだけれど。
拷問。
彼女が思い出すのは、彼女の愛した唯一の男。
乙戸であり、いくさびとであり、黒い甲冑で身を固めたあの人を。
どこか、この男は想起させる。教養もなければ品もない、節操もなければ気遣いもない。
そんな男と重ねてしまうのは全く申し訳ない限りであったが、いつものようにへーだのほーだの言いながらマスターが読んでいた本に書かれていたこの男は、決してただの蛮人ではない。
と、思うのだが。
紅茶を冷ましてから飲むこの男は、やはりあの人とは比べられない。「おい、次は酒を飲むぞ」
「私はワインしか飲まないわよ」
しかし。ふん、と鼻を鳴らすこの男は。
何故だか、子供のように見える。
「紅茶は冷まして飲むものではないわよ」
「誘ったのは俺だ、好きに飲ませろ‥‥おい、今笑ったか」>>186
「追わぬのか」
武者鎧の男が消えていく様を見て、金髪の少女が後ろに立っている少年、藤丸立香に尋ねた。
「うん、ここに駆け付ける前に小太郎に頼んでおいたから、オレたちは追わなくていい。それに、シンイチたちを放っておけないよ」
立香は少女の問いに答えるとくるりと振り返り、腰をついて、呆然としている少年、白塚真一に心配そうな表情で尋ねる
「間に合って良かった。シンイチ、どこか怪我してない?」
「あ、ああ、うん。ちょっと擦りむいたぐらい。それよりもイタチさんが」
真一は戸惑いながらも自らの状態を正確に答え、傍らの少女を気遣う。
「あ、あたしも大丈、痛っ」
「動こうとしない、まだ手当の途中なんだから。マスター、この娘も肩を少しかすめたぐらいでそれ以外に目立った傷はないようです」
イタチさんと呼ばれた少女を手当てしている黒髪の女性が無理に動こうとする少女を諫めながら言った。
「じゃあ二人とも大事はないんだね?」
それを聞いて立香は心底安心したというような笑みを浮かべて、胸をなでおろす。
「リッカ、この人たちは一体……?それに君も……いい奴だってことは分かる。でもさっきのあいつと何か関係があるの?」
少女が無事だということが分かると真一は少し落ち着きを取り戻したようで、立香をまっすぐ見据え疑問を投げかけてきた。>>196
「……」
立香はまっすぐこちらを見据える真一から目をそらし、顔をうつ向かせ考え込む。
説明するべきかしないべきか逡巡しているようだ。
「私は話すべきだと思う。先程のサーヴァントは彼らをピンポイントで狙っていたようだし、知っているような口ぶりだった。今回の事件と無関係ではないのだろう。知る権利があるはずだ。そして我々が彼らの話を聞く必要も」
その時傍らに立っていた浅黒い肌の男が淡々とした口調で進言した。
「わかった」
立香は強く頷くと真一の方を向き直り、真摯な表情で口を開いた。
「オレがこれから言うことはかなり突飛な話に聞こえるだろうけど、どうか信じて聞いてほしい」
そして彼は自分たちの目的と素性を語り始めた。ほうかご百物語のクロスいいなぁ…
他作品スレで名前挙がってて嬉しかった作品ながらまさかクロスSSまであるとは
応援してます!- 199名無し2017/07/31(Mon) 11:41:28(1/1)
このレスは削除されています
おお、こんなスレが。
ダイジェスト版だけでも作りたかったが、とても出来上がりそうにないのでここに投稿させてもらいます。
アルジュナの幕間を見てから、一人のマスターと絆を深めていく彼が見たかった。そんなネタ話。
※設定がやや大味(パーシュパタ周りはWiki、攻略Wikiの情報を参考にしています)じりじりと、存在の焼ける音がする。伏した地面は、しかし土の匂いもない。
魔神柱たちを払い除け、辿り着いた玉座は、しかし、やはり、最大の難所であった。
かすかに目を開ける。アルジュナは己の存在を確認した。戦える。魔力の消費が少々多いように感じるが、まだ、戦える。しかし珍しく……身体が重くて仕方がない。
――――“……何をしている、大英雄”。
己を鼓舞するため、アルジュナは肺の空気を入れ替えん為に呼吸する。足は地を踏める。腕は狙いを定められる。拳はまだ力を失っていない。
――――“そうだ。そうでなくては”。
目をやれば、少し離れた前方に、主と少女はいる。しかし、その眼前には魔術王――――“だったもの”。
魔神王ゲーティア。
最果てに待つ獣。人間に失望した魔術式。
相手にとって、不足はない。足り過ぎているくらいだ。だが、そんなことはどうでもいい。関係ない。
――――少女が少年を守っている。
それだと言うのに私は――――彼のサーヴァントであるこの私は、何をしているのか。
立ち上がる。アルジュナらしく、軽やかに。少しふらりとした気がするが、それこそ気の迷いのようなものだろう。「下がりなさい、マシュ」
「アルジュナさん、いけません!」
ゲーティアとの間を遮るアルジュナに、盾持ちの少女は狼狽える。優しい静止だ。絶体絶命の状況であるのに、どうにも心が生温くなる。しかし、男は少女を、マシュを射抜くように見やる。
貴女の心の内など、お見通しだ。少年を慕う、純粋な少女の心など、誰の目から見ても分かることだ。
「いけないのは貴女でしょう。他でもない貴女が、マスターを最後まで守らなくてどうするのですか」
「アルジュナさん……!」
説得する余裕は互いに無い。前に出たもの勝ちだ。主たる少年もまた、何か言いたげにアルジュナの名を呟いたが、やはりアルジュナは振り返らなかった。「貴様の霊器で我が宝具に耐えられるとでも言うのか?」
眼前の敵は、つまらなさそうにアルジュナを見下す。
――――“少女との睦言の間に割って入るからだ”。
己の裡で、誰か(わたし)が嗤う。ああ、全くそのとおり。その気持ちに同意はするが――――アルジュナが浮かべる笑みは、別の性質のものだった。
「ええ、私ひとりでは無理でしたでしょうね」
笑みは清々しく。声は誇らしげに。
知っていた/知らなかった
――――他人を嘲るよりは、他人を誇る方が、余程気持ちが良いものだと。
「…………なるほど、理解した。ならば、試してみれば良い。神から授かった世界殺しの力、見せてみろ――――!」
魔力の渦が唸りをあげる。これ程の対決が、生前あっただろうか。今度こそ嘲笑う。
“残念ながら、残念ながら、有り得ない”。
その掌に輝く宝具に目を細める。それは、笑みからか、睥睨か。
――――そう。これは、世界と世界を滅ぼし合う戦いだ。「マスター! 令呪を!」
「アルジュナ!?」
どうするんだと少年の声色が問う。
聞くまでもない。今更聞いてくれるな。
振り返り、その蒼い眼を捉える。こんな状況においても強く跳ね返す瞳に、思わず笑う。分かっているじゃないか……!
「その三画、私に寄越せ! リツカ!」
「――――ッああ! お前が望むなら! くれてやる!」
迸る赤。心地よく、力強い魔力が流れ出す。
――――準備は整った。宝具を開帳する。破壊神の鏃もまた、ゲーティアの魔力に負けず、轟々と唸りを上げる。
――――“ああ、これは楽しい”。
勝てる見込みは半分以下。しかしどうにも、これは楽しい。この力を、世界を滅ぼすまでの威力で使ったことはなかったのだから――――!
“告げる(セット)”――――。
少年は掌を前に、己の令呪を睨みつける。さあ行け、お前こそが世界を護る、盾になれ――――!「“令呪に命じる”――――装填(ブースト)、最大限(マキシマム)……!」
「アルジュナの! 力になれ――――!」
――――神聖領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定。
――――魔力集束及び加速に必要な時間を推定。
――――相対(リフレクター)開始(セット)。
「さあ、塵芥のように燃え尽きよ!」
「我等が怒りを以て、汝の企みをここで絶つ!」
魔神王の怒号が、アルジュナの鬨が始まりを告げる。
溢れる魔力の嵐に、少年は息を呑んで目を凝らしていた。負けるな、負けるなと、その左手を握りしめながら。“……嗚呼”。
真名解放の直前の、一息分の間で、アルジュナはこれまでの旅路を想う。
オルレアン。
ローマ。
オケアノス。
ロンドン。
北米大陸。
エルサレム。
バビロニア。
あの、長い闘い。短い旅路。
多くの誇りがあった。多くの不安があった。
多くの温もりがあった。多くの戸惑いがあった。
そして、大きな変革があった。
私が“私”を獲得できたのは、私を揺さぶり続けてきたマスターのおかげだ。そうでなければ、私はいつまでも“アルジュナ”でしかなかった。
マスター。リツカ。
だから、私は……その分の恩を、返さねば。
今までのどのマスターとも違う、私を見出し、認めた貴方を、必ず守らなければ――――!「誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)――――!」
「破壊神の手翳(パーシュパタ)――――!」
魔力が渦巻き、光が溢れる。
向かうは人類史そのものとも言える、膨大な、長大なエネルギー。
迎えるは世界を七度は滅ぼせる神の力。
負けるわけには、いかない。マスターを失うわけにはいかないから。マスターを失いたくないから。
ただそれだけの欲の為に、アルジュナは力を振るう。令呪からのバックアップを用い、魔神王の宝具に“耐える”。
――――勝てる見込みなど、ない。本当は、知っていた。勝つつもりでいたのは、強がりに過ぎなかったのだと。
そう。始めからこれは、守るための行使であり、勝つための闘いではなかった。
“それでも”
男はただ、己の存在証明たる少年を、“失いたくなかった”。
そしてそれは、少年の隣の、少女の願いでもあった。だから、男は少女の前を進み出た。少女が守ったところで、結果は同じであっただろうから。――――ありがとう。
呟くように、無音で紡ぐ。どちらにせよ、この轟音の中では聞こえまい。
そうして、小さく微笑む。
まるでやり遂げたかのように。失くしたものを、見つけたように。
此度の戦いに、勝利など有り得ないのに。
「――――貴方と共に旅ができて、本当に良かった。リツカ……」
呟きは轟音に消える。
光の奔流が最大になろうとする中、男は己の名を呼ぶ少年の声を聞いた。
愛憎混濁了。
え、アルジュナが実装されたのは1月だったって?
こ、細ぇことはいいんだよ!(小声)ID変わる前に、訂正が一つあったので……。
ぐだ男くんが握りしめたのは、左手ではなく右手(令呪)でした……。
>>210
お早い感想ありがとうございます!
そう言っていただけると幸いです。>>213
どうもです。ただ書くにしてもプロットもどの陣営が勝つかも上がってないので、暇な時間を見つけて詰めていきたいなとプロットも何も
人狼ゲームなら短期村でも長期村でもリプレイを一つこさえればそれがプロットになるでしょ
どう肉付けしていくかは腕の見せ所なんだろうけど>>212
カルデア人狼楽しそう
でも自カルデアでやると真っ先に天草が天草ケアで吊られそう、無力なマスターを許してくれ…漁っていたら良さげなところを!
ちょっと書いてみる!
バーサーカーだらけの聖杯戦争
亜種聖杯戦争 前夜 どこかの工房
魔術師「よし、これで準備は完了だ。」
魔術師「我ながら素晴らしい手腕だ!なにせ、変則契約による魔力パスの分割を成し遂げたのだから!」
魔術師「君は幸運だね。この私の偉業の手助けが出来るのだから!その魔力の保有量の多さに感謝するがいい。」
少女「…」
少女(…気がついたらここにいた。なんだか体中が痛いし、頭がボーっとする。)
少女(何も覚えていない…。ここに来る前のことも…自分の名前すらも。)
少女(唯一わかっていることは、目の前のこの人に逆らっちゃいけないってことだ。)
少女(あぁ…もうどうでもいい。私にはもう何もないんだから。)
少女(…体がとても痛い。叶うなら、早くこの痛みが終わりますように…。)
魔術師「さぁ、ついに栄光をつかむ時が来た!」
魔術師「触媒は用意できなかったが問題はない!私ならば、相性召喚で最高のサーヴァントを引き当てられる!」
魔術師「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどにーーー。」>>219 続き 長くならないように書きます
同時刻 別の場所
エルドラドのバーサーカー「召喚に応じ参上した。貴様がマスターに相違ないな?」
マスター「うん、そうだよ。よろしく、バーサーカー。共に聖杯を取ろうじゃないかっ。」
エルドラド(…気に食わん。ふん、軟弱そうな男だ。…まぁいい。)
エルドラド「では、敵を見つけに…あぁそうだ。貴様に言っておくことがある。」
マスター「?なんだい?」
エルドラド「私の事を、美しいと言うことは許さん。言えば貴様の命は…」
マスター「くだらないね!」
エルドラド「ーーー貴様、今なんと言った…?」カチャ
マスター「くだらない、と言ったんだ!だってそうだろう!?よりにもよって…この世界で最も美しい僕の前でそんなこと言うなんて!」
エルドラド「…は?」
ナルシストのマスター「僕が!?君に!?はっ!冗談は休み休み言ってくれよ!僕より美しくない君に、そんなこと言う訳ないだろ!」
エルドラド「なんだこいつ?」(なんだこいつ?)>>220
街外れ
ベオウルフ「いい眺めだ。そう思わねぇか?マスター。」
くたびれたマスター(…どうしてこうなった?)
くたびれたマスター(あれだけの触媒を用意し、セイバーを呼ぶ手筈を整えたのに、なぜ触媒と無関係のバーサーカーが?)
くたびれたマスター(はぁ。…突如として現れた、作り手不明の聖杯。令呪は配られるものの数は2画。イレギュラーが多すぎる。なぜ私は参加してしまったんだ…)
ベオウルフ「おらっ!シャキッとしろマスター!」バンッ
くたびれたマスター「ぐへぇっ!?」ベオウルフ「気苦労は察するが、さっさと敵を見つけて叩き潰せばいい話じゃねぇか!」
くたびれたマスター(ベオウルフ、バーサーカーながら意思疎通が出来るというのは、不幸中の幸いだったと言うべきだろう。)
ベオウルフ「なんだったら街中で暴れて全員誘い出すってのはどうだ?」
くたびれたマスター「絶対ダメだよ!?」
くたびれたマスター(やっぱり不幸だけか私は!?)
ベオウルフ「冗談だよ。こんなんでも一応英霊の端くれなんでな。そんな馬鹿な真似はしねぇさ。」
街中 ボォン!
くたびれたマスター「なんだ!?」
ベオウルフ「あー…。どうやら、そんな馬鹿がいるらしいぜ、マスター。」
くたびれたマスター「なんなんだこの聖杯戦争は…?」サーヴァントが男女でペアを組んで周回やイベントクエストに挑むことが決められているカルデアの話です
発表する場所がなくてちまちま書き溜めてたのをここに晒そうと思います>>222
とりあえず考えたのがここまでです!
長文失礼しました!眼下の戦場を眺めてふと思う。
炎上汚染都市・冬木。かつて己が主として君臨していた特異点に終焉をもたらした少女は、何の因果かこの身を駒────否。彼女が語るところの仲間として呼び出した。
『貴女が必要です』
堕ちた己に向けられるその真っ直ぐな眼差しは、かつて過ごした陽だまり(おもいで)を蘇らせて。
「ああ。貴公もあの地に因縁を持っていたな、バーサーカー」
感傷は不要。そう言わんばかりに漆黒の騎士は傍らに佇むのは巌の如き身体を誇る狂戦士。
反転する前は対峙したこともある。いわば腐れ縁というやつだ。故に、彼女と彼は互いのことをなによりも理解していて。
視界の先。薄暗く煙る魔霧の中に、魔道によって精錬された兵士の姿が浮かび上がる。
これより言葉は不要。一切の不浄を、我が聖剣をもって焼き払う。
「ふん……開戦の刻は来た。さあ、蹂躙するぞ! ────ヘラクレス!」
そんな彼女の呼びかけに、大英雄と呼ばれた彼は────
「────────────!!!」
咆哮で、答えた。第四特異点 死界魔霧都市 ロンドンにて
セイバー・アルトリアオルタ
バーサーカー・ヘラクレスこんな感じのをちょこちょこ投下していこうと思います
ペアはある程度固まってるのでエピソードが浮かび次第投下します
どうぞよしなに諸君、私は周回が好きだ。
諸君、私は周回が好きだ。
諸君、私は周回が大好きだ。
種火周回が好きだ
宝物庫周回が好きだ
修練場周回が好きだ
フリクエ周回が好きだ
絆上げ周回が好きだ
イベント周回が好きだ
冬木で オルレアンで セプテムで オケアノスで ロンドンで アメリカで キャメロットで バビロニアで 新宿で アガルタで 下総国で セイレムで
このFGOで行われるありとあらゆる周回行動が大好きだ
(HELLSING 少佐のセリフより)戦列を並べたバーサーカーの宝具が轟音と共にエネミーを吹き飛ばすのが好きだ
空高く放りあげられたエネミーがインフェルノの旭の輝きによってバラバラになった時など心が踊る
アーラシュの渾身の一射が高体力のエネミーを撃破するのが好きだ
悲鳴を上げて燃え盛る新宿駅から出てきた雀蜂をドゥリンダナで薙ぎ払ったときは胸がすくような気持ちだった
征服王の軍勢がエネミー共を蹂躙するのが好きだ
ブレイブチェインを決めたサーヴァントが既に息絶えたエネミーを何度も何度も攻撃する様など感動すら覚える
(HELLSING 少佐の演説から)投稿するかしまいか迷ってた小説の序文を、せっかくなんで投げさせて頂くぜ!
『Fate/dual order』
手を伸ばす。
極天には幾筋もの流星雨。
それらのどれもが希望の星で、私のセカイからは遥か遠くで照り輝く。
万夫不当の英雄達はみな、『彼』との絆を胸に人の世を護ろうと終局に臨んでいる。かんばせには笑みを、心には誇りを持って。
『彼』は走る。いかほどの死で両腕を穢そうと、幾多の血に塗れようと、『彼』は自らを確信している。
その強さに至るまで、数百の夜を超える葛藤があったことを『私』は知っている。
────つまるところ、羨ましかったのだ。
ああ、彼と私。同じモノであったはずの私達は、どこで道を違えたというのだろう。
手を伸ばす。
もはや届かぬものとなった『彼』の背中に、手を伸ばす。SS書けないけど設定という名の妄想は色々捗るよねぇ。
アポクリファがアニメになったからアポの二次とか色々と思い浮かぶ。
・カウフラルート
・セレニケ生存ルート(オリ主あり)
・聖杯大戦対聖杯大戦(アポ勢14騎VSひむてん次元14騎)一刀繚乱を聞いてたら浮かんだ話のプロローグだけ投げてみる。
寛永二十六年、師走。
流浪の剣客、絹はとある噂を耳にした。
睦月の頭に下総国で御前試合を執り行う。
下総国を故郷に持つ絹は実家へと舞い戻り、弟に連れられて行った御前試合の受付で予想だにしないものを見ることとなった。
神槍・宝蔵院胤舜。 火箭・巴御前。
雷神・源頼光。 酔魔・酒呑童子。
魔王・蘆屋道満。 大蛇・望月千代女。
剣鬼・柳生但馬守宗矩。 飛燕・佐々木小次郎。
そして、天剣・新免武蔵守藤原玄信。
これは『あの男』の偶然なのか。それとも仏様の神通力か。ただならぬ何かを感じた絹は、10人目の参加者としてそこに名を連ねることとなる。
並び立つは魑魅魍魎に悪鬼羅刹───否、七人の剣豪英霊。
いざ参りましょう。屍山血河の試合舞台。
第XX特異点 寛永二十六年。英霊御前試合 下総国。アビーの幕間が待てないので軽くSS考えてみる
マスターはぐだ子で
夜間。シミュレータでの訓練を反芻しながら体を揉みほぐしていると、小さな来訪者が
「マスター、あの…」
淡いピンクの生地、フリルとリボンで飾り付けたネグリジェに身を包んだアビーだ
ん?どうしたの?
言い澱むアビーに先を促す。
「ひ、一人で寝れなくて…一緒に寝てくださらない?」
あー…
確か今日はナーサリー主催の朗読会があったはずだ。ジャックから事前に聞いていたが相当ハードな物を読んだに違いない。
いいよ、こっちおいで?
ベッドに腰掛け促す。
「…!!」
嬉しそうに此方にやってくるアビーはとても愛らしく、母性が爆発しそうだ。
もぞもぞとベッドに入り込むアビーの隣に入り、眠るまで頭を撫でることにしよう。>>233
数分もしないうちにアビーはすやすやと寝息をたて始めた。
電気を落とし常夜灯を付けて、自分もさっさと寝ることにしよう。
暗転
自分の身体の制御が効かないような不快な感覚に目を開く。
目に映る満点の星明かり。違和感。
頬をつねり痛みがないことを確認する。
…どうやら明晰夢のようだ。
私はドレイクの船にあった上陸船より一回り小さいボートに乗っていた。
より詳細な情報を得ようとじっくり観察するが、頭に靄がかかったように情報を整理できない。
こういうときは気づいたことを一つ一つ口に出してみる。
…船の舳先にランタン?手触りはわからないけどこの船は木製みたい。星は…明るいけど見たこともない星の繋りだ…
船と言うことは液体の上にある筈。と船から顔をだし覗き込む。
むせかえるような薔薇の香り。ランタンや無限の星に照らされた液面は玉虫色に光を反射する。
あまりに幻想的で、自分の夢にしては突拍子もない景色に暫し唖然とする>>234
誰かサーヴァントの夢と繋がってしまったか。
心当たりを探す。
しかし皆目見当がつかない。
特別何か起こるわけでもない夢の中、湖面をただ眺めるのは退屈で、船上で横になる。
首元で金属の擦れる音がする。
取り出してみると、どうやらセイレムで拾ったロザリオだった。
このロザリオ、鍵みたい
ふっと沸き上がった考えに苦笑しながら、空中で鍵のように捻ってみる。
甲高い、まるで錆びた鉄製の扉を開けるような音が響く。
眼前に唐突な閃光が巻き起こり、目を開けていられない。
くうっ
「ああ、すまない。突然引きずられたと思ったが、君だったか。(CV杉田)」
どこで聞いた声。目を擦りながらゆっくり開く。
「君のそれも、やはり鍵だったようだな…。」
独特のスーツに刈上げ、どこか強い意思をもった顔立ちの紳士…
あーっ!セイレムの!
「覚えていてくれて何より。」>>236
暫くすると夢の景色に変化が表れ始めた。
空が少しずつ白み始め、水面には霧が出始める。
が、そんなことはお構いなしに船は進む。
…本当に霧が濃い。
手を伸ばした時の指先さえ見えない程だ。
そんな中頭に響いてくる出鱈目なフルートと太鼓の音。
左右を視やると、巨大な門をくぐったようだ。
「こんなところまで来てしまうなんて…座長さんは悪い人だわ…」
聞き覚えのある声に霧の中で声の主を探す。
船が進む度に段々とフルートと太鼓の音が大きくなって感じるために、声がどこから聞こえたかわからない。
アビー!どこーっ!
声をあげる。ふと、後ろから口を塞がれる。
「大きな声を出すとあの方が起きてしまうわ…」
ひんやりした小さな手、肩口にかかるサラサラの髪。まぎれもなくアビーの筈だが違和感。
「夢を伝って来たのね…魔術師ってすごいのね」
キミは…?本当にアビー?
「私…?ワタシ、は…」
空気が変わる。まるで船の周囲のみが凍りついたように霧が流れる。>>237
「一にして全、全にして門。その端末。私は見定めるもの。鍵を持つものを最後に試すもの。」
「さあ、境界に立って…ここからの眺めを楽しんで…?あなたならきっと耐えられるわ…。」
(Battle ウムル=アト・タウィル(フォーリナー))
「重畳重畳。銀の鍵の所持者、貴女を認めましょう。「マスター」」
突如浮遊感と落ちるような感覚。
暗転
マイルームで目を覚ます。頬をつねる。痛い。
時計を見ると、起床には少し遅い時間だった。
起きるよアビー
声をかける。
「うぅん…おはよう座長さん…」
寝ぼけ眼のアビーを膝の上にのせて髪を梳いてやる。
今日も一日が始まる。
幕間 アビー宝具強化
待ってます一万字を超えるものはどう投稿すればいいのか悩み中
行数にして404行、やりたいようにシャークネードとのクロスSSを書いたらむやみに長くなってしまった…
メモ帳スクショで貼ればいいかな?>>239
長いならピクシブなり、笛吹きの方がいいと思うぞここらに出すならあらすじだけとか、短編みたいな短いものじゃないとキツイからねえ
「※※※!そっちの木箱はカメラだから封をする前にフィルムのチェックをしておいてくれ」
青年…というには少年の面影を残した彼は上官の声にまだ封を木箱の中からカメラを取り出して中身をチェックする。
命令した上官は今回の“探索”の要である“彼”と何事かを話し込んでいた。おそらく現地にいってからの打ち合わせの最終チェックだろう。
普段は柔らかな物腰の上官の顔も険しい。当たり前だ、このご時世に他国内で軍事行動をしようと言うのだ。
もちろん、現地の軍部とは“ある程度”の話はついてる…とはいえ言葉の通り本当にある程度でしかない。
なにしろ現地では「競争相手」なのだ。
そんなことを想いながらカメラを弄っているそ何かの拍子にシャッターを切ってしまう。正面の“彼”と上官にフラッシュが浴びせられる。
※※※は遺産収集局における聖杯探索隊……通称『ギャラハッド隊』の補欠メンバーの一人だ。定員割れから急遽編制されたことで訓練もほとんど済んでいないために
事実上制服を着ただけの一般人と変わらないため最初は馴染めるか不安だったが彼が元々人懐っこい性格のためかすっかり隊の空気にも馴染んでいた。
同僚たちとは上手くやっているし最近はちょっとした良い事もあった。
部隊には様々な年齢や役職の者がいるがそのなかには同い年くらいの女もいる。時計塔の政争から敗れた魔術師の一族で今は魔術使いとして祖国に協力してるのだが最近彼女と婚約した。
同僚からはやっかみっぽく祝福されて彼はこの任務が終わり次第彼女と結婚するするつもりだった。―――――193×年 日本・冬木
※※※はボロボロの身体で這いずっていた。顔の半分は抉られているし片脚も千切れている。それでも彼は必死に前に進む
「ダーニックが裏切った」それだけを仲間に伝えるために。
“彼女”は死んだ、俺を庇って。彼女が礼装を渡していなければ自分はとっくにこと切れていただろう
涙がポロポロとこぼれて泥と共に視界を塞ぐ、それが婚約者を失った悲しさからなのか肉体の痛みからなのか彼には判別つかない。
円蔵山から聖杯を奪取。しかしその裏では既にダーニックの計略が潜んでいたのだ。口封じに殺されかかったが…俺は生きてる…まだ間に合う……早く仲間に……―――
遠ざかっていく飛行艇を見ながら彼の意識はそこで途切れた。
彼が目を覚ましたのは教会だった。
璃正という若い神父によると彼が気を失ってから一週間が経っていた。
ダーニックは甘くない、、仲間は1人も生き残ることはないだろう。
“彼女”はこの教会の墓地に葬られた。
彼にはもう何もなかった。―――19××年 中東・某所遺跡
日焼けしたした青年が見守る中で遺跡から次々とトラックに遺物が運び込まれている。
「……それにしても独力で女帝の時代の遺跡を発見するとは大したものだ…我々は『収集局』であちこちの史跡を巡ったがあれは当時の祖国の力を使って総ざらいしたようなものだからね」
その背後から老人の声が掛けられる。
「久しぶりだね、ルーラー……いやシロウ・アマクサか」
車椅子に乗った老人が皺だらけの顔をくちゃくちゃにして笑みを作った。
しかしそれは年月の刻まれた深い皺と古傷である顔半分の抉られた痕により苦痛に顔をしかめたようにしか見えない。
そう思う程度には老人の姿は痛々しかった。車椅子に乗せられた枯れ木のように痩せ衰えた身体や顔の傷痕もさることながら鼻にはチューブが通されており、
ガウンの下にも点滴がいくつも付けられて車椅子に取りつけられた装置へと繋がっている。
傷が無い顔側の片目も緑内障の兆しがあるのかまともに視えているのか怪しい。
正直、こんな日差しのキツい荒れた土地に連れて来ていい老人ではなかった。
ただ唯一傷のある方の顔の眼は老人とは思えないほどの力強さが宿っている。
「シロウ・コトミネ…今はコトミネと名のっていますよ御老人」
対して日焼けした青年も笑みで返した。
「御老人!御老人と来たか!対して歳は違わないだろう!」
老人は咳き込むように笑った。そして世間話でもするようにこう言った。
「コトミネ、君に会ったら一度聞きたかった、我々を恨んではいないのかな?―――なにしろ君のマスターを…」
「恨んでなどいませんよ、悩みもしましたがそういうものは通り過ぎました」
青年は即答した。そこには何の淀みもない、心の底からの言葉だった。老人は再び笑った、今度は咳き込む様にではなくどこか頑固な同い年の老人をみるようなそんな顔で。
「君は強いのだな……私の方はこの60年ずっと恨み通しだったとも」
老人の言葉には人生の半分以上を憎悪に費やしたことへの悔恨の響きはない。
それどころか今もなお煮え滾るような憎悪がその言葉が感じられた。
それを聞いたコトミネはそっと目を伏せた。老人を憐れんだのか、もっと別のなにかか、彼の胸中のそれは分からない。
「ご協力感謝しますよ御老人、これらを国外に持ちだすのは流石に1人では難しかったのですよ」
「謙遜するな、これを見つけたのも密輸ルートを構築したのも保管場所を作ったのも全て君だ、私は君の指示通りに金をばら蒔いて人員を配置しただけだよ…誰も自分がどんな仕事をしているか知らないから情報も洩れようもない…コトミネ、君の執念と努力に感服の念を覚えるよ」
老人は東西ドイツの時代と“壁”の崩壊を経て軍部時代のコネクションから企業を設立して莫大な財産を築いていた。
今は会社は人手に渡して趣味に余生を費やす悠悠自適な隠居生活―――というのが表向きだ。
彼は常に裏世界にアンテナを張っていた。聖杯戦争に関わる魔術師たちが手に入れようとする聖遺物の動きでユグドミレニアの動きを見張る為に。
―――いくつかの聖遺物が時計塔やユグドミレニアに流れたことにも関わっている、それらは祖国が収集した遺産(アーネンエルベ)だ。
そのアンテナにシロウ・コトミネの方から割り込んできた。そうして協力を取り付けてきたのだ。「お礼の代わりと言ってはなんですが“何か言伝はありますか?”」
その言葉に含まれた意味には色々なものがある、おそらく“戦場を生きた2人の老人”の間にしか伝わらない事。
「屈辱を味あわせて欲しい…生涯をかけて命を賭け金(ベッド)にして目の前の目的に手が届く瞬間に奴が積み上げた全てを一切合財を無慈悲に灰塵に帰して欲しい―――ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアをこの世からその魂の一片すらも消滅させてくれ」
シロウ・コトミネが了承したかはわからない。ただ「善処しましょう」というだけだった。
「そろそろお暇しなくては。ありがとう御老人……いえ、※※※さん、会えてよかった」
「ああ、シロウ・アマクサ、私もあなたに会えてよかったよ」
この二人は二度と会うことは無いだろう。おそらくこれが最後の邂逅だ。
背を向けたコトミネに老人は最後に言葉を掛けた。
「君の“救済”がどんなものかは知らないが……私はその対象外で構わないよ、いまさら降って沸いた救いなどいらない。私の悲劇も憎悪も私だけのものだ。私は私として戦友や婚約者に再会したいのだよ…地獄でね」
神父は返事をしなかった、その言葉に何をどう思ったのかもその後ろ姿からは推し量れない。
「君に勝利(Sieg)をアマクサ」
ドイツ語で呟かれたその言葉をシロウ・コトミネ……天草四郎がこの老人の言葉を次に思い出すのが数年後の空中庭園でのことになる。
まさか老人もこの言葉が皮肉になるなど思いもしなかったろうが。
老人は懐から写真を出す、色褪せた集合写真、1人だけ塗りつぶされているがあのころの聖杯探索隊の集合写真だ。
老人はその写真を見ながらもの思いに耽った。
「出発前に写真をとりましょう!」そう言ったのは確か自分だった、そう思いながら
その間、神父は一度も振り返らなかった―――200×年~ドイツ
『ルーマニア…で起こった…殺人…捜査は……次のニュース…航空機墜落は…テロの危険は…政府発表…』
老人が目を開けてます感じたのは家政婦のいる部屋から洩れでるテレビの音声と今日も死ぬこと無く目を覚ましたということだった。
ゆっくり身体を起こして窓を開ける。良い天気だ。
家政婦がやってきて手紙を渡す。その内容をみてうっすら笑みがこぼれたらしく家政婦が「良いニュースですか?」と聞いてきた。
「いや、訃報だよ。だが嫌いな奴でね」そう言うとジョークだと受け取ったのか家政婦も「あらやだ旦那様ったら」と笑った。
窓の外を見る、変わらぬ街の喧騒が広がっているだけで世界が救済された様子は無い。
「残念だったねアマクサ……だが君の覚悟と執念には感服したよ」
窓から景色を見る老人はゆっくりと部屋の中に視線を戻して―――
「君を見習って“私達”も諦めるにはまだ早いと思ったよ……遺産は受け継がれるのさ」
老人の前には複数の老若男女がいつのまにか立っていた。老人を含めて総勢“七人”。
「今度こそ我々の聖杯を―――聖杯大戦を始めよう」
――――聖杯戦争は終わらない、外典は新たに紡がれていく
Fin……?乙でした
一先ず他媒体に出すように本編書く前に
備忘録として設定をば
これは異端のみにより行われる正しい聖杯戦争
聖杯解体の前の最後の奇跡
参加クラス
ルーラー/グリムリーパー
フォーリナー
アルターエゴ
ウォーモンカー
ガンナー
コマンダー
シールダー
アヴェンジャー
■■■■■/■
アポ世界線の分岐点で大聖杯が盗まれなかったルートを予定
盗まれなかった為、大聖杯は冬木の地で純度の高い第三魔法顕現のための器になりかけ
アインツベルンの暴走を止めるために時計塔や他御三家は大聖杯の解体を画策。
その目を盗み最後の一押しとして聖杯戦争を起こすアハト爺
しかし喚ばれるサーヴァントは全て「エクストラクラス」だった…※ふと思い浮かんだ一発ネタ
『アポプテピピック』
玲霞「私はおかあさんよ、知りたい事何でも教えるわ」
ジャック「わたしたちののことどれくらい好きかおしえて?」
玲霞「いっぱいちゅき(ハート)」
※※※※※
アポプテェェェェピピックゥウウウウ!!! byユグドミレニア当主
※※※※※SSを語るスレでネタにしていた初期設定マシュin第5次聖杯戦争の嘘予告です。SSを書くこと自体が数年ぶりなのでかなり稚拙なものになりますが楽しんでいただければ光栄です。
それはありえるかもしれない物語
「あのような部外者に任せてなどいられん、我々もサーヴァントを召喚するぞ」
「だが第3次はそれで失敗したのでは?」
「アンリマユはただ弱すぎただけだろう、だから今度は別のクラスを召喚する」
再び召喚されるイレギュラー、だがイレギュラーを2度繰り返した代償は大きかった。
「やめろ!私はマスターだぞサーヴァントなら従え!」
「ます…たぁ…?なんで従う必要があるの…?」
「くそっ!何故令呪が現れないんだ!く、来るな!」
狂った彼女は主と家を失った、それから10年の月日が流れ…第5次聖杯戦争を前に様々な思いを抱える人々
『私だ。解っていると思うが、期限は明日までだぞ凛』
「…ふん、言われなくても分かってるわよ」
日常が終わる事を知らずにいる者達
「衛宮先輩、今日一緒にご飯食べませんか?」
「藤丸か、いいぜ」
「チッ、残念だけど衛宮は今日は僕と付き合ってもらうことになっているんでね。君のような奴が一緒だと僕の品位が下がるんだよ」
復讐を誓う者達
「いいバーサーカー、私達が一番強いんだから絶対に勝ち残るのは勿論だけど、あの2人は必ず殺.すのよ。アインツベルンを裏切ったキリツグとシールダーはね」
「■■■■■■■■ーーー!!!」高みの見物をする者達
「しかし9騎のサーヴァントがここに集う事になるとはな」
「だが奴は無視しても構わんだろう言峰。アレは生きる事を放棄した負け犬だ」
そして…
「大丈夫?君はどうしてこんな所に」
「…放っておいてください」
「訳ありみたいだね、とりあえず俺の家においで」
彼の運命は
「君の名前は何て言うんだい?」
「ごめんなさい、言えません」
「えっと…それじゃあマシュって呼んでいいかな?」動き始める
「サーヴァント!そんな!?」
「な、アレは一体!?」
「へぇ、藤丸もマスターだったのか。丁度いい、放課後に調子に乗ったツケを払ってもらおうじゃないか。やれライダー」
「藤丸さん、私と契約してください!」
「契約!?」
そこに権限するのはいるはずのない第9のサーヴァント『シールダー』
「マスターあなたの事は私が守ります!」
「君は一体…」
その日、少年は新たな運命を出会う
Fate/ninth shield
『公開未定!』ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトはその美しい音楽性とは裏腹に彼の生前の曲の中に「俺の尻を舐めろ」という名前があったりするなど、中々に口汚く下ネタ好きである。
それはカルデアに召喚されているときでも同等で、マリーから禁止にされているので自嘲してはいるものの時々男同士で楽しそうに猥談に及んでいる場面を時折見かけられている。
そんなある日である、マスターがシュミレーションで失敗し珍しく落ち込んでしまった。
サーヴァントたちは何とか元気づけようと試行錯誤していたが、アマデウスだけはパソコンの前で何かを入力し得意げな顔をしているだけだった。
そんなアマデウスにマスターへと励ましの手紙を書いていたサンソンが不本意ながらも気になったので聴いてみることにした。
「何をそんなに得意げにパソコンの前に座っているんだ?」
「おっとそれは手紙かい? なるほど旧時代的な人間がやりそうなことだ」
「君もある意味旧時代から来た人間だろう……手紙のどこが悪い? 気持ちを伝えるにはこれ以上の物はないだろう、直接言葉を伝えることを除いて」
「いいや、悪いとは言っていないさ。だが君がR(リアル)メールをせっせと書いているとき、僕はEメールを使ってマスターに励ましの言葉を送信してたんだよ。開いたら音楽がなる機能付きでね、こういう時はさっぱりとした方がいいのさ、人間が分かってないな君」
「一番言われたくないやつから一番聞きたくないセリフを……! まて、それは個人用のアカウントから送ったのかい?」ふと何かを思いついてサンソンが口にした。彼は良くアマデウスから酒に酔っぱらった勢いで何かの支離滅裂な文章を秀抜な音楽と共に送られていたのを思い出したのだ。
「意外と詳しいな君……それは個人用だろう、個人の用事で、プライベートな事だからね」
「それ、ちゃんと最後の署名を消したか……?」その言葉を聞いた瞬間、アマデウスは一瞬固まって「ちょっと用事が出来た」とそのまま早足でそこから去っていった。残ったサンソンはやっぱりRメールの方がいいなと一人手紙にリボンを上品につけることにした。
アマデウスが向かったのは、マスターの部屋であった。ノックをしながら部屋に入ると部屋にはマスターと共にマリーがベットに座って丁度アマデウスから来たEメールを端末から見ている所だった。心地よい音楽が共に流れているのでそれは端末を覗いていないアマデウスにも分かってしまう。
「やぁ、マスター、マリー、もしかしてもう見てしまったかな?」
「『だから君も落ち込まないでいろんなサーヴァントに相談してみると言い。もちろん僕も力になると約束するよ』……『僕のくさい尻』より送信。素敵なお手紙ねアマデウス」
にこやかに笑うマリーの笑顔が何だか怖い。こういう時のマリーが一番怖いとアマデウスは知っている。
「いや、その、なんだろう。誰かからハッキングでもされたかな?」
「ありがとう、とても元気がでた」マスターがアマデウスに向かって照れくささそうに言った。「その、結構ジーンって来たし、音楽も添えられてなんだか泣きそうになっちゃった」
その言葉を聞いてアマデウスは少しばかり安堵した。喜んではくれたらしい、これならマリーの怒りも収まるだろう。しかし署名が最近変えた物でよかった、ひとつ前のだったらマリーはすでにガラス製の馬に乗っている所だ。
「悦んで貰えたのなら」
「モーツァルトのお尻に言ってる」幸せってなんだろう。
部屋のベランダから身を乗り出して、やたらと大きく見える三日月を眺めながら少女――アビゲイル・ウィリアムズは考えていた。
大人たちは「今、頑張って勉強すれば将来幸せになれるよ」なんて言うけれど、大人たちは『幸せ』が一体なんなのか、教えてくれない。
ならば、とこっちから聞いても答えはバラバラ。
「それは、自分で掴み取るものだよ」と言う人がいた、
「それは、誰かを好きになることさ」と言う人もいて、
「それは、君のすぐそばにあるんだ」とも言う人がいて、
「それは、人によって違うものだよ」なんて言う人もいた。結局何もわからないまま。
「子供が考えることじゃない」と言う人もいた。自分でもそんな気はしているし、大人になれば自然と分かると思っている。
けれど、このまま大人になって、色んな人と出会って別れて、どこかの誰かと一緒になって、子供を産んで育てて見守って、たくさんの人に惜しまれながらこの世を去る。
そんな分かりきった人生の中で見つかる『幸せ』なんて、みんな同じだと思ってしまう。
なのに大人たちはみんな違う答えを言ってくる。人によって違うと、人それぞれだと言う。
だからこそ分からない。どれだけ考えても誰に聞いても分からない。
「はぁ~……もう寝ないといけないのに」
時刻は9時半。いつもならとっくに寝ている時間だが、普段はしない考え事のせいか、目が冴えてしまった。このままでは夜更かししてしまう……いや、もうしている。どうしよう。
「は、早く寝なきゃ…ティテュバに見つかったら怒られちゃう」
羊を数える?――最高記録は4桁オーバー。意味がないことは知っている。
天井のシミを数える?――シミなんかない。毎日しっかり掃除されている。
子守唄?――自分で歌ったところで眠れるはずもない。名案が浮かばないまま、部屋の隅から隅までぐるぐる回って、またベランダに出て――閃いた。
「そうだわ、眠ろうとするからいけないのよ! 逆に起きていればいいのよ!」
たまになら夜更かしをしても、悪い子になってもいいだろう。
そうと決まったら何をするか決めなければ。例えば――夜中のテレビを見るとか、ティテュバ秘蔵のお菓子を探し出すとか、叔父様の書斎に忍び込むとか、
―――夜に散歩する、とか。使用人のティテュバを起こさないように、かちゃりと少しずつ扉を開けてゆっくりゆっくり外に出てから、またかちゃりと音を立てないように閉める。
これだけのことなのに随分と時価をかけてしまった。少し汗もかいている。
アビゲイルの住む家はかなり大きい――というかお金持ちのお屋敷そのものである。そんな屋敷なら当然ながら扉も大きい。おかげで思ったより時間を取られてしまった。
季節は春。まだまだ夜は肌寒いが、ほんの少しだけ散歩するなら問題はない。さぁ、初めての夜の散歩だ。ちょっとした悪戯心が、冒険心が騒いでる。
といっても目的地は決まっている。屋敷の裏の坂をまっすぐ上った所にある小さな公園だ。
とにかく狭く、遊具も少ない。なにより灯りがない。
そんな場所に好き好んで近づく人間なんて滅多にいないだろう。だからこそ、この一人っきりの夜の散歩にはうってつけの場所だった。
アビゲイルはずっとうつむきながら歩いていた。そうしないとついつい夜空を見てしまいそうになるからだ。今見てしまうのはもったいない。どうせなら一番綺麗に見える場所で――と。そうしてアビゲイルはうつむきながらしばらく歩いた。普段なら誰かが危ないと注意するけど一人なら注意されるはずもない。それがまた楽しくて楽しくて―――
「ふふっ……あら?」
なんだか視線を感じる。まさかティテュバにバレていたのかと、焦って振り向く。
五十歩ほど離れた場所に立っていたのは、かなり大きなハサミを持った長身の男性―――いや違う。普通の人間に、あんな蝙蝠のような羽がついている訳がない。人間ではない、ならば――
―――悪魔?
アビゲイルは直観的にそう感じた。どうしようもないくらいにアレが悪魔に見えて仕方なかった。急に、怖くなった。
―――逃げないと。
それからアビゲイルは走った。走って走って逃げた。すぐに息が上がり、喉が熱くなったがそれでも走った。
姿を見ただけで逃げるなど、普通の相手ならば失礼極まりないだろう。しかしそんな常識を気にする余裕は、アビゲイルには無かった。振り返らなくても分かる。妙に耳障りな足音が、少しずつ少しずつ自分に近づいている。
「いやっ……! 誰か、だれかぁ!」
たまらず叫ぶ。このまま捕まれば何をされるか分からない。最悪殺されるかもしれない。
「だれか、だれでもいいから助けて! ここにわるい人が、わるい悪魔がいるの! おねがいたすけて!!」
ボロボロ泣きながら助けを呼んでも、誰も来てくれない。都合の良い正義の味方なんてこの世にはいてくれない。それが悲しいことだと思ってしまった。
どれだけ走ったろうか。気づけば、目的地の公園についていた。あの耳障りな足音はもう聞こえてこない。「にげ、れた? よ、よかった……あはは……」
安堵のあまり尻餅をついてしまう。こんな怖い思いをしたのは初めてだった。どんな夢の中でもこんなに怖くはなかった。
「…………」
月と星で埋め尽くされた宙の海はとても綺麗だけど、今日はもうそれを楽しめないだろうと、アビゲイルは思った。今はそれよりもあの屋敷に帰りたかった。
「もう、帰ろう……」
そうだ、帰って寝よう。そのためにはまず落ち着かなければ。
アビゲイルは毎朝しているお祈りのように目をつむり、息を整える。瞼越しに月の光が飛び込んでくる。―――ふと、月の光が陰る。
まさか、そんな。いや、でも、おかしくない。アレはそういうものだ。そういうものだからこそ人に嫌われて、怖がられる。アビゲイルは半ば諦めながら、震えながら目の前の景色を見た。あぁ。やっぱり―――
月の光を背負って、悪魔が立っていた。
「あぁ……」
悪魔が近づいてくる。アビゲイルはもう泣くこともしない。助けも呼ぼうとしない。
諦めた。この悪魔からは逃げられないと。誰も助けに来てはくれないと。ここで自分は終わるのだと。
悪魔は近づいてくる一歩一歩ゆっくり少しずつ。
アビゲイルはろくに回らない頭で考える。ひょっとしたらこれは夢ではないかと。そうだ、夢だ。悪戯をした自分が悪魔にお仕置きされるなんて、出来過ぎた夢ではないか。そうに違いない。
あと一歩二歩で手が届くという所で大きな大きなハサミを持ち上げた。そのままハサミをまっすぐためらいもなく突き出してくる。
神様、どうかこれが夢でありますように。ぞぶり、と湿った音が聞こえる。大きなハサミの刃が、少女の体を何の抵抗もなく貫いていた。綺麗な紅が広がって、公園を汚していく。
「かふっ……えぅ……」
自分の中から熱いなにかが抜けていく。自分だけが寒くなっていく。一人だけになっていく。
いずれ死にゆく少女を眺めながら悪魔はきょとんと、不思議そうな顔をしている。そのまま不思議そうに眺めた後に、何か思いついたように飛び去ってしまった。
残ったのは一人の少女。自分の幸せを見つけることすら出来なかった少女はここで死ぬ。たった一人で、誰にも見送られずに、何も残さないまま。
「まだだ、起きなさい。アビゲイル・ウィリアムズ」
――だれ?
「私のことはいい。今、重要なのは君の右手だ」
――わたしの、て?
「そうだ。――君の手に魔法の杖在り。虚無より顕れ、その光で君を救う」
――たすけてくれるの?
「無論だ。代償として、未来を変えさせてもらう。いいな?」
――うん、いいよ
「では……契約成立だ。あぁ、良かった」
瞬間。自分の中になにかが入り込んでくる。自分と同じような違うようななにかが入り込んでくる。
なにも分からないけど、自分が変わっていくのが分かった。変わりたく、なかった。
あぁ神様どうか、どうか今度こそ―――夢で、ありますように。名前の部分を文章のタイトルにすると読む人がわかりやすい
琥珀さん「あらら〜秋葉様と当たっちゃいましたか〜。お手柔らかに頼みますよ、秋葉様っ♪」
秋葉「1戦目からあなたと当たるとはね・・・琥珀。先が思いやられるわ」
琥珀さん「そんなに嫌な顔しないで下さいよ秋葉様ー。せっかくの交流会何ですから楽しく遊びましょうよ、楽しく。」
秋葉「(にこやかな笑顔の裏でどんなえげつないギミックを仕込んでるのかしら・・・)そうね、あなたは主人を不快にしないようなプレイを心掛けることね。」
琥珀さん「それではよろしくお願いしますね秋葉様♪」
秋葉「ええ、では」
琥珀さん&秋葉『デュエル!』秋葉「ダイスの目は17で私の勝ちね。先攻を頂くわ。」
琥珀さん「流石です、秋葉様〜!よっ、ダイスの腕も日本一!」
秋葉「おべっかを言うのはいいからマリガンチェックしなさい!(審問、剥ぎ取り、リリアナ、プッシュ、残りは土地ね・・・欲を言えばタルモが欲しかったけど色事故もないしいい感じね)キープするわ」
琥珀さん「(ふふふっ、凄い手札をキープしちゃいましたよ秋葉様〜)こちらもキープいたします」秋葉(LP:20 手札5枚)「では私のターン。メインフェイズに湿地の干潟をプレイしてライフを1点払い即起動するわ。ライフを2点支払って神なき祭壇をアンタップインして黒1マナからコジレックの審問をキャスト。琥珀?どんな手札をキープしたか見せてもらうわよ。」
琥珀さん(LP:20 手札7枚)「ちょーっと待った!秋葉様、今ライブラリーからカード探しましたよね?」
秋葉(LP:17 手札5枚)「えっ?ええ・・・。」
琥珀さん(LP:20 手札7枚)「コジレックの審問にスタックで書庫の罠を唱えます。さらにスタックで書庫の罠を唱えます。さらにスタックで書庫の罠を唱えます。」
秋葉(LP:17 手札5枚)「・・・は!?(威圧)」琥珀さん(LP:20 手札4枚)「では合計39枚のカードをライブラリーから墓地へ送って頂きますよ、秋葉様♪」
秋葉(ライブラリー:13枚 手札5枚)「ふざけんじゃないわよ!!(全体的に迫真)」
琥珀さん(LP:20 手札4枚)「ほらほら、相手を怒鳴りつけたりしたらジャッジ呼ばれちゃいますよー。書庫の罠の解決終わったので審問の解決どうぞ♪」
秋葉(ライブラリー:13枚 手札5枚)「くっ、やってくれるじゃない・・・(カニはプッシュで落とせるしこれじゃあ一択しかないわね)不可視の一瞥をディスカードなさい!ターン終了よ」琥珀さん(LP:20 手札3枚)「私のターンですね、アンタップアップキープドロー!汚染された三角州を場に出しライフを1点ペイして即起動し島を場に出します。そして面晶体のカニを唱えてターンエンドです!」
秋葉(ライブラリー:13枚 手札5枚)「私のターン、アンタップアップキープドロー」
琥珀さん(LP:19 手札2枚)「ストーップ!ドロー後にライフを2点ペイして秋葉様の墓地に一枚しかないタルモゴイフに外科的摘出を打ちます!手札も見せていただきますよ?秋葉様♪」
秋葉(ライブラリー:12枚 手札6枚)「きぃぃぃぃッ!好き勝手やってくれるわね・・・。」琥珀さん(LP:17 手札1枚)「あららータルモちゃんトップデッキだったのに残念ですねー。ではライブラリーから残り2枚のタルモちゃんを追放していただきます。」
秋葉(ライブラリー:10枚 手札5枚)「白々しい物言いはやめてもらえないかしら・・・。あんまりからかってると本気で怒るわよ?私は花盛りの湿地を場に出し黒1マナでカニを対象にプッシュをキャスト、カニには墓地に行ってもらうわ。ターン終了よ。」
琥珀さん(LP:17 手札1枚)「ターンをいただきます。アンタップアップキープドローします。私は血染めのぬかるみを場に出します。1点ライフをペイして即起動、沼を場に出します。そして青と黒の2マナから強行をキャスト、秋葉様〜更に8枚ライブラリーを墓地に送ってもらいますよ♪ターンエンドでーす。」
秋葉(ライブラリー:2枚 手札5枚)「アンタップアップキープドロー・・・(いくらなんでもあと1ターンでライフを削りきるのは無理ね・・・)投了するわ。・・・覚えておきなさいよ?サイド後酷い目に合わせてあげるわ・・・」
1ゲーム目 琥珀さんWin某動画を見ていたら1ターン目に書庫の罠を3連打されたトラウマが蘇ったのと深夜のノリで書きました
「貴様が膝を屈したとき、その首を戴く……と言ったが。
よもや、本当に最後までやり遂げるとはな。私も鍛えてやった甲斐があるというものだ。
誇るがよい、〇〇。人理修復という任務、貴様は確かに成し遂げたのだから」
査問団訪問前夜、サーヴァント達が退去して閑散となったカルデアにて。
珍しく吹雪の止んだ、星空の見える夜。夜明け前の屋上で、セイバーオルタとカルデアのマスターは最後の別れを交わしていた。
「貴女を召喚して以来、いつも貴女が首に聖剣をかけている気がして、生きた心地がしなかった」
そう言って笑うマスターの前で背を見せて佇むオルタは、黒いドレスを纏い普段纏めている髪を下ろしていた。
「……でも、そのおかげでどの特異点も攻略できた。俺は凡人だから。戦いより、もっと怖い存在が身近に居たから、常に前を向いていられた。
実際、貴女ほど味方なら頼もしい人はいない。俺が諦めない限り貴女が味方してくれるなら、俺にはもう『諦める』なんて選択肢はなかったんだ。それに、どんなに酷い目にあっても貴女が終わらせてくれるとしたら、それはそれで気楽だったし」
「言ってくれる。……まあ、貴様との契約は悪くはなかった。
細やかさではベディヴィエールに及ばぬ。力も円卓より劣る。徹頭徹尾凡人でありながら、貴様は私という竜を最後まで扱ってみせた。
オルレアンで召喚されたとき……いや、冬木で会い見えたときは、正直見込みはないと思っていたがな。首を戴くというのも、私としては情けをかけてやるつもりだった。
それが、まさか。本当に人理を修復せしめるとは。大したものだ」
マスターの言葉に苦笑混じりにそう返すと、オルタは振り向いて穏やかな眼差しを彼に向けた。>>271
星々の輝きが薄れ、空が白み始めてゆく。ゆるゆるとした風に靡く黄金の髪と、煌めく魔力の粒子。世界にその存在をゆっくりと溶け込ませながら、彼女は、マスターに最後の言葉を紡ぎ始めた。
「もうじき夜明けだ、マスター。貴様の人理修復を以て、この契約を終了とする。多少の期間延長はあったが、まあ構うまい。これで、今生の別れだな」
「――はい。今まで、ありがとうございました。貴女との契約があったから、ここまでやってこれた。俺の命は、貴女に救われていました」
最上の感謝を伝える。心からの想いを伝える。フッと笑った彼女は、朝日を背に彼の顔を眺め――
「――さようなら。私も、貴方と出会えて良かった」
夜が明ける。太陽に眩んだ目を開けると、もうそこにはオルタの姿はなかった。>>272
彼女は世界から消えていた。
「……」
「……先輩。行ってしまいましたね」
「……うん」
屋上の出入り口の向こうで待っていたマシュが、ブランケットを手に近寄ってくる。
「……先輩、ここはお体に障ります。中に入りませんか」
「……うん。でも、ごめん。綺麗な朝日だから、もうちょっと眺めていたい」
「……分かりました。温かい飲み物を淹れて、お待ちしていますね」
そう言って、ブランケットだけ置いてマシュは戻っていった。彼は、頬に流れる熱い涙を拭うこともせず、美しい太陽をただ見つめていた。
星空と共に消えていった己の王の姿に、静かに思い馳せながら……見渡す限りの白。何もかもが凍て付く野が『獣国(けもののくに)』などと呼ばれるには理由がある。
濃紺のコートをはためかす風に乗り咆哮が轟く。
氷結の皇女はぬいぐるみを抱く手に力を込める。彼女を守らんと立つ青年の動きは従者じみている。
主従の立場は本来ならば逆だろうが、咎め立てるものもなく。
「あれは群れでありながら王、王でありながら群れだ」
四足の女狩人の睨む先に、黒一点。
「――喰らい尽くせ」
男の呟きと共に――黒が、爆ぜた。
溢れ出す数多の獣は、インクをノートにこぼしたように白い凍土を染め上げる
ゴーレムを操る男の首元を狙って狼が唸り跳びかかる。
天眼の剣士の柔肉をへし折らんと鹿角が振るわれる。
「ああ、貴様の――いや、貴様らの名を、知っている」
群れ成す大鴉を慣れた手つきで討ち落としながら、聖職者は呟いた。
遠いいつか、あるいは遠いどこか、聖職者は神の怒りの代行者であり
その矛先こそ視線の先の男のような、ヒトならざる異端(バケモノ)だった。
血の香をまとわせたまま、黄金色の眼で凍土を見渡す男。
人類最後のマスターだった少年/少女は泥の海をそのヒトガタに重ね見た。
地を、人を、全てを飲みこまんとした、暗き原初の海を。
――混沌、と。彼の/彼女の腕の中の小さな生き物に知性があれば、そう呼んだだろう。
凍て付く野が『獣国(けもののくに)』と呼ばれる理由は、――『獣の王の巣』が在るからに他ならない。「聞いたことがあります」
毒の娘と多貌の女は古い伝承を思い出していた。
「信じる神の彼是を問わず、ヒトを喰らわんとした怪物の話を」
「不快だ。実に不快だ」
「あれの同類に思われるなどとは!」
王と将、一人の男の異なる影が二人、槍を振るいながら叫ぶ。
その口元には常人ならば持たぬ鋭牙。押し付けられたイメージ故の。
何処かの世界において、二十八在る二十七の一。
人類史の前に立ち塞がる彼の目的を、誰も知らない。
みたいなクロスオーバー妄想。- 276名無し2018/04/14(Sat) 17:37:04(1/51)
このレスは削除されています
>>276 ヘイト系SSは流石にどうなのさ…
- 278名無し2018/04/14(Sat) 17:39:01(2/51)
このレスは削除されています
- 279名無し2018/04/14(Sat) 17:39:26(3/51)
このレスは削除されています
- 280名無し2018/04/14(Sat) 17:39:44(4/51)
このレスは削除されています
- 281名無し2018/04/14(Sat) 17:40:30(5/51)
このレスは削除されています
- 282名無し2018/04/14(Sat) 17:44:43(6/51)
このレスは削除されています
- 283名無し2018/04/14(Sat) 17:45:00(7/51)
このレスは削除されています
- 284名無し2018/04/14(Sat) 17:45:13(8/51)
このレスは削除されています
- 285名無し2018/04/14(Sat) 17:45:42(9/51)
このレスは削除されています
- 286名無し2018/04/14(Sat) 17:46:52(10/51)
このレスは削除されています
- 287名無し2018/04/14(Sat) 17:49:30(11/51)
このレスは削除されています
- 288名無し2018/04/14(Sat) 17:50:01(12/51)
このレスは削除されています
- 289名無し2018/04/14(Sat) 17:50:27(13/51)
このレスは削除されています
- 290名無し2018/04/14(Sat) 17:50:39(14/51)
このレスは削除されています
- 291名無し2018/04/14(Sat) 17:52:31(15/51)
このレスは削除されています
- 292名無し2018/04/14(Sat) 17:52:55(16/51)
このレスは削除されています
- 293名無し2018/04/14(Sat) 17:53:26(17/51)
このレスは削除されています
- 294名無し2018/04/14(Sat) 18:11:33(18/51)
このレスは削除されています
- 295名無し2018/04/14(Sat) 18:13:02(19/51)
このレスは削除されています
- 296名無し2018/04/14(Sat) 18:13:39(20/51)
このレスは削除されています
- 297名無し2018/04/14(Sat) 18:15:28(21/51)
このレスは削除されています
- 298名無し2018/04/14(Sat) 18:15:42(22/51)
このレスは削除されています
- 299名無し2018/04/14(Sat) 18:15:53(23/51)
このレスは削除されています
- 300名無し2018/04/14(Sat) 18:18:51(24/51)
このレスは削除されています
- 301名無し2018/04/14(Sat) 18:19:06(25/51)
このレスは削除されています
- 302名無し2018/04/14(Sat) 18:19:21(26/51)
このレスは削除されています
- 303名無し2018/04/14(Sat) 18:19:48(27/51)
このレスは削除されています
- 304名無し2018/04/14(Sat) 18:20:01(28/51)
このレスは削除されています
- 305名無し2018/04/14(Sat) 18:20:33(29/51)
このレスは削除されています
- 306名無し2018/04/14(Sat) 18:32:18(30/51)
このレスは削除されています
- 307名無し2018/04/14(Sat) 18:33:40(31/51)
このレスは削除されています
- 308名無し2018/04/14(Sat) 18:33:54(32/51)
このレスは削除されています
- 309名無し2018/04/14(Sat) 18:34:09(33/51)
このレスは削除されています
- 310名無し2018/04/14(Sat) 18:34:32(34/51)
このレスは削除されています
- 311名無し2018/04/14(Sat) 18:34:46(35/51)
このレスは削除されています
- 312名無し2018/04/14(Sat) 18:34:59(36/51)
このレスは削除されています
- 313名無し2018/04/14(Sat) 18:36:37(37/51)
このレスは削除されています
- 314名無し2018/04/14(Sat) 18:36:51(38/51)
このレスは削除されています
- 315名無し2018/04/14(Sat) 18:37:03(39/51)
このレスは削除されています
- 316名無し2018/04/14(Sat) 18:37:17(40/51)
このレスは削除されています
- 317名無し2018/04/14(Sat) 18:38:34(41/51)
このレスは削除されています
- 318名無し2018/04/14(Sat) 18:38:46(42/51)
このレスは削除されています
- 319名無し2018/04/14(Sat) 18:38:57(43/51)
このレスは削除されています
- 320名無し2018/04/14(Sat) 18:40:03(44/51)
このレスは削除されています
- 321名無し2018/04/14(Sat) 18:40:17(45/51)
このレスは削除されています
- 322名無し2018/04/14(Sat) 18:40:31(46/51)
このレスは削除されています
- 323名無し2018/04/14(Sat) 18:42:32(47/51)
このレスは削除されています
- 324名無し2018/04/14(Sat) 18:42:44(48/51)
このレスは削除されています
- 325名無し2018/04/14(Sat) 18:42:56(49/51)
このレスは削除されています
- 326名無し2018/04/14(Sat) 18:43:08(50/51)
このレスは削除されています
- 327名無し2018/04/14(Sat) 18:43:21(51/51)
このレスは削除されています
何事だ
ミ、ミーも初めてこのスレの存在知ったから全くわからない…
ヘイト系SSでも投下したのかの?
>>330
そうだよ……マジでひどいのが連投されてた……多分よく表で暴れてる人だと思うが……上の削除されたのは「FGO主人公()が片っ端から気に入らないキャラをコロす理不尽ss」的なのだった。
同時期にエロssスレに別の作品投稿してそっちも削除された。
エロssの方は分からんが、こっちに投稿されていたのはモロ蹂躙ヘイトだったこと、勢いネタっぽく見せかけてキャラをボコるシーンが生々しくてグロだったこと、後故意かどうか分からんがSN原作者の名前からとっているようなややこしいコテハン(ペンネーム?)で投稿されていた辺りが恐らくアウト判定の主な原因だったと思われる。
自分も最初見たときあまりにアレな内容でssの皮を被った荒らしかと思ったのと全年齢向けスレでの作品にしては不条理系にしたかったにしてもグロかったから、当時報告ボタン押したし。ここでちょっと思いついたのを
一部のサーヴァントたちの計らいで、共有のメモ書きが各所に設置されたカルデア。
単純な一言の他にも、料理を担当するサーヴァントによる夕飯のアンケートや、作家のアイデアの走り書き、即興の楽譜や絵画などが書かれており、それなりの賑わいを見せていた。
そんなある日、メモ書きの中に、書き手不明のメッセージが現れるようになった。
それは落し物を拾ってどこそこに置いたとか、冷蔵庫のドアが開いたままだった、というようなもの。
調べてみたが、サーヴァントたちにもスタッフたちにも、それを書いた者はいなかった。
一言お礼を述べたいなど理由は様々だが、マスターやスタッフ、幾人かのサーヴァントたちはそれぞれで調査を開始する。
みたいな感じのを思い付いた。真相は、概念礼装が夜の間だけ実体化してカルデア内をうろついてたってオチ。
登場人物の日誌っぽく書いたら面白そうと思ったけど、文体が浮かばなそうだったので諦めた。ー日曜日 PM1:00 栗原邸ー
イリヤ&美遊&クロ「おじゃましま〜す。」
雀花「よう、来たか。」
那奈亀「3人ともこっち、こっち。」
イリヤ「はぇ?美々と龍子何やってるの?」
雀花「これか?これはマジック・ザ・ギャザリングって言ってな、今あたしらの学校で流行りつつあるカードゲーム何だぜ。」
イリヤ「まじっくぎゃざりんぐ?」
美遊「マジック・ザ・ギャザリング。通称MTG。世界初のトレーディングカードゲームにして現在最も人気のあるカードゲームのひとつ。ルーリングに
関しては世界最高とも言われてる。」
クロ「私知ってるー。これって対戦相手同士が魔法使いになって戦うゲームよね?大人のプレイヤーも多くてプロプレイヤーなんて制度もあるらしいわ。」イリヤ「プ…プロ?カードゲームで?」
那奈亀「ちっちっちっ、これはそんじょそこらのカードゲームじゃないんだな〜。戦略性、戦術性はカードゲーム中随一なんだな。おっ、そろそろ決着がつきそう。」
龍子「うぉぉぉ!最後のガルタで渾身のラストコンバットォ!」
美々「じゃあ対応して排斥を撃つね。次のターンギデオンのコンバットで龍子ちゃんのライフ0になるけど続ける?」
龍子「手札がないので投了します…(小声)。ちくしょー!除去と打ち消しなんて強すぎるぜ!」
美々「あっ、イリヤちゃんたち来てたんだ。みんなで一緒にやろうよ。」
クロ「いいわね。面白そう。」イリヤ「でも私たちデッキなんて持ってないよ。」
雀花「そこにドミナリアのパックがあるだろ?シールドやろうぜ。おねぇがテフェリー×キャパシェンの資料用に買った奴なんだど欲しいカード出たから好きに使っていいってさ。」
美々「ギデオン×ジェイスが至高だってそれ1番言われてるから(スクイーの意思)」
イリヤ「シールド?」
雀花「6パック剥いてその中のカードだけで組んだデッキでやるルールだ。詳しいことはデッキ組む説明してやるよ。」
イリヤ「面白そう!美遊も一緒にやろうよ!」
美遊「イリヤがやるなら…」ー3時間後ー
美遊「キャパシェンに先祖の刃を装備してコンバット」
イリヤ「うっ…対応して喪心をキャスト!」
美遊「イリヤ、その呪文伝説のクリーチャーを対象に出来ない。」
イリヤ「ふぇ!?負けた〜。」
クロ「呆れた。カードのテキストぐらいちゃんと読みなさいよ〜。」
イリヤ「はっ、初めてだからしょうがないでしょ!」
雀花「まあ最初は慣れてないからそういうミスはするもんさ。」イリヤ「でも、面白いねこのゲーム」
クロ「そうね。イラストも大人っぽくてかっこいいし。美遊、次は私とやりましょ。」
美遊「分かった。」
ー1時間後ー
イリヤ&美遊&クロ「おじゃましました〜」
雀花「おう、また遊びこい。」
イリヤ「楽しかった〜。もっと色んなカードで遊んでみたいね。」美遊「本格的に遊ぼうと思ったら自分のデッキが必要。」
クロ「そうだ。帰り道にカードショップがあったじゃない?どんなカードがあるか見てみましょうよ」
イリヤ「さんせ〜い!」
ー冬木市内某カードショップー
イリヤ「はえー色んな種類のカードがあるねー。」
クロ「流石に大会でよく入賞するようなデッキに使われるカードは高いみたいね。てか2万とかするカードもあるけど必須カードなのかしら…。」美遊「雀花たちがやっていたのはスタンダードって言って最近発売したカードだけでやるフォーマットだから安くデッキが組めるはず。今クロが見てるのはモダンから下のフォーマットで使われる古いカードで絶版だから高値。」
イリヤ「けど財布にある持ち合わせじゃ買えないよね。セラにお願いしたら怒られるかな…?」
クロ「イリヤは最近ブシドームサシのブルーレイ最新巻買ったばかりだから分かんないわね〜。こういう時のために無駄遣いは控えるものよ。」
イリヤ「うぅ…せ、折角来たんだしこのガラガラ回したら強いカード引けないかな?」
クロ「はー。まあ無理だと思うけど回すだけ回してみたら?」
美遊「イリヤ、頑張って。」ーガラガラ回転中ー
ボトッ
クロ「おっ。」
イリヤ「やった!一等だ!」
店員さん「おお!おめでとうございます!こちら一等のFtV20thとなります。」
イリヤ「へっへ〜ん。どんなもんよ。」
クロ「随分調子いいじゃない。」
美遊「(チョンチョン)イリヤ…残念だけどそれに入ってるカードスタンダードじゃ使えない…。」
イリヤ「へ?うそ!?」
クロ「なーんだ、そんなことだろうと思ったわ。残念ね、イリヤ。」クロ「なーんだ、そんなことだろうと思ったわ。残念ね、イリヤ。」
イリヤ「そんなー。」
美遊「確かにそれに入ってるカードはスタンでは使えない。でも入ってるカードは全部高額だから転売すればスタンのデッキに必要なお金は手に入るはず。」
クロ「おっ、いい考えね。さんせーい!セラに頭下げなくていいし。イリヤ、私の分のお金もお願いねー。」
イリヤ「ひっどーい!私が当てたんだよ!?悔しかったらクロも自分で回して当てたら?」
クロ「お金ぐらいでケチケチするんじゃないわよ!いいじゃない、私の分も肩代わりするぐらい!」
美遊「二人とも、そろそろ帰らないと怒られちゃう。帰ろう?」ーPM9:00エミヤ邸ー
イリヤ「(自分のデッキかぁ〜。美々が使ってたあのライラって天使綺麗だし使ってみたいな〜。あっ、でも魔法少女っぽいしウィザードも捨てがたいなぁ。うぅ…悩む…。)」
ー月曜日放課後:穂村原小学校ー
イリヤ「ふぇ〜やっと終わった〜。こんなワクワクする日に掃除当番なんてついてないよ〜。」
クロ「もたもたしないで行くわよ。雀花たちがカード選び手伝ってくれるって待ってるんだから。」
美遊「イリヤ、行こう。」ー穂村原学園グラウンドー
イリヤ「みんな〜おまた…」
クロ「イリヤ、ちょっと待って!なんか様子がおかしいわよ!」
美遊「雀花たちとデュエルしてる海藻頭の人の制服、あれって高等部の人じゃない…?」
イリヤ「言ってみよう!」
雀花「てめぇ…上級生の癖にデュエルでカード巻き上げるなんて汚ねえマネしやがって…!」
慎二「ふん、悔しかったら1ゲームぐらい取ってみろよ?僕はエンド時にバイアルから波使いを出す、青の信心(自パーマネント青マナシンボルの数)だけマーフォークを出すぜ!」龍子「気を付けろ雀花!私もそれにやられた!」
美々「カードパワーが違いすぎるよ〜。」
那奈亀「私らモダンのカードなんて一枚も持ってないんだぞ!勝てる訳ないだろ!」
慎二「最初にモダンって断ってただろ?悔しかったらモダンのデッキを組めば?まっ、小学生にそんな財力ないだろうけどw」
雀花「デュエルしなきゃカードを学校に持って来てたのを担任にバラすぞって脅したくせに…!」
慎二「小学生は持ち込み禁止の基準が厳しくて大変だねw僕のターン、アンタップアップキープドロー、そのままメインからコンバットに入る。何もなかったらこのままライフ0になるけど。まだ続けるw?」
雀花「う…ちくしょう…」
慎二「決まりだな。じゃ君のカードも約束通り…。」イリヤ「ちょっと待ったー!あなた何してるの!?下級生からカツアゲなんて最低だよ!」
慎二「あん?ああ、お前確か衛宮のところの…」
クロ「雀花たちのカード返しなさいよ!先生に言いつけるわよ!」
慎二「だって校則破ったのはこいつらだし〜。むしろ先公に言いつけないだけ感謝して欲しいね。悔しかった君もデュエルで取り返てみなよ。」
イリヤ「うっ、デッキはまだない…。」
慎二「話にならないな。じゃあこの子らのカードは貰ってい…ちょっと待て、それ超レアもののFTV20じゃないか!」
イリヤ「はえ?これそんなにレアなの?」
慎二「なんでお前みたいな小学生がそんなレアセットを…まあいいや。なら話は別だ、1週間だけ時間をやるよ。それまでにデッキを組んできなよ。それで僕に勝てたらカードは返してやるよ。でも負けたらそのFTV20thは僕が貰う。」イリヤ「1週間って…」
美遊「それに相手はモダン…」
慎二「嫌ならこのカードは僕のものだな。」
イリヤ「…!受けて立つ!その代わり私が勝ったら雀花たちのカードは返して貰う!」
クロ「ちょっとイリヤ…!」
美遊「それにモダンのカードはスタンよりも遥かに高額…。」
慎二「決まりだな。精々小学生のない頭と金で頑張ってデッキ組むんだな。ハハハ!」ーPM6:30 衛宮邸ー
クロ「どうすんのよ!私たちスタンのカードだってろくに持ってないのにいきなりモダンなんて!」
イリヤ「うう…でもカード返して貰えないと雀花たちあそべないじゃん。それに許せないよ!上級生の癖に下級生からカツアゲするんなんて!」
美遊「イリヤ、今手持ちのカードを使うデッキで、あの上級生のデッキに相性の良さそうなデッキを調べてみた。雀花たちが残ったカードの中で貸してくれたカードは《試練に臨むものギデオン》、《廃墟の地》、《残骸の漂着》、《ドミナリアの英雄テフェリー》、元々持っているのはFTV20thの中の《精神を刻むもの、ジェイス》、これらを加味すると青白コントロールが1番いいと思う。」
クロ「デッキの構築費用はいくらかかりそう…?」
美遊「残りのパーツは軒並み高いけど瞬唱の魔道士と天界の列柱が特に高い。合計は…概算で14万前後…。」イリヤ「ファッ!?それって宝石の指輪とか買える値段だよね!?」
クロ「も…もう一度計算し直して美遊…。いくらなんでも、ハハハ…。」
美遊「何度計算しても同じ…。だって瞬唱の魔道士とか4積み必須なのに1万前後するから…。」
クロ「どうすんのよ!14万なんて私たちの1ヶ月のお小遣い何年分だと思ってんのよ!」
イリヤ「あぇぇぇ…どうしよう。」
ルビー「呼ばれた気がしたのでジャンジャジャーン!イリヤさん!こういう時こそルヴィアさんの出番で・す・よ!イリヤさんにはカード回収手伝って貰った恩義がありますし、凛さんの目の前で美遊さんと一緒におねだりすれば赤い悪魔にこれ見よがしに財力を見せつけるため気前よく払ってくれるはずですって!」
イリヤ「そ…そうだね。ルヴィアさんなら…。良くないことだけどみんなのカードがかかってるんだし、ちょっとくらい…。」サファイア「姉さん、イリヤ様、それが…。」
美遊「ルヴィアさん時計塔の定例報告で2週間いない…。」
ルビー「はぁー、ほんまつっかえ!や↑め↓たらお嬢様キャラ?ルヴィアさんはお嬢様キャラの役割を分かっているんですかね〜?こういう時に主役の財布に徹してこそのお嬢様キャラだというのに。」
クロ「八方塞がりじゃない!ちょっとイリヤ、どうデッキ組むつもりよ!」
イリヤ「うええ〜ん!どうしたらいいの〜!」
''ピーンポーン''
イリヤ「あっ、誰か来た!」
クロ「とりあえず話は置いといて、出るしかないわね」ー衛宮邸玄関前ー
切嗣「(はぁ〜数ヶ月ぶりの我が家か。イリヤ達、僕が帰っても喜んでくれるかな…。数ヶ月も帰ってないからまさか僕の顔忘れたとか!?いや、そんなはずない、僕のイリヤやクロがそんな酷いことするわけ…)」
イリヤ「あっ、パパお帰りなさい!」
クロ「あら!パパお帰りなさい!」
切嗣「おっと、ははただいま(良かった〜!喜んでくれた!)」
士郎「じーさん!おかえり!なんだよ連絡よこしてくれれば豪勢な料理を用意してたのに。」
切嗣「急に戻ることになってね。しばらくは休暇で留まることになりそうなんだ。」リズ「あれ、アイリは?」
切嗣「アイリも明日こっちに戻ってくるはずだよ。ちょっとワケあって別行動してたんだけど乗ってたベンツが故障して足止め食らったらしくてね。」
セラ「先程奥様から電話を頂いております。明日の14:00には到着するとのことです。」
切嗣「ああ、ありがとう。」
イリヤ「あのパパ…お願いがあります!」
クロ「そ、そうだ!パパ私からもお願い!」
切嗣「わっ!なっ、なんだ急に二人して土下座して。」
イリヤ「実は…。」切嗣「なるほど。話は分かった。でもダメだ。」
イリヤ「ど…どうしてもダメ?」
クロ「友だちのカードがかかってるんだよ!?」
切嗣「気持ちは分かる。しかし、小学生の内からこんな賭け事みたいなことはいけない。その上級生にはパパからキツいお灸を据えてカードを取り返してあげるよ。」
イリヤ「パパ…あのね、パパがいる間はそれで良いのかもしれない。でもね、パパがまた仕事で出て行ったらまたあの上級生たちはカツアゲしてくると思うの。そうなった時に自分達の居場所は自分達で守れるように強くならないといけないと思うの。」
切嗣「おぉ…(感涙)いつの間にかこんな成長して…分かった、イリヤ達を応援するよ。で、そのカードの値段はいくらするんだい?」
クロ「これが総額よ。」
切嗣「ふむふむ…って14万!?ぼったくりだろこれぇ!(てか14万って僕のお小遣い3ヶ月分じゃないか…最近の小学生はこんな高価なもので遊ぶのか…(困惑)僕がいない間にこの日本に何があったんだ!?)」イリヤ「パパ、ダメ…?」
切嗣「い、いや〜実は今月ママのベンツの修理代が重んじゃって…」
イリヤ「パパお願い!」
クロ「パパお願い!」
美遊「切嗣さん、私からもお願いします!」
切嗣「えっ、いやあのその…」
つづく初めてシナリオ込みの架空デュエルやってみたけどデュエル構成に行き着くまで長いっすね…(反省)
GXとかゴッズの自然な流れてデュエルに持っていくのアレすげーわFGO×ゲゲゲの鬼太郎
*四期と原作をベースにしたほぼオリジナルな性格の鬼太郎です
*どの猫娘に寄せるかめんどくさいので猫娘はいません
*めっちゃ書くの遅いです
時代が求める限り誰かが望む限り、彼は必ず現れる
小さき者たちの声を聞き、下駄の音を携えて
虫と遊びミイラと語るその少年の名は――――――――
亜種特異点怪異多発気象ブリガドーン>>356
カルデアのマスター、藤丸立香とその後輩兼デミサーヴァントマシュ・キリエライトは異形のものたちに囲まれていた。
小柄で角のない鬼のようなもの、ざんばら髪にギザギザした牙をむき出しにしたもの、人の形をしていないものも数多く、それらは明確に敵意を持って二人を睨みつけていた。
突如現れた謎の特異点にレイシフトし、空が真っ黒なこと以外は立香の故郷、日本と変わらない風景に驚いているうちにこのような状況になっていた。
どうしたものか、と立香は思案する。ガンドの数発程度で切り抜けられる状況では到底ない。マシュ以外のサーヴァントも数名同行していたはずだが近くにいる気配はない
「先輩、ここは私が」
「だめだ」
自分をかばうように一歩踏み出しデミサーヴァントへと変身しようとするマシュを制止する。魔神王との戦いから未だ彼女の状態は不安定だ。カルデアと通信も取れない状態で変身すれば彼女の身に何が起こるか分からないし、それでこの状況を打開できるとは到底思えない。
「おめえら、人間だな?」
「まだこんなところにいやがったのか」
化け物たちは口々に言うとこちらに飛び掛かる姿勢を取り始めた。
「先輩やむ負えません!」
そう叫びマシュが変身しようとした瞬間、>>358「いやー、おめえら運がいいぜ。たまたま鬼太郎が偵察に来たところでよぉ」
招かれた先の路地にあったマンホール、その下に広がる下水道からつながる洞窟を先導しながらこちらを招いた手の持ち主の男が気さくな調子で二人に話しかけた。ねずみのようなひげと出っ歯、汚らしいマントを頭からかぶっているのが特徴的なこの男はそこはかとなくうさんくさい雰囲気をまといながらも何故か受け入れてしまう妙な魅力を持っていた。
「あ、ありがとうございます、助けていただいて。ところであなた方は一体?」
男の後を歩きながらマシュが尋ねる。
「いーってことよ、俺さまはねずみ男っつーんだ。そんでさっきのガキが鬼太郎、ま、俺の舎弟みてえなもんだな」マント男、ねずみ男は得意げに答えた。
「おっとそろそろ着くぜ、俺たちの本拠地、妖怪姫路城によ」
ねずみ男の言葉通り出口が近づいてきたのか暗かった洞窟に光が差し込み始める。
((姫路城?))
カルデアから同行してきた仲間の一人を連想させるワードに二人はそろって首を傾げた。
「ところでよ、おめえたち名前はなんてえんだ?」
ねずみ男は思い出したように二人に尋ねた。
「あ、はい、オレは藤丸立香、こっちはマシュ・キリエライト。カルデアのものです」
「カル、デアァ!?」
名乗りを聞いたねずみ男は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「マジかよ、こりゃあ俺にも運が回ってきたぜぇ、ムフフフフフ」
そして不穏な笑みを浮かべ、二人に耳打ちする。
「立香くぅん、マシュちゃぁん?二人にぜひとも会いたいって人がいるのよ、その人に会わせてやるからよろしく言っておいてくんないかなぁ?このねずみ男さまに助けてもらったってな!」
「「は、はぁ」」
ねずみ男の気色に押されながらも二人は自分たちを知るものが誰もいない世界で自分に会いたいという姫路城に関係のある人物に確信を強めていく。そうこうしているうちに洞窟の出口が見え始める。>>359
「まーちゃん!会いたかったー!」
洞窟を抜けた先、霞がかった深山にどっしりとそびえ立つ姫路城、その天守閣に辿り着いた途端に立香はその城主に抱きつかれた。案の定、二人に会いたがっていた人物とは同行したはずのサーヴァントの一人刑部姫だった。
「うわーん、姫(わたし)寂しかったよぉ!知らない場所に一人放り出されてさ、みんな優しくしてくれるけどそれはそれでなんだか息苦しかったり!」
よほど心細かったのか刑部姫は半泣きで立香の頭をガッチリロックし、その豊満な胸を顔に押し付けギリギリ力強く立香を抱きしめた。
「お、刑部姫さん!嬉しいのは分かります、でもそれでは先輩が窒息してしまいます!離れてください!」
マシュが慌てながらもむっとした表情で張り付いた刑部姫を引き離す。だがその声には少しだけ嬉しそうな響きも混ざっていた。
「っはぁ!ははは、オレもだよ!おっきーが無事でよかった!他のみんなは?」
引き離された立香はやはり息が止まっていたのか一旦深呼吸した後仲間の一人の無事が知れたことで安心したのだろう、この特異点に来て初めての笑みを浮かべた。そして期待を込めた瞳で尋ねる。
「分かんない」
しかし刑部姫から返ってきた答えと表情は暗い。
「姫も三日前くらいに一人で放り出されて途方にくれてたところを拾われたから……今も皆が探してくれてるけど見つかったのは二人だけ」
「そっか……」
少し輝きを取り戻した三人の間に再び暗い雰囲気が漂う。
「で、では、今の状況は!?今の私たちでは空が暗くて、絵本で見たような怪物たちがうろついてることしかわからなくて……」
その空気を振り払うように慌ててマシュが尋ねる。
「それはぼくが説明するよ」>>360
背後から子供の、しかしやけに落ち着いた声がかかる。
振り返るとカランコロンと下駄の音とともに先程二人を窮地から救ってくれたちゃんちゃんこを着た少年が天守閣に上ってきていた。
「君はさっき、俺たちを助けてくれた……」
「ぼくはゲゲゲの鬼太郎、さっきは危なかったね」
「しかし、君たちが刑部姫の言っていた藤丸君とマシュちゃんじゃったとはのう。不思議な偶然もあるものじゃ」
少年が名乗ると同時にその髪をかき分け、目玉に胴体と手足が生えたような生き物がひょっこり顔を出して言った。
「「目、目玉……!?」
「そう怖がらんでもよい、わしはこの鬼太郎の父親じゃ。目玉おやじと呼ばれておる」
ぎょっとした表情の二人に目玉は優しい口調で語りかける。
「君たちのことは刑部姫から聞いているよ。だからこの国で今何が起こってるかは僕が話そう」>>361
鬼太郎は自分たちは人間ではなく妖怪であること、立香たちを襲ったのは自分たち日本の妖怪の仲間ではなく西洋妖怪であること、いま日本は彼ら西洋妖怪に支配されているということ、そしてその原因は怪気象という現象であるということを二人に語った。
「怪気象?」
聞きなれない単語に立香は首をかしげる
「別名ブリガドーン現象とも言ってな。この気象の中は外の世界と隔絶され妖怪が生まれやすく、暮らしやすい気候が保たれておる。つまりこの気象に包まれた中の世界は妖怪たちが跋扈する妖怪の世界になってしまうのじゃ」
「普通は街や島くらいの大きさで定着して少しずつ、今回は発生したと思ったら瞬く間に日本全体を覆ってしまって、中に住む西洋妖怪たちにほとんど占拠されてしまったんだ」
「通常とは違う、ですか?」
桁違いの規模で起こった異変、おそらくそれに自分たちが追う聖杯が関わっていると見て間違いない。この場合、西洋妖怪またはそれに協力するサーヴァントが持っているのだろうか。
そこまで考えてマシュはふと、「あの、鬼太郎さんは何故私たちをたすけてくれたのですか?鬼太郎さんもその、妖怪なんでしょう?」
カルデアにも妖怪というカテゴリに属する存在は刑部姫をはじめとしてカルデアのサーヴァントにもそれなりの数がいる。彼らのスタンスは様々だがそれでも無条件で人間よりも近しいであろう他の妖怪に敵視される危険を冒してまで見ず知らずの人間を助けてくれる者はそういないように思われる。
「妖怪にも色々あるんだよ。少なくともぼくやぼくの仲間たちは西洋妖怪の人間を支配して痛めつけようって考えは許せない。でも、西洋妖怪は日本妖怪よりずっと強くて残酷だから奴らが攻めてきたとき、ぼくはその場にいる人間たちを逃がすだけで精いっぱいだったけどね。捕まってしまった人や、まだ隠れている人もたくさんいる。悔しいよ、僕が力不足なばっかりに」
マシュの問いにそう答えると鬼太郎を沈痛な面持ちで顔をうつむかせる。
「そう悔やむな、鬼太郎。いくらお前が強くてもお前とわしらだけで日本全部を守るのは無理じゃよ。だからこうして隠れながらも少しずつ仲間を集めたり逃げ遅れた人たちを助けたりしておるんじゃないか。それがこの二人を助けることにもつながった」
そんな鬼太郎を頭の目玉おやじが優し気な口調で慰める。>>363
そのやりとりを見てマシュはほほえんで立香に目配せした。
(先輩)
(うん)
立香もまたそれにほほえみで返す。
この人たち(妖怪たち?)は信用できる、二人は同時にそう感じたのだ。
誰かを助けられなかったことを真剣に悔やみ、誰かを助けられたことを本当に喜んでいることが分かる。
いつも騙されているから当てにならないと言えばならないが、それでも「信じたい」と思えた。
特異点で最初に出会えたのが彼らで本当に幸運だった。
「それでも、まだ鬼太郎さんは諦めてないんですよね。なら、オレたちにも手伝わせてもらえませんか?この怪気象とか言う現象がいつもと違うのなら、その原因にはきっと聖杯やそれを利用するサーヴァントが関わっていると思うんです。そのことについてなら鬼太郎さんたちの役に立てるかもしれない。……これはあなたたちに甘えているようで悪いけど、まだ見つかってない仲間たちを見つけるためにも一緒にいた方がいい気がするので」
立香は悔やみながらもまだ光を失ってない鬼太郎の目を見ながらそう提案した。
いつも思うがとても図々しい言い分だ、彼らには自分のような足手まといを仲間に加える利点などどこにもないのに、と立香は心の中で自重する。それでも何もせずにはいられない、懸命に戦う誰かの力になりたい、その心に嘘はつけない。そしてそれが自分たちのためにもなると彼は確信していた。>>364
「私からもお願いします!」
マシュもまた声を張り上げて頼み込んだ。
「近頃の人間には珍しい子たちじゃのう……」
感じ入るような口調でおやじは腕を組みその場で考え込んだ。
「……よし、鬼太郎。この子たちも仲間にして戦いに連れて行ってはどうじゃ?危険にさらしてしまうのは心苦しいが、わしらには聖杯やサーヴァントとやらのことは分からん。何も知らなければそのことで足をすくわれるかもしれん。それに刑部姫の話を聞く限りこの子たちの仲間は相当なつわものぞろいのようじゃ。西洋妖怪と戦うのに大きな力になるやもしれん」
おやじの言葉に鬼太郎も頷く。
「はい父さん、他の人間たちのように安全な場所に隠れてもらって彼らの仲間が見つかるまで待ってもらうつもりでしたがそうすることにしましょう。ただ待つだけは辛いでしょうし、一緒の方が彼らの仲間も見つかりやすいと思います。……と、いうことでこちらこそよろしく、立香くん、マシュちゃん。一緒に西洋妖怪たちをやっつけよう」
鬼太郎は優しくほほえんで二人に向かって手を差し出した。
「「あ、ありがとうございます!」」
二人は顔をぱっと輝かせ、差し出された手に自らの手を合わせた。>>365
「……なぁんか置き去りにされてる気分ー。いいけどさ、姫そういうノリ苦手だし。姫路城(これ)出し続けないといけないからついていけないし。カルデアと通信つなげたり霊地整えたりするのに手離せないし。そもそも外出るなんて大嫌いだし!」
不意にどんよりと不貞腐れたような声が被さってきた。
見ると蚊帳の外気味だった刑部姫がじっとりとした目ですっかり意気投合したように見える三人(四人?)をにらんでいた。
「ごめんごめん、オレはおっき―のことすごく頼りになる仲間だと思ってるよ」
「そ、そうです!カルデアとの通信もおぼつかない今、刑部姫さんの存在はとても心強いです!」
二人は慌ててすねた調子の刑部姫をなだめる。
「え、そ、そんなに頼りにされてたの!?それは逆に姫ちゃん予想外のプレッシャー!でもちょーっとうれしいかなぁえへへ――――っは、いけないいけない。ま、まぁまーちゃんたちも鬼太ちゃんたちについてくのは仕方ないとして、あまり無茶はやめてよね。二人はまだ生きてる人間なんだもん、少しは後ろで心配する人たちの気持ちも考えるように」
刑部姫は二人の自分に対する予想外の期待に一旦トリップしかけたがすぐさま正気に戻って二人に忠告する。
「大丈夫じゃよ、わしらがおる限りこの子たちに無茶はさせん」
「じゃあ二人とも、話もまとまったところで下におりようか。みんなに君たちのことを紹介しないと。ご馳走も用意してあるはずだよ」>>366
「おーいみんなー、新しい仲間が増えたよ!」
天守閣を降りた先、ふすまも壁もぶち抜かれ大広間になった城内へ鬼太郎が呼びかけた。
「人間でねぇか」
「なんでも刑部姫の言ってたかるであっちゅうとこのもんだとよ」
「はー、そのかるであってのはカステラの仲間かなんかか?」
すると顔の浮かび上がった火の玉がぽつりと点ったかと思うと、どこに隠れていたものやらぞろぞろとこの世のものとは思えない化け物たちが現れた。
二つの目がついた大きな壁、ひらひら宙を舞う手と顔がある布、ギョロ目の小柄な老婆、大きな前掛けを着た頭でっかちの老爺、蓑を被った一つ目の男の子、甲羅に顔がある大きなワタリガニ、出っ歯でハゲ頭の男の生首、中央に男の顔がついた燃える車輪、牛の顔をした巨大な蜘蛛、壁と天井一面に浮かび上がった一対の目玉の群れ、その他様々な妖怪たちがワイワイガヤガヤドタバタギコギコ立香とマシュを物珍しげに眺めながら騒ぎ立てた。
「怖がらなくていいよ、みんな優しい奴ばかりだから」
その凄まじい様相に仰天する二人を鬼太郎は安心させようとする。
「そうよ、とって食おうなんて思いつきもしないぜ」
それに呼応して牛の顔をした蜘蛛も見た目的に全く安心できないことを付け加えた。>>367
二人はそれでも異形のものたちに否応なく感じてしまう恐怖を拭い去れなかったが自分達に好奇の視線を向ける妖怪たちを見回してみる。
目が慣れてくると日本人の立香は彼らから西洋妖怪のものとは違う、不気味さの中になつかしさや親しみやすさのような感覚を感じとった。
対するマシュはあいにくと日本生まれでも育ちでもないので立香が感じたような感覚は覚えなかったが、彼らにはとりあえず敵意がない事だけは感じることができた。
「この子たちが刑部姫の言っておった藤丸君とマシュちゃんじゃ。みんなよろしくしてやってくれ」
「藤丸立香です、よろしくお願いします!」
「マシュ・キリエライトです、よ、よろしくお願いします……」
立香ははきはきと、マシュは割合たどたどしく紹介を終えた。>>369
「えっと、よくわからないけど喜んでもらえたなら何よりで」
陰気に、しかし無邪気に笑う妖怪たちに二人の緊張もようやく和らぎ、立香に至ってはいつもの陽気な調子を取り戻し始めていた。そして次々話しかけてくる妖怪たちに同じように楽しそうに笑いながら答えていく。
「ふふふ、慣れてくれたようでなによりじゃ。じゃがお前さんたちも今日はいろいろあって疲れたじゃろう。話すのはそこまでにして夕ご飯でもどうかのう。おばば特製あの世鍋を用意しておるんじゃ」
「そうじゃな、話はその後でもできるしのう、わしも酒飲みたくなってきた」
そのうちにぎょろ目の老婆、砂かけ婆が提案してきた。隣の子泣き爺もそれに同意する。
「あ、お気遣い感謝します、えと砂かけ婆さん」
「ええんじゃええんじゃ、お前さんたちももう仲間じゃからのう。みんなうれしそうじゃろう?妖怪は人間の驚く姿が一番のご馳走なんじゃよ。じゃが最近は素直に怖がってくれる人間は少なくての、わしらを本気で驚いてくれた、その上でそれを否定せず笑って受け入れてくれた、それだけで鬼太郎がお前さんたちを仲間に入れた訳がわかる」
不気味な見た目に似合わない人好きのする笑みを浮かべてマシュに語りかけた。
「そんな、私は慣れているだけですよ、カルデアには人と違う姿をした人も多いですから。先輩は……はい、そういう人です」
マシュは自分が何でもないことで褒められているような気持ちになってこそばゆそうな表情をした。そして最初から今まで誰であろうと自然体で接してきた先輩のことを思い花の様に表情を輝かせる。>>370
それからはほとんど宴会だった
飲んで、食べて(あの世鍋は見た目はべディヴィエールの料理に負けず劣らずのゲテモノだったが味も同様に意外とおいしかった)騒いで歌った。
食事が終わって眠るころには二人とも見た目はおどろおどろしくも愉快な妖怪たちが大好きになっていた。
「いい妖怪(ひと)たちでしたね」
わらでできたむしろ(そのくせ羽毛布団並みに柔らかくてふかふかだ)にくるまりながらマシュは隣で同じようにしている立香に話しかけた
「うん自信がわいてきたよ。このひとたちとならみんなと無事に合流してこの事件を解決できる気がする」
立香も天井に張り付きながら目を閉じて眠っている目目連や天井なめを眺めながら答えた。
「さぁ明日もあるしもう寝よう。頑張ってる人たちがいるんだ、オレたちも負けてられない」
「はいそうですね頑張りましょう」
二人はそういってほぼ同時にまぶたを閉じ、そのまま今日の疲れもあったのか目を閉じた途端すぐさま深い眠りに落ちていった>>371
次の日は朝からいきなり出撃することになった。
なんでも魔女(人間の魔術師というわけではなく一般的な魔女のイメージをそのまま形にしたような姿をした妖怪)の大軍が西の方に向かって飛んでいったというカラスからの連絡があり、それを先回りして迎えうとうという話らしい。
「わあ、本当にカラスで飛んでる!」
「魔術を使ってもないのにこれだけのカラスで、不思議です」
十数匹のカラスに糸を引かせることで空を飛ぶカラスヘリに乗って遠ざかる地表を見ながら二人は歓声を上げた。
彼らの周囲には同じくカラスヘリに乗った砂かけ婆などの飛べない妖怪、釣瓶火、烏天狗などの飛行できる妖怪、変わったものでは障子のついた黒雲などが隊列を組んで飛行している。先頭はもちろん一反木綿に乗った鬼太郎だ。
「おいおい、待ってくれよ鬼太郎ォ!俺を置いてくなよぉ!……ちっ、おっきーちゃんに機能のご褒美もらいに行ってたらすっかり遅れちまったぜ。しかもその褒美ってのが俺の形に折ったただの折り紙だしよぉ。もったいねぇからもらっといたが一文の得にもなりゃしねえ」
後ろから慌てた様子でねずみ男が追い付いてきた。よほど急いでいるのかカラスヘリの糸が身体に絡まっている。>>372
「だってお前別に戦わないじゃないか。それともまた何か企んでるのか?」
先頭の鬼太郎が呆れた顔で言った。
「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ!?俺ぁただ皆が戦ってる間に金目の物を……じゃなかった、親友のおめぇが心配だからついていこうってんだ!」
鬼太郎の言葉にねずみ男は鼻息を荒くして熱弁する。
「友達ねぇ、舎弟って言ってたって聞いたけど?」
「あらやだ、あの子たちったら言っちゃったのねぇ!いやぁ僕見栄っ張りだからさぁ、軽い冗談よ冗談!ね、許して鬼太郎ちゃあん♡」
「しょうがないなぁ」
鬼太郎の鋭い指摘をふざけてごまかすねずみ男に鬼太郎はやれやれと肩をすくめて苦笑する。
「鬼太郎さんとねずみ男さん仲いいんですね」
「単なる腐れ縁じゃよ」
戦闘の直前であるのに割かし和やかな空気が流れる道中であった>>373
しばらくすると鬼太郎の妖怪アンテナに反応があり、遠目でも箒で空を飛ぶ魔女の一団が視認できた。
「皆準備はいいかい?いよいよ戦いの始まりだ」
「おう」
「よしきた!」
鬼太郎のかけ声で日本妖怪たちはときの声をあげた。
「ひひひ、やはりおいでなすったね日本の妖怪たち!」
魔女たちもまた近づいてくる鬼太郎たちに気付いていた。はるか前方からやってくる日本妖怪たちの姿を見てリーダー格の魔女は耳まで裂けた口を三日月の形に歪める。
彼女たちはまだ抵抗を続けている都市があると報告を受け、西洋妖怪の本陣から出陣したのである。人間ごときに自分たち西洋妖怪がてこずるはずがない、可能性があるなら鬼太郎率いる日本妖怪だろうと考えていたので彼らの存在は予想通りのことだった。
「あら、人間も混じってるじゃないか!あれがベアード様の言ってたカルデアのマスターとかいう奴かね?」
また、別の魔女が妖怪遠眼鏡で立香とマシュの姿を捉え甲高い声で叫ぶ。
「そりゃ運がいい。鬼太郎とそいつをいっぺんにやればベアード様からたんまり褒美がもらえるに違いない。 さぁあんたたち、人間に味方する情けない日本妖怪どもを血祭りにあげてやろうじゃないか!」
魔女たちは高らかに皆 殺しの歌を歌い、鬼太郎たちに急接近していった。>>374
「髪の毛針ィ!」
「ヒシキパグラ、アパラチャモゲータ!」
鬼太郎の毛針と魔女の魔力弾が激突し小さな爆発を起こす。
「婆が年甲斐もなくしゃしゃり出るんじゃないよ!」
「お前らも婆じゃろうが!しびれ砂!」
別の場所では砂かけ婆が麻痺効果のある砂をぶつけ魔女を撃墜している。
他にも網切は自前の万能はさみで魔女の箒を切り刻み、烏天狗は棒術と神通力で魔女たちを倒していった。
もちろん一方的に倒すばかりでなく、魔女の魔術でまたは妖怪殺しの針でこちらが倒したのと同等、いやそれ以上の日本妖怪が倒れていった。
立香もまた刑部姫が霊脈とつないでくれたおかげで召還できるようになった英霊の影で応戦していた。
「先輩!あそこ!」
不意に傍らのマシュが前方を指さす。そこには後ろから鬼太郎に妖怪殺しの針を突き立てようとしている姿があった。立香はとっさにガンドを撃ちそれを阻止する。
「生意気だね!アパラチャモゲータ!」
ガンドを撃たれた魔女はバランスを崩し落下しかけたがすぐさま体勢を立て直し矛先を立香に向ける。
「危ねぇ!」
魔術が放たれる直前に障子のついた黒雲から一つ目の獣人、ひでりがみが顔を出しその魔女に体内ドライヤーを吹きかけた。魔女の身体はたちまち炎に包まれ地面へと落下する。
「ありがとうございます」「なぁにお互い様よ!」
ひでりがみは立香の感謝の言葉に一言だけ答えると黒雲を動かし、戦場に戻っていった。>>375
このように日本妖怪たちと西洋妖怪の先兵の戦いは熾烈を極めた
しかしやはり西洋妖怪たちの強さは日本妖怪よりも一段上で奮戦空しく日本妖怪たちは徐々に追い込まれていった。
「ひひひひ、威勢がよかったのは最初だけだったようだねぇ。所詮小さな島国の妖怪、あたしらに勝てるわけないのさ」
リーダー格の魔女が全方位を取り囲まれている日本妖怪たちを大声であざ笑う。だがその手は隙なく鬼太郎に向けられていて油断はない。
「お前たちに一度だけチャンスをやるよ。鬼太郎とそのカルデアとかいう連中を引き渡せば命だけは助けてやろう。どうだい?悪い条件じゃないだろう?」
魔女は意地悪く微笑み悪魔の取引を囁く。
「な、なぁ、ここはひとまずその条件を飲んでみねえか?鬼太郎たちにゃ悪いがやっぱり自分の命が一番だぜ」
戦場を逃げ回りちゃっかり生き残っていたねずみ男が身をすくませながら魔女たちの要求に答えようとする。
「黙れねずみ男!答えはもちろん、NOじゃ!」
気が短い砂かけ婆はそれに対して大量の砂でをぶつけることで答えた。
「なら死ぬしかないようだね!ヒシキパグラ……」
砂を浴びせられた魔女たちは日本妖怪たちに向けて一斉に呪文を唱え始める。万事休すかと思われたそのとき、
「オオオオン!」
鯨の鳴き声にも似た金属音が轟き、魔女たちを無数の銃弾が襲った。
魔女たちは流石に撃ち落とされる者は少なかったが意表を突かれ大きく隊列を崩す。
「!今だ、みんな!リモコン下駄!」
その隙を逃さず鬼太郎は下駄を飛ばし、包囲の穴をさらに広げ皆に突破するよう指示を下す。
「なんだいありゃあ!」
「あれは……!」
魔女と無事包囲を突破した鬼太郎が銃弾が来た方を見て同時に叫ぶ。
「巨大ロボットだ!」
立香もまた興奮した声をあげる。
そこには鋼鉄でできた直立二足歩行の鯨ともいうべき姿をした巨大なロボットが立っていた。その周りにはそれを人間大にしたようなものもいくつか見える。
「鉄の大海獣!」
それはかつて鬼太郎が鯨の祖先、不老不死の生物ゼオクロノドンの血を体内に打たれ大海獣と化したとき、彼を抹殺 するために彼を模して作られた鋼鉄でできた大海獣、ラジコン大怪獣だった。>>377
「危ないところだったな鬼太郎」
大海獣の口から少し大人びた少年の声が漏れ出た。
「その声は、山田君かい?」
「ああそうだ、鬼太郎、やはり君も戦っていたんだな!」
山田少年、彼こそがゼオクロノドンの調査の際、名誉欲に狂い鬼太郎をあの手この手で抹殺しようとし、果てには大海獣へと変えた張本人である。ラジコン大海獣もまた彼が鬼太郎を殺 すために作り出したものの一つだ。しかし彼はその事件で逆に母と妹を鬼太郎に助けられ、さらに自分のこれまでの人生が鬼太郎に支えられていたことを知り改心、今まで自分だけが幸福になるために使っていた頭脳を人々のために使うことを決めたのだった。
「僕は君に本当に立派な人間とは何かを教わってから、ずっとどうすれば人のために科学の力を使っていけるか考えて研究を続けていたんだ。この大海獣もその一つさ、怪気象が来るのが分かってからすぐ着手してある人の協力も得て蘇らせることができたんだ。今度は人を守る正義の機械としてね!」
山田少年は誇らしげな声で鬼太郎に答えた。
「ということは今まで街を守っていたのはこいつだったってことかい!」
山田少年の言葉を聞き、魔女は憎々しげに叫んだ。日本妖怪どころではない、人間の作った機械ごときに自分たちは手こずらされていたのだ。
「そうだ、妖怪たちに任せるだけじゃない。僕たち人間だってお前たちと戦うぞ、お前たちにこの国を好きにはさせない!」
山田の声とともにラジコン大海獣は咆哮した。欲に塗れた鉄の獣としてではなく、悪しきものを砕く鋼の守り人として。>>378
そして、足元の人間大のものたちも合わせて大きく開けた口から一斉に魔女に向けて無数の銃弾を発射する。
魔女たちは慌てて回避行動をとる、先程の第一射で落ちた魔女の症状からこれらの銃弾には自分たち妖怪に有効なサラマンドラの粉が混ぜられていることに気づいたからだ。
「よし、ぼくたちも続くぞ!髪の毛針!」
ラジコン大海獣の登場によって劣勢を切り抜けられた鬼太郎たちも勢いづいて一転攻勢に出る。
「調子に乗るんじゃないよ!デカブツにはデカブツだ、グルマルキン!」
「ほいきた、出ておいで私の愛しいゴーレムちゃん」
リーダー格の魔女が苛立たしげに叫ぶと魔女たちの中からグルマルキンと呼ばれた黄衣の魔女が懐から笛を取り出し、おもむろに吹き始めた。
すると真下の土が盛り上がり土の巨人ゴーレムが現れる。立香が今まで見てきたものより
はるかに大きい。
ゴーレムはグルマルキンに命じられるまま大海獣をおさえつけようと組み付く。
二体の力は拮抗し、大海獣の攻撃は食い止められた。サラマンドラの粉の銃弾も無機物のゴーレムには効果が薄い。
「やっぱりそういうのもいたか……だがこちらもこいつだけが奥の手じゃないぞ!」
「そのとおり!」
大海獣の口から出る山田の声にもう一つ、立香とマシュの二人には聞き覚えのある声が混ざった。>>379
大海獣の口から出る山田の声にもう一つ、立香とマシュの二人には聞き覚えのある声が混ざった。
そしてこれまた聞き慣れたファンファーレとともに大海獣の頭上に雄々しい、しかしどこか愛嬌のある白いライオンの頭と見かけだけは立派な体格の男が姿を見せる。
他の誰と見紛うことないその見た目はカルデアから同行してきたサーヴァントの一人、トーマスアルバエジソンだった。
「神秘を暴く我が宝具の前では怪異は迷信へと成り果てる!土くれに戻りたまえ、『W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)』!」
エジソンは獅子の顔で高らかに雄叫びを上げ、宝具を発動した。
彼の身体から強い光が発せられ、それを真っ向から浴びたゴーレムは彼の言葉の通り土くれに戻って崩れ去り、それの巻き添えを食った魔女たちもただの無力な老婆になって地へ落ちていく。
「日本妖怪以外にこんな奴らがいたとは……あんたたち、ここは退くよ!このことをベアード様に報告せにゃならん!」
流石の魔女たちも肝を冷やしたのか、リーダー格の魔女の指示で次々と踵を返し本拠地の方向へ退却していった>>380
「おお、あの強い魔女たちを一瞬で……」
「すごいぞ、あのライオン頭の妖怪!」
自分たちが苦戦していた魔女を瞬く間に撃退してしまったエジソンの宝具に日本妖怪たちも感嘆の声をあげる。
何はともあれ、第一の戦いは勝利に終わった。
「助かったよ山田君、そしてエジソン、さん?」
鬼太郎は礼を述べながらラジコン大海獣の頭上、エジソンの前に降り立った。
「君が鬼太郎君だな、山田君から話は聞いている。この風体では戸惑うのも無理はないが、私はあのエジソンだよ」
「ということはやっぱりあなたも藤丸君たちの仲間のサーヴァント!いやぁどこの妖怪かと思いました」
「妖怪……ん、君今藤丸君と言ったか!?彼らを知っているのかね!」
自分の風貌のことは自覚していたことだが、妖怪とまで言われエジソンは少しショックを受けた。そして更に思いがけない名前が出たことに目を丸くする。
鬼太郎は今までの経緯をエジソンに話した。
「君たちが彼らと刑部君を助けてくれたのか、いやいくら感謝しても足りないな……」
「藤丸君たちの方はさっきの戦いでも一緒にきていたんですよ、すぐこちらに来ると思います」「エジソン!」「エジソン氏!」
鬼太郎が言うが早いか、立香たちもエジソンの元に喜色満面で駆け寄ってきた。
「おお、マスター!マシュ君!無事でよかった!」
エジソンの方も二人の姿を認めると表情を明るくした。
「この気象が起こる少し前に現界したのに今まで見つけられなくてすまなかった。サーヴァントとしてマスターを見つけることを優先すべきだったが、どうしても彼らを放っておけなくてな……山田君には拾われた恩もある」
エジソンは申し訳なさそうに言った
彼は現界してすぐに人間たちにその風体を恐れられ、迫害されかけていたところを山田に保護されたのだった。>>382
「別にいいよ、俺たちも同じ立場ならきっと同じことをする。それに俺とマシュが来たのは昨日なんだ。見つけられないのも無理ないよ」
「ふむ?レイシフトの場所だけでなく時間もズレていたということか?何という厄介な……」
エジソンは苦々しく獅子の顔を歪め唸る。
「怪気象の内部を外界から隔絶するという性質が何か関係があるのかもしれません。詳しく調査したいところですがカルデアと通信がつながらなくて……」
「そういうことならば私の霊界通信機の研究が何か役に立つかもしれない。聞くところによると鬼太郎君たち妖怪は異界に深く精通しているという。彼らと協力すればなんとか」
そこまで言ったところで不意に山田の方を振り向き、「あー山田君すまないのだが」
と気まずそうな口調で尋ねた。
「いいですよ、先生が僕たちに協力してくれている間を縫って必死で彼らを探していたことは知っています。町のことなら僕の大海獣とあなたが組織してくれた量産型ミニチュア大海獣でなんとかします。だから心配せずに彼らの元に戻ってあげてください」
山田は少し名残惜しそうな顔をしつつもエジソンを心配させまいと力強い口調で彼の背中を押す。
「本当に、すまない。ということで鬼太郎君、私も君のところで厄介になっても構わんかね?」
「ええ、あなたのような強い人が仲間に加わってくれるならこちらこそ嬉しいくらいです」
鬼太郎は当然快く彼を受け入れた。
そして山田の方を向き、
「山田君、今回は本当にありがとう。君たちがいなきゃ危なかった」と笑いかけた。
「そんな、君が僕にしてくれたこと、僕が君にしてしまったことを思えば当然のことだよ。また何かあったら伝えてくれ、きっと力を貸す」
山田は照れ臭そうに頭をかいた。
「ふふふ、君はもう十分立派な人じゃよ」
目玉おやじが微笑んでいるかのように目を細めた。>>383
た。
「藤丸君、だったかい?世界を救ったらしい君たちの力、頼りにしてるよ」
鬼太郎たちとひとしきり話したあと、彼は同じ人間である立香たちに向き合った。
「俺はただ、皆に助けられてここまできただけですよ。一人じゃ何もできなかった」
立香は自信なさげに笑って答えた。しかしそこには卑屈さは一切なく、自分の力になってくれた英霊たちやカルデアの人々に対する誇らしさが垣間見える。
「そうかい?でもそれはとてもすごいことなんだよ。僕は家族以外の誰も信用しないで、一人でなんでもできると思っていた。でもそれは違った。母や妹、鬼太郎たちに僕はずっと支えられていたんだ。もし、それに気づかないままだったらきっと僕はそのつながりさえ切り捨ててダメになっていただろう。自分が誰かに支えられていることをちゃんと分かっていて、それを臆面もなく認められるのは立派なことだ。そんな人だからこそ逆に誰かを支えることもできる。だから、僕は君を信頼するよ。鬼太郎を頼む」
山田は過去の自分の過ちを思い出しながらそう語り、立香の肩に手を置き頼み込んだ。
「分かりました、俺に、いえ俺たちにできることなら」
立香もまた真剣な面持ちでそれに答えた。>>384
山田たちと別れ、姫路城へと帰り着いた立香たちは傷ついた妖怪たちの手当てを手伝っていた。
「すまんなぁ嬢ちゃん、俺にゃ手がないからよ」
マシュに傷に薬草を貼ってもらっている輪入道が申し訳なさそうに巨大な体を縮こめる。少し車輪の周り炎がかかるが、ものを燃やすことのない陰火であるので問題はない。
「いえ、私にできるのはこれくらいですから」
マシュは大きな彼の顔を見上げ、力なく微笑んだ。
先の戦いで沢山の日本妖怪たちが傷つき死んだ。中には昨晩一緒に騒いだ妖怪もいた。妖怪は死ん.でも形が変わるだけで条件が整えばまた生き返れるらしいが、それでも彼らがいなくなった喪失感は変わらない。
自分はそれを、見ているだけだった。
マシュは自分の無力さを痛感しながらペタペタと薬草を傷に貼り付ける。
「ふむふむ、なんぞお悩みのようじゃのう」
その目の前にひょっこり目玉おやじが顔を出した。
「お、おやじさん!?」
「少し元気がなさそうじゃったでの、気になってきてみたのじゃ。親しい仲だと逆に話せぬこともあるじゃろう、藤丸君に相談できないことならわしに話してみてはどうじゃ?」
目玉おやじはマシュに肩の上に乗せてもらいながら言った。
「お気遣い感謝します、では」
そしてマシュは胸の内を語り始めた。まだシールダーとして戦えたころのこと、そして力を失った今戦えないと分かっていても立香の側にいて役に立ちたいとついてきたのに結局見ていることしかできないことに無力感を感じていること。
「今の私では先輩を守ることもできません」
マシュは語り終えると打ちひしがれるように肩を落とした。
「ふむ、それは苦しいじゃろうなぁ。しかし、今ないものを思っても仕方ない。今の、大切な誰かの為に何かしてあげたいという気持ちを忘れないことじゃよ。その気持ちを持ち続けておれば自ずとなすべきことが見えてくる。それに、誰かが自分を大切に思ってくれているだけでも大分心の支えになるものじゃよ。きっと藤丸君もマシュちゃんの存在が支えになっておるじゃろうて」>>385
目玉は肩を落とすマシュの頭を優しく撫でながら言った。
「ふふふ、まぁ偉そうなことを言ってもわしも人のことは言えんのじゃがな。……いつも思うよ、わしが元の大きな体なら鬼太郎に苦労をかけずに済むのに、わしがもっと強ければ鬼太郎を助けることができるのに、とな。この体では傷つき苦しむ息子に肩を貸してやることもできん 」
そして自らもまた息子や仲間たちにも秘めた心を明かす。
それは静かな慟哭だった。
声は穏やかだったがその言葉には小さな体からは考えられないような深い嘆きとやるせなさがあった。
「これは鬼太郎たちには内緒じゃぞ?みんなに心配をさせるわけにはいかんからのう」
目玉は話し終えるとおどけた調子で笑った。
「おやじさん……いえ、二人だけの秘密、ですね!」
この小さな父親もまた、自分と同じような苦しみを抱いている。そしてそれでもなお息子のためになろうと思い続け、知恵をめぐらしている。そのことにマシュは負けてはいられないという活力を得た。>>387
ところ変わって西洋妖怪に占拠され本拠地と化した東京。ビルが立ち並んでいた街並みは錆が浮かんだ金属板やパイプに覆われ廃工場のような様相に変わり果てていた。いくつかの建物からは馬鹿みたいに長い煙突が伸び、墨のように真っ黒な煙を天に向かって吐き出している。
その中で一際大きな煙突がある建物、以前国会議事堂と呼ばれた建物の内部。本会議場があった場所には溶鉱炉が設置され、大きく開けた口から邪悪な赤い光をちろちろとちらつかせている。
その手前に彼は鎮座していた。
巨大な目玉だけの身体に無数の枯れ枝のような触手を持つ彼の名はバッグベアード。妖怪大統領とも呼ばれる西洋妖怪のドンで、怪気象に包まれた現在の日本の実質的支配者である。
「それで、そのまま逃げ出してきたというわけかね?」
彼は目の前でひざまづく魔女を見下ろしながら威厳のある声で言った。
「も、申し訳ありませんベアード様!報告の通り敵は思った以上の力を持っており……」
魔女は慌てて弁解する。
「いや、責めているわけではないよ、ただ確認しただけさ。その点に関して君は正しい判断をした、全滅して我々に敵の情報を渡せないよりはるかにいい」
ベアードは苦笑した。
「もったいないお言葉、しかしどうなさるおつもりです?エジソンとかいうサーヴァントらしき者の力はどうやら我々妖怪の天敵。討ち取るのは困難に思えますが」
「ははははは、あの強気だった魔女が弱気なことを言うね!同胞たちが力を失う光景が余程ショックだったらしい。その程度の戦力は想定済みだ。何せサーヴァントとは我々妖怪を倒す存在、英雄なのだからね。確かに厄介だが手は考えてある」
魔女の進言をベアードは自信満々に笑い飛ばす。
「なに、この国は最早我々のものだ。人間や日本の妖怪どもが多少手痛く噛み付いてこようがそれは覆らない。カルデア、サーヴァントというイレギュラーが混ざってもだ。そうだろう?」>>388
「はい、そうですとも」
ベアードが魔女から目を離すと今度はその隣の暗闇からオールバックに燕尾服とマントの男が歩み出る。吸血鬼の長、ドラキュラ伯爵だ。
「私の部下が魔女が見たのとはまた別のサーヴァントと思われる存在を発見しましてね。これを利用してカルデア、鬼太郎双方を始末する策を考案したのですが、貴方のご許可を頂きたい」
ドラキュラは魔女と同じくひざまづくとベアードに伺いを建てる。
「君の好きにするといい。それで鬼太郎たちが倒せるのならね」
「感謝いたします。実はすでに餌は撒いていましてね、必ずや奴らを始末して見せましょう」
ドラキュラは恭しく礼をすると身体を無数の蝙蝠に変え、現れたのと同じように闇に消えていった。>>389
ドラキュラが消えていった直後、ベアードの目の前に数人の人間が入った檻がクレーンに運ばれて通り過ぎた。
ベアードはそれを目をぎょろぎょろと動かして追う。
檻からは人間の助けを乞う声が聞こえるが、彼には虫かごの中のコオロギが鳴いているのと同じでしかなく、聞き入れる気は全くない。
やがてクレーンは溶鉱炉の上で一旦止まると一気に檻を炉に落とした。
中の人間たちの断末魔が部屋全体に響きわたる。
炉の中の炎は実際の炎ではない、憎悪、怨念、その他様々な負の情念によって形作られた呪いの炎だ。その炎は肉と骨だけでなく魂まで溶かし気化させ、怪気象を構成する黒い霧に変換してしまう。
この溶鉱炉こそ怪気象定着装置であり、東京は今や怪気象製造工場と化していた。
「さて、君に頼みたいことがある。私が先程話した『手』についてとても重要なことなんだ」
それら一連の工程を目を細め心地好さそうに眺めていたベアードは再び魔女に目を向けた。
「はい、ベアード様。なんなりと」
魔女は顔を上げ、忠実にベアードの言葉を待った。
(ふふふ)
ベアードはその姿を見て内心ほくそ笑む。
(ドラキュラ、すまないが君の策は使わせてもらうよ)
(◾️◾️◾️の好きにさせないためには鬼太郎かサーヴァント、どちらかの確保は必要不可欠だ)
(妖怪も人間も大切な資源、滅ぼすのはもったいないからね)「邪神探偵アビーがセイバー009と性転換するss」
第一話「001 マッシロイ」
皆様ごきげんよう! 私、アビゲイル・ウィリアムズ。どうぞアビーと呼んでくださいな!
ひと月前まで助手を務めていた探偵事務所の探偵さんが粗悪品の赤っぽいコカインで逮捕されてこのかた、バターも塗れないパンケーキで飢えをしのいでいたところ急に転がり込んできた依頼人さまの勘違いをきっかけに私が探偵さんになってしまったわ!
それから色んな出来事がエトセトラ・エトセトラ。私は今、豪華客船に潜入してるのです。
依頼人さまから課せられたミッションは「指定された9人のセイバーをTS」すること。なんだか探偵さんというよりはお医者さまの仕事のような気がするのだけれど、バターもベーコンもグレービーソースのかかったマッシュポテトもつかない侘しい食事はとても辛いから頑張るわ! それに昨日の夜、
“おおアビー、我が娘よ。さっきお前のアウトサイダーな人生のナンセンス文学じみたドラマツルギーを見るに見かねた私が触手にTS能力を与えたから頑張るんだよ”
というお父様からのわけのわからないお告げがあったの。うん。だから、きっとなんとかなるでしょう!
「えっと……見つけた」
セイバーさんたちがドレスを着飾り一同に会するパーティーで、上下赤のスーツに黄色いスカーフを巻いた少年はとても見つけやすかったの。>>391
「えっと……もし、そこのセイバーさん?
「どうされたのです、小さなお嬢さん。どうもセイバーというわけではなさそうですが迷子ですか?」
あどけない微笑みにどこか知的な匂いを漂わせたその人……フェルグスさんの少年時代、依頼人さんはマッシロイと呼んでいたけど……は柔らかくそう言いました。
(小さな……は失礼じゃないかしら)
こんなことで、ちょっぴり腹を立ててしまった私を許してくださる?
「はい。迷い込んで気付いたらこんなところにいて……どうしたらいいのかしら」
「そうですね……港に戻るのは明日になりますから、支配人と相談して休憩室と食事の用意を検討しましょう」
嗚呼、なんて素敵な紳士さまなのかしら! ただの迷子にここまで親身になってくださるなんて……。
係の人に代わって頂いてもいいところを、より待遇をよくして頂けるよう支配人と話し合うべく部屋へとエスコートしてくださるマッシロイさん。
……ええ、ええ。貴方ならそうしてくださると思っていたわ。>>393
「おそらく、裏で操る者がいたのでしょう。都合よく利用されたのは察しがつきます。
なにより、子供の命を奪うのは僕としても嫌なことです。どうか投降して欲しい、お嬢さん」
……彼が、とても真剣にそう言うものだから。私はつい、悪い子になってしまう。
「子ども扱いはやめて下さる? 小さな王子様」
ぶむ、ぶむ、ぶむ。紫色の可愛い翅の、私お気に入りの虫たちが彼をムシャムシャ食べようとして飛んでゆく。
「ふんっ!」
剣風一閃……と、伝奇ものの娯楽小説(ペーパーバック)では言うのかしら。私の虫さんたちは儚くも散り裂かれて塵にもならない。でもね?
「やっぱり子供扱いだったのね。だから、こうなってしまったの」
貴方のことならお見通し。虫さんたちは目眩まし。この船まるごと私の触手を廊下の隅まで手配済み。
猫もネズミも一匹たりとも逃すことはない包囲網。これが、私の探偵業。
「きっと、ただ背中を狙うだけなら気付かれてしまうもの。だから、私が囮になるしかない……もっとも、油断や手加減がなかったら、これでもダメだったと思うわ」>>394
「敵ながら、大したものです……これは一つ、教訓になった……」
見えない触手に呑まれ、徐々に女性へと作り替えられながら、それでもマッシロイさんは笑っていた。
「やっぱり、素敵な人ね。貴方は」
しばらくして、ボーイッシュな短髪をしつつ肩や胸や腰回りが丸みを帯びた童顔の少女が現れました。
お胸やお尻は慎ましいけれど、どこか将来はすごいことになりそうな、妙な色気のある女。
「で……その依頼人からはボクたちを性転換しろと」
「ええ、ただそれだけだったの」
「なにそれ、わけがわかりません。
でも、何故、そんなことを引き受けたんです?」
少女座りであどけない上目遣いを向けてくるマッシロイさんに、私は笑って言ってあげたの。
「そんなの、毎食美味しいパンケーキを食べるために決まってるわ」第二話「002 デオン」
こうしてマッシロイさんを女の子に変えた私は次の標的を探すことになったの。(ちなみに、マッシロイさんは空いている船室のひとつに銀の鍵を使い転送、触手で拘束しています。ひどいことをしてごめんなさい……)
でも、私はここで、まさかの哲学的な命題に突き当たってしまったわ。
「二番目の標的はデオンさん……デオンさんを……てぃー、えす……?」
そもそもデオンさんは自分で性別を変えてしまえる人。今この瞬間すらどちらであるのかさえ分からない不思議な人。じゃあ、そもそも性別不明の人を性転換するって、どういうことなのかしら……?>>396
飢えをしのぐため読書に没頭したひと月のあいだ、ふと手に取った科学の本を思い出す。そこには『シュレディンガーの猫』というお話があって……とっても残酷なことですけど……“一時間に一回、五割の確率で毒ガスの出る装置のついた箱のなかに猫を入れて一時間経ったとき、蓋を開けるまでそこには「生きている状態」と「死,んでいる状態」が同時にかさなった猫がいるのではないか?”というもの。
これはシュレディンガーさんというえらい学者様が素粒子……モノを形づくる、うんと小さな粒らしいわ……が、見られているときと見られていないときとでふるまいを変えるという考え方を批判するために作った皮肉めいた話なのだそう。それにしても猫さんにひどいわ!
「でも、デオンさんはまさに『男性のデオンさん』と『女性のデオンさん』が服の中に同時に存在する『シュレディンガーのデオンさん』だわ……」>>397
元々性別が観測されない揺らぎのなかにあるシュレディンガーズ・キャット=シュヴァリエ・デオン。セイバー009のTSという使命に突如として立ちはだかる哲学的難問を前に、私、アビゲイル・ウィリアムズの健やかなパンケーキ生活は露と消え果ててしてしまうのでしょうか……?
「いいえ、いいえ! こんな非科学的なことに負けてはいけないのよアビー! パンケーキは明日への希望なり!」
私はまるでシュレディンガー博士が憑依したかのごとく、のしのしとした足取りで会場に戻り、009の赤いスーツを纏ったデオンさんへと近づいて行きました。
「あなたは非科学的よ!!!」
「???……一体、どうしたんだい君は」(ふと、違和感を覚え、デオンの一人称をモロに間違えていることに気づく。「私」だよ私の馬鹿野郎。デオンファンの方々にはたいへん不快な解釈違いをお詫びいたします。以下訂正版にてお送り致します)
>>401
「元は私もスパイだからね、君が同業なのは察しがついたよ。いくつか嘘は吐いているがイタズラでもない」
部屋に着くなり、デオンさんは私の目論見をあっさり看破してしまいました。
「悪い人だわ。すっかりお見通しだったのに知らないふりだなんて」
「流石に会場で事を荒立てることは出来ない。だからこうして二人っきりになれる場所に移動させてもらった」
そう言ってデオンさんはサーベルを鞘から抜き放ち、私の首へと突き付けました。
「少し前からフェルグスの姿が見えない。お前の仕業か?」
私はこくりと頷きました。
「お前の目的はなんだ」
私は笑って言いました。
「それはちゃあんと言いました。あなたの、TSよ」>>403
足元から湧き出す触手をデオンさんは後方へと華麗に跳躍して回避する。そこを目掛けて壁や天井から襲いかかる第二波すらもデオンさんは見事な体捌きで凌いでみせる。
(ここまで準備をしても、こんなに強い……)
戦士の人達を侮っていたつもりはないけれど、私の想像なんかずっとずっと越えてすごい。
なら、もうひと押し。私の手に現れた銀の鍵をそっと空間に差し入れ、
「させるか!」
触手の海のなか、わずかに空いた壁面を蹴ってデオンさんが突撃してくる。サーベルの切っ先が、私の喉を狙い定める。
「っ!」
間、一髪。私の転移のほうが早かった。私はデオンさんの背中にしがみつきながら、徐々に触手を全身に回していく。
「嗚呼……たまらないわ」
とっても怖かったけれど、何故か胸がドキドキしてしまう。なんて不思議な気分なのかしら。>>404
「なるほど……君のお父様なる存在から授かった能力にもよるのだろうが、私がTSすると……」
「なろうと思った性別があべこべになるのね」
「なんというか、ひどく不便だ」
フェルグスさんのときのように分かりやすい変化は何処にもないまま、デオンさんのTSは終わりました。
「……個人的にも無いに越したことはないけど、君の依頼人は“TSの具体的な確認”は求めなかったのかい?」
「え、ええ……だから、その、見ないでおきます」
そうして私達は二人俯き、しばし頬を赤らめていました。(前話での反省を活かすため、更新ペースを若干落としての進行になります)
第三話「008 アルテラ」
こうして、どうにかデオンさんのTSにも成功した私だけれど。
「……やっぱり、セイバーさん達は強いわ」
あらかじめ仕掛けられた触手の海のなかですら、私を貫く寸前にまで至ったデオンさんの剣技を思い出して足が竦んでしまう。
もちろん、はじめから騙し討ちや搦め手……嗚呼、主よ。悪事に手を染める私をお許しください……でどうにかするつもりだったけれど、そんな小手先が通じるような人達じゃないのはよくわかった。>>411
未だ握られたあの剣のひと振りは言葉通りの意味で私を世界から消滅させてしまえるほどの力がある。それが、理屈を超えて伝わってくる。
怖い、恐い、畏い……そんな言葉の枠も決壊するほど未体験の情動に、全身が、存在の底のほうから、軋みをあげて震える。
けれど、そんな状況でも、デオンさんが至極落ち着いてらっしゃるのは何故……?
「君のことだ、彼女の力については私よりずっと勘が働くんだろう。私は君のことも、彼女のこともちゃんと知ってるわけじゃない。
ただ、彼女は“ただちに危険”な存在じゃないと私は断言しよう。その証拠に、彼女は私やフェルグスを殺,せるだけの力を持ちながら、あくまで拘束にとどめている。それは、力を制御出来ているってことじゃないか?」>>413
「…………っ!」
心臓が喉から飛び出してしまいそうなのは、未だ冷めやらぬ恐怖のせい?
それとも、彼女の凍てついた面差しが、雪解けを告げるように綻んだせい?
……それからしばらくして、マッシロイさんが部屋に合流し、009さん達でくわしい相談をはじめました。
そのあいだ、ずうっと心が天井のほうにふわふわと浮いたままだった私に、デオンさんが告げました。
「これから、セイバー009全員と支配人を交えての会議を始める。君も来てもらうよ」【次回予告】
こうして支配人のところへ案内された私を待ち受けていたのは、セイバー009の皆様と意外なあの人だったのです!
ついに明らかになる“依頼人さん”の正体とまさかの急展開とは!
次回「邪神探偵アビーがセイバー009と性転換するss」第四話
「009+1」。どうか、お読みになってくださる?
彼奴の宿痾に手を貸して、目的の達成まであと一歩。
そこからの記憶は曖昧で、気付けば英霊の座で微睡んでいた。
再起動(リブート)される脳内には、既に数秒前の世界の記録は無く。
再び呼ばれるその瞬間までもう一度私の意識は断絶される。
深い海に沈むような鈍い眠りに身を任せる前、手を握って、開いている。
大切なものを拾えたような、零したような。
それすら思い出せないのは、少しだけ哀しいと感じた。
ただ、手元に感じる髪を撫でたような感触と。
膝元の温かさだけが妙に鮮明だった事だけを覚えている。そして悠久から目覚め、底抜けのお人好しに手を貸し始めてしばらくが経過していた。
ここには見覚えのあるものが多すぎる。例えば目の前の白髪の少年。
既に日常の一部となっているであろう、窓の奥の白い景色を眺めていた。
その目は遠く、遠くを見つめている。
私の視線に気付いたのか、困ったような顔をして彼は微笑みかけてくれる。
「よく目が合いますね」
わざとらしくため息交じりに言葉を返す。
「景色に呆けるその面を見ているのも割と愉快だぞ」
彼は苦笑を浮かべ、そうしてまた窓の奥に広がる世界と向き合う。
貴方の横顔しか見えぬのだ、などとは当然言える筈も無く。 END「今日からお前は間桐の魔術師、間桐桜となる」
「……はい、分かりました」
目の前にいる妖怪のような老人に、私は恐ろしくてどうしても目を合わせることが出来なかった。
だが、もう助けてくれる『前』な家族はいない。これからはこの老人達が家族になるのだ。
「そして、間桐の魔術師になったからには間桐の魔術を学んでもらう」
魔術。
その言葉は私はどうにも好きになれなかった。そんなものがなければ、私は家族と別れる必要もなかったのかもしれないのに。
それでも、それしか私に道は無い。
「では、まずは身体測定じゃ」
「…………はい」
「それが終わったらイ〇ンにシューズを買いに行く。ランニングは基本じゃからな?」
「…………はい?」>>418
何だかイオ〇と言う魔術っぽくない単語が聞こえた気がする。というかランニング?
「身体測定もして運動用ウェアとかも買い込んでおかんとのう…そのあとは………」
「あ、あの!ちょっと待ってください!」
声を荒げる私に既に背を向けて何やら準備を始めようとしていた老人は心底不思議そうな視線を投げかけていた。
「…………魔術は?」
「…………魔術じゃよ?」
少なくとも私が思ってた魔術はランニングが基礎のものでは無い。何だか私の方がおかしいみたいな雰囲気が出ているが、もしかしたら本当にそうなのか?いや、絶対違う。
「………ああ、そう言えばまだおぬしには言ってなかったのう」
そう言って老人、間桐臓硯は私の瞳を優しげな目で覗き込みながらまるで星にでも語りかけるように、私の人生を変える言葉を放った。
「間桐の魔術。それは、正義の味方になるために体を鍛えることなんじゃよ」
この時のことを私は今でも覚えている。
雷に打たれたような衝撃の後、私はゆっくりと口を開いた。
「すいません。何言ってるかよくわかんないです」
「雁夜!慎二!早速間桐家恒例準備体操の時間じゃァ!」>>390
数日後、エジソンは刑部姫、鬼太郎の協力を得て鬼太郎の霊界テレビを改造、カルデアとの通信を成功させた。
「今日本を覆っている黒い霧は空間だけじゃなく時間軸まで世界から切り離してしまっているらしい。セイレムと状況が少し似ているがそれともまた違う、異なる時間の流れがレイシフトにまで影響し君たちの存在は別々の時間と場所にばらまかれてしまったようだ」
立香たちから報告を受けたダヴィンチは彼らの無事を喜んだ後起こった事態について説明した。
「現在も解析を進めているがそちらの彼らが怪気象と呼ぶこの現象にはまだまだ謎が多い。今説明したこと以外では掴めたのは中心地が東京であることと黒い霧が覆う範囲がいまだ拡大し続けていることだけだ」
「ふむ、西洋妖怪たちが現れたのも東京からじゃ。奴らの本拠地もそこにあると見て良いじゃろうな」
ダヴィンチの言葉に目玉おやじが頷く。
「では藤丸君たちの仲間の無事をある程度確かめた後、皆で東京へ向かうということでいいでしょうか?父さん」
そう言って鬼太郎が話をまとめた。
元々、鬼太郎たち日本妖怪は西洋妖怪に対して大きく劣勢だった。並みの妖怪と比べてあらゆる点で勝る(妖怪たちが持つ個々の特殊な力に関してはその限りではないが)サーヴァント二人と今までの経験がある立香が加わった今でもその差を埋めるのは難しい。西洋妖怪たちの裏にいるバッグベアードと聖杯を持つサーヴァントと戦うには非戦闘型の二人の他に戦闘に長けたサーヴァントが必要だと思われる。逸れた仲間を探すことは日本妖怪側にとってもはやただの親切ではなくなっていた。
「ああ、そうしてくれるとこちらもありがたい。彼らが得たデータも合わせれば調査も進むだろうからね。マスターくん、マシュ、君たちにもいつも以上に苦労をかけることになるかもしれないが、許してくれ」
「気にしないで。絶対絶命もいつものことさ。少し怖いこともあるけどみんなの力があれば乗り越えられる!」明らかにSSじゃあ収まりきらないスケールになってしまった
いっそやる夫スレとかにしてしまおうか>>420
立香はダヴィンチにガッツポーズで答えて見せた。その足先が少しだけ震えていることに傍らに立っていたマシュだけが見ていた。
「鬼太郎ー!」
カルデアとの通信が終わった直後、砂かけ婆が慌てた様子で駆け上がってきた。
「そんなに慌ててどうしたんだい?おばば」
「おお、鬼太郎。さっきの、また新しく仲間が逃げ込んできたんじゃよ!それでな、そやつらが西洋妖怪に襲われた時巨人の女の子に助けられたと言うんじゃ」
鬼太郎の問いに砂かけ婆は息を切らせながら答えた」
「巨人の女の子?そんな妖怪日本にはおらんはずじゃが……」
目玉おやじが怪訝そうに首を傾げた。
「そう、そこじゃよ!その女の子が日本の妖怪ではないなら、その子たちの知り合いかと思っての、知らせに来たんじゃ」
砂かけ婆は目線で立香たちを示す。
「巨人の女の子……」
「先輩」
その特徴から導き出せる仲間の姿を思い浮かべ、二人は顔を見合わせた。
「あの、その人たちに詳しい話を聞かせて貰えますか?」>>422
城に駆け込んできた妖怪達は小豆とぎ、小豆はかり、小豆婆のいわゆる小豆連合と呼ばれる三人だった。
「金髪で、青い牛みたいなのに乗った……おお、おら達を助けてくれたのは間違いなくその子だよ」
立香が並べた特徴を聞いて小豆とぎが大きな目を更に見開いて答える。
「一緒に来ねえかって誘っただが、ここでますたあだかなんだかを待つって聞かなかっただよ」
「助けてもらったお礼に小豆飯こさえて渡しただが、何分急いでたもんで多く作れんかったでなぁ。今頃腹ぁすかせてねぇといいだが……」
毛むくじゃらの顔からまん丸の目を覗かせた小豆はかりとハチマキをした老婆の小豆婆が心配そうな顔で横から付け加える。
「間違いない、バニヤンだ……!」
三人の話から立香はカルデアの仲間の一人、ポールバニヤンが誰もいない暗い場所で寂しそうな顔で自分を待っている姿を連想した。食いしん坊で強くて優しい、そして人一倍自信がなくて寂しがり屋な女の子。そんな彼女が一人で誰も味方がいない場所で待ち続けるのはどれだけ辛いことだろう?バニヤンに初めて会った時の事を思い出し、立香は我知らず拳を固く握っていた。◆
少年は旅をする。
歩きに歩き続けて、世界を知る。
けれども、その心と体は成熟することなく、胸の高鳴りを求めている。
少年は、その日、再び出会った。>>424
◆
シズカは主が起きるのを待っていた。
主には、待たなくてもよいと言われている。
電気をつけてもいいし、テレビをつけて夜を明かしてもいいと何度も言いつけられていた、
私は眠りが深いほうなのだから、遠慮していてはだめよ。
せっかく眠らなくもいいからだなのだから、人生を楽しみなさい。
主は、シズカを年の離れた弟を諭すように何度も告げていた。
けれど、少年は――シズカはじっと同い年の主を暗闇で見つめていた。
微かにわかる輪郭は、食虫植物のように掛け布団をバッタバッタとひっくり返し蠢ている。
寝息に交じり時折聞こえる呻き声は、どことなく色気を醸し出していた。
目と耳が得る情報の差異が、シズカにとってはとても好ましいものだった。
「……シズカ」
まだ、彼が一人で座り込んでいたとき。
彼に目的がなかったとき。
彼が、まだシズカになる前のことだ。
その日、魔術師に出会った。>>425
◆
「―――」
屍に語りかける少女がいた。
棺桶を重そうに引きずり歩むさまは死神のようだ。
だが、鈴の音のように清廉で、燃えているように跳ねた髪は鮮やかに赤く染まっていた。
顔立ちは、どこか幼さを宿していた。
だが、その表情は悪辣。
この世のすべてを憎み、軽蔑し、気など一切許しはしない憤怒と笑顔が混ざり合っていた。
「あたしはね、しぬことが許せないのよ」
屍は答えない。
「でも生きていることも憎いのよ」
屍は動かない。
「だから、決めたの。両方を『混ぜて』しまおうって―――幸い、うちの家の魔術にはそれができる」
屍はしんでいる。
「一流の魔術師なら、歴史を積み重ねた魔術の大家なら、素直に根源を目指すんだろうけど、あたしに魔術刻印を引き継がせたお父様の失敗ね」
少女は赤い宝石を腐敗し、野鳥に啄まれ開いた胸部に滑り込ませた。
「――――――」
屍は生きていない。>>426
「―――ア」
だが『動いた』
少女の詠唱は続く。
笛の音に操られるように、屍は徐々に動き出す。
「―――ゆ、るさない」
融けた歯肉がこべりついた白い歯が上下に動き怨嗟の声を紡ぎだした。
ボトボトと落ちた肉片も意志があるかのように蠢く。
「よくも、よくもぉおおおお!!!!」
「……うん、よし」
完全に立ち上がった屍をみて少女は満足げに立ち上がり
「弾けろ」
轟音と共に屍を燃やした。
「な、ん、で」
「屍には用はないのよ―――あたしがほしいのはアンタよ」
燃え上がる肉塊から目を離し、少女は僕を見た。
僕が見えるの?
「ええ、見えるわ。それができる眼ですもの。まぁ、それしかできない目でもあるけど」
そっか、それじゃ、お礼が言えるね>>427
僕の体を燃やしてくれてありがとう。
正直、腐敗する自分の体を見るのはあまりいい気分じゃなかったんだ。
「そう、あたしはあたしの事情でやったことなのだけれど、礼をされるのは気分がいいから素直に受け取っとくわ」
その仄かに青く光る瞳に一切の喜びも、歓喜もない。
依然として、彼女は僕を観察するように見つめていた。
「アンタには、私の従僕になってもらうわ」
従僕?
彼女は、背負っていた棺桶を灰となった僕の遺骸を散らすように放り投げた。
元から朽ちていたのか、それとも細工されていたのか。
棺桶は重力と地面に砕かれて、中身をあらわにする。
それは人形だった。とても精巧で、遠くから見たら人が眠っているように見えるだろう。しかし、精巧すぎて人に見えない。
「人型に悪霊を入れて使役することはできる。でも、魂を人型に埋め込むことは至難の業―――魂を物質化でもしないと不可能」
彼女は僕を指さして告げる。
「アンタは肉体がしんでも、霊になってない。今も魂は生きた状態なのよ。物質化はせずに、そう、まるで切れたトカゲのしっぽのように生きがいい」
きっと突然変異の魂ね、と彼女は笑う。
そんなことを突然言われても、しんだあとで知っても困る。いや、生きていてもきっと困った。
「そんなことないわ、あたし、生きてもいない。しんでもいない。あなたが好きよ」>>429
◆
「おはよう、シズカ」
おはよう、ナギ。朝ごはんできてるよ。
魔術師は、ゆっくりと体をベットから起こし、跳ねまわる髪をてぐしで梳く。
あの日、僕の魂を人形に定着させ、従僕にした少女――ナギは、あの日と変わらず少女のままだった。
ふらふらと席に座り、トーストをかじる。
ナギと旅して50年。
各地を旅しているうちに学んだ限りでは、どんな魔術師も寿命を伸ばすのは難しいと聞いていた。
もぐもぐ咀嚼するが、果たして彼女に食事は必要なのだろうか。
もしかして、不老不死なのではないのかと常々思っている。
まぁ、ナギにすでに否定されているのだが……
「ごちそうさま」
おそまつさま、それでナギ、今日の予定は?
ナギにも目的がある。
僕を従僕としたのも一人では目的が達成できないからだ。
50年前から、僕とナギは『ある地』を求めて旅している。
「今日は、鶏を飼いにいくわ。儀式に必要なのよ」
儀式?
魔術が使えるわけじゃないが、魔術を知らないわけではない。>>430
しかし、ナギが各地で行ってきたのことは、地質調査に水質調査。正直、魔術師というよりも科学者だ。
とは言っても、もちろん詠唱したり、不可思議な現象を起こすこともある。
教会や時計塔からも応戦しながら逃げたこともある。
だが、生贄を使ったり、陣を使うことは本当に稀だった。
コーヒーをすすりながら、ナギは僕の訝し気な表情に気づいたのか、すこしほほ笑んで口を開く。
「そういえば言ってなかったわね。今回は今までの調査とは全く違うわ」
下げられた食器の代わりに、写真や書類が並べられていく。
「これはこの冬木市で起こった『聖杯戦争』の資料よ」
『聖杯戦争』?
「そう、これはアインツベルン、マキリ、遠坂……まぁシズカは知らないでしょうけど、魔術の大家が協力して『聖杯』を降臨させる儀式よ。今回の目的は、あと数日で始まるであろう第四次制覇戦争」
ナギは、『聖杯』がほしいのか?
「まさか、いらないわよそんなの」
一蹴。確かに聖杯はナギの目的にそぐわない。
では、なんだろうか。
「この聖杯戦争は、七人のマスターが七騎の英霊を使役してころしあう。あたしの目的は、使役されるサーヴァントよ」
英霊……サーヴァント……
「そう、もしかしたら、召喚されるサーヴァントはあたしの目的地への鍵となる宝具かヒントを持っているかもしれない」
なるほど、目的は賞品の聖杯ではなくて、手段の英霊自身か。だから、ナギは聖杯戦争に参加するために冬木に……
「参加しないわよ」>>431
え。
「参加しないわよ。シズカ、私はそこまで恵まれた魔術師じゃないわ。それに戦闘特化の魔術師でもないし、参加したら間違いなく脱落する。そんなリスクを負うつもりはないわ」
でも、それじゃどうするのだろうか。
他の聖杯戦争参加者が、ナギの求める英霊を召喚するとは限らない。たとえ召喚しても、僕たちみたいな怪しいコンビに宝具やヒントを開示してくれる可能性はゼロだろう。
なんせ、相手は戦争中なのだから。
僕が考えるに、戦争に参加し、目的の英霊を召喚したら冬木をすぐに去るのが一番ローリスク、ハイリターンだと思うんだが。
ナギはそれされもハイリスクらしい。
「私たちは死肉をよこどるジャッカルよ」
ナギはとっておきの玩具をさらすように古びた本を取り出した。
「今、この地は英霊が召喚されている。つまり、龍脈が活性している。今、この地でなら―――英霊は無理だけど、黄泉をしる霊を召喚し使役することができるかもしれない」
その本には、聖杯戦争の召喚システムが詳しく綴られていた。
「さぁ、あんたの出番よ。シズカ。しんでいるけど、生きているあんたを触媒に、あたしは『冥界への入口』をしる霊を召喚する」
魔術師ナギ。
彼女は、冥界に恋焦がれている。>>432
◆
爽快な朝だ。
昨日は、鶏から血を抜いたり、余った肉を香草と一緒に冷凍保存するのに忙しかったからこの汚れの一切ない朝陽はとても身に染みて温かい。
鼻腔にこべりついた血のにおいも草木の香りで和らいでいくようだ。それに森だからだろうか。森林浴をしている心持だ。
僕たちは今、アインツベルンの森にいる。
アインツベルン城から離れた廃墟。
穴の開いた天井から月が室内を照らしている。
ベットがある部屋とロッカーが置いてある部屋。
二部屋だけの朽ちた部屋は少し寂しさを感じる。
「アインツベルンが聖杯戦争にくるのは、明日の正午。本当ならこんな危険地帯に近づきたくないけど、霊地としてはそこそこだし、逆に言えば明日の正午までは安全ということよ。他のマスターたちもここを監視することはあっても近づこうとはしないでしょうし」
ナギは時折、大胆不敵である。
しかしあの公園や寺ではだめだったのか?
昨日調査した他の霊地。
特に公園は広い公園なのに人気がなく、歪みのある土地だった。
「あの公園は、人の死で汚染されている気がする。確かに英霊を召喚するなら条件としてはいいでしょうけど、私の召喚では逆にそれが邪魔になってしまうわ。悪霊を呼びたいわけではないのよ」
それじゃ、寺は?
「…………」
せわしなく動いていたナギの手が止まり、苦い顔をして寺がある方角に目を向ける。
しばらくの沈黙の後、再び魔法陣に取り掛かりならが口を開き短く告げる。>>433
「あそこはだめ。胡散臭い」
そっか……
会話は途切れ、一時間後、召喚の準備は整った。
しかし、あんなに頑張って縛り取った血液がバケツ一杯分余ってしまった。
「シズカ」
ナギがそのバケツを持ち上げ、手招きで僕を引き寄せる。
時刻は午前二時、召喚予定時刻だ。
冥界を知る者。
冥界へ行った者。
冥界に仕えた者。
その誰かを僕自身が触媒となって召喚する。
作り物の体が、重く感じる。
もしかしたら、僕らはついに旅を終えるかもしれない。
ナギはどうするだろうか。そういえば、冥界を見つけてどうするのだろうか。
それに、旅が終わったら僕は
「それ!!」
息が止まる。瞼を固く閉じる。
突然浴びせられたバケツ一杯の血液。
髪をぽたぽたと垂れる音を聞きつつ、愉快そうに笑うナギをジッとにらんだ。>>434
温厚な僕では怒る。わりとシリアスなことを考えていたのにこの仕打ちはどういうことなのだろうか。
抗議の視線も意に介せず、ナギは僕を召喚陣の外側に立たせた。
「はじめましょう――準備はいいわね。シズカ」
ダメです。
まったく、心の準備ができてない。いや、触媒に心の準備とかいらないかもしれないけど。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には我が大師……えーと小野……エリザベス?いやジョン!」
そこあやふやでいいの?
詠唱は続く。目の前の陣が赤く発光し始める。
室内は月光の静かな柔らかい光から強い赤光に満たされる。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
赤い光から赤色が抜け落ち、光の奔流が僕らの目をくらませた!
「―――ん?」
………
光量に焼かれた目を開けると、そこには何もなかった。
誰もいなかった。
失敗、した?
「いや、それはないわ。確かに何かが召喚できた」
鋭い、警戒心に満ちた声が背中越しに聞こえる。>>435
背中合わせの体勢。その意図に気づき、僕も周囲を警戒する。
「―――令呪がない。まずったわね……令呪が付与されなかったときのために、陣には召喚したものを縛る魔術を仕込んだけど全部破られてる。思ったよりも大物が釣れたみたいね」
そうか、触媒としては身に余る成果だが、その成果にころされたのではそれは成果とはいえない。
霊体化してるのか。
それとも目に見えない英霊なのか。
どこかに隠れているのか。
動けない。
部屋を突き抜ける風が運んでくる木々の葉音や先ほどと変わらない月光。
どこだ。どこにいる。
ナギは、ナギの『眼』は何か見えているのだろうか。
「…………」
……静かだ
僕は気づいた。
眼がロッカーに釘付けになる。
さっきまでは風で小さな金属音をたてていた扉の音が消えている。
それはつまり、誰かが開いていた扉を閉めたわけで――
――っ
PPPPPPPPPPPPP
ナギに声をかけようとした瞬間、携帯の着信が鳴り響いた。>>436
張りつめた体が驚きで仰け反る。
PPPP……
携帯に出たわけでもないのに、着信音は止んだ。
しかし、画面には『通話中』と表示されている。
『あー……あー……もし、もし』
手にとった携帯電話。ナギと共に息をのむ。
『あなたたちが、わたしを、しょうかん、した、あ、あるじ、まマスターですカ?』
途切れ途切れの声に応えていいものか。ナギに目を向けると、携帯とロッカーを交互にみている。
『もし、もし、きこえて、ますカ?』
「ええ、聞こえているわ―――貴方は、私が呼んだサーヴァント、でいいのかしら?」
『アナタ、ではなくアナタたちが正確ですネ。魔力はアナタから供給されてますが、令呪は、彼に付与されているみたいです』
ナギの視線が僕を下から上まで通過する。
「あ、首に」
片手で首を擦る。見えないが、ここに令呪なるものが浮き出てるらしい。
ふぅと息をつく。僕もナギも。
「それで、貴方はなんでそんなとこに隠れているのかしら」
『えー、それはですねー』
言い澱んでいるのわかる。その声に威厳というものは感じられず、英雄のような神性さが感じられない。
どんでもない英霊ではないようんだ。しかし、悪霊という感じでもない。>>438
◆
まだ室内にはほんのり血の香りがしている。
カラカラと回る換気扇ではとてもじゃないが室内を換気することができなかった。
拠点に戻った僕は部屋にあるロッカーから中身をすべて引き出す。
「もしもし、ちゃんとついてきてるんでしょうね。ええーと、メリーさん?」
『ああ、もちろん』
僕の携帯でメリーさんと話すナギはどっかりとソファに座る。
ロッカーの扉を閉めたと同時に扉を内側から軽くノックされた。
『すでにここにいるよ。すこし狭いが、我慢しよう』
「……シズカ、お茶おねがい。それと何か軽食を。鶏肉はやめて」
了承し、台所に向かう。
台所にいても、二人の会話は聞こえてきた。
「それで本当の真名はなんなの?」
『メリーよ。しらない?メリーさんの電話』
「馬鹿にしてるの?メリーさんの電話なんて知ってるわよ。日本の怪談一つでしょ」
『知ってるじゃない。私は怪談〈メリーさんの電話〉がサーヴァントになった存在よ』
「ありえないわ。確かにあたしはサーヴァントの召喚を行った。それも不完全で、非正規な方法でね。だからといって〈伝承〉が人格を持つようなことにはならないわ。それは英霊を召喚するよりも難しいし不可能よ」
『……ええと、その疑問に答える前に一つ聞いてもいいかしら』
「なによ」>>439
『貴方の名前は?』
「ナギよ、姓はないわ。ただの魔術師のナギよ」
『そう、貴女には似合わない名前ね。なら言うわ。ナギ、私がなんで私であるかなんて、知らないわよ。ただ思い当たる節があるとしたら貴方たちの不完全な召喚のせいじゃなくて?』
「――っ!」
そろそろ出て行ったほうがいい。ナギが怒るとめんどうだ。
僕は緑茶とサンドイッチをナギの前に置いた。
『おっと、君はなんて名前?』
メリーさんの興味は僕に移った。
「シズカよ。今の名前はシズカ。あたしの従僕よ」
『シズカ、ね。君にはピッタリな名前だね』
褒められた。うれしい。
けど、ナギの顔はますます曇る。
ところでメリーさんの口調はどんどん流暢になっていくがなんだろう?
「一応、一応ね、聞いておくけれど貴方は『冥界』を知っている?」
『しらん』
即答だった。
ナギの深いため息が部屋に響く。
「シズカ、今回は失敗よ。この部屋を引き払って外国に飛びましょう」
『まてまて、短慮すぎる』>>440
「何よ、サーヴァントがマスターに意見する気?」
『するとも、それに突然解雇されそうな従業員が雇用主に意見しちゃだめなのかい?』
ずいぶんとたとえが現代よりだ。
聖杯から現代知識を与えられているのだろうか。
『私はサーヴァントだ。それにアサシンとはいかないがそこそこ気配を遮断できる。それに逃走手段もなかなか言いのがある』
「だからなによ。あたしたちは聖杯戦争に興味はないわ。だから他のサーヴァントたちと争うつもりもないのよ」
『誰が争うと言った?私が優れているのは逃走手段で、闘争手段じゃないのよ』
なんだかメリーさん、ナギに対して当たりがきつくないか?
『察するに、あなたたちの目的は冥界に関することをサーヴァントから聞くことでしょ?なら、私を使って他のサーヴァントを調べればいい。あわよくば、ヒントぐらいは得られるかもしれない』
「………」
メリーさんからの提案にナギが熟考する。
正直、リスクがあるから断ると思っていた。
「……あんた……いや、メリー、それであんたに何の得がある?聖杯を望まないマスターなんて嫌でしょ?それなら、あたしたちがさっさと離脱して他のマスターと契約する道もあるでしょ」
『私に願いはないよ。そもそも聖杯を求めていたわけじゃない。座にいたわけじゃないもの。たまたま、あの場に引き寄せられて召喚された』
理解はしているけど、納得はできない。
まるで詐欺師と話しているみたいだ。メリーさんは何かを隠している。そんな気がする。
ナギの渋面はますます深まる。
『……ナギ、時間はもうないんじゃないか?』
「!」>>442
◆
ナギとシズカは冬木市と隣の市の境に拠点を移すこと。
期限は三日間、三日過ぎたらナギとシズカは冬木から逃げる。
メリーさんは拠点に帰還えずに携帯で連絡を取り合う。
ナギはリスクを限りなくゼロにするために条件をメリーに飲ませた。
万全に見える条件はサーヴァントという予想がつかない相手ではとても心もとない。
特にキャスタークラスで召喚されたものが追跡魔術に長けていたら、もしメリーが捕まった際に魔力の供給元を探知されるかもしれない。
PPPPPPP
新たに移った拠点で、荷を下ろしていると着信があった。
『あー、あーもしもし?』
ナギは国外に逃げるための手続きに外出しているため今はいない。なので僕が応対することにした。
『そっか、ナギはいないのか。それは好都合。私としては君と親交を深めたいと思っていたんだ』
三日間だけの関係で親交を深める必要があるのだろうか?
『あるさ。セミは一週間しか生きれないのに生きる必要があると思うかい?一週間しか生きれないなら絶滅したほうがいいのに』
それは極論すぎるし、セミと人では時間の感覚も生物としての在り方も違うだろう。
『違わないさ。いうなら私は三日しか生きれないセミだ。ならこの三日間でいろいろやりたいと思ってるのよ』
……わからなくもない。
僕は両手を挙げて降参した。見えてないだろうけど。
『そのやりたいことの一つとしてシズカ、君とナギの関係について知りたい。君はその体を彼女にもらったのだろう?』>>443
そうだ。この体を与えられ、入った瞬間から僕は従者だ。
「今の君に願いはないのかい?」
願い、か。
ただナギのそばにいたいと思ってここまできた。
変な女だと思った。一般的に、かかわりを持ちたいと思う人物ではないと思う。
けど、あの時の僕にはなにもやりたいことがなかった。
しようとも思っていなかった。
僕には過去がない。
あの時、自分の屍の前で座っていた時からしか記憶がない。
シズカというのもナギがつけた名前だ。
ナギが求めるなら僕は、ずっとそばにいる。それだけだ。
『なるほど、つまりシズカ、君は私と同じなんだね』
虚を突かれた。
『つまり、君は明確な望みがなく、ナギと主従関係を結び、ナギが関係を断つといえばそこまでの関係なんだ。私と同じだ』
電話の向こうに僕がいる。僕の未来、もしかした明日の自分かもしれない。
無意識に、僕は自覚しようとしなかった。
僕はナギの兄弟でも友人でも恋人でもない。昨日、触媒として利用されたようにただの『道具』だ。
恐ろしい。怖い。悲しい。
ナギに捨てられるのが怖い。胸が痛い>>444
『かわいそうに……でも、大丈夫だよ。私がいる』
すがるように、携帯を握りしめた。
『私が、シズカを……』
「シズカ!」
勢いよく開けられた扉から赤い影が突風となって僕に迫る。
力強く握っていた携帯はナギのあっさりととれた。
「メリー!あんた、シズカに取り入ろうとしてなんのつもり!?」
『もう一人のマスターと親交を深めていただけよ?彼には令呪があるからね。私としては、君よりも彼が重要だ』
「黙りなさい。あたしのシズカに手出すなら、すぐに契約を打ち切る!」
怒り露わにメリーにぶつけるナギ。
こんなに怒るナギを見るは初めてだった。こんなに僕に執着するナギを見るのは初めてだった。
理性では、どうやってナギの怒りを冷まそうかと考えているが。胸の内はなんともいえない喜びで溢れていた。
『……よかったね。シズカ、これがナギの気持ちだよ』
ブッと電話が切れる音が切れる。
「……はぁ、はぁ……シズカ!」
携帯を放り投げ、座り込んだをナギは強く抱きしめた。
「無事でよかった!メリーに電話がつながらないからまさかとおもって帰ってきたけど……何かされなかった?呪詛とか受けてない?」
うん、もう、大丈夫だよ
僕は、初めてナギを抱きしめた。>>446
◆
『マスター、サーヴァントの存在を確認した。寺におそらく二人。学校に二人だ』
小指と親指のみを立てて電話の形をつくりマスターに得た情報を伝える人影があった。
ビルの屋上にたたずむ白髪の美女。
佇まいはどこか品があり、どこかのご令嬢のようだ。
『サーヴァントの真名は……まだわからないわね。さすがに……大丈夫よ。あと一日あるもの、一人ぐらい真名を看破してみせるわ』
屋上で吹き荒れる風が美女の黒いドレスを揺らす。
『……またかけ直すわ、ナギ。定時になったらまた電話する』
美女は手をパーにして電話を切る。そしてまた電話の形にした。
親指からは多数の声が聞こえる。
それはこの冬木市すべての通話を傍受していた。
メリーさんの怪談。その怪談は、恐ろしい電話から始まる。
近代の怪談故に、電話との相性がとてもいい。
『やっぱり寺ね。寺からする通話。寺にかかってくる通話。寺側の人間の話に怪しいところがある―――最近寺に現れた女か』
厄介だ。あの寺の結界も厄介だが、そこにいるサーヴァントは遠隔から人の精気を集めてる。
おそらくキャスタークラスだと美女は予想する。
『さて、どうアプローチしたものか』
ぞくりと背中に冷たいもの感じ、美女はすぐさまその場を飛びのいた。
「へぇ、動きにくい恰好してるわり動けるじゃねか」>>447
赤い槍がさっきまで美女がいた場所を穿っていた。
猛犬のような獰猛な瞳。
全身からは文句なしの強者の貫禄。
「あん?てめぇ。本当にサーヴァントか?」
「サーヴァントよ、まぁ、まがい物だけどね」
「そうかい、だが出会っちまったもんはしょうがねえな―――その心臓もらいうける」
青い槍兵から殺気が放たれる。
「あいにく、お前に渡す心臓はないよ」
美女はそれに応えるように白い髪をかき上げてその顔を露わにした。
メリーさんの怪談。
その終わりは、メリーさんと出会うこと。
故に、その相貌を見たものは死ぬ。
もちろん、対魔力をもつ者ならレジストできる。サーヴァントなら尚更だろう。
「チッ―――しゃらくさい!」
振るわれる槍は美女のドレス穿ち、血液を空中に撒く。
「―――無理ね」>>449
◆
「あれはメリーさんじゃないわ」
電気の消えた部屋で、ナギは僕を抱きしめながら言った。
「メリーさんの怪談をあたしは知っていた。名前だけはね。詳しい内容は図書館で調べてやっぱりメリーさんの怪談がサーヴァントになるなんてありえない。霊基がそもそもない」
いい匂いだ。
安心する。
ナギの腕の中は柔らかくて心地よい。
性欲がこの体にあったのだと、僕は随分ながい間忘れていた。
「だけど、彼女は自分をメリーと称する。あれが嘘でないならきっと、メリーさんの怪談のほかの逸話、怪談、怪物の複合されてるんじゃないかと思うの」
柔らかい。
ほんとうに温かくて、肌に沿わせた唇からフェロモンが供給されているようだ。
「ちょっと、聞いてるの?」
優しく僕の髪を撫でながら叱るナギの声は優しい。
全くしょうがないわねっと再びナギに抱きしめられた。
『考えるに、私は恋のキューピットかもしれないわね』
「!」
着信音も鳴らずに、携帯から声が響いた。
『いやいや、怪談の私が人を幸せにするなんて、これは怪談ではなく恋の言い伝え……いや、現状を見るに、男女をくっつくける猥談?』
「黙りなさい」>>450
見られているわけではないが、いそいそと僕とナギは服を着る。
「それで、首尾はどうなのよ」
『おや、話の流れは私の正体を追及するべきじゃない?』
「どうでもいいわよ。どうせ今日一日でお別れだもの。歯向かったら令呪で自害させるだけ」
『短慮だわ、ナギ。今後それは矯正しときなさい』
「うるさい」
またナギに火が付き始めた。僕はメアリーの声に少し疲れを感じ、二人の間に割り込んだ。
『あー、昨日の夜はサーヴァントに狙われたわ。ランサークラスのね。少しダメージ追ったけど、なんとか逃げ切ったわ。ナギも私が魔力をごっそり持って行ったから気づいたでしょ?』
「………む」
『ああ、昨夜は魔力供給してたから気づかなかったか。もう少しマスターとしての自覚をもってほしいものね』
ナギは顔を赤らめてそっぽを向く。
仕方がないから僕が応対する。
最終日だが、今日はどうするつもりだろうか。
『今日は捨て身で、寺に特攻してみるわ。キャスターが確実にいる。それも神代の魔術を使ってそうだわ』
「神代……」>>452
◆
荷物をまとめて、旅立つ用意をする。
ナギは隣の市でジェット機をチャーターしに行った。
「いってきます。日中は出歩いていいけど、目立たないようにね」
出発は深夜。
それまで暇を持て余した僕は、あの公園に足を向けた。
第四次聖杯戦争で何があったかは分からないが災害が起きた場所。
この前来た時と同じように、空虚で胸を捕まれるような痛みがある場所だった。
ベンチに座り、眺める。
先に座っていた赤銅色の髪の学生と目があい会釈したが互いに言葉は交わさなかった。
何もない。
ただ草木の生えた広い土地があるだけだ。
目に見える限りは。
ナギは、ここを人の死で汚染されていると言った。
僕を見つけたように、この公園で同じように座り込んでる魂が見えたのだろうか。
見えないけど、僕はここにいる魂のように風化するまで座り込んでいたかもしれない。
ただ僕は運よく、ナギに手を差し伸べられた。
このことを彼らが知ったらどう思うだろうか。
怨嗟の声、呪詛の言葉、憤りの表情。>>457
「僕を助けてくれて、ありがとう。君のこと、出会ったときから愛してた。これからも愛したかった。君がいたから僕は幸せだった」
涙が口の中に落ちた。
僕の涙ではない。
誰の涙だろうか。
重い瞼を、最後の力を振り絞り開けた。
「しずかぁ……」
号泣する美女。その顔を知っている。
幼さはなく、髪は真っ白だけれども。泣きじゃくる顔は、初めてみたけども。
その顔は間違いなく、ナギだった。
「私も、シズカのことが好き。好きなの、救いたかったの。もう一度会いたかったの」
どういう過程を経て、ナギがメリーさんになったのかはわからない、けど。
僕に会いにきてくれたのか。
悔いが消失し、体中が満ちていた。
「ああ、暁が昇っている」>>458
◆
「はぁ……はぁ……」
部屋には二つの人影があった。同じ顔が二つあった。
「しずか?」
赤い髪を振り乱らせ、空になった人型を抱き寄せるナギは何があったのか察した。
けれど理解するの拒否するように人形をきつく抱きしめる。
それを美女は涙を流しながら見つめる。
過去の自分を見つめる。
「しずか、しずか、しずかしずかしずかしずかぁ!なんで、なんで!」
過去は変えられない。
たとえ、自分の過去へ召喚されたとしても。
私は、今の私のために、過去の私のために最後の仕事をする。
「ナギ」
顔を白い前髪で覆い隠し、声をかける。
涙を流しながら、怒りと憎しみで染まった眼を私は受け止め、私の宝具を渡した。
「またシズカに会いたいなら、これを使いなさい」
それは『柘榴』だった。
「これは……」
赤黒い実は、濃厚な死の気配が漂っている。>>460
◆
冥界の深くで、美女は眠る。
美女は常に追いかけるものだった。
追いかけた末はいつも誰かの死だった。
だから死というものが嫌いだった。
でも生きて苦しいのも嫌いだった。
だから眠る。
彼女にとって死は眠りであってほしい。
安らかな眠り。
「ナギ」
少年の声がする。
ああ、そこにいたのね。
夢の中で、彼女はようやく少年と歩み始めた。
END雑談スレ962あたり?で話題に上がった『メリーさんの階段』がサーヴァントだったらという妄想をSSにしました。少し長いし推敲も余りしてないし、出してない省いた設定もありますが読んでいただけるとありがたいです
すみません、今からOLカーマのss投稿します
>>464
カーマ・サンモーハナ 前日談
「カァーッ!なぁーにがクリスマスですかぁーあバカやろーう!」
「こちとら未だに27歳独身の彼氏もいないアルバイターですよぉ~だぁ!」
時は12月24日、クリスマスイブ。夜11時を回った時に、一人の女性がマンションの一室でミニスカサンタの格好で世界を呪っていた。
今飲み干した缶ビールの缶を床に投げつけ、帰りにコンビニで買ってきたチーカマに勢い良くかぶりつく様は、その女性の女神とも言えるような美貌を完全に台無しにしていた。
「くぁー!、やっぱりスーパードライの後のチーカマは堪りませんねー!この瞬間の為に生きてるっつぅーか、ビールの為なら犯罪でも何でもやってやるっつー気持ちがよく分かりますぅー。」
「…はぁー…。もう酔った勢いであのシヴァの野郎とパールヴァティーをシメに行っちゃいましょうかねぇ?いや、返り討ちにあってボコボコにされるだけか…」
彼女の名前はカーマ、元OLのウエディングプランナー。かつて彼女は敏腕OLとして同僚や上司にも知られており、彼女のプロデュースした結婚は満足度も非常に高く、多くの新婚夫婦から感謝の声も届いていた。あまりにも大きい功績と満足度から、その業界で「愛の神」などと呼ばれたこともあった。>>465
しかし、そんな生活はある日つまらないトラブルで一変することとなる。
彼女の先輩であるパールヴァティーから、その手腕を見込まれて自分の結婚式のプロデュースをして欲しい、と頼まれたのだ。
もちろんそれだけならまだ良かった。その結婚相手というのがよりにもよって、彼女の勤めているウエディングプロデュース会社「トリシュナー」の社長の息子、シヴァだったのだ。
シヴァはその手腕で、現在会社の実権のほぼ全てを握っている存在であり、気性がかなり荒いことでも有名である。
もしそんな相手の結婚式でもしヘマをやろうものなら首は確実。勿論最初は断ろうとはしたが、周りの強い後押しがそれを許さなかったのだ。その時彼女は心の底から「愛の神」という肩書きを呪った。
その結婚式は何のトラブルも無く終わったはずだったが、後日カーマに驚きの通達が届いた。
首が飛ぶ羽目になった。>>466
何故、と詰め寄ったが、その理由はシヴァは自分の結婚式を望んでいなかった、というふざけた理由だった。
パールヴァティーとの話し合いで結婚式はやらない、ということになったが、それが決まったのは結婚式のほぼ前日だったらしい。
そんなこんなで彼女は天職とも言えるウエディングプランナーの仕事を失い、現在アルバイトをしつつ次の転職先を探している最中である。
「ったくもー!なぁーんで私の首が飛ぶ羽目になるんですかって話なんですよねぇー!?理不尽にも程があるって話しでしょうがーぁ!」
「まああの後パールヴァティーからは謝罪やらハムやら退職金がっぽりやら貰いましたけど!そんなんでこの怒りが収まるはずもないでしょぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「…ハァ、ハァ、ハァ…なーんか酔った勢いで叫んだら冷めちゃいましたねぇ。
もうチーカマは無いし…ビールもあと二本か…。なんかツマミ…ツマミは…あ」
カーマの目に止まったのは、ホールのクリスマスケーキだった。彼女は今日クリスマスケーキを売るアルバイトをしていた。
それが終わった後、店長のエミヤの優しさで余ったケーキをくれたのである。
このク.ソ寒い時期にミニスカサンタのコスプレでストーブを焚きながら、屋外でひたすらカップルやら新婚夫婦やら子持ちの家族にケーキを売るという苦行に耐えていたのだ。もう二度とやってたまるかちくしょう。
特にケーキを貰う時までもイチャついていやがったあのシグルドとブリュンヒルデとかいうカップルは絶対許さん。>>467
そんな事を思いつつ、カーマはクリスマスケーキを机に広げる。
本当なら大好きなケーキでも、カップルや家族と食べるクリスマスケーキだと思うと、未だに旦那どころか彼氏もいない自分が笑われているように思えて、惨めになる。
「…まあ食べずに腐らせるのも勿体無いですしねぇ。せっかくだしいただきますか、あのケーキ屋、店長が変態の女たらしだけど味は確かだっていう評判でしたし…」
「あ、…あと今は『性の六時間』なんて言われている時間でしたっけ?
今頃パールヴァティーのやつ、シヴァの野郎にギシギシアンアン鳴かされてるんでしょうかぁ?
はは、そう考えるとウケる…ハハ、ハハハハ…ハハ…ハァ…、グスン。…あ、ケーキ美味しい。」
憎たらしい存在を笑おうとしたが、自分が惨めになるだけだと気付いたためケーキに逃げることにする。
ケーキはネットのレビューが全て星5がつくのも納得の味だった。
「うう…ちくしょーぅ!なぁーにが旦那ですか!彼氏ですか!カップルぅ!?ハッ!そんなのどうせすぐに別れる羽目になるに決まってます!
男なんぞよりも酒と甘味にうつつをぬかした方がよっぽど幸せです!
イケメンで、可愛くて、マウントが取れて、素直で、優しくて、夜の方は自分だけじゃなくて相手の事も考えて気持ちよくしてくれる、年下の彼氏が欲しいなんて、ちぃーっっっとも考えてないですからっ!考えてないですからねっ!!」>>468
マンションの一室にてミニスカサンタの酔っ払った美女が、パンツが見えるのも気にせずにあぐらをかきながら涙目になり、自分の願望を吐き出しつつ缶ビールを煽る。
ビールとケーキに溺れつつ、カーマのクリスマスは過ぎてゆく。彼女はもう半ばやけっぱちになっており、彼氏や旦那が出来るとは、この時点ではこれっぽっちも思ってはいない。
そして、彼女はこの時点で知りはしない。
自分の元に大学生活の下宿の為に年下のイケメンで優しい男が転がり込んできて、その男と共に生活することになるという事を。
そして、彼と多くの時を過ごし、沢山の思い出を作り、数々の苦難を経て、想いを共有し、心を寄せ合った末に…
かつて自分が夢見た、誰よりも幸せな花嫁となり、彼と結ばれることを。
そんな輝かしい未来が待つ物語がこれから始まるのを、カーマは心のどこかで期待しつつ、机に突っ伏しながら爆睡していた。>>470
いいじゃんいいじゃん。面白いぞこれ。続き読みたいわ>>470
実に素晴らしいと思います。これからの展開がとても楽しみですね。>>470
アンタさいっこうだな!>>470
しってる。これ私生活ダメダメな美大生とかブラック企業で働いてる宇宙OLとかも転がりこんでくるんでしょ。>>469
めっちゃ好き!やっぱりラブコメはいい文明!んじゃ、今から続編上げていきます
カーマ・サンモーハナ! クリスマス編
カーマのマンションに立花が転がり込んできて早8ヶ月以上が経った。
今は12月23日、クリスマスイブを目の前にして、カーマは一人、自室で悶々としていた。
立花は大学のサークルの集まりだか何だかで出かけていて、あらかじめアルバイトの休みを取っていた彼女一人がこの部屋に残されている。
「うう…どうしたもんですかね…。」
「12月24日にエミヤのケーキ屋で開かれてるクリスマス期間限定ケーキバイキング…、凄い行きたい…カロリーとか栄養とか一切気にせず食べまくりたい…!」
「でもこれカップル限定なんですよねぇ…なあーんでこんな条件つけたんでしょうかあの変態妖怪女たらしは。普通に女性限定とかにすればいいのに。」
ケーキと酒とチーカマが大好きな元OLアルバイター、カーマはジャージ姿で知っているケーキ屋のHPを開いたタブレットを見つつ愚痴をこぼす。
エミヤのケーキ屋はネットレビューに軒並み星5かつくくらいには絶品なのは去年のクリスマスの経験で知っている。そのケーキが3500円で食べ放題ならば、ケーキが好物のカーマとしては行かざるをえない。>>477
しかし、よりにもよってそのバイキングはカップル限定という悪魔が考えたとしか思えない悪辣な条件だったのだ。ほんとこんな条件を思いついたやつは死.ねば良いと思う。
なぜこんな客を選ぶ条件になったのかというと、ここら辺ではカップルが非常に多く、女性限定の場合だと、
「彼氏と一緒に行きたいし自分だけでいくのも申し訳ないから。」という理由で来ない女性客が多いため、カップル限定にした方が女性限定よりも儲かるらしい。
クリスマスデートの寄り道に来る客が多い為、客もマナーを守るようになるからトラブルも少ないし、やりやすいのだ、と店長のエミヤが言っていたのを去年バイトした時に聞いた。反吐が出るような理由である。
「こぉーんな巫山戯た条件だったから去年は参加出来なかったんですよねぇー。だからもし余ったケーキがあればありつけるかも?と思ってアルバイトに行った訳ですけど…」
そんなカーマの目論見は見事に外れた。訪れたカップルがあまりにも多すぎて、ケーキは全て無くなったのである。結局余って貰うことが出来たのは、ホールのクリスマスケーキ1つだけだった。
「まったく…思い出しただけで腹が立って来ますよあのリア充共…!人目を憚らずイチャイチャイチャイチャと!なぁーにが『はい、あーん♡』ですか!恥ずかしくないんですかあのバカップル達は!
手を繋いだり、名前を呼び合ったり、愛してるだの何だのと!」>>478
カーマは女神の様な美貌を嫉妬で歪めつつ、去年ケーキバイキングに訪れてきたカップル達を思い出す。堂々と名前を呼び合っていたので、カーマは全てのカップルの顔と名前を嫉妬やら憎悪やら怒りやら哀しさやらと共に覚えていた。
覚えている限りでは、
シグルドとブリュンヒルデ、ラーマとシータ、虞美人と項羽、ジャンヌとジーク、天草とセミラミス、カドックとアナスタシア、ブラダマンテとロジェロ、クレオパトラとカエサル、オジマンディアスとネフェルタリ、葛木夫婦、鈴鹿御前とカズくん、アイリと切継、龍馬とおりょう、アンとメアリー、ネロとザビエルと玉藻とアルテラ(ラーヴァ)とBB、ete…
他にもいたが、これ以上思い出すと発狂しそうなので無理矢理思考を中断する。
「てゆーか最後の方は女同士とかカップルっつかハーレムでしょう!?あんなんでもありっておかしくないですか!?」
思い出した記憶にツッコミを入れつつ、カップルという判断基準の甘さに疑問を投げかける。エミヤのHPをよくチェックすると、
『可愛い娘ならカップルの基準がおかしくても大丈夫だよ俺は』
と書かれてあった、もうあの変態サンタム仮面は手遅れだ。
「まあ…一応相手がいない訳でもないんですけどね、今は…。でも、彼は…」
脳裏に浮かぶのは『彼』のこと。思い返せば春に彼がこの部屋に転がりこんできてから8ヶ月以上が経っていた。所で質問
このスレって、性行為の直接描写がなければ情事があったこと示していいのかな?
「二人は抱き合ったまま、そのまま互いを求めた」とかピロートークレベルなら>>479
最初の頃は只の面倒な同居人が出来た、ぐらいにしか思っていなかった。
彼に自分が作った料理を振る舞ったら美味しいと言われた。 嬉しかった。
洗濯物は別々だったし、立花に任せっきりだったのに、今では一緒に洗濯して自分が干している。
バイトやパートで一杯で職探しが進まなかった時期に、彼が職探しを手伝ってくれた。
嬉しかったのにお礼が上手く言えなかっのを今でも後悔している。
料理はいつの間にか自分が作る事になっていて、彼の好みを把握するようになった。
夏では彼の前でもラフな格好をしてたけど、目のやり場に困ると言われて仕方なくジャージを着るようになった。今ではそれが不快ではなくなっている。
彼に年上らしい所を見せようと思って少し高いホテルのレストランに一緒に夕食を食べに行った。 料理もとても綺麗だけど、夜景に照らされる貴女も綺麗だなんて言われた。
男の人に面と向かってそんな事を言われたのは初めてで、顔が真っ赤になっのは忘れられない。
彼をからかうつもりで一緒にプールへ行った。 彼は私の水着(白のスク水)を見たら真っ赤になって恥ずかしがっていた。
なんだか自分まで恥ずかしくなった。>>481
部屋で彼と一緒にアイスを食べた。 学生時代を思い出して懐かしくなった。
いつの間にかお互い名前を呼び捨てにして呼ぶようになっていた。
立花の誕生日を祝った。
『どんなお祝いのされ方がいいんですぅ?言ってみてくださいよぉ、ねぇねぇ?』
なんて言ったら、立花は顔を赤くしながらそっぽを向いてしまった。可愛かった。
立花の寝顔が可愛いと思った。 立花の寝顔のほっぺをぷにぷにするのが趣味になった。
一緒に夏祭りに行った。 はぐれないように立花と手を繋いだ時には、心臓の音で花火の音が聞こえなかったような気がする。
テスト勉強で立花の分からない所を教えてあげた。 立花にお礼を言われるとふわふわした気持ちになった。
秋服を一緒に買いに行った。 立花は『カーマにはこのネックレスが似合うと思う。』なんて言って私にネックレスを買ってくれた。
子供のクセして何を気取ったことを、と強がっていたが、今ではそのネックレスは私の宝物。
気づけば立花の前でだけいつも首に下げている。>>482
立花が私の手料理を食べて美味しいと言って笑顔になるのが楽しみになっていた。
立花が帰って来きた時に、『おかえり』と言って出迎えるのが好きになっていた。
立花に膝枕をして耳かきをしてあげた。立花の顔は真っ赤になって、『あ』とか『う』としか言えなくなっていた。 たまらないほど可愛くて、マウントを取れたことによる優越感は最高だった。
今度は私が立花に膝枕をされながら耳かきをされた。 心臓が高鳴りすぎて死ぬかと思って、されるがままのお人形にされてしまった。 屈辱で涙目になっていた。
この前買い物に行った時、私が手袋を忘れてしまった時、立花は黙って私の手を握ってくれた。
手は寒かった筈なのに、胸の奥は暖かくなった。
手を握っている間、立花の顔に目を向ける事ができなかった。
…いつの間にか、立花の事ばかり考えるようになってしまっていた。
酔った勢いで立花の寝顔のほっぺにキスをしてみた。 恥ずかしすぎて頭が真っ白になった。 その夜は眠れなかった。
他にも、沢山の思い出がある、この1年の間でできた、今までの人生の中でも、綺麗で、暖かな、ひとりぼっちではない思い出。>>483
それらを思い出して、カーマは自分の想いを思いっきり吐き出す。
「あ"あ"あ"ぁ"〜〜〜〜!!!もうっ!!何やってんですかあの時の私ぃっ!!?
酔った勢いとはいえ頭おかしいでしょう!?相手ははるか年下なのにっ!?
なんですかほっぺにキスって!? ウブな少女かよ!?
死.ねっ!死.んで償えっ!! いや、死.んじゃうと立花に会えなくなっちゃうから…」
「じゃなくてぇっ! …あぁ〜もうっ!なんなんですかぁ!?消えたい消えたい消えたい…」
マンションの一室にて一人、タブレットを放り投げ、羞恥に悶え苦しみながら床に転がり回る28歳独身女アルバイター。
自分の感情に整理がつかず、顔が耳まで真っ赤になっているので、枕を顔に押し当てて隠す。
しかしその必要はないと気づく。
いつもこうやって顔色を隠している相手は今は出かけているからだ。
「…そういえば、こうやって枕で顔を隠す癖も、彼に見られないようにしていたら自然についちゃったものでしたっけ。」
立花との出会いで自分の生活は大きく変わった。家事もそうだが、一番の変化は他でもない自分の心境の事だ。>>484
あの夜を思い出しつつ、自分のふっくらとした唇を、細く美しい中指でゆっくりとなぞる。
ただそれだけのことであの日、あの瞬間のことが鮮明に思い出せる。それ程にあの瞬間の出来事はカーマの心に刻み込まれていた。
すうすうと寝息を立てる立花。
だんだんと近づいていく均整の取れたきれいな顔。
自分の唇が柔らかい頰に触れる。いつも立花が寝ている時にぷにぷにしている愛らしいほっぺ。
ぷにっとした感触がした。私の手を温めてくれた体温が唇越しに伝わる。
今までで一番近い距離で見える立花の顔。 ただ近いだけなのに、いつもの数倍魅力的に見えた。
多幸感で胸が溢れそうになる。職を失ったあの日から、自分の胸に開いた穴が満たされたような気がした。
「…ふふ。」
思い出すだけで何故か自然と笑みが零れてしまう。
誰にも言わない、おしえない。私だけに独占を許された、美しい秘密。
しかし、そんな思い出に浸れる時間は長くはない。彼女には、目下重大な悩みが有ったのだから。>>485
「はっ!そうでしたっ。そんな事よりケーキですっ!ケーキバイキングっ!」
「よーするに男の相方さえ居ればいいんでしょう?ならちょうどお誂え向きの男が一人いるんですよ一人っ!…でも…」
カップル限定のバイキングに連れて行ったら、それもう告白みたいなもんじゃないの?
そんな悩みを、28歳アルバイターの美女だが、恋愛事に関してだけはウブな少女メンタルのカーマは抱えていた。
「だ、大丈夫です!これはただの付き添いで、愛の告白なんかじゃないですからっ!
それに、そこんとこちゃんと説明すれば、立花はちゃんと理解してくれる男だって知ってますし!」
「…それに。」
「あんな若い大学生が、こんな28歳のおばさんなんて、そういう目でみる訳ありませんし…ね。」>>486
思えば彼の周りには、自分なんかよりも年の近い女性が結構いるのを遠くから見た事がある。
陸上部エースのアタランテ
拗らせた美大生のお栄
ストーカーの清姫
第2ストーカーの静謐のハサン
高校時代の後輩のマシュ
ヒステリー気味の先輩オルガマリー
中学生のアビゲイル
マンションの上の階に住む女子大生 宮本武蔵
右隣の部屋の24歳の中国人OL秦良玉
左隣の部屋のブラック企業勤務のXX
下の階に住んでいるワルキューレ三姉妹
今年の夏に一緒に同人誌を描いたというジャンヌオルタ
夏合宿で夜空を見上げている時にいい雰囲気になったというエレシュキガル
誰も彼もが自分より若くて、素直で、ひねくれていない。
こんな惨めな女とは大違い。
それに、立花からすれば自分は彼女たちの内の一人でしかないのだろう。>>487
「…うう。」
考えれば考えるほど気分が沈んでいく。
そんな自分がカップル限定のイベントに誘ったりなんてしたら、引かれたりしないだろうか?
嫌われないだろうか?
すでに他の人と約束しているんじゃないだろうか?
やっぱり誘うなんて間違いだろうか?
こんな女に大学生の貴重なクリスマスを使わせるなんて勿体無いのではないだろうか?
でも、でも、でも…!
「あーもう!なぁ〜んで私が立花のことなんて心配しなくちゃいけないんですか!?
そもそも自分はただケーキバイキングが食べたいだけです!
立花を連れて行く事にそんな意味なんか微塵もないんですから!」
「それに私はあんなやつぜーんぜん好きなんかじゃありませんし!ただの同居人ですしぃ!?
たしかにちょーっとばかりイケメンで、可愛くて、マウントが取れて、素直で、優しくて、夜の方は知りませんけど、年下で、私のタイプどストレートなだけですし!たいしていい男じゃないですし!」>>488
「…はて、去年の今頃に同じ事を言ったような…?」
「…まあいいです。立花が帰って来たら、明日の予定をさりげなく聞いてみればいいだけの話なんですから。
あ、そろそろ立花が帰って来る頃合いですかね?えーと、今日の晩御飯はどうしましょうかね…
よし、今日の献立は、サバの味噌煮に卵焼き、厚揚げと小松菜の煮浸しに、かぶと豚肉の味噌汁です!食後にはいつものようにヨーグルトでいいですよね。
ふふ…立花のメシ顔が今から楽しみです…ふふふ…。」
料理が面倒臭かった筈なのに、いつの間にかすっかり料理が好きになってしまっていた。いつも考えている彼の事を考えて甘い妄想に浸りつつ、手際よく調理を進めていく。
そんなこんなで料理が丁度出来上がった時に、彼が帰って来た。
今ではこの言葉を言う度に胸が弾んで暖かくなってしまう。
彼が帰って来る玄関にエプロン姿で駆け寄りつつ、いつもの言葉を言う。>>492
涙が溢れ出た
悲しくてじゃない、嬉しくて、嬉しさが胸に溢れて、溢れ出て、抑え切れなくて、
嬉しさが涙になって溢れ出て来た。
嗚咽や鼻水は一切でなかった。ただ涙だけが溢れて来た。
「カ、カーマ!?」
立花がカーマに駆け寄ろうとする。
少しひねくれているけど、そんな所が魅力的な彼女を傷つけてしまっただろうか?
何か、泣かせてしまうような事を言ってしまっただろうかと。
そんな立花をカーマは手で静止する。
大丈夫。心配させてごめんなさい。ありがとう。
たくさん言いたいことも、伝えたい事もある、でもまずは彼の勇気を振り絞った質問に答えよう。
そして彼女は、彼に見せても恥ずかしくない顔にするために涙をぬぐって。>>494
ケーキバイキングに誘ってくれてありがとう、という意味なんかではない。
私を大切に想ってくれて、ありがとう。
カーマはもしかしたらこの瞬間、人生で初めて心の底からありがとうを言ったのかもしれない。
「…いいよ。だってカーマのためなんだからさ。」
カーマのためならこれぐらい、何度も誘える。だってそれぐらい彼女の存在に自分は支えられているのだから。
翌日、カーマと立花は共にクリスマスイヴを過ごした。
その日は、これまでの二人の人生の中で、最も幸せなクリスマスイヴだった。
二人はこの日の事を忘れる事はない。1年後も3年後も、結婚した後も、いつまでも。
そんな二人が恋心を自覚し、もっと距離が近くなり、本格的にイチャつきだし、バカップルとなり、想いが愛となり、挙式を上げるのは、まだまだ先の話。>>497素晴らしいと思う
いやーええっすわー>>497
お疲れ様でした。最高に面白かったです
しかし20人近い恋人候補とは……ギャルゲーも真っ青だなこりゃ
カーマの春はまだまだ遠い?>>497
最高!!ありがとう!!>>497
最高でしたわ
気が向いたら書いても良いのよ(チラッチラッ)>>497
面白いものをありがとう!めっっちゃ好き!>>497
いやー実に面白かったと思うのですよ。
また書いてもいいのよ?というか書いて下さいお願いします。>>463
「マスター遅いなぁ……」
どこかの街の打ち捨てられた工場でバニヤンはその大きな体を縮こめてうずくまっていた。バニヤンは数日前に突然この街に一人召喚され途方に暮れていたのだが、すぐに立香が「迷子になっても自分たちが必ず見つけるからそこから離れてはいけない」と言っていたことを思い出し、この近辺から離れずずっと彼らを待っていたのだ。
でも、もう何日も経っているのに誰も来ない。最初のころは怪物から逃げる人を助けたりもしたがそれも妙なお爺さんたちを最後になくなってしまった。お腹も空いたし何より寂しい。
(もしかして……)
彼女はふと、最悪の想像をする。自分は大きくて食いしん坊だから気づかない間に皆に迷惑をかけて嫌われたから、捨てられてしまったのだろうか?
「ううん、マスターはそんなことしない!きっとマスターの方も少し迷ってるだけだもん!」
頭をぶんぶん振ってバニヤンはその想像を打ち消した。そう、きっと来てくれる。カルデアの暖かい人たちの顔を思い浮かべてその信頼を固くする。こんなスレあったんだな
自分もなんか短いの書こうアストルフォ「ねえねえ!マスター!マスター!!」
ジーク「どうしたんだ、ライダー?そんなに走って」
ジャンヌ「もう、ライダー、朝から騒がしいですよ。もう少し静かにしたらどうですか」
アストルフォ「いいじゃないか。いつでも元気なのは、ボクの取り柄の一つさ!」
アストルフォ「それよりマスター?ちょっとボクの名前、言ってみて?」
ジーク「突然、どうした?」
アストルフォ「いいから言ってみてよぉ~!」>>510
ジーク「それで、いったいどうしたんだ?突然、真名で呼んでほしいとは」
アストルフォ「特に理由なんてないさ!ただ呼んでほしいなと思ったから、呼んでもらっただけ!」
ジーク「そ、そうか・・・だが、今は聖杯大戦中なのだから、真名呼びは控えるべきだと思うが」
アストルフォ「わかってるって!それにしても・・・えへへ、久しぶりに、しかもマスターに呼んでもらうと、なんだか照れくさいね!」
ジーク「そういうものか?」
アストルフォ「そういうものだよ!そうだ!ならマスターも久しぶりに名前で呼んでみてもいい?」
ジーク「ああ、かまわない」
アストルフォ「やったー!なら、今日も一日頑張ろうね!ジーク!!」
ジーク「ああ、よろしく頼む、ライ・・・アストルフォ」>>512
ジーク「知っての通り、オレの名前はあの大英雄、ジークフリートからもらって自分で付けた名だ。
彼から受けた恩・誇り・・・そして、彼のことを絶対に忘れないために・・・心に刻むためにつけた名前だ。」
ジャンヌ「・・・」
ジーク「だからだろう、オレが名前を呼ばれるとき、恥ずかしさを始めとして、あらゆる感情よりも先に、
彼のことを思い出せる喜びと、誇り高さを感じることができる。」
ジーク「もしオレが名前を呼ばれて恥ずかしさを感じることがあるとすれば、それはオレが、
ジークフリートの名前に泥を塗り、恥じる行いをしている時だろう。」
ジーク「・・・そんなことは、どんなに未熟なオレでも、絶対にしないと、この名と、この心臓にかけて誓うがな」
アストルフォ「ジーク・・・」
ジャンヌ「・・・」ジャンヌ「・・・大丈夫ですよ、ジーク君。あなたは立派に、ジークフリートの名に恥じない生き方をしています。」
ジーク「ありがとう、ルーラー」
アストルフォ「へへ、そうだね!でも、もう少し無茶は控えてほしいけどね!」
ジャンヌ「ふふ、本当に」
ジーク「す、すまない・・・それに関しては、努力する・・・」
ジャンヌ「はい、努力してください。ふふふ」
アストルフォ「あははは!!」>>520
ジャンヌ(((い、いきなりなにを言いだすんですか、レティシア!!?)))
レティシア(((聖女様は昔、故郷、ドンレミ村では両親や兄弟など、親しい人たちには『ジャネット』という愛称で呼ばれていたのでしょう?ですから・・・)))
ジャンヌ(((そ、それはそうですが、しかし・・・!!)))
ジーク「む・・・そういえば・・・」
アストルフォ「どうしたの?マスター」
ジーク「そういえばルーラー、あなたは故郷ドンレミ村では別の名前で呼ばれていたという話があった気がするな・・・」
ジャンヌ「!!!!???!!????」アストルフォ「え?ルーラーっていくつも名前があるの?」
ジーク「いや、そうじゃない。愛称のことだ。確か・・・」
ジャンヌ(え、ええ・・・!?)
ジーク「ジャネット」>>524
終わりです。見てくれた人はありがとう。この三人の絡みがもっと見たいシリアスな虞美人見たかったので幕間前日譚っぽい物をシリアスで書いてみました。虞美人一人称視点のモノローグになります。
忘れられない光景がある。
それはとある異聞帯の話。
ただ私の行く末を案じカルデア達に立ち塞がる項羽様。
止める間もなく始まる戦。
愛しい人に降りかかるは武器の嵐。
モードレッドの剣が腕を切った。
赤兎馬の弓が足を貫いた。
哪吒の槍が胸の臓腑を抉った。
そして愛しい人はよろめき倒れ生き絶えた。
いっそ、それが憎悪によるものならば、嫌悪でもって相対すだろう。だが彼らはそうではない。彼らは自分の愛する世界を守り取り戻したいだけだった。
その世界は私を迫害し、何度も殺そうとした悍ましい世界だ。とはいえ、その世界がなければ愛しい人ともたった1人の人間の友とも出会えなかったのも事実だ。
思考は同じところをぐるぐる回る。
憎むのか、許すのか。
許せるものか、愛するものを殺した輩を。
憎めるものか、ただ一心に生きる彼らを。
心の模様はクルクルと同じところを回っていた。
彼女が妥協という言葉を知るのはもう少し先のこと。短いですが以上になります。
見てくださった方、ありがとうございました>>480
個人的には示唆レベルならセーフと思っている。ピロトークは情事や性の描写がなければ大丈夫だと思う。超短いです、が!雑談スレでムラムラさせられたので此方に吐き出させていただきます!
「春陽」セラ「まぁ………。」
ソファーに仲良く、並んで寝ている二人に眉間を揉む。窓から差し込む陽射しが床を暖め心地好く微睡んでいるのだろうことは緩む表情を見れば一目瞭然。春陽と言うのだったか、春の時節を表すそれは確かにぽかぽかと包み込んで眠りに誘う。だが、だがしかしである。これでは服がめくれ上がりお腹があまりにも無防備!タオルケットを掛けなければお嬢様が風邪を引いてしまうかもしれない。早速二人に掛かる大きさのものを持ってきて、お嬢様と士郎の服を直し、直し………。
春先だからだろうか薄い布地からちらつく腹筋は歳の割によく引き締まっている。手も私よりも大きく、ゴツゴツとしていて新鮮だ。………なんて馬鹿なことをしていないでタオルケットを掛けてしまおう。手を放して、離れない。
「セラ………?」
私よりも大きな手に軽く握り返される。手のひらのタコが私の肌に弱い刺激を与える。何処か蕩けている彼の瞳をそらせなくて見つめ返し、
「………タオルケット、をありが、とう」
状況を理解したのだろう、赤く染まった顔が気まずげにそらされた。>>534
セラ「………むぅ。」
鍋のことこと煮立つ音、手際よく包丁を動かす音が耳障り良く耳朶に届く。それがとても心地好く、いや今腹の虫を諫めてなるものか!気合いを入れ直すと同時に洗い終わった白菜を千切りボウルに寄せる。流し見た隣の分らず屋様は切り終えた牛蒡、手羽元を煮立つ鍋に投入して次に掛かる。何故こんなことになったのか。
ああそうです。料理は私に任せてほしい。役目を取るな。私の方が上手い、そこからの売り言葉に買い言葉を見かねた(いやテレビを観ながらだったような)リズの「ならば一緒に作ればいい。」に好機とみたお嬢様に乗せられこの現状。なんの解決にもなっていないのは手際よくなっていた士郎に大部分を取られていてから気付く有り様。………こんなにも、料理上手になっていたのですね。いけない、とてもいけない!何を惚けているのか、まだまだ1日の長は私にあり!電子レンジも丁度良く音を鳴らし豆腐を取り出す。水切り終えたそれを切り分け鍋にそろりと落とす。胡麻の匂いが漂うそれは食欲をそそる自慢の一品である。
「まあ!とても美味しそうね!」「うひゃあ!?」
突然肩を掴まれ耳元で奥様の声が響く。思わず腕を伸ばし豆腐を追ってスープの中へ飛び込んだ。
「あつっ」「セラ!!」
隣に並んでいた士郎は素早く手を掴み流水をだし冷やしてくれた。なんと情けない。料理に意地になり奥様を迎えられないとは。申し訳なさそうに謝る奥様と落ち着かせようとするお嬢様、保冷剤とタオルを持ってきたリズと助けてくれた士郎に御礼をいい奥様へ忠言と(ついでに切嗣さんにも)迎えられなかったことへの謝罪を。
そうして食卓の団欒に流れ、会話の中。ふと、さっきすぐに手を掴んでくれたことに頬を緩くしても今ならばれないでしょう。すみません。今から投下始めます。
>>539
母の日にプレゼントを渡され、泣き崩れてしまった。
立香の頭を撫でて、膝枕をした数だけ立香にも頭を撫でられ、膝枕をされるようになった。
立香より3cm身長の高い自分が、膝枕されながらいつもより低い位置から見上げる立香の顔は思い出すだけで胸が甘くときめいてしまう。
立香の膝上に座らされて、後ろから抱きしめられた時は、愛される喜びというものを真に知ってしまった。
この瞬間から母でありながら立香を心の底から求めるようになってしまった。
立香に見つめられる度に顔が赤くなってしまうようになった。
立香に抱きしめられて、頭を撫でられながら眠ると心の底から安心できるようになった。
立香の胸に顔を埋めながら頭と背中を撫でられると猫のように甘えてしまう。
立香の逞しくなった背中に回した両腕が、彼の早まった心音と熱くなった体温を感じとると、たまらなく嬉しくなる。>>540
シャワールームで一緒に抱き合いながら、身体を洗いっこするようになっていた。
私の長い髪を洗う為に、立香の指が私の髪を梳く度に背中がゾクゾクとしてしまう。
それから二人が肌を熱く重ね合わせるのに時間はかからなかった。
立香は頼光の膝枕に埋もれつつ、これまでの記憶を辿ろうとするがうまく記憶がまとまらない。
頼光に何度膝枕されたかも覚えてないが、彼女の身体の柔らかさ、暖かさ、匂い、振動。
これまでの人生の中で、最も愛しい人である彼女の存在をこれ以上ない程堪能できる枕を堪能していては、まともに思考などできるはずもない。
「…ありがとう頼光。じゃあ今度は頼光が休んでいいよ。」
「あら…うふふ、では失礼しますね?」
名残惜しくも頼光の膝枕から起き上がった立香は、ベッドに腰掛けながら自分の脚をぽんぽんと叩く。
それを見た頼光は、まるでご褒美を貰った猫のように喜びつつ、上品に立香の膝に頭を乗せる。>>541
「…うん。今日も可愛いよ、頼光。こうされるのが大好きでしょ?」
立香に頭を撫でられ、顔を至近距離まで近ずけられ、もう片方の手で犬にするようにお腹をワシャワシャと撫でられる。
ただそれだけで頼光はふにゃふにゃになってしまう。
立香の膝枕を堪能する為に頭を左右に動かし、身体をしきりにくねらせて立香に沢山触れてもらう。
そしてほんの少し顔を上げればキス出来るほどに近づいた愛おしい人の顔。
まるで固定されたように、彼の顔から目が離せない。
この顔をどれほど触ってきただろうか。どれほど見てきただろうか。
表情など笑った顔は全て愛しくて、悲しい顔を想像しただけで胸が潰れてしまいそう。
私を嫌らずに、隣に立って、手を握って、受け入れて、愛してくれた人。
私が可愛がる筈だったのに、私が可愛がられるようになった人。
…母と子の関係だった筈なのに、今では男と女の関係となった人の顔。>>542
自分の事を今でも母と呼ぶのはあの頃の名残だろうか。それだけではなく自分が母という主導権を握れる立場であることをキープしたかった、というのもあるかもしれない。
しかしそんな考えは全く意味をなしていない。
何故なら今の状態を見れば分かる通り、頼光が立香に甘え、可愛がられるという立場が完全に確立されてしまっているからだ。
もちろん立香が甘えてくる事だって今でも沢山ある。
立香が頼光に抱きついてお腹に頬ずりしながら頭を撫でられるのは日常茶飯事だし、ご飯を食べさせてあげるのはいつもの事。
頼光から誘わなくても、膝枕や膝上に座らせて貰うのを立香がねだるのはしょっちゅうだ。
しかし、夜になると頼光は立香にひたすら可愛がられる事しか出来なくなってしまう。
そうなったのは、二人が肌を重ね合わせるようになってからだ。
ベッドの上で頼光は立香に可愛がられる事しか出来ず、一切の反撃を許されなかった。
立香の攻めに頼光は猫のように甘え、鳴かされるだけの存在とされてしまう。
そんな生活が続く内に頼光はすっかり躾けられてしまい、夜では主導権を完全に立香に握られている。>>543
そんな生活に頼光は一切の不満は無く、立香もまた満足していた。
「あっ…んんっ…ふふ、もっと触ってくれますか?立香。」
立香が頼光の頰に触れ、首筋を撫でるように動かしていく。
このやりとりを数え切れない程繰り返してきた頼光は、立香の指がくすぐったくて、それがまた愛しくて、声が自然と漏れてしまう。
瞳は潤み、声は熱っぽくなってしまう。自分の手は立香の頰に慈しむように触れていた。
「うん、頼光が望むなら、…いつまでも、ずっと、こうしているよ。」
頼光の声を受けて、立香は彼女の頭を愛おしそうに、ゆっくりと撫でながら、もう片方の手で全身を撫でていく。
頼光がどこを撫でられると喜ぶのか、どこを撫でられたいのか、立香は少し見るだけで分かるようになっていた。>>544
立香が頼光を思いながら撫でる度に膝の上で愛おしい人が身体をくねらせる。
頼光の顔はすっかり蕩けてしまい、猫のように立香に頬ずりを繰り返している。
戦いの場では常に凛々しい彼女がこんな顔をするのは自分の前でだけ、そう考える度に笑みが溢れてしまう。
全身全霊をかけて、彼女を幸せにしたい。愛したい。彼女を感じたい。幸福になってほしい。愛されてほしい。自分を感じてほしい。
彼女が自分の元で癒されるのならば、全力で癒したい。
立香が頼光を撫でている間、彼はまるで恋人を見ると同時に、娘や妹を見るような優しい顔をしていた。
立香が頼光を満足するまで撫で終わった時、頼光は法悦の涙を流し、完全に蕩けきっていた。
その後二人は一緒に身体を洗い、電気を消して、心ゆくまで互いの肌を重ね合わせる。
頼光はひたすら立香を求め続け、立香は頼光を徹底的に攻め続けた。二人は互いをいつまでも貪り合う。
二人が満足する頃には、時計の針は深夜2時を指していた。>>545
二人はベッドの上で横になりながら、互いを見つめ合う。
「…ねえ、立香?」
「…ん、何?」
「今更ですけど…あなたは何故、私が、恐ろしいと感じなかったのですか?あなたは、どこにでもいる普通の人だったのでしょう?恐ろしく感じて、当然なのではないですか?サーヴァントならともかく…人間でない存在など。
…何故、私を丑御前ごと受け入れられたのですか?」
立香が頼光を恐れていなかった事などとうに知っている。しかし、恐れないことと受け入れる事は別だ。頼光は立香にもう自分が純粋な人ではない事の引け目など感じていない。
ただ、ふと純粋に疑問に思った。
どんな答えが帰ってきても、今の関係が変わる事はないと知っている。だって、二人はそんな試練などとうに幾度も潜り抜けてきたのだから。
「…なんだ、そんなこと。」>>546
目の前の愛しい人へ手を伸ばす。左手が頼光の右頬に優しく触れる。
そこからは、立香の頼光への想いが、確かに感じられた。
「…単純な事だよ。俺は、どんな存在でも、どんな生まれで、どんな性格でも、人の形をして、心を持って、言葉が通じて、意思疎通ができて、
…楽しいのに泣いてしまって、悲しくても笑えるのなら、その人を決して蔑ろにしたくはない。
…絶対に。」
頼光の瞳を真っ直ぐに見据え、心からの言葉を紡ぐ。
これまでの道のりは、あまりに厳しく辛いものだった。でも、決してそれだけではなかった。
厳しく、辛く、多くの出会いがあり、笑顔があり、…別れが、あった。
その中で、自分で学び取り、誰かから教えられ、与えられ、受け継いだものがある。
これは、その内のほんの一つ。
藤丸立香という人間が、元から持っていたものの一つ。
誰であろうと、決して蔑ろにしたくはない。だって、そこからどんな素敵な出会いになるかなど、誰にも分からないのだから。>>547
そして、そのおかげで、こんなにも愛おしい人が出来た。
この人ともっと一緒にいたい。同じ時を共有したい。未来へと、共に歩んで行きたい。
…例え、どんな試練がこの先に待ち受けていようとも。
頼光が嬉しくて泣いてしまった場面はこれまでに何度も見てきたが、悲しくても笑っている場面は未だに見た事がない。
だけど、これからの時間で、同じ時を過ごしていく内にそんな事があるかもしれない。
ああ、もしそれが叶うならば、それはなんて…。
「…素敵ですね。」
目の前の愛しい人に手を伸ばす。右手が立香の左頰に優しく触れる。
そこからは、頼光の立香への想いが、全て詰まっていた。
二人は互いに顔を寄せ合い、額を押し当てる。
視線は交差し、優しい笑顔を浮かべていた。>>550
立香の他にもマスター候補の人間は沢山いたのは知っている。立香が自分にもっと力があれば、と悩んでいたのも知っている。
だが、それでも自分のマスターは立香で良かった、立香が良い、立香でなければ嫌だ。
もしかしたら他にも自分を受け入れてくれたマスターはいたかもしれない。それでも、
(…だって貴方は、私を受け入れてくれて、それで、
私の背中を押すのでも、応援するのでも、悩みを克服するよう期待するのでもなく、
私の手を取って、共に歩んで、愛してくれたのですから。
…そんなお人好しは、あなたぐらいでしょう?)
(おやすみなさい。愛しい人)
想いを胸に秘めつつ、頼光は眠りに落ちる。
二人の関係は続いていくだろう。明日も、明後日も、明々後日も、
…人理を取り戻した後も、きっと、ずっと。>>552
ありがとう、本当にありがとう!!
優しいぐだ頼光をありがとう。
私が望んでいたものを形にしてくれてありがとう。
ああ、幸せな気持ちになる。嬉しい。
頼光さんの立香さん呼び、いいよね。ぼんやり自分の過去のツイートを読み返していたら、なんだかいい感じのツイートがあったので
ちょっと広げて短編にしてみました。投下失礼します〜>>554
──眠れない。不眠に悩むのはカルデアに来てからもうずいぶんと慣れたつもりだったけれど、こう何日も続くとさすがに疲れてしまう。
こういうときは、散歩でもして少し体力を使うのが一番だろう。ついでに医務室とか食堂に寄れば、何かいい薬を分けてもらえたり、ホットミルクなんかを淹れてもらえたりするかもしれない。
そうと決まれば善は急げだ。わたしは部屋のロックを解除すると、ふらりと廊下へ抜け出した。
カルデアの廊下は広い。施設を一周するだけで疲れ果ててしまうぐらいには広く、一つ一つの部屋自体もそれなりの大きさがある。わたしの寝泊まりしている個室なんかはそうはいかないが、レクリエーションルームや喫茶室なんかはかなり広い。
そして、当然ながら、食堂は特に最大級の規模だ。前に見せてもらった本来の人員配置数からすれば妥当な広さなんだろうけれど、とんでもない広さなのだ。何しろ、100人強に及ぶサーヴァント全員がいっぺんに入ってもまだなお席が余るぐらいの広さなんだから。
というわけで、目的地である食堂に到着した。キッチンの灯りが点いているので、多分誰かがいるんだろう。
「おじゃましまーす」
と、軽い気持ちで扉を開くと、ブワッと広がったのは甘い花の香り。そして白い人影。訊ねるまでもなく誰がいるのか判る。
「あ、マーリン」
「やあ、御機嫌よう。マイロード」
花の魔術師、マーリンである。
彼はわたしがカルデアに来て初めて召喚したサーヴァントで、最初の頃はなんだか頼りなかったけれど、今ではとびきり頼りになる相棒だ。
でも、食堂に用があるとは知らなかったな。>>555
「マーリンもご飯食べることあるの?」
「いや、ああ、食事そのものは摂るけど、人間のように物質的なものを口にしたりはあまりしないよ。此処にいたのは別の用事があったからさ」
「別の用事?」
「そう。ホラ、最近眠れていないんだろう?」
そう言って差し出されたのは、期待通りのホットミルク。喜んで飲もうとしたら、一度制止される。
「ああ待って。まだ完成していないんだ」
マーリンは余裕そうな微笑みを湛えたまま、戸棚から小瓶を一つ取り出した。小瓶の中でカラフルに輝いているのは、……こんぺいとうだ。
「わ!きれい。こんなの、食堂に置いてあったんだね」
「ロマン君の隠し財産さ」
「えー、ドクターったらこんなもの隠し持ってたの」
彼は和菓子が好きだからね。マーリンはそう呟きながら、ティースプーンをこんぺいとうの瓶に差し入れ、そして、中身をひと掬い。
キラキラ輝く星たちが、乳白色の海にとろけていく。>>556
「少し足らないかな」
そう言ってはもう半掬い。今度はスプーンごとミルクの中に沈んでいく。
「さ、よくかき混ぜてから飲むんだよ。意外と溶けないからね、ソレ」
「試したことあるんだ」
「まさか。ロマン君が溶けないと苦戦していたのを見ていたからさ」
「じゃあドクターがやってたんだね」
「うん、結構最近ね」
「じゃあ一緒なんだ、ふふ」
彼の言う通り、こんぺいとうはなかなかミルクに溶けてくれない。何度かき回しても、カチカチと星同士がぶつかる音がして、何度スプーンで底を攫っても、なかなか星は原型を失ってくれない。
「……、……。」
けれど、スプーンで何かをかき混ぜるのは楽しい。小さい頃に作ったグミのようなお菓子のことを思い出す。くるくる、カチカチ。時折水面に浮かべては、芯まで色づいた砂糖菓子であることに驚いたり、あるいは、
「ふんふんふんふん、ふんふんふ〜……」>>557
そのキラキラとした彩りに、懐かしい空を思い出したりしながら。
「きらきら星かい?確かアマデウス君が弾いていたね」
「うん、あんまりよく覚えてないけど、好きな曲なの」
まあアマデウスの前で歌うと音程にダメ出しされるから内緒なんだけどね。なんてふざけたことを言ったりしているうちに、だんだんと小さな砂糖は形をなくしていった。
「あ、溶けちゃったみたい」
「じゃあ、そろそろ飲んでしまうといい。夜も更けてきた。夢を見るにも遅い時間になる前にね」
──はあい、と生返事しながらミルクを口に含む。おいしい。いつもはエミヤとか紅ちゃんに作ってもらうものだけれど、マーリンに作ってもらったのはなんだか一味違う気がした。
不思議と熱すぎることもないホットミルクをそっと飲み干す。そのままマグをシンクに置くと、なんだかぽかぽかとして眠たい心地になってきた。
「不思議だね、なんだかすごく、眠く……」
「うん、すぐに眠るといい。大丈夫、私がちゃんと部屋まで送り届けてあげよう」>>558
甘い花の香り。安心するその芳香に包まれて、私はそっと意識を手放した。
「おやすみ、マイロード」
……その日、いつもよりずっとよく眠れたことは、言うまでもない。
終マーリンとぐだ子の話でした。
行数制限がきついので次から行間の開け方を気を付けよう……
ではお目汚し失礼しました〜6章ビフォーのあったかもしれない話です。よかったらどうぞ
「為すべきこと」
第六特異点 キャメロット A.D.1273にて
人理保証機関カルデア、介入前の出来事
「───野営地を作る」
陣幕の中、数多の部下に囲まれながら、彼はそう発言した。
彼は有り体に言えば人間ではない。この地に生きる生命でもない。
英霊。存在を「座」という高次元に刻まれし者。境界記録帯。サーヴァント。
如何なる奇縁からか神霊として…獅子王として顕現せしアーサー王にこの終末の大地にて
召喚された存在である。
剣士の霊基にて現界したサーヴァント。その名をランスロット。アーサー王伝説に名高き円卓の騎士。その中でも一際の輝きを放つかの湖の騎士にして、王妃ギネヴィアとの恋路にて大逆の罪過背負いし裏切りの騎士。厳密にはその影法師、である。
「野営地とは言えその語り口、単なる野営地ではないでしょう。どのような?」
続いて部下が言葉を掛ける。
「目的を簡潔に言えば、民衆の保護。獅子王の聖伐からあぶれた者、聖都から離反した者、砂漠の民…すべての民を。できるだけだ」
「……………!」
「それは…」
場がざわめく。当然だろう。選ばれたもののみを庇護する獅子王への敵対ともとれる発言であるからだ。この地においては三つの勢力が均衡していた。
まずは太陽王の陣営。古代エジプトにおいて稀代のファラオ。神王を謳うオジマンディアスを君主とする体制。かの王はこの地に召喚された後聖杯を獲得し、大複合神殿を中枢に据え、自身の領土として魔獣神獣の神秘蠢くエジプト領を拡大、整備している。
次いで獅子王の陣営。円卓の騎士が所属する陣営である。獅子王を君主とし、サーヴァントとして召喚された円卓の騎士達十一人…いや、あの血塗れの決別を経て今は五人が残るばかりか。認めた民のみを収容する、騎士たちが形成する体制。
最後に山の民。かろうじて生き残った現地の民。中東の伝説の暗殺教団「山の翁」達がサーヴァントとして召喚され、戦闘や民の庇護の任を果たしている。数度激突した上での見解では武力、資源の双方において他の二陣営には及ばない。いずれ朽ち果てる立ち位置だが、しかし死を間際にしたものの足掻きは決して侮れず、油断はできない。
現状、太陽王陣営と獅子王陣営は不戦の契りを締結する予定だが、いずれ激突は避けられないだろう。太陽王は賢明だ。いずれこちらの思惑を見通し、自身の民が聖槍により…「最果て化」により消滅さられるのを見過ごしはすまい。
以上が勢力の概要であり、第六特異点を巡る様相である。ざわめきが落ち着いた後、一人が重い口調で口にした。
「…遊撃騎士の任を賜った我らならば、相応しい人間を聖都へ導く任務を掻い潜り、民衆の保護をこなすことは可能でしょう。しかしランスロット卿、その選択がどのような道かおわかりですか」
「無論だ」
部下の返答にそう断言した。
「反逆の疑いを被ることは避けられず、故に他の円卓の騎士から隠し通し、全てをこなさねばならない。また本来の任務に支障を来しては薄々感づかれよう」
「それでも獅子王に気づかれるかは賭け、まったくもって修羅の道だ」
「それでも…私はせねばならないと判断した。いずれ彼らが燃え尽きるとしても。それがまったく無駄に終わるとしても」
「諸君らが密告するならば糾弾はしない。しかし、アロンダイトの一撃をもって返礼とせざるを得ないことを詫びよう」
沈黙。数名はこの場で斬り伏せねばならぬかと覚悟していたが…待っていたのは予想外な返答だった。
「…末世での激務故止むなしか、ランスロット卿も疲れておいでだ」
「その通り、少しお休みください。己を追い詰め過ぎです」
「卿の尽力は一同全員、よく知っていますとも」
「ここまで来て私達が卿から離れるなど、ありえません」
「貴方の御心は騎士王に捧げられている、ならば我らも同じく。そしてこの身は
ランスロット卿の下に。先の質問も確固とした己の意志か問うたまでです」
彼らの言葉に面食らい、そして張りつめた胸に安堵が去来する。
「諸君───では二時間の間休息とする。その後に野営地の選定を主題とした軍議を開く。充分に英気を養え、これより我らに安息は無いぞ!」
「「「はっ!!」」」会合を終え、一人陣幕の中彼は思索に耽る。
善き部下を持てた、私には勿体無いほどに。頼もしき部下達に内心で感謝を述べ、そして白亜の城の方角を見据える。外見こそかつてのキャメロットと同じだが、今やおぞましき聖都に。理想の国とは笑わせる。目指すところは善き人間を保存するための…そう、地獄なのだから。営みなき安寧に何があるのか。だが魔術王による人類史の終焉を前にした今、最善はこの道しかない。
そう、己に言い聞かせる。故にこそ同胞を殺めてでも今、此処にいる。
騎士ならざる獣が何だという。かつて、あの悲しき女の手を取り、友と同胞に剣を向けたその時から──私は騎士ではなく、許されざる獣なのだから。
この地に召喚されてからの経緯を思い返す。我が剣を今一度同胞の血に染め、暴虐の十字軍を薙ぎ払い、ガレスの犠牲を経て獅子心王を騙る謎のサーヴァントを打ち斃し……あの瞬間は今も鮮明に脳裏によぎる。残骸のエルサレムを踏み砕き、聖都が顕現した時以上に私の心に焼きついてしまった光景。
愛した家族であるガレスごと敵を葬ったガウェイン卿の覚悟の程。獅子王より賜った祝福と毒の下、彼は燃え尽きるまで獅子王の剣として在るだろう。だが………いや、感傷はいい。
生前、彼女を惨たらしく殺めた私に語る資格など無い。
せめて不甲斐ない己に寄せてくれた信頼に応えるしかなく、私は為すべきことを為すまで。
そう、私は私の信じる最善を為し続ける。───未だ最善は獅子王の下にある。獅子王は決断した。太陽王は砂漠の深奥にて沈黙。山の民もこのままでは朽ち果てるのみ。
袋小路の思考の中、星読みの予見した詩を思い返す。
「異邦の星輝く時、白亜の結託はひび割れ、王の威光は陰り、神託の塔は崩れ落ちる──」
獅子王の破滅を示すかのような詩から連想し、円卓の騎士の中、召喚されなかった二人に思いを馳せる。王の世話役、ベディヴィエール。彼は何故召喚されなかったのか。親子ながら生前では不理解のまま永訣したギャラハッド。聖杯に選ばれし彼ならば今、この地にてどのような決断を下すのか。
…いいや。例え彼らが欠けた穴を埋めるピースだとしても。
仮に全てを覆すに足る、奇跡にも等しい一手が訪れたとしても……。
私は為すべきを為すまで。
「時間です、ランスロット卿」
声と共に目を開く、どうやら予想以上に考え込んでいたらしい。
「時間か」
「では、始めよう」
騎士の高潔は最早この地に無く。
ならばこそ、抗わねばならない。
それがどれほど儚く脆いものだとしても───
人理保証機関カルデア、第六特異点到達まで■■■■時間
彷徨の騎士、第六特異点到達まで■■■■時間短編完結です。感想、解釈違い、よかったらどうぞ
ランスロット視点です。自己を否定し、獣である事を望みながら、その実どうしようもなく騎士である男、それが着想のテーマとなりました
ところでドイツ語だとギフトって「毒」らしいですよ奥さん――あぁ、天使の輪だ。
「あれは月にかかった虹だよ」
兄がわたしに微笑みかけます。それは兄弟そろって荷馬車で夜の道を通った日のことでした。わたしの眼には月を中心に構成されたおぼろげな白く輝く光帯が映っていました。
「確かにガレスの言うように、天使の輪と言う人もいるけどね」
「下らない。あれも自然が織りなすただの現象。そこに夢想を見出すなぞ、無知蒙昧を晒すようなものだ」
荷台の方から、弟の声がします。太陽のように煌めく髪をもった兄と対照的に弟は漆黒の夜を思わせる髪を持っていました。性格もそれに合わせたかのように陽気な兄と幼いのに冷徹ささえ感じる弟はまるで鏡合わせのようです。
「確かにアグラヴェインも言うことも最もだ。だけど人というのは夢を見ないと前には進まないと俺は思う」
「夢なんぞに現を抜かして、破滅をした人間をごまんと見たが?」
「多くの人間はそうかもしれない。だけど、今は届かなくてもいつかはその手で星を掴めるように努力をする。そういう人が何人も身を捧げることで世の中はよくなる。そうも思えないか」
「思わない」
若干食い気味に弟が返します。
「人の世は城を立てるように残酷なまでに現実的な目線は統治されなければならない。星に手を伸ばすような夢想主義者にはなんにもつかめんさ」
兄は少し苦笑いして髪を掻きました。あれは、確か遠い日の記憶。今、月にかかる虹を見るのは、あれから三度目。あれはまだわたしがブリテンの厨に立っていた頃でした。そのときのわたしの名前はボーメン。美しい手。髪を切り、身分を隠して、キャメロットに来たわたしにケイ卿が授けた、名前。
身分も分からぬわたしを騎士には取り立てられぬとケイ卿は私にブリテンの台所番を一年任じたのです。その場で正体を告げることもできたが、既に円卓に席のある兄や弟の縁ゆえと見られかねなかったのです。なにより、わたしが私が騎士になるのにいい顔をするとは思えなかったのです。
女性というだけで、わたしをオークニーに置いて来たのですから。わたしより年下の弟は連れて行ったのに。
そういうわけで、わたしは今も厨で火の番をしていました。火というのは生まれたての小鳥のようで、世話をしないと消えてしまいます。かといって乱暴に扱えば、猪のように暴れ出すのです。どちらにしてもまず火の上で茹っているスープはダメになってしまいます。
それゆえに地味で面倒な仕事ということで新入りのわたしが火の番を夜を徹して行っているのです。
「・・・冷えるなぁ」
一年の料理番、というのは覚悟していたが思っていたよりも辛いものがありました。夏はまだよかったのです。秋に入り、そして冬になると辛さはいっそう増しました。水仕事で手は強張り、荒れてしまいました。厨で過ごす夜は寝たくても寝れないぐらいに冷え込んだのです。唯一の暖は目の前の火だが、それも体を暖めるには心もとないものでした。当然下働きの給料では体を暖めるマントも帰るはずもありません。
「わたし、こんなので騎士になれるのかな。体だって小さいし」
答える人なんていませんでした。目の前の火は肯定も否定もなく、ただチロチロと左右に揺れるだけでした。
「なれるさ」
「ひゃわぁ!!」
突然、かけられた声にわたしは飛び上がりました。
「おっと、驚かせてしまったかな?
それにしても乙女のような声を出すのだね」
わたしが振り向くと、そこには外套に包まれた巨躯が立っていました。その手には兎をぶら下げていたのです。
「わわわ、ここここはアーサー王陛下が治める城であってて、あなたのような無法者が」
「はは、少し慌てすぎだ、ガレス」
そう言って、雪のうっすらと積もったフードを取ると、そこには目に焼き付いた姿が映りました。「あわわ、ら、ランスロット様!」
「様はいらないよ。君だっていづれ騎士になる身だ。ランスロット卿でかまわないさ。ところで台所、少し借りていいかな。早く起きすぎて、お腹が減ってしまっていてね」
「は、はい。ランスロット卿――い、いえ、まだわたしは騎士になれぬ至らぬ身!ランスロット様始め、騎士の方には敬意を払うと決めているのです」
姿勢を直す私を尻目に、ランスロット様は外套を脱ぎ、兎を慣れた手つきで捌き始めました。外套の下のチェニックが少し乱れていました。・・・兎を狩るのにそんなに動きまわったのでしょうか。
「真面目だな。少し融通の利かない所はガウェイン卿に似ているかもしれない」
「えっ」
それを聞いて、わたしは胸が高鳴りました。兄たちとわたしの関係は誰にも知られていないはずだからです。
「まあ、あの太陽の如き巨体の英雄と比べられたら、君は一層恐縮してしまうかな」
と言って、ランスロット様は微笑みました。どうやら冗談だったらしいです。
「じょ、冗談でも、従士でもない少年を捕まえてブリテンの英雄と比べるのは少し人が悪いのでは」
「ははは、申し訳ないな。だが、君が騎士になれると思っているのは本気さ」
「え?」
「それは君が初めてアーサー王の御前に来た時からずっとそうだ」
わたしはアーサー王の前に立ったあの日を思い出しました。身分も知れないわたしを疑いの眼差しが刺す中、ランスロット卿だけがわたしを擁護してくれていたのです。
「そ、そんな、あれはてっきり」
「私がいいかっこしたいからだと」
「いえ、滅相もない!」
「ふ、君の立ち振る舞いを見ればわかる。個々の所作が洗練されている。きっと名のある家の出だろう」
「身分の告げないのに」「あわわ、ら、ランスロット様!」
「様はいらないよ。君だっていづれ騎士になる身だ。ランスロット卿でかまわないさ。ところで台所、少し借りていいかな。早く起きすぎて、お腹が減ってしまっていてね」
「は、はい。ランスロット卿――い、いえ、まだわたしは騎士になれぬ至らぬ身!ランスロット様始め、騎士の方には敬意を払うと決めているのです」
姿勢を直す私を尻目に、ランスロット様は外套を脱ぎ、兎を慣れた手つきで捌き始めました。外套の下のチェニックが少し乱れていました。・・・兎を狩るのにそんなに動きまわったのでしょうか。
「真面目だな。少し融通の利かない所はガウェイン卿に似ているかもしれない」
「えっ」
それを聞いて、わたしは胸が高鳴りました。兄たちとわたしの関係は誰にも知られていないはずだからです。
「まあ、あの太陽の如き巨体の英雄と比べられたら、君は一層恐縮してしまうかな」
と言って、ランスロット様は微笑みました。どうやら冗談だったらしいです。
「じょ、冗談でも、従士でもない少年を捕まえてブリテンの英雄と比べるのは少し人が悪いのでは」
「ははは、申し訳ないな。だが、君が騎士になれると思っているのは本気さ」
「え?」
「それは君が初めてアーサー王の御前に来た時からずっとそうだ」
わたしはアーサー王の前に立ったあの日を思い出しました。身分も知れないわたしを疑いの眼差しが刺す中、ランスロット卿だけがわたしを擁護してくれていたのです。
「そ、そんな、あれはてっきり」
「私がいいかっこしたいからだと」
「いえ、滅相もない!」
「ふ、君の立ち振る舞いを見ればわかる。個々の所作が洗練されている。きっと名のある家の出だろう」
「身分の告げないのに」「ランスロット様・・・」
「む、確かに私はお腹を空かせている・・・。
だが、己が名誉よりも君の健康のほうが私には大事なのだ・・・!」
――ぐぅぅぅ
「・・・痩せ我慢、ですよね?」
「文字通り」
「そうであれば、わたしもランスロット様に」
そう言って私は懐からパンを取り出しました。
といっても余った素材で作った堅いパンでしたが。
「このようなものですが」
「ほほう、これはありがたい」
ランスロット様はよほどお腹が空いていたのか、それをぱくりと一口で口の中に収めてしまいました。
「うん、なかなかいける。久しぶりにブリテンで料理を食べた気分だ」
「もう、ガウェイン卿に怒られますよ」
「はは、ガレスも私のガレットを食べてはどうだ」
「ええ、それでは頂きます」
そう言って、わたしはランスロット様の作ったガレットを口に含みました。ふわりとわたしの口の中で肉の旨味が広がりました。
「おいしいです・・・!」
「それはよかった。他人に振舞うのは初めてでね。・・・ところで」ランスロット様はガレットを摘まむ、わたしの指先をじっと見つめました。
「ずいぶんとアカギレが酷い。それに顔も赤くなっている」
「ひゃっ・・・ひゃい!?」
ランスロット様がまじまじとこちらを覗き込んでくるので、わたしは思わず変な声を出してしまいました。
「男同士なのだから、そんなに驚かなくとも・・・。それはともなく何か防寒具はないのか。室内とはいえ、厨で寝泊まりすれば冷えるだろうに。現に今も部屋の隅で霜がはっているではないか」
「い、いえ、下働きのわたしにはそんな贅沢なモノなんて」
「まったく、ケイ卿め。騎士になろうという少年の体を壊す気か」
そう言って、ランスロット様は自分の外套もってきました。
「ガレス、少し立ってくれないか」
「は、はい」
わたしが立ち上がると
――ふわっ
と、わたしの肩に布がかけられました。
「・・・え」
それはランスロット様が、わたしの肩に着てきた外套をかけてくれたのですが、それはランスロット様から肩を抱かれるように思えて。
「あ、あああの、あの、あのららランスロット様・・・!」
「ふむ、まだ大きいか。だがいずれ、君もこの外套も似合うような背丈になるだろう。まあ、これで当座の寒さくらいはしのげればそれでいいか」
「こ、こんな大変なもの、いただません!」
それはわたしにも一目でわかるくらい高級な生地で出来た外套だったのです。きっと厨で着ていたらあっという間に汚れがついてしまい、目立ってしまうような、そんな高級な生地。ですけど、ランスロット様はまったく意に介することもなく、わたしの肩に手を置きながら微笑みました。「私には人を見る目があると言っただろう。ガレス。君はいずれ円卓に座る。それだけの才覚がある、と私は思う。だから、ケイ卿の言った一年が過ぎるまで君は健康でいてほしいんだ」
「で、でもどうやってこの恩を・・・!」
「我が王のため、私と共に、このブリテンを護る。それで私は十分だ」
そう言って、ランスロット様は厨の出口へと歩を進めます。そうして、出口に立った時、ランスロット様ははたと足を止めました。
「ほう、これは・・・」
かすかに息を呑んだランスロット様のつぶやきがこちらまで聞こえてきます。
「ガレス、来てみてくれないか」
わたしが小走りでランスロット様の横に行き、その視線の先を見ました。
「あ・・・」
「月虹、とは珍しい」
早朝の昏い空にはあの日見たのと同じ、光帯が浮かんでいました。
「私の国では吉兆を示すという。きっと君の未来が明るいものであることの兆しだろう」
「・・・はい!」
こちらに微笑んでくれたランスロット様にわたしは満面の笑みを返す。
そのとき、私の頬はきっと赤らんでいただろうけど、それは寒さからではなくて――。
それが月の虹を見た2回目。
それから色々なことがありました。
楽しいこと、辛いこと。
そして、ギネヴィア様の処刑の日。わたしは王の命に背くことも、ランスロット様に剣を向けることもできず、武装もせずにギネヴィア様の処刑に立ち会った。そのときにはもう色あせた、あの外套をつけていた。それはなんでだったろうか。
ギネヴィア様にランスロット様とわたしの絆の証を見せたかったのだろうか。
ランスロット様にわたしがいることに気が付いてほしかったのだろうか。
そうして、わたしも連れて行ってもらいたかったのだろうか。
でも、もう全ては終わりだった。
(あぁ・・・まだ・・・お昼なのに・・・そらがくらい・・・や・・・・・・それともいまは夜・・・?)
喧騒の中、わたしは一人倒れ伏していた。近くにガへリスもいるはずだけれど、気配がない。先に逝ってしまったのだろうか。
(きれいだなぁ・・・)
もう霞んでいくわたしの眼には太陽が・・・いや、暗くなっていく視界の中ではそれは月に見えた。そして、月の周りには光の帯が見えた。
(天使の輪・・・。これで・・・3かいめか・・・。でも、こんどは・・・おむかえのてんし・・・のわっかかなぁ・・・)
もう、力が入らない。生温い雨を頬から押しのける力もない。腕も指も動かない。息をしているのは自分の意識からではなく、生きようとするわたしの体の反応だった。
(でも、もう・・・どうしようもない・・・のに。
あめだってぬぐえない・・・あめ・・・?)
そのときわたしは気が付いた。太陽がはっきりと見えているのに、雨が降っていることに。
視界に人影が映っていることに。
それが誰なのかはすぐにわかった。
だが、もう、その声はわたしには届かなかった。「お・・・っ・・・っッ!」
声を出そうとした。激痛が走った。血が喉から噴き出した。
でも、声を出そうとした。だってこれが最期だってわかっていたから。
「お、に・・・いさま・・・。ご、め・・・なさ・・・い。
さい、・・・ご・・・で・・・」
もう音のつながりも、意味のある旋律も生まれない、ただの音だった。それでも私は声を出した。
「・・・あ、のひと・・・をゆる・・・して・・・あげて・・・」
雨は激しさを増す。もうなにもみえない。
(あぁ・・・わたしは、ランスロット様の特別に、少しでもなれたのだろうか)
あの日、初めてランスロット様から頂いた品をつけていた。それでもランスロット様の剣はわたしを切り裂いた。きっとあの人にはギネヴィア様しか見えていなかったのだろう。それでも――思い出す。
――だけど、今は届かなくてもいつかはその手で星を掴めるように努力をする。
あの日、初めて月虹を見た夜を。兄の言葉を。
(届かない星《月》に手を伸ばし続けたけど、触れることくらいできたかな・・・)
わたしは自分の心に従い、全力で走り抜けた。後悔なんてあるわけない。だけど、心残りはたくさんあった。
(願わくば・・・兄さまとランスロット様が・・・もう一度手を取り合って・・・。
ブリテンを・・・アーサー王を救ってくださるように・・・)
手の届かない月が作り出す、白い虹を視界の奥に感じながら、わたしの意識は闇に落ちていった。
――それが、円卓第7席ガレスとしてのわたしの最期の記憶だった。>>507
する。
「ここから妖気を感じる……でも悪いものじゃないみたいだ」
工場の外から声が聞こえた。バニヤンはとっさに傍らに立てかけてあった斧を掴み、眠っていたベイブを起こす。
「あ、藤丸君、ちょっと待……」
「バニヤン!ここにいるのかい!?」
聞き慣れた声が響きわたるとともに扉がガラッと開き、待ち望んでいた姿が現れた。
「マスター……?マスター!」
一度目は確かめるように、二度目は確信して呼びかけた。そして大きかった背丈を小さく、人間の少女と同じくらいに変え、立香に飛びつく。
「ごめんよ、すぐに迎えに来てあげられなくて」
飛びついてきたバニヤンを優しく抱きしめながら立香は微笑む
「いいの、マスターならきっと来てくれるって信じてたから!」
バニヤンはぶんぶんと頭を横に振って満面の笑みで答えた。>>578
だが少女の身体が言うことを聞かずとも、それに応えるものがただ一人だけいた。
「ぬ〜りかべ〜!」
掛け声とともに巨大化したぬりかべが地面より現れ、一行に迫るバニヤンの足を食い止めた。
「ありがとう、ぬりかべ!そのままその子を抑えていてくれ!」
ぬりかべにそう指示を下すと崩れ落ちる工場から鬼太郎はみんなを庇いながら抜け出した。そして険しい目つきで辺りを見回す。
「このギターの音はお前だな?エリート!どこにいる!?姿を現せ!」
「ふん、しくじったか。まぁいい未だポールバニヤンは私のギター催眠の術中だ」
暗い声とともに建物の影から死人のような肌ののっぺりとした顔の小男が歩み出る。
「久しぶりだな、鬼太郎。お前たちを殺 すのに協力するよう友人のドラキュラに頼まれてね、あの世から戻ってきたのさ」
小男は耳まで裂けた口でニンマリと笑った。その拍子に裂け目からたらりと血が一筋流れる。>>579
「その通り」
「貴様たちは罠に嵌ったのだ鬼太郎、カルデアの者ども」
声とともに建物の影から、屋上から、おびただしい数の吸血妖怪が音もなく這い出てきた。
「初めての者たちもいるから自己紹介しよう。私は吸血鬼エリート、各国のエリートだけを狙い血を吸った吸血鬼さ」
小男、吸血鬼エリートは余裕綽々な態度で名乗った。
「吸血鬼ラ・セーヌ、美女999人の血を吸ったフランスの吸血鬼よ」
群の中からいかにも伊達男といった風貌の吸血鬼が現れ、キザったらしくポーズをとった。
「そしてこの私こそ世界にその名を轟かせる吸血鬼の親分、吸血鬼ドラキュラ!そして彼らこそ我が不死身の吸血鬼軍団だ」
最後に前述の二人に挟まる位置に蝙蝠が集まり両手を上げたドラキュラの姿へと変化した。
それを合図に後ろに控える吸血鬼たちが一斉に牙を剥く。>>581
ドラキュラが叫ぶと吸血鬼軍団が鬼太郎たちに襲いかかる。同時にエリートもギターを激しくかき鳴らした。その曲調に合わせてバニヤンの足にかける力がどんどん強くなっていく。
「さ……させない……!」
ぬりかべも負けじと抑える力を強める。心優しい彼は仲間が傷つけられるのも少女が悲しむのも見たくはなかった。
「ワシらもぬりかべに負けてはいられんぞ子泣きの!」
「おお砂かけの!じゃがこの数はちぃと骨が折れそうじゃぞ?」
目前に迫る吸血鬼の波を前に、砂かけは気合十分に、子泣きは少しとぼけた風にお互いの顔を見合わせた。
「何を怯えるものか!亀の甲より年の功じゃ、1000年も生きとらん若い吸血鬼どもなぞものの数ではないわ!」
「それもそうじゃのぅ。おーい鬼太郎、目玉の!この子らはワシらが守る!お前たちは一反木綿とエリートを探して倒すんじゃ!」
一反木綿に乗り上空をいく鬼太郎を二人の老妖怪は力強い言葉で送った。「娘をお返し願いたい」
「トロイアの王女はここにいないが」
アキレウスの記憶が正しければ王女達は皆王宮の中だ。疫病で誰かが死んだ、という話は聞いていない。亡骸も運び込まれていない。そもそもこの空間に存在するトロイア側の人間は目の前のプリアモス王と天幕の隅に転がる敵将の――――まさか。
「プリアモス王よ。ヘクトールは、その、女だったのか」
「あの子は間違いなく私とヘカベーの娘です」
「髭が生えていたし声も低かった」
ヘクトールは間違いなく男だった。アキレウスは彼を『無精ひげを生やした中年男性』として認識していたのだ。
「アポロン様の加護によるものです」
「貴方には息子が何人もいた筈だ。態々娘を戦場に立たせなくてもいいだろう」
「神々には逆らえませぬ。よくご存知でしょう」
「………ああ、母上もそうだった」
神は時として気まぐれで無慈悲で残酷だ。女神を母に持つアキレウスはよく知っている。
王女を王子として、トロイアの大将として、鎧を着せて戦場に出せ。もしプリアモス王がそのような神託を受けたのなら―――娘を戦場に立たせる理由としてアキレウス達を納得せしめるに足るものになるだろう。
「アキレウス殿。娘の魂が安らかに過ごせるよう、どうか御慈悲を」>>583
「…………御息女の亡骸をお返ししましょう」
柔らかい身体だ、とアキレウスは思った。
あちこち丸みを帯びているし線も細い。アキレウスの腕の中にすっぽりと納まっていて、少しでも強く扱ったら壊れてしまいそうだ。
――――この身体を勢いよく蹴飛ばした。全力で殴りつけた。最後は喉元に槍を突き刺した。あまつさえ踵に革紐を通して引き摺り回した。親友の仇とはいえ女性に対して随分とひどい仕打ちだ。
「ヘクトール、お前はこんなに小さかったのか」
微かな呟きは冷えた空気に溶ける。
『アキレウスは相変わらずうっかり屋で粗忽者ですね。あれ程直せと言ったのに……。これは死ぬまで――いえ、死した後も直らないと見ました』呆れたようなケイローンの声がどこかから聞こえた気がした。「うえぇ、気持ち悪い………頭が爆発しそう……」
「いくら何でも飲み過ぎ。あれ英雄王のお酒でしょ」
「大丈夫だと、思ったんだけどなあ………」
自分の限界を知らぬ若者ではない。生前もカルデアに召喚されてからも飲酒する機会は山ほど存在した。どの程度なら醜態を晒さないか、翌日に酔いを持ち越さないか、ヘクトールは理解している。―――だが、今回は相手が悪かった。宝物庫の酒はサーヴァントを泥酔させるものだと知らなかったからついつい杯を重ね過ぎた。口当たりが良く、厚みのある芳醇な味わいの葡萄酒だった。美味しい酒に罪は無い。単なる判断ミスだ。
「今のヘクトールはちっとも大丈夫じゃなさそうだけど」
「ああ、はい……オジサンは大丈夫じゃないです……駄目です……」
頭が痛い。胸がむかむかする。一刻を争うような容態ではないが不快感はもの凄い。
「アスクレピオス先生呼んでくる?」
「『自分の限界を理解していない愚患者』って怒られるだけだよ……暫く転がってたら治る、ます……」
二日酔いとは得てしてそういうものだ。水分を補給しごろごろしていればその内回復する。早ければ今日の午後、遅くても明日の朝には元のヘクトールに戻ることができる。
「本当に大丈夫かなあ」
「心配しないでくれたまえ………あー、ちょっと寝るから後よろしく………」
「ヘクトール、そこ私のベッドなんだけど。ごろごろするのはいいけど本格的に寝ないで。昼寝する場所が無くなっちゃう」>>585
マスターの抗議が遠くで聞こえるが瞼を開ける気力すらない。
ヘクトールは惰眠を貪ることにした。しつこい二日酔いにはこれが一番だ。
ヘクトールが目を覚ますと隣でマスターが寝ていた。
「………あらら、こりゃ参ったね」
双方服を着ていたのでいかがわしい行為に及んだ訳ではないらしい。
恐らくひと眠りしようとベッドへ潜り込んできただけだろう。
―――マスターへ重めの愛を注いでいるサーヴァントに見つかったら問答無用で殴られそうだが。「ヘクトールは大丈夫かな」
「僕たちサーヴァントは見た目よりずっと頑丈なんですって。だからきっと、大丈夫」
パリスと同じアーチャークラスのサーヴァント達が話しているのを聞いたことがある。人間の見た目をしていてもマスターやマシュ、疑似サーヴァントよりずっと頑丈で『まだ大丈夫』『まだいける』の範囲がずっと広い、らしい。
パリスにはよく分からないが、恐らく兄もそうなのだろう。
「そうなの?」
「はい。それにアスクレピオス様もいます。今回みたいな大怪我でも絶対に助けてくれます。あの方は医術の神様ですから。ね、アポロン様?」
パリスの問いに応えるように、腕の中で丸い羊―――アポロンがもぞもぞと動いた。
「…………あの子が付いているなら何も問題はない。ヘクトール君は助かる。霊核が破壊されていなければ私の息子が助けてくれる。パリスちゃんのマスターよ、安心するがよい。君の大切なサーヴァントは無事戻ってくるだろう」
「ありがとう、ございます。……ええとこれはもしや神託というものですか」
「その様な大層なものではない。落ち込む若人へ年長者が贈る励まし、と思ってくれればいい」
「でもアポロン様はすごく偉い神様で」
「今は羊だ。……ああ、『どうしても』と言うのなら」
「はい」
「パリスちゃんに良くしてやってくれ。メェー」>>587
「勿論!」
「……マスター、ありがとうございます!嬉しすぎてエリュシオンまでふわふわ飛んでいっちゃいそうです!」
「お願いだからそれは止めて!」
「パリスちゃん、いくらなんでも死に急ぐのは良くない。とても良くない」
血相を変えたマスターにがくがくと揺すられる。
アポロンが頭の上で飛び跳ねる。
それが何だかとても嬉しくて、心地よくて、パリスはくすくすと笑いを溢した。「運んでくれてありがとさん」
「いえ。当然のことをしたまでです」
「君がオジサンの踵に穴開けて紐通して馬で引き摺り回すようなサーヴァントじゃなくて本当に良かった」
「冗談、ですよね?」
「世の中にはそういう奴もいるのさ。特にギリシャには、ね。今後の為によく覚えておきなさい」
「な、なるほど……希臘にはすごい御仁が……」
怪我人を馬で引き摺り回す。蘭陵王の時代でも、現代でも、恐らくヘクトールの時代でも、常識外れどころか人道にもとる行為だ。刑罰ならまだしも生きている味方を引き摺り回すなんて野蛮にも程がある。
「そうだ、カルデアに帰ったら会わせてあげよう」
「え、いや、それは」
可能なら会いたくない。世界を救うという目的が達成されるその日まで、顔を合わせずに済ませたい。蘭陵王の予想に過ぎないが恐らく精神汚染と狂化スキル持ちでアライメントが混沌・悪のとんでもないサーヴァントだ。すれ違っただけで難癖を付けられ絡まれるかもしれない。
「冗談だよ。あいつが君を見たら何を言い出すか分かったもんじゃないから」
「もしやバーサーカーですか」
特定の条件下で狂化が発動するバーサーカーも存在する、らしい。>>589
狂って誰かの身体に無体を働いた逸話を持つなら有り得ないこともない。
――だが、ヘクトールは首を横に振った。
「いいや、ライダーだ。変な奴を見たら絶対に近付いちゃいけないよ」
「はあ」
変なライダー、と言われても。
「何か特徴は。口から火を噴くとか、身体が燃えているとか」
「やたらデカくてムキムキだ」
「ふむ……ヘクトール殿を引き摺り回したのはギリシャ出身の体格が良い男性、と。覚えました」
「それだけ覚えれば十分さ」「キャット!終わったよ!」
「おお、パーフェクトだリップ。すごいぞリップ。伝説の猫のように百万回生きるがいい」
オレンジゼリーの如く、メロンゼリーの如く、圧縮されたフルーツの皆々様。
キャットとて野生のアニモーだ。ケーキ程度、アフタヌーンティー前に完成させられる。
―――今回は気分転換させる為リップに手伝わせたのだ。
戦闘ばかりでは飽きるだろう。乙女チック行為も偶には楽しかろう。
「次は何するの?」
「オーブンの確認……ふむ、庫内温度と焼き色は天気明朗なれど波高し。処女航海は上々の滑り出しと見た」
「ええと、つまり順調……なんですよね」
「ライオンと人魚のキメラへシャンパンを投げつけて割ってもいい程に順調順調。もう少しでスポンジの御誕生だ。ホタテガイの上でコサックダンスしてもいい気分だワン」
「良かったぁ……」
安堵のため息が、一つ。
「リップはしばし待て。ボーダーコリーの如く、古龍を待つハンターの如く、待て。キャットが最後の仕上げをする故な」
スポンジ台を冷まし、生クリームでメイクして、リップ作のキューブを飾り付ければご主人への誕プレ完成である。
「はーい!待ってます!」
「元気でよろしい!」
まるで咲き初めた花のような笑顔。
リップが笑っているとご主人もキャットも嬉しいのだ。「Oh、これはマトンのピンチと見ました。マスターは私の肉を下ごしらえするつもりですね?ジンギスカンみたいに。ジンギスカンみたいに。大切なことなので二回言いました」
「違うよ……ドゥムジのモフを楽しんでいるだけだよ…」
マスターの指がドゥムジの羊毛へ沈み込む。優しく撫でて、少し引っ張って、毛並みを整えるようにまた撫でる。肉へ下味を揉みこむというよりブラッシングやマッサージに近い手つきだ。
「100%ウールが役立っているのなら何よりです」
「ふわあ………」
返事の代わりに口から欠伸が一つ。
ウールの手触りはマスターへ眠気をもたらしたらしい。
「眠いのならアポロンを数えた方がいいのでは。彼は何柱もいますよ」
「んぁ」
「寝冷え防止に私を使うと良いでしょう。Good night and sweet dreams.」
「おやひゅみ、なひゃい………」
マスターが子猫の様に丸くなる。
寒くないように。風邪を引かないように。世界を背負う少年が明日も健やかでありますように。
そんな願いを込めて、ドゥムジはマスターへ寄り添うことにした。「やあ、ヘクトール。少し良いかな?」
自室に戻ろうとした矢先、滅多に関わらない声に引き止められた。普段は殆ど話さないであろう人物に多少驚きつつも俺は応答した。
「オジサンに何か用です?アーサー王」
「ああすまない、すぐ終わる。それと、私のことは気軽にアーサーと呼んでくれ」
「へいへいっと…んで、何を聞きたいんです?」
面倒事に巻き込まれる可能性を薄々感じてはいるが、ここで逃げたらさらに面倒なことになりそうであるためグッと堪える。
「君の故郷は馬の名産地だったと聞く。そこでだ、私に合う馬を一緒に選んでくれないか」
「馬、ですか」
いやいやここには馬に詳しいサーヴァントやら馬のサーヴァントが沢山いるでしょう!?何故よりによって俺なんだ?という心の声を抑えつつ、至って平常通りだと言わんばかりの笑顔で
「オジサンなんかより詳しい人たちは多いですよ?蘭陵王やオルタの君なんて馬と一緒に戦闘に出てるしそっちの方が向いてると思いますけどね」
と返した。向こうはそんな皮肉に気付いてないのか譲る気がないのか
「君が良い、と言っているのだが」
とこちらをジッと見つめ言い放った。どうも顔の良い人間はどうも苦手だ。
「……分かりましたよ。すみませんねアーサー、意地を張っちゃって」
「いや、私の方こそすまない。そしてありがとう」
「あんま期待しないでくださいね。そんでいつ行くんです?」
「ああ、明日にでも行こうかと。マスターには既に伝えているから心配はしなくていいさ」
「わかりましたよ。そんじゃ、また明日な」
「そうだね、引き止めて悪かった。おやすみヘクトール」
次の日、なんだかんだで楽しかったがそれを認めたくないヘクトールがいるのはまた別のお話。>>593
おまけ
「ちなみにオジサンが拒否した場合どうしたんです?」
「うーん、君の弟にでも頼んだかな。でも君のことだから嫌がることはあっても断らないと思ってたよ」
「褒めてます?それ」
「勿論だとも」
「アーサーも人が悪いな……」「信長様!……信長様?」
「今し方こちらを発ったぞ」
室内を見渡してもお目当ての人物おらず 碁盤を前に正座をする老人のみが出迎えた
どこへ発って行かれたのか?すれ違うことはなかった
あのお方が向かいそうなところと言えばーー
「碁に付き合わぬか?」
「……は…?」
「さすれば教えてやらんこともないが」
挑発めいた笑みを浮かべた老人は承諾を聞く前に 向かいに座布団を敷いて碁石を手に抱える
恐らく暇を持て余していて 対戦相手が欲しかったのだろう……恐らく こちらを気遣っているのだろう
ーーあのお方が出向きそうな場所とはどこだ?何故一つも浮かばぬ?私はあのお方の何を見てきたと言うのだ?
こんな時あやつならば あのサルならば
口を閉ざし眉を顰める私とは反対に 軽妙に笑って即座に答えを口にするに違いないーー
「…そんなに殺気立っているように見えましたか 今の私は」
「何 ちょうど対戦相手が欲しかったのだ」
「貴殿に勝たなければ教えてはくれませぬか」
「当然であろう」
深く刻んだ眉間の皺を薄めるように指の腹で撫で 渋々座布団の上に腰を下ろす>>595
「………………参った」
「勝負ありましたな」
「うむ 流石は智将と言ったところだな」
無事勝利を確認すると全神経を集中させていた筋肉が緩む
負けらない賭けに勝ち安堵を浮かべるこちらとは打って変わり 向かいの老人は顎に指を添え碁盤に目を落として考え込んでいる
「……儂の敗因は何だ?」
「それは……」
ふっ と思わず小さく笑みが洩れる
それを見逃さなかった老人は急かすように怪訝な目を向けた
「私に武で挑まなかった事だ」
「……っ 呵呵呵呵ッ!!」
「して 信長公は何処へ…」
「ならば今度は拳で勝負といくか?」
「ですから!!信長公は何処へ!?」「そのスクラブは止めなよ。見る度に目がチカチカする」
「……はい?」
「なあ、立香はどう思う?」
「あ、ええと、うーん………本人が良いと言うのなら別にいいのでは………」
「立香も止めろってさ」
「いや言ってないだろ」
立香の答えは限りなく肯定に近いものだ。
ヘクトールが言うように『目がチカチカするから止めろ』とは一言も口にしていない。
アキレウスがオレンジ色を好むと知っているから気遣ってくれたのか、それとも民族的特性によるものなのかは分からないが、明確な否定の言葉ではない。
「患者であるオジサンとかわい子ちゃんの頼みだ。明日からモスグリーンかダークブルーにしたまえ」
「絶っっ対にヤダ」
「ドクター、無理しないで。ヘクトールも我儘は止めて。服装は常識の範囲内なら個人の自由だよ」
「立香は優しいなあ。でもこればっかりはオジサンも譲れないんだ。毎日毎日ニンジンを見るのは……ちょっと、ねえ?」
「ニンジン言うな!」
「いやあ、色の組み合わせ的にどこからどう見てもニンジンでしょ」
「俺は野菜じゃない!」
担当医の一人として『嫌ならとっとと退院しろ』とは言えない。
ヘクトールは数日前に死にかけて、やっと動けるようになったばかりの大怪我人だ。
―――だから全身全霊を傾けて言ってやるのだ。『人を勝手にニンジン扱いするんじゃない』、と。ちょこっと書きたくなったのでお題を貰いました。アナスタシアとカドック?です。
>>598
拉麺好き好きアナスタシアさんエクストラ!!
『第1話 ラーメンの底を抜けると━━━』
「ようカドック!今日も元皇女様つれて食べ歩きとはいいご身分だな!」
いつものごとくアナスタシアに手を引かれていると、後ろから揶揄する様な声がかかる。
「ああベリルか、アンタいつも元気そうだな。それと間違えないでくれ。引き釣り回されてるのは僕だ。」
「ははっそいつは熱々で羨ましいこった!」
「………食べ歩きなんて品のない言い方はよしてください。拉麺を求めるこの行いをそこらの出店感覚と比べるのは。」
「おいおい悪かったよアナスタシアちゃん。お詫びに今度俺の出店に来るときはまたカドック共々サービスしてやるからよ。そこらの出店とは一味違うたこ焼きをご馳走してやっからさ!」>>599
謝りながら軽薄に笑うのはベリル・タッコ。
的屋とたこ焼き屋を営むのが趣味のいかにもな格好をした奴だ。
まあ例によってか身内に対しては面倒見の良い兄貴分、
頼んだ覚えはないが妙に馴染む。
「俺も昼時だからご一緒させてくれ。」
「拉麺をか?」
「いいだろたまには?流石に毎日たこ焼きは飽きるからな。」
「僕は構わない。アナスタシアもいいだろう?」
「たこ焼きのサービスをしてくださるのなら構わないわ。拉麺をご馳走してくれてありがとうベリル。」
ナチュラルにたかるのを苦笑いで流すベリル。
まあアルバイトで生計を建てている彼女を思ってだろう。
評判と腕の良さを知っている拉麺宝蔵院の暖簾をくぐる。
涼やかな空間に胡椒と醤油の確かな臭気が立ち込めている。>>601
拉麺どんぶりに頭から突っ込んだせいか周りが酷く静かだ。
拉麺を食べるときにロックはいらないのにそうもなる。
こんなバカ騒ぎが起きれば場の空気に過敏な日本人は固まるだろうさ。
「あらカドック、外から戻ってきてたのね。
………目をおさえてどうしたの?あと何か臭うわ。」
「どうしたも一から十まで君のせいだろう。目が、痛くて開けられない。」
さっきの慌てぶりが嘘のようにアナスタシアが声を掛けてきた。
スープが目に入ったせいで主犯を睨むことすらできない。
「私のせい?カドック、なんの話を」
「いいから早く拭くものをくれ。君のせいだろう!」
「怒らないで。理由もなく怒鳴られたって心当りの無いものは解らないわ。」
「いい加減にしてくれアナスタシア!」
「まずその変なもので濡れた服を脱ぎなさい。
いくらこの部屋に暖炉があるからといっても凍死したら笑い話にもならないわ。」
「暖炉?ラーメン店に?」
「………?」>>602
━━━おかしい。このクーラーの効いた店内に暖炉?またいつもの言葉遊びか?そんなもの顔を拭いてからでも構わないだろう!
「おい、アナスタシアいい加減にして」
「待って、拭くものがないの。とりあえずその半濡れのもので拭くから脱いでください。」
━━━ジャケットを脱がされながら、ふと思う。
彼女はこんなにも冷静で、堂々とした物言いだったろうか。自分の国を追われたせいか、いたずら好きで思いきりがある様は小悪魔のようで、なのにどこか品がある。そんなすこし臆病な子だったはずだ。
目の痛みがとれないのが酷くもどかしい。いつもの彼女を見て安心したい。
拉麺の汁なんかのせいで焦りが増す。
「なんですかこれは。」
突然様相が変わる。まるで突風に吹き付けられた粉雪に覆われるように冷たく、少し感じられていた優しい声は柔らかさを失う。
今までの違和感が一層浮き彫りになり目の前にいる見知った人物がまるで、
中身をくりぬいて氷を詰めた人形のように無機質になる。
どうしようもない不安が拡がってゆく。
「………すまない、感情的になった。」
「そうね、ふざけているわ。貴方は誰。」>>606
「………本当にごめんなさいカドック。」
「照れる君をフォローしなかった僕の落ち度だ。あと九割アイツだ。次にあったらたこ焼きをたらふく食わないと割りに合わない。」
「ふふ、ありがとう。そうね、今度はたこ焼き拉麺をご馳走して貰いましょう!」
「その組み合わせはいいのか………。」
「あら、ところでカドック。新調したジャケットはどうしたの?」
「ん?………おかしいな、さっきの騒ぎで失くしたか?店に戻るか。」
あの後、いくら探してもジャケットが見つかることはなかった。聞けば誰も脱がしてすらいなかったらしい。妙な後味の昼食のせいで、クリーニング代もろともジャケットがなくなってしまったのだ。
「ラーメンの底がアナスタシア異聞帯だった。」完ヘクトールが薔薇を育てる話
きっかけは、なんとなく入ったカルデアの植物園に弟の名を持つ薔薇があったことだ。
花の名前にするなんて後世の人たちは粋なことをするねえ。と感心していたら「ヘクトールさんも一株どうですか?」と分けられたことがはじまりだ。
まあ本人もいないことだし、代わりに、ってほどでもないがこれも縁。一度くらいは花咲かせてやりましょうか。とそれなりに調べて育てて「そういえば他にもこんな名前の薔薇もありますよ」とここにいたりいなかったりする英雄たちの名を持つ薔薇を教えてもらったり分けてもらったり。そうして弟だけだった植物園の俺の一角はちょっとした花園に拡張されていった。ふとした時に我に返って何をやっているんだろうと思わなくもない。だがまあたまの召喚。こういう時もあるでしょう。俺がいなくなった後でも時折様子を見に来てくれるマシュがいるならまあ多分大丈夫。枯れたり廃棄されたりすることもないだろう。
そんな日々を過ごす中、ある日、隣に薔薇が一本植えられていた。
「ヘクトルだ」
自分の名を持つその薔薇だけは妙に恥ずかしさがあって株分けも断っていたというのに、そいつは一本俺の園の隣にちょんと植えられていた。
『藤丸立香』という看板と共に。
「びっくりしました?」
何が起きているのかと思考している間にマシュが隣に来ていた。
「先輩、とってもいたずらっ子な顔してましたよ」
「……いやまあ、うん。びっくりしたねえ」
誰にでも手を伸ばす我らがマスターは、花であろうと無粋なひとりであることは許さないらしい。
やれやれと息を吐きつつも、それに幸福を感じていることは否定しなかった。「「マスター!」」
「……ん?」
「あら?」
「「……………………」」
「だ、誰っすかアンタ!?」
「だだだ誰なのだわー!?」
私にまったく同じタイミングで声をかけてきたサーヴァント2人が、なんだかわちゃわちゃしている。可愛い。ずっと見守っていたい。なにあれ尊い。写真と動画で記録できないのが本当に残念。
そんな訳でちょっと生あたたかい目で観察していたら、マンドリカルドから口を開いて自己紹介。エレちゃんもその後きちんと自己紹介。うんやっぱり可愛い。
「それで、その……そっちからどうぞ。女神様より先になんて畏れ多いっす」
「いえいえ気にしないでほしいのだわ。むしろあなたの方こそカルデアに召喚されて間もないんだからマスターともっと交流しないといけないのだわ」
「こういう時はレディファーストって言葉があるんすよ」
「ここでは私の方が先に召喚されたのだから、私が先を譲るべきであって」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
「「いやいやいやいやいやいや」」
日本人お得意の譲り合い合戦をカルデアで見られる日が来るなんて思ってもみなかった。さあいつまで続くかな――>>609
「マスター、ここにいたのか」
立ち尽くしていた私に声をかけてきたのはジーク君。なんでもモードレッドにフランケンシュタインとボードゲームをするとかで、私も参加しないかという事だった。
「いいよ!」
「「譲り合っていたら先を越された!?」」
「ん? エレシュキガルと――」
「どうも、マンドリカルドっす」
「ああ、シャルルマーニュ十二勇士の物語に登場する王か。会えて光栄だ」
「「「知ってるの!?」」」
「ライダー……アストルフォの伝記について調べているうちに、十二勇士関連についての書籍も読み進めた」
「こ、こんな知名度低い俺を知っていてくれるサーヴァントがいるなんて……!!」
未だかつて見た事のないくらい、マンドリカルドの目が輝いている。それはもうキラッキラに輝いている。まあそうなるよね。というかジーク君もジーク君でどうやってたどり着いたのやら。召喚してから図書館で本を漁ったけど、結構探し出すの大変だったんだよね……>>610
「そういえばマスターを見かけたからつい声をかけてしまったが、2人もマスターに何か用事があったのでは? 俺が横取りしてしまう形になってしまったか」
「いや俺はなんとなく声かけただけなんで……特に気にする必要もねぇっす……」
「私もマンド――えっと」
「マ・ン・ド・リ・カ・ル・ド!」
「そうそう、マンドリカルドと同じようなものね」
正直この2人が『なんとなく』で声をかけてくれるだけで相当嬉しいんだけどなぁ。もちろん2人の成長込みで――とは口に出さないけど。
そんな事を思っていたら、ジーク君は2人もボードゲームに参加しないかと提案してきた。人数が多い方が楽しいし、何より交流相手が増えるのが嬉しいから、らしい。
「どうだろうか。もちろん、何も予定がなければになるが――」
「あー、その、えっと……お、俺なんかでいいんすか?」
「もちろん。エレシュキガルは?」
「ええ!? じゃ、じゃあせっかくなんだしお呼ばれするのだわ」
「よかった。モードレッドにフランケンシュタインも、きっと喜ぶ」
友情ってこうやって芽生える。ち――じゃない私覚えた。
マンドリカルドとエレシュキガルはしどろもどろになっちゃってるけど、それでもどうにか話が途切れないように頑張ってる。うんうん良きかな良きかな。
歩き出した3人を追いかけるように、私も駆け出した。>>611
――数時間後。
「Winner! Winner! Chicken dinner!」
「負けたー!」
「うぅ……」
「僅差で負けたっすねぇ……いや惜しかった……」
「私なんて借金まみれでボロボロなのだわー!?!?」
「楽しかった……!」
モードレッドが一位、エレシュキガルがぶっちぎりの最下位で終了。笑いあり驚きありドラマあり涙ありの激戦だった……。こんなに楽しく遊んだのは久しぶりな気がする。またこのメンバーで遊べたら、きっと大盛りするのは間違いない。いっそ徹夜コースでもしようかな?
「マンドリカルド、少しいいだろうか。その、呼び方についてなんだが」
「呼び方?」
「前々から、親しい男性に対して使ってみたいと思っていた呼び方があるんだ。もちろん、許してくれたらの話になる」
「俺を親しいとか思ってくれるんなら……別に構わないっすよ」>>614
皆かわいすぎて最高でした「──シャルルマーニュ十二勇士が一振り、アストルフォよ。時に汝、圧制とは如何なるものと考えるか?」
「……むぐ?」
カルデア食堂内――いつものように口に定食を詰め込んでいたアストルフォは、筋骨隆々の狂戦士にそう問われた。
「んー? そんなコト突然訊かれてもね〜別に楽しければ……」
「如何なるものと考えるか?」
「…………」
流石はバーサーカー、と言うべきなのか。相手の意思なぞお構いなし。依然としてスパルタクスは微笑を絶やさず、彼を両の眼でしかと捉えていた。
さしもの理性蒸発騎士でも、その強引さには多少面食らう。……だからといって、彼の答えは微塵も変わらないのだが。
「なんか、アッセイ? とか、そういうのはよく解んないけどさ、皆が楽しければそれで良いんじゃないかな!」
「―――」
その言葉に、今度はスパルタクスが沈黙した。
狂戦士なりの判断をつけるための時間か、それとも彼の言葉の真偽を測りかねているのか。
たっぷりと間を置いて、叛逆者は徐に口を開いた。
「――そうか。それが汝の叛逆なのだな」
「ん? うん、まあなんかそういうことで!」
「さすれば汝も同志である。民が幸福を享受できぬ世というのは圧制。さあ、武器を取れ。我が刃と汝が槍で、共に叛逆への道程を往かん‼」
「お? よく解んないけど……楽しそうだからオッケー! やろうやろう!」
「圧制に叛逆を! 束縛からの解放を!!」
「イエエーイ‼」
……その後、理性蒸発コンビがカルデア内を暫く闊歩し、英霊たちから異様な目で見られることになったのは言うまでもない。>>616雑談で見かけて気になっていたので読めて嬉しいです。
1レスの中でお話が上手くまとまっていてかつスパさんやアストルフォらしさも伝わっきて読みやすかったです。
ありがとうございます。とある特異点――カルデア一行は巨大エネミー、魔猪と遭遇していた。
「我が空想、我が理想、我が夢想――『絢爛なりし灰燼世界』!」
チャールズ・バベッジの宝具による高熱蒸気が辺り一面に立ち込め、その場の視界が白く染まる。
だが、これだけでは魔猪を怯ませるのみ。獣は蒸気の発生源である彼に標的を定め――、
「いち、にの――――」
突如、真横から影が迫る。
「――さんッッ‼」
爆音。
衝撃の余波に周囲の蒸気が払われる。余りにも内臓へ響く重い一撃。なす術なく巨体は静かに崩折れた。
「……うし、一丁上がりってな!」
その様を認め、棍棒を肩に担ぐ筋肉ダルマ――訂正、筋骨隆々の男、オリオンは満足気な笑みを浮かべた。
「ありがとな蒸気のオッサン! おかけで楽に仕留められたわ」
「流石はギリシャ最高の狩人、素晴らしい動きであった。……しかし、我の助力は不要だったのでは?」
「んな事ありゃしねえよ。一人で狩るにゃ手に余ったからなぁ」
こんなデカいんだぜ? と、オリオンは倒れ伏す獣をベチベチと叩く。……そうは言っても、魔猪に肉薄する速度、一撃で沈める膂力を以てすれば、この程度のエネミーは数分で片付けられたろうに。>>618
「それに獲物を傷付け過ぎる可能性もあったしな。これから食うってのに、美味い部分を削っちまうのはもったいねえだろ?」
「成程、理解し…………待て、食すのかこれを?」
「え、違うの?」
バベッジの疑問に対し、きょとんとした反応を返すオリオン。
「このような魔獣は食用に向かないのでは?」
「大丈夫、だーいじょぶだって。大抵のモンは内臓出して焼けば食えるから!」
「しかし、マスターの健康被害を」
「アイツも食ったことあるって言ってたし! イケるイケる!」
「…………」
何事も感覚派なオリオンと、理屈で思考するバベッジ。その点において、彼らは相性が良いとは言い切れなかった。
オリオンを否定する弁は幾らでも浮かぶ。だが、現在は特異点の修正中。ここで仲違いを起こしては作戦に支障を来す。
そこまで考えてから、彼は渋々と肯定の意を表した。
「……了解した。然るべき検査の後、獣はマスターの食事としよう」
「お、話が解るぅ!」
「して、どのように調理するつもりか? 先程は加熱調理と言っていたが、この量では……」
「え、そんなん決まってんだろ」
「……?」>>619
「――さあ、今夜のメシは豪勢だ! 派手に食って飲んで騒ごうぜ!!」
その夜、猪肉を存分に使ったバーベキューパーティーが開かれた。
レーション三昧になりがちな作戦中では、マスター、サーヴァント共々にささやかな楽しみである。
そんな中で複雑な思いを抱く男が一人。
(何故……)
鉄板役、チャールズ・バベッジ。
サバフェスの時に続き、2度目の蒸気式鉄板と成り果てていた。
「いやーやっぱ肉は最高だな! ほれ、兄ちゃんも……え、ベジタリアン? その筋肉で? マジかよすげえなおい。そうかー……あ、ポテトが良い? じゃ芋食え芋! 蒸気のオッサン、もう少し火力上げてくれー!」
「…………」
――やはり、意地を張るべきだったか。
そう後悔しつつ、彼は鎧の温度を少しだけ上げるのだった。「やっほー集まってくれてありがとー!」
「いきなり『パジャマでボクの部屋に来て』と言われて来てみたら……なんだこれは」
アストルフォの私室には、しつこくない香りのアロマキャンドルが数本とお菓子と飲み物。あと巴御前にでも借りたのだろうゲーム機。
そして当の本人も私と同じくパジャマ姿。理性蒸発ライダーのことだから透け透けのネグリジェとかそういうのを着ていそうなものだが、意外にもピンクを基調とした質素なパジャマだった。
「わー、デオンの考えてることなんとなく分かっちゃうぞー」
「……あの、そろそろ呼んだ理由を説明してもらえます? どうしてカルデア性別不明メンバーの中に『愛の女神』である私がいなくちゃいけないんですか」
「パジャマ姿見たかったから! ちなみに第三霊基だったら間違いなく理性蒸発してた!」
「アサシンで良かった……!」
ホッと胸を撫で下ろすカーマ。私もそれに頷いて同意する。せっかくの『パジャマパーティー』が『ぐちゃぐちゃ』になるのはよろしくない。もしそうなりそうなら全力で逃げるだけだが。
――しかしこうして改めて彼女を見ると、本人の発言はともかくとして案外場に馴染んでいる気がする。確か『カーマ』は元々男性神であると聞くので、私にしろアストルフォにしろ、波長は合うのかもしれない。
カルデアはこういう出会いがあるから面白い。
「それで? 具体的になにをするつもりですか?」
「まずはお菓子食べながらゲームでもしようかなって。トモエとワルキューレとマスターと黒髭から借りてきたやつ! えふぴー……なんちゃらとか、レースゲームとかワイワイできるってさ」
「黒髭のゲームは絶対やらない」
「なんでさー、『アルティメット・ウォーターブリッツ〜その水着を撃ち落とす〜』だよ?」
「絶対やらない/絶対しません!」>>621
今すぐソフトを破壊しようとする私とカーマを『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』で阻止した忌々しいアストルフォ。おのれ黒髭なんて危ないゲームを持っているんだ。どこで手に入れた。
仕方ないと言わんばかりの顔をするアストルフォが取り出したのは、一位目指してマップをウロウロしながら星を取り合うゲーム。これなら大丈夫かもしれない。ちらりと隣を座るカーマを見ると、同じことを思ったのだろう、こくりと頷いた。
ベッドに3人並んで座り直し、コントローラーを握る。実はこういうゲームをするのが初めてで、不安であると同時に楽しみでもある。
「負けないぞ!」
「勝ってみせるさ」
「どうでもいいですけど。敗者も愛してはあげますのでご安心を」
平和だ。なんて平和な時間なんだ。
――そう、思っていたのに。
獲得しては奪われる星。足りないコイン。幸運ランクなどお構いなしのマイナスマス。ミニゲームでの集中砲火。乱れ飛ぶ妨害アイテム。次々に降りかかる災難。逆転に次ぐ逆転。勝ったと思った途端に大暴落。とにかく全員が酷い目にあった。いや、それだけならまだいい。『それだけなら』。
「なんでよりにもよってNPCが一位!?」
「そもそもNPCを入れたのは何故だ!」
「そういう仕様なんだもん!」
「蹴落とすことばかりでモブに気が向いてませんでしたから……うう」
がっくりと肩を落とす。
楽しかったのは間違いないが、それはそれ。誰かが一位になった方が圧倒的にマシだ。>>622
気分転換にお菓子を食べてリフレッシュ。ブーディカとタマモキャットに用意してもらったらしいそれは、控えめな甘さが程よく口の中に広がる絶品。こういう時くらい手を抜いてもいいものなのに、それでもこだわりが感じ取れる。そしてついでにと少しだけ酒も飲む。こちらはエミヤが提供してくれたとのことだが、あの男にどう言えば酒を提供してもらえるのやら。
さっきの愚痴や感想を言いながら、食べて飲んでを繰り返す。――それでも心のどこかに引っかかるものは消えない。
「ねえねえ、黒髭のゲームやらない? 3人だけの対戦でもしないと気が収まらないでしょ」
「だからどうして黒髭さんのゲームなんですか。嫌ですよそんなの」
「だってそれ以外のゲームだとどうしてもNPC出るから。純粋な勝負ってコレしかないんだよね」
「持ってくるゲームは選んで欲しかった……」
だがアストルフォの言う通り、決着をつけないとこのモヤモヤは晴れそうにない。たとえ最下位になったとしても、だ。
「罰ゲームありでやるなら、黒髭の持ってきたゲームでもいい」
「罰ゲーム? いいですよさっき2位の私が勝つに決まってますから」
「何言ってるのさ2位になったのだってボーナスででしょ? ボクが勝つから」
「いいや私だ」
「やろう/やりましょう/やってやる!!」
『最下位はゲームで脱げたものを、本当に脱ぐ』。
――絶対に負けられない!!>>623
ハッとなって飛び起きた。ズキズキと鈍い痛みのする側頭部を押さえて周囲を見渡すと、とてもではないが表現できる状況ではなかった。
それは部屋でありお菓子や酒であり、私達3人であり。
なにがあった。何が起きた。
必死になって記憶を辿るがどうも思い出せない。頭が、思い出すのを拒否している。
「う……」
「カーマ? カーマ、起きてくれ。昨日を覚えているか?」
「ちっ、近寄らないで下さいケダモノ!」
「えっ」
「アストルフォさん急いで起きて下さい野獣がいますよ!」
「待って待って待ってくれ! 一切覚えてないぞ!」
「酷いですあんまりです!」
ゆさゆさとアストルフォを起こすカーマを呆然と見つめるしかない。そしてやがて起きたアストルフォは開口一番に私を指差して一言、「お酒禁止」とだけ言って急いで着替えてカーマと共に部屋から抜け出した。否、逃げ出した。
……昨日の私は、なにを、やらかした?
とにかく着替えて追いかけなければ。言いふらされても困る予感しかしない。
とりあえず酒はしばらく控えようと誓ってから、2人を追いかけた。>>624
ここまでとなります。お題を下さった皆様、ありがとうございました
最後になにがあったのかそれとも口裏合わせなのかは、ご想像にお任せします「おいヘクトール!今日という今日は容赦しねえからなぁ!」
「あれ〜アキレウス君じゃないか。オジサンはこれから医者さんのところで湿布貼ってもらう約束してたんだよ、だから君に構う暇なんてないんだよっと」
「だーくそっ逃げんな!相変わらず逃げ足だけは速い奴だなコンニャロ」
「とか言いつつぴったり後ろくっついてくんのは何なの?オジサンのこと好きなの?」
「ンなわけあるかドアホ!」
「なんだとぅアホって言う方がアホなんですー!」
「おまっ…いっぺん止まりやがれ!」
「ぜっっっったいやだね!アスクレピオス!失礼するぜぇ!」
「あっ狡いぞ!」
「お前達喧しすぎるぞ。先生呼んでやろうか」
「「それだけは勘弁してください」」……落ち着け。
サーヴァント達が自分の部屋に来訪するのはよくある事だ。
たとえ今、『立入禁止』の札を出していたとしても、今回は目を瞑ろう。
問題なのは――、
「ふぅ……やっぱりコタツは良いわね。私の時代になかったのが悔やまれるほどよ。どうしてこんなに落ち着くのかしらね〜……」
それが金星の悪魔イシュタル――違った、女神イシュタルである事だ。
コタツに入るくらいなら服着たらどうですか、と言いたくもなるが、後が怖いので思うだけに留めておく。
……だけど、ここは自分の部屋。主として、苦言の一つでも呈さねばならない。
姫(わたし)――刑部姫はそう決意し、彼女たちに話しかける。
「……あ、あのぅ……女神様?」
「ん、なあに?」
「いや『なあに?』じゃなくて……姫(わたし)部屋の前に『立入禁止』ってゆー札を出した記憶があるんですけども……」
「『立入禁止』ってあっただけで、『コタツ使用禁止』とは書いてなかったでしょ。部屋に入ることが目的じゃなく、コタツを使うことが目的だったからセーフよセーフ」
「ええー……」
どういう理論ですか。
ただでさえ、こちらは冬のサバフェスに向けて修羅場真っ最中だと言うのに。なんならサバフェスは明後日なのだが、実は先程原稿に取り掛かったばかりだったり。
贅沢は言わないので、正直早く出て行って欲しい。>>627
けれど、この傲慢不遜な女神は他人の言葉くらいでは絶対に動かない。むしろ言えば言うほど滞在時間が長くなる神(ひと)だ。
そういう訳で、静かに原稿に戻る姫(わたし)なのですまる。
コタツで静かにしていてくれればそれで……、
「しっかしこの部屋は本と人形で溢れてるわね……ん、何この漫画?」
「ちょっ……!? あのっ、女神様それは……!」
「『王のロマンス』? へぇ、どれどれ〜っと……」
姫(わたし)の悲痛な叫びも虚しく、女神様は前回の新刊(深夜テンションで出力してしまったネタ)を開く。
「…………………………(唖然)」
デスヨネー。
よりにもよって顔見知りがBL本に出てたらソウナリマスヨネー。
ああ、なんでコタツに置いたんだ数日前の姫(わたし)よ……。
けど、これは好機! 心がへし折れる事を代償に、沈黙を利用して原稿を書くのだ!
頑張れ姫(わたし)、羞恥心に負けるな姫(わたし)ッ!!(血涙)
……その後、同人誌を読み終えたイシュタルは無言で部屋を出ていき、羞恥心というブーストをかけた刑部姫の原稿は、無事ゴージャス印刷会社に届けられたという。
おまけ・その後のイシュタル
「ギルガメッシュ……アンタも大変なのね……」
「!? 何が変なものでも食ったか貴様!?」「あら? こんな所でなにをしていらっしゃるの?」
「王妃様が『こんな所』に来るもんじゃねぇですよ」
近付いてきた存在に気付き、吸っていた煙草の火を消す。俺からしたら同じセリフをそっくりそのまま返したい気分だが。何故カルデアの隅の喫煙所にまで足を運んできたのやら。
「ミス・ナイチンゲールからMr.ダンテスを探すようにお願いされたの。彼ならここにいてもおかしくないでしょう?」
「あー……そういうこと、か」
「いないのかしら?」
「見てないっすよ」
「……普段身に付けているマントはどうしたの? 臭いがついたりとかを気にするようには見えないのだけれど」
「…………」
まずい。この王妃、思った以上に鋭い。激動の時代を生きた王族というだけはある。――いや感心している場合じゃない。
王妃の勘は当たっているんだなこれが。喫煙所の隅に『顔のない王』を被って姿を隠している巌窟王が、普段からは想像もできないほどに静かに息を潜めている。>>629
遡ること三十分前。ダッシュでここに来た巌窟王は開口一番に俺の宝具をしばらく貸してくれと頼み込んできた。
いつも通りにバーサーカーのナイチンゲールから逃げてきたらしいのだが、今日の婦長は本気だったらしく、逃げても逃げても追いかけ続けてきたようで。それで俺を頼ろうとしたって訳だ。
「じー……」
「王妃がしちゃいけない顔になってるっすよ」
「仕方ないわね、見かけたら教えて下さる?」
「もちろん」
「それじゃあ、私はこれで」
ふぅ、と大きくため息を吐く。乗り切った。正直に喋る選択肢もあったかもしれないが、俺の宝具が使われている以上共犯扱いされてもおかしくない。だったら誤魔化し通す方がまだマシだ。それに、ナイチンゲールの治療(物理)は俺だって受けたくない。ただでさえ人の少ない喫煙所にガサ入れされるくらいなら、というのも大いにある。>>630
「礼を言う」
「いやまあ別に? 今度食堂で一番高いメシの一つでも奢ってもらえたら」
「……仕方あるまい」
「ふふっ、やっぱりそういうことだったのね」
「「!?!?」」
ば、バカな。いくら気を抜いていたとはいえ俺と巌窟王が王妃に気付かないなんて有り得ない……!
「ふっふっふ今は夜すなわち『ジャガー潜む暗黒の森』!! 引っかかったな喫煙者共、今日こそお縄につく日だにゃー!」
「相っ変わらず卑怯くさい宝具だな!?」
「うるせーい!」
曰く、たぶん逃げられそうだと思ったので協力を依頼したとか。なんて恐ろしいことを考えやがる。離脱したと見せかけての本来持ち得ない高ランク気配遮断に対処できるはずがないだろ……!
喫煙所から逃げ出そうにも、出入口を王妃とジャガーマンに封鎖されてはそうはいかない。かといって女相手に実力行使はできるはずもなく――
「殺菌!!!!」>>631
マリーとロビン、ありがとうございました。ゲスト出演巌窟王&ジャガーマンwith婦長はノリですご容赦ください「あら、こんにちは。ご機嫌いかが?」
踊り子の衣装を身にまとった彼女は、今日も太陽を意味するマタ・ハリの名に相応しく、私を包み込む笑顔を向けた。ダ・ヴィンチ殿もいつも微笑んでいるが、彼女の微笑みは月のように優しく撫でるものであって、マタ・ハリ殿とは違うものだ。
__彼女は一般的に強い部類に入る英霊ではない。だが誰にも言っていないが、私は彼女に憧れを抱き、また尊敬しているのだ。
マタ・ハリの名は女スパイの代名詞として有名であり、伝説の女スパイとして現代でも語られているとか。だが、それと同時に本当はスパイではなかったのではと疑問視されているらしい。__それは、自分と同じではないか。
私は、自分でそう考えるのもあれだと思うが、私は絶世の美男子であったがあまりの美貌ゆえに戦では仮面でその顔を隠した、と後世に語り継がれているらしい。そして、それと同時に戦で顔を仮面を隠すのは当時は普通だということも語られている、らしい。
私は確かに生前、自身の顔を隠した記憶がある。だがそれが作られた記憶であったなら?
__不毛な問いだ。わかっている。確かめるすべなど無いのだから。そう、その記憶が真実であるのか、確かめることなどできない。だからこそ、私は彼女を尊敬する。
自身を形づくるものが真実かわからない、いつ崩壊するかわからない、そんな不安定な土台の上で、皆の頭上にて燦々と輝くことができる。今日も誰かに心の底から輝く笑顔を見せることができる。__それは気づきにくいが、たしかに凄いこと。簡単に出来そうで出来ないこと。私にはできるだろうか。いや、きっと私にはできない。
きっと直接この想いを伝えてしまえば、あなたが確立した太陽は崩れてしまうだろう。だからあなたには最大級の賛辞を。伝わらなくてもいい、今日も太陽たれと輝くあなたへ。
「こんにちは、マタ・ハリ殿。元気ですよ。あなたもお元気そうでなによりです」>>634
お疲れ様です、いいものを読ませて頂きました!
蘭陵王とマタ・ハリとはまた面白い組み合わせ……! 『陽の眼を持つ女』に顔を隠す男が抱く思い、素敵です
あとこの文量なら分けなくてもいいかなと個人的に思いました影法師――なんとも胡乱でそして悟り切ったような嫌らしさだ。
と、己の感情はそうその言葉を断じるが濁った理性の欠片はその通りだと
ただのお前の自己満足な嫌悪感だとちりちりと責め立てる。
ああ、寒い―
何がと言われればわからない。サーヴァントとしての身体は「寒さ」を知覚は
できるが、「寒さ」を感じる事は無い。雪と戯れ、雪に塗れた身体は「冷えた」と
いう認識はあるものの「凍える」かと問われればそれは違うといえる。
ああ、そうかこれが胡乱かと。思わず笑いが漏れ、慌てて湯舟を波立たせる。
幸いにも隣の幼子には聞こえなかったようで聞こえぬように一息をつく。
・・・・
ちりちり
「――……う思います? 」ふと誰かの声が聞こえた。いや、これは記憶の声だ耳朶ではなく
頭の片隅から聞こえる声だ。「どう思います?」そうだそんな声だった。
あれはいつ頃だったか、食堂でいつものごとく甘味を愉しもうと思っていた所に隅からこちらに手招きで
誘う姿が見えた。自分が呼ばれているとは知らず、ふいと流そうとしたところ強引に連れていかれ、
甘味を薦めるのもそこそこに「どう思います?」と言ったのだ。>>636
・・・・
ちりちり
自分はなんと返答したのだろうか。ああそうだ「知らぬ」ととぼけた声で甘味を食したのだ。
我ながらなんともわざとらしい行為だったと思うが、声の主はそれを了解の合図だと解したようで
すらすらと語りだしたのだった。あちらこちらに話が飛び、身振り手振りの演説で要領は得なかったがどうやら要約すれば「告白してきた後輩がよそよそしくなった」との事だった。
恋の悩み、それもただ単に相手の男がサプライズを用意している事に気付かずによそよそしくなった
と誤解している者のすれ違いの悩みの話だった。順風満帆ではないかと、視界の外にその男が映ったが
同僚だろうか知己の男どもにからかわれている。なんともご馳走様だ、既に小豆はすべて消化してしまっていた。
・・・・
ちりちり
「座して待つが良い。告白を受けたのであれば構えているが良い」そう答えたのだったか。片目で当の男に詫びる。すぐにこちらの意図に気づき申し訳なさそうな顔をした。素直な男だった。
不器用そうではあるがまあ下手な手は打たない、そういう男だった。
・・・・
ちりちり>>637
それから、というより翌日に当の二人から貢物を受けた。食堂の甘味フルコース、なんとも安い貢物だが
遠慮なく頂いた。「油断はするな」と釘は刺して置いたのだから恐らくは大丈夫ではあったのだろう。
以来一度も貢物は受けなかった。今にして思えば当人達からすれば自分はどう映っていたのだろうか。
逸話通りの人物、巷説に流布されている通りの人物なのかそれともこの姿通りの人物でなのか。
・・・・
ちりちり
名前を聞いたかどうか、恐らく訊きはしなかったのだろう。名前も思い出せない。顔も印象だけが残っているだけで
明確な顔のつくりを思い出すことはできない。ただ、愛いなとそう思ったことだけは覚えている。
記録を探すか、と考えたがやめた。この胡乱なままの記憶と感情、そしてあの甘味の味だけを覚えておけばいいと
そう思った。
・・・・
ちりちり>>638
「大丈夫ですか?」はっと顔を上げるとそこには今年のサンタクロースがいた。湯舟で沈黙していれば彼女の事だ
すっ飛んでくるだろう。そういえば隣の幼子が向こうで心配そうにこちらを見ている。心配しなくてもいい、そう
言ってはみたが気が付けば医務室に運ばれていた。新たにカルデアへ呼ばれた医者の影法師は数度こちらに質問をすると
すぐに興味を失ったようで一言声をかけると異常はないので出ていけと彼女を呼んだ。
自室へ戻る道すがら忙しなく動き回る姿が見えた。先ほどの記憶に出てきた顔は見えない。一人も。
・・・・
ぢりぢり
ああ、そんなに苛むな。そんなに呪うな。関わったものを堕とすな、まつろう者より後に残るな、呪え呪え呪え呪え
我らが時代より後の民はすべて呪え、すべてあの男の係累、すべてはすべてはたぬきの一族、どうなろうとどうあろうと
構わぬ滅ぼせ滅ぼせ>>639
・・・・・・・・
ああわかっている
・・・・・・・・・・・・
だからこそ狂っているんだ
・・・・・・・・・・・・・・・
マスターを救うまで狂わせてくれ
向こうから駆けてくる彼の子のためにどうなろうと寄り添うと決めたのだ。いくらでも焼かれてやるとも。
名前も思い出せぬあの二人の思い出を無駄にはせぬ。
「マスター、マースーター!! 湯当たりの茶々に高いアイスを貢いでほしいかも」久しぶりのSSなのでちょっとまとまってないかなと
駄文すみません「バターケーキをデザートに――」
「『バターケーキ』?」
ひょこっと顔を覗かせてみると、小さなメドゥーサさんがエミヤさんに注文しているところでした。普段はフードで隠れている顔も、今はなんだか嬉しそうに見えます。好物なのでしょうか。
「まあ、その名の通りのものだと思ってくれ。古代ウルクより存在していたものだが、なかなかどうして美味なものでね」
「わ、わたしも食べたいです!」
「いいだろう」
メドゥーサさんがわたしをチラリと見て、それからこう言ってくれました。
「……バターケーキ、美味しいです。よかったら今日、一緒に食べませんか」
「――はい!!」
その後、ブーディカさんのご飯を食べてから、エミヤさんのバターケーキを2人で頬張りました。
とっっても美味しいですスイートですロジカル……とは違いますが、絶品なのは間違いありません。この味がウルクからあったなんて信じられないくらいです。今度ジャックやナーサリー、バニヤンに教えてあげないと。
それにしても、何故メドゥーサさんは古代ウルクからあったバターケーキを知っていたのでしょうか。少なくともわたしは今初めて知りました。不思議に思って質問してみると、ゆっくりと喋り始めるのです。>>642
「カルデアに召喚されてから、一番最初に食べたのがこれでした。……何故かは分かりません。でも、この心が、わたしの舌が、バターケーキを覚えていました。まったく変わらない味で、優しくて。だからたまに、無性に食べたくなります」
「思い出の味、という事ですか?」
「そうだと思います。記憶になくても、記録になくても、今ここにいるわたしが、美味しいと思えるのなら。それはきっと――振舞ってくれた誰かが、喜んでくれる気がして」
たまに聞く、以前の召喚の残り香。カルナさんのように具体的に覚えているサーヴァントもいれば、アヴィケブロンさんのように記録としてしか実感のないサーヴァントもいます。今回の場合だと、アヴィケブロンさんのパターンでしょう。
でも、それでも、素敵なお話でした。それがたとえ、記憶のない思い出話だとしても。心に残った何かがメドゥーサさんに伝えてくれた奇跡に、わたしは感謝するのでした。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。バターケーキ、また一緒に食べてくれますか……?」
「もちろんです!」「双腕・零次収束!」
「おおー! 敵のバフが全部消えた!」
「ええまあ、これが『売り』ですから。では、追撃はお任せしますよ」
「ふっふーん。絢爛魔界日輪城!! ――全ては茶々の思うまま!」
「相変わらず、その言動とは真逆にさえ思える宝具ですね。バーサーカーの霊基は、相変わらずよく分かりません」
「失敬な! 茶々は凄いぞ、ホントに!」
「それはよく分かっています。現に敵は今ので全て燃え尽きました」
「たはー! 褒め上手ー! ……ところで、茶々は織田とはいえ幕府側。そなたの生前を思えば――」
「そこに踏み込んできますか。――正直な話、それがなければ今ここに、私はいないでしょう。生前を経て聖杯大戦に召喚され、その結果こうしてカルデアのサーヴァントとして戦っている。だから、憎んではいません。人類救済もありますし」
「出た『人類救済』! 言葉は綺麗だけどやってる事はエグいような違うような全然分からないやつ!」
「説明しましょうか?」
「せーんーのーうーさーれーるー! セミラミス助けてー!」
「そこで彼女に頼ろうとしないで欲しいですね!」
「ボイラー室隣のサーヴァント全員に頼ってでもセミラミスにチクる」
「待って下さい貴女以前痴情のもつれとか言っていたとカルデアの記録にありますよね!?」
「知るかー!」
「これだからバーサーカーは!」「あ、やっべ毒切れちまった……」
「毒なら私がいくらでも用意できますが」
静謐ちゃんとロビンが毒談義してる。まあそこそこ見る光景ではあるけど、静謐ちゃんの汗やら唾液やら体液集めて毒を補充してるのはなんかこう――いかがわしさがあるよね。
「マスター? その視線はやめて欲しいんすけど」
「えー、だってなんかえろい」
「いやいやいや。女の子の体液を小瓶に集めるってどうよロビンフッド。客観的に考えてよ」
「戦術を考えると合理的ですが……」
「本人がこう言ってるしねぇ」
「ロビンと静謐ちゃんがそう言っても私はそうじゃないから! なんならマシュとかカルデアに判断仰ぐよ!」
「へいへい」
ピンと来てない2人をよそに、私はカルデアと通信を始めた。
「ねえどう思うおっきー&邪ンヌ!」
『同人誌のネタ提供ありがとうまーちゃん!』
『ロビンと静謐……アリ!』
「よりにもよってそこか!」
「次のフェスでネタにしてやる! 私も描く!」>>645
ロビンが必死に制止するけど、そもそも言って伝わるならカルデアと通信なんてしない。正攻法がダメだと分かってるなら初めから変化球でいく。同人誌のネタにするという脅しはロビンフッドには十分通じる。
問題は静謐ちゃんなんだけど――
『×××××で毒補充とか』
「今規制入ったぞ刑部姫!」
「いくら私でもそんな事はしません……」
『補充してる内に徐々にお互いの心の距離も近づいて――』
「ナマモノネタも大概にしろオルタぁ!」
ゲスい事してる自覚はある。でもこれしか方法がないんだから仕方ないよね、うん。
「あの、ロビンフッド」
「ん?」
「私は、構いませんから――」
「『え』」「『約束された――勝利の剣』!!」
うわー、相変わらず格好いいなあの宝具……。ビーム出る剣とかどうなってんだアレ。しかもあの威力でまだ完全解放じゃないって……俺の宝具とは大違いだ。
「オオオオオオ!!」
「「っっ!?」」
今の宝具に耐えきったってのか! どういう耐久力してんだあのエネミーは!
いや、『どうやって』はこの際どうでもいい。今はただ、俺達の後ろに立つマスターの安全が最優先!
「駆けろ、ブリリアドーロ!」
「マンドリカルド、危ないから戻って!」
「危ないからって戻ってたら英霊になんてなってないっす!」
たとえ俺が知名度の低い英霊であろうとも。騎士王の隣に並び立つに相応しい力がなかったとしても。俺は俺を信頼してくれるマスターのために、友達のためにこの剣を振るうのみ!
「栄光の剣、不毀の絶世、このひと時だけでも! 『不帯剣の誓い』!」>>647
光を纏う木刀を敵めがけて振り下ろす。倒れろ、倒れろ、倒れろ――ぶっ倒す!!
「おおおおぁぁああああああ!!」
木刀は折れた。だが、敵も絶命した。
勝った。俺は勝ったんだ……友達を守れた。それだけで十分だ。
魔力のありったけを使ってしまったから、草原に大の字でうつ伏せに倒れる俺に向かってマスターと騎士王が駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「この通りっす。怪我なし」
「よ、よかったぁ……」
「素晴らしい結果だ、マンドリカルド。キミに敬意を。さあ、立てるかい?」
「――騎士王の手で立ち上がるなんて、光栄の極みっすね」
差し伸べられた手を握り、立ち上がる。その手は大きかったけど、少しだけ、近付けた気がした。大きい。それが初めて見た時の印象で――今もそれは変わらない。
項羽。異聞帯の姿と汎人類史の精神を合わせ持つ特殊なサーヴァント。いや、特殊性でいえば俺もそう大差ないのかもしれない。
「我が躯体が不思議か」
「ああ、不快に思わせてしまったのなら謝ろう」
「否。この躯体を不思議に思わぬ者はそういない。しかし私からすると、汝の姿も実に興味深い。時間がある時に、ぜひ話を伺いたいものだ」
「それなら、休憩中の今でも構わないだろうか」
「無論」
そうして俺は、本体の俺の短くも輝く生涯について話し始めた。人生を振り返るように、少しずつ確認しながら、その時なにを思いなにをしようとしたのか。なにをしたかったのか。『ジーク』という旅路をなぞる、旅のような一時だった。
話はまだまだというところで、マスターとマシュが戻って来た。どうやら続きはまた今度になりそうだ。それこそ、カルデアに戻ってからになるかもしれない。>>649
「ジーク。汝の邪竜に至るまでの過程は、今の私には演算不可能だ。話の続きを楽しみにしている」
「そうか。そう思ってくれるのなら俺も嬉しい」
「加えて、話の一部に欠損が見受けられる。理由に心当たりはあるだろうか」
「それは……」
自覚はある。ルーラーについてだ。聖杯大戦を語る上で欠かせない存在、ジャンヌ・ダルク。彼女に関しての記憶はかなり曖昧だ。そしてそれは恐らく――
「本体の俺が、端末の俺に渡したくなかったんだろう。俺が本体でも、たぶんそうする。それくらいに、ジャンヌ・ダルクという存在は大きいから」
「成程。実に人間らしい」
「『人間らしい』、か。うん、きっと『ジーク』の成長の成果だと思う。成長したから渡さなかった、そういう事だ」
世界の裏側で眠り続ける俺。どうか安心してほしい。『サーヴァント』として、『人間』として、今ここに俺が立っているのだから。「…………」
「あの……」
目が覚めたら、何故か見知らぬ部屋にいた。どこだ此処は――!?
「キミ、『後輩』についてどう思う?」
「はい?」
「『後輩』についてどう思ってる?」
……目の前に座っている女の子から投げかけられた唐突な質問。質問に答えようとして、頭の中の記憶がフラッシュバックした。そうだ、俺は前にこの人に会ったことがある! 思い出した、ここは月の裏側。以前マシュとレイシフトした時に戦闘システムが違いすぎて撤退したあの場所だ!
「おーい、無言はやめて」
「あ、すみません……」
「実は私にも後輩がいて、キミと後輩について語り合いたくて」
「白野さんにも後輩がいるんですか?」
「そうね。可愛い女の子が」
それから、俺達は『後輩』についてたっぷりと語り合った。
可愛い。凄く可愛い。とにかく可愛い。
本人には決して知られてはならないような、濃密な話。>>651
その最中、マシュに『コードキャスト』使ってみないかと提案された。正直知りたいか知りたくないかで言えば間違いなく前者。だけどあまりにリスクが大き過ぎる。やったらその日が俺の命日確定だ。
「――もう時間ね」
「え、早っ」
「仕方ないわ。ああでも、よくよく考えたら藤丸君も私の後輩か」
「白野さん? それって――」
「頑張ってね。『Fate』シリーズの主人公にして、私の後輩」
「ちょ、どういう意味ですかそれー!」
……はっ、寝てた!
なんか夢レイシフトしてたような気がするけど、とりあえずご飯食べよう。部屋から出て、食堂に歩いていくとマシュと合流した。
「おはようマシュ。今日も可愛いね!」
「!?!?!?!? ……ましゅう」
「マシュ!? しっかりしてマシュ!」お年玉──それは新年に目上の者が目下の者へ渡す金品である。最近では大人から子どもへのお小遣い、という意味でもその言葉は使われる。
しかしここ、カルデアではあまり意味を為さないようで──
「むむむ……」
「どうしたんですか、先輩?」
「ああマシュ。あのさ、一応マスターって上司的な立場じゃん?」
「え?まあ、そうですけど」
「お年玉、てさ…どうすれば良いかな?ほら一応未成年だけど、ね」
「あぁ…ここには沢山のサーヴァントの方々がいますし金品等は気にしなくても良いかと思いますよ」
「あーそういうもんなのかな?」
「それにバレンタインでは毎年全ての方達に渡しているじゃないですか。それだけでも充分ですよ。これはあくまで私の意見、ですが」
「そっか…」
「先輩は一人一人に新年の挨拶をしたらどうでしょう?『今年もよろしく』の一言だけでも嬉しいものですよ」
「なるほど、ありがとうマシュ!」
「いえ、先輩のお役に立てたようで何よりです」
こうして一人の迷えるマスターは頼れる後輩によって悩みを解決したのだった。その後、それはそうと所長にお年玉をねだる二人の姿があったとか──「虞美人さーん、一緒にお茶でもどうかしらー?」
「げ……」
「嫌?」
「嫌って訳じゃないけど、単純に面倒なだけ。人間とお茶を飲むことの何が楽しいのか分からないのよ」
「なら、貴女の大好きな項羽や、友人である蘭陵王についてのお話を聞きたいわ」
「そこまでして私とお茶をしたい理由はなに!? ただのお姫様かと思ってたけど、ちょっとしたたか過ぎない!?」
「だって気になるもの。二千年近く生きた貴女が、それでも慕い続けた人が、どんな人なのか」
「……長いわよ? 異聞帯の話もあるし」
「ふふっ、ありがとう虞美人さん。スコーンもあるから、ゆっくりお話しましょう」
「中国のお茶、用意しておくわ。そっちがのせたのだから、こっちの好みに合わせなさい」
「とっても素敵だわ! どんな味がするのかしらね」
「別に大したものじゃないから。ありふれた、どこにでもある『お茶』よ」
「それだから楽しみなのよ?」
「はいはい言ってなさい」「『聖夜の虹、軍神の剣』! めぇー」
「見てくださいアポロン様! 羊の宝具ですよ!」
「『羊の宝具』とは違うんじゃないかなパリスちゃん。あとあれ見てるとなんか寒気がするよなんでだろうね」
「ふう、プレゼントも配り終えて一段落だ」
「あの! さっきの凄かったです!」
「パリスも羊を投げていないか? ぽいぽいぽーいっと」
「正確にはアポロン様ですけどね!」
「神様を投げて大丈夫なのだろうか……」
「パリスちゃんに投げられるの楽しいよ?」
「しゃ、喋った……!?」
「どうも、アポロンです」
「なるほど、ドゥムジのような――」
「あんな渋い声じゃないから。もっと可愛い声してるから」
「そう言われても……」
「アポロン様、バレンタインの時に一緒に喋りましょう! フルボイスですよフルボイス!」
「次もフルボイスだといいよね。せっかく低レアサーヴァント増えたんだしさ」
「さっきから2人が訳の分からない事を喋っている……」
「同じ羊系サーヴァントとして負けられませんから!」
「むう、これは負けられないな」
「パリスちゃんの方が可愛い」もともと短く苛烈な人生を預言されていた身である。死ぬことに対する恐怖は無い。後悔は微塵もない。
足先から這い上がってくる寒気とぐらぐら揺れる視界、そして身体の下の血だまりが不快なだけだ。
――――先に逝ってしまった親友や同胞は向こうで待っているだろうか。
かの仇敵殿は、今のアキレウスを見て何を思うのか。
「…………なあ、ヘクトール」
掠れた呟きが朝の空気に溶ける。当然ながら返事は無い。
「お前はどんな奴だったんだろうな」
ヘクトール個人の情報をアキレウスは何も知らない。
『トロイアの総大将』で『パトロクロスの仇』。それ以外は知らないし、知ろうとも思わなかった。
――――遺体を抱えた瞬間の軽さと柔らかさ、そして僅かな悔恨は今も腕にこびりついている。
戦車に括り付け何日も引き摺り回して今更何だ、と思わなくもない。
ヘクトールは「いや、殺しておいてそれはないでしょ」とでも言いそうだが、女性と知っていたなら多少は遺体の扱いを変えたのに。
「………あ゛ー、」
獣の唸り声のような意味を成さぬ音が洩れる。口の中いっぱいに血の味が広がった。
―――ああ、ヘクトールは死に際に何を考えていたのだろう。
家族のことか或いは祖国のことか。それとも最後の最後まで男性として扱われる自らの境遇を嘆いていたのか。アキレウスには分からない。
「……………、……」
ぐるぐると思考が渦を巻く。視界の端から闇が忍び寄る。
『あらら、案外早かったねえ。も少し持つかと思っていたのに』
からかうような誰かの声を聴きながら、アキレウスは目を閉じた。「清姫さん、ちょーっとお話よろしいですかぁ?」
「あら珍しいですね玉藻さん。普段はお互い関わらないように過ごしてますのに」
「いやはやそれがそういうわけにもいかないんですよぉ…水着の私達について、と言えばわかります?」
「あっはい何でしょう?わたくしでも協力できることがありましたら何なりと」
側から見ると珍しいかもしれないこの組み合わせには、共通点があった。それは──
「「水着の私達がマスターを狙い定めている」」
「……やっぱり、そう思いますよね。自分で言うのも悲しいですが、あの私達バレンタイン過ぎてから見境無くなってません?」
「どうやらあちらで協力し合っているみたいですしねぇ、困ったモノですよ」
「それでこちらでも協力しましょう、ということですね?」
「まあざっくばらんに言うとそんな感じです。ついでにあの私達よりリードしましょっ!」
「なるほど、それなら分かりました。ですが具体的に何をどうするのですか?」
尋ねる清姫に玉藻は悪どい笑みで答えた。
「ふふん、ズバリ『花嫁修業』です!」
「花嫁、修業…?」
「えぇ、あの私達は所謂プロポーションでマスターを誘っていますので私達は中味から、です!」
「ふむふむ、それなら掃除をしましょう。真っ先に取り掛かることが出来て尚且つマスターからも感謝されやすいと思います」
「ナイスアイディアです!それじゃあ早速マスターの部屋へいきましょうか」
「ええ!善は急げ、ですしね」
しかしいざ行ってみるとマスターにやんわりと拒否され、粘りに粘った結果何故か一緒に資料室の整理をすることになったのはまた別の話である。雑談スレでお題貰ってたので、書いた~。
「オリオン達とアルテミスの普段の様子」
https://bbs.demonition.com/board/4618/13/#res607
まあ普段というより、一幕みたいなお話です。一部独自解釈在り。>>671
「ぷぅはっあと少し!あと少しでシミュレーターだっ!あそこならお仕置きされても周りはなんとかなる!」
それを頭に乗せるは見事な肉体美を誇る巨漢。特別優れたわけではないが愛嬌のある顔は、巨躯の圧を和らげ朗らかな雰囲気を感じさせる。
「お仕置きされるの前提なんですねわかりたくないやだー!なんでマリーちゃんがしてくれたほっぺにちゅーバレたの!?」
「デオンの叫びが敗因かなぁー?挨拶だからいいとおもったんだけどなぁー!」
必死に情けない顔をして情けない事を宣っているこのふたり(ひとり?)こそ誰もが知る冬の星座の代名詞。
「あああやばいやばい増えた増えたぞあいつぅ!?矢も増えた弓投げてきた!?」
「まだ大丈夫だ俺も2人いる!!」
「なるほど!………いやなにが大丈夫!?」
………弓の腕は神を上回り、この世全ての獣を狩りつくすとされた超人、オリオンその人らである。>>674
「いやまだ終わらねえよッ!?」
「まだお仕置きされたいのダーリン?」
「あ、違いますはい。すみません。」
場所は変わり、1人と1匹の似て非なる同一人物が浜辺で正座している。ここはカルデアの技術により再現された四方海、特異点オケアノスのシミュレータである。白砂の浜辺は大きく掘り返されており、周囲は爆撃を受けたかのような悲惨な有り様であった。
「マリーちゃんにはお茶会の時とかで猛抗議するとしてー、ダーリン達もダーリン達よ!挨拶でもほっぺにちゅーをされるなんて!」
「いやな?人理の助っ人としてマスターの元に集う仲間としてな?挨拶でもした方がいいだろうと、俺に連れられカルデアのサーヴァント達に出向いたわけだ。」
「そうそう、そこは俺とはいえ新参だしな。色々紹介してたわけだ。お前もたまに付き添っただろ?」
「それは確かに必要なのは解るし知ってるわ。でもほっぺにちゅーは許さないよ?」
「やべぇぞ万策尽きた。」
「諦めんなよ俺!いや罪の結論決まってるけども!」>>675
そも、今までのカルデア挨拶回りで女の子(子をつけたら疑問が出る場合もあるが)との挨拶にはアルテミスが必ず同伴していた。それが今回のフランスの王妃様との挨拶にはアルテミスはいなかった。マスター達と微少特異点に行っていたからだ。ソッコーで解決して帰ってきたのだが。バレてもなんとかなると俺と俺で話合って勝手に向かったのは、同一人物の自己完結以外の何者でもなかったなコレ。
「もー!やっぱりオリオン新しい出逢い求めてたでしょ!」
「まてまてまて落ち着けって!」
「これ以上のお仕置きは過剰だぞー!というかやっぱりってなんだよおい!」
「マスターが教えてくれたのよー?でっかい方のオリオンがー来たときになんて言ったのかを!!」
頬をぷくりと膨らませアルテミスはこちらを睨みそう言った。言ったのだ。
「『俺の事が好きな女の子、いる?』だって!もうこれー浮気じゃない?酷いわダーリン!」>>676
ふわり、と重さを感じさせないようにして彼女が背中に乗る。我が身に掛かる見かけ以上の重圧が増していく、だというのにどうしてもこれが心地良い。
「………ダーリン?なんで笑ってるの?」
慌てるとか、怖がるとか、思った反応を得られないことに疑問を浮かべたのだろう。そんな姿も、いじらしくて仕様がない。
「ふっふはっ。ふははは!」
熊のぬいぐるみの俺も同感だったらしく思わず笑っている。
「なあアルテミス、俺が言ったことマスターに教えられたのに浮気されるとか勘違いしたのか?だったらちょっと寂しいぜ?」
「え?え?だって………。」
「お前も変なところで臆病だなぁ。俺の好みの女の子、じゃなくて俺の事が好きな女の子!」
「つまりお前だよ、アルテミス。」>>677
きょとん、としてすぐに花咲くように破顔する。にやにやによによと頬を1人でこねてまあ愛くるしいこと。
「えー!?わ、私ったらゴメンね!ゴメンね!疑って!てっきりまた女の子に粉かけようとしてるのかと思って!」
後ろからわしわしとか細い手で撫でられる。嫉妬深いのも、全力でぶつかってくるのもきっと、神であるからこその距離感からくる臆病さなんだろう。
「視野が極端というか、お前初めて会った頃よりどんどんポンコツになってないか?」
「ひどーい!ただ一生懸命なだけだもん!今まではダーリン1人だったのにこれからは2人もいてくれるのよ?貴方みたいな自由な人、放っておいたらすぐにどこかに行ってしまうじゃない。」
「あーはいはい。こっちこそごめんな。よしよーし。」
「もう!」>>678
アルテミスを背中から前に持ってきて、お返しに2人で撫でる。いつもプカプカ浮いてるこいつが、しなだれてくる事が愛おしい。
「んふふー。いいわこれ、生前(まえ)みたいにこれからもいっぱいしましょー?」
「おいおいそんなことしたら俺の遊ぶ時間がなくなるじゃねえか。たまにでいいだろたまにで。」
「だーめ。永遠に続くわけじゃないんだからせめて限られた時を味わいたいわ。」
「あー、他ならぬお前に言わせちまったら受け入れるしかねえなぁ。」
「そうよー?ふふっ。」
「アタシが浮かばないようにずっとずーっと、抱き殺.してよダーリン。」以上です。
キャラの独自解釈もりもりですすみません。
というかオリオンめんどくさい。浮気性なのか一途なのかハッキリして!!
召喚台詞の解釈は下の表記事でビビッと来たコメがあったのでので使わせていただきました。ありがとう名も知らぬ誰か。
【FGO】オリオンと言われたときにアルテミスの方なのか超人の方なのか一瞬分からなくて困る?
https://demonition.com/blog-entry-59285.html支部の百科事典より
剣 シグルド
弓 ジェーン
槍 ヘクトール
騎 赤兎馬
術 マーリン
殺 ステンノ
狂 土方
で書きました>>681
「せっかくチームなんだしグループ名とか掛け声とか決めようヨー!」
アメリカンなアーチャー──ジェーンの台詞に固まった者が数名、我関せずと目を逸らす者が数名、ノリノリな者が若干名。
「いや、今回だけだしわざわざ決める必要は無いんじゃないかなぁ」
とランサーが言えば
「ここにいる全員が新選組だ、それ以上でもそれ以外でもない」
とトシゾーが少しズレた答を言い、
「一期一会という言葉もありますし…私は良いと思いますよ」
とライダーは肯定的で
「せっかく決めるならパーっとド派手な名前が良いよね!」
マーリンはむしろノリノリで考え始めている。
「アサシンちゃんはどうかな?」
「あら、私は賛成よ。ただ、ランサーだけが否定的なのね」
「いやオジサンはね…ああもう、そういう目で見んといてください。他の人が乗り気ならオジサンはそれに乗っかるだけです」
「おや、珍しいものを見たね」
どうやらランサーが折れたことにより決定したようだ。マーリンが揶揄しているが適当にあしらわれている。>>682
「待たせた。話が長引いてしまってな。それと、トキオミがこれから全員集合と言っていた」
「セイバーお疲れー!向こうに行くまで時間ちょっとで良いから頂戴!」
「なんだ、アーチャー」
「私達のチーム名を決めるの、あと掛け声も!どうかな?」
「ふむ、当方は構わないが。しかしまとまりがない面子だと思うがどう決めるのかね?」
セイバーの意見はごもっともである。ここにいるサーヴァント達は所謂対女神に対応したスペシャリストが集まっている。だが、方向性はバラバラな為これといった共通点が見つからない。
「トキオミが言ってるAチームは分かりやすいし入れときたいわよねー」
「女神、も入れたら良いでしょう」
「言わば特攻隊のようなものだよねえ」
「となると──」
「特攻女神Aチーム、になるのか」
「まあそれで良いんじゃない?」
「次は掛け声ね」
「格好良いのがいいなー」>>683
無事にグループ名も決定した為、続いて決め台詞を考えた結果──
「筋さえ通せば」
「なんでもやってのける」
「命知らず」
「不可能を可能にし」
「原始の女神を撃退する」
「我等、」
「特攻女神Aチーム!」
ちなみにライダー、ランサー、トシゾー、マーリン、アーチャー、アサシン、セイバーの順である。
「ヒュー!格好良いじゃーん!」
「決まったし早く向かおう、トキオミが待ってる」
「ヒヒン、チームとは良いものですね」
「そうね。馴れ合うのも偶には悪くないわね」
「ふふ、彼の驚く顔が楽しみだね」
「えっこれやるの!?オイオイ本気か?」
「なんのために決めたと思ってんだ。ちゃっちゃと行くぞ」
「トシゾーは割り切り過ぎなんだよ…」
「まあ、そこが彼の良いところでもあるからな」>>684
和気藹々とトキオミの部屋へ向かう7人は、何やらチームの絆が育まれたようで。
ポーズや立ち位置もせっかくだからと決めて突撃した結果、初対面であったマスターの顔が無表情どころか瞳が漆黒のようだったのはここだけの話である。
ちなみにトキオミは「堪らないぜ…」と呟いていたそうだ。「あ、タピオカ」
「ダメですよシロウ」
「ちょっとくらいいいじゃないか」
「――また私に脂肪を密輸するつもりですか?」
キッ、とにらまれて俺は黙るしかなかった。女の子(女性は何歳であっても『女の子』らしい)に体重に関する話題は厳禁。俺憶えてる。
まあ、そもそもダメ元で提案してみただけでもあるけど。
「というかですね、あんな行列に並んでいたら雨に降られるでしょう。まだ料理に一切てをつけていないというのに……」
「じゃあ2人で作ったら早く終わるから、それなら並んでもい」
「私から仕事を奪わないで下さい! ただでさえ料理スキルが高くてキャラ弁の作り方教わっているというのに! 私に恩を着せてなにを要求するつもりですか!」
「そこまで言うか!?」
イリヤとクロがテレビで『キャラ弁』を知ってからというもの、度々俺が作っているのだが、それに対抗心を燃やしたセラが苦渋の顔しながら頭を下げて教わりに来たのがつい先月。
手元をぐいぐい覗き込むからちょっとやりにくいけど、それでも楽しく教えていたつもりなのに。それともやはりメイドとしてのプライドが許さないのだろうか。
いやでもプライド云々は俺にもキャラ弁を作ってくれてるから、『恩を着せて』もなにもないと思う。
――女の子って難しい。>>686
そんなこんなで食材やら日用品やらを買い込んで、さあ帰ろうとして――
「なんでさ」
「降ってきましたね……、予報だとまだ大丈夫なはずでしたのに」
急に降ってきた雨のせいで、公園の東屋の下に避難。荷物が少ないからまだマシ――イリヤとクロは修学旅行、母さんとリズは旅行中で親父は相変わらず出張中――帰るのが多少遅くなっても問題はない。
ラッキーなのかアンラッキーなのかよく分からないけど、しばらくここで雨が弱まるのを待つしかない。
「シロウ、タオルどうぞ。このままでは風邪をひきますよ」
「ああ、ありが――!?」
手渡されたタオルを受け取らずに、全速力でセラから顔を背ける。当たり前だ、直視できるはずがない。だって、雨のせいで――!>>687
何かに気付いたらしいセラの悲鳴が聞こえた。そりゃあそうだろう、雨のせいで服が透けているのだから。
「見ましたね……? 見たから顔を背けたんですね?」
「…………はい」
「シロウのえっち」
「なんでさ!?」
これだけは不可抗力だ! 見えたけど! ちょっと服の下が見えたけど下着までは見えてないからまだセーフなはず!
「とにかく、雨も弱まらないのでさっさと走って帰りましょう」
「ちょ、せめてもう少し……!」
駆け出そうとするセラの腕を掴む。不意に掴んだせいで倒れそうなその体を支えようとして、背中に手を添えた。
こうして改めてセラを見ると、案外小さく思えるのは何故だろうか。普段家事をしている姿からはイメージしにくいけれど。
「シロウ」
「ん?」
「帰ったらお風呂にしませんか……? その、一緒に」
「え、えええ!?」>>688
今の聞き間違いとかじゃないよな?
あのセラが、よりによってセラが。
一緒にお風呂に入ろうとか言うわけがないよな?
「ガス代とお湯代と電気代の節約です」
「だからって一緒に入れるはずないだろ!?」
「嫌、ですか……?」
言葉に詰まる。どう返事をしたものか考える。嫌ではない。嫌ではないけれど――俺だって真っ当な男子高校生。セラのような美人とお風呂に入ってどうなるかは、自分が一番分かっている。
「タピオカ、断ってしまいましたし」
「それは気にしなくても」
「そ、それにですね……2人っきりなんですから、その……」
「それ以上はまずい。色々まずい、ストップ」
「――この甲斐性なし」
プツンと、何かが切れる音がした。
気が付けば東屋から出て家に帰って、そこからの記憶が曖昧で。ただ、俺の横で寝ているセラが、何があったかを物語っていた。>>688
士郎とセラ、いいよね……
というのを表現したかった(遺言)エミヤ「おまたせ、ホットコーヒーだ」
グレイ「あ。マシュさん、今日もお仕事おつかれさまです。コーヒーブレイクですか?」
マシュ「グレイさん、おつかれさまです。ええ、一息つきながら、少し考え事をしていました。休憩でしたら、グレイさんもいかがですか?コーヒーが苦手であれば、紅茶でも。エミヤさんは紅茶を淹れるのもお上手ですよ」
グレイ「──次の作戦に何か問題でも?」
マシュ「いえ、そちらの準備は滞りなく。先程は、その...自分のことで、少し自信をなくしてしまって。独立したひとりの人間として、自分は在ることができているのか、と」
グレイ「...拙も、そのように考える事がよくあります。この顔も本来の拙のものではなく、在り方も出自と経歴の影響が強く...本当に自分は、自分の道を歩いているのか」
エルキドゥ「バターケーキをひとつ」
エミヤ「承った。少々時間を頂くよ」
グレイ「バターケーキ?」
マシュ「ウルク名物のスイーツですね」
エルキドゥ「やあ。ふたりとも、少し元気がないようだね。もしかしてそれは、今の会話の内容によるものなのかな?」
グレイ「え、あ...すみません、マシュさんのお話なのに、つい身の上話を零してしまって」
マシュ「いえ、むしろ話して頂きありがとうございます。...その、エルキドゥさんは...」
エルキドゥ 「ああ、皆まで言わなくてもわかるよ。僕の在り方を問いたいんだね。...以前の僕の姿は怪物そのものだった。シャムハトに出会っていろいろと変化が訪れてからは、彼女の外見を模した姿をとっている。”人と共に歩もう”、そう決めた時から、僕は今の僕として在り方を定めた。そのお陰か、佳き友にもめぐり逢えた。...僕の在り方も、出自や経歴による影響が大きい。それでも、自身の在り方を定める最も大きな要因は、”自分自身の選択”によるものだと理解している。...だからふたりとも、過去に縛られるのではなく、これから多くの選択をすることになるであろう、未来に目を向けるといいんじゃないかな。きっとそれが、キミ達をキミ達たらしめてくれる筈だよ。僕がそうであったようにね」
マシュ「そう...ですよね!ありがとうございます、エルキドゥさん」
エミヤ「失礼、バターケーキだ。手違いでホールで用意してしまったので、君達で切り分けてくれたまえ」僕がノウム・カルデアに召喚されてから半年が経った。マスターの愚患者ぶりに溜息をつく気もなくなったり、普通の聖杯戦争ではありえないサーヴァントたちの数に驚いたりした現界初期が懐かしく思えてくる。特にすることもないため、なにか医療のネタになるものでも探そうかと医務室を出て、無機質な廊下をただ歩く。
少しして、こちらに向かってくるサーヴァントが視界に入る。シャルル=アンリ・サンソンだ。やつは僕に従順、おまけに医療に精通しているのでまあ他の連中よりは気に入りの部類に入るだろう。やつは僕を見つけると軽い挨拶をし、僕の横を通り過ぎようとした。
「待て。お前が持っているその袋はなんだ? 見たところ医務室に向かっていたようだが、それは医療器具か何かか? 少し見せてみろ」
そう僕が言うと、やつは仕方がないという顔をして、素直に袋を渡した。そこには小さなチョコレートがいくつか入っていて、医療器具ではなかったかと落胆すると同時に、医務室に食べ物を持ち込むという真面目な彼らしくない行動に疑問を抱いた。いつもならまあいいかと気にもとめない些細な疑問だが、何を思ったのか、この時の僕は彼にこう言ったのだ。
「医務室で食べるのなら、僕も一緒に食べてやる」
***
彼は僕の提案に少し驚いたようだが、もちろんと頷き受け入れた。医務室へ向かう道すがら、どうしてチョコレートを医務室で食べようという発想に至ったのかと彼に尋ねた。二人きりで沈黙が続くのは気まずかろうという僕なりの配慮だったのだが、どうやら廊下でするような軽い話ではなかったらしい。部屋の中で話しましょうと言われては、再度追求することはさすがの僕でもできない。到着すると、僕は椅子に座って待つよう勧められた。彼は棚からインスタントコーヒーを取り出し、お湯を注ぎながら、なぜ医務室でチョコレートを食べようとしたのか、ようやくポツポツと語りだした。「以前カルデアに医者がいたことはもうご存知だと思います。彼はとても有能な医師であったと同時に、極度の甘党でもありました。僕は彼の手伝いをたまにしていたので、彼と話す機会も必然的に他のサーヴァントよりも多くありました
「どういう話の流れだったかは忘れましたが、不意に彼はこう言ったんです。『そういえば昔、日本でチロルチョコっていう小さくて四角いチョコレートを食べたんだ。いろんな味があってね。僕はお菓子全般では和菓子が一番好きだけど、チョコならあれが一番好きだ。もう随分食べてないけど、あれならポケットにいくつも入れて運べるし、いつでも食べられる』
「それならば、僕がそれを手に入れられたときは貴方に差し上げましょうと申し入れたのです。その代わり、あなたが手に入れられたら僕にも少し分けてくださいと。
「それから一月ほどでしたか、人理修復が完遂されました。詳しい出来事は僕は知りません。ただ、彼の姿を人理修復後に見ることはなかった。
「あの時のちょっとした雑談なんて今まで忘れていましたが、偶然チロルチョコを手に入れて思い出したんです。せっかくだから医務室で食べようかと。すみません、衛生上よくないですね。今からでも別の場所に移動しましょうか」
「__いや、いい。汚れても、また掃除をすれば問題はないさ」
***
サンソンはこちらに語る体をとっていたが、その実あれは独り言のようなものだった。こいつはとにかく真面目で、人と向き合って会話するようなやつだから、その医師と過ごした時間は、僕に話している最中に記録を思い返すほど穏やかなものだったのだろう。
前任の医師について僕が知っていることはあまりにも少ない。ノウム・カルデアは前のカルデアとは違う場所にあるから、前任の痕跡すらない。マスターから聞くまで存在すら知らなかった。__前任について知ることは、今後の業務の効率化に繋がるかもしれない。次の患者が来るまで、こいつの独り言には付き合ってやるのも悪くない。
どこが産地かも知らない、安物のインスタントコーヒーの香りが鼻先をくすぐった。どのチョコを食べようか一瞬迷ったが、『きなこもち』と描かれたパッケージに目を引かれた。邪魔な袖をまくり、チョコレートをつまんで、ビニールの包装紙を取って、口に放り込んだ。時計の秒針の音が、やけに耳に付いた。>>693
あ、間違えた。ここの名前は2/2ですねお題:ぐだ子の夢ノートを見つけたジークくん
「マスター……おや、居ないのか」
数多のサーヴァントを従える我がマスターだが、普段の姿は数多の英霊を従えるというより一人の友人として、家族として共に過ごしている。だからだろうか、俺のようなホムンクルスにも良くしてくれている。マイル―ムに来て欲しいと呼ばれたので来てみたが、どうやら別件で外しているようだ。数多の英霊に好かれる稀有な我がマスターのことだ。きっと他の英霊と話しているのだろう。
「……よし」
ならば、待つことにしよう。幸い、本が数冊ある。それを読みながら待てばいい。そうしてあまり広くない部屋に置かれた数冊の本を纏めていると、あるタイトルに目が奪われた。
【ニーベルンゲンの歌】
「──これは」
かの大英雄、ジークフリートの伝説だ。今、自分がこうして居られるのは、全てあの大英雄のお陰だ。万感の思いで息を吐く。何しろ、そのジークフリートもこのカルデアに居るのだ。例え、あの時の大英雄では無いとしても、ジークフリートであることは変わりない。気を取り直して、数冊の本をタイトルが見えるように机へ置き、椅子へ腰かける。
──思ったより、マスターの戻りが遅い。
探しに行こうかとも思ったが、それではマスターと入れ違いになると考えて踏み止まる。ふと、マスターのベッドを見た時、一冊の薄い本が落ちていたこと気がついた。
「俺としたことが、見落としていたか」
拾ったそれは、マスターの日記だろうか。タイトルも何もない、だけど使い込まれた形跡のあるそれは、長い間大事に持っていたことが分かる。きっと、様々な英霊やマスターとして勉強したことをこのノートに書き残しているのだろう。
「我がマスターは──」
大英雄、ジークフリートをどう思っているのだろうか。最近借りたのならば、最後の頁に載っているだろう。そうして俺は、薄い本にぎっしりと書かれた内容に恐怖した。>>695続きます。
「──はー、思ったより時間かかっちゃった」
ジーク、待っているだろうな。有難いけど、赤いオカンから部屋の整理がなっていない、と捕まるとは。確かに、最近は忙しくしていて、部屋の片づけをサボっていたのは認めます。けれど、30分もの説教は疲れるのです。人を待たせていると聞いて、飲み物と詫び代わりのお菓子をくれたのは流石だけど。
「ごめんねジーク、待たせちゃったね」
「──」
ジークが何かを読んでいる。憑きものが付いたように、何かを、真剣に。
「ジーク?」
声を掛けても返事が無いのは珍しい。そうしてジークが何を読んでいるかを覗き込んで──
「い、いい、いやぁあああああああああ!」
魂が枯れる思いをした。
「マ、マスター……来ていたのか。済まない、気が付かなくて」
驚きながらも謝ってくるサーヴァント、ジーク。
「そうだ、マスター。一つ言っておかなければならないことがある」
畏まって何を言うのだろうか。彼は私と秘密のノート、そしてタイトルが見えやすいように置かれた本に目を向けていた。
「かの大英雄、ジークフリートは」
彼は今、私に死告天使をしようとしている。次に口を開く時が怖い、瞬きのようなこの一瞬が、永遠のように感じられる。
「マイルームで、このノートに書かれたように、同じクラスメイトとしてマスターに甘い声、というものを掛けているのだろうか。そして、それを他のサーヴァントも同じようにしているのだろうか。それともこの【カルデア高校、私と七色のサーヴァント!】の話なのだろうか」
──ああ、神よ。いや、神霊いるんだけど。こういう時は、我が心は不動、しかして自由に……自由に。
この後、必死に他言しないようにお願いした。「いつもありがとうございます」
老夫婦の支払いを終えて、今日の仕事はこれで終わり。
今日は朝からバイトだったので、マスターが振る舞う料理を賄いで頂けるのだ。しかもその賄い、ほっぺが落ちるほど美味しい。我ながら、良いバイト先を見つけたものだ。
「店長、お腹がペコペコです~」
思えば、この店長は不思議な人だ。バイトなんてお金を得る為にやるのが普通なのに、そのお金をどう使いたいのか聞いてきたんだから。気が付けば、世界をこの脚で見てみたい。そんな、星に手を伸ばすかのような夢(想い)を口に出していたのに、そんな夢を笑わずにじゃあ、頑張ろうか。そう言って採用してくれたんだから。
「お疲れ様と言いたいけど、最後のテーブル拭きはやったのかい」
「もう終わりました~」
じゃあ夕食にしよう。そんな言葉と共に、2つの料理が私の卓に優しく置かれた。
「この料理はムサカとカポナータと呼ばれているんだけど……何処の料理だと思う?」
一体、この人のレパートリーは一体何処まであるんだ。ジト目で見るものの、効果がない。そりゃそうか、この人には……って違う違う。分からないから降参しよう。お腹減った。
「リツカさんもお腹すかせていますから、早く頂きましょう」
この声は私のお腹を救う天の声だ。だが、これはつまり……
「ああ、マシュ、そうだね。作ったからには美味しく食べないとね」
息を吸う様に視線を合わせるとか熟年夫婦か、この二人。まぁ、そんな二人にはとても助けられているから何も言えないけど。
「ごめんね、立夏さん。ムサカは地中海などで食べられている料理で、カポナータはシチリア、ナポリの料理だ。もし、向こうに行った時には間違ってもナポリタンなんて口にしないようにね」
それは調べて覚えたが、そんなことよりお腹が空いた。って、マシュさん笑わないで。あ、店長に目配せしてくれた。
「そうだね。まずは頂きます」
私の胃が吼える。美味しいご飯には、誰もが抗えないのだ。>>697続き
食事を終えて、マシュさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいた時、今日来た客の一人が店長たちの知り合いだったのか。随分と長話をしていたことを思い出した。特にマシュさんの体調を気にかけていた様子もあったけど、何かあったのだろうか。
「そういえばマシュさん」
「どうしました、リツカさん」
「お昼過ぎでしたっけ。何か、かるであとか何とかにいた人が来ていた時、結構話していたじゃないですか。昔の知り合いなんですか」
「はい、その昔、私もマスターもそのカルデアに居たんです」
おお、店長の過去にはそんなことがあったのか。やたら人に好かれるし、色んな言葉を喋れるし……一体、ナニモン・ナンデス?
「そういえば、仕事中は店長のことをマスターって呼びますけど、そのかるであっていう所にいた時もマスターって呼んでいたみたいですね。何か理由があるんですか」
マシュさんが何かを懐かしむように、窓から顔を覗かせる星空を見ると共に、愛おしそうに片手を握る。何か、大切なものを思い出しているかのように。
「ん、マシュ。どうしたの」
げ、店長が戻ってきた。ってあれ、マシュさん。店長の手を握ってどうしたんですか。
「昔のことでも、思い出した?」
この人たらし。この人が独身だったら、婚約者候補の引く手数多なんじゃなかろうか。
「はい、カルデアにいた時のことを知りたいってリツカさんが」
不意にマシュさんを見る店長の目が優しくなる。不覚にも、ドキッとしてしまった。
「ねえ、リツカさんは前に、世界を回りたいって、言っていたよね。実は、俺もあるんだよ。世界を脚で回ったというよりは、過去の世界に飛び込んだって言うのかな」
珍しい。あの店長がマシュさん以外の話で照れ臭そうな顔をしている。というかマシュさんも照れ臭そうにしているぞ。どういうことだろうか。
「──そうだね、せっかくだから話しておこうか。本から本に渡り歩く、誰の記憶にも残らない開拓者達の話をするとしよう」
──この日のことを、私は忘れることなど出来ないだろう。鯖ぐだ♀ものをまとめてpixivに投稿したのですが、これに関しては完全にCCC既プレイヤー向けFGOのみの方に不親切な代物のため、こちらにも投稿させていただきます。
アスクレピオス&ぐだ♀によるinCCCもの。
ぐだ♀はザビポジでなくセンチネル化しています。カップリング要素は今のところなし。つーかよほど嫌いじゃなきゃ気にするし、自責にとらわれると思う。
改心前のメルト、いいよね!───迷宮の行き止まり。
男は己と契約を交わした少女を見上げていた。
顔色は悪くない。何の憂いもなく、ただ眠っているだけであるようにすら見える。
───この場を行き止まりたらしめる壁、その中心に飾られるように巨大化し、その身のなかばまでもを埋もれさせてさえいなければ。
カツン、と背後で硬質な音が鳴る。男は振り向かない。
「またここにいたのね。
───欲身(エゴ)ではご不満?」
───アルターエゴ、メルトリリス。BBの"快楽"より出で、3柱の神性データによって構成されたBBではない存在。男にとっては等しく味方であるとは言い難い存在だ。BBにせよ、メルトリリスにせよ。
「欲身(エゴ)は本体(ここ)からもたらされる現象(症状)のようなものだろう。対処療法が無意味だとは言わんが病魔におかされた患部を診ずに完治させることはできん。一過性の感冒(カゼ)ならまだしもな」
「ええ、確かにそう。
───だけど、医神(貴方)にも。“これはどうにもできないでしょう? ”」
───ギリ、と歯が軋む音がする。
そのようなことは、彼女にいちいち言われずとも承知していた。>>700続き
月の癌(BB)に接続され、その身を弄り回され、もはや彼女は病巣(BB)によって生かされている。
無理に切り離せば命はないだろうなどということは医者として、そして医神と呼ばれ座に据えられるに至るまで積み上げてきた知識を参照するまでもなく理解できた。
───ああ、認めよう。
この壁像は、月の裏に落とされた少女がみすみす敵の手に落ちることを許してしまった、己の失態そのものであった。
「───私はBBの傀儡で終わる気はないわ」
ふ、と恋に溺れる怪物(メルトリリス)が口を開く。
「遠坂リンとラニ=Ⅷは突破された。リップの最後の壁(SG)も摘出されつつある。BBは何か企んでいるみたいだけれど……。
ええ、岸波白野(カレ)はいずれここまでたどり着くでしょう。貴方の大事な人の秘密は暴かれ、その心は踏み荒らされる。
───だから、選びなさい」
───その声は恋のために己のためにすべてを喰らい呑み込まんとする彼女にしては珍しく、真剣に彼らの身を案じるもので。
だから、男は視線を向けた。
───向けて、しまったのだ。
「彼に任せて心を陵辱されるのと引き換えに、彼女をBBとの接続から引き剥がさせるのか。
───あるいは私についてBBから主導権を奪いムーンセルを呑み込むのに手を貸し、世界と引き換えに彼女を救うか」
───さあ、貴方はどちらにするの(をとるの)?
女神(悪魔)のような美貌(瞳)を澄ました微笑で飾り(虐げる快楽に染め)、彼女は男に悪魔(女神)の如く選択を突きつける。
───男は、その問いに…………>>701
―――――
メルトリリスを構成する神性は3柱。
水流と芸能の神性である、弁財天。日本へと流転するより以前の、印度での名は、サラスヴァティー。
タラスクを産み落しし千変万化の不滅なる海妖、
レヴィアンタン。またの名を、リヴァイアサン。
───そして、疫病と月光の女神、アルテミス。
───アスクレピオスの父親にあたる太陽神。
アポロンの、双子の妹に相当する存在である。
おしまい。メルトリリスとアスクレピオスの妙な縁は、推したいのです。一泊二日の聖杯戦争
「マスター聖杯戦争に行こうぜ」
「はひゃ!?」
そう言ってヘクトールが差し出した広告に大きく書き出されている『大吟醸・聖杯、限定50本』の文字。なるほど理解した。
「却下。マスターに旨味がない」
「あるある」
そう言って出されたのが広告の町の観光ガイド。
温泉に景色に魚介メインの豪華そうな料理たちに……。なるほど。ベタではあるがとてもとても魅惑的だ。距離も遠くない。今から出て昼に帰路についても十分問題ないような……。
その揺れる心に畳み掛けないヘクトールではない。
「実は部屋と車は取ってある」
「うぐっ」
突き付けられる予約表とレンタカーの鍵にキャンセル料というもったいなさも加算されて更に心が片寄っていく。
何より、普段ものぐさで大きく動くことはあまりしたがらないヘクトールからの誘いなのだ。もうそれだけで絶対に嬉しいしその先にあるのは楽しいだけなのだ。
だからまあ、多少の疑念と釈然としなさは些事も些事なわけで
「…………行く」
「決まり」
ご機嫌に笑うヘクトールの手を取りちょっとした戦場へと流されてしまうのであった。織田吉法師の独白。シリアス寄り
彼の者もアヴェンジャーであるということについて。
―――――
「それじゃ、また。瓢箪、大事にさせてもらうね」
「おう!それじゃあな!」
片手を持ち上げ、ひらひら揺らす。手を振って、己がマスターが席を辞し。自分達に与えられた居住域である茶室から各々の集う日常へと戻って行くのを見送る。
南蛮の菓子……チョコレートの返礼にと渡した瓢箪は、どうもマスターの両手にしっかりと抱えられているようだ。歩くその背中から揺れ動く腕が左右どちらからも覗いてこないことから、そのことが伺い知れる。
どうやら、大事にさせてもらう、と口にしたことに偽りはないらしい。それが何故にであるか、マスター自身ではけしてない己にはっきりと確かめるすべはないけれども。
返礼として渡したものであるということそのものかもしれない。あるいは、俺にとっての縁起物、いわば大切なものかもしれぬ代物を渡されたのであるということからかもしれなければ…………手渡すときに話したことのせいであるやもしれぬ。
「平手の爺、か…………」
マスターの姿がすっかり見えなくなってからひとりごちる。
───悲しかった。だが同時に俺は勝ったのだ、か…………。
───爺の顔も声も。頭に浮かべることなぞ、“俺”にはできやしねぇっていうのに、なあ。
はっ、と。己の裡(うち)のどこかで、“俺”が。
自嘲し、嗤う。>>704
された事柄は覚えているのだ。/そのときに己が抱いたものも。
受けた言葉は覚えているのだ。/そのときに己が感じたものも。
…………ただ、道路標識の棒人間か。あるいは、図書館で見た台本のト書きの台詞を思い出すときがそうであるように。
顔も声も認識できないというだけで。
…………平手の爺だけでは、ない。
親父も母上も、己が対峙し討ち取りし義元公も。誰も彼も。すべては等しく、それこそ夢幻の如く。
生前の知己たち。彼らの顔を声を、はっきりと思い出すことは。己には叶わないのだ。
実際にまみえて見れば彼は誰ぞとわかるのだろう/勝蔵がそうであったのだから。
その人柄や己の抱いた印象を克明に話すことはできるのだろう/蘭丸がそうであるのと同じように。
確固とした生前を持つアーチャーの“儂”であるならば、このような事態はまあまず有り得ぬことであるのだろう。
すべての可能性の集大成(行き着く果て)である“我”であるならば、このようなことはもはや既にいまさらなことであるのだろう。
だが、斯くやあらん(かもしれない)と望まれし可能性。
そのひとつでしかない、“俺”は。>>705
「───だが、だとしても」
「───“俺”は、俺だ」
軍帽(シャッポ)を目深に被り直す。
口の中にはまだ。溶けそうなほどに甘く、ほんの少しだけ苦い菓子の後味が残っている気がした。
───あの仮想空間の内部でのみ顕現し得て。
そのままただ、仮想の儘に終わる筈だった俺等。
マスターがそんな己達の手を取り、繋ぎ留めようとせんと、いうのであれば。
───ああ。もはや俺に迷いも惑いもないともさ。
『よいか、己の価値は己が決めるのだ。他の誰が決めるものでもない、己が決めるのだ』
『…………努々忘れるでないぞ』
『なーんてな、安心せい!』
『おまえの価値はこの俺が一番判っておる!』
『おまえはおまえのまま、おまえが思い描く天下を目指すが良い!』
『俺はおまえの友(サーヴァント)として共に戦おう!』
先程己が口にした言葉を思いだし、呵々と笑う。
───そうだとも。俺は、仲間(ともがら)の、友(マスター)の隣に並びたち、守り、共に戦わんと。
───この己は、そのために在らんと。俺は確かに決めたのであるのだから!!ざわめきが至る所から押し寄せてくる。飛び交う専門用語。誰かの足音。
視界も頭もふわふわしていて自分の現状がよく分からない。
ただ、どこかへ運ばれていることだけは理解できた。
「僕の声が聞こえるか?ここがどこだか分かるか?」
普段とは違うどこか焦ったような口調は以前シアタールームで観たドラマの登場人物の様。ああ、彼は神やサーヴァントである前に医者なのだ。
「気をしっかり持て。目を閉じるな。ほんの少しでいいから目を開けて僕の顔を見ろ。むさくるしい男の顔が嫌ならフローレンスの顔でもいい」
「貴方がむさ苦しいのならば世の中の男性は皆巨大なグリズリーです」
婦長殿の言う通りアスクレピオスは決してむさ苦しくない。
線の細い彼を『むさ苦しい男性』の基準にしたら、カルデアの男性陣はほぼ全員むさ苦しいに分類されてしまう。
「僕の容姿なんてどうでもいい。とにかく誰かの顔を見続けることに集中しろ。医務室に着くまで意識を落とさないのがお前の仕事だ。いいな?」
「………、…」
『わかった』という返事の代わりに誰かの手をそっと握り返す。
誰だろう。アスクレピオスか、婦長殿か、それとも自分を心配して傍に付いている他のサーヴァントか。
「―――いい返事だ。素直な患者で何よりだよ」
誰かがニヤリと笑う気配がした。どうやらアスクレピオスの手だったらしい。日頃きつい言葉ばかり零れる口は閉じられ、別人のように穏やかに眠っている。
それとまったく同じ顔が、静かに彼を見守っていた。しかし彼女の場合、その張り付きそうに穏やかな表情には他の色も浮かんでいるように思えた。
「今は気を失ってるだけって、アスクレピオスが言ってました」
「大丈夫そうなら何より」
医務室の扉を閉めながら、マスターとして無難な言葉をかける。
「ねぇ。俺が見ておくから少し休んだら」
ベッドの傍に置かれた椅子へ座ったまま、すっ、とポルクスがこちらを向いた。戦闘から帰って今に至るまで、ずっとこの調子でいるはずだ。自分が受けたはずの傷を愛する者が受ける、そんな様を見続けるのはつらいに決まっている。
「駄目です」
即答して、にこりと口元を歪ませた。
「そう? 疲れてない?」
「ご心配おかけします。でも兄様の目が覚めた時、すぐ傍にいたいので」「まぁ、カストロもそれが1番元気出るだろうけど」
「それはどうでしょう。大体謝られますから」
言われてみれば、あれだけ大事にしている妹がこれほど悲しむ姿を見るのだ。第一声がそうなっても無理ないか。…わかっていながら守らずにはいられないとしたら、難儀な話である。しかし、そうなると何故ポルクスは今この時傍にいたがるのだろう。
「…謝ってほしいの?」
他には誰もいない部屋に、声が当たって跳ね返る。それに混じって、ポルクスがくすくす笑う声がする。
「いいえ。謝ってほしくない」
彼女が椅子から降りる音が重なった。
「じゃあなんで」
「ただの、わがままです」
――何を思われても、何を思っても、離れてしまうより余程良い。
微笑みながら発したとは思えないほど強い言葉を口にして、
「兄様が死ぬ時も一緒です。今度こそずっと、一緒です」
そのまま最愛の兄の頬へ唇を落とした。──ああ、今日だったのか。
カレンダーを見たオデュッセウスは天を仰いだ。木馬を発案し、敵国を滅ぼし、そして……家へ帰る為の冒険が始まった日だ。
夜も更けたが寝付けなくなり食堂へ向かう。そこには既に先客がいた。
「おや、アキレウスと…ヘクトール殿?これは珍しい組み合わせだな」
「オデュッセウス!お前も目が覚めたのか。せっかくだから乾杯しようぜ!」
アキレウスはどうやら出来上がってるらしく上機嫌だった。一方のヘクトールは帰りたいオーラを出しているが自ら戻る気は無さそうだ。
「俺が来た時にはこいつ既に飲んでてさ。あまりにもペースが早いから怖かったんだよねぇ、いやー助かった」
「それは災難だったな。そういえば、彼らはいないのか?」
「何時だと思ってんのさ。中身は大人でも身体には勝てないみたいでな」
「おいおいはやくグラスもてよー」
こんな日が来るとは思ってもいなかった。だけどもこうして杯を交わす関係になったのも悪くない。彼の弟や盟友とは未だ蟠りが残っているがこれから少しずつとけていくだろう。それに、酒があれば目の前の2人も仲良くなるのだと知れたのも収穫だった。
「仲良くはなってないからね、あくまで妥協だから」
「ふふ、そういうことにしておこうか」
「いいからやるぞ、我らアカイア軍とトロイア軍の健闘に乾杯!そして散った俺達に献杯だ」
「いやそれ自分で言うか?」
「まあ公の場では無いし良いではないか」
互いに合わせたグラスが鐘の様に響いた。微小特異点発生の報告を受けて、僕達は数名のサーヴァントと共にレイシフトを起動した。だが、特異点の原因をロマニだけではなく、天才のダ・ヴィンチちゃんまで見つけられない、と来た。あまり時間が掛けられない中、どうしたものかと思案していた中で、ゆるふわリーダーであるロマニが、偶にはのんびりと外の景色を見ていくといい、と言って滞在を許可してくれた。
後で聞いた所、明確な要因が見つからない微小特異点の中でも、時間が経過すれば自然と消えるものだったらしい。
「いやぁ、いい天気だ。こういう日の昼寝は最高だねぇ、マスター」
最近召喚したランサーのサーヴァント、ヘクトール。今は槍を枕にして横になっているが、第3特異点ではその強さを嫌と言う程思い知らされた。
「確かにいい天気です。温かいけど湿気てないから、気持ちよく寝れそうです」
「とか言いながらマスター、筋トレしているけど暑くないの?」
「そりゃあ暑いです。ただ、マスターとして出来ることは少しでもやっておかないと」
「頑張るのもいいけど、休むのも仕事だよ。それこそ、いざという時に何も出来ないようじゃあ、俺のマスターとして合格は出せないなぁ」
のらりくらりとした言葉だが、その発言はいつも的を得ている。気を張り過ぎているのだろうか。
「そうそう、日頃から無理しがちなんだから、偶にはゆっくり休まないと、な」
マシュにも言われた気がしたし、一休みした方がいいだろう。
「分かった。ヘクトール、何かあったら起こしてくれる?」
「了解だ。それじゃ、オジサンもだらだらしようかねえ」
青々とした草原に二人、大の字で横になっていたが、隣のマスターはようやく寝付いたのか、すやすやと寝息を立て始めた。
「それにしても、敵だったマスターに召喚されるとはねえ」
薄っすらと、その事を覚えていた。目的を果たすため、エウリュアレを奪おうとして、その矢に射抜かれたことを。その後、幾つの別れを経たのか分からない。ただ、特別な力のない子供がマスターとして戦わなければならないとは、世も末と言った所だろう。だが、それでもこのマスターは前を向いている。ならば、それでいい。サーヴァントとして、何処までも力になるだけだ。
「さて、ダラダラ見張りをしようかねえ」>>712 「なーんて思っていたけど、歓迎出来ないお客さんは出てくるもんだねえ」
音を立てないように立ち上がり、気配の先にいた敵を見る。幸いにして浮いているので、足音でマスターが目覚めることもないだろう。
「さて、直ぐに片付けますか、と」
見た所、異様な圧を感じないエネミーだ、直ぐに倒せるだろう。ならば、眼前の敵をこの一投で終わらせる。
「あらよっと!」
結局、何が原因かも分からないままレイシフトを終えた。森に詳しいロビンフッドが居たこともあり、中々に採集も捗ったらしい。これはこれで良し、ということか。マシュもロビンフッドの仕事振りに、興奮していたようだ。一時期、昏睡状態に陥ったこともあって、マシュにも随分と心配を掛けてしまったから、今回の件で羽を伸ばせていたらいいんだけど。それはそうとして、気になっていたことがある。
「暫く寝てしまったけど、何も無かった?」
「いんや、マスターの手を煩わせる事は何も無かったよ」
「なら良かった。敵が居る中で、一人のんびり休んでいたら、ロマニから怒られちゃうからね」
恐らく、エネミーが現れたのだろう。きっと、首を縦に振ることはないが。
「それはそうと、一人で見張りを任せきりにして、ごめんなさい」
一瞬、ヘクトールの目が大きく開く。
「ああ、そんなこと。オジサンは気にしないよ。何しろ、サーヴァントは寝なくても問題ないからねえ。それはそれとして、ダラダラするけどね」
「ええ~」
「マスターとして頑張るのもいいが、暢気に楽しく、それで生きていけたらオジサンは満足だからねぇ。だらしない同士、ダラダラしようぜ~」
ヘクトールの言う通り、気を張り詰めていたのかもしれない。だったら、その言葉に乗っかろう。
「そうだね。ロマニやダ・ヴィンチちゃんが来ないように、見張りよろしくね」
「いや~、それは。出来れば、オジサンも一緒にダラダラしたいねえ」
さて、明日からは気を引き締めなければ。もう一つのお題
【マルタさんとえんまちゃんがマスターにご飯を作るお話を何卒……!】
が終わったので投稿します。
2000字位に纏めようと思ったんだけどな。
気付いたら4000字超えてた。>>715
「久し振りに食べたいもの?」
「ええ、人理修復が終わって、ようやく落ち着いた所でしょう」
本来だったら両親への顔合わせ一つ程度許されるはずだ。しかし、マスターが居なければサーヴァントは現界出来ないこと、新宿のような亜種特異点が発生したことから、人理焼却の原因であったゲーティアを倒したマスターは、未だ帰省の一つすら出来ていない。
「確かに、そうですね」
「パーッと豪勢な料理を食べたい時もあるけれど、落ち着いた時だからこそ食べたい料理ってあるじゃない?」
「……けど、ここで食べる料理も、初めの頃と比べると格段に美味しくなったし、作って貰える料理に、不満はないよ?」
初めの頃の食事事情、最早懐かしさを感じる言葉だ。自身を含めて、料理経験のあるサーヴァントこそ召喚されたものの、システムキッチンの使い方が分からず、スタッフやマスターに教わった、ということがあった。そうして使い方を会得したものの、今度は見たことも聞いたこともない食料、という重大な問題に直面した。とは言えど、流石にそこは過去を生きた英雄達。皆が工夫して食べられるものを作っていた。
「あの頃は大変だったわね」
「うん、あの時ほど家庭科の勉強をしておけば、って過去の自分を恨んだよ」
「そう言えば、マスターの故郷、ニホンの料理も全然食べられなくて、半べそかいていたこともあったわね」
「う、それは言わないで、お米は日本人の魂なんだから」
その言葉通り、米への執着は凄まじいものがあった。微小特異点に行けば、米がないか動き回り、特異点攻略と並行的に発生したトンチキな特異点に赴けば、稲が無いか付近を捜索し始めるほどに。そして、一時期カルデア内にて和食ブームが起きる切っ掛けとなった一言。
「偶にね、偶にだけど、お味噌汁が、和食が食べたいなあって思うことはあるかな」
「先輩、お味噌汁とは何ですか」
作り方を聞こうにも、当時はその手に詳しい人物が居なかったこともあり、見たこともない和食を作ろうと四苦八苦したあの日々。その後、マスターの母国の英雄である俵藤太や、やたら現代事情に詳しい台所の赤い守護者が来てからは、その問題はあっという間に解決された。俵藤田は兎も角、どうして台所の守護者は古今東西のあらゆる料理を知っていて、味噌すら自作出来るのか。さて、あのサーヴァントのクラスはグランドのシェフだったか。>>716
「でも、そうだなぁ。エミヤのお味噌汁もとても美味しいんだけど……」
何処か躊躇う様子が見て取れる。年頃の妹、弟のような存在が、訳あって家族の元を離れた時、やはり思い返すのは……
「偶には、お母さんのお味噌汁が食べたいな」
やはり馴染み深い味だろう。一つの星をぼんやりと見つめるように呟いた、そんな細やかな望みを断ることなど誰が出来るのだろうか。
「そうね、お母さんの味って、忘れられないわよね。いいわ。ちょっと時間が掛かっちゃうかもしれないけど、聖女マルタの名に懸けて、その希望、叶えて見せるわ」
勢いで言ってしまったことは否定できない。だが、マスターの顔が陽だまりのように明るくなったので、これで良かったのだと思う。
「マルタ、いいの?」
「ええ、マスターの細やかなこの願い、このマルタ、確かに聞き届けました」
とは言えど、どんな材料を使っていたか、それが分からなければ作りようがない。味を近付ける為には、和食の心得を持つサーヴァントがいいだろう。そう考えていたのだが……突然、マスターが思い出したように大声を出す。
「あああーー、種火の周回へ行くの、忘れてた!!」
そうして、風のようにマイルームから出て行った。考える時間が出来たことは丁度良かったのだが、あまりにも唐突過ぎた。さて、どうしたものか、と部屋の中を歩く。
「味噌を使うのは分かるけど、合わせる具とかどうしていたのかしら」
流石にその辺りの情報は欲しい所だ。豆腐やワカメ、キャベツに玉葱、と具材だけでかなりの種類があったはずだ。まぁ、それは後でいい。まずは食堂スペースへ向かい、味噌を分けてもらうべきだろう。と、部屋を出た所で待ち構えたように立っているサーヴァントがいた。
「おや、マルタ殿か。丁度いい所に」
「何よ、アンタ」
最悪だ。のらりくらりと突っかかってくるサムライが居たとは。
「何、慌てて出て行ったマスターがな。久し振りに和食が食べたい、と言っていたので、少しな。昨夜は西京漬けの鮭を中心とした和食だったはず。私もそれを酒と共に食したのだが……何故、久し振りに和食が食べたい、と言ったのだろうか、と。興が乗ってマスターに尋ねようとしたら、マルタ殿が居たのでな」
恐らく、マスターとの会話を殆ど聞かれていたのだろう。それ以外、検討が付かない。
「何が言いたい訳、はっきり言ったら?」>>717
だが、男の顔は涼やかだ。こういう所がイラっと来る。ルーラーの自分であれば、殴り飛ばしていただろうか。
「まさかと思うが、味噌汁には味噌を入れればいい、と思っている訳ではあるまいな」
「どういう事よ」
「しがない農民として生きた身故、現代の料理に関しては門外漢だ。だが、そんな私でも分かることはある。もし、慣れない料理をするのなら、誰かに指南して貰った方がいいのでは」
神よ、どうかこの男をタコ殴りにすることを、どうかお許しください。
「で、そのマスターなのだが、ランサークラスとアサシンクラスの種火周回にも関わらず、エミヤ殿を間違えて連れて行ってしまったらしい」
つまり、今の食堂スペースにはエミヤが居ない、ということになる。そして、それだけをわざわざ言いに来たということは、食堂スペースにはエミヤ以外で和食の心得を持つ者が居る、ということだろう。
「アンタを吹き飛ばす前に、やることが出来たわ」
「おっと、それは残念だ。時間があれば手合わせを、と思っていたのだが」
「その減らない口なら今すぐ開かなくしてあげるけど」
「これは怖い怖い。では、私は退散するとしよう」
サムライ、佐々木小次郎が姿を消す。スキルでも使ったのだろうか。そんなことより、食堂スペースに急ぎましょう。マスターが帰ってくる前までに。
食堂スペースには、明日の仕込みをしている紅閻魔が居た。
「こんな時間にどうしたのでちか、マルタ」
そんな紅閻魔が、突然現れた私を意外そうに見てくる。
「実は聞きたいことがありまして……」
マスターは一時、彼女の宿で働いていたこともある。何か良い話を聞ければいいのだが。
「聞きたいことでちか。あちきに応えられる事なら答えまちよ」>>718
「実は、人理修復が終わったのに両親の元に戻れないマスターが気になってしまいまして。何か食べたい物がないかお聞きしたところ……お母様のお味噌汁が食べたい、と」
「なるほど、そういう事情でちたか。是非、協力させて下さいでち」
「ありがとうございます」
気に喰わないサムライの話に乗った自分に後ろめたい気持ちが少しある。だが、結果として良い方向に進んだのだ。殴るのは一発にしよう。
「ところで、そのマスターはどうしているのでちか?」
「実は今、種火周回に出ていて……」
食堂スペースを見渡し、不思議そうに顔を傾ける。
「今日は確か……ランサークラスの種火が出てくる日だったはずでちよ?」
それは、マスターのミスなのです。
「まぁ、いいでち。戻ってきたら、マスターが食べていたというお味噌汁について、聞いてみまちか」
「ありがとうございます」
そうして種火周回から戻って来たマスターから、お母さんのお味噌汁について話を聞いた紅閻魔とマルタは、皆が寝静まった深夜の頃、食堂スペースで寸胴鍋を使ってお味噌汁を試作していた。紅閻魔様の指示通り、一口サイズにカットした具材と出汁をじんわりと温めていく。程なくして、ほんのりと出汁の香りがマルタと紅閻魔にも届く。そして、用意していた味噌を複数回に分けて少しずつ溶いていく。溶いた味噌と出汁が馴染んでいき、優しい香りがマルタにも届いた。
「……大体はこれで良さそうね。それにしても、ミソってブイヨンと違って、味が直ぐに出るのね」
これも文化の違い、というもんだろう。てっきり、一回味噌汁を作るのに数時間かかるものと考えていたマルタにとって、嬉しい誤算だ。
「後は仕上げに、と」
マスターの家庭では、これが必ず入っていたらしい。
「……よし」
調理が終わったと見て、脚立から様子を伺っていた紅閻魔が二度、感心したように頷く。>>719
「最初は寸胴鍋を使おうとちたので、どうしようかと思いまちたが。マルタは大人数で食べる料理の方が得意なのでちね」
「弟や妹がいましたから。それにしても……ちょっと作り過ぎたわね」
ミスがないように、と寸胴鍋を使ったことが裏目に出た。他のサーヴァントやカルデアの職員が食べても問題ないと言える出来栄えだが、量が多い。
「どうするんでちか、それ」
「そ、そうよね……」
と、頭を抱えた時、誰かが食堂スペースに入ってきた。
「まだやっていたようだな」
「お前様でちたか。ここはしばらく借りる、と伝えたはずでちが」
「それは承知している。ただ、匂いに釣られた若者が一人、な」
と、台所の守護者が姿を隠している誰かに向かって、入ってくるよう合図をした。すると、こそこそとその人物が食堂スペースへ入ってくる。
「ちょっとね、変な時間に寝ちゃったから水を飲もうと思って」
「マ、マスター?」
思わぬ人物の登場に、驚きを隠せない。
「何を言うか、マスター。マイルームから走って出てきた所を、私に見つかったのでは無かったかね」
「それは言わないで、エミヤ」
マスターの目と声に生気を感じることが出来ない、一体何があったのだろうか。一方で、エミヤはそれ以上の言及を止めると、寸胴鍋の方へ目配せしていた。
「そ、そうだった。じ、実は紅閻魔様と協力してお味噌汁を試作していたのだけど、良かったら食べていかない?」
「え、もう出来たの?」
マスターの声には、純粋な驚きと喜びがあった。>>720
「再現できたかどうかは分かりまちぇん。だからこそ、マスターに食べてみて欲しいのでち」
やった、と年相応の笑みを浮かべて、お椀に注いだ味噌汁を受け取った。
「頂きます」
深夜の食事なので、小姑のように口うるさいエミヤが何か言うかと思いきや、何も言わずに明日の仕込みを確認していた。紅閻魔様から話を聞いていたのだろうか。その間、マスターはミソのスープを噛み締めるように口に含んだままだ。
「……美味しい、なぁ」
マスターが、水辺へ一滴の雫を落としたように言葉を漏らす。お母さんのお味噌汁は上手く再現できただろうか。
「ちょっと違うような気もするけど、美味しいな」
残念ながら再現することは出来なかったようだ。それでも、マスターの顔に陰りはない。
「そうですか、再現出来ればよかったのですが……」
完全な再現とはいかず、少しばかり気落ちする。数少ない我儘くらい、叶えてやりたかったのだが、母の味はそう簡単に再現出来ない、というモノなのだろう。
「ねぇ、マルタ。まだお味噌汁は残っている?」
「あ、はい。寸胴鍋で作ったからまだまだ残っていますよ」
「マルタらしいね。じゃあ、もう一杯欲しいな」
何を以て私らしい、と言ったのか。問い質したい思いに駆られましたが、その要望には応えましょう。
「ええ、分かりました。マスター」
寸胴鍋からお玉で味噌汁を掬い、お椀に注ぐ。
「ありがとう……うん、少し違うけどやっぱり美味しいな。ねえ、マルタ。時々でいいから、この味噌汁をまた作って貰ってもいいかな?」
「分かりました、マスター」
人理修復を成し得た最後のマスターよ。どうかその歩みに祝福がありますように。カランカラン……と鳴り響くドアベルに、それまで何かしらの本を読んでいた女性は顔を上げた。
「いらっしゃい──あら、また来たのね」
「ええ、また来たわ。新作……あるかしら?」
「毎週単位で来られても、うちはそうそう新作は増えないわよ。それよりいい茶葉が手に入ったの。あの人は紅茶、そんなに好きじゃないから……付き合ってくださる?あと、そのブーツは履いてくるなって言ったはずよ」
「──あのブーツは履いてきてないわ。こっちはマイルドタイプよ、地面に優しいの」
「嘘をつくならもう少し上手につきなさいな。
まったく……仕様のない子ね」
勝手知ったる──という空気の流れる二人。察するに店主と常連だろうか。穏やかな日差しが差し込むはずの午後とは思えない暗い店内で美女二人が会話する姿はどこか耽美にすら思える。
──無論、彼女らが古今東西の模型に囲まれていなければ、の話ではあるのだが。「──それで、どうだったのアレは」
所変わって中庭にある休憩スペースで紅茶を傾けながら模型店の店主メディアは問いかける。
「素晴らしかったわ。あの表情の出来もさることながら最大の特徴はスカートの細やかさ、模様の細かさね。フィギュアでなかなか再現しにくい部分なのによく出来ていたわ。それと、このお茶美味しいわね」
そう応えるのはかの模型店の常連メルトリリス。
「そう、なら良かったわ。
──かわいいもの志向だったあなたが急に三年も前のゲームのキャラクター、それもかっこいい──とかの感想が似合いそうなフィギュアが欲しいだなんて言い出した時は驚いたけど。何かきっかけでもあったのかしら?」
「彼が『積みゲー消化』って言い出してプレイしてたの。それを見たら……ね。アンドロイドという設定だし、フィギュアやドールが似合いそう、というかあるはず、と思って。
貴女ならそれを見つけてくれる、と思ったのよ」
「信頼は嬉しいのだけれど。見つけるのは大変だったわ……三年前のものですし」
「そこには感謝してるわ」
「してるんだったら来るたび何か買って行きなさいな。見るだけ見る、が多すぎよ貴女」
「そこはだって……私にもこだわりがあるもの。譲れないわ」
「だとしても、よ。新規開拓くらいしなさいな。このボトルシップとか、木の質感や帆の質感に感じるものはないの?」
「私は人専門なの。建造物は彼の趣味よ」
「強情な子ねぇ……」>>725
「これ……あの子のドール……⁉︎」
「そうよ!前に貴女、ドールも好きだと言っていたでしょう?模型にフィギュアにと置いている店に、今度はドールを追加しようと思って!」
「それにしてもこれは……!」
「ええ、これは……!」
「「素晴らしいわね!」」
「安くしとくわよ?……円!」
「買った!」
「キャスター、今日は上機嫌だな。何かあったのか?」
「ええ貴方♡今日は大口が入りましたの♡」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「メルト、これは……」
「あら、素敵でしょう?こんなに凄いドールはなかなか無いわ!」
「いくら?」
「……お金なんていいでしょう?」生前は刀の手入れを欠かさなかった私ですが、最近あることで悩んでいます。それは……
「このジェットパック、一体どうやって手入れをすればいいのでしょう」
そう、ヒロインXXさんから(強制的に)組み込まれたジェットパック、これの手入れが分からないのです。あの人に頼もうにも、あの人もあの人で結構テキトウだからなぁ。はぁ、この前のバレンタインで少し飛ばしてしまったし、点検しておきたいのですが。
「おや、オキタ・J・ソウジさん。顔を沈めて、どうしましたか」
おっと、この体に改造した本人が現れましたよ。くっそう、この体になってから快調なのは認めますが、ノッブにはひたすら笑われるし、土方さんには沢庵とも、おっぱいを視る目でもない、よく分からない目で見られるし……散々です。とは言え、ちょうど出会えたのは好都合です。
「実はジェットパックの点検をしようと思いまして……ただ、説明書が何処にもないので、自分で出来るか分からないんですよね」
「それでしたら、取り付けてしまった責任もありますので、私もお手伝いしましょう。幸いにして、ここに説明書が……あれ、何処に行った?」
悪い方では無いのは分かりますが……このうっかりはどうにかならないものなのでしょうか。
「ま、まぁ何とかなるでしょう。いざ、改造室(オペルーム)へ!」
このままでは、ヒロインXXさんみたいな新たなパーツを取り付けられるに違いない。何とかして脱出を……ちょ、ちょっとジェットの調子が?
「じ、自分でやりますから~、誰か、誰かぁ~」
まさか、こんな時に限ってジェットの調子が……!
~~改造室(オペルーム)にて~~
ギュイイイィィィィン、ガガガガガガガガ!!
「これ、本当に大丈夫なんですかー!?」
「ええ、きっと大丈夫です。この説明書によれば……」
「あ、この説明書、ジェットパックじゃなくて、炉心のM・DRIVEの方でした」
「やっぱり、頼むんじゃなかった!!」
「折角ですから、全体的に確認して見ますか」
~~改造室(オペルーム)にて、点検終了~~>>727
「改造室(オペルーム)に説明書が在って、本当に良かった……」
ああ、何事もなく点検が終わって、本当に良かった。
「ギャラクシー・セル・ドライブも動力源のよく分からないエネルギージェムも問題なし、炉心のM・DRIVEも快調でしたよ」
あの、動力源何て言いました?
「強いて言えば、ジェットパックを一時的に最大出力で稼働させた位ですね。まぁ、あの位ならこちらで言うスピード違反に取締される程度のこと。機体には殆ど影響しないでしょう」
「心配ないと言っても、私の生命維持が掛かっているんですがぁ!?」
「ノッブに聞いた、コフッ、が無いだけいいじゃないですか」
ノッブに私の病弱スキルを聞いている、だと。
「その件については、かつてないほど絶好調ですが!」
くそう、このままではノッブのライバルポジションすら奪われてしまうのでは?
「ところで、どうして今日は点検しようと思ったんですか」
む、急に踏み込んで来ますね。この人は。まぁ、隠すほどでもないので話しますか。
「……何かあった時はどうしても気になってしまうんですよ。快調だったので暫く忘れていた、というのもありますが。実は、少し前にユニヴァースで話題になっているというお菓子があると聞いて買い出しに行っていたんです。その時、少しジェットで飛ばしていたこともあって点検したいな~、と」
「あ~、私も銀河有数の名店で予約していた品物を急いで取りに行っていましたからねえ……ハッ」
ヒロインXXさん、頭に電流が走ったような顔をしていますが……
「もしや、オキタ・J・ソウジさん。バレンタイン、バレンタインですね」
ずずい、と距離を埋めてくるヒロインXXさん。
「私もデザイン含めて1からチョコを作って貰いましたから、お互い様ですね。マスター君には大き過ぎない、と微妙な目で見られましたが。二人で食べれば問題なし。もしかして、私と同じく銀河銘菓店でチョコを買った、ということでしょうか」
く、この余裕。これがお姉さん属性、というやつですか……!>>728続き
因みに、土方さんには沢庵を買いました。【スペーストシゾー考案】と表紙にありましたが、まさか、ねえ?
「ああ、あそこですよ。〇〇〇〇、幸いネームレスレッドが懇意にしていたことと、普段は使わない銀河宇宙の権力を使って頼み込んだ結果、予約に成功しました。残念ですが、あそこは高いですし、新参者のオキタ・J・ソウジさんでは予約が難しいんじゃないかな、と」
確か、確かあそこは、並みのサーヴァントでは門前払いを喰らうという、あの!?
「うわぁぁぁん、聞いた私がバカでしたー!」
「そういえば、オキタ・J・ソウジさんはマスターへ何を買ったんですか?」
「は、この流れで聞きますか?」
何なんだ、相変わらず何なんだ、この人は。
「いやですね。仕事が忙しくて、美味しいお店を知っていても、行く時間が取れないんですよ。私も私で、何かしらの特異点で地球に来るまではカップ麺生活が多くて多くて……」
見る見る内にヒロインXXさんの顔が沈んでいく。あぁ、これがマスターの言っていた【疲れたOL】という属性でしたか。
「成程、そういうことでしたら。実は最近有名になったあのお店で……」
おや、ヒロインXXさんも知っていたらしい。少し目に光が戻って来た。
「あそこでしたか。風の噂では、流離のシェフが考案した品が女性に大人気、とか。まさか、ネームレスレッドじゃあ無いですよね、あはは」
ネームレスレッドって誰だろうか。名無し、赤……誰だろう。
「少し前まではコスモヌードルが私の主食でしたが、最近はコスモカレーも出てきていましてね。これがまた、キャンプの時に食べると……」>>729続き
恍惚の表情を浮かべていますが、インスタント食品が主食って、大丈夫なのでしょうか。いや、仮にもサーヴァントだから問題ないのか。
「そ、そうですか」
「ええ、実は太古の昔に失われた幻の料理、カレーライスがユニヴァースでも再現されましてね。他の店でも出るようになりましたが、元祖の味を再現にはまだまだ時間が掛かるのだとか。それはそうと、こっちの食堂にもいるネームレスレッドのカレー。どうも、彼のカレーから懐かしい味がします。どうしてでしょうか」
初めて食べる時は抵抗感がありましたが、食べて見れば老若男女が好む食べ物なのは納得です。偶にノッブの配下やインドの方々が暴走するようですが。因みに、土方さんは福神漬けの代わりに、沢庵と一緒に食べます。
「そうだ、折角です。今からネームレスレッドに頼んでみましょうか」
「は?」
「さぁ、善は急げと言うでしょう、行きますよ、オキタ・J・ソウジ!」
この人、いつも突発的なんですよねぇ。そう言えば、土方さんの沢庵が切れそうでしたね。ついでに、あの台所の守護者にお願いしておきますか。
終わり
文字数が中途半端になったのでレスが多くなったorz
因みにお題はこんな感じです。
【お題】ジェットパックの点検を受けながら、ヒロインXXと雑談する水着沖田さん
バックナンバー的な何か。
>>727>>728>>729お題:食堂で立香ちゃんに夜食を作ってあげるカドック
「はぁ~、遅くなっちゃったなぁ」
バイトの時間が長引いたせいで、帰りがいつもよりも1時間半も遅くなってしまった。
時計を見れば午後の10時30分。アパートまでは徒歩5分で着くものの、バイトの休憩時間に食べたカ〇リーメイトだけではお腹が持たなかったみたいだ。
ぐ、ぐぎゅるるぅぅぅぅ~
腹の虫が静かな町に響く。夜遅くに食べると太るという話はよく聞くが、今日は無理だ。この空きっ腹を抱えて眠れる気がしない。
「仕方ない、か」
財布を見れば夏目さんが二人。これだけあれば十分に食べられるだろう。家への帰路を急ぎつつ手近な店を探す。とは言え、その殆どが居酒屋だ。しょうがない、コンビニに行って適当な弁当でも買うか……そう思っていた私の諦念を他所に、美味しそうな匂いが鼻に届く。
「え、この辺にラーメン屋なんてあったっけ?」
私のフードサーチャーから逃れられる店などあったのだろうか。美味しい店はマシュと行った記憶があるんだけど。決めた、今日はこのラーメン屋にしよう。太るだと、それは後で運動してカロリーを消化すればいい。左右に首を振りながら、匂いの元を辿っていく。
「嘘ぉ?」
幸いにして店は直ぐに見つかった。では何故驚いたのかと言うと、そのお店の名前である慣れない日本語で書かれた【ラーメン食堂】、それは今時珍しい、屋台販売式のラーメン屋だったからだ。幸い、お客さんが一人居るだけで席は空いているようだ。
「すみませ~ん、今やっていますか?」
「……ああ、やっているぞ」
「……え?」
マジか、マジかカドック。君が店主だったのか。
「カ、カドック!?」
「藤丸立香か、お前こんな所で何やってんだ!?」
「それはこっちの台詞だよ、カドック。こんな面白……じゃない、美味しそうな店をやっているだなんて聞いてないよ!?」
「誰が面白いだ、誰が!?」>>731 まさか、知り合いがラーメン屋台をやっていたとは、世の中とは存外に狭いのかもしれない。と、同時にお腹の虫が鳴る。カドックが笑ったら拡散してやろうかとも考えたが、ぶっきらぼうに座れ、と一言。
「あらカドック、その女性とは随分親しい様ね」
「君は一体、何を言うんだ?」
「へ?」
その女性はカドックから見えないように人差し指を立ててくる。あれ、この人は確か……。そして、悪戯っ子のような笑みを一瞬だけ見せた。うん、暫く黙っていて、ということだろう。
「そうでしょう。私と話す時は一歩離れた話し方をするのに、立香さんにはそんな様子が無いじゃない」
「……だとしても、君には関係ないだろう」
「いいえ、大有りだわ。あなたのラーメンが宝蔵院のラーメンより勝るその時を見る為に、私はこうして足繁く通っているのよ。それなのに……」
うん、カドックは相変わらずアナスタシアさんに弄られているなぁ。見ていて飽きが来ない。ただ、そろそろ私のお腹の方もエマージェンシーコールが鳴りそうだ。
「アナスタシアさん」
「リツカさん、面白くなってきたからもう少し……」
「今、面白いって言ったよな、アナスタシア」
そして、二人の会話を遮るように鳴る私の腹の虫。
「ごめんなさいね、リツカさん。つい……」
「まぁ、カドック弄りはアナスタシアさんの日常だもんね」
「……分かっていたなら止めろよ、藤丸立香」
止めたら止めたで、別の面倒事が起きそうだけどね。
「それでアナスタシアさん。カドックのラーメンのおすすめは?」
「断然、ショウユね」
サバスタグラムで「わたくし、この一杯のために生きている……!」と言うコメントと共にラーメンの画像を上げる猛者だ。間違いないだろう。>>732
「カドック、醤油ラーメン大盛りで」
「……少し待っていろ」
カドックが私の注文を請けて調理を始めた。そう言えば、ラーメンを食べるのは久し振りだなぁ。まさか、知り合いのラーメンを食べるとは思わなかったが。麺の湯切りも随分と手馴れている。ロックが好きとは聞いていたが、まさかラーメンを作る屋台をやっていたとは。今度、マシュや他の方も連れてこよう。
「……出来たぞ」
醤油をベースとした透明感のあるスープの湖に浮かぶのはカドックお手製の細麺、小麦の薄黄色とスープの茶色が食欲をそそる。それだけではない、船のように浮かぶのは薄切りされたチャーシュー二枚、湖の縁に佇む黒い海苔。そして、細麺の大地に散らされた青ネギ。パッと見た感じはシンプルな作りのラーメンだ。だが、シンプルだからこそ、店主の腕が試されるラーメンだろう。いざ、実食……と、その前に。
「ありがとう。お金はこれでいい?」
「ああ……」
「よし、頂きます!」
まずはスープを一口。味を確かめるように口の中で転がしてみる。
「……美味しい!」
「良かったわね、カドック」
「うるさいぞ、アナスタシア」
やはり、サバスタグラム界のラーメンマニアの言う事に従って良かった。透明感のあるスープを口の中で転がすと、醤油だけではなく鰹節の優しい香りが口の中で広がっていく。あと一つ、二つの隠し味がありそうだけど、何だろうか。続けて麺をズズッと啜る。うん、麺に絡んだスープの香りが口に広がって……次の一口が待ち遠しい。
「ん~、美味しい!」
お腹が減っていたのもあるだろうが、これならマシュも今度連れてこよう、絶対に。そう言えば、この麺を啜るのって、海外の方は出来ないと聞くけどアナスタシアさんは出来るのだろうか。徐に横を見れば、残り少ないラーメンから箸で掴み、レンゲに入れてから麺を口にしていた。やはり、難しいのかもしれない。続いてチャーシュー。お腹が減っていたから、厚い方が……とも思っていたが食べてみてその考えを撤回する。このスープの味に絡ませるためにこの薄さにしていることが直ぐに分かったのだ。そして再び、麺を一啜り。うん、これを一回しか食べないのは勿体ない。今度、何処でやっているのかアナスタシアさんに教えて貰おう。カドックだと言ってくれない気もする。>>733
「やぁ~、美味しかった」
気が付けば、あっという間に器が空になっていた。アナスタシアさんの器も水洗い程度で済ませられそうな程だ。ふとカドックを見ると、薄く笑っていた。
「全く、こんな時間によく食べられるな」
「そりゃあ、お腹空いていたからね」
「それはそうだろうが、こんな時間に女性がラーメンを食べると太るんじゃないか?」
「カ ド ッ ク?」
「……ご、ご馳走様カドック、またやっていたら来るね!」
いつも通り、アナスタシアさんと言い合いをしていて返事を聞くことは出来なかったが、その内にまた食べられる、そんな予感がしていた。
そうして後日、マシュと一緒にカドックの屋台へ行こうとした矢先、噂を聞き付けたキリシュタリアと合流して阿鼻叫喚の夜食となったのは別の日の事。
……終わり──いつか冬が過ぎて新しい春になったら……二人で……花を見に行こう
その約束は、真冬に降り積もる雪のように、今日もまた果たされる。
──春が来た
この季節になると、決まってお重箱に料理を詰めて桜を見に行く。それが、私と先輩のちっぽけな、だけど大切な約束。弱くて、身勝手な私を守ると言ってくれた、誰よりも強い先輩が私にくれた、持ちきれない程の幸せと抱え過ぎた罪の証。
「桜、そろそろ行こうか」
「はい、先輩」
今年も料理を詰めた重い荷物を先輩が持ち、私がレジャーシートを持って家の鍵を閉めた。先輩がくれた眩しい世界の中で、私は先輩の横に立つ。
「悪いな、桜」
「いえ、先輩の方が重い荷物を持っているんですから、この位は任せて下さい」
「そう、だな。料理の腕も洋食では叶わないしなぁ。それに和食の腕もそろそろ危ないか」
洋食にはそれなりに自信がある。ライダーにも姉さんにも好評だ。だけど……
「そ、そんな事はありませんよ。まだまだ教えて欲しいことは沢山あるんですから!」
和食特有の食材に関する知識や調理方法など、まだまだ先輩には届かない。
「そ、そうか。なら、俺も面目躍如、かな」
頬を人差し指で掻く先輩の横顔が愛おしい。
──その日々は夢のように、温かく>>735
「そういえば……ライダーは後から来るんだっけ」
「はい、バイト先から少しだけお手伝いして欲しい、と言われちゃったみたいです」
「あんまり遅くならないといいな、ライダー」
「ああ、それでしたら大丈夫です。確かに残念そうにはしていましたけど、長くはならないから先に行っていて欲しい、と」
「何だかんだでライダーも楽しみにしているからな、毎年」
「はい」
人前に出ることを好まないライダーだけど、この日は私達の約束の場所へ一緒に向かう。そうして、料理を少し摘まんだ後は本を読むことが多い。だけど、その年の春、花を見に行く日は別だ。不意に、一陣の風が私達を撫でる。
「──あ」
花びらを散らした春の暖かい風が、長かった冬を想起させる。生きていて良かったと感じたことなど、先輩と過ごした時間以外で無かったけれども。それでも、寒かったあの日々はもう過去のこと。空は今日も青く、降り注ぐ日差しは先輩のように暖かい。
「今年も満開ですね」
「そうだな。今年も満開だ」
気が付けば、集合場所の公園に着いていた。
「桜、士郎」
「こっちよ~、士郎、桜ちゃん」
一足先に来ていた姉さんと藤村先生が私達を呼んでいる。
「行こう、桜」
「はい」
──私達は重い扉を開くようにゆっくりと歩く、変わる季節を踏みしめるように>>736
空を埋め尽くすように咲いた満開の花は、今年も変わらずに咲いている。そうして今年もまた、1年が始まるのだ。
「いやぁ~、やっぱり春は花見よね。桜を見てビールを一杯、桜ちゃんと士郎の料理を食べて更にもう一杯。くう~、酒を飲む手が止まらないぜぇ~」
「もう出来上がってるよ、この虎は……」
「し~ろ~、ビール頂戴~」
「はいはい」
藤村先生らしいと言えば藤村先生らしい。先輩が呆れた顔でお重箱から料理を取り出せば、空になったプラスチックのコップにビールを注ぐ。
「聞いてくれるぅ~。最近ね、私を見る皆の視が日に日にさぁ……」
苦笑いを浮かべながら、先輩は藤村先生の愚痴を聞く。
「桜、私にも貰えるかしら」
「はい、姉さん」
藤村先生程のペースではないが、姉さんも同様だ。
「……これ、桜が作ったの?」
「あ、分かりましたか?」
「……うん、あの家みたいに優しい味がする。とても美味しいわ、桜」
気恥しくなって目を逸らしてしまう。横目で見ると、姉さんも同じだったらしい。顔を赤くしていた。間桐に引き取られてから過ぎ去ってしまった時間を取り戻すことは出来ないけれど、これからは姉さんとの時間も大切にしていきたい。
「……まだありますから、食べますか?」
「そ、そそ、そうね。折角の桜の料理だし、ね。もう少し、頂こうかしら」
──今年もまた、良い一年になりますように>>737
暫くして、公園に見慣れた人が目に入る。
「おや、もう始まっていましたか」
「ライダー、もう用事は終わったの?」
「はい、桜。それとこれを」
ここへ来る前に買ってきたのだろか。すると、姉さんに絡んでいた藤村先生がにゅっと、こちらに顔を見せる。
「あ、ライダーさんじゃな~い。それでぇ、桜ちゃんに渡した物はなぁに?」
期待一杯の視線から逃げるように、ライダーが私の方を向いて答える。
「バイト先からの差し入れです。急に来てもらったから、とお酒を頂きました」
「さっすが、ライダーさん。桜ちゃん、桜ちゃん、それじゃあ一つ頂こうかな~」
「昼なんだし、あんまり飲み過ぎるなよ、藤ねえ」
先輩はため息をつきながら、藤村先生と便乗した姉さんにお酒を注ぐ。
「ライダーはどうする?」
「そうですね、まずは料理を頂いてから、貰ったお酒を頂くことにします」
「分かった。それじゃあどれから食べる、ライダー?」
満開の花に青い空、そうして隣にはライダーが、姉さんが、そして、あなたがいる。
──今日もまた、私は生きていく。償えない影を背負ったまま、あなたの側で>>738
太陽が西に傾き始める頃、私達は長い階段を昇って、柳洞寺へ足を運んでいた。
「衛宮に桜さん。今日もお参りですか」
「よぉ、一成。まぁ、そんな所だ」
「こんにちは、柳洞さん」
軽い会釈をする。
「衛宮は勿論だが、桜さんもお変わりないようで何よりです」
水の入った水桶と柄杓が二つ、登って来る間に入れてくれたのだろう。それを有難く頂戴する。
「行こうか、桜」
「はい」
本堂の伽藍を外れた所にそれは在った。これは私の罰。贖えない罪を背負いながら、日常を謳歌する私への罰だ。そう、それは聖杯戦争で行方が分からなくなった多くの方を纏めて弔う公営墓地だ。お線香を焚き、石碑に水を掛ける。一部枯れた花があったので、それを新しい花に挿し替える。
「──……」
時折、思い返すことがある。もし、私がアンリマユに同調せずに堪えることが出来たなら、これほど多くの方を殺してしまうことは無かったのではないか、と。もし、私が居なければ、間桐では無かったら、と。
「……くら、桜!」
「……は、はい」
包み込むように握られた両手を見る。これから私は生ある限り、贖い続けるだろう。あの時は、私が居なくなれば全てが終わる、と思っていたけれども。
「大丈夫、俺はここに居るから」
──それでも私の側にいて、私の幸せを願う大事な人たちが此処に居る>>739
何時までそうして居たのだろうか。気が付けば、空は橙色から深い青の色に変わりつつあった。
「ありがとうございます、先輩」
あなたが側にいてくれる。たったそれだけで、私の世界は色を取り戻す。それなのに、これ以上にない程幸せなのに、どうしようもなく苦しいのだ。
「ご心配、お掛けしました」
喜びも苦しみも等しく、私とあなたの手のひらで溶けて逝く。例え、自分が原因では無かったとしても、自分がしてしまった事を戻す事は出来ないのだ。
「……大丈夫か?」
大丈夫か、と言われれば今は大丈夫かもしれない。だけど、また何時か。自分のしてしまった事に耐えられなくなるかもしれない。
「……お手入れも終わりましたし、帰りましょうか。先輩」
それでも、あなたは側にいる。私を守る、と言ってくれた。
「分かった。帰ろう、桜」
正義の味方になる、と言ったあなたの夢を壊してしまった、あなたの体を壊してしまったにも関わらず、あなたはそれでも手を取って帰ろう、と言ってくれた。だからこそ……
──私の側に入れてくれるあなたの側で、今日も幸せと罪を想い続ける
【特にお題があった訳ではなく、HFを見て何かを書き残したくなりました。うん、もう一度見に行こうかなぁ】
>>735>>736>>737>>738キスとかないですけどふんわりBL空気です
古代ギリシャ世代に青は存在しなかったらしい。
……いや正解には存在はしていたのだろう。色の3原色なのだからないほうがおかしい。正解には存在していたけど認識されていなかっただけとか表す言葉がなかっただけとか、そんな感じではないだろうか。
なんにせよ、小さい頃から当たり前にある存在がないという感覚は、よく分からないけれど。なんだか不思議な気持ちにさせられる。
それに関してヘクトールは言う。
「うん青。青ってのはうん。よろしくない色だね。なかったことにされてたのはよく分かる。ありゃあ魔性だよ。そこにあるってだけで人の心を一瞬で掴んで駄目にする力がある。驚きの吸引力」
「そんなにぃ?」
「そうそうそんなに本当に」
いつになく饒舌に大袈裟に語るヘクトールを不信な顔で見ればまた笑って頷き、こちらの顔に手を添える。
空気が変わる。
掠めるに近い、くすぐったいほどそっと目元をヘクトールの親指がなぞる。その表情はどこまでも優しく穏やかで
「本当に、いい色だ」
そう語るヘクトールの微笑みに、こちらの方が吸い込まれそうなほど見惚れてしまった。>>742
「先行舞台として到着したはいいが……」
一昨年はホノルルとハワイが合体したルルハワ、昨年はラスベガスだった。今年も素晴らしい都市だろう……そんな想像していた私達が見た光景は、見渡す限りの緑と湖だった。
「しかし、これは参った。せめて、どんな場所か分かっていれば良かったのだが。これでは、折角のアロハが栄えないではないですか」
「それには同意しよう、ガヴェイン卿。しかし、我らの役割はマスターが安全に過ごせる場所の発見と周囲の散策です。我ら三騎であれば、大抵の敵は払うことが出来るでしょう」
「そうだな、ランスロット卿」
無事に特異点へ到着し、周囲に敵が居ないことを確認した三人は手に持っていた武器を仕舞う。
「まずは、マスター達の拠点になり得る場所を探しましょう。行きますよ、楽しいトリスタン」
「私は哀しい──このような場所では曲を聞かせる相手が居ないではありませんか」
何故、三人がアロハのまま出撃してしまったのか、それは度重なる夏の魔力に中てられた……のだろう、きっと。生前にはっちゃける場が少なかったからとか、そんな事ではないはずだ、きっと。しかし、そんなアロハな三騎士でも彼らは円卓の騎士。幾度の行軍で鍛えられた彼らの健脚が、それを見つけるのは時間の問題だった。
「ふむ、これはコテージか。マーリンや他の魔術士が来れば詳しい事は分かるだろうが、拠点としては十二分か」
「しかし、問題は中です。そこに危険があってはマスターも安全に過ごすことが出来ないでしょう」
「そうだな。ガヴェイン卿、トリスタン卿。まずは中を調べることにしよう」
気配がない事は分かっていたが、三人は一応の警戒をして散策を行う。しかし、何が起きる事も無く、室内の散策は終了した。内装はサーヴァントやマスターが数人で屯しても問題ないほど広いラウンジ、キッチンなどの水回り、二階には大所帯でも問題なく泊まれそうな個室が複数、と。しかし、それだけの施設が人気の無いこの場所にあることが少々気がかりだった。
「このような場所で、此処まで揃っているものなのか?」
「……時代の違いはあるかと思いますが、卿の意見に同意ですね。ラスベガスやルルハワのような都市であれば兎も角、秘境と呼べるような場所でベッドに水道などがしっかりと通っている……このような事があるのでしょうか」>>743
「ですが、これ程の拠点は他に無いかと。他の先行部隊が到着次第、直ぐにこの場所を伝えた方が良いですね」
「違いない」
ふと、窓から覗く太陽を見れば、天高く昇っていた。
「もうこんな時間か。簡単なものだろうが、食事にするか」
三人が取り出したのは、先行部隊に渡された食事で、カルデアのキッチンを預かる赤い人が監修したものだ。数分程度で仕上げているのを見たランスロットはそれを簡単な料理と言ったが、赤い人が監修した数分程度の食事は彼らが数分で出来るような料理とは比較することすら。
「……美味い」
「ふむ、これにマッシュとエールがあれば言う事なしですね」
「……私は哀しい。草花のような色鮮やかな食事を味わう機会がサーヴァントになってからだったとは」
三人はコテージを出た後、湖畔などを散策していたサーヴァントを発見する。
「……と言う訳で、この辺りにマスターがレイシフトしたならば、其処にあるコテージへ」
「了解した。それで、これから貴方達は何処へ?」
「ええ、三人で森へ行こうかと。貴方達の話だと狂暴化した獣がいるとか。それでしたら、調査ついでにマスターが来る前に少しでも狩っておこうと思いまして」
すると、集まっていたサーヴァントの1騎であるジェロニモが口を開く。
「貴方達に限っては、万に一つも無いかと思うが、どうか気を付けて欲しい。まだ調べられていないのだが、この土地は何かしら呪的な影響があるみたいだ」
「ご心配頂き、ありがとうございます。もし、何かあったら直ぐに声をお掛けしますので」
ジェロニモとの話を一度切り上げたガヴェインが、近くで曲を弾いているトリスタンと、もう一方で情報収集しているはずのランスロットを探そうとして……そのランスロットが呆然とした立ち姿で湖を見ているのが目に入った。
「──ランスロット卿?」>>744
「──ランスロット卿?」
「ああ、ガヴェイン卿か。済まない、少し気になることがあってな」
そうして湖を眺める端正な顔は、眉が釣りあがっていた。
「貴方程の者が珍しいですね。もしかして、マシュ殿かガレスの事でしょうか」
「その二人も気になっている所ではあるが、目下の悩みは目の前の湖でな」
「湖、ですか。ああ、貴方は──」
「ああ、不思議なことにあの湖を見ているとな、私に囁いてくるのだ。この湖には決して入るな、と」
ガヴェインはその言葉で、ジェロニモが話していた内容を思い返す。
「……それは」
「ああ、もしかしたら我々が向かう森も同じかもしれん」
「なるほど、一層気を付けなければなりませんね」
トリスタンを回収した二人は、拠点となるコテージの場所を伝えた後、ジェロニモ達とは合流せずに深い森へ足を運ぶ。
──それがこの夏の最後の思い出になるとは、この時の三人は想像すらしていなかったが。
彼らが入った深い森は長い間、人の手が入っていなかったらしい。家の支柱にも使えそうな程に太い幹を持つ木々が、空からの恵みを奪い合うように天へと伸びていた。
「これ程の深い森が、この特異点では色濃く残されているのですね」
「そうですね、森とはこのように、人の手が無くとも逞しく生きることが出来るのですね。ところで、貴方はどう思いますか、ランスロ……ット卿?」
アロハを着ているにも関わらず、その端正な顔からは気難しい表情がありありと浮かんでいた。>>745
「……ガヴェイン卿、トリスタン卿、この森について貴公らの意見を伺いたい」
「突然どうしたのですか、ランスロット」
「ジェロニモ氏とランスロットの予感が当たりましたか。戦っても勝てる相手ではありますが、これは撤退すべきかと。どうやらこの森も普通の森では無いようです」
「私も同意見だ。直ぐに撤退して……何だ!?」
──先程まで日は高く昇っていたはずだった。しかし、周囲を見渡せば辺りは真っ暗な闇に覆われている。そう、いつの間にか夜になってしまったのだ。平常時であれば、その程度の危機も物ともしない彼らだが、この特異点の夜は怪談から始まる恐怖の祭典。オオカミの遠吠えがあちこちで響けば、姿なき人影が跋扈する夜の森へ変貌する。気が付けば、近くで歩いていた筈の二人が姿を消していた。
「……ガヴェイン卿、何処だ。返事をしろ!」
如何に屈強な彼らであろうと、その法則に打ち勝てるものでは無かったらしい。
「──わ、たしは哀しい。今年は夏を……謳歌出来ないのですね」
「何処だ、トリスタン卿。私の声が聞こえるならば返事をしろ!」
一夜毎に彼らは姿を消してゆき……
「っぐ、まさか私がこのような……マ、マスター、どうかご武運……」
……深い森で短い夏を終えたのだった。
──終わり
本当は夢の話まで書きたかったけど、浮かばなかったorz
ところで、どうして彼らはアロハだったのでしょうか。
あれ、獅子王の魔力とかだったよね、あれ。まぁ、細かいこと気にしたら負けか。>>742遅れてしまったこと、申し訳ありません。ついでに投稿直前に、お題がマスターのおすすめ作品だったことに気付き、無理矢理軌道を合わせた(実は合っていない前提の作りなんだけど)ので、ダメだったら作り直します。それはそれとして、とりあえず作ったので投稿します。
山で楽しくピクニック……だったはずが、大量の脱落者を出す結果となった夏の特異点。後から振り返れば、偽のマスターが現れたり、色々とおっかないサーヴァントである虞美人が二人に分裂していたり、と自分がマスターの側に居ない間に色々なことがあったようだ。噂の一つには自分同士の戦いもあったらしいが、一体何の事を言っているのだろうか、さっぱり理解が及ばない。さて、何だかんだで最後まで残った数少ないサーヴァントの一騎であるマンドリカルドは、この間起きていた事象について改めて確認しようと思い立ち、マイルームに戻ろうとするマスターに声を掛けて、確認していた。
「……つまり、この間の特異点は様々なホラー映画をモチーフにしていた……ってことすか」
「うん、幽霊やゾンビが群れになって襲ってきたり……サーヴァントでも考えられないような怪力をした敵が追いかけてきたり……みたいな。ホラー映画でも色々な種類があるみたいで」
「へぇ、怖がる為の娯楽があるんすね。今の時代は」
生前を思い返したものの、娯楽事情に疎かったマンドリカルドは生返事をするばかり。
(やっべー、折角話して貰っているのに、分からないことばかりだ)
「まぁ、そんな俺も今まで進んで観たことは無かったんだけどね。当事者になると結構怖いものだったよ……負けず劣らず、変な展開も多かったけど」
「……変な展開って何すか?」
唐突に発生する特異点(イベント時空)での出来事は、毎回のように訳の分からない展開が起きる、ということを既に知っている。何だ、チェイテピラミッド姫路城って。
「例えば……ホラー現象が起きた時、お約束のように死亡した後、当然のように復活するパイセンとか、ジャンクフードを食べながら幽霊退治とか、扉を破壊する髭とか……うん、どうしてああなったんだろう」
当事者であるマスターすら、そんな感想なのだ。それを聞いたマンドリカルドが理解できるはずもなく、段々と死んだ魚のような目に変わっていく。>>747
「……つまり、あの水着の聖女様が使い魔にしていた鮫みたいな話が起きていたってことっすか」
訳の分からない最たる事例を挙げて、何とか納得しようと言葉にした直後、
「ゴホッゴホッゴホッ……」
突然、マスターが咳き込む。
「だ、大丈夫っすかマスター?」
「な、何でも……ないよ」
しかし、その表情を見る限り、トラウマを思い出させてしまったのだろうか。そんな自分が嫌になる。
(あの慌て方を見る限り、過去のイベントで絶対何かあったな)
「……いや、大丈夫だって。あの時は兎も角、今は姉と認識してないから大丈夫、大丈夫」
「そ……そう、っすね」
(確かに、あの水着の聖女の方がよっぽどホラーっすよね、何だ、姉って。空気が悪くなってしまった、どうしようか。何か、何か良い話題を……そ、そうだ)
「あー……話は変わるんですが、マスター……その手の娯楽ってよく分からないんすけど、マスターの時代には色んな作品があるらしいじゃないすか。それで思ったんですが、(今後の為になるような)ホラー映画って下のライブラリで見れたりするんすかね」
「うーん、ホラーはあんまり詳しくなけど、式部さんに聞けば探してくれるんじゃないかなぁ。そう言えば、前に借りた本を返すの忘れていたから、一緒に行く?」
「い、いいんすか、マスター」
(正直、一人だと何借りたらいいか分からなかったんで、助かったっす)
「うん。それにしても映像作品かぁ……此処に来た時に視た、聖杯戦争に関する映像資料も見たけど、あれは面白かったなぁ」
「え、聖杯戦争の映像作品?」
「うん。俺はあの作品の主人公みたいに戦えはしないけど、ああいうのもいいなって」
(聖杯戦争で戦う……俺みたいなサーヴァントがメインの話っすかねぇ。マスターが面白いというなら借りて見ようか)>>748続きます
~~偉大なるアレクサンドリア恐るべきイヴァン可憐なる紫式部図書館にて~~
「……と言う訳で、ホラー映画を何本か見繕ってもらっていいかな、式部さん」
「承知致しました。それとマスターが借りられた本は私の方で戻しておきますね。ところで、マンドリカルドさんはどんなジャンルを観られたいのでしょうか」
「初めて見るのにおススメなのって、あるんすかね」
(うう、あまり話さない人だし、目のやり場にも困るし、いつも以上に緊張する)
「そうですね、色んなジャンルがありますので……」
そんな俺の心境など知る由など無く、マスターの依頼を請けた紫式部は慣れた様子で作品を探し始める。
(俺みたいな三流サーヴァントが役に立てるとしたら……そうだ)
「……あ、あと、一ついいっすか」
「何でしょうか?」
「あの、その……せ……に関するもので、何かいいライブラリってあるんすか。もし、こっちもホラーのような資料があるなら観てみたいっす」
(レイシフト先では何が起きるか分からないんだし、色々な事例を知っておいた方がいいよな、きっと)
ダメで元々、無ければ他の資料を見ればいい。そんな考えで聞いたのだが……
「そういえば最近、新しいライブラリが入ったんですよ。実はまだ、私も観られていないんですが……良かったら先に観ますか?」
意外なことに、そんな作品があるのだと言う。
「え、いいんすか。まだ、式部さんも観ていないのに」
「他にも色々な作品がありますので。それで、鑑賞されましたらこちらまで戻して頂けたら、と思います」
(この人も観たいだろうに、何か悪いことをしてしまったっす)
「あ、ありがとうございまっす」>>749まだ続きます。
それからマンドリカルドは、紫式部から他のホラー映画を借りた後、折角だしという心持で図書館の内部を散策していた。トロイア戦争やヘクトール様に関する書籍もあったので、それらの貸し出し手続きを終えた時、図書館の入り口からマシュと一緒に入ってきた。やはり、誰かに呼ばれた後にミーティングでもしていたのだろう。
「ごめん、マンドリカルド。途中で離れちゃって」
「いいんすよ、マスターは忙しいですし。それに、受付にいる人が見繕ってくれたんで」
俺が何を借りたのかが気になったのか、マスターが徐に此方の手元を覗き見る。
(おっと、これは見られたくないので……)
「最近、そういうの観てなかったからなぁ。もし、面白い作品があったら教えてね」
「うっす。マシュさんも一緒に観られる作品だったら、是非おススメしとくっす」
「そ、そうですね。マスター、今度一緒に映画を観ましょう!」
マシュが若干照れた顔を見せながら図書室を後にする。それを観て、マスターは子供の成長を見守る親のような顔を浮かべていた。
「マシュも期待してるし、面白いのがあったら宜しくね」
「うっす」
そんなマシュを仕方ないなぁ、と言いたげな顔を浮かべて、マスターはマシュの後を追った。
「……ふぅ、何とかこれはバレずに済んだか」
幾つか借りた映像作品の内、マスターには見つからないように他の作品の下に隠した作品が一つ。
「聖杯戦争……っすか。俺みたいな三流サーヴァントには縁が無いとは思うっすけど」
この時のマンドリカルドは知らなかった。今後の為に、と図書室から気軽に借りた聖杯戦争の映像資料は、マスターが言っていた作品と違っていたこと、そしてその作品を観ることで、彼の心を深い傷を残す事になるなど。>>750続きますよっと。
翌日、マスターは高難易度のクエスト編成を考えながら廊下を歩いていた。
「うーん、アーチャーとアベンジャー、か……ん、あれは」
どうしてか、マンドリカルドがふらふらした足取りで廊下を歩いている。
「あれ、マンドリカルド。ゲッソリした顔してどうしたの?」
「あー、マスター、ですか……この前言っていたホラー映画って奴をですね……」
「え、そんなに怖い作品があったの?」
「ま、まぁ、そんな所っすね。暫く黒くて細長いものは見たくないっすね……」
「え、何でそんな具体的なの?」
マンドリカルドの様子を心配していたマスターの後ろから、ゆっくりと、されど音を立てずに近付く紫髪のサーヴァントが一人。
「はーい、何処からともなくやってきた、貴方の後輩BBちゃん、です!」
突然、話しかけられて驚いたマスターと、聞き覚えがあり過ぎた声とその姿を見て一層顔を青くするマンドリカルド。
「急に驚かせないでよ、BB」
「えぇ~、先程アベンジャークラスがどうのって言っていませんでしたかぁ?」
何処から聞いていたのか、そもそもどうしてこのタイミングに限って近くにいたのか。マスターは突っ込みを入れないことにした。
「……うん、そうだね。実は、今度の高難易度のクエストにアベンジャーのクラスが居てさ。良かったらマンドリカルドも……え?」
そうして異変に気付く。BBを見た瞬間、頭が真っ白になったのかマンドリカルドが直立不動になっていたのだ。
「え、どうしたの、マンドリカルド!?」
ニヤリ、と誰かが笑みを浮かべた気がした。
「マスターさんと、そこの冴えないサーヴァントに朗報です。突然ですが、BBちゃん特製キャンディーをどうぞ!」>>751これで終わります。
突然、BBがそんな事を言い出すと、何処から取り出したか分からないオレンジ色のキャンディーを渡される。状況がよく分からないものの、悪意は無さそうなので、マスターとしてとりあえず受け取ろうとしておもむろに横を見ると……目を閉じて退去しようとしているマンドリカルドが其処に居た。
「マ、マンドリカルドォォォォッ!!?」
突然の事態に、珍しく絶叫を上げるマスターの声に気が付いたのか、マンドリカルドが薄っすらと目を開ける。
「……マスター、ごめんな。俺はもうダメみたいだ。あの聖杯戦争のように、俺は、これから……」
……バタン
「え、ちょっと、マンドリカルド!?」
気絶してしまったマンドリカルドを見て焦るマスターを他所に、一連の流れを見ていたBBは腹を抱えて笑っている。
「あ~、これはもうちょっと時間を置いてからの方が良かったですかねぇ。この反応も面白かったですが、そっちの方がもっと面白い反応をしたかもしれません」
「BB、何をしたの?」
およそ、原因であろうBBをジト目で見る。
「ヒドイです。マスターさん、私を真っ先に疑うなんて、BBちゃん、ショックで泣きそうですよ」
「今の様子を見ると、BBがマンドリカルドに何かしたようにしか見えないんだけど」
「……まぁ、それはそう思いますよねぇ~。ただ、今回に限って私は何もしていませんよ。どうしてそこのちっぽけなサーヴァントがそうなったかを知りたければ、図書室にいる方に何を借りたか聞いてみればいいんじゃないですかぁ?」
──逃がしません♡
何故だろうか、BBの攻撃ボイスが聞こえたような……そんな幻聴を振り切ったマスターは、マンドリカルドと話していたことを思い出す。
「マスターさん、気になっちゃいましたか、気になっちゃいましたか?」
「……何となく、オチが見えたんだけど」
「何の事でしょうか、マスターさん。善は急げと言うらしいですから、早速レッツゴーです」
その後、マスターが真っ白になった姿を見たサーヴァントが集まり、その様子をにやにやと眺めるBBが居たとか居なかったとか。夜遅く、間も無く寝ようかというそんなタイミングでマイルームにノックが響いた。
「はーい、誰?」
「……私よ」
こんな時間に訪ねてくるなんて珍しい──
この時はまだ、そんな気分でメルトを出迎えた。
「それで、どうしたの?」
返事はない、おかしい、普段の彼女なら二言も三言も愚痴を言い出すのだが……と、
普段であればトレードマークでもある鈍く妖しく、しかし美しい棘を携えた金属質の足を普通の少女のような足に変えると彼女はしなだれかかってきた。
慌てて抱き抱えてみれば微かに震えている。
──彼女が?
普段はとてつもない自信家である彼女が?
予想外の事態に戸惑っていると、彼女は服を少し引っ張りながら顔を上げた。
いつものキスの合図だ。──けど、表情はいつものそれと違う。
自信で輝かんばかりの顔とは違う、不安気なそれは華奢な彼女の身体つきと相まって今にも消えてしまいそうなんて──
そんな風に思わせた。
いつもより少し長いキスの後、彼女はか細い声で──
「……抱いて」
と言った。>>753
あまりの緊急事態に脳がフリーズしていると、さらに
「……お願い」
さらに身体を寄せて話す彼女に、これはただならぬ事態だ──ようやく、そう認識できた。
注意してお姫様抱っこで持ち上げた彼女はとても軽く、思わず感じた強烈なまでの非実在感をほのかに香る甘い匂いと腕から伝わる熱が打ち消した。
そのままベッドに連れて行き、二人で布団を被ると──
「……ちょっと、何するのよ」
優しく抱きしめ、ゆっくりと髪を梳くように頭を撫で始めた。彼女はむずがるような少し不満気なような、いつもよく見る顔をした。
「うん、その顔が見たかった」
「ば、バカじゃないの……⁉︎」
部屋は暗くともこの距離では彼女の赤くなった顔は隠せない。とりあえず普段の彼女を引き出せた、ひとまずはいいだろう。
──さて。
「……それで、どうしたの?」
「……」
答えない。彼女なりの複雑な想いをなんとか言葉にしようとしている時の癖だ。そのままゆっくり頭を撫で続けると──
「……怖いの。何故か急に私が砕けて散ってしまう様な気がして。もう二度と──貴方に会えないような気がして」
しおらしさはその為か。ポツポツと、自分が消えてしまいそうなほど儚いのが怖くてたまらない、貴方に会えないのは寂しい──と、普段ならば言う事は無いであろう想いをいくつも、いくつも涙を流しながら吐露していく。
「抱いて」と言ったのは証が欲しかったのだろうか。今や嗚咽でまともな言葉も喋れない彼女を優しく抱きしめ、頭を撫で続けた。>>754
──そうして。
いつの間に眠ってしまったのだろう。朝目覚めるとそこにはいつもの姿のメルトが居て、よくわからない事を早口で捲し立てると、さっさとマイルームから出て行ってしまった。
あの姿はなんだったのか──なんて苦笑しながら、きっとそんな夜もあるのだろうと結論付け、いつもの朝の支度を始める。
……また、あんな彼女に会う事があったのなら
「覚悟──決めなきゃかなぁ」
と、ヘタれた自分を戒めながら。マスターの指示の下、無事にモンスターの討伐も終わった俺達は、よく分からない誰かにも関わらず、村から歓待を受けていた。皆が料理や酒を思い思いに食べているが、見張りは大丈夫なのか。ふとそんな不安が頭を過る。
「あー……マスターちゃん、今日はパスで」
「分かった。もし、欲しいのがあったら気軽に言ってね。斎藤さん」
「ありがとさん」
こんな時に酒を飲んで襲撃でも受けたらねえ、一人くらいは直ぐに反応できないと。
「お酒、辞めたんですか?」
ふと苦い記憶を思い返していた時に、沖田ちゃんから声を掛けられるとは。それにしても、随分と雰囲気が変わったもんだ。
「あー、そういう訳ではないんよ。沖田ちゃん」
「?」
「まぁ、色々あってねぇ。俺から言えることは、仕事中に飲むと碌なことが起きない、ってことさ」
「あー……」
何せ邪馬台国での事、あの人斬りが言っていた事は事実なのだから。
「あの時に梅戸が居なかったら、俺はあの時に死.んでいたからねえ。おまけにあいつは重傷を負った、と来た」
「そ、そうでしたか……」
「ま、そんな訳で俺はパスパス。沖田ちゃんは楽しんできた方がいいんじゃない」
「……すみません」
しょげた犬のように、沖田がマスターの近くへ寄っていく。が、団子を貰ったのか直ぐに表情が晴れていった。
「そうそう、それでいーのよ、沖田ちゃん」>>756続き
俺は最後まで生き延びたが、沖田ちゃんは体の所為で戦うことすら出来なかったんだ。今くらい、楽しんだっていいっしょ。まだ、此処に来て間もないが、それでも驚く事ばかりだ。沖田ちゃんの事にしろ、副長の事にしろ、自分が知らなかっただけで変わったことが沢山あるらしい。後、織田信長と上杉謙信は女だったとか。いや、驚くだろ、フツー。……気を取り直して、マスターを含めた全体の状況を再度把握する。
与えられた拠点の広さは申し分ない。マスターにマシュ、それと6名のサーヴァントが出入りしても問題ない広さがある。マスターとマシュが休んでいる間の見張りの交代要員も十分だろう。沖田にしろ、赤い弓兵にしろ、腕の立つ者が英霊となることが多い。この場所に危険は無いだろうが、念には念を入れて、酒は控えるとしよう。
……とは言えど、このままでは暇を持て余すだけだ。折角だから、コロッケそばをもう一杯貰おうか。次はカレーコロッケのコロッケそばを食べてみようか。……何だ、沖田ちゃんが何かを持ってこっちに来ているな。
「斎藤さん、折角だから一緒に食べませんか」
「おっと、気が利くねえ沖田ちゃん」
持っていたのはまさかのコロッケそば、と団子。あの赤い料理人にでも見繕って貰ったのだろう。
「それじゃ、頂きます」
「それにしても、斎藤さんのそば好きは知っていましたが、意外と合うんですねえ、コロッケとそば」
同じくそばを食べながらそんな事を聞く。
「俺も意外だったよ。こっちに来たのはいいが、立ち食い感覚で食べられるものって頼んだらね。天ぷらが無いなら、かけでいいよ、ってあの赤い弓兵に言ったんだけど……」
今も尚、デザートを作っている赤い弓兵を見る。
「コロッケならあるぞ、とね。まぁ、物は試しだ、と思って食ってみたんだが、これが嵌っちゃってねえ」
「料理については何でも知っていますね、あの弓兵」
「天かすよりも油が少ないから、意外と合うんだよ。そして、つゆに浸して柔らかくなったコロッケをそばと一緒に食べる……すると、また違う味になる。これを生きている時に知っていればなぁ」
気付けば、丼が空になっていた。手軽に食べられて美味しいのは有難い。
「ふぅ、ご馳走様でした。やはり食べ慣れた食事はいいですね」
隣を見れば、沖田ちゃんも食べ終えたようだ。>>757続き(2レスで終わらせるつもりだったのに……とりあえずこれで終わりです)
「あー、色んな国の英雄が居るからねえ。食べ慣れないのは味が分からなかったりするよねえ」
「ええ、そういう意味ではマスターが日本人で助かりました、本当に」
分かる分かる、宮本武蔵とか佐々木小次郎が同じ場所に居るだけでも顎が落ちても可笑しくないのに、他国の王様まで居るとは。
「斎藤さん、折角ですから団子も食べませんか」
「おっと、いいのかい。沖田ちゃん」
好物だろうに、と思ったが一人で食べるには少し量があるような。
「ええ、その為に多く作って貰いましたから」
「そういう事か。マスターちゃんとじゃなくていいのかい、沖田ちゃん」
「そうなんですけど、久し振りに斎藤さんとも出会いましたから、色々な話がしたいと思いまして」
「あー、確かに。俺っちは結局最後まで生きていたからねぇ。とは言えど、沖田ちゃんに話せることなんてそんなに無いよ?」
「斎藤さんならそう言うとは思っていましたけどね……それでしたら、カルデアで今まであった事とかどうです?」
「お、いいね。俺も此処に来てから時間が経っていないからな。面白い話があればよろしく頼むよ」
「分かりました、では覚悟して下さいね、斎藤さん」
「……今、何て言った、沖田ちゃん?」ちょっと遅くなりました。すみません。
お題:エリセさん、カルデアに来て、あったことをおもふ
(ボイジャーが居ないという前提とします)
ボイジャー、君は今どうしているのかな。出来れば色々話した……いや、やっぱり来て欲しくない。だって、ボイジャーは私のサーヴァントなんだから。それはそれとして、私は元気でやっています。サーヴァントとして自分を受け入れた私だけど、時折思う事があります。この場所は私にとって夢のような場所だけど、というか偶に鼻血が出るんだけど……訳の分からない事態が日常茶飯事だったとは思わなかったんだよね。そもそもイベントと書いて、特異点が大量に出てくる場所って可笑しくないかな。いや、最初のイベントが衝撃的だったのもあるんだろうけど……いや、他のイベントも大概だった。
──私がカルデアのサーヴァントとなった後、ラスベガスに爆誕した姉を自称する聖女……いや、その前に水着剣豪って何、って言う突っ込みもあるんだけど……おかしい、私の知っている英霊と違う……?いや、こういう面もあっての英霊なのだろうか。
マスターはマスターで洗脳されかけたみたいだし……ルーラーって洗脳スキルあったっけ?
「……あなたも妹になぁれ♡」
はい、お姉ちゃん。──今、私何て言った、私。うーん、ルーラーのジャンヌ・ダルクさんはきちんとした方だったし……これが属性:夏? 怖い。英霊すら歪める夏って何?
──あの時はそれっきりだと思っていた。突拍子もないイベントはこれっきりだろう、とそう思っていたんだよ、ボイジャー。
頭の痛い特異点が終わったかと思えば、未来からも特異点が発生して拉致されるなんて……結局、カルデアから連絡が取れないまま結局終わってしまったけれど、何があったのだろうか。帰ってきたかと思えば、見た事のないサーヴァント、まさか名前すら知らないサーヴァントが居るとは思わなかったけど……え、上級AIを名乗るサーヴァント、カレン・フジムラと同じ……?>>759続き
──次の特異点(イベント)に備えている間、暇を見つけてはマスターの旅路を記録として見せてもらったけど……マスターの旅路ってこんなに大変だったんだ。改めて、偉そうなこと言っちゃったな、恥ずかしい。激辛麻婆豆腐をご馳走しようと思ってキッチンに向かっていたんだけど……また何か新しいイベントが始まっていたらしい。何かに取り込まれた私は、廊下や壁、あるいは部屋になっていたらしい、何故?
しかも、私だけではなく、殆どの職員やサーヴァントも取り込まれてしまったのだから、よっぽど恐ろしい相手だったのだろう。確か──そんな絶望的な状況でも助けてくれたのが……えーと、誰だったっけ。何でだろう、名前が出ない。私でも知らない英霊だったことは確かなんだけど。
──そんなこんなでやっと夏本番、今年は山でキャンプということらしいけど、どうして毎年のように特異点が発生するのだろう。レオナルド・ダ・ヴィンチさんに聞いても首を横に振るだけだったし……万能の天才にも分からないことってあるんだ。偶には一人でのんびりマスターには他のサーヴァントが付いているようだから、久し振りに一人で過ごそうかなと思っていたんだ……まさか、あんなのが大量に出てくるとは思わなかったけどね……人によってはトラウマになるんじゃないかな、あれ。色々と解決した後は皆で普通にキャンプをしたけど一つだけ不満なことが。皆で作ったカレーは美味しかったです……ただ、カレーにはもっとガツンと辛さ……例えば激辛麻婆豆腐のような、そんな辛さがあってもいいと思うんだ、どうかなボイジャー。え、ダメ?
そうして暫しの後、謎の埴輪が導いたぐだぐだ邪馬台国。ぐだぐだ粒子って、あの織田信長から放たれていたの?でも、私の知っている織田信長って男性だよね?あれ、それなりに此処に居るからだろうか、自信が無くなってきた。そういえば、この珍事の後、他の英霊たちから邪馬台国の生まれと勘違いされたんだけど……私は神秘の宿った時代に生まれていないんです……やっぱり、卑弥呼様と服装が似ていたから?
──うん、何事も無く過ごしているとは言い難いこの場所だけど、私は何とかやれています。
またいつか、何処かで会えるといいな、ボイジャー。
終わり。お題:ゴッフ、フォウ君と対決する(ベーコン編)そのまんま過ぎるが
私はゴルドルフ・ムジーク。カルデアの現所長であり、白紙化した世界を取り戻すべく、現地調査員や経営顧問、技術顧問の暴走を防ぐ立場をしている。……と言ってみるが、こんな組織の頂点など、誰かに勧められてやるものではない。特にレイシフト技術、これらの戦いが終わったら直ぐにでも凍結すべきだ。あれがあっては命が幾つあっても足りないじゃないか。……全く、前任の技術顧問が特異点に関する資料を捏造したのがよく分かった。こんなもの、表立って書けたものではない。
さて、そんな私には悩みの種が沢山あるのだが、このカルデアでの生活が始まってから続く大きな悩みがある……それは。
「フォウフォ~ウ」
「止めんか。これは私の肉だ。やらんぞ、決してやらないからな。そもそも犬には多量の塩分を含むベーコンは不味いのではなかったのかね?」
「キュキュ、フォーウ!」
「仲が良いねえ、朝から君たちは」
何を言っているのかね、この技術顧問は?
「仲が良い訳ないだろう。このケダモノが私の大切なベーコンを奪いに来るこの光景……見て分からないのかね?」
「フォウ……」
可愛らしく嘆いても無駄だぞ、その眼がベーコンを見ていることなどこのゴルドルフ、疾うに分かっておるわ。
「本当かなぁ、実のところ影でおやつを上げていたんじゃないの?」
「し、しとらんわ。じゃあ何だね、このケダモノは。私を給仕のような何かと思っているのかね?」
「キュキュ、フォーウ!」
「む!」
その軌道、読み切ったわ。さり気なく軌道を塞ぎつつ、クッションの所に向かわせるように……
「ベーコンフォーウ!」
馬鹿な、空中で軌道修正だと。何故、このケダモノは私のベーコンに執着するのかね?
「……あ、コラ!」
フォークで刺していた部分こそ免れたが、約7割のベーコンが奪われる、とは……このゴルゴルフ・ㇺジーク、今日の不覚!>>761続き(これで終わりです)
少し離れた所で、ゴルドルフ・ㇺジークと同様に食事をする職員数名が、揃いも揃ってその光景を見ていた。
「今日はベーコン残ったねぇ。昨日は全部奪われたのに」
「流石のおっさんも少しは対策しているからだろ。まぁ、奪われるんだけど」
「煩いぞ、ピカタくん」
「あんた毎回間違えるよな、おっさん。いやぁ、レーション続きの生活が多いんで、少しでも心の足しになる時が欲しいんすよ……それにしても、毎回負けるから賭けの意味がないなぁ」
「だねぇ、ベーコンを奪われる事が確定していますから……」
そこ、技術顧問含めて満場一致で頷くんじゃない。そしてオクタヴィアくん、君は何故か満足げな顔をしているのかね。
「何を言うか、カワタくん。これは仕方なくだ。このケダモノが他のメンバーの食事を邪魔しないようにだな……」
「じゃあムニエル、掃除ね~」
オクタヴィアくん、今のはどういうことだね。
「くっそ~、全部奪われると思ったんだけどなぁ……」
ん、どういうことだね。このスタッフたち。まさか……
「私をダシに、賭け事をしないでくれるかね!?」
「まぁ、落ち着いて頂ければ、所長」
何だね、経営顧問。これは私の沽券に関わる話なのだぞ!?
「私も時々、蒸かすのに席を外したりもしますから、誰だって楽しい時間は持ちたいものです。貴方が美味しく食事を取ることに喜びを覚えるように、スタッフ一同も食事や貴方とフォウ君のやり取りを楽しんでいるのです」
ぐ、経営顧問め。それを言われたら強く言えないのを分かって言っておるな。
「フォウ、フォーウ!」
くっそ~、満足げにベーコンを完食しやがって……明日こそは、明日こそはあのケダモノにベーコンを奪われないようにしなければ……それをある人は餅をつく兎とよんだ。
またあるものは蟹とそしてまたある者は獅子と呼ぶ。
自ら輝くことはなくただ静謐の浮かぶその白。それは何も言うことはなく、何も語ることはない。静かに、しかして空虚とは程遠いその時が上りそして下っていく。帳は降り、夜の暗さが当たりに漂い始める。手にした杯には小さな光が流れ落ち、小さな波紋は伝う冬の寒さは英霊の身には薄く肌をなでていく。薄すらと熱気を帯びた指先から揺蕩う熱を取り去ってくれた。
「お、珍しいお客がいるもんだ」
横へと座った弓兵に彼は構うわけでもなくただ手にした杯に残った酒を流し込んだ。
「今日は嫌に静かだな」
弓兵は小さく笑いながら持ち寄った酒を勧めてきた。異国の酒、栓の抜けたそれからは熟れた果物のような芳香があたりへと混ざって行く。
「そんな夜もあるさ」
透明な水の様に澄んだその酒には先程よりもくっきりとその月の姿が映る。
「勇ましき者よ、あれは何に見える」
一人の空に漂うそれを向かいながら問いかける。
「目が良すぎるってのも考えものだが、そうさな」
彼もまた杯に移した水面を眺めわずかに微笑んだ。
「あんな横顔で笑ってたかもしれんな」
そう言ってそれを一気に煽った。
「誠に強き女達よ」
いつもとは違う小さな笑い声が2つ夜の中へ消えた。
そして月はまだ輝いていた。「なぁ……」
「黙れ。気が散る。狙いが逸れる」
「治療術式を……せめて麻酔……」
糸と針が身体を通り抜けていく度に背筋がぞわぞわと粟立つ。痛みは踵と心臓を射抜かれた時より大分マシだが不快感はもの凄い。
「半神半人の霊基に合わせた術式の構築や麻酔薬作成の時間が惜しい。止血が優先事項だ」
要するにこの苦痛はまだ暫く続くらしい。
『非がこちらにあるとはいえあまりにも酷いのではないか』とアキレウスは思った。決して口には出さないが。
「お前が心身共に頑丈で良かったよ。ペーレウスと加護を与えてくれた母君に感謝しろ」
「い゛」
「こら、唇を噛むんじゃない。余計な怪我が増える。……ほぼつまらん切創だな。どうせなら見たことも無い治療し甲斐のある傷を負ってくればよかったのに。腹に大穴が開くとか、踵を抉られるとか、全身真っ黒こげになるとか」
「ひっ……」
「大丈夫だ。霊核さえ破壊されていなければ僕が治す」
父の従弟かつ同僚で同僚二人の父親で兄弟子という何ともややこしい間柄のキャスター―――アスクレピオスは時折物騒な発言をしながらアキレウスの身体をちくちくお裁縫している。呻き声はちっとも届いていないようだ。従甥には痛覚が無いと思っているのかもしれない。半神半人の大英雄だって痛いものは痛いのに。
「ああそうだ、どうしても我慢できないのなら先生直伝のツボを押してやろうか」
アキレウスは全身から血の気が引くのを感じた。それだけは勘弁してもらいたい。
意識の無い身体を好き勝手弄ばれるより激痛に耐える方がまだマシだ。
「ひぇいです。がんばりまふ」
「よーし、いい返事だ。もう少しの辛抱だぞ」
もう少しってどれくらいなんだろう。
それが数分なのか数十分なのか数時間なのか分からないが、アキレウスの望む答えは返ってきそうになかった。何しろアスクレピオスとの間には多大なる価値観の違いがあるので。お題:下らないことで喧嘩する天草とジーク君
ジークフリートやシグルドに剣術を習いながら、忙しない日々を過ごしていると、不思議な充足感がある。きっと、全てが終わって世界の裏側でただ待つだけの日々を過ごす俺では得られない経験がここにあるからだろう。
「さて、今日はどうしようか」
シグルドとの訓練はないから、地下の図書館に行って様々な英雄に関する本を借りてこようか。それとも、以前の聖杯戦争で関わったサーヴァント達の元へ行ってみようか。
「ふふ」
俺が巻き込まれた聖杯戦争で助けてくれたアストルフォやジークフリート、そして当時は敵対していた赤の陣営のサーヴァントとも此処では味方として一緒にいることが出来るとは思わなかった。いつも思うが、此処は不思議な場所だ。
「英霊がこんなに沢山いるとは」
あの聖杯戦争以外の様々な英霊がいて、そんな人たちと話が出来るとは思わなかった。それにしても……
「いい匂いがするな」
俺が食堂を使うとしたら水を飲む程度だけだろうと考えていたが、まさか味覚が鈍い俺でも美味しいと感じられる料理を食べられる日が来るとは。ブーディカに猫のようなサーヴァント、エミヤといった食堂で料理を作ってくれる方々には感謝しかない。
「次のイベントは……え、ボックスイベント。それ本当、マシュ!?」
まぁ、そんな場所だからか、それらの恩恵以上に理解を超える出来事が度々起きるのもどうかと思うが。……そういえば、俺も似たような事をしたのだったな、だから此処に居られるというのも不思議な事だが。
「……何だ?」
食堂に着いたと思えばいつもとは様子が違うようだ。具体的に言えば、様々な装飾が施されている。
「なるほど、クリスマスの時期だったか」
あれはナーサリー・ライムと黒のアサシンだったか。浮足立っているのが遠目でも分かる。
「嬉しいわ、嬉しいわ。今年のプレゼントは何かしら」
「お母さんにお願いしなくっちゃ。今年のサンタさんからのプレゼントは、解体したい時に解体出来るプレゼントが良いって」
プレゼント、プレゼントか。
「……そうか、クリスマスと言えばサンタさんのプレゼントだったか。今年は誰がサンタになるのだろうか……ん?」>>765これで終わりです。
先程横切った者の服装や髪型に嫌と言う程見覚えがある。何故仮面を付けているかは分からないが、あれは天草四郎か。この時期に限ってサンタアイランド仮面と名乗っているようだが、サンタアイランド仮面を付けたとしても天草四郎である事に変わりはないのでは。
「そこ、聞こえていますよ」
「済まない、気が付かない内に口から出ていたようだ。天草四郎」
「私はサンタアイランド仮面ですよ、いいですね」
「仮面を付けた所で、お前が天草四郎であることには変わりないだろう」
あ、咳払いした。
「……クリスマスのこの時期は子供たちに夢とプレゼントを渡すサンタアイランド仮面なのです」
何故、そこに拘るのだろうか。その昔、聖杯で検索を掛けたが、元々のサンタさんは白い顎髭を蓄えたご老人だと結果を出したはずだ。
「あの時お前が奪った聖杯でそんな事をしていたのですか」
恨めしい顔をされても困る。
「ああ、流石に待ち続けるだけの時間が長いし、世の中の行事について多少は知っておいた方が……って何だ、やはり天草四……」
「サンタアイランド仮面」
何か、俺の知っている天草四郎と違い過ぎて反応に困る、姿も記憶も変わらないのに。あの時とは違う謎の圧がある、何故だ。
「あ、いたいた」
む、マスターか。どうしたんだ。
「クリスマスが始まったから、出撃するよ!」
「ああ、分かった。と言う事は、今年のサンタが現れたのか?」
「うん、今年は……」
あれ、何時の間にか天草四郎が居ない。まぁ、聖杯が関わらなければ気にはならない、聖杯を持っていれば別だが。「……はい、主の命であれば」
「じゃあ、お願い出来るかな。後で聞きに行くからさ」
「ハッ」
流石は忍者。一瞬で姿を見せたかと思いきや、一瞬で姿を消す。
「とりあえず、微小特異点の解決に行こうか」
日差しの差さないカルデアでは、意識しなければ簡単に生活のリズムが崩れてしまう。
サーヴァントであれば、日中だろうと夜なかであろうと大きな問題はないだろう。しかし、生きている者達はそうではない。
──カルデアのある一角、とある倉庫から緩慢な動作で起きる中年の男が居た。
「今日も寝心地が悪かった。早く私専用の部屋を作って欲しいものだが……」
──ふと、夢に出てきたホムンクルス達を思い出す。そう言えば、彼らの寿命が来る前にハワイへ連れて行ったものの、私の中のサイレンが鳴り響いた為、急いで脱出したのは何時の話だったか。あの時は悪い事をしてしまった。だが、結果的に危機を避けられたはずなので、ノーカウントにして欲しい。何しろ、私は一文無しなのだから。
「……さて」
ここ最近は、異聞帯の攻略以外にもあまりに理解出来ない出来事があり過ぎて、頭がパンク仕掛けたことが何度あっただろうか。姉にしろ、あの藤丸が怯えるチェイテピラミッド姫路城にしろ……というかあれ、本当に何なのかね。
「知らない方がいい事もある、か」
そもそも、他の面子に聞いてもまともな回答が帰って来ない以上、碌でもない代物なのだろう。確か……技術顧問は今日もマシュと一緒に、微小特異点へレイシフトした藤丸のサポートをしているはずだ。私も上司として見ておくべきだが、これに関しては彼らの方が上手だ。ならば、彼らに任せておくのが一番だろう。
「そうなると彼らは……」
折角だ。彼らの日頃の労いも兼ねてケーキでも作ってやろう。>>767続き
──料理はいい。
調理中は余計なことを考えることもないし、美味しいと思える料理を食べた時は心の底から幸せになれる。だから、料理にしろ、菓子にしろ、それらを作っている間は余計な──例えば、シミュレーション室で模擬戦闘を始めたサーヴァント達が、シミュレーション以外でも戦闘を始めようとしたことや、ムニエルが成人向けのゲームを片付け忘れたのか、子供サーヴァントに見つかったことなど──そんな様々な面倒事を忘れられるし、出来上がった料理を食べ終わるまではそんな些細な悩みなど吹き飛んでいるからだ。
「よし、これでいいだろう」
さて、確か今回の特異点は博物館に収容された聖杯の回収が目的だったな。うむ、異聞帯攻略時のような荒事が少ないのは何よりだが、その分理解できないことが起きるから用心せねばなるまい。食堂に置かれた時計は、短針が二を回っていた。
キッチンを出た後、ゴルドルフは作ったケーキとティーポットを台に乗せて、レイシフトしている藤丸達を確認している二人の元へ足を運ぶ。
「あ、ゴルドルフ新所長。お疲れ様です」
「やぁ、ゴルドルフくん。よく来たね。大方、立香君の確認かい?」
「うむ。首尾は順調かね?」
そうして、モニターに映る映像を見て目を疑った。……何で、天草四郎時貞が怪盗風の衣装を着ているのかね?
「……考えても仕方ない、か」
彼女らには、その独り言は流されてしまったが。
「それはバッチリさ、普段はあまりやらない広告宣伝、コラム作業にやる気を出したサーヴァント達が居るからね」
確かに普段ならば敵対戦力に対して最適な人材を用意するところだが……ああ、だからか。
「通りでシェイクスピアやエジソンが張り切っていた訳だ。うむ、問題ないなら構わない。それより疲れていないか。幾ら君たちが優秀でも、休憩は必要だろう」
「そうだね。モニターさえ維持できていれば少しは休んでもいいかもしれないね。マシュ、休んでいいからね」
「それを言うならダ・ヴィンチちゃんだって休んだ方がいいですよ。レイシフトも安定していますし、あまり休まれていないのでは?」
全く、二人共無意識に無理をしようとするからな。
「あー、こほん。いいかね」>>768
「あれ、それは何ですか」
「おー、もしかして私達のために作ってくれたのかな?」
仕事に熱心なのは構わないが、ようやく気付いたか。
「うむ、日頃から異聞帯だけではなく、微小特異点でも頑張っているからな。キッチンの者から材料を借りて私が作ったものだ、感謝して食べなさいよ」
料理に関しては何やら生意気な赤い弓兵がいるが、幾ら英霊と言えど現代の調理技術を舐めて貰っては困るのだよ。
「ありがとうございます。ゴルドルフ新所長」
「いやー、ゴルドルフ君の作ったケーキか。こりゃあ楽しみだ」
うむ、何だかんだ言って、二人共年若い少女なのだから、偶に食べても罰は当たらないだろう。
「それじゃあ、切り分けるから待ちたまえ」
さて、あまり私の分を多くし過ぎると、技術顧問に文句を言われるからな。気をつけて切らないと……誰かそこに居なかったかね。いや、気のせいか。まずはケーキを食べるとしよう。
カルデアへ帰還した藤丸が、バイタルチェックを終えた後にマイルームへと戻る。そして、他に誰も居ないかを確認した後、手を合わせて音を鳴らした。
「お呼びですか、主殿」
音もなく、赤髪の忍が姿を見せる。
「うん、お願いしたこと、どうだったかな」
「今からお話致しましょうか」
「うん、寝る前に聞いておきたいな。皆がどうしているのか、やっぱり気になるから」
「承知致しました。まずは今朝の話からですが……」
そうして赤髪の忍、風魔小太郎は、ゴルドルフを含めた職員達の行動について、簡潔に説明する。>>769最後です。
「……以上が、皆様の行動でした」
「ありがとう、小太郎」
「いえ、この程度のことなど私達にかかれば造作もありませんよ。そう言えば、どうしてこのようなことをお願いしたのでしょうか」
小太郎の問いに、彼は照れ臭そうに頭を掻く。
「いやさ、普段は特異点の攻略ばかりだから、マシュとかダ・ヴィンチちゃんとか、皆はどうしているのかな、って思ってさ」
「なるほど、主らしい心遣いです。そういえば、話に出てきたケーキの件ですが」
「うん?」
どうやら、話の続きがあるらしい。しかも、ゴルドルフ作のケーキ、思わず聞き耳を立てる。
「結局、ケーキを振る舞ったことが他の職員にもバレてしまったのですが、これは私の分だと言い張ってゴルドルフ所長はケーキを渡さなかったようです」
ムニエル達職員が詰め寄る様子が思い浮かんだのか、うんうんと頷く素振りを彼が見せる。
「どうなるかと思いましたが、エミヤ殿やブーディカ殿へ事前に話をしていたのでしょう、職員達のケーキは彼らが既に作っていました」
思わずいいなぁ、という年相応の顔を浮かべる。
「実はなのですが……ゴルドルフ殿が作ったケーキの残りが食堂の冷蔵庫に置いているとか」
「え、残っているなら食べられるかな」
「どうでしょう。食堂へ行ってみますか」
ただ、気がかりがあるらしい。眉間に皺が寄っている。
「でも、エミヤにバレるとお叱りが来るからなぁ」
「エミヤ殿やブーディカ殿に言って取って貰って置きましょうか?」
後日、ゴルドルフ作のケーキを食べた彼がその味に大いに満足したとか。「あら、こんなところに寂しがり屋なアナグマさん」
彼女はその声に少し驚くが声を上げることはしない。とっさに自分の口を覆うように塞ぎ声を押し込めた。
「忙しいのね、今日のマシュは」
童話の少女はそう笑い、彼女が遠くから覗くそれを見てまた微笑む。
「羨ましいのはボイジャー、それともマスターかしら」
視線の先、星の王子は彼と同じ髪色をしたマスターとともにブリーフィングをしている。
カルデアではよくあるなんてことないことでいつもと違うのはマスターの髪色程度。
それを彼女はマスターに気取られることなく眺めていた。
「マシュもお姉さんと呼ばれてみたいのかしら」
「どうなのでしょうか、あまり実感はありません」
「お姉さんはマスターがいるものね、彼女がしてくれたようにすればいいわ」
ドクターを困らせていた、イタズラが好きで彼女も巻き込んで、困ったときは悩んでくれて、嬉しいときは頭をなでてくれて、手を引いてくれて、背中を押してくれて、いつも一緒にいてくれた彼女を。
「私はちゃんとおねぇちゃんになれるでしょうか」
「もちろん、とびきり素敵なおねぇちゃんになれるわ」
だって
「あなたはあの子の妹だもの」「まじで、まじで投げるのこれ」
困惑する超人にマスターは彼と同じ顔をしながら頷く。
「確かに俺としても思わないところがないでもないけどさぁ、流石にこれは」
彼らの足元に小さくて転がるのは羊のようなぬいぐるみが落ちていた。しかしぬいぐるみの柔らかな素体には似合わない薄灰色の粘土のようなものがガムテープで粗雑に巻き付けられている。粘土に突き刺さっている黒い棒からは二本の線が飛び出しており、そのままぬいぐるみに刺さっていた
「でも他にできそうな人がいなくてさ、バット持ってるのオリオンくらいじゃん」
「バットってこれ棍棒なんだけど。ぬいぐるみだかなんだか知らねぇけど流石にねぇ」
「私だってそう思うけどあの目がねぇ」
二人してちらりと目配せする視線の先、そこには激怒する少年を意に介する事なく湧き出るぬいぐるみに次々と爆発物をくくりつけていく医師の姿が見える。こちらの視線に気がついたのか投げられるのその目はメスよりも鋭い。
とっさに視線をそらした二人は彼から隠れるように見を縮こまらせる。
「確かにこの戦力差だと無尽蔵に増えるアポロンに爆弾くくりつけて操作するってのは悪くはないけどよぉ流石にねぇ」
「神様に爆弾くくりつけて特攻って、私天罰とか下るかなぁ」
「どっちかって言うと俺はあいつの私怨に加担してるような気がしてどうもなぁ」
「アルテミス様とか呼べない?」
「たぶん嬉々としてこの作戦に賛成しそうだなぁ」
「神って怖いね」
「神って怖いな」
「気にすることはない。これは末端だからね。万と減ろうが構わない。そいつに打ち込まれるっていうところに思わないところがないでは無いがそれで息子とお気に入りとマスターが守れるなら十分お釣りが来るね」
「私は3番目なのか」
「それに私が計画の肝を握っているなら久しぶりにパリスくんの敗北顔もオット失敬」
超人の腕力にうち放たれたそれはぬいぐるみに左右されることなく飛びそして着弾とともに爆発四散した。お題:何でも鑑定団in カルデア
若干、お題からブレた気もするが……出来上がってしまったのだから仕方ないね。
戦力の増強は何時どんな時でも求められている。カルデアの電力にもよるが、出来るだけ用意出来る戦力を整えておくべきだろう。
「……という訳で新しいサーヴァントを召喚したいんですけど、いい案はありますか」
そんな思いから、聖杯戦争にも詳しい諸葛孔明に相談するために彼の部屋で話を切り出した。
「ふむ……一般的な話であれば教授しよう」
「お願いします」
「まず、一般的なサーヴァントの召喚だが、召喚したいサーヴァントに連なる聖遺物を触媒に召喚を行う。これは、私が参加した聖杯戦争でも変わらない点だ。あぁ、アサシンとバーサーカーだけは一節を加えてクラスを指定することが出来るが、それ以外は基本的に出来ないと言っていいだろう。そもそも、それがこのカルデア式の召喚に何処まで通用するかは分からないが」
流石は、依り代が時計塔で魔術を教えていたと言うだけはある。ロードというのはあまり分かっていないけど、先生としては人気だったんじゃないだろうか。ふと思うことがあり、一緒にゲームをしていた二人の男性を見る。
「じゃあ、イスカンダルさんを召喚したかったら、イスカンダルさんの聖遺物を使うのが一番いいんですね」
「そういうことだ。しかし、その聖遺物を遣えば必ず同じライダーが召喚される訳でもないのが注意点だ」
「それはどうかのう。お主であれば儂が出てくると思うが」
「へー、やっぱり先生でも気にかかることがあるんですね」
「う、うるさいぞ。ライダー」
諸葛孔明なのか、その依り代であるロード・エルメロイ2世(多分、後者だと思うけど)かは分からないが、やはり縁があったのだろう。
「ま、まぁまぁお二人とも。師匠が恥ずかしがっていますので……」
その間、ロード・エルメロイ2世の髪を梳かし続けていたグレイが、控えめに間へ立つ。
「分かりました、ちょっと他の方に相談してみます。お時間を頂いてありがとうございました」
「この程度のことであれば構わんよ。君の検討を祈っている」
一礼して、ロード・エルメロイ2世の部屋を後にした。>>773続き
とはいえ、この先はノープランだ。こういう時、誰に相談したらいいだろうか……そんなことを考えていたら、英霊の聖遺物に詳しそうな二人組に丁度よく出くわした。
「あれ、マスターどうしたの。何か考え事?」
「もしかして、おしごと?」
折角だから、二人にも協力してもらおう。
「……と言う訳で、手伝ってもらっていいかな」
「マスターのたのみだからね。まかせて」
「私も……いいの?」
「私は別に気にしないし、エリセも英雄に詳しいんだよね。ボイジャーが言っていたよ」
「ああ、うん……それなりには、ね」
エリセは謙遜するが私なんて……
「歴史の教科書の知識が殆どだからいてくれると助かるんだけど……どうかな」
「え、いや、私は別に嫌とか……言ってないから、いいけど」
よし、言質は取った。
「分かった。じゃあ、ボイジャー、エリセ。誰から当ってみる?」
真っ直ぐ手を挙げたのはボイジャー。どうやら、既に思い当たる人物がいたらしい。
「じゃあ……あのひとはどうかな」>>774続き
「私の船員を召喚したいから、何か聖遺物を持っているなら貸して欲しい?」
「出来れば、お願いしたいんだけど……」
何となく暇そうにしていたイアソンに声を掛けて見たが、内容が気に入らなかったらしい。反応から拗ねていたことが既に分かっていた。
「却下だ!第一、私の船員をお前が扱えると思うのか?」
「でも、メディアもアタランテも、アスクレピオスやディオスクロイも、カイニスもヘラクレスも、みんながりっかをマスターとして、みとめているよ」
「ふん、それがどうした。アルゴー号の船長は誰が言おうとこの私だ」
自信満々に言ってのけるこの男、確かに間違いはないのだが、どうしてこんなに残念なのだろうか。
「……イアソンのケチ」
「ふん、私の船員を使おうなどダ・ヴィンチが許そうとこの俺が許さん。もし、召喚したければ、自分たちで縁とやらを繋ぐんだな!」
「うーん、そっかー。だめかー」
イアソンの物言いに気になることがあったのか、エリセがボソッと呟く。
「……もしかして、ライダーじゃないから船が出せない、聖遺物とかを出せない、とか?」
その、何気ないエリセの一言が、イアソンの端正な顔をピシッと石のように固まった。
「ごめん、まさかあんなことになっちゃうなんて……」
「まぁ、しょうがないよ。イアソンはイアソンだし」
あの後、ヘラクレスコレクションを持ち出して、終わらない語りが始まる予感がした一行は令呪で脅かしている間に何とか撤退に成功した。後でメディアさんを連れてきた方がいいだろうか。
「じゃあ……次は」
多くの宝具を有しているのはライダークラスが多い……と言う訳で、丁度正面から歩いていたピンク髪の英霊に相談してみることに。>>775
「うん、いーよ。僕は元々、色んな仲間から力を借りていたからね。ねぇねぇ、誰を召喚したい?」
「出来るかどうかがまだ分からないから、まずは借りるだけでもいいかな?」
「だったら、ヒポグリフ?」
「どうかな、ボイジャー」
「うーん、やってみなければわからないけれど、しょくばいにはいいんじゃないかな」
まずはヒポグリフでやってみよう……そんな話で落ち着いた所、何処から聞いていたのかブラダマンデがぬっと現れた。
「え、上手くいけばロジェロを召喚出来るんですか!?」
その迫真具合に、マスターの脚が一歩後退る。
「うーん、出来るかどうか分からないけど、ね。出来たらいいなーってことで」
「あー……そうでしたか。でも、やってみなければ分からないですよね!」
何とか触媒を確保した立香は、マシュを連れて召喚ルームへ向かうことに。
さて、召喚召喚。出来たらいいんだけど……私はこの運命に打ち勝てるのだろうか。いや、打ち勝つためにここにいるのだ。
「それにしても、聖遺物かぁ」
「どうしました、マスター?」
召喚ルームには、マシュの他に、付き合ってくれたボイジャーやエリセ、ついでにやってきたアストルフォとブラダマンデがいる。
「いやね、骨董品って言うとさ、カルデアへ来る前に見ていたテレビを思い出して……」
「それはどのような番組なのでしょうか」
「まぁ、色んな骨董品を、鑑定士が鑑定して真贋を調べるの。それで、もし本物だったらどれくらいの値打ちがするものなのかを提示するんだ」>>776最後です。行数で思ったより使ったな……
「先輩の母国では、そのような番組があるのですね。何か、決め台詞なんかがあったんでしょうか」
「うん、あったよ。オー〇ン・ザ・〇ライスって」
勢いで持っていた石を手放してしまう。
──召喚が始まりました。
「「「「「「え?」」」」」」
「あ、ちょ、まだ、心の準備が……!」
慌ててももう遅い。既に始まってしまったのだ。そうして召喚されたのは……
──それは、とても紅かった。白すらも紅く浸すそれは、香りだけで数多の人を圧倒する。エリセ以外の全員が目を背ける程に。ついでに、ヒポグリフが逃げ出す程に。
何度もそれを見た。それをこの場で見た私は、深く膝を折った。
「……ダメ、だったか」
「ドンマイです、先輩」
──激辛麻婆豆腐お題:うどん食べる武蔵ちゃん
それは武蔵ちゃんの一言から始まった。
「おうどん食べたい」
「この前の特異点では食べなかったの?」
何故かミートタワーまで登り切ることになったが、そういえば武蔵ちゃんの姿を見ていなかった気がする。
「アキハバラね。ラーメンとかお蕎麦はあったんだけど……おうどん屋が中々なくて」
「そうなんだ」
言われてみればそうかもしれない。ラーメン屋や立ち食い蕎麦は多いが、うどんは蕎麦と一緒に提供している程度だろう。
「ここの食事は美味しいし不満なんてないんだけどね……偶には食べたいな~って。けど、紅閻魔ちゃんにはね……言い辛いというか」
「ははははは……」
全く以てその通りである。聖杯うどんのことを考えると、こうしてきちんと反省しているだけいいのかもしれない。
「おや、マスター。どうしたのかね?」
通りがかったエミヤが、俺の様子を見に来たようだ。
「武蔵ちゃんがね、偶にはおうどん食べたいって」
好物が食べられない気持ちは分かる。だって、日本人だもの。
「ふむ……」
何か妙案があるのだろうか。まぁ、エミヤなら幾らでも出てくる気がするが、一人のサーヴァントの為にそこまで力を入れなくても……いや、入れるだろう、彼ならば。
「うどんと言えば地域によって様々な方法で食べられているが……この機会だ、試してみるのも良いか」
「え、本気なの。エミヤ」
まぁ、この人たちが作るなら、外れなんて在り得ないから期待はするけれど……>>778続き、会話文が多いから長くなりそうだ……
「何、彼の宮本武蔵ちゃんからのオーダーだ。少しくらい応えても問題あるまい」
「え、いいの!?」
跳び上がらんばかりに武蔵ちゃんは喜色満面の笑みでエミヤを見る。ただ、そういった視線に慣れているのか、さらりと流した上で……
「折角だ。どうせ作るなら色々やってみようじゃないか」
夏の装いを着た時のような子供っぽい目をしていた。
それが起きたのは三日後のこと。その日は特異点や異聞帯の攻略が無かったため、トレーニングで汗をかいた後にお昼を食べに食堂へ行った時だ。うどん、うどん、うどん、UDON……皆の食事のありとあらゆる食事がうどんだった。驚くことに、うどんと言えば、きつねうどんやたぬきうどんの定番から、肉うどんやカレーうどん、焼きうどんが浮かぶかと思うが……それにしても。
「……種類が多い、だと?」
一体どれだけの種類のうどんを作ったのだろうか。大部分の利用者がうどんを食べているにも関わらず、あまりレシピが被っていないようにすら見える。よく見れば、洋風のうどんや中華風のうどんなんかもある。最早何でもありか。
ふと、数人が食べているうどんを見ると、更に変わったことに気付く。白いうどんではなく、桃に近い赤のうどんや緑色のうどんを食べているようだ。
「へぇ~、こんな色の麺も作れるのね」
感心しながら食べているのは女性のサーヴァントや職員だ。なるほど、食べやすい量で盛られたうどんに加え、紫蘇の千切りや大根おろしで彩ったそれは春を思わせる一品だ。さっぱりした味も併せて、女性たちに人気なのだろう。あ、珍しいうどんだからか、ゲオルギウスさんが写真に収めている。>>779続き
「なるほど。この酸味は梅干しか。梅干しは白米に合わせるものだと思っていたが、このような使い道があるのだな」
柳生さんの感心したような呟きで理解する。あれは恐らく、梅干しを練り込んだ麺なのだろう。他にも緑色、恐らくほうれん草を練り込んだうどんを食べるサーヴァントもいる。
「……見ていたら、お腹減ってきた」
そうして、いつも食事を作ってくれる彼らの元へ近付くと、発端となった人物もいた。
「え~~、こんなに色々作って貰っちゃっていいの?」
信じられないものを目の当たりにしたような武蔵ちゃんの声だ。
「折角の機会だからな。カルデアは食事こそ十分だが、季節を感じる機会が少ないだろう。偶にはこうして工夫を凝らすことも大事なことだ」
エミヤの言うことには同意だ。何しろ、外に出られないも同然なのだ。
「それにしても……エミヤは色々知っているし、本当に器用だよね。今回はうどんでやったけど……もしかして、練り込みとかはパスタやピザでも使えるんじゃないかな」
「その通りだよ。パスタだとバジルやホウレン草などで使われることもある」
「ほうほう」
そう言って、メモを取っているのはブーディカだ。今回の試作も手伝ったのだろう。
「おや、マスターか。今日は試作も兼ねて様々なうどんを作ってみた。色々あるが、どんなうどんを食べたいかな?」
元は武蔵ちゃんの発言から始まったのだ。
「武蔵ちゃんと同じうどんは出来る?」
「どれを食べたいんだ、マスター?」
エミヤの質問が分からず、武蔵ちゃんが持っているお盆を見る。
「なるほど、そういうことか」
麺の太さが全部違う……しかも、麺を味わうために一つ一つの量を少なくしているぞ、この大剣豪……!>>780続き
「説明しておくと、きしめんにさぬきうどん、それから梅干しを練り込んだ中太のうどんだ」
エミヤから、麺の説明が入る。とりあえず、色んなうどんを食べたいんだな、武蔵ちゃん。
「いや~、まさかこんなに種類があるとは思いませんでした。折角だから、色々試さないと勿体ないじゃない」
「……と言う訳だ。マスターは何にする。一番人気は梅干しの冷やしうどんだが」
多分、ここでそれを言うってことは残りが少ないからだろう。
「じゃあ、それでお願いします」
「了解した。茹で上がるまでの間、席に座って待っていてくれ」
折角だ。出来上がるまでに、武蔵ちゃんの食べっぷりも見ておこう。
「あれ、マスター。一緒に食べる?」
「折角だから、うどん好きの武蔵ちゃんちゃんの感想が聞いてみたい」
「そっか~。待ってあげたい所だけど、温うどんだけは先に食べちゃっていい?」
「勿論」
温うどんは伸びると美味しくないからね。
「ごめんね。先に頂くわ、マスター」
さて、そんな武蔵ちゃんが平たい麺をずずっと一口。
「ん~、美味し~。このコシに麺全体の噛み応え、これがきしめんか~。食べたことあると思うけど、ここのうどんはまた違いますなぁ……」
麺を食べる武蔵ちゃんを見ていると、更にお腹が減った気がする。満足そうに何度も頷きながらきしめんの温うどんを食べ終える。一度食べ始めると手が止まらなくなったらしい。こちらの茹で上がりを待つことなく、次は梅干しが練り込まれたうどんに手をつける。
「へぇ~、初めて食べたけどさっぱりしていて美味し~。付け合わせの紫蘇もいい味してる~。うんうん、暑い時にはこれが一番ねぇ~」
まるで、暑い日にビールを飲むサラリーマンの台詞だ。更に腹の虫が鳴った気がする。中太ながらもさっぱりとしているからか、するするっと口に入るようだ。>>781これで終わりです。
瞬く間に食べ終えて、さぬきうどんを食べ始める。
「ん~~。やっぱうどんと言えばこれよね~。このコシにのどごし……やっぱり、うどんは美味しいなぁ……」
やばい。どれも食べたくなってきた。
「マスター、出来上がったから持ってきたぞ」
丁度そこに、天の遣いがやってきた。
「あ、うどんのお代わり頂戴!」
「了解した。マスターはどうするかね?」
同時に、悪魔の遣いでもあったようだ。
「……お願いします」
「量は少なめにしておくぞ。何、うどんは保存が効く。例え、今日食べることが出来なくとも、別の日に食べたいと思ったら作ることは出来る」
よし、まずは梅干しを練り込んだうどんを堪能しよう。
……もう一つのお題、紅閻魔がご飯を作る話はもうしばらくお待ち下さい。>>782
うどんリクエストしたものです
ありがとうございました!
そんな色んなカラフルなうどんの種類があるとは知りませんでしたし美味しそうに食べる武蔵ちゃんや柳生さん達も良かったです!
改めて面白いSSありがとうございました!お題:閻魔ちゃんがご飯を作る話
いつもは食事の準備を共にするメンバーと献立を考えている頃合いだが、今日は珍しく友人からの呼び出しがあった。
「ねえ、えんまちゃん。今日の夕食、見繕って貰っていい?」
「了解でち。お二人分で宜しいでちか」
「いえ、今日は一人分でいいわよ。料理が出来たら、部屋まで持ってきてもらえるかしら」
おや、珍しい。てっきり項羽様か蘭陵王様と一緒に食べると思ったのでちが……そんな気分の時もあるかもちれまちぇん。
「了解でち。腕によりをかけて作ってきまちよ」
さて、ぐっちゃんには何を作りましょうか。
食堂へ戻れば、いつものメンバーが夕餉の支度を始めておりまちね。今日も大変だと思うのでちが、事情は話しておかないといけないでち。
「……と言う訳で、夕餉の時に少し離れるでち。忙しいのに申し訳ないでち」
「いやいや、そんなことないよ。こっちは食材から調理方法まで色々手助けして貰っているんだからね、紅閻魔ちゃん」
ブーディカ様は優しいでちね。
「キャットにニンジンとはこのことよ。紅先生、ここは玉藻乱舞にお任せあれ」
おまえ様は何を言っているか、相変わらず分からないでち。何となく任せてくれ、と言われている気がちますが。
「いつも紅女将にはお世話になっている、ここは任せて欲しい。折角だから、旧友とゆっくりされてはどうだろうか。何、サポートメンバーは充実しているからな、その者に頼んでみるさ」
あちきが言うのも何でちか、お前様の方こそ休んだ方がいいのでは。
「ありがとうでち。それじゃあ、準備をさせてもらうでち」
ぐっちゃんは好き嫌いがないからどうちましょうか……シオン殿のお陰で魚に困っていないでちから、焼き魚にちましょうか。それから山菜のお浸しに野菜の煮物、それから、御御御付けには豆腐とわかめを使いまちょう。それから白米でちが……折角でち、山菜と魚を使って炊き込みご飯にちましょう。そうと決まれば、後は作るだけでちね。
「それにしても久し振りでちね。ぐっちゃんから頼みごとをされるのは」
昔は偶にしか来なかったが、こうして毎日顔を見る日が来るとは思わなかったでち。これも、マスター様の縁によるものなのでちょう。皆からはのんびりしてもいいと言われたものの、食べにくるお客様はマスター含めて沢山いるのでちから、早めに戻ってくるようにしないといけないでちね。>>784続き(前のにタイトルつけ忘れた)
後ろめたい気がちますが、厨房を後にしてぐっちゃんの部屋まで着きまちた。
「ぐっちゃん、ご飯を届けに来まちたよ」
「ありがとう、えんまちゃん」
おや、これは刑部姫の部屋にあった炬燵ではないでちか。中々貴重な一品だったと思いまちが……よく持ってこれ待ちたね。これなら他の雀の手を借りずとも、食卓へ乗せられるでち。
「それじゃあ、あちきはこれで……」
「えんまちゃん、偶には話し相手になりなさい」
とは言え、あちきにはまだ仕事が残っているのでちが……
「まだ厨房が忙しそうなのでちが……」
あ、この顔は……
「どうせエプロンの似合う弓兵が助っ人を呼んでいるはずよ。さっき、何人かが食堂へ向かったのを見かけたわ」
既に手を回しておりまちたか。
「そ、そうでちか……なら、大丈夫でちょうか?」
「えんまちゃんは働き過ぎよ。今までもあの弓兵達が回していたんだから、今日くらい休んだって何とかなるわよ」
確かに、彼らはあちきが来る前も回していたってマスターも言ってまちたね。皆もゆっくりしてもいいと言っていましたち……
「そうでちね。丁度、あちきの料理について、ぐっちゃんからも感想が欲しいと思っていまちた」
「言うわね、えんまちゃん……ま、いいわ。折角えんまちゃんが作ってくれたんだもの。しっかり頂くわよ。それで今日は何を作ったの」
「今日の献立はでちね……」
ぐっちゃんは今日の献立にどんな感想をくれるでちょうか。ㅤオレの記憶は数分と定かではいられない。故に、戦闘の最中に重要な情報が欠落したときはなるべく素早くシンプルに状況を整理する癖をつけている。
ㅤ生ぬるい風が騒々しく鼓膜を裂くビルの屋上。夜の闇を照らす下界の明かりの群れ。遠く響く有象無象の雑踏に不思議と懐かしいものを感じた瞬間。生じかける行方知れずの感傷に僅か気を取られた隙に、黒い影がオレの懐へと入ってくる。
「緊急回避(バック・ブリンク)──!」
ㅤソイツの全駆した五体四肢の放つ必殺の一打がオレの霊核を砕くより早く、通常ではあり得ない速度でこの身が飛ぶ。敵の間合いを遥かに離れて、嘆息した。
「すまないマスター、貴重なリソースをかけさせた」>>787
ㅤそれは何処からどう見ても、中国あたりの武芸で用いられる蛮刀の類いだ。それが陰陽一対。これをわざわざ、どうしてか銃に改造している。
ㅤ両手に伝わる魔力の流れ。この武器の構造が物語る正しい使われ方。そして、気配遮断と共に姿を消し、オレ達を撹乱する武侠の輩。壊れかけた頭より先に、身体が的確に答えを導きだす。
「I am the born of my sword」
ㅤ口が詠ずるままに任せ、オレはマスターに向けて銃口を向けた。
「Unlimited Lost Works」
ㅤ彼女の腹を内臓ごと、纏う白い魔術礼装の内側から破壊しようとする発勁の一撃より先に。オレの銃弾は狙い通り、影の背中を撃ち抜いていた。>>791
ㅤ使役されるほどに欠けてゆき、欠けたぶんを金継ぎし、中身が失われたぶんを成果で補完する。その在り方は破綻している。オレから見ても終わっている。
「だが、それでも」
ㅤこの娘に使われる限り、オレは意味を失くしたままに全う出来る。
「正義の味方か。せめて、その道具にはなるさ」
【終】―――ガタガタと音を立てて一台の車が荒れ果てたかつての道路を走っていく。
空は珍しい晴れ模様。こんな風になってしまったこの世界では珍しい物だと呟く。
―――今から何十年も前の話。世界は突如として終わりに向かいだした。
海の半分が枯れ、多くの動植物が消えていき、ヒトはその9割を失った。
原因は解らない。多分「上」の人たちや研究者は何か知っているのだろうが
それは自分達のような市井の人間にはひどく遠い出来事も同然だった。
残った人々は、それぞれが身を寄せ合い、小から中規模のコミュニティを形成した。
そうして世界がまた遠い物になって、それが普通になりつつあるこの黄昏の時代。
自分は「楽園」を目指して、自分のコミュニティを発ち、こうしてかつての道路を走っている。
「―――マスター。次の集落まではどのくらいなの?」
―――後部から聞こえる声。バックミラー越しにその姿を見る。
長い銀の髪に大きな瞳。小さく華奢な体躯とそれに似つかわしくない両の手の篭手。
彼女は外の移り変わる景色を眺めながらそんなことを聞いてきた。
「もうしばらくかかるな。せめて燃料は確保したいところなんだがな・・・」
「いくらかなら僕が抱えて「飛ぶ」けど?」
「・・・それは最後の手段だな。あまりに目立ちすぎる。」
他愛のない会話。はたから見れば兄妹のようにも見える光景だろう。
・・・実際には全く違う。年月というのであれば「彼女」の方が遥かに上だ。年月だけでなく、その強さも何もかもがだ。
彼女の名は「メリュジーヌ」。
自分が出会った「この世界最後の神秘」にして彼女曰く「自分の恋人」である。―――数か月前の話になる。
自分は日本のかつて「東京」と呼ばれた場所の「都庁」の住んでいた一人だった。
日本は主要都市の住民の半数を残して壊滅。残った人々はこの「都庁」におのれの持てるものを持ち寄って集まった。
そうして共同生活を始めていくらかした頃、「それ」は発見された。
―――「都庁」の地下。そこに広がる広大な空間。無数のシステムに守られた防護扉。
そして―――その中に封じられた幾多の技術の結晶や食料や嗜好品。
人々はこの地下の空間を「宝物庫」と呼び、そこを探索し、見つけた物で糧を得る者達が表れ始めた。
自分はそんな「探索者」の一人だった。
ある日。いつものように「宝物庫」の「探索」に出た自分は今までに見ない道を見つけた。
決して見つからない様に偽装された下り階段。更なる「下」への道。まだ見ぬ「宝」に胸躍らせながらそこを下った自分が見つけたのは
巨大な機械に何本ものチューブで繋がれた、―――――1人の少女だった。
長い髪を無造作のその床に散らし、磔刑に掛けられる聖者の様に少女は眠っていた。
まるでこの世の物とは思えないその姿に目を奪われつつもそのそばのコンソールを操作して装置を解除する。
操り人形の糸が切れるように倒れ込む少女を慌てて抱き留める。―――軽い。あまりに軽すぎる。
ちゃんとした質量を感じるにも関わらず、まるで羽毛のように軽い。瞬間に確信した。
「―――これは、唯の生物じゃない」そんなことを考えた矢先
「――――ん・・・」唇から吐息が漏れ出た。彼女の顔を見る。ゆっくりと瞼が開かれその瞳が自分を捉える。「だ、れ・・・?」疑問が投げかけられる。どう答えた物だろうか。そう考えた自分に、彼女は言ったのだ。
「かえりたいの・・・「らくえん」にかえりたい・・・」
「おねがい・・・わたしを「らくえん」につれていって・・・?」あれから数日後。「彼女」を見つけ、自身の住処に連れ帰ってから幾らかの話を聞くことが出来た。
【AVW-P01ランスロット】。彼女の口から聞かされたそれは明らかなシリアルナンバーと機体名だった。
遠くは英国。かつてはまだ存在していた「神秘」。それを研鑽し研究する共同体であった通称「時計塔」。
その真下の地下に現存する大迷宮。消えゆく神秘による消滅から逃れようと足掻き、道半ばで朽ち果てた竜の遺骸。その名を「霊墓アルビオン」。
十数年前。緊張の高まった国々にその神秘の探索者の一人が「ソレ」を持ち込んだ事。
それが今の世界の現状を招いたのだという。「純血竜アルビオンの細胞」。そしてそれを用いて製造された神秘と科学の結晶。
「アルビオン・ヴァリアブル・ウェポン」。各国は得体の知れないナニカに駆られるように多くの兵器を作りだし、競い合い、―――そうして、その力によって滅んだのだと。
彼女はその第一号。最も「祖」に近いカタチを得た最初の竜戦機。それが彼女の正体だった。
「じゃあお前が言ってた「らくえん」ってなんなんだ?」自分はそう聞くと
「―――僕の「祖」、アルビオンが目指した場所だよ。星の内海。世界の裏側。よび方は色々在るけどね。」
彼女自身も何故「楽園」を目指さなければならないのかはわからないらしい。確かなのは自身はどうしてもその「楽園」に到達しなければならない。その事だけだった。
「―――ふむ・・・英国か・・・。行けなくはないか・・・?」
現在の世界はかつてと大幅に変わっている。英国と言えば海に囲まれた西の果ての島国。普通では行けなかったが
海の半数が干上がった今であれば陸路で向かう事が出来るだろう。問題は車輌の確保などだが、以前の「探索」で見つけた設計図などを出せば確保できる見込みはあるだろう。
そこまで考えた所で、怪訝な顔をした彼女に気が付いた。「・・・なんだ、何か聞きたいことがあるのか?」
「いや、ずいぶんとあっさり信じた物だなぁと思ってね。それになんでそこまで考えてくれるのさ?」「――――」そんなの決まっている。あの時の顔。独りな事に震えるか細い身体。
「おねがい。わたしを「らくえん」につれていって・・・?」
「―――あんな寂しそうな奴を放っておけるほど、俺は擦り切れてるわけじゃないんだよ。」
「必ずお前を連れて行く。その「楽園」に。そう決めた。そう誓った。なら後は行くだけだろう?」
―――瞬間、彼女が破顔して笑い出した。「ははっ、あはははははっ!」「・・・なんだよ?なんかおかしいこと言ったか?」「いいや!いいや!そんなこと無いよ!そうか・・・!ふふっ、君はそう言う人なんだ・・・!」
笑いを零しながら彼女はどこか満ち足りたような顔をしている。「そうなんだね・・・君がそうなんだ・・・」何事かを呟いて彼女は自分に向き直る。
「ねえ、君の名前は?」・・・そういえば自分の名前はまだ言っていなかったか。
「芽無(めなし)唯一(ただかず)だ。解りにくいから皆して「ユイ」って読んでる。」
「唯一つ、か・・・うん、いいね。それはとても良い!」「なんなんだよ急に?」
「決めた!今日から僕は君の恋人になる!僕は君の物だし君は僕の物だ!」
「・・・はい?」
こうして自分―――いや「俺たち」の旅は始まった。>>794
とりあえず出会いの挿絵と>>796
恋人宣言の挿絵シミュレータ室、普段は宝箱周回とかに使っているんだけど……今は何というか。
「……、かな?」
白と黒の聖剣の輝きがクロスするように、白髪の魔術士に襲い掛かっている。
「アルトリア、私が一体何をしたと言うんだい!?」
この安心すら覚える胡散臭い声の持ち主マーリンは、黒の聖剣を剣で、白の聖剣を杖で受け止めている。アルトリアの師匠と言うだけはあるけれど、何で捌けるんだろう。
「大人しくしていろ!」
おまけに、モルガンという魔術士も加わってマーリン退治に参加しているんだけど、厄介なことにアルトリア達とは息が合わないんだよね。あ、モルガンの魔術がアルトリア達を巻き添えにしようとして……その隙にマーリンが逃げた。
「モルガン、もう少し範囲を抑えられないのですか!」
「マーリンはその程度で狩れないだろう!」
「ですが、私達も避けざるを得ません。マーリンはその隙を突いて攻撃を避けるのです!」
「ならば、諸共喰らうがいい!」
これは酷い。……シミュレータ室の扉が開いて、あ。
「不可抗力ですが、力を貸しましょう。モルガン」
「お前……」
「この時のために、死なない物を処する魔術を編んだのです。ここで使わずに何時使うというのでしょう」
あ、アルトリア・キャスターが普段通りの表情で、見たことない魔術を放って……シミュレータ室で良かったと同時に、恐ろしい。怒ったアルトリア達はここまで怖いのか。
「乱暴だな、君たちは!」
そして、どうして数の差もあるのに、大してダメージを喰らっていないの。というか、どうしてこうなったの?
「マシュは何か聞いている?」
マシュも分からないらしい、諦めたように首を横に振った。おや、後ろから誰かが来る気配が……>>799 続き
「それは私から説明しよう」
「あ、ブーディカさん、こんにちは」
「一体、何があったんですか?」
疲れたようにため息をついて……一体何があったんだろう。あまり聞きたくないけど、マスターとして聞いておかないと。
「あれは、私とエミヤがいつも通り食堂にいた時の話だったんだ」
「前にアルトリアが言っていたんだけど……マーリンって食事は取らないけど、その感情が好物なんでしょう?」
確か、似たようなことをバビロニアでも言っていた記憶がある。
「だから、姿を消して食堂にいることも多いんだって。聞くまでは全く気付かなかったけど。だから、かな。あれが起こったのは」
……どうしてそんな遠い目をしているんですか?
「……元はモルガンだったのかな。バー・ヴァンシーにご飯を食べさせたいって言ったんだ」
「「あ゛……」」
シミュレータ室にいるアルトリア・キャスターとモルガンを見て、唐突にフラッシュバックする忌まわしい記憶。即死を放つ作られるべきではなかったチョコ……マシュも考えていることは同じのようだ。
「マスターとマシュも落ちが読めたみたいね、まぁいいわ。それで、私もエミヤも手伝っていたんだけど……」
「もしかしてあの時みたいに……ある食材を魔術でまとめて投入した、のでしょうか?」
「そう、当たり」
「いやー、私達も急に減ったから何でだろう~、って思っていたんだけどさ」
「ほら、娘にご飯を作りたい、って気持ちはさ。痛いほど分かるんだ。だけど……ね?」
「そうしたらマーリンがさ。魔術なのか分からないけど……それを消しちゃってさ」
ああ、モルガンが怒った理由は分かった。>>800 続き
だけど、何でそれにアルトリアが混じっているんだろう。モルガン、アルトリアは嫌いだよね?
「……じゃあ、何でアルトリアが混じっているの?」
「あっちはあっちで積年の恨みというか……何と言うか」
呆れたように、疲れたようにブーディカがため息をつく。
「この前さ、パーシヴァルが来たじゃない?」
うん、頑張って召喚したからね。
「マーリンがさ、食堂にいたパーシヴァルに要らんこと言ったらしくて……」
「よし。その辺りの話は私からさせて貰おう」
「あ、エミヤ。食料……どうしようか?」
「幸い、地下に備えている備蓄庫に十分な食料があったのと、完成品ばかり置いていたこともあり、被害はさほど大きくない。俵藤太殿に言わずとも支障のない範囲だ。まぁ、それはそれとして、だ……」
ああ、エミヤも遠い目をしている。どうして、食堂では他のサーヴァント達が問題を起こすのだろう、無意識に。
「パーシヴァルが数多いるアルトリア達に肉と根菜を振る舞おうとしたので、それを止めたまでは良かったんだが……」
何だ、今度は何があったんだ。
「マーリンがな……年頃の少女に不相応な量の食事は相応しくないだろう、と。パーシヴァル殿はパーシヴァル殿で、騎士たる者として食事を取らねば体を作る事は出来ませんと言って退かなかったんだが……その時に言った言葉がな」
その続きをブーディカが口にした。
「アルトリアはとっても頑固者だからねぇ。君が用意すれば食べてくれるとは思うけど……ここには食堂があるんだ。どうせなら、普段から料理が得意な者に任せてはどうだろうか」
「別に悪いことではないような……」
マシュのいう通りで、俺もそう思う。別にパーシヴァルが無理強いをさせるような人でもないし……>>801 これで終わり
「何、アルトリアはハングリー精神を持っている。その無限の胃袋を以てしてね」
「…………」
うん、雲行きが怪しくなってきた。
「そこにアルトリアが来ちゃってねぇ。余計に問題が拗れちゃったの」
「退散退散……後は任せるよ」
今、何か聞こえたような……でも、入り口は槍とトランプを持ったアルトリアが塞いでいるはず……
「あ、あーーーーーーー!!!」
マシュ、今度は何が……セイバーオルタとモルガンで戦闘が!
「何故だ。アルトリア。何故その宝具の名前に私の名前を付けた!」
「後からのこのこと現れた姉上に話す道理などあるまい!」
「っ貴様!」
…………壊れないよね、シミュレータ室。
「マスター、マーリンを見なかったですか!?」
「へ?」
シミュレータ室を見れば、マーリンを見失ったアルトリア・・キャスターが憤慨していた。
「もしかして……幻術で逃げた?」
この後、マーリンとの鬼ごっこが秘かに開催されたらしいが、何も起きなかったことから捕まえることが出来なかったんだろう。因みにその後のモルガンだけど、ブーディカとエミヤ、キャットが付きっきりでお菓子作りを手伝ったらしい。そして、そのお菓子とエミヤが淹れた紅茶で、バー・ヴァンシーとお茶会をしたのだとか。「そういえば、聞きたいことがあるんだけど。」そう、メリュジーヌが切り出した。今自分達はとある集落―――いや、「町」にいる。
今の世界に置いて「都市」はほぼ存在しない。単純に人口が少ないのもあるが、それ以上の原因の為だ。
世界の衰退とともに現れるようになった異形の存在。時に獣や人の形を持つ不定形の怪物。それは世界の至る所に表れ始め、生物を見境なく襲い始めた。
生物に強い毒性を帯びた奴らによって残された人々は生活圏を追われることになった。そしていつからか奴らは「モース」と呼ばれるようになり、生けるものたちの敵として認識されるようになった。そんな世界の中で、この「町」は成立し、破綻せずに続いているのだ。「どうしてこの「町」の近くにアイツらがいないの?」「町長」と呼ばれる男が答える。「――――ブラックドックだよ。ここにはあいつ等を喰い物にする黒い獣が出るからさ。」「・・・なんだそりゃ?」―――ブラックドックは確か英国全土で語られる黒い犬の妖精だ。どこぞには死の女神の飼い犬だなんていう所もあったらしい。そんな奴らが、人も襲わずにモースだけを喰らっている―――?「奴らは夕暮れ時になると現れる。「町」の中をうろつき回ってモースを探しては喰って回るんだ。そうして日が昇る頃になると何処かに去って行くんだよ。人が近づくと警戒して威嚇してくるが、不用意に近づかなければ何もしてこない。そのおかげでこうして生活圏を広げて「町」を創れたんだよ。」
―――何とも不可思議な話だ。不吉の象徴とも言われているブラックドックが結果的に人々の助けになっているのだから。
「―――黒犬・・・まさか・・・いや、でもそういうことなら・・・」・・・メリュジーヌが何かぶつぶつと呟いている。「・・・どうした?何か心当たりでも―――」そう聞こうとした時だった。
「すまない、話の途中失礼する。」―――そうして、山脈が現れた。
その場にいる誰よりも巨きな身体。その身を覆う白い甲冑。緩やかなウェーブのブロンドの長髪の女性。
その声は凛々しくも女性特有の艶やかさを含んでいる。
「「町」の周囲の哨戒を終えてきた。それといくらか獣が狩れたのでな。分けようと思って来たのだが――――」彼女の眼が、メリュジーヌを見て止まり、大きく見開かれる。
「――――!「ランスロット」・・・!?」「―――やっぱり君か。「ガウェイン」・・・」折角、召喚されたというのに、中々マスターと二人きりの時間を取ることが出来ない。
「……マスターは忙しいんだなぁ」
マイルームに突撃してみてもいないことが多いし、いたとしても清姫とかいう泥棒猫がいるだけ……まぁ、僕が最強なんだけど。
「マスターがいないと暇だ……そういえば、素材が足りないとか嘆いていたなぁ……」
確かに僕は龍だ。だから、龍に関する素材を使うのは当然だと言える。では、どうして素材を用意していないのか。まぁ、他の生物のように成長することがまず驚きなんだけど。
「はぁー。今日も疲れ……あれ、メリュジーヌ?」
「お帰り、マスター……今日も色々あったみたいだね」
「まぁね……それより、カルデアには慣れた?」
「そうだね。人以外の英霊なんていないと思っていたから時間がかかると思っていたけど……」
人以外の英霊って多いんだね。バーゲストに嫌われているのは少し堪えるけど、こちらは時間が解決してくれると思う。
「あぁ~……それは確かに、ね」
何処か遠い目をしているけど、そんなに変かな。自らを私と同じく兵器と謳うエルキドゥ、物語の集合体であるナーサリー・ライム、新手のデュラハンかと思ったら全然違ったへシアン・ロボ……彼らはマスターが遠い目を浮かべるような可笑しさの塊ではなかったと思うけど……
「それより、マスターは寝るの?」
夜はマスターの体温が恋しいんだけど……な。あれ、マイルームの扉が開いたぞ?
「そ・れ・は・いけませぇぇぇぇぇぇん!!」
っちぇ、マシュが来ちゃったか。それも顔を真っ赤にして。
「そ、そそそ、先輩と添い寝なんて、させませんよぉぉぉぉぉっ!?」
っちぇ、カルデア内で添い寝は厳しそうだね。以前は誰にもバレずに宇宙に行ったとかいう話があったし……その内に誰も届かない、遠い場所に連れて行ってみようか。ちくり、ちくりと音が響く時計が時を刻むような、縫い合わせる音。恒例になったひと月事の習慣。
家の前で雨に打たれて朽ちかけていた彼女を拾ってから数月立ったある日。
「立って歩きたい。自分の足で助けを借りずに。」
全身に傷を負い歩くこともままならない、そんな彼女の願いを聞き届けて作ったモノ。
付与魔術にとある傭兵から教わった死霊魔術の応用で作った人造の義肢。
彼女にとっての「魔法の靴」とも言うべきモノ。
この義肢に自分の魔力を込めた糸を縫い込むことでこの義肢はその術式を発動する。
「強く、軽やかにその歩みを進める」たったそれだけ。・・・我ながら陳腐でお粗末な代物だと思う。
家から落ちこぼれの烙印を押され、ほぼ勘当の形で家を出た自分。
付与魔術の名門に生まれながら、「脚部関連のみ」しか術を行使出来ない出来そこない。
幸いだったのは自分は次男坊であり、優秀な兄がいた事だろう。
そうして市井に降り、一般人と変わらぬ生活をして早数年。
まさか人ならざる妖精を拾って面倒を見るなど思いもよらなかった。
・・・・・・・
ゆっくりと慎重に縫う手を進めていく。既に片方は縫い合わせが終わっている。
ふと彼女が問いかけてきた。「いつまでつづけられるの?」
・・・これは期間限定の奇蹟だ。自分が老いて縫う事が出来なくなるか、あるいは魔術が出来なくなるか。そうなればこの「魔法」は消えてしまう。
だから自分はこう答えるのだ。「舐めるな。自分がくたばるまで続けてやるさ。」そうだ。自分は今でも覚えている。
あの雨の降りしきる夜。家の前の街灯の下で倒れ伏す彼女の姿。
助け起こした際に見た、その眼。希望を、拠り所を失った生気の無い眼。
介抱してしばらくの彼女の狂乱ぶり。
きっとこの娘は多くに虐げられ、裏切られてきたのだ。それを嫌というほど理解してしまった。
そうして、同時に心に思ったのだ。「せめて自分位は生きている限り、彼女の味方であろう」と。
だから願いを聞いた。だから術式を組んだ。なけなしの技術を振るい、義肢を作った。
初めて義肢を付けて立ち上がった時の彼女の喜びようを今でも思い出す。
大輪の花のような笑顔で何度もステップを踏みながらクルクルと回る姿を思い出す。
さらには「ありがとう!やさしい魔法使いさん!」などというのだから。・・・思わず見惚れて呆けてしまったのだ。
きっと自分は彼女を大事に思っている。恋か、愛か、それは解らない。だが、あの時の誓いは今もこの胸の内にある。だからこそ自分は嘯くのだ。「最後の終わりまで」と口にするのだ。
彼女が踏んできた。顔の頬をふにふにと踏みつけてくる。
何か愛しい物を愛でるかのように。
「恥ずかしい事平然といってんじゃねーよ。」
どこか嬉しげに、幸せをかみしめるかのように。
「・・・ばぁーか///」―――彼女は生体兵器である。【AVW-P02ガウェイン】というコードを与えられた彼女はランスロットの後継機の期待を大いに寄せられていた。しかし彼女に発現したのは竜とは似つかぬ獣としての異能であった。対象の情報を捕食することで己の内に取り込みより強大になる異能。開発者たちはこれに【強食】(ワイルドルール)という呼称を付け、兵器としての運用を開始した。
本来の物とは異なる物になったとはいえ、その力は凄まじく戦果を挙げるたびに強大になる彼女は
いつしか畏敬と畏怖の意味を込めて【バーゲスト】と呼ばれるようになっていった。
―――そんな彼女が【戦争】を忌むようになったのはひとえに「彼」との出会いが契機であった。
自分よりもはるかに弱く、か細い、病弱な人間。本来なら歯牙にもかけないような存在。
それが、強大になるにつれ大きくなる自分の悍ましさに怯え、独り泣いていた所に現れて言ったのだ。
「どうして泣いているの?よければ話してみてくれないかな?」
自身の事を知っているにも拘らず、彼はただただ一人の女性として扱い、彼女に親身になってくれた。
それから、彼の部屋を訪ねるようになり他愛もない会話をして交流を深めあった。
いつしか彼女は、彼に親愛以上の好意を抱いている事に気付く。そうしてまるで図ったかのように訪れた敵国の首都攻撃。彼女は彼を連れ、国を脱出した。そうして遠くこの「町」にたどり着き、外れの家に居を構え生活を始めたのである。そうして何年もの時が過ぎ、「町」の一員として定着した頃。―――彼女が、一人の男とともに現れたのである。そうして今現在。その稀人に客人二人は。
「ヤベェ!このミートパイ喰いごたえも味も一級品だぞオイ!」
「このスープもすっごい美味しいよ!思わず僕のドラゴンハートがオーバーロードしそうな位!」
「なぁなぁ!何か日持ちするような物とか作ってたら少しでいいから分けてくれないか!」
「え?えぇ・・・干物程度でしたらいくらか数がありますしかまいませんわ。」
「マジか!やったぜメリュジーヌ!しばらくは食事が豪勢になるぞ!」
「やったねマスター!味気ない携帯食料とも当分おさらばだね!」
「(離れていると人は変わるとは言いますが・・・貴方、変わりすぎではありません・・・?)」
バーゲストの家で、メシウマヒャッホイしながら食事をしているのであった。―――しとしとと雨が降る。暗く垂れ込める雨雲はこの世界ではごく当たり前の光景だ。
しかし、今ここに住む人々にとってこの雨は災禍の訪れを意味していた。
地下のシェルターに籠り、音を立てぬように。決して微動だにしてはならない。何故なら。
「――――――」「――――――――」
近づいてくる。カツカツとヒールを鳴らすような足音と。がりがりと、大きな刃物を引きずるような音。
「――――のかわいいむすめ――――」「みん――――なの――――」
何なのかをここにいる者は皆知っている。「妖精」だ。
・・
「ばーヴぁんしー・・・バーヴァンシー・・・」カツ、カツ
「あかいかかとの・・・かわいいむすめ・・・」ガリガリがり
「むらの・・みんなの・・・にんきもの・・・」かつ、かつ
「かわいい・・・みんなの・・・」がりがりがっ・・・
止まった。息をのむ。
「アア・・・ああアアアああああああ!」「――してやる・・・!――してやる・・・!」
けたたましい破壊音。頭を抱えて蹲り早く消えてくれと祈る。やがて音はやみ、またカツカツ、がりがりと音を立てて遠ざかっていく。
この地の人々は、悪夢にさいなまれ続けている。かつてと同じように。――― 計画報告書―――
当文書は惑星核活性化再生計画に関する経過報告書である。
当計画は英国地下にて発見された特S級特殊神秘遺物(以後遺物Aと呼称)を用いた惑星核に対するアプローチを行い、これに当機関の開発した循環型生命還元機構を投入。
惑星の内核より土壌および大気の浄化機能を活性化し促進、現地球環境を改善する計画である。
本計画における循環型生命還元機構を以後【ケルヌンノス】と呼称し、当計画を【プロジェクトアヴァロン】と呼称する。
現在ケルヌンノスは85%製造完了しており、最終調整を実施中。内核への道となる【霊墓】の確保の為、遺物Aの採掘を開始。
これを移動したのちケルヌンノスを【霊墓】跡より内核に向けて降下。内核に到達を確認次第ケルヌンノスを起動。内核の活性化を開始する手順となっている。
【霊墓】内の神秘生命体の駆除に関しては、AVW-P01とAVW-P02の二機を主軸とした殲滅部隊を組織。内部の90%の駆除を完了した。
二機に関してはメンタル面における数値の不安定さが確認されているため、一時メンテナンスの為【キャメロット】に送還。調整終了の後、ケルヌンノス降下のサポートに回される予定。
なお現在、職員らの内で「黒い巨大な何かを見た」「延々と響く虫の音がする」などの報告が相次いでいる。上層部にこれらの要因の調査、及び解決を申請する。
研究機関【キャメロット】所長 モルガン・ル・フェイ―――それは突如として訪れた。
訪れたかつての同輩とその相方との夕食を終え(お代わりを三度したのち干物を確保してコロンビアしていた)その後の食後の紅茶と共に歓談していた最中、慌てた自警団員によって齎された。
「得体の知れないモースが群れを率いて街に向かっている」怪我を負った自警団員はそう告げて気を失った。事の重大さを悟った彼女はすぐさま鎧を着こみ剣を手に飛び出した。
駆けつけたのは町の北側に位置する防壁。モース達がやってくる位置を割り出し監視と防衛のために築いたものである。監視所に付いた彼女はそこで見た。遠くの森のその中から現れるその巨体を。
山を思わせる巨躯。鋭い牙と爪。それらに鎧のように纏わりつく呪詛のような毒塊。
そこからゆっくりとその歩みをモース達を引き連れ進めてくる。
さながらそれは王が軍勢を引き連れて進軍するかのような光景だった。
―――「モースの王」―――脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった。
「銃も砲も効きゃしねぇ!なんなんだアイツは!?」
「周りのはどうにかなっても肝心要のアレに通じないんじゃ意味がないぞ!?」
「・・・私がアレを引き離す。その間にお前たちは他の掃討を頼む。」
「お前・・・!?確かにお前なら出来るかもだが一人はいくらなんでも無茶が過ぎる・・・!」
「しかし他に方法がない!皆に被害を出さずに倒すにはこれしか・・・」
「そうやってすぐ思いつめるのが君の悪い癖だよ、バーゲスト?」
「いまこっちには最強の騎士サマも居るんだぜ?」
そんな声と共に、二人はその姿を現した―――「マスター。君は自警団の方をお願い。僕はバーゲストとアレを倒す。」「いけるか?」「もちろん。」「何せ僕だけじゃなくバーゲストも居るんだ。」「アレが何者であろうと僕ら二人に倒せない物なんかないよ!」「お前がそれだけ言うなら安心だな。ちゃんと倒し切ってこいよ?」
そんな軽口をたたき合いながら話を進めていく2人。
「さて、弾はまだあるか?あるならライフルの奴をくれ。しぶといのは請け負ってやる。」
「あ、ああ、分かった!」そうして走り去っていく自警団員。
「いや待て!?これは私たちの問題だ!客人であるお前たちにそこまで頼むわけには―――」
「文句は受け付けないよバーゲスト。これは僕たちだけの意志じゃない。あの子―――アドニスの願いでもある。」「――――!?」
「あの子から頼まれたのさ。「自分はこういう時に彼女の助けになれないから彼女を助けてあげてほしい。」ってね。」「それと彼からもう一つ。君に向けて伝言だ。」
「無事に帰って来て。そして負けないで。僕の愛する黒犬の騎士」
「・・・だってさ。君が幸福に生きられていることに。そして君の事を愛してくれるその事に心から感謝を捧げる。」「だから来た。君の幸福(しあわせ)を守るために。」
「さぁ、行こうか?君と僕の強さを、あの獣に知らしめてやろうじゃないか!」
「――――あぁ!言われずとも!遅れるなよメリュジーヌ!」「そっちこそ!」
「聞くがいい!悍ましきモースの王よ!我が名はバーゲスト!黒犬の騎士にして人と共に生きるもの!」
―――お前(絶望)を超えるものだ!―――ミーティングを終えてマイルームの扉を開いた時、普段は見掛けないサーヴァントがベッドに座っていた。
「子イヌ、聞きたいことがあるんだけど」
「……エリちゃん、どうしたの?」
「さっき、発声練習をしていたんだけど……知らない奴から宝具撃たれちゃったの」
「え゛?」
エリちゃんが屋内で発声練習していて……いきなり宝具、か。
「とりあえず無事で良かったけど……」
「良くないわよ。一体、何処の誰よ。折角、次のステージに向けて練習していたのに……」
……エリちゃんには悪いけど、それは宝具級のインパクトがある、ネロと同等レベルの。
「……宝具を撃たれたって言っていたけど、どんな宝具だったか分かる?」
「何か魔術みたいなので固定されたかと思ったら、内側からドバーってやられた」
ダメだ、擬音ばかりで全く宛にならない。というか、内側からってよく無事だったね?
「そうか……それじゃあ、外見について何か分かることはある?」
「うーん。あんまり覚えていないけど、私に似ていたけど……私じゃなかったわ」
エリちゃんに近い容姿で多分、同じ女性のサーヴァントか……あ、もしかして。
「うーん。分かった、ちょっと探してみるよ」
「頼むわよ。私は次のライブの練習があるから、先に出るわ。今日は面倒だけど、シミュレーター室で練習するわ」
よし、被害はこれで軽減されそうだ。多分、エリちゃんに宝具を撃ったのはバーヴァンシーだよね。流石にモルガンには言えないから……バーゲストに相談してみよう。>>812続き
その日は戦闘もなかったので、部屋で図書室から借りた本を読んでいた時、部屋の外からマスターの声がした。
「バーゲスト、ちょっといい?」
「何か用か?」
「うん、実は……ね」
疲れた様子を見せるマスター……さては話辛いことだな。
「バーヴァンシーが……他のサーヴァントに宝具を撃ったみたいで」
「はぁっ!?」
一大事ではないか。ああ、そうか。だから、私なんだな。いいだろう。
「バーヴァンシー……この前、様子を見た時はガラテアというサーヴァントと靴を作っているのを見掛けましたが、私が知らない所でそんな蛮行を……」
「……何となく、襲った理由は分かったんだけどね」
そんな一大事にも関わらず、悲痛な顔を見せるのは何故だ?
「……何か、理由があるのか?」
「襲われた……バーヴァンシーに似たサーヴァントに悪気は無かった、と思うんだけどね」
段々、語気が弱くなっていく上に、まだ10月じゃないから大丈夫だ、と繰り返して発現するマスターの方こそ大丈夫だろうか。
「了解しました。その件、私の方で確認しておきましょう」
この件、陛下やメリュジーヌでは厳しいだろう。
「ごめんね。折角、円卓の騎士に関する本を読んでいたのに」
「いえ、マスターの方が余程忙しいでしょう。ならば、ここは私にお任せください」
マスターのお願い、かつ元同僚の仕業だ。出来ることなら私で片付けた方がいいだろう。>>813 続き(何でこんなに長くなったんだろう……)
翌日、私は他の英霊から聞いた霊体化というものを使って、バーヴァンシーがいる作業部屋の近くで待機する。今日もガラテアと呼ばれるサーヴァントと靴作りをしているようだが……何があったのだ。
癇癪を起したバーヴァンシーの方が危険だと思うが、仕方なさそうな顔をしたマスターも気になるな。
「よーし、昨日のリベンジよ。クレーム付けられないようにしてやるんだから」
……ん、隣の部屋に誰かが入ったな。あれは……バーヴァンシーに似ていたが、違う誰かだな。今度、挨拶をしておくべきか。ふむ……もしかして、被害にあったというサーヴァントは……うん、何だ。耳が、体が……重い!?
「な、何だ。襲撃か!」
今、何が起こった。魔術でも武器でもない何かで、霊基を直接攻撃されたような……!
ぼえええええええ~~~
「音声兵器の類か……クッ、臓腑が軋みそうだ!」
何だこれは……今までこんな攻撃は受けたことがない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
な、バーヴァンシー!
「こっちで作業してんのに邪魔すんなし。いちいち切り裂くの面倒なんだよ!」
お、おい。いきなり宝具だと。待て、気持ちは分かるが、相手は誰だ。
「おぼえてなさいよ~!」
……隣の部屋から誰かが走って逃げていく……つまり、さっきの音声兵器は。
「って、バーゲストじゃない。何しに来た?」
しまった、霊体化を解く気はなかったが。
「さっきの宝具使用についてだが……詳しく話を聞いてもいいか?」
何となく予想はついた。多分、マスターがあんな顔を浮かべていたのは……>>814続き
「あんたもあれを喰らったなら分かるでしょ。こっちが折角……靴作りに集中していた時に、あんなの喰らったのよ。分かる、この気持ち?」
初めはどうケジメを付けさせるか悩んでいたが……妨害したくなる気持ちがよく分かった。あんなのが近くに居たら、とてもじゃないが本を読むことなど出来ないだろう……だからと言って、宝具はやり過ぎだと思うが。
「しかし……知らない相手にだな」
「一人減った所であと二人いるんだから変わるかよ!」
え、あれと同じ音声兵器を持つサーヴァントがあと二人もいる……?
「なら、被害を出さないように移動して貰えば……」
「それをしないから、私も宝具を撃ってんだよ。次に邪魔をしたら、あんたにも撃ってやろうか?」
うーん……これは一筋縄ではいかないな。どうすれば……
「そうだったのか……それなら、同じ音楽で対抗すればいいのでは?」
汎人類史から齎される漂流物にもそれなりに見ているはずだし、陛下の娘として、そのような教育は受けたんじゃないか。
「はぁ~? 私に音楽をやれ、ってお前が?」
「私はいいことだと思いますよ」
「ガラテア、大丈夫なの?」
ほう、この方がガラテア。持っているのは……彫物に使われるノミか、随分と大きいな。
「私は彫像でもあるのでこの通り。先ほどの話ですが、良いインスピレーションを受ける為に別の芸術を体験する方は多くいらっしゃいます。貴方さえ良ければ、出来る限りのお手伝いはさせて頂きますが」
「え、えっと……」
珍しい、あのバーヴァンシーが普通に接している。
「それだったら……それと……バーゲスト、言い出しっぺなら手伝えよな」
嗜み程度には会得していますが……ええ? こうして、何故か私はバンドを組む羽目になった。>>815続き
楽器ってどうすればいいんだろう。私のようなものでも扱える楽器、か。マスターに相談しようかしら……気が付けばマスターのマイルームに寄っていた。来てしまったものは仕方ないので、マスターを気長に待つことにした。
「あれ、バーゲスト?」
「それで、どうだった?」
どうだった、か。どうなったかと言えば……
「何故か、バンドなるものをすることになりましたわ。唐突なのですが、私の知っている音楽との違いを教えて欲しいのです」
「……うーん、どんな方向性にするか、だよね」
ですわよね……って、何で順応しているのですか?
「……驚かないのですか?」
「突発的なことはよくあるし……何よりこれの原因って、エリちゃんでしょ?」
か、完全に死んだ魚のような目をしている……一体、過去のマスターに何があったのですか?
「そうだ、バーゲストはどんな楽器が使えるの?」
「嗜み程度ですが、弾く、叩く、吹く、といった楽器であれば使えますわ」
「そっか……他には誰が参加するのかな?」
「バーヴァンシーと大きなノミを持ったガラテアというサーヴァントですね」
楽器のことを考えていらっしゃるのでしょうか。
「分かった……明日、時間が取れたら一緒に行こうかな」
「マスター、ありがとうございます」
そろそろ夜も遅い時間になってきた。マスターの睡眠を邪魔してはいけないだろう。
「それではまた、よろしくお願いします」>>816続き(行数制限が辛いこの頃)
翌日、朝食を食べた後にバーゲストを連れてガラテアとバーヴァンシーがいる部屋へ向かった。
「あ、マスターじゃねえか、暇なのか?」
「マスターに失礼だ、バーヴァンシー」
言い合いが続きそうな二人を置いて、ガラテアがこちらの用を聞く。
「色々あって、バンドみたいなのをやるって聞いたから、話を聞こうと思ったんだ」
何だかんだ話を聞いていたバーヴァンシーも言い合いを止めて、こっちを向く。
「あ……そういうことか。あの血の伯爵令嬢の奴が煩すぎてよぉ」
「ああ、あれか。確かに昨日の音声兵器は、随分と応えたな」
ああ、バーゲストもがっつり喰らったみたいだね……
「バンドをするならさ、まずは楽器と思ってね。あるかどうかは分からない。けど、話だけは聞いておこうと思って」
「そもそも、あいつが部屋の隣に来なければいいんだけどな。というか、マスターから言って来ないようにすればいいじゃん!」
それは最もなんだけどさ……何か、あれ。嫌な思い出しかないな。何度も出てきて恥ずかしくないんですか?
「ハハハ……ハ、ハロ、ハロ……」
そう、平成の秋、何度も現れたチェイテ城……逃げられないゲリラコンサート……
「お、おいマスター……大丈夫か?」
ああ、トラウマが……嫌だ、あの特異点だけは、もう……ッハ!
「マスター、今日は楽器の話をしに来たのでしょう?」
あ、バーゲスト……助かった。そうだ、その為に来たんだった。
「ごめんね、取り乱していた。さっき、バーゲストが言ったように、二人が弾きたい楽器とかあれば、と思って」>>817(これで終わりのはず!)
「お、ここにいたか、立香君」
という事は……もしかして。
「君の考えている通りだよ。偶にはこういう制作もいい息抜きになるねぇ」
そうしてダ・ヴィンチちゃんが持ってきたのは、昨日の内にお願いしていたエレキギター2つとドラム、そしてキーボード。そして、それに一番早く反応したのが……
「っへぇ~、イカしてんじゃん、それ!」
「ふっふ~……立香君、これでいいかな?」
「ありがとう。ああ、あとこれ上げる、ダ・ヴィンチちゃん」
「ん、何かな何かな。え、ゴルドルフ君のマッサージ券……よくこんなの作ったね?」
確か前に、ゴッフのマッサージが凄い効いたという話をしていたからね。
「微小特異点の解決報酬として、以前から貰ったものを蓄えていました」
「やっる~、ゴルドルフ君のマッサージは効くんだよねぇ……途中の開発を一区切りさせてからやってもらおう、っと」
じゃあねぇ~……そう言って、早々に部屋を後にしたダ・ヴィンチちゃん。
「スゲェな。こんな代物を直ぐに用意できるなんて。けど、これはどうやって使うんだ?」
「ああ、ちょっと借りるね」
上手くは無いけど、簡単なものだったら……
「へぇ、そうやって弾くのか」
「詳しい使い方とかは図書館に行けばあるかもしれない。もしかしたら、曲なんかもあると思う。色んなライブラリがあるから」
こうして、エリちゃんから自分たちの作業場所を守るため、小さなバンドが結成された。
上達には今しばらくの時間が掛かるが、その様子を微笑ましく見る一人の女性がいたとかいなかった、とか。モルガンはバーサーカーだけどNP獲得のスキルも使えて、クリティカルや全体宝具といった攻撃面でも期待できるサーヴァントだ。だから、召喚に成功してからは様々なシミュレーター室で出来るクエストに連れて行き、その能力を確かめていた。それを繰り返していくことでモルガンのことも色々分かり始めて来たんだけど……事件が起きた。
「以前から不思議に思っていたのですが……何故、私以外のバーサーカークラスが要るのです? 全員解雇しなさい、必要ありません」
マイルームで二人しかいない状態だったら、まだ何とかなったんだ。だけど、さ。背後に、ね。
「ま・さ・か・聞き入れるつもりなんて、ないですよねぇ…ますたぁ?」
「っうわぁぁぁぁぁっっ!!」
……本気で、本気で驚いた。気配遮断スキル持っていたっけ、清姫!??
「誰かと思えば、龍になれると思い上がった小娘ですか」
え、何か違うバトルが始まりそうなんですけど。
「ちょ、ちょっとモルガンも煽らない!」
「マスターが言うのであれば」
こっちの言う事は聞くけど、他の人やサーヴァントの言うことはほとんど聞かないからな……例外があるなら、食材を取り扱う際のキッチンにいることが多いサーヴァントやマシュくらい、か。
「ま・す・た・ぁ……ところで、さっきの世迷言はどういう事でしょうか?」
眼が怖いです、清姫さん。
「ただ、事実を言ったまでですが……何か?」
そしてモルガンは喧嘩を買わないで。
「貴女には聞いていません、シャーッ!」
清姫が蛇のような威嚇をしている……でも、爬虫類より昆虫の方が効くと思うよ。
「貴女も知っての通り、此度の現界によるバーサーカークラスとは、基本的に攻撃が有利なクラスです……反面、どのクラスよりも撃たれ弱いという欠点があります。それを踏まえた場合、バーサーカークラスは強力なサーヴァントである私がいれば事足りるのでは、という結論に至ったまでです」
これはモルガンなりの分析なんだろうけど、戦闘面だけで言えば間違っていないから困る。>>820
「それは他のクラスのサーヴァントにも言えるでしょう。それに、色んな状況に対応出来るサーヴァントがいた方がいいとますたぁも仰っていましたわ」
「……そうなのですか、マスター」
「うん、そこは清姫の言う通り。微小特異点とか色んな有事を考えると、ね」
だけど、その時その時の状況で、必要な戦力や適合出来るサーヴァントは変わってくる。だから、より多くのサーヴァントがいた方がいい。魔力が持てて、施設を荒らさなければ。
でも、長い付き合いのあるサーヴァントがいると、助かることもあるんだけど……やっぱり、モルガンの狂化スキルの方向性ってそっち?
「ですが、それは戦闘だけのこと。普段の生活や食事事情などではまた違う話でしょう」
お、清姫が言い返している。え、仲裁に入らないのかって。導火線に火が付いた爆弾に突っ込んでも砕け散るだけだよ。せめて、爆発が終わった後にしないと。
「普段から食堂にいるサーヴァントはエミヤというアーチャー、ブーディカと呼ばれるライダー、よく分からないですが料理が出来るタマモキャットと認識しています。タマモキャットだけはバーサーカーですが……料理の腕は認めましょう。戦闘にさえ出さなければ良しとします」
あれ、キャットだけ許された。
「どうしてキャットさんだけ別なんです!?」
……あ、もしかして人間じゃないから、バーヴァンシーにとって付き合い易いサーヴァントになるかもしれない、ってこと?
「そもそも、安珍様のことを勝手に夫(妻)と呼ばないでくれませんか?」
「そちらこそ何を言っている。私を召喚したのです、マスターが夫(妻)であることは明白でしょう」
お互いに間違っていないことを間違った形で言っているので、会話になっていない……
「私だって、ちゃんと段階を踏んでですね……」
「そもそも、安珍とやらをマスターと混合すること自体が無理のある話だ」
……そろそろ止めないと、ヤバイ。
「ちょ、ちょっと二人共その辺で……」>>821続き
「何でしょう、マスター。今は大事な話をしているのですが」
「そうですよ、ますたぁ。強い絆で結ばれたこの私を解雇させようと宣うこの女郎を放置してよい、と?」
……清姫の怨念がましい眼と冷めきったモルガンの眼が怖い。どちらかと言うと清姫の視線が怖い。だけど、ここで逃げてはいけない。
「俺は色んなサーヴァントの力を借りてここにいます。だから、必要に駆られない限り、他のサーヴァント同様に解雇は考えていません」
「……マスターがそう言うのであれば」
「それに、どうしても人手が必要な時もあるので、そう言った時にも居てくれるお陰で助かっていることも多いんです」
実際、沢山のサーヴァントがいなかったら解決出来なかった微小特異点も数多くあった。
「そのようなことが……確かに、それであれば必要ですね。具体的にはどのようなことがあったのですか?」
「少し前は日本の都市に出来た微小特異点で買い物を……その少し前はサーヴァントユニヴァースのペンテシレイアと協力して配達の手伝いなんかを……」
ああ、流石のモルガンも訳の分からない顔をしているな。うん、普通はそうだよね。
「マスター、サーヴァントユニヴァースとは何でしょうか?」
「ああ、うん……それはね……」
さて、何処から説明しようか……それにしても、さっきから清姫が静かなのが不気味だ。
「……これもわたくしと、ますたぁの愛ゆえ、ですね。あとはそうですね……指輪……結納……ウェディングドレス……ふふ……うふふっ、うふふふ、ふふっ」
これじゃあ、サーヴァントユニヴァースの説明どころじゃないよ。まぁ、説明できるものでもないけどさ!
「そこの小娘は何を言っている。只でさえトトロットに避けられているにも関わらず、婚姻衣装などとよく言えたものだ」
トトロットってハベトロットのことだよね。花嫁の手助けをする妖精から避けられているってことだから……あ、終わった……これ。
「…………」
ウィーン、ってマイルームの扉が開いた気がするけど……こんな状況だもの、皆が逃げるよね。……ところで、マイルームって何だっけ?>>822終わり
「……そこの方、いま何と申し上げましたか?」
本当に……マイルームじゃなくて、火薬庫の間違いでは?
「トトロットが避けるような奴に花嫁衣装が似合うものか、と言ったのだ。トトロットが推していたマシュなら別だろうが」
そう言えばそんな話があったし、ハベトロットからもそんな被害報告あったね……それはそうとして、火にガソリンを注いだんだけど……分かっています?
「……燃やします」
「戦闘は、シミュレーター室でやって下さい!!」
マシュ、助けて―!!
その後、戦闘になりかけたものの、途中から話を聞いていたマシュが間一髪で二人の間に入ることで戦闘にこそならなかった……のだが、ストーキング行為に参ってしまったハベトロットがマイルームにやってくる頻度が増える結果になった。
うーん、少し時間が空いてしまって鮮度が落ちてしまったかも。
遅れてしまい、申し訳ござません。これにてお題
【私以外のバーサーカー解雇して欲しいモルガンVS案珍様から離れたくない清姫】
消化とさせて頂きます。<m(__)m>ああ、あんたか。先日は有難う。おかげで助かった。あれだけの射撃、相当な手練れだなアンタ。
ただの宝探しの一般人?ハハハ!じゃあそういう事でいいさ!ところで何か聞きたいことがあって来たんだろ?なんでも答えるぜ?
バーゲストの正体?あぁ、その事か・・・
いつから知ってたかだって?そんなの決まってるじゃないか。
――――初めて、この町に2人で来た時からだよ。
あの大雨の中傘も雨具もなく、か細い男一人抱えてここまで来たんだ。
何かしらのヤバい物を抱えた奴らだっていうのはみんな察していたのさ。
実際、あのブラックドックたちは二人が来てから現れるようになったしな。
だからあいつらに何か関わりがある、もしくは原因だと踏んであいつらの家にまで忍んで行ったのさ。
近くの森で二人を見つけて様子をうかがって何かあれば出ようと身構えていたんだが・・・な。
バーゲストの奴、泣きそうな顔で「隠し事をして申し訳ない」「みんなが知ればきっとここにいられない」なんて言っていたんだよ。
それをアドニスが慰めて「いつかみんなにちゃんと話そう。きっと受け入れてくれるから」ってさ。
・・・そんなの見てしまったらさ、こんなことしてる自分らが情けなくなってきてな。
皆して尻尾巻いてばれないうちに退散して戻ったんだ。
それで皆で決めた。「アイツらが自分から話すまでちゃんと待とう」ってな・・・
あの戦いの後二人から事情はちゃんと話してもらった。
アイツは「騙していてすまなかった、如何様にも処罰は受けよう」なんてあの体震わせて頭下げて言うんだよ。だから言ってやったのさ。
「じゃあちゃんとお前ら二人の門出を祝わせろ。お前の美味い飯付きでな!」ってな。確かに得体の知れない兵器だとかなんだとか、詳しくは解らなくても恐ろしい物なのは解る。
でもさ、あいつらは俺たちの事を助けて、ずっと守ってくれてたんだ。
アイツの正体が何であろうと、その事に対する感謝は本物だ。
だから、「今度はお前ら二人を守らせてくれ。お前らが俺たちを守ってくれたように」
「お前らの幸福(しあわせ)を守らせてくれ。」って言ったんだよ。
そしたらアイツさ、ぽろぽろ涙流して小っちゃい子供みたくわんわん鳴きだしてやんの!
それである意味安心した。こいつはなんだかんだ言っても普通の女の子なんだってな。
さてそろそろ時間だ。アンタも準備しないとだろ?何せ「神父」が居なきゃ話が始まらないしな!
今日はあの二人の「結婚式」なんだからさ!――――新郎、新婦、両名に今一度尋ねます――――
あなたたちは互いを生涯の伴侶とし、
健やかなるときも、病めるときも、
喜びのときも、悲しみのときも、
富めるときも、貧しいときも、
妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、
その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?
「「―――はい、誓います―――」」「止まないな・・・」「止まないね・・・」二人してそんなことを言いながら廃屋のそばで、2人は雨宿りをしていた。バーゲストたちの「町」を出立して十数日。とある小国の跡地に2人は差し掛かっていた。
かつて小さいながらも平穏であったこの国は、西の島国―――英国からもたらされた未知の技術によって
大きくその運命を変えられることになった。この雨もまたその恩恵、あるいは弊害と言う物である。
この国がその名を消す少し前、この国を大干ばつが襲った。その干ばつを解決しようと国はAVW技術を用いた降雨計画を実施したのだ。
結果として雨こそ降らせはしたがその制御が出来なくなり、国は大雨による幾多の災害に見舞われ崩壊したのである。
今でも人こそ幾らかは住んではいるが、大半は残された地下シェルターに籠る土竜のような生活を営んでいる。「こうなったら多少強行する?」「食糧や服が全部ずぶぬれになっても良いって言うならな・・・」「だよねぇ・・・」そんな会話で時間をつぶしていた最中。
「――――!?マスター・・・!何か来る・・・!」そんな緊張の張りつめた小声で彼女が伝えてきた。
雨で曇った景色の向こう。町の大通りの道の向こうから、ナニカがこちらに向かってくる。
がりがりと大きな何かを引きずる音と、幽鬼のようなか細くもよく通る声が聞こえてくる。
「――――。―――――。」それは次第に大きくなりながらその異様を表した。
白さを通り越した若干の灰色のかかった肌。足には鋭利な刃のごときヒールが嵌められている。
かつては美しいドレスであったろうその衣服はボロボロになり所々からその肢体をあらわにさせている。
そして、その下の肌は黒ずんで傷んでいた。それはまるで創作に出る生ける屍の様で―――
そして、それはこちらを見つけて。異様な隈のできた瞳を鋭い犬歯を覗かせる口と同じく大きく歪めて。
にぃぃぃっと嗤いながら。
「――――イたァ・・・!みツけたァ・・・!」
溢れんばかりの激情を込めてそう、口にした。数年前の事だ。当時、転校が相次いでいた自分はいじめによくあっていて
それに耐えかねて自殺を図った。しかし運よく生き延びてとある病院に入院することになった。
人の事を「愚患者」だなんて言う癖にその腕は凄まじい医者や
強面の凛とした婦長の事もあって回復は順調に進んでいた。
ただ、心の方はそうもいかず退院したらまた・・・なんて鬱屈とした思いで日々を過ごしていた。
あの子にあったのはそんな時だった。
ふと開いた個室。なぜか気になって入ったそこにいたのは
オフィーリアの絵画の様にベッドに横になる生ける屍のような少女だった。
声をかけて話を自分から振ったのはあまりの痛々しさゆえだったろうか。
聞けば彼女もいじめにあっていたらしい。しかしその規模は自分の比ではなかった。
彼女の親は自分の子をかばった結果周囲の有力者に追い詰められ今の暮らしを追われたらしい。
それでも彼女を養うために日々懸命に働いているそうだ。枯れた喉で彼女は言った。
「できないの・・・わたしには・・・なにも・・・」
「おかあさまをたすけたいのに・・・なにもできない・・できなかったの・・・」
満足に動かせない身体を身じろぎさせながら、涙を流す彼女。
なぜこうも気にかかるのかをこの時自分は知った。―――あまりに優しすぎる。
いじめた相手に憤るでもなく、追いやった悪意を恨むでもなく、自身の無力に涙して悔やんでいるのだ。
―――自分の事を、この時あまりに情けないと思った。そして知らずの内に言葉が出てきていたのだ。「だったらさ、これから頑張ればいいじゃねーか。」
「ちゃんと頑張ればその身体も治るんだ。そしたらアンタのかーちゃんを護ってやればいいんだ。」
「どんな理不尽にも悪意にも負けないように強くなって、さ」
「俺も頑張る。もっと強くなる。うん。負けてなんかやらない。やるもんか。」
「だからさ、お互い強くなって、そしたらまた会おうぜ?」
「ただの知り合いでなくて、トモダチとしてさ。」
そう言って彼女の手を掴んで小指を絡める。動かせない彼女の代わりに。
「ゆーびきーりげーんまーん、うそつーいたーら」
「はーりせーんぼん・・・のーますー・・・」「「ゆーびきーった」」
終えてからお互いに微笑む。そうして自分は病室を後にした。
あれから再び転校して、自分は高校生になっていた。
あのころのようないじめに屈することは無くなって、友人や仲間も出来て、平穏な生活を送っていた頃に。
突如響くヘリの爆音と共に、彼女が自分の前に降り立ってきたのだ。
「久しぶりね!アタシのトモダチ!約束守りに来てやったぜ?」
そんな活力にあふれた小悪魔のようなからかいの感情を込めた声で。
赤毛の妖精が、自分の人生に舞い降りてきたのだ。―――赫が爆ぜるように奔る。見据えた先には蒼と銀。
蒼はその手の鋼に力を通す。一瞬の輝きと共に現出するは聖剣の形代。
円卓最強の誉れを持つ騎士が湖の乙女より賜ったとされる「無垢なる湖光」の意味を持つ聖剣が一つ。
それを冠した騎士甲冑。それをその身の神秘と共に纏い、蒼が赫に向けて疾走る。
両の手の手甲で赫を打ち据えんとした時。―――瞬間、その手を左右に突き出す。
鈍く重い音と衝撃。それは赫の手からもたらされたものではなかった。
その背から伸びた巨大な骨の爪からであった。
右に3つ。左に3つ。花弁の様にその身を開いた六つの殺意が蒼の華奢な身体を喰いちぎらんと襲いかかる。
全てを受けるのは困難。蒼はそう判断し、両の手を正面に突き出した。その手から蒼銀の閃光が迸る。
蒼の身体が掻き消えるような速さで瞬時に後方へ下がり、爪が空を切って悔しげに互いで甲高い音をかち鳴らす。
一定の間合いを取った互いは改めて向き合うことになった。
――――蒼の記憶には、コレの存在は無い。少なくとも自分があそこにいた時には無かった存在なのだろう。
しかし、分かることもいくつかある。相手が「円卓」のナニカを冠した物を持ち合わせている事だ。
自分達AVWはかつてのブリテンに存在した「円卓」を元に製造されている。
であればコレもそれを持ち合わせており。それをまだ見せておらず隠し持っているという事だ。
外見では判別できない以上、交戦しながら見つけるしかない。そう考えた矢先――――それの視線が。自分ではなく。後方の彼に向けられたのを認識した。
悪寒が走る。何かとてつもなくマズイ――――!
「マスター!逃げ――――」
瞬間、彼の肩口から先が、紅い花弁を散らしながら飛んだ。
彼は何が起こったか解らず、数瞬呆けたような顔をして、直後襲いかかる激痛に哭いた。
赫の手には知らぬ間に弓が握られている。一部が鋭くなりその弦は竪琴の様に何本も貼られている。
それを見てその正体に思い至ると同時に、蒼は彼を抱えてその場を離脱した。
とはいえ、あれを撒かなくてはならない。飛んだ一部は回収している以上回復、接合は可能だろう。
しかしアレの感知から逃れる場所など一体何処に―――――
「聞こえますか?聞こえますね。今しがた送った座標に来なさい。入口は開けておきます。」
そんな平坦な声が彼女を突き動かした。
通信に入った座標の地点――――入口を偽装した軍事シェルターに飛び込むように吶喊する。
「負傷ですか?接合部分はありますか?ならこちらのポッドに共に入れなさい。1から作り直すよりは確実に早く済むはずです。」
そんないっそ冷酷とも取れるような平静さで語る彼女。見覚えのあるその姿に彼女は何者かという声に応える。
「私はトネリコ。かつてモルガンと呼ばれていたものです。」―――夢を見ている。
彼女は聡く優しかった。同じ世界の人々を助けようと出来うることを行った。
彼女は疎く愚かであった。その人々を救うのであれば叶えるだけでは駄目な事に気付けなかった。
貧しさと理不尽に追いやられ先の見えない絶望という悪夢に苛まれた人々にとって。
彼女の献身と奉仕は浅はかな、しかし麻薬に溺れるような甘い幻想であった。
人々は彼女に求めた。自分たちの不足を。快楽を。何よりもその行き場の無い鬱屈とした憤りの捌け口を。
―――その身に醜い欲望を叩きつけられながら。それでも彼女は人々に問う。
「ごめんなさい。ごめんなさい。わたしはどうすればいいですか?」
「どうすればあなたたちをしあわせにできますか?」
「どうかおしえてください。あなたたちのねがいをおしえてください。」>>832
・・・彼女は賢しく、そして愚かであった。
万人の願いなど、独りの手には余る物であることを知ろうとしなかったのだから。
そうして、出来上がったのは少女の形をした血だまりに埋もれた肉のずだ袋。それを抱えて、語りかける誰かの声。
「――悪逆に生きるがいい。■■■■■■■。」
「お前を謂い様に使い潰したアレを■すがいい。」
「お前がそうでなければ生きられぬのであれば。」
「私は、■■■■は、全ての終わるその時までお前と共に居よう。」
「■■■■■■■、■■■■■■■。」
「私の大事な可愛い■■■■■■■。」
「お前の為になら、私は―――――」―――何故、こんなことになった―――
数日前、遠く英国の親戚から届いた突然の申し出。
「貴殿に重大な案件を頼みたい」―――簡潔に言えばそんな内容。
遠路はるばる英国へと訪れた自分の身に待っていたのは親戚の突然の訃報。
再会を果たす前に物言わぬ躯になってしまった親戚の言う
「重大な案件」は何一つ解らないままになってしまった。
折角だからと英国の観光でもして帰国しようと思い立ち宿を確保して赴いたのが約半日前。
きままに観光を楽しんで夕食を終え、宿に帰る途中の自分に襲ったのは
明らかに真っ当な物ではない黒い獣の群れだった。
息を切らしながら必死に逃げ回り、なぜか人のいない街並みを駆け抜け
たどり着いたのは町のはずれの湖のほとり。
体力はとうに底を尽き、上がった息は早鐘の様に激しくその音を鳴らしている。
気付けば湖を背に自分は黒い獣たちに取り囲まれていた。
必死に考えを巡らせる。どうすればいい?どうすればこの状況を切り抜けられる?
―――無論、あるわけがない。この獣の数にまるごしの自分が対抗できる術など皆無だ。
―――それでも、と嘯きながら息を整えて包囲を抜けようとしたその時。
―――蒼い星が、降ってきたのだ―――>>834
そして今に至る。何が起こったのか理解できなかった。
ただ、目の前には蒼く輝く髪の少女がいた。
刃渡りよりも遥かに長い柄を持ち、片手で軽々と扱うその姿は―――まるで鬼か竜を思わせる。
少女がこちらを一睨みすると同時に視界の端にいた一匹が飛びかかってくる。
その動きに反応する事すらできずにいる自分を横目に、少女は軽く手を振ってそれを弾き飛ばす。
そのまま流れる様に振るわれた剣閃が更に二匹目の首を斬り飛ばした。
宙を舞う首の無い胴体と噴き上がる血飛沫を目に留める事も無く、少女は残る四匹の方へ向き直り、再び手を薙ぐように振るう。
それに合わせて、青白い光と共に何かが飛んでいく。
それらは獣たちに命中した瞬間、弾けるような音を立てて炸裂した。
爆風が吹き荒れる中、爆煙の向こうから現れたのは五匹の獣たちの姿。
四肢に傷を負った彼らは傷口から青い炎を吹き上げて悶え苦しんでいる。
その様子を冷たく見据える少女の姿に、自分はただ呆然と見入っていた。
一体何が起こったのか…………全くわからない。
そもそもなぜここに人がいるんだ? ここは町から離れているとはいえ街道からも外れている。
こんな場所に来る人間なんてまずいないはずだ。
ましてやあんな化け物が跋扈している場所に好き好んで来る者などいるはずが無い。
だが現実として彼女はそこにいて、自分を助けてくれた。>>835
そして最後の獣が倒れたのを見て。
彼女は初めて、後ろを振り返った。
湖の上で、妖精の様に舞う銀の髪をなびかせた二刀の騎士の姿。
その大きな瞳が自分を捉え、その口が問いを発する。
「問おう、君が僕のマスターか?」
―――これは自分が、世界を壊す物語だ―――お題:キャストリアのはじめてのお使い
召喚されてスキルの強化が終わった私は、マスターと一緒にクエストに同行する毎日だった。しかし、今日はバスターの気分、というよく分からない理由から暇を持て余していた。それでは時間を持て余すので、村正の手伝いをすることにした。といっても、只の荷物運びだが。
「よし、こいつの調整は終わりだ。次の調整は、と」
よくよく考えたら、スキルの育成が終わった後の私は毎回の如くクエストに同行していた。個人的な用事の手伝いをするのは、カルデアで初かもしれない。というか、初めてだった。
「よし嬢ちゃん、こいつを徳川の剣術指南様に持って行ってくれ。俺は別の仕事が入っているからよ」
「了解……って、嬢ちゃんじゃなくて、アルトリア・キャスターだぞぉ!」
この鍛冶師と会う時は、どうしても旅を共にした時の姿(第2再臨)になる癖がある。そうした方が気軽に話せるからだと思っているが……その一方で、この鍛冶師の一言に反射的に言い返したくなるのは何故だろうか。
「あぁっ?選定の杖だろうが、選定の剣だろうが、嬢ちゃんであることには変わらねぇだろう」
…………!
「そういうところだぞ、村正ァッ!」
そういうところだぞ、村正ァ!
──さて、村正からの預かり物を両手で持ちながらカルデアの廊下を歩きつつ、この持ち物を渡す相手について再確認しなければ。
「徳川の剣術指南様……確か、やぎゅうたじま……イタ、やぎゅうさんでいっか」
──舌を噛んだ。ではなくて、マスターが前にりゅうたんと言っていたような気がする。だけど、あまり面識のない人に愛称はちょっとね。
変なことを思い出していたからか、気が付けば村正にこの剣の調整を依頼したお爺さんがいる部屋に到着していたようだ。>>837続き
「あの、やぎゅうさんはいらっしゃいますか?」
「ここにおる。おや、お主は……村正殿の使いか、入るがいい」
「し、失礼しまーす」
──本人にはその気がないのだろうけど、とても威厳があるように聞こえる。
「こちら、村正さんが調整を終えた、と」
「どれ、少し見てみるか」
渡した剣を一度見たやぎゅうさんはスッと音もなく鞘から剣を抜く。その音すら置いていくような動きと、剣自体の美しさに思わず目で追っている自分がいた。
「この刀が珍しいか。だが、古今東西の英霊がさーばんととして集まるこの場では、如何なる武器の在り方も有り得よう。己の腕よりも太い剣を振るうものもおれば、己よりも長い武器を振るう者も然り」
「はい。それは分かっています」
「ならばよい。して、要件はそれだけでは無いのであろう?何用で代理を務めてまで、此処を訪れた」
剣術指南役というのは妖精眼でもあるのだろうか。私の考えを先読みして答えてくる。
「……それじゃぁもう少し、その刀を見させてもらってもいいですか」
「うむ。村正殿の仕事もまだ残っているだろう。心ゆくまで見ていくがいい」
私の考えが分かっていたのか、やぎゅうさんは本当に鞘と共に私に刀を渡してきた。
「あ、ありがとうございます」
「うむ。私は暫く禅を組むが故、居ないものとして扱うがいい」
──自分のことなど気にせず、我が剣を見ていなさい。
その心遣いに感謝し、しっかりと見ていくとしよう。役目を果たした私は、どうしても作るモノが剣になってしまう性質だ。だが、そんな私だからだろう。彼らの武器は妖しくも美しい、と感じる時がある。見た目は私の杖と同じか細い位なのに、その切れ味と耐久性は驚かされる。何らかの神秘が宿っているのではないか、と思う程に。いや、サーヴァントの時点で神秘が宿っているんだろうけど。>>838 これで終わり
気が付けば、それなりの時間をかけて刀を眺めていたことに気が付いた。時間としては10分くらいだろうか。まだ、村正は仕事をしているだろうけど、役目を終えたことを伝えにいかなければ。刀を鞘へ仕舞い、やぎゅうさんの隣に置いた時……
「ならば、あれを持って行くといい」
「へっ!?」
驚いた。この人、起きていたの!?
驚く私を置いて、やぎゅうさんはあるものを取り出した。
……濃い紫色のそれは何でしょうか。
「何、初めて見るだろうが、我々の国で食べられているすいーつなるものだ。今日の礼に持っていくがいい」
「ありがとうございます。村正に渡しておきますね」
「うむ。暇が出来た時はまた来るがいい」
今度、何か差し入れを誰かに作って貰った方がいいだろうか。
そうして、羊羹を携えて村正の部屋へ戻る。そうすると、一仕事終えた村正が休憩していたようだ。
「すみません、少し遅くなりましたが戻りました」
「おう、気にすんな……って、それは羊羹か」
「はい、やぎゅうさんから今日の礼だ、と言って渡してくれました」
「そうか。なら、ありがたく頂かないとな。嬢ちゃんも食っていくか?」
「え、いいんですか?」
カルデアの食事はそもそもが美味しいのだ。見知らぬ料理であろうとも、虫料理以外は喜んで口にしよう。
「よし。それじゃあ茶を淹れるから少し待っていてくれ」――――意識が浮上する。何か夢を見ていたようだ。おぼろげに物悲しかったことだけは覚えている。
知らない天井。見慣れない部屋。複数の薬品や機材、学術書とおぼしきものが収まった本棚。
そして――その瞳の端に涙を溜めて自分を歓喜の表情で見る相方の姿。
「よかった・・・ちゃんと目覚めたんだね・・・」
「・・・メリュジーヌ・・・?俺は・・・っ!?」
直後、自身の身に起きた出来事を思い出し片腕を見る。
―――繋がっている。あの魔弦に斬り飛ばされたはずの右腕は確かな実感と感触と共にそこにあった。
「修復は無事完了したようですね。常人にしては回復がなかなかに早い。半日足らずでほぼ接合まで進んでいるとは・・・」
そう語る一人の女性。金の髪を二つに分け、学術帽をかぶったどこかこの場に似つかわしくない風貌。
傍らには何やら不可思議な杖のような物が立てかけられている。
「あんたが助けてくれたのか?」「ええ、そうなりますね。申し遅れました。トネリコと申します。」
「あなた方を助けたのはほかでもありません。これならば成るやも知れない。そう思い立って頼みを聞いていただきたく助力いたしました。」
「まずは一息入れましょう。手製ではありますがどうぞお飲みください。」
そうして差し出されるカップ。中身は黒い香ばしい芳香を漂わせる飲料―――
どうやら珈琲のようである。
手に取って口をつける。香ばしい香りと共に苦み走った液体がほど良い熱さと共に喉を通り抜けてい―――――「ゲホッエホッ!?なんだこれ!?珈琲にしては苦すぎないか!?」
「ウェ・・・これはきついなぁ・・・ミルクがほしい・・・」
「それは仕方ありません。これは珈琲そのものではなく複数の薬草の根を煎じて作った代用珈琲ですので。」
「代用かよ!?確かに嗜好品はこの時代希少品だから代用でもおかしくはないけどさぁ!?せめてちゃんと言ってくれない!?」
「特に聞かれませんでしたので。」
「アンタいい性格してんなぁオイ!?」「これが言葉足らずっていうことなんだねマスター・・・」
そんなやり取りをかわし、代用珈琲を流し込みながら彼女が切り出した。
「頼みというのはほかでもありません。あなた方が遭遇したAVW-P03「トリスタン」に関してです。」
「あいつを倒してくれっていうのか?言われなくてもそうするつもりだが――――」
「いえ、私が頼みたいのは、彼女――――バーヴァンシーを救って頂きたいのです。」
「私の――――可愛い愛娘を、あの狂気から解放していただけないでしょうか?」―――よもや、このような出会いをだれが予想したでしょう。
この枯れ行く世界の最果ての遺産を求めてはるばるやってきてみれば。
あるのは篝火を掲げてほそぼそと生きるニンゲンと益にするにはリスクの高すぎる物件。
これではろくな仕入れも期待できないかと踵を返してみれば。
いつぞや見かけた純血竜のお連れの「出来損ない」ではありませんか。
アレの姿が見えないところを見ると元の鞘に孵ってしまった様子。
これもこのままであればただ朽ち果て塵屑に還るのみ。
・・・ですが「あなた」にはまだ「価値」が残されている。
あの竜を再び「取り戻す(貶める)」可能性を秘めていらっしゃいます。
貴方がどのような人種であるか、私もよぉく存じておりますとも、ええ。
あの竜の娘を取り戻すために今なお立ち上がろうとおっしゃるのでしょう?
であればここで投資するのも決して無駄な消費にはなりはしません。
さて、それでは改めてお聞きいたしましょう。
どの様な商品(願い)をお求めでしょうか、お客様(マスター)?前提として二部六章クリア後を前提であり、全てが終わった後の本当のアヴァロン。こういうことも有り得たのだろうか……という空想の情景。尚、本来のお題は【ホープちゃんのいちゃらぶ】である。だが、私には書けなかった。でも投稿する理由を上げるなら……あ、支部でも少ないんだ、と知った為である。
悪意の嵐から誰かに希望を与えたかった……そこまでは覚えている。だが、ここは何処だろうか。
「あれ、ここは……」
気が付けば、全く知らない場所にいた。ソールズベリーでもなく、コーンウォールでもなく、一面の花園が土地を満たす不思議な、見たことの無い場所。空も見たことが無い程青く、空気も風も、何もかも温かくて穏やかな……あえて言葉にするのなら、楽園のようだった。多くの者に希望を与えた……と思う。感謝されたことはほとんどなかったけれども。それでも、私に名前をくれた方がいた。
「おや、貴方は……」
その姿は何処かで見たような……だけど、その方を何処で見たのだろうか。どうしても思い出せない。
「……そうですか。きっと貴方は、赦されたのでしょうね」
名前も分からない貴方へ、私を排さない貴方へ、名前を問う。
「そうですね、私の名はアルトリア……」
しかし、その先をどうしても聞くことは出来なかった。
「ここにいる、ということは貴方も役目を果たしたのでしょう。どのような形でここに現れたかは分かりませんが、来る者は歓迎いたします。私の星よ」
……私の星とは一体、何のことだろう。それよりも、気になることが沢山ある。
「それで、ここは何処なのでしょうか?」
何処よりも美しい、現実味の無い場所。これほどの場所が常世に会ったのだろうか。
「ここはアヴァロン、楽園の妖精が生まれ、還る場所……まぁ、私が役目を果たしたので、後はゆっくりと、何事も無かったように還るだけなのですが」
何処かで見た寂しそうな笑みを見て、思い出す。
「あな、たは……」
名前をくれたあなた。気紛れかもしれないけど、私に希望をくれた方。そうだ、この方は……
「他に辿り着いた妖精はいないようですね。ところで、貴方は覚えているのでしょうか」
「はい、思い出しました。アルトリア・キャスターさん」>>843(終わり)「はい、久し振りです。■■■さん」
……どうして。あの時は■を忘れていた……それがどうしても悲しかったことをよく覚えていたのに。
「貴方が私を守ってくれたからですよ」
「だったら、良かった。誰かの力になれて、本当に良かったなぁ……」
こうして誰かの力になって、感謝の声を聞く。それが数百年の間、手に入らなかったものだ。こうして終わる直前に、終わった後に手に入るとは夢にも思わなかったけれど。
「ところで、どうして私はここにいるのでしょうか」
難しい顔を見せるアルトリアさん。もしかして、気分を害してしまっただろうか。謝ろうとしたが、そうではないと口にしてくれた。
「……実のところ、私にも分からないのです。ただ、妖精郷は終わりを迎え、奈落の虫の手に落ちた……その中でただ一人、私を守ろうとした貴方が、私に触れた貴方だけが、ここに迷い出たのかもしれません」
奈落の虫とは何だろう。それよりも、妖精郷が終わりを迎えたって……
「……貴方は一体、どんな旅をしてきたんでしょうか」
よほど、過酷な旅をしてきたのではないだろうか。
「そうですね、沢山の思い出がありました。得たものよりも失ったものの方が多かった巡礼だったのかもしれません」
……やっぱり私は、誰の希望にもなれなかった。だから、名前すらも喪った。
「いえ、顔を上げて下さい。あなたが私を、私達を助けてくれたから……全てが辛かった私でも、楽しかったと心から言える旅が出来ました。改めて、ありがとうございます」
私でも誰かの助けになれたんだ……うん、こんなに満たされたのは何百年振りだろうか。
「ですが、この時代は修正される。何れ私達のことも無かったことになるでしょう」
そんな、あなたはあんなにも頑張ったのに。そんなこと……
「いいのです。最後の聖剣は正しく引き渡された。友人を送り届けることが出来た。そして何より……あの星を裏切らずに済んだこと。それが私にとって、大事だったのですから」
……ああ。私は最後の最後で、役目を果たすことが出来たんだ。
「そうですね。後はもう、ゆっくりと終わりを待つだけです。ですが、何もせずに過ごすのも退屈でしょう。ですので、少しだけ話をしませんか。私にくれた旅路を、お礼を返したいのです」―――例えば、それが善良なものだとして。憎む事を知らぬものだとして。――――
―――初めて「それ」を、憎しみを覚えたとして。――――
――――憎悪を知ったそれは、はたして「邪悪」と呼べるモノなのであろうか。――――
――――降りしきる雨が朽ちた屋根を叩く廃墟の街の中に自分たちはいた。
目的は言うまでもない。例の「バケモノ」ことAVW-P03「トリスタン」だ。
あの研究者―――トネリコ曰くアイツは現在、決まったルートを徘徊しているらしい。
その割り出されたルートのうちの一つである町の廃墟の一角に現在自分は潜んでいる。
そう、一人でだ。メリュジーヌは別の場所で待機、対象が確認でき次第交戦してもらう予定になっている。
”あの子の「弓」がある以上、貴方が接近するのは困難でしょう”
”「コレ」をあなたに差上げましょう。十二分に通用するはずです―――”
手の内の「それ」を見る。長大な銃身。取り付けられた暗視サイト。
そして本来の銃器には無い極小の粒子加速器めいた機構。
紛れも無い狙撃長銃――――スナイパーライフルだ。
対AVW用霊子加速銃砲―――コードネーム「ドラグーン」。
AVW開発によって培われたノウハウを用いて製造された銃器の形の「礼装」である。具体的な計画はこうだ。
まず「トリスタン」が接近次第、メリュジーヌが交戦に入る。
無論倒すためではない。今回の彼女の目的は「足止め」だ。
「トリスタン」を所定の座標近辺に押しとどめる役目を担ってもらう事になる。
そして自分が「弓」の範囲外から「トリスタン」を狙撃するというプランになっている。
通常であればダメージは与えられても効果は薄いものになるだろう。しかし今回ような状況であればむしろ好都合なのだ。
曰く「トリスタン」には稼働する為の「制御部」――――リアクターが現在付けられているらしい。
これが各部位に大気から回収した元素を変換・供給する役目を持っている。
現在の「トリスタン」の稼働はこれの過剰稼働によるものだそうだ。
これをピンポイントで破壊することで「トリスタン」の動力供給・及び行動を不能にすることができるというのだ。
このため直接戦闘による破壊は大層の致命打になりかねないことから、こちらの狙撃という形になったわけだ。
息を整えてじっとその時を待つ。
やがて――――遥か遠くからあの音が聞こえてきた。
膨れ上がった「憎悪」を抱えた、賢しい愚者の――――赫い少女の足音が。―――かつて、「私」は英国のとある機関に勤めていました。
そこからこちらに渡ってこの国の組織に身を寄せていたのです。
その組織が開発していたのがA,V,WP-03コードネーム「トリスタン」でした。
しかし「彼女」はあまりにも自我というものに乏しかったのです。
「兵器」というなら問題はなかったかもしれませんが、求められたのは「自律兵器」。
「彼女」は組織で蔑視や冷遇、さらには反抗を一切行わない性格を良い事に暴力を振るわれてさえいました。
「私」が「彼女」の開発を担当することになったのはそんな状況の頃でした。
始めは割り切って接していましたが、次第に彼女の純朴な誠実さや優しさに絆されていったのでしょう・・・
いつしか「私」は「彼女」を実の娘のように想うようになっていきました。
――――あの「事変」はそんな頃に起きました。
逼迫する国政に不満を募らせていた国の反抗勢力が一斉蜂起を起こしたのです。
組織は「彼女」に勢力の「鎮圧」を命じました。無論生死を問わずにです。
・・・「彼女」は勢力の元に赴き、帰ってはきませんでした。
「私」は組織に逆らい「彼女」を探しに向かいました。そうして勢力の拠点に半死半生になりながら潜入し見つけたのです。
――――牢の中で無数の傷を負って血だまりに沈む「彼女」の姿を。・・・「彼女」は勢力の元に赴いて説得を試みていたのです。
互いに歩み寄れれば、話し合って解決できれば死人を出さずに済むかもしれない。そう信じて。
ですが、勢力にしてみればそれは敵の戦力が無抵抗で投降してきたも同然でした。
そうして勢力は「彼女」を捉え捌け口として蹂躙したのです・・・
勢力側に死傷者が居なかったことを見るに「彼女」はそれでも説得を試み続けていたようでした。
あまりの凄惨さに瀕死であった「私」は、激しい憎悪と狂気に駆られ、ある過ちを犯しました。
―――――「彼女」に「憎悪」を焼きこんで暴走させたのです。――――
・・・私が「目覚めた」頃にはすべては終わっていました。
国も組織も勢力側も、みな等しく滅び去って亡くなって。
それでもいまだに「敵」を探して彷徨い続ける「彼女」が残されていました・・・
・・・今の私はかつての「私」ではありません。
「私」が残した記憶を転写したホムンクルスのような存在です。
それでも解る事がある。「彼女」をこのままにしていてはいけない――――
そのために此処に工房を構え、研究を続けていたのです。
いつか、彼女をあの「憎しみ」から解放できる時が来ると信じて。
・・・身勝手なことは重々承知しています。その上で改めてお願いします。
「「私達の大事な娘を、どうか救ってください・・・!」」今日も近所の森に行く。
特に用事がある訳じゃない。単に森を歩くのが好きなだけ。
俗に言う森林浴って奴だ。不思議と心が満たされて穏やかになれる。
そんないつもの日常に。―――――ソレは現れた。
見知らぬ少女が立っている。それだけなら気にするほどでもない。
―――それが、大きな角を頭に携えて、湖の上に立っていなければ。
「――――?。――――。――。――――――。」
何か話しているようなのだが、聞き取れない。
甲高い音が微かに聞こえはするが、それが言葉の形に結びついていかない。
どうも海豚や蝙蝠のような音波らしき音で疎通を図ろうとしているようだ。
「―――すまんが俺には多分その方法で疎通はできんぞ?」
ソレが表情を変える。眉を顰め、口をへの字にして何か悩んだ仕草をした後。
「――――ッ。―――アッ。ア――――。」と、発声練習のように声を出して。
「ここはどこだ。なぜ我は此処にいる?教えなさい、人類。」
と、あどけない子供の表情のまま、この上なく尊大な物言いで聞いてきたのであった。帰ってきてしまった。あの少女を連れて。
如何に傲岸不遜な物言いに加えて、明らかに人の物ではない角を持っているとはいえ
幼い少女を一人置き去りにするのは躊躇われたからだ。
当の本人は我が家の居間を興味有り気に見回している。
「ずいぶん、ちらかっているな。そうじがひつようだな?」うっせぇわ。
「ふくものとはくものはどこだ?ないわけではないでしょう?」掃除始める気だこの子!?
「えーっと、箒と布巾ならそこの棚に・・・」なんで素直に教えてるんだ自分は。
「ん、よろしい。おまえもてつだいなさい、人類。」・・・なんか調子くるうなぁ。
「わかったよ、まったく・・・」こうして急遽謎の少女先導の下での自宅の掃除が始まった。
「終わったァ!」あれから2時間後、掃除は無事終了した。
あちらこちらと細かくやっているうちに思った以上に時間がたってしまっていた。
「よし、よくがんばったな。えらいぞ。」少女がこちらのそばに来てそんなことを言う。
「すこしあたまをさげろ。」言われたとおりに身をかがめる。
「えらい、えらい・・・」そう言いながら頭を撫でてくる。不思議と恥ずかしさを感じない。
「つぎはしょくじだな。なにがたべたい?」いやいやいやいやいや!?これは流石に突っ込まざるを得ない!
「いや待て!?待ってください!?なぜに急に飯まで作ろうとしてんのキミは!?俺の母さんじゃあるまいし!?」そんな感じに動揺しながら捲くし立てていく自分に対して。
「うん?なにをいう、わたしはおかあさんだからにきまってるだろう?」と。
小首を傾げながらそう言ったのだった。――――彼女は願う。娘の幸福を。――――
――――彼女は求める。母の願いを。――――
――――言葉にせずとも伝わる想いと。――――
――――言葉になければ届かぬ思い。――――
――――願わくば、愚かな二人に今一度の祝福を。――――
彷徨う赫の眼前に蒼が立ちふさがる。蒼銀の鎧を纏い、両の腕に二剣の手甲。
その貌の瞳は同じく蒼銀の薔薇に覆われ窺い知ることは出来ない。
蒼は黙して語らない。今は言葉を尽くす時ではなく、力を振るう時であると知っているからだ。
赫はくつくつとほくそ笑みながら暗く嗤う。「敵」が自ら進んで来たのだから。
先んじたのは蒼の方。刹那の内に赫の懐に入り込み、一閃。
赫は受けるも大きく後方へ吹き飛ばされる。しかし六の牙を以てその途中で踏みとどまった。
次に仕掛けたのは赫。「弓」を取出し「弾き始める」。蒼が身構えた瞬間。
無数の斬撃が四方から蒼へと強襲してきた。数撃を剣哉の音と共に弾き、飛翔して残りを回避する。
そうして蒼と赫の互いの斬撃の応酬が始まった。「・・・うわぁ、全然見えないなこりゃ。」
そう一人ごちる自分。メリュジーヌが交戦を開始して数分の事。
自分は「ドラグーン」を構えながらその戦いを見ていた。
互いの放つ斬撃。メリュジーヌの剣の斬撃と「トリスタン」の「弓」から放たれる「斬撃」。
俯瞰してみて改めて理解する。これは人の介入するような物じゃない。
本来なら自分はメインどころか観客も同然の位置づけだろう。
「なんて、言っても始まらないよな・・・!」そう言って狙いを定め始める。
狙うは背中。肩甲骨の中央の下部分。そこにそれはあった。
赤く、朱く、赫く。煌々と輝きながら生き物のように鳴動するそれを確認する。
「あれがリアクターか・・・」話に聞いていたものと一致する。
狙うものは確認できた。となれば、あとは機を伺い逃さない事。
呼吸を落ち着かせて整え、そうして口に出し唱え始める。「―――我は一つの銃弾」
「ドラグーン」の加速器が静かに稼働し始める。「―――この身に自我は非ず」
精製された魔力が銃身を通して弾に注がれていく。「―――唯求る先へと向かわん」
スコープを覗いた先で、鍔迫り合いに持ち込むところを確認し、目標に銃口を向ける。
そして、引き金を引いた。瞬きの合間の光の後、飛び出した弾丸は。
詠唱の通りに一切のためらいも迷いもなく、背中の機構に突き刺さった。めをさます。わたしはどうしたんだろうか。
そうだ、おかあさまのおねがいをかなえようとして。
それで――――どうしたんだっけ。
いっぱい、あるいて。いっぱい、たたかって。
それから――――だめだ、おもいだせない。
どうしよう、このままじゃまたおこられちゃう。
わたしだけじゃなくて、おかあさままでおこられちゃう。
あめがさむい。あまりにつめたくてこごえてしまいそう。
――――だれかがちかくにいる。
――――おかあさまだ。
どうしてここにいるの?かってにでてきたらみんなにおこられちゃうよ?
"―――――――。―――――。"
え?――――ほんとう?
”――。―――――――。”
――――そっか。わたし、ちゃんとできたんだ。
みんなのおねがい、かなえられたんだ。
うれしい。やりとげられたことがこんなにもうれしい。
ああ、ようやく―――――
私は、誰かの事を救えたんだ。―――――娘を抱きかかえる彼女の下に彼が歩み寄る。
「・・・どうだ、大丈夫そうか?」そう問いかける。
「はい・・・。弱ってはいますが命に別状はないようです。」
「―――――そうか。」大きく息を吐く。
「はふぅ~・・・・・・ほんと心臓に悪い戦いだった・・・」
「お疲れ様、マスター。ほら、撫でてあげるから屈んで?」
「いやここでそういうことしようとするの!?人もみてるしお子さんもいるのよ!?」
「まぁまぁまぁまぁまぁ遠慮しないで!それとも迷惑だった?「んなわけないでしょうが!」」
そんなやり取りを彼女は微笑みながら眺めている。
(「記録」の彼女に比べると格段にいい傾向のようなのは喜ばしいことでもある。)
(問題は「彼」の方だ。聞けば礼装の使用経験は今まで皆無だったと言う。)
(にも拘らずアレを正確に使いこなして見せた。単なる才能の問題とは言い難い。)
(「記録」にある「真のプロトタイプ」。「はじまりの叡智」を内包したとされる〔A-00〕なるモノ)
(・・・まさか、彼がそうだと?)そんな思考を巡らせる彼女を突如、冷気が遮った。
ふと見上げれば、ちらちらと降る白い粒達。雪だ。雪が降ってきたのだ。
「―――雪、か。そういえば今日はそんな日でもあったんだな。」「?何、何か特別な日なのマスター?」「ああ、かつての今日はとある祝い事の日でもあったんだよ。」
「「奇跡」の起こる「聖夜」。――――クリスマスって日さ。」――――そういえば、今日はそんな日だったと思い返す。それなら、この子を救えたのは、そんな聖夜の奇跡と言えるのかもしれない。
――――本当にありがとう、二人とも。――――全てに始まりがあるように。――――等しく終わりも訪れる物である。――――
――――それでもその終わりを是としないならば。―――
――――その終わりから新たに始めるよりないのだ。――――
―――ガタガタと音を立てて一台の車がを走っていく。
空は薄曇り。こんな風になってしまったこの世界ではよく見る物だと呟く。
自分たちは今「楽園」を目指して、かつての海を走っている。
英国南部。かつてイギリス海峡と言われた元海域の陸地を車両が振動と共に駆けて行く。
少しづつ近づくブリテンの島を見ながら、自分は謎の感覚に襲われていた。
旅愁のようなモノに近く、非なるモノ。言うなればそう――――
―――待ち望んだ願いが叶うのを待つ歓喜のような―――
――――そんな疑念がソレに気付くのを遅らせた。
「・・・ッ!?」前方にて蠢くモノ。黒くその身をくねらせるソレ。
海藻の様だがそんな訳は無い。遠目でも分かる。―――アレは触れてはいけないモノだ。
ハンドルを切り、それから離れながら島へ接近する。「マスター、追ってくる!」
そんな声を聞きながら視線をよこせば、ソレが鎌首をもたげてこちらに向けられている。
そしてそれの足元に伸びた影がこちらに追いすがってくる。
「マスター!飛ぶよ!捕まってて!」そう言うや否や、車両が持ち上がる。
彼女―――メリュジーヌが車両を抱えて飛んでいるのだ。短時間ではあるがこれなら―――「いや、それは文字通り悪手って奴だ。アルビオン。」
・・・・・
「それなら確かにアレから逃げることは出来る。」
「けど、それ以外が居たら、今の君達は唯のクレーも同然だよ?」
「そう、こんな風に――――ね。」
瞬間、鋭いナニカが飛来した。昆虫の脚の様な槍のようなモノが車両と彼女を刺し穿つ。
「ッ!?メリュジーヌ!?」彼女の手から力と共に車両が手放され。
落ちる。堕ちる。墜落る。そうして遠く彼方に落ちていく彼女を目視して。
そこで自分の意識は途切れた。―――振動で意識が覚醒していく。気が付くとそこは何かの中。鉄板が敷き詰められた空間。
中央部には計器やモニターが並んでいる。そうしてそこに人影が一つ。
いや、人型ではあるが長い耳や狐のような尾がある。
「―――やはり外周だけではこの程度しか採取できませんか。」
「ただでさえ危険極まりないこの土地に入ってみたは良いものの。」
「リスクとリターンがあまりにも合いませんねぇコレは・・・」
「――――或いは、あのアルビオンを追うという選択もありますが・・・」
「ッ!オイあんた!アイツがどこに落ちたか解るのか!?」
「――――おやおや。まさかこうも早く目覚めるとは。ちょっとばかり感心しました☆」
「悪いがふざけてる場合じゃあないんだ!早くアイツの所に行かないと―――」
「――――えぇ。そうでしょうね。その心境、理解できなくもありません。」
「一つ、商談をいたしましょう。貴方には戦力と人材を。私には情報と痕跡を。」
「乗っていただけるなら、確かな支援を約束いたします。」
「えぇ、必ずやお役にたたせていただきますとも。」
「・・・何者だ、お前。」「そうそう、私まだ自己紹介もまだでしたわね?」
「初めまして、お初にお目にかかります。」
「私、多方面コンサルタント企業NFFサービス代表を務めさせていただいております。」
「TV・コヤンスカヤと申します。是非コヤンスカヤとお呼びください。」
「それでは―――商談を始めましょう、お客様(マスター)?」なるほど
英国の島の陸地を大きな鉄箱が駆けていく。否、箱ではない。
それは装甲車であった。無骨なフォルムに四つの履帯。
車体には各所に探知、検査用のレーダーにマニピュレータを内蔵。
武装に至っては機銃に砲座、ミサイルポッドまでが装備されている。
これこそコヤンスカヤの企業、NFF系列の誇る玉藻重工の元制作された
制圧戦戦術車両―――に探査機能を追加した特殊揚陸車両。
NF79-CS[霊裳重光(イズトゥーラ)]である。
「すげぇ・・・相当荒れた道進んでるはずなのに揺れがほとんどないぞ・・・」
「当然です。多脚による衝撃・振動の拡散だけでなく極地での安定性も考慮されていますので。」
「内装にお湯沸かすポットとかまであるのもそういう事か?」
「ええ、長い戦闘における精神的負担、疲労などは重要な問題。」
「この安定性があれば優雅にティータイムも楽しめます♪」
「移動型戦闘拠点ってわけか・・・今の時代に一企業がこれだけの物作れるとはちょっと驚きだな。」
「そうでしょうそうでしょう!?我が社にかかれば家庭用花火から戦術核に至るまでご要望があればご用意させていただきます☆」
「でもお高いんでしょう?」「善い物には相応の対価が世界の摂理というものですから♪」
「・・・ちゃっかりしてるなぁ」「ところで、今はどこに向かってるんだ?」
「無論、拠点ですとも。あまり長々とうろついているとアレに補足されますのでね?」
「・・・拠点?地下シェルターか何かか?」
「いいえ、現在のこの島の唯一の居住区域です。」
「・・・居住って、住人がいるのか!?この島に!?」
「当たり前でしょうに。もしやここを魔性蔓延る死の島とでもお思いで?」
「違うのか!?」「ほぼ正解で御座います☆、ですが人が住んでいないわけではないのです。」
――――車両が緩やかに停止していく。どうやら到着したらしい。
「何事も百聞は一見にしかず。その眼でご覧になった方がよろしいでしょう。」
そういってハッチを開け、外に出ていく。それを追うように外へと出ていく。
眼にしたのは、円形状の大きな建物。
古く年季があるが脆さを感じさせない強固さを感じるつくり。
そうしてその中には、多くの人々があちらこちらと動き回っているのが見て取れる。
「ここがこの島唯一の「人間」の生活圏。神秘に最も近い黄昏の時代の最前線。」
「ようこそ、――――ロンディニウムへ。来訪を心から歓迎いたします。」藤丸が眠りに着く際、ダ・ヴィンチちゃんの発明品を装着することで藤丸の故郷の記憶を抽出することに成功したぞ。開発の方は、マシュに頼まれたダ・ヴィンチちゃんが一日でやってくれました。それをシミュレータに記録されることで大雑把であるが、再現できるなんて流石はダ・ヴィンチちゃんだ。皆、万能の天才を褒め称えよ。
「ここがマスターの故郷、ですか」
「あくまでシミュレータによる再現だけどね」
カルデアへ連れていかれる前までに通っていた高校だ。ただ、記憶の精度がどうも悪いらしい。先生も同じ学生の姿もない高校は、色を失ったように殺風景だった。
「シミュレータだから先生や先輩と同じ学生の姿が見えないんですね」
マシュが少し残念そうに言うけれど、仕方ない。きっとシミュレータだけの所為ではないと思う。高校の景色も、今見ている景色と比べれば……
「うーん。そこはシミュレータの再現性に課題があるかもしれない。私の方で調整してみたんだけど、藤丸君が意識していない部分や情報量が少ない部分の再現には、もう少し改良が必要みたいだ」
思わぬタイミングでダ・ヴィンチちゃんのフォローが入る。
「いや、それでもたった一日の試作でここまで再現できるのは凄いよ、ダ・ヴィンチちゃん」
「ふふふ、まだまだ改善点はあるみたいだけどね。それはおいおいやっていくさ」
健康診断の時に見る機械を付けて一晩寝るだけで、ここまでの風景をシミュレータで再現する、って凄いと思うんだ。場合によってはサーヴァント達の記憶からも再現できるのではないだろうか?
「へぇー、僕が生きていた頃にはこんな高い建物なんて無かったけど、現代ってこんな建物が建てられているんだなぁ……」
この光景を作るなったきっかけとなったハベトロットが、物珍し気に周囲を見ている。……そう言えば、ハベトロットは異聞帯のハベトロットでは無いんだったね。そりゃあ、見たこと無いから物珍しい訳だ。
「ここが先輩の通っていた教育施設なんですね……ここで先輩と同じ年齢の学友がケイローンさんのような授業を受けるんですね」
これは、マシュに誤解されかねない。訂正しなければ。
「いや、あそこまでは厳しくないよ。まぁ、授業の内容を聞き逃していたら、テスト期間になって必死こいて勉強する羽目になるんだけど」>>861続き
「それじゃあ、先輩はどんな学生だったんですか。テストの対策は日頃からコツコツやるタイプですか。それとも、一気に対策するタイプだったのでしょうか」
そういえば、昔の自分はどうだっただろうか。今は出来ることをなるべくやってからやろうと努めているけれど……
「そういえば、一夜漬けタイプだったかなぁ」
「そうだったんですね。先輩はテスト範囲も一晩でおさらいが出来たんですね、凄いです!」
マシュ、そんなに期待されても何も出ないよ?
「ねぇねぇマスター、折角だから見える範囲を散策してきていいかな?」
「折角だから一緒に行くよ。マシュもどう?」
「はい、ご一緒させて頂きます」
さて、思わぬきっかけから昔の景色を見る機会が出来たけど……うん、こんな日常があったんだったね。そういえば、最近は色々なこと(イベントなどで)気を張り詰める日も多かったから、偶にはこうして昔を思い返すのもいいかもしれない。
校庭から校舎を一通り歩いて回ったところで一段落した時、ダ・ヴィンチちゃんからオペレートが。
「うん、ここが藤丸君の通っていた高校なんだね。再現性に課題があるけれど、急ごしらえで作った結果としては上々かな。他にも幾つかのパターンを抽出することに成功したけれど、そっちも見てみるかい?」
折角ダ・ヴィンチちゃん作ってくれたし、見てみようかな。
「お願いします。それで、次の場所はなんですか?」
「次はね……これだよ」
おお……あっという間に風景が切り替わって……これは、公園?
「多分、日常的に通っていた場所なんじゃないかな。一部分は再現性に欠けるかもしれないけど、よく再現出来ている筈だよ」
「すっげー、こんなに広い公園があるんだ。公園を出ない範囲で周囲を見てくるね」
おや、ハベトロットがテンション高めで公園を散策し始めたぞ。
「おや、あれは……」>>862終わり
ハベトロットが歩いている先に見える、1m程度の植物の隙間から姿を見せたのはキャット……ではなく、野良猫。あれ、シミュレータなのに動物が出てきたの?
「猫です、猫ですよ先輩!」
そういえば……野良猫が結構いたんだっけ、この公園。ああ、野良猫目当てによく公園に寄っていたような気がする。触れるかなー……って、私よりもハベトロットに向かってダッシュ、だと?
「わわわ、何だ君達。ここの猫、めっちゃ僕にまとわりついてくるなぁ。なんだよ〜、君たちも糸巻きに興味あるのかい?」
見た所、植物の所で屯していたんだろう。あっという間に5匹の猫たちに囲まれてしまう。
「裁縫道具を遊び道具には使いたくないんだけど……まっ、しゃあないか。いっくぜぇ~!」
「ハベトロットさん、大人気ですね。少し様子を見て見ましょうか」
マシュと一緒にベンチに座り、ハベトロットが猫の家族相手に糸巻きで相手をする様子を見る。
「これが君達に捕まえられるかな~?」
糸巻きから射出された糸に向かって跳びつく野良猫たち。糸を捉えるかに見えた跳躍だったが、巧みに動く糸を捉えることが出来ないまま野良猫達は綺麗な着地を決める。しかし、目標を逃したことが悔しかったらしい。にゃあと一鳴きした後、体が内に仕舞い、尻尾を振っていた。次からが本番だ、と言わんばかりの様子だ。
「やるじゃ〜ん!」
野良猫達の様子にテンションの上がったハベトロットが。
「にゃあにゃあにゃにゃにゃあ、にゃにゃにゃにゃー!」
糸巻きから糸を抜き、野良猫達の視線に入るように伸びた後、竿を引くように一気に糸が上へ伸ばしていく。視界に飛び込んだそれに思わず飛びついた野良猫達だが、またしても外れ。
「そうだね。それにしても、ああして猫に絡まれていると、兄妹みたいですね」
カメラをゲオルギウスから借りて来れば良かった。小っちゃくて可愛いハベトロットがこうして猫と戯れている所を捉えることが出来たのに……!
それからしばらく、野良猫と遊んでいたハベトロットを見ていたけど、その時間も終わりに近づいてきた。ダ・ヴィンチちゃんの手筈でシミュレータの設定を元に戻す。名残惜しいけど、懐かしい景色が見られて良かったと思う。
「いーじゃん、いーじゃん!僕気に入った!シミュレーションなのは残念だけど、いつか本当に遊びに行こう!その時は、親御さんにもご挨拶するからね」「此度はライダーの霊基にて現界しました。真名を、太公望!……あ、呂尚でも姜子牙でも姜太公でも、好きに呼んでくれて構いませんよ。しかし、惜しいなァー。キャスターで喚ばれてたら、僕は絶対、グランドキャスターだったろうになァ」
こうして私はカルデアに召喚された。ううん、キャスターだったらグランドだったろうに……そこが残念だ。
さて、マスターに案内されたこのカルデアと呼ばれる拠点……大したものだ。まさか、これ程の大きさを誇る、移動する拠点だとは。更に、数多くの英霊を既に率いているというのだから素晴らしい。今後の戦いにおいても、あらゆる戦術が取れるというのは重要なことです。それに孔明殿、司馬懿殿、陳旧殿、オデュッセウス殿……のような様々な軍師がいらっしゃったとは。今度、ゆっくりと語り合いたいものです。
「それにしても、ここのサーヴァント達は食事を摂るのですね」
案内の際、マスターとマシュ殿から聞いたので食堂にやってきましたが……かなり広いですね。お二人から伺った所、私の時代では見たことの無い料理が沢山あるのだとか。
何か視線を感じますね。新参者が好奇の視線に晒されるのは分かっていますが……………………………先程から、一部サーヴァント達の視線と声が気になりますね。海賊風の大男、別テーブルにいる眼鏡をかけたサーヴァントに水着のサーヴァント。一体、何の共通点が?
デュフフフフフ……まさか、師叔が来るとは。流石は我がマスターと言ったところですな。
師叔がこんな姿とはね……にしても、眩しいほどのイケメンですわー。
師叔ね……ところで、四不象はどんな姿をしているのかしら……新作のモチーフにしたいのだけど。
噂話になるのも分かります。それから、私がイケメンなのも。しかし、師叔とは……一体。釣りは嗜みますが弟子を持った訳ではありませんし……李書文殿のように武術を極め、誰かに技を教えた訳でもないですし……何故なんでしょう。あのような奇異の視線は些か慣れないのですが……声を掛けづらいし、どうしよう。>>864続き
いえ、こういう時は切り替えましょう。
「あの、すみません」
「食事の注文かね。何か要望があれば聞くが」
「それでしたら、魚料理を頂けますか」
「承知した。出来上がりに少し時間を貰うから、席に座って待っていて欲しい」
そう言って、赤い服を纏った男性が調理に戻っていく。出来れば、料理名について聞きたかったですが、出来上がった時に聞きましょう。……おや、中々端正な顔をした侠客がこちらを見ていますね。
「おう、あんたが少し前に召喚された、っていうサーヴァントか」
「初めまして。私、真名を太公望と申します」
おや、驚かせてしまいましたか。
「マジか! 同郷って感じはしたが、まさかの超有名人だったとは……これは畏れ入った。それにしても、流石は我がマスターと言ったところだ……こっちは有名でも、ちゃんと人なんだな」
小声でしたけど聞こえましたよ、最後。
「何の話でしょう?」
「あー……それは、その内分かる話って奴さ」
「ところで、貴方は?」
「おっと、すまねえ……まぁ、俺はあんたと比べたら名も無い無頼漢だがね。燕青ってんだ」
……軍師でもなければ、名の知れた将軍でも無さそうですね。
「すみません。ご存じなくて」
「いやいいのさ。そもそも、俺が英霊としてここにいること自体、イレギュラーらしいからね」
「なるほど。ですが、ここに居る以上、マスターとの縁を持ち、強力なサーヴァントであることには違いないでしょう。ところで、燕青殿にはどのような逸話があるのでしょうか」>>865続き
「おっと……ま、聞かれたからには答えるが、水滸伝ってのが俺の出自といった所さね」
書物、でしょうか。それが出自……というのは、どういう事でしょうか。
「他に何かあるかね。そろそろ頼んだ酒と肴が出来そうなんだが」
「……私事なのですが、一つお聞きしたいことが」
「何だい?」
折角だから、今の内に聞いておこう。
「あの辺りにいる一部のサーヴァント達が……私のことを師叔と呼んでいたような気がするのですが、ちょっと心当たりがなくてですね。私、あの者達を弟子にした時なんて無いですよ、ね?」
サーヴァントだから、気が付いたらそんな話が付いている……ということもあるらしいし。
「あっはっはっは……そうかそうか。そりゃそうだよな」
はて、何か笑うようなことでしたか?
「あーいやいや。そういうことじゃないのさ。俺自身にも関わるんだが……所謂、近年の創作の成果って奴らしい。詳しいことはマスターかマシュ、それと図書室にいる別嬪さんに聞けばいいさ。確かあれは……封神演義、だったか。それで分かると思うぜ」
彼はそう言って、それじゃまた、と離れていきましたが……成程、彼のお陰で段々分かってきました。
「……私、それでも呼ばれた記憶が無いような。まぁ、こういうことは聞いてみなければ分からないものですね」
ふむ、私の料理もそろそろ出来上がるようですし、取りに行きましょう。
「さて、いただきますか」
それにしても、魚のムニエルですか。西洋の魚料理と聞きましたが……ふむ、これは中々。魚は取れたてを塩焼きにして食べるものと信じてきましたが……このような調理方法もあるのですね。食堂を預かる者達の腕前も高いのでしょうが調理に一工夫、二工夫入れることで、魚の味をより感じられるようになるとは。次の日は別の料理も試してみましょう。>>866終わり
さて、燕青殿が言うには書庫があるとのことでしたが……うん、名前がかなり独特ですけど、類を見ない程の書籍がありますね。そして、数だけではなく、種類も素晴らしい。軍略から歴史の本、はたまた魔術の本……それに、絵の付いた本も沢山あるとは。子供のサーヴァント用に用意されたものでしょうか。
「こちらはご利用、初めてでしょうか」
なるほど、燕青殿の言う通り、美人さんが受付をされていますね。そうすると、この方もサーヴァントと言うことでしょうか。
「び、美人だなんてそんな……」
おや、何も言っていない筈なんだけど。
「申し遅れました。私、紫式部と申します。どのような本をお探しでしょうか」
「これはご丁寧に。私は太公望と申します」
おお、反応を見るに名前を知っていましたか。これは話が早そうだ。
「水滸伝があればお借りしたいです。それと……先程燕青殿から、私が師叔と呼ばれている理由について、マシュ殿やマスター、そして貴方などに伺えば分かる、と聞いたのですが」
ふむ、彼女にも思い当たる節があるようですね。
「それはですね……少々お待ちいただけますか?」
おや、直ぐに戻ってきましたね。
「ご希望の本はこちらですね」
水滸伝とこれは封神演義ですが……絵本ですね?
「こちらは漫画と呼ばれるものなのですが、主人公である太公望が登場人物の殆どの方から師叔と呼ばれているのです」
「そういうことでしたか、こちらもお借り出来ますか?」
「分かりました。少々お待ちください」
なるほど。謂れの無い呼び名でしたが、そういうことでしたか。マスターもこの話を知っていたのでしょうか。明日にでも聞いてみましょう。―――――ロンディニウムに到着して数日が立った。
あれから自分はロンディニウム防衛軍、通称「円卓軍」に世話になることになった。
団長は背丈に高い大柄な銀髪の青年、パーシヴァルと言う名前だった。
彼に寝食等の提供とメリュジーヌの行方の捜索の助力を対価に円卓軍の支援を行っている。
コヤンスカヤに関しては別の案件があると言ってどこかへ行ってしまった。
そうしたある日、円卓軍の方からのメリュジーヌの行方についての情報と共に
コヤンスカヤはロンディニウムの円卓軍詰所へと帰ってきた。
このロンディニウムから北西に向かった所にかつての首都にして「研究所」がある。
首都と同じ名を持つAVWの技術を広めた集団、「研究機関アヴァロン」。
その機関の活動拠点であった研究都市、「キャメロット」。
そこにある「大穴」へ数日前に落ちていく光を見たとの事だった。
「ならすぐにでもその「キャメロット」とか言う所に―――――」
「・・・それは難しいでしょうね。いえ、向かうだけなら問題は無いのですが・・・」
「どういうことだ?今は無人なんだろう?」
「――――確かに人は居ません。ですが「アレ」が未だに彷徨う以上、探索は困難でしょうね。」
「・・・アレ?」「「アヴァロン」が遺した遺産の一つですよ。それが今も稼働しているのです。」「研究機関アヴァロン」。それはこの星を延命し、人類の生存圏を維持する為に設立された組織だ。
彼らはこの「キャメロット」での研究中に、その地下であるモノを発見する。
偶然の落盤による地盤崩壊。その結果発見された空洞。
そこで彼らは「アルビオン」と「神秘」という新たな見地を発掘した。
それを基にAVWを初めとした技術を開発した。その過程で生まれた技術の産物。
踏み入れない地域での探索、採掘、採取を目的とした多機能可変型蛮型機構。
それが「E.M.M.I(Effect.Mysteries.Machinery)」。通称「エミー」である。
「アルビオン」の周辺、後の「大穴」の採掘に運用された後、
其れらは「キャメロット」の警備の為に配備されることになった。
それは、「アヴァロン」が去った今でも研究所の中を彷徨い続けているのである。
「・・・つまりその「エミ―」を稼働停止させないとまともに探索できないと?」
「そうなります。「エミー」は人間では到底勝つ事の出来ない相手です。」
「どうにかして奴らの監視網を掻い潜り、活動を統括するシステムを操作しなければならないでしょう。」
「コヤンスカヤ「ええ、勿論その為に戻ってきたのです。報酬は研究所内のデータの一部という事で☆」
話が早いなオイ。」「The time is money(時は金成り)。時間が惜しいのはあなたも同じでしょう?」
「―――――そうだな。ありがとう、パーシヴァル。そういう事だ。」「・・・本気のようですね。」
「向かおうじゃないか、白亜の夢の城跡に――――――」そこに位置する旧首都キャメロットの研究機関アヴァロンの本拠地だ。
ブリテン島に上陸しようとした僕たちは、謎の存在達に襲撃を受けた。
僕はそれによって不時着を余儀なくされ、この場所へと降りたのだ。
そうして最初に感じたのは「違和感」だった。――――何かが致命的に変わっている。
明確にならないその気味悪さを探るために、僕はこうして本拠の中枢を下っている。
――――僕はこの場所を知らないわけではない。かつての自分にとってのセカイは此処だけだった。
「怪物」だった当時の僕、―――「私」からすれば今の僕は異質な欠陥品と思うだろう。
ふと、彼の事を考える。少なくとも大事には至っていないと確信はしている。
それでも早く顔が見たい。あの声を聞いて、あの温もりを感じたい。そう思う。
――――不思議な物だ。人間の体温程度では僕の体調に何の影響も齎さない。
しかし、こうして確かな形で僕の身体はその歩みを進める力をその内から湧き立たせている。
「これが〔愛〕って物なんだろうね・・・うん、きっとそうだ。」
そうして僕はそこにたどり着く。都の中央に空いた叡智の穴倉。
その最奥。研究機関アヴァロンのデータベースだ。幸いにも電源は生きていた。
端末を起動し情報を洗い出していく。―――――そして、僕は【それ】を見つけてしまった。
「これは・・・?【秘検体AA】・・・?こんなのは僕は知らないぞ・・・?」
「・・・・・・・・。・・・・・!?・・・・ッ!これって・・・!?」
「いや、待て、待って!?・・・じゃあ、僕は一体・・・!?」何もへったくれもないさ。それが事実。そういうことだよ。〕
〔やはりここに来ると思っていた。記憶が明確にあるなら、ここには、此処だけには近づかないからな。〕
〔あの男―――いや、〔AA〕には感謝しないといけないね。ここまでお前を連れて来てくれたんだから。〕
頭に響く声。単なる声じゃない。これは、周波数による精神感応だ。昆虫などに見受けられる――――
〔おっと、あまり長々と話してるわけにはいかないな。油断すれば一瞬で覆される。〕
〔お前らはそう言う代物だ。そういう「怪物」として産み落とされたんだから。〕
いしきがうすれていく。ほど、けて――――――
〔お帰り。〔アヴァロン・ヴァリアブル・ウェポン初号機「ランスロット」。〕
〔お前の旅路は、これにて終了。THE ENDというわけだ。〕――――かつて、学者が居た。その学者が掘り起した一つの事実がすべての始まり。
そこから導かれた望まぬ終わりへの軌跡を絶つべく、この命の生まれた楽園を救うべく〔アヴァロン〕は設立された。そうして研鑽と叡智を積み上げ、技術と発明を生み出した守護者を詠う者達の穴倉。
首都キャメロット中央開発区、[研究機関アヴァロン]本研究所。通称「星の坑道」。
今、自分たちはその場所を下っている。――――うすら寒い違和感を覚えながら。
「――――なぁ、此処には例のE.M.M.Iが居るはずなんだよな?・・・なんで一機にも出会わないんだ・・・?」
「・・・解りません。本来ならこうやって探索などしていれば即座に察知して襲ってくるのですが・・・」
「ふむ。となれば答えは簡単ですね。――――何者かが此処に来て、E.M.M.Iを無力化。或いは破壊したという事です。」
「・・・メリュジーヌが?じゃああいつはこの先にいるのか?」
「そこまではなんとも?ただ、わざわざこんな穴倉に入ったという事はそれだけの理由があったはず、と申し上げておきますわ。」
「この先には何がある?」「〔アヴァロン〕の情報端末です。活きているかはわかりませんが・・・」
「もしも活きているならかなりの情報を引き出せるはずです。」
そうしてたどり着いたのは、深い穴倉の底。〔研究機関アヴァロン〕情報センターである。
「・・・活きてる?いや、誰かが復旧させたのか・・・?」
「唯一、操作できるんですか?」「なんとか・・・出来そうだけども・・・」
端末を操作しながら、色々な捜査を試みる。・・・なんだ?この感覚は。
ここにいるべきじゃない。 はやくここをでろ。これいじょういたらたいへんなことになる。
・・・自分の中でそんな警告が駆け巡る。それでも自分は操作する手を止めずに動かして。
そうして、それに行き付いた。 行き付いてしまった。
「〔秘検体AA〕・・・?アルビオンの事か・・・?」そうして、自分はそれを開いたのだ。〔秘検体AA経過報告〕
昨年、発掘された〔秘検体AA〕からの[抽出]は現行で76%ほど完了しています。
[抽出]したデータより、〔ギフト〕と〔円卓騎士〕のデータを用いて〔秘検体AA〕に代わる汎用端末を作成。
これらを今後〔A.V.W(アヴァロン・ヴァリアブル・ウェポン)〕と呼称することになりました。
すでにP-01〔ランスロット〕及びP-02〔ガウェイン〕は稼働を開始。各自幻想種の駆除を行っています。
次に、問題となっている〔秘検体AA〕の損耗に関しての調査結果です。
〔秘検体AA〕より行っている[抽出]ですが、これが〔秘検体AA〕の精神基盤に著しい負荷をかけていたことが判明しました。
現在〔秘検体AA〕の精神は多大な損耗により瓦解しかかっています。
おそらくあと1,2回の[抽出]で〔秘検体AA〕は精神崩壊を起こしデータの採取は不可能になるでしょう。
したがって[抽出]が終了次第、〔秘検体AA〕は極東支部の預かりとして輸送されることになりました。
〔秘検体AA〕の情報秘匿の為、この個体に〔仇花〕と呼称を新たにしたうえで極東支部に通達します。
最後に、職員たちからの報告にあった〔蟲〕に関しての報告です。
調査した結果〔祭神〕の下部付近に判別不明の〔群体〕を確認。
ドローンによる調査を試みましたが途中で破壊されていました。
映像を確認した所無数の何かによって「食い荒らされた」ようであると判断しました。
上層部より追加人員と対処班の派遣を要請します。マイルームでマシュとトランプをしていた所に徴側と徴弐が部屋へ遊びにきた時があった。後で話を聞いた所、端末を使って撮影する方法を知りたかったらしい。その時、マシュと2人でトランプをしていたものだから。
「マスター、それは何の遊びですか?」
と、話が変わり、折角だからと4人で遊ぶことに。大富豪、七並べ、ぶたのしっぽ……と自分とマシュの提案で様々なゲームで遊んでいたものの、喉が渇いてしまった。そんなこともあり、最後にやったゲームで負けてしまった徴側にマシュが同行して飲み物を食堂まで取りにいくことになった。
そうして2人が部屋を去った後、徴弐がおもむろに日記帳を取り出して今日のことでも書くのかと思いきや……突然、此方へ振り返った。
「…………」
そういえば、日記を書いていた時に自分が来ちゃって驚かせてしまったことがあったんだっけ。
「別に……気にしないよ?」
「フォウ」
フォウ君も同意見のようだ。こっちに擦り寄ってきたので、耳の後ろを撫でておこう。ところで、フォウ君はネコ科なんだろうか、それともイヌ科なんだろうか。永遠の謎である。
「あ、うん。それじゃあ遠慮なく……忘れない内に、と。トランプのゲームで負けた時のお姉ちゃんの表情が守りたくなるほど可愛い……よし」
その時もこうして徴側のことを書いていたんだっけ。
「そういえば、マスターと一番付き合い長いサーヴァントがマシュなんだっけ?」
「フォウ!」
「うん、そうだけど……何か聞きたい事が?」
「ああ、付き合いが長いなら、私みたいにマシュのことを日記に書いているのかなと思ったんだけど……」
そう言いながら徴弐が部屋を見渡す、何か思うことがあるのだろうか。
「この部屋、長く使っている割に荷物が少ないね」
確かに。置いてあるのもバレンタインの時に貰った人形三銃士、ヴイイ、クーちゃん、アポロン……の他には、トランプや図書館で借りた書籍データ端末程度……確かに、部屋の広さの割に物がない。まぁ、フォウ君の遊ぶスペースが広いと考えれば、あまり気にならないんだけど。強いて言えば……>>874続き
「あー……うん、色々あるんだよ。その、マイルームに戻ったらサーヴァントの誰かが寝ているとか、マイルームで待ち伏せされていて、戻った時にそのサーヴァントの用事に付き合うことになる、とか」
「フォウ、フォーウゥ……」
悲しいことに、これにはもう慣れてしまった。救いと言えば、マイルームに入った瞬間にそれが分かることだろうか。後、寝ている時に入ってくる者はあまりいないことか。あ、でも鬼系のサーヴァントや道満だったらちょっと怖い。
「えぇ……それは、どうなの?」
「徴弐こそ徴側のベッドでやっていそうな気もするけど……」
「だって、家族だよ。別に不思議じゃないでしょ。マスターで言えば、マイルームにマシュが遊びに来ていても、フォウがベッドで丸くなっていても気にしないでしょ。それが、何時ものことなんだから」
そりゃそうだ。朝か夕食の後、どちらかの時間帯では必ずマシュとは顔を合わせている。
「だけど、幾ら付き合いが長いとはいえ、サーヴァントがベッドに潜り込んでいるのは……」
「でも、止める手段が無いんだ。霊体化してしまえば、誰でも簡単にマイルームに入れちゃうからね……」
「フォ、フォーゥ……」
「……そっか、ごめん」
徴弐が遠い目をして黙ってしまった。心なしか、フォウ君も遠い目をしているような……うーん、まだ二人は帰って来ないだろうし、何か別の話題を出した方がいいかな。
「そう言えばその日記、毎日書いているの?」
「当然だね、お姉ちゃんが可愛くない日なんてある訳ないだろう……ところで、マスターやマシュは日記が無くても、可愛いポイントを言えたりするのかな?」
そりゃあ、自慢の後輩だからね。
「それは勿論」
「フォウ!」
「折角だから可愛いポイントを教えてよ」
「そりゃあね。まず、マシュは言うまでもなく可愛い。今はご飯を美味しそうに食べるけど、始めの頃は人形みたいにあまり感情を出すことは無かったかな。だけど、色んな食事を食べていく内にどんどん表情も出てきたんだよね。その切っ掛けを作ったキッチンに居るメンバーには感謝しても足りない位だよ」>>875続き
キャット、ブーディカ、エミヤ……大体食堂にいるメンバーはその辺りだけど、他の方も彼らに習うことがあるみたい。
「確かに、食堂のご飯美味しいよね。しかも、色々な地域に対応した食事を苦も無く作るんだからビックリしたよ」
「じゃあ、徴弐から見て、徴側の可愛い所は?」
「えーと……沢山あり過ぎて一気に出てきそうだ。お姉ちゃんが美味しそうにご飯を食べる所や寝起きの緩み切った姿。他のサーヴァント達とすれ違った時の凛々しい顔から出る、頬が緩むような柔らかい声……あのギャップが堪らないよね……」
「フォウ……」
徴弐のお姉ちゃん自慢はまだまだ続く。
「それから……マスターのマイルームにある鏡で顔の状態を確認していたお姉ちゃんが、突然入ってきたマスターを見て慌てて取り繕っている姿。あの顔は小さい頃、お母さんにやった悪戯が失敗した時を思い出したよ。小さい頃と言えば、マイルームにマスターが居ない時、象とフォウがじゃれ合っているのを見て、勝手に一人二役で、ぱお~んとフォウとフォーだけでアテレコしていた時があったんだけど……あの姿は人形遊びを思い出したね。小さい頃を思い出す可愛い所は他に……シミュレータ室でコンと一緒に日向ぼっこしている時の寝顔とか、勿論、可愛い時だけじゃなくて凛々しい時もあるよ。例えば、宝具を使っている時……あ、そう言えばお姉ちゃん。うっかりぱお~んと言っちゃう時があったんだけど……それを私が指摘したら、周囲を見渡して恥ずかしがる姿とか、本当に可愛いんだよなぁ……マスターは距離があるから見られないだろうけど、こればかりは僕の特権だからね。象と言えば、マスターの頭に象が上った時の姿を写真に撮りたいと言って、ゲオルギウスさんを慌てて呼びに行く時の様子とか、串に刺した3色のお団子を食べて頬を緩めている姿とか……あれ、どうしたの、フォウ、マスター?」
「フォ、フォウゥゥ……」
情報が、情報が……多い!
「いやぁ、一つずつ聞くのかな……と思っていたから沢山出てきて驚いだだけだよ」
「あ、その、ご、ごめん……」
さて、どうしようか。さっきより気まずくなったぞ。それよりも、自分もマシュの良い所を話せ、と言われたら……同じようになるのでは?
「うん、大事な人の良い所は色んな人に知ってもらいたいよね。知ってもらいたいし」
さて、何とか場が保てるか……おや。>>876終わり
「先輩、お待たせしました」
「ただいま戻りました~……あ、弐っちゃん。もしかして私の話でもしていたのかな」
「はんなまー!ぼすぼすとマスターがいるって聞いたからワガハイも来た!」
おっと、途中で会ったのかな。まさか太歳星君がここに来るとは。
「はんなま。さっきまでトランプをしていたんだ」
いいタイミングで二人が戻ってきてくれた。容器を太歳星君が、飲み物を徴側が持っているみたいだけど……一つはティーポットだから紅茶かな。だけど、もう一つは何だろう。
「徴側、その緑色の飲み物はスムージー?」
緑色だから……ホウレン草かな。
「実は私が食堂の方にお願いをしまして。折角なので、現代のベトナムで飲まれているものを作れないか、と。すると、食堂にいる赤い男性……エミヤさん、でしたか。その方がアボカドでスムージーを作ってくれまして。是非、マスターにも飲んで欲しいな~と思いまして」
成程、折角の機会だから頂こうと思うけど、エミヤのクラスってやっぱり料理長の間違いじゃない?
「私も此方へ戻る前に少し頂いたのですが甘くて舌触りも良かったですので、先輩も気に入るかと」
マシュがそう言うなら間違いないか。なら、皆で一緒に頂こうかな。はんなま!リクエストしたモル怪です!
力作をありがとうございます!
予想はしてたけど弐っちゃんのマシンガントークが面白いしホントに情報が多い……!
後側お姉ちゃんの隙も多い。
登場人物たちのそれぞれの可愛い部分が見えて良かったです!ありがとうございました!マスター…トリ子に素行調査されていると思ってる
トリ子…マスターと素行調査してると思ってる
トリ「お母様の相手が見つかったのは祝福すべきコトだけど、その前にリサーチだわ。100点中1000点じゃなきゃゴミ箱行き」
マス(大好きな母親が再婚するってなったらそりゃ心配になるもんなあ…よし、気を引き締めて答えていこう!)
トリ「で、再婚相手ってどんなヤツなの?お母様が選んだからには、まあ悪くない男なんだろうけど」
マス(どんなヤツと聞かれてもな…オレはただの人間だし)「一般人だよ」
トリ「いやこのカルデアに一般人は間違ってもいねえよ!?」
マス(そんな事言われてもな…あ、そうだ)「体を鍛えたりとか、魔術の勉強はしてるかな」
トリ(体を鍛えたり魔術の勉強をしてるね…って、コイツ再婚相手のこと知ってんの!?)「知ってるなら教えろよ!」
マス(ええ…?魔術はかじった程度だから人に教えられるほど知識はないんだけどな…)「そういうことが知りたいならオレより適任がいくらでもいるじゃないか。それこそ、モルガンとか」
トリ(再婚相手を教えるのに適任も何もないでしょ!?…あ、そっか。お母様に直接聞けばいいんだわ!別に秘密裏にやる必要なんてないし!)「お前にしては良い案出すじゃねえか!早速行ってくるわ!」
マス「えっ、素行調査は!?」
トリ(はぁ!?その調査対象を今からお母様に聞きに行ってくるって言ってんのに)「お前が言ったことだろ!」
マス(確かにそうだけど…でも、丁度いいかも。神域の天才に魔術の教えを請えるなんて滅多に無いことだし…それに、モルガンと自然体で過ごしているところが素行の調査になるかも)「じゃあオレも行くよ」
トリ(コイツもか…まあ元々手伝わせるつもりだったし、別にいいか)「寝る間も惜しんで付き合ってもらうからな、覚悟しとけよ?」
マス(レオニダスとのトレーニングもあるし、モルガンと二人切りで過ごす時間も欲しいし寝る間はないと困るな…)
この後モルガンの元に辿り着くまでめちゃくちゃアンジャッシュした0.探偵は嗤い/笑わない
ㅤ紫煙が立ち昇り、粘ついたとぐろを巻いて照明に絡み付く。
ㅤイプスウィッチ道路沿いにある、古い酒場を改装したバーの片隅。黒い長髪の男がテーブルの灰皿に葉巻を置いて口を開いた。
「この町……マサチューセッツ州ダンバースで起きた連続失踪事件。その犯人は彼女で間違いないだろう。すでに語った通り、ホワイ・ダニットについても筋が通る。しかし」
ㅤ生来の苦労性によるのか、あるいはただの翳りの加減か。眉間に指をあてて俯く男の頬が青白く、窪みを深く刻んでいるように見える。
ㅤその様子をじっとりと眺めながら、向かいに腰かける男が喉を鳴らして笑った。
「クク、歯切れが悪いなロード・エルメロイ。かの名探偵でもない貴様なら、熟さぬ推理を口にしたところで罰は当たらん」
ㅤ鳥打ち帽の下、赤々と燃え盛るかんばせは比喩ではない。文字通り、その男は……魔神は、人格を持つ焔の体現であった。
「そもそも私は探偵ではないんだがね、そしてⅡ世を付けろ。
ㅤまぁいい。その通りだよスルト、君も勘付いてはいるだろうが」
ㅤ琥珀色のロック・グラスに、からりと。謎が一つ氷解する音が鳴る。
「クク……いるのだろう? この事件には、黒幕が」>>881
1.Cursed/Cutting/Chainsaw
ㅤ舞う塵芥、吹き飛ぶ鉄扉。割れて砕けた硝子窓から降り注ぐ月明かりだけが清浄な寒色を投げかける。
“見て、見て、ねぇ見てアビー! 私たちの村に我が物顔で住んでたあの豚どもをね?! 資本と支配の原理に魂を売り渡したマモンの崇拝者どもを丁寧にね? 私なりには一生懸命丁寧にカットして散りばめてお裁縫して、頑張って作ってみたのよ!! 貴女のために!!!”
ㅤ元ダンバース州立精神病院。とうの昔に廃墟と化し、朽ちかけた廊下に響くのはけたたましい童女の哄笑。
「ふうん、どんなお節介をしてくれたのかしら? 小さなアン・パトナム。ろくでもないことだけは臭いでわかるのだけれど」
ㅤ低く、冷たく、言葉を返す半裸の少女。アビゲイル・ウィリアムズは黒い鉤爪のついた手足で床を噛みながら腹這いになり、身を屈めながら敵の出方を窺っている。>>882
“大丈夫、わかるわ。忘れるわけがないもの! 私たちの先生を、そして貴女を育てた人を”
ㅤ黄ばんだ煙幕が薄らぐにつれて、大きな黒い影が輪郭を持ち始める。
ㅤ鼻をつく化学的な刺激臭は防腐剤だろうか。そこに奇妙な香草や膏薬の類いが入り雑じる極彩ぶりは嘔吐を催す。
ㅤそれでもなお目を凝らす。徐々に姿をあらわす浮腫んだ赤黒い肌に。古びた使用人の衣裳に。その下に見える乱雑な縫合の痕に……少女の、赤く灯る三つの瞳が震えた。
「一体、何をしたの。何を……誰を造ったの?」
“あら、まだわからないの? アビーったら薄情。それとも、自分で吊るすくらいだから憎たらしかったのかしら? ベティに焼きもち?”
ㅤ響き渡るくすくす笑いにアビゲイルの奥歯がぎり、と鳴った。
「貴女は何をしたの、答えて!」
“は?────だから、今わかるわよ。ばーか”>>883
ㅤ蔑みの言葉が落ちると同時、煙の向こうで何かが吼えた。
「………………………………ァ゛ビ」
ㅤ轟くエンジンとともに回転する鎖状の刃が、遂に不穏の幕を切り裂いた。
「アビィイィイィお嬢様ァアァアァーーー!!!」
ㅤ尖り帽子を被った少女の頭部を両断しようと振り下ろされたその一撃は、猫のように敏捷な後部側面への跳躍により躱された。
「ティテュバ」
ㅤ呆然とした呟きの奥に、どろりと。黒く滾る憎悪のうねり。
「ティテュバを穢したわね? アン」
“心外だわ。私、せっかくこうやって蘇ったからと彼女たちと一緒に貴女と会おうって思っただけなのに。
ㅤそれに、穢すって。ティテュバに魔女の烙印を押したご本人に言う筋合いある?”
ㅤ黒い巨体はのそのそ、床に刺さった刃を腕ずくで抜き、ふたたび鈍重な足取りで斬りかかってくる。
「やめて、もうやめて」
ㅤあまりにも単調で無思考な攻撃。回避は容易く、戦闘経験の少ない彼女からみても隙だらけの挙動には反撃の余地が多すぎる。人造の生ける屍とサーヴァントの間にある、圧倒的な性能の違い。それは厳然と存在している。
ㅤだが、精神において。アビゲイル・ウィリアムズは未だ、ただの一人の少女にすぎない。
“計算通り。結局こうなるのよね。1692年のあの頃の貴女は、後にも先にも存在しない。
ㅤそんなの、アビーだけずるい。だから、奪うわ。その霊基ごと”>>884
ㅤそれは、無意識の油断と隙だった。眼前、彼女の親しかった女奴隷を冒涜した肉人形。それが喚起する動揺を僅かでも和らげようと壁に手をつく、その挙動こそが命取りだった。
“生き死に賭かったこの場でやるのが悼みの整理? 余裕があるのね、サーヴァントって……でも、おかげで掛かったわ”
ㅤアビゲイルが疑問に眉をひそめるより素早く、全身を駆け回る異物感。まるで裁縫糸を肉の奥深く、縦横無尽に張り巡らされるような不快の嵐に呻く。
「ぐ、ぎぎ、っ、?、?!」
“汝、運命紡ぐノルニルが一柱。定命外れし者どもに、今再びの還る道筋を編みたまえ。
────奇運糺す織姫の糸(スレッド・オブ・ジ・ウルズ)”
ㅤ静かな詠唱が少女の鼓膜を打つ。宝具? あり得ない。それは彼女が持つにはあり得ない神秘の筈だ。混乱のなか、努めて脳裏で情報を整理する。>>885
ㅤダンバース連続失踪事件。町内の人間十九人が忽然と自宅から消え、彼らの居室の壁一面に子どもの落書きじみた棒人間の首吊りや悪魔、箒に跨がった魔女の絵が血によって……DNA照合から、失踪者の血液を用いて描かれていることが判明した怪事件。
“Salem's witch is BACK AGAIN. haha :)”
ㅤこの、きまって書かれた顔文字つきの挑発的文言から「劇場型犯罪を好む快楽犯」と目星をつけ、州警察およびFBIが大々的に捜査を展開したが、捜査は難航。これほど派手な手口でありながら、現代の発達した監視網やSNSなどの民間ネットワークによるリーク情報からすら確かな手がかりを得られない状況は異様だった。>>886
ㅤ発生からしばらく経った頃。州を越えた連携捜査が組まれ、全体の捜査指揮をスノーフィールドの警察署長、オーランド・リーヴが担当することになった。
ㅤネバダ州はラスベガスの北に位置する都市を管轄する敏腕とはいえ、ボストン市警を差し置いてのこの人事には様々な疑問の声が噴出した……無論、これはアメリカ政府と魔術協会の間で様々な取り引きと駆け引きを経た末の決定であったわけだが。
ㅤともかく、魔術世界を知るオーランド署長とその肝入りとなる魔術部隊「二十八人の怪物(クラン・カラティン)」による調査により事件の大まかな輪郭が掴まれた。この件は間違いなく、魔術的な超常の存在が絡んだものであると。
ㅤそうした流れの裏で、北米の魔術協会サイドはもう一方の根回しを行っていた。それが時計塔における現代魔術科のロードであり、様々な神秘に纏わる難事件を解決してきたエルメロイⅡ世。そしてもう一方……北欧神話における終末の焔、魔神スルトの影法師が人の形を取り、何故か探偵稼業を営んでいるという、もはや都市伝説以外の何物でもない存在に接触を成功。交渉の末、警察サイドとは別方向からの事件捜査と秘密裏の解決を持ちかけ、現在に至る。>>888
ㅤ束の間の回想が破られる。ブウンギュルブロロブイィイィイィと吼え立てるチェーンソーによって破られる。
“ねぇ、これから貴女を殺/すけど、一つだけ教えて?
────どうして、探偵さんを出し抜いてまで一人で来たの?”
ㅤ壁に磔けられた少女は虚ろな目でティテュバを見つめる。月光を照り返さない、白く濁った眼球がこちらに向けられている。生前の、長閑な南の島で育った者が湛える鷹揚な気配は失われ、セイレム村の子ども達を見つめる温和な眼差しの冷えきった、まさしく骸そのものの姿で動いている不快さに、心の底から長い嘆息を漏らしたのち。
「同郷の誼(よしみ)よ。過去の私が生み出した災いの亡霊が、還る場所もなくさ迷っているのなら。その罪と責は負うべきでしょう?」
ㅤ訳もない、という風に。アビゲイル・ウィリアムズは答えた。どこか、ほろ苦い愁い微笑を口元に滲ませながら。
“そう、物分かりがよくて助かるわ。嫌疑を晴らすためだとか、あの怖い探偵さんの助手に良いとこ見せようだなんて言ったら興醒めだったもの”
「ふふ、たとえそうであってもなくても、許すつもりなんかない癖に」
“そうね。このまま死/んで貰うわ”>>889
ㅤ鎖の刃が廻る。廻る。廻る。
「ア、アビィ゛ヲ嬢様ァ」
ㅤ駆動機関が唸る。唸る。唸る。
「そろソロ寝亡ヰと奥サマに屍ラレ斗ヨォ?」
ㅤチアノーゼに青ざめた唇に浮く泡の跡が意味もなく、記憶に焼き付く。
「嗚呼……こうやってちゃんと見ると、全然似てないわね。ティテュbあ゛ぁ゛!?!?!?」
ㅤ振り下ろされる。チェーンソーが振り下ろされるブロロギャリギチチガガッゴゴギュルミチッチュイーンギャガゴゴゴビチッビチビチビチと灰色の皮を裂き奥にある桃色の肉を抉り白い骨を砕き撒き散らす赤い血飛沫とうっすら黄色い脂肪の混じったまだ酸化を知らない鮮やかなそれに臓物が混じってその個体と液体の間に間に叫ぶ少女の断末魔が唯一の波動として空間を揺らして“キャハハハハハハハハハ!!! やったやったアビーに勝った!!! あーあ、昔っから小賢しぶってる癖に要領悪いだけの地頭バカで気に入らなかったのよね。いけすかない教授のご忠告だってこの通り無意味じゃないの、かったるーい!!!”
ㅤ勝利に酔い痴れた哄笑に沸騰する空気のなか、声帯を潰しきったアビゲイルは今にも気絶しそうな意識を手繰り寄せながら、神に祈った。救いを乞うたのではない、運命を呪ったのでもない。むしろ……感謝を捧げた。
(主よ、ありがとうございます。あなたは私に罪の御祓を与えてくださったばかりか、宿痾の罠のさ中にあってもなお、それを打開する機会をすらご用意して下さいました)
ㅤ少女は袈裟斬りにされた左でなく、右手を僅かに動かした……動いた。“予想通り”、束縛はすでに無効化されていたのだ。
“ねぇアビー、最期に何か言うことあるぅ~?”
「ヲ、寝んネ死まショウねェ、えぇ、!」
ㅤそれら、全ての騒音を無視して、一言。掠れた唇の先で呟いた。
「嗚呼…………わが胎に、白銀の鍵あり!」>>892
ㅤ虚空から繰り出される、重さを伴った鈍色の一閃。それがティテュバと名付けられた屍の両目を斬り抉る。
「ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ーーー!?!?!?」
ㅤ吹き溢れる腐った血を両手で塞き止めながら、老女のカタチは力無く蹲る。
“何処、何処? 何処なの何処にいるのよ、答えなさいよ馬鹿のアビー!!!”
ㅤヒステリックに叫ぶ彼女へ、アビゲイルの声だけが囁く。
「やっぱり。貴女はさっきの宝具……糸で縛った相手を介して世界を見つめていた。運命を固定する権能に近しいほどの支配力を持った、恐ろしい力ね。しかも、それを応用して縛った相手と自身の一部を同化することだって出来てしまう。正直驚いたわ。
ㅤでも、変ね。あなた、センスはいいけど。なんだか使い慣れていないみたい」
ㅤ廊下の四方八方から鍵の開く音がする。やがて、その暗闇からぬらぬらと、名状しがたい姿形をした怪物達が現れる。
“畜生、何が起きているのよ! ティテュバ、早く何か返しなさい!……ああもう、もう此処は詰みかなぁ……?!”>>893
「誰が後ろにいるのかは知らないけれど、そんなの構わないわ」
ㅤ床を這い回る触腕の川が。髑髏模様の翅を持つ蛾の群れが。黒い頭の巨大な怪物が。生ける屍を縛り、刺し、下半身を喰らう。野太い絶叫と臓物のこぼれ落ちる音が鈍く響く。
「かならず、私が殺/すわ。探偵さんにも、助手さんにも、他の誰にも代わりなんかさせない……貴女はこの手で、地獄に送り返してあげる」
ㅤティテュバの前に鉄扉が現れ、二重の閂が抜かれて開く。その、異次元の暗黒を抜けて姿をみせるアビゲイルの紫紺の瞳には、青ざめた光が宿っていた。
“羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい!!!なんで、なんで貴女なのよ!? 一番吊るしたのは私なのに! 私が一番うまくやったのに!! あれは私の……私たちの……!!!”
「そう、それがホワイ・ダニットなの。何処までいっても哀しいわね」
ㅤ手にした鍵杖が唸り、振るわれる。その先端に取り付けられた三つの刃が獣の牙のようにティテュバの首を噛み千切った。
「さっき使ったあの糸。縛られていたのは自分自身だって気付かないのね、アン・パトナム。もう、聞こえてないでしょうけれど」
ㅤ荒々しい断面から噴き上がる血液を浴びながら呟くアビゲイルの声音は、今にも泣きそうに震えていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。ダンバースの罪無き方々。命を奪われ、辱しめられたその全ての報いが、どうか私に与えられますように」
ㅤ床に跪き、両手を頭上に組み、鎮魂の祈りを捧げる少女。その赤黒く汚れた頬を、涙が少しだけ洗い流した。>>894
2.Dis-communication/或いは、地獄で最も住み良い処ㅤ午前三時。院長室の扉が鈍い軋みをあげて開かれる。
「すっごい、本当に全部殺/して来たのね?」
ㅤアン・パトナムJr.の哄笑を浴びながら闇から姿を現すアビゲイルは“赤かった”。
「ティテュバ、スザンナ、マーサ、レベッカ、ブリジット……もう数えてないけど、19人はちゃんと殺/せたと思う」
ㅤ赤黒い、痩躯の悪鬼と見紛う双眸に揺らめく紫紺の霊光。その下に刻まれた涙の跡がうっすらと、彼女が人間であることを辛うじて証している。
「やっと届いたわ、アン。ここで全部、終わりにしましょう」「いい目をしているわ、アビー」
ㅤ埃を拭い払った机に腰掛け、足を組む古風な黒いワンピースと白頭巾を被る清教徒の少女は陶然と微笑む。
「貴女が踏みにじってきたものの重さ、しっかり悔いているみたいね」
「ええ。貴女は思い知らせたかった。私が存在することで損なわれてきたものを。でも、その本当の核心は吊るされた彼らにはない……むしろ、それは」
ㅤ言葉を切る。深呼吸をしながら、院長室内部に張り巡らされている無数の“糸”。そして死角で蠢く屍人達の気配を可能な限り知覚に入れて……口を開く。
「セイレム魔女裁判の象徴としての私を引き摺り下ろすこと。始まりかたはどうあれ、あれはパトナム家の復讐と復権を企図して行われた報復の物語であったことを歴史に刻むこと……それが貴女の、ホワイ・ダニット」>>897
────ぺり、と音を立てて。頬に張り付き、乾いた血糊が剥がれ落ちる。その、薔薇の花弁のような欠片は少女の黒い指先に乗り、揉まれて散り散りの塵となり、埃の積もる床に降り注いだ。
「辿り着いてくれてありがとう、アビー。嗚呼、やっぱり持つべきはよき友だわ!」
ㅤアン・パトナムの瞳にはしる幾条もの細やかな輝き。生来の利発さを宿す切れ長の碧眼は、この部屋に張り巡らせた悪意の罠を一つとして余さず掌握している。口元に浮かぶ柔らかな微笑に漂う酷薄な余裕はその証左といえるだろう。
「ごめんね、アン。罪を贖うというのなら、私は今すぐ貴女にこの首を差し出してあげるべきなんでしょうけれど……もう、それは出来ないの」
ㅤアビゲイルの足元から沁み出す、漆黒に輝ける泥。この世の埓外に属する理法から生じるその原形質はやがて水棲の無脊椎動物を思わせる軟体の腕となり、無数に分かれ、捻れ、踊り狂う。
「安心して。あんたがそんなに殊勝な子じゃないくらいよく知ってるから。どこまで行っても自己中心的で、賢しらぶるけど詰めが甘くて、自分で操っているはずが、肝心なところで利用されてしまうお馬鹿さん。そんな愚かな野兎は、罠に掛かって皮剥ぎに合うのがお似合いよ」>>899
「ほんっと変わらないわね、アビー。その無自覚に傲慢なところ、昔っから大嫌い!」
ㅤアンの叫びとともに幾つもの甲高い音が鳴る。舞い上がる砂埃のなかに光る透明な蜘蛛の巣は生ける檻を綾なす。
「あたしは変わらないわ。今も昔も変わらない。パトナム家の娘として、あの小さなエルサレムを欲望の町には売り渡せない!
ㅤ嗚呼、見ていてお父様、お母様! ガローの丘の彼方に降り立つ神の家。その約束の日まで私はセイレムを守り通して見せるから!」
ㅤ四方の壁が崩れ、現れ出ずる影は数知れぬ屍。肉も削げ落ちた骨の群れは墓地から掘り起こされた亡骸か。
ㅤその関節から響き渡る、キリリ、キリリという耳障りな音。アビゲイルを戒めるように編まれた檻は同時に傀儡の繰り糸でもあった。
「────馬鹿ね、小さなアン・パトナム。ここはもう私達の知らない国の、ダンバースっていう別の町よ。そんな哀しい夢が、貴女を縛る糸だなんて救われない」>>900
ㅤ皮膚を切り刻む檻のなか、血の匂いに誘われた屍に群がられながら、セイレムの魔女はゆっくりと口ずさむ。
「イ・グナ、イ・グナ、トゥフルトゥクンガ。我が手に白銀の鍵あり。虚無より現れ、その指先で触れ給う。我が父なる神よ……我、その神髄を宿す現身とならん」
ㅤそれは異端の聖句。清教徒としての彼女の唇から零れ落ちる筈のない冒涜の詩篇が滑らかに鳴りとよみ、廃病院の一画を甘美な戦慄で満たしてゆく。
「なによ、それ。アビー、あんた一体、何になったの!? わかんない、こんなの教授から聞いてない。ねぇ止めなさい、止めて、わからないけど、それだけは駄目……!」
ㅤ仮初めのサーヴァントとしてある少女を霊基の芯から侵す不定の狂気が、糸繰りを鈍らせる。だが、どのみち同じ事だった。
ㅤ策略家としては天賦の才を持った彼女といえど、所詮は戦素人の田舎娘。与えられた超常の異能に酔い痴れているうちに、数少ない手の内を見せすぎた。
ㅤそして、アビゲイル・ウィリアムズは天性の巫術師。異能の使い手として未完の大器を持つ存在。その相手に奥の手を温存させた時点で、運命の天秤は覆しようのないところまで傾くのは必定と言えよう。
「薔薇の眠りを越え、いざ窮極の門へと至らん。
────光殻湛えし虚樹(クリフォー・ライゾォム)」>>901
ㅤアン・パトナムJr.は瞠目する。眼前、聳え立つ異次元の色彩放つ光の殻を持つ悪徳の地下茎に精神を呑まれ、そして……一切が、歪曲した。
ㅤまず、体感として時の流れが奇妙な加速と遅延の渦を巻いて混乱した。同時に空間の概念が溶かされ、あらゆる物体にまつわる遠近や方角といった相対的な関係性が破綻した。そして、十本の糸によって手繰り綾なした因果律操作の糸がふやけ、解れ、霧散してゆくのを見た。配下の屍達はくずおれ、今やただの死体にすぎない。
「何、これ……何、ナニ? あんた、いえ、あなたいえ、いえいえいえ御身、御身の御名を是非とも聞かせ、いえ。聞きたくない聞きたくない聞きたくない!? 怖い、怖い怖い怖い怖い……!!!」
ㅤ滑らかな星月夜の水面を絨毯にして座り込む小さなアンは神を言祝ぎながら両手の人差し指で両耳の鼓膜に突き入れ、蝸牛のような形をした器官ごと聴覚から解脱した。アレルヤ、喜ばしきかな。其処に歩み寄る灰色の肌持つ巫女より漂う薔薇の香気に満たされよ。>>902
「ねぇ、アン。本当はもっと、きちんとお話したかったのだけど」
「あ、嗚呼、ア…………来ないで、やだやだやだ来ないで来ないで来ないで来ないで来るなァアァアァアァアァアァアァアァアァ!!?」
ㅤアレルヤ。そう晴れやかに叫んで少女は両目を抉り出した。視神経を絶ち切り、また一つ解脱の階梯を昇った。おめでとうございます。
「────この、罪は。貴女だけのものじゃ、ない、から。だから、ちゃんと私が、背負」
「許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺して許して殺してお願いアビー、もう殺して。私を、許して」>>907
ㅤ探偵は腰に差した剣に手を掛けていた。その鞘の奥からごうごうと、世界の終わりで聞くような火の音が聞こえてくるようだ。
「あら、そんな物騒なものを抜くのはおよしになって。こんな田舎娘には勿体無いものよ」
ㅤ微笑む童女の碧眼は波一つ立てず、目の前の神が放つ殺気を受け止めていた。まるで、それがこれ以上ない慰めの福音であるかのように。
「貴様、恐ろしい目をするようになったじゃないか! いいだろう、お前が遂に神へと堕ち果てた時は俺が焼いてやる……たとえ、外なる神であろうとも。終末の焔は灰すら残すまい」
ㅤ死合いの構えを解いた探偵はアビゲイルの傍らまで歩み寄り、耳元で囁いた。
「貴様の所業はこの際問わん。元より興味など無いからな。だが、これだけは聞かせろ。
……下手人の裏に、影はあったか?」
「鍵となる印は三つ。幻霊、神の欠片、蜘蛛の糸。フーダニットならもう検討がつくでしょう?」>>908
ㅤ探偵は鳥打ち帽を目深に被り、ため息を吐いた。
「なるほど、やはり教授か。奴が貴様を狙った理由もおおよそⅡ世の目星通りだろうよ。失敗だったみたいだがな」
「私が、狙い?」
ㅤ少女の、仮面のような微笑に罅が入る。
「アンは、私を動かすための駒だったってこと……?」
ㅤ全身が震えた。人は憎しみでこれほどまでに震えるのだと、その時アビゲイル・ウィリアムズは思い知った。
「しばらく、オフェリアの元に身を寄せろ。お前は一人だと危ない。奴ならいざという時でも役に立つ。強い女だ」
ㅤそう言って、探偵は廃病院へと足を運んだ。その背中が闇に消えるのを見届けて、少女は唇を噛んだ。
「許さない。許さないわ、お爺様。貴方の目的が何であれ、私の友達を辱しめた罰は受けてもらうわ。絶対に!」>>909
ㅤ少女の唇に浮かぶ血の雫が月光を映して青ざめ、地面に落ちた。
◆◇◆◇
「いやー、アビゲイル君を無理やり覚醒させて世界の真実を暴いてしまおう計画は大失敗だったネ! 私から見ていい線いってた筈なんだけどナー」
ㅤ暗闇のなか、無数に浮かぶモニターに囲まれた初老の男が間抜けな嘆息を漏らす。
「しかし、本当に此処はどういう場所なんだろうねぇ? 法則も道理も一見して調和しているが、数学的に解析してみると矛盾と破綻に満ちている。かといって特異点や異聞帯の類いでもない。では、なぜサーヴァントである我々が大手を振って闊歩している? うーん奇妙奇天烈!」
ㅤバタバタと本の山が崩れ、紙束が舞い散る音とともに男がしばらく狼狽える声を発したあと。
「これはいよいよ、我が宿敵にご協力願うかナ。アイツ、謎解き大好きだし」
【完】>>910
あけましておめでとうございますアビコンの人。
北欧怪文書であります。
御礼が遅れてしまいましたが、この度はべらぼうにおしゃれでワンダフルな血飛沫マシマシメルヘンティックホラースピンオフをあつらえていただきありがとうございます。
すごい……スルトさんがちゃんと2世や助手と探偵をしている……。
すごい……アビーちゃんとアンちゃんがそれぞれちゃんと魔女をしている……。
そしてスルトさんの爆発推理チャンバラ、アビーちゃんのオカルト大冒険、そしてまさかのアラフィフのわるだくみとホームズさんの介入はこれからだEND。
すごい……なんというゴージャスな展開……なんという事をしてくれたのでしょう、なるほどわかりました貴方が神ですねありがとうございます(アビコンさん家のクトゥルフ賽銭箱に札束を入れながら)。
なんでサーヴァントが世界にキャッキャしてるかの理由が『みんなの推しがたくさんでてきたら楽しいから』
『終末探偵の世界は、色んな事象や可能性の交差点と化した破茶滅茶レアパターンな世界だから』
ぐらいしかないふわふわオカルト探偵怪文書を、
一本バキバキなSSにランクアップしていただいて、
破茶滅茶に嬉しかったです。本当にありがとうございました。ㅤ蝶の翅の形をした影が黒く、瞼の内側で翻るのを見た気がした。
ㅤかすかに身を跳ねて目覚めると、脇のほうに重たく、温かい人の呼吸が日溜まりのようにしてあるのを感じる。
ㅤ毛布を捲る。おろしたてのカバーの清潔な匂いの一枚下には、生々しく汗ばんだ少女の髪と肌の匂いが、入浴洗剤の香料と入り交じって漂ってくる。額に接吻しながら、これは果たしてまだ夢の続きなんじゃないかとスマートフォンを見る。
ㅤ1月4日、水曜日。午前5時42分。通知の溜まったウェブニュースを一斉に閉じて、この煩雑で風情のない心地こそ現実の味だと苦笑した。
「ん、マスター。おはようございます」
ㅤ金色の長毛を垂らした猫が顔を洗う仕種の具合で微睡みから起き上がるアビーの頭を訳もなく撫でる。
「おはようアビー。朝ごはん、まだなんだけど……トーストでいい?」
ㅤ彼女はふわりと無言で頷く。そこにはさしたる喜びもないが、不満もない。
ㅤ台所から窓の外を見ると、黒い寒天のような未明のなか、街灯だけが寂しい光を投げかけている。
ㅤ気だるい体を椅子に預けて、コンロのやかんが鳴くのを待つ。すると膝に灰色の太い猫が乗り、そのまま悠然と香合座りをした。
ㅤアビーもすぐに黒猫を抱えながらここにやって来て、とりとめのない話をするだろう。たとえば、いつもの夢占いとか。
“ねぇ、マスター。昨夜はどんな夢をご覧になられました?”
ㅤ想起する脳裏、羽ばたく翅の影に眩暈がする。やかんの笛が叫び、意識を現実へと引き戻す。灰色猫を膝から下ろし、申し訳程度に頭を撫でて調理場に立つ。
ㅤカフェプレスの容器に詰めたコーヒーの粉が熱湯に沸き立ち、発酵した葡萄の匂いを放つ。これが現実だ。火加減が強すぎたせいか、やや熱い樹脂ハンドルを握りしめる。これが現実だ。後ろからひんやりとした手を回して抱きついてくるアビーが言う。
「これが現実よ」
ㅤそれだけで、全ての迷いは消えた。窓の外はほのかに明るく色づき、生活の音が押し寄せてくる。これでいいのだ。私の現実は、これでいいのだ。
「ありがとう、アビー」
ㅤ唇に軽い接吻をすると、トースターからきつね色のパンがポップする。今・ここに目覚めるための食事が出来た。
ㅤこうして、私達はいつもの食事をして、いつもの生活を送るだろう。これまでも、これからも、ずっと……一番最初の“いつものトースト”を噛った日から、永遠に。~2月14日のSAITAMA、高杉重工の社長室にて~
高杉「いやー、街はバレンタイン一色だね」(窓の外を見ながら)
阿国「そうでございますねぇ。社内でもチョコを渡してる社員の方を見ましたよ」
高杉「ふーん。ところで阿国君からの手作りバレンタインチョコとかないのかい?」
阿国「なーに寝ぼけたことおっしゃってるんですかこの社長はー⁉ そうほいほいと女子の手作りチョコもらえると思ったら大間違いでございますよ!」
高杉「えー。男って手作りなら義理でも喜ぶものなんだけどなぁ。まだまだ男心がわかってないぞ阿国君」
阿国「はぁ…まあ手作りでこそございませんが、一応チョコは用意してるんですけどね」(スッ
高杉「おお! マジか! 意外と気が利くじゃないか!」
阿国「『意外と』とは何ですか意外とは! とにかくお仕事が終わってご夕食の後にでも…ってもう開けておりますし⁉」
高杉「ほうほう…なんだか豪華な箱に入ってるけど、結構高かったんじゃないか? これ?」
阿国「まあ日頃のお礼と申しますか…先の『流血開城』で助けていただいた御恩もありますし…。とにかく! それなりに奮発したものをお渡ししたのですからお返しのほう、期待しておりますね!」
高杉「維新まんじゅうでいいかい?」
阿国「即決!? 自社製品とかなめ腐ってやがるんですか!?」
高杉「何を言ってるんだい? 維新まんじゅうおいしいだろ? 勤王まんじゅうなどとは比べ物にもならないさ!」
阿国「まあ確かにおいしいですけど…」
高杉「しかも今開発中の新商品だ! 喜べ阿国君! 君が世界で誰よりも早く新しい維新まんじゅうを食べられるぞ!」
阿国「それ体の良い試食係でございますよね!? やっぱりク.ソ野郎でございますこの社長!」>>913
~それから数週間後~
阿国「『白い維新まんじゅう』…ホワイトデーの発売に間に合わせるためにちょっと早く送ってきやがりましたねあの社長。まったくどれだけ…おや? お饅頭の他になにか入っておりますね…? どれどれ」(メモを開く
阿国「“せっかくのおまんじゅうに合う飲み物がないのでは可哀想だと思ったので、おすすめの茶葉もつけておいた。よく味わってくれたまえ! おまんじゅうの感想は明日中に頼む!”と…。こちらの茶葉、確かそれなりのお値段の…。ふむ」
阿国「まあしょうがないですから、今回はこれで良しといたしましょう。 明日までとか書いてありますし、早速お湯を沸かすといたしましょうかね?」普段SSとか書かないんですけど、せっかくの高杉さん実装&ホワイトデーだったので、以前考えたSAITAMAバレンタインの妄想を書いてみました。キャラの特徴とか掴めてる自信はないんですけど、読んでいただけたら幸いです…。
「これは、なに? きみさぁ」
思わず話し方がボイジャーみたいになってしまった私だ。でも、一体誰が責められようか。むしろ私は、こんなミーム汚染を建築した特異点と聖杯とサーヴァントに小一時間くらい詰め寄りたい。
チェイテピラミッド姫路城。
血の侯爵夫人でおなじみの赤の歴史があるチェイテ城に、古代エジプト文明に作られた王墓たるピラミッドが上下逆さまにささり、その上から文化遺産?の記録に残っていた姫路城がライドオン!
完成した建物は見る者の常識を破壊するし、良識を疑うし、私はちょっと軽くSAN値チェック(めまいを覚えた)。
「何って、ハロウィンだよ」
マスターであるキミのその一言に、私は「…………はろ、……………………うぃん……?」と返すしかなかった。
「いや、最初はね? チェイテ城だけだったんだよ。ほら」
言いながらカレは映像記録を入れ替えて、カボチャまみれになった城を私に見せた。徐々に変遷をたどっていくチェイテ城……、びきにあーまー? 姿のエリザベートさんとか色々見えちゃってるのに、カレってば全然動揺すらしてないのはどうかと思うけど。
でも、チェイテピラミッド姫路城の背後にメカエリザベートが立った時点で、私はもう限界だった。
ミーム汚染の限界ぶりに腰を抜かした私を、カレは抱き留めてくれて。
「ごめん、もう無理………………、もう駄目だ、オシマイだ………………」
「エリち、しっかり……!」
「…………キミのマイルームのベッドに連れて行ってくれないかな。私が眠れるまで、手を、握って欲しいんだ」
普段はこんなこと絶対しない。彼は色々とモテモテだし、マシュさんにだって悪い。
けれど今日ばかりは、こういう時くらいは。面倒くさい私だけど、素直に甘えても良い、よね?>>916
この時期に全く関係ないのに、ガールミーツチェイピ城のイメージが唐突に涌いたので駄文打ってみました>>919
3枚目r-18はそっちのスレでよろ
>>931
かなり多くなってすみません
以上になります
よければ感想をお願いします>>932
これくらいでもNGですかね...?>>1
よしかくぜ!セイントグラフ修正と雑スレでの雑談から生まれた「こちら側に干渉する晴信さん」ネタのSSです
なんか……筆が乗ったら夢小説になっちゃった……
雑スレだとスレチになりそうなのでこっちに晴信さんを解き放っておきますね>>936
近づいている?
最初にそう思ったのは気のせいではなかった。
実装時の立ち絵が遠かったのか、武田晴信のセイントグラフは爆速修正されたのである。おかげで物理的に距離感が近くなっているように見えてしまった。勿論ネタとして、じわじわ近づいてくるタイプの怪奇現象っぽい、なんてことを掲示板に書き込んだような気もする。
そんなことも忘れて、イベントや周回で絆を深める日々。マイルームでボイスを聞いて、聖杯まで捧げて。すっかり推し鯖の1人として、私のお気に入りになっていた。1臨を好んで使っていたが、セイントグラフは最終再臨にして使っていた。
……今思えば、それが良くなかったのだろう。
ステータスのスクリーンショットを撮るためにセイントグラフを変更した際、何か違和感があることに気がついた。
──近づいている?
1臨の立ち絵は既に修正されたはずだ。それ以上に近い立ち位置になっている気がした。
「……気のせいかな?」
何となくスクショを撮るのは憚られて、結局最終再臨で撮ることにしたのだった。
『……危なかったな』>>937
温かいほうじ茶を飲んで、いつものようにストームポッド消化の周回を終える。時刻を確認すると、もう0時に近い。明日の仕事に備えて寝なければ。
その前に、湯呑みだけでも洗おうか、と立ち上がった時だった。
パキン、と音がする。
立ち上がる際にうっかりスマホを落としたのか、画面が割れてしまったのかもしれない。慌てて振り返ろうとすると、背後から何かに肩を掴まれた。
「──やっと会えたな」
それは何度も、何度もマイルームで聴いたあの声。だんだん近づいてきているような気はしていたが、いや、まさか。そんなことがあり得るのか?
画面を破って、ありとあらゆる何やかんやの壁を越えて来た……とかいう?
動けなくなっているうちに、もう片方の腕でしっかりと抱き止められてしまった。
見下ろすと、男の手が目に入る。心なしか煙草の匂いもする。
それでも確証を得られない気がして、私は怖くなった。何故だろう、彼の名前を呼んではいけない、振り返ってはならないと直感が告げている。もしそうしてしまったら、私は──
「……流石にいきなりは怖いか。それは悪かったな」
安心させるように、ぽん、と頭に手を置かれる。温かい掌で優しく撫でられれば、身体は安心してしまって、逃げる選択肢を失い始めた。
どうしよう、怖いはずなのに。逃げなきゃ、いけないのに……
頭を撫でていた手が顔のラインを伝って、頬を包んだ。くい、と力を込められて、顔を横に向けられる。抵抗することなく受け入れれば、覗き込んでいる彼と目が合った。
「あ……」
「ふ、やはり赤は良い」
指で頬を撫でられる。いつの間にか顔が赤くなっていたのだろうか。>>939
以上になります〜
こちら側で逃避行するのか、あちら側に連れて行かれてしまうのかはご想像にお任せしますねㅤ平成三十六年一月一日。この東京を異聞帯というには、あまりにも見慣れた景色が多すぎる。
ㅤ浅草、吾妻橋。赤い欄干に止まる鴎が首を窄めて寒風に耐える姿を、君は歩きながらずっと目で追いかけていた。
「撫でてみたいなぁ」
ㅤ透き通った水色の瞳をきらめかせながら、エナメルのパンプスのつま先をもじもじとさせて呟く姿がとても鮮やかで、悟られないよう息を呑んだ。
「人懐っこい子がいたら、お願いしてみる?」
ㅤこのまま時間を凍らせることが出来たら。そう叫びたくなるのを押し殺して、どうでもいいことだけを投げかける。
「ううん、いいの。鴎さんは自由であるべきだから。人に慣れて、やがて人に縛られてしまうくらいなら、私はは遠くから見守るわ」
────君はそうやって微笑む。君を、主従の縛りのなかに置く私へ向けて、無邪気に。>>942
ㅤ往来は汎人類史と変わらず、ただ行き交う人々の微妙な衣服の傾向に違和感を覚えるくらいでしかない。魔術的素養を持つものもそういない。事実、私の晒した左の手の甲に光る令呪に気付くものはいないし、サーヴァントである彼女の姿を見て違和感を抱くものもきわめて少ない。ごく稀に、一瞬だけ慄いて「なんだ」とこぼして去ってゆく者がある程度だ。
────そんな、人混みのなか。一人だけ、明らかに目立つ者がいる。
「なんでぇ。此処を伐りに来た奴らにしちゃあ、随分としまりがねぇ面してやがる」
ㅤ赤みがかる短髪に鋭い琥珀の瞳。半裸の肩に錦の羽織りをかけた男の腰に帯びるは大小。
「マスター、敵ね」
「ああ、随分と大胆なことだ」
ㅤ灼熱の秒針が溶けながら尾を引き、間延びした時間のなかで思考だけが加速する。
ㅤ戦いの火蓋は、間もなく切られるだろう。>>945
「子どもだと、侮ってらっしゃる? むざむざと弱みを曝すようなお喋りはしないわ」
ㅤ背後に分厚い影が差す。振り向くと中空に人が並んでいる。不揃いの高さで、幾つもの人の体が、蛸のような腕に絡みつかれて浮かんでいる。
ㅤ小太りの男が、下から上の穴までを串刺しにされて痙攣している。
ㅤ学生とおぼしき少女が、横薙ぎに裂けた腹から腸の帯を垂らしている。
ㅤ頭蓋の割れた浮浪者が、泡を吹きながら奇妙な歌を口ずさみ、やがて事切れる。
「そうかい。そりゃ話が早い。町民を盾にするような外道は、とっとと叩っ斬るほうが気が晴れるってもんだ」
「私は強くないの。だから……マスターを守るためなら、何だってするわ」なんか需要がありそうでしたので掲載します!
立香ちゃんに手作りの櫛を贈る伊織くん(下心無し)のSSです>>947
ぱきん、と音を立てて櫛の歯が折れる。
「あっ……!」
人が少なくなってきた食堂に、立香の声が小さく響いた。
遅めの昼食を摂る前に髪を結おうとした彼女は、プラスチック製の櫛を使っていた。折り畳み式の持ち運びやすいものだ。髪を整えようと梳いたところで、櫛の歯が折れてしまったらしい。
「伊織……破片が髪に残っちゃったかもしれない……」
眉を下げた立香は、目の前に座っていた俺に助けを求めてくる。ここには鏡も無いので、どこに残ったか分からないのだろう。背後に回って、失礼、と髪に触れる。やや癖のある彼女の髪は、朝焼けのような橙だ。
「これだな。怪我はしていないだろうか」
「大丈夫! ありがとう、伊織」
櫛の破片を取って、立香に手渡す。
この櫛ももう寿命かあ、と呟く彼女を見て、ふと思いつくものがあった。
食事を終えたマスターと別れて、自室に戻る。
プラスチックの櫛で梳いたマスターの髪は静電気を帯びていた。ならば、材料は静電気が起こりにくい柘植が良いだろう。ああ、少し癖のある髪だったな。やや荒めの歯にした方が良さそうだ。持ち歩きやすい大きさにして、出先でも髪を梳くのに使えるようにしよう。誰の物か分かりやすいように、藤の花も彫り入れてみようか。彫り終えたら、椿油も染み込ませた方が良いだろう。
櫛作りの計画を構想する。これは時間がかかりそうだ。早急に取り組まなければ。>>948
その日から、櫛作りは手慰みの彫仏に取って代わった。特に歯の間隔を整えるのは一苦労で、彫仏とはまた異なる技術を要する。貴重な柘植だ、そう簡単に失敗は出来ない。
時折遊びに来るセイバーが覗き込んでは「ほほーう……」と口にしているが、気にしないことにする。
納得のいく歯が出来たところで、次は藤の花を彫る作業に移る。あまり装飾に凝り過ぎては、立香が気後れして使えないかもしれない。普段使いできるような、さりげない彫刻に留めることとしよう。
全体を磨き上げて、最後に椿油を染み込ませる。歯の奥まで油を充分に浸透させて、拭き取った後に乾燥。つげ櫛は、椿油での定期的な手入れが必要になるが、そこまで高頻度ではない。立香に伝えれば、きっと上手く使ってくれるはずだ。
それに、椿油が櫛に馴染むと、梳かす度に髪を潤してくれるのだとか。
……立香の髪に触れたあの時。この橙を美しく保ってほしいと、そう思ったのだ。
「これ、伊織が作ったの!?」
立香の反応は予想以上に良かった。
「ああ。以前、櫛が折れてしまっただろう? 代わりにこれを使ってくれ」
櫛を見つめる琥珀色の目は輝いている。
「本当にいいの? こんなに良い櫛……」
「手慰みに作ったものだ。折角出来上がったのだから、使うべき人の下にある方が良い」
藤の花まで彫っておいて、何を言っているんだ俺は。
立香が顔を上げる。
「ふふ、ありがとう! 大事に使うね!」
その笑みを見つめながら、ふと気がつく。
この櫛は髪飾りではなく、髪を梳かすためのものとして作った。そのはずなのに、当世では髪飾りとしてあまり使われないのだったな、などと、残念に思う己がいる。>>949
「……?」
何故、そのようなことを思ったのだろう。理由を理解したいのに、探ろうとすると靄がかかる。
「伊織?」
心配そうに立香が声をかけてきた。
「──ああ、何でもないよ」
それより今は、手入れの仕方を彼女に伝えなければ。
思考を切り替えて、そちらに集中することにした。
「髪飾りに使われないのが惜しい、か」
自室の畳に座って考える。
……俺は立香の髪飾りを作りたかったのか?
いや違う。櫛が折れてしまったから、こちらで新しいものを作ろうと思った。故に作って、先程渡したばかりだ。
では、この晴れない気持ちは一体?
考えあぐねていると、セイバーが訪ねてきた。
「ほほーう……その様子だとまだ分かっていないようだな、イオリ」
「藪から棒になんだ、セイバー」
何故かニヤニヤしているセイバーにせがまれて櫛の委細を話すと、「そんなことだろうと思った」と呆れた顔を向けられる。>>950
「そこまで気になるのなら髪飾りを作ってしまえばいい」
「しかし……」
「作ろう! うん! 私はバレッタが良いと思う!」
「ばれった……?」
彫仏を再開するのはまだ先になりそうだ。
以上になります
早く己の心に気づけイオリ!>>952
「見かけによらず剛毅じゃねぇか、兄ちゃん!」
ㅤ居合いの構えから一閃、胴を断つ薙ぎ払い。
ㅤ到底、これを人の身で受け止めることなど不可能だ。
ㅤ
────だからこそ。私は自らに“身体強化”をかけ、真正面から打倒することにした。
ㅤ格闘に心得などかけらもない私に出来るのは、ただ肉体の防衛本能に委ねた賭け。思考も戦略も練るだけ悪手。ただ、この身が導く最適解がすべて。
ㅤ白く、鋭い、光の筋。それを、右の腕と肘を用いて、受け止める。
「ぐっ!」
ㅤ腹筋を切り裂き、背骨にまで達しかけた刃を、辛うじて止めている。血が溢れ、痛みと目眩が星の渦を描く。
SSなんでもござれのスレ
953
レス投稿