とにかくユー!SS書いちゃいなよ!なスレです。妄想をぶちまけよう!
ただし、あくまでKENZEN、並びに型月関連作品のもののみでお願いします!(型月関連のクロスオーバー可)密かにだが自分はロマンと禁書で一つ書いてみようと思ってる(小声)
マシュを観光連れてくss。 でもどこに投稿すればいいんだ?
ども>>1です。スレ承認やったー!投稿は是非ともここで!
少し長くなりそうなら、申し訳ないですが別に建てさせていただきます。そのご要望がございましたら、私に一報お願いします。今年の始め、書こう書こうと思いつつ仕事に忙殺されたため諦めたアルテラさんの初夢ものをいつか投下したい
とりあえずエクステラをもう一度確認してからになるけどずっとずっと加工と思っているけど書く時間がないから書けないやつ
プロット
仮面ライダーゴースト fgo
主人公はタケルというぐだ男。特異点Fが始まる際、謎の男からゴーストドライバーを渡される。燃える都市で無我夢中に変身して、なんとか戦っていく。ラストで兄貴のゴーストアイコンゲットしてオルタに勝利。所長はユルセンになる。
その後二章で闘魂アイコン。四章でグレイトフル。六章でムゲンアイコンをてに入れて、ラストバトルはソロモンゴーストアイコンを使ってゲーティアと戦うってのを考えた。SSかぁ。色々考えては見るものの、いざカタチにしようとすると難しいよね。今考えているのだと3つ。
・特に何も無いある日(草十郎と有珠がリビングで話をするだけ)
・カルデア戦闘シミュレーション記録No.31(大英雄ジークフリードVS人になった兵器エルキドゥ。勝つのはどちらか)
・木下ひなた「サーヴァント?」(Fate/GO×アイドルマスターミリオンライブ!のクロス。偶然、カルナさんのマスターになった765プロのアイドル候補生、木下ひなたが聖杯戦争を駆ける──話ではない)
うーん、アイディアばかりが先走り過ぎてどれも完成しそうにないネ!既にありそうだけどZEROで戦闘にFGOのルールを導入したギャグSS
セイバーに押されるディルムッド、そこに乱入する征服王とバサスロットに英雄王。
戦いの最中、バサスロットはセイバーに襲いかかるが征服王に轢かれて死亡する
その後もハサンに壊滅される王の軍勢、大海魔を倒せぬなら食ってしまえと王の軍勢が大海魔で大宴会
完全ギャグテイストのストーリー
やっぱもう誰かやってる気がするなちょっと前から少し考えてたものとしては、ドクター・ストレンジのエンシェント・ワンがケルト人らしいんで、なんかうまいこと兄貴と絡ませらんないかな、と思ってる。設定(仮)としては、Apo時空の亜種聖杯戦争の一つをNYでやって、ゼロッツの侵攻かと様子を見に来たエンシェント・ワンと召喚されてた兄貴が出会う→ここから先を考えてない。
ここで安価SSとかやっちゃって良いのだろうか?
>>12
内容と時間によるけど、ここに仮面ライダーFateというのを考えたんだが、大まかな設定やストーリーとしては
・ストーリーはセイバールートに凛ルートと桜ルートの要素を足したような流れ
・サーヴァントは戦闘時には自分のベルトとクラスカードで変身する。変身しなくても武器を出して使うぐらいはできるが変身後は変身前と比べてすべての能力が飛躍的に上昇する
・ラスボスはギルガメッシュと言峰のコンビ。言峰は物語後半に、桜の体内の聖杯の欠片を移植したこととこの世全ての悪に選ばれたことにより第9の仮面ライダーである仮面ライダーアンリマユに変身する能力を得る
・士郎はアーチャーや無限の剣製の影響と「いずれ英霊になる可能性」により仮面ライダーエミヤ(能力はアーチャーと同じ)に変身する能力を得てセイバーと共に最終決戦に挑む
まで妄想したけど文才が無いので挫折してるorz本文入力画面見ていると、1レス最大20行1000文字までって制限があるので、5千字程度でも改行を入れるとけっこうなレス数を使わないといけない気がするんですが、最大どのくらいまでのレス数で別スレ行きとか基準はありますかね?
一応本文が5千字程度の短めのSSが一本あるんですが、改行の関係で10レス超えるかもしれないので、S掲示板でのSS投稿もしたことがないのもあって、何か目安があるなら確認しておきたくて。ステンノ様ろとぐだ男のSSは考えたことあったなー。
第1特異点で唯一のアサシンとして上姉様召喚。上姉様はぐだと戦友的な感じで関係を詰めて行くが第3特異点で再開するエウリュアレに「私、少し変わったわね」と言われ自分の気持ちが少しづつ変わっていくことを自覚する。でも彼女は神霊だし、人間は忌むべき存在だし、愛しているのは姉妹だけの筈だしで心が揺れに揺れる。みたいな上姉様の純愛物。
これも全部絆5ボイスの破壊力のせい。あんなん勇者じゃなくても勘違いしたくなる。憐憫の獣が夢を見た世界では、比較の獣はヒトを殺さなかった。
彼が美しく気高い人々の傍らに在る世界では、
――月の姫はただ一度の敗北の後、目を覚まさないまま。
蛇は待った。憎い姫君を完膚なきまでに滅ぼさんと。
待って、待って、死んで(まって)、生まれて(まって)、殺して(まって)、死んで(まって)
待ち続けて、待ちわびて、待ち呆けた頃。
「姫君のことが好きなんじゃないのか?」
当代の肉体。鬼の子がそんなことを言った。否定しようとした。出来なかった。
魔術の能力に長けた鬼の子は、いつか蛇になり替わられたときに
妹を傷つけるのを恐れて家を出て、どうしたわけか雪山の観測所。
身のうちに蛇を抱えたまま、うっかり生き延びて。
「……『犬』か?」
少女の抱えた白いイキモノ。いつかの、あるいはどこかの記憶。
獣は何かに気付きながらも、何も知らぬ顔で『フォウ』と鳴いた。
みたいな四季/ロアが二重人格風になって、
カルデアで働いてるSSを書きたかったんだけど、
人理って人間が救ってこそだから死徒の入る余地はないなと悩ましい。ぐだ子とザビ子の共演物とか考えてたなぁ
サーヴァントと離れ離れになって、ぐだ子と玉藻 ザビ子とマシュ とパートナー入れ換えでそれぞれ再会を目指すみたいな話
黒幕はBB&魔神柱コンビで
ザビ子のサーヴァントが玉藻なのは私的イメージの問題
ネロはザビ夫で玉藻はザビ子ってイメージがなんかある>>20
忘れもしない…赤評価だから読んだらただの士郎らしきナニカがジャンヌといちゃいちゃするだけの奴を…
せめてキャラを掴んでやってほしかった…タケルの息子のアユムがデミアを倒した後にFGO世界線に飛ばされてぐだ子&マシュと協力して戦うネタが浮かんだ
プロットだけ考えてみるか自分も仮面ライダー×FGOのは考えたな
主人公は死んだ(ゲームオーバー)はずの貴利矢で、冬木の特異点に召喚され、カルデアのマスターや英霊、召喚された仮面ライダーたちと共に七つの特異点と仮面ライダー世界ベースの特異点を戦い抜く感じ
仮面ライダーと英霊のコンビネーションとか面白いと思ったからそういうの固まってから書きたい。タッグの組み合わせでやりたいのは
レーザー×牛若丸
スカル×エミヤ
ファイズ×クー・フーリン(ランサー)
ドライブ×モードレッド>>19
あれ?なろうは二次創作作品の投稿はできなかったはずでは笛吹は時々、黄色でも良い作品がある。
ただ、赤色で最悪の作品も時々ある。
なろうはエジプトレベルタマモキャットとステンノ様の話、書きたい……。
少女とバーサーカーの組み合わせだし、キマシでも普通に友達としてでも良いと思うんだ。
問題はキャットもステンノ様もうちのカルデアにいないことだ前に、EXTRAで何かの拍子に自鯖が幼くなる妄想をしたことがある
ロリネロ、ロリ玉藻、士郎、子ギルとザビの組み合わせが面白そうだと思って
士郎編は実際に書いたんだけど、今度ロリネロ編でも書いてみようかな地雷といえば冬木ちゃんねるとかいう悍ましいものを思い出す
「レーッツ! グランド・バベッジッ!」
人類最後のマスターによるグランド・オーダー。それは、人理保障機関カルデアによる合体指令。
掛け声と共に空へと飛翔する巨人の影が三つ。
蒸気が舞い、勇者バベッジを中心に美しきラウンドフォーメーションをとる。
『ドッキング開始します! 先輩、衝撃に備えて下さい!』
フロントモニターに映る少女の名はマシュ・キリエライト。英霊機神ギャラハッドのメインサポートAI。頼れる最愛の後輩。
盾の英霊機神ギャラハッドを右腕に、剣の英霊機神アルトリアを左腕に変形させ、黒鉄の巨人と結合する。
「英霊合体!」
少年は叫ぶ。人類の希望を。最強の勇者の名を。
立ち上がれ! 我らが勇者!
『グランド・バベッジ!』
的なssを思いついた。詳しい設定はこれから考える書いた奴ってどこに投下すればいいんですかね
シビル・ウォーでスタークとの対決直後のキャプテン・アメリカが特異点Fへ。
そこでマシュと出会いマスターとして人理修復の戦いに出るとか思いついてる。
キャップが戦士としての先達、人生の先達としてマシュを導いたりキャップが人理修復の旅を通して学んで行ったりする話が書きたい。
ぶっちゃけ実写版しかマーベル知識ないけどSSここに投稿していいの?
新しいスレ立てる?一応スレ主さんが「投稿も是非ここで」とおっしゃってくれているので、次レスから本文5千字程度のSSを投下させていただきます。
行数の関係で10レス超えるかもしれないので、鬱陶しいと感じた人はコテハン横のIDをNGにすることで自衛をお願いします。
内容としては、アステリオス君ととあるカルデア女性職員が交流する話になっております。
そんなに長くないのもあって時系列はあんまり考えていませんが、ラストだけは一部クリア後の時系列です。
会話する関係で職員に多少の個性がついているので、ご注意ください。
では、次から投稿させていただきます。『アステリオスと女性職員』
ある夜のこと、消灯が済んだカルデアの廊下を、一人の女性職員が懐中電灯を片手に歩いていた。
しんと静まり返った廊下に自らの靴の音だけが、コツコツと響いている。
(やっぱり、朝になってから出直そうかな)
寝る前にミーティングルームに忘れ物をしたことに気づき、忘れない内にと思い立ってこうして部屋の外に出たのはいいが、ただ電気が消えているだけでいつもと違う雰囲気を醸し出している廊下の様子に、恐がりな彼女の心は既に挫けかけていた。
(でも、ここまで来たら、ミーティングルームまでもう少しだし)
震える自分に言い聞かせるように唱え、小さく頷いて、女性職員は角を曲がろうとした。
その時、角の陰から巨大な影が現れた。
「ひっ!」
驚いた女性職員は、反射的に影の正体を見ようと懐中電灯を上へと向ける。
トゲトゲとした突起がついた腹当て、傷だらけの巨体、両手には巨大な斧。
そして、仮面に覆われた頭からは、二本の角が――。
(お、おば、おばば、お化け!)
ガクガクと震える女性職員に向かって、お化けが一歩近づく。
そして、ずいっと頭を下ろし、彼女に顔を近づけて来た。
「ひっ、や、いやああああ!!」
哀れな女性職員は、廊下中に響き渡る大声をあげて、死に物狂いで自室まで逃げ帰ったのだった。
**>>34
**
―― 一晩明けて、朝のこと。
カルデアのマスターであるぐだ男のところに、一人の女性職員が同僚と共に訪れていた。
「ええっと、それで、俺に用事って言うのは」
「それがさあ。この子、英霊の誰かを、お化けと勘違いしちゃったみたいで」
同伴した職員はそう言いながら、後は自分で話せと言うように女性職員を前に押し出した。
「私、恐がりな癖に夜中に廊下を歩いちゃって、その時に巨大な人と遭遇して、お化けだと思い込んで、悲鳴をあげて逃げちゃったんです」
うう、と、恥ずかしそうに唸りながら、女性職員はぐだ男に事情を話して聞かせた。
「でも、一晩明けてよくよく考えてみたら、あれは、私の考えていたようなお化けとかではなくて、サーヴァントの誰かだったんじゃないかなって。顔を覗き込んで来たのも、もしかして、震えている私を心配していたのかもって。そう思ったら、私、すごく失礼なことをしてしまったんだと思って、だから、あの」
話している間中、恥ずかしさから俯いていた女性が、おどおどしながらも顔を上げて言葉を続けた。
「許してもらえるかは分からないんですが、そのサーヴァントに、一言、謝りたくて」
「俺ならその英霊のことが分かるだろうから、聞きに来た、と」
頷いたぐだ男を、女性職員は不安そうな顔で見つめた。
「あ、あの。本当に、私、協力してくださっている方に、失礼なことしちゃって。貴男にとっても大事なサーヴァントなのに、本当にごめんなさ」
「その先は、俺じゃなくて、まずサーヴァントに言ってやってください」
ぐだ男は片手をあげて、謝罪の言葉を口にしそうになった女性職員を制した。>>35
ぐだ男が端末を起動して、現在召喚されている英霊たちの霊基の一覧を調べていると、すぐに一体のサーヴァントにたどり着いた。
「ああ、彼のことかな。アステリオス」
「はい、この人です!ああ、やっぱりサーヴァントだったんだ…」
「ぐだ男くんのサーヴァントでよかったじゃん!ふれんどさん?とかいう人たちの所から援軍に来てくれているサーヴァントだったら、話がこじれるところだったよ」
改めて己の勘違いを思い知って恥ずかしげに俯いている女性職員の肩を、同伴した同僚が励ますように叩いた。
「じゃあ、アステリオスを呼んでみますけど、大丈夫ですか?」
ぐだ男の問いかけに、女性職員はこくりと頷いた。
ぐだ男もそれに応えるように頷いた後、口の横に手を当て息を吸った。
「おーい、アステリオスー!近くにいたら出てきてくれ!!」
ぐだ男の呼びかけに少し間が空いた後、部屋の中にアステリオスが姿を現した。
「なん、だ?」
仮面越しのくぐもった声で、アステリオスは己のマスターの用向きを尋ねた。
「お前に用事がある人がいてさ、今から少し話を聞いてあげてくれないかな?」
そう言ってぐだ男が手を指示した方向に、アステリオスは大人しく体の向きを変え、女性職員の方に向き直った。
そのまま一言も発さず、彼女に用向きを尋ねることもなく、ただ静かに、じっと、彼はマスターの頼みの通り、女性職員の言葉を待った。
「あの、私、夕べは、あなたをお化けと勘違いして悲鳴をあげるなんて失礼なマネをしてしまって、本当に、ごめんなさい!」
がばり、と大きく頭を下げて謝った女性職員を、感情の覗けない仮面がじっと見つめていた。>>36「そ、それで、ですね。お詫びの品になるか分からないのですが、これ、私のとっておきの、お気に入りのお店のクッキーです!カルデア内に持ち込んでいた分で、ドクターロマンにも好評でしたので、味は保証されています。ご迷惑でなければ、是非!!」
「え?あんた、そんなもの持って来ていたの?」
「あ、それ、マシュがおいしいって言っていたやつだ。職員さんの私物だったのか」
「大好物なので、買い占めを許されている限界まで買い占めて、持ち込めるギリギリ限界まで持ち込んで、人理焼却前は、このおいしさを共有してくれそうな方に、片っ端から配り歩いていました」
ずいっと、クッキーの入った袋を差し出しながら語る女性職員の姿を、やはりアステリオスは無言で眺め続けていた。
「…あ、すみません。クッキーはお好きじゃありませんでしたか」
しょんぼりと眉を下げて、女性職員がクッキーをしまおうとした時、
「うぅ」
無言を貫いていたアステリオスが、短く唸り声をあげた。
そして、驚いて動きを止めた女性職員の手から、つまみ上げるようにしてクッキーの袋を持ち上げた。
「あ…」
「…いる」
「えっ?」
「なれて、いる、から、き、に、す、る、な」
そう言ってアステリオスは、クッキーの入った袋を持ってのそのそと部屋を出て行った。
「慣れている、って…」
残された女性職員は、呆然とした顔で先ほどのアステリオスの言葉を繰り返した。
(慣れている、って。それって、何度も怖がられたってことで。だったら、私は、本当に、本当に、酷い、ことを)
もしかして己は、想像以上に酷い仕打ちを彼にしてしまったのではないだろうか。
溢れてくる罪悪感と、アステリオスの言葉のやるせなさに、女性職員は項垂れた。>>37
「あー。ま、まあ、クッキーを受け取ってくれたってことは、彼もあんたの謝罪を受け入れてくれたってことだよ!よかったじゃん!!」
重苦しくなった空気を変えようと、同僚の職員が彼女の背中をバシバシ叩いて笑った。
しかし、女性職員は項垂れ続けたままだった。
「うーん、んん…。とりあえず、用事はこれで終わりってことで!ほら、長居しすぎると彼にも迷惑だよ、行こ!ごめんね、ぐだ男くん。なんか最後、暗い雰囲気になっちゃってさ」
「おじゃま、しました」
落ち込んだままの女性職員を押しながら、同僚の職員はぐだ男に頭を下げ、部屋を出て行った。
残されたぐだ男は、静かになった部屋の中で、彼なりに先ほどの出来事について反芻した。
(アステリオスのことは、俺もまだ出会ったばかりで分からないことの方が多いけれど)
(でも、「慣れている」って言ったのは、確かに彼なりにあの女の人を気遣ったからで、一方あの女の人が、「慣れている」って言葉を悲しんだのは、それもきっとアステリオスを思ってのことで)
うーんと、唸り声を出しながらぐだ男は思考を巡らせた。
しかし、いくら考えても今の自分には、二人のことをすっきりと解決させる方法が分からなかった。
「あー!人とか英霊とか関係なく、人間関係って難しいー」
ボフンと、ベッドに突っ伏して、胸の中のモヤモヤと無力感を振り払うようにぐだ男は枕に頭をぐりぐりとこすりつけた。
(でも――)
いつか、そういう悲哀とかモヤモヤとか複雑さを気にすることなく、アステリオスとあの職員が話せているようになればいいなと、ぐだ男は未来に思いを馳せたのだった。
**>>38
**
夜中、消灯が済んだカルデアの廊下を、ある女性職員が懐中電灯片手に歩いていた。
彼女が廊下の角を曲がろうとした時、ぬっと巨大な影が現れた。
「あら、アステリオスさん」
巨大な影を懐中電灯で照らして正体を確認した女性は、親し気にその大柄な仮面の男に話しかけた。
「今日は、再臨前の姿なんですね」
珍しいですねーと微笑む女性に、アステリオスはぬっと顔を近づけてガチャリ、と仮面を外した。
「こわく、ないね」
「?」
「もう、まえみたいに、こわがらない、ね」
にいっと、いたずらを成功させた子供の様に笑う青年に、女性はあっと、声をあげた。
「も、もしかして、私のことをからかおうと思って、その姿に!?ひどい!そ、そりゃあ、今でもハサンさんたちとか、スパルタクスさんに消灯後の廊下で会うと、悲鳴をあげそうになることも、あるにはありますけど。でも、これでも私、大分とましになったのではなかろうかと」
唇をとがらせて抗議する女性職員の様子に、アステリオスは少しだけ考える仕草をしてから、言葉を返した。
「ん、ごめん。こわくないなら、いいなって」
「そりゃあ、さすがに最初の頃からいるアステリオスさんには、慣れましたよ。と言うか、本当に、初対面の時は失礼な反応をしてしまって、ごめんなさい」
同じ廊下で初めてアステリオスに遭遇した時のことを思いだして、女性職員は顔を赤くして俯いた。
サーヴァントをお化けと間違えて悲鳴をあげた挙句逃げ出すなんて、本当にあの時の自分はなんてことをしてしまったのだろうか。
今思い出しても、恥ずかしいし申し訳ない。
「うれしかった、よ」>>39
「え?」
思いがけない言葉に女性職員が顔を上げると、アステリオスがむず痒そうな顔で彼女を見おろしていた。
「ぼくは、あのとき、むかしのように、こわがらせてしまった、ぼくが、わるい、と、おもっていた。けれど」
ゆっくりと、たどたどしい言葉遣いで、アステリオスは女性職員に気持ちを語った。
「だけど、おまえは、こわかったのに、ぼくに、ごめん、って。こわがったせいで、ぼくが、かなしいとおもったから、ごめん、って。わざわざ、マスターにたのんで、さがしてまで、ごめん、って、ぼくに、いってくれて。そんなふうにあやまられたことが、なかったから、ぼくは、あのとき、じぶんでも、どんなきもちか、よく、わかっていなくて」
「でも、マスターとか、えうりゅあれとか、みんなにであったいまなら、わかるから。ぼくは、あのとき、おまえが、あやまりに、きてくれて。こころが、きずつくそんざいなんだと、あたりまえのように、かんがえてくれたのが」
話すのに疲れたのか、ふうと一度小さく息を吐き出してから、アステリオスは恥ずかしそうに笑った。
「とても、とても、うれしかった、よ」
「そう、ですか」
震える声で、女性職員はやっとその一言を絞り出した。
悲しいような嬉しいような、とにかく感情があふれて泣いてしまいそうになるのを堪えるのに必死だったのだ。
「あの、私も、今それを聞けて、嬉しい、です」
震える唇を、それでも心からのものになるようにと彼女は願いながら、笑みの形を作った。
アステリオスに上手く伝わったようで、彼は応えるようににっと歯を見せて笑った。>>40
「そうだ、アステリオスさん」
女性は思い出したように、ポンと手を叩いた。
「外と連絡が繋がるようになったおかげで私、遂にあのお店のクッキーを取り寄せるのに成功したんです!」
「おお」
嬉しそうに報告する女性職員に合わせて、アステリオスがぱちぱちと控え目に手を叩いた。
「よろしければ、明日のおやつ時にでもどうですか?」
「ん。あのくっきー、おいしかった」
こくりと頷いたアステリオスの目は、嬉しそうに輝いていた。
「えうりゅあれやますたーも、よぼう」
「いいですね。あ、ナーサリーライムさんも呼んだ方がいいでしょうか?」
「あと、じゃんぬ・だるく・おるた・さんた・りりぃと、じゃっく、も」
「うふふ。ダ・ヴィンチさんに話を通して、広めのお部屋を確保しておきますね」
「とても、たのしく、なるね」
「ええ、とても」
楽しげに明日の計画を話し合う二人は自然な様子で仲良く横に並び、女性職員の部屋までゆっくり歩いて行ったのだった。
終>>42
お疲れ様でした。
私もssを書き溜めているところなのですが、だいぶ分量が多くなりそうです…
ひょっとしたら別にスレ立てした方がいいかもしれませんね既存設定集めたprototype本編の妄想って需要あるかな?まぁ、鬼門多過ぎるんだが…
>>42
乙ですあげ
SSかあ……自分クロスオーバーが大好物だから
・初代ゴッドイーターのed後の第一部隊と四次組の座談会
・というか切嗣というヨハンに似た相手とどう関わるか
・ガイアの抑止力としてHF√で介入してくるシオ
とかそんなのばっか浮かんでしまうSS書こうとずっと思ってて何回か書こうとしたけど設定纏まらなかったり思いつかなかったりで設定ちゃんとできても文が書けなかったりで上手くいかない。
現在考えてるのはぐだおが鯖としてぐだこに召喚されるやつだけどぐだおが鯖になった理由と宝具で詰まってる>>44
ある
ある程度まとまっているなら読んでみたい>>2 禁書のソロモンってどう考えても魔神ですよねぇ…
>>48設定や理由付けに困っているなら、書きたい場面や思い浮かんだ場面だけまず書いてみるといいかもよ。
召喚シーンでも、鯖ぐだおとぐだこにさせたいやりとりでも、何でもいい。
シーンだけ書いた後に前後を繋げる文を考えているうちに、キャラが何故そうなったのかとも自然と向き合うことになるから、設定段階で詰まっていた答えがすんなり出ることもあるし、とりあえずやりたいシーンだけでもキャラクターを動かすと書いている側もモチベーション上がるので、作品が形になりやすかったりする。
書きたい場面のための設定に詰まっていたなら、見当外れな意見でごめんね。SS書こうとしたことはあるけど上手く文章にできなくて設定だけが固まっていく
>>52
下手でいいのです…
いきなりゴッホのような絵を描ける人間はいないのです…
文章も同じなのです…投稿してます
どれくらいのレス数かは不明
やってみて分かったけど、地の文なしってやっぱりきついんやなと思いました
次からちょっとの間連投します
注意事項としてエリザはCCC要素あり、その他に魔法使いの夜要素ありです
ロビン・フッド「第三霊臨の姿を見せたらドラゴン娘が騒ぎ出した」>>55
ぐだ「変な庭に出た。なんか自然が豊かだね」
ロビン「植物園ってとこか」
ぐだ「変な彫刻があるね」
ロビン「なんだこりゃ。ライオンの頭に鳥の体……? 悪趣味すぎんだろ」
ぐだ「鳥って言ったら、第三霊臨したらロビンの方にコマドリがいるようになったよね」
ロビン「あれは何かなんざ聞かれても困りますがね。勝手についてきやがるからなぁ」
ぐだ「今もいるの?」
ロビン「まぁな、この通り」バサバサ(コマドリが飛び出す音)
ぐだ「かわいいよね」
ロビン「オレはコイツ見てるとなんか気に障るんですがね……。なんつーの、こっちを小馬鹿にしてる感じ?」
ぐだ「そんなことないと思うけど」
ロビン「っと、下らねえ話はここまでだ。マスター、なんか来るぞ」
ぐだ(心構えだけでもしておこう)>>56
???「ぐっ、私が後れを取るとは……」ガサガサ
ぐだ「ディルムッド!」
ディルムッド「マスター!? 御無事でしたか!」
ロビン「おいおい、ずいぶんボロボロじゃねーですか。いったい何があるってんだ?」
ディル「皐月の王……よくぞマスターを守った」
ロビン「いやそういうのはいいんで、何があったかをだな……」
ぐだ「みんな静かに、何か来る音がする!」
ディル「馬鹿な……もう追いついたとでも!?」
ぐだ「何が来るのか知ってるの?」
ディル「はい。マスターは下がっていてください。皐月の王、マスターを頼む」
ロビン「はいよっと。オタクがここまでマジになる奴だ、オレなんかじゃ役に立たねえだろうしな」
ぐだ(音が近づいてくる)
ディル「来い!」スチャ(二槍を構える音)
ぐだ(来る……!)>>58
ウリ坊「ウリー!」タッタッタ
ぐだ「ディルムッドと遊びたいのかな、ディルムッドに向かってるね」
ディル「くっ、なぜ私が狙われるのか……!」
ロビン「なんであんなに焦って……ん?」
ぐだ「あれ? なんか、段々早くなって……」
うり坊「ウリー!」ドゴォッ!
ディル「ぐはっ!」ドサー!
ぐだ「ランサーが死んだ!?」
ロビン「っ、マスター! あいつはマジにやべえ奴だ!」
ぐだ「そうみたいだ! 逃げよう!」
ウリ坊「ウリー!ウリー!」ガッガッガ
ぐだ「地面削りながら走って来てる!?」
ぐだ「ロビン、何かいい手はない!?」
ロビン「一度逃げられりゃ話は別ですがね、正面からってのは得意じゃねえ!」
ぐだ「ここまで使うしかない……!」>>61
――少し前――
ロビン(第三霊臨)「結局オマエはどっから来たんだ?」
コマドリ「チチチ(ジブンにも分からないッス。マイ天使はどこッスか?)」
ロビン「なーんか、言ってることが分かるような、分からないような……」
コマドリ「チチチ(どうにも伝わってないッスねー)」
???「ちょっとそこの緑!」
ロビン「げ、この妙に甲高い声はまさか……」
???「アナタ、いいものを持っているじゃない? それ、寄越しなさいよ」
ロビン「うわ、やっぱりドラゴン娘かよ……。それってのはいったい何のことで?」
エリザ「そいつよそいつ、そのコマドリ。アイドルを引き立てるマスコットに相応しいわ」
ロビン「あー、こいつか」チラッ
コマドリ「チチチ(あれに捕まるのは何かまずいと全細胞が言ってるッス!)」
ロビン「……あー、なんですか。コイツがいやだっつってる気がするからダメだな」
エリザ「何それ? この私(アタシ)への言い訳?」
ロビン「言い訳じゃねえですよ、だいたいオタク、こいつをどうするつもりなわけ?」
エリザ「決まってるじゃない! 私の肩に乗せて一緒に歌うのよ!」
コマドリ「チチチ(いやーほんと勘弁してくださいッス!)」
ロビン「んー、やっぱ嫌がってる気がするんですよねえ……」
エリザ「何よ! そんなデタラメ言ってまで渡したくないってこと!?」>>63
??「随分と貧相な小鳥を肩に乗せているじゃない、アーチャー!」
ロビン「この声は……!」
ぐだ「エリザベート! 何度も出てきて恥ずかしくないの!?」
エリザ「は、恥ずかしくないわよ! こほん、ようこそ、私のテーマパークへ!」
ロビン「マスター、あいつ聖杯を持ってるみたいだ」
ぐだ「そうだね、やっぱり彼女がこの特異点を……」
エリザ「こそこそしてないで私の話を聞きなさいよー!」
ロビン「ちっ、しゃあねえ、聞いてやらないとマズそうだ」
ぐだ「うん、とりあえず聞いてみよう……」
エリザ「それでいいのよ、子イヌ」
エリザ「正直、どうしてこんな場所に来たのか、自分でもさっぱり分からないんだけど」
エリザ「ここで私、素晴らしいマスコットに出会ったのよ!」
エリザ「そんな貧相なコマドリじゃない、素敵なマスコットにね!」
エリザ「紹介するわ! カモン、マイマスコット!」パァァ(聖杯が輝く音)
ぐだ「何かごごごごって聞こえるんだけど……」
ロビン「やぁな予感しかしねえですよ。構えろよマスター、何が来たっておかしくねえ!」
エリザ「さぁ、お披露目よ! 私のマスコット!」>>64
ドラゴン「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
ロビン「ドラゴンじゃねえか!」
ぐだ「しかも大きい!」
エリザ「私はこの頭の上で歌うのよ! どう? 貴族に相応しい演出でしょ?」
エリザ「称賛したくなるわよね? 称賛しなさい? 称賛してよ!」
エリザ「何よその曖昧な笑顔。頭痛がするわ。何の不満があるの?」
ロビン「おいマスター、何かやばそうだぞ」
ぐだ「ロビン、構えて!」
エリザ「私を称賛しないなら消えちゃえばいいのよ……!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」スゥゥ
ロビン「まずい、火を吐く気だ! アレは避けらんねえ……!」
ぐだ「手を!」
ロビン「あ、ああ!」
ぐだ「令呪を持って命じる! あの炎を避けてロビン!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAAA!」ゴォォォ!
ロビン「助かったぜマスター!」
ぐだ「宝具を!」
ロビン「はいよ! 弔いの木よ、牙を研げ! ――祈りの弓(イー・バウ)!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAA!」>>65
ぐだ(よし、命中した! いくらドラゴンでもこれで――)
ロビン「おいおい、マジかよ……」
ドラゴン「GAAAAAAAA!」スゥゥ
ロビン「効き目はなかった! 逃げるしかないぞマスター!」
ぐだ「令呪を持って命じる! かわしてロビン!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAAA!」ゴォォォ!
エリザ「無駄よ! ドラゴンは魔力を纏って防御を上げているもの!」
ロビン「だろうな。せめてそれさえ破れれば話は違うんだが……」
ぐだ「ガンドを使えればよかったんだけど……」
ロビン「いいやマスター、オタクに責任はねえよ。とはいえ、どうしたもんか……」
???「魔力の防御を削ればいいんだな」
ロビン「ああ、それさえできれば――って、何でオタクがいるんだ!?」
???「マスターの危機に駆けつけられずに何が騎士か」
???「このディルムッド・オディナ、マスターをみすみす死なせはしない!」
ぐだ「ディルムッド!?」
ディル「不甲斐ない姿をお見せしたこと、謝罪しますマスター」
ディル「ですが、あの醜態ここで返上してみせましょう」
ロビン「……行くのか? もうとっくにオタクの霊基は――」>>66
ディル「当たり前だ。騎士が主の命より自らの命を優先するわけがない」
ロビン「……なら、こいつを使え」バサッ
ロビン「オレの宝具だ。ドラゴンでも欺けるさ」
ディル「助かる。マスター、アーチャー、隙はおそらく一瞬です。見逃さないよう」
ぐだ「ディルムッド、大丈夫?」
ディル「お心遣い感謝しますマスター。ええ、問題ありませんとも」
ディル「では!」シュバッ
ロビン「さて、ちったぁ援護しますか! こっちだぞ、ドラゴン!」
ドラゴン「GAAAAAAAA!」スウウ
ロビン「また火を吐くだけか!」
ドラゴン「GAAAAAAAA!」ビーッ
ロビン「は? 目からビーム……って、溜め短すぎんだろ!」ゴロゴロ!
ロビン「何とかかわせたが……」
ロビン「威力は低めか……溜め時間と対応してるってことか」
ドラゴン「GAAAAAAAA!」ビーッ
ロビン「二発目!?」
ぐだ(令呪――ダメだ、間に合わない!)
ロビン(当たっても死にゃあしないだろうが、こいつはキツイか!?)>>67
コマドリ「チチチ!」バサバサ
ロビン「な、コマドリ!?」
コマドリ「チチチ!」ジューッ!(ビームに当たる音)
ロビン「な、何してんだ!」
コマドリ「……」プスプス
ディル「有効圏内、行きます、マスター!」
ロビン「――っ、マスター、準備しろ!」
ぐだ「う、うん! 全体強化!」
ディル「――破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!」
ロビン「今だマスター!」
ぐだ「うん! 令呪を持って命じる! 宝具解放!」
ロビン「弔いの木よ、牙を研げ! ――祈りの弓(イー・バウ)!」
ドラゴン「GAAAAAAAAAAA!!?」ドゴォッ
エリザ「え、ちょっと!? 倒れるの!? ていうか倒れたら私も危ないじゃない!」
エリザ「きゃああああああぁぁああぁあああ!」>>69
ぐだ「ディルムッド!」
ディル「ご無事でしたか、マスター」
ぐだ「無理してたんだね……ごめん」
ディル「いいえ、マスター。私はこの上なく幸福でした」
ぐだ「ゆっくり休んでね、ディルムッド。ありがとう」
ディル「マスター……」
ぐだ「ディルムッドのこと、忘れないから」
ディル「いえ、自分はカルデアに行けばまたいるのですが……」
ぐだ「今日、ここに来たのはさ」
ぐだ「特異点修復よりも、やる気を出して健康診断をしているナイチンゲールから逃げる面も大きかったんだ……」
ぐだ「ここは特異点と呼ぶにはあまりに小さくて、どうでもよかったしね……」
ディル「……なん、だと!?」
ぐだ「カルデアに戻っても、すぐに完全回復ってわけじゃないから……」
ぐだ「……ごめん」
ディル「うおおぉおぉおおぉぉおっ!」スウウ――>>70
ぐだ「ディルムッドのことは見送ってきた」
ロビン「そうか。こっちも穴が掘り終わったところだ」
ぐだ「残念だったね……」
ロビン「ま、勝手について来てただけとはいえ、いなくなられると寂しい部分もあるのは否定しませんがね」
ロビン「ゆっくりしてくれ、オマエのことは忘れないさ」
ロビン「後は穴を埋めてっと」
コマドリ「チチチ!(ちょ、何で埋めるッスか! ジブンのこと死なせる気ッスか!?)」
ロビン「うお、いきなり羽ばたきやがった!?」
ぐだ「怪我も治ってる……!?」
コマドリ「チチチ!(この程度で死ぬと負われてたッスかジブン!)」
コマドリ「チチチ!(いや死んでたッスけど!)」
ぐだ「元気に羽ばたいてる……」
ロビン「何かよく分からねえが、生きてたんならそれでいいか」
ぐだ「そうだね」
ロビン「さて、特異点も修復されつつあるようですし、戻りますかね、マスター」
ぐだ「うん」>>71
ロビン「っと、その前に……」スタスタ
ロビン「このあたりか。おい、ドラゴン娘! と、尻尾が出てるな。引っ張ってみるか」
エリザ「うぐぐ、痛いじゃない! ひどいじゃない!」
ロビン「うるせえ、これだけの騒ぎ起こしたんだ。当然お咎めなしってわけにはいかない」
エリザ「ちょっと、何する気よ! 何よその矢!」
ロビン「そりゃ、引っ掻くんですよ」スッ
エリザ「いった――くない?」
ロビン「オタク、今日はカルデアの健康診断日だって知ってる?」
エリザ「それが何? こほ、私は、こほ、アイドルよ? ゴホゴホ!」
ロビン「さっきの矢は体調を悪化させる毒を塗っておいた」
ロビン「今カルデアに戻ればさぞ献身的な看護が受けられるだろうよ」
エリザ「ごほ、ちょ、ごほ、何言ってるのよ!」
ぐだ「そろそろ戻るみたいだね」
エリザ「いやよ、戻りたくない! ――ハクシュ!」
ロビン「マスター、帰ったら分かってるよな」
ぐだ「うん」>>72
レイシフトが終わり、カルデアに帰りつく三人。
強制的に作らされた列の先頭には逃げたそうな茨木童子の姿があった。
ぐだ「オーダーチェンジ!」
エリザ「え、ちょっと、冗談でしょ!? 冗談よね!?」
ぐだ「茨木童子とエリザベート!」
茨木「何だ!? 逃げてよいのか!? よいのだな逃げる!」スタコラサッサー
エリザ「きゃあぁああ! クシュン!」
ナイチンゲール「風邪ですか。分かりました、まずは殺菌です」
エリザ「ちょっと待って! 待ちなさいよ! それ、どう見ても消毒じゃないじゃない――」
ロビン「ふぅ、これで一件落着ですかねえ」
ぐだ「うん、疲れたね」
コマドリ「チチチ(ジブンも疲れたッす)」
カルデアには一日以上、エリザベートの悲鳴が轟いたという。
ちなみに強制入院されたエリザベートの元には見舞客としてヴラド三世(バーサーカー)が訪れ、
彼女のために肩に乗せる道化を作ったとかなんとか。
それを肩に乗せて歌う姿がちょくちょく目撃されている。
なお、九割の確率で観客はいない。>>73
以上ッス
大体六千字で二十レスくらいでした
これを書いた翌日、バーカーカーヴラド公が来たので、書いたら来る教はガチだと思いましたクロスオーバーの際に大活躍の宝石剣ゼルレッチですが、fgoの存在でレイシフトや特異点という手段が増えましたね。
ちょっと見にくいから行間空けた方がいいかもしれん
PortalとCCCのクロスオーバーでPortal2後のAperturelaboratoryにBBが現れグラドスとお話し(皮肉時々真面目な話)みたいなやつを読みたい…
>>76
最初は開けてたんすよ…
行数制限でレス数が倍になるから消したんすよ…>>79
7章の後すぐに終章だからあかんってのと、
7章と6章の間は明確に期間が空いている(レイシフトの調整云々)というのがあるんじゃないかな
あとは主人公の精神的成長とかのタイミング?みたいな?
うん、自分で言ってて意味わからなくなった>>79ロマニが出てきているやつなら、終章後だとロマニが出せないのはあるかもしれない。
解説兼つっこみ役として彼はかなり動かしやすいと思うから。
それと、終章の後だと人理が救われてこれからお偉いさんへの説明が大変だみたいなことも言及されていたから、特異点ができたとして気軽にレイシフトさせていいものなのか、そもそも修復完了って言っているのに特異点を作っていいものなのかって悩む部分もあったんじゃないかな。
1.5章も始まったし、これからは終章後のオリジナル特異点で考える人も出てくるかもよ。
1章3章の後があまりないのはよく分からん。
ストーリークリア後に追加されるサーヴァントが出したいとか、登場させるサーヴァントが3章以降での記憶を持っている設定にしたい(例:アルジュナが第五特異点での経験を覚えている設定でインドの特異点ネタを作りたい等)とか、単純に書いている側の記憶が新しい分後の章の方が書きやすいからとかがぱっと思いついたけど、正解なのかは本当に分からない。FGO×問題児たちが異世界から来るそうですよ?
箱庭にぐだ達がノーネームに召喚される。サーヴァントはマシュとクラス違いの七騎。
書きたいけど時間が取れないし、笛吹にあるEXTRAとクロスしてる作品の二番煎じになりそう悠久特異点 魔法学園都市 アマノミハシラ
そんな感じのネギま?UQ?とのクロスを考えたことはあった。第1部が終わって平和になった世界でマシュが学校に通って青春する話をください
クロスオーバーだとどこがいいんだろうか、帝丹か空座しか思いつかない自分がいる>>79
別平行世界の冬木の聖杯戦争の勝者組みが特異点Fに飛ばされる話なら考えたことあったなage
マリーとデオンのやつはここでやれよスレ立てする必要ねーよ>>87
1000まで埋まるくらい長いなら良いのではないでしょうか
スレ立て検討スレもあるので一度覗いて見ては如何でしょうか昔SS書いたことあるけどキャラがおかしいだなんだと言われて以後書くのが怖くなり読み専になった
正直SSなんてただの自己満足だからねえ
書いた人は読んで貰いたいと思うけど、大勢は興味すらないわけで、そういう人からすればどんなに長くても1000行く確率の低い単発SSスレなんて不要なわけですよジャンヌオルタとぐだこがぐだぐだと男サーヴァントが攻略対象の乙女ゲームの構想を練る話って需要ありますかね?
『マシュ・イン・ザ・ナイトメア』というプロットが脳裏に浮かんだ。書く予定は無いが勝手に誰か使ってもかまわない。
いつものように霊基のざわつきに従ってランスロットを侮辱したマシュ。流石に見かねたぐだからやんわり注意されて、自分でもよくない態度だと思ったマシュだが、しかし思わず先輩に叱られたことへの反発心が勝りさらにランスロットと霊基に責任を転嫁してその場から逃げてしまう。階段で躓いて倒れ込みながらカルデアの奥への走るマシュ。
気がつくと見知らぬ薄暗い場所におりそこで蹲る狂ランスと同じフルフェイスの鎧を着た影が現れる。
「返して……」と少女の声でその鎧の影が近づいてくる。
「あなたは本当にマシュ・キリエライトなの?」「貴女の意思は貴女の行動は本当に貴女のものなの?」
不気味な鎧姿の影に追いすがられて思わず振り払うマシュ、しかし兜が外れてそこから現れた顔はマシュ自身の顔。びっくりして固まったマシュにその影は「サーヴァントの霊基に操られる人形……返してカルデアを…先輩を返して!」
マシュはその影に「違います!私は…私がマシュ・キリエライトです!」と叫んだときに後ろから光がさして手が伸びてくる、先輩の声は聞こえてそれを掴んだところで…
そこで目を覚ましたマシュ。横ではぐだが手の握っていた。そしてランスやダヴィンチを始めとしたカルデア面々が必死に階段から落ちて気を喪ったマシュの介抱をしていたのだ。感極まって思わず涙目でぐだに抱きつくマシュ。ランスロットにもきちんと謝り、以来、霊基のざわつきが一切気にならなくなった。
……踊り場近くの部屋ではギルガメッシュが蔵に何かの道具を収納していた。ベッドで一緒にくつろぐエルキが「あいかわらず荒良治だねギル」などと言っていたがギルガメッシュは「所詮は雑念、大事なのは意志一つよ」などと優雅に寝転んで酒を飲んでいた。雑なパロディものですが、ネタバレには注意してください
ソードマスターオルタ 誤植編
邪ンヌ「もうなによコレ!文句いってやるわ!」
「ちょっとマスター!どうなってるのかしら!?酷いじゃないの今月号 の私の漫画!」
ぐだ(電話の向こう)「え、ストーリーが?」
邪ンヌ「ぐぬぬ…違うに決まってるでしょ!誤植よ誤植!」
「ほら、オルタがバーサーカー戦の後幻影魔神同盟の1人、アサシンにマスターを攫われた時の台詞!」
オルタ『アイツだけは、許さない…』
邪ンヌ「って台詞が!」
オルタ『パンツだけは、許さない…!』>>94
邪ンヌ「お前がアルタかって何よ!いくら日本人じゃなくて日本語わからないかもしれないとはいえおかしいでしょ!!」
「またやっちゃったとか言うんじゃないわよ!」
ぐだ 「やっちゃったゼ☆」
邪ンヌ「何ちょっとカッコ良さげに言ってるの!誤植はまだあるのよ!」
ぐだ 「えー?彼女いない歴ゼロ年の俺にどんな間違いが?」
邪ンヌ「その次のコマ!オルタの台詞よ」
オルタ『私がオルタだ!』ドンッ
邪ンヌ「って名乗りをあげるキメッキメのシーンが!」
オルタ『私がパルコだ!』ドンッ
邪ンヌ「何で主人公いきなりお店屋さん宣言しちゃってるの!?」
ぐだ 「あ、ホントだ間違ってる」
邪ンヌ「間違い過ぎよ!」
ぐだ 「ははは、やっちゃったゼ☆」
邪ンヌ「腹たつわね、気に入ったのその言い方!?」>>99
アンデルセン「ともかく、次回でソードマスターオルタは最終回だ」
「悪く…いや、より正確に言えば打ち切りだな」
邪ンヌ「何でわざわざ口汚く言い直すのかしら!悪意を感じる!」
アンデルセン「もともと人気はこれ以上ないほどドン底だったが今月号はそれをさらに凌駕する形容する言葉も見つからないほどの不人気でな。四コマ漫画のどすこい金時くんより人気が無かった」
邪ンヌ「そんなに!?でも急に言われても困るわよ!せっかく敵幹部とか出てきて盛り上がってきたのに!」
アンデルセン「アンケート至上主義だからな、人気がないものは仕方ない。『私たちの戦いはこれからだ!』とでもしておけ」
邪ンヌ「でもそれじゃあなんかしっくり来ないのよ…」
「この漫画の場合は敵の大ボス、魔神に味方的なキャスターが囚われの身になってて、毎日ごはんはコンビニのおむすびだけで地獄の如き重労働を強いられてるし」>>100
アンデルセン「おにぎりで体力を回復するどすこい金時くんと被っているな」
邪ンヌ「被ってないわよ!でもほら、これじゃあ打ち切りエンドじゃスッキリしないじゃない。やっぱりラスボスを倒さないと」
アンデルセン「まあ、そうかもしれんな?」
邪ンヌ「しかもそのためには色々と条件が有るのよ。ラスボスの本拠地、バレルタワーに入るためには幻影魔人同盟を倒さないといけないでしょ?そのためには戦力を集めなきゃいけないし。しかもブレイクシステムって奴があるから今戦ってるアサシンは二回倒さないと倒せないのよ」
アンデルセン「労力が増えるだけだろう!?なんでそんな設定を作った!」
邪ンヌ「宝具ターンまで引き延ばそうかと思って…」
「あと、新宿には別のアヴェンジャーと探偵が潜んでることを第1節から仄めかしてるんだけど」
アンデルセン「(呆れている)…上手く纏めろ」
邪ンヌ「(なんか冷たいわね…)で?最終回は何ページ確保できてるの?」>>102
ソードマスターオルタ 〜全てを終わらせる時〜
オルタ『うおおおお!喰らえ、エクスカリバー・モルガーン!!』バン
新アサ『さあ来いオルタ!俺は実は一回倒されたら消えるぞ!』
新アサ『バ、バカな…!こんな所で!』スゥ....
アーチャー『アサシンがやられたようだね』
エミヤ『奴は我々の中でも最弱…』
アヴェンジャー『グルル…(オルタ如きに負けるとは我々の面汚しよ…)』
オルタ『モルガーン!』ドバ-
みんな『ぐあああ』スゥ...
オルタ『遂に幻影魔人同盟を倒した…残るは魔神、貴様だけだ』
魔神『待ちくたびれるところだったぞ』
『戦う前に言っておく。貴様らは戦力を集めなければ私を倒す事ができないと思っているが、別に単騎でも倒せる』
オルタ『何、だと…!』
魔神『あとマスターはCBCガチャを回しにカルデアに帰ったしキャスターは過労で倒れたから病院に送っておいたぞ。後は私を倒すだけだな』
オルタ『ふっ、上等だ。私も一つ言っておく…新宿に巌窟王と名探偵が潜んでいる気がしたが、別にそんなことは無かった!』
魔神『そうか』2017/03/28から書き込まれていないこんなスレがあるんだゾ
期待あげ
SSスレがあったなんて……
即興で書くので時間がかかります……
私がその男と出会ったのは齢が十七になり少しずつ少年から青年へと変わっていっている多感な時期であった。
いつもよれよれの帽子とよれよれの服を着てこれまたよれよれなマフラーを愛着する生活無能力者であるものの、その釣り上がった目と鋭い眼光からはその白髪も合わさって一人風に佇む狼のようにも見えた。
性格は皮肉屋であり人の気にしていることを何の遠慮もなく指摘し、正論で相手を叩き潰すことを厭わず、遠回りな言動で私を惑わすことを好み、笑い方が悪役その物。 おまけに煙管で噴かした煙を時々私の方へと吹きかける。 これがまた私の腹を煮えたぎらせる。
そんな私に言わされば最低最悪という字を鍋の中に煮込んで三日熟成させてできたような男と奇妙な縁が出来たのは大正と呼ばれる日本が大きく成長を迎えていた時代、私の住んでいる帝都で奇妙な噂と事件が広まっていた時であった。>>106
「ここの喫茶店のオムライスは最高よね……」
「姉さん、口に赤いのついてる」
「ケチャップよ、ケチャップ」
その日私と姉は学校も休みとあって行きつけの喫茶店で昼食を摂っていた。
当時乱立していた料理店をあちらこちらと食べ歩いている姉のお気に入りと言うことで、中々の美味であり料金もなかなか安い方である。
オムライスと言う料理に女性とは思えぬ食欲で掻き込んでいく姉の様を見て未だに許嫁としてもらってくれる家が無いことに納得しつつ、一足先に食べ終わっていた私はフルーツへと手を伸ばしていく。
姉は私と一つ違いであり高等女学校に入学して女性としては珍しく大学への進学も決まっている才女であった。
赤栗色の髪の毛と目をしたやや童顔の姉は、その童顔と比べてやや成長しすぎている胸も合わさって身内視点から見ても美人の類なのは間違いないが、その男勝りな性格で男より女に好意を抱かれやすく、本人にも全く異性に興味を示さない。
肝心の両親もそれはそれは蝶よ花よと育てた姉を離したくないらしく、私には早く嫁を貰えと言う癖に姉には嫁に行けなんて一言も言わず縁談さえも断る始末である。大正期待上げ
>>107
そんな姉の将来を心配しながらぶどうを一粒口の中に放り込んでいると、ようやくオムライスを食べ終えた姉が口を拭きながら何気ない会話と共にある噂を口にした。
「そうそう、この頃行方不明の事件が多発しているそうじゃない? ある日煙のようにご令嬢や御子息の姿が消えてしまっていくら探そうが髪の毛一本見つからないんですって、妖怪の仕業かしらね」
「へぇ、姉さんが噂話とは珍しい、この前妖怪なんて馬鹿らしいって化け学の本を持ちながらオレの小説を大笑いしたの人とは思えないぐらいだ」
「あら、人の揚げ足を取るからそんなに背が伸びたのかしら? いつの間にか私より大きくなって、生意気ね」
そういうと姉は自分の頭に手を乗せながら恨めしそう私の背をにらみつける。 幼少のころは姉の方が背が高く私の頭に乗せて勝ち誇っていたのだが、背の順が逆になった途端事あるごとに私の背の事で恨み節をぶつけてくる。 姉曰く背の高さも威厳にかかわるらしいが、こればかりはどうしようもなかった。
「まぁ、そのことは置いといてあんたも気を付けなさいってことよ、妖怪の仕業だろうが人間の仕業だろうが人が消えているのはどうやら事実らしいし」
「やけに詳しいね」
「巡査さん達がよくそういって帰りを送ってくれるからいつの間にか覚えてしまったのよ」
そういう事かと、私は納得した。 なるほど人当たりの良い姉は町の巡査たちにも人気らしい。
もっとも私には巡査たちの方が下心が見え見えで姉には危険のように思えた。 行方不明もどうせ駆け落ちか何かに決まっている。おぉ始まってる
>>109
自由奔放、奔放不羈な姉から言わせてみれば世の中の男子や女子の行方不明は人が攫われるか妖怪から襲われるかしか想像出来ないのであろうが、私の時代は結婚相手は親が決めるものである。
時には生まれてから物心つくまでに結婚相手が決まっていることだってあるのだ、それに耐えきれない男女が家から僅かな財産を持ち去って遠くへ駆け落ちすることだって珍しい事ではなかった。
そのことを姉の立場が特別だということを付け加えて私が口にすると。
「そんなことは分かってるの。 でも目の前の女子が物陰に入った瞬間姿が何処にもいなくなったところ見たっていう巡査さんもいたのよ? なんだかわくわくしてこない?」
「オレの事を心配してるのか、わくわくしているのかどっちだ」
結局自分が気になっているから私に聞かせているだけではないか、しかもワクワクとはなんなのか。 さっきまでの言葉とは正反対の事言いだした姉に思わずため息が出た。
「無論心配しながらワクワクしてるわ。 可愛い弟を守るのも姉の務めなのよ? 絶体絶命の弟に颯爽と駆けつける姉! どう、かっこよいでしょう?」
「それなら事あるごとに弟を顎で使うことを止めてくれた方が手っ取り早く感謝されると思うけど……」
「可愛い子には旅をさせよって良く言うでしょ?」
「あのなぁ……」
「ま、あまり人通りのない所を通らないよーに。 そのことで巡査さん達もピリピリしているってのも事実だしね。 姉の忠言口に苦し耳に痛し」
そういってもうその話に興味が無くなったのかサイダーを飲みながら給仕に会計を頼む姉に、あまりの傍若無人さに更に溜息が出たことを覚えている。
だが此処で姉の言うことを一片でも覚えていれば私は何事もなく只の平和を満喫することが出来ていたことであろう。 人生とは全く何があるか分からない。
すいません、今日は此処まで……改行しないとちょっと読みにくいかな……
個人的にはこのくらいでちょうど良いな。
改行しすぎてテンポ悪くなってもアレだしいきなりすみません。
現在立ち絵のみで未実装のキャラクターがメインの凸凹すちゃらか珍道中的中長編を書いているところなのですが、需要はありますでしょうか?>>115
ありがとうございます。現在マジカルサファイアの口調がよくわからず苦労しているところなのでがんばります。>>111
「あのう……お代が八円四十銭になっておりますが……そのう……」
姉に呼ばれて会計に来た割烹着の上にフリルを付けたメイドが伝票を見るとその眼を丸くして私達を交互に見る。
どうやらまだ学生の二人が払うには少しばかり高い料金だったらしくそのメイドの目にはもしや無銭飲食の類かという疑いをその眼の奥に潜ませている。
「あぁ、間違わってないわ。 はいこれ、お釣りはとっといて」
「えっ、ええ!? あっありがとうございました!?」
一方の姉は当たり前とばかりに懐から十円ばかりを取り出すとメイドの手に乗せてそのまま出入り口まで歩いて行ってしまう。
まさかの事態にメイドは両手に乗ったお金の量にあたふたとするばかりである。
「さっきの子新人さんかしら? 結構常連なんだけど」
「普通の人間なら八円も飲み食いに使ってたら驚くっての」
そういいながら私達が出入り口のドアに近づくと近くに立っていた紳士服を来た男がドアを開けて私達を通して、丁寧にお辞儀をしながら見送っていく。
外を見ると空は鉛色の曇天であり、今にも雨が降り出しそうな天気であった。
「あらら、一雨降りそうね。 傘、持ってくればよかったかしら」
姉が空を見ながら呟く。 料理店に着くまでは晴れていたので傘持っていなかったのでこのまま降り出したら二人とも濡れてしまうのは確実である。 ここから私の家までは歩いて三十分もかかる距離であった。
「お嬢様、お嬢様ー!」
どうしようかと二人悩んでいると私達の前に一台の車が止まると、中から一人の老人が出てきた。
すいません明日早いので今日はこれだけです……因みにこの時代のカレーは大体十銭程度。某野球も出来るギャルゲーの裏サクセスで、一円の価値に驚いたのを思い出す。(あれは明治だったけど)
支援>>117
「あら? 居場所伝えてたかしら?」
「お嬢様たちならこちらにいらっしゃると思いまして……」
そういって笑う老人は私達の家に仕えている使用人であった。 私達が小さい頃から私の家にいる使用人であり、我が家では一番の古者であった。
齢は六十を超えており長寿であったが、その姿は私の小さい頃から老人でありその外見は皺ひとつ変わっていない。 噂では私の父の頃から老人であったらしい謎の老人でもあった。
「さっすが、我が家の長老ね……何時の間に車の運転なんか覚えたの?」
「ほっほ、人間やればできない事はございません。 さ、雨粒が落ちる前にお車に……」
「あぁ、オレはいいです。 帰りに買いたい本があるから先に姉さん送ってやって」
ドアを開けて待っている使用人に手を振って遠慮すると、先に車乗った姉が怪訝そうな顔をして私を見た。
「別に車で寄っていけばいいじゃない、濡れるわよ?」
「いいよ、帰りは円タクに乗って帰るから」
円タクとは市内を一円均一で乗せていってくれるタクシーの事である。
しつこく私が断ると姉は何か閃いたらしく口元を抑えながら私に向けて何かを察するような目線を向けた。
「あー……なるほどねぇ……アンタも男だものねぇ……」
「何を勘違いをしているか知らないけど姉さんが想像していることは絶対ないから」
「分かった分かった! じいや行きましょ、年頃の男にはそれ位の一つや二つしなきゃね!」
すいません、冗長になってますがやっと話が進みます……本文と作者さんの言葉の間に一行開けてくれたら区別がついて分かりやすいかなって
無理なら大丈夫です
面白いです支援>>119
そのまま姉は耳まで届きそうに口をにやけさせながら使用人に車を走らせると、
「隠すときは蔵に隠しなさいよー」
と大声で余計な事を言いながら窓から手を振って姿を消していった。
周りの通行人が変人を見る目で私を見るので私は急いでその場を離れなければならず、私は姉を怨みながらその場を後にすることになった。
私が買いたかった本はそんな春画でも何でもなく、当時安価で提供されていた円本という類の本であった。 一冊一円、全本予約制ではあったが本が一円と言う安さで手に入る魅力と比較するとそんなものは気にもならない。
姉はそんな私を見て「普通に買えばいいじゃない」と何とも不思議そうに首をかしげたものであるが、私は姉のように食事に十円を気軽に出せるほど太っ腹でもなかった。
太っ腹と言うと姉は決まって私を殴るので口には出さないが、十円と言うと大学出の初任給のおおよそ二割である。
そして今日は予約していた円本が入荷する日であった。 本が雨に濡れるのは勘弁したいが、外套に隠せば良いだろうし、帰りは円タクで良い。
私は今にも走り出そうとする気持ちを抑えながらゆっくりと優雅に行きつけの本屋へと足を進めていった。>>120 すいません、行数制限を気にするあまり……
>>121
「おじさん、予約してた本入ってる?」
結局抑えきれずに走って本屋へと突撃した私が息を切らしながらそのドアを開けると、古本と新本が混ざった匂いが私の鼻孔を擽った。
私の背丈以上の本棚にこれでもかと詰め込まれた本たちが、手に取ってくれと私を誘惑しその題名をひときわ輝かせている。
江戸時代から続いていると店主が豪語しているこの本屋は正に本の虫達の楽園であり、その虫たちを掴んで離さない虫食い草でもあった。 此処に会って此処にない本は無いと言うぐらいに本の品ぞろえが豊富であり中には外国語で書かれた本もある。
「おじさん……?」
だが、肝心の店主が何処にもいない。 店主を呼んでも返事は、ちょうど他の客もおらず店内は私一人であった。
「また本の修繕でもしてるのかな、おじさーん?」
常連であり、店主と見知った仲である私はそのまま店の奥へと入っていく、すると部屋の中から誰かがすすり泣く声と共に話し声が聞こえてくるので私はつい立ち止まってしまった。
「私が悪いんです、私がせがれにお使い任せたばっかりに狙われて……」
「誰もお前を責めはしない、知りたいのはそのせがれがいつこの店を出て、何処に行こうとしたのかだ」
部屋の中から聞こえる声は二つ、一人は店主の声であるが、もう一つは聞き覚えがなかった。
その声は泣きじゃくる店主と比べて冷静で淡々としておりあまり感情を読み取れない何処か冷たい印象を私は感じていた。
「その時は、昼間、十一時ぐらいで……切手を買いに行かせに郵便局にもう大きくなったから郵便局までなら一人でも大丈夫だろうと……あぁ五円も持たせたから、うぅ……」
すいません今日は此処までで……次でやっと探偵との出会いと非日常への突入に……多分……桜「私のターンから行きますね・・・。私は、沼をセットしてから1マナで暗黒の儀式を唱えて、マナプールに3マナ加えます。そして、この3マナを使ってファイレクシアの抹殺者を召喚!トランプル持ちだからチャンプブロックを貫通しますよ?姉さん、これで先輩とのデートの権利は私のものですよ?うふふ・・・。」
凛「1ターン目から5/5でトランプル持ちなんて困ったわね〜(棒)」
桜「随分と余裕ですね・・・。4ターンです、4ターンで姉さんを血祭りにあげてみせます・・・!」
凛「では私のターン。山セットしてから1マナで抹殺者に稲妻。ところで桜、抹殺者のテキストの続きってどんな感じだったかしら?(ゲス顔)」
桜「・・・抹殺者が受けダメージの数値分私のパーマネントを生贄に捧げる(小声)」
凛1-0桜落陽の英雄達
龍の憤懣
敗北者達 生死の境界
龍脈回路
嵐に沈む不沈艦
――日の本全ての悪――
緋牡丹 終末の将軍
鋼の心
「ゲンジバンザイ」 罪歌の雷
奪存被名の大蛇斬り
皇紀2671年、【大和激震殲争】
正義を語れ。落陽の地に住む者よ。
――not to be continued.>>122
どうやら取り込み中だったらしく、出直そうと私が後ずさりをしたときに丁度後ろにあった本の山に当たってしまい、振動を受けた高く積まれた本が次々と私の頭めがけて落下して来てしまった。
「うわっうわわっ!?」
「……誰だ」
当然その私の頓狂な声と物音は部屋の向こうにいる人間にも聞こえてしまい、勢いよく戸が開かれ二つの顔が本に埋もれてしまった私を見下ろした。
「……何だ?」
「いやっ、あのっ。 立ち聞きするつもりは無くて……」
一人の男が私に近寄ると顔を寄せて、まるで珍獣を見るかのような目で眉をしかめた。
癖のある銀髪に金色の目をしておりこの国の人間ではない異邦人であり、その風貌は私に一人月夜に佇む狼を思わせた。 よれよれのコートによれよれの西洋帽子を着用し、私を覗き込む姿勢からして長身であり細身の体つきをしていた。
「坊ちゃん? あぁそうか今日は円本の……」
本屋の店主が私を見ると、少しだけ驚いた顔をすると目の前の謎の男に怪しい物ではないと告げる。
「知り合いか?」
「はい、この店を贔屓にしてもらっていておりまして……」
「坊ちゃんか、ククっなるほど良い身なりをしている」
そういうと、謎の男は煙管から吸い込んだ煙を私に向けて吹きかける。 その嗅ぎなれない強烈なにおいに私は大いに咳き込むとその様を面白そうに見ていた男を睨みつける。
「ごほっ!? なん、なんですかあんた!」
「フン、はずれだな。 とても誘拐なんて真似はできん顔だ」
「は、はぃい!?」
それが後に納豆が腐るほどの縁になるこの探偵と名乗る謎の異邦人と私の最初の出会いであった。
↑すいません、今日はこれだけで……ひゃっはー!
脳内にしたためた妄想を投下するぜー。
元ネタはこのサイトでも取り扱われた、ランスロットと武蔵の二次絵より。>>129
(この女性、なんという目をするのだ。どれほどの修羅を潜り抜け、死線を交わせば、これ程鈍色のひかりを目に宿すというのかー)
ランスロットが武蔵について思案していると、当の武蔵は、何を思ったか廊下の端に寄り、腰を屈める様な姿勢をとった。
突然の行動に虚を突かれたランスロットであったが、やや遅れて、彼女が道を譲ってくれているのだと思い至り、衝撃を受ける。
(な、なんという謙虚さかっ!これがYAMATONADESIKOというものかー!
あまりにも可憐だ。是非叶うならばお茶に…)
その彼女の可憐さに、感極まったランスロットではあったが、その思考は唐突に断絶する。彼の顔に、何か柔らかいものがぶつかったのだ。
そして、それがさっきまで彼女が抱えていた、芋の入った袋だと気づくのと、>>132
どちらか片方を防ぐならば、まだ納得のいく話だ。だがその両方。左右から同時に襲い来る刃を両とも防ぎきるとは、一体どういう離れ業だというのか。
「レ、レディ?これは一体どうした事でしょうか?」
それをやってのけたランスロットは、当惑の表情を浮かべていても、驚きはしていない。
まるで、武蔵の剣など驚くに値しないとでも言うようではないか。
そう思ったとき、武蔵の心の中に、僅かばかり湧き上がるものがあった。
「……」
「失礼、レディ。そろそろこの刀を下げてはくれないだろうか。」
彼の言葉を受けて、武蔵も振り抜いた腕を脱力し、ふた振りの刀を鞘に収める。
カチンという刀に鞘が収まった小気味のいい音が響き、空気がやや弛緩する。>>134
「まあ、厳密には違うんだけどそうみたいねー。いや有名人だから、最初はマスターに驚かれたもんよー。『え、宮本武蔵が女!?またですか』ってね」
「貴女もでしたか。我が王も、召喚された際にはマスターに大変驚かれたそうですよ。かのアーサー王が女性だったなんてと。」
はははと二人で朗らかに笑いあうと、二人の間に和やかな空気が流れる。先ほどまでの逼迫した空気が嘘のようであった。
それゆえだろう、ランスロットはつい口がいつもより回ってしまった。
「いやしかし、これがちょっとした戯れで良かった。あれ以上続けば貴女を傷つける事となっていた。いくら剣士とはいえ、女性を傷つけたとあっては騎士失格ですからな。」
瞬間、空気がガラリと豹変した。
「…へえ、それはつまり戦おうと思えば、私なんか簡単に下せると、そう言いたいのかしら?」
「え、いや…」
しまった、という表情を浮かべるランスロットに対して、武蔵は鋭利な笑みを浮かべる。>>135
「じゃあ、実際に試してみようじゃないの。私の刀と貴方の剣、どちらが上かしら。」
言いながら、スラリと腰に帯びた刀を抜く武蔵に対し、ランスロットは待ってほしいとばかりに両手を広げる。
「武蔵殿、わたしはその様なつもりで言ったのでは無くてですね、女性を傷つける様な事は騎士にとって恥であるが故に戦えぬと…」
「ほう、つまり女は傷つけずとも侍としての誇りは穢しても良いと?」
「……」
武蔵の刺すように返した言葉に、ランスロットもこれ以上反論は返せない。否、言葉で解決するつもりなど、武蔵には元から無いのだ。
「さあ、剣をとれ乱素人。同じ得物を持つものとして、侍を辱めるな。」
ランスロットは彼女のその眼差しを受け止めると、やがて観念した様に剣を構えた。
「…ふう。一合だけ、お付き合いしましょう」>>137
楽しみです! ワクワクしながら待ってます!>>125
数分後私は店主から出されたお茶を啜りながら謎の男の事情聴取を遠目で見ていた。
店主に聞くとその男は探偵らしく、話によると道を歩けば事件に当たる事件誘発性の名探偵らしい。
うさん臭さもここまで来ると逆に清々しいものだが、実際に見てみると事件に対する執着心は本物らしく事件当日の事から、対象の日々の行動まで隅々まで聞き出してメモ帳へと書き込んでいっていた。
探偵は本屋の店主に雇われているわけではなく、自主的にこの短期間に失踪した被害者全員に聞きまわっているらしく、店主で五人目らしかった。
「今回の失踪事件にはいくつかの共通点がある」
一通り店主から聞き終わった後探偵は煙管から煙を噴かせながら口にした。
「一つ、裕福な生まれの出であること。 一つ、年が十五から十七の間であること。 一つ、大金を持ち歩いていたこと、これには大差があるがおおよそ五円以上である」
手帳を捲りながら、探偵はぼろぼろの鉛筆を取り出して机の上に置かれていた地図に何かを書き込み始める。
「今回の被害者はまだ十になったばかりの子供であり、裕福の生まれでもない、当てはまるのは五円と言う金を役所へと持っていく途中だったということ。 一時期は別口の犯罪かと思ったが……」
そういって金色の目を店主へと向けると、地図に丸で囲んだある場所を鉛筆で叩いた。 そこは表通りから裏道に入った狭い通路であり、建物に囲まれた所謂裏路地というあまり日も明かりも入ってこない場所であった。
「だが、此処の路地を良く近道として使っていたという店主の証言が引っかかった。 ある将校から聞き出した情報によると、今まで行方不明となった被害者たちは消える直前まではある地域にて目撃証言が多々報告されている。 それが……」
ごめんなさい、今日はここまでです……>>150
ガチガチの斬り合いだと思った?
残念でした、日常ギャグ系ssだよ!
という事でご閲覧ありがとうございました。
出来れば感想など聞かせていただければ幸いです。
ランスロットにだけ厳しいマシュ可愛い。- 152名無し2017/04/14(Fri) 09:03:44(1/1)
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>>139
「此処から、此処までの範囲内だ」
「これって……」
探偵が印した場所は、いなくなった店主の息子が良く通っていたという裏路地を含めた市役所に通じる範囲であった。 思わず私も店主と一緒に地図を覗き込んでしまう。
「今回の事件はこれまでの失踪者との共通点の少なさを含めて、被害者は巻き込まれたのだと推測している。 おそらく人通りのない裏路地での犯行を目撃してしまったのだろう」
「それで、うちのせがれは攫われたと……?」
探偵は頷きながらも店主の今にも崩壊しそうな目頭を見つめてこう付け加えた。
「そしてもう一つ。 正直に言おう、今回の被害者が生存している確率はかなり低い」
「そ、そんな……!」
その何の気負いもない淡々とした探偵の言い方に店主の顔が絶望に染まっていく。
「犯人からしてみれば何の利用価値もない子供、生かしておく方が犯人たちのリスクが高まるのは必然だ。 今頃は川の底か、もしくは森の中かもしれない」
「ちょっと! もう少し言い方ってものがあるんじゃないですか!」
店主の顔が真っ青に変わっていくにつれて、あまりの言い方に我慢がならなかった私は探偵へと突っかかっていくが、探偵は私には一目も移さずにただ店主を見つめていた。
「どうする? そちらが望むのならば死体であっても見つけて連れて帰ることを約束しよう。 だだし依頼として金は頂く」
「お前っ……!」
人の命を何とも思わない言いぐさに、思わず私は頭に血が上り探偵のそのよれよれなコートをさらにしわくちゃにする様に掴みかかったがそれでも探偵は私は眼中にないという様にただ店主だけを見つめていた。
店主は青ざめた顔を掌で覆いながら、呟くように答えた。
「お、お願いします……」
「おじさん……!」
すいません、今日もここまでで……>>153
「こ、このまませがれが無事に帰ると信じて待っている方が楽でしょう。 で、でもそれ以上に私のせがれが惨たらしくどこかの道に投げ捨てられているのかもしれないと考えると私は耐えられないのです……責めて、せめてその体だけでも……だけでも……」
もしかしたら店主自身がもはや心のどこかで分かっていたのかもしれない。 小さな子供が何日も姿をくらませて無事に帰ってくることなんて有り得ないのだと。 そう思いながら諦めきられなかったのは親の心その物であろう。
喉の奥から声を必死に絞り出しながら探偵に震える頭を下げる店主を見ながら、私はどうしようもない無料感を感じ、掴んでいた探偵の服を離すしかなかった。
ふと屋根に雨粒が落ちる音が聞こえたと思うと、次第にその音は音量と数を増していき、ついに雨となって店主の嗚咽をかき消すように勢い強く振り始めていった。
「承知した。 必ずお前のせがれは連れて戻る、それがどんな形であれ約束しよう」
そういって探偵は少しだけ心ばかり優しく微笑むと、外套を翻して雨が降っているにもかかわらず傘も差さずに店外へと出て行った。
自分が追い詰めた癖に、と私は探偵の微笑みにむしゃくしゃした胸糞悪さを得ると同時にあの探偵もまた人間なのだとどこか安心している私もいた。 雨は勢いを増すばかりである。
書き貯めせずに書くと展開が二転三転してぐちゃぐちゃになっちゃいますね……>>154
その後の私と言えば、店主に気の利いた言葉一つもかけること事も予約した本を受け取ることも出来ずにただ家への帰り道を歩いていた。
円タクを使う気にもなれず、傘に落ちる雨粒の音と濡れた煉瓦とアスファルトの濡れた匂いを嗅ぎながら一人歩いていると店主の涙にぬれた顔が頭をよぎって追い出すように顔を横に振る。
自分が出来ることは何もない。 それは自分でもわかっている、立った齢十七の小僧に何が出来るというのだ。
そう思いながらも自分の息子を死体でも良いから連れて帰ってほしいと言った父親の気持ちを考えるとやるせない何かが私の胸を締め付けるのだった。
「あの探偵はどうしているのだろうか」
ふと、この雨の中傘も差さずに一人姿を消した探偵の事を考える。 全く信頼して良いのか分からない人物であったが、店主の依頼を受けた時の顔と言葉にはどこか安心感があった。
白い髪と金色の目をした異邦人、あの探偵は必ず見つけてみせると言った。 しかしどうやって見つけ出そうというのだろうか、何の証拠もない行方不明事件警察でも軍隊でも手を焼いている事件にたった一人の奇妙な男が解決できるというのだろうか。
「ふぅ……」
だが、何が起こるにせよ私が蚊帳の外なのは変わりない。 心に圧し掛かる無力感を払拭するように大きなため息を吐くが余計心が沈んでいくようで楽にはならなかった。
「ぼっちゃん……」
そんな時であった。
一日一投稿……懲りずに投稿するぜ!
槍種火を回ってて思いついたSS
apo後のモーさんとSN後のセイバーが膝を合わせたらどうなるだろうという妄想。
あと、自分の中で士郎とセイバーの絆、ぐだ男とアルトリアの絆の差異をはっきりしておきたいなって。>>156
あ、時系列的には5章〜6章の間です。
浮遊するような、落下するような、矛盾した感覚を抱きながらゆっくりと目を開ける。
シュインと、コフィンの扉がスライドすると、ぐだ男の目には見慣れた景色が映る。
赤く燃えた巨大な地球儀。藍と黒で縁取られた幾何学模様の壁。ここはカルデアのレイシフト場だ。
何となく視線を管制室の方に向けると、ガラス越しにロマ二・アーキマンが笑顔で手を振ってくるのが見えた。
『ご苦労様、ぐだ男くん、マシュ。それとサーバントの皆さん。きょうの演習はこれで終了だ。後はそれぞれ休んでくれ。』
狭いコフィンから這いだし、マイク越しにロマンの朗らかな声を聞くと、ホッと一息安堵の息が漏れる。>>158
「お疲れ様ですマスター、マシュ。えぇ、最近の貴方の指示は精度が上がってきている。マシュと共に、マスターも大きな成長を遂げているようだ。」
ブリテンの騎士の王、誉も高きアルトリアだ。
今日の演習は、アルトリアを始めとした剣の英霊達との演習だったのだ。
「アルトリアもお疲れ様。そっか、やっぱりアルトリアに褒めてもらえる自身がつくな。英霊達に俺なんかが指示を出すなんて、最初は思ってたんだけど…」
ぐだ男がそう言うと、アルトリアはやや呆れた顔で自身の腰に手を置いて、言葉を遮る。
「まだそんな事を言うのですか。貴方は最初から、自分に力量が足りないと理解しながら、自分にできる全力を尽くしてきた。その事を卑下する英霊など一人も居ないと言ったでしょうに」>>160
「えっと、その…あの…」
言い淀むモードレッドに、アルトリアは先ほどとは打って変わった無表情で言葉を返す。
「モードレッド卿か。槍の種火演習ご苦労だった。剣の英霊の中で全体宝具を持つのは、カルデア内では私と卿のみだ。その宝具はマスターにとって大きな助けとなろう」
「いや…そうじゃなくて…!」
「他に何か?」
明らかに何か言いたそうにしているモードレッドに、アルトリアはあくまで事務的に言葉を返す。
「…っ!いえ、王からのお言葉、ありがたく拝領致します。」
「そうか、では戻って休むがいい。明日からもマスターの力となれるようにな。」
アルトリアの言葉に、モードレッドはギリッとぐだ男の所まで聴こえる程の歯ぎしりをして、堪えるようにして1人でレイシフト場を出て行った。>>162
数日後、
ぐだ男がマイルームで紅茶を準備しつつ、人を待っていると、やがて扉をノックする音が聞こえた。
ぐだ男がどうぞー、と声をかけると電子扉が音もなく開き、アルトリアが入って来た。
…鎧姿でマントを羽織る完全武装である。
「マスター、部屋を尋ねるように、と言われて来ました。一体どの様な要件でしょうか。」
「あ、ああいや、そんなキチンとした事じゃ無いんだ。ただアルトリアとお茶をしようとしただけだよ。」
「は、お茶を?」
アルトリアが呆気に取られたようにぐだ男を見て、次いでその視線がテーブルへと向けられる。
そこにはティーポットと、空のティーカップが2対。そして中央には色取り取りな洋菓子が置かれている。>>163
「うん、だからそんなに鎧を着込まないで、もっと気楽にして。」
慌てるように言うぐだ男に、アルトリアもとりあえず魔力で編まれた鎧を消すことにする。
「さあさ、座って座って。」
「…しかしマスター。もし私と二人で話をしようと言うなら、私にお茶菓子は必要ありません。ここの英霊たちは既に、充分な魔力を施設から貰っています。食事による魔力供給は必要無いのです。」
お茶の席に着きながらも、苦言を呈するアルトリアに、ぐだ男は苦笑いをしながらも言葉を返す。
「うん、まあアルトリアならそう言うと思ったけどね。でもそう言わないで楽しもうよ、普段のお礼も兼ねてるんだから。それに、今日はエミヤご謹製の洋菓子だよ。」
エミヤと言う言葉を聞いて、アルトリアは少し目の色を変える。>>164
「ほ、ほう。彼の作ったお菓子であれば、さぞ味は素晴らしいのでしょう。しかし彼は洋菓子まで網羅していたのですか。」
「うん、ナーサリーにねだられたらしくてね、最近手をつけ始めたんだって。私の本領では無いのだがね、なんて顰めっ面をしながら楽しそうに作ってるよ。」
アルトリアはあくまで冷静な風を装っているが、それでもチラチラとお菓子の方に視線が行ってるのを、ぐだ男は見逃さなかった。
ぐだ男は自然な仕草で、ティーポットの紅茶をアルトリアのカップに注ぐ。次いで、受け皿に適当に洋菓子を並べると、アルトリアの前に置いた。
それを受けたアルトリアは、少しだけ悩むような顔をしていたが、やがて諦めたようにフウっと息を吐く。
「仕方ありませんね。彼に菓子を用意して貰って、マスターにお茶を注がせたのであれば、無碍にはできません。ありがたく頂きましょう。」
ぐだ男はニッコリと微笑む。アルトリアがエミヤの料理を口にする時、口元を柔らかく綻ばせる事を、彼は知っているのだ。>>166
ぐだ男の質問はあまりも愚かしいものだったろう。なにせ、自分が大切に守ってきた国を滅ぼした最大の要因だ。本来ならば、その場で斬りかかったとしてもおかしくないはずだ。
しかしアルトリアは、穏やかな声で「いいえ」と言った。
「確かにモードレッドの行いは許される物では無いのでしょう。ですがあれは同時に、国民達の真意でもあった。例え彼女が叛逆をしなかったとしても、結末は同じだったのです。国が滅びた最大の要因は、民たちの悲鳴を聞けなかった私にあった。」
「…そっか」
アルトリアの言葉に、ぐだ男は頷くことしか出来ない。結局のところ、国を一つ背負ったことのないぐだ男にはそれを批評する事など出来ない。
アルトリアを王としてではなく、一人の女性として見る事が出来ればまた別なのだろうが、それはまた別の者の役割である。>>167
とにかく今は、アルトリアはモードレッドを恨んでいない、ということが分かれば充分なのだ。
「…じゃあ、モードレッドと仲良くする事は出来ない、かな?モードレッドが、我が王憎しだけで声を掛けてるわけじゃ無いのは、アルトリアも気づいているだろう。」
「そうですね、それは…」
珍しく、アルトリアも言い淀む。
やはり少なからず、アルトリアは憎々しく思っているのだろうかと、懸念したぐだ男だったが、アルトリアは慌てて否定する。
「いえ、そう言うことでは無いのです。私にはモードレッド卿に対して恨みはない、それは確かです。
しかし、そのですね…モードレッド卿は実は私のホムンクルス、言わば私の遺伝子を引き継いだ子どもの様な者では無いですか。」>>169
取り敢えず今日はここまで。
この先は大切な場面になるので、じっくり考えて2.3日中に投稿します。乙 & 支援
俺も書き留めているが長くなりそうだなあ……>>155
雨の中傘をさして私の目の前に現れたのは我が家の使用人であった。
姉を送り届けて私も迎えに来てくれたのだろうか。 優しく私に微笑む皺だらけの使用人の顔を見るだけでなんだか心が軽くなるようであった。
「雨が予想より強くなってまいりましたし、この頃は何かと物騒だとお嬢様が申しておりましたので心配になりまして……」
「あ、うん。 ありがとう、助かります」
「すれ違いになってはいけないとこちらでお待ちしておりました。 車はこちらに停めております、ささ……」
もう一つニコリと笑うと車の止めてあるという場所へと先導して使用人が歩いていく。。
「お嬢様はお先に館へとお戻りになっております、坊ちゃんが濡れて帰ってないか心配して……」
「姉さんが? まさか、濡れて帰っても馬鹿は風邪ひかないから楽よねって笑うぐらいの奴ですよ?」
「ほっほっほ、それはそれは……」
二人で笑いあうと先ほどの重い気持ちが何処かへ消し去る様に軽くなっていく。 昔からこの使用人は私が何か落ち込んでいたりすると隣にいて笑い合って良いアドバイスをくれる良い先生でもあった。
「さ、この奥でございます」
そうだ、先ほどの本屋でのことも相談してみよう。 そう私が思っていると、使用人は大通りから路地に入りそのまま足を進ませていく。 薄暗く湿気の籠った舗装されていないぬかるみだらけの道を構わず歩いていく使用人に私は何か違和感を感じて足を止めてしまう。
「……じいや?」
「大丈夫です、さぁこちらに」
私の記憶となんら変わりのない使用人の笑顔に不安を感じながらも、一歩路地へ足を進める。
「つっ……!?」
だがそのぬかるみに足を踏み入れた瞬間、私の頭に鋭い痛みが走り思わず頭を押さえてしまう。 まるで金槌で殴られた様な痛みに、視界が点滅し私は使用人に助けを求める。
「大丈夫です、さぁこちらに」
だが異変はすでに私の頭以外にも発生していた。 ←すいません今日は此処まで……書きたくなったので書きます。
>>173
七つの特異点を乗り越え、聖杯を回収したマスターと、そのサーヴァントである英霊達。
最後の戦いを終えカルデアに戻った時に、それは確認された。
「ロマンが消え、哀しんでいる所申し訳ないが新しい特異点が見つかった。」
「どういうことですか?ドクターの宝具によりゲーディアは滅び人類史は救われたはずではないのですか?」
そうだ、今までの特異点の黒幕であるゲーディアはあの時滅んだ。...ロマンが命をかけて私達を私達を護ってくれたのだから。
「そうだ、君達が悩むのはあたりまえの事だ。この天才たるダ・ヴィンチちゃんでさえこの特異点には困惑しざる得ないのだから。」
どういうことなのだろうか?
「簡潔に言おう。今回見つかった特異点は2100年……未来の出来事なんだ。」
「未来の特異点...確かに妙ですね。でもそんな事がありえるのですか?」
悩むマスターと相棒である少女。
本来なら有り得ない出来事であり、普通ならそれを肯定することは無理なことであり、信じられないと否定することだろう。
しかし、その常識では考えられないことであり、いつになく真剣なダ・ヴィンチちゃんは、
先ほど述べた有り得ない特異点の意味を語る。
「君達が悩むのはあたりまえの事だ。正直私でさえ信じられないんだけど、これから紛れもなく事実なんだ。」
例え、それがあまりにも非現実的であろうとしても、例えそれがどれほど驚愕的なものであったとしても
これは、紛れもない事実であるのだから。
「今回、確認されたに特異点は2100年ルーマニアそれも聖杯が2つ観測されているんだ」
危険なのは当たり前。しかし放っておくのも出来るわけなく最後のマスターと少女は覚悟を決め、その特異点に向かうのだ。例えどれほどの困難が待ち受けようとも彼らは、決して諦めらめを知らぬのだから。>>174
……とある城跡にて……
地獄をみた...終わりのない地獄を見てきた。
かつて極東の聖人の願いである人類救済を否定
して祝福をもたらすはずたった第三魔法を幻想種しか存在しない世界の裏側で流し、役目を終えた大聖杯(戦利品)を隣に置き少年は考えた。
自分の恋人である聖女が信じた人間を信じることにしたが未まだに人間は前に進んでいかない。だったら邪竜である自分が絶対悪になれば人類は協力しあい前に歩んでいくのでないかと。
「人間はあの聖人のいうとおり誰かが救わなければならないのか?否!人類は自分たちで歩んでいかなければならないのだから!」
ドンっと椅子に邪竜は拳でたたく
彼としては軽く叩いたつもりでも周りにいるワイバーンにとっては竜の咆哮にも匹敵する轟音とさえとれるほどだ。
もし、それに耐える者がいたとしたら…それは、邪竜に従う英霊たちぐらいであろう。
「セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、バーサーカー、アサシンよ。
もうすぐ我々の計画は成功する。しかしあの英霊の存在が邪魔だ。どんな手段を用いても構わん捕縛もとい始末を願いたい」
「「「御意」」」
そのまま城を出て行きこの場には邪竜しかいなくなった。
「あぁ、ジャンヌ。やっとだやっと人類は救われるぞ。」
光り輝く聖杯を背後に、狂った邪竜はこれこら起こる戦争に心を踊らせ牙をむきだしにして嗤う。
……さぁ、ギャランホルンの笛を吹こう>>172
地面が変色していく、空が落ちてくる。 鉛色の空は薄暗い石の天井に、濁った土は苔が生えた石畳に、雨だまりは血だまりに、雨音が悲鳴に、それぞれ置き換わっていく。
世界が、私の知る世界が組み変わっていく。
「なん、だ、これ……」
「大丈夫です、さぁこちらに」
使用人であるはずの目の前の老人の首が一回転すると、顎が外れ舌が足元まで伸びる。 その様は人下とは思えないほどにおぞましい。
「大丈夫です、さぁこちらに」
「ひっ……」
それでも目の前の老人はにこやかな笑顔で私へと手を伸ばしてくる。 この時私が拳銃を持っていれば間髪入れずに私は自分の頭を打ち抜いただろう。 それほどにこの世界は狂っていた。
「だ、だ、だですです。 ぼ、坊ちゃん……?」
「じ、じい……こ、来るな!」
一歩一歩と私へと近づいてい来る物体に私は心の底から恐怖を感じ、この狂った空間から逃げようと走り出そうとするが、それもかなわない。
「壁……!? そんな、こっちから入ってきたのになんで……」
「ぼっぼぉ、大丈夫です、さぁこちらに」
耳元で使用人に似た声が聞こえ、私の肩を強く掴んだ。 驚くほどに冷たく、生きている人間とは思えないほどの握力に思わず私は大声で悲鳴を上げた。
「ん~、良い声!」
↑すまない……推理物ではないんだ……活劇なのだ……>>176
それは少女の様な可愛らしい声であった。 少なくともこの空間には全く似合うことのない溌剌とした声であり、それだけに私は恐怖を感じた。
「心の底から温まるような悲鳴……絶望に染まった表情、素晴らしいわ……でもぉ……女じゃないじゃない! 」
「大丈夫です、ささああああ」
その姿の見えぬ少女が叫んだと思うと、私の肩を握りつぶさんばかりに掴んでいた老人の顔がザクロのように飛び散る。 飛び散った血と肉片が私の顔を濡らし、血が私の服を赤色に染め上げていく。
「ひっ……!」
「私は、女を、連れてこいって、いったの! この前は小汚いガキ! 私を馬鹿にしてるワケ!? 」
少女が叫ぶごとに老人の頭がつぶれていき、ついにはその体が空へと持ちあがったと思うと、真っ二つに裂けていく。
「アンタなんてもういらない」
真っ二つになった老人が投げ捨てられると同時にその少女が姿を現した。
華奢な体を血で塗りたくり、肌の色が見えない程にその体は赤で染まっており、手にはその背丈を超えるほどの槍を持っていた。
だがそれ以上に目を引くのはその頭と臀部付近についているヒトではないものであった。
角と尻尾。 まるで鬼のような角とトカゲの様な尻尾がその少女にはついていた。
「あぁぁ、痛い痛い痛い! 頭が痛い! あの役立たずが何時まで経っても女を連れてこないから! あぁぁっ!」
少女が私の腕の半分しかないほどの華奢な腕でその大きな槍を重さを感じないような仕草で振り回すと、その切っ先を私の方に突き刺した。
「ぐっああああああ! ひぃぃぃぃぃぃあああああ!」
「あぁぁダメ! やっぱり駄目男じゃダメ! ぜん、ぜん痛みが治まらないぃ!」大正更新マダー?楽しみにしてるんだか
これはFGOと電撃文庫の妖怪ライトノベルほうかご百物語のクロスオーバーSSです
マイナーすぎて誰得とかこいつはこんなキャラじゃねえよとか思うかもしれませんがご容赦ください
時間神殿から逃げ延びた魔神が辿り着いたのは無数にある並行世界のはるか向こう、もはや同じ木ではなく別の木の枝ではないかと思えるほど遠い異世界。その世界のとある町のとある神社だった。
そこには偶然か必然か自分以外の魔性すべてを消し去る『神』の残滓が残っていた。それを見つけた魔神は歓喜した。
『全知全能、唯一無二の神の概念……いや、おのれと異なる全てを排斥し消し去ろうとする意志の具現か……ハ、ハ、貴様は我が依代に相応しい……私も私以外に飽き飽きしていたところだ……』
魔神にはもはや世界をやり直すことにも自分たちの邪魔をした者たちにも興味はなかった。自我が生まれた彼の心に浮かんだのはただ一つの妄念のみ。
自分と違う存在が恐ろしい。自分以外の全てが煩わしい。だから、ゲーティアとの結合も拒否し逃げ出したのだ。
「貴様の願い、私が受け継ごう」
早速彼は『神』の残滓を取り込み、その願いを叶える術式としての自分を構築し始めた>>179
構築を終え、魔神ではなく『神』となった彼は目を覚ました。しかし全てを消し去る術式『大祓』を行うためにはまだ準備が必要だった。自分の存在もまだ小さく不安定だ。故に彼はかつての『神』と同じように自分の手足となる存在を作り出すことにした
「来たれ、セイバー長鳴き鳥」刀を差し、鋭い雰囲気を放つ男が現れた
「来たれ、アーチャー鳴き女」弓を背負い、鎧が特徴的な男が現れた
「来たれ、ランサー八咫烏」錫杖を持った修験者風の男が現れた
「来たれ、ライダーにはくなぶり」あでやかな着物を着た女が現れた
「来たれ、キャスターくぐい」狩衣を着た狐顔の男が現れた
「来たれ、バーサーカー武夷鳥」弓を背負い、刀を差し、巌のような屈強な男が現れた
「来たれ、■■■■天夷鳥」直剣を差し、女と見まがうような美貌を持った少年が現れた
彼は元からあった『神』を迎えるシステムに英霊召喚を組み込み、より強大な手足を作り出した。
「汝らは我が先触れであると同時にサーヴァントである。私が完全に顕現するための準備を行い、それをを妨げようとする輩は全て滅ぼせ」
彼の命に七羽の先触れは一斉にひざまづいた。>>181
遡ること数時間前。僕は美術室に行く途中の階段で僕は固まっている彼に出会った。その視線の先には見慣れた黒い影。
「……見越した」
僕はため息をついていつものフレーズを口にする。そのとたんに黒い影はきれいさっぱり消えてなくなった。
「おっと……!」
黒い影から解放された彼は間一髪で転ばずその場に踏みとどまった。
「あ、あれ何だったの?」
深呼吸しながら彼は質問してきた。
「いや、何ってのびあがりだろ?見越したって言ったら消えるんだ。眼鏡かけたちっこい先輩から教えてもらってない?」
あのジャージめ、面倒くさがってやらなかったんじゃあるまいな。我らが妖怪博士の憎たらしい顔を思い浮かべながら僕は顔をしかめる。
「いや、オレ今日転校してきたばっかりで、この学校のこと何も知らないんだ。こういうことよくあるの?」
彼は頭を掻きながら苦笑する。
転校生だったのか。道理で見慣れないと。
「うーん、他によくあるのは馬の首が天井から下がってきたり、やかんがぶら下がってきたリぐらいかな?他は音とか気配だけがほとんどだから大したことないよ」
「へ、へえ……」
彼の笑みがこわばる。当然だ。この一年半で慣れてなきゃ同じ表情をしただろう。>>182
「あ、お礼を言うのを忘れてた!ありがとう、俺は藤丸立夏!君は?」
こわばった笑みを瞬時に満面の笑みに切り替え、彼もとい藤丸立夏は手を差し出してきた。
「はぁ、白塚真一です。一応美術部部長です」
いきなりのフレンドリーな対応に思わず敬語で返してしまった僕はおずおずと差し出された手を握り返した。
僕は握った彼の手の何の変哲のない顔に似合わない、ごつごつとした感触に首を傾げた。いや、手だけじゃない。服で分かりにくいが首から下もよく見ると、並大抵の運動部じゃ比べ物にならないほど鍛えられた筋肉をしている。
「藤原君、何かスポーツでもやってる?」
「リッカでいいよ。特にやってないけど知り合いに筋トレが好きな人がいて、よく付き合わされるんだ」
藤原立夏、リッカはやはりフレンドリーに答える。
筋トレに付き合ったぐらいでこんな筋肉がつくだろうか、僕は納得できないまま手を離した。
「先輩、何をしてるんですか?もうみんな集まってますよ」
廊下の影から薄い色の髪をした少女がひょこっと顔を出した。
「ごめんマシュ!すぐ行くよ」
少女に呼ばれてリッカは焦ってそちらに向かう。
「改めてありがとうシンイチ!また明日!」
途中で振り返り、別れのあいさつを告げると今度こそ彼は少女と一緒に廊下の向こうへ消えていった。
「リッカでいいよ。>>183
そしてついさっき、僕はイタチさんとの帰り道でそのことを話している途中(当然のごとくイタチさんに見とれて会話は飛び飛びだったが)、いきなりすさまじいスピードの何かが僕に襲い掛かった。それが矢であることに当たる直前まで気づけなかった。
「危ない真一!」
とっさにイタチさんは僕を突きとばしてくれたおかげで、僕は矢に直撃することはなかった。しかし、僕をかばったイタチさんの肩を矢は容赦なく抉っていた。
「イタチさん!」
駆け寄ろうとした僕を再び放たれた矢が遮る。
「弱し……」
心底失望したような重々しい声が辺りに響き渡る。声をした方を向くと道路の向こうにいつの間にか武者鎧を着た男が弓に矢をつがえて立っていた。
「役立たずをかばった上に傷を負う、か。先代の先触れはこの程度の輩に敗れたのか。情けないことだ」
独り言のように何かぶつぶつ呟きながら、男は三度矢を放った。
「ッ!」
僕とイタチさんは転がるようにそれを回避する。
四度、五度、六度、矢は次々と僕たちに向けて放たれる。
「いきなり、何を、するの!」
何とか矢の合間をぬって立ち上がったイタチさんが肩の痛みに顔をしかめながら、手のひらを突き出した。戦闘態勢に入ったことで鼬の尻尾と耳が現れている。周囲の空気が集まり、風の刃を作り出す。イタチさんの十八番、かまいたちだ。よほどの硬度のものでない限り真っ二つにできるこれなら矢だって怖くない!
>>184
「それも悪手だ」
そのかまいたちを待っていたかのように、イタチさんの目の前にまで矢が迫っていた。かまいたちの体勢を取っていたイタチさんは当然回避できない。
動け、動くんだ白塚真一!そう心で思うより先に身体が動いていた。でも、それでも僕の手はイタチさんには届かない。絶望で僕は崩れ落ちる――――
「ハァッ!!」
それよりも先に弾丸の様に黒と白のコントラストが映える少女が僕たちの前に立ちふさがり、矢を弾いていた。
そして今に至る。
「何で、リッカがここに?」
突き飛ばされたイタチさんを抱きとめた僕はこんな状況にも関わらず(イタチさんやわらかいなーかわいいなー)と理性が飛びつつも、声を絞り出して尋ねた。
よくよく見ると僕たちを守ってくれた少女も昼間リッカを呼びに来たマシュとかいう名前の子だった
「ごめん!オレもシンイチが何故狙われたのか気になるけど、お互い詳しい話はあとにしよう!」
こちらを振り向きもせずリッカは真剣な声で答えた。
「クーフーリン、茨木は前へ出てあいつの相手を!エミヤは二人の後方支援を頼む!ジェロニモはマシュと一緒に俺たちを守ってくれ!マルタさんはその子の治療をお願い!」
そしてそのまま誰かに指示を出す。するといつの間にかリッカの隣には浅黒い肌の男が、盾の少女の前には青いタイツのような服を着た槍を持った男と金髪で角の生えた小柄な女の子が、僕とイタチさんの側にはやたらと露出度が高い服を着た長髪の美女が立っていた。「貴様らが主が言っていたカルデアのマスターとそのサーヴァントか。中々に骨がありそうだ」
やはり意味の分からない用語を呟き、武者鎧が不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあここでやりあってみるか?見たところテメエも大した腕前の持ち主みたいだが、この状況じゃさすがに旗色が悪いんじゃねえか?」
槍を持った男もまた挑発するように笑う。
「く、く、確かに。これではいささか多勢に無勢だ。今日のところは大人しく引き下がるとしよう」
言うが早いか、男はすうっと透き通り姿を消してしまった。そして彼の声だけが辺りに響き渡る
「俺は、俺たちは、英霊にあって英霊にあらず先触れにあって先触れにあらず。神を迎える神使にして神の敵を滅ぼす戦士。カルデアの者共よ、神に逆らった雑妖共よ、貴様らに我らが主の邪魔はさせん」
先触れ……?大祓……?もう聞くことがないと思っていた、僕たちにとってとても不吉な意味を持つその単語に僕は耳を疑った。
「真一、今大祓って……」
イタチさんが心配そうな顔で僕を見つめていた。やっぱり僕の聞き間違いじゃないようだった。
大祓とはその地域の妖怪とそれに関係するものすべてを消し去る神を呼び出す儀式、そしてその神を迎える準備を手助けし神を守る七羽の神の使いの名前が先触れだ。
数ヶ月前、僕たちは大祓に巻き込まれ、必死の思いで神を倒したその時に先触れたちも一緒に消えたはずだ。神が倒された以上生き返ることはない、と彼ら自身が言っていた。それに、先触れたちの中にあんな鎧をつけた男はいない。
それに妙な人たちを引き連れた転校生リッカ。あの先触れを名乗る男は知っていたようだけど、彼も何者なのか?
「一体、何が起こってるんだ……?」
イタチさんと過ごした一年半で大概のことには慣れたと思った僕だったが、動揺せずにはいられなかった。ハンティングクエスト6日目。今日も俺はいそいそと居住区を訪れる。
目的は言わずもがな、エネミー狩りのメンバーの招集である。
さぁ今日も素材を狩るぞ…
そう意気込みつつすっかり見慣れた角を曲がると、彼女の名札が付いた自動扉が目に飛び込ん―――
「ん?」
扉の下方には、かのファラオが命同様大事にしているはずの鏡が鎮座ましましていた。鏡の前には便箋が一枚。隅っこにはメジェド神が何処ぞのファンシーキャラめいて描かれている。
そこにはこうあった。
旅に出ます。探さないで下さい。
追伸 鏡はご自由にどうぞ
はっと気配を感じて横を見ると、メジェド神が上目遣いで俺を凝視していた。
心なしか遺憾の意を表明されている気がする。
…反省。鬼灯の冷徹クロス
明日のお盆の準備に追われるカルデア。そんな時、ぐだが目を覚ますと何故か地獄にいた。また面倒ごとかな、と溜息をつくぐだに鬼灯が来て一言。
鬼灯「貴方に亡者に対する不法就労の疑惑がかかっているのですが……ちょっと地獄まで御同行願えますか?」「‥‥」
慣れない香気に僅かに顔をしかめる。
「苦いなら砂糖を入れなさい。この茶葉とミルクは合わないわ」
「‥‥どうもいけねぇな。飲むなら酒か麦湯だ」
「タクアン、と言ったかしら。あれを食べる時に飲むものと一緒にしないで」
「洋酒は好きだぜ。わいんは駄目だったがういすきーはいける」
だが、やっぱりこれは合わねぇ。
砂糖を五杯入れ、香気も飛んでしまった紅茶をお猪口でも傾けるように流し込んだ。
「茶でもどうだ、なんて誘ったのは貴方じゃない」
「まさか本当に茶を飲む奴があるかよ」男は土方歳三。出身は日本、クラスはバーサーカー。
乳の大きな女が好みだ。
女はカーミラ。出身はハンガリー。クラスはアサシン。
可憐な処女が好みだ。
女は大抵男を袖にしていた。
特に興味もなければ血もまずそうで、何より品がない。
風流を謳ってはいるがこの男のセンスは語彙の教養も関係なく落第点。
カーミラが嫌うたちの男であり、カーミラはそもそも男が嫌いだった。「貴方と寝るつもりはないわよ」
「じゃあなんで乗ったんだ」
「‥‥気まぐれよ。マスターにこそ肌は許したけど身体は誰にも許さないわ。丁寧に折り畳んでアイアンメイデンに押し込んであげる」
「そう、それだ」
「‥‥?」
「お前と拷問について話をしに来た」
「‥‥ああ、成程。マスターが妙なことを口走ったのね」拷問。
そんな話題で盛り上がろうとは、世も末だ。
最も、最近まで本当に世界は終わりかけていたのだけれど。
拷問。
彼女が思い出すのは、彼女の愛した唯一の男。
乙戸であり、いくさびとであり、黒い甲冑で身を固めたあの人を。
どこか、この男は想起させる。教養もなければ品もない、節操もなければ気遣いもない。
そんな男と重ねてしまうのは全く申し訳ない限りであったが、いつものようにへーだのほーだの言いながらマスターが読んでいた本に書かれていたこの男は、決してただの蛮人ではない。
と、思うのだが。
紅茶を冷ましてから飲むこの男は、やはりあの人とは比べられない。「おい、次は酒を飲むぞ」
「私はワインしか飲まないわよ」
しかし。ふん、と鼻を鳴らすこの男は。
何故だか、子供のように見える。
「紅茶は冷まして飲むものではないわよ」
「誘ったのは俺だ、好きに飲ませろ‥‥おい、今笑ったか」>>186
「追わぬのか」
武者鎧の男が消えていく様を見て、金髪の少女が後ろに立っている少年、藤丸立香に尋ねた。
「うん、ここに駆け付ける前に小太郎に頼んでおいたから、オレたちは追わなくていい。それに、シンイチたちを放っておけないよ」
立香は少女の問いに答えるとくるりと振り返り、腰をついて、呆然としている少年、白塚真一に心配そうな表情で尋ねる
「間に合って良かった。シンイチ、どこか怪我してない?」
「あ、ああ、うん。ちょっと擦りむいたぐらい。それよりもイタチさんが」
真一は戸惑いながらも自らの状態を正確に答え、傍らの少女を気遣う。
「あ、あたしも大丈、痛っ」
「動こうとしない、まだ手当の途中なんだから。マスター、この娘も肩を少しかすめたぐらいでそれ以外に目立った傷はないようです」
イタチさんと呼ばれた少女を手当てしている黒髪の女性が無理に動こうとする少女を諫めながら言った。
「じゃあ二人とも大事はないんだね?」
それを聞いて立香は心底安心したというような笑みを浮かべて、胸をなでおろす。
「リッカ、この人たちは一体……?それに君も……いい奴だってことは分かる。でもさっきのあいつと何か関係があるの?」
少女が無事だということが分かると真一は少し落ち着きを取り戻したようで、立香をまっすぐ見据え疑問を投げかけてきた。>>196
「……」
立香はまっすぐこちらを見据える真一から目をそらし、顔をうつ向かせ考え込む。
説明するべきかしないべきか逡巡しているようだ。
「私は話すべきだと思う。先程のサーヴァントは彼らをピンポイントで狙っていたようだし、知っているような口ぶりだった。今回の事件と無関係ではないのだろう。知る権利があるはずだ。そして我々が彼らの話を聞く必要も」
その時傍らに立っていた浅黒い肌の男が淡々とした口調で進言した。
「わかった」
立香は強く頷くと真一の方を向き直り、真摯な表情で口を開いた。
「オレがこれから言うことはかなり突飛な話に聞こえるだろうけど、どうか信じて聞いてほしい」
そして彼は自分たちの目的と素性を語り始めた。ほうかご百物語のクロスいいなぁ…
他作品スレで名前挙がってて嬉しかった作品ながらまさかクロスSSまであるとは
応援してます!- 199名無し2017/07/31(Mon) 11:41:28(1/1)
このレスは削除されています
おお、こんなスレが。
ダイジェスト版だけでも作りたかったが、とても出来上がりそうにないのでここに投稿させてもらいます。
アルジュナの幕間を見てから、一人のマスターと絆を深めていく彼が見たかった。そんなネタ話。
※設定がやや大味(パーシュパタ周りはWiki、攻略Wikiの情報を参考にしています)じりじりと、存在の焼ける音がする。伏した地面は、しかし土の匂いもない。
魔神柱たちを払い除け、辿り着いた玉座は、しかし、やはり、最大の難所であった。
かすかに目を開ける。アルジュナは己の存在を確認した。戦える。魔力の消費が少々多いように感じるが、まだ、戦える。しかし珍しく……身体が重くて仕方がない。
――――“……何をしている、大英雄”。
己を鼓舞するため、アルジュナは肺の空気を入れ替えん為に呼吸する。足は地を踏める。腕は狙いを定められる。拳はまだ力を失っていない。
――――“そうだ。そうでなくては”。
目をやれば、少し離れた前方に、主と少女はいる。しかし、その眼前には魔術王――――“だったもの”。
魔神王ゲーティア。
最果てに待つ獣。人間に失望した魔術式。
相手にとって、不足はない。足り過ぎているくらいだ。だが、そんなことはどうでもいい。関係ない。
――――少女が少年を守っている。
それだと言うのに私は――――彼のサーヴァントであるこの私は、何をしているのか。
立ち上がる。アルジュナらしく、軽やかに。少しふらりとした気がするが、それこそ気の迷いのようなものだろう。「下がりなさい、マシュ」
「アルジュナさん、いけません!」
ゲーティアとの間を遮るアルジュナに、盾持ちの少女は狼狽える。優しい静止だ。絶体絶命の状況であるのに、どうにも心が生温くなる。しかし、男は少女を、マシュを射抜くように見やる。
貴女の心の内など、お見通しだ。少年を慕う、純粋な少女の心など、誰の目から見ても分かることだ。
「いけないのは貴女でしょう。他でもない貴女が、マスターを最後まで守らなくてどうするのですか」
「アルジュナさん……!」
説得する余裕は互いに無い。前に出たもの勝ちだ。主たる少年もまた、何か言いたげにアルジュナの名を呟いたが、やはりアルジュナは振り返らなかった。「貴様の霊器で我が宝具に耐えられるとでも言うのか?」
眼前の敵は、つまらなさそうにアルジュナを見下す。
――――“少女との睦言の間に割って入るからだ”。
己の裡で、誰か(わたし)が嗤う。ああ、全くそのとおり。その気持ちに同意はするが――――アルジュナが浮かべる笑みは、別の性質のものだった。
「ええ、私ひとりでは無理でしたでしょうね」
笑みは清々しく。声は誇らしげに。
知っていた/知らなかった
――――他人を嘲るよりは、他人を誇る方が、余程気持ちが良いものだと。
「…………なるほど、理解した。ならば、試してみれば良い。神から授かった世界殺しの力、見せてみろ――――!」
魔力の渦が唸りをあげる。これ程の対決が、生前あっただろうか。今度こそ嘲笑う。
“残念ながら、残念ながら、有り得ない”。
その掌に輝く宝具に目を細める。それは、笑みからか、睥睨か。
――――そう。これは、世界と世界を滅ぼし合う戦いだ。「マスター! 令呪を!」
「アルジュナ!?」
どうするんだと少年の声色が問う。
聞くまでもない。今更聞いてくれるな。
振り返り、その蒼い眼を捉える。こんな状況においても強く跳ね返す瞳に、思わず笑う。分かっているじゃないか……!
「その三画、私に寄越せ! リツカ!」
「――――ッああ! お前が望むなら! くれてやる!」
迸る赤。心地よく、力強い魔力が流れ出す。
――――準備は整った。宝具を開帳する。破壊神の鏃もまた、ゲーティアの魔力に負けず、轟々と唸りを上げる。
――――“ああ、これは楽しい”。
勝てる見込みは半分以下。しかしどうにも、これは楽しい。この力を、世界を滅ぼすまでの威力で使ったことはなかったのだから――――!
“告げる(セット)”――――。
少年は掌を前に、己の令呪を睨みつける。さあ行け、お前こそが世界を護る、盾になれ――――!「“令呪に命じる”――――装填(ブースト)、最大限(マキシマム)……!」
「アルジュナの! 力になれ――――!」
――――神聖領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定。
――――魔力集束及び加速に必要な時間を推定。
――――相対(リフレクター)開始(セット)。
「さあ、塵芥のように燃え尽きよ!」
「我等が怒りを以て、汝の企みをここで絶つ!」
魔神王の怒号が、アルジュナの鬨が始まりを告げる。
溢れる魔力の嵐に、少年は息を呑んで目を凝らしていた。負けるな、負けるなと、その左手を握りしめながら。“……嗚呼”。
真名解放の直前の、一息分の間で、アルジュナはこれまでの旅路を想う。
オルレアン。
ローマ。
オケアノス。
ロンドン。
北米大陸。
エルサレム。
バビロニア。
あの、長い闘い。短い旅路。
多くの誇りがあった。多くの不安があった。
多くの温もりがあった。多くの戸惑いがあった。
そして、大きな変革があった。
私が“私”を獲得できたのは、私を揺さぶり続けてきたマスターのおかげだ。そうでなければ、私はいつまでも“アルジュナ”でしかなかった。
マスター。リツカ。
だから、私は……その分の恩を、返さねば。
今までのどのマスターとも違う、私を見出し、認めた貴方を、必ず守らなければ――――!「誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)――――!」
「破壊神の手翳(パーシュパタ)――――!」
魔力が渦巻き、光が溢れる。
向かうは人類史そのものとも言える、膨大な、長大なエネルギー。
迎えるは世界を七度は滅ぼせる神の力。
負けるわけには、いかない。マスターを失うわけにはいかないから。マスターを失いたくないから。
ただそれだけの欲の為に、アルジュナは力を振るう。令呪からのバックアップを用い、魔神王の宝具に“耐える”。
――――勝てる見込みなど、ない。本当は、知っていた。勝つつもりでいたのは、強がりに過ぎなかったのだと。
そう。始めからこれは、守るための行使であり、勝つための闘いではなかった。
“それでも”
男はただ、己の存在証明たる少年を、“失いたくなかった”。
そしてそれは、少年の隣の、少女の願いでもあった。だから、男は少女の前を進み出た。少女が守ったところで、結果は同じであっただろうから。――――ありがとう。
呟くように、無音で紡ぐ。どちらにせよ、この轟音の中では聞こえまい。
そうして、小さく微笑む。
まるでやり遂げたかのように。失くしたものを、見つけたように。
此度の戦いに、勝利など有り得ないのに。
「――――貴方と共に旅ができて、本当に良かった。リツカ……」
呟きは轟音に消える。
光の奔流が最大になろうとする中、男は己の名を呼ぶ少年の声を聞いた。
愛憎混濁了。
え、アルジュナが実装されたのは1月だったって?
こ、細ぇことはいいんだよ!(小声)ID変わる前に、訂正が一つあったので……。
ぐだ男くんが握りしめたのは、左手ではなく右手(令呪)でした……。
>>210
お早い感想ありがとうございます!
そう言っていただけると幸いです。>>213
どうもです。ただ書くにしてもプロットもどの陣営が勝つかも上がってないので、暇な時間を見つけて詰めていきたいなとプロットも何も
人狼ゲームなら短期村でも長期村でもリプレイを一つこさえればそれがプロットになるでしょ
どう肉付けしていくかは腕の見せ所なんだろうけど>>212
カルデア人狼楽しそう
でも自カルデアでやると真っ先に天草が天草ケアで吊られそう、無力なマスターを許してくれ…漁っていたら良さげなところを!
ちょっと書いてみる!
バーサーカーだらけの聖杯戦争
亜種聖杯戦争 前夜 どこかの工房
魔術師「よし、これで準備は完了だ。」
魔術師「我ながら素晴らしい手腕だ!なにせ、変則契約による魔力パスの分割を成し遂げたのだから!」
魔術師「君は幸運だね。この私の偉業の手助けが出来るのだから!その魔力の保有量の多さに感謝するがいい。」
少女「…」
少女(…気がついたらここにいた。なんだか体中が痛いし、頭がボーっとする。)
少女(何も覚えていない…。ここに来る前のことも…自分の名前すらも。)
少女(唯一わかっていることは、目の前のこの人に逆らっちゃいけないってことだ。)
少女(あぁ…もうどうでもいい。私にはもう何もないんだから。)
少女(…体がとても痛い。叶うなら、早くこの痛みが終わりますように…。)
魔術師「さぁ、ついに栄光をつかむ時が来た!」
魔術師「触媒は用意できなかったが問題はない!私ならば、相性召喚で最高のサーヴァントを引き当てられる!」
魔術師「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどにーーー。」>>219 続き 長くならないように書きます
同時刻 別の場所
エルドラドのバーサーカー「召喚に応じ参上した。貴様がマスターに相違ないな?」
マスター「うん、そうだよ。よろしく、バーサーカー。共に聖杯を取ろうじゃないかっ。」
エルドラド(…気に食わん。ふん、軟弱そうな男だ。…まぁいい。)
エルドラド「では、敵を見つけに…あぁそうだ。貴様に言っておくことがある。」
マスター「?なんだい?」
エルドラド「私の事を、美しいと言うことは許さん。言えば貴様の命は…」
マスター「くだらないね!」
エルドラド「ーーー貴様、今なんと言った…?」カチャ
マスター「くだらない、と言ったんだ!だってそうだろう!?よりにもよって…この世界で最も美しい僕の前でそんなこと言うなんて!」
エルドラド「…は?」
ナルシストのマスター「僕が!?君に!?はっ!冗談は休み休み言ってくれよ!僕より美しくない君に、そんなこと言う訳ないだろ!」
エルドラド「なんだこいつ?」(なんだこいつ?)>>220
街外れ
ベオウルフ「いい眺めだ。そう思わねぇか?マスター。」
くたびれたマスター(…どうしてこうなった?)
くたびれたマスター(あれだけの触媒を用意し、セイバーを呼ぶ手筈を整えたのに、なぜ触媒と無関係のバーサーカーが?)
くたびれたマスター(はぁ。…突如として現れた、作り手不明の聖杯。令呪は配られるものの数は2画。イレギュラーが多すぎる。なぜ私は参加してしまったんだ…)
ベオウルフ「おらっ!シャキッとしろマスター!」バンッ
くたびれたマスター「ぐへぇっ!?」ベオウルフ「気苦労は察するが、さっさと敵を見つけて叩き潰せばいい話じゃねぇか!」
くたびれたマスター(ベオウルフ、バーサーカーながら意思疎通が出来るというのは、不幸中の幸いだったと言うべきだろう。)
ベオウルフ「なんだったら街中で暴れて全員誘い出すってのはどうだ?」
くたびれたマスター「絶対ダメだよ!?」
くたびれたマスター(やっぱり不幸だけか私は!?)
ベオウルフ「冗談だよ。こんなんでも一応英霊の端くれなんでな。そんな馬鹿な真似はしねぇさ。」
街中 ボォン!
くたびれたマスター「なんだ!?」
ベオウルフ「あー…。どうやら、そんな馬鹿がいるらしいぜ、マスター。」
くたびれたマスター「なんなんだこの聖杯戦争は…?」サーヴァントが男女でペアを組んで周回やイベントクエストに挑むことが決められているカルデアの話です
発表する場所がなくてちまちま書き溜めてたのをここに晒そうと思います>>222
とりあえず考えたのがここまでです!
長文失礼しました!眼下の戦場を眺めてふと思う。
炎上汚染都市・冬木。かつて己が主として君臨していた特異点に終焉をもたらした少女は、何の因果かこの身を駒────否。彼女が語るところの仲間として呼び出した。
『貴女が必要です』
堕ちた己に向けられるその真っ直ぐな眼差しは、かつて過ごした陽だまり(おもいで)を蘇らせて。
「ああ。貴公もあの地に因縁を持っていたな、バーサーカー」
感傷は不要。そう言わんばかりに漆黒の騎士は傍らに佇むのは巌の如き身体を誇る狂戦士。
反転する前は対峙したこともある。いわば腐れ縁というやつだ。故に、彼女と彼は互いのことをなによりも理解していて。
視界の先。薄暗く煙る魔霧の中に、魔道によって精錬された兵士の姿が浮かび上がる。
これより言葉は不要。一切の不浄を、我が聖剣をもって焼き払う。
「ふん……開戦の刻は来た。さあ、蹂躙するぞ! ────ヘラクレス!」
そんな彼女の呼びかけに、大英雄と呼ばれた彼は────
「────────────!!!」
咆哮で、答えた。第四特異点 死界魔霧都市 ロンドンにて
セイバー・アルトリアオルタ
バーサーカー・ヘラクレスこんな感じのをちょこちょこ投下していこうと思います
ペアはある程度固まってるのでエピソードが浮かび次第投下します
どうぞよしなに諸君、私は周回が好きだ。
諸君、私は周回が好きだ。
諸君、私は周回が大好きだ。
種火周回が好きだ
宝物庫周回が好きだ
修練場周回が好きだ
フリクエ周回が好きだ
絆上げ周回が好きだ
イベント周回が好きだ
冬木で オルレアンで セプテムで オケアノスで ロンドンで アメリカで キャメロットで バビロニアで 新宿で アガルタで 下総国で セイレムで
このFGOで行われるありとあらゆる周回行動が大好きだ
(HELLSING 少佐のセリフより)戦列を並べたバーサーカーの宝具が轟音と共にエネミーを吹き飛ばすのが好きだ
空高く放りあげられたエネミーがインフェルノの旭の輝きによってバラバラになった時など心が踊る
アーラシュの渾身の一射が高体力のエネミーを撃破するのが好きだ
悲鳴を上げて燃え盛る新宿駅から出てきた雀蜂をドゥリンダナで薙ぎ払ったときは胸がすくような気持ちだった
征服王の軍勢がエネミー共を蹂躙するのが好きだ
ブレイブチェインを決めたサーヴァントが既に息絶えたエネミーを何度も何度も攻撃する様など感動すら覚える
(HELLSING 少佐の演説から)投稿するかしまいか迷ってた小説の序文を、せっかくなんで投げさせて頂くぜ!
『Fate/dual order』
手を伸ばす。
極天には幾筋もの流星雨。
それらのどれもが希望の星で、私のセカイからは遥か遠くで照り輝く。
万夫不当の英雄達はみな、『彼』との絆を胸に人の世を護ろうと終局に臨んでいる。かんばせには笑みを、心には誇りを持って。
『彼』は走る。いかほどの死で両腕を穢そうと、幾多の血に塗れようと、『彼』は自らを確信している。
その強さに至るまで、数百の夜を超える葛藤があったことを『私』は知っている。
────つまるところ、羨ましかったのだ。
ああ、彼と私。同じモノであったはずの私達は、どこで道を違えたというのだろう。
手を伸ばす。
もはや届かぬものとなった『彼』の背中に、手を伸ばす。SS書けないけど設定という名の妄想は色々捗るよねぇ。
アポクリファがアニメになったからアポの二次とか色々と思い浮かぶ。
・カウフラルート
・セレニケ生存ルート(オリ主あり)
・聖杯大戦対聖杯大戦(アポ勢14騎VSひむてん次元14騎)一刀繚乱を聞いてたら浮かんだ話のプロローグだけ投げてみる。
寛永二十六年、師走。
流浪の剣客、絹はとある噂を耳にした。
睦月の頭に下総国で御前試合を執り行う。
下総国を故郷に持つ絹は実家へと舞い戻り、弟に連れられて行った御前試合の受付で予想だにしないものを見ることとなった。
神槍・宝蔵院胤舜。 火箭・巴御前。
雷神・源頼光。 酔魔・酒呑童子。
魔王・蘆屋道満。 大蛇・望月千代女。
剣鬼・柳生但馬守宗矩。 飛燕・佐々木小次郎。
そして、天剣・新免武蔵守藤原玄信。
これは『あの男』の偶然なのか。それとも仏様の神通力か。ただならぬ何かを感じた絹は、10人目の参加者としてそこに名を連ねることとなる。
並び立つは魑魅魍魎に悪鬼羅刹───否、七人の剣豪英霊。
いざ参りましょう。屍山血河の試合舞台。
第XX特異点 寛永二十六年。英霊御前試合 下総国。アビーの幕間が待てないので軽くSS考えてみる
マスターはぐだ子で
夜間。シミュレータでの訓練を反芻しながら体を揉みほぐしていると、小さな来訪者が
「マスター、あの…」
淡いピンクの生地、フリルとリボンで飾り付けたネグリジェに身を包んだアビーだ
ん?どうしたの?
言い澱むアビーに先を促す。
「ひ、一人で寝れなくて…一緒に寝てくださらない?」
あー…
確か今日はナーサリー主催の朗読会があったはずだ。ジャックから事前に聞いていたが相当ハードな物を読んだに違いない。
いいよ、こっちおいで?
ベッドに腰掛け促す。
「…!!」
嬉しそうに此方にやってくるアビーはとても愛らしく、母性が爆発しそうだ。
もぞもぞとベッドに入り込むアビーの隣に入り、眠るまで頭を撫でることにしよう。>>233
数分もしないうちにアビーはすやすやと寝息をたて始めた。
電気を落とし常夜灯を付けて、自分もさっさと寝ることにしよう。
暗転
自分の身体の制御が効かないような不快な感覚に目を開く。
目に映る満点の星明かり。違和感。
頬をつねり痛みがないことを確認する。
…どうやら明晰夢のようだ。
私はドレイクの船にあった上陸船より一回り小さいボートに乗っていた。
より詳細な情報を得ようとじっくり観察するが、頭に靄がかかったように情報を整理できない。
こういうときは気づいたことを一つ一つ口に出してみる。
…船の舳先にランタン?手触りはわからないけどこの船は木製みたい。星は…明るいけど見たこともない星の繋りだ…
船と言うことは液体の上にある筈。と船から顔をだし覗き込む。
むせかえるような薔薇の香り。ランタンや無限の星に照らされた液面は玉虫色に光を反射する。
あまりに幻想的で、自分の夢にしては突拍子もない景色に暫し唖然とする>>234
誰かサーヴァントの夢と繋がってしまったか。
心当たりを探す。
しかし皆目見当がつかない。
特別何か起こるわけでもない夢の中、湖面をただ眺めるのは退屈で、船上で横になる。
首元で金属の擦れる音がする。
取り出してみると、どうやらセイレムで拾ったロザリオだった。
このロザリオ、鍵みたい
ふっと沸き上がった考えに苦笑しながら、空中で鍵のように捻ってみる。
甲高い、まるで錆びた鉄製の扉を開けるような音が響く。
眼前に唐突な閃光が巻き起こり、目を開けていられない。
くうっ
「ああ、すまない。突然引きずられたと思ったが、君だったか。(CV杉田)」
どこで聞いた声。目を擦りながらゆっくり開く。
「君のそれも、やはり鍵だったようだな…。」
独特のスーツに刈上げ、どこか強い意思をもった顔立ちの紳士…
あーっ!セイレムの!
「覚えていてくれて何より。」>>236
暫くすると夢の景色に変化が表れ始めた。
空が少しずつ白み始め、水面には霧が出始める。
が、そんなことはお構いなしに船は進む。
…本当に霧が濃い。
手を伸ばした時の指先さえ見えない程だ。
そんな中頭に響いてくる出鱈目なフルートと太鼓の音。
左右を視やると、巨大な門をくぐったようだ。
「こんなところまで来てしまうなんて…座長さんは悪い人だわ…」
聞き覚えのある声に霧の中で声の主を探す。
船が進む度に段々とフルートと太鼓の音が大きくなって感じるために、声がどこから聞こえたかわからない。
アビー!どこーっ!
声をあげる。ふと、後ろから口を塞がれる。
「大きな声を出すとあの方が起きてしまうわ…」
ひんやりした小さな手、肩口にかかるサラサラの髪。まぎれもなくアビーの筈だが違和感。
「夢を伝って来たのね…魔術師ってすごいのね」
キミは…?本当にアビー?
「私…?ワタシ、は…」
空気が変わる。まるで船の周囲のみが凍りついたように霧が流れる。>>237
「一にして全、全にして門。その端末。私は見定めるもの。鍵を持つものを最後に試すもの。」
「さあ、境界に立って…ここからの眺めを楽しんで…?あなたならきっと耐えられるわ…。」
(Battle ウムル=アト・タウィル(フォーリナー))
「重畳重畳。銀の鍵の所持者、貴女を認めましょう。「マスター」」
突如浮遊感と落ちるような感覚。
暗転
マイルームで目を覚ます。頬をつねる。痛い。
時計を見ると、起床には少し遅い時間だった。
起きるよアビー
声をかける。
「うぅん…おはよう座長さん…」
寝ぼけ眼のアビーを膝の上にのせて髪を梳いてやる。
今日も一日が始まる。
幕間 アビー宝具強化
待ってます一万字を超えるものはどう投稿すればいいのか悩み中
行数にして404行、やりたいようにシャークネードとのクロスSSを書いたらむやみに長くなってしまった…
メモ帳スクショで貼ればいいかな?>>239
長いならピクシブなり、笛吹きの方がいいと思うぞここらに出すならあらすじだけとか、短編みたいな短いものじゃないとキツイからねえ
「※※※!そっちの木箱はカメラだから封をする前にフィルムのチェックをしておいてくれ」
青年…というには少年の面影を残した彼は上官の声にまだ封を木箱の中からカメラを取り出して中身をチェックする。
命令した上官は今回の“探索”の要である“彼”と何事かを話し込んでいた。おそらく現地にいってからの打ち合わせの最終チェックだろう。
普段は柔らかな物腰の上官の顔も険しい。当たり前だ、このご時世に他国内で軍事行動をしようと言うのだ。
もちろん、現地の軍部とは“ある程度”の話はついてる…とはいえ言葉の通り本当にある程度でしかない。
なにしろ現地では「競争相手」なのだ。
そんなことを想いながらカメラを弄っているそ何かの拍子にシャッターを切ってしまう。正面の“彼”と上官にフラッシュが浴びせられる。
※※※は遺産収集局における聖杯探索隊……通称『ギャラハッド隊』の補欠メンバーの一人だ。定員割れから急遽編制されたことで訓練もほとんど済んでいないために
事実上制服を着ただけの一般人と変わらないため最初は馴染めるか不安だったが彼が元々人懐っこい性格のためかすっかり隊の空気にも馴染んでいた。
同僚たちとは上手くやっているし最近はちょっとした良い事もあった。
部隊には様々な年齢や役職の者がいるがそのなかには同い年くらいの女もいる。時計塔の政争から敗れた魔術師の一族で今は魔術使いとして祖国に協力してるのだが最近彼女と婚約した。
同僚からはやっかみっぽく祝福されて彼はこの任務が終わり次第彼女と結婚するするつもりだった。―――――193×年 日本・冬木
※※※はボロボロの身体で這いずっていた。顔の半分は抉られているし片脚も千切れている。それでも彼は必死に前に進む
「ダーニックが裏切った」それだけを仲間に伝えるために。
“彼女”は死んだ、俺を庇って。彼女が礼装を渡していなければ自分はとっくにこと切れていただろう
涙がポロポロとこぼれて泥と共に視界を塞ぐ、それが婚約者を失った悲しさからなのか肉体の痛みからなのか彼には判別つかない。
円蔵山から聖杯を奪取。しかしその裏では既にダーニックの計略が潜んでいたのだ。口封じに殺されかかったが…俺は生きてる…まだ間に合う……早く仲間に……―――
遠ざかっていく飛行艇を見ながら彼の意識はそこで途切れた。
彼が目を覚ましたのは教会だった。
璃正という若い神父によると彼が気を失ってから一週間が経っていた。
ダーニックは甘くない、、仲間は1人も生き残ることはないだろう。
“彼女”はこの教会の墓地に葬られた。
彼にはもう何もなかった。―――19××年 中東・某所遺跡
日焼けしたした青年が見守る中で遺跡から次々とトラックに遺物が運び込まれている。
「……それにしても独力で女帝の時代の遺跡を発見するとは大したものだ…我々は『収集局』であちこちの史跡を巡ったがあれは当時の祖国の力を使って総ざらいしたようなものだからね」
その背後から老人の声が掛けられる。
「久しぶりだね、ルーラー……いやシロウ・アマクサか」
車椅子に乗った老人が皺だらけの顔をくちゃくちゃにして笑みを作った。
しかしそれは年月の刻まれた深い皺と古傷である顔半分の抉られた痕により苦痛に顔をしかめたようにしか見えない。
そう思う程度には老人の姿は痛々しかった。車椅子に乗せられた枯れ木のように痩せ衰えた身体や顔の傷痕もさることながら鼻にはチューブが通されており、
ガウンの下にも点滴がいくつも付けられて車椅子に取りつけられた装置へと繋がっている。
傷が無い顔側の片目も緑内障の兆しがあるのかまともに視えているのか怪しい。
正直、こんな日差しのキツい荒れた土地に連れて来ていい老人ではなかった。
ただ唯一傷のある方の顔の眼は老人とは思えないほどの力強さが宿っている。
「シロウ・コトミネ…今はコトミネと名のっていますよ御老人」
対して日焼けした青年も笑みで返した。
「御老人!御老人と来たか!対して歳は違わないだろう!」
老人は咳き込むように笑った。そして世間話でもするようにこう言った。
「コトミネ、君に会ったら一度聞きたかった、我々を恨んではいないのかな?―――なにしろ君のマスターを…」
「恨んでなどいませんよ、悩みもしましたがそういうものは通り過ぎました」
青年は即答した。そこには何の淀みもない、心の底からの言葉だった。老人は再び笑った、今度は咳き込む様にではなくどこか頑固な同い年の老人をみるようなそんな顔で。
「君は強いのだな……私の方はこの60年ずっと恨み通しだったとも」
老人の言葉には人生の半分以上を憎悪に費やしたことへの悔恨の響きはない。
それどころか今もなお煮え滾るような憎悪がその言葉が感じられた。
それを聞いたコトミネはそっと目を伏せた。老人を憐れんだのか、もっと別のなにかか、彼の胸中のそれは分からない。
「ご協力感謝しますよ御老人、これらを国外に持ちだすのは流石に1人では難しかったのですよ」
「謙遜するな、これを見つけたのも密輸ルートを構築したのも保管場所を作ったのも全て君だ、私は君の指示通りに金をばら蒔いて人員を配置しただけだよ…誰も自分がどんな仕事をしているか知らないから情報も洩れようもない…コトミネ、君の執念と努力に感服の念を覚えるよ」
老人は東西ドイツの時代と“壁”の崩壊を経て軍部時代のコネクションから企業を設立して莫大な財産を築いていた。
今は会社は人手に渡して趣味に余生を費やす悠悠自適な隠居生活―――というのが表向きだ。
彼は常に裏世界にアンテナを張っていた。聖杯戦争に関わる魔術師たちが手に入れようとする聖遺物の動きでユグドミレニアの動きを見張る為に。
―――いくつかの聖遺物が時計塔やユグドミレニアに流れたことにも関わっている、それらは祖国が収集した遺産(アーネンエルベ)だ。
そのアンテナにシロウ・コトミネの方から割り込んできた。そうして協力を取り付けてきたのだ。「お礼の代わりと言ってはなんですが“何か言伝はありますか?”」
その言葉に含まれた意味には色々なものがある、おそらく“戦場を生きた2人の老人”の間にしか伝わらない事。
「屈辱を味あわせて欲しい…生涯をかけて命を賭け金(ベッド)にして目の前の目的に手が届く瞬間に奴が積み上げた全てを一切合財を無慈悲に灰塵に帰して欲しい―――ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアをこの世からその魂の一片すらも消滅させてくれ」
シロウ・コトミネが了承したかはわからない。ただ「善処しましょう」というだけだった。
「そろそろお暇しなくては。ありがとう御老人……いえ、※※※さん、会えてよかった」
「ああ、シロウ・アマクサ、私もあなたに会えてよかったよ」
この二人は二度と会うことは無いだろう。おそらくこれが最後の邂逅だ。
背を向けたコトミネに老人は最後に言葉を掛けた。
「君の“救済”がどんなものかは知らないが……私はその対象外で構わないよ、いまさら降って沸いた救いなどいらない。私の悲劇も憎悪も私だけのものだ。私は私として戦友や婚約者に再会したいのだよ…地獄でね」
神父は返事をしなかった、その言葉に何をどう思ったのかもその後ろ姿からは推し量れない。
「君に勝利(Sieg)をアマクサ」
ドイツ語で呟かれたその言葉をシロウ・コトミネ……天草四郎がこの老人の言葉を次に思い出すのが数年後の空中庭園でのことになる。
まさか老人もこの言葉が皮肉になるなど思いもしなかったろうが。
老人は懐から写真を出す、色褪せた集合写真、1人だけ塗りつぶされているがあのころの聖杯探索隊の集合写真だ。
老人はその写真を見ながらもの思いに耽った。
「出発前に写真をとりましょう!」そう言ったのは確か自分だった、そう思いながら
その間、神父は一度も振り返らなかった―――200×年~ドイツ
『ルーマニア…で起こった…殺人…捜査は……次のニュース…航空機墜落は…テロの危険は…政府発表…』
老人が目を開けてます感じたのは家政婦のいる部屋から洩れでるテレビの音声と今日も死ぬこと無く目を覚ましたということだった。
ゆっくり身体を起こして窓を開ける。良い天気だ。
家政婦がやってきて手紙を渡す。その内容をみてうっすら笑みがこぼれたらしく家政婦が「良いニュースですか?」と聞いてきた。
「いや、訃報だよ。だが嫌いな奴でね」そう言うとジョークだと受け取ったのか家政婦も「あらやだ旦那様ったら」と笑った。
窓の外を見る、変わらぬ街の喧騒が広がっているだけで世界が救済された様子は無い。
「残念だったねアマクサ……だが君の覚悟と執念には感服したよ」
窓から景色を見る老人はゆっくりと部屋の中に視線を戻して―――
「君を見習って“私達”も諦めるにはまだ早いと思ったよ……遺産は受け継がれるのさ」
老人の前には複数の老若男女がいつのまにか立っていた。老人を含めて総勢“七人”。
「今度こそ我々の聖杯を―――聖杯大戦を始めよう」
――――聖杯戦争は終わらない、外典は新たに紡がれていく
Fin……?乙でした
一先ず他媒体に出すように本編書く前に
備忘録として設定をば
これは異端のみにより行われる正しい聖杯戦争
聖杯解体の前の最後の奇跡
参加クラス
ルーラー/グリムリーパー
フォーリナー
アルターエゴ
ウォーモンカー
ガンナー
コマンダー
シールダー
アヴェンジャー
■■■■■/■
アポ世界線の分岐点で大聖杯が盗まれなかったルートを予定
盗まれなかった為、大聖杯は冬木の地で純度の高い第三魔法顕現のための器になりかけ
アインツベルンの暴走を止めるために時計塔や他御三家は大聖杯の解体を画策。
その目を盗み最後の一押しとして聖杯戦争を起こすアハト爺
しかし喚ばれるサーヴァントは全て「エクストラクラス」だった…※ふと思い浮かんだ一発ネタ
『アポプテピピック』
玲霞「私はおかあさんよ、知りたい事何でも教えるわ」
ジャック「わたしたちののことどれくらい好きかおしえて?」
玲霞「いっぱいちゅき(ハート)」
※※※※※
アポプテェェェェピピックゥウウウウ!!! byユグドミレニア当主
※※※※※SSを語るスレでネタにしていた初期設定マシュin第5次聖杯戦争の嘘予告です。SSを書くこと自体が数年ぶりなのでかなり稚拙なものになりますが楽しんでいただければ光栄です。
それはありえるかもしれない物語
「あのような部外者に任せてなどいられん、我々もサーヴァントを召喚するぞ」
「だが第3次はそれで失敗したのでは?」
「アンリマユはただ弱すぎただけだろう、だから今度は別のクラスを召喚する」
再び召喚されるイレギュラー、だがイレギュラーを2度繰り返した代償は大きかった。
「やめろ!私はマスターだぞサーヴァントなら従え!」
「ます…たぁ…?なんで従う必要があるの…?」
「くそっ!何故令呪が現れないんだ!く、来るな!」
狂った彼女は主と家を失った、それから10年の月日が流れ…第5次聖杯戦争を前に様々な思いを抱える人々
『私だ。解っていると思うが、期限は明日までだぞ凛』
「…ふん、言われなくても分かってるわよ」
日常が終わる事を知らずにいる者達
「衛宮先輩、今日一緒にご飯食べませんか?」
「藤丸か、いいぜ」
「チッ、残念だけど衛宮は今日は僕と付き合ってもらうことになっているんでね。君のような奴が一緒だと僕の品位が下がるんだよ」
復讐を誓う者達
「いいバーサーカー、私達が一番強いんだから絶対に勝ち残るのは勿論だけど、あの2人は必ず殺.すのよ。アインツベルンを裏切ったキリツグとシールダーはね」
「■■■■■■■■ーーー!!!」高みの見物をする者達
「しかし9騎のサーヴァントがここに集う事になるとはな」
「だが奴は無視しても構わんだろう言峰。アレは生きる事を放棄した負け犬だ」
そして…
「大丈夫?君はどうしてこんな所に」
「…放っておいてください」
「訳ありみたいだね、とりあえず俺の家においで」
彼の運命は
「君の名前は何て言うんだい?」
「ごめんなさい、言えません」
「えっと…それじゃあマシュって呼んでいいかな?」動き始める
「サーヴァント!そんな!?」
「な、アレは一体!?」
「へぇ、藤丸もマスターだったのか。丁度いい、放課後に調子に乗ったツケを払ってもらおうじゃないか。やれライダー」
「藤丸さん、私と契約してください!」
「契約!?」
そこに権限するのはいるはずのない第9のサーヴァント『シールダー』
「マスターあなたの事は私が守ります!」
「君は一体…」
その日、少年は新たな運命を出会う
Fate/ninth shield
『公開未定!』ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトはその美しい音楽性とは裏腹に彼の生前の曲の中に「俺の尻を舐めろ」という名前があったりするなど、中々に口汚く下ネタ好きである。
それはカルデアに召喚されているときでも同等で、マリーから禁止にされているので自嘲してはいるものの時々男同士で楽しそうに猥談に及んでいる場面を時折見かけられている。
そんなある日である、マスターがシュミレーションで失敗し珍しく落ち込んでしまった。
サーヴァントたちは何とか元気づけようと試行錯誤していたが、アマデウスだけはパソコンの前で何かを入力し得意げな顔をしているだけだった。
そんなアマデウスにマスターへと励ましの手紙を書いていたサンソンが不本意ながらも気になったので聴いてみることにした。
「何をそんなに得意げにパソコンの前に座っているんだ?」
「おっとそれは手紙かい? なるほど旧時代的な人間がやりそうなことだ」
「君もある意味旧時代から来た人間だろう……手紙のどこが悪い? 気持ちを伝えるにはこれ以上の物はないだろう、直接言葉を伝えることを除いて」
「いいや、悪いとは言っていないさ。だが君がR(リアル)メールをせっせと書いているとき、僕はEメールを使ってマスターに励ましの言葉を送信してたんだよ。開いたら音楽がなる機能付きでね、こういう時はさっぱりとした方がいいのさ、人間が分かってないな君」
「一番言われたくないやつから一番聞きたくないセリフを……! まて、それは個人用のアカウントから送ったのかい?」ふと何かを思いついてサンソンが口にした。彼は良くアマデウスから酒に酔っぱらった勢いで何かの支離滅裂な文章を秀抜な音楽と共に送られていたのを思い出したのだ。
「意外と詳しいな君……それは個人用だろう、個人の用事で、プライベートな事だからね」
「それ、ちゃんと最後の署名を消したか……?」その言葉を聞いた瞬間、アマデウスは一瞬固まって「ちょっと用事が出来た」とそのまま早足でそこから去っていった。残ったサンソンはやっぱりRメールの方がいいなと一人手紙にリボンを上品につけることにした。
アマデウスが向かったのは、マスターの部屋であった。ノックをしながら部屋に入ると部屋にはマスターと共にマリーがベットに座って丁度アマデウスから来たEメールを端末から見ている所だった。心地よい音楽が共に流れているのでそれは端末を覗いていないアマデウスにも分かってしまう。
「やぁ、マスター、マリー、もしかしてもう見てしまったかな?」
「『だから君も落ち込まないでいろんなサーヴァントに相談してみると言い。もちろん僕も力になると約束するよ』……『僕のくさい尻』より送信。素敵なお手紙ねアマデウス」
にこやかに笑うマリーの笑顔が何だか怖い。こういう時のマリーが一番怖いとアマデウスは知っている。
「いや、その、なんだろう。誰かからハッキングでもされたかな?」
「ありがとう、とても元気がでた」マスターがアマデウスに向かって照れくささそうに言った。「その、結構ジーンって来たし、音楽も添えられてなんだか泣きそうになっちゃった」
その言葉を聞いてアマデウスは少しばかり安堵した。喜んではくれたらしい、これならマリーの怒りも収まるだろう。しかし署名が最近変えた物でよかった、ひとつ前のだったらマリーはすでにガラス製の馬に乗っている所だ。
「悦んで貰えたのなら」
「モーツァルトのお尻に言ってる」幸せってなんだろう。
部屋のベランダから身を乗り出して、やたらと大きく見える三日月を眺めながら少女――アビゲイル・ウィリアムズは考えていた。
大人たちは「今、頑張って勉強すれば将来幸せになれるよ」なんて言うけれど、大人たちは『幸せ』が一体なんなのか、教えてくれない。
ならば、とこっちから聞いても答えはバラバラ。
「それは、自分で掴み取るものだよ」と言う人がいた、
「それは、誰かを好きになることさ」と言う人もいて、
「それは、君のすぐそばにあるんだ」とも言う人がいて、
「それは、人によって違うものだよ」なんて言う人もいた。結局何もわからないまま。
「子供が考えることじゃない」と言う人もいた。自分でもそんな気はしているし、大人になれば自然と分かると思っている。
けれど、このまま大人になって、色んな人と出会って別れて、どこかの誰かと一緒になって、子供を産んで育てて見守って、たくさんの人に惜しまれながらこの世を去る。
そんな分かりきった人生の中で見つかる『幸せ』なんて、みんな同じだと思ってしまう。
なのに大人たちはみんな違う答えを言ってくる。人によって違うと、人それぞれだと言う。
だからこそ分からない。どれだけ考えても誰に聞いても分からない。
「はぁ~……もう寝ないといけないのに」
時刻は9時半。いつもならとっくに寝ている時間だが、普段はしない考え事のせいか、目が冴えてしまった。このままでは夜更かししてしまう……いや、もうしている。どうしよう。
「は、早く寝なきゃ…ティテュバに見つかったら怒られちゃう」
羊を数える?――最高記録は4桁オーバー。意味がないことは知っている。
天井のシミを数える?――シミなんかない。毎日しっかり掃除されている。
子守唄?――自分で歌ったところで眠れるはずもない。名案が浮かばないまま、部屋の隅から隅までぐるぐる回って、またベランダに出て――閃いた。
「そうだわ、眠ろうとするからいけないのよ! 逆に起きていればいいのよ!」
たまになら夜更かしをしても、悪い子になってもいいだろう。
そうと決まったら何をするか決めなければ。例えば――夜中のテレビを見るとか、ティテュバ秘蔵のお菓子を探し出すとか、叔父様の書斎に忍び込むとか、
―――夜に散歩する、とか。使用人のティテュバを起こさないように、かちゃりと少しずつ扉を開けてゆっくりゆっくり外に出てから、またかちゃりと音を立てないように閉める。
これだけのことなのに随分と時価をかけてしまった。少し汗もかいている。
アビゲイルの住む家はかなり大きい――というかお金持ちのお屋敷そのものである。そんな屋敷なら当然ながら扉も大きい。おかげで思ったより時間を取られてしまった。
季節は春。まだまだ夜は肌寒いが、ほんの少しだけ散歩するなら問題はない。さぁ、初めての夜の散歩だ。ちょっとした悪戯心が、冒険心が騒いでる。
といっても目的地は決まっている。屋敷の裏の坂をまっすぐ上った所にある小さな公園だ。
とにかく狭く、遊具も少ない。なにより灯りがない。
そんな場所に好き好んで近づく人間なんて滅多にいないだろう。だからこそ、この一人っきりの夜の散歩にはうってつけの場所だった。
アビゲイルはずっとうつむきながら歩いていた。そうしないとついつい夜空を見てしまいそうになるからだ。今見てしまうのはもったいない。どうせなら一番綺麗に見える場所で――と。そうしてアビゲイルはうつむきながらしばらく歩いた。普段なら誰かが危ないと注意するけど一人なら注意されるはずもない。それがまた楽しくて楽しくて―――
「ふふっ……あら?」
なんだか視線を感じる。まさかティテュバにバレていたのかと、焦って振り向く。
五十歩ほど離れた場所に立っていたのは、かなり大きなハサミを持った長身の男性―――いや違う。普通の人間に、あんな蝙蝠のような羽がついている訳がない。人間ではない、ならば――
―――悪魔?
アビゲイルは直観的にそう感じた。どうしようもないくらいにアレが悪魔に見えて仕方なかった。急に、怖くなった。
―――逃げないと。
それからアビゲイルは走った。走って走って逃げた。すぐに息が上がり、喉が熱くなったがそれでも走った。
姿を見ただけで逃げるなど、普通の相手ならば失礼極まりないだろう。しかしそんな常識を気にする余裕は、アビゲイルには無かった。振り返らなくても分かる。妙に耳障りな足音が、少しずつ少しずつ自分に近づいている。
「いやっ……! 誰か、だれかぁ!」
たまらず叫ぶ。このまま捕まれば何をされるか分からない。最悪殺されるかもしれない。
「だれか、だれでもいいから助けて! ここにわるい人が、わるい悪魔がいるの! おねがいたすけて!!」
ボロボロ泣きながら助けを呼んでも、誰も来てくれない。都合の良い正義の味方なんてこの世にはいてくれない。それが悲しいことだと思ってしまった。
どれだけ走ったろうか。気づけば、目的地の公園についていた。あの耳障りな足音はもう聞こえてこない。「にげ、れた? よ、よかった……あはは……」
安堵のあまり尻餅をついてしまう。こんな怖い思いをしたのは初めてだった。どんな夢の中でもこんなに怖くはなかった。
「…………」
月と星で埋め尽くされた宙の海はとても綺麗だけど、今日はもうそれを楽しめないだろうと、アビゲイルは思った。今はそれよりもあの屋敷に帰りたかった。
「もう、帰ろう……」
そうだ、帰って寝よう。そのためにはまず落ち着かなければ。
アビゲイルは毎朝しているお祈りのように目をつむり、息を整える。瞼越しに月の光が飛び込んでくる。―――ふと、月の光が陰る。
まさか、そんな。いや、でも、おかしくない。アレはそういうものだ。そういうものだからこそ人に嫌われて、怖がられる。アビゲイルは半ば諦めながら、震えながら目の前の景色を見た。あぁ。やっぱり―――
月の光を背負って、悪魔が立っていた。
「あぁ……」
悪魔が近づいてくる。アビゲイルはもう泣くこともしない。助けも呼ぼうとしない。
諦めた。この悪魔からは逃げられないと。誰も助けに来てはくれないと。ここで自分は終わるのだと。
悪魔は近づいてくる一歩一歩ゆっくり少しずつ。
アビゲイルはろくに回らない頭で考える。ひょっとしたらこれは夢ではないかと。そうだ、夢だ。悪戯をした自分が悪魔にお仕置きされるなんて、出来過ぎた夢ではないか。そうに違いない。
あと一歩二歩で手が届くという所で大きな大きなハサミを持ち上げた。そのままハサミをまっすぐためらいもなく突き出してくる。
神様、どうかこれが夢でありますように。ぞぶり、と湿った音が聞こえる。大きなハサミの刃が、少女の体を何の抵抗もなく貫いていた。綺麗な紅が広がって、公園を汚していく。
「かふっ……えぅ……」
自分の中から熱いなにかが抜けていく。自分だけが寒くなっていく。一人だけになっていく。
いずれ死にゆく少女を眺めながら悪魔はきょとんと、不思議そうな顔をしている。そのまま不思議そうに眺めた後に、何か思いついたように飛び去ってしまった。
残ったのは一人の少女。自分の幸せを見つけることすら出来なかった少女はここで死ぬ。たった一人で、誰にも見送られずに、何も残さないまま。
「まだだ、起きなさい。アビゲイル・ウィリアムズ」
――だれ?
「私のことはいい。今、重要なのは君の右手だ」
――わたしの、て?
「そうだ。――君の手に魔法の杖在り。虚無より顕れ、その光で君を救う」
――たすけてくれるの?
「無論だ。代償として、未来を変えさせてもらう。いいな?」
――うん、いいよ
「では……契約成立だ。あぁ、良かった」
瞬間。自分の中になにかが入り込んでくる。自分と同じような違うようななにかが入り込んでくる。
なにも分からないけど、自分が変わっていくのが分かった。変わりたく、なかった。
あぁ神様どうか、どうか今度こそ―――夢で、ありますように。名前の部分を文章のタイトルにすると読む人がわかりやすい
琥珀さん「あらら〜秋葉様と当たっちゃいましたか〜。お手柔らかに頼みますよ、秋葉様っ♪」
秋葉「1戦目からあなたと当たるとはね・・・琥珀。先が思いやられるわ」
琥珀さん「そんなに嫌な顔しないで下さいよ秋葉様ー。せっかくの交流会何ですから楽しく遊びましょうよ、楽しく。」
秋葉「(にこやかな笑顔の裏でどんなえげつないギミックを仕込んでるのかしら・・・)そうね、あなたは主人を不快にしないようなプレイを心掛けることね。」
琥珀さん「それではよろしくお願いしますね秋葉様♪」
秋葉「ええ、では」
琥珀さん&秋葉『デュエル!』秋葉「ダイスの目は17で私の勝ちね。先攻を頂くわ。」
琥珀さん「流石です、秋葉様〜!よっ、ダイスの腕も日本一!」
秋葉「おべっかを言うのはいいからマリガンチェックしなさい!(審問、剥ぎ取り、リリアナ、プッシュ、残りは土地ね・・・欲を言えばタルモが欲しかったけど色事故もないしいい感じね)キープするわ」
琥珀さん「(ふふふっ、凄い手札をキープしちゃいましたよ秋葉様〜)こちらもキープいたします」秋葉(LP:20 手札5枚)「では私のターン。メインフェイズに湿地の干潟をプレイしてライフを1点払い即起動するわ。ライフを2点支払って神なき祭壇をアンタップインして黒1マナからコジレックの審問をキャスト。琥珀?どんな手札をキープしたか見せてもらうわよ。」
琥珀さん(LP:20 手札7枚)「ちょーっと待った!秋葉様、今ライブラリーからカード探しましたよね?」
秋葉(LP:17 手札5枚)「えっ?ええ・・・。」
琥珀さん(LP:20 手札7枚)「コジレックの審問にスタックで書庫の罠を唱えます。さらにスタックで書庫の罠を唱えます。さらにスタックで書庫の罠を唱えます。」
秋葉(LP:17 手札5枚)「・・・は!?(威圧)」琥珀さん(LP:20 手札4枚)「では合計39枚のカードをライブラリーから墓地へ送って頂きますよ、秋葉様♪」
秋葉(ライブラリー:13枚 手札5枚)「ふざけんじゃないわよ!!(全体的に迫真)」
琥珀さん(LP:20 手札4枚)「ほらほら、相手を怒鳴りつけたりしたらジャッジ呼ばれちゃいますよー。書庫の罠の解決終わったので審問の解決どうぞ♪」
秋葉(ライブラリー:13枚 手札5枚)「くっ、やってくれるじゃない・・・(カニはプッシュで落とせるしこれじゃあ一択しかないわね)不可視の一瞥をディスカードなさい!ターン終了よ」琥珀さん(LP:20 手札3枚)「私のターンですね、アンタップアップキープドロー!汚染された三角州を場に出しライフを1点ペイして即起動し島を場に出します。そして面晶体のカニを唱えてターンエンドです!」
秋葉(ライブラリー:13枚 手札5枚)「私のターン、アンタップアップキープドロー」
琥珀さん(LP:19 手札2枚)「ストーップ!ドロー後にライフを2点ペイして秋葉様の墓地に一枚しかないタルモゴイフに外科的摘出を打ちます!手札も見せていただきますよ?秋葉様♪」
秋葉(ライブラリー:12枚 手札6枚)「きぃぃぃぃッ!好き勝手やってくれるわね・・・。」琥珀さん(LP:17 手札1枚)「あららータルモちゃんトップデッキだったのに残念ですねー。ではライブラリーから残り2枚のタルモちゃんを追放していただきます。」
秋葉(ライブラリー:10枚 手札5枚)「白々しい物言いはやめてもらえないかしら・・・。あんまりからかってると本気で怒るわよ?私は花盛りの湿地を場に出し黒1マナでカニを対象にプッシュをキャスト、カニには墓地に行ってもらうわ。ターン終了よ。」
琥珀さん(LP:17 手札1枚)「ターンをいただきます。アンタップアップキープドローします。私は血染めのぬかるみを場に出します。1点ライフをペイして即起動、沼を場に出します。そして青と黒の2マナから強行をキャスト、秋葉様〜更に8枚ライブラリーを墓地に送ってもらいますよ♪ターンエンドでーす。」
秋葉(ライブラリー:2枚 手札5枚)「アンタップアップキープドロー・・・(いくらなんでもあと1ターンでライフを削りきるのは無理ね・・・)投了するわ。・・・覚えておきなさいよ?サイド後酷い目に合わせてあげるわ・・・」
1ゲーム目 琥珀さんWin某動画を見ていたら1ターン目に書庫の罠を3連打されたトラウマが蘇ったのと深夜のノリで書きました
「貴様が膝を屈したとき、その首を戴く……と言ったが。
よもや、本当に最後までやり遂げるとはな。私も鍛えてやった甲斐があるというものだ。
誇るがよい、〇〇。人理修復という任務、貴様は確かに成し遂げたのだから」
査問団訪問前夜、サーヴァント達が退去して閑散となったカルデアにて。
珍しく吹雪の止んだ、星空の見える夜。夜明け前の屋上で、セイバーオルタとカルデアのマスターは最後の別れを交わしていた。
「貴女を召喚して以来、いつも貴女が首に聖剣をかけている気がして、生きた心地がしなかった」
そう言って笑うマスターの前で背を見せて佇むオルタは、黒いドレスを纏い普段纏めている髪を下ろしていた。
「……でも、そのおかげでどの特異点も攻略できた。俺は凡人だから。戦いより、もっと怖い存在が身近に居たから、常に前を向いていられた。
実際、貴女ほど味方なら頼もしい人はいない。俺が諦めない限り貴女が味方してくれるなら、俺にはもう『諦める』なんて選択肢はなかったんだ。それに、どんなに酷い目にあっても貴女が終わらせてくれるとしたら、それはそれで気楽だったし」
「言ってくれる。……まあ、貴様との契約は悪くはなかった。
細やかさではベディヴィエールに及ばぬ。力も円卓より劣る。徹頭徹尾凡人でありながら、貴様は私という竜を最後まで扱ってみせた。
オルレアンで召喚されたとき……いや、冬木で会い見えたときは、正直見込みはないと思っていたがな。首を戴くというのも、私としては情けをかけてやるつもりだった。
それが、まさか。本当に人理を修復せしめるとは。大したものだ」
マスターの言葉に苦笑混じりにそう返すと、オルタは振り向いて穏やかな眼差しを彼に向けた。>>271
星々の輝きが薄れ、空が白み始めてゆく。ゆるゆるとした風に靡く黄金の髪と、煌めく魔力の粒子。世界にその存在をゆっくりと溶け込ませながら、彼女は、マスターに最後の言葉を紡ぎ始めた。
「もうじき夜明けだ、マスター。貴様の人理修復を以て、この契約を終了とする。多少の期間延長はあったが、まあ構うまい。これで、今生の別れだな」
「――はい。今まで、ありがとうございました。貴女との契約があったから、ここまでやってこれた。俺の命は、貴女に救われていました」
最上の感謝を伝える。心からの想いを伝える。フッと笑った彼女は、朝日を背に彼の顔を眺め――
「――さようなら。私も、貴方と出会えて良かった」
夜が明ける。太陽に眩んだ目を開けると、もうそこにはオルタの姿はなかった。>>272
彼女は世界から消えていた。
「……」
「……先輩。行ってしまいましたね」
「……うん」
屋上の出入り口の向こうで待っていたマシュが、ブランケットを手に近寄ってくる。
「……先輩、ここはお体に障ります。中に入りませんか」
「……うん。でも、ごめん。綺麗な朝日だから、もうちょっと眺めていたい」
「……分かりました。温かい飲み物を淹れて、お待ちしていますね」
そう言って、ブランケットだけ置いてマシュは戻っていった。彼は、頬に流れる熱い涙を拭うこともせず、美しい太陽をただ見つめていた。
星空と共に消えていった己の王の姿に、静かに思い馳せながら……見渡す限りの白。何もかもが凍て付く野が『獣国(けもののくに)』などと呼ばれるには理由がある。
濃紺のコートをはためかす風に乗り咆哮が轟く。
氷結の皇女はぬいぐるみを抱く手に力を込める。彼女を守らんと立つ青年の動きは従者じみている。
主従の立場は本来ならば逆だろうが、咎め立てるものもなく。
「あれは群れでありながら王、王でありながら群れだ」
四足の女狩人の睨む先に、黒一点。
「――喰らい尽くせ」
男の呟きと共に――黒が、爆ぜた。
溢れ出す数多の獣は、インクをノートにこぼしたように白い凍土を染め上げる
ゴーレムを操る男の首元を狙って狼が唸り跳びかかる。
天眼の剣士の柔肉をへし折らんと鹿角が振るわれる。
「ああ、貴様の――いや、貴様らの名を、知っている」
群れ成す大鴉を慣れた手つきで討ち落としながら、聖職者は呟いた。
遠いいつか、あるいは遠いどこか、聖職者は神の怒りの代行者であり
その矛先こそ視線の先の男のような、ヒトならざる異端(バケモノ)だった。
血の香をまとわせたまま、黄金色の眼で凍土を見渡す男。
人類最後のマスターだった少年/少女は泥の海をそのヒトガタに重ね見た。
地を、人を、全てを飲みこまんとした、暗き原初の海を。
――混沌、と。彼の/彼女の腕の中の小さな生き物に知性があれば、そう呼んだだろう。
凍て付く野が『獣国(けもののくに)』と呼ばれる理由は、――『獣の王の巣』が在るからに他ならない。「聞いたことがあります」
毒の娘と多貌の女は古い伝承を思い出していた。
「信じる神の彼是を問わず、ヒトを喰らわんとした怪物の話を」
「不快だ。実に不快だ」
「あれの同類に思われるなどとは!」
王と将、一人の男の異なる影が二人、槍を振るいながら叫ぶ。
その口元には常人ならば持たぬ鋭牙。押し付けられたイメージ故の。
何処かの世界において、二十八在る二十七の一。
人類史の前に立ち塞がる彼の目的を、誰も知らない。
みたいなクロスオーバー妄想。- 276名無し2018/04/14(Sat) 17:37:04(1/51)
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>>276 ヘイト系SSは流石にどうなのさ…
- 278名無し2018/04/14(Sat) 17:39:01(2/51)
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- 279名無し2018/04/14(Sat) 17:39:26(3/51)
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- 280名無し2018/04/14(Sat) 17:39:44(4/51)
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- 281名無し2018/04/14(Sat) 17:40:30(5/51)
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- 282名無し2018/04/14(Sat) 17:44:43(6/51)
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- 283名無し2018/04/14(Sat) 17:45:00(7/51)
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- 284名無し2018/04/14(Sat) 17:45:13(8/51)
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- 285名無し2018/04/14(Sat) 17:45:42(9/51)
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- 286名無し2018/04/14(Sat) 17:46:52(10/51)
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- 287名無し2018/04/14(Sat) 17:49:30(11/51)
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- 288名無し2018/04/14(Sat) 17:50:01(12/51)
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- 289名無し2018/04/14(Sat) 17:50:27(13/51)
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- 290名無し2018/04/14(Sat) 17:50:39(14/51)
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- 291名無し2018/04/14(Sat) 17:52:31(15/51)
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- 292名無し2018/04/14(Sat) 17:52:55(16/51)
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- 293名無し2018/04/14(Sat) 17:53:26(17/51)
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- 294名無し2018/04/14(Sat) 18:11:33(18/51)
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- 295名無し2018/04/14(Sat) 18:13:02(19/51)
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- 296名無し2018/04/14(Sat) 18:13:39(20/51)
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- 297名無し2018/04/14(Sat) 18:15:28(21/51)
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- 298名無し2018/04/14(Sat) 18:15:42(22/51)
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- 299名無し2018/04/14(Sat) 18:15:53(23/51)
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- 300名無し2018/04/14(Sat) 18:18:51(24/51)
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- 301名無し2018/04/14(Sat) 18:19:06(25/51)
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- 302名無し2018/04/14(Sat) 18:19:21(26/51)
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- 303名無し2018/04/14(Sat) 18:19:48(27/51)
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- 304名無し2018/04/14(Sat) 18:20:01(28/51)
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- 305名無し2018/04/14(Sat) 18:20:33(29/51)
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- 306名無し2018/04/14(Sat) 18:32:18(30/51)
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- 307名無し2018/04/14(Sat) 18:33:40(31/51)
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- 308名無し2018/04/14(Sat) 18:33:54(32/51)
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- 309名無し2018/04/14(Sat) 18:34:09(33/51)
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- 310名無し2018/04/14(Sat) 18:34:32(34/51)
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- 311名無し2018/04/14(Sat) 18:34:46(35/51)
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- 312名無し2018/04/14(Sat) 18:34:59(36/51)
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- 313名無し2018/04/14(Sat) 18:36:37(37/51)
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- 314名無し2018/04/14(Sat) 18:36:51(38/51)
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- 315名無し2018/04/14(Sat) 18:37:03(39/51)
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- 316名無し2018/04/14(Sat) 18:37:17(40/51)
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- 317名無し2018/04/14(Sat) 18:38:34(41/51)
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- 318名無し2018/04/14(Sat) 18:38:46(42/51)
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- 319名無し2018/04/14(Sat) 18:38:57(43/51)
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- 320名無し2018/04/14(Sat) 18:40:03(44/51)
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- 321名無し2018/04/14(Sat) 18:40:17(45/51)
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- 322名無し2018/04/14(Sat) 18:40:31(46/51)
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- 323名無し2018/04/14(Sat) 18:42:32(47/51)
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- 324名無し2018/04/14(Sat) 18:42:44(48/51)
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- 325名無し2018/04/14(Sat) 18:42:56(49/51)
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- 326名無し2018/04/14(Sat) 18:43:08(50/51)
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- 327名無し2018/04/14(Sat) 18:43:21(51/51)
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何事だ
ミ、ミーも初めてこのスレの存在知ったから全くわからない…
ヘイト系SSでも投下したのかの?
>>330
そうだよ……マジでひどいのが連投されてた……多分よく表で暴れてる人だと思うが……上の削除されたのは「FGO主人公()が片っ端から気に入らないキャラをコロす理不尽ss」的なのだった。
同時期にエロssスレに別の作品投稿してそっちも削除された。
エロssの方は分からんが、こっちに投稿されていたのはモロ蹂躙ヘイトだったこと、勢いネタっぽく見せかけてキャラをボコるシーンが生々しくてグロだったこと、後故意かどうか分からんがSN原作者の名前からとっているようなややこしいコテハン(ペンネーム?)で投稿されていた辺りが恐らくアウト判定の主な原因だったと思われる。
自分も最初見たときあまりにアレな内容でssの皮を被った荒らしかと思ったのと全年齢向けスレでの作品にしては不条理系にしたかったにしてもグロかったから、当時報告ボタン押したし。ここでちょっと思いついたのを
一部のサーヴァントたちの計らいで、共有のメモ書きが各所に設置されたカルデア。
単純な一言の他にも、料理を担当するサーヴァントによる夕飯のアンケートや、作家のアイデアの走り書き、即興の楽譜や絵画などが書かれており、それなりの賑わいを見せていた。
そんなある日、メモ書きの中に、書き手不明のメッセージが現れるようになった。
それは落し物を拾ってどこそこに置いたとか、冷蔵庫のドアが開いたままだった、というようなもの。
調べてみたが、サーヴァントたちにもスタッフたちにも、それを書いた者はいなかった。
一言お礼を述べたいなど理由は様々だが、マスターやスタッフ、幾人かのサーヴァントたちはそれぞれで調査を開始する。
みたいな感じのを思い付いた。真相は、概念礼装が夜の間だけ実体化してカルデア内をうろついてたってオチ。
登場人物の日誌っぽく書いたら面白そうと思ったけど、文体が浮かばなそうだったので諦めた。ー日曜日 PM1:00 栗原邸ー
イリヤ&美遊&クロ「おじゃましま〜す。」
雀花「よう、来たか。」
那奈亀「3人ともこっち、こっち。」
イリヤ「はぇ?美々と龍子何やってるの?」
雀花「これか?これはマジック・ザ・ギャザリングって言ってな、今あたしらの学校で流行りつつあるカードゲーム何だぜ。」
イリヤ「まじっくぎゃざりんぐ?」
美遊「マジック・ザ・ギャザリング。通称MTG。世界初のトレーディングカードゲームにして現在最も人気のあるカードゲームのひとつ。ルーリングに
関しては世界最高とも言われてる。」
クロ「私知ってるー。これって対戦相手同士が魔法使いになって戦うゲームよね?大人のプレイヤーも多くてプロプレイヤーなんて制度もあるらしいわ。」イリヤ「プ…プロ?カードゲームで?」
那奈亀「ちっちっちっ、これはそんじょそこらのカードゲームじゃないんだな〜。戦略性、戦術性はカードゲーム中随一なんだな。おっ、そろそろ決着がつきそう。」
龍子「うぉぉぉ!最後のガルタで渾身のラストコンバットォ!」
美々「じゃあ対応して排斥を撃つね。次のターンギデオンのコンバットで龍子ちゃんのライフ0になるけど続ける?」
龍子「手札がないので投了します…(小声)。ちくしょー!除去と打ち消しなんて強すぎるぜ!」
美々「あっ、イリヤちゃんたち来てたんだ。みんなで一緒にやろうよ。」
クロ「いいわね。面白そう。」イリヤ「でも私たちデッキなんて持ってないよ。」
雀花「そこにドミナリアのパックがあるだろ?シールドやろうぜ。おねぇがテフェリー×キャパシェンの資料用に買った奴なんだど欲しいカード出たから好きに使っていいってさ。」
美々「ギデオン×ジェイスが至高だってそれ1番言われてるから(スクイーの意思)」
イリヤ「シールド?」
雀花「6パック剥いてその中のカードだけで組んだデッキでやるルールだ。詳しいことはデッキ組む説明してやるよ。」
イリヤ「面白そう!美遊も一緒にやろうよ!」
美遊「イリヤがやるなら…」ー3時間後ー
美遊「キャパシェンに先祖の刃を装備してコンバット」
イリヤ「うっ…対応して喪心をキャスト!」
美遊「イリヤ、その呪文伝説のクリーチャーを対象に出来ない。」
イリヤ「ふぇ!?負けた〜。」
クロ「呆れた。カードのテキストぐらいちゃんと読みなさいよ〜。」
イリヤ「はっ、初めてだからしょうがないでしょ!」
雀花「まあ最初は慣れてないからそういうミスはするもんさ。」イリヤ「でも、面白いねこのゲーム」
クロ「そうね。イラストも大人っぽくてかっこいいし。美遊、次は私とやりましょ。」
美遊「分かった。」
ー1時間後ー
イリヤ&美遊&クロ「おじゃましました〜」
雀花「おう、また遊びこい。」
イリヤ「楽しかった〜。もっと色んなカードで遊んでみたいね。」美遊「本格的に遊ぼうと思ったら自分のデッキが必要。」
クロ「そうだ。帰り道にカードショップがあったじゃない?どんなカードがあるか見てみましょうよ」
イリヤ「さんせ〜い!」
ー冬木市内某カードショップー
イリヤ「はえー色んな種類のカードがあるねー。」
クロ「流石に大会でよく入賞するようなデッキに使われるカードは高いみたいね。てか2万とかするカードもあるけど必須カードなのかしら…。」美遊「雀花たちがやっていたのはスタンダードって言って最近発売したカードだけでやるフォーマットだから安くデッキが組めるはず。今クロが見てるのはモダンから下のフォーマットで使われる古いカードで絶版だから高値。」
イリヤ「けど財布にある持ち合わせじゃ買えないよね。セラにお願いしたら怒られるかな…?」
クロ「イリヤは最近ブシドームサシのブルーレイ最新巻買ったばかりだから分かんないわね〜。こういう時のために無駄遣いは控えるものよ。」
イリヤ「うぅ…せ、折角来たんだしこのガラガラ回したら強いカード引けないかな?」
クロ「はー。まあ無理だと思うけど回すだけ回してみたら?」
美遊「イリヤ、頑張って。」ーガラガラ回転中ー
ボトッ
クロ「おっ。」
イリヤ「やった!一等だ!」
店員さん「おお!おめでとうございます!こちら一等のFtV20thとなります。」
イリヤ「へっへ〜ん。どんなもんよ。」
クロ「随分調子いいじゃない。」
美遊「(チョンチョン)イリヤ…残念だけどそれに入ってるカードスタンダードじゃ使えない…。」
イリヤ「へ?うそ!?」
クロ「なーんだ、そんなことだろうと思ったわ。残念ね、イリヤ。」クロ「なーんだ、そんなことだろうと思ったわ。残念ね、イリヤ。」
イリヤ「そんなー。」
美遊「確かにそれに入ってるカードはスタンでは使えない。でも入ってるカードは全部高額だから転売すればスタンのデッキに必要なお金は手に入るはず。」
クロ「おっ、いい考えね。さんせーい!セラに頭下げなくていいし。イリヤ、私の分のお金もお願いねー。」
イリヤ「ひっどーい!私が当てたんだよ!?悔しかったらクロも自分で回して当てたら?」
クロ「お金ぐらいでケチケチするんじゃないわよ!いいじゃない、私の分も肩代わりするぐらい!」
美遊「二人とも、そろそろ帰らないと怒られちゃう。帰ろう?」ーPM9:00エミヤ邸ー
イリヤ「(自分のデッキかぁ〜。美々が使ってたあのライラって天使綺麗だし使ってみたいな〜。あっ、でも魔法少女っぽいしウィザードも捨てがたいなぁ。うぅ…悩む…。)」
ー月曜日放課後:穂村原小学校ー
イリヤ「ふぇ〜やっと終わった〜。こんなワクワクする日に掃除当番なんてついてないよ〜。」
クロ「もたもたしないで行くわよ。雀花たちがカード選び手伝ってくれるって待ってるんだから。」
美遊「イリヤ、行こう。」ー穂村原学園グラウンドー
イリヤ「みんな〜おまた…」
クロ「イリヤ、ちょっと待って!なんか様子がおかしいわよ!」
美遊「雀花たちとデュエルしてる海藻頭の人の制服、あれって高等部の人じゃない…?」
イリヤ「言ってみよう!」
雀花「てめぇ…上級生の癖にデュエルでカード巻き上げるなんて汚ねえマネしやがって…!」
慎二「ふん、悔しかったら1ゲームぐらい取ってみろよ?僕はエンド時にバイアルから波使いを出す、青の信心(自パーマネント青マナシンボルの数)だけマーフォークを出すぜ!」龍子「気を付けろ雀花!私もそれにやられた!」
美々「カードパワーが違いすぎるよ〜。」
那奈亀「私らモダンのカードなんて一枚も持ってないんだぞ!勝てる訳ないだろ!」
慎二「最初にモダンって断ってただろ?悔しかったらモダンのデッキを組めば?まっ、小学生にそんな財力ないだろうけどw」
雀花「デュエルしなきゃカードを学校に持って来てたのを担任にバラすぞって脅したくせに…!」
慎二「小学生は持ち込み禁止の基準が厳しくて大変だねw僕のターン、アンタップアップキープドロー、そのままメインからコンバットに入る。何もなかったらこのままライフ0になるけど。まだ続けるw?」
雀花「う…ちくしょう…」
慎二「決まりだな。じゃ君のカードも約束通り…。」イリヤ「ちょっと待ったー!あなた何してるの!?下級生からカツアゲなんて最低だよ!」
慎二「あん?ああ、お前確か衛宮のところの…」
クロ「雀花たちのカード返しなさいよ!先生に言いつけるわよ!」
慎二「だって校則破ったのはこいつらだし〜。むしろ先公に言いつけないだけ感謝して欲しいね。悔しかった君もデュエルで取り返てみなよ。」
イリヤ「うっ、デッキはまだない…。」
慎二「話にならないな。じゃあこの子らのカードは貰ってい…ちょっと待て、それ超レアもののFTV20じゃないか!」
イリヤ「はえ?これそんなにレアなの?」
慎二「なんでお前みたいな小学生がそんなレアセットを…まあいいや。なら話は別だ、1週間だけ時間をやるよ。それまでにデッキを組んできなよ。それで僕に勝てたらカードは返してやるよ。でも負けたらそのFTV20thは僕が貰う。」イリヤ「1週間って…」
美遊「それに相手はモダン…」
慎二「嫌ならこのカードは僕のものだな。」
イリヤ「…!受けて立つ!その代わり私が勝ったら雀花たちのカードは返して貰う!」
クロ「ちょっとイリヤ…!」
美遊「それにモダンのカードはスタンよりも遥かに高額…。」
慎二「決まりだな。精々小学生のない頭と金で頑張ってデッキ組むんだな。ハハハ!」ーPM6:30 衛宮邸ー
クロ「どうすんのよ!私たちスタンのカードだってろくに持ってないのにいきなりモダンなんて!」
イリヤ「うう…でもカード返して貰えないと雀花たちあそべないじゃん。それに許せないよ!上級生の癖に下級生からカツアゲするんなんて!」
美遊「イリヤ、今手持ちのカードを使うデッキで、あの上級生のデッキに相性の良さそうなデッキを調べてみた。雀花たちが残ったカードの中で貸してくれたカードは《試練に臨むものギデオン》、《廃墟の地》、《残骸の漂着》、《ドミナリアの英雄テフェリー》、元々持っているのはFTV20thの中の《精神を刻むもの、ジェイス》、これらを加味すると青白コントロールが1番いいと思う。」
クロ「デッキの構築費用はいくらかかりそう…?」
美遊「残りのパーツは軒並み高いけど瞬唱の魔道士と天界の列柱が特に高い。合計は…概算で14万前後…。」イリヤ「ファッ!?それって宝石の指輪とか買える値段だよね!?」
クロ「も…もう一度計算し直して美遊…。いくらなんでも、ハハハ…。」
美遊「何度計算しても同じ…。だって瞬唱の魔道士とか4積み必須なのに1万前後するから…。」
クロ「どうすんのよ!14万なんて私たちの1ヶ月のお小遣い何年分だと思ってんのよ!」
イリヤ「あぇぇぇ…どうしよう。」
ルビー「呼ばれた気がしたのでジャンジャジャーン!イリヤさん!こういう時こそルヴィアさんの出番で・す・よ!イリヤさんにはカード回収手伝って貰った恩義がありますし、凛さんの目の前で美遊さんと一緒におねだりすれば赤い悪魔にこれ見よがしに財力を見せつけるため気前よく払ってくれるはずですって!」
イリヤ「そ…そうだね。ルヴィアさんなら…。良くないことだけどみんなのカードがかかってるんだし、ちょっとくらい…。」サファイア「姉さん、イリヤ様、それが…。」
美遊「ルヴィアさん時計塔の定例報告で2週間いない…。」
ルビー「はぁー、ほんまつっかえ!や↑め↓たらお嬢様キャラ?ルヴィアさんはお嬢様キャラの役割を分かっているんですかね〜?こういう時に主役の財布に徹してこそのお嬢様キャラだというのに。」
クロ「八方塞がりじゃない!ちょっとイリヤ、どうデッキ組むつもりよ!」
イリヤ「うええ〜ん!どうしたらいいの〜!」
''ピーンポーン''
イリヤ「あっ、誰か来た!」
クロ「とりあえず話は置いといて、出るしかないわね」ー衛宮邸玄関前ー
切嗣「(はぁ〜数ヶ月ぶりの我が家か。イリヤ達、僕が帰っても喜んでくれるかな…。数ヶ月も帰ってないからまさか僕の顔忘れたとか!?いや、そんなはずない、僕のイリヤやクロがそんな酷いことするわけ…)」
イリヤ「あっ、パパお帰りなさい!」
クロ「あら!パパお帰りなさい!」
切嗣「おっと、ははただいま(良かった〜!喜んでくれた!)」
士郎「じーさん!おかえり!なんだよ連絡よこしてくれれば豪勢な料理を用意してたのに。」
切嗣「急に戻ることになってね。しばらくは休暇で留まることになりそうなんだ。」リズ「あれ、アイリは?」
切嗣「アイリも明日こっちに戻ってくるはずだよ。ちょっとワケあって別行動してたんだけど乗ってたベンツが故障して足止め食らったらしくてね。」
セラ「先程奥様から電話を頂いております。明日の14:00には到着するとのことです。」
切嗣「ああ、ありがとう。」
イリヤ「あのパパ…お願いがあります!」
クロ「そ、そうだ!パパ私からもお願い!」
切嗣「わっ!なっ、なんだ急に二人して土下座して。」
イリヤ「実は…。」切嗣「なるほど。話は分かった。でもダメだ。」
イリヤ「ど…どうしてもダメ?」
クロ「友だちのカードがかかってるんだよ!?」
切嗣「気持ちは分かる。しかし、小学生の内からこんな賭け事みたいなことはいけない。その上級生にはパパからキツいお灸を据えてカードを取り返してあげるよ。」
イリヤ「パパ…あのね、パパがいる間はそれで良いのかもしれない。でもね、パパがまた仕事で出て行ったらまたあの上級生たちはカツアゲしてくると思うの。そうなった時に自分達の居場所は自分達で守れるように強くならないといけないと思うの。」
切嗣「おぉ…(感涙)いつの間にかこんな成長して…分かった、イリヤ達を応援するよ。で、そのカードの値段はいくらするんだい?」
クロ「これが総額よ。」
切嗣「ふむふむ…って14万!?ぼったくりだろこれぇ!(てか14万って僕のお小遣い3ヶ月分じゃないか…最近の小学生はこんな高価なもので遊ぶのか…(困惑)僕がいない間にこの日本に何があったんだ!?)」イリヤ「パパ、ダメ…?」
切嗣「い、いや〜実は今月ママのベンツの修理代が重んじゃって…」
イリヤ「パパお願い!」
クロ「パパお願い!」
美遊「切嗣さん、私からもお願いします!」
切嗣「えっ、いやあのその…」
つづく初めてシナリオ込みの架空デュエルやってみたけどデュエル構成に行き着くまで長いっすね…(反省)
GXとかゴッズの自然な流れてデュエルに持っていくのアレすげーわFGO×ゲゲゲの鬼太郎
*四期と原作をベースにしたほぼオリジナルな性格の鬼太郎です
*どの猫娘に寄せるかめんどくさいので猫娘はいません
*めっちゃ書くの遅いです
時代が求める限り誰かが望む限り、彼は必ず現れる
小さき者たちの声を聞き、下駄の音を携えて
虫と遊びミイラと語るその少年の名は――――――――
亜種特異点怪異多発気象ブリガドーン>>356
カルデアのマスター、藤丸立香とその後輩兼デミサーヴァントマシュ・キリエライトは異形のものたちに囲まれていた。
小柄で角のない鬼のようなもの、ざんばら髪にギザギザした牙をむき出しにしたもの、人の形をしていないものも数多く、それらは明確に敵意を持って二人を睨みつけていた。
突如現れた謎の特異点にレイシフトし、空が真っ黒なこと以外は立香の故郷、日本と変わらない風景に驚いているうちにこのような状況になっていた。
どうしたものか、と立香は思案する。ガンドの数発程度で切り抜けられる状況では到底ない。マシュ以外のサーヴァントも数名同行していたはずだが近くにいる気配はない
「先輩、ここは私が」
「だめだ」
自分をかばうように一歩踏み出しデミサーヴァントへと変身しようとするマシュを制止する。魔神王との戦いから未だ彼女の状態は不安定だ。カルデアと通信も取れない状態で変身すれば彼女の身に何が起こるか分からないし、それでこの状況を打開できるとは到底思えない。
「おめえら、人間だな?」
「まだこんなところにいやがったのか」
化け物たちは口々に言うとこちらに飛び掛かる姿勢を取り始めた。
「先輩やむ負えません!」
そう叫びマシュが変身しようとした瞬間、>>358「いやー、おめえら運がいいぜ。たまたま鬼太郎が偵察に来たところでよぉ」
招かれた先の路地にあったマンホール、その下に広がる下水道からつながる洞窟を先導しながらこちらを招いた手の持ち主の男が気さくな調子で二人に話しかけた。ねずみのようなひげと出っ歯、汚らしいマントを頭からかぶっているのが特徴的なこの男はそこはかとなくうさんくさい雰囲気をまといながらも何故か受け入れてしまう妙な魅力を持っていた。
「あ、ありがとうございます、助けていただいて。ところであなた方は一体?」
男の後を歩きながらマシュが尋ねる。
「いーってことよ、俺さまはねずみ男っつーんだ。そんでさっきのガキが鬼太郎、ま、俺の舎弟みてえなもんだな」マント男、ねずみ男は得意げに答えた。
「おっとそろそろ着くぜ、俺たちの本拠地、妖怪姫路城によ」
ねずみ男の言葉通り出口が近づいてきたのか暗かった洞窟に光が差し込み始める。
((姫路城?))
カルデアから同行してきた仲間の一人を連想させるワードに二人はそろって首を傾げた。
「ところでよ、おめえたち名前はなんてえんだ?」
ねずみ男は思い出したように二人に尋ねた。
「あ、はい、オレは藤丸立香、こっちはマシュ・キリエライト。カルデアのものです」
「カル、デアァ!?」
名乗りを聞いたねずみ男は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「マジかよ、こりゃあ俺にも運が回ってきたぜぇ、ムフフフフフ」
そして不穏な笑みを浮かべ、二人に耳打ちする。
「立香くぅん、マシュちゃぁん?二人にぜひとも会いたいって人がいるのよ、その人に会わせてやるからよろしく言っておいてくんないかなぁ?このねずみ男さまに助けてもらったってな!」
「「は、はぁ」」
ねずみ男の気色に押されながらも二人は自分たちを知るものが誰もいない世界で自分に会いたいという姫路城に関係のある人物に確信を強めていく。そうこうしているうちに洞窟の出口が見え始める。>>359
「まーちゃん!会いたかったー!」
洞窟を抜けた先、霞がかった深山にどっしりとそびえ立つ姫路城、その天守閣に辿り着いた途端に立香はその城主に抱きつかれた。案の定、二人に会いたがっていた人物とは同行したはずのサーヴァントの一人刑部姫だった。
「うわーん、姫(わたし)寂しかったよぉ!知らない場所に一人放り出されてさ、みんな優しくしてくれるけどそれはそれでなんだか息苦しかったり!」
よほど心細かったのか刑部姫は半泣きで立香の頭をガッチリロックし、その豊満な胸を顔に押し付けギリギリ力強く立香を抱きしめた。
「お、刑部姫さん!嬉しいのは分かります、でもそれでは先輩が窒息してしまいます!離れてください!」
マシュが慌てながらもむっとした表情で張り付いた刑部姫を引き離す。だがその声には少しだけ嬉しそうな響きも混ざっていた。
「っはぁ!ははは、オレもだよ!おっきーが無事でよかった!他のみんなは?」
引き離された立香はやはり息が止まっていたのか一旦深呼吸した後仲間の一人の無事が知れたことで安心したのだろう、この特異点に来て初めての笑みを浮かべた。そして期待を込めた瞳で尋ねる。
「分かんない」
しかし刑部姫から返ってきた答えと表情は暗い。
「姫も三日前くらいに一人で放り出されて途方にくれてたところを拾われたから……今も皆が探してくれてるけど見つかったのは二人だけ」
「そっか……」
少し輝きを取り戻した三人の間に再び暗い雰囲気が漂う。
「で、では、今の状況は!?今の私たちでは空が暗くて、絵本で見たような怪物たちがうろついてることしかわからなくて……」
その空気を振り払うように慌ててマシュが尋ねる。
「それはぼくが説明するよ」>>360
背後から子供の、しかしやけに落ち着いた声がかかる。
振り返るとカランコロンと下駄の音とともに先程二人を窮地から救ってくれたちゃんちゃんこを着た少年が天守閣に上ってきていた。
「君はさっき、俺たちを助けてくれた……」
「ぼくはゲゲゲの鬼太郎、さっきは危なかったね」
「しかし、君たちが刑部姫の言っていた藤丸君とマシュちゃんじゃったとはのう。不思議な偶然もあるものじゃ」
少年が名乗ると同時にその髪をかき分け、目玉に胴体と手足が生えたような生き物がひょっこり顔を出して言った。
「「目、目玉……!?」
「そう怖がらんでもよい、わしはこの鬼太郎の父親じゃ。目玉おやじと呼ばれておる」
ぎょっとした表情の二人に目玉は優しい口調で語りかける。
「君たちのことは刑部姫から聞いているよ。だからこの国で今何が起こってるかは僕が話そう」>>361
鬼太郎は自分たちは人間ではなく妖怪であること、立香たちを襲ったのは自分たち日本の妖怪の仲間ではなく西洋妖怪であること、いま日本は彼ら西洋妖怪に支配されているということ、そしてその原因は怪気象という現象であるということを二人に語った。
「怪気象?」
聞きなれない単語に立香は首をかしげる
「別名ブリガドーン現象とも言ってな。この気象の中は外の世界と隔絶され妖怪が生まれやすく、暮らしやすい気候が保たれておる。つまりこの気象に包まれた中の世界は妖怪たちが跋扈する妖怪の世界になってしまうのじゃ」
「普通は街や島くらいの大きさで定着して少しずつ、今回は発生したと思ったら瞬く間に日本全体を覆ってしまって、中に住む西洋妖怪たちにほとんど占拠されてしまったんだ」
「通常とは違う、ですか?」
桁違いの規模で起こった異変、おそらくそれに自分たちが追う聖杯が関わっていると見て間違いない。この場合、西洋妖怪またはそれに協力するサーヴァントが持っているのだろうか。
そこまで考えてマシュはふと、「あの、鬼太郎さんは何故私たちをたすけてくれたのですか?鬼太郎さんもその、妖怪なんでしょう?」
カルデアにも妖怪というカテゴリに属する存在は刑部姫をはじめとしてカルデアのサーヴァントにもそれなりの数がいる。彼らのスタンスは様々だがそれでも無条件で人間よりも近しいであろう他の妖怪に敵視される危険を冒してまで見ず知らずの人間を助けてくれる者はそういないように思われる。
「妖怪にも色々あるんだよ。少なくともぼくやぼくの仲間たちは西洋妖怪の人間を支配して痛めつけようって考えは許せない。でも、西洋妖怪は日本妖怪よりずっと強くて残酷だから奴らが攻めてきたとき、ぼくはその場にいる人間たちを逃がすだけで精いっぱいだったけどね。捕まってしまった人や、まだ隠れている人もたくさんいる。悔しいよ、僕が力不足なばっかりに」
マシュの問いにそう答えると鬼太郎を沈痛な面持ちで顔をうつむかせる。
「そう悔やむな、鬼太郎。いくらお前が強くてもお前とわしらだけで日本全部を守るのは無理じゃよ。だからこうして隠れながらも少しずつ仲間を集めたり逃げ遅れた人たちを助けたりしておるんじゃないか。それがこの二人を助けることにもつながった」
そんな鬼太郎を頭の目玉おやじが優し気な口調で慰める。>>363
そのやりとりを見てマシュはほほえんで立香に目配せした。
(先輩)
(うん)
立香もまたそれにほほえみで返す。
この人たち(妖怪たち?)は信用できる、二人は同時にそう感じたのだ。
誰かを助けられなかったことを真剣に悔やみ、誰かを助けられたことを本当に喜んでいることが分かる。
いつも騙されているから当てにならないと言えばならないが、それでも「信じたい」と思えた。
特異点で最初に出会えたのが彼らで本当に幸運だった。
「それでも、まだ鬼太郎さんは諦めてないんですよね。なら、オレたちにも手伝わせてもらえませんか?この怪気象とか言う現象がいつもと違うのなら、その原因にはきっと聖杯やそれを利用するサーヴァントが関わっていると思うんです。そのことについてなら鬼太郎さんたちの役に立てるかもしれない。……これはあなたたちに甘えているようで悪いけど、まだ見つかってない仲間たちを見つけるためにも一緒にいた方がいい気がするので」
立香は悔やみながらもまだ光を失ってない鬼太郎の目を見ながらそう提案した。
いつも思うがとても図々しい言い分だ、彼らには自分のような足手まといを仲間に加える利点などどこにもないのに、と立香は心の中で自重する。それでも何もせずにはいられない、懸命に戦う誰かの力になりたい、その心に嘘はつけない。そしてそれが自分たちのためにもなると彼は確信していた。>>364
「私からもお願いします!」
マシュもまた声を張り上げて頼み込んだ。
「近頃の人間には珍しい子たちじゃのう……」
感じ入るような口調でおやじは腕を組みその場で考え込んだ。
「……よし、鬼太郎。この子たちも仲間にして戦いに連れて行ってはどうじゃ?危険にさらしてしまうのは心苦しいが、わしらには聖杯やサーヴァントとやらのことは分からん。何も知らなければそのことで足をすくわれるかもしれん。それに刑部姫の話を聞く限りこの子たちの仲間は相当なつわものぞろいのようじゃ。西洋妖怪と戦うのに大きな力になるやもしれん」
おやじの言葉に鬼太郎も頷く。
「はい父さん、他の人間たちのように安全な場所に隠れてもらって彼らの仲間が見つかるまで待ってもらうつもりでしたがそうすることにしましょう。ただ待つだけは辛いでしょうし、一緒の方が彼らの仲間も見つかりやすいと思います。……と、いうことでこちらこそよろしく、立香くん、マシュちゃん。一緒に西洋妖怪たちをやっつけよう」
鬼太郎は優しくほほえんで二人に向かって手を差し出した。
「「あ、ありがとうございます!」」
二人は顔をぱっと輝かせ、差し出された手に自らの手を合わせた。>>365
「……なぁんか置き去りにされてる気分ー。いいけどさ、姫そういうノリ苦手だし。姫路城(これ)出し続けないといけないからついていけないし。カルデアと通信つなげたり霊地整えたりするのに手離せないし。そもそも外出るなんて大嫌いだし!」
不意にどんよりと不貞腐れたような声が被さってきた。
見ると蚊帳の外気味だった刑部姫がじっとりとした目ですっかり意気投合したように見える三人(四人?)をにらんでいた。
「ごめんごめん、オレはおっき―のことすごく頼りになる仲間だと思ってるよ」
「そ、そうです!カルデアとの通信もおぼつかない今、刑部姫さんの存在はとても心強いです!」
二人は慌ててすねた調子の刑部姫をなだめる。
「え、そ、そんなに頼りにされてたの!?それは逆に姫ちゃん予想外のプレッシャー!でもちょーっとうれしいかなぁえへへ――――っは、いけないいけない。ま、まぁまーちゃんたちも鬼太ちゃんたちについてくのは仕方ないとして、あまり無茶はやめてよね。二人はまだ生きてる人間なんだもん、少しは後ろで心配する人たちの気持ちも考えるように」
刑部姫は二人の自分に対する予想外の期待に一旦トリップしかけたがすぐさま正気に戻って二人に忠告する。
「大丈夫じゃよ、わしらがおる限りこの子たちに無茶はさせん」
「じゃあ二人とも、話もまとまったところで下におりようか。みんなに君たちのことを紹介しないと。ご馳走も用意してあるはずだよ」>>366
「おーいみんなー、新しい仲間が増えたよ!」
天守閣を降りた先、ふすまも壁もぶち抜かれ大広間になった城内へ鬼太郎が呼びかけた。
「人間でねぇか」
「なんでも刑部姫の言ってたかるであっちゅうとこのもんだとよ」
「はー、そのかるであってのはカステラの仲間かなんかか?」
すると顔の浮かび上がった火の玉がぽつりと点ったかと思うと、どこに隠れていたものやらぞろぞろとこの世のものとは思えない化け物たちが現れた。
二つの目がついた大きな壁、ひらひら宙を舞う手と顔がある布、ギョロ目の小柄な老婆、大きな前掛けを着た頭でっかちの老爺、蓑を被った一つ目の男の子、甲羅に顔がある大きなワタリガニ、出っ歯でハゲ頭の男の生首、中央に男の顔がついた燃える車輪、牛の顔をした巨大な蜘蛛、壁と天井一面に浮かび上がった一対の目玉の群れ、その他様々な妖怪たちがワイワイガヤガヤドタバタギコギコ立香とマシュを物珍しげに眺めながら騒ぎ立てた。
「怖がらなくていいよ、みんな優しい奴ばかりだから」
その凄まじい様相に仰天する二人を鬼太郎は安心させようとする。
「そうよ、とって食おうなんて思いつきもしないぜ」
それに呼応して牛の顔をした蜘蛛も見た目的に全く安心できないことを付け加えた。>>367
二人はそれでも異形のものたちに否応なく感じてしまう恐怖を拭い去れなかったが自分達に好奇の視線を向ける妖怪たちを見回してみる。
目が慣れてくると日本人の立香は彼らから西洋妖怪のものとは違う、不気味さの中になつかしさや親しみやすさのような感覚を感じとった。
対するマシュはあいにくと日本生まれでも育ちでもないので立香が感じたような感覚は覚えなかったが、彼らにはとりあえず敵意がない事だけは感じることができた。
「この子たちが刑部姫の言っておった藤丸君とマシュちゃんじゃ。みんなよろしくしてやってくれ」
「藤丸立香です、よろしくお願いします!」
「マシュ・キリエライトです、よ、よろしくお願いします……」
立香ははきはきと、マシュは割合たどたどしく紹介を終えた。>>369
「えっと、よくわからないけど喜んでもらえたなら何よりで」
陰気に、しかし無邪気に笑う妖怪たちに二人の緊張もようやく和らぎ、立香に至ってはいつもの陽気な調子を取り戻し始めていた。そして次々話しかけてくる妖怪たちに同じように楽しそうに笑いながら答えていく。
「ふふふ、慣れてくれたようでなによりじゃ。じゃがお前さんたちも今日はいろいろあって疲れたじゃろう。話すのはそこまでにして夕ご飯でもどうかのう。おばば特製あの世鍋を用意しておるんじゃ」
「そうじゃな、話はその後でもできるしのう、わしも酒飲みたくなってきた」
そのうちにぎょろ目の老婆、砂かけ婆が提案してきた。隣の子泣き爺もそれに同意する。
「あ、お気遣い感謝します、えと砂かけ婆さん」
「ええんじゃええんじゃ、お前さんたちももう仲間じゃからのう。みんなうれしそうじゃろう?妖怪は人間の驚く姿が一番のご馳走なんじゃよ。じゃが最近は素直に怖がってくれる人間は少なくての、わしらを本気で驚いてくれた、その上でそれを否定せず笑って受け入れてくれた、それだけで鬼太郎がお前さんたちを仲間に入れた訳がわかる」
不気味な見た目に似合わない人好きのする笑みを浮かべてマシュに語りかけた。
「そんな、私は慣れているだけですよ、カルデアには人と違う姿をした人も多いですから。先輩は……はい、そういう人です」
マシュは自分が何でもないことで褒められているような気持ちになってこそばゆそうな表情をした。そして最初から今まで誰であろうと自然体で接してきた先輩のことを思い花の様に表情を輝かせる。>>370
それからはほとんど宴会だった
飲んで、食べて(あの世鍋は見た目はべディヴィエールの料理に負けず劣らずのゲテモノだったが味も同様に意外とおいしかった)騒いで歌った。
食事が終わって眠るころには二人とも見た目はおどろおどろしくも愉快な妖怪たちが大好きになっていた。
「いい妖怪(ひと)たちでしたね」
わらでできたむしろ(そのくせ羽毛布団並みに柔らかくてふかふかだ)にくるまりながらマシュは隣で同じようにしている立香に話しかけた
「うん自信がわいてきたよ。このひとたちとならみんなと無事に合流してこの事件を解決できる気がする」
立香も天井に張り付きながら目を閉じて眠っている目目連や天井なめを眺めながら答えた。
「さぁ明日もあるしもう寝よう。頑張ってる人たちがいるんだ、オレたちも負けてられない」
「はいそうですね頑張りましょう」
二人はそういってほぼ同時にまぶたを閉じ、そのまま今日の疲れもあったのか目を閉じた途端すぐさま深い眠りに落ちていった>>371
次の日は朝からいきなり出撃することになった。
なんでも魔女(人間の魔術師というわけではなく一般的な魔女のイメージをそのまま形にしたような姿をした妖怪)の大軍が西の方に向かって飛んでいったというカラスからの連絡があり、それを先回りして迎えうとうという話らしい。
「わあ、本当にカラスで飛んでる!」
「魔術を使ってもないのにこれだけのカラスで、不思議です」
十数匹のカラスに糸を引かせることで空を飛ぶカラスヘリに乗って遠ざかる地表を見ながら二人は歓声を上げた。
彼らの周囲には同じくカラスヘリに乗った砂かけ婆などの飛べない妖怪、釣瓶火、烏天狗などの飛行できる妖怪、変わったものでは障子のついた黒雲などが隊列を組んで飛行している。先頭はもちろん一反木綿に乗った鬼太郎だ。
「おいおい、待ってくれよ鬼太郎ォ!俺を置いてくなよぉ!……ちっ、おっきーちゃんに機能のご褒美もらいに行ってたらすっかり遅れちまったぜ。しかもその褒美ってのが俺の形に折ったただの折り紙だしよぉ。もったいねぇからもらっといたが一文の得にもなりゃしねえ」
後ろから慌てた様子でねずみ男が追い付いてきた。よほど急いでいるのかカラスヘリの糸が身体に絡まっている。>>372
「だってお前別に戦わないじゃないか。それともまた何か企んでるのか?」
先頭の鬼太郎が呆れた顔で言った。
「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ!?俺ぁただ皆が戦ってる間に金目の物を……じゃなかった、親友のおめぇが心配だからついていこうってんだ!」
鬼太郎の言葉にねずみ男は鼻息を荒くして熱弁する。
「友達ねぇ、舎弟って言ってたって聞いたけど?」
「あらやだ、あの子たちったら言っちゃったのねぇ!いやぁ僕見栄っ張りだからさぁ、軽い冗談よ冗談!ね、許して鬼太郎ちゃあん♡」
「しょうがないなぁ」
鬼太郎の鋭い指摘をふざけてごまかすねずみ男に鬼太郎はやれやれと肩をすくめて苦笑する。
「鬼太郎さんとねずみ男さん仲いいんですね」
「単なる腐れ縁じゃよ」
戦闘の直前であるのに割かし和やかな空気が流れる道中であった>>373
しばらくすると鬼太郎の妖怪アンテナに反応があり、遠目でも箒で空を飛ぶ魔女の一団が視認できた。
「皆準備はいいかい?いよいよ戦いの始まりだ」
「おう」
「よしきた!」
鬼太郎のかけ声で日本妖怪たちはときの声をあげた。
「ひひひ、やはりおいでなすったね日本の妖怪たち!」
魔女たちもまた近づいてくる鬼太郎たちに気付いていた。はるか前方からやってくる日本妖怪たちの姿を見てリーダー格の魔女は耳まで裂けた口を三日月の形に歪める。
彼女たちはまだ抵抗を続けている都市があると報告を受け、西洋妖怪の本陣から出陣したのである。人間ごときに自分たち西洋妖怪がてこずるはずがない、可能性があるなら鬼太郎率いる日本妖怪だろうと考えていたので彼らの存在は予想通りのことだった。
「あら、人間も混じってるじゃないか!あれがベアード様の言ってたカルデアのマスターとかいう奴かね?」
また、別の魔女が妖怪遠眼鏡で立香とマシュの姿を捉え甲高い声で叫ぶ。
「そりゃ運がいい。鬼太郎とそいつをいっぺんにやればベアード様からたんまり褒美がもらえるに違いない。 さぁあんたたち、人間に味方する情けない日本妖怪どもを血祭りにあげてやろうじゃないか!」
魔女たちは高らかに皆 殺しの歌を歌い、鬼太郎たちに急接近していった。>>374
「髪の毛針ィ!」
「ヒシキパグラ、アパラチャモゲータ!」
鬼太郎の毛針と魔女の魔力弾が激突し小さな爆発を起こす。
「婆が年甲斐もなくしゃしゃり出るんじゃないよ!」
「お前らも婆じゃろうが!しびれ砂!」
別の場所では砂かけ婆が麻痺効果のある砂をぶつけ魔女を撃墜している。
他にも網切は自前の万能はさみで魔女の箒を切り刻み、烏天狗は棒術と神通力で魔女たちを倒していった。
もちろん一方的に倒すばかりでなく、魔女の魔術でまたは妖怪殺しの針でこちらが倒したのと同等、いやそれ以上の日本妖怪が倒れていった。
立香もまた刑部姫が霊脈とつないでくれたおかげで召還できるようになった英霊の影で応戦していた。
「先輩!あそこ!」
不意に傍らのマシュが前方を指さす。そこには後ろから鬼太郎に妖怪殺しの針を突き立てようとしている姿があった。立香はとっさにガンドを撃ちそれを阻止する。
「生意気だね!アパラチャモゲータ!」
ガンドを撃たれた魔女はバランスを崩し落下しかけたがすぐさま体勢を立て直し矛先を立香に向ける。
「危ねぇ!」
魔術が放たれる直前に障子のついた黒雲から一つ目の獣人、ひでりがみが顔を出しその魔女に体内ドライヤーを吹きかけた。魔女の身体はたちまち炎に包まれ地面へと落下する。
「ありがとうございます」「なぁにお互い様よ!」
ひでりがみは立香の感謝の言葉に一言だけ答えると黒雲を動かし、戦場に戻っていった。>>375
このように日本妖怪たちと西洋妖怪の先兵の戦いは熾烈を極めた
しかしやはり西洋妖怪たちの強さは日本妖怪よりも一段上で奮戦空しく日本妖怪たちは徐々に追い込まれていった。
「ひひひひ、威勢がよかったのは最初だけだったようだねぇ。所詮小さな島国の妖怪、あたしらに勝てるわけないのさ」
リーダー格の魔女が全方位を取り囲まれている日本妖怪たちを大声であざ笑う。だがその手は隙なく鬼太郎に向けられていて油断はない。
「お前たちに一度だけチャンスをやるよ。鬼太郎とそのカルデアとかいう連中を引き渡せば命だけは助けてやろう。どうだい?悪い条件じゃないだろう?」
魔女は意地悪く微笑み悪魔の取引を囁く。
「な、なぁ、ここはひとまずその条件を飲んでみねえか?鬼太郎たちにゃ悪いがやっぱり自分の命が一番だぜ」
戦場を逃げ回りちゃっかり生き残っていたねずみ男が身をすくませながら魔女たちの要求に答えようとする。
「黙れねずみ男!答えはもちろん、NOじゃ!」
気が短い砂かけ婆はそれに対して大量の砂でをぶつけることで答えた。
「なら死ぬしかないようだね!ヒシキパグラ……」
砂を浴びせられた魔女たちは日本妖怪たちに向けて一斉に呪文を唱え始める。万事休すかと思われたそのとき、
「オオオオン!」
鯨の鳴き声にも似た金属音が轟き、魔女たちを無数の銃弾が襲った。
魔女たちは流石に撃ち落とされる者は少なかったが意表を突かれ大きく隊列を崩す。
「!今だ、みんな!リモコン下駄!」
その隙を逃さず鬼太郎は下駄を飛ばし、包囲の穴をさらに広げ皆に突破するよう指示を下す。
「なんだいありゃあ!」
「あれは……!」
魔女と無事包囲を突破した鬼太郎が銃弾が来た方を見て同時に叫ぶ。
「巨大ロボットだ!」
立香もまた興奮した声をあげる。
そこには鋼鉄でできた直立二足歩行の鯨ともいうべき姿をした巨大なロボットが立っていた。その周りにはそれを人間大にしたようなものもいくつか見える。
「鉄の大海獣!」
それはかつて鬼太郎が鯨の祖先、不老不死の生物ゼオクロノドンの血を体内に打たれ大海獣と化したとき、彼を抹殺 するために彼を模して作られた鋼鉄でできた大海獣、ラジコン大怪獣だった。>>377
「危ないところだったな鬼太郎」
大海獣の口から少し大人びた少年の声が漏れ出た。
「その声は、山田君かい?」
「ああそうだ、鬼太郎、やはり君も戦っていたんだな!」
山田少年、彼こそがゼオクロノドンの調査の際、名誉欲に狂い鬼太郎をあの手この手で抹殺しようとし、果てには大海獣へと変えた張本人である。ラジコン大海獣もまた彼が鬼太郎を殺 すために作り出したものの一つだ。しかし彼はその事件で逆に母と妹を鬼太郎に助けられ、さらに自分のこれまでの人生が鬼太郎に支えられていたことを知り改心、今まで自分だけが幸福になるために使っていた頭脳を人々のために使うことを決めたのだった。
「僕は君に本当に立派な人間とは何かを教わってから、ずっとどうすれば人のために科学の力を使っていけるか考えて研究を続けていたんだ。この大海獣もその一つさ、怪気象が来るのが分かってからすぐ着手してある人の協力も得て蘇らせることができたんだ。今度は人を守る正義の機械としてね!」
山田少年は誇らしげな声で鬼太郎に答えた。
「ということは今まで街を守っていたのはこいつだったってことかい!」
山田少年の言葉を聞き、魔女は憎々しげに叫んだ。日本妖怪どころではない、人間の作った機械ごときに自分たちは手こずらされていたのだ。
「そうだ、妖怪たちに任せるだけじゃない。僕たち人間だってお前たちと戦うぞ、お前たちにこの国を好きにはさせない!」
山田の声とともにラジコン大海獣は咆哮した。欲に塗れた鉄の獣としてではなく、悪しきものを砕く鋼の守り人として。>>378
そして、足元の人間大のものたちも合わせて大きく開けた口から一斉に魔女に向けて無数の銃弾を発射する。
魔女たちは慌てて回避行動をとる、先程の第一射で落ちた魔女の症状からこれらの銃弾には自分たち妖怪に有効なサラマンドラの粉が混ぜられていることに気づいたからだ。
「よし、ぼくたちも続くぞ!髪の毛針!」
ラジコン大海獣の登場によって劣勢を切り抜けられた鬼太郎たちも勢いづいて一転攻勢に出る。
「調子に乗るんじゃないよ!デカブツにはデカブツだ、グルマルキン!」
「ほいきた、出ておいで私の愛しいゴーレムちゃん」
リーダー格の魔女が苛立たしげに叫ぶと魔女たちの中からグルマルキンと呼ばれた黄衣の魔女が懐から笛を取り出し、おもむろに吹き始めた。
すると真下の土が盛り上がり土の巨人ゴーレムが現れる。立香が今まで見てきたものより
はるかに大きい。
ゴーレムはグルマルキンに命じられるまま大海獣をおさえつけようと組み付く。
二体の力は拮抗し、大海獣の攻撃は食い止められた。サラマンドラの粉の銃弾も無機物のゴーレムには効果が薄い。
「やっぱりそういうのもいたか……だがこちらもこいつだけが奥の手じゃないぞ!」
「そのとおり!」
大海獣の口から出る山田の声にもう一つ、立香とマシュの二人には聞き覚えのある声が混ざった。>>379
大海獣の口から出る山田の声にもう一つ、立香とマシュの二人には聞き覚えのある声が混ざった。
そしてこれまた聞き慣れたファンファーレとともに大海獣の頭上に雄々しい、しかしどこか愛嬌のある白いライオンの頭と見かけだけは立派な体格の男が姿を見せる。
他の誰と見紛うことないその見た目はカルデアから同行してきたサーヴァントの一人、トーマスアルバエジソンだった。
「神秘を暴く我が宝具の前では怪異は迷信へと成り果てる!土くれに戻りたまえ、『W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)』!」
エジソンは獅子の顔で高らかに雄叫びを上げ、宝具を発動した。
彼の身体から強い光が発せられ、それを真っ向から浴びたゴーレムは彼の言葉の通り土くれに戻って崩れ去り、それの巻き添えを食った魔女たちもただの無力な老婆になって地へ落ちていく。
「日本妖怪以外にこんな奴らがいたとは……あんたたち、ここは退くよ!このことをベアード様に報告せにゃならん!」
流石の魔女たちも肝を冷やしたのか、リーダー格の魔女の指示で次々と踵を返し本拠地の方向へ退却していった>>380
「おお、あの強い魔女たちを一瞬で……」
「すごいぞ、あのライオン頭の妖怪!」
自分たちが苦戦していた魔女を瞬く間に撃退してしまったエジソンの宝具に日本妖怪たちも感嘆の声をあげる。
何はともあれ、第一の戦いは勝利に終わった。
「助かったよ山田君、そしてエジソン、さん?」
鬼太郎は礼を述べながらラジコン大海獣の頭上、エジソンの前に降り立った。
「君が鬼太郎君だな、山田君から話は聞いている。この風体では戸惑うのも無理はないが、私はあのエジソンだよ」
「ということはやっぱりあなたも藤丸君たちの仲間のサーヴァント!いやぁどこの妖怪かと思いました」
「妖怪……ん、君今藤丸君と言ったか!?彼らを知っているのかね!」
自分の風貌のことは自覚していたことだが、妖怪とまで言われエジソンは少しショックを受けた。そして更に思いがけない名前が出たことに目を丸くする。
鬼太郎は今までの経緯をエジソンに話した。
「君たちが彼らと刑部君を助けてくれたのか、いやいくら感謝しても足りないな……」
「藤丸君たちの方はさっきの戦いでも一緒にきていたんですよ、すぐこちらに来ると思います」「エジソン!」「エジソン氏!」
鬼太郎が言うが早いか、立香たちもエジソンの元に喜色満面で駆け寄ってきた。
「おお、マスター!マシュ君!無事でよかった!」
エジソンの方も二人の姿を認めると表情を明るくした。
「この気象が起こる少し前に現界したのに今まで見つけられなくてすまなかった。サーヴァントとしてマスターを見つけることを優先すべきだったが、どうしても彼らを放っておけなくてな……山田君には拾われた恩もある」
エジソンは申し訳なさそうに言った
彼は現界してすぐに人間たちにその風体を恐れられ、迫害されかけていたところを山田に保護されたのだった。>>382
「別にいいよ、俺たちも同じ立場ならきっと同じことをする。それに俺とマシュが来たのは昨日なんだ。見つけられないのも無理ないよ」
「ふむ?レイシフトの場所だけでなく時間もズレていたということか?何という厄介な……」
エジソンは苦々しく獅子の顔を歪め唸る。
「怪気象の内部を外界から隔絶するという性質が何か関係があるのかもしれません。詳しく調査したいところですがカルデアと通信がつながらなくて……」
「そういうことならば私の霊界通信機の研究が何か役に立つかもしれない。聞くところによると鬼太郎君たち妖怪は異界に深く精通しているという。彼らと協力すればなんとか」
そこまで言ったところで不意に山田の方を振り向き、「あー山田君すまないのだが」
と気まずそうな口調で尋ねた。
「いいですよ、先生が僕たちに協力してくれている間を縫って必死で彼らを探していたことは知っています。町のことなら僕の大海獣とあなたが組織してくれた量産型ミニチュア大海獣でなんとかします。だから心配せずに彼らの元に戻ってあげてください」
山田は少し名残惜しそうな顔をしつつもエジソンを心配させまいと力強い口調で彼の背中を押す。
「本当に、すまない。ということで鬼太郎君、私も君のところで厄介になっても構わんかね?」
「ええ、あなたのような強い人が仲間に加わってくれるならこちらこそ嬉しいくらいです」
鬼太郎は当然快く彼を受け入れた。
そして山田の方を向き、
「山田君、今回は本当にありがとう。君たちがいなきゃ危なかった」と笑いかけた。
「そんな、君が僕にしてくれたこと、僕が君にしてしまったことを思えば当然のことだよ。また何かあったら伝えてくれ、きっと力を貸す」
山田は照れ臭そうに頭をかいた。
「ふふふ、君はもう十分立派な人じゃよ」
目玉おやじが微笑んでいるかのように目を細めた。>>383
た。
「藤丸君、だったかい?世界を救ったらしい君たちの力、頼りにしてるよ」
鬼太郎たちとひとしきり話したあと、彼は同じ人間である立香たちに向き合った。
「俺はただ、皆に助けられてここまできただけですよ。一人じゃ何もできなかった」
立香は自信なさげに笑って答えた。しかしそこには卑屈さは一切なく、自分の力になってくれた英霊たちやカルデアの人々に対する誇らしさが垣間見える。
「そうかい?でもそれはとてもすごいことなんだよ。僕は家族以外の誰も信用しないで、一人でなんでもできると思っていた。でもそれは違った。母や妹、鬼太郎たちに僕はずっと支えられていたんだ。もし、それに気づかないままだったらきっと僕はそのつながりさえ切り捨ててダメになっていただろう。自分が誰かに支えられていることをちゃんと分かっていて、それを臆面もなく認められるのは立派なことだ。そんな人だからこそ逆に誰かを支えることもできる。だから、僕は君を信頼するよ。鬼太郎を頼む」
山田は過去の自分の過ちを思い出しながらそう語り、立香の肩に手を置き頼み込んだ。
「分かりました、俺に、いえ俺たちにできることなら」
立香もまた真剣な面持ちでそれに答えた。>>384
山田たちと別れ、姫路城へと帰り着いた立香たちは傷ついた妖怪たちの手当てを手伝っていた。
「すまんなぁ嬢ちゃん、俺にゃ手がないからよ」
マシュに傷に薬草を貼ってもらっている輪入道が申し訳なさそうに巨大な体を縮こめる。少し車輪の周り炎がかかるが、ものを燃やすことのない陰火であるので問題はない。
「いえ、私にできるのはこれくらいですから」
マシュは大きな彼の顔を見上げ、力なく微笑んだ。
先の戦いで沢山の日本妖怪たちが傷つき死んだ。中には昨晩一緒に騒いだ妖怪もいた。妖怪は死ん.でも形が変わるだけで条件が整えばまた生き返れるらしいが、それでも彼らがいなくなった喪失感は変わらない。
自分はそれを、見ているだけだった。
マシュは自分の無力さを痛感しながらペタペタと薬草を傷に貼り付ける。
「ふむふむ、なんぞお悩みのようじゃのう」
その目の前にひょっこり目玉おやじが顔を出した。
「お、おやじさん!?」
「少し元気がなさそうじゃったでの、気になってきてみたのじゃ。親しい仲だと逆に話せぬこともあるじゃろう、藤丸君に相談できないことならわしに話してみてはどうじゃ?」
目玉おやじはマシュに肩の上に乗せてもらいながら言った。
「お気遣い感謝します、では」
そしてマシュは胸の内を語り始めた。まだシールダーとして戦えたころのこと、そして力を失った今戦えないと分かっていても立香の側にいて役に立ちたいとついてきたのに結局見ていることしかできないことに無力感を感じていること。
「今の私では先輩を守ることもできません」
マシュは語り終えると打ちひしがれるように肩を落とした。
「ふむ、それは苦しいじゃろうなぁ。しかし、今ないものを思っても仕方ない。今の、大切な誰かの為に何かしてあげたいという気持ちを忘れないことじゃよ。その気持ちを持ち続けておれば自ずとなすべきことが見えてくる。それに、誰かが自分を大切に思ってくれているだけでも大分心の支えになるものじゃよ。きっと藤丸君もマシュちゃんの存在が支えになっておるじゃろうて」>>385
目玉は肩を落とすマシュの頭を優しく撫でながら言った。
「ふふふ、まぁ偉そうなことを言ってもわしも人のことは言えんのじゃがな。……いつも思うよ、わしが元の大きな体なら鬼太郎に苦労をかけずに済むのに、わしがもっと強ければ鬼太郎を助けることができるのに、とな。この体では傷つき苦しむ息子に肩を貸してやることもできん 」
そして自らもまた息子や仲間たちにも秘めた心を明かす。
それは静かな慟哭だった。
声は穏やかだったがその言葉には小さな体からは考えられないような深い嘆きとやるせなさがあった。
「これは鬼太郎たちには内緒じゃぞ?みんなに心配をさせるわけにはいかんからのう」
目玉は話し終えるとおどけた調子で笑った。
「おやじさん……いえ、二人だけの秘密、ですね!」
この小さな父親もまた、自分と同じような苦しみを抱いている。そしてそれでもなお息子のためになろうと思い続け、知恵をめぐらしている。そのことにマシュは負けてはいられないという活力を得た。>>387
ところ変わって西洋妖怪に占拠され本拠地と化した東京。ビルが立ち並んでいた街並みは錆が浮かんだ金属板やパイプに覆われ廃工場のような様相に変わり果てていた。いくつかの建物からは馬鹿みたいに長い煙突が伸び、墨のように真っ黒な煙を天に向かって吐き出している。
その中で一際大きな煙突がある建物、以前国会議事堂と呼ばれた建物の内部。本会議場があった場所には溶鉱炉が設置され、大きく開けた口から邪悪な赤い光をちろちろとちらつかせている。
その手前に彼は鎮座していた。
巨大な目玉だけの身体に無数の枯れ枝のような触手を持つ彼の名はバッグベアード。妖怪大統領とも呼ばれる西洋妖怪のドンで、怪気象に包まれた現在の日本の実質的支配者である。
「それで、そのまま逃げ出してきたというわけかね?」
彼は目の前でひざまづく魔女を見下ろしながら威厳のある声で言った。
「も、申し訳ありませんベアード様!報告の通り敵は思った以上の力を持っており……」
魔女は慌てて弁解する。
「いや、責めているわけではないよ、ただ確認しただけさ。その点に関して君は正しい判断をした、全滅して我々に敵の情報を渡せないよりはるかにいい」
ベアードは苦笑した。
「もったいないお言葉、しかしどうなさるおつもりです?エジソンとかいうサーヴァントらしき者の力はどうやら我々妖怪の天敵。討ち取るのは困難に思えますが」
「ははははは、あの強気だった魔女が弱気なことを言うね!同胞たちが力を失う光景が余程ショックだったらしい。その程度の戦力は想定済みだ。何せサーヴァントとは我々妖怪を倒す存在、英雄なのだからね。確かに厄介だが手は考えてある」
魔女の進言をベアードは自信満々に笑い飛ばす。
「なに、この国は最早我々のものだ。人間や日本の妖怪どもが多少手痛く噛み付いてこようがそれは覆らない。カルデア、サーヴァントというイレギュラーが混ざってもだ。そうだろう?」>>388
「はい、そうですとも」
ベアードが魔女から目を離すと今度はその隣の暗闇からオールバックに燕尾服とマントの男が歩み出る。吸血鬼の長、ドラキュラ伯爵だ。
「私の部下が魔女が見たのとはまた別のサーヴァントと思われる存在を発見しましてね。これを利用してカルデア、鬼太郎双方を始末する策を考案したのですが、貴方のご許可を頂きたい」
ドラキュラは魔女と同じくひざまづくとベアードに伺いを建てる。
「君の好きにするといい。それで鬼太郎たちが倒せるのならね」
「感謝いたします。実はすでに餌は撒いていましてね、必ずや奴らを始末して見せましょう」
ドラキュラは恭しく礼をすると身体を無数の蝙蝠に変え、現れたのと同じように闇に消えていった。>>389
ドラキュラが消えていった直後、ベアードの目の前に数人の人間が入った檻がクレーンに運ばれて通り過ぎた。
ベアードはそれを目をぎょろぎょろと動かして追う。
檻からは人間の助けを乞う声が聞こえるが、彼には虫かごの中のコオロギが鳴いているのと同じでしかなく、聞き入れる気は全くない。
やがてクレーンは溶鉱炉の上で一旦止まると一気に檻を炉に落とした。
中の人間たちの断末魔が部屋全体に響きわたる。
炉の中の炎は実際の炎ではない、憎悪、怨念、その他様々な負の情念によって形作られた呪いの炎だ。その炎は肉と骨だけでなく魂まで溶かし気化させ、怪気象を構成する黒い霧に変換してしまう。
この溶鉱炉こそ怪気象定着装置であり、東京は今や怪気象製造工場と化していた。
「さて、君に頼みたいことがある。私が先程話した『手』についてとても重要なことなんだ」
それら一連の工程を目を細め心地好さそうに眺めていたベアードは再び魔女に目を向けた。
「はい、ベアード様。なんなりと」
魔女は顔を上げ、忠実にベアードの言葉を待った。
(ふふふ)
ベアードはその姿を見て内心ほくそ笑む。
(ドラキュラ、すまないが君の策は使わせてもらうよ)
(◾️◾️◾️の好きにさせないためには鬼太郎かサーヴァント、どちらかの確保は必要不可欠だ)
(妖怪も人間も大切な資源、滅ぼすのはもったいないからね)「邪神探偵アビーがセイバー009と性転換するss」
第一話「001 マッシロイ」
皆様ごきげんよう! 私、アビゲイル・ウィリアムズ。どうぞアビーと呼んでくださいな!
ひと月前まで助手を務めていた探偵事務所の探偵さんが粗悪品の赤っぽいコカインで逮捕されてこのかた、バターも塗れないパンケーキで飢えをしのいでいたところ急に転がり込んできた依頼人さまの勘違いをきっかけに私が探偵さんになってしまったわ!
それから色んな出来事がエトセトラ・エトセトラ。私は今、豪華客船に潜入してるのです。
依頼人さまから課せられたミッションは「指定された9人のセイバーをTS」すること。なんだか探偵さんというよりはお医者さまの仕事のような気がするのだけれど、バターもベーコンもグレービーソースのかかったマッシュポテトもつかない侘しい食事はとても辛いから頑張るわ! それに昨日の夜、
“おおアビー、我が娘よ。さっきお前のアウトサイダーな人生のナンセンス文学じみたドラマツルギーを見るに見かねた私が触手にTS能力を与えたから頑張るんだよ”
というお父様からのわけのわからないお告げがあったの。うん。だから、きっとなんとかなるでしょう!
「えっと……見つけた」
セイバーさんたちがドレスを着飾り一同に会するパーティーで、上下赤のスーツに黄色いスカーフを巻いた少年はとても見つけやすかったの。>>391
「えっと……もし、そこのセイバーさん?
「どうされたのです、小さなお嬢さん。どうもセイバーというわけではなさそうですが迷子ですか?」
あどけない微笑みにどこか知的な匂いを漂わせたその人……フェルグスさんの少年時代、依頼人さんはマッシロイと呼んでいたけど……は柔らかくそう言いました。
(小さな……は失礼じゃないかしら)
こんなことで、ちょっぴり腹を立ててしまった私を許してくださる?
「はい。迷い込んで気付いたらこんなところにいて……どうしたらいいのかしら」
「そうですね……港に戻るのは明日になりますから、支配人と相談して休憩室と食事の用意を検討しましょう」
嗚呼、なんて素敵な紳士さまなのかしら! ただの迷子にここまで親身になってくださるなんて……。
係の人に代わって頂いてもいいところを、より待遇をよくして頂けるよう支配人と話し合うべく部屋へとエスコートしてくださるマッシロイさん。
……ええ、ええ。貴方ならそうしてくださると思っていたわ。>>393
「おそらく、裏で操る者がいたのでしょう。都合よく利用されたのは察しがつきます。
なにより、子供の命を奪うのは僕としても嫌なことです。どうか投降して欲しい、お嬢さん」
……彼が、とても真剣にそう言うものだから。私はつい、悪い子になってしまう。
「子ども扱いはやめて下さる? 小さな王子様」
ぶむ、ぶむ、ぶむ。紫色の可愛い翅の、私お気に入りの虫たちが彼をムシャムシャ食べようとして飛んでゆく。
「ふんっ!」
剣風一閃……と、伝奇ものの娯楽小説(ペーパーバック)では言うのかしら。私の虫さんたちは儚くも散り裂かれて塵にもならない。でもね?
「やっぱり子供扱いだったのね。だから、こうなってしまったの」
貴方のことならお見通し。虫さんたちは目眩まし。この船まるごと私の触手を廊下の隅まで手配済み。
猫もネズミも一匹たりとも逃すことはない包囲網。これが、私の探偵業。
「きっと、ただ背中を狙うだけなら気付かれてしまうもの。だから、私が囮になるしかない……もっとも、油断や手加減がなかったら、これでもダメだったと思うわ」>>394
「敵ながら、大したものです……これは一つ、教訓になった……」
見えない触手に呑まれ、徐々に女性へと作り替えられながら、それでもマッシロイさんは笑っていた。
「やっぱり、素敵な人ね。貴方は」
しばらくして、ボーイッシュな短髪をしつつ肩や胸や腰回りが丸みを帯びた童顔の少女が現れました。
お胸やお尻は慎ましいけれど、どこか将来はすごいことになりそうな、妙な色気のある女。
「で……その依頼人からはボクたちを性転換しろと」
「ええ、ただそれだけだったの」
「なにそれ、わけがわかりません。
でも、何故、そんなことを引き受けたんです?」
少女座りであどけない上目遣いを向けてくるマッシロイさんに、私は笑って言ってあげたの。
「そんなの、毎食美味しいパンケーキを食べるために決まってるわ」第二話「002 デオン」
こうしてマッシロイさんを女の子に変えた私は次の標的を探すことになったの。(ちなみに、マッシロイさんは空いている船室のひとつに銀の鍵を使い転送、触手で拘束しています。ひどいことをしてごめんなさい……)
でも、私はここで、まさかの哲学的な命題に突き当たってしまったわ。
「二番目の標的はデオンさん……デオンさんを……てぃー、えす……?」
そもそもデオンさんは自分で性別を変えてしまえる人。今この瞬間すらどちらであるのかさえ分からない不思議な人。じゃあ、そもそも性別不明の人を性転換するって、どういうことなのかしら……?>>396
飢えをしのぐため読書に没頭したひと月のあいだ、ふと手に取った科学の本を思い出す。そこには『シュレディンガーの猫』というお話があって……とっても残酷なことですけど……“一時間に一回、五割の確率で毒ガスの出る装置のついた箱のなかに猫を入れて一時間経ったとき、蓋を開けるまでそこには「生きている状態」と「死,んでいる状態」が同時にかさなった猫がいるのではないか?”というもの。
これはシュレディンガーさんというえらい学者様が素粒子……モノを形づくる、うんと小さな粒らしいわ……が、見られているときと見られていないときとでふるまいを変えるという考え方を批判するために作った皮肉めいた話なのだそう。それにしても猫さんにひどいわ!
「でも、デオンさんはまさに『男性のデオンさん』と『女性のデオンさん』が服の中に同時に存在する『シュレディンガーのデオンさん』だわ……」>>397
元々性別が観測されない揺らぎのなかにあるシュレディンガーズ・キャット=シュヴァリエ・デオン。セイバー009のTSという使命に突如として立ちはだかる哲学的難問を前に、私、アビゲイル・ウィリアムズの健やかなパンケーキ生活は露と消え果ててしてしまうのでしょうか……?
「いいえ、いいえ! こんな非科学的なことに負けてはいけないのよアビー! パンケーキは明日への希望なり!」
私はまるでシュレディンガー博士が憑依したかのごとく、のしのしとした足取りで会場に戻り、009の赤いスーツを纏ったデオンさんへと近づいて行きました。
「あなたは非科学的よ!!!」
「???……一体、どうしたんだい君は」(ふと、違和感を覚え、デオンの一人称をモロに間違えていることに気づく。「私」だよ私の馬鹿野郎。デオンファンの方々にはたいへん不快な解釈違いをお詫びいたします。以下訂正版にてお送り致します)
>>401
「元は私もスパイだからね、君が同業なのは察しがついたよ。いくつか嘘は吐いているがイタズラでもない」
部屋に着くなり、デオンさんは私の目論見をあっさり看破してしまいました。
「悪い人だわ。すっかりお見通しだったのに知らないふりだなんて」
「流石に会場で事を荒立てることは出来ない。だからこうして二人っきりになれる場所に移動させてもらった」
そう言ってデオンさんはサーベルを鞘から抜き放ち、私の首へと突き付けました。
「少し前からフェルグスの姿が見えない。お前の仕業か?」
私はこくりと頷きました。
「お前の目的はなんだ」
私は笑って言いました。
「それはちゃあんと言いました。あなたの、TSよ」>>403
足元から湧き出す触手をデオンさんは後方へと華麗に跳躍して回避する。そこを目掛けて壁や天井から襲いかかる第二波すらもデオンさんは見事な体捌きで凌いでみせる。
(ここまで準備をしても、こんなに強い……)
戦士の人達を侮っていたつもりはないけれど、私の想像なんかずっとずっと越えてすごい。
なら、もうひと押し。私の手に現れた銀の鍵をそっと空間に差し入れ、
「させるか!」
触手の海のなか、わずかに空いた壁面を蹴ってデオンさんが突撃してくる。サーベルの切っ先が、私の喉を狙い定める。
「っ!」
間、一髪。私の転移のほうが早かった。私はデオンさんの背中にしがみつきながら、徐々に触手を全身に回していく。
「嗚呼……たまらないわ」
とっても怖かったけれど、何故か胸がドキドキしてしまう。なんて不思議な気分なのかしら。>>404
「なるほど……君のお父様なる存在から授かった能力にもよるのだろうが、私がTSすると……」
「なろうと思った性別があべこべになるのね」
「なんというか、ひどく不便だ」
フェルグスさんのときのように分かりやすい変化は何処にもないまま、デオンさんのTSは終わりました。
「……個人的にも無いに越したことはないけど、君の依頼人は“TSの具体的な確認”は求めなかったのかい?」
「え、ええ……だから、その、見ないでおきます」
そうして私達は二人俯き、しばし頬を赤らめていました。(前話での反省を活かすため、更新ペースを若干落としての進行になります)
第三話「008 アルテラ」
こうして、どうにかデオンさんのTSにも成功した私だけれど。
「……やっぱり、セイバーさん達は強いわ」
あらかじめ仕掛けられた触手の海のなかですら、私を貫く寸前にまで至ったデオンさんの剣技を思い出して足が竦んでしまう。
もちろん、はじめから騙し討ちや搦め手……嗚呼、主よ。悪事に手を染める私をお許しください……でどうにかするつもりだったけれど、そんな小手先が通じるような人達じゃないのはよくわかった。>>411
未だ握られたあの剣のひと振りは言葉通りの意味で私を世界から消滅させてしまえるほどの力がある。それが、理屈を超えて伝わってくる。
怖い、恐い、畏い……そんな言葉の枠も決壊するほど未体験の情動に、全身が、存在の底のほうから、軋みをあげて震える。
けれど、そんな状況でも、デオンさんが至極落ち着いてらっしゃるのは何故……?
「君のことだ、彼女の力については私よりずっと勘が働くんだろう。私は君のことも、彼女のこともちゃんと知ってるわけじゃない。
ただ、彼女は“ただちに危険”な存在じゃないと私は断言しよう。その証拠に、彼女は私やフェルグスを殺,せるだけの力を持ちながら、あくまで拘束にとどめている。それは、力を制御出来ているってことじゃないか?」>>413
「…………っ!」
心臓が喉から飛び出してしまいそうなのは、未だ冷めやらぬ恐怖のせい?
それとも、彼女の凍てついた面差しが、雪解けを告げるように綻んだせい?
……それからしばらくして、マッシロイさんが部屋に合流し、009さん達でくわしい相談をはじめました。
そのあいだ、ずうっと心が天井のほうにふわふわと浮いたままだった私に、デオンさんが告げました。
「これから、セイバー009全員と支配人を交えての会議を始める。君も来てもらうよ」【次回予告】
こうして支配人のところへ案内された私を待ち受けていたのは、セイバー009の皆様と意外なあの人だったのです!
ついに明らかになる“依頼人さん”の正体とまさかの急展開とは!
次回「邪神探偵アビーがセイバー009と性転換するss」第四話
「009+1」。どうか、お読みになってくださる?
彼奴の宿痾に手を貸して、目的の達成まであと一歩。
そこからの記憶は曖昧で、気付けば英霊の座で微睡んでいた。
再起動(リブート)される脳内には、既に数秒前の世界の記録は無く。
再び呼ばれるその瞬間までもう一度私の意識は断絶される。
深い海に沈むような鈍い眠りに身を任せる前、手を握って、開いている。
大切なものを拾えたような、零したような。
それすら思い出せないのは、少しだけ哀しいと感じた。
ただ、手元に感じる髪を撫でたような感触と。
膝元の温かさだけが妙に鮮明だった事だけを覚えている。そして悠久から目覚め、底抜けのお人好しに手を貸し始めてしばらくが経過していた。
ここには見覚えのあるものが多すぎる。例えば目の前の白髪の少年。
既に日常の一部となっているであろう、窓の奥の白い景色を眺めていた。
その目は遠く、遠くを見つめている。
私の視線に気付いたのか、困ったような顔をして彼は微笑みかけてくれる。
「よく目が合いますね」
わざとらしくため息交じりに言葉を返す。
「景色に呆けるその面を見ているのも割と愉快だぞ」
彼は苦笑を浮かべ、そうしてまた窓の奥に広がる世界と向き合う。
貴方の横顔しか見えぬのだ、などとは当然言える筈も無く。 END「今日からお前は間桐の魔術師、間桐桜となる」
「……はい、分かりました」
目の前にいる妖怪のような老人に、私は恐ろしくてどうしても目を合わせることが出来なかった。
だが、もう助けてくれる『前』な家族はいない。これからはこの老人達が家族になるのだ。
「そして、間桐の魔術師になったからには間桐の魔術を学んでもらう」
魔術。
その言葉は私はどうにも好きになれなかった。そんなものがなければ、私は家族と別れる必要もなかったのかもしれないのに。
それでも、それしか私に道は無い。
「では、まずは身体測定じゃ」
「…………はい」
「それが終わったらイ〇ンにシューズを買いに行く。ランニングは基本じゃからな?」
「…………はい?」>>418
何だかイオ〇と言う魔術っぽくない単語が聞こえた気がする。というかランニング?
「身体測定もして運動用ウェアとかも買い込んでおかんとのう…そのあとは………」
「あ、あの!ちょっと待ってください!」
声を荒げる私に既に背を向けて何やら準備を始めようとしていた老人は心底不思議そうな視線を投げかけていた。
「…………魔術は?」
「…………魔術じゃよ?」
少なくとも私が思ってた魔術はランニングが基礎のものでは無い。何だか私の方がおかしいみたいな雰囲気が出ているが、もしかしたら本当にそうなのか?いや、絶対違う。
「………ああ、そう言えばまだおぬしには言ってなかったのう」
そう言って老人、間桐臓硯は私の瞳を優しげな目で覗き込みながらまるで星にでも語りかけるように、私の人生を変える言葉を放った。
「間桐の魔術。それは、正義の味方になるために体を鍛えることなんじゃよ」
この時のことを私は今でも覚えている。
雷に打たれたような衝撃の後、私はゆっくりと口を開いた。
「すいません。何言ってるかよくわかんないです」
「雁夜!慎二!早速間桐家恒例準備体操の時間じゃァ!」>>390
数日後、エジソンは刑部姫、鬼太郎の協力を得て鬼太郎の霊界テレビを改造、カルデアとの通信を成功させた。
「今日本を覆っている黒い霧は空間だけじゃなく時間軸まで世界から切り離してしまっているらしい。セイレムと状況が少し似ているがそれともまた違う、異なる時間の流れがレイシフトにまで影響し君たちの存在は別々の時間と場所にばらまかれてしまったようだ」
立香たちから報告を受けたダヴィンチは彼らの無事を喜んだ後起こった事態について説明した。
「現在も解析を進めているがそちらの彼らが怪気象と呼ぶこの現象にはまだまだ謎が多い。今説明したこと以外では掴めたのは中心地が東京であることと黒い霧が覆う範囲がいまだ拡大し続けていることだけだ」
「ふむ、西洋妖怪たちが現れたのも東京からじゃ。奴らの本拠地もそこにあると見て良いじゃろうな」
ダヴィンチの言葉に目玉おやじが頷く。
「では藤丸君たちの仲間の無事をある程度確かめた後、皆で東京へ向かうということでいいでしょうか?父さん」
そう言って鬼太郎が話をまとめた。
元々、鬼太郎たち日本妖怪は西洋妖怪に対して大きく劣勢だった。並みの妖怪と比べてあらゆる点で勝る(妖怪たちが持つ個々の特殊な力に関してはその限りではないが)サーヴァント二人と今までの経験がある立香が加わった今でもその差を埋めるのは難しい。西洋妖怪たちの裏にいるバッグベアードと聖杯を持つサーヴァントと戦うには非戦闘型の二人の他に戦闘に長けたサーヴァントが必要だと思われる。逸れた仲間を探すことは日本妖怪側にとってもはやただの親切ではなくなっていた。
「ああ、そうしてくれるとこちらもありがたい。彼らが得たデータも合わせれば調査も進むだろうからね。マスターくん、マシュ、君たちにもいつも以上に苦労をかけることになるかもしれないが、許してくれ」
「気にしないで。絶対絶命もいつものことさ。少し怖いこともあるけどみんなの力があれば乗り越えられる!」明らかにSSじゃあ収まりきらないスケールになってしまった
いっそやる夫スレとかにしてしまおうか>>420
立香はダヴィンチにガッツポーズで答えて見せた。その足先が少しだけ震えていることに傍らに立っていたマシュだけが見ていた。
「鬼太郎ー!」
カルデアとの通信が終わった直後、砂かけ婆が慌てた様子で駆け上がってきた。
「そんなに慌ててどうしたんだい?おばば」
「おお、鬼太郎。さっきの、また新しく仲間が逃げ込んできたんじゃよ!それでな、そやつらが西洋妖怪に襲われた時巨人の女の子に助けられたと言うんじゃ」
鬼太郎の問いに砂かけ婆は息を切らせながら答えた」
「巨人の女の子?そんな妖怪日本にはおらんはずじゃが……」
目玉おやじが怪訝そうに首を傾げた。
「そう、そこじゃよ!その女の子が日本の妖怪ではないなら、その子たちの知り合いかと思っての、知らせに来たんじゃ」
砂かけ婆は目線で立香たちを示す。
「巨人の女の子……」
「先輩」
その特徴から導き出せる仲間の姿を思い浮かべ、二人は顔を見合わせた。
「あの、その人たちに詳しい話を聞かせて貰えますか?」>>422
城に駆け込んできた妖怪達は小豆とぎ、小豆はかり、小豆婆のいわゆる小豆連合と呼ばれる三人だった。
「金髪で、青い牛みたいなのに乗った……おお、おら達を助けてくれたのは間違いなくその子だよ」
立香が並べた特徴を聞いて小豆とぎが大きな目を更に見開いて答える。
「一緒に来ねえかって誘っただが、ここでますたあだかなんだかを待つって聞かなかっただよ」
「助けてもらったお礼に小豆飯こさえて渡しただが、何分急いでたもんで多く作れんかったでなぁ。今頃腹ぁすかせてねぇといいだが……」
毛むくじゃらの顔からまん丸の目を覗かせた小豆はかりとハチマキをした老婆の小豆婆が心配そうな顔で横から付け加える。
「間違いない、バニヤンだ……!」
三人の話から立香はカルデアの仲間の一人、ポールバニヤンが誰もいない暗い場所で寂しそうな顔で自分を待っている姿を連想した。食いしん坊で強くて優しい、そして人一倍自信がなくて寂しがり屋な女の子。そんな彼女が一人で誰も味方がいない場所で待ち続けるのはどれだけ辛いことだろう?バニヤンに初めて会った時の事を思い出し、立香は我知らず拳を固く握っていた。◆
少年は旅をする。
歩きに歩き続けて、世界を知る。
けれども、その心と体は成熟することなく、胸の高鳴りを求めている。
少年は、その日、再び出会った。>>424
◆
シズカは主が起きるのを待っていた。
主には、待たなくてもよいと言われている。
電気をつけてもいいし、テレビをつけて夜を明かしてもいいと何度も言いつけられていた、
私は眠りが深いほうなのだから、遠慮していてはだめよ。
せっかく眠らなくもいいからだなのだから、人生を楽しみなさい。
主は、シズカを年の離れた弟を諭すように何度も告げていた。
けれど、少年は――シズカはじっと同い年の主を暗闇で見つめていた。
微かにわかる輪郭は、食虫植物のように掛け布団をバッタバッタとひっくり返し蠢ている。
寝息に交じり時折聞こえる呻き声は、どことなく色気を醸し出していた。
目と耳が得る情報の差異が、シズカにとってはとても好ましいものだった。
「……シズカ」
まだ、彼が一人で座り込んでいたとき。
彼に目的がなかったとき。
彼が、まだシズカになる前のことだ。
その日、魔術師に出会った。>>425
◆
「―――」
屍に語りかける少女がいた。
棺桶を重そうに引きずり歩むさまは死神のようだ。
だが、鈴の音のように清廉で、燃えているように跳ねた髪は鮮やかに赤く染まっていた。
顔立ちは、どこか幼さを宿していた。
だが、その表情は悪辣。
この世のすべてを憎み、軽蔑し、気など一切許しはしない憤怒と笑顔が混ざり合っていた。
「あたしはね、しぬことが許せないのよ」
屍は答えない。
「でも生きていることも憎いのよ」
屍は動かない。
「だから、決めたの。両方を『混ぜて』しまおうって―――幸い、うちの家の魔術にはそれができる」
屍はしんでいる。
「一流の魔術師なら、歴史を積み重ねた魔術の大家なら、素直に根源を目指すんだろうけど、あたしに魔術刻印を引き継がせたお父様の失敗ね」
少女は赤い宝石を腐敗し、野鳥に啄まれ開いた胸部に滑り込ませた。
「――――――」
屍は生きていない。>>426
「―――ア」
だが『動いた』
少女の詠唱は続く。
笛の音に操られるように、屍は徐々に動き出す。
「―――ゆ、るさない」
融けた歯肉がこべりついた白い歯が上下に動き怨嗟の声を紡ぎだした。
ボトボトと落ちた肉片も意志があるかのように蠢く。
「よくも、よくもぉおおおお!!!!」
「……うん、よし」
完全に立ち上がった屍をみて少女は満足げに立ち上がり
「弾けろ」
轟音と共に屍を燃やした。
「な、ん、で」
「屍には用はないのよ―――あたしがほしいのはアンタよ」
燃え上がる肉塊から目を離し、少女は僕を見た。
僕が見えるの?
「ええ、見えるわ。それができる眼ですもの。まぁ、それしかできない目でもあるけど」
そっか、それじゃ、お礼が言えるね>>427
僕の体を燃やしてくれてありがとう。
正直、腐敗する自分の体を見るのはあまりいい気分じゃなかったんだ。
「そう、あたしはあたしの事情でやったことなのだけれど、礼をされるのは気分がいいから素直に受け取っとくわ」
その仄かに青く光る瞳に一切の喜びも、歓喜もない。
依然として、彼女は僕を観察するように見つめていた。
「アンタには、私の従僕になってもらうわ」
従僕?
彼女は、背負っていた棺桶を灰となった僕の遺骸を散らすように放り投げた。
元から朽ちていたのか、それとも細工されていたのか。
棺桶は重力と地面に砕かれて、中身をあらわにする。
それは人形だった。とても精巧で、遠くから見たら人が眠っているように見えるだろう。しかし、精巧すぎて人に見えない。
「人型に悪霊を入れて使役することはできる。でも、魂を人型に埋め込むことは至難の業―――魂を物質化でもしないと不可能」
彼女は僕を指さして告げる。
「アンタは肉体がしんでも、霊になってない。今も魂は生きた状態なのよ。物質化はせずに、そう、まるで切れたトカゲのしっぽのように生きがいい」
きっと突然変異の魂ね、と彼女は笑う。
そんなことを突然言われても、しんだあとで知っても困る。いや、生きていてもきっと困った。
「そんなことないわ、あたし、生きてもいない。しんでもいない。あなたが好きよ」>>429
◆
「おはよう、シズカ」
おはよう、ナギ。朝ごはんできてるよ。
魔術師は、ゆっくりと体をベットから起こし、跳ねまわる髪をてぐしで梳く。
あの日、僕の魂を人形に定着させ、従僕にした少女――ナギは、あの日と変わらず少女のままだった。
ふらふらと席に座り、トーストをかじる。
ナギと旅して50年。
各地を旅しているうちに学んだ限りでは、どんな魔術師も寿命を伸ばすのは難しいと聞いていた。
もぐもぐ咀嚼するが、果たして彼女に食事は必要なのだろうか。
もしかして、不老不死なのではないのかと常々思っている。
まぁ、ナギにすでに否定されているのだが……
「ごちそうさま」
おそまつさま、それでナギ、今日の予定は?
ナギにも目的がある。
僕を従僕としたのも一人では目的が達成できないからだ。
50年前から、僕とナギは『ある地』を求めて旅している。
「今日は、鶏を飼いにいくわ。儀式に必要なのよ」
儀式?
魔術が使えるわけじゃないが、魔術を知らないわけではない。>>430
しかし、ナギが各地で行ってきたのことは、地質調査に水質調査。正直、魔術師というよりも科学者だ。
とは言っても、もちろん詠唱したり、不可思議な現象を起こすこともある。
教会や時計塔からも応戦しながら逃げたこともある。
だが、生贄を使ったり、陣を使うことは本当に稀だった。
コーヒーをすすりながら、ナギは僕の訝し気な表情に気づいたのか、すこしほほ笑んで口を開く。
「そういえば言ってなかったわね。今回は今までの調査とは全く違うわ」
下げられた食器の代わりに、写真や書類が並べられていく。
「これはこの冬木市で起こった『聖杯戦争』の資料よ」
『聖杯戦争』?
「そう、これはアインツベルン、マキリ、遠坂……まぁシズカは知らないでしょうけど、魔術の大家が協力して『聖杯』を降臨させる儀式よ。今回の目的は、あと数日で始まるであろう第四次制覇戦争」
ナギは、『聖杯』がほしいのか?
「まさか、いらないわよそんなの」
一蹴。確かに聖杯はナギの目的にそぐわない。
では、なんだろうか。
「この聖杯戦争は、七人のマスターが七騎の英霊を使役してころしあう。あたしの目的は、使役されるサーヴァントよ」
英霊……サーヴァント……
「そう、もしかしたら、召喚されるサーヴァントはあたしの目的地への鍵となる宝具かヒントを持っているかもしれない」
なるほど、目的は賞品の聖杯ではなくて、手段の英霊自身か。だから、ナギは聖杯戦争に参加するために冬木に……
「参加しないわよ」>>431
え。
「参加しないわよ。シズカ、私はそこまで恵まれた魔術師じゃないわ。それに戦闘特化の魔術師でもないし、参加したら間違いなく脱落する。そんなリスクを負うつもりはないわ」
でも、それじゃどうするのだろうか。
他の聖杯戦争参加者が、ナギの求める英霊を召喚するとは限らない。たとえ召喚しても、僕たちみたいな怪しいコンビに宝具やヒントを開示してくれる可能性はゼロだろう。
なんせ、相手は戦争中なのだから。
僕が考えるに、戦争に参加し、目的の英霊を召喚したら冬木をすぐに去るのが一番ローリスク、ハイリターンだと思うんだが。
ナギはそれされもハイリスクらしい。
「私たちは死肉をよこどるジャッカルよ」
ナギはとっておきの玩具をさらすように古びた本を取り出した。
「今、この地は英霊が召喚されている。つまり、龍脈が活性している。今、この地でなら―――英霊は無理だけど、黄泉をしる霊を召喚し使役することができるかもしれない」
その本には、聖杯戦争の召喚システムが詳しく綴られていた。
「さぁ、あんたの出番よ。シズカ。しんでいるけど、生きているあんたを触媒に、あたしは『冥界への入口』をしる霊を召喚する」
魔術師ナギ。
彼女は、冥界に恋焦がれている。>>432
◆
爽快な朝だ。
昨日は、鶏から血を抜いたり、余った肉を香草と一緒に冷凍保存するのに忙しかったからこの汚れの一切ない朝陽はとても身に染みて温かい。
鼻腔にこべりついた血のにおいも草木の香りで和らいでいくようだ。それに森だからだろうか。森林浴をしている心持だ。
僕たちは今、アインツベルンの森にいる。
アインツベルン城から離れた廃墟。
穴の開いた天井から月が室内を照らしている。
ベットがある部屋とロッカーが置いてある部屋。
二部屋だけの朽ちた部屋は少し寂しさを感じる。
「アインツベルンが聖杯戦争にくるのは、明日の正午。本当ならこんな危険地帯に近づきたくないけど、霊地としてはそこそこだし、逆に言えば明日の正午までは安全ということよ。他のマスターたちもここを監視することはあっても近づこうとはしないでしょうし」
ナギは時折、大胆不敵である。
しかしあの公園や寺ではだめだったのか?
昨日調査した他の霊地。
特に公園は広い公園なのに人気がなく、歪みのある土地だった。
「あの公園は、人の死で汚染されている気がする。確かに英霊を召喚するなら条件としてはいいでしょうけど、私の召喚では逆にそれが邪魔になってしまうわ。悪霊を呼びたいわけではないのよ」
それじゃ、寺は?
「…………」
せわしなく動いていたナギの手が止まり、苦い顔をして寺がある方角に目を向ける。
しばらくの沈黙の後、再び魔法陣に取り掛かりならが口を開き短く告げる。>>433
「あそこはだめ。胡散臭い」
そっか……
会話は途切れ、一時間後、召喚の準備は整った。
しかし、あんなに頑張って縛り取った血液がバケツ一杯分余ってしまった。
「シズカ」
ナギがそのバケツを持ち上げ、手招きで僕を引き寄せる。
時刻は午前二時、召喚予定時刻だ。
冥界を知る者。
冥界へ行った者。
冥界に仕えた者。
その誰かを僕自身が触媒となって召喚する。
作り物の体が、重く感じる。
もしかしたら、僕らはついに旅を終えるかもしれない。
ナギはどうするだろうか。そういえば、冥界を見つけてどうするのだろうか。
それに、旅が終わったら僕は
「それ!!」
息が止まる。瞼を固く閉じる。
突然浴びせられたバケツ一杯の血液。
髪をぽたぽたと垂れる音を聞きつつ、愉快そうに笑うナギをジッとにらんだ。>>434
温厚な僕では怒る。わりとシリアスなことを考えていたのにこの仕打ちはどういうことなのだろうか。
抗議の視線も意に介せず、ナギは僕を召喚陣の外側に立たせた。
「はじめましょう――準備はいいわね。シズカ」
ダメです。
まったく、心の準備ができてない。いや、触媒に心の準備とかいらないかもしれないけど。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には我が大師……えーと小野……エリザベス?いやジョン!」
そこあやふやでいいの?
詠唱は続く。目の前の陣が赤く発光し始める。
室内は月光の静かな柔らかい光から強い赤光に満たされる。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
赤い光から赤色が抜け落ち、光の奔流が僕らの目をくらませた!
「―――ん?」
………
光量に焼かれた目を開けると、そこには何もなかった。
誰もいなかった。
失敗、した?
「いや、それはないわ。確かに何かが召喚できた」
鋭い、警戒心に満ちた声が背中越しに聞こえる。>>435
背中合わせの体勢。その意図に気づき、僕も周囲を警戒する。
「―――令呪がない。まずったわね……令呪が付与されなかったときのために、陣には召喚したものを縛る魔術を仕込んだけど全部破られてる。思ったよりも大物が釣れたみたいね」
そうか、触媒としては身に余る成果だが、その成果にころされたのではそれは成果とはいえない。
霊体化してるのか。
それとも目に見えない英霊なのか。
どこかに隠れているのか。
動けない。
部屋を突き抜ける風が運んでくる木々の葉音や先ほどと変わらない月光。
どこだ。どこにいる。
ナギは、ナギの『眼』は何か見えているのだろうか。
「…………」
……静かだ
僕は気づいた。
眼がロッカーに釘付けになる。
さっきまでは風で小さな金属音をたてていた扉の音が消えている。
それはつまり、誰かが開いていた扉を閉めたわけで――
――っ
PPPPPPPPPPPPP
ナギに声をかけようとした瞬間、携帯の着信が鳴り響いた。>>436
張りつめた体が驚きで仰け反る。
PPPP……
携帯に出たわけでもないのに、着信音は止んだ。
しかし、画面には『通話中』と表示されている。
『あー……あー……もし、もし』
手にとった携帯電話。ナギと共に息をのむ。
『あなたたちが、わたしを、しょうかん、した、あ、あるじ、まマスターですカ?』
途切れ途切れの声に応えていいものか。ナギに目を向けると、携帯とロッカーを交互にみている。
『もし、もし、きこえて、ますカ?』
「ええ、聞こえているわ―――貴方は、私が呼んだサーヴァント、でいいのかしら?」
『アナタ、ではなくアナタたちが正確ですネ。魔力はアナタから供給されてますが、令呪は、彼に付与されているみたいです』
ナギの視線が僕を下から上まで通過する。
「あ、首に」
片手で首を擦る。見えないが、ここに令呪なるものが浮き出てるらしい。
ふぅと息をつく。僕もナギも。
「それで、貴方はなんでそんなとこに隠れているのかしら」
『えー、それはですねー』
言い澱んでいるのわかる。その声に威厳というものは感じられず、英雄のような神性さが感じられない。
どんでもない英霊ではないようんだ。しかし、悪霊という感じでもない。>>438
◆
まだ室内にはほんのり血の香りがしている。
カラカラと回る換気扇ではとてもじゃないが室内を換気することができなかった。
拠点に戻った僕は部屋にあるロッカーから中身をすべて引き出す。
「もしもし、ちゃんとついてきてるんでしょうね。ええーと、メリーさん?」
『ああ、もちろん』
僕の携帯でメリーさんと話すナギはどっかりとソファに座る。
ロッカーの扉を閉めたと同時に扉を内側から軽くノックされた。
『すでにここにいるよ。すこし狭いが、我慢しよう』
「……シズカ、お茶おねがい。それと何か軽食を。鶏肉はやめて」
了承し、台所に向かう。
台所にいても、二人の会話は聞こえてきた。
「それで本当の真名はなんなの?」
『メリーよ。しらない?メリーさんの電話』
「馬鹿にしてるの?メリーさんの電話なんて知ってるわよ。日本の怪談一つでしょ」
『知ってるじゃない。私は怪談〈メリーさんの電話〉がサーヴァントになった存在よ』
「ありえないわ。確かにあたしはサーヴァントの召喚を行った。それも不完全で、非正規な方法でね。だからといって〈伝承〉が人格を持つようなことにはならないわ。それは英霊を召喚するよりも難しいし不可能よ」
『……ええと、その疑問に答える前に一つ聞いてもいいかしら』
「なによ」>>439
『貴方の名前は?』
「ナギよ、姓はないわ。ただの魔術師のナギよ」
『そう、貴女には似合わない名前ね。なら言うわ。ナギ、私がなんで私であるかなんて、知らないわよ。ただ思い当たる節があるとしたら貴方たちの不完全な召喚のせいじゃなくて?』
「――っ!」
そろそろ出て行ったほうがいい。ナギが怒るとめんどうだ。
僕は緑茶とサンドイッチをナギの前に置いた。
『おっと、君はなんて名前?』
メリーさんの興味は僕に移った。
「シズカよ。今の名前はシズカ。あたしの従僕よ」
『シズカ、ね。君にはピッタリな名前だね』
褒められた。うれしい。
けど、ナギの顔はますます曇る。
ところでメリーさんの口調はどんどん流暢になっていくがなんだろう?
「一応、一応ね、聞いておくけれど貴方は『冥界』を知っている?」
『しらん』
即答だった。
ナギの深いため息が部屋に響く。
「シズカ、今回は失敗よ。この部屋を引き払って外国に飛びましょう」
『まてまて、短慮すぎる』>>440
「何よ、サーヴァントがマスターに意見する気?」
『するとも、それに突然解雇されそうな従業員が雇用主に意見しちゃだめなのかい?』
ずいぶんとたとえが現代よりだ。
聖杯から現代知識を与えられているのだろうか。
『私はサーヴァントだ。それにアサシンとはいかないがそこそこ気配を遮断できる。それに逃走手段もなかなか言いのがある』
「だからなによ。あたしたちは聖杯戦争に興味はないわ。だから他のサーヴァントたちと争うつもりもないのよ」
『誰が争うと言った?私が優れているのは逃走手段で、闘争手段じゃないのよ』
なんだかメリーさん、ナギに対して当たりがきつくないか?
『察するに、あなたたちの目的は冥界に関することをサーヴァントから聞くことでしょ?なら、私を使って他のサーヴァントを調べればいい。あわよくば、ヒントぐらいは得られるかもしれない』
「………」
メリーさんからの提案にナギが熟考する。
正直、リスクがあるから断ると思っていた。
「……あんた……いや、メリー、それであんたに何の得がある?聖杯を望まないマスターなんて嫌でしょ?それなら、あたしたちがさっさと離脱して他のマスターと契約する道もあるでしょ」
『私に願いはないよ。そもそも聖杯を求めていたわけじゃない。座にいたわけじゃないもの。たまたま、あの場に引き寄せられて召喚された』
理解はしているけど、納得はできない。
まるで詐欺師と話しているみたいだ。メリーさんは何かを隠している。そんな気がする。
ナギの渋面はますます深まる。
『……ナギ、時間はもうないんじゃないか?』
「!」>>442
◆
ナギとシズカは冬木市と隣の市の境に拠点を移すこと。
期限は三日間、三日過ぎたらナギとシズカは冬木から逃げる。
メリーさんは拠点に帰還えずに携帯で連絡を取り合う。
ナギはリスクを限りなくゼロにするために条件をメリーに飲ませた。
万全に見える条件はサーヴァントという予想がつかない相手ではとても心もとない。
特にキャスタークラスで召喚されたものが追跡魔術に長けていたら、もしメリーが捕まった際に魔力の供給元を探知されるかもしれない。
PPPPPPP
新たに移った拠点で、荷を下ろしていると着信があった。
『あー、あーもしもし?』
ナギは国外に逃げるための手続きに外出しているため今はいない。なので僕が応対することにした。
『そっか、ナギはいないのか。それは好都合。私としては君と親交を深めたいと思っていたんだ』
三日間だけの関係で親交を深める必要があるのだろうか?
『あるさ。セミは一週間しか生きれないのに生きる必要があると思うかい?一週間しか生きれないなら絶滅したほうがいいのに』
それは極論すぎるし、セミと人では時間の感覚も生物としての在り方も違うだろう。
『違わないさ。いうなら私は三日しか生きれないセミだ。ならこの三日間でいろいろやりたいと思ってるのよ』
……わからなくもない。
僕は両手を挙げて降参した。見えてないだろうけど。
『そのやりたいことの一つとしてシズカ、君とナギの関係について知りたい。君はその体を彼女にもらったのだろう?』>>443
そうだ。この体を与えられ、入った瞬間から僕は従者だ。
「今の君に願いはないのかい?」
願い、か。
ただナギのそばにいたいと思ってここまできた。
変な女だと思った。一般的に、かかわりを持ちたいと思う人物ではないと思う。
けど、あの時の僕にはなにもやりたいことがなかった。
しようとも思っていなかった。
僕には過去がない。
あの時、自分の屍の前で座っていた時からしか記憶がない。
シズカというのもナギがつけた名前だ。
ナギが求めるなら僕は、ずっとそばにいる。それだけだ。
『なるほど、つまりシズカ、君は私と同じなんだね』
虚を突かれた。
『つまり、君は明確な望みがなく、ナギと主従関係を結び、ナギが関係を断つといえばそこまでの関係なんだ。私と同じだ』
電話の向こうに僕がいる。僕の未来、もしかした明日の自分かもしれない。
無意識に、僕は自覚しようとしなかった。
僕はナギの兄弟でも友人でも恋人でもない。昨日、触媒として利用されたようにただの『道具』だ。
恐ろしい。怖い。悲しい。
ナギに捨てられるのが怖い。胸が痛い>>444
『かわいそうに……でも、大丈夫だよ。私がいる』
すがるように、携帯を握りしめた。
『私が、シズカを……』
「シズカ!」
勢いよく開けられた扉から赤い影が突風となって僕に迫る。
力強く握っていた携帯はナギのあっさりととれた。
「メリー!あんた、シズカに取り入ろうとしてなんのつもり!?」
『もう一人のマスターと親交を深めていただけよ?彼には令呪があるからね。私としては、君よりも彼が重要だ』
「黙りなさい。あたしのシズカに手出すなら、すぐに契約を打ち切る!」
怒り露わにメリーにぶつけるナギ。
こんなに怒るナギを見るは初めてだった。こんなに僕に執着するナギを見るのは初めてだった。
理性では、どうやってナギの怒りを冷まそうかと考えているが。胸の内はなんともいえない喜びで溢れていた。
『……よかったね。シズカ、これがナギの気持ちだよ』
ブッと電話が切れる音が切れる。
「……はぁ、はぁ……シズカ!」
携帯を放り投げ、座り込んだをナギは強く抱きしめた。
「無事でよかった!メリーに電話がつながらないからまさかとおもって帰ってきたけど……何かされなかった?呪詛とか受けてない?」
うん、もう、大丈夫だよ
僕は、初めてナギを抱きしめた。>>446
◆
『マスター、サーヴァントの存在を確認した。寺におそらく二人。学校に二人だ』
小指と親指のみを立てて電話の形をつくりマスターに得た情報を伝える人影があった。
ビルの屋上にたたずむ白髪の美女。
佇まいはどこか品があり、どこかのご令嬢のようだ。
『サーヴァントの真名は……まだわからないわね。さすがに……大丈夫よ。あと一日あるもの、一人ぐらい真名を看破してみせるわ』
屋上で吹き荒れる風が美女の黒いドレスを揺らす。
『……またかけ直すわ、ナギ。定時になったらまた電話する』
美女は手をパーにして電話を切る。そしてまた電話の形にした。
親指からは多数の声が聞こえる。
それはこの冬木市すべての通話を傍受していた。
メリーさんの怪談。その怪談は、恐ろしい電話から始まる。
近代の怪談故に、電話との相性がとてもいい。
『やっぱり寺ね。寺からする通話。寺にかかってくる通話。寺側の人間の話に怪しいところがある―――最近寺に現れた女か』
厄介だ。あの寺の結界も厄介だが、そこにいるサーヴァントは遠隔から人の精気を集めてる。
おそらくキャスタークラスだと美女は予想する。
『さて、どうアプローチしたものか』
ぞくりと背中に冷たいもの感じ、美女はすぐさまその場を飛びのいた。
「へぇ、動きにくい恰好してるわり動けるじゃねか」>>447
赤い槍がさっきまで美女がいた場所を穿っていた。
猛犬のような獰猛な瞳。
全身からは文句なしの強者の貫禄。
「あん?てめぇ。本当にサーヴァントか?」
「サーヴァントよ、まぁ、まがい物だけどね」
「そうかい、だが出会っちまったもんはしょうがねえな―――その心臓もらいうける」
青い槍兵から殺気が放たれる。
「あいにく、お前に渡す心臓はないよ」
美女はそれに応えるように白い髪をかき上げてその顔を露わにした。
メリーさんの怪談。
その終わりは、メリーさんと出会うこと。
故に、その相貌を見たものは死ぬ。
もちろん、対魔力をもつ者ならレジストできる。サーヴァントなら尚更だろう。
「チッ―――しゃらくさい!」
振るわれる槍は美女のドレス穿ち、血液を空中に撒く。
「―――無理ね」>>449
◆
「あれはメリーさんじゃないわ」
電気の消えた部屋で、ナギは僕を抱きしめながら言った。
「メリーさんの怪談をあたしは知っていた。名前だけはね。詳しい内容は図書館で調べてやっぱりメリーさんの怪談がサーヴァントになるなんてありえない。霊基がそもそもない」
いい匂いだ。
安心する。
ナギの腕の中は柔らかくて心地よい。
性欲がこの体にあったのだと、僕は随分ながい間忘れていた。
「だけど、彼女は自分をメリーと称する。あれが嘘でないならきっと、メリーさんの怪談のほかの逸話、怪談、怪物の複合されてるんじゃないかと思うの」
柔らかい。
ほんとうに温かくて、肌に沿わせた唇からフェロモンが供給されているようだ。
「ちょっと、聞いてるの?」
優しく僕の髪を撫でながら叱るナギの声は優しい。
全くしょうがないわねっと再びナギに抱きしめられた。
『考えるに、私は恋のキューピットかもしれないわね』
「!」
着信音も鳴らずに、携帯から声が響いた。
『いやいや、怪談の私が人を幸せにするなんて、これは怪談ではなく恋の言い伝え……いや、現状を見るに、男女をくっつくける猥談?』
「黙りなさい」>>450
見られているわけではないが、いそいそと僕とナギは服を着る。
「それで、首尾はどうなのよ」
『おや、話の流れは私の正体を追及するべきじゃない?』
「どうでもいいわよ。どうせ今日一日でお別れだもの。歯向かったら令呪で自害させるだけ」
『短慮だわ、ナギ。今後それは矯正しときなさい』
「うるさい」
またナギに火が付き始めた。僕はメアリーの声に少し疲れを感じ、二人の間に割り込んだ。
『あー、昨日の夜はサーヴァントに狙われたわ。ランサークラスのね。少しダメージ追ったけど、なんとか逃げ切ったわ。ナギも私が魔力をごっそり持って行ったから気づいたでしょ?』
「………む」
『ああ、昨夜は魔力供給してたから気づかなかったか。もう少しマスターとしての自覚をもってほしいものね』
ナギは顔を赤らめてそっぽを向く。
仕方がないから僕が応対する。
最終日だが、今日はどうするつもりだろうか。
『今日は捨て身で、寺に特攻してみるわ。キャスターが確実にいる。それも神代の魔術を使ってそうだわ』
「神代……」>>452
◆
荷物をまとめて、旅立つ用意をする。
ナギは隣の市でジェット機をチャーターしに行った。
「いってきます。日中は出歩いていいけど、目立たないようにね」
出発は深夜。
それまで暇を持て余した僕は、あの公園に足を向けた。
第四次聖杯戦争で何があったかは分からないが災害が起きた場所。
この前来た時と同じように、空虚で胸を捕まれるような痛みがある場所だった。
ベンチに座り、眺める。
先に座っていた赤銅色の髪の学生と目があい会釈したが互いに言葉は交わさなかった。
何もない。
ただ草木の生えた広い土地があるだけだ。
目に見える限りは。
ナギは、ここを人の死で汚染されていると言った。
僕を見つけたように、この公園で同じように座り込んでる魂が見えたのだろうか。
見えないけど、僕はここにいる魂のように風化するまで座り込んでいたかもしれない。
ただ僕は運よく、ナギに手を差し伸べられた。
このことを彼らが知ったらどう思うだろうか。
怨嗟の声、呪詛の言葉、憤りの表情。>>457
「僕を助けてくれて、ありがとう。君のこと、出会ったときから愛してた。これからも愛したかった。君がいたから僕は幸せだった」
涙が口の中に落ちた。
僕の涙ではない。
誰の涙だろうか。
重い瞼を、最後の力を振り絞り開けた。
「しずかぁ……」
号泣する美女。その顔を知っている。
幼さはなく、髪は真っ白だけれども。泣きじゃくる顔は、初めてみたけども。
その顔は間違いなく、ナギだった。
「私も、シズカのことが好き。好きなの、救いたかったの。もう一度会いたかったの」
どういう過程を経て、ナギがメリーさんになったのかはわからない、けど。
僕に会いにきてくれたのか。
悔いが消失し、体中が満ちていた。
「ああ、暁が昇っている」>>458
◆
「はぁ……はぁ……」
部屋には二つの人影があった。同じ顔が二つあった。
「しずか?」
赤い髪を振り乱らせ、空になった人型を抱き寄せるナギは何があったのか察した。
けれど理解するの拒否するように人形をきつく抱きしめる。
それを美女は涙を流しながら見つめる。
過去の自分を見つめる。
「しずか、しずか、しずかしずかしずかしずかぁ!なんで、なんで!」
過去は変えられない。
たとえ、自分の過去へ召喚されたとしても。
私は、今の私のために、過去の私のために最後の仕事をする。
「ナギ」
顔を白い前髪で覆い隠し、声をかける。
涙を流しながら、怒りと憎しみで染まった眼を私は受け止め、私の宝具を渡した。
「またシズカに会いたいなら、これを使いなさい」
それは『柘榴』だった。
「これは……」
赤黒い実は、濃厚な死の気配が漂っている。>>460
◆
冥界の深くで、美女は眠る。
美女は常に追いかけるものだった。
追いかけた末はいつも誰かの死だった。
だから死というものが嫌いだった。
でも生きて苦しいのも嫌いだった。
だから眠る。
彼女にとって死は眠りであってほしい。
安らかな眠り。
「ナギ」
少年の声がする。
ああ、そこにいたのね。
夢の中で、彼女はようやく少年と歩み始めた。
END雑談スレ962あたり?で話題に上がった『メリーさんの階段』がサーヴァントだったらという妄想をSSにしました。少し長いし推敲も余りしてないし、出してない省いた設定もありますが読んでいただけるとありがたいです
すみません、今からOLカーマのss投稿します
>>464
カーマ・サンモーハナ 前日談
「カァーッ!なぁーにがクリスマスですかぁーあバカやろーう!」
「こちとら未だに27歳独身の彼氏もいないアルバイターですよぉ~だぁ!」
時は12月24日、クリスマスイブ。夜11時を回った時に、一人の女性がマンションの一室でミニスカサンタの格好で世界を呪っていた。
今飲み干した缶ビールの缶を床に投げつけ、帰りにコンビニで買ってきたチーカマに勢い良くかぶりつく様は、その女性の女神とも言えるような美貌を完全に台無しにしていた。
「くぁー!、やっぱりスーパードライの後のチーカマは堪りませんねー!この瞬間の為に生きてるっつぅーか、ビールの為なら犯罪でも何でもやってやるっつー気持ちがよく分かりますぅー。」
「…はぁー…。もう酔った勢いであのシヴァの野郎とパールヴァティーをシメに行っちゃいましょうかねぇ?いや、返り討ちにあってボコボコにされるだけか…」
彼女の名前はカーマ、元OLのウエディングプランナー。かつて彼女は敏腕OLとして同僚や上司にも知られており、彼女のプロデュースした結婚は満足度も非常に高く、多くの新婚夫婦から感謝の声も届いていた。あまりにも大きい功績と満足度から、その業界で「愛の神」などと呼ばれたこともあった。>>465
しかし、そんな生活はある日つまらないトラブルで一変することとなる。
彼女の先輩であるパールヴァティーから、その手腕を見込まれて自分の結婚式のプロデュースをして欲しい、と頼まれたのだ。
もちろんそれだけならまだ良かった。その結婚相手というのがよりにもよって、彼女の勤めているウエディングプロデュース会社「トリシュナー」の社長の息子、シヴァだったのだ。
シヴァはその手腕で、現在会社の実権のほぼ全てを握っている存在であり、気性がかなり荒いことでも有名である。
もしそんな相手の結婚式でもしヘマをやろうものなら首は確実。勿論最初は断ろうとはしたが、周りの強い後押しがそれを許さなかったのだ。その時彼女は心の底から「愛の神」という肩書きを呪った。
その結婚式は何のトラブルも無く終わったはずだったが、後日カーマに驚きの通達が届いた。
首が飛ぶ羽目になった。>>466
何故、と詰め寄ったが、その理由はシヴァは自分の結婚式を望んでいなかった、というふざけた理由だった。
パールヴァティーとの話し合いで結婚式はやらない、ということになったが、それが決まったのは結婚式のほぼ前日だったらしい。
そんなこんなで彼女は天職とも言えるウエディングプランナーの仕事を失い、現在アルバイトをしつつ次の転職先を探している最中である。
「ったくもー!なぁーんで私の首が飛ぶ羽目になるんですかって話なんですよねぇー!?理不尽にも程があるって話しでしょうがーぁ!」
「まああの後パールヴァティーからは謝罪やらハムやら退職金がっぽりやら貰いましたけど!そんなんでこの怒りが収まるはずもないでしょぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「…ハァ、ハァ、ハァ…なーんか酔った勢いで叫んだら冷めちゃいましたねぇ。
もうチーカマは無いし…ビールもあと二本か…。なんかツマミ…ツマミは…あ」
カーマの目に止まったのは、ホールのクリスマスケーキだった。彼女は今日クリスマスケーキを売るアルバイトをしていた。
それが終わった後、店長のエミヤの優しさで余ったケーキをくれたのである。
このク.ソ寒い時期にミニスカサンタのコスプレでストーブを焚きながら、屋外でひたすらカップルやら新婚夫婦やら子持ちの家族にケーキを売るという苦行に耐えていたのだ。もう二度とやってたまるかちくしょう。
特にケーキを貰う時までもイチャついていやがったあのシグルドとブリュンヒルデとかいうカップルは絶対許さん。>>467
そんな事を思いつつ、カーマはクリスマスケーキを机に広げる。
本当なら大好きなケーキでも、カップルや家族と食べるクリスマスケーキだと思うと、未だに旦那どころか彼氏もいない自分が笑われているように思えて、惨めになる。
「…まあ食べずに腐らせるのも勿体無いですしねぇ。せっかくだしいただきますか、あのケーキ屋、店長が変態の女たらしだけど味は確かだっていう評判でしたし…」
「あ、…あと今は『性の六時間』なんて言われている時間でしたっけ?
今頃パールヴァティーのやつ、シヴァの野郎にギシギシアンアン鳴かされてるんでしょうかぁ?
はは、そう考えるとウケる…ハハ、ハハハハ…ハハ…ハァ…、グスン。…あ、ケーキ美味しい。」
憎たらしい存在を笑おうとしたが、自分が惨めになるだけだと気付いたためケーキに逃げることにする。
ケーキはネットのレビューが全て星5がつくのも納得の味だった。
「うう…ちくしょーぅ!なぁーにが旦那ですか!彼氏ですか!カップルぅ!?ハッ!そんなのどうせすぐに別れる羽目になるに決まってます!
男なんぞよりも酒と甘味にうつつをぬかした方がよっぽど幸せです!
イケメンで、可愛くて、マウントが取れて、素直で、優しくて、夜の方は自分だけじゃなくて相手の事も考えて気持ちよくしてくれる、年下の彼氏が欲しいなんて、ちぃーっっっとも考えてないですからっ!考えてないですからねっ!!」>>468
マンションの一室にてミニスカサンタの酔っ払った美女が、パンツが見えるのも気にせずにあぐらをかきながら涙目になり、自分の願望を吐き出しつつ缶ビールを煽る。
ビールとケーキに溺れつつ、カーマのクリスマスは過ぎてゆく。彼女はもう半ばやけっぱちになっており、彼氏や旦那が出来るとは、この時点ではこれっぽっちも思ってはいない。
そして、彼女はこの時点で知りはしない。
自分の元に大学生活の下宿の為に年下のイケメンで優しい男が転がり込んできて、その男と共に生活することになるという事を。
そして、彼と多くの時を過ごし、沢山の思い出を作り、数々の苦難を経て、想いを共有し、心を寄せ合った末に…
かつて自分が夢見た、誰よりも幸せな花嫁となり、彼と結ばれることを。
そんな輝かしい未来が待つ物語がこれから始まるのを、カーマは心のどこかで期待しつつ、机に突っ伏しながら爆睡していた。>>470
いいじゃんいいじゃん。面白いぞこれ。続き読みたいわ>>470
実に素晴らしいと思います。これからの展開がとても楽しみですね。>>470
アンタさいっこうだな!>>470
しってる。これ私生活ダメダメな美大生とかブラック企業で働いてる宇宙OLとかも転がりこんでくるんでしょ。>>469
めっちゃ好き!やっぱりラブコメはいい文明!んじゃ、今から続編上げていきます
カーマ・サンモーハナ! クリスマス編
カーマのマンションに立花が転がり込んできて早8ヶ月以上が経った。
今は12月23日、クリスマスイブを目の前にして、カーマは一人、自室で悶々としていた。
立花は大学のサークルの集まりだか何だかで出かけていて、あらかじめアルバイトの休みを取っていた彼女一人がこの部屋に残されている。
「うう…どうしたもんですかね…。」
「12月24日にエミヤのケーキ屋で開かれてるクリスマス期間限定ケーキバイキング…、凄い行きたい…カロリーとか栄養とか一切気にせず食べまくりたい…!」
「でもこれカップル限定なんですよねぇ…なあーんでこんな条件つけたんでしょうかあの変態妖怪女たらしは。普通に女性限定とかにすればいいのに。」
ケーキと酒とチーカマが大好きな元OLアルバイター、カーマはジャージ姿で知っているケーキ屋のHPを開いたタブレットを見つつ愚痴をこぼす。
エミヤのケーキ屋はネットレビューに軒並み星5かつくくらいには絶品なのは去年のクリスマスの経験で知っている。そのケーキが3500円で食べ放題ならば、ケーキが好物のカーマとしては行かざるをえない。>>477
しかし、よりにもよってそのバイキングはカップル限定という悪魔が考えたとしか思えない悪辣な条件だったのだ。ほんとこんな条件を思いついたやつは死.ねば良いと思う。
なぜこんな客を選ぶ条件になったのかというと、ここら辺ではカップルが非常に多く、女性限定の場合だと、
「彼氏と一緒に行きたいし自分だけでいくのも申し訳ないから。」という理由で来ない女性客が多いため、カップル限定にした方が女性限定よりも儲かるらしい。
クリスマスデートの寄り道に来る客が多い為、客もマナーを守るようになるからトラブルも少ないし、やりやすいのだ、と店長のエミヤが言っていたのを去年バイトした時に聞いた。反吐が出るような理由である。
「こぉーんな巫山戯た条件だったから去年は参加出来なかったんですよねぇー。だからもし余ったケーキがあればありつけるかも?と思ってアルバイトに行った訳ですけど…」
そんなカーマの目論見は見事に外れた。訪れたカップルがあまりにも多すぎて、ケーキは全て無くなったのである。結局余って貰うことが出来たのは、ホールのクリスマスケーキ1つだけだった。
「まったく…思い出しただけで腹が立って来ますよあのリア充共…!人目を憚らずイチャイチャイチャイチャと!なぁーにが『はい、あーん♡』ですか!恥ずかしくないんですかあのバカップル達は!
手を繋いだり、名前を呼び合ったり、愛してるだの何だのと!」>>478
カーマは女神の様な美貌を嫉妬で歪めつつ、去年ケーキバイキングに訪れてきたカップル達を思い出す。堂々と名前を呼び合っていたので、カーマは全てのカップルの顔と名前を嫉妬やら憎悪やら怒りやら哀しさやらと共に覚えていた。
覚えている限りでは、
シグルドとブリュンヒルデ、ラーマとシータ、虞美人と項羽、ジャンヌとジーク、天草とセミラミス、カドックとアナスタシア、ブラダマンテとロジェロ、クレオパトラとカエサル、オジマンディアスとネフェルタリ、葛木夫婦、鈴鹿御前とカズくん、アイリと切継、龍馬とおりょう、アンとメアリー、ネロとザビエルと玉藻とアルテラ(ラーヴァ)とBB、ete…
他にもいたが、これ以上思い出すと発狂しそうなので無理矢理思考を中断する。
「てゆーか最後の方は女同士とかカップルっつかハーレムでしょう!?あんなんでもありっておかしくないですか!?」
思い出した記憶にツッコミを入れつつ、カップルという判断基準の甘さに疑問を投げかける。エミヤのHPをよくチェックすると、
『可愛い娘ならカップルの基準がおかしくても大丈夫だよ俺は』
と書かれてあった、もうあの変態サンタム仮面は手遅れだ。
「まあ…一応相手がいない訳でもないんですけどね、今は…。でも、彼は…」
脳裏に浮かぶのは『彼』のこと。思い返せば春に彼がこの部屋に転がりこんできてから8ヶ月以上が経っていた。所で質問
このスレって、性行為の直接描写がなければ情事があったこと示していいのかな?
「二人は抱き合ったまま、そのまま互いを求めた」とかピロートークレベルなら>>479
最初の頃は只の面倒な同居人が出来た、ぐらいにしか思っていなかった。
彼に自分が作った料理を振る舞ったら美味しいと言われた。 嬉しかった。
洗濯物は別々だったし、立花に任せっきりだったのに、今では一緒に洗濯して自分が干している。
バイトやパートで一杯で職探しが進まなかった時期に、彼が職探しを手伝ってくれた。
嬉しかったのにお礼が上手く言えなかっのを今でも後悔している。
料理はいつの間にか自分が作る事になっていて、彼の好みを把握するようになった。
夏では彼の前でもラフな格好をしてたけど、目のやり場に困ると言われて仕方なくジャージを着るようになった。今ではそれが不快ではなくなっている。
彼に年上らしい所を見せようと思って少し高いホテルのレストランに一緒に夕食を食べに行った。 料理もとても綺麗だけど、夜景に照らされる貴女も綺麗だなんて言われた。
男の人に面と向かってそんな事を言われたのは初めてで、顔が真っ赤になっのは忘れられない。
彼をからかうつもりで一緒にプールへ行った。 彼は私の水着(白のスク水)を見たら真っ赤になって恥ずかしがっていた。
なんだか自分まで恥ずかしくなった。>>481
部屋で彼と一緒にアイスを食べた。 学生時代を思い出して懐かしくなった。
いつの間にかお互い名前を呼び捨てにして呼ぶようになっていた。
立花の誕生日を祝った。
『どんなお祝いのされ方がいいんですぅ?言ってみてくださいよぉ、ねぇねぇ?』
なんて言ったら、立花は顔を赤くしながらそっぽを向いてしまった。可愛かった。
立花の寝顔が可愛いと思った。 立花の寝顔のほっぺをぷにぷにするのが趣味になった。
一緒に夏祭りに行った。 はぐれないように立花と手を繋いだ時には、心臓の音で花火の音が聞こえなかったような気がする。
テスト勉強で立花の分からない所を教えてあげた。 立花にお礼を言われるとふわふわした気持ちになった。
秋服を一緒に買いに行った。 立花は『カーマにはこのネックレスが似合うと思う。』なんて言って私にネックレスを買ってくれた。
子供のクセして何を気取ったことを、と強がっていたが、今ではそのネックレスは私の宝物。
気づけば立花の前でだけいつも首に下げている。>>482
立花が私の手料理を食べて美味しいと言って笑顔になるのが楽しみになっていた。
立花が帰って来きた時に、『おかえり』と言って出迎えるのが好きになっていた。
立花に膝枕をして耳かきをしてあげた。立花の顔は真っ赤になって、『あ』とか『う』としか言えなくなっていた。 たまらないほど可愛くて、マウントを取れたことによる優越感は最高だった。
今度は私が立花に膝枕をされながら耳かきをされた。 心臓が高鳴りすぎて死ぬかと思って、されるがままのお人形にされてしまった。 屈辱で涙目になっていた。
この前買い物に行った時、私が手袋を忘れてしまった時、立花は黙って私の手を握ってくれた。
手は寒かった筈なのに、胸の奥は暖かくなった。
手を握っている間、立花の顔に目を向ける事ができなかった。
…いつの間にか、立花の事ばかり考えるようになってしまっていた。
酔った勢いで立花の寝顔のほっぺにキスをしてみた。 恥ずかしすぎて頭が真っ白になった。 その夜は眠れなかった。
他にも、沢山の思い出がある、この1年の間でできた、今までの人生の中でも、綺麗で、暖かな、ひとりぼっちではない思い出。>>483
それらを思い出して、カーマは自分の想いを思いっきり吐き出す。
「あ"あ"あ"ぁ"〜〜〜〜!!!もうっ!!何やってんですかあの時の私ぃっ!!?
酔った勢いとはいえ頭おかしいでしょう!?相手ははるか年下なのにっ!?
なんですかほっぺにキスって!? ウブな少女かよ!?
死.ねっ!死.んで償えっ!! いや、死.んじゃうと立花に会えなくなっちゃうから…」
「じゃなくてぇっ! …あぁ〜もうっ!なんなんですかぁ!?消えたい消えたい消えたい…」
マンションの一室にて一人、タブレットを放り投げ、羞恥に悶え苦しみながら床に転がり回る28歳独身女アルバイター。
自分の感情に整理がつかず、顔が耳まで真っ赤になっているので、枕を顔に押し当てて隠す。
しかしその必要はないと気づく。
いつもこうやって顔色を隠している相手は今は出かけているからだ。
「…そういえば、こうやって枕で顔を隠す癖も、彼に見られないようにしていたら自然についちゃったものでしたっけ。」
立花との出会いで自分の生活は大きく変わった。家事もそうだが、一番の変化は他でもない自分の心境の事だ。>>484
あの夜を思い出しつつ、自分のふっくらとした唇を、細く美しい中指でゆっくりとなぞる。
ただそれだけのことであの日、あの瞬間のことが鮮明に思い出せる。それ程にあの瞬間の出来事はカーマの心に刻み込まれていた。
すうすうと寝息を立てる立花。
だんだんと近づいていく均整の取れたきれいな顔。
自分の唇が柔らかい頰に触れる。いつも立花が寝ている時にぷにぷにしている愛らしいほっぺ。
ぷにっとした感触がした。私の手を温めてくれた体温が唇越しに伝わる。
今までで一番近い距離で見える立花の顔。 ただ近いだけなのに、いつもの数倍魅力的に見えた。
多幸感で胸が溢れそうになる。職を失ったあの日から、自分の胸に開いた穴が満たされたような気がした。
「…ふふ。」
思い出すだけで何故か自然と笑みが零れてしまう。
誰にも言わない、おしえない。私だけに独占を許された、美しい秘密。
しかし、そんな思い出に浸れる時間は長くはない。彼女には、目下重大な悩みが有ったのだから。>>485
「はっ!そうでしたっ。そんな事よりケーキですっ!ケーキバイキングっ!」
「よーするに男の相方さえ居ればいいんでしょう?ならちょうどお誂え向きの男が一人いるんですよ一人っ!…でも…」
カップル限定のバイキングに連れて行ったら、それもう告白みたいなもんじゃないの?
そんな悩みを、28歳アルバイターの美女だが、恋愛事に関してだけはウブな少女メンタルのカーマは抱えていた。
「だ、大丈夫です!これはただの付き添いで、愛の告白なんかじゃないですからっ!
それに、そこんとこちゃんと説明すれば、立花はちゃんと理解してくれる男だって知ってますし!」
「…それに。」
「あんな若い大学生が、こんな28歳のおばさんなんて、そういう目でみる訳ありませんし…ね。」>>486
思えば彼の周りには、自分なんかよりも年の近い女性が結構いるのを遠くから見た事がある。
陸上部エースのアタランテ
拗らせた美大生のお栄
ストーカーの清姫
第2ストーカーの静謐のハサン
高校時代の後輩のマシュ
ヒステリー気味の先輩オルガマリー
中学生のアビゲイル
マンションの上の階に住む女子大生 宮本武蔵
右隣の部屋の24歳の中国人OL秦良玉
左隣の部屋のブラック企業勤務のXX
下の階に住んでいるワルキューレ三姉妹
今年の夏に一緒に同人誌を描いたというジャンヌオルタ
夏合宿で夜空を見上げている時にいい雰囲気になったというエレシュキガル
誰も彼もが自分より若くて、素直で、ひねくれていない。
こんな惨めな女とは大違い。
それに、立花からすれば自分は彼女たちの内の一人でしかないのだろう。>>487
「…うう。」
考えれば考えるほど気分が沈んでいく。
そんな自分がカップル限定のイベントに誘ったりなんてしたら、引かれたりしないだろうか?
嫌われないだろうか?
すでに他の人と約束しているんじゃないだろうか?
やっぱり誘うなんて間違いだろうか?
こんな女に大学生の貴重なクリスマスを使わせるなんて勿体無いのではないだろうか?
でも、でも、でも…!
「あーもう!なぁ〜んで私が立花のことなんて心配しなくちゃいけないんですか!?
そもそも自分はただケーキバイキングが食べたいだけです!
立花を連れて行く事にそんな意味なんか微塵もないんですから!」
「それに私はあんなやつぜーんぜん好きなんかじゃありませんし!ただの同居人ですしぃ!?
たしかにちょーっとばかりイケメンで、可愛くて、マウントが取れて、素直で、優しくて、夜の方は知りませんけど、年下で、私のタイプどストレートなだけですし!たいしていい男じゃないですし!」>>488
「…はて、去年の今頃に同じ事を言ったような…?」
「…まあいいです。立花が帰って来たら、明日の予定をさりげなく聞いてみればいいだけの話なんですから。
あ、そろそろ立花が帰って来る頃合いですかね?えーと、今日の晩御飯はどうしましょうかね…
よし、今日の献立は、サバの味噌煮に卵焼き、厚揚げと小松菜の煮浸しに、かぶと豚肉の味噌汁です!食後にはいつものようにヨーグルトでいいですよね。
ふふ…立花のメシ顔が今から楽しみです…ふふふ…。」
料理が面倒臭かった筈なのに、いつの間にかすっかり料理が好きになってしまっていた。いつも考えている彼の事を考えて甘い妄想に浸りつつ、手際よく調理を進めていく。
そんなこんなで料理が丁度出来上がった時に、彼が帰って来た。
今ではこの言葉を言う度に胸が弾んで暖かくなってしまう。
彼が帰って来る玄関にエプロン姿で駆け寄りつつ、いつもの言葉を言う。>>492
涙が溢れ出た
悲しくてじゃない、嬉しくて、嬉しさが胸に溢れて、溢れ出て、抑え切れなくて、
嬉しさが涙になって溢れ出て来た。
嗚咽や鼻水は一切でなかった。ただ涙だけが溢れて来た。
「カ、カーマ!?」
立花がカーマに駆け寄ろうとする。
少しひねくれているけど、そんな所が魅力的な彼女を傷つけてしまっただろうか?
何か、泣かせてしまうような事を言ってしまっただろうかと。
そんな立花をカーマは手で静止する。
大丈夫。心配させてごめんなさい。ありがとう。
たくさん言いたいことも、伝えたい事もある、でもまずは彼の勇気を振り絞った質問に答えよう。
そして彼女は、彼に見せても恥ずかしくない顔にするために涙をぬぐって。>>494
ケーキバイキングに誘ってくれてありがとう、という意味なんかではない。
私を大切に想ってくれて、ありがとう。
カーマはもしかしたらこの瞬間、人生で初めて心の底からありがとうを言ったのかもしれない。
「…いいよ。だってカーマのためなんだからさ。」
カーマのためならこれぐらい、何度も誘える。だってそれぐらい彼女の存在に自分は支えられているのだから。
翌日、カーマと立花は共にクリスマスイヴを過ごした。
その日は、これまでの二人の人生の中で、最も幸せなクリスマスイヴだった。
二人はこの日の事を忘れる事はない。1年後も3年後も、結婚した後も、いつまでも。
そんな二人が恋心を自覚し、もっと距離が近くなり、本格的にイチャつきだし、バカップルとなり、想いが愛となり、挙式を上げるのは、まだまだ先の話。>>497素晴らしいと思う
いやーええっすわー>>497
お疲れ様でした。最高に面白かったです
しかし20人近い恋人候補とは……ギャルゲーも真っ青だなこりゃ
カーマの春はまだまだ遠い?>>497
最高!!ありがとう!!>>497
最高でしたわ
気が向いたら書いても良いのよ(チラッチラッ)>>497
面白いものをありがとう!めっっちゃ好き!>>497
いやー実に面白かったと思うのですよ。
また書いてもいいのよ?というか書いて下さいお願いします。>>463
「マスター遅いなぁ……」
どこかの街の打ち捨てられた工場でバニヤンはその大きな体を縮こめてうずくまっていた。バニヤンは数日前に突然この街に一人召喚され途方に暮れていたのだが、すぐに立香が「迷子になっても自分たちが必ず見つけるからそこから離れてはいけない」と言っていたことを思い出し、この近辺から離れずずっと彼らを待っていたのだ。
でも、もう何日も経っているのに誰も来ない。最初のころは怪物から逃げる人を助けたりもしたがそれも妙なお爺さんたちを最後になくなってしまった。お腹も空いたし何より寂しい。
(もしかして……)
彼女はふと、最悪の想像をする。自分は大きくて食いしん坊だから気づかない間に皆に迷惑をかけて嫌われたから、捨てられてしまったのだろうか?
「ううん、マスターはそんなことしない!きっとマスターの方も少し迷ってるだけだもん!」
頭をぶんぶん振ってバニヤンはその想像を打ち消した。そう、きっと来てくれる。カルデアの暖かい人たちの顔を思い浮かべてその信頼を固くする。こんなスレあったんだな
自分もなんか短いの書こうアストルフォ「ねえねえ!マスター!マスター!!」
ジーク「どうしたんだ、ライダー?そんなに走って」
ジャンヌ「もう、ライダー、朝から騒がしいですよ。もう少し静かにしたらどうですか」
アストルフォ「いいじゃないか。いつでも元気なのは、ボクの取り柄の一つさ!」
アストルフォ「それよりマスター?ちょっとボクの名前、言ってみて?」
ジーク「突然、どうした?」
アストルフォ「いいから言ってみてよぉ~!」>>510
ジーク「それで、いったいどうしたんだ?突然、真名で呼んでほしいとは」
アストルフォ「特に理由なんてないさ!ただ呼んでほしいなと思ったから、呼んでもらっただけ!」
ジーク「そ、そうか・・・だが、今は聖杯大戦中なのだから、真名呼びは控えるべきだと思うが」
アストルフォ「わかってるって!それにしても・・・えへへ、久しぶりに、しかもマスターに呼んでもらうと、なんだか照れくさいね!」
ジーク「そういうものか?」
アストルフォ「そういうものだよ!そうだ!ならマスターも久しぶりに名前で呼んでみてもいい?」
ジーク「ああ、かまわない」
アストルフォ「やったー!なら、今日も一日頑張ろうね!ジーク!!」
ジーク「ああ、よろしく頼む、ライ・・・アストルフォ」>>512
ジーク「知っての通り、オレの名前はあの大英雄、ジークフリートからもらって自分で付けた名だ。
彼から受けた恩・誇り・・・そして、彼のことを絶対に忘れないために・・・心に刻むためにつけた名前だ。」
ジャンヌ「・・・」
ジーク「だからだろう、オレが名前を呼ばれるとき、恥ずかしさを始めとして、あらゆる感情よりも先に、
彼のことを思い出せる喜びと、誇り高さを感じることができる。」
ジーク「もしオレが名前を呼ばれて恥ずかしさを感じることがあるとすれば、それはオレが、
ジークフリートの名前に泥を塗り、恥じる行いをしている時だろう。」
ジーク「・・・そんなことは、どんなに未熟なオレでも、絶対にしないと、この名と、この心臓にかけて誓うがな」
アストルフォ「ジーク・・・」
ジャンヌ「・・・」ジャンヌ「・・・大丈夫ですよ、ジーク君。あなたは立派に、ジークフリートの名に恥じない生き方をしています。」
ジーク「ありがとう、ルーラー」
アストルフォ「へへ、そうだね!でも、もう少し無茶は控えてほしいけどね!」
ジャンヌ「ふふ、本当に」
ジーク「す、すまない・・・それに関しては、努力する・・・」
ジャンヌ「はい、努力してください。ふふふ」
アストルフォ「あははは!!」>>520
ジャンヌ(((い、いきなりなにを言いだすんですか、レティシア!!?)))
レティシア(((聖女様は昔、故郷、ドンレミ村では両親や兄弟など、親しい人たちには『ジャネット』という愛称で呼ばれていたのでしょう?ですから・・・)))
ジャンヌ(((そ、それはそうですが、しかし・・・!!)))
ジーク「む・・・そういえば・・・」
アストルフォ「どうしたの?マスター」
ジーク「そういえばルーラー、あなたは故郷ドンレミ村では別の名前で呼ばれていたという話があった気がするな・・・」
ジャンヌ「!!!!???!!????」アストルフォ「え?ルーラーっていくつも名前があるの?」
ジーク「いや、そうじゃない。愛称のことだ。確か・・・」
ジャンヌ(え、ええ・・・!?)
ジーク「ジャネット」>>524
終わりです。見てくれた人はありがとう。この三人の絡みがもっと見たいシリアスな虞美人見たかったので幕間前日譚っぽい物をシリアスで書いてみました。虞美人一人称視点のモノローグになります。
忘れられない光景がある。
それはとある異聞帯の話。
ただ私の行く末を案じカルデア達に立ち塞がる項羽様。
止める間もなく始まる戦。
愛しい人に降りかかるは武器の嵐。
モードレッドの剣が腕を切った。
赤兎馬の弓が足を貫いた。
哪吒の槍が胸の臓腑を抉った。
そして愛しい人はよろめき倒れ生き絶えた。
いっそ、それが憎悪によるものならば、嫌悪でもって相対すだろう。だが彼らはそうではない。彼らは自分の愛する世界を守り取り戻したいだけだった。
その世界は私を迫害し、何度も殺そうとした悍ましい世界だ。とはいえ、その世界がなければ愛しい人ともたった1人の人間の友とも出会えなかったのも事実だ。
思考は同じところをぐるぐる回る。
憎むのか、許すのか。
許せるものか、愛するものを殺した輩を。
憎めるものか、ただ一心に生きる彼らを。
心の模様はクルクルと同じところを回っていた。
彼女が妥協という言葉を知るのはもう少し先のこと。短いですが以上になります。
見てくださった方、ありがとうございました>>480
個人的には示唆レベルならセーフと思っている。ピロトークは情事や性の描写がなければ大丈夫だと思う。超短いです、が!雑談スレでムラムラさせられたので此方に吐き出させていただきます!
「春陽」セラ「まぁ………。」
ソファーに仲良く、並んで寝ている二人に眉間を揉む。窓から差し込む陽射しが床を暖め心地好く微睡んでいるのだろうことは緩む表情を見れば一目瞭然。春陽と言うのだったか、春の時節を表すそれは確かにぽかぽかと包み込んで眠りに誘う。だが、だがしかしである。これでは服がめくれ上がりお腹があまりにも無防備!タオルケットを掛けなければお嬢様が風邪を引いてしまうかもしれない。早速二人に掛かる大きさのものを持ってきて、お嬢様と士郎の服を直し、直し………。
春先だからだろうか薄い布地からちらつく腹筋は歳の割によく引き締まっている。手も私よりも大きく、ゴツゴツとしていて新鮮だ。………なんて馬鹿なことをしていないでタオルケットを掛けてしまおう。手を放して、離れない。
「セラ………?」
私よりも大きな手に軽く握り返される。手のひらのタコが私の肌に弱い刺激を与える。何処か蕩けている彼の瞳をそらせなくて見つめ返し、
「………タオルケット、をありが、とう」
状況を理解したのだろう、赤く染まった顔が気まずげにそらされた。>>534
セラ「………むぅ。」
鍋のことこと煮立つ音、手際よく包丁を動かす音が耳障り良く耳朶に届く。それがとても心地好く、いや今腹の虫を諫めてなるものか!気合いを入れ直すと同時に洗い終わった白菜を千切りボウルに寄せる。流し見た隣の分らず屋様は切り終えた牛蒡、手羽元を煮立つ鍋に投入して次に掛かる。何故こんなことになったのか。
ああそうです。料理は私に任せてほしい。役目を取るな。私の方が上手い、そこからの売り言葉に買い言葉を見かねた(いやテレビを観ながらだったような)リズの「ならば一緒に作ればいい。」に好機とみたお嬢様に乗せられこの現状。なんの解決にもなっていないのは手際よくなっていた士郎に大部分を取られていてから気付く有り様。………こんなにも、料理上手になっていたのですね。いけない、とてもいけない!何を惚けているのか、まだまだ1日の長は私にあり!電子レンジも丁度良く音を鳴らし豆腐を取り出す。水切り終えたそれを切り分け鍋にそろりと落とす。胡麻の匂いが漂うそれは食欲をそそる自慢の一品である。
「まあ!とても美味しそうね!」「うひゃあ!?」
突然肩を掴まれ耳元で奥様の声が響く。思わず腕を伸ばし豆腐を追ってスープの中へ飛び込んだ。
「あつっ」「セラ!!」
隣に並んでいた士郎は素早く手を掴み流水をだし冷やしてくれた。なんと情けない。料理に意地になり奥様を迎えられないとは。申し訳なさそうに謝る奥様と落ち着かせようとするお嬢様、保冷剤とタオルを持ってきたリズと助けてくれた士郎に御礼をいい奥様へ忠言と(ついでに切嗣さんにも)迎えられなかったことへの謝罪を。
そうして食卓の団欒に流れ、会話の中。ふと、さっきすぐに手を掴んでくれたことに頬を緩くしても今ならばれないでしょう。すみません。今から投下始めます。
>>539
母の日にプレゼントを渡され、泣き崩れてしまった。
立香の頭を撫でて、膝枕をした数だけ立香にも頭を撫でられ、膝枕をされるようになった。
立香より3cm身長の高い自分が、膝枕されながらいつもより低い位置から見上げる立香の顔は思い出すだけで胸が甘くときめいてしまう。
立香の膝上に座らされて、後ろから抱きしめられた時は、愛される喜びというものを真に知ってしまった。
この瞬間から母でありながら立香を心の底から求めるようになってしまった。
立香に見つめられる度に顔が赤くなってしまうようになった。
立香に抱きしめられて、頭を撫でられながら眠ると心の底から安心できるようになった。
立香の胸に顔を埋めながら頭と背中を撫でられると猫のように甘えてしまう。
立香の逞しくなった背中に回した両腕が、彼の早まった心音と熱くなった体温を感じとると、たまらなく嬉しくなる。>>540
シャワールームで一緒に抱き合いながら、身体を洗いっこするようになっていた。
私の長い髪を洗う為に、立香の指が私の髪を梳く度に背中がゾクゾクとしてしまう。
それから二人が肌を熱く重ね合わせるのに時間はかからなかった。
立香は頼光の膝枕に埋もれつつ、これまでの記憶を辿ろうとするがうまく記憶がまとまらない。
頼光に何度膝枕されたかも覚えてないが、彼女の身体の柔らかさ、暖かさ、匂い、振動。
これまでの人生の中で、最も愛しい人である彼女の存在をこれ以上ない程堪能できる枕を堪能していては、まともに思考などできるはずもない。
「…ありがとう頼光。じゃあ今度は頼光が休んでいいよ。」
「あら…うふふ、では失礼しますね?」
名残惜しくも頼光の膝枕から起き上がった立香は、ベッドに腰掛けながら自分の脚をぽんぽんと叩く。
それを見た頼光は、まるでご褒美を貰った猫のように喜びつつ、上品に立香の膝に頭を乗せる。>>541
「…うん。今日も可愛いよ、頼光。こうされるのが大好きでしょ?」
立香に頭を撫でられ、顔を至近距離まで近ずけられ、もう片方の手で犬にするようにお腹をワシャワシャと撫でられる。
ただそれだけで頼光はふにゃふにゃになってしまう。
立香の膝枕を堪能する為に頭を左右に動かし、身体をしきりにくねらせて立香に沢山触れてもらう。
そしてほんの少し顔を上げればキス出来るほどに近づいた愛おしい人の顔。
まるで固定されたように、彼の顔から目が離せない。
この顔をどれほど触ってきただろうか。どれほど見てきただろうか。
表情など笑った顔は全て愛しくて、悲しい顔を想像しただけで胸が潰れてしまいそう。
私を嫌らずに、隣に立って、手を握って、受け入れて、愛してくれた人。
私が可愛がる筈だったのに、私が可愛がられるようになった人。
…母と子の関係だった筈なのに、今では男と女の関係となった人の顔。>>542
自分の事を今でも母と呼ぶのはあの頃の名残だろうか。それだけではなく自分が母という主導権を握れる立場であることをキープしたかった、というのもあるかもしれない。
しかしそんな考えは全く意味をなしていない。
何故なら今の状態を見れば分かる通り、頼光が立香に甘え、可愛がられるという立場が完全に確立されてしまっているからだ。
もちろん立香が甘えてくる事だって今でも沢山ある。
立香が頼光に抱きついてお腹に頬ずりしながら頭を撫でられるのは日常茶飯事だし、ご飯を食べさせてあげるのはいつもの事。
頼光から誘わなくても、膝枕や膝上に座らせて貰うのを立香がねだるのはしょっちゅうだ。
しかし、夜になると頼光は立香にひたすら可愛がられる事しか出来なくなってしまう。
そうなったのは、二人が肌を重ね合わせるようになってからだ。
ベッドの上で頼光は立香に可愛がられる事しか出来ず、一切の反撃を許されなかった。
立香の攻めに頼光は猫のように甘え、鳴かされるだけの存在とされてしまう。
そんな生活が続く内に頼光はすっかり躾けられてしまい、夜では主導権を完全に立香に握られている。>>543
そんな生活に頼光は一切の不満は無く、立香もまた満足していた。
「あっ…んんっ…ふふ、もっと触ってくれますか?立香。」
立香が頼光の頰に触れ、首筋を撫でるように動かしていく。
このやりとりを数え切れない程繰り返してきた頼光は、立香の指がくすぐったくて、それがまた愛しくて、声が自然と漏れてしまう。
瞳は潤み、声は熱っぽくなってしまう。自分の手は立香の頰に慈しむように触れていた。
「うん、頼光が望むなら、…いつまでも、ずっと、こうしているよ。」
頼光の声を受けて、立香は彼女の頭を愛おしそうに、ゆっくりと撫でながら、もう片方の手で全身を撫でていく。
頼光がどこを撫でられると喜ぶのか、どこを撫でられたいのか、立香は少し見るだけで分かるようになっていた。>>544
立香が頼光を思いながら撫でる度に膝の上で愛おしい人が身体をくねらせる。
頼光の顔はすっかり蕩けてしまい、猫のように立香に頬ずりを繰り返している。
戦いの場では常に凛々しい彼女がこんな顔をするのは自分の前でだけ、そう考える度に笑みが溢れてしまう。
全身全霊をかけて、彼女を幸せにしたい。愛したい。彼女を感じたい。幸福になってほしい。愛されてほしい。自分を感じてほしい。
彼女が自分の元で癒されるのならば、全力で癒したい。
立香が頼光を撫でている間、彼はまるで恋人を見ると同時に、娘や妹を見るような優しい顔をしていた。
立香が頼光を満足するまで撫で終わった時、頼光は法悦の涙を流し、完全に蕩けきっていた。
その後二人は一緒に身体を洗い、電気を消して、心ゆくまで互いの肌を重ね合わせる。
頼光はひたすら立香を求め続け、立香は頼光を徹底的に攻め続けた。二人は互いをいつまでも貪り合う。
二人が満足する頃には、時計の針は深夜2時を指していた。>>545
二人はベッドの上で横になりながら、互いを見つめ合う。
「…ねえ、立香?」
「…ん、何?」
「今更ですけど…あなたは何故、私が、恐ろしいと感じなかったのですか?あなたは、どこにでもいる普通の人だったのでしょう?恐ろしく感じて、当然なのではないですか?サーヴァントならともかく…人間でない存在など。
…何故、私を丑御前ごと受け入れられたのですか?」
立香が頼光を恐れていなかった事などとうに知っている。しかし、恐れないことと受け入れる事は別だ。頼光は立香にもう自分が純粋な人ではない事の引け目など感じていない。
ただ、ふと純粋に疑問に思った。
どんな答えが帰ってきても、今の関係が変わる事はないと知っている。だって、二人はそんな試練などとうに幾度も潜り抜けてきたのだから。
「…なんだ、そんなこと。」>>546
目の前の愛しい人へ手を伸ばす。左手が頼光の右頬に優しく触れる。
そこからは、立香の頼光への想いが、確かに感じられた。
「…単純な事だよ。俺は、どんな存在でも、どんな生まれで、どんな性格でも、人の形をして、心を持って、言葉が通じて、意思疎通ができて、
…楽しいのに泣いてしまって、悲しくても笑えるのなら、その人を決して蔑ろにしたくはない。
…絶対に。」
頼光の瞳を真っ直ぐに見据え、心からの言葉を紡ぐ。
これまでの道のりは、あまりに厳しく辛いものだった。でも、決してそれだけではなかった。
厳しく、辛く、多くの出会いがあり、笑顔があり、…別れが、あった。
その中で、自分で学び取り、誰かから教えられ、与えられ、受け継いだものがある。
これは、その内のほんの一つ。
藤丸立香という人間が、元から持っていたものの一つ。
誰であろうと、決して蔑ろにしたくはない。だって、そこからどんな素敵な出会いになるかなど、誰にも分からないのだから。>>547
そして、そのおかげで、こんなにも愛おしい人が出来た。
この人ともっと一緒にいたい。同じ時を共有したい。未来へと、共に歩んで行きたい。
…例え、どんな試練がこの先に待ち受けていようとも。
頼光が嬉しくて泣いてしまった場面はこれまでに何度も見てきたが、悲しくても笑っている場面は未だに見た事がない。
だけど、これからの時間で、同じ時を過ごしていく内にそんな事があるかもしれない。
ああ、もしそれが叶うならば、それはなんて…。
「…素敵ですね。」
目の前の愛しい人に手を伸ばす。右手が立香の左頰に優しく触れる。
そこからは、頼光の立香への想いが、全て詰まっていた。
二人は互いに顔を寄せ合い、額を押し当てる。
視線は交差し、優しい笑顔を浮かべていた。>>550
立香の他にもマスター候補の人間は沢山いたのは知っている。立香が自分にもっと力があれば、と悩んでいたのも知っている。
だが、それでも自分のマスターは立香で良かった、立香が良い、立香でなければ嫌だ。
もしかしたら他にも自分を受け入れてくれたマスターはいたかもしれない。それでも、
(…だって貴方は、私を受け入れてくれて、それで、
私の背中を押すのでも、応援するのでも、悩みを克服するよう期待するのでもなく、
私の手を取って、共に歩んで、愛してくれたのですから。
…そんなお人好しは、あなたぐらいでしょう?)
(おやすみなさい。愛しい人)
想いを胸に秘めつつ、頼光は眠りに落ちる。
二人の関係は続いていくだろう。明日も、明後日も、明々後日も、
…人理を取り戻した後も、きっと、ずっと。>>552
ありがとう、本当にありがとう!!
優しいぐだ頼光をありがとう。
私が望んでいたものを形にしてくれてありがとう。
ああ、幸せな気持ちになる。嬉しい。
頼光さんの立香さん呼び、いいよね。ぼんやり自分の過去のツイートを読み返していたら、なんだかいい感じのツイートがあったので
ちょっと広げて短編にしてみました。投下失礼します〜>>554
──眠れない。不眠に悩むのはカルデアに来てからもうずいぶんと慣れたつもりだったけれど、こう何日も続くとさすがに疲れてしまう。
こういうときは、散歩でもして少し体力を使うのが一番だろう。ついでに医務室とか食堂に寄れば、何かいい薬を分けてもらえたり、ホットミルクなんかを淹れてもらえたりするかもしれない。
そうと決まれば善は急げだ。わたしは部屋のロックを解除すると、ふらりと廊下へ抜け出した。
カルデアの廊下は広い。施設を一周するだけで疲れ果ててしまうぐらいには広く、一つ一つの部屋自体もそれなりの大きさがある。わたしの寝泊まりしている個室なんかはそうはいかないが、レクリエーションルームや喫茶室なんかはかなり広い。
そして、当然ながら、食堂は特に最大級の規模だ。前に見せてもらった本来の人員配置数からすれば妥当な広さなんだろうけれど、とんでもない広さなのだ。何しろ、100人強に及ぶサーヴァント全員がいっぺんに入ってもまだなお席が余るぐらいの広さなんだから。
というわけで、目的地である食堂に到着した。キッチンの灯りが点いているので、多分誰かがいるんだろう。
「おじゃましまーす」
と、軽い気持ちで扉を開くと、ブワッと広がったのは甘い花の香り。そして白い人影。訊ねるまでもなく誰がいるのか判る。
「あ、マーリン」
「やあ、御機嫌よう。マイロード」
花の魔術師、マーリンである。
彼はわたしがカルデアに来て初めて召喚したサーヴァントで、最初の頃はなんだか頼りなかったけれど、今ではとびきり頼りになる相棒だ。
でも、食堂に用があるとは知らなかったな。>>555
「マーリンもご飯食べることあるの?」
「いや、ああ、食事そのものは摂るけど、人間のように物質的なものを口にしたりはあまりしないよ。此処にいたのは別の用事があったからさ」
「別の用事?」
「そう。ホラ、最近眠れていないんだろう?」
そう言って差し出されたのは、期待通りのホットミルク。喜んで飲もうとしたら、一度制止される。
「ああ待って。まだ完成していないんだ」
マーリンは余裕そうな微笑みを湛えたまま、戸棚から小瓶を一つ取り出した。小瓶の中でカラフルに輝いているのは、……こんぺいとうだ。
「わ!きれい。こんなの、食堂に置いてあったんだね」
「ロマン君の隠し財産さ」
「えー、ドクターったらこんなもの隠し持ってたの」
彼は和菓子が好きだからね。マーリンはそう呟きながら、ティースプーンをこんぺいとうの瓶に差し入れ、そして、中身をひと掬い。
キラキラ輝く星たちが、乳白色の海にとろけていく。>>556
「少し足らないかな」
そう言ってはもう半掬い。今度はスプーンごとミルクの中に沈んでいく。
「さ、よくかき混ぜてから飲むんだよ。意外と溶けないからね、ソレ」
「試したことあるんだ」
「まさか。ロマン君が溶けないと苦戦していたのを見ていたからさ」
「じゃあドクターがやってたんだね」
「うん、結構最近ね」
「じゃあ一緒なんだ、ふふ」
彼の言う通り、こんぺいとうはなかなかミルクに溶けてくれない。何度かき回しても、カチカチと星同士がぶつかる音がして、何度スプーンで底を攫っても、なかなか星は原型を失ってくれない。
「……、……。」
けれど、スプーンで何かをかき混ぜるのは楽しい。小さい頃に作ったグミのようなお菓子のことを思い出す。くるくる、カチカチ。時折水面に浮かべては、芯まで色づいた砂糖菓子であることに驚いたり、あるいは、
「ふんふんふんふん、ふんふんふ〜……」>>557
そのキラキラとした彩りに、懐かしい空を思い出したりしながら。
「きらきら星かい?確かアマデウス君が弾いていたね」
「うん、あんまりよく覚えてないけど、好きな曲なの」
まあアマデウスの前で歌うと音程にダメ出しされるから内緒なんだけどね。なんてふざけたことを言ったりしているうちに、だんだんと小さな砂糖は形をなくしていった。
「あ、溶けちゃったみたい」
「じゃあ、そろそろ飲んでしまうといい。夜も更けてきた。夢を見るにも遅い時間になる前にね」
──はあい、と生返事しながらミルクを口に含む。おいしい。いつもはエミヤとか紅ちゃんに作ってもらうものだけれど、マーリンに作ってもらったのはなんだか一味違う気がした。
不思議と熱すぎることもないホットミルクをそっと飲み干す。そのままマグをシンクに置くと、なんだかぽかぽかとして眠たい心地になってきた。
「不思議だね、なんだかすごく、眠く……」
「うん、すぐに眠るといい。大丈夫、私がちゃんと部屋まで送り届けてあげよう」>>558
甘い花の香り。安心するその芳香に包まれて、私はそっと意識を手放した。
「おやすみ、マイロード」
……その日、いつもよりずっとよく眠れたことは、言うまでもない。
終マーリンとぐだ子の話でした。
行数制限がきついので次から行間の開け方を気を付けよう……
ではお目汚し失礼しました〜6章ビフォーのあったかもしれない話です。よかったらどうぞ
「為すべきこと」
第六特異点 キャメロット A.D.1273にて
人理保証機関カルデア、介入前の出来事
「───野営地を作る」
陣幕の中、数多の部下に囲まれながら、彼はそう発言した。
彼は有り体に言えば人間ではない。この地に生きる生命でもない。
英霊。存在を「座」という高次元に刻まれし者。境界記録帯。サーヴァント。
如何なる奇縁からか神霊として…獅子王として顕現せしアーサー王にこの終末の大地にて
召喚された存在である。
剣士の霊基にて現界したサーヴァント。その名をランスロット。アーサー王伝説に名高き円卓の騎士。その中でも一際の輝きを放つかの湖の騎士にして、王妃ギネヴィアとの恋路にて大逆の罪過背負いし裏切りの騎士。厳密にはその影法師、である。
「野営地とは言えその語り口、単なる野営地ではないでしょう。どのような?」
続いて部下が言葉を掛ける。
「目的を簡潔に言えば、民衆の保護。獅子王の聖伐からあぶれた者、聖都から離反した者、砂漠の民…すべての民を。できるだけだ」
「……………!」
「それは…」
場がざわめく。当然だろう。選ばれたもののみを庇護する獅子王への敵対ともとれる発言であるからだ。この地においては三つの勢力が均衡していた。
まずは太陽王の陣営。古代エジプトにおいて稀代のファラオ。神王を謳うオジマンディアスを君主とする体制。かの王はこの地に召喚された後聖杯を獲得し、大複合神殿を中枢に据え、自身の領土として魔獣神獣の神秘蠢くエジプト領を拡大、整備している。
次いで獅子王の陣営。円卓の騎士が所属する陣営である。獅子王を君主とし、サーヴァントとして召喚された円卓の騎士達十一人…いや、あの血塗れの決別を経て今は五人が残るばかりか。認めた民のみを収容する、騎士たちが形成する体制。
最後に山の民。かろうじて生き残った現地の民。中東の伝説の暗殺教団「山の翁」達がサーヴァントとして召喚され、戦闘や民の庇護の任を果たしている。数度激突した上での見解では武力、資源の双方において他の二陣営には及ばない。いずれ朽ち果てる立ち位置だが、しかし死を間際にしたものの足掻きは決して侮れず、油断はできない。
現状、太陽王陣営と獅子王陣営は不戦の契りを締結する予定だが、いずれ激突は避けられないだろう。太陽王は賢明だ。いずれこちらの思惑を見通し、自身の民が聖槍により…「最果て化」により消滅さられるのを見過ごしはすまい。
以上が勢力の概要であり、第六特異点を巡る様相である。ざわめきが落ち着いた後、一人が重い口調で口にした。
「…遊撃騎士の任を賜った我らならば、相応しい人間を聖都へ導く任務を掻い潜り、民衆の保護をこなすことは可能でしょう。しかしランスロット卿、その選択がどのような道かおわかりですか」
「無論だ」
部下の返答にそう断言した。
「反逆の疑いを被ることは避けられず、故に他の円卓の騎士から隠し通し、全てをこなさねばならない。また本来の任務に支障を来しては薄々感づかれよう」
「それでも獅子王に気づかれるかは賭け、まったくもって修羅の道だ」
「それでも…私はせねばならないと判断した。いずれ彼らが燃え尽きるとしても。それがまったく無駄に終わるとしても」
「諸君らが密告するならば糾弾はしない。しかし、アロンダイトの一撃をもって返礼とせざるを得ないことを詫びよう」
沈黙。数名はこの場で斬り伏せねばならぬかと覚悟していたが…待っていたのは予想外な返答だった。
「…末世での激務故止むなしか、ランスロット卿も疲れておいでだ」
「その通り、少しお休みください。己を追い詰め過ぎです」
「卿の尽力は一同全員、よく知っていますとも」
「ここまで来て私達が卿から離れるなど、ありえません」
「貴方の御心は騎士王に捧げられている、ならば我らも同じく。そしてこの身は
ランスロット卿の下に。先の質問も確固とした己の意志か問うたまでです」
彼らの言葉に面食らい、そして張りつめた胸に安堵が去来する。
「諸君───では二時間の間休息とする。その後に野営地の選定を主題とした軍議を開く。充分に英気を養え、これより我らに安息は無いぞ!」
「「「はっ!!」」」会合を終え、一人陣幕の中彼は思索に耽る。
善き部下を持てた、私には勿体無いほどに。頼もしき部下達に内心で感謝を述べ、そして白亜の城の方角を見据える。外見こそかつてのキャメロットと同じだが、今やおぞましき聖都に。理想の国とは笑わせる。目指すところは善き人間を保存するための…そう、地獄なのだから。営みなき安寧に何があるのか。だが魔術王による人類史の終焉を前にした今、最善はこの道しかない。
そう、己に言い聞かせる。故にこそ同胞を殺めてでも今、此処にいる。
騎士ならざる獣が何だという。かつて、あの悲しき女の手を取り、友と同胞に剣を向けたその時から──私は騎士ではなく、許されざる獣なのだから。
この地に召喚されてからの経緯を思い返す。我が剣を今一度同胞の血に染め、暴虐の十字軍を薙ぎ払い、ガレスの犠牲を経て獅子心王を騙る謎のサーヴァントを打ち斃し……あの瞬間は今も鮮明に脳裏によぎる。残骸のエルサレムを踏み砕き、聖都が顕現した時以上に私の心に焼きついてしまった光景。
愛した家族であるガレスごと敵を葬ったガウェイン卿の覚悟の程。獅子王より賜った祝福と毒の下、彼は燃え尽きるまで獅子王の剣として在るだろう。だが………いや、感傷はいい。
生前、彼女を惨たらしく殺めた私に語る資格など無い。
せめて不甲斐ない己に寄せてくれた信頼に応えるしかなく、私は為すべきことを為すまで。
そう、私は私の信じる最善を為し続ける。───未だ最善は獅子王の下にある。獅子王は決断した。太陽王は砂漠の深奥にて沈黙。山の民もこのままでは朽ち果てるのみ。
袋小路の思考の中、星読みの予見した詩を思い返す。
「異邦の星輝く時、白亜の結託はひび割れ、王の威光は陰り、神託の塔は崩れ落ちる──」
獅子王の破滅を示すかのような詩から連想し、円卓の騎士の中、召喚されなかった二人に思いを馳せる。王の世話役、ベディヴィエール。彼は何故召喚されなかったのか。親子ながら生前では不理解のまま永訣したギャラハッド。聖杯に選ばれし彼ならば今、この地にてどのような決断を下すのか。
…いいや。例え彼らが欠けた穴を埋めるピースだとしても。
仮に全てを覆すに足る、奇跡にも等しい一手が訪れたとしても……。
私は為すべきを為すまで。
「時間です、ランスロット卿」
声と共に目を開く、どうやら予想以上に考え込んでいたらしい。
「時間か」
「では、始めよう」
騎士の高潔は最早この地に無く。
ならばこそ、抗わねばならない。
それがどれほど儚く脆いものだとしても───
人理保証機関カルデア、第六特異点到達まで■■■■時間
彷徨の騎士、第六特異点到達まで■■■■時間短編完結です。感想、解釈違い、よかったらどうぞ
ランスロット視点です。自己を否定し、獣である事を望みながら、その実どうしようもなく騎士である男、それが着想のテーマとなりました
ところでドイツ語だとギフトって「毒」らしいですよ奥さん――あぁ、天使の輪だ。
「あれは月にかかった虹だよ」
兄がわたしに微笑みかけます。それは兄弟そろって荷馬車で夜の道を通った日のことでした。わたしの眼には月を中心に構成されたおぼろげな白く輝く光帯が映っていました。
「確かにガレスの言うように、天使の輪と言う人もいるけどね」
「下らない。あれも自然が織りなすただの現象。そこに夢想を見出すなぞ、無知蒙昧を晒すようなものだ」
荷台の方から、弟の声がします。太陽のように煌めく髪をもった兄と対照的に弟は漆黒の夜を思わせる髪を持っていました。性格もそれに合わせたかのように陽気な兄と幼いのに冷徹ささえ感じる弟はまるで鏡合わせのようです。
「確かにアグラヴェインも言うことも最もだ。だけど人というのは夢を見ないと前には進まないと俺は思う」
「夢なんぞに現を抜かして、破滅をした人間をごまんと見たが?」
「多くの人間はそうかもしれない。だけど、今は届かなくてもいつかはその手で星を掴めるように努力をする。そういう人が何人も身を捧げることで世の中はよくなる。そうも思えないか」
「思わない」
若干食い気味に弟が返します。
「人の世は城を立てるように残酷なまでに現実的な目線は統治されなければならない。星に手を伸ばすような夢想主義者にはなんにもつかめんさ」
兄は少し苦笑いして髪を掻きました。あれは、確か遠い日の記憶。今、月にかかる虹を見るのは、あれから三度目。あれはまだわたしがブリテンの厨に立っていた頃でした。そのときのわたしの名前はボーメン。美しい手。髪を切り、身分を隠して、キャメロットに来たわたしにケイ卿が授けた、名前。
身分も分からぬわたしを騎士には取り立てられぬとケイ卿は私にブリテンの台所番を一年任じたのです。その場で正体を告げることもできたが、既に円卓に席のある兄や弟の縁ゆえと見られかねなかったのです。なにより、わたしが私が騎士になるのにいい顔をするとは思えなかったのです。
女性というだけで、わたしをオークニーに置いて来たのですから。わたしより年下の弟は連れて行ったのに。
そういうわけで、わたしは今も厨で火の番をしていました。火というのは生まれたての小鳥のようで、世話をしないと消えてしまいます。かといって乱暴に扱えば、猪のように暴れ出すのです。どちらにしてもまず火の上で茹っているスープはダメになってしまいます。
それゆえに地味で面倒な仕事ということで新入りのわたしが火の番を夜を徹して行っているのです。
「・・・冷えるなぁ」
一年の料理番、というのは覚悟していたが思っていたよりも辛いものがありました。夏はまだよかったのです。秋に入り、そして冬になると辛さはいっそう増しました。水仕事で手は強張り、荒れてしまいました。厨で過ごす夜は寝たくても寝れないぐらいに冷え込んだのです。唯一の暖は目の前の火だが、それも体を暖めるには心もとないものでした。当然下働きの給料では体を暖めるマントも帰るはずもありません。
「わたし、こんなので騎士になれるのかな。体だって小さいし」
答える人なんていませんでした。目の前の火は肯定も否定もなく、ただチロチロと左右に揺れるだけでした。
「なれるさ」
「ひゃわぁ!!」
突然、かけられた声にわたしは飛び上がりました。
「おっと、驚かせてしまったかな?
それにしても乙女のような声を出すのだね」
わたしが振り向くと、そこには外套に包まれた巨躯が立っていました。その手には兎をぶら下げていたのです。
「わわわ、ここここはアーサー王陛下が治める城であってて、あなたのような無法者が」
「はは、少し慌てすぎだ、ガレス」
そう言って、雪のうっすらと積もったフードを取ると、そこには目に焼き付いた姿が映りました。「あわわ、ら、ランスロット様!」
「様はいらないよ。君だっていづれ騎士になる身だ。ランスロット卿でかまわないさ。ところで台所、少し借りていいかな。早く起きすぎて、お腹が減ってしまっていてね」
「は、はい。ランスロット卿――い、いえ、まだわたしは騎士になれぬ至らぬ身!ランスロット様始め、騎士の方には敬意を払うと決めているのです」
姿勢を直す私を尻目に、ランスロット様は外套を脱ぎ、兎を慣れた手つきで捌き始めました。外套の下のチェニックが少し乱れていました。・・・兎を狩るのにそんなに動きまわったのでしょうか。
「真面目だな。少し融通の利かない所はガウェイン卿に似ているかもしれない」
「えっ」
それを聞いて、わたしは胸が高鳴りました。兄たちとわたしの関係は誰にも知られていないはずだからです。
「まあ、あの太陽の如き巨体の英雄と比べられたら、君は一層恐縮してしまうかな」
と言って、ランスロット様は微笑みました。どうやら冗談だったらしいです。
「じょ、冗談でも、従士でもない少年を捕まえてブリテンの英雄と比べるのは少し人が悪いのでは」
「ははは、申し訳ないな。だが、君が騎士になれると思っているのは本気さ」
「え?」
「それは君が初めてアーサー王の御前に来た時からずっとそうだ」
わたしはアーサー王の前に立ったあの日を思い出しました。身分も知れないわたしを疑いの眼差しが刺す中、ランスロット卿だけがわたしを擁護してくれていたのです。
「そ、そんな、あれはてっきり」
「私がいいかっこしたいからだと」
「いえ、滅相もない!」
「ふ、君の立ち振る舞いを見ればわかる。個々の所作が洗練されている。きっと名のある家の出だろう」
「身分の告げないのに」「あわわ、ら、ランスロット様!」
「様はいらないよ。君だっていづれ騎士になる身だ。ランスロット卿でかまわないさ。ところで台所、少し借りていいかな。早く起きすぎて、お腹が減ってしまっていてね」
「は、はい。ランスロット卿――い、いえ、まだわたしは騎士になれぬ至らぬ身!ランスロット様始め、騎士の方には敬意を払うと決めているのです」
姿勢を直す私を尻目に、ランスロット様は外套を脱ぎ、兎を慣れた手つきで捌き始めました。外套の下のチェニックが少し乱れていました。・・・兎を狩るのにそんなに動きまわったのでしょうか。
「真面目だな。少し融通の利かない所はガウェイン卿に似ているかもしれない」
「えっ」
それを聞いて、わたしは胸が高鳴りました。兄たちとわたしの関係は誰にも知られていないはずだからです。
「まあ、あの太陽の如き巨体の英雄と比べられたら、君は一層恐縮してしまうかな」
と言って、ランスロット様は微笑みました。どうやら冗談だったらしいです。
「じょ、冗談でも、従士でもない少年を捕まえてブリテンの英雄と比べるのは少し人が悪いのでは」
「ははは、申し訳ないな。だが、君が騎士になれると思っているのは本気さ」
「え?」
「それは君が初めてアーサー王の御前に来た時からずっとそうだ」
わたしはアーサー王の前に立ったあの日を思い出しました。身分も知れないわたしを疑いの眼差しが刺す中、ランスロット卿だけがわたしを擁護してくれていたのです。
「そ、そんな、あれはてっきり」
「私がいいかっこしたいからだと」
「いえ、滅相もない!」
「ふ、君の立ち振る舞いを見ればわかる。個々の所作が洗練されている。きっと名のある家の出だろう」
「身分の告げないのに」「ランスロット様・・・」
「む、確かに私はお腹を空かせている・・・。
だが、己が名誉よりも君の健康のほうが私には大事なのだ・・・!」
――ぐぅぅぅ
「・・・痩せ我慢、ですよね?」
「文字通り」
「そうであれば、わたしもランスロット様に」
そう言って私は懐からパンを取り出しました。
といっても余った素材で作った堅いパンでしたが。
「このようなものですが」
「ほほう、これはありがたい」
ランスロット様はよほどお腹が空いていたのか、それをぱくりと一口で口の中に収めてしまいました。
「うん、なかなかいける。久しぶりにブリテンで料理を食べた気分だ」
「もう、ガウェイン卿に怒られますよ」
「はは、ガレスも私のガレットを食べてはどうだ」
「ええ、それでは頂きます」
そう言って、わたしはランスロット様の作ったガレットを口に含みました。ふわりとわたしの口の中で肉の旨味が広がりました。
「おいしいです・・・!」
「それはよかった。他人に振舞うのは初めてでね。・・・ところで」ランスロット様はガレットを摘まむ、わたしの指先をじっと見つめました。
「ずいぶんとアカギレが酷い。それに顔も赤くなっている」
「ひゃっ・・・ひゃい!?」
ランスロット様がまじまじとこちらを覗き込んでくるので、わたしは思わず変な声を出してしまいました。
「男同士なのだから、そんなに驚かなくとも・・・。それはともなく何か防寒具はないのか。室内とはいえ、厨で寝泊まりすれば冷えるだろうに。現に今も部屋の隅で霜がはっているではないか」
「い、いえ、下働きのわたしにはそんな贅沢なモノなんて」
「まったく、ケイ卿め。騎士になろうという少年の体を壊す気か」
そう言って、ランスロット様は自分の外套もってきました。
「ガレス、少し立ってくれないか」
「は、はい」
わたしが立ち上がると
――ふわっ
と、わたしの肩に布がかけられました。
「・・・え」
それはランスロット様が、わたしの肩に着てきた外套をかけてくれたのですが、それはランスロット様から肩を抱かれるように思えて。
「あ、あああの、あの、あのららランスロット様・・・!」
「ふむ、まだ大きいか。だがいずれ、君もこの外套も似合うような背丈になるだろう。まあ、これで当座の寒さくらいはしのげればそれでいいか」
「こ、こんな大変なもの、いただません!」
それはわたしにも一目でわかるくらい高級な生地で出来た外套だったのです。きっと厨で着ていたらあっという間に汚れがついてしまい、目立ってしまうような、そんな高級な生地。ですけど、ランスロット様はまったく意に介することもなく、わたしの肩に手を置きながら微笑みました。「私には人を見る目があると言っただろう。ガレス。君はいずれ円卓に座る。それだけの才覚がある、と私は思う。だから、ケイ卿の言った一年が過ぎるまで君は健康でいてほしいんだ」
「で、でもどうやってこの恩を・・・!」
「我が王のため、私と共に、このブリテンを護る。それで私は十分だ」
そう言って、ランスロット様は厨の出口へと歩を進めます。そうして、出口に立った時、ランスロット様ははたと足を止めました。
「ほう、これは・・・」
かすかに息を呑んだランスロット様のつぶやきがこちらまで聞こえてきます。
「ガレス、来てみてくれないか」
わたしが小走りでランスロット様の横に行き、その視線の先を見ました。
「あ・・・」
「月虹、とは珍しい」
早朝の昏い空にはあの日見たのと同じ、光帯が浮かんでいました。
「私の国では吉兆を示すという。きっと君の未来が明るいものであることの兆しだろう」
「・・・はい!」
こちらに微笑んでくれたランスロット様にわたしは満面の笑みを返す。
そのとき、私の頬はきっと赤らんでいただろうけど、それは寒さからではなくて――。
それが月の虹を見た2回目。
それから色々なことがありました。
楽しいこと、辛いこと。
そして、ギネヴィア様の処刑の日。わたしは王の命に背くことも、ランスロット様に剣を向けることもできず、武装もせずにギネヴィア様の処刑に立ち会った。そのときにはもう色あせた、あの外套をつけていた。それはなんでだったろうか。
ギネヴィア様にランスロット様とわたしの絆の証を見せたかったのだろうか。
ランスロット様にわたしがいることに気が付いてほしかったのだろうか。
そうして、わたしも連れて行ってもらいたかったのだろうか。
でも、もう全ては終わりだった。
(あぁ・・・まだ・・・お昼なのに・・・そらがくらい・・・や・・・・・・それともいまは夜・・・?)
喧騒の中、わたしは一人倒れ伏していた。近くにガへリスもいるはずだけれど、気配がない。先に逝ってしまったのだろうか。
(きれいだなぁ・・・)
もう霞んでいくわたしの眼には太陽が・・・いや、暗くなっていく視界の中ではそれは月に見えた。そして、月の周りには光の帯が見えた。
(天使の輪・・・。これで・・・3かいめか・・・。でも、こんどは・・・おむかえのてんし・・・のわっかかなぁ・・・)
もう、力が入らない。生温い雨を頬から押しのける力もない。腕も指も動かない。息をしているのは自分の意識からではなく、生きようとするわたしの体の反応だった。
(でも、もう・・・どうしようもない・・・のに。
あめだってぬぐえない・・・あめ・・・?)
そのときわたしは気が付いた。太陽がはっきりと見えているのに、雨が降っていることに。
視界に人影が映っていることに。
それが誰なのかはすぐにわかった。
だが、もう、その声はわたしには届かなかった。「お・・・っ・・・っッ!」
声を出そうとした。激痛が走った。血が喉から噴き出した。
でも、声を出そうとした。だってこれが最期だってわかっていたから。
「お、に・・・いさま・・・。ご、め・・・なさ・・・い。
さい、・・・ご・・・で・・・」
もう音のつながりも、意味のある旋律も生まれない、ただの音だった。それでも私は声を出した。
「・・・あ、のひと・・・をゆる・・・して・・・あげて・・・」
雨は激しさを増す。もうなにもみえない。
(あぁ・・・わたしは、ランスロット様の特別に、少しでもなれたのだろうか)
あの日、初めてランスロット様から頂いた品をつけていた。それでもランスロット様の剣はわたしを切り裂いた。きっとあの人にはギネヴィア様しか見えていなかったのだろう。それでも――思い出す。
――だけど、今は届かなくてもいつかはその手で星を掴めるように努力をする。
あの日、初めて月虹を見た夜を。兄の言葉を。
(届かない星《月》に手を伸ばし続けたけど、触れることくらいできたかな・・・)
わたしは自分の心に従い、全力で走り抜けた。後悔なんてあるわけない。だけど、心残りはたくさんあった。
(願わくば・・・兄さまとランスロット様が・・・もう一度手を取り合って・・・。
ブリテンを・・・アーサー王を救ってくださるように・・・)
手の届かない月が作り出す、白い虹を視界の奥に感じながら、わたしの意識は闇に落ちていった。
――それが、円卓第7席ガレスとしてのわたしの最期の記憶だった。>>507
する。
「ここから妖気を感じる……でも悪いものじゃないみたいだ」
工場の外から声が聞こえた。バニヤンはとっさに傍らに立てかけてあった斧を掴み、眠っていたベイブを起こす。
「あ、藤丸君、ちょっと待……」
「バニヤン!ここにいるのかい!?」
聞き慣れた声が響きわたるとともに扉がガラッと開き、待ち望んでいた姿が現れた。
「マスター……?マスター!」
一度目は確かめるように、二度目は確信して呼びかけた。そして大きかった背丈を小さく、人間の少女と同じくらいに変え、立香に飛びつく。
「ごめんよ、すぐに迎えに来てあげられなくて」
飛びついてきたバニヤンを優しく抱きしめながら立香は微笑む
「いいの、マスターならきっと来てくれるって信じてたから!」
バニヤンはぶんぶんと頭を横に振って満面の笑みで答えた。>>578
だが少女の身体が言うことを聞かずとも、それに応えるものがただ一人だけいた。
「ぬ〜りかべ〜!」
掛け声とともに巨大化したぬりかべが地面より現れ、一行に迫るバニヤンの足を食い止めた。
「ありがとう、ぬりかべ!そのままその子を抑えていてくれ!」
ぬりかべにそう指示を下すと崩れ落ちる工場から鬼太郎はみんなを庇いながら抜け出した。そして険しい目つきで辺りを見回す。
「このギターの音はお前だな?エリート!どこにいる!?姿を現せ!」
「ふん、しくじったか。まぁいい未だポールバニヤンは私のギター催眠の術中だ」
暗い声とともに建物の影から死人のような肌ののっぺりとした顔の小男が歩み出る。
「久しぶりだな、鬼太郎。お前たちを殺 すのに協力するよう友人のドラキュラに頼まれてね、あの世から戻ってきたのさ」
小男は耳まで裂けた口でニンマリと笑った。その拍子に裂け目からたらりと血が一筋流れる。>>579
「その通り」
「貴様たちは罠に嵌ったのだ鬼太郎、カルデアの者ども」
声とともに建物の影から、屋上から、おびただしい数の吸血妖怪が音もなく這い出てきた。
「初めての者たちもいるから自己紹介しよう。私は吸血鬼エリート、各国のエリートだけを狙い血を吸った吸血鬼さ」
小男、吸血鬼エリートは余裕綽々な態度で名乗った。
「吸血鬼ラ・セーヌ、美女999人の血を吸ったフランスの吸血鬼よ」
群の中からいかにも伊達男といった風貌の吸血鬼が現れ、キザったらしくポーズをとった。
「そしてこの私こそ世界にその名を轟かせる吸血鬼の親分、吸血鬼ドラキュラ!そして彼らこそ我が不死身の吸血鬼軍団だ」
最後に前述の二人に挟まる位置に蝙蝠が集まり両手を上げたドラキュラの姿へと変化した。
それを合図に後ろに控える吸血鬼たちが一斉に牙を剥く。>>581
ドラキュラが叫ぶと吸血鬼軍団が鬼太郎たちに襲いかかる。同時にエリートもギターを激しくかき鳴らした。その曲調に合わせてバニヤンの足にかける力がどんどん強くなっていく。
「さ……させない……!」
ぬりかべも負けじと抑える力を強める。心優しい彼は仲間が傷つけられるのも少女が悲しむのも見たくはなかった。
「ワシらもぬりかべに負けてはいられんぞ子泣きの!」
「おお砂かけの!じゃがこの数はちぃと骨が折れそうじゃぞ?」
目前に迫る吸血鬼の波を前に、砂かけは気合十分に、子泣きは少しとぼけた風にお互いの顔を見合わせた。
「何を怯えるものか!亀の甲より年の功じゃ、1000年も生きとらん若い吸血鬼どもなぞものの数ではないわ!」
「それもそうじゃのぅ。おーい鬼太郎、目玉の!この子らはワシらが守る!お前たちは一反木綿とエリートを探して倒すんじゃ!」
一反木綿に乗り上空をいく鬼太郎を二人の老妖怪は力強い言葉で送った。「娘をお返し願いたい」
「トロイアの王女はここにいないが」
アキレウスの記憶が正しければ王女達は皆王宮の中だ。疫病で誰かが死んだ、という話は聞いていない。亡骸も運び込まれていない。そもそもこの空間に存在するトロイア側の人間は目の前のプリアモス王と天幕の隅に転がる敵将の――――まさか。
「プリアモス王よ。ヘクトールは、その、女だったのか」
「あの子は間違いなく私とヘカベーの娘です」
「髭が生えていたし声も低かった」
ヘクトールは間違いなく男だった。アキレウスは彼を『無精ひげを生やした中年男性』として認識していたのだ。
「アポロン様の加護によるものです」
「貴方には息子が何人もいた筈だ。態々娘を戦場に立たせなくてもいいだろう」
「神々には逆らえませぬ。よくご存知でしょう」
「………ああ、母上もそうだった」
神は時として気まぐれで無慈悲で残酷だ。女神を母に持つアキレウスはよく知っている。
王女を王子として、トロイアの大将として、鎧を着せて戦場に出せ。もしプリアモス王がそのような神託を受けたのなら―――娘を戦場に立たせる理由としてアキレウス達を納得せしめるに足るものになるだろう。
「アキレウス殿。娘の魂が安らかに過ごせるよう、どうか御慈悲を」>>583
「…………御息女の亡骸をお返ししましょう」
柔らかい身体だ、とアキレウスは思った。
あちこち丸みを帯びているし線も細い。アキレウスの腕の中にすっぽりと納まっていて、少しでも強く扱ったら壊れてしまいそうだ。
――――この身体を勢いよく蹴飛ばした。全力で殴りつけた。最後は喉元に槍を突き刺した。あまつさえ踵に革紐を通して引き摺り回した。親友の仇とはいえ女性に対して随分とひどい仕打ちだ。
「ヘクトール、お前はこんなに小さかったのか」
微かな呟きは冷えた空気に溶ける。
『アキレウスは相変わらずうっかり屋で粗忽者ですね。あれ程直せと言ったのに……。これは死ぬまで――いえ、死した後も直らないと見ました』呆れたようなケイローンの声がどこかから聞こえた気がした。「うえぇ、気持ち悪い………頭が爆発しそう……」
「いくら何でも飲み過ぎ。あれ英雄王のお酒でしょ」
「大丈夫だと、思ったんだけどなあ………」
自分の限界を知らぬ若者ではない。生前もカルデアに召喚されてからも飲酒する機会は山ほど存在した。どの程度なら醜態を晒さないか、翌日に酔いを持ち越さないか、ヘクトールは理解している。―――だが、今回は相手が悪かった。宝物庫の酒はサーヴァントを泥酔させるものだと知らなかったからついつい杯を重ね過ぎた。口当たりが良く、厚みのある芳醇な味わいの葡萄酒だった。美味しい酒に罪は無い。単なる判断ミスだ。
「今のヘクトールはちっとも大丈夫じゃなさそうだけど」
「ああ、はい……オジサンは大丈夫じゃないです……駄目です……」
頭が痛い。胸がむかむかする。一刻を争うような容態ではないが不快感はもの凄い。
「アスクレピオス先生呼んでくる?」
「『自分の限界を理解していない愚患者』って怒られるだけだよ……暫く転がってたら治る、ます……」
二日酔いとは得てしてそういうものだ。水分を補給しごろごろしていればその内回復する。早ければ今日の午後、遅くても明日の朝には元のヘクトールに戻ることができる。
「本当に大丈夫かなあ」
「心配しないでくれたまえ………あー、ちょっと寝るから後よろしく………」
「ヘクトール、そこ私のベッドなんだけど。ごろごろするのはいいけど本格的に寝ないで。昼寝する場所が無くなっちゃう」>>585
マスターの抗議が遠くで聞こえるが瞼を開ける気力すらない。
ヘクトールは惰眠を貪ることにした。しつこい二日酔いにはこれが一番だ。
ヘクトールが目を覚ますと隣でマスターが寝ていた。
「………あらら、こりゃ参ったね」
双方服を着ていたのでいかがわしい行為に及んだ訳ではないらしい。
恐らくひと眠りしようとベッドへ潜り込んできただけだろう。
―――マスターへ重めの愛を注いでいるサーヴァントに見つかったら問答無用で殴られそうだが。「ヘクトールは大丈夫かな」
「僕たちサーヴァントは見た目よりずっと頑丈なんですって。だからきっと、大丈夫」
パリスと同じアーチャークラスのサーヴァント達が話しているのを聞いたことがある。人間の見た目をしていてもマスターやマシュ、疑似サーヴァントよりずっと頑丈で『まだ大丈夫』『まだいける』の範囲がずっと広い、らしい。
パリスにはよく分からないが、恐らく兄もそうなのだろう。
「そうなの?」
「はい。それにアスクレピオス様もいます。今回みたいな大怪我でも絶対に助けてくれます。あの方は医術の神様ですから。ね、アポロン様?」
パリスの問いに応えるように、腕の中で丸い羊―――アポロンがもぞもぞと動いた。
「…………あの子が付いているなら何も問題はない。ヘクトール君は助かる。霊核が破壊されていなければ私の息子が助けてくれる。パリスちゃんのマスターよ、安心するがよい。君の大切なサーヴァントは無事戻ってくるだろう」
「ありがとう、ございます。……ええとこれはもしや神託というものですか」
「その様な大層なものではない。落ち込む若人へ年長者が贈る励まし、と思ってくれればいい」
「でもアポロン様はすごく偉い神様で」
「今は羊だ。……ああ、『どうしても』と言うのなら」
「はい」
「パリスちゃんに良くしてやってくれ。メェー」>>587
「勿論!」
「……マスター、ありがとうございます!嬉しすぎてエリュシオンまでふわふわ飛んでいっちゃいそうです!」
「お願いだからそれは止めて!」
「パリスちゃん、いくらなんでも死に急ぐのは良くない。とても良くない」
血相を変えたマスターにがくがくと揺すられる。
アポロンが頭の上で飛び跳ねる。
それが何だかとても嬉しくて、心地よくて、パリスはくすくすと笑いを溢した。「運んでくれてありがとさん」
「いえ。当然のことをしたまでです」
「君がオジサンの踵に穴開けて紐通して馬で引き摺り回すようなサーヴァントじゃなくて本当に良かった」
「冗談、ですよね?」
「世の中にはそういう奴もいるのさ。特にギリシャには、ね。今後の為によく覚えておきなさい」
「な、なるほど……希臘にはすごい御仁が……」
怪我人を馬で引き摺り回す。蘭陵王の時代でも、現代でも、恐らくヘクトールの時代でも、常識外れどころか人道にもとる行為だ。刑罰ならまだしも生きている味方を引き摺り回すなんて野蛮にも程がある。
「そうだ、カルデアに帰ったら会わせてあげよう」
「え、いや、それは」
可能なら会いたくない。世界を救うという目的が達成されるその日まで、顔を合わせずに済ませたい。蘭陵王の予想に過ぎないが恐らく精神汚染と狂化スキル持ちでアライメントが混沌・悪のとんでもないサーヴァントだ。すれ違っただけで難癖を付けられ絡まれるかもしれない。
「冗談だよ。あいつが君を見たら何を言い出すか分かったもんじゃないから」
「もしやバーサーカーですか」
特定の条件下で狂化が発動するバーサーカーも存在する、らしい。>>589
狂って誰かの身体に無体を働いた逸話を持つなら有り得ないこともない。
――だが、ヘクトールは首を横に振った。
「いいや、ライダーだ。変な奴を見たら絶対に近付いちゃいけないよ」
「はあ」
変なライダー、と言われても。
「何か特徴は。口から火を噴くとか、身体が燃えているとか」
「やたらデカくてムキムキだ」
「ふむ……ヘクトール殿を引き摺り回したのはギリシャ出身の体格が良い男性、と。覚えました」
「それだけ覚えれば十分さ」「キャット!終わったよ!」
「おお、パーフェクトだリップ。すごいぞリップ。伝説の猫のように百万回生きるがいい」
オレンジゼリーの如く、メロンゼリーの如く、圧縮されたフルーツの皆々様。
キャットとて野生のアニモーだ。ケーキ程度、アフタヌーンティー前に完成させられる。
―――今回は気分転換させる為リップに手伝わせたのだ。
戦闘ばかりでは飽きるだろう。乙女チック行為も偶には楽しかろう。
「次は何するの?」
「オーブンの確認……ふむ、庫内温度と焼き色は天気明朗なれど波高し。処女航海は上々の滑り出しと見た」
「ええと、つまり順調……なんですよね」
「ライオンと人魚のキメラへシャンパンを投げつけて割ってもいい程に順調順調。もう少しでスポンジの御誕生だ。ホタテガイの上でコサックダンスしてもいい気分だワン」
「良かったぁ……」
安堵のため息が、一つ。
「リップはしばし待て。ボーダーコリーの如く、古龍を待つハンターの如く、待て。キャットが最後の仕上げをする故な」
スポンジ台を冷まし、生クリームでメイクして、リップ作のキューブを飾り付ければご主人への誕プレ完成である。
「はーい!待ってます!」
「元気でよろしい!」
まるで咲き初めた花のような笑顔。
リップが笑っているとご主人もキャットも嬉しいのだ。「Oh、これはマトンのピンチと見ました。マスターは私の肉を下ごしらえするつもりですね?ジンギスカンみたいに。ジンギスカンみたいに。大切なことなので二回言いました」
「違うよ……ドゥムジのモフを楽しんでいるだけだよ…」
マスターの指がドゥムジの羊毛へ沈み込む。優しく撫でて、少し引っ張って、毛並みを整えるようにまた撫でる。肉へ下味を揉みこむというよりブラッシングやマッサージに近い手つきだ。
「100%ウールが役立っているのなら何よりです」
「ふわあ………」
返事の代わりに口から欠伸が一つ。
ウールの手触りはマスターへ眠気をもたらしたらしい。
「眠いのならアポロンを数えた方がいいのでは。彼は何柱もいますよ」
「んぁ」
「寝冷え防止に私を使うと良いでしょう。Good night and sweet dreams.」
「おやひゅみ、なひゃい………」
マスターが子猫の様に丸くなる。
寒くないように。風邪を引かないように。世界を背負う少年が明日も健やかでありますように。
そんな願いを込めて、ドゥムジはマスターへ寄り添うことにした。「やあ、ヘクトール。少し良いかな?」
自室に戻ろうとした矢先、滅多に関わらない声に引き止められた。普段は殆ど話さないであろう人物に多少驚きつつも俺は応答した。
「オジサンに何か用です?アーサー王」
「ああすまない、すぐ終わる。それと、私のことは気軽にアーサーと呼んでくれ」
「へいへいっと…んで、何を聞きたいんです?」
面倒事に巻き込まれる可能性を薄々感じてはいるが、ここで逃げたらさらに面倒なことになりそうであるためグッと堪える。
「君の故郷は馬の名産地だったと聞く。そこでだ、私に合う馬を一緒に選んでくれないか」
「馬、ですか」
いやいやここには馬に詳しいサーヴァントやら馬のサーヴァントが沢山いるでしょう!?何故よりによって俺なんだ?という心の声を抑えつつ、至って平常通りだと言わんばかりの笑顔で
「オジサンなんかより詳しい人たちは多いですよ?蘭陵王やオルタの君なんて馬と一緒に戦闘に出てるしそっちの方が向いてると思いますけどね」
と返した。向こうはそんな皮肉に気付いてないのか譲る気がないのか
「君が良い、と言っているのだが」
とこちらをジッと見つめ言い放った。どうも顔の良い人間はどうも苦手だ。
「……分かりましたよ。すみませんねアーサー、意地を張っちゃって」
「いや、私の方こそすまない。そしてありがとう」
「あんま期待しないでくださいね。そんでいつ行くんです?」
「ああ、明日にでも行こうかと。マスターには既に伝えているから心配はしなくていいさ」
「わかりましたよ。そんじゃ、また明日な」
「そうだね、引き止めて悪かった。おやすみヘクトール」
次の日、なんだかんだで楽しかったがそれを認めたくないヘクトールがいるのはまた別のお話。>>593
おまけ
「ちなみにオジサンが拒否した場合どうしたんです?」
「うーん、君の弟にでも頼んだかな。でも君のことだから嫌がることはあっても断らないと思ってたよ」
「褒めてます?それ」
「勿論だとも」
「アーサーも人が悪いな……」「信長様!……信長様?」
「今し方こちらを発ったぞ」
室内を見渡してもお目当ての人物おらず 碁盤を前に正座をする老人のみが出迎えた
どこへ発って行かれたのか?すれ違うことはなかった
あのお方が向かいそうなところと言えばーー
「碁に付き合わぬか?」
「……は…?」
「さすれば教えてやらんこともないが」
挑発めいた笑みを浮かべた老人は承諾を聞く前に 向かいに座布団を敷いて碁石を手に抱える
恐らく暇を持て余していて 対戦相手が欲しかったのだろう……恐らく こちらを気遣っているのだろう
ーーあのお方が出向きそうな場所とはどこだ?何故一つも浮かばぬ?私はあのお方の何を見てきたと言うのだ?
こんな時あやつならば あのサルならば
口を閉ざし眉を顰める私とは反対に 軽妙に笑って即座に答えを口にするに違いないーー
「…そんなに殺気立っているように見えましたか 今の私は」
「何 ちょうど対戦相手が欲しかったのだ」
「貴殿に勝たなければ教えてはくれませぬか」
「当然であろう」
深く刻んだ眉間の皺を薄めるように指の腹で撫で 渋々座布団の上に腰を下ろす>>595
「………………参った」
「勝負ありましたな」
「うむ 流石は智将と言ったところだな」
無事勝利を確認すると全神経を集中させていた筋肉が緩む
負けらない賭けに勝ち安堵を浮かべるこちらとは打って変わり 向かいの老人は顎に指を添え碁盤に目を落として考え込んでいる
「……儂の敗因は何だ?」
「それは……」
ふっ と思わず小さく笑みが洩れる
それを見逃さなかった老人は急かすように怪訝な目を向けた
「私に武で挑まなかった事だ」
「……っ 呵呵呵呵ッ!!」
「して 信長公は何処へ…」
「ならば今度は拳で勝負といくか?」
「ですから!!信長公は何処へ!?」「そのスクラブは止めなよ。見る度に目がチカチカする」
「……はい?」
「なあ、立香はどう思う?」
「あ、ええと、うーん………本人が良いと言うのなら別にいいのでは………」
「立香も止めろってさ」
「いや言ってないだろ」
立香の答えは限りなく肯定に近いものだ。
ヘクトールが言うように『目がチカチカするから止めろ』とは一言も口にしていない。
アキレウスがオレンジ色を好むと知っているから気遣ってくれたのか、それとも民族的特性によるものなのかは分からないが、明確な否定の言葉ではない。
「患者であるオジサンとかわい子ちゃんの頼みだ。明日からモスグリーンかダークブルーにしたまえ」
「絶っっ対にヤダ」
「ドクター、無理しないで。ヘクトールも我儘は止めて。服装は常識の範囲内なら個人の自由だよ」
「立香は優しいなあ。でもこればっかりはオジサンも譲れないんだ。毎日毎日ニンジンを見るのは……ちょっと、ねえ?」
「ニンジン言うな!」
「いやあ、色の組み合わせ的にどこからどう見てもニンジンでしょ」
「俺は野菜じゃない!」
担当医の一人として『嫌ならとっとと退院しろ』とは言えない。
ヘクトールは数日前に死にかけて、やっと動けるようになったばかりの大怪我人だ。
―――だから全身全霊を傾けて言ってやるのだ。『人を勝手にニンジン扱いするんじゃない』、と。ちょこっと書きたくなったのでお題を貰いました。アナスタシアとカドック?です。
>>598
拉麺好き好きアナスタシアさんエクストラ!!
『第1話 ラーメンの底を抜けると━━━』
「ようカドック!今日も元皇女様つれて食べ歩きとはいいご身分だな!」
いつものごとくアナスタシアに手を引かれていると、後ろから揶揄する様な声がかかる。
「ああベリルか、アンタいつも元気そうだな。それと間違えないでくれ。引き釣り回されてるのは僕だ。」
「ははっそいつは熱々で羨ましいこった!」
「………食べ歩きなんて品のない言い方はよしてください。拉麺を求めるこの行いをそこらの出店感覚と比べるのは。」
「おいおい悪かったよアナスタシアちゃん。お詫びに今度俺の出店に来るときはまたカドック共々サービスしてやるからよ。そこらの出店とは一味違うたこ焼きをご馳走してやっからさ!」>>599
謝りながら軽薄に笑うのはベリル・タッコ。
的屋とたこ焼き屋を営むのが趣味のいかにもな格好をした奴だ。
まあ例によってか身内に対しては面倒見の良い兄貴分、
頼んだ覚えはないが妙に馴染む。
「俺も昼時だからご一緒させてくれ。」
「拉麺をか?」
「いいだろたまには?流石に毎日たこ焼きは飽きるからな。」
「僕は構わない。アナスタシアもいいだろう?」
「たこ焼きのサービスをしてくださるのなら構わないわ。拉麺をご馳走してくれてありがとうベリル。」
ナチュラルにたかるのを苦笑いで流すベリル。
まあアルバイトで生計を建てている彼女を思ってだろう。
評判と腕の良さを知っている拉麺宝蔵院の暖簾をくぐる。
涼やかな空間に胡椒と醤油の確かな臭気が立ち込めている。>>601
拉麺どんぶりに頭から突っ込んだせいか周りが酷く静かだ。
拉麺を食べるときにロックはいらないのにそうもなる。
こんなバカ騒ぎが起きれば場の空気に過敏な日本人は固まるだろうさ。
「あらカドック、外から戻ってきてたのね。
………目をおさえてどうしたの?あと何か臭うわ。」
「どうしたも一から十まで君のせいだろう。目が、痛くて開けられない。」
さっきの慌てぶりが嘘のようにアナスタシアが声を掛けてきた。
スープが目に入ったせいで主犯を睨むことすらできない。
「私のせい?カドック、なんの話を」
「いいから早く拭くものをくれ。君のせいだろう!」
「怒らないで。理由もなく怒鳴られたって心当りの無いものは解らないわ。」
「いい加減にしてくれアナスタシア!」
「まずその変なもので濡れた服を脱ぎなさい。
いくらこの部屋に暖炉があるからといっても凍死したら笑い話にもならないわ。」
「暖炉?ラーメン店に?」
「………?」>>602
━━━おかしい。このクーラーの効いた店内に暖炉?またいつもの言葉遊びか?そんなもの顔を拭いてからでも構わないだろう!
「おい、アナスタシアいい加減にして」
「待って、拭くものがないの。とりあえずその半濡れのもので拭くから脱いでください。」
━━━ジャケットを脱がされながら、ふと思う。
彼女はこんなにも冷静で、堂々とした物言いだったろうか。自分の国を追われたせいか、いたずら好きで思いきりがある様は小悪魔のようで、なのにどこか品がある。そんなすこし臆病な子だったはずだ。
目の痛みがとれないのが酷くもどかしい。いつもの彼女を見て安心したい。
拉麺の汁なんかのせいで焦りが増す。
「なんですかこれは。」
突然様相が変わる。まるで突風に吹き付けられた粉雪に覆われるように冷たく、少し感じられていた優しい声は柔らかさを失う。
今までの違和感が一層浮き彫りになり目の前にいる見知った人物がまるで、
中身をくりぬいて氷を詰めた人形のように無機質になる。
どうしようもない不安が拡がってゆく。
「………すまない、感情的になった。」
「そうね、ふざけているわ。貴方は誰。」>>606
「………本当にごめんなさいカドック。」
「照れる君をフォローしなかった僕の落ち度だ。あと九割アイツだ。次にあったらたこ焼きをたらふく食わないと割りに合わない。」
「ふふ、ありがとう。そうね、今度はたこ焼き拉麺をご馳走して貰いましょう!」
「その組み合わせはいいのか………。」
「あら、ところでカドック。新調したジャケットはどうしたの?」
「ん?………おかしいな、さっきの騒ぎで失くしたか?店に戻るか。」
あの後、いくら探してもジャケットが見つかることはなかった。聞けば誰も脱がしてすらいなかったらしい。妙な後味の昼食のせいで、クリーニング代もろともジャケットがなくなってしまったのだ。
「ラーメンの底がアナスタシア異聞帯だった。」完ヘクトールが薔薇を育てる話
きっかけは、なんとなく入ったカルデアの植物園に弟の名を持つ薔薇があったことだ。
花の名前にするなんて後世の人たちは粋なことをするねえ。と感心していたら「ヘクトールさんも一株どうですか?」と分けられたことがはじまりだ。
まあ本人もいないことだし、代わりに、ってほどでもないがこれも縁。一度くらいは花咲かせてやりましょうか。とそれなりに調べて育てて「そういえば他にもこんな名前の薔薇もありますよ」とここにいたりいなかったりする英雄たちの名を持つ薔薇を教えてもらったり分けてもらったり。そうして弟だけだった植物園の俺の一角はちょっとした花園に拡張されていった。ふとした時に我に返って何をやっているんだろうと思わなくもない。だがまあたまの召喚。こういう時もあるでしょう。俺がいなくなった後でも時折様子を見に来てくれるマシュがいるならまあ多分大丈夫。枯れたり廃棄されたりすることもないだろう。
そんな日々を過ごす中、ある日、隣に薔薇が一本植えられていた。
「ヘクトルだ」
自分の名を持つその薔薇だけは妙に恥ずかしさがあって株分けも断っていたというのに、そいつは一本俺の園の隣にちょんと植えられていた。
『藤丸立香』という看板と共に。
「びっくりしました?」
何が起きているのかと思考している間にマシュが隣に来ていた。
「先輩、とってもいたずらっ子な顔してましたよ」
「……いやまあ、うん。びっくりしたねえ」
誰にでも手を伸ばす我らがマスターは、花であろうと無粋なひとりであることは許さないらしい。
やれやれと息を吐きつつも、それに幸福を感じていることは否定しなかった。「「マスター!」」
「……ん?」
「あら?」
「「……………………」」
「だ、誰っすかアンタ!?」
「だだだ誰なのだわー!?」
私にまったく同じタイミングで声をかけてきたサーヴァント2人が、なんだかわちゃわちゃしている。可愛い。ずっと見守っていたい。なにあれ尊い。写真と動画で記録できないのが本当に残念。
そんな訳でちょっと生あたたかい目で観察していたら、マンドリカルドから口を開いて自己紹介。エレちゃんもその後きちんと自己紹介。うんやっぱり可愛い。
「それで、その……そっちからどうぞ。女神様より先になんて畏れ多いっす」
「いえいえ気にしないでほしいのだわ。むしろあなたの方こそカルデアに召喚されて間もないんだからマスターともっと交流しないといけないのだわ」
「こういう時はレディファーストって言葉があるんすよ」
「ここでは私の方が先に召喚されたのだから、私が先を譲るべきであって」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
「「いやいやいやいやいやいや」」
日本人お得意の譲り合い合戦をカルデアで見られる日が来るなんて思ってもみなかった。さあいつまで続くかな――>>609
「マスター、ここにいたのか」
立ち尽くしていた私に声をかけてきたのはジーク君。なんでもモードレッドにフランケンシュタインとボードゲームをするとかで、私も参加しないかという事だった。
「いいよ!」
「「譲り合っていたら先を越された!?」」
「ん? エレシュキガルと――」
「どうも、マンドリカルドっす」
「ああ、シャルルマーニュ十二勇士の物語に登場する王か。会えて光栄だ」
「「「知ってるの!?」」」
「ライダー……アストルフォの伝記について調べているうちに、十二勇士関連についての書籍も読み進めた」
「こ、こんな知名度低い俺を知っていてくれるサーヴァントがいるなんて……!!」
未だかつて見た事のないくらい、マンドリカルドの目が輝いている。それはもうキラッキラに輝いている。まあそうなるよね。というかジーク君もジーク君でどうやってたどり着いたのやら。召喚してから図書館で本を漁ったけど、結構探し出すの大変だったんだよね……>>610
「そういえばマスターを見かけたからつい声をかけてしまったが、2人もマスターに何か用事があったのでは? 俺が横取りしてしまう形になってしまったか」
「いや俺はなんとなく声かけただけなんで……特に気にする必要もねぇっす……」
「私もマンド――えっと」
「マ・ン・ド・リ・カ・ル・ド!」
「そうそう、マンドリカルドと同じようなものね」
正直この2人が『なんとなく』で声をかけてくれるだけで相当嬉しいんだけどなぁ。もちろん2人の成長込みで――とは口に出さないけど。
そんな事を思っていたら、ジーク君は2人もボードゲームに参加しないかと提案してきた。人数が多い方が楽しいし、何より交流相手が増えるのが嬉しいから、らしい。
「どうだろうか。もちろん、何も予定がなければになるが――」
「あー、その、えっと……お、俺なんかでいいんすか?」
「もちろん。エレシュキガルは?」
「ええ!? じゃ、じゃあせっかくなんだしお呼ばれするのだわ」
「よかった。モードレッドにフランケンシュタインも、きっと喜ぶ」
友情ってこうやって芽生える。ち――じゃない私覚えた。
マンドリカルドとエレシュキガルはしどろもどろになっちゃってるけど、それでもどうにか話が途切れないように頑張ってる。うんうん良きかな良きかな。
歩き出した3人を追いかけるように、私も駆け出した。>>611
――数時間後。
「Winner! Winner! Chicken dinner!」
「負けたー!」
「うぅ……」
「僅差で負けたっすねぇ……いや惜しかった……」
「私なんて借金まみれでボロボロなのだわー!?!?」
「楽しかった……!」
モードレッドが一位、エレシュキガルがぶっちぎりの最下位で終了。笑いあり驚きありドラマあり涙ありの激戦だった……。こんなに楽しく遊んだのは久しぶりな気がする。またこのメンバーで遊べたら、きっと大盛りするのは間違いない。いっそ徹夜コースでもしようかな?
「マンドリカルド、少しいいだろうか。その、呼び方についてなんだが」
「呼び方?」
「前々から、親しい男性に対して使ってみたいと思っていた呼び方があるんだ。もちろん、許してくれたらの話になる」
「俺を親しいとか思ってくれるんなら……別に構わないっすよ」>>614
皆かわいすぎて最高でした「──シャルルマーニュ十二勇士が一振り、アストルフォよ。時に汝、圧制とは如何なるものと考えるか?」
「……むぐ?」
カルデア食堂内――いつものように口に定食を詰め込んでいたアストルフォは、筋骨隆々の狂戦士にそう問われた。
「んー? そんなコト突然訊かれてもね〜別に楽しければ……」
「如何なるものと考えるか?」
「…………」
流石はバーサーカー、と言うべきなのか。相手の意思なぞお構いなし。依然としてスパルタクスは微笑を絶やさず、彼を両の眼でしかと捉えていた。
さしもの理性蒸発騎士でも、その強引さには多少面食らう。……だからといって、彼の答えは微塵も変わらないのだが。
「なんか、アッセイ? とか、そういうのはよく解んないけどさ、皆が楽しければそれで良いんじゃないかな!」
「―――」
その言葉に、今度はスパルタクスが沈黙した。
狂戦士なりの判断をつけるための時間か、それとも彼の言葉の真偽を測りかねているのか。
たっぷりと間を置いて、叛逆者は徐に口を開いた。
「――そうか。それが汝の叛逆なのだな」
「ん? うん、まあなんかそういうことで!」
「さすれば汝も同志である。民が幸福を享受できぬ世というのは圧制。さあ、武器を取れ。我が刃と汝が槍で、共に叛逆への道程を往かん‼」
「お? よく解んないけど……楽しそうだからオッケー! やろうやろう!」
「圧制に叛逆を! 束縛からの解放を!!」
「イエエーイ‼」
……その後、理性蒸発コンビがカルデア内を暫く闊歩し、英霊たちから異様な目で見られることになったのは言うまでもない。>>616雑談で見かけて気になっていたので読めて嬉しいです。
1レスの中でお話が上手くまとまっていてかつスパさんやアストルフォらしさも伝わっきて読みやすかったです。
ありがとうございます。とある特異点――カルデア一行は巨大エネミー、魔猪と遭遇していた。
「我が空想、我が理想、我が夢想――『絢爛なりし灰燼世界』!」
チャールズ・バベッジの宝具による高熱蒸気が辺り一面に立ち込め、その場の視界が白く染まる。
だが、これだけでは魔猪を怯ませるのみ。獣は蒸気の発生源である彼に標的を定め――、
「いち、にの――――」
突如、真横から影が迫る。
「――さんッッ‼」
爆音。
衝撃の余波に周囲の蒸気が払われる。余りにも内臓へ響く重い一撃。なす術なく巨体は静かに崩折れた。
「……うし、一丁上がりってな!」
その様を認め、棍棒を肩に担ぐ筋肉ダルマ――訂正、筋骨隆々の男、オリオンは満足気な笑みを浮かべた。
「ありがとな蒸気のオッサン! おかけで楽に仕留められたわ」
「流石はギリシャ最高の狩人、素晴らしい動きであった。……しかし、我の助力は不要だったのでは?」
「んな事ありゃしねえよ。一人で狩るにゃ手に余ったからなぁ」
こんなデカいんだぜ? と、オリオンは倒れ伏す獣をベチベチと叩く。……そうは言っても、魔猪に肉薄する速度、一撃で沈める膂力を以てすれば、この程度のエネミーは数分で片付けられたろうに。>>618
「それに獲物を傷付け過ぎる可能性もあったしな。これから食うってのに、美味い部分を削っちまうのはもったいねえだろ?」
「成程、理解し…………待て、食すのかこれを?」
「え、違うの?」
バベッジの疑問に対し、きょとんとした反応を返すオリオン。
「このような魔獣は食用に向かないのでは?」
「大丈夫、だーいじょぶだって。大抵のモンは内臓出して焼けば食えるから!」
「しかし、マスターの健康被害を」
「アイツも食ったことあるって言ってたし! イケるイケる!」
「…………」
何事も感覚派なオリオンと、理屈で思考するバベッジ。その点において、彼らは相性が良いとは言い切れなかった。
オリオンを否定する弁は幾らでも浮かぶ。だが、現在は特異点の修正中。ここで仲違いを起こしては作戦に支障を来す。
そこまで考えてから、彼は渋々と肯定の意を表した。
「……了解した。然るべき検査の後、獣はマスターの食事としよう」
「お、話が解るぅ!」
「して、どのように調理するつもりか? 先程は加熱調理と言っていたが、この量では……」
「え、そんなん決まってんだろ」
「……?」>>619
「――さあ、今夜のメシは豪勢だ! 派手に食って飲んで騒ごうぜ!!」
その夜、猪肉を存分に使ったバーベキューパーティーが開かれた。
レーション三昧になりがちな作戦中では、マスター、サーヴァント共々にささやかな楽しみである。
そんな中で複雑な思いを抱く男が一人。
(何故……)
鉄板役、チャールズ・バベッジ。
サバフェスの時に続き、2度目の蒸気式鉄板と成り果てていた。
「いやーやっぱ肉は最高だな! ほれ、兄ちゃんも……え、ベジタリアン? その筋肉で? マジかよすげえなおい。そうかー……あ、ポテトが良い? じゃ芋食え芋! 蒸気のオッサン、もう少し火力上げてくれー!」
「…………」
――やはり、意地を張るべきだったか。
そう後悔しつつ、彼は鎧の温度を少しだけ上げるのだった。「やっほー集まってくれてありがとー!」
「いきなり『パジャマでボクの部屋に来て』と言われて来てみたら……なんだこれは」
アストルフォの私室には、しつこくない香りのアロマキャンドルが数本とお菓子と飲み物。あと巴御前にでも借りたのだろうゲーム機。
そして当の本人も私と同じくパジャマ姿。理性蒸発ライダーのことだから透け透けのネグリジェとかそういうのを着ていそうなものだが、意外にもピンクを基調とした質素なパジャマだった。
「わー、デオンの考えてることなんとなく分かっちゃうぞー」
「……あの、そろそろ呼んだ理由を説明してもらえます? どうしてカルデア性別不明メンバーの中に『愛の女神』である私がいなくちゃいけないんですか」
「パジャマ姿見たかったから! ちなみに第三霊基だったら間違いなく理性蒸発してた!」
「アサシンで良かった……!」
ホッと胸を撫で下ろすカーマ。私もそれに頷いて同意する。せっかくの『パジャマパーティー』が『ぐちゃぐちゃ』になるのはよろしくない。もしそうなりそうなら全力で逃げるだけだが。
――しかしこうして改めて彼女を見ると、本人の発言はともかくとして案外場に馴染んでいる気がする。確か『カーマ』は元々男性神であると聞くので、私にしろアストルフォにしろ、波長は合うのかもしれない。
カルデアはこういう出会いがあるから面白い。
「それで? 具体的になにをするつもりですか?」
「まずはお菓子食べながらゲームでもしようかなって。トモエとワルキューレとマスターと黒髭から借りてきたやつ! えふぴー……なんちゃらとか、レースゲームとかワイワイできるってさ」
「黒髭のゲームは絶対やらない」
「なんでさー、『アルティメット・ウォーターブリッツ〜その水着を撃ち落とす〜』だよ?」
「絶対やらない/絶対しません!」>>621
今すぐソフトを破壊しようとする私とカーマを『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』で阻止した忌々しいアストルフォ。おのれ黒髭なんて危ないゲームを持っているんだ。どこで手に入れた。
仕方ないと言わんばかりの顔をするアストルフォが取り出したのは、一位目指してマップをウロウロしながら星を取り合うゲーム。これなら大丈夫かもしれない。ちらりと隣を座るカーマを見ると、同じことを思ったのだろう、こくりと頷いた。
ベッドに3人並んで座り直し、コントローラーを握る。実はこういうゲームをするのが初めてで、不安であると同時に楽しみでもある。
「負けないぞ!」
「勝ってみせるさ」
「どうでもいいですけど。敗者も愛してはあげますのでご安心を」
平和だ。なんて平和な時間なんだ。
――そう、思っていたのに。
獲得しては奪われる星。足りないコイン。幸運ランクなどお構いなしのマイナスマス。ミニゲームでの集中砲火。乱れ飛ぶ妨害アイテム。次々に降りかかる災難。逆転に次ぐ逆転。勝ったと思った途端に大暴落。とにかく全員が酷い目にあった。いや、それだけならまだいい。『それだけなら』。
「なんでよりにもよってNPCが一位!?」
「そもそもNPCを入れたのは何故だ!」
「そういう仕様なんだもん!」
「蹴落とすことばかりでモブに気が向いてませんでしたから……うう」
がっくりと肩を落とす。
楽しかったのは間違いないが、それはそれ。誰かが一位になった方が圧倒的にマシだ。>>622
気分転換にお菓子を食べてリフレッシュ。ブーディカとタマモキャットに用意してもらったらしいそれは、控えめな甘さが程よく口の中に広がる絶品。こういう時くらい手を抜いてもいいものなのに、それでもこだわりが感じ取れる。そしてついでにと少しだけ酒も飲む。こちらはエミヤが提供してくれたとのことだが、あの男にどう言えば酒を提供してもらえるのやら。
さっきの愚痴や感想を言いながら、食べて飲んでを繰り返す。――それでも心のどこかに引っかかるものは消えない。
「ねえねえ、黒髭のゲームやらない? 3人だけの対戦でもしないと気が収まらないでしょ」
「だからどうして黒髭さんのゲームなんですか。嫌ですよそんなの」
「だってそれ以外のゲームだとどうしてもNPC出るから。純粋な勝負ってコレしかないんだよね」
「持ってくるゲームは選んで欲しかった……」
だがアストルフォの言う通り、決着をつけないとこのモヤモヤは晴れそうにない。たとえ最下位になったとしても、だ。
「罰ゲームありでやるなら、黒髭の持ってきたゲームでもいい」
「罰ゲーム? いいですよさっき2位の私が勝つに決まってますから」
「何言ってるのさ2位になったのだってボーナスででしょ? ボクが勝つから」
「いいや私だ」
「やろう/やりましょう/やってやる!!」
『最下位はゲームで脱げたものを、本当に脱ぐ』。
――絶対に負けられない!!>>623
ハッとなって飛び起きた。ズキズキと鈍い痛みのする側頭部を押さえて周囲を見渡すと、とてもではないが表現できる状況ではなかった。
それは部屋でありお菓子や酒であり、私達3人であり。
なにがあった。何が起きた。
必死になって記憶を辿るがどうも思い出せない。頭が、思い出すのを拒否している。
「う……」
「カーマ? カーマ、起きてくれ。昨日を覚えているか?」
「ちっ、近寄らないで下さいケダモノ!」
「えっ」
「アストルフォさん急いで起きて下さい野獣がいますよ!」
「待って待って待ってくれ! 一切覚えてないぞ!」
「酷いですあんまりです!」
ゆさゆさとアストルフォを起こすカーマを呆然と見つめるしかない。そしてやがて起きたアストルフォは開口一番に私を指差して一言、「お酒禁止」とだけ言って急いで着替えてカーマと共に部屋から抜け出した。否、逃げ出した。
……昨日の私は、なにを、やらかした?
とにかく着替えて追いかけなければ。言いふらされても困る予感しかしない。
とりあえず酒はしばらく控えようと誓ってから、2人を追いかけた。>>624
ここまでとなります。お題を下さった皆様、ありがとうございました
最後になにがあったのかそれとも口裏合わせなのかは、ご想像にお任せします「おいヘクトール!今日という今日は容赦しねえからなぁ!」
「あれ〜アキレウス君じゃないか。オジサンはこれから医者さんのところで湿布貼ってもらう約束してたんだよ、だから君に構う暇なんてないんだよっと」
「だーくそっ逃げんな!相変わらず逃げ足だけは速い奴だなコンニャロ」
「とか言いつつぴったり後ろくっついてくんのは何なの?オジサンのこと好きなの?」
「ンなわけあるかドアホ!」
「なんだとぅアホって言う方がアホなんですー!」
「おまっ…いっぺん止まりやがれ!」
「ぜっっっったいやだね!アスクレピオス!失礼するぜぇ!」
「あっ狡いぞ!」
「お前達喧しすぎるぞ。先生呼んでやろうか」
「「それだけは勘弁してください」」……落ち着け。
サーヴァント達が自分の部屋に来訪するのはよくある事だ。
たとえ今、『立入禁止』の札を出していたとしても、今回は目を瞑ろう。
問題なのは――、
「ふぅ……やっぱりコタツは良いわね。私の時代になかったのが悔やまれるほどよ。どうしてこんなに落ち着くのかしらね〜……」
それが金星の悪魔イシュタル――違った、女神イシュタルである事だ。
コタツに入るくらいなら服着たらどうですか、と言いたくもなるが、後が怖いので思うだけに留めておく。
……だけど、ここは自分の部屋。主として、苦言の一つでも呈さねばならない。
姫(わたし)――刑部姫はそう決意し、彼女たちに話しかける。
「……あ、あのぅ……女神様?」
「ん、なあに?」
「いや『なあに?』じゃなくて……姫(わたし)部屋の前に『立入禁止』ってゆー札を出した記憶があるんですけども……」
「『立入禁止』ってあっただけで、『コタツ使用禁止』とは書いてなかったでしょ。部屋に入ることが目的じゃなく、コタツを使うことが目的だったからセーフよセーフ」
「ええー……」
どういう理論ですか。
ただでさえ、こちらは冬のサバフェスに向けて修羅場真っ最中だと言うのに。なんならサバフェスは明後日なのだが、実は先程原稿に取り掛かったばかりだったり。
贅沢は言わないので、正直早く出て行って欲しい。>>627
けれど、この傲慢不遜な女神は他人の言葉くらいでは絶対に動かない。むしろ言えば言うほど滞在時間が長くなる神(ひと)だ。
そういう訳で、静かに原稿に戻る姫(わたし)なのですまる。
コタツで静かにしていてくれればそれで……、
「しっかしこの部屋は本と人形で溢れてるわね……ん、何この漫画?」
「ちょっ……!? あのっ、女神様それは……!」
「『王のロマンス』? へぇ、どれどれ〜っと……」
姫(わたし)の悲痛な叫びも虚しく、女神様は前回の新刊(深夜テンションで出力してしまったネタ)を開く。
「…………………………(唖然)」
デスヨネー。
よりにもよって顔見知りがBL本に出てたらソウナリマスヨネー。
ああ、なんでコタツに置いたんだ数日前の姫(わたし)よ……。
けど、これは好機! 心がへし折れる事を代償に、沈黙を利用して原稿を書くのだ!
頑張れ姫(わたし)、羞恥心に負けるな姫(わたし)ッ!!(血涙)
……その後、同人誌を読み終えたイシュタルは無言で部屋を出ていき、羞恥心というブーストをかけた刑部姫の原稿は、無事ゴージャス印刷会社に届けられたという。
おまけ・その後のイシュタル
「ギルガメッシュ……アンタも大変なのね……」
「!? 何が変なものでも食ったか貴様!?」「あら? こんな所でなにをしていらっしゃるの?」
「王妃様が『こんな所』に来るもんじゃねぇですよ」
近付いてきた存在に気付き、吸っていた煙草の火を消す。俺からしたら同じセリフをそっくりそのまま返したい気分だが。何故カルデアの隅の喫煙所にまで足を運んできたのやら。
「ミス・ナイチンゲールからMr.ダンテスを探すようにお願いされたの。彼ならここにいてもおかしくないでしょう?」
「あー……そういうこと、か」
「いないのかしら?」
「見てないっすよ」
「……普段身に付けているマントはどうしたの? 臭いがついたりとかを気にするようには見えないのだけれど」
「…………」
まずい。この王妃、思った以上に鋭い。激動の時代を生きた王族というだけはある。――いや感心している場合じゃない。
王妃の勘は当たっているんだなこれが。喫煙所の隅に『顔のない王』を被って姿を隠している巌窟王が、普段からは想像もできないほどに静かに息を潜めている。>>629
遡ること三十分前。ダッシュでここに来た巌窟王は開口一番に俺の宝具をしばらく貸してくれと頼み込んできた。
いつも通りにバーサーカーのナイチンゲールから逃げてきたらしいのだが、今日の婦長は本気だったらしく、逃げても逃げても追いかけ続けてきたようで。それで俺を頼ろうとしたって訳だ。
「じー……」
「王妃がしちゃいけない顔になってるっすよ」
「仕方ないわね、見かけたら教えて下さる?」
「もちろん」
「それじゃあ、私はこれで」
ふぅ、と大きくため息を吐く。乗り切った。正直に喋る選択肢もあったかもしれないが、俺の宝具が使われている以上共犯扱いされてもおかしくない。だったら誤魔化し通す方がまだマシだ。それに、ナイチンゲールの治療(物理)は俺だって受けたくない。ただでさえ人の少ない喫煙所にガサ入れされるくらいなら、というのも大いにある。>>630
「礼を言う」
「いやまあ別に? 今度食堂で一番高いメシの一つでも奢ってもらえたら」
「……仕方あるまい」
「ふふっ、やっぱりそういうことだったのね」
「「!?!?」」
ば、バカな。いくら気を抜いていたとはいえ俺と巌窟王が王妃に気付かないなんて有り得ない……!
「ふっふっふ今は夜すなわち『ジャガー潜む暗黒の森』!! 引っかかったな喫煙者共、今日こそお縄につく日だにゃー!」
「相っ変わらず卑怯くさい宝具だな!?」
「うるせーい!」
曰く、たぶん逃げられそうだと思ったので協力を依頼したとか。なんて恐ろしいことを考えやがる。離脱したと見せかけての本来持ち得ない高ランク気配遮断に対処できるはずがないだろ……!
喫煙所から逃げ出そうにも、出入口を王妃とジャガーマンに封鎖されてはそうはいかない。かといって女相手に実力行使はできるはずもなく――
「殺菌!!!!」>>631
マリーとロビン、ありがとうございました。ゲスト出演巌窟王&ジャガーマンwith婦長はノリですご容赦ください「あら、こんにちは。ご機嫌いかが?」
踊り子の衣装を身にまとった彼女は、今日も太陽を意味するマタ・ハリの名に相応しく、私を包み込む笑顔を向けた。ダ・ヴィンチ殿もいつも微笑んでいるが、彼女の微笑みは月のように優しく撫でるものであって、マタ・ハリ殿とは違うものだ。
__彼女は一般的に強い部類に入る英霊ではない。だが誰にも言っていないが、私は彼女に憧れを抱き、また尊敬しているのだ。
マタ・ハリの名は女スパイの代名詞として有名であり、伝説の女スパイとして現代でも語られているとか。だが、それと同時に本当はスパイではなかったのではと疑問視されているらしい。__それは、自分と同じではないか。
私は、自分でそう考えるのもあれだと思うが、私は絶世の美男子であったがあまりの美貌ゆえに戦では仮面でその顔を隠した、と後世に語り継がれているらしい。そして、それと同時に戦で顔を仮面を隠すのは当時は普通だということも語られている、らしい。
私は確かに生前、自身の顔を隠した記憶がある。だがそれが作られた記憶であったなら?
__不毛な問いだ。わかっている。確かめるすべなど無いのだから。そう、その記憶が真実であるのか、確かめることなどできない。だからこそ、私は彼女を尊敬する。
自身を形づくるものが真実かわからない、いつ崩壊するかわからない、そんな不安定な土台の上で、皆の頭上にて燦々と輝くことができる。今日も誰かに心の底から輝く笑顔を見せることができる。__それは気づきにくいが、たしかに凄いこと。簡単に出来そうで出来ないこと。私にはできるだろうか。いや、きっと私にはできない。
きっと直接この想いを伝えてしまえば、あなたが確立した太陽は崩れてしまうだろう。だからあなたには最大級の賛辞を。伝わらなくてもいい、今日も太陽たれと輝くあなたへ。
「こんにちは、マタ・ハリ殿。元気ですよ。あなたもお元気そうでなによりです」>>634
お疲れ様です、いいものを読ませて頂きました!
蘭陵王とマタ・ハリとはまた面白い組み合わせ……! 『陽の眼を持つ女』に顔を隠す男が抱く思い、素敵です
あとこの文量なら分けなくてもいいかなと個人的に思いました影法師――なんとも胡乱でそして悟り切ったような嫌らしさだ。
と、己の感情はそうその言葉を断じるが濁った理性の欠片はその通りだと
ただのお前の自己満足な嫌悪感だとちりちりと責め立てる。
ああ、寒い―
何がと言われればわからない。サーヴァントとしての身体は「寒さ」を知覚は
できるが、「寒さ」を感じる事は無い。雪と戯れ、雪に塗れた身体は「冷えた」と
いう認識はあるものの「凍える」かと問われればそれは違うといえる。
ああ、そうかこれが胡乱かと。思わず笑いが漏れ、慌てて湯舟を波立たせる。
幸いにも隣の幼子には聞こえなかったようで聞こえぬように一息をつく。
・・・・
ちりちり
「――……う思います? 」ふと誰かの声が聞こえた。いや、これは記憶の声だ耳朶ではなく
頭の片隅から聞こえる声だ。「どう思います?」そうだそんな声だった。
あれはいつ頃だったか、食堂でいつものごとく甘味を愉しもうと思っていた所に隅からこちらに手招きで
誘う姿が見えた。自分が呼ばれているとは知らず、ふいと流そうとしたところ強引に連れていかれ、
甘味を薦めるのもそこそこに「どう思います?」と言ったのだ。>>636
・・・・
ちりちり
自分はなんと返答したのだろうか。ああそうだ「知らぬ」ととぼけた声で甘味を食したのだ。
我ながらなんともわざとらしい行為だったと思うが、声の主はそれを了解の合図だと解したようで
すらすらと語りだしたのだった。あちらこちらに話が飛び、身振り手振りの演説で要領は得なかったがどうやら要約すれば「告白してきた後輩がよそよそしくなった」との事だった。
恋の悩み、それもただ単に相手の男がサプライズを用意している事に気付かずによそよそしくなった
と誤解している者のすれ違いの悩みの話だった。順風満帆ではないかと、視界の外にその男が映ったが
同僚だろうか知己の男どもにからかわれている。なんともご馳走様だ、既に小豆はすべて消化してしまっていた。
・・・・
ちりちり
「座して待つが良い。告白を受けたのであれば構えているが良い」そう答えたのだったか。片目で当の男に詫びる。すぐにこちらの意図に気づき申し訳なさそうな顔をした。素直な男だった。
不器用そうではあるがまあ下手な手は打たない、そういう男だった。
・・・・
ちりちり>>637
それから、というより翌日に当の二人から貢物を受けた。食堂の甘味フルコース、なんとも安い貢物だが
遠慮なく頂いた。「油断はするな」と釘は刺して置いたのだから恐らくは大丈夫ではあったのだろう。
以来一度も貢物は受けなかった。今にして思えば当人達からすれば自分はどう映っていたのだろうか。
逸話通りの人物、巷説に流布されている通りの人物なのかそれともこの姿通りの人物でなのか。
・・・・
ちりちり
名前を聞いたかどうか、恐らく訊きはしなかったのだろう。名前も思い出せない。顔も印象だけが残っているだけで
明確な顔のつくりを思い出すことはできない。ただ、愛いなとそう思ったことだけは覚えている。
記録を探すか、と考えたがやめた。この胡乱なままの記憶と感情、そしてあの甘味の味だけを覚えておけばいいと
そう思った。
・・・・
ちりちり>>638
「大丈夫ですか?」はっと顔を上げるとそこには今年のサンタクロースがいた。湯舟で沈黙していれば彼女の事だ
すっ飛んでくるだろう。そういえば隣の幼子が向こうで心配そうにこちらを見ている。心配しなくてもいい、そう
言ってはみたが気が付けば医務室に運ばれていた。新たにカルデアへ呼ばれた医者の影法師は数度こちらに質問をすると
すぐに興味を失ったようで一言声をかけると異常はないので出ていけと彼女を呼んだ。
自室へ戻る道すがら忙しなく動き回る姿が見えた。先ほどの記憶に出てきた顔は見えない。一人も。
・・・・
ぢりぢり
ああ、そんなに苛むな。そんなに呪うな。関わったものを堕とすな、まつろう者より後に残るな、呪え呪え呪え呪え
我らが時代より後の民はすべて呪え、すべてあの男の係累、すべてはすべてはたぬきの一族、どうなろうとどうあろうと
構わぬ滅ぼせ滅ぼせ>>639
・・・・・・・・
ああわかっている
・・・・・・・・・・・・
だからこそ狂っているんだ
・・・・・・・・・・・・・・・
マスターを救うまで狂わせてくれ
向こうから駆けてくる彼の子のためにどうなろうと寄り添うと決めたのだ。いくらでも焼かれてやるとも。
名前も思い出せぬあの二人の思い出を無駄にはせぬ。
「マスター、マースーター!! 湯当たりの茶々に高いアイスを貢いでほしいかも」久しぶりのSSなのでちょっとまとまってないかなと
駄文すみません「バターケーキをデザートに――」
「『バターケーキ』?」
ひょこっと顔を覗かせてみると、小さなメドゥーサさんがエミヤさんに注文しているところでした。普段はフードで隠れている顔も、今はなんだか嬉しそうに見えます。好物なのでしょうか。
「まあ、その名の通りのものだと思ってくれ。古代ウルクより存在していたものだが、なかなかどうして美味なものでね」
「わ、わたしも食べたいです!」
「いいだろう」
メドゥーサさんがわたしをチラリと見て、それからこう言ってくれました。
「……バターケーキ、美味しいです。よかったら今日、一緒に食べませんか」
「――はい!!」
その後、ブーディカさんのご飯を食べてから、エミヤさんのバターケーキを2人で頬張りました。
とっっても美味しいですスイートですロジカル……とは違いますが、絶品なのは間違いありません。この味がウルクからあったなんて信じられないくらいです。今度ジャックやナーサリー、バニヤンに教えてあげないと。
それにしても、何故メドゥーサさんは古代ウルクからあったバターケーキを知っていたのでしょうか。少なくともわたしは今初めて知りました。不思議に思って質問してみると、ゆっくりと喋り始めるのです。>>642
「カルデアに召喚されてから、一番最初に食べたのがこれでした。……何故かは分かりません。でも、この心が、わたしの舌が、バターケーキを覚えていました。まったく変わらない味で、優しくて。だからたまに、無性に食べたくなります」
「思い出の味、という事ですか?」
「そうだと思います。記憶になくても、記録になくても、今ここにいるわたしが、美味しいと思えるのなら。それはきっと――振舞ってくれた誰かが、喜んでくれる気がして」
たまに聞く、以前の召喚の残り香。カルナさんのように具体的に覚えているサーヴァントもいれば、アヴィケブロンさんのように記録としてしか実感のないサーヴァントもいます。今回の場合だと、アヴィケブロンさんのパターンでしょう。
でも、それでも、素敵なお話でした。それがたとえ、記憶のない思い出話だとしても。心に残った何かがメドゥーサさんに伝えてくれた奇跡に、わたしは感謝するのでした。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。バターケーキ、また一緒に食べてくれますか……?」
「もちろんです!」「双腕・零次収束!」
「おおー! 敵のバフが全部消えた!」
「ええまあ、これが『売り』ですから。では、追撃はお任せしますよ」
「ふっふーん。絢爛魔界日輪城!! ――全ては茶々の思うまま!」
「相変わらず、その言動とは真逆にさえ思える宝具ですね。バーサーカーの霊基は、相変わらずよく分かりません」
「失敬な! 茶々は凄いぞ、ホントに!」
「それはよく分かっています。現に敵は今ので全て燃え尽きました」
「たはー! 褒め上手ー! ……ところで、茶々は織田とはいえ幕府側。そなたの生前を思えば――」
「そこに踏み込んできますか。――正直な話、それがなければ今ここに、私はいないでしょう。生前を経て聖杯大戦に召喚され、その結果こうしてカルデアのサーヴァントとして戦っている。だから、憎んではいません。人類救済もありますし」
「出た『人類救済』! 言葉は綺麗だけどやってる事はエグいような違うような全然分からないやつ!」
「説明しましょうか?」
「せーんーのーうーさーれーるー! セミラミス助けてー!」
「そこで彼女に頼ろうとしないで欲しいですね!」
「ボイラー室隣のサーヴァント全員に頼ってでもセミラミスにチクる」
「待って下さい貴女以前痴情のもつれとか言っていたとカルデアの記録にありますよね!?」
「知るかー!」
「これだからバーサーカーは!」「あ、やっべ毒切れちまった……」
「毒なら私がいくらでも用意できますが」
静謐ちゃんとロビンが毒談義してる。まあそこそこ見る光景ではあるけど、静謐ちゃんの汗やら唾液やら体液集めて毒を補充してるのはなんかこう――いかがわしさがあるよね。
「マスター? その視線はやめて欲しいんすけど」
「えー、だってなんかえろい」
「いやいやいや。女の子の体液を小瓶に集めるってどうよロビンフッド。客観的に考えてよ」
「戦術を考えると合理的ですが……」
「本人がこう言ってるしねぇ」
「ロビンと静謐ちゃんがそう言っても私はそうじゃないから! なんならマシュとかカルデアに判断仰ぐよ!」
「へいへい」
ピンと来てない2人をよそに、私はカルデアと通信を始めた。
「ねえどう思うおっきー&邪ンヌ!」
『同人誌のネタ提供ありがとうまーちゃん!』
『ロビンと静謐……アリ!』
「よりにもよってそこか!」
「次のフェスでネタにしてやる! 私も描く!」>>645
ロビンが必死に制止するけど、そもそも言って伝わるならカルデアと通信なんてしない。正攻法がダメだと分かってるなら初めから変化球でいく。同人誌のネタにするという脅しはロビンフッドには十分通じる。
問題は静謐ちゃんなんだけど――
『×××××で毒補充とか』
「今規制入ったぞ刑部姫!」
「いくら私でもそんな事はしません……」
『補充してる内に徐々にお互いの心の距離も近づいて――』
「ナマモノネタも大概にしろオルタぁ!」
ゲスい事してる自覚はある。でもこれしか方法がないんだから仕方ないよね、うん。
「あの、ロビンフッド」
「ん?」
「私は、構いませんから――」
「『え』」「『約束された――勝利の剣』!!」
うわー、相変わらず格好いいなあの宝具……。ビーム出る剣とかどうなってんだアレ。しかもあの威力でまだ完全解放じゃないって……俺の宝具とは大違いだ。
「オオオオオオ!!」
「「っっ!?」」
今の宝具に耐えきったってのか! どういう耐久力してんだあのエネミーは!
いや、『どうやって』はこの際どうでもいい。今はただ、俺達の後ろに立つマスターの安全が最優先!
「駆けろ、ブリリアドーロ!」
「マンドリカルド、危ないから戻って!」
「危ないからって戻ってたら英霊になんてなってないっす!」
たとえ俺が知名度の低い英霊であろうとも。騎士王の隣に並び立つに相応しい力がなかったとしても。俺は俺を信頼してくれるマスターのために、友達のためにこの剣を振るうのみ!
「栄光の剣、不毀の絶世、このひと時だけでも! 『不帯剣の誓い』!」>>647
光を纏う木刀を敵めがけて振り下ろす。倒れろ、倒れろ、倒れろ――ぶっ倒す!!
「おおおおぁぁああああああ!!」
木刀は折れた。だが、敵も絶命した。
勝った。俺は勝ったんだ……友達を守れた。それだけで十分だ。
魔力のありったけを使ってしまったから、草原に大の字でうつ伏せに倒れる俺に向かってマスターと騎士王が駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「この通りっす。怪我なし」
「よ、よかったぁ……」
「素晴らしい結果だ、マンドリカルド。キミに敬意を。さあ、立てるかい?」
「――騎士王の手で立ち上がるなんて、光栄の極みっすね」
差し伸べられた手を握り、立ち上がる。その手は大きかったけど、少しだけ、近付けた気がした。大きい。それが初めて見た時の印象で――今もそれは変わらない。
項羽。異聞帯の姿と汎人類史の精神を合わせ持つ特殊なサーヴァント。いや、特殊性でいえば俺もそう大差ないのかもしれない。
「我が躯体が不思議か」
「ああ、不快に思わせてしまったのなら謝ろう」
「否。この躯体を不思議に思わぬ者はそういない。しかし私からすると、汝の姿も実に興味深い。時間がある時に、ぜひ話を伺いたいものだ」
「それなら、休憩中の今でも構わないだろうか」
「無論」
そうして俺は、本体の俺の短くも輝く生涯について話し始めた。人生を振り返るように、少しずつ確認しながら、その時なにを思いなにをしようとしたのか。なにをしたかったのか。『ジーク』という旅路をなぞる、旅のような一時だった。
話はまだまだというところで、マスターとマシュが戻って来た。どうやら続きはまた今度になりそうだ。それこそ、カルデアに戻ってからになるかもしれない。>>649
「ジーク。汝の邪竜に至るまでの過程は、今の私には演算不可能だ。話の続きを楽しみにしている」
「そうか。そう思ってくれるのなら俺も嬉しい」
「加えて、話の一部に欠損が見受けられる。理由に心当たりはあるだろうか」
「それは……」
自覚はある。ルーラーについてだ。聖杯大戦を語る上で欠かせない存在、ジャンヌ・ダルク。彼女に関しての記憶はかなり曖昧だ。そしてそれは恐らく――
「本体の俺が、端末の俺に渡したくなかったんだろう。俺が本体でも、たぶんそうする。それくらいに、ジャンヌ・ダルクという存在は大きいから」
「成程。実に人間らしい」
「『人間らしい』、か。うん、きっと『ジーク』の成長の成果だと思う。成長したから渡さなかった、そういう事だ」
世界の裏側で眠り続ける俺。どうか安心してほしい。『サーヴァント』として、『人間』として、今ここに俺が立っているのだから。「…………」
「あの……」
目が覚めたら、何故か見知らぬ部屋にいた。どこだ此処は――!?
「キミ、『後輩』についてどう思う?」
「はい?」
「『後輩』についてどう思ってる?」
……目の前に座っている女の子から投げかけられた唐突な質問。質問に答えようとして、頭の中の記憶がフラッシュバックした。そうだ、俺は前にこの人に会ったことがある! 思い出した、ここは月の裏側。以前マシュとレイシフトした時に戦闘システムが違いすぎて撤退したあの場所だ!
「おーい、無言はやめて」
「あ、すみません……」
「実は私にも後輩がいて、キミと後輩について語り合いたくて」
「白野さんにも後輩がいるんですか?」
「そうね。可愛い女の子が」
それから、俺達は『後輩』についてたっぷりと語り合った。
可愛い。凄く可愛い。とにかく可愛い。
本人には決して知られてはならないような、濃密な話。>>651
その最中、マシュに『コードキャスト』使ってみないかと提案された。正直知りたいか知りたくないかで言えば間違いなく前者。だけどあまりにリスクが大き過ぎる。やったらその日が俺の命日確定だ。
「――もう時間ね」
「え、早っ」
「仕方ないわ。ああでも、よくよく考えたら藤丸君も私の後輩か」
「白野さん? それって――」
「頑張ってね。『Fate』シリーズの主人公にして、私の後輩」
「ちょ、どういう意味ですかそれー!」
……はっ、寝てた!
なんか夢レイシフトしてたような気がするけど、とりあえずご飯食べよう。部屋から出て、食堂に歩いていくとマシュと合流した。
「おはようマシュ。今日も可愛いね!」
「!?!?!?!? ……ましゅう」
「マシュ!? しっかりしてマシュ!」お年玉──それは新年に目上の者が目下の者へ渡す金品である。最近では大人から子どもへのお小遣い、という意味でもその言葉は使われる。
しかしここ、カルデアではあまり意味を為さないようで──
「むむむ……」
「どうしたんですか、先輩?」
「ああマシュ。あのさ、一応マスターって上司的な立場じゃん?」
「え?まあ、そうですけど」
「お年玉、てさ…どうすれば良いかな?ほら一応未成年だけど、ね」
「あぁ…ここには沢山のサーヴァントの方々がいますし金品等は気にしなくても良いかと思いますよ」
「あーそういうもんなのかな?」
「それにバレンタインでは毎年全ての方達に渡しているじゃないですか。それだけでも充分ですよ。これはあくまで私の意見、ですが」
「そっか…」
「先輩は一人一人に新年の挨拶をしたらどうでしょう?『今年もよろしく』の一言だけでも嬉しいものですよ」
「なるほど、ありがとうマシュ!」
「いえ、先輩のお役に立てたようで何よりです」
こうして一人の迷えるマスターは頼れる後輩によって悩みを解決したのだった。その後、それはそうと所長にお年玉をねだる二人の姿があったとか──「虞美人さーん、一緒にお茶でもどうかしらー?」
「げ……」
「嫌?」
「嫌って訳じゃないけど、単純に面倒なだけ。人間とお茶を飲むことの何が楽しいのか分からないのよ」
「なら、貴女の大好きな項羽や、友人である蘭陵王についてのお話を聞きたいわ」
「そこまでして私とお茶をしたい理由はなに!? ただのお姫様かと思ってたけど、ちょっとしたたか過ぎない!?」
「だって気になるもの。二千年近く生きた貴女が、それでも慕い続けた人が、どんな人なのか」
「……長いわよ? 異聞帯の話もあるし」
「ふふっ、ありがとう虞美人さん。スコーンもあるから、ゆっくりお話しましょう」
「中国のお茶、用意しておくわ。そっちがのせたのだから、こっちの好みに合わせなさい」
「とっても素敵だわ! どんな味がするのかしらね」
「別に大したものじゃないから。ありふれた、どこにでもある『お茶』よ」
「それだから楽しみなのよ?」
「はいはい言ってなさい」「『聖夜の虹、軍神の剣』! めぇー」
「見てくださいアポロン様! 羊の宝具ですよ!」
「『羊の宝具』とは違うんじゃないかなパリスちゃん。あとあれ見てるとなんか寒気がするよなんでだろうね」
「ふう、プレゼントも配り終えて一段落だ」
「あの! さっきの凄かったです!」
「パリスも羊を投げていないか? ぽいぽいぽーいっと」
「正確にはアポロン様ですけどね!」
「神様を投げて大丈夫なのだろうか……」
「パリスちゃんに投げられるの楽しいよ?」
「しゃ、喋った……!?」
「どうも、アポロンです」
「なるほど、ドゥムジのような――」
「あんな渋い声じゃないから。もっと可愛い声してるから」
「そう言われても……」
「アポロン様、バレンタインの時に一緒に喋りましょう! フルボイスですよフルボイス!」
「次もフルボイスだといいよね。せっかく低レアサーヴァント増えたんだしさ」
「さっきから2人が訳の分からない事を喋っている……」
「同じ羊系サーヴァントとして負けられませんから!」
「むう、これは負けられないな」
「パリスちゃんの方が可愛い」もともと短く苛烈な人生を預言されていた身である。死ぬことに対する恐怖は無い。後悔は微塵もない。
足先から這い上がってくる寒気とぐらぐら揺れる視界、そして身体の下の血だまりが不快なだけだ。
――――先に逝ってしまった親友や同胞は向こうで待っているだろうか。
かの仇敵殿は、今のアキレウスを見て何を思うのか。
「…………なあ、ヘクトール」
掠れた呟きが朝の空気に溶ける。当然ながら返事は無い。
「お前はどんな奴だったんだろうな」
ヘクトール個人の情報をアキレウスは何も知らない。
『トロイアの総大将』で『パトロクロスの仇』。それ以外は知らないし、知ろうとも思わなかった。
――――遺体を抱えた瞬間の軽さと柔らかさ、そして僅かな悔恨は今も腕にこびりついている。
戦車に括り付け何日も引き摺り回して今更何だ、と思わなくもない。
ヘクトールは「いや、殺しておいてそれはないでしょ」とでも言いそうだが、女性と知っていたなら多少は遺体の扱いを変えたのに。
「………あ゛ー、」
獣の唸り声のような意味を成さぬ音が洩れる。口の中いっぱいに血の味が広がった。
―――ああ、ヘクトールは死に際に何を考えていたのだろう。
家族のことか或いは祖国のことか。それとも最後の最後まで男性として扱われる自らの境遇を嘆いていたのか。アキレウスには分からない。
「……………、……」
ぐるぐると思考が渦を巻く。視界の端から闇が忍び寄る。
『あらら、案外早かったねえ。も少し持つかと思っていたのに』
からかうような誰かの声を聴きながら、アキレウスは目を閉じた。「清姫さん、ちょーっとお話よろしいですかぁ?」
「あら珍しいですね玉藻さん。普段はお互い関わらないように過ごしてますのに」
「いやはやそれがそういうわけにもいかないんですよぉ…水着の私達について、と言えばわかります?」
「あっはい何でしょう?わたくしでも協力できることがありましたら何なりと」
側から見ると珍しいかもしれないこの組み合わせには、共通点があった。それは──
「「水着の私達がマスターを狙い定めている」」
「……やっぱり、そう思いますよね。自分で言うのも悲しいですが、あの私達バレンタイン過ぎてから見境無くなってません?」
「どうやらあちらで協力し合っているみたいですしねぇ、困ったモノですよ」
「それでこちらでも協力しましょう、ということですね?」
「まあざっくばらんに言うとそんな感じです。ついでにあの私達よりリードしましょっ!」
「なるほど、それなら分かりました。ですが具体的に何をどうするのですか?」
尋ねる清姫に玉藻は悪どい笑みで答えた。
「ふふん、ズバリ『花嫁修業』です!」
「花嫁、修業…?」
「えぇ、あの私達は所謂プロポーションでマスターを誘っていますので私達は中味から、です!」
「ふむふむ、それなら掃除をしましょう。真っ先に取り掛かることが出来て尚且つマスターからも感謝されやすいと思います」
「ナイスアイディアです!それじゃあ早速マスターの部屋へいきましょうか」
「ええ!善は急げ、ですしね」
しかしいざ行ってみるとマスターにやんわりと拒否され、粘りに粘った結果何故か一緒に資料室の整理をすることになったのはまた別の話である。雑談スレでお題貰ってたので、書いた~。
「オリオン達とアルテミスの普段の様子」
https://bbs.demonition.com/board/4618/13/#res607
まあ普段というより、一幕みたいなお話です。一部独自解釈在り。>>671
「ぷぅはっあと少し!あと少しでシミュレーターだっ!あそこならお仕置きされても周りはなんとかなる!」
それを頭に乗せるは見事な肉体美を誇る巨漢。特別優れたわけではないが愛嬌のある顔は、巨躯の圧を和らげ朗らかな雰囲気を感じさせる。
「お仕置きされるの前提なんですねわかりたくないやだー!なんでマリーちゃんがしてくれたほっぺにちゅーバレたの!?」
「デオンの叫びが敗因かなぁー?挨拶だからいいとおもったんだけどなぁー!」
必死に情けない顔をして情けない事を宣っているこのふたり(ひとり?)こそ誰もが知る冬の星座の代名詞。
「あああやばいやばい増えた増えたぞあいつぅ!?矢も増えた弓投げてきた!?」
「まだ大丈夫だ俺も2人いる!!」
「なるほど!………いやなにが大丈夫!?」
………弓の腕は神を上回り、この世全ての獣を狩りつくすとされた超人、オリオンその人らである。>>674
「いやまだ終わらねえよッ!?」
「まだお仕置きされたいのダーリン?」
「あ、違いますはい。すみません。」
場所は変わり、1人と1匹の似て非なる同一人物が浜辺で正座している。ここはカルデアの技術により再現された四方海、特異点オケアノスのシミュレータである。白砂の浜辺は大きく掘り返されており、周囲は爆撃を受けたかのような悲惨な有り様であった。
「マリーちゃんにはお茶会の時とかで猛抗議するとしてー、ダーリン達もダーリン達よ!挨拶でもほっぺにちゅーをされるなんて!」
「いやな?人理の助っ人としてマスターの元に集う仲間としてな?挨拶でもした方がいいだろうと、俺に連れられカルデアのサーヴァント達に出向いたわけだ。」
「そうそう、そこは俺とはいえ新参だしな。色々紹介してたわけだ。お前もたまに付き添っただろ?」
「それは確かに必要なのは解るし知ってるわ。でもほっぺにちゅーは許さないよ?」
「やべぇぞ万策尽きた。」
「諦めんなよ俺!いや罪の結論決まってるけども!」>>675
そも、今までのカルデア挨拶回りで女の子(子をつけたら疑問が出る場合もあるが)との挨拶にはアルテミスが必ず同伴していた。それが今回のフランスの王妃様との挨拶にはアルテミスはいなかった。マスター達と微少特異点に行っていたからだ。ソッコーで解決して帰ってきたのだが。バレてもなんとかなると俺と俺で話合って勝手に向かったのは、同一人物の自己完結以外の何者でもなかったなコレ。
「もー!やっぱりオリオン新しい出逢い求めてたでしょ!」
「まてまてまて落ち着けって!」
「これ以上のお仕置きは過剰だぞー!というかやっぱりってなんだよおい!」
「マスターが教えてくれたのよー?でっかい方のオリオンがー来たときになんて言ったのかを!!」
頬をぷくりと膨らませアルテミスはこちらを睨みそう言った。言ったのだ。
「『俺の事が好きな女の子、いる?』だって!もうこれー浮気じゃない?酷いわダーリン!」>>676
ふわり、と重さを感じさせないようにして彼女が背中に乗る。我が身に掛かる見かけ以上の重圧が増していく、だというのにどうしてもこれが心地良い。
「………ダーリン?なんで笑ってるの?」
慌てるとか、怖がるとか、思った反応を得られないことに疑問を浮かべたのだろう。そんな姿も、いじらしくて仕様がない。
「ふっふはっ。ふははは!」
熊のぬいぐるみの俺も同感だったらしく思わず笑っている。
「なあアルテミス、俺が言ったことマスターに教えられたのに浮気されるとか勘違いしたのか?だったらちょっと寂しいぜ?」
「え?え?だって………。」
「お前も変なところで臆病だなぁ。俺の好みの女の子、じゃなくて俺の事が好きな女の子!」
「つまりお前だよ、アルテミス。」>>677
きょとん、としてすぐに花咲くように破顔する。にやにやによによと頬を1人でこねてまあ愛くるしいこと。
「えー!?わ、私ったらゴメンね!ゴメンね!疑って!てっきりまた女の子に粉かけようとしてるのかと思って!」
後ろからわしわしとか細い手で撫でられる。嫉妬深いのも、全力でぶつかってくるのもきっと、神であるからこその距離感からくる臆病さなんだろう。
「視野が極端というか、お前初めて会った頃よりどんどんポンコツになってないか?」
「ひどーい!ただ一生懸命なだけだもん!今まではダーリン1人だったのにこれからは2人もいてくれるのよ?貴方みたいな自由な人、放っておいたらすぐにどこかに行ってしまうじゃない。」
「あーはいはい。こっちこそごめんな。よしよーし。」
「もう!」>>678
アルテミスを背中から前に持ってきて、お返しに2人で撫でる。いつもプカプカ浮いてるこいつが、しなだれてくる事が愛おしい。
「んふふー。いいわこれ、生前(まえ)みたいにこれからもいっぱいしましょー?」
「おいおいそんなことしたら俺の遊ぶ時間がなくなるじゃねえか。たまにでいいだろたまにで。」
「だーめ。永遠に続くわけじゃないんだからせめて限られた時を味わいたいわ。」
「あー、他ならぬお前に言わせちまったら受け入れるしかねえなぁ。」
「そうよー?ふふっ。」
「アタシが浮かばないようにずっとずーっと、抱き殺.してよダーリン。」以上です。
キャラの独自解釈もりもりですすみません。
というかオリオンめんどくさい。浮気性なのか一途なのかハッキリして!!
召喚台詞の解釈は下の表記事でビビッと来たコメがあったのでので使わせていただきました。ありがとう名も知らぬ誰か。
【FGO】オリオンと言われたときにアルテミスの方なのか超人の方なのか一瞬分からなくて困る?
https://demonition.com/blog-entry-59285.html
SSなんでもござれのスレ
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