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・まとめwiki :https://fatetv1830.wiki.fc2.com/>>3
「そうなんですね、……まっ、またよろしくおねがいします!」
(ステッキで空中にありがとうございましたと書く)(前スレの返信)
「そうですか……一度行ってみたいものですね。本物はどんなものなのか、とても気になりますから」
>>3
「あら、なら仕方がありませんね……ごきげんよう」>>3
「そっか、今日はありがとう。楽しかったわ」>>3
「そうですか……では、名残惜しいですがごきげんよう……」>>10
こちらこそ楽しかったです、ありがとうございました!
「そうだね。今日はありがとう、楽しかったし。また機会があればぜひぜひ~」あの、今あと何組残ってるか確認させてもらってもいいですか?
「あの、最後になんですけど、グループ関係なく相談がありまして、この会の名称だけ決めてしまいませんか?」
「魔女の会というのが仮の名前なので、それだけこの会でしっかり決めてしまいたいのです」く……折角の提案なのに良い名前が全然思い浮かばない……
色々考えたんだけど思い浮かばんかったよ……すまねぇ……
魔女子クラブとか
ウィッチズ・サークル(略称・WC)とかどうでしょう?
ワルプルギスズパーティー(てけとー)
アカン……考えてたら寝落ちした……申し訳ない…………
【定期連絡】:伏神戦争について
アサシン陣営さんへ。現在伏神の時系列が整ってきた為、アサシンさん自身が4日目に起こしたい行動についての予選スレでの申告、あるいは本戦スレッドへのSSの投稿を行って下さるとありがたいです。
また、未確定ですが”アサシン陣営がセイバー陣営と遭遇する”という可能性があります。それに対する賛成・反対の意見も表面して下さると嬉しいです。「あら。マスター、また召喚するのかしら?」
中央管制室にふらりと顔を出したのは赤と黄金の軽装に身を包んだ端整な少女。左右で結られたツインテールが揺れる。
ハドリアヌス。かの五賢帝の一角を統べる内政の天才。ローマ帝国14代皇帝である。まぁ、女の子なのはいつものことだ。アーサー王とか武蔵とかドレイクとか。アンティノウスの葬儀の時に女の子のように泣き喚いたと残されているのだから他より説得性はあるだろう。
「うん。新しくサーヴァントを増やそうと思ってね。50連以内にディオスクロイが二人も来てくれたからね。今はツイていると思うの」
──召喚(ガチャ)。それは人々の願いを乗せた座にいる英霊達に向けた人理を取り戻さんとするマスターの祈り。石(資源)を手に人々は祈り(欲望)のままに投入する。さらば石(諭吉)。さらば石(課金)。出来れば少ないうちに来てほしいなぁ……。たれは滅びよ。
麻婆。麻婆。たれ。
たれが見えた瞬間。マスターの目が死んだ。確定枠を消費してしまったのだ。それを見てハドリアヌスはそれ見た事かと呆れ果てた。だから言ったじゃない。お金は出来るだけ使わないようにしなさい。いざという時に予算が無くてひもじい思いをしなければならなくなるのよ、と。そこまで考えたところで生前の嫌な思い出(トラウマ)まで湧いて出そうになったのでハドリアヌスは考えるのを止めた。
そしてその後虹の三重輪が展開される。最高峰のサーヴァントを確定する前兆だ。
珍しい。やはり今回はツイていたのか。そして、その足が見えた瞬間。ハドリアヌスはマスターの喜びようで綻んでいた口元を下げ、皇帝特権スキルによりエミヤ[アサシン]の魔術スキルを取得し、ステータスにモノを言わせ、その場から逃亡した。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
管制室から相当の距離を逃亡し、廊下の物陰にみっともなく転がりこむ。
魔術の反動、会いたくなかった人間が召喚された焦燥と恐怖で全く整わない呼吸と身体を無理やり統率し再度皇帝特権スキルを発動し気配遮断スキルを獲得する。>>22
「ランサー、トラヤヌス。ここに降臨!……………ふむ懐かしい気配(浪漫)を感じてここまで来たのだが、一体?」
困惑する大男。その顔はイケメンであり、女性であるマスターは目が開けない。その脚はこの世界から何処か浮いている。
トラヤヌス。ローマ帝国13代皇帝。五賢帝の頂点に立っていると言っても過言ではない伝説の皇帝である。そしてハドリアヌスの従兄だ。
「えーっと多分それは……………あれっ?ハドリアヌス何処に行ったのかな?」
ハドリアヌスの名を聞いた時その端正な顔は小さく曇る。
「ああ、なるほど哀しい雰囲気(浪漫)……………済まないマスター。少し外させてくれ」
「あっどうぞ」
余りに堂々と言うので肯定する事しかできなかったマスター。その言葉を聞いたトラヤヌスは手を翳す。『五賢帝の頂き』の力によりトラヤヌスはカルデア中の気配を感じる。
「……………はは!そんな所に隠れていたか!」
トラヤヌスは全速力で走っていきそしてその姿は消えていった……………>>23
「見つけたぞ、妹よ」
その声が聞こえた時。ハドリアヌスはびくりと天敵に発見された哺乳動物のように身体を震わせた。
「……お久、しぶりです。兄さま」
今にも死にそうなほどに青褪めた顔で蚊の鳴くようなか細い声でトラヤヌスの身体を視界から外しながらその矮躯を摘み上げられた状態でなんとか答える。
「#$$#%#&%)&'&%%##$&」
何を話して何と答えたかも定かではない。ただただ兄の言葉から逃げながら上の空でその目で視られたら私(ローマ)は死.んでしまうのだ、とばかりに下を向く。表情を取り繕う余裕もなく、引きつった顔ばかりになる。
「%&))')))"$##$%?`>?」
そして、とうとう無理やりな力で顔が合わせられ、兄の怪訝そうな顔が視界一杯に広がった。>>25
目の前で気絶している妹に対してトラヤヌスはため息を吐く。ハドリアヌスはネガティブな子であり、自分に対する負い目があることは容易に想像できた。
トラヤヌスはハドリアヌスの頭の側面を両手で持ち、額に額を当てる。『五賢帝の頂き』を使い、ハドリアヌスの意識を起こす。
「……………うーん。ハッ!////」
顔が青ざめたり赤らめたりせわしなく顔が動くハドリアヌス。その様子を本当に楽しそうにみるトラヤヌス。
「カハハ!いい顔するじゃない。浪漫だなぁ!……………なんで俺の事避けるんだよ。なんかあるのかい?」
勿論トラヤヌスは分かっている。だが、敢えて彼女に聞くのは彼女の口から聞く事が大切だとトラヤヌスは考えるのだ。彼にとって会話は浪漫である>>26
無理やり意識を覚醒させられ目を覚ます。
「……兄さま」
「カハハ!いい顔するじゃない。浪漫だなぁ!……………なんで俺の事避けるんだよ。なんかあるのかい?」
いい顔。いい顔。浪漫。あぁ、やはりこの人はアタシも浪漫だと、そう解釈するのか。
アタシが。私(ローマ)が。浪漫。
──ハッ。思わず自嘲を息が出そうになりそれを寸での所で抑え込む。生前を思えばいつもこうだったような気がする。土足で人の心に踏み込んでそれを好適に解釈をして弱い人間を引きづるように前へと立てる。いや、皇帝になる前、苛烈な軍人であった時代は違ったような気もする。
──この代の皇帝は先代と違って人の心が分からない。
──我々市民から優雅な生活を奪おうというのか。やはりあの娘は暴君だったのだ。トラヤヌス帝があのような田舎臭い娘を後継に指名するはずがない。恥知らずの雌犬が。
──我ら軍の誇りも栄誉もなかった事にしようというのか。おのれハドリアヌス。その命は赦し難い。
フラッシュバックした生前が過ぎり、ふと冷めた思いに陥る。兄さま。敬愛するトラヤヌス兄さま。これからも光の中を歩いてゆく人。あらゆる闇を払いのけて。あらゆる影を一顧だにせずに。届かぬ光を進む人。
「兄さま。少し、お時間を頂いてもよろしいでしょうか。後ほど、私(ローマ)の私室で」>>27
「……………ふうん。まあいいぜ。俺もおまえに言っておきたい事があるからさ」
去りゆくハドリアヌスの背中を見てトラヤヌスはため息を吐く。知識としてどうなったのか知っていたが想像以上に迷惑をかけてしまったようだ。
「……………浪漫がねぇ。」
彼はハドリアヌスの暗い姿を見たくはなかった。彼女は繊細な現実主義者。自分がやっていた事業を中止したところで責められる謂れはない。
(俺が死んだ時点で破却するべきだ。あいつがそれを後悔する必要性は皆無)
トラヤヌスはなんとハドリアヌスに言おうか悩みながら彼女の部屋を叩く。
ノック、ノック、ノック
(反応がないな……………)
明らかにいる気配はする。そのためドアに手をかけて開けてしまった
「……………どうしたんだ?」
ハドリアヌスは全裸で土下座していた>>28
「兄さま。アタシは。ハドリアヌスは兄さまの理想を、兄さまの偉業を傲慢にも切り落としました」
それは、罪の告白だった。
帝国の最大盤図。ローマ最大の偉業。神話の具現。
「無理だと。手に負えないと諦めて。偉大なる神祖の威を借りなければ皇帝の真似事すらこなせない」
初めから分不相応だったのだ。見えたローマの先を自分ならどうにか出来る。なんとかしてみせる。そう思いあがった小娘の滑稽な三文劇。
「結局ローマの腐敗は改善できず、民も貴族からも見捨てられ、記憶の破壊(ダムナティオ・メモリアエ)を受ける始末」
現ローマにおいて、数多あるローマ皇帝を讃える石碑の中で、ハドリアヌスのものだけは唯一非ず。
結局なに一つとして成し得ることは出来ず、むしろ足を引っ張り汚点を付けただけ。
無様だった。どうしようもなく無様だった。道化は嗤ってもらわなければ生きていられないのだから。
だから。>>30
無言。トラヤヌスは一言も喋らず見つめている。ハドリアヌスはそれが心底恐ろしかった。
「皇帝として罰を与える……………汝、"我を避けるな"」
「……………はい?」
「おっと油断するなよ?汝、"抱え込むな"」
「えっと……………」
「そして汝、"後悔するな、誇りに思え"。他にも色々とあるけどまずはこれくらいかな」
ハドリアヌスはトラヤヌスのことが分からない。
何故私のことを切り捨てない?何故何故何故?疑問と悔恨の念が積み重なっていく。
その心を読んだのかトラヤヌスが口を開いた。
「首なんかいらないさ。今時ナンセンス。貰ったとしても正直どうしろっての?俺困るよ。そもそも今そんな事してる場合じゃないじゃん」
一息ついてトラヤヌスは言う
「あと俺の理想と言ってくれたあの事業。傲慢にも切り捨てたって言っていたが……………"それでいいんだよ"」>>32
「……っ!──っ!」
涙で声が出ず、嗚咽しか漏れ出ない。
ただ涙を流すハドリアヌスをトラヤヌスは幼子を慰めるように何も言わずに膝をついてその頭を撫で続けた。
後日。食堂。
「兄さま。一緒にご飯食べましょう!」
屈託のない、春の木漏れ日のような少女の笑顔があった。不可視、しかし大いなる存在感を放つ怪異なるサーヴァントから分かたれた、二つの暴風のかたまり、暴力の具現。それらがランサーとアサシンに襲いかかる。
天を仰ぐ地上の者たちは暴風以外のものも、天空から何かが一直線に空中を駆けてくるのを見つけ出す。形の上でだけ判ずるならば、それは馬に乗る鎧武者だった。騎乗するのは隆々と筋肉をうねらせる逞しくも美しい漆黒の馬である。その蹄が虚空を蹴って、武者を乗せて疾走しているるのだ。
武者が持つ弓の弓弦が竪琴か琵琶のように鳴り響くと、銀色の線が大気を裂き、暴風を穿ち貫いていく。穿たれた暴風は大気に溶けていく。
「お、新手だね」
「堕ちよ!」
騎馬武者が地上に降り立つとともに、ゲーティアは掌から魔力光を放つ。
「おっと、元気がいいな!」
轟音と爆風が生じて、オレンジ色の火球が路面の一部を抉り取り、強烈な魔力の残波と、噴き上がる土砂、焼け溶けたアスファルトが飛散する。煙を突き破って、騎馬武者は着地する。そのとき、武者はうしろにマスターである少女を乗せていることに、周囲の者たちは気づいた。武者は馬から降り立った。武者の顔は面頬で覆われて確認できない。
「こ、今度は何ですか!?」
「アポが必要だったかな」
「いいさ、飛び入り参加も歓迎するよ」
「そいつぁ、ありがたい。みんな、楽しそうにピクニックしているようだから、俺も参加させてもらうぜ」>>34
「有象無象が増えたところで、このゲーティアとアサシンの敵ではない」
ゲーティアの冷え冷えとした瞳をふてぶてしく受け止めて、ライダーも傲然と視線を返す。安い挑発だった。
これが、名だたる武人や将軍なら気にもとめまい。
しかし、ゲーティアの──対抗するように念を高めてきた。
あちらも戦闘準備に入っている。打てば響くような反応のよさ。いにしえの勇将というよりも気性の荒い獣という方がしっくりくる、とライダーが感じた。
ゲーティアの相棒と思われる女が前に出て、剣を構える。その剣が尋常ならざる逸品だと一目に看破できた。
「サーヴァント、アサシン。これで十分でしょう?お侍さん」
「しゃあねぇな。興の乗らない縛りもあったもんだ。──サーヴァント、ライダー。よろしく!」
ライダーが持つ、五メートルを超える剛槍はごく緩慢に、出現させた最初の位置から上昇しはじめている。二騎のサーヴァントが対峙した上空では荒ぶるサーヴァントが大気を唸らせつつも、動かず沈黙している。ランサーも用心深く戦況を見守っている。
それは不穏な沈黙ではあるが、二騎の対峙した地上では、それは遠い世界のできごとのようだった。装われた平静さは、だが、急激に敗れた。臨界に達した殺気が炸裂し、両者は同時に動き出した。ライダーの槍が、アサシンの剣が、同時に煌めかせていた。>>35
「サーヴァント、アサシン。これで十分でしょう?お侍さん」
「しゃあねぇな。興の乗らない縛りもあったもんだ。──サーヴァント、ライダー。よろしく!」
ライダーが持つ、五メートルを超える剛槍はごく緩慢に、出現させた最初の位置から上昇しはじめている。二騎のサーヴァントが対峙した上空では荒ぶるサーヴァントが大気を唸らせつつも、動かず沈黙している。ランサーも用心深く戦況を見守っている。
それは不穏な沈黙ではあるが、二騎の対峙した地上では、それは遠い世界のできごとのようだった。装われた平静さは、だが、急激に敗れた。臨界に達した殺気が炸裂し、両者は同時に動き出した。ライダーの槍が、アサシンの剣が、同時に煌めかせていた。
目の前にいるひとりの男が、自分の個人戦闘史において、おそらく屈指の敵手であることをアサシンは悟った。アサシンの眼前でゲーティアの猛攻をいなし、そしてアサシンに対してもランサーに対しても一ミクロンの隙も見せようとしない。
真名は見たところ特定はできない。相手も同様だろう。確実なのは。武神の如き鎧武者の姿と、それが内蔵する驚異的な戦闘力とであった。
一瞬の対峙は、激闘に直結した。
激突した槍と剣は、無数の小さな火花(スパーク)を周囲に降らせた。両者は申しわせたように、片脚の踵を軸にして身体を回転させ、強烈な反動から身をかわした。
激闘は、さらに続いた。撃ち込む。跳ね返す。受け止める。振り下ろす。突き上げる。数十種の動作が、一瞬の滞りもなく連鎖し、その狭い間隙を火花が飾る。
そこへ魔力光が数十本、集中してライダーの身体へ、緋色の触手をまとわりつかせようとする。それは死の舞踏の合間に槍を振るい、その刃の制空圏に侵そうとする魔力光を斬り裂き霧散させる。>>36
凡庸なサーヴァントであれば、幾度、死の門をくぐったかわからない。アサシンとゲーティアの連携の攻撃を、ライダーはその剛柔自在の攻撃をついに防ぎとおした。
内心、ライダーは感歎を禁じ得なかった。これほどの剛勇なサーヴァントがいるのか。どうしてどうして、世界は広く、人材は尽きぬものだ。
アサシンも同様の感想を持ち感歎しつつ、このくらいが引き際かと考えはじめた。ゲーティアと連携してライダーのマスターを暗殺、とも考えたがライダーがそれを許す隙を作るとは思えず、また動向を見守るランサーを無視できない。
聖杯戦争もまだ序盤。未だに遭遇(エンカウント)していないサーヴァントもいる。ここで死力を尽くして戦う必要などないだろう。
ついに、猛撃の応酬にも、間隙が生じた。一歩退き、ライダーは笑う。
「ハハハ!血沸く血沸く!アサシンめ、可愛い顔して骨砕きに来やがって。あーこわいこわい」
「そりゃああなたがひらひらと、からかうような戦い方をするからでしょう」
「からかってねえよ。俺はいつでも真剣ですよ」
「あーはいはい。真剣にからかってるのね」
「不遜!我らの武威を防ぐか騎兵めが!」
「そうやってあなたは……ナイフみたいにギッザギザしてもぅ。いつまでも尖っちゃって。中学生?」>>37
剣呑な眼光の褐色の男に、褐色の女は呆れたように言う。鎧武者は戦場特有の高揚感から呵呵大笑する。
決闘者同士の間に、お互いにお互いが相手を力いっぱい叩いても壊れないおもちゃだと認識したかのような、奇妙な連帯感を持つようになっていた。
「ハハハハハ!!まぁ──これくらいで充分だろう」
ライダーもまた、先程のアサシンのように引き際を計っていたようである。
返答が続きかけたとき、彼らの傍らで何かが炸裂した。それは大気を震わせるバーサーカーの突風だった。すべての感覚が引き裂かれ、揺さぶられて、彼らは無形のものに突き飛ばされた。
暴風に続く大量の土砂と水飛沫が、ようやく静まったとき、アサシンもライダーも、相手との距離は先程よりも離れている。ライダーは神馬に乗せたマスターの傍らに戻っていた。互いに、別々の方角へ跳んでしまったし、暴風と大雨が、両者を隔ててしまったのである。
この中断が、どちらの生命をより永らえさせることになったか、さしあたりは判断がつかなかった。両者とも、畏敬すべき敵手との決着を、不確定の未来に委ねたのである。
◇◆◇>>39
覇久間聖杯戦争投稿しましたグランドホテル伏神。それが、街の郊外にそびえるこの建物がまだ現役だったころの名だ。
高度経済成長期に日本中が湧いていたころ会員制の高級ホテルとして造られたここは、かつてブルジョワ層が歓楽の拠点として利用し栄華を極めたが、景気の衰退とともに需要を失い数年前に閉館してしまった。その後、巨大な敷地故に買い手もつかず、すべての日本人が見たうたかたの夢の残滓として、いまだひっそりとたたずんでいる。
斜陽に照らされたその薄暗いエントランスに、二つの人影があった。ヴァリー・ハンセンとそのサーヴァントである。とある筋からの情報でここに潜伏した「異端者」を捕捉し、討伐の為に乗り込んだのだ。
「公式には久しく人を受け入れていないことになってはいるが・・・・・・見てごらん、やはりというか、ドアノブなど、ところどころの埃が取り払われている。カモフラージュはしているけれども、誰かが潜んでいるようだよ」
主人の指摘に、立派な鎧に身を包んだサーヴァントもうなずく。
「さすがは我が主、ご慧眼です。あとは、その侵入者がどこにいるかということですな。見たところ、内部はかなり入り組んでいる様子。どこで、どのような形での戦闘になるか・・・・・・」
「注意して進もう」
「承知」
口調の割には、互いに打ち解けた雰囲気が見て取れる。サーヴァントは奥へと続く自動ロックの扉を素手でこじ開け、悪の潜む魔窟へと歩を進めた。>>41
グランドホテル伏神。
その一角。悪魔のトリルが鳴り響くスイートクラスの客室の中、とぐろを巻いていた蛇の骸骨が物々しい音をたてながら体を伸ばし、鎌首をもたげた。
黒い軍服の美女はヴァイオリンの演奏を止めつつ、傍らで旋律を聞きつつ、野営風の料理を作っていた己が従者を見やる。
「あらあら、パロミデスさん。見てみろよ。招かれざるお客様がいらっしゃいやがったみてぇだぜ?」
「いいわねぇ。我が!マスター?丁度夜食も出来上がったんだしね!腹ごなしにも血沸き肉躍る闘争を楽しむとしましょうか!……でも疑問なんだけどさポルカ。なぁんで私に食事作らせる訳ぇ?聖杯による知識はあるけど、貴女がやった方がマトモだと思うのよねぇ」
「ココは日本でしょう?この地の格言に”同じ食事を取ったらより仲が深まる”といのがあるそうですから、それが狙いですわ。ま、騎士道物語の食事ってのがどんなモンか興味があった、ってのも本音だけどな」
褐色肌に黒い軽装の鎧に身を包んだ女騎士は立てかけてあった無峰の剣と槍を手にとる。
「なるほどねぇ。確かに、一体感というか共感は育つかもしれないわね。あ、でもアレよ?私はポルカの好物のご相伴するをする気持ちは欠片もないから、そこはよろしくね!」
同じように鞭など、自分の武装の準備を始めた女魔術師─ポルカ・ドラニコル─は、妖艶に、しかしそれでいて、サディスティックに口角を歪ませた。
「まぁ、侵入者の方とオレらが会敵するのはまだ先だろうし、お客人には私、ポルカ・ドラニコルの魔術工房の悪戯の数々を堪能して頂こうじゃねぇの。このホテルをしっかりみっちり改造した充実の工房です。毒液を降らすスプリンクラー、二桁台の結界、呪殺系礼装を用いたブービートラップ、死霊・悪霊数十体。そういえば、この土地、死霊の数がそれなりに多かったですわね。何故なのでしょう…?」
自慢げな台詞を吐き、ドアを開ける。
「まぁいいです。アサシン、私達は優雅に行きましょう。令嬢と騎士ですもの。たとえ獲物でも、礼は尽くさなくてはね?」>>42
あの……この工房の紹介の仕方は、もしかしてネタふりですか……??>>42
「主、これは・・・・・・」
「うん、予想通り。ビンゴだね」
ふたりを出迎えたのは、血のように紅い空間だった。
空間的に侵入者を隔絶する結界としての働きはもちろん、封じられた空間にはこの地に揺蕩う怨嗟が集められ、行き場をなくしたそれらは可視化するほどに増幅されている。高度に作り込まれた魔術的な隔壁だ。
手の込んだ仕掛けだが、建物の大きさから考えて、これも無数に仕掛けられた撃退用の罠の一角に過ぎないことは大いに想定できた。
通常、この手の罠は使用されている魔術の仕組みを解析し一つ一つ解除していくしか活路はない。その難易度ゆえに、魔術工房に立てこもった高位の魔術師を相手取るのは自殺行為と言われるのだが――ヴァリーは魔術についての見当をつけることができても、仕組みを突破するために肝心な魔術を行使できない。
ゆえに、彼のとる選択肢はたった一つだった。
敬虔な神父の所有物として強烈な異彩を放っていた赤黒い義足に膨大な魔力がこめられ、本来の曲棘に包まれた凶悪な姿をあらわにする。
「さあ、行こうか。遅れないように気を付けてくれ。さすがに私でも、サーヴァントとかち合ったら辛いからね。君が守ってくれ」
ヴァリーは地を蹴った。床が砕けるほどの爆発的な跳躍。すべての厄災を置き去りにし、繰り出した蹴りは結界を貫いた。
「拒絶」の概念武装、『邪典:戦場駆る魔靴(カルト:ウォー・アイゼン)』。旧約聖書の時代に存在した「海魔の王」の骨を加工し作成したそれは、彼から洗礼詠唱を含むすべての奇跡を奪ったが、同時に「神秘はより強い神秘に敗北する」という理論に従い数多の魔術師から彼を守ってきた。呪われた品でありながら、今では彼を唯一守護する存在である。
結界を、壁を、障害物を。すべてを貫きヴァリーは駆ける。ひとえに異端者を排除するために。>>44
廊下を疾走するポルカの腕に巻きついた蛇の骸骨が次第に朽ちていく。
「へぇ、すげぇなアサシン。これ見ろよ。各フロアとかの状況を対応させたセンサーの役割をさせていたのですが、勢いよく減ってるぜ?今回の侵入者様は、かなりのヤり手のようですわ。……あぁ、キュンキュンしてきました」
頬を上気させ、恋する乙女のような貌をする
「そんな人の味は一体どんな風なのでしょうか…」
恐ろしい事を呟く。彼女はポルカ・ドラニコル。人の皮を被った毒竜、人食いの不良レディである。
「まぁた自分の趣向を出して…、無節操にも程があるでしょ…、ま、私もSな方だから、今回の現界では気にしないけど。完全に認めている訳じゃない事、理解してねマスター?」
ポニーテールの女従者は、あきれたように忠告する。主従という関係上抑えているだけで、本質的には主の嗜好を認めているようではない。
「あぁ、理解してるっての。なんたって貴女は騎士ですからね?本来はオレを討伐するような人種ですもの。受け入れて貰えるなんて、思ってねぇさ」
少々寂しそうに、ポルカは言う。人食いの怪物にも、情はあるらしい。
「そうだ、アサシン。二手に分かれませんか?一緒に走ってるままだと効率悪ぃし。私は竜鱗によって相手が主従で動いていても多少は持ちますでしょう?工房の仕掛けが全部壊されるより、そちらの方がいいと思うのだけど…。いかがでしょうか?」
提案している前後も注意深く周囲を探索し、自らの契約相手に告げる。
「それにさぁ、オレと一緒に居ない方が、相手も油断してアサシンの奇襲も決まりやすいでしょう?」
クックク…、と。黒い騎士は愉快そうに嗤う。主の提案が琴線に触れたのだろうか
「分かったわよ、ポルカ。全く、魔術師の癖に前線に躊躇なく出撃するなんて、私は聞いた事ないわねー。マーリンとかも引きこもりよ、アレ」
「ソレ言ったらさぁ、コッチだって驚きですわ。剣と鎧で正面突破が出来る暗殺者なんて、型破りもいいトコだぜ?ま、そっちの方がオレとしてはありがたい訳ですが…。無論アサシンってからには暗殺特化な方がいいかもしれねぇが、キチンとした武力もねぇと、戦争なんて物騒なモノを生還は叶いませんもの」
さて…、と。軽いじゃれあいのような会話が終了した所で、分断の用意を始める。アイコンタクトで丁字路の右左、何方を担当するか決め、ハイタッチをして別れる。>>45
シャンデリアの輝きが仄かに残る宴会場。在りし日のこの場所で、華やかなパーティーが行われていた事は、想像に難くない。そのテーブルの一つに、黒い服の女性が座っていた。
「ごきげんよう。私、ポルカ・ドラニコルってんだが…。このような辺鄙な場所へ、何の用だよ、神父様?それに、鎧を着込んだ騎士様でしょうか?そんな剣呑な気配は引っ込めて一緒にお茶でもなさらない?」
不遜な笑みを浮かべて、目の前の美女が言葉を発する。だが、だまされてはいけない。この女は…
「いやぁ、そうはいかない、何故なら、君が異端者だって情報があるからね…攻撃させてもらう!」
魔靴による超機動力によって一気に接近し、ド頭への蹴りを目論む!が。
「チッ、つまらねぇなぁ…。バレてるのですか。毒で弱らせて、疑問の中で死ん、でいく神父様の味を知りたかったですのに……。って、酷い温度です。トゲトゲで、どす黒くて肌に張り付く死体のジメジメ。嫌ですわ、貴方を喰うのはヤメです。絶叫を楽しむ事にしましょうか」
腕によって自分の攻撃を受け止めていた!?そして貫手を構え、自分を目掛けて振り下ろす!危険を感じ、距離を取る。
「やはり、君が人を食べる、というのは事実のようだ。コレで手加減をする理由は無くなった。さぁ、二対一だけど、卑怯だとは言わせないよ?油断には付け込ませて貰おう」
「ええ、貴婦人だろうが、遠慮はしませんよ。貴女のような浪漫を感じさせない人への容赦等、私は持ち合わせていないので」
「勿論、んな事ぁ言わねぇよ」
ティーカップに注いだ紅茶を飲みつつ、微笑みながらポルカは言う。
「ですが…、貴方方の想像通り、二対一では、ありませんわ」
言うと同時、ガラスを破りながら、黒い影が部屋に突入し…、
「そうよねぇ!マスターがいれば、サーヴァントがいるのは当、た、り、ま、え!」ヴァリーの首を目掛けて剣を振るった!セイバーは突撃に面食らいながらも、しっかりと剣でガード(気配遮断か?直前まで気付かなかった…っ)!「さぁ、マスターの戦闘は二人に任せて、コッチはコッチで楽しもうじゃない!ねぇ?騎、士さ、ま?」
狂気の滲んだ笑顔を浮かべて、暗殺者が斬りかかる。>>46
なんと哀れな生き物なのだろう!ヴァリーはポルカを見て、そう思わずにいられなかった。他者から奪うことで真に満たされることなど一つもなく、ただ与えることによってのみ、すべての生き物は苦悩から解放されるというのに!
グローブに紙片を滑らせる。それだけでそれは、銀の輝きを持つ手甲「灰鍵」へと姿を変えた。
殴りかかろうと思えば、すぐにでもこの拳を、魔靴を、相手に叩きつけることはできるだろう。だが、それはしない。彼には神父の職務として、まずは優先するべきことがあった。ヴァリーはポルカに穏やかな声で語り掛ける。
「飼い主の手を離れ道に迷ってしまった子羊をも、主は見捨てずに探し続けてくださる。今からでも遅くない。罪を懺悔し、主に自らを開きなさい。そうすることで必ず、いばらの茂みを抜け、正しい幸福への道へ導かれるはずだ」
神父の頬を憐みの涙が伝う。これは、彼の心からの言葉であった。
心の底から彼は願う。
ああ、主よ。どうか『あれ』にも慈悲をください。『あれ』が自らの罪に対して向き合えるよう、見守ってください。そしてどうか――
――どうか、死にゆくなかで正しい幸せを見つけられますよう御導き下さい。>>47
◆◆◆◆◆◆
敵サーヴァントの攻撃をいなし、ときに切り込みながらも、セイバーは未だに攻めきれずにいた。
妙な戦い方をする相手だ。彼は思う。
剣筋自体は基礎が固まっており、しっかりと訓練を受けたものであることが見受けられる。だが、戦法は野盗のそれに近い。いつでも逃げられる余地を残しながら、こちらの動作に割り込む形で攻撃を加えてくる。踏み込んでこないため、大したダメージも負わないが、それは同時に、こちらからの攻撃も決まり手となる者にはなりえないことを意味している。
戦いに積極的な割には信念を感じず、まるで「戦うために戦っている」とでもいうような様子だ。
さらにいくつかの刃を重ねたのち、セイバーは問いた。
「女、汝は何を求めている。マスターを守るでもなく、まるで無為に思えるこの戦いにお前の示す意味とはなんだ。真意を示されよ」>>48
「あらあら、お優しいんですねぇ、神父様。でも残念。オレぁ神とか大っ嫌いなのですよねぇ、だってほら、私って”蛇”ですもの。個人、魔術師どちらにしてもね?」
嗤って、言う。
「ええ!私達は互いに互いを受け入れる事は不可能だと思うのです。だったら捻じ伏せるしか、無ぇよな!」
自分の礼装、爬行堕尾を振るい、ポルカはヴァリーに襲い掛かる。
同時にその両足に力を込めたヴァリーもポルカへ全速力で踏み込み、拳打とキックをポルカに見舞う。その威力は下手な防御礼装ならば切り裂き、蹴り砕く威力である。しかしポルカのドレスに傷を入れ、本人も苦悶の声を多少漏らすが、目に見える出血などが認められない。
(何故だ…?)ヴァリーは疑問を抱くが、まだ情報が不足しすぎている。少なくともダメージ自体は通っているようなのだから、自分がやるべきは愚直に攻撃を続ける事のみ。主を信じるモノとして、このバケモノに負けるつもりは全くない。
一方のポルカも負けてはいない。自身の魔術的体質による防御性能はかなりの優れモノであり、容易には傷つかない事は他の誰よりも理解している。勿論、過信しているつもりは無いが、フラットな状態の鱗でも致命に届く攻撃は未だ受けていない。故にポルカは全力で攻撃に集中できる。
鞭による打撃・斬撃によるヒット&アウェイ戦術。それは攻撃と防御を兼ね備えた狩人の戦法。そして自分の鋭利かつ凶悪な爪を使って喉や目などの急所を容赦なく抉らんと動く!
「全く…、君は怪物かもしれないがレディだろう…、戦闘方法がエグいのは困るよ、ウン」
「仕方ないじゃあないですかぁ…。だって、オレは、貴方の悲鳴を聞いてみたい……!!」>>49
「あっはっはっは!何?真意?そんなもの無いわよ、騎士様」
あっは、隙発見!カーテナによる一撃を放ち、更にダメージを蓄積していく。彼の顔を見やれば、困惑の表情。
「私は”今”が好きなのよ!斬って!斬られて!生きてるって感じがするじゃない!貴方は違うのかしら?ねぇ!すまし顔の剣士様?」
私が思うに、この男の性質は私と同種だ。戦いが好きで好きで仕方ない、って匂いがしてくるのだから。
「もしかして貴方、私が”女だから”、手加減とか考えてないわよね?それはダメよ?ええ、ムカつく思考なのよね!こんな怖くて楽しいことを止めろって言うの?」
彼にはまだ迷い・躊躇が感じられる。だからこそもどかしい。もっと本気を!限りない闘争を!
今は此方が優勢なようにも感じれるが、彼の力量次第で、まだまだ楽しめるだろう…、ああ、早く宝具も解放した全力が出したい!!>>50
魔靴の刃が刺さらないとは。ヴァリーは内心驚愕していた。この武装でもって死徒や幻想種を含む数多の異端を貫いてきた彼にとって、それは初めての出来事だった。
また、ポルカが常に中距離を保ってきていることも彼を苦しめた。不規則に動き時に音速を超えるという鞭の先端は、彼の動体視力でもってしても捕捉することが難しい。生き物のようにうねり、皮膚を裂く。鍛え上げられた肉体には大きなダメージにならないとはいえ、彼の体力を少しずつ削いでいっていた。
「どうしました、神父様ぁ!?オレを討伐できる様子がねえじゃねえか!」
ギラリと向けられる野性動物じみた殺気。果たしてどの程度まで自分の攻撃が通じているのかも分からないこの状況で、なおもヴァリーの心はみじんも揺らぐことは無かった。貫けぬなら、より鋭く、重く攻めるのみである。
「君は先ほどから悲鳴にこだわっているがね、私はあれを聞くのはごめんだ。なにせ、すでに聞き飽きたからね。串刺しになりたまえ」
あらゆる壁や天井から巨大な曲刃が生じた。
これまで、何も仕組まずに単なる愚直な攻めをしていたわけではない。彼女に追いすがりながら、魔靴に供えられた海魔の牙を欠かせ、ちりばめていたのだ。
牙の持つ再生能力により、それらは本来あるべき大きさへと修復され、一斉にポルカを襲う。>>52
なぜこんなにもいらだっているのか。高々一人の女の戯言程度、聞き流せばいいものを。
セイバーは自問する。
いや、答えはすでに出ている。彼女の言が図星であったからこそ、ここまでに心を高ぶらせているのだ。
確かに、戦場の血沸く感覚に身を任せたことは両手に余るほどある。俺の本性は獣のそれだ。そういう意味では、俺も彼女と同類かもしれない。
しかし、決定的に違うことがある。俺は、それを是としない。
危険を顧みず突撃し、激闘の末に敵を討ち――喜びを胸に振り返ったとき、戦友の死体が山のように積み重なっていることのなんと虚しいことか。
彼らにはそれぞれの生活があった。きっと帰りを待つ家族もあっただろう。それらを、俺の至らなさが一瞬のうちに奪ったのだ。
二度と繰り返さぬと心に誓った。任された命に最大限の責任と敬意を払い、無為な犠牲にはしないと誓ったのだ。
ゆえに俺は、この女に引導を渡さねばならない。つまらぬ戦いの為に、これ以上の犠牲は不要であるからだ。ポルカの鞭によってヴァリーの受けるダメージを、皮膚が裂ける程度から、通常の鞭打ちによる裂傷くらいに上方変更します。よろしくお願いします。
>>53
内心の驚愕。コレはつまり牙による結界攻撃、のようなモノだろうか。
いくら自分の鱗が固いとは言え、この骨っぽいのが全身を狙えば、いかに自分でも今までよりは上の損傷は免れないだろう。ならばどうするか。…『爬行堕尾』を壁に引っ掛けて、今いる地点を離脱する!
「おーにさーん此方、手の鳴るほーうへ!…って、この国の遊びだと言うんだっけなぁ?…いつつ…」
急展開にしてはよく避けれた、と自画自賛したい所ではあるが、やはりというべきか、いくつかはイイの食らってしまったらしい。
時間をおいて脱皮をすれば傷の回復などは可能だが、この男がそんな隙を与えてくれる相手だろうか?
まぁいい。まだ攻撃手段はそれなりに残っているのだ。そもそも爬行堕尾による攻撃でも神父を痛めつける事は十分にできている。焦らず、ジックリと狩っていけばいい。
牙を剥く。爪を研ぎ澄ます。鞭が空を切る。毒が体に満ちていく。さぁ、流血をもっと見せてくださいな?
◆◆◆◆◆◆
振り下ろされる金色の刃…、かかったぁ!カーテナを手放し、自分愛用の槍で迎え撃つ。
「我が騎士道に、怨恨と祝福を!『奸計・封絶するは朱羅の槍(シヴォリハザード・レッドランス)』!!」
これぞ我が信念、戦闘欲の具現。さぁ、騎士様?あなたの本性を見、せ、て?
コレで貴方の剣は封印される。まだ具象化はしていないけど、壊れるかもしれない。だけど!
そんな事では闘争の本質は少しも削れやしない。さぁ、武器を取れ。私のカーテナでもいいし、適当な木材を振るうのもいい。私はこれからアンタを斬るが、腕が落ちたら足で掴め。足が落ちたら口で咥えろ。さぁ!さぁさぁさぁ!もっと本能でいこうじゃあないの。
「ガッ!?」
顔に衝撃。どうやら顔を殴られたらしい。……上等!!
「あらあら騎士様?女性の顔を殴るなんて酷~い。でもいいわね、いいね!すごく素敵!さぁ、もっと踊りましょう?」
二刀流vs槍!いいわねぇ、すごく楽しそう。ゾクゾクしてきた。人が活動を落ち着かせる時間帯。
アーチャーは市街地の高層ビルの天辺で、都市の観察を行っていた。
弓を扱う者として視力は勿論よく、高所から見渡せる街並みは、彼の間合いといっても過言ではない。よって何かしらの事件及び、サーヴァント同士の戦闘が勃発すれば、即座に反応できる。
現に────。
「面を上げた獲物が二匹……漸く開演か。集団戦では必ずいるであろう妄りな阿呆が召喚されているかと思ったが……ああ否、噂をすれば何とやらだ」
人ならざる眼で、少なくともKm単位で離れている距離の相手を視認し、偵察を行なっていた。
視線の先には、常人の身体能力を超えた影法師たちが乱戦している光景が広がっており、攻撃の一振り一振りが地面を抉る程。
中でも、アーチャーは暴風を巻き起こしているサーヴァントに目を向け、一部始終を眺めた後に鼻で笑う。周囲を顧みない暴れっぷりと。
「あの暴威、大神(ワイルドハント)もかくやよな。他二騎は……ふむ、白い小動物に使い魔を従えた術者。一方は得物から推測してランサーと仮定できるが、もう一方はさてさて……」
矢を番え、いつでも射れるように構えを取る。
念のための前準備だ。用心深くいた方が生存の確率が増すので、何事も用意しておくのがアーチャーのセオリーだった。>>56
「時に、吾の存在にいつ感付くか。でなければこの闘争、矢を射るだけの簡単な仕事に成り下がってしまうぞ? だが、それも仕方なき。戦場に清濁、善悪はなく、物事においても呵責はなし。仮に吾に射たれるという事は……その程度だっただけぞ。いかんな、高所に一人だけというのは、些か独り言が増す程度には淋しいものがあるな」
一人、戦場を眺めながらの独り言は誰に伝わる訳でもなく、高層ビル屋上にてそれは風に掻き消されるだけに終わった。
風立つ屋外……本当に淋しい光景であった。台風から分かたれた二対の小さな竜巻。
それが巫女服と褐色に襲いかかった──かと思えば馬を駆り、新たに現れた鎧武者が放った矢によって竜巻は四散してしまった。
鎧兜と面頬によって顔は確認できないが、その優れた体格から恐らくは男性なのだろう。
鎧武者は共に居た少女と思わしき人影を自身の馬に預け、巫女服・褐色とそれぞれ向き合う。
褐色の持つ剣と鎧武者の持つ槍が数回ほど交錯し、互いの攻撃を打ち消し合う。
素人である私目線であってもあの二人が卓越した腕前の持ち主であることは見て取れた。
あの台風を前にして眼中に無い、みたいな反応をしていたのも実力に裏打ちされた自信ゆえだろう。
(そういえば、台風は……?)
ふと、自身の呼び出した嵐の具現に目を向ける。
褐色の少女相手にあれだけ怒りを示したのだ。
自信満々で出した台風がぽっと出の鎧武者によって消し飛ばされたことに怒ってもおかしくはない……
「何故だ………?」
視界に入った暴風が示していたのは私の想像を絶する憤怒と苦悶の籠った激情だった。
「何故、神代ならざるこの時代(セカイ)に、神の類が存在している………ッッ!!!!」
先程のものなど比ではない、怒りというよりも寧ろ──狂気の域に達した感情の波。
(うぐっ、何……!?急に身体から……力が……苦しい……!)
叩きつけるような情動と共に私は自分の中から何かが搾り取られるような感覚に陥った。
「────■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」
もはや普段のような不敵な笑い声すら忘れ、自身の全てを投げ出すような咆哮を上げる台風。
同時に暴風雨は勢いを増し、その騒音が周囲に響き渡った。>>58
暴風雨が相対する三騎に襲いかかる。
ライダーは先程弓矢を用いて為したように槍の一撃を以て襲いかかる風雨を凌ごうとするが……
風は先程よりも頑強に編まれ、かつその勢いはライダーの槍捌きと拮抗する。
降り頻る豪雨が視界を掠め、暴風が巻き上げた土砂や周囲の物体を弾丸の如く射出する。
最低限の動きで危険度の高い攻撃を捌き、宝具により強化された自身の肉体を持って受ける、だが……
(俺の肉体に傷を付けるか、威力が上がっている……?)
無論、魔力による治癒があれば即座に回復してしまう程度の浅い傷ではあるが、それでも目の前の暴風の脅威度を見直すに足るものだろう。
何より攻撃は広範であり、その暴威からマスターである夏美を護りながら戦わなくてはならない。
武士としてはむしろそのくらいの縛りであればむしろ滾るモノではあるが……
「芽衣さん……」
ライダーのマスターである夏美の表情は曇っているように思えた。
「知り合いか……?」
「うん、蒲池と同じ御三家で昔はよく相手して貰ってたんだけど……芽衣さんはあくまで分家の出で魔術には関わりないはず。なのにどうして……」
「隠し通していたのか、あるいは巻き込まれたクチか……」
「どちらにしても、事情も分からない状態で敵対したくはない……」
「なら、彼女を傷つけずに目の前の大嵐に立ち向かえってことか……いいだろう!その主命聞き届けた!しっかり掴まってな!」
ライダーがマスターである夏美を乗せて馬を走らせ、向かい風を突っ切って芽衣の元へと駆けた。>>59
台風は荒れ狂い、私はそれに同調するように苦悶の表情を迎えている。
痛みに耐えて、冷静に周囲を見渡せば、バーサーカーは無差別に破壊を振り撒きながらも、鎧武者とそれを乗せた馬に対して特に苛烈に攻撃していた。
褐色に対してはむしろ先程よりは執着を示しておらず、彼女らも必要最低限の動きで躱し、台風の──というより、鎧武者の動向を観察しているようだった。
巫女服に対してもライダーほど強烈ではないが、先程より力強く攻撃し、彼女は槍でそれを必死に防ぎながら、他の二名の隙を伺っている。
「芽衣さん!」
ふと、鎧武者が駆けてくる方向から聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
蒲池 夏美。猜野と縁のある家の娘で歳下なのもあって妹のように思っていた少女だった。
(夏美ちゃんも聖杯戦争に……?)
猜野本家で聞いたことを考えれば、縁のある蒲池にも同様のことがあったのかも知れない。
(このままコレが暴走し続けたら……夏美ちゃんも危ない……!)
知人を、自身が呼び出した存在によって傷つけたくはない、そんな危機感が募るが……
(でも、どうする……夏美ちゃんに頼る……?)
歳下の少女に頼るのは情けないが、そうも言っては居られないだろう。
幸い、彼女の連れている鎧武者は強そうだし、助けを求めればこの台風をなんとかしてもらえるかも知れない。
(でも、ダメだ……仮にコレを倒せたとして他の二人が襲ってきたらどうする……)
槍を持つ巫女服と褐色の男女は常に此方の出方を疑っている。
台風と鎧武者の戦いに際して、横槍を入れてくる可能性も否定できない。もしかしたら私や夏美を狙うかも。
ある意味でこの台風は私を守ってくれているのだ。>>60
(それに、コレは──私が呼び出しちゃったんだ……)
勝手で振り回されっぱなしとはいえ、最初にこっちの事情で引っ張ってきたのに迷惑だから突っぱねる──そんな勝手なことはしたくない。
(だって、この風鳴り音(さけび)は憤りだけじゃなくて──とても哀しく聴こえるから……)
台風が何に怒り、何を嘆いているかはわからないけど……その感情は確かに私も知っているものだ。
自身の前に広がる風壁と夏美を見比べる。
(ごめんね、夏美ちゃん……)
少なくとも、今はまだ貴女に助けて貰えそうにない。
「声が聴こえているならお願い!私を守ってここから逃げて!!」
そう叫んだ瞬間、手の甲の痣に僅かな痛みと輝きが起こる。
その願いが通じたのか、拡張された暴風は私の元に収束していき、身体を覆う。
やがて、私の身体は召喚当初と同様に浮かび上がり天へ向かっていく。
視界に居た者達の姿がどんどん小さくなっていく……。
(とりあえず、誰も傷つけずに済んだ……)
これからどうなるかは分からないが、今すべきことは為した。
(疲れた……眠い……)
ひとまず、私の意識は深い微睡みへと沈んで行った。4/29 狂陣営 『最初のお願い』 了
バーサーカー陣営一足先に撤退になります>>55
金色の刃と槍がぶつかり合った瞬間、信じられないことが起こった。セイバーの宝具である剣が、いともたやすく破壊されたのだ。
予想外の出来事だが、生前、前線で戦い続けたセイバーの戦闘経験が素早く彼を対応に走らせた。それまで剣を握っていた腕を拳に変えて、敵サーヴァントに叩きつける。相手が剣を手放し引き下がったためだいぶ威力はそがれてしまったが、それでもダメージは負わせることができたはずだ。
深々と貫かれ、ダメになってしまった片腕から無理やり剣を引き抜き、再び対峙する。
認めたくないが、強敵だ。そう感じるとともに、セイバーの眠っていた闘争本能が沸々と沸騰し始めた。
「ははははは!この程度でどうにもなるものか!戦闘を続けるぞ!」
ダメージの大きさは関係ない。剣を持ち、折れぬ闘志で向かい合ってさえいれば五分である。
刃が再び交わろうというとき、建物を大きな衝撃が襲った。
建物全体がつぶれるように崩れていく。他陣営のどこかが、好機とばかりにホテルを爆破したに違いなかった。相当に爆弾の扱いに慣れているものだろう。
アサシンが素早く身をひるがえし、崩落する天井の陰に消える。追うまでもなく、すでにその姿を捕捉することは不可能だった。
セイバー陣営の画策していた討伐は失敗した。
しかし、此度は聖杯戦争。いずれ再びまみえることになるだろう。
私のせいで、人死にが増えなければいいが・・・・・・ヴァリーは憂鬱たる気持ちでがらりと開いた空を見上げた。第一回聖杯大会の続きを投下するのでよろしくお願いします
< フェエエエエイツォ.....テエビイ..ンショオオオオオウ!!!(軽快なBGM
音響スタッフがアドリブで入れているせいで毎回変わるタイトルコールから番組が始まった。
フェイトTVショー。本来なら秘匿されるべき聖杯戦争を電波に乗せて全世界に発信している娯楽番組だ。
魔術を知る人物から見れば冒頭的としか言いようのないTV番組だが魔術協会、聖堂教会、そして西欧財閥に加えて「偽りの聖杯戦争」で突如として姿を現した「組織」という四者の複雑な政治的パワーバランスの上で成り立っている。
番組自体はアンソニーとアンナ。この男女が織り成す軽快なやりとりが大人気……という事は特にない。彼らもまたスノーフィールド全体に掛けられた催眠魔術によって操られた憐れな大衆の一部に過ぎない。それでも彼らは自分たちの職務を全うしていく。
「ハァーイ! ステイツのみんなも、ノンステイツなみんなもハローハローエブリワン!佳境を迎えた聖杯大会四日目、とうとう盤上は大きな動きを見せたねアンナ?」
「そうねアンソニー! あの強大なバーサーカーに対抗するために結成された連合軍の戦い…!神話・。伝説に語られる英雄同士の闘い!血湧き肉躍る空前!絶後のぉおお……!」
「あ、アンナ?」
「そんな大・大・大!クライマックスの戦いがフィルムにないってどういうことなの!?巫山戯てるの!?番組の趣旨アンダスタン?!」
「ステイ、ステイクールだよアンナ。気持ちは分かるけど人知を超えた戦いにスタッフからドローンに至るまでありとあらゆるカメラが近付けなかったんじゃ仕方ないじゃないか」
「FXXXXXK! FXXK YOUよアンソニー!そんな言葉、そんな理屈で視聴者が本当に納得するとでも思ってるの!? FXXK'N S.O.B!!!」
ーcont.ー二人が挟んだモニターに映し出される砂嵐の望遠映像。その砂嵐の中では時折自然現象ではあり得ないような発光が確認される。
バーサーカー、ライダー、第2のアーチャー陣営の敗退が速報で伝えられてから視聴者が今日の本放送を楽しみにしていたというのは紛れも無い事実であり、それを証明するように抗議の電話が瀑布のように押し寄せている。
その様子はここ、聖杯大会そのものを成立させる大聖杯……模造品の大聖杯のある地下にも伝わっていた。
「ハッ! ザマァ見ろ!ザマァ見ろこのFXXK'Nク○ヤロー!テメーらの思い通りになんて行かねーのが分かったらさっさと諦めて○○○
とても電波には乗せられない暴言を撒き散らしながらパイプ椅子に括られた男、ニコラス・マイカルは鼻を鳴らす。
聖杯大会などという茶番、それによる権益などは彼がどうこう出来る次元ではないがこの世界から1/3の命を奪うと謂れるアジ・ダハーカ…つまりバーサーカー・ザッハークの跳梁は阻止された。
少なくとも、その可能性は。
何より聖杯大会を運営する上役はバーサーカーの勝利を望み自分たちの行動をこうやって妨害してきたのだ。その思惑を破ったことでテンションがおかしくなっている。
「嬉しくなるのも分かるが、そう汚い言葉を吐くものではないなニコラス」
「なにを涼しそうな顔してやがる。お前らのお気に入りのバーサーカー陣営はここで敗退だ!それとも何か? 不正があったと取り消すのか!あぁ!?」
「まぁ確かに? 君の言う通りバーサーカー陣営の活躍をお得様たちは望んでいたがね。この聖杯大会、誰が勝利しようが然程私の計画には支障はないんだよ」
「な、に……?」
「ここから先は君に言っても仕方の無いことだけどね」
ーcont.ーそう前置きした男、アラン・アーミテージ。彼は聖杯大会へと姿を変えたスノーフィールドで行われる聖杯戦争…それ自体を成り立たせるための模造聖杯を作り出した魔術師のひとりである。
彼の魔術師としての本業は催眠による人の意識・無意識への働きかけにあるのだが……それは今は割愛する。
「先ずはそう、君の協力者。ジェームズ・ヘンダーソンが召喚し即時自害させる暴挙に及んだアサシン。加藤段蔵
交戦という意味では最初の退場者となったロバート・ボラゾンのセイバー、ディオニュシオス二世
表向きは退場した事になったジェームズの代わりにマスターとなったスティード・メリエール。彼のアサシン、ヴィルヘルム・テル
クローディア・スチュアートのキャスター、ルドルフ・クラウジス
そして今日、この乱戦で花と散ったルーカス・ソーラァイトのライダー、アイエーテス
朽崎遥のバーサーカー、ザッハーク
乱入者である蓮見静香の二騎目になるアーチャー、ツタンカーメン」
「分かるかな? これまでで既に七騎のサーヴァントが大聖杯には焚べられているんだ。正規の聖杯戦争なら既に起動していてなんらおかしくはないんだよニコラス」
「なにが言いてえんだ、テメェは……」
「この大聖杯はね、欠陥品なのさ。召喚器としての性能は有していてもこれで根源に通じる孔を作る事は到底できない。穴の空いた瓶みたいなものなんだ。
だけどね、それは前から分かっていたんだ。まだまだデータが足りない。完成させるにはもっともっとデータを集めなければ………まぁイレギュラーな召喚が続いたからもしかしたら、って期待はあったのだけどね」
ーcont.ー「おっと、そうだった」
ワザとらしく手を鳴らし、その顔に笑みを貼り付けながらアランは言葉を紡ぐ
「あのニンジャ被れが再召喚したシャドウサーヴァントを含めたら八騎だ」
「ジェームズの!? それはいったいどういう
ゴロンと、厭な音がした。足元で。
とても受け入れ難い事実がそこには転がっていた。とてもとても、受け入れ難い事実が。
「こういう事だよニコラス・マイカル。君のチッポケな正義感で人がひとりしんだんだ。少しは後ろめたさを感じるかな?」
「こっ、このヤ
「あぁ、済まない。時間切れだ」
ニコラス・マイカルの意識はここで途切れる。そしてそれは次目覚める時はアラン・アーミテージの完全な操り人形と化すことを意味する。
残ったサーヴァントはランサーとアーチャー、山中鹿之介と后羿。そのマスターたる黒野双助とゲルト・リスコファス。
どちらかが残り優勝し、勝ち残ったサーヴァントを自害させたとしても願望器はその定格出力を満たさないまま不発に終わるだろう。
賞金を二倍にするか、まぁしつこく文句を言うようだったら催眠で願いが叶ったと思い込ませれば良い。私はこれから何度でも、何度でも。この大聖杯が本物になるまで繰り返すだけなのだから……。
聖杯大会、その四日目が幕を閉じた。ーpassー「なんだ……?何が起きている……?」
先程まで戦っていたランサーとアサシン。だが突然乱入してきた暴風と、馬に乗った戦士。おそらくはサーヴァントであろうそれらを見て、ローガンは困惑していた。使い魔を失った為に魔術で強化した視力を用いて戦況を観察していたが、想像以上に敵は強い。自分のサーヴァントが何も手を出せないほどに。
そんなランサーに何も出来ない程に。
(俺は…こんなにも無力だったか……)
歯を食いしばり、上を向く。零れそうになる弱音を飲み込んでもう一度戦場へ向き直った。暴風のサーヴァントはどうやらどこかへ撤退したようだ。戦況は混乱している。ローガンは主従間で使える念話で、ランサーに指示を飛ばした。
「ランサー退くぞ!情報は得た、もう十分だ!」
ランサーはその指示を聞いて槍を強く握りしめた。頭ではわかっている。悔しい、いや、屈辱的だが、自分ではアサシンとライダーの二人を相手にして勝つことは出来ないと。
だが自分は何も出来ていない。このままおめおめとマスターの元へ帰るわけには行かないと、自らの心が訴えている。奉仕種族としての本能とプライドが、玉兎の動きを縛り付けていた。
「ランサー!はやく!」
再びローガンが呼びかけると、玉兎は歯を食いしばって
「わかり…ました……ですっ!」
と悔しげに呟き、大きく飛び跳ねて戦場から離脱した。
ランサーが戦場から跳び去ると同時に、ライダーは暴風の中を走り去っていった。何か気になるものでもあったのだろうか。
「ふーん、みんなもう帰っちゃうのね」
緊張感のない事を言うアサシンだけがそこに残される。
「なら私も帰ろうかしらね」
そう呟くと星のない夜空をちらりと見て、すぐに興味を失ったようにその場から消え去った。
戦場だった場所には、破壊の余韻だけが残っていた。>>69
短いですが、覇久間です。ランサー陣営撤退させていただきます。
『脱兎の如し』「なら私も帰ろうかしらね」
お開きもお開き。精一杯動いた後は誰も彼も眠くなるものだ。
「ゲーティア、お願い」
「転移の魔術ぐらい、使えるようになれ」
「私、魔法使いじゃなくてよ」
時間旅行に代表される空間転移は魔法の領域。
ネブカドネツァルは天体魔術師として最高峰の技量を有する(自覚もある)とはいえ、超抜的な魔術師ではない。あくまで実践可能域にある神秘学――魔術を研究する者であって、宝具が魔法級の神秘を有するのとはまた別問題だ。
消え去るようにその場から姿を消す。
敵対者の使い魔のような“眼”から逃れるには最適と言える。
ネブカドネツァルが次に現れたのは調度品に溢れた二階堂邸。
「どうだった、対サーヴァント戦というのは」
ご老人、ネブカドネツァルのマスターである二階堂夢莉の祖父、二階堂宗次は薪を使う古い年代物の暖炉の前に、暖を取らずに椅子に腰かけていた。
「真っ当な戦い方では難しいと思います。やはり宝具が必要ね」
「右に同じだ。瞬間火力ではやはり宝具には劣る」
こちらのマスターとのパスは未だ完全な調子ではない。あの場で出し惜しみなく宝具を使用されていたらランサー、バーサーカー、ライダー、そして“アサシンを視界に映した”アーチャーの誰にでも倒されていた。
逆に言えば、宝具さえ使えるようになればこの聖杯戦争、間違いなくアサシンの敗北はない。
そう確信できたのは、彼女が天体魔術師だからだ。
星辰と現実の出来事を照応させる占星術(アストロロジー)の究極は、時間と空間を超える千里眼に近い。本来ならば知覚範囲から優に外れた位置に存在したアーチャーがこちらを見ていることを知ったのもそう、サーヴァントの真名こそ分からないが本質的な能力を把握できるのもそうだ。>>71
「メインはどちらで行く?」
ゲーティアが問いかける。夢莉との魔術回路の調整を終えたとしても、宝具を使用できる一度の戦闘における真名解放の回数は一回か二回程度だろうと考えると、方針を整理する必要があった。
「でもまあ、状況に寄るわね?」
「アサシンよ、そこで提案があるのだが」
「何かしらご老人」
「他の陣営と同盟を結ぶのはどうか。特に御三家の一人、蒲池の娘は先程の戦闘から見ても優勝候補であると言えるだろうしのう……?」
契約魔術によるセルフ・ギアスはゲーティアのソロモンの指輪で解呪できるので、こちらから奇襲できるという目論見もある。
「ああ……そういう?」
本気で聖杯を狙う陣営にとってアサシンというのは、聖杯戦争での直接的なマスターの死因になりやすい。それが聖杯戦争を運営している主催者側からすれば脅威としての理解度も高いだろう。
アサシンの本質はマスター殺.し。
ネブカドネツァルは現状、陣地に篭ったキャスターとフラカンのようなマスターに近付くまで物理的な障害があるような面子以外なら直接、刺しに行けると考えていた。
天体魔術による幸運の、超短期的に因果律へと干渉するのを含めれば、避けるのは不可能だ。いわば常時気配遮断を可能としている状態。本来ならば実行に移すタイミングで気配遮断のランクは低下するはずなのだが。
「逆に、他の者と同盟を結んで優勝候補を潰すという考え方もあるだろうが」
「確実に聖杯を手にする……それがお前達に課された使命だ……反しなければそれも良いが」
(正直に言えば、私は色々考えるのは得意じゃないのよね――)
どうせ、破談になったらなったらで全員倒せば良いのだし。
寝台で眠りに落ちている夢莉の傍らに、足を下ろして思索に耽っているともう夜が明ける。
魔術回路との接続は好調。これからがアサシン陣営の聖杯戦争の始まりだ。>>72
覇久間アサシン陣営
4/29から4/30の間に、[[ここからが聖杯戦争だ]]でした~「失礼しまぁす」
努めて優しい声音で言いながら西行がドアを開けると、ちょうど三号が診察の結果をメモしているところだった。
『血液検査の結果は「広範囲な免疫機能の疾患」。そちらの診察でも相違はないな?』
『ええ』
三号とのプライベート通信で情報の擦り合わせに問題がないことを確認した後、ミュンヘンの正面やや横に座って口を開く。
「少し貴女の症状について質問したいことを思いついたものですから。
ほら、娘さん……ミュウちゃんは貴女と同じような病気にかかっていないでしょう?病気の原因にも遺伝性のものから外から感染するものまでありますから…もし前者だったら彼女の分の予防策を立てる必要があると思いますし、後者でしたらあなた方二人の行動の違いが原因の究明に役立つと思いまして」彼女の分の予防策、と言った時点で三号の冷たい視線を感じたが、そこはあえて黙殺して話を続けた。
話を振られたミュンヘンが、少し考え込むような様子を見せる。
「違い、ですか……」
「何か思い当たることがございましたら、でいいのですけれど」
「そうですねぇ。……外に出かける回数は娘の方が多いでしょうか。あと、あの子は健康なのでマスクも必要ありません。
……でも……参考になるような違い……では、ありませんね……」
口元に手を当ててより深く考えるような姿勢になったミュンヘンの顔を優しげに覗き込んでいるようなポーズをとりつつ、西行は一人思考を巡らせていた。
(安静にしてる方が悪化するっつー事は普通の人間が風邪ひくような条件で起こる疾患じゃないってことか。
まさか俺みたいに「中身」と体が拒絶反応起こしあってるわけでもあるまいし………どうしたもんかなァ。………この先敵を捕まえる機会があったとしても、流石に言葉が通じる生き物を捕まえて解体したりは人間らしくない行動だしなー)あと1時間ほどで日付が変わろうとしていたその時。
街の片隅にある寂れた映画館に男の姿があった。
差し込む月光に色素の抜けた髪が淡く輝く。
女性と見紛う容貌は、その長身も相まってまるでトップモデルのようだった。
身に纏うのは漆黒のスーツ。英国王室御用達高級ブランドであるAUSTIN READのオーダーメイドスーツを、男は一分の隙もなく着こなしていた。
レッドカーペットの上を歩いていてもおかしくない秀麗な美男子。
深夜遅く人気のない潰れた映画館に1人佇むその様はまるでそれ自体が1つのドラマや映画のワンシーンのようで。
両手に抱えたGIVENCHYのリトル・ブラック・ドレスも、それこそ小道具のように調和していた。
「女性を見るなら袖口を。男ならズボンの膝を(That was wise)」
それは、まるで歌うような口ぶりだった。
スーツの袖をまくった細い右腕に輝く光のライン―――魔術刻印が淡く輝き、その光が彼の身体を包み込む。
その背後に、白いドレスを纏った貴婦人が一瞬浮かび上がる。
次の瞬間、男の身体は、己が持っていた黒いドレスを纏う美少女のものへと変化していた。>>75
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
最も魔術を行使しやすいスタイルに身体を変えた彼が、厳かに儀式を執行しようとしていた。
「――――告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
その儀式の名は英霊召喚。
死後に祭り上げられた英雄を、聖杯の力を使って使い魔とするもの。
七騎の英霊とその主人である魔術師が、この街を舞台とした戦争を始めようとしていた。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
召喚の誓句を終えるのと同時、アレンの敷設した方陣の中を鮮烈な光が迸る。
轟音、そして閃光―――かつて人に溢れていた館内をアレンが幻視したその時。
収まった光の中から、人の姿が現れた。
それは、奇しくもアレンと同じ服に身を包む女性だった。
癖のある黒髪をアップに纏めた絶世の美女。
人種を、性別を、そして時代を越え―――美と言う感性を理解するものなら万人が美しさを感じる―――かつて、『永遠の妖精』と呼ばれた女がそこにいた。
そして、彼女はゆっくりと口を開き―――
「サーヴァント、セイバー。召喚に従い参上したわ。
問おう―――貴方が私の、マスターか?」>>76
「……英霊、ホリー・ゴライトリー……?」
アレンが危うげな口振りでそう呟く。
『いつかティファニーで朝食を』と言う名作映画がある。
その中でかの大女優、オードリー・ヘップバーンが演じた役が、彼のこぼした人名だった。
無理もないだろう、彼女の容姿はホリー・ゴライトリーに瓜二つだったのだから
「ふふふ、惜しいけど違うわ」
クスクスと笑うサーヴァント―――セイバー。
「惜しい? まさか、貴女は……」
からかうような、それでいて可愛らしい笑みを浮かべるセイバーの振る舞いに、アレンは正解にたどり着く。
「ええ。貴方の思う通り。
私の真名はオードリー・ヘップバーン。
ホリー・ゴライトリーは私が演じた役名よ。
……まあ、この服ならそう思っても仕方ないか」
『なんでジバンシィのドレスなのかしらね。まあ、好きだからいいけど』と不思議そうに漏らすオードリーを前に、アレンは困惑を感じていた。>>77
「貴女が、サーヴァントに……いえ、お会い出来て光栄だ。ミス・ヘップバーン。
貴女の話は、父からもよく聞かされていた。
貴女は我が祖国の誇りだと」
困惑の中、必死にしぼりだしたその言葉は、それでも敬意を感じさせるセリフだった。
「あら、嬉しいわ。こんな可愛い女の子に召喚されるだなんて。それも、同じ国の女の子だなんて」
「ああ。そう言えば、自己紹介がまだでしたね―――真実を語るほど賢明なことは無い(That are wise)」
にこやかに握手を求めるオードリーを前に、アレンは魔術を行使する。
再び閃光―――次の瞬間、アレンは少女から青年の姿に戻っていた。
唖然とするオードリーに、アレンは紳士然とした穏やかな表情を浮かべ。
「僕の名はアレン・メリーフォード。職業は―――探偵です」
その日、剣の主従は運命に出会う―――>>78
4/29 アレン・メリーフォード&オードリーヘップバーンパート
『マイ・フェア・サーヴァント』End.覇久間市内某チェーン店。そこで気もそぞろに昼食をするのは、聖杯戦争参加者は一組、キャスターとマスターである郁だ。安さとバリエーションが売りのチェーン店にした理由はキャスターが熱望したからだが、郁もこういった店に来るのは初めてだった。
お互いB級の味を噛み締めるためにただ黙々と咀嚼していたが、やがてハンバーガーを胃に仕舞い終えたキャスターが口を開く。
「ここの、ヤバいな!」
そんな語彙力の低い感想を述べられても、と思いはしたが、自分も今の状態だとそういった言葉しか浮かばない。それぐらいに、この料理は不思議な味がした。調味料の風味が強い。しかし、そのくどさを挟まれた野菜やパン自体が抑制している。庶民的とはこういうもののことを指すのだな、と感慨深く頷いていると、キャスターはポテトに手をつけつつ話を始めた。
「今日、観光行って正解だっただろ?」
「…………」
口の中にはまだハンバーガーが入っている。ただ同意すべきところなため、こくりと首を縦に振って意思を表示した。
「お天道様にも恵まれて」
「…………」
こくりと頷く。今日は日本でも稀なほどの雲一つない晴れ模様、天気予報では最高気温は夏を先取りなどと言っていた。
「綺麗なものもたくさん見れて」
「…………」
こくりと頷く。体力に自信がないため、半ば引きずられる形ではあったものの、様々な場所を巡った。天候もあって、新緑が眩しいほどに鮮やかだった。
「子供が楽しそうなの、あれは特に良いな」
「…………」
こくりと頷く。住宅地、公園、古刹、どこへ行っても子供たちがいて、そのいずれもが日本晴れを満喫していた。その中にキャスターが入っていこうとした時は肝が冷えたが。
「あと、他の陣営にも会えたし」
「…………」
こくりと頷く──頷こうとした、が。回顧していくと、はたして同意すべきか悩む。むしろ、力量とかそういうのが知られてしまったのではないか。少なくとも、郁にとってはどの陣営も強力に見え、ひたすらに怖かった。
今日で出会えた、出会えてしまった陣営を振り返る。全部で三組、うち会話を交えたのは二組。>>80
一つ一つ思い返していく。恐れているだけでは始まらない。何か、役立つ情報が出るかもしれないのだから。
◇◇◇
まず会ったのは、ホテルを出て少ししたところにある覇久間市の中心に位置する市街地をふらふらと歩いていた時。車道を法定速度ギリギリで走る厳めしい様相のバイクと、それに似合った雰囲気を持つ大男に話しかけられた。
大きい、というだけで畏怖の対象に他ならなかったが、それ以上に使い古されていながらも動きやすさが見て取れる衣服や隆々たる筋骨、太陽光を照り返すサングラスが郁にとっての「関わってはならない、関わりたくない人像」に男を近づけさせていた。
これが郁だけであったり、普通のサーヴァントであればきっとスルーなりなんなりしてやり過ごそうとするだろう。普通なら。が、キャスターは普通の、少なくともマスターにとって普通のサーヴァントではなかった。
「おぉ、早速他陣営と会えるなんて、これにはインド人もびっくり!だなぁ!」
わかってはいた。予想はしていた。だが、よりによってこの男にその口調でいくか。
男は眉根を寄せ、「インド人…?」と訝るようにしていたが、その後すぐに元の豪胆な笑み──一般人からしたら、身震いがしてしまいそうなほどのあっけらかんとした──を見せ、平然と会話を持ちかけた。キャスターは無用心にもバイクに寄ってその話に乗っかる。異常としか形容できない。
落ち着かない心臓を宥めようと男がバイクに乗せているもう一つの人影に目をやり、その女性の、平和的な街中を往くには扇情的すぎる服装に焼石に水どころか燃料を注ぐことになっていよいよもって心が平静を手放した。自我が飛んでいかなかったことが唯一の救いか。
しばらくして、男の方が「そんじゃ、また今度」と切り上げ、そこで会話はお開きとなった。終始何事もなかったことに安堵し、その時漸く二人に会釈だけであっても一応まともな対応が出来たことに羞恥心を覚えた。>>81
考えれば考えるほどに異質な陣営だった。外見だけでの判断だが、そうであってもその後会った二組よりもずっと奇抜であり、憶測の時点でも相当に印象が残りやすい。
何故、わざわざ目立つようなことをしているのか。目立って何か得があるのか。或いは、目立ったことで襲われても自分たちなら返り討ちに出来るという自信の表れか。
後者の考えに至り、あの陣営は相手にしたくないな、と郁は結論付け、また一口ハンバーガーを噛った。
◇◇◇
次に出会った──というか見かけたのは、服装こそ普通のものであったが、まず見た目が異様な二人だった。
片方は、淡い色合いで兎の耳を模したような飾りのついたフードを被り、楽しそうに、嬉しそうにぴょこぴょこと歩く少女。それだけであればなんとも微笑ましいものだが、ふいに風が吹き外れたフードの下から覗く髪は新雪にも勝るほどの白さを持ち、瞳は苺にも劣らぬほどに鮮やかな赤であった。俗に言うアルビノというやつだが、世界を見渡してもあれほどのものは稀という言葉では片付かず、人間の方をとっているというのに底知れない異彩が宿っていた。
もう一人は、兎のような顔をしており、少女と同じく赤い目をしていた。しかし、目の色がどこか人工的だ。年下ではあるようだが、下手に目が合ったりでもしたら喧嘩を吹っ掛けられそうな、そんなガラの悪さが感じられる。前の男ほどではないものの、彼もまた関わりたくない部類の人種に見えた。
思い思いの格好をしていた前の組とは違い、この陣営は髪の色といい目といい、ペアルックのように似通っている。活発な少女と、やや振り回され気味な厳つい男性。まさかとは思うが、恋仲に発展していたりするのだろうか。こんな(おそらく)短い間で。
他との住み分けのためにも、郁はこの組を「兎陣営」と呼ぶことにした。
驚くべきことに、キャスターは郁同様兎陣営を観察するだけで前回のように勇んで話しかけたりするようなことはなかった。ただ、表情は郁と違って明るく面白そうで、出歯亀にしか見えなかった。
特に、立ち去る際の「ごちそうさま」というの、あれはどうかと思う。小さくなったハンバーガーを口に放った。>>82
◇◇◇
最後に出会った陣営は、三組の中でもひときわ存在感と圧迫感の強い組だった。
一通り観光資源となるような場を巡り終え、息も絶え絶えに、顔面が蒼白を越えて紫に差し掛かったマスターを心配したサーヴァントが休憩にと公園に立ち寄った。そこで、白昼の、牧歌的な陽気に不釣り合いな三人──正確には、二騎のサーヴァントと一人のマスターがベンチに鎮座していたのだ。
二騎のサーヴァントの内の一人、ラフな格好をしていながらも、全体から威厳や威圧的な雰囲気が溢れている男性はなにやら上機嫌で、もう一人、真白なるワンピースに身を包んだ少女が、その年嵩に似合わない沈着として大人びた様子でその男性を制していた。一人だけでも人々の頂に立ちそうな覇気を感じるというのに、それが二人もいて、しかものんびりと日向ぼっこをしているのだから末恐ろしい。
マスターの方はというと、これまた年下であった。もしかしなくても、この聖杯戦争で自分より年上のマスターはいないのではないか。魔術師といえば、白髪の陰気な空気を湛えた老人というイメージがあったが、それから皆悉く外れている。この陣営のマスターなど特に、桃色のツインテールに困り眉でいかにも一般人な風情をしている。
サーヴァントとマスターがそれぞれに持つ雰囲気が真逆レベルに違っているが、そんな三人がゆったりと穏やかな木漏れ日を浴びる姿は極めて長閑で、あの中に割って入ろうという気はまるで起きない。
その思いはどうやらキャスターにもあったようで、ほんの少し残念そうにしながらも郁の手を引き別の場所に移ろうとした。
「──ねぇ、そこの魔術師さん?」
出来なかった。少女の凛と響く声に、引き留められた。
ちらとキャスターの顔を窺うと、しまった、とも驚いた、とも受け取れる半笑いを浮かべていた。しかし次の瞬間にそれはいつもの鷹揚としたものに戻り、何事もなかったかのように少女の方へ向き直った。
次いで聞こえたのは、マスターの少女の、やや上擦ったような挨拶。そしてサーヴァントの挨拶だった。見た目に沿った高い声だが、芯が少し震えている。男性が嘲笑するような声色でマスターを皮肉し、少女が敢然と諫めていた。>>83
悠々と三人に向かったキャスターとは違い、心音がややもすれば聞こえなくなってしまいそうな郁はその場から数歩、なるたけ気づかれないように後ずさる。見ているだけで、いるだけで息苦しい。
そんな気疲れしそうな郁に対し、三人とキャスターは穏やかに談笑をしていた。少女と男性から横溢する威風に臆せず、飲み込まれもせずにキャスターはいつもの調子で喋り、マスターの少女が怪訝な顔つきになり、少女が惚け、男性が呆れたようにツッコむ。場の空気とはまるで対照的で、思考に辟易による酔いが回ってくる。
「それじゃあ、またいつかの夜に会いましょう」
落ち着きを払った口調で少女がそう言いベンチを発ったのは、話しはじめて数十分経ってからであり、その頃には郁は体力面より精神面への疲労に耐えきれるかギリギリのところだった。
去っていく後ろ姿を思い出し、確信する。あの陣営がおそらくこの聖杯戦争において一番の難敵だ。あれは、超常的な物事を容易くやってのける手合いだ。郁が夢の中で遭ったおぞましいナニかと、細部は異なっているが視点は似ている。人を平面的に見ている。自分がその視点に立つことに、何の戸惑いも持っていない。
最後となったハンバーガーの一片を飲み込んだところで、やっとキャスターが自分を呼んでいるのに気づく。慌ててウーロン茶を吸い噎せかえる。
「おいおい、大丈夫か?…ぷふっ」
心配ついでに笑っている。否、笑っているついでに心配しているか。恥ずかしさと悔しさが生まれ、笑いの種にはなってたまるかと呼吸を整える。
「……っ、はぁ……笑うことないじゃないですか…」
「めんごめんご。にしてもどうしたよ?急に神妙な顔して」
今度は紛れもなく心配している。毎度思うことだが、この男の切り替えの速さはなんなのだろう。
「……その、キャスターさん」
「なんじゃらほい」
「…私たち、勝てますかね…」
恐る恐る、尋ねてみる。目線はずっと下に向けている。上げられない。どんな表情をしているかも恐ろしくて見れない。>>84
「いや、その、キャスターさんが弱そうとかそういう、わけ、じゃ…その…」
「…言わんとしてることはわかるよ。皆強そうで不安ってことだろ?」
「………はい」
「それはわかる。小生も正直勝つのはムズいと思う」
「えっ」
「まぁ最後まで聞け」
不安感が予想だにしなかった──いや、ある意味少しは予想していた。信じたくはなかったが──言葉に有頂天に達しそうになった郁を、キャスターは静かに抑える。さらに言葉は続く。
「マスターは、勝つ…いや、勝ち残るってのを意識してるみたいだけど、あの面子に真っ向挑んで勝てるサーヴァントなんざそうそういない。況んや小生が勝てるなんて万に一つ程度しかない」
「…………」
「でもな、マスター。戦争ってのは勝つのが肝要なんじゃない。残るのが重要なんだ」
「……残る?」
「そう」
一拍息を置く。目線を上げれば、キャスターの表情はいつもより少し揚々としていて、そして目にはいたずらっぽい感情が宿っていた。
「この戦争、最後まで自分の足で立ってたもん勝ちだ。それ以前に勝ってなくても、なんなら負けてても、生きてりゃ勝ちってわけだ」
朗々と話す、その言葉の一つ一つが郁の心に突き立っていく。煽るのが上手いと例えるべきか。キャスターは話を区切ると、トレイを持って立ち上がる。
「ここから先は、公衆の場ってのも華がない。宿で「しょうせいのかんがえたさいきょーのいきかた」ってのを教えてやるよ!」
得意げに言うが早いか、キャスターはそそくさと店を後にしようとする。急いで追いかけるマスターに、自動ドアが開くかギリギリのところで止まり、人差し指を郁に向ける。
「あと、帰りに調理器具と食材一式買おう。外食も飽きてきたし…あぁ、でもカップヌードルってのも食べてみたいな…」
そんな横暴な、と郁が口に出すより早く、キャスターは店を出ていた。つくづく、自分のサーヴァントの思考回路は掴めない。以上、『田舎者は食事がすむとすぐ帰る』でした。
「聖杯ならこの子を助けられるかも。でもあんたはエミリアの為に、人を―――殺、せる?」
目の敵にしていた姉からの質問に、ウサギはすぐさまこう返した
「―――――――――――」
◇◇◇
激戦から一夜明け、ローガンは泥のような深い眠りからゆっくりと目を覚ました。何だか夢を見たような気がするが、内容を全く覚えていない。寝袋から出ようともがくと、何か柔らかい物に頭がぶつかる。
「………?」
疑問に思って身体を起こすと、ランサーがすぅすぅと寝息をたてて眠っていた。床の上に直接寝そべって、小動物のように身体を丸めている。昨夜の戦闘はローガンもランサーも互いに大きく消耗した。精神的、魔力的な意味でもサーヴァントの休息は必要だろう。
起こすのも悪いと思ったローガンは寝袋から出て、今の内に着替えてしまうことにした。机の上には既に朝食らしきトーストと、スクランブルエッグが用意されていた。つまり、ランサーは朝食の用意をしてから眠った事になる…?
「待てよ、今何時だ…?」
恐る恐るスマホを起動すると、時刻は既に午前十時をまわっていた。大体八時間は眠っていた事になる。
「しまった…圧縮睡眠の魔術を使い忘れた…」
魔術使いの間で有名な自己解体の術。これを応用して睡眠時間を短縮しながらも十分な睡眠の質を得る事が出来るのだが、ローガンは時差ボケ解消と聖杯戦争における時間のロスを無くすためにこの魔術を姉から教わっていた。おかげで時差ボケは解消したが日本の時間にあわせて寝すぎてしまったようだ。
ランサーを起こさないようにそっと、スーツケースからジーンズと白いTシャツを引っ張り出して着替える。
慣れた手付きで着替えを終えるとラトーストを頬張った。位置取りの都合上、ランサーの顔を眺めながらの朝食だ。
やる事は多い。強力な力を持つバーサーカーにアサシン、それにライダー。敵のサーヴァントは強い、そしてランサーはとてもじゃないが勝ち残るには力が足りないだろう。何か策を考えなければいけない。にも関わらず…
(しかし、改めて見ると綺麗だな…)>>87
ローガンはスクランブルエッグをかきこむように食べながらぼんやりとそんな事を思っていた。瞼を閉じて静かに眠るその寝顔はなるほど確かに人間では無いような美しさを放っている。姉が相当な美人であるために女性を見る際のハードルが無意識の内に高くなっているローガンでさえこう思わせるほど、白い肌に整った顔立ちは絵になるものだった。
やがてランサーの瞼がかすかに震え、ゆっくりと開く。引き込まれるような真っ赤な瞳が焦点を合わせ始め、突然ランサーが起き上がる。
「お、おはようございますです。……いや、あのえーとサボってたわけじゃないです!ただちょっとマスターはまだ寝てるから休憩しようかなぁーって思っていたらいつの間にか寝てただけです!決してサボろうと思っていた訳ではなく…………」
あたふたと言い訳をはじめたランサー。ローガンはトーストを飲み込むと、別にいいから落ち着け、と一声かけた後に
「おはようランサー。具合はどうだ?」
と冷静に続けた。ランサーはペコリとお辞儀をすると、
「負傷は回復してるです。マスターからの魔力は問題なく供給されてるです」
しんどくないです?と続けるランサー。問題ない事を告げると家事に戻るのか、アパートの部屋を出ていった。
ローガンがさっきまで着ていた服を持って。
「待て待て待て待て待て待て待て待て!何をする気だランサー!?」
「何って…お洗濯です。管理人の部屋を勝手に借りてマスターの服を綺麗にするです。何か問題あるです?」
「問題だよ!俺の気分のな!」
さも当然のことであるかのように話すランサーは理解出来ないのか首を傾げる。その瞳に一切の疑問の余地はなく、見知らぬ人の脱ぎたて、しかも男の衣類を洗濯することに対する拒否感などは一切感じない。だがローガン=クレイドルは(こんなことでも)誇り高き魔術師としてのプライドを捨てられなかった。
「マスターは偉い魔術師のお家です。人に洗濯してもらうのは当たり前ではないです?」
確かに実家では給仕が洗濯とかしてくれていたがそれは昔の話。思春期を時計塔での寮生活で送っていたローガンには家事においてお付きの者など必要ない。それに先程まで綺麗だなんだと考えていた相手に、サーヴァントとはいえそんなことをさせるのは忍びない。
これは意地だ。ローガン=クレイドルという魔術師の意地なのだ!>>89◇◇◇
洗濯機のスイッチを押した後、アパートの周囲に簡単な結界をはる。それが終わるころには洗濯機が止まっているので中の服とかを干す。この一連の作業でかれこれ三十分は経っただろうか。全ての作業を終えて部屋に戻るとランサーが机の前に座って窓の外を眺めていた。
背中から物凄く哀愁を感じる。気のせいか二本のアホ毛も下がっていて、こちらに気づいた様子も無い。身じろぎ一つせずに窓の外の虚空を眺めている。その姿を見ていると痛々しくなってくる。
(……悪いことした…か…?)
なんとか機嫌をなおしてもらわなければいけない。とはいえ一体どうすればいいのか。
数刻考えていたローガンの頭に一つアイデアが浮かんだ。ならば早速実行するのみ。
「なぁ、ランサー」
呼びかけるとゆっくりとこちらに振り向くランサー。目がすわっているので少し怖い。無機質な人形を見ているような気分が胸中をよぎる。
「ついてきてくれ。敵情視察に行く」
ランサーの顔がぱあっ、と明るくなった。
◇◇◇
覇久間には大型アウトレットモールがある。市の内外から多くの観光客が訪れる人気スポットだ。連休中ともあってか、ローガンとランサーは人の波に呑まれそうになっていた。
「密だな…」
「密ですね…」
あまりの人混みに憂鬱になりながら散策する。この様子だと聖杯戦争参加者の特権、サーヴァントの識別は役にたたなさそうだ。
明るい喧騒と雰囲気に触発されたのか、心なしかランサーは楽しそうにみえる。色々な店に目移りし、物欲しそうにする。
(しかし、目立つな…)
ローガンはランサーの一歩後ろで周囲を見回していた。ランサーはサーヴァントであるから、こんな風に堂々と人混みを歩いていれば聖杯戦争関係者の目に止まるはずだ。接触しようとしてきた奴から敵陣営の情報を奪う。そのつもりでいたがランサーの改造巫女服はやたらと目立つ。ただでさえアルビノな彼女が扇情的な服を着ているのだ。関係ない一般人の視線も注がれる。
「ランサーこい。服を買ってやる」
これでは索敵の障害になると判断したローガンはランサーに現代の服を着せることにした。多少は目立たなくなるはずだ。>>90
「い、いいんです!?そんな、服を賜るなんて……」
「そのカッコじゃ目立つだろ。好きなの選んでこい。ただしパーツごとに一つずつだ」
自分達に向けられる視線を減らしたいローガンは手をひらひらさせて促す。若干スキップしながら、ランサーは目の前の服屋に入っていった。
(まぁ、一つ選べばいいんだ。さっさと終わるだろ…。姉貴もそんなもんだったし…)
そう思っていた時がローガンにもありました。
ランサーが服を購入し、着替えた頃にはかれこれ一時間半は経過していた。店内へと入ったランサーの姿を見た店員は「逃してなるものか!」との気迫をもってあれよあれよと対応してくれた。ランサーもそれに乗ったので、気がつけばこれほどの時間が経っていた。正直、小腹も空いてきている。
「姉貴はこんなにかからなかったぞ…?……あいつはズボラだからか………」
この場にいない身内の事をぼやきながら、ローガンはランサーが着替え終わるのを待っていた。店員には着て帰ると伝えてあるのでランサーが終わり次第、会計を済ませて何か食べに行こうと考える。
「出来ましたです〜」
試着室の内側から呼びかけられ、ローガンは立ち上がる。
「じゃ〜ん、です。似合ってるです?」>>91
カーテンが開かれるとそこには新しい衣装に身を包んだランサーがいた。白い横縞模様が入った淡い色のTシャツにフード付きのパーカーを羽織っている。黒のミニスカートから覗く足は薄い黒タイツで包まれていて、そこはかとない色気を感じさせる。
「ん、いいんじゃないか?よく似合ってる」
ローガンは疲れによってなってしまった死んだ目で感想を述べた。ランサーは少しむっとしたようで
「少しは真面目に見て欲しいです。さすがの兎(わたし)も怒りますです。まぁ、いいですけど」
と文句をつけた。疲れたんだから仕方ないだろうと言いたい所を飲み込んで店員さんと一緒にレジへと向かう。
「選ぶのに時間がかかりすぎだろ…」
「兎(わたし)だって一応女の子です。せっかくならかわいい洋服着た…い……です?」
ふと、ランサーが足を止めた。会話を中断して一枚の服をじっと眺めている。気づいたローガンが店員に待ってもらい、ランサーに近づく。>>92
「どうしたランサー?何を見つけたんだ?」
ランサーはそれに答えずにじっと見つめている。視線の先にあるのは一枚のパーカー。淡い色のフード付きのもので、フードには長い布が二つついていてウサギの耳のようにもみえる。いわゆるケモ耳パーカーの一種なのだろうか。
「欲しいのか?」
ローガンが問いかけるもランサーは答えない。その表情からは深い思い入れを感じた。哀愁、郷愁、悲哀、歓喜、後悔、苦悩、怒り、そして羨望………。一言では言い表せないような感情が玉兎の中で渦巻いていた。
やや躊躇ってローガンは店員に告げる。
「すいません、これもいただけますか?」
驚きを浮かべるランサー。店員は、承知しました、と一言告げて、うさ耳パーカーもレジカウンターへ持っていく。ランサーが何かを言い出しそうだったがあえて遮る。
「感謝の気持ちだ。受け取っといてくれ」
これからの分も含めてな、と。ローガンの言葉を聞いた玉兎は少しの間俯いた。だがすぐに満面の笑みを浮かべて
「ありがとう…ございますです!マスター!」
と大きな声で感謝を告げた。
その笑顔は大輪の花のようで、そして―――
周囲からの視線が痛かった。と、ローガンは後に振り返っている。>>93
4/30 覇久間ランサー陣営[[兎を追うな]]時間になったのでこちらにも改めてルールを貼っておきます
①本戦スレで行う
②私(京介)が議題を提示するのでそれにレスする形でそれぞれの答えを書いていく
③30分〜1時間(この辺は様子見)経つか参加者の皆さんの回答が出揃った時点で次の議題を提示
④参加者同士の雑談は議題への答えの後なら自由
⑤ある程度メタ発言は可、神秘の秘匿は気にせず出来るだけ隠し事は無しの方針でお願いします(京介で言えば妹の魔眼の事など)「では……リディア・メルトと申します。ギリシャに居を構えているメルト家の当主候補、ですね。
使用する魔術はメルト家で受け継がれるものとして降霊術を。霊を自らの身に降ろすことが多いですかね。
あとは……個人的に得意な魔術に暗示があります。人心を誑かす魔女、だなんて言われるのは御免なのであまり使わないのですが。
私は13歳ですしこの中だと最年少、なのかしら……若輩者の身ではありますが、よろしくお願いしますね?」では、目つきの悪い青年が居心地悪そうに自己紹介します。
「えー……どうも、初めまして。間久部理仁って言います。扱う魔術は強化魔術と……宝石魔術を少々。」
「本家のアルマソフィアは宝石魔術と特性である『循環』を用いた研究をしていて、間久部はその分家っす。
あ、なんで本家ではなく端くれの奴がここにいるのかというと……その、あー……代理として出させていただきました、はい。
……ともかく、今日はどうぞよろしくお願いしまぁす。」
と言っておずおずと座る。>>96
「リルガだ。リルガ・プッチ・デッラルゴ、魔術師の数少ない討論の場と聞き参加させてもらった次第だ。
……この魔術師同士の意見交換が有益な時間となるよう期待している」
「して、私の魔術だが。『解析』を専門とする水の魔術だ。
水は凡ゆる生命の起源でもあり、原初の一。水に内包された情報を解き明かすことに尖鋭化された魔術とでも言おうか。
……とまあ仰々しく語りはしたが、所詮は研究畑の人間だ。ただの頭でっかちだよ私は」「ベラルーシから来た、アレクサンドル・ベロノソフだ。
使っている魔術は……村ではただの当たり前な儀礼だったから特に名前はなかったのだが……便宜的に「冬魔術」と呼んでいる。効果は…大体水を氷にしたり草木を枯らしたり、だな。
……よく聞かれるので先に言っておくが、この手袋はただの魔術礼装なので両手に火傷をしていたりはしない。
よろしく。」「ヨ、ヨセフ=ベハイムです。ベハイム家の…当主です。つ、使う魔術は『結界魔術』といいます。じ、自分を土地の主とし、し、神秘を高める事で根源にいたろうとする魔術です。な、何でも出来そうですがフルで力を使うには相当準備がいるので、ぼ、防御メインです」
>>96
「先ずはこのような貴重な場に招待してくれた大鳳氏に感謝を。
私の名はゾルフ、姓をゼントリクス。かつては時計塔にも籍を持っていた家系だ
まぁ、今はこの通り米国に渡って協会との縁は切れているがね
──スーツの議員バッジを指で叩きながら男は言葉を続ける。
扱う魔術は新秘魔術、と言っても誰も分からないか………。
そうだな、より能動的な混沌魔術と捉えてくれたらいいかな。
今はまだ、ね。この様な時勢だが実りある場になることを期待するよ」
知らないよこんなおじさんって人向けにリンクを貼っておきます
https://fatetv1830.wiki.fc2.com/m/wiki/ゾルフ・ゼントリクス>>96
「名前はナイトハルト・ケーフェンヒラー。こういうナリと名前だが日本人とドイツ人のハーフだ。扱う魔術は占星術。魔術属性は風。揉め事処理屋をしている。仕事柄、活動の拠点はこれと決めてはいないが世界中移動している」
「趣味はボクシングと将棋、それと読書。……いや、これは魔術とは関係なかったな、すまない」
「このような会合に招待していただき感謝する。本日はよろしくお願いします」>>96
エルシュタイン
「こちらこそ。よろしくお願いしますよミスター大鳳。さて。貴方に倣い、私も自己紹介をしなくてはね。
私はエルシュタイン・ラジアナ・カヴァセルリ。イギリスはイングランドの出身だ。かつては時計塔にも一時的に在籍していたが、今は故あって『覇邪ノ影煌』という日本の退魔組織のイギリス支部の支部長を務めさせてもらっているよ。
魔術はおおよそ何でも使えるが……家系的には降霊術が一番得意ということになるのかな?ともかく今日は色んなしがらみは忘れて、楽しく話そうじゃないか。」>>96
「(やっべなんか出遅れた感じがする)日本から来た、六蘭家当主六蘭耿実という。魔術は…まぁ、物を修復する復元魔術。属性は確か水だったかな?道具の修理屋を代々やってる。今日はよろしく頼む」>>111
「………………………さぁ、なんだろね。じ、実の子供を犠牲にしてでも叶えたかったんだろうけど、ぼ、僕にはわからないよ。い、今は…穏やかな生活。それが悲願かな…」>>111
「強化の果てにある数の果て……………堰口家の悲願はそこへ自らが至るって事だ。うちの親父はやろうとして強化に耐えきれずに死んじまったがな。」>>111
「………金儲け、とか?」>>106
「魔術師たるもの、自衛のために手管を備えるのは不思議ではないが──
俺のように荒事にも魔術を使う前提で考えている者のほうが正道とは言えないだろう。
魔術師が戦闘にも術を使うように意識し始めたのは、やはり死の代名詞のごとき魔術師殺しの影響は大きいだろうな」
「……最近、あれの再来と言われる者もいる。あなた方も用心に越したことはないだろう」>>109
すみません、>117は109にも当ててます>>111
「『一族の悲願』か……。父祖から伝わる悲願は根源への到達だ。とはいえ、俺の代で抑止からの目を抜けて到達できるとは思えない。これは次代への宿題にするつもりだ」>>111
「……あー、『宝石魔術と『循環』の特性によって宝石からより神秘の濃かった記憶を引き出して、
更に宝石を一つの世界と見立て、魔力を汲み出しても失わない循環系、神代の循環文明を再び作り出し、
第三法、永久なる魔力機関、蒼輝銀河の煌めきを手に入れること』……がアルマソフィア家の悲願っすね。」
(……まぁ、限られた資源しかない今の本家なんかじゃあ、実現は無理だろうが。)>>111
「『一族の悲願』、か……。まあ魔術師である以上、無いとは言えないね。とはいえこれはある種の冠位指令(グランドオーダー)みたいなものでね、私の家系は『魔の根絶』が成し遂げるべきこととして設定されているんだ。」>>130
「そうですか……私以外にそのような。どこの土地にも、例え文化が違おうとそのような方はいらっしゃるんですね。
とにもかくにも。私の願いである『みんなを抱きしめたい』という思いも含めて。それを為すためにも、そして一族の悲願を背負うかもしれない立場な以上、魔術の研鑽を重ねているというわけなんですよ」あとは魔術師さんの一族の悲願待ちかな
>>125
「成程、それは良い心掛けだ。だがその為には自分の事も大切にするべきだと俺は思う。それ程までに自分のことを想ってくれる相手からすれば相手が自分を顧みないのは見ていて辛いだろうから」
>>127
「まず大鳳家は根源ではなく神獣の作成を目指している。そして机上の空論の域を出ていないが日蝕や月蝕と言った現象の原因と考えられてきた獣が世界には数多存在し、それらを再現する事で『陽の光を喰らう神獣』を作り出す。と言うのが先祖の立てたプランの中でも俺の属性と相性の良い方法だ」
「あとは人間の魔術師を幻想種へと変生させるなんて技法もあるがこれはダメだ。理性を保った状態で変生する例が無い。ふ、こんな実験をするから魔女狩りになど遭うのだ」「(あー、帰りてぇ……正確には何の騒ぎも注目も無く穏便に帰りてぇ……あ、飲みもん無くなったわ……)」
と理仁はこそこそ席を外して飲み物取りに抜けます~「(ここの人……皆が僕より強い…。怖い…怖いなぁ。もし今戦いが起きたら、今の僕じゃすぐにやられる…。)」ヨセフ、そそくさと部屋を抜け出します
>>139
「もしもそのような方法があるとするならば何%だろうと食いつくだろう。今の大鳳では未だ不可能なのだから何なら理性を保たなくても構わない。俺自身がと言うのなら少し厳しいな。まだ死ぬ訳にはいかない」
魔獣幻獣すっ飛ばして“神獣”ならそら食いつくよね
>>140
「いや、構わない。魔術師相手にこの話をすると高確率でそのような反応をされる」
「次の議題に入ろうか。『家族関係はどうか』……これは答えにくい者は友人や恋人についてでも構わない」
「うちは母が既に他界している。俺は母の遺言である「兄とは妹を守るもの」という言葉を守り妹の飛鳥の事を大切にしている。────父親については現在暗殺.して魔術刻印を剥ぎ取る計画を立てている。あの男が妹の魔眼の事を知ればよからぬ事を企むのは目に見えているからな。将来的に害となるなら排除する」>>141
「結局は期待なんて毒にもなり得るものですので。私は私のペースでやっていく所存ですの。他人の期待は嬉しいもの。ですがそれだけです。最終的にどうするかなんてのは自分の意思でしょう?」
というか実は他人の期待とか苦にしてないというか……ね?
>>143
「ああ……お話を聞く限りは、そのような御老体と聞きます……」
「(あら、あのお二人……顔色悪いですね。ふむ?)
少し、失礼しますね。お話自体はこの子に話しかけたら出来ますので、なんなりと」
ってカラス型の使い魔を用意して離れたりする。精神直結させてるからこの子に話したらリディアとお話し出来るよ
外に出た組と話しながら内組とも話せる。並列的な思考は得意技だったり
>>146
カラス「姉が二人、当主は私の父です。
……私たち三姉妹は降霊術の他に誰もが特異な才を持ちまして。私は「暗示」、姉は「強化」「解析」をそれぞれ修めています。私たちはこの己特有の魔術と降霊術を組み合わせているんですよ」戦闘容認派の声に若干眉間の皺を深くするゼントリクス
>>134
「分かって貰えて素直に嬉しいよデッラルゴ氏。国に居ても私の周りはどうも血の気が多い連中が多くてね
そしてその「情熱を胸に秘めた旅人」と言う表現も実に佳い。
愛は人を詩人にするというのは誰の言葉だったかな……?
キミの秘めた情熱は何か興味が湧いてきたよ」
「勿論、デッラルゴ氏以外の皆が抱く情熱・悲願・大願……親や祖に縛られないキミたち個人として望みは大変興味があるね」
>>136
(だが彼女……リディア・メルト嬢は魔術師の娘と言えど余りに成熟し過ぎではないか…?
年頃の娘子とは思えぬ発言……ハッ いけない!
余り年端もいかない女の子をマジマジと見ていては失礼アンドスキャンダルコース…!
他意はないとは言え自重せねば!!)ヨセフ=ベハイムは極度の怖がりである。ベハイムの当主という立場上、こうした魔術師同士の交流会のようなものに参加することは多々あれど、このような魔術的に無防備な状態での参加は初めてのことであった。
「…これで、よし」
わかってはいる。考え過ぎかもしれなくて、自分が危惧しているようなことは無いのだと。
それでもヨセフ=ベハイムという魔術師は、こうした準備を止められない。もし戦闘が起きた時、必ず自分『だけ』が生き残れるように細工をすることをやめられない。
それが『安心』につながるのなら、ヨセフはなんだってするだろう。
『一族殺し』―――父親を屠り、親戚一族を全て始末したように。
ヨセフはまた、そそくさと部屋に戻るのだった。「(暇だし、次作る物の図面でも考えとくか……って、なんか進んでる…?)」
>>166
あ、追記。最初の声若干裏返ってます>>176
「あぁ、いや別に言い難いとかそういう訳じゃなくてね。話すに値する思い出が、家族間でも友人間でもないっていうか…我輩、広く浅くいってたし」>>146
「ふむ…大鳳家の事情について詳しくはないがとても込み入っているようだね…
だが妹を守る、親と言えど害を為すならば排除するという気概にはエールを贈ろう。
ともすれば現当主の言いなりになりがちなのが魔術師というものだ。その感性は実に私好みだよ」
「それで家族関係か。父は既に他界して久しいが母と妻、息子たちとは仲良くやっているよ。
な、仲良くやっているよ……?くっ!ちょっと自信なくなってきた!!ワイフの視線が最近冷たいんだ!
なんだ?髪か?頭髪か?!少し薄くなっただけじゃないかぁ…」
>>153
(おっふ)
「ン、ごほん。この場に列席した敬意を込めてメルト嬢とお呼びしても?
いや、先程からだいぶ立派な口振りでおじさん感心してしまってね
キミぐらいの歳なら友達と遊びたいとか、魔術師の家系に生まれたことに少なからず不自由を感じてはいないのかな、と」>>174
「あら、そんなことはないですよ?強化は基礎にしてとても重要な魔術です。己の強化を得意とする、というのも自己の内面の存在昇華なんかに有利でしょう。……己の体内を宇宙観(コスモロジー)として見る考えは中国や日本で盛んですし」
ってリディアが元気付けてくる。ホログラム的なやつで優しい笑顔を浮かべてる
「それに……私の姉様の強化と違って繊細かつ堅牢な扱い方をなさっているのでしょうし」
>>182
「ああ……わかります。かくいう私も、あまりああいう場は少し気疲れしてしまいますね。……一人では心細いので、一緒に戻ってもいいですか?」
>>153
「勿論、ミスターゼントリクス。
……いえ、魔術にばかりうつつを抜かしていては人としての在り方に孔が出来るというもの。これでも友達は満足するほどにはいますよ?遊ぶことだって多々あります。
魔術師の家系に生まれたことに後悔などあろう筈もありません。家族にも恵まれていますし、何より私は私の手で夢を叶えたいので」ヨセフ、帰還。バレないように自分の席に戻る
>>191
「いえ、その、堰口様にはそういうことは……いえ、興味はありましたし、堰口様の強化は素晴らしいとも聞いております」
とかしてたらリディア(本体も帰ってくる)
リディア(最後、ヨセフさんに話しかけたけど無視されちゃったな……気が動転してたのかな……)「……家族の話…か…………………。ず、ずっと前に亡くなってるよ。誰かに殺されたんだ。こ、怖い話だよ……」と、素っ気なく言います。それ以上は言いたがりません。聞く人が聞くと他人事のように感じるでしょう
>>216
「おっと、ただ食べるだけじゃ100%勿体ねえ。このちくわの中にシソと梅ぼしを入れてだな。醤油をつけて食ってみてくれ。」>>190
「なるほど。キミはその齢で既に人生の目標を、夢を持っているのだね。
その言葉が聞けて良かった。そうだ、合衆国に足を運ぶ事があったら電話を。
ホワイトハウス見学ツアーで良かったらお友達込みで都合を付けてみせるよ」
>>191
「フッサフサ、だと……!?」
──動揺するゾルフ・ゼントリクス。その胸に去来するのは在りし日のワイフの笑顔。
妻との出会いは親が決めたものだったが……議員であり魔術師であるゼントリクス家に自由恋愛をするという選択肢はないが
それでも私は彼女を愛しているし、それはこれから何十年変わらないと自負している。愛されていたという自信もある
だがだが最近の彼女は──
い、いや大丈夫だ堰口氏。私にも魔術師としてのプライドがある。気持ちだけ受け取っておこう。」
「……他意はないのだが親交の記念に連絡先を教えて貰ってもいいかな?」>>228
「……………その実例があんたの目の前にいるぜ。あと質という点なら人間の適応能力を利用する事で後天的にも伸ばす事ができるかもしれない。断定できなのは失敗例が多すぎるからだ」1時間過ぎましたので次の議題に移りたいと思います。エルシュタインにつきましてはドロテーアさんが戻ってきたら復帰するという事で
>>217
「ああ、そうだな(すまない、瞬。お前の為だ)」
>>218
「モニター?具体的には何をするものなのだろうか?」
>>224
「(ゼントクリス氏は頭髪が気になるのか…いや、あの薬はまだ試験中だから薦められないな)」
「次の議題だ。『もし聖杯大会や聖杯戦争に参加するとなったらどんな触媒を用意するか、どんなサーヴァントを召喚したいか』だ。ちなみに俺は開催地で知名度補正が受けられそうで尚且つ調達が比較的容易な物。サーヴァントに対しては最低限裏切らなければいい」
「メタ的に言うなら先祖の縁で雑賀孫市が召喚される可能性が高い」>>232
「どうもどうも。では一杯…」(渡されたものを一気呑みする)>>235
「そうだな。ピンポイントでそいつが召喚されるものを触媒にするかな俺は。あと騎士とか侍とか傭兵とかの方がいい。歴史の偉人とは言え、俺が召喚した使い魔。王なんざ召喚した時なんざ、俺が不快不敬って事で断罪されるのが目に見えてる。」>>235
あ、やべー。個人ss後の時系列かとか考えてなかった。それによって解答が変わるのに今気づいたどうしよ。
とりあえず聖杯戦争未経験時の解答をば。経験後の解答が聞きたい人は言ってください。
「……本当は、し、死ぬほど参加したくないけどもしもの話なら…。ぼ、僕が前に出なくても勝てるサーヴァント、そして、どんな手でも使うようなのがいいかな…。アーチャーとか。う、裏切らないってのもだ、大事だと思う」>>235
「まぁ、知名度があって尚且つ血生臭すぎる逸話がない英霊に関する触媒がいいっすね。
クラスは……バーサーカー以外で、御せる自信なんて微塵もねえや。」>>235
「そうだな……、第一線で戦えるだけの実力、真っ当にコミュニケーションが取れるだけの見識と理性。これは欲しいな、どれか欠けても勝ち抜くことは難しいと思う。クラスは三騎士かライダーが望ましい」>>230
「ええ、是非!いただけますか?」目をキラキラさせてる
>>224
「それは……豪勢ですね……ありがとう、ミスター。あなたのその厚意に盛大な感謝を」慈愛溢れるお母さんスマイル
>>231
「……殺人事件……?」そういや知り合いの野紀さんがなにかに怒ってた時期があったなー、弟子が爆発四散とか言ってたなーって思い出す
>>232
「わぁ、ありがとうございます……私、チーズ好きなんです」
>>234
「それこそ杞憂というもの。魔術師の仕事は次代に継ぐこと。命が絶えない、血が絶えない、それだけでも貴方が当主となったことに莫大な意義があると思いますよ」
>>235
「出来るだけ話しやすい方を。……あまり王としての気が強い方は、少し怖いかもしれません」
心の声的には気弱な奴の方が心に入り込みやすい
>>237
ニコニコしながら理仁君のお世話焼いてるねぇ
「お酒、いただかないのですか?」
>>239
「ただ精神を無理やり支配しては、御想像の通りですよ。私の暗示は都合が違うんです。……蕩けるように、染み込むように。愛を持って私の魔力で抱きしめる。抱き留めて、彼らのことを赦してあげる。害でなく、善意を持って従と為す。それが私の魔術です。
……姉様方は「強化」で体を強化して霊の負荷に耐えたり、「解析」で霊を解析して対策を予め張り巡らせてから降霊するんですけどね。
水の、記憶……水はこの地球を形作るもの。この地球の根源に近しいものと言っても差し支えないものですね。水に刻まれた記憶の具象化、などもできたりするのでしょうか」ヨセフ、帰ることを考え始めるの巻。
「(問題はどうやって安全に帰るか…だけど…)」
周囲は強敵ばかり。さぁどうする!?>>254
「主だったのだと、さっき言った道具の修理屋。あとは株を少々と、昔あった土地で不動産を。まぁ家の連中に任せっぱなしだけれど…」(ちまちま加水しつつウィスキーを呑む)>>260
あ、でも義父が貿易商の仕事についてます>>254
「フリーランスの魔術師で揉め事処理屋をしている。協会の執行者の仕事を代行することもある。仕事上、魔術師や魔術使いとも戦うことが多い。何か依頼があれば請け負う」>>254
「普段の仕事、か。片手間で霊地の賃貸による収入を資金源としているから仕事という仕事はないな」>>266
「こ、こんなご時世ですから、ふ、不動産屋も安定しないかなって…。ま、魔術絡みの調査もしてくれるので重宝してます…」>>271
「?許可を取る必要があることでもないだろう。君が帰りたいなら帰ったらいい」>>271
「そうか、また機会があれば食事でもしよう」>>272
「あ、ありがとうございました。また縁があれば…」
と言って、そそくさと帰ります。
ヨセフ君の心を開くには、それこそ命を賭けて彼と向き合うしかないのでしょう。
眠気がすごいのでイオン、撤退させていただきます。ありがとうございました。>>254
「まあさっきから言っているけれど、退魔組織の運営とそれに関わる諸々が私の仕事だよ。部署間の調節や仕事の配分、それに任務に向かう人員の配置等の全てが私の仕事と言っていい。たまに私も前線に赴くがそうそうなことがなければ、下の者達に任せるさ。まあ具体的にイメージはしづらいだろうし、ざっくりとエク.ソシストの組織と思ってくれて構わない。
あとは趣味でやってる画工としての絵がささやかな収入源だよ。」>>285
「あまりにいい飲みっぷりなのでついつい進めてしまった」(既にスコッチを空にしても素面)「すまない、私もそろそろ退席させていただこうか。
今宵は楽しい夜だった、また日が明ければいがみ合う我等だがこんな日がまたあってもいいと思う位には、満喫できたと思う。
……願わくば、特にゼントリクス氏とは個人的に飲み交わしたいものです」>>295
「おっと寝てしまったか、まあ、しばらく寝れば酔いを覚ましたら送っていこう」(フォアローゼスの封を切る)ふむふむ、ではそろそろ理仁の方もお暇させていただこうかな?
「あ~、申し訳ないっすけどそろそろ退出させていただこうかと。
いやぁ……正直、久しぶりに有意義な時間を過ごせました。またご縁があれば……」
って言ってペコリ
「メルトのお嬢ちゃんも元気で。今日は色々とありがとうな。……じゃなかった、ありがとうございました」>>305
「ええ、また今度!そうだ、ラ○ン交換してもらってもいいですか?」でさらっと連絡先ゲットするタイプ>>307
「そうか、今日はありがとう。楽しい時間だった」
べべれけ六蘭をお姫様抱っこで退場していく。雨の日のこと。
ゲルトは窓の外に映る雨天を眺めながら、昨日の出来事を思い返していた。
神をも粛清する光の極致。頼もしさと同時に、悍ましさすら感じてしまう他人事にできない兵器。
心臓を押さえ、脳内にフラッシュバックするのは忌まわしき過去。肉体を弄られ、やめてほしいと懇願しても暴走を止める事のなかった父の凶相。
手が震える。
大丈夫だ。まだ生きているし、聖杯の顕現まで後もう少しなのだ。勝てる、自分は勝ち残れているんだと、自らに言い聞かせるように心を落ち着かせる。
「この手に聖杯を手にした時……その時はようやく……」
普通の身体に戻れる。
もう肉体の劣化に恐怖を抱き続ける必要も、アトラス院からの追及からも逃れられるんだ。
そうして、何時しか憧れていた“普通の日常”を送る資格が得られる……それが遠くない未来、ようやく手に入ると考えただけで震えが止まった。
「雨のせいかな、湿っぽい気分になっていたようだよ」
『落ち着いたようで、何よりです』>>311
虚空からアーチャーが現れる。
「主人が凹んでいる姿を観賞とは、中々いい趣味じゃあないか」
「いえいえ、トンデモありません。この問題はマスター自身が解決し、落ち着かせた方が吉だと判断したまでです。事実、お一人の方がよかったでしょう?」
「まあ確かに。こんな俺でも、踏み込まれたくない一線はあるさ。そこのところを汲み取ってくれるのは、流石は俺のサーヴァントと褒めてやりたい」
「おや、あなたの口からお褒めの言葉が聞けるとは。野郎にかける言葉などないと思っていましたよ」
「なーに、気に入った奴は野郎であっても気色悪い言葉くらいは贈るさ」
軽口を叩いている様子から見て、普段の余裕綽々とした態度が戻ってきたゲルト。
アーチャーの配慮のお陰か、それとも持ち前の生欲への意地汚さのせいか即座に前向きのなる事ができた。
彼……英霊「羿」は実力は勿論のこと、性格面でもゲルトは助かっている事が多々ある。
教師然とした佇まいを見せたと思ったら、同年代を思わせるようなスケベな面も偶に露見させる。堅苦しいかといえばそうでもないので、息抜きを含んだ雑談は中々に精神安定剤になっていたりしていたのだ。
湿っぽい空気から抜け出して、少しだけ開放的になったせいか、ゲルトは普段なら訊かない筈であろう“内面”へ踏み込んだ話題を振る。
「なあ、アーチャー。君は紳士的で、男女問わず物腰が柔らかい。さぞかし人徳があっただろう君がどうして、神話の通りの最期を迎えたんだ?」
「……あなたにしては珍しく踏み込んだ話題ですね。その類いの距離感は保つ方だと思ってましたが、まさか隠れて飲んでました?」
「今回に限っては伊達や酔狂じゃない。少し心境の変化があってね、アーチャーの昔話が聴きたくなったのさ」>>312
口元は笑みを浮かべていたが、視線はしっかりとアーチャーの目に向けられていた。
冗談や軽口から訊いているのではないと、ゲルトの態度から察して仕方ないとばかりのため息を吐く。
「生前の死に際を語るのは少々おかしな気持ちですが、これも一つの経験という事にしておきましょう。では、先ず最初に────」
中国神話の大英雄「羿」を語るにあたって外せない要素は『十つの太陽』『嫦娥』そして『逢蒙』だろう。
彼は元は人間ではなく神に分類される存在であり、しかして神としての在り方も特殊だった。
本人曰く────神を粛清する機構こそが自らの在り方であり、この時感情らしい喜怒哀楽など一切なかった。
そんな彼に感情という心を与(おし)えたのが、後に妻となる嫦娥。彼女のお陰で今の羿があると言っても過言ではない。
その後は神話の通り、聞き分けのない太陽たちを粛清機構の名の下に撃ち落とす。そして天帝の手酷い裏切りを受け、人の身に零落してしまう。
そこからは波乱万丈の人生と言えるだろう。
地上を脅かす災害の魔獣等との戦い、嫦娥との決別、そして……弟子の逢蒙。
「現世での伝説において、逢蒙は男性として伝えられているようですが、私の知る逢蒙は女性です」
「語り継がれた伝説と、実際の伝説は異なるパターンか。それにしても、あの悪名高い逢蒙が女とはね。まさか……女性だったから油断したとか、ではないだろう?」
「そうですね……どう答えたら適切でしょうか。少し、複雑な話になりますが、先ずは逢蒙の出自から」>>313
中国神話においても裏切り者として悪名高い逢蒙。
『羿を殺.すものは逢蒙』とも言われる程の、アーチャー曰く“女性”であるとされる彼女には秘密があった。
かつて粛清によって落とされた九つの日輪。殺された事への怨み、その執念によって転生を果たし、ある少女の魂に無理やり入り込んだのだ。
逢蒙はただ英雄に憧れ、そして彼のようになりたいと願った少女だった。しかし、憧憬は復讐の材料に利用され、逢蒙は悲嘆と絶望と、強制的に植え付けられた憎悪を抱きながら師を殺した。
その後、少女は絶望の余り自ら命を絶ったと言われる。
「これが私の一連の生前ですよ。現代記述と照らし合わせて興味深い部分はありましたか?」
「ああ、どれも興味が尽きないよ」
逢蒙の真実には驚きを隠せなかったが、ゲルト自身が関心を寄せているのは“粛清機構”の部分であった。
神々を粛清する為に生み出されたある種の兵器。自身の過去と照らし合わせると、少ない共通点があるのだ。
成る程。羿を触媒無しで召喚できたのは多少の運はあっただろうが、どこか求められた在り方が似ていたからなのだろう。
運命なんて信じる口ではなかったのに、ここに来て感じてしまうなんて……と、くさい考えが過ったところでゲルトは用事を思い出す。
「すまないね。ちょっと電話をかけるから」
一言断りを入れて、ケータイを操作する。
通話の相手はジェームズ・ヘンダーソン。昨日の死闘後、電話をかけるように約束をしていたのだ。
ケータイが振動する。一度、二度、三度、四度と震えても出る気配がない。>>314
────おかしい。いくらエセ忍者とはいえ、元は軍人。仕事絡みであれば見逃す筈はないのに……。
怪訝に思うゲルトの脳内には、二つの考えが浮かび上がっていた。
────電話に出る余裕がない程、バタバタしている。
────電話に出れる身体的状況下に置かれていない。
脳裏に過ったのはこの二つだが、一つ目は如何に多忙であったも必ず出るような男だ。よって自動的に棄却される。
そうすると残されたのは────。
「少し、キナ臭くなってきたな」異なるサーヴァントとの邂逅、そして退却を経た疲れ果てた後の私の目の前に広がるのは見知らぬ景色。
生い茂る緑とその中心にどんと構える大神殿。
「これは夢だ」と、冷静というか半ば呆れた調子で分析した。
つい最近になって覇久間に来たというのにいきなり訪れたこともない外国に飛んでいるなど有り得ない。
(まぁ、あの竜巻にそのまま飛ばされたーって可能性はあるけどね)
とはいえ、流石にまだ海は超えていないだろうからやはりこれは夢なのだ。
改めてよく見てみると視線の先に一つの影が見えた。
嵐のように畝る黒髪、灼けたような褐色の肌、燃え盛るような真赤の瞳。
加えて、その人影には人としてあるべき物が──二本の脚がなく、案山子のように一本の脚でその場に突き立っていた。
奇妙な人物だが、その人影の周囲には小さな影がぽつぽつとあり、皆それを敬い崇め奉っている。
そんな人達を前にして一本脚は吐き捨てる。
『気に入らぬ、気に入らぬわ……!何ゆえ人類(トウモロコシ)如きに我等の力を与えてやらねばならぬのか!』
傲慢にして激情家(ヒステリック)──そう呼ぶに相応しい世の全てに対する怒りが態度から溢れ出していた。
『全てを見通す全知の瞳など──人類(トウモロコシ)如きには遠かろうに……神の視界は神のみで完結すべきなのだ』
けれど、 ソレには高慢と切り捨てられない 覇気……あるいは神気とでも呼ぶべきか、そんな雰囲気があった。
思わず、夢の中だというのに相手に平伏してしまいそうになる。>>316
『ん……?貴様、何を見ている?人如きが我をその視界に収めるか?』
ふと、一本脚が“コチラ”に目を合わせた。
瞬間に激しい怒りが沸き立ち、周囲に大きな力が溢れかえる。
平伏していた人達からバタバタと気絶する者も現れるが、一本脚はそのようなことを気には留めない。
『なんたる傲慢、なんたる不遜!このような思い上がりは誅さねばならぬなぁ……フッハッ!!』
一本脚がその口角を上げてからコチラに息を吹きかける。
(なっ、何……? ッッ──!!)
やんわりとした吐息、だというのに熱風のような苦しさと、吹雪のような痛みが私を襲った。
視界が真っ暗になり、何も見えなくなる。
ただ、「ク ハ ハ !」という一本脚の高笑いだけが私の耳に入った。>>317
目が覚める。やっぱりアレは夢だったようで感じた苦痛は身体にはフィードバックされていない。
「とはいえ、酷い夢だったな……」
まぁ、酷いのは現実の方もなんだけど……そう溜息を着いてから現在地を確認する。
少なくとも神殿や鬱蒼とした熱帯林の類は見えない。
長らく訪れていないから土地勘はないけど、恐らくは覇久間の何処かではあるんだろう。
「め……芽衣!目が覚めたか!!」
少し離れた場所で小さく風が渦巻いていた。恐らくはあの台風だ。
「あぁ、うん……おはよう。……その、あなたは大丈夫?」
とりあえず、先程のように完全に理性を失っているということは無いようだ。
「そうだな。我は顕在よ!……だが、その……至らぬところを見せたな……」
台風の波がぐにゃぐにゃ曲がる。
どうやら『あの状態』を見られたことが余程恥ずかしいらしい。
「なんで急にあんな風になったの……?」
私が聞いてみると台風は少し黙り込んでから応えた。
「あの戦士の奴に神の気配を感じた……故に潰さねばならぬと思考してしまった……」
「神さまが嫌いなの……?」
「まさか!!我は本来であれば創造神よ!神の上に立つ神がどうしてそれを嫌おうか!人は嫌いだがな!!」
どうやらこの台風は神さまらしい。で恐らくはあの鎧武者の神さまに嫉妬した様だ。>>318
「ふーん、まぁ私は神さまだのオカルトだのは信じないけど……」
思わず、口にするつもりでは無かったのにそんな言葉が零れてしまう。
当然ながら台風はその言葉に反応する。
「我を目にしておきながら……神を信じないというのか……?」
凄まじい威圧感が迫るが……
「昔から人が頑張って神さまの不在を解き明かしてるの。雨も雷も神さまの起こした天罰や奇跡なんかじゃなくて、ただの気象現象、天気模様なんだって。だから私はその人達の研鑽を信じたいよ」
たとえ意思を持った台風を前にしたって自分の信じる「気象学」に関しては嘘を吐きたくない。
また、台風は暴れ回るかもしれない……
そう思っていたが、台風から帰ってきたのは大笑であった。
「クッ クハハハハハハッッ!!そもそも聖杯戦争などという神秘の一端を担いながらそのような事を吐かすか!我が運命ながら滑稽な者だな!」
しかし、と台風は続ける。
「ある意味でこの織物(セカイ)らしい女だ。本来であれば信仰を持たぬ人類など神からすれば唾棄すべき対象であるが……貴様には信仰は非ずとも信念は在るようだ」
なんだから知らないけど、こっちのことを見ながら(?)、ひとしきり笑い、かつ肯定してくる。
「しかし、神である我を信じないというのも問題か……。どれ、先程の礼を兼ねて小さな願い程度なら神として叶えてやらんことも無い。言ってみるがいい」
本当に気まぐれな神さまのように台風はそう告げた。とにかく上機嫌だ。
私はすかさず『解放して!』と要求したが、それは受け入れられず、『聖杯戦争から降りて』という願いも台風自身に願いがあるから、という理由で却下された。>>319
(本当に神さまなのコイツ……。いやある意味では機嫌の移り変わりの激しさや融通の効かないところは天気模様みたいだけど……)
とはいえ、このまま権利を放棄するのも惜しいのでなんとか考える。
「それじゃあ、あなたの名前を教えてよ。台風とかじゃ呼びづらいし……」
とりあえず円滑にコミュニケーションを取る上で名前を知るのは第一歩だろう。
そう考えて尋ねるが、台風は少し唸って長考してから応えた。
「そうだな……これから、我のことは『ヘーゼル』と呼ぶがいい。」
「ヘーゼル……ね。分かった。」
何か含みのある雰囲気だったが、そこに突っ込んでもしょうがないので早々に受け入れる。
「あ、それともうひとつだけお願い。」
「なんだ、我が伴侶とはいえ厚かましいな」
出会って対して経ってないのに、いきなり伴侶扱いするのも厚かましいと思うが……今はそれどころでは無い。
「着替えとメイク済ませるまで、離れててくれる?」
ひとまず、下着までビショビショになった衣服を脱いで雨具に着替え、防水コスメでメイクを済ませたい。
幸い、荷物には全ての天候を予測してその手の品を用意してあったので、避けられて露骨にイジけるヘーゼルを尻目に、私は早々と準備を進めたのだった。>>320
4/30 狂陣営 『your name』 了
デートイベ出来ないのでフラ芽衣の絆ポイントを溜めてくスタイル召喚したサーヴァントの霊基は弱体化したものだった。それを礼装によって補強して第一線で戦うことが可能なレベルにまで引き上げたもの。それが自称、桃太郎三獣士だった。
「見上げた努力だ」
熱のない口調で、大嶽丸が賞賛した。
「それにしても、どんでもないことを考えたものですね。召喚したサーヴァントを強化させてくるとは……デン・テスラは新しい技術を開発させたとみえる」
「新しい技術というわけでもない。スケールを大きくしただけのことだろう。それも、どちらかというと、開いた口が塞がらない、という類だ」
言わずもがな異論を、大嶽丸が唱える。
「だけど、意表をつかれたこと、敵の戦力が強力なこと、これは確かなことよ」
立夏があいだに入り、要点を指摘した。
「さて、俺たちは俺たちの仕事を遂行させてもらおう」
「──」
曹彰が矢をつがえ弓弦を引き絞る。クースクリド・メンは黙して槍を構える。礼装で補強された彼らはどれだけスキルや宝具を使えるのか、それが不明なのが立夏たちには悩ましい。そんな思考をしているうちに彼女めがけて矢が飛来する。>>322
マスターが反応するまえに、大嶽丸が前へ出て放たれた矢を宝刀で抜き打ちに撃ち落とす。
「──っ!」
壁面を走り、虎のような身のこなしでクースクリド・メンが襲撃してくる。
「敵もどうして、打つ手が早い!」
感嘆混じえた舌打ちをひとつすると、大嶽丸は宝刀を振るい猛虎のごとき襲撃をいなす。
「っ!」
気合いと舌打ち一声、クースクリド・メンは足を床に打って右に飛ぶ。槍で前から迫る刀を打ち上げで払い、さらにその振り抜いた勢いで反転、後ろから襲い来る逆袈裟の一撃を石突で弾き飛ばした。
「前だ!」
「っ!!」
振り払った僅かな間、大嶽丸の指先に集まる魔力。
「よけろ!」
「っ!?」
曹彰とクースクリド・メンは勘で回避。>>323
指先から炎が溢れ出した。曹彰とクースクリド・メンは身体をわずかに焼くほどの危うさで、炎の津波を回避する。大嶽丸が作り出した炎は呪術による炎。たとえ対魔力であっても炎を防がれることはない。
煙と水蒸気が炎の波に押されて湧き上がり、高熱の通過を受けた床材がキシキシと軋む。
その黒焦げの道の根元に立つ鬼は、マスターたちを逃がしてクースクリド・メンと曹彰に立つ塞がる。長板橋に一丈八尺の蛇矛を構え曹操百万の大軍を睨み返した張飛のようである。
「ちょっとバーサーカー!?速くいかないと!」
マスターの声に、大嶽丸は肩越しの返答を投げただけである。
「すこし運動してくるだけだ。すぐに追いつく」
大嶽丸はその指先から無数の炎弾を撃ち出す。
「──っ!」
クースクリド・メンは正面に跳ぶ。
踏み切りと同時に突き出す槍の穂先が、その刺突の伸びる動きとともに、自分の進路を阻む炎弾だけを貫き散らしていく、後衛の曹彰が矢でそれを掩護(フォロー)する。その軌跡の終着点は、炎の弾幕の向こうに立つ鬼。>>324
槍、一跳び、一瞬の一撃が鬼の腹へ深々と貫いていた。
「よし──ッ!!」
「!?」
が、吹き飛んだ、大嶽丸の身体が、である。
「ッ!?」
炎となって飛び散る鬼の身体が飛び散る際の余波で、クースクリド・メンは吹き飛ばされる。
「残念、ハズレだ!」
クースクリド・メンは声の上がった後ろを警戒しつつ脚を返す。そして構えた槍の先に、思いもよらない光景を見た。今撃ち出された炎弾の数だけ、大嶽丸は立っていた。その中の一人に奇襲を受けた曹彰が倒れている。
無数の大嶽丸を前にして、再びクースクリド・メンは疾走する。神速の二歩、三歩の動作に刺突が乗り、大嶽丸を貫く。
が、
「それも、ハズレ!」
胴を貫かれた鬼が、嘲笑い、
「お仕置きだ」
鬼の身体が爆発した。>>325
「っ!!」
クースクリド・メンは反射的に盾をかざし、この衝撃を受け止める。吹き飛ばされ、転んだ先は、宝刀を持つ鬼たちの、間合いの中。
鬼の群れは炎の豪雨へと変じ、直下のクースクリド・メンと曹彰へと降り注ぐ。
要塞内部に炎が膨れ上がり、弾ける。炎を降らせた炎も孤影を残していた大嶽丸の本体を、
「っ!?」
槍の穂先がかすった。クースクリド・メンが、彼の眼前まで跳んでいた。
爆発を一斉に受ける床の上に留まらす、自ら豪雨の中に飛び上がり突き抜けることで、受ける攻撃を最小限に押えたのだった。飛び上がる途中にも数撃喰らってはいるが、床の上にいるよりも、そのダメージははるかに少なかった。
しかし、その千載一遇の戦機において振るわれた一撃、今までとらえて、決して外したことのなかったそれを、クースクリド・メンは、外した。
「!?」
その頭上から大嶽丸の拳骨が、巨岩も一撃で砕く打撃が叩きつけられた。>>326
「──っ!!」
クースクリド・メンは床に激突した。床材が吹き飛ぶ、瓦礫が撒いて砕ける。
「くっそがぁ!!」
曹彰が渾身の力を込めて弓を引き絞り、矢を放つ。大嶽丸がそれを躱してクースクリド・メンから距離を取る。数本、矢が当たるものの、不壊金剛による高い防御力を持つ大嶽丸の身体を傷つけるまでに至らなかった。
鬼火による陽炎の壁に囲まれた空間の中、屹立する最高位の鬼種。その周囲にも、火の玉がいくつも浮かんでいる。
「これでも、喰らえ(テイク・ザット・ユー・フィーンド)!」
火の玉が火勢を上げて剣の形へと変わる。
「っ!?」
「なに……?」
桃太郎三獣士の意識は、痛痒(ダメージ)と衝突のショックで混濁していた。体勢を立て直す、僅かな間で彼らの周囲に、身動きを許さない檻のような剣が突き立った。
「先へ行かせてもらう」
剣の檻に捕らえられた二人に向かって、炎の怒濤が押し寄せる。彼らが炎を薙ぎ払ったあとには、大嶽丸の姿はすでになかった。>>327
北米異聞帯『これでも、喰らえ(テイク・ザット・ユー・フィーンド)!』を更新しました。覇久間市東部にある旧住宅地。
この街の成り立ちには欠かせない歴史ある地区だ。
「う、うわ~……うちの成金趣味丸出しの家とはすごい違い」
物々しく厳かである、という一点に尽きるだろう。二階堂の家は西洋コンプレックスからか如何にも成功した者のテンプレートに追従した貴族嗜好だが、旧家の面々は自らの歴史に誇りをもっている。
「この結界、マスターのものかしら。それともサーヴァント?」
「あの枯れ木の老人からは、昨日顔出した馬に乗った女が蒲池の人間だという話だ。ということはサーヴァント同士の乱戦に巻き込まれても平気なような強度の乗騎系の宝具持ち、暫定ライダーか」
「キャスターはあの面白い人っぽいものね」
「あの佇まいはそうだな」
「そういうの、分かるの?」
二階堂の家は、覇久間の人間ながら実はそう土地に詳しくはない。
夢莉も市外の中高大一貫の私立に、今は家業が云々と理屈を使って事実上の休学扱いでいるが、通ってはいる。私立は金さえあればある程度は何とかなる、とは宗次の言だ。
よって夢莉自体も御三家と呼ばれる聖杯戦争の主催者で、かつこの土地の名家の人間とは面識がほぼ無かった。
「まあ、な」
占星術や天体魔術によって、とは言わなかった。
ここはもう蒲池の領域だ。使い魔の二つや七つも彼らの会話を盗聴しているだろうし、結界にそういう機能を付けているかもしれない。
ここでの会話は“あえて聞かせている”ものだ。
となれば、こちらの手札の中でも対策されやすい魔術特性は特に隠蔽しなければならない。
「この程度の結界を破るだけでマスターを倒せるなら簡単なんだけど」
「あの何某のサーヴァントは戦士系っぽいから、それは無いな」
そう言いつつ、結界の防壁を特に解除もせずに突き進む。>>329
今頃は御三家の一角である蒲池も、結界が破られたことで警告を受け取っているのではないだろうか。
「混乱しているのか、戦地になる覚悟をしているのか、わくわくするわね」
ここで天上王ネブカドネツァルならば敗戦国のものは全て略奪して、土地は焼き尽くし二度と栄えさせないように潰し、戦利品である民は自らの物にする。そういう王であったが、今はバビロンもないのだから必要性がない。ちょっぴり詰まらない。
聖杯を得る。あれは私の物だ。私が手に入れなければならないモノだ。
それだけは念頭にある。
「あら、ご足労をかけさせてしまったかしら。こちらから出向くはずだったのだけれど」
ネブカドネツァルの魔力探知が眼前に現れた者を告げる。
声掛けた先には、蒲池本家の邸宅があり、完全武装した鎧武者と神獣の霊格もつ馬に騎乗した少女がいた。先日に互いに戦ったばかりでの邂逅だ。
「居場所が割れている私達から倒しに来た、という感じですか」
「ぃっ!」
夢莉がライダーの威圧に晒され、恐慌状態に陥る。なるほどただ魔術回路のあるだけの一般人からすれば、そうもなる。実戦の空気とは何にも得難いものだから、敢えて顔面蒼白になって嘔吐感に震える夢莉を、アサシンはそのままにする。
ここで対応できるような強い人になれれば、と思う。
「それは勘違いだな。こちらのバックボーンにはまぁ、マスターの顔でだいたい察せるだろうが二階堂の老人がいてな」
「だから、聖杯を手にしたいのでしょう。あのご隠居の悲願ですから」
「商品価値としての聖杯であって、万能の願望機としての聖杯は不要だ。こちらは、偏屈爺を誤魔化せる程度の戦利品さえ得られれば良い」
「叶えたい願いがあるからサーヴァントとして召喚に応えたはず。その言葉は信じられない」
「納得のために、ある程度は明かしましょうか。私はアサシンのクラスに据えられた魔術師なの。聖杯も御三家が根源に至るための研鑽の成果であって、私の魔術理論によるものではないでしょう。だから、聖杯自体に興味はないわ」>>330
「魔術師(メイガス)だと……」
ライダーが呻いた。自分と渡り合える戦士、戦士級の技量をもつサーヴァントの本職が学者仕事であることには瞠目せざるを得なかったからだ。
そして逆に、魔術を使うアサシンということに対して脅威度が上がる。気配遮断を使えるサーヴァントが、更に魔術で盤石なものとする。この意味が分からないほど猪頭ではない。
(護りを上回れたら、確実にマスター殺.しを達成されてしまうか)
「少々“見せ過ぎた”な。複雑に考えなくとも、ある程度、互いが互いを処理している間に漁夫の利を狙われないように、“今は背中から刺さない”という証明を立てようという話を持ち掛けに来た訳だ」
同盟など無くても、神代限定の天体魔術の理想形、神霊のみならず神すら凌駕する対星宝具『惑星轟』がある以上、ネブカドネツァルに敗北の二文字は存在しない。バーサーカーが本来の霊格を取り戻したら少し怪しいぐらいだ。
ここで令呪一画を使って、“この覇久間の土地ごと”滅ぼしても良い、というのも選択肢の一つにある。
(どう思う、ライダー。暗殺への安全性とか踏まえて)
(理由は色々あるが――――ま、あの眼は嘘だな。お前達はいつでも殺.せるぞっていう眼だ)
アサシンというクラスへの脅威を恫喝にしているようなものだ。
それだけ自信があるということだが、それならばライダー側にも自信がある。確かに生前の性能では差があるだろうが、これはサーヴァント戦。見るからにアサシンのマスターの魔術回路の性能は良くはない。魔力が潤沢なら昨日も単なる剣戟で終わるはずがないからだ。
だが、聖杯戦争はまだ序盤も序盤。
ここで無駄に疲労する訳にもいかなかった。
「分かりました。受けましょう」>>332
覇久間聖杯戦争4/30夜
[[虎視眈々と闇の中に]]
てへっNGワード発見できなかったから残りはwikiに上げます~第一回聖杯大会続き投下します
参加者の方は確認よろしくお願いします>>334
聖杯大会五日目。
乾燥地帯であるスノーフィールドには珍しく、その日は朝から雨が降っていた。
しとしとと流れる水滴は地面を濡らし、窓ガラスに当たっては重力に従い落ちていく。
そんな風景をぼんやりと見つめつつ、俺はモーテルの自室で現状とこれからについて思いを馳せていた。
――昨日の戦いで、バーサーカー陣営とライダー陣営が退場した。
――気になってた乱入者の陣営もサーヴァントが消えた事で事実上敗退。
――セイバー陣営は二日目の戦いで倒れ、アサシン陣営とキャスター陣営も三日目に与り知らない格好で退場。
(つまり。いよいよ残っているのは……)
そこまで考えた所で、今日何度目かのため息が零れる。
残る陣営は二つ。一つは俺たちランサー陣営、そしてもう一つは。
「ゲルト・リスコフォス……」
無意識の内に声に出すが、気にしている余裕はない。
どの道この部屋にいるのは俺とランサー、それと中継に来てるスタッフぐらいなものである。
それより問題は、目下最大の強敵であるゲルト達アーチャー陣営への対策だ。
(真っ向勝負はまず論外。マスターにせよサーヴァントにせよ、地力がそもそも違いすぎる)
ならば奇襲を仕掛けるか? それも否だ。
向こうとしてもこっちとの実力差は把握済みである筈。ならば当然、俺が奇襲を仕掛ける事もある程度想定している事だろう。>>335
令呪で瞬間転移させるにせよ、何かしら罠を張るにせよ、向こうがむざむざそれに引っかかるとは思えない。
むしろゲルトたちからすれば、それこそ好機に転じて仕掛けてくるのでは――。そんな猜疑心すら生まれつつあった。
実際、現状この拠点を攻撃されてないのもそうした余裕の表れだと考えている。
もし俺が、それなりに実力を備えたマスターであれば。あるいは魔術師もしくは他参加者のような荒事に長けてたならば……益体もない考えが泡のように生まれては消え、消えてはまた生まれていく。
「――あまり根を詰めすぎるな。双介」
堂々巡りに陥りかけた所で、ランサーが霊体化を解き現れる。
昨日の戦闘でいくらか疲弊したのか、宿に戻ってからはずっとこうして休養を取っていた。
(……これも。俺が一流、いやそうでなくてもそこそこの魔術師だったなら)
またしてもそんな拗けが生まれ、即座に心中で否定する。
今更自分の実力不足など、考えた所で何になるというのか。
事実、ランサーはこんな俺を信じ秘められていた宝具すら解放してくれた。
ならば、俺もそれに応えるマスターでなければならない。そう、分かってはいるのだが。
「お主が何に思い悩んでいるかは分かっている。……実際、俺の目から見ても弓兵の陣営は強敵。いや難敵だ。賭けても良いが――まず、十中八九我らの方が敗北するであろうよ」
「――っ」
目を逸らしたかった事実を改めて突きつけられ、思わず俯く。
まるで自分の弱さを弾劾されていると、責められているように思ってしまったから。>>336
しかし。次の瞬間、ランサーはあっさり俺の自虐を否定した。
「だが。所詮はそれだけだ」
「……え?」
「相手が強い、勝ち目が薄い。あるいは限りなく存在し得ぬ。……成る程確かに絶望的であろうよ。最早これまでと、腹をくくるもやむなしやもしれぬ」
他人事のように、淡々とランサーはあげつらっていく。
どうでも良いかのように――あるいは、『こんな事は慣れ切っている』と言わんばかりに。
「されど、我らはまだ此処にいる。我が身もお主も五体満足。宝具には欠落もなく、むしろ我が気は天をも衝かんばかりに充溢しておる。ならば、諦めるのは些か早すぎるというものではないか?」
いっそ清々しいと思う程、ランサーは現状の苦境を切り捨てる。
その。ある種能天気とさえ思ってしまうような態度に、俺はカメラがある事も忘れて激情した。
「……なんでだよ」
「?」
「なんで、そこまで堂々としていられんだ。どうあがいても、何をどうしたって、覆しようもない現実が待ってるのに。なんで、どうして! そんなあっけらかんとしてられるんだ!」
相手がサーヴァントである事も忘れ、俺はランサーに掴みかかる。
「分かってんのかよ!? ここで負けたら、お前の望みだって叶わなくなっちまうんだぞ! 主君と――尼子勝久、様と、再会できなくなるんだぞ!!」
「双介、お主――」
「それでいい訳……いいわけ、ないだろうが。この、バカ……!」
二日目のやり取りを思い出す。
あの時、過去を語るランサー――鹿之介の顔は、苦渋と後悔に満ちていた。
己が無力が齎した不幸。道半ばで敗れ息絶えた事への悔恨。そして何より、『自らが』擁立した主君への申し訳なさ――それら、様々な感情が一つになって表れていた。>>337
今にして思えば、あの時の自分の迂闊さを殴りたい。『今度こそ』などと、『四度目の正直』などと、よくも呑気に言わせたものである。
鹿之介本人からしてみれば、決してそんな風に片付けていいものではなかっただろうに。
「それだけ、なんて言うなよ……。もっと、あるだろうがよ。色々、退けないものっていうのがよ……」
我慢しきれず、涙がこぼれる。
今、俺は何よりも恐れていた。ゲルトたちに敗れる事を、この麒麟児を『またしても』道半ばで敗退させてしまう事を。
だって、これ程残酷な話はない。
かつて一度全てを失い、復権を賭け挑み、その果てに再び何もかもを奪われた男に、もう一度その苦しみを味わせるなんて。
そんなもの、どうして受け入れられるというのか。まして、自分の事を心から案じ慮ってくれた――くれた、男に……。
「――そうか。お主は、それで思い悩んでいたのだな」
ふわり、と。ランサーが俺の頭に手を置く。
兄が弟にするかのように、優しく撫でて慰める。
「すまぬ。確かに今のは配慮が足らなんだ。だが誤解しないでくれ双介。俺はもう、お前が案ずる程に勝久様との再会に固執してはおらぬのだ」
「え――っ?」
信じ難い言葉に、思わず俺は鹿之介の顔を見つめる。
そうして絶句する。
何故ならそこにあったのは、二日目に苦渋の表情で願望を語っていた男のそれではない。むしろ全てのしがらみから解き放たれたような、解脱僧にも似た爽やかささえ浮かんでいた表情だった。>>338
呆然とする俺を他所に、鹿之介は諭すように語る。
「お主の言う通り、俺は勝久様との再会を切望していた。今とて、会いたくない気持ちが全くないとは言わぬ。むしろ、お主と出会った今だからこそ、再びあのお方に会いたいとさえ感じておる」
「だったら――」
「良いから聞け。だがな、それは決して生前の悔恨や過ち故ではない。生前の呪詛故に英霊となった俺に、もう一つの忠義の形を占めさせてくれた事への感謝と、それを齎してくれた――新たな、戦友(とも)の出会いを、伝えたいが為だ」
戦友。確かに鹿之介はそう口にした。
かつて山陰の麒麟児と呼ばれ、故郷の同胞たちと幾多の戦場を戦い、その果てに主君への忠義を貫かんとした男は。
生前、どころか生まれ育った土地さえ異なる俺を確かにそう呼んでくれていた。
「召喚された直後、俺の頭を占めていたのは悔恨と贖罪だ。どれほど道のりが険しかろうと、どれ程の試練が待ち受けていようと。必ずや果たさねばならない。そんな決意を抱き、俺はこの戦いに推参した」
「お主の事も、正直に申せばますたぁなどと、主などとは思うてはおらなんだ。事を為すまでの同盟者――それが、当初の俺がお主に抱いていた全てだった」
「だが――今は違う」
「黒野双介。お主は、我が友だ。戦場を駆け、胸中を分かち合い、数多の苦難と戦いを乗り越えた――これを友と、朋友と呼ばずして何と呼ぶ」
「あの時、森で宣言したように俺の胸中に二心はない。勝久様への忠義も、お主に対する友誼も俺にとっては同一だ。勝久様との再会は大事だが――それは、戦友を犠牲にしてまで叶えるべきものではない。ない、のだよ」>>339
そこまで言い切ったところで、鹿之介は言葉を切る。
俺が呑み込むのを待ってくれたのか、言葉が尽きたのか。あるいは、その両方か。
俺はといえば、何と返せばいいのか分からず立ち尽くしていた。
既に掴みかかった両手に力はなく、ただ惰性で握りしめているだけ。
そんな俺の手の上からそっと己が手を重ね、鹿之介はなおも語り続ける。
「お主の想いには感謝しよう。俺の為に主として勝利の道筋を考えてくれた事にも、恩義しかない。だが――どうか、俺が為に無理無茶無謀を通そうなどと考えてくれるな」
「お主に万一の事あらば、それは俺にとって更なる悔恨へと繋がるのだ」
「――――!」
その言葉で、俺の目から再び涙が流れる。
生前、自ら主君と定めた人物を失った鹿之介。それ故にこそ、彼は今回の聖杯大会で主君との再会を願いこの地に降り立った。
だが――それは同時に、彼にとって生前の悔恨を繰り返しかねない事でもあったのだ。
その事に気づかされ、俺はもう何も言い返せなくなった。
言い返せる、筈がない。自分の無力さを知るからこそ、自分の無思慮が齎す危険を思えばこそ――これ程までに、自分を慕ってくれた『親友』に、ぶつけられる言葉などありはしないのだから。
「実際、お主の言う通り我が方の勝ち目は薄い。敵は中華の大英雄と、修羅場慣れした仕事人。比して我らは、切る手札にも事欠く乏しさよ」
「……だよな」>>340
「故にこそ、あえて俺から問おう。黒野双介、お主はこの戦いをこれ以上続ける覚悟があるか? 何一つ敵わず、一矢報いる事さえ果たせないとしても。それでもまだ戦うと」
「――――」
覚悟、覚悟だって?
そんなもの、ここまで来たら決まっている。
――今にして思えば、鹿之介にこう言ってもらいたいが為にこの悶着はあったのかもしれない。
そんな風にさえ考えて、俺ははっきりと鹿之介に言葉を返す。
「――――ああ、ああ! やってやる、やってやるとも! ここまで漁夫の利ばっか重ねて勝ってきたんだ。だったら、最後までお前と運に任せてどこまでも突っ走ってやる!」
「よくぞ申した! それでこそ今を生きる日ノ本男児よ! なあに案ずるな。この山中鹿之介幸盛、生前からこの手の苦労だけは散々重ねてきてるからな!」
お互い不敵な、そして満面の笑みを浮かべ見つめ合う。
その内どうにも可笑しくなり、どちらからともなく笑い出した。
「さて双介よ。腹をくくったところで、如何にしてこれから立ち回る?」
「そうだな……。とりあえず、ゲルトたち相手にどう挑むかまず考えて――」
と、その時。不意に俺たちは固まった。
それまで部屋の机上に放置していたスマートフォン。それが、電子音と共に着信を告げている。
画面の発信者には、こう浮かんでいた。
すなわち、『ゲルト・リスコフォス』と。>>341
以上、うちからはここまでです
次はゲルト陣営さんもしくは委員会さんの方に何かあればそちらにパスします「………宝具の断片展開、と来たらそこらの量の人形じゃあ毒の吸収は難しいかね?」
めんどくさそうに。心底めんどくさそうに吐き捨てて。
「それはそれとして、俺ちゃんも力はなるべく出したくないんだよねぇ?手札は最後まで取っておきたい。そんなこと誰だって考えることでしょう?」
「つまり、アレかな?手抜きをすると当の本人に向けて言ったのか?」
「んー……舐めプっていうのもそれは違くてー。何が言いたいかって言うとー……」
指を鳴らす。それだけで雷が宙から『横薙ぎ』に発生しマスターとサーヴァントの間を隔てる毒の壁を打ち据える。……ちょうど、あちら側の戦場で轟音が鳴り響いて少しのことで。
「全力で、逃げようかなって」
天を指差すキャスター。その指が示す箇所にあるのは数十の巨石だ。それらを一瞥するだけで風が巻き起こり、砕け散り、石飛礫の雨となって降り注ぐ。
「結局のところ、呪符なんていらないんだわ。呪符がなければ呪えないなんてアホだろ」
ランサーが自分に降り注ぐ礫を砕き、汚染し、キャスターに向かって打ち出す。それらは多くの石飛礫を巻き込み、猛毒の岩となってキャスターを打ち据えようとする。するも……「狐につままれたような顔すんなよ。あの女を思い出して不愉快になる」
キャスターが一つも目にくれないうちに、まるで「そこになかったように」消え去る。キャスターにも降り注ぐ礫達は軒並み「逸らされている」のに対し、岩だけは消えたのだ。
その次にキャスターが腰をかけたのは大砲だ。目もくれずに点火させ、射出した砲弾が容赦なく毒壁を撃ち据える。……しかしこれではまだ足りないという。大砲に座り込むキャスターを取り囲み、守るように浮かぶ刃とフリントロック式の長銃。それら全てが切っ先、銃口を全方位に向けており。
「別に雨が降り終わったからってそれで終いじゃあないんだなぁ」
地面に転がる礫達はふわふわとキャスターの周りに大量に浮かび上がる。キャスターが呪符を撒けばそこに込められた呪いが礫達に纏わり付き、呪詛を含んだ小さい弾のように。そしてまたそれらを補佐するが如く雷も、炎も、風も、氷だって浮かび上がる。今やランサーを挟むが如く毒壁とキャスターは向かい合っている。
「………何回で、その御大層な毒壁は壊れてくれるかね?」
弾丸ほど……あるいはそれを上回る速度で。ランサーを……あるいは毒壁を狙うかのように殺到した。「─────ぅっ、わぁ!?」
ほぼ反射的、本能的に避ける。近くの樹木の太枝を使い、立体機動的に飛び上がり、
「………ウリエル、ウリエルね」
ルーカスから放たれる光によって形成される様々な武器、そして燃え盛る世界。
……インチキ、と言いたくなった。四大天使の一柱、「ウリエル」の概念的なものを降ろしているのだろうということは安易に想像できる。問題は……
「アホかっ……て言いたいぐらいの理不尽なんですけどぉ!?」
撃ち出した魔術によって相殺し、燃え盛る……穢れを焼き払う天の炎を駆け抜ける。どうやら自分は彼を本気に……その気にさせてしったらしい。
「Cover me!(覆いたまえ!) Fairy till!(駆け回り巡れ!)」
不湯花を覆う水のドームが鉱石に覆われ、攻撃を防いだ後にそのドームが槍状となりルーカスを貫かんと飛び行く。……が、焔や光の障壁に防がれてしまうではないか。
「ちっ……あ゛あ゛あ゛!死ぬ死ぬやっば!」
「随分と逃げるんだね。……これでどうかな?」
頭に周回する三つの星……その中でも最も小さい星……水星が降りてくる。
「処女宮にあるのは罪を裁定し罰を決定するアストライアーの剣だ」
「ちょっ、待……こっ、のぉ!」
魔術の詠唱をしようとする直前、不湯花は己の大きなミスに気付く。「……やば、魔力が、もう……」
迎え撃つのではなく、流す方向に魔術をシフトさせる。巨大な爆発が起き、舞った粉塵が収まった後には……
「ガッ、ハ……思いっきり行く、ね……こんなの、まともに受けようとしたら今のじゃ無理だっての……!」
死に至るほどの傷ではない。無いが腹の中の少しが焼かれている。なるほど、ルーカスが体内に呪詛を受けたのならばこれで同じ条件というわけだ。いや、魔力が尽きかけている分こちらの方が酷いのかもしれない。
「……はぁ。仕方ない、よね」
元より、私は人にあらず。人であろうと縋り付いていた小娘でしかないのだから。……おまけに、決められた道ばかりを歩んだ結果はこのように融通が効かない小娘になってしまった。
なるほど、これは己のサーヴァントに「他人に自分の価値を見出すな」「己を愛せない奴に誰かを真の意味で愛することなど出来ない」などと言われるわけだ。
「……貴方は言った。下人には下人の道が、庶民には庶民の道が、正しい人には正道が、王者には王道が、魔術師には魔道があると」
結んでいた紙紐を解き、燃やす。ボロボロの礼装を脱ぎ、己の左手首を噛みちぎり、右の頸動脈を切り裂く。血が流れ出す。
「その道から逸れないことことが正しいことななのだと、貴方は言った。なるほど、それは一つの答え。そうであり続けると誓ったならば折れることが出来ないのだから」
例えるならば、それは焼畑。焼かれた物は灰へと還り、それは新たな栄養へと成り代わっていく。そのように、焼かれた黄泉比良坂の泥は純粋な魔力へと還元していく。「私は思う。人ならば、道を外れることがある。そして悩みに悩んだ結果、また同じ道を強い意志を持って歩くか、別の道を歩むのか。そして人間は継ぎ接ぎだらけの道を歩んでいくんだって」
地面に垂れる筈の大量の血は宙に浮き、不湯花が持っていた小箱を取り囲む。
小箱から現れたのは不湯花の最高傑作であり山星の最上位礼装(使い魔)の一つに数えられたモノ。名を『テリアル』と言った。
「貴方を否定するわけじゃないけどね。私もそうだったし。けど……私は最近、妥協を覚えたから」
不湯花の魂の拘束が解けていく。これは存在の昇華にあらず。元在った己に立ち帰るのみ。それに、何も完全に星の触覚と化すわけでもないのだから。
「これは……驚いたな。君は、本当に人間かい?」
「人間だね。間違いない人間。……精霊女皇の名に於いて命じます。テリアル」
『御意に』
周囲の土地が炎から巻き返す。花が咲き、樹が覆い、清水が溢れ、宝石が煌めき生える。不湯花の……否、テリアルの周りに確かにそれはなし得ていた。
「テクスチャの押し付け……異界化、もしくは高レベル工房の……」
「その、つもりだったんだけど。目の前で地形を焼き尽くされちゃあそれも無理だから。ね?」不湯花は未だ、人である。凡そ人、恐らく人。己に封ぜられた精霊の血を解き放ったが故にその身は侵食されたがそれでも最悪の想定だとしても4割は人である。完全な変革に至ってないし、何より昇華させるのは自分でも、この土地でもない。傷は塞がっているものの、大きなダメージを負っているのがその証拠だろう。
「世界は輪転し、星々は瞬く。原初の世界には恵みと破滅が渦巻き、その中心に私はいる。
妖精は祝福する。巨人は咆哮をあげる。竜は脈動する。
打ち砕かれよ、群衆。響き渡れよ、栄光。それ即ち我が我たる証であり、私達が地球である証である。
世は全て地の果てに。我らが母は等しく全てを愛し壊すだろう。……大庭園、高天原」
地表が変わる。この世の楽園と思わしきほどの光景が広がった後……その全てが掻き消え、そのリソースがテリアルに注ぎ込まれる。その時だけ、その時にこそ不湯花の五感は完全にシャットアウトされ、故に堕天は免れた。
「………高天原、豊葦原。楚は湖の乙女が祖なりて」
龍を象っていた使い魔の内に、乙女のような身姿が浮かび上がり……それらが周りの焔を吹き飛ばした。
「……驚いたな。あの時は一瞬だけ、この地面が書き換えられていた。お前がやったのか?」
「私の主殿が、ですねぇ。……さてさて、主殿は私の制御に一苦労です。故に私は防壁で守らせていただきますが、構いませんね?」
『うるさいから。早くやって』
戦場であれども遠く離れた所に不湯花の肉体が眠っている。彼女を包むのはテリアルの作り出した防壁で、彼女の意識はテリアルの中で制御を行っている。幸い、魔力は霊脈から回収した。
『……第二ラウンドと、行きましょうか。帰してくれたら、嬉しいんだけど』
「正気かい?そんなことはあるわけないだろう」昼食を済ませた後もなんだかんだと市内を引きずり回され、結局ホテルに戻ってこれたのは18時。これから晩御飯を作るのかと辟易し、そんな哀れなマスターに気を使ったのか、はたまた元よりその気だったのかキャスターは今夜はカップヌードルを食べよう、と持ちかけた。当然ながら郁は賛成した。
生まれてこのかたカップヌードルなど食べたことがなく、むしろ家族から栄養価が偏っているから食べるべきではないと教え込まされていたため抵抗を覚えるかとも思ったが、一口目は存外すんなりと運び、二口目三口目と手は速度を落とさず進んでいく。それでも一応バランスの配慮として、買ってきた野菜の幾つかをサラダに付け合わせた。申し訳程度であるのは承知だが、意識するだけでも意義がある、と思いたい。
「さて」
今まで同様黙々と箸を動かせ、双方ともに皿を空にし、郁の方は寝間着に着替え、やや虚無感を侍らせた満腹感に食中とは異なる静けさを互いが感じていた頃合いを見て、キャスターが口を開く。とかんと机に置いた安価そうな湯呑に入った緑茶は量産型で雑味が多いが、それでも彼は美味しそうに飲んでいた。
「夕食も終わったことだし、始めるか」
「始める…って、何を?」
「えぇ~?もう忘れちゃったのか?アレだよ。『しょうせいのかんがえたさいきょーのいきかた』」
あぁ、と言葉を漏らす。夏を先取りの文句に恥じぬ陽気に長時間浴したせいですっかり忘れてしまっていた。
「知彼知己、百戰不殆。知彼而知己、一勝一負。不知彼不知己、毎戰必殆。故に先ずは敵勢の把握が肝要だ」
「今日会った陣営のおさらい、ということ…ですか?」
「そうだとも。まだまだ完全な把握には至らぬが、然りとて怠るべからず。前言った通り、小生戦闘向きじゃないし」
キャスターは魔術師のクラス。魔術師というのは、魔術を頼りにして近接などの物理的な攻撃手段を有していない、というのは郁が夢で出会った魔術師たちにも通じている。現に郁自身も覚えている呪文で喚び出せる化け物以外での攻撃手段はない。>>349
「孫子の言葉を借りておいて何だが、小生たちは勝つのが目標ではない。これは良いな?」
「は、はい」
「お主も見て感じたとは思うが、午前に会った連中は皆只者ではない。「大量破壊が可能な」サーヴァントという奴だ。しかも相当に肝が据わっている」
「…やっぱり…」
「まぁそんな消沈したような顔をするな」
キャスターが困ったように笑い、それによりまた申し訳ない気持ちが増す。励ましてくれているのが余計心に来る。キャスターは見切りをつけて話を続けた。
「初めに会った、あの大男についてだが、お主はどう思った?」
「どう…?」
「どんな些細なものでも良いぞ」
「えと……その、威圧感、が凄かった…ではなくて、あの」
「うむ、ひとまず餅つけ、じゃなくて落ち着け」
落ち着けとは言われても、あの巨漢と出会した時の記憶はあまり良いものではない。だが、だからといっておざなりにしていい場合でもない。何度口にしても変わらず雑味の多い緑茶を喉に通し、言葉を選んでいく。
「……まず、偉丈夫なのもあるのでしょうけど、その、覇気と言うか…が強かったのと、街中をバイクで巡るのは、悪目立ちしてリスキーです、ので、襲われても返り討ちに出来るという自信が見えて…あと、マスターの方の服装が少々…あ、いえ何でもないです」
わかってはいたが、纏まりがないし凡百な発想だ。最後に伝えなくても良いことまで伝えそうになった。それでも、キャスターは静かに瞑目し郁の意見に適度な相槌を入れつつ聞き入り、やがて口を切る。
「…詰まるところ、あの大男は武勇に秀でた者でありそうだ、と」
「は、はい」
右往左往するマスターの言葉を簡潔に纏めたキャスターは更に話を続ける。
「それは確かに言えてる。実際、彼奴は世にも稀な武士だ」
「武士?」>>350
「武士?」
「あぁ。口振りとか、所作とか、そこら辺から分かる。己が武威への自負と、敵を侮ることのない隙のなさ。何よりもあの巨体。武士でないのならかなりの宝の持ち腐れだ。あと、クラスはライダーらしいぞ」
「え」
「やはり聞いていなかったか。小生がキャスターだと言ったら、ぽんと教えてくれたぞ。嘘ではない。竹を割ったような性根の良さの持ち主ぞ」
「すいません…」
「気にするな。小生が覚えてる」
つくづくマスターとして自分を不甲斐なく思う。それと同時に、キャスターの人としての力量に驚かされる。どうしたら世間話から相手の身分が理解出来るのだろう。
「気になったところといえば、サングラスだな」
「サングラス?」
「そう。着用の理由はおそらく日光の遮断、ファッション…だが、それだけではないな。執拗にサングラスを外さないでいた」
「目を何かで被う必要があった?」
「多分な。魔眼か、或いは眼が特徴的な偉人…そして巨体で武勇に優れた武士…」
「…まだ割り出せませんね」
「だなぁ。何かの戦闘で宝具でも拝めれば良いんだが……敵にしたくないなぁ。絶対オールラウンダー系だよアレ」
項垂れるように頷く。あんな存在と敵として対峙するなど考えたくもない。実力云々もあるが、どこか“怖れ”ではなく“畏れ”を抱かせる何かがあるのだ。歯向かったり蔑ろにしたりしてしまえば、ただ敵対するよりも酷い目に遭いそうな───
「えぇい、次だ次!ぐずぐずしてる場合じゃない!」
「次に会ったのは…」
兎陣営、と呼ぼうとして慌てて口を噤む。キャスターは自身のマスターの機微に気づいたのか眉が少し動くが、すぐに元の位置に戻した。
「あのアベックは…何なんだろうなぁ。見たところフードのお嬢さんがサーヴァント、厳つい兄ちゃんがマスターっぽいが」>>351
「そう、だと思います」
「マスターから見てどうだったよ」
「…………」
言って良いのだろうか。二人とも兎っぽい、など。熱気と陽気に頭が浮かされたとでも思われないだろうか。
しばらく逡巡し、こうなったらままよと切り出す。今は躊躇うべきではない。
「その……全体的に、兎っぽい…ような…気が、して…」
「兎?」
「はい…」
「あぁー…うん、うん。確かに言われてみればしなくもなくもなくもないな」
どっちなんだろう。ただ、キャスターの雰囲気からして否定しているようには見えない。肯定、と受け取って良さそうだ。
「動き、とか…何でしょう、その…」
「アルビノなところとか?」
無言でぬかづくと、キャスターは「そうか…」と言い黙り込んでしまう。どうしたものかと少し静かに見ていると、呟き程度ではあるが声を上げた。
「この陣営だけは会話してないから何とも言えんが…兎に関する英霊、ってのは、考えるべきかもな」
「と、なると………泉鏡花、とか?」
「泉鏡花…っていうと、あの着物の表現がずば抜けて丁寧な?いやでも、彼奴って…」
「…男性、ですよね…」
「まさか、実は女性だったーとか?」
「いやそんな。近代の人がまさか性別が違うとか…」>>352
「じゃぁ、アレか。実は女装の趣味があったとか」
「それこそ信じたくないです…」
泉鏡花のことは勿論知っている。彼──で、良いはず──の、繊細で言葉一つ一つを労い、思いやるような文体で紡がれる物語群は学生の頃から郁は親しんでいた。だからこそ、その作家が女装癖があるとかそういうのは絶対に信じたくない。
そういえば、アメリカには女装癖のある映画監督がいたとか。確か、満月にロケットが突き刺さっているシーンで有名な映画を撮影したことで有名だというのは覚えているが、それ以上はいかんとも思い出せない。が、まさかその監督でもないだろう。何より時代が近すぎる。
「兎ってったら因幡の白兎とかだけどなー。あとはぁ…かちかち山の兎とか?いやいや、有り得んだろう…」
互いにああでもない、こうでもないと唸り合った末、キャスターの「また今度考えよう」という発言で終わりになった。
「じゃあ、次はあのズッコケ三人組だな」
「ず、ズッコケ…?」
「なんだ知らんのか?まぁ良いや。で、あの褐色アベック、アレは特別厄介な輩だ」
「そう、ですよね」
「うむ。彼奴ら、自分が聖杯を勝ち取ると信じて疑っていない。ナチュラルタカビーって奴だな。それで只の三下なら楽だが、そうでもないのが現実。むしろ今まで会ったサーヴァントではトップクラスの実力を持っておる。しかも狡獪で周到深い」
「そこまで分かるんですか…?」
機を見計らい、なるだけさりげなく訊いてみる。すると、キャスターが得意げに鼻を鳴らした。
「そりゃあな。歌人には、一より十を読む洞察力、内に潜む思惟を見抜く読解力が必須なのだよ。常識だ常識…だがぁ、どう考えてもキツイんだよなぁ。誰か適当なのと潰しあって共倒れしてくんないかなぁ…」
「……そうなってほしいですね…」
思わずため息が出る。実際問題、あの陣営が現状での最大の脅威だ。そのことは、マスターである少女が初対面に対して堂々とクラスを明かしたのが保証している。少女も少女で、底が知れない。>>353
「とにもかくにも、彼奴らがアサシンである以上、これからは無用心な行動は控えるべきだ」
「と、言うと…」
「奴輩は、己が持つ力や境遇なんかを最大限利用するタイプだ。同盟は反故する前提。協力は謀殺.する前提。となれば、アサシンという暗.殺に適したクラスで召喚された際の行為も大方想像がつく」
「……闇討.ち、ですか」
「Exactly.そして十中八九、狙われるのはお主だ。サーヴァントはいかに強力でも、マスターがいなければ現界し続けられないからな」
ゾッとした。あの圧が、自分目掛けて、命脈を断つだけに専念して迫ってくる。夢と同じくらい理不尽に。夢よりも鋭敏に。
「…安心せい。小生らが此処に籠っている以上、奴輩は攻めては来れん」
「そ、そうなんですか?」
「そも、キャスターが前線に出張ること自体がイレギュラーなのだ。防戦と情報戦こそキャスターの真骨頂!…というか、現状生き残るにはそれしか出来ない!」
半ば吹っ切れたように高らかに謳うキャスターを、郁は情けないとは思わない。
キャスターには、人麻呂には、聖杯へかける願いがない。召喚当日にそう語っていた。つまり、彼には聖杯戦争に情熱を注ぐ意義も、マスターを気遣う必要性もないのだ。だというのに、彼は今真剣に、自分の勝手な願望のために知恵を振り絞ってくれている。
初めて会った日から、随分と印象が変わった。未だに歌聖と名高き柿本人麻呂であるという確証は得られていないが、一般人が聞けば妄想だと嗤われるような素性を話しても疑わずにいてくれたことが、郁の安心感の種となっている。
だが、頼ってばかりではいられない。マスターとサーヴァントは主従の関係ではない。少なくとも郁はそう思っている。歴史に名を残す偉人を従えるなど畏れ多くてとても出来ない。であれば、キャスターに迷惑をかけているだけでは駄目だ。少しでもキャスターが楽を出来るように、マスターとして努めなければならない。>>354
「……キャスター、さん」
「…なんじゃらほい?」
この期に至っても、「戦争」に自分が加担していることを考えたくない。でも、
「…私、何だってします」
「うん……え?」
でも。参加した以上は、理不尽に遭い遭わされ遭わすことになるのは理解している。そんなことは二十年来嫌というほど、嫌になっても味わってきた。だから、
「生き残るために。勝つために。戦います。私」
「…………」
だから。ここでこそその経験を活かさないといけない。忘れたフリをするのは、夢で出会った存在たちへの冒涜だと思う。夢から離れるために来たのだ。夢から目を背ける訳にはいかない。きっと、たぶん。
「……それはつまり…他の連中…あの女子たちを傷つけることになるぞ?」
「わかってます。でも…彼女たちも、魔術師ですから」
「ふむ…魔術師だから、か…」
キャスターは、以前とはうってかわって無口になり、しんと郁の答えを鑑みている。瞳の色が、驚愕から不安に、不安から心配に、そして心配から、理解に移ろった。これまでに見たことのない喜色を郁に向けている。
「…となると、一般人には被害を出すつもりはない、と?」
「…そのつもり、出来る限りは…私たちが勝手に始めたことですし…」
「うむ、うむ、OK牧場。把握した。…まぁ、そう意気込んでくれたのは嬉しいけどさ、今はまだ大丈夫だよ。今はとかく籠城あるのみ!…ってことで、さぁ寝た寝た!」>>355
返事を言うより早く、キャスターは郁に何か紙を手渡し、グイグイとベッドに押し込み座らせた。
「それ枕の下に仕舞って寝てみろ。安眠のお呪いだ」
「でも…」
「でももかしこもなーい。今日疲れただろう?ちゃんと休養を取るのが今しばらくの役目だよ。安心しろ」
どこで学んだのか、お世辞にも上手とは言えないウィンクをして、颯とキャスターはソファーの方に戻っていってしまった。厚意なのだろう。申し訳なくもあるが、むげにする訳にもいかない。
紙をちらと見ると、典型的な宝船とおぼしき絵と、達筆な字で綴られた歌が載っていた。同時に、どっと疲れと眠気が押し寄せる。緊張が解けたのだろう。
そのまま、無造作に。郁はいつもよりちょっと奇怪な夢路を辿っていった。>>356
以上、4/30(夜)キャスター陣営「きょうのゆめのこと」でした無事、ライダー陣営との相互不可侵条約が成立した帰りの夜道。
ネブカドネツァルはふと空を仰ぎ見た。
時間帯は夜であっても当世の都市は不夜城の如く。電気で灯された明かりは星の輝きを遮るかのように輝いている。
奇妙な星辰、星の並びが彼女に伝えているのは、避けられない運命。
(運命、運命の戦いとはまた大きく出たわね……)
正直に言って、彼女はこの覇久間聖杯戦争という舞台にさほど期待はしなくなっていた。
弱い。
選ばれた英霊が、という意味でもあるし、何より万能の願望機である聖杯という特級の儀式を巡って繰り広げられる戦いに選ばれたマスターも、である。彼女の私見では英雄の中でも王と呼ばれるトップサーヴァント級の英霊が召喚されて然るべき儀式だ。魔術師も時計塔の技量で考えるならば色位や冠位、例外的に祭位が出てもおかしくはないとさえ思っていた。単なる魔力炉心として扱うにしろ、野放しにするには危険すぎる代物だ。
流石に政治的な立場もあるからそう簡単な話ではないのだが、曲がりなりにも天上王という器(クラス)を得ているのがネブカドネツァルという人物である。英霊としての威信を賭けて競い合う同格が一人もいないというのはモチベーションに関わる事であった。
勝って当然の戦いに、意味などない。
言葉を交わす価値すらない雑兵相手に、意味などない。
強いて例外を挙げるとするならば、あのバーサーカーか。その身に満ちる神威、暴威の形もつもの。嵐という自然の、気象現象が擬神化した神霊が当世にあって、あのような零落を果たすのは理解できた。サーヴァントとして使役される程までに堕ちた神性とはいえ、かつての古き神秘を宿すものだ。神なるものだ。
英霊を統べる王の位ではないにしても、敬意を払うべき相手だろう。
「うん……ぅ」
「ゲーティア、起こさないようにね」>>358
「空間転移でも飛行でも使えばすぐだというのに。地を這う凡俗共と同じく、脚を動かすと決めたのはお前だぞ」
「あら、背負うことは否定しないのね?」
「どうだか」
彼女のマスター、二階堂夢莉は緊張で疲れたのだろう。ゲーティアに負ぶわれていた。
ネブカドネツァルもゲーティアも、互いにこのマスターは愚かであると断言するだろう。だが、不思議とそれが悪い気分ではない。
手のかかる子のような、そんな気分だ。
――これ、エーデルワイスっていう花なの。お母さんのお気に入りでね――
花の意匠を凝らした髪飾りに触れて、照れるように微笑む。
それを悪くない、と思ってしまった。
私が。
天上王ネブカドネツァルが。
常に戦乱を切り抜け、自らに従わない民は、国は滅ぼしたはずの王が。
「ごきげんよう、かしら? 聖杯に現代の知識は与えられているから意思疎通には問題ないとは言え、聴き慣れない発音はむずがゆいわね」
意識の外から、しゃらん、と鈴が鳴った。
そんな気がした。
「こちらこそ、セイバー」
「……っ!」
アサシン陣営からすれば、サーヴァントに類する者で未知なのは消去法でセイバーなのだが、隣でエスコートしていた青年が、初見でクラスを言い当てられて唾を飲む。>>359
セイバー。
剣士とは真逆の貴婦人、その佇まいは貴族のそれだ。
然るべき教養を受けて、“貴き者の義務(ノブレス・オブリージュ)”を成すことに一分の疑いもないような美しい心の持ち主のように一瞥しただけで分かる。
近代の人間霊が英霊に至るのならば、よほど質か量の良い信仰を捧げられたのだろう。
ゲーティアはセイバーの振る舞う魅了――魅惑の美貌を認め、即座に偽証されたソロモンの指輪で解呪する。そもそも魔術に関しては神域であるアサシンの対魔力、霊的な抵抗力を抜けるような存在は権能クラスの超抜スキルしかあり得ないが、判断力を鈍らせる要素は排除したいと考えるのが、この人間嫌いで几帳面な魔神の性根である。
(このクラスまで行くと外見で有名な英雄のパターンだな。後で調べておくか)
いかに信仰の知名度補正があろうと近代のサーヴァントはそもそも元となる人間霊のスペックが神代の人間と比べて極端に低い。戦闘力という意味では大したことは無い、というのが英霊の中でもトップ中のトップであるアサシンの見立てだった。
「ねえ、セイバー。貴女は剣に何を乗せるのかしら」
どうとでも取れる曖昧な質問だった。
「そうね……人が生涯かけて残していく、思い、偉業の光。みたいな意味で良いのかしら」
「待ってください、セイバー!」
いきなり切り札である宝具の核心を突くような質問に、思わずセイバーのマスターも焦りを隠せなかった。
「………………そう、こっちはソロモンの指輪を使うの」
「はあっ!?」
今度はゲーティアが驚く。
「――――じゃあね、セイバー。貴女は、必ず私が殺.しますから――――」
それ以上は言葉を交わそうとはせず、踵を返して、立ち去る。
珍しく、ネブカドネツァルは仄暗い微笑みを浮かべた。
(そうだった、我が女王陛下は意外と――戦闘狂だ!)>>360
ゲーティアはネブカドネツァルのお眼鏡にかなったサーヴァントが現れたことに喜ぶべきか、悲しむべきか迷った。
天上王に容赦の二文字は無い。本物の戦争を起こす気だ。
以上です~
4/30日
[[運命の邂逅]]> それ以上は言葉を交わそうとはせず、踵を返して、立ち去る。
「ええ。またいずれ。ネブカドネザル王」
その背中に、恐るべき言葉が投げかけられた。>>362
己の真名を当てられたアサシンは本能的に振り向く。
その顔には、この数瞬で真名を当てられたという驚愕よりも、なぜ真名を当てられたのかという好機が滲んでいた。
「……確認をしてもいいかしら? なぜその名が私の真名だと?」
「簡単な思考パズルですよ。
『配置に就き、用意を整えよ。剣があなたの周囲でむさぼり食う』……エレミヤ書第46章の言葉です。ネブカドネザル王はこのように剣に例えられることが多かったという。
先程貴女は「貴女は剣に何を乗せるの?」と仰った。物言いとして不思議ではありませんか? まるでさも自らも剣を振るうような口振りです。
まあ最も、ロシアの民話『Сказание о Вавилонском царстве』においてネブカドネザルが振るったとされる剣が宝具になっているのであればなんの不思議もないのですが」
「……意外ね。詰めるのであればソロモンの指輪の方からだと思ったのだけど」
「ああ」
あれはヒントでしたか、と言いたげに苦笑するアレン。
神代の王に対する態度としては不敬極まりないものだったが、アサシンは一向に介していなかった。
「『ベン・シラのアルファベット』、『聖アントワーヌの誘惑』曰くネブカドネザルはソロモン王とシバの女王の間に生まれた子だそうです。
かのソロモン王の血統であるなら、ソロモンの指輪を使えることに不思議はない。論ずるに値しませんよ。そうではありませんか?」
―――瞠目すべきは、その圧倒的な知識量か。
言葉尻を的確に捉える心理的な推察力はもちろん、その根幹には神秘に対する智慧の研鑽があった。>>363
「ええ……その通りだけど。ねえ、セイバーのマスター。
ここまで見事に真名を看破されて、生きて返すと思ったのかしら?」
「はい。思いましたが、それがなにか?
どうやら貴方のマスターは随分と疲弊している様子だ。
その状態で、セイバー相手に矛を交えるほど貴女は愚かではないでしょう?
……気を損ねたのなら申し訳ない。ほんの意趣返しのつもりだったんですがね」
―――当たりを引いた、とネブカドネツァルは確信した。
己をネブカドネツァルと知りなお真っ向から心理戦を仕掛けられるマスターと、近代の生まれでありながら己のお眼鏡に叶うセイバー。
特にマスターの方は相当の修羅場をくぐったのだろう。その目には特有の光があった。
「……その不敬を許します。セイバーのマスター。
我が名は天上王ネブカドネツァル。貴方のサーヴァントを殺.す者と覚えなさい」
名乗りを上げるアサシン―――ネブカドネツァル2世。
その宣言に、剣の主従は―――
「サーヴァント・セイバー。真名をオードリー・ヘップバーン」
「僕の名はアレン。職業は―――探偵です」
互いの真名を持って返礼とした。>>364
以上
4/30日 [[運命の邂逅]]追記版でした服を買った後しばらくして、二人は屋内のフードコートで昼食をとることにした。ローガンにとって日本の食文化は奇々怪々なので、世界共通の味、ファストフード店で注文しようとした。
「あ、マスター。兎(わたし)ダブルチーズがいいです。ジュースは烏龍茶です」
「はいはい、わかったよ。セットでお願いします」
お昼を少し過ぎた時間帯だが、フードコートにはまだ人が多い。ようやく座れる席を確保した側から、注文の品が出来たとの呼び出しがかかる。
「マスター、兎(わたし)がとってくるです」
「ああ、頼んだ」
ピョコピョコと揺れるフードとアホ毛を眺めながら、ローガンは今後の事に考えを巡らせた。
現状、取れる行動は少ない。情報も足りないし戦力も充分とはいえない。とりあえず一番の障害はバーサーカーだろうから、それを打ち倒す方策を考えねばならないが―――
「マスター狙い……か……」
自分で呟くと、その言葉がゆっくりとのしかかってくる。もちろん覚悟していなかったわけじゃない。大切な義妹であるエミリアの為ならどんなことでもすると誓ったのだ。戦争と名がつくからには、この手を汚すこともあるだろうと。魔術師としてのローガンはそれを理解している。>>366
だが一人の人間―――『クレイドル家』の人間としての自分がそれを躊躇っている。家の教えは『皆を救うこと』。それ故に(魔術師の中での)世間一般から見ても特異な、比較的に犠牲を出さない魔術師集団となった。
クレイドルの人間はきちんとした倫理観を教育されている。バカ姉貴(ミリンダ)という『例外』を除けば命のやり取りを日常とする者は少ない。まぁ現当主の祖父はわからないが。
「何を悩んでるです?バーガー、持ってきましたですよ?」
気がつけばランサーが向かいの席に座ってこちらを見つめていた。既に自分の分のハンバーガーの包装を外しはじめている。その姿はとても、昨晩激戦を繰り広げていた少女と同一人物だとは思えない。
「そういえばマスター、家の中なのに寝袋で寝るのはよくないです。せっかくですからお布団を買いましょうです」
あと食材も買わなきゃですね〜、と言いながらバーガーを食べ始める。こうしてみれば普通の少女と変わらない。サーヴァントとはいえ、生前の彼女もこんな感じだったのだろうか。ローガンは呆けた瞳でランサーを見つめていた。
「…………なぁランサー」
コーラをストローで飲むと、ローガンはふと尋ねた。
「もし俺が『人をころせ』と言ったら、やれるか?」
聞いた直後、ローガンは発言を後悔した。サーヴァント同士の戦いならば、互いに納得だろう。聖杯戦争とはそういうものだからだ。だがもし、ランサーが善となる英霊であれば、信頼関係を崩しかねない質問だ。そうでなくともこの多人数の中で会話を聞かれでもしたら怪しまれてしまう。防音の結界も貼らずにするべき会話では無かったのに。
悔やむローガン。そんなローガンを真っ赤な瞳で見つめながら、ランサーは即答した。
「もちろんです。それがマスターの為なら遠慮なくやるです」>>367
あまりの速い解答にむせてしまうローガン。ランサーは慌てて紙ナプキンを差し出す。
「もちろんって…いいのか?」
ローガンは軽く咳き込みながら玉兎に尋ねる。命をとるという選択を、そんなにあっさりと出来るものなのか。
「そりゃ兎(わたし)は殺しが好きなわけじゃないです。けど、殺しが出来ないわけじゃないです。マスターが殺れといえば喜んで殺るです」
そう言うとランサーはジュースの容器を両手で持って、
「それが兎(わたし)の役目であり、マスターに『ご奉仕すること』が、生きる理由なんです。―――そのはずなんです…」
そう呟くとズズッと音を立てて烏龍茶を飲み干した。そして同時に、ローガンの疑問が氷解した。
『何もしなくていい』、今朝のこの言葉でランサーが傷ついた事がなんとなくわかってしまった。おそらくランサーにとって『誰かに必要とされる事』は生きる目的なのだ。そして自分はランサーの生きる理由を、そうとは知らずに否定してしまっていた。
「すまない、ランサー。俺は君に―――」
「謝らなくていいです。マスターが兎(わたし)の為に色々しようとしてくれたのは伝わったです」
玉兎はそう言って、ローガンの分のポテトに手を出す。
「だから何でも言ってくださいです。兎(わたし)はマスターの為にしっかり働くです」
ポテトをかじりながら玉兎は笑った。その笑顔にローガンは再度、誓いをたてる。
そうだ。自分は今、戦いの中にいるのだ。
全てはエミリアの為に。
ならばこれは、『エミリアを救う』戦いだ。>>369
以上、覇久間ランサー陣営4/30
『兎の上り坂』ホテル。室内。静。カーテン越しの外界は暗く、それもあってより一層部屋は静寂と無彩色が蔓延っているように感じさせる。光源は近くのスタンドライトのみ。音はベッドで眠るマスターの寝息と、キャスター、人麻呂が紙上に動かす筆のみ。
漸く馴染み深い情景に巡り会えた。未だにソファーの腰が沈む感触は馴れないものだが、それでも望郷懐古を偲ばせるには取るに足らないものだ。
こんな風に、旅先で人麻呂が日常を懐かしむ時は決まっている。現状が、いかんともしがたい時だ。嵐に襲われた時、波に拐われそうになった時、賊に狙われた時、他にも数え切れないほどにある。
それでも、人麻呂が旅を続けた理由は一つ。「知るよりも見たい」から。百聞は一見に如かずとは正しくで、直に物事と触れあうことは人麻呂の人生において今も華々しく咲き定まる花となっている。
だが、今回の旅は一筋縄ではいかない──いや、むしろ一縷の蜘蛛糸さえあるのかというほどの厳しい試練がかされている。退こうと思えば簡単に退ける。どころか、一片でもそんな思いを抱いてしまえばあっという間に他から退かされてしまう。
そんな訳にいかない。何故なら、主がその試練を遂げようと、遂げてみせると宣ったから。そのために他者と戦うと謳ったから。強がりかもしれないが、嘘ではない。実にはならないかもしれないが、虚ではない。知ってか知らずか、人麻呂のマスターは言挙げしたのだ。事もあろうに、この人麻呂の前で。
然れば、人麻呂も悠長には構えていられない。日和見を決め込むのも、今日が潮時になるだろう。それまでに集められるだけの情報を観光と称し、満喫と併せて収集するつもりであったが、どうにも芳しくない。量も、質も。結果も。
真名の推測は夜に行った程度が精々だ。これ以上考えると藪にらみになってしまいそうでもある。日和見から外れると極めたなら、そこで新しく探りを入れれば良い。無論、命懸けでだが。
巻を繰り、白い面に筆を進めていく。陣営を整理するために、自分の心を静めるために。>>371
ライダーは強い。権謀術数とか手練手管とかそういうものではなく、純粋に、単純に強い。剛の者としてほぼ完成している。つけ入る隙が見当たらない。
兎の少女は奇妙だ。外見が、ではなく、況して態度がでもない。「全てが」奇妙なのだ。何をしでかすかわからない。だが、前者と比べると完全性は薄く感じる。
アサシンは恐ろしい。あの有り様は超然的で、こちらを見ているのに視ていない姿は俯瞰的で少々浅薄だ。何を食べれば、何を目指せばああなるのだろう。虚空を目指して霞でも主食にしていたのだろうか。
誰も彼も、キャスターたる人麻呂が相手するには適していない。マスターはそれを気遣って代わりに戦うなどと嘯いていたが、何かを召喚するにしてもその何かが彼らを勝れるとは思い難い。
だから訊いた。マスターの彼女らを攻撃することになるぞと。そして、覚悟しているという旨を返された。ということは畢竟、戦うとなればマスターを狙うことになるのだろう。昔を生きた英霊ではなく、今を生きる人間を。
マスターは、本当に覚悟が済んでいるのだろうか。数奇な星の下に生まれ、それ故に周囲に迷惑をかけないようにと苦心し、藁をもすがるように周囲を只に想って参陣したマスターが。きっと、命のやり取りになるなど露とも知らなかっただろうに。
初めマスターに会い、その遍歴を語れた際はその「夢」については気になったために注意して聞いたが、それでも喋りや思考が乱麻のように雑駁且つ不透明で、どうしようにも夢の内容を想像し難かった。当時は無意識の内にも濁してしまうようなほどのものなのかとも思ったが、幾分か過ごしてみて段々とそれを越すような体験をしていたのだなと考えられた。彼にしてみれば自然な行動だったのだろうが、一挙一動のどれもが慎重で現状に懐疑的だった。何があってもすぐ逃げられるように、すぐ隠れられるように、と動いていた。もしかしたら、戦争に関わるにつれ、夢を明確に意識しはじめたりしたのかもしれない。>>372
とかく、この戦争は人麻呂にしても心苦しいものがある。生きた時代が時代故にある程度は非情になれるとは思っているが、生きた時代が時代故にマスターたちの若さに辟易した。年端もいかぬ若人たちが、未来のある者たちが、どうして勇んで戦争などに挑むのか。各々の宿願を叶えるためと言われればそれまでだが、だとしても、死.んで花実が咲くでもなし。進んで若草が散っていくのは間違っている。
況んや、そんな彼らがこの地に住まう人々や自然の命を摘むなど、それこそあってはならない。それも、サーヴァントの手で。過去の者が、今の者を無下に殺.めて良い道理などあるものか。進む道ある者が、それを棒にふり朱に染まるべき理屈などあるものか。
気づくと、筆を持つ手が、巻を支える手が震えていた。恐れにも、武者震いにも非ず。悲しいのだ。辛いのだ。甚いのだ。どれほどそうはさせぬと意気込んでも、努めても、覆しようがなく、掬いきれない己の無力さが、不甲斐なさが憎いのだ。目元が濡れる。嘆いても嘆ききれない妄誕を噛み殺.す。これから散りゆくものを想って。これから朽ちるものを偲んで。
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす
──人として。地に立ち、天を仰ぐ人として。今しばらく、神に恃んでも良いのなら。どうか、どうか、咎無くて死.せるものの少なきことを────。>>373
以上、覇久間術陣営5/1(未明)『あふさかのゆめのこと』でした。第■回、投下いたします。
「わかった、乗るよ」
アサシン陣営の誘いに応じる銀河。
「…………賢明な判断に感謝する、場所はここだ」
そう言いながら、アサシンは折りたたまれた紙を投げてよこす。
「おッ、とと…………」
「そこに書かれてる住所が管理者の居場所だ、調べれば出てくる─────じゃあな、明日の夜で待ってる」
そう言い放ち、アサシン陣営は数多の鎖に包み込まれ、一瞬の内に姿を消していた。
「………………………………」
銀河は変身を解除し、手元の紙を見た。
■■■
「「「どうするかなぁ~~~…………………………………………」」」
一度キャンプ場へ戻り、作戦会議と相成った剣術陣営。
管理者の屋敷に仕掛けられた魔術は、銀河が企業秘密(という名のキャスターモジュールによるゴリ押し)でなんとかするということで纏まった、が…………目下の問題は─────────。
「アサシン陣営、どうしよ…………マジで…………」
まぁ、問題はアサシン陣営だけでは無いのだがそれは一先ずおいといて。>>377
「面白そうじゃん!やってみよー!!」
「大丈夫!!大丈夫!!」
「大丈夫だ!いける!!!」
「わたみうおたみ」特別意訳:《何でも良いからそれにしたら良いんじゃ無いかな?!?!?》
深夜テンション────────それは、時間の経過と共に火力を増していく不発弾……………………!
更にッ!先ほどの戦闘による疲労という名のニトログリセリンも相まって火力は更に上昇!
狂気の沙汰、ここにあり!!
今、深夜テンションが生み出した正気の沙汰ではない作戦が採用されてしまった!!!
────────なお、流石に後日『小聖杯を回収したら即撤退』という一文が強調されて書き加えられた模様。ハクマ投稿します!
アサシン陣営との交渉を終えて蒲池邸では夏美が朝食の準備をしていた。アサシン陣営から提示されたギアスには、夏美が管理者として見過ごせない事態が起きたとき、アサシン陣営への干渉することは良しとする、条件を加えた上で承諾した。
夏美の朝食の準備は普段とは異なる点が二つあり、一つはいつも通りの夏美一人の一人前ではなくライダーも食べるので二人前になること。さらには、昨日晩御飯食べれなかったので、一週間の食事ローテーションがズレて、昨日の晩御飯に食べる予定だった牛肉のしぐれ煮、小松菜のおひたし、切り干し大根が本日の朝食となることだ。
作り置きを冷蔵庫から出して朝食の準備をする。料理をしながら夏美は思考を巡らせる。
深夜のサーヴァントたちの闘争後、彼女は僅かな仮眠をしただけであとは管理者としての対応と敵サーヴァントの真名考察のため、ライダーとともに書庫をひっくり返していた。
暴風の化身たるバーサーカーを召喚した猜野家を問い詰めてみれば、「聖杯戦争中だから他の参加者に情報は開示できない」と言い張り、バーサーカー陣営に起きた事情には口を噤んでいた。あくまでもバーサーカー陣営は本家がコントロールできていると言い張っているのだ。実際のところ、それは嘘だろうと夏美は見ている。
まだ神秘の秘匿を破る事態にはなっていないし、被害規模も大きくなっているわけではないが、それも時間の問題なのではないかと彼女は危惧している。監督役の食満にも連絡を取り、警戒するよう依頼した。>>379
「浮かない顔だな」
夏美に声をかけたのは一人の聳える巌のような巨漢であった。サングラスをかけて、シャツとパンツを穿いているのは、彼女が契約したサーヴァントであるライダーだ。
ライダーも一晩中文献の読み漁りをしていた。聖書、古文書、魔術書、各国の民話集など多岐にわたっていた。
「芽衣さんを連れ去ったバーサーカーは行方知れず、猜野家も白を切る。困ったものだわ。それにあのバーサーカー、これから何か起こしそうだったわ」
「ああ、あのバーサーカーからは神気を感じた。それも荒魂の類だ。あれは呼吸する破壊衝動のようなものだ」
「荒魂……。バーサーカーは神に連なるものってこと?」
「神。──サーヴァントになるまでに零落した存在だ」
「あり得るわね。格を落とせば神であっても召喚は可能なのよ。……猜野もとんでもないサーヴァントを召喚してくれたものね」
「いいじゃないか、歯応えのある敵は大歓迎だ。あのランサーやアサシン、それと覗き見していたあいつとか、楽しませてくれそうな連中が多くて嬉しいねぇ」
ライダーが顎を掻きながら言う。
「藤太も来ねぇかなぁ」
「藤太って……あなたを倒した俵藤太?」
「そうだよ。あー負けたぜ!こめかみをピンポイントに撃ってきやがって、俺もそれくらいでやられるかと二の矢は避けて斬りかかったら、あんにゃろ即応戦して来やがった。喜々として! やっぱ強えーやあのあいつ。強ぇ上に更に気持ちの佳い男だぞ!」
自分を討ち取った相手をまるで旧知の友人を懐かしむように話すライダー。
「でも次は絶対に負けない」
ライダーは英雄の剛毅さと獣性が同居した、獰猛な笑みを浮かべる。>>380
「……えー、やめてよ、ここでアサシンやバーサーカーでも頭痛いのに、俵藤太が召喚されてたら覇久間が焦土になるわ」
夏美はそう言って嘆息するものの、料理する手は止めない。ライダーもそんな彼女の手際の良さを感心するように眺めるだけだ。
「風や嵐に関連する神……建速須佐之男命、風伯、ヴァーユ……候補は色々いるわね」
「もう一当たりでもしなければ、もっとわかるかも」
ライダーはそう言って、豊かな黒髪をかき混ぜるように掻いた。
「マスターのほうはわかったけどね……。ちょっと待って、今スマホで見せるから」
そう言って夏美はポケットからスマホを取り出して、操作する。アサシンのマスターの顔から、事前に調べた聖杯戦争に関与する可能性がある者たちのリストからピックアップされたデータが、夏美のスマホに転送されていた。
「用意がいいな、もう参加者を把握しているのか?」
「まさか!事前調べられたのは前々から聖杯を狙っている人たちやその縁者、関係者くらい。外から噂を聞き付けてきた人とかじゃ、よっぽど有名な人でもないと調べられないわ」
噂を聞きつけて聖杯を求める魔術師、聖杯に引き寄せられた魔術師たちも、この聖杯戦争に参加している可能性は当然ながら、夏美もわかっている。
「まあ、一門の人たちを使っても聖杯戦争では、他のマスターたちが使い魔や従者でやれることと大差ないと思う」
「そんなもんかね。まあ、アドバンテージを活かすのはいいことだ」
ライダーと会話しているうちに夏美は目的の情報を見つけた。
「えーとっ。あ、ほらこれ!ほら、これ見てみて!」
「なるほど。スマホか……、便利なものだな。名前は二階堂夢莉か」
二階堂という名字に夏美は心当たりがあった。それはかつて聖杯戦争に参戦して生き延びて以降も、聖杯に固執して今も覇久間の土地に居座る一族。夢莉はその二階堂の出身だったのだ。
「おい、この夢莉という奴は魔術師の素質はない書いてあるぞ?」
「ん~、魔術回路を作ったり代用できたりするものがあるし……そー言えば偽臣の書なんてものもあっだっけ。ま、そういうわけで、魔術師でなくてもマスターになれる手段はあるんだ」
「そうなのか、まあ、あいつのほうはとりあえず置いておくとして……、今日はどうする?お前の友人を探し続けるか」>>381
「いえ、捜索は一門の皆に今も続けているからこのまま続けてもらうつもり」
夏美がテーブルに料理を並べていく。
「だから、約束通り今日は出かけましょう!会いたい人もいるんだ~」
約束とは、ライダーが手に入れた新車で市内を散策するということだ。
「そうか、ならばよろしく頼む。なんせ、久しぶりの娑婆だ。戦いを忘れて現世を見て回って楽しみたいからな!」
「オッケー。でも、その前に、朝ごはん食べよう!」
◇◆◇
朝食の後、夏美とライダーはガレージへ向かった。
「当世の鋼の馬!いやぁ、楽しみだね」
まるで少年のように屈託なく笑うライダー。彼の視線の先にあるのはハーレーダビッドソン ファットボーイ。大型のバイクもライダーと並べば、その大きさもちょうどよいとさ思える。
「ものは試しと言ってみたが、本当にいいのか?」
「あははっ、今更? アタシはバイクの運転なんてしないし、もう一括払いで買っちゃってるから遠慮しないで乗っちゃっていいよー」>>382
ライダーには架空の身分の名前が入った〈サウス&スター〉という法人名義のゴールドカードを持たされていた。
〈サウス&スター〉は蒲池の分家筋で魔術回路がまったく発現しなかった親族が、夏美の投資を受けて立ち上げたSNSゲームのベンチャー企業だ。
その親族は前々から夏美とは親しく交流を持っていた青年だった。当時東大在学中の青年は、
──夏美、今しかないんだ。やるなら今じゃなきゃ、大手に太刀打ちできない。
と、夏美の前に両手を突いたという。それがいまや大手と肩を並べる東証二部上場企業である。銀行やファンドなどが入って比率は落ちたが、夏美は今でも堂々たる個人筆頭株主だった。持ち株比率は六・一パーセント。だが毎年の配当も夏美のポケットマネーの一部でしかない。彼女が蒲池家の正統継承者となったことで相続した大企業たちの株式、その他夏美が持つ諸々の株式配当は、ライダーが湯水のごとく使った金額、そしてそのライダーを召喚するために使った触媒の購入額は、その所得税にすら届かなかった。
そしてライダーが受け取った法人カードは、〈サウス&スター〉の架空の社員としてのものだ。
ライダーは意気揚々とバイクに跨がり、夏美もまたライダーのうしろに乗る。二人ともヘルメットは着用している。
「お巡りさんに運転免許を見せなさいと言われたら、アタシが誤魔化すけどさ目をつけられるような危険運転はやめてね!」
「安全運転だろ?わかってるわかってる」
ライダーは騎乗スキルによって、ライダーにとって未知の乗り物であるバイクであっても、ハンドルを握ればすぐに乗りこなせる。
(あれ……?それでも……)
夏美が道交法をライダーが知らないことに気づいたのは、ライダーがバイクを走らせた後だった。>>383
4/30早朝
以上です!第■回、一日目の終わりを投下
「さて、一日目もそろそろ終わりますね。各自、報告があればお願いします」
私が音頭を取ると、まず発言したのはフードを被った男。
大聖杯周辺の警備班を指揮するユーリ・ジェノス……狙撃を得意とする魔術使いにして、私達実行部隊の幹部の一人です。
彼は相変わらずの仏頂面のまま、発言し始めました。
「北西部への侵入者は三名……来栖市に住む能楽魔術の家系の末裔『栗田東』、風魔術を得意とする主犯格『高間奈美』、心臓破裂の呪術を使う殺し屋『本郷翔』……全員が聖杯の奪取を目論んでいた為、始末した。『骸骨』が数体やられたが、人的被害は無い」
モニターに資料が映し出されます。
来栖市在住の魔術師として大人しくしていれば契約通り何事もなく終わってましたのに、ハニートラップに引っ掛かって破滅するなんて……次回よりセルフギアススクロールを義務化するべきでしょうか?
「開始前のアレといい、今回は騒がしいわね。少し不吉よ」
そう指摘したのはシノン・グランカート……暗示による住民の避難を始めとした大会スタッフの魔術班を指揮する幹部。
露出度の高い服装でモデルの如き体型を強調していて、見慣れていても健康的な色気を感じますわね。「ええ、積み重なっているのは偶然なのは解っていても、気分は良くありませんわね。ナタリヤ・ライツの件からして」
ナタリヤ・ライツ……本来、リザ・ハロウィンが居るべき位置に居たはずの魔術師。
参加者として令呪を獲得したものの、来日する前にその情報をうっかり漏らして争奪戦が発生。
ワイラー・デロス、ビアンカ・ネビュラード、ジェームズ・グラジオン、アリシア・エイランド、ディノ・シャーンドル、サーシャ・カンヒ、アレクサンドラ・ルデス……といった魔術師・魔術使い達が参加し、神秘の隠匿が危ぶまれる状態に発展。
最終的に、争奪戦参加者と誤認されたリザ・ハロウィンが令呪を獲得し、それ以外の参加者が魔術協会と運営により処断……身体中の血液だけが凍結した変死体が報道される一歩手前でしたから、そうなりますわね。
最も、投資家に動物学者、音楽家に保険会社の社長が次々と死んだってニュースだけでも世の中を騒がせましたけど。
「撮影班は特に無いけど、動いたねアサシン陣営」長い金髪を一本の三つ編みにした少女が口を開きました。
私達4人の中で唯一魔術協会から出向してきた時計塔の学生、ジェーン・キブル。
頭部にカメラ(確かモノアイという機構でしたか)を搭載したゴーレムで戦闘シーン等の撮影を行っている、私達にとって掛け替えのない子ですわ。
ちなみに、父親同様ゴーレムのデザインにはこだわりが有るようで、彼女の場合ロボットアニメが元のようです
「魔力に余裕が無い分、一番小聖杯が欲しいだろうからな」
「コミュニケーションだけでなく魔力供給の為にも食事してるものね。マスターと別行動だった今日の昼もマスターから貰った金でうどん食べてたし」
「あれ店の撮影許可下りなかったんだよね。昨日マスターと釜玉うどん食べてたチェーン店に入ってくれれば良かったのに」
「食事と言えば管理者の気取ってる感じも相当ね。今日の夕食も、野菜サンドに海老のタルタルソースはまだ良いけど、熊肉のスープって」
「というか肉類が大体ジビエって……部屋の内装といい貴族被れだよ」何度もこの仕事をこなした仲とはいえ、雑談に寄り過ぎですね。
少し軌道修正を。
「で、そのアサシン陣営と『関係深い』管理者のほうですが……シノン、ジェーン、準備はよろしいですわね?」
「ええ、使用人への暗示は既に完了。何時でも避難させれるわ」
「こっちもザック型を中心に配置完了。念の為、ドーム型も用意してるよ」
通常の二足歩行がザック型、足の裏にあるローラーで走行するのがドーム型(ホバークラフトにしたかったけど重量過多で妥協したとの事)……名前がロボットアニメそのままなのはどうかと思わなくも無いのですけど、今更ですね。
「私も予定通りですわ。では、開戦を待つとしましょう」以上で第■回一日目を終わります。
次から二日目の乱戦になりますね。
参加者の皆様はそろそろご準備を。覇久間投稿します。
ライダーの運転によって蒲池夏美はホテル『ティターニア』に到着した。
先日知り合った魔術師ブリュンヒルド・ヤルンテインに会うためだ。夏美はこの時期に覇久間に訪れた彼女は、聖杯に招かれたのではないかと疑ったからだ。聖杯がマスターを求めて適性のあるものを引き寄せることがある、と先代から聞いていたため、夏美は今の時期に覇久間に迷い込んだ夏美をマスターではないかと予想したのだ。
「……ま、本当は外から来た魔術師の心当たりはあの娘しかいなかったんだけどね」
「なんだ、そんなことか」
バイクに乗ったままホテルの中に突貫しようとしたライダーを慌てて止めて、駐車場へ誘導して駐車させた夏美が、ライダーに説明した。
「それより、あなたは常識を知っておかないとね」
「悪かったよ。馬と同じ感覚だった」
「アハハ!ライダー、実は馬も軽車両扱いだから、バイクでやっちゃいけないことは、馬でもやっちゃダメなんだよ?」
「……マジか」
絶句するライダー。自分の愛馬がハーレーの横に佇む光景を想像していた。ゾッとしない光景だ。>>390
ブリュンヒルドがマスターではないか、という疑いが解消されたのは意外と早かった。夏美を迎えた彼女には令呪があったのだ。
「ば、バレちゃった……」
「隠すつもりがあったら、せめて令呪を隠そうよ……」
「や、やっぱり夏美もマスターだったの?でも令呪は……?」
「それね、手の甲にあって目立つからさ」
そう言うと夏美は右手の甲の皮膚がシールのように剥がれた。すると、剥がれた皮膚と見えたそれは魔力で作られた膜。膜の下から現れた手の甲には令呪が浮かんでいた。波紋のような調和が取れた形をした令呪である。
「やっぱり、というなら、あなたもマスターになっちゃったのね」
夏美が嘆息する。
「いやぁ、なっちゃいました」
「そんな気軽に……、それでこの聖杯戦争についてはどれくらい知っているのかしら?」
「吾が教えたまでのことだけだ。彼奴めは何も知らん」>>391
ブリュンヒルドの代わりに応えたのは、彼女の傍らに実体化したサーヴァントである。白縹の髪を持つ青年だった。夏美には彼の瞳が魔性のものだと感得した。青年はストライプ柄のシャツを着ていため、装束や装身具から真名の推測はできない。
「おっと、あなたがブリュンヒルドのサーヴァントなのね。おはよう、私は蒲池夏美。ブリュンヒルドの友達で、ライダーのマスターよ」
「吾はアーチャー。ブリュンヒルド・ヤルンテインのサーヴァントだ」
「と、とも……っ、友達っ!?」
ブリュンヒルドは瞠目して驚愕した。自分はいつの間にか友達が出来ていたのか。
「え……?違った?」
「ち、違わ、ない……よ」
美しい金糸雀色の瞳が輝いている。
「そっか、よかった~。アタシの勘違いとかじゃなくて」
ほっとしたように言う夏美に、ブリュンヒルドは感心したように頷く。あっさりと友達を作ってしまう、これがコミュ強か!
「気にすることはない。彼奴はコミュ障故、汝の友達発言に戸惑っているのだ。否定はしていない。困った奴だが、許されよ」
アーチャーは放言と解されないよう口調に注意はしたが、やはりそれは放言だった。ひかえめにみてもそれは放言の従兄弟ぶんくらいの地位は主張できそうだった。>>392
「あ、あたしだって頑張ってるもん! コミュ障とかいうなし!」
マスターの抗議をサーヴァントは黙殺した。
夏美の傍らにライダーが実体化する。
「俺がライダーだ。昨日、遠方から俺らを見ていたのはお前だろう?」
「……気づいていたか」
「おうとも、ビルの上から一人、俺やアサシン、ランサーの闘争を監視していただろう」
「ええ~、アーチャーってば、一人寂しくビルの屋上にいたの?うわ……」
「……ボッチの汝と一緒にするな」
「ボッチ言うなし!」
「にんにく」
「にんにくじゃないもん!」
そう言いつつ、ブリュンヒルドは思わず自分の腕辺りの臭いを嗅いで確かめる。
「あははは!仲良いんだね」
夏美は主従揃っての抗議をどこ吹く風である。
「まあまあ、それは置いておいて、あなたにはちゃんと説明するよ」
夏美はブリュンヒルドへ聖杯戦争について説明することにした。とは言っても、アーチャーからの与えられた情報を補完する形である。>>393
「万能の願望器である聖杯か……」
「あなたは何か願いがあるの?」
「えっと……、ない……かな」
考えながら、ブリュンヒルドは言った。
「そう……。もし、戦いたくないならば教会へ行って棄権することをすすめるわ」
夏美の勧めに、ブリュンヒルドよりもアーチャーが反応した。しかし、夏美のそばに控えるライダーを見て、そして沈黙を選んだ。
「それも……、嫌だな」
口下手なブリュンヒルドは考えつつ、言葉を選びながら話す。
「死にたくないけど、逃げるのは負けだな~と思う。たから、戦いは続けようと思う」
「そっか。オッケー。死にたくない、逃げたくないも、立派な理由だと思う。お互い頑張りましょう」
夏美は微笑み、ブリュンヒルドもつられて笑った。
「あ……ありがとう……」
何と言ってよいかわからず、ブリュンヒルドが頑張った結果がその一言だった。ブリュンヒルドは自身の言語的資源の枯渇していることに頭を抱えたくなった。
この後、夏美は話題に困ったブリュンヒルドによる魔術トークを1時間ほど聞くこととなり、二秒ともたず飽きたライダーとアーチャーはルームサービスのカレーライスを食べながら、海外ドラマを見て時間を潰していた。>>394
以上です覇久間投稿します
ローガンとランサーは食事のあと、ライダーとそのマスターに遭遇した。
ローガンはここで敵の陣営と遭遇するとは思わなかった。マスターのほうを見る。ニットワンピースを着ている日本人の美女だ。
眩しい美貌、なよなよとくびれたまるい胴からむっちりと張った腰、高い位置の腰からすらりと脚が伸びている。自分とほぼ同じ身長──ヒールのあるサンダルを履いているのでローガンよりも目線が高い。
ライダーのマスターが微笑む。友好的な笑顔で、匂い出す女のなまめかしい香はいかんともとどめがたい風情があった。
「あなたがランサーのマスター?アタシはライダーのマスター蒲池夏美。ここの覇久間の土地の管理者をしています」
夏美の横にいる革ジャケットを着て、サングラスをかけた巨漢も名乗る。
「ライダー。真名はピーターパンだ」
「ピーターパン……ふざけやがって。ローガン・クレイドルだ。こっちはランサー」
ローガンが苦虫を一〇匹ほど噛み潰したような表情で、自己紹介とランサーの紹介をした。ランサーはローガン相手とは打って変わって、硬い態度で警戒をしつつ夏美やライダーへ会釈した。>>396
敵マスターの抹殺を考えたものの、夏美の傍にいるライダーがいる限り、それは難しいだろう。彼女の自身の意図を察しているのか、サングラス越しに伝わるライダーの視線には名刀の鋭さを感じる。
「この土地の管理者に訊きたいことがある。……時間、いいか?」
「オッケー。じゃあ、場所を変えようか」
そういうことになった。夏美とローガンたちは商業施設内にあるカフェに入った。
「アタシが答えられることなら教えるよ。何が聞きたいの?」
「聖杯とは何なんだ?本当に……願いは叶うのか?」
それはローガンが前々から抱えていた疑念であった。
「おおっと、いきなり核心を突いちゃうか。そうだねぇ、あらゆる願いを叶えるという器。たぶん、君が訊いた通りの代物だよ。その奇跡の一端は『サーヴァントの召喚』という形で証明されていると思う」
「それは……確かに実感しているよ。どれだけ途方もない礼装なのかとわかる」
ローガンが想像していたサーヴァントとはあくまでも使い魔の類だった。それがランサーのような高度な存在であると思わなかった。歴史や神話に名を遺す英雄、偉人たち、人間の臨界を極めた超越存在である英霊。それを魔術師たちがごく普通に使い魔とするような魑魅魍魎、怨霊の類とは格が違う。
その力の一部を招来して借り受ける程度のことは出来たとしても、彼らを使い魔としえ現界させ使役するなど、尋常に考えればあり得ない話である。>>397
「それで不思議だったのは、これ程の力を持つ聖杯を巡る魔術師との争いを、なぜ教会が審判を務めるんだ?」
「なんせ自分たちが取らないのかってこと?」
「ああ」
ローガンは首肯する。聖杯と呼ばれる秘宝は数々の伝承に現れるが、中でも教会の教義において、聖杯の占める比重はひときわ大きい。聖遺物の管理・回収を任務とする第八秘蹟会などが動いてもおかしくはないだろう。
「あ~、それね。まあ、言ってもいいかな」
暫し、夏美が考えてから説明をする。
「実はさ、覇久間に顕れる聖杯が“神の御子の”聖遺物とは別物だという確証は、取れているんだ。覇久間の聖杯戦争で争われるのは、あくまでも理想郷(ユートピア)にあるとされる万能の釜を模した物で、聖堂教会も自分たちの教義とは無関係のものだと教会も判断しているわけ」
「そうか、だから聖堂教会が『監督役』なんて役目で大人しくしているのか」
本当に聖杯が懸かっているならば、教会は魔術師を総て殺し尽くしてでも聖杯を奪い取ることだろう。
「教会としては聖杯で魔術師が根源へ到達しようが、お金儲けしようが『勝手にすれば?』って感じなの。彼らは教義に抵触することでもないならそんな対応よ。だけど、覇久間の聖杯は強大だから、まったくの放置はできない。それで監督役をやっているのよ」
夏美がコーヒーを飲む。砂糖もミルクも入れないまま飲む彼女を見てローガンは意外に思った。
「そこまで凄い代物ならば……俺の願いも叶うの、か?」
「あなたの願いはわからないけれど、だいたいのことは叶うと思うよ」
願いが叶う。エミリアを救う、全てはエミリアのために思って来たが、願いが叶うと確約されると、胴震いが禁じ得ない。>>398
「これを使って、根源に到達しようと狙う魔術師もいるくらいだからね」
「……なんだか、あんたは根源に興味がないような言い草だな」
ローガンは胡乱げに夏美を見た。夏美はびっくりしたような顔をした。むしろ、ローガンはその反応に驚いた。
「お互いの事情は別にいいじゃねえか。やり合うのには必要ないだろう」
不自然に空いたような間を埋めるように、今まで沈黙を守っていたライダーがそう言って、ローガンの質問を打ち切った。ローガンも自分の願いを詳しく言うつもりがないので追及はしなかった。
閑話休題。
「俺たち以外の、他の陣営について知っているのか?」
「それは教えられないなぁ」
「まあ、そうだよな……」
「ん~、じゃあちょっとだけ教えると、アタシが知っているのはあなたたち以外では会ったことがあるのはアーチャー、アサシン、だけ。それ以上のことは秘密」
ガシガシと頭をかくローガンに、夏美がウィンクして答える。
「結構長話になっちゃったかな。そろそろ出ようか」
夏美が領収書を摘まみ、席を立つ。
「アタシたちも聖杯を求める以上、これからもあなたたちと対立することにもなるでしょう」
「最後にひとつ、……同盟は組めないか?」
「マスター!?」
「え?あ~、ゴメンね」
「いや……こっちこそ、無理言ってすまない」
ローガンも駄目で元々と思って提案したので、断られてもショックではなかった。夏美たちとはカフェの前で別れた。代金がすべて彼女持ちになってしまったのは心残りだった。>>399
以上ですアメリカ更新!
>>407
終わりです「運営側も、そろそろ能動的に大会をして欲しいのかしらね」
小聖杯。聖杯大会――この■回におけるボーナスアイテム。それが存在することは知っていたが正確な位置というのは不明であった。だが、『街全体を分けた九つのエリアの中からどれか一つのエリアの内、最も質の良い霊地』とまで情報が提示されたのなら、この聖杯大会の管理者(セカンドオーナー)がその場にいるというのは明確だった。
ライダーのマスター、アスパシアの礼装ならば霊地の割り出し、この惑星の脈である霊子の流れを解析するというのは、世界という概念を使ったアートグラフであるからこそ、見知らぬ土地であろうと容易い。
「で、俺のマスター様であるアスパシア殿におきましては、特攻なされるのですかね?」
「そうね。そうなるわ」
「ひぃぃ! 絶対に返り討ちにあうだろぉぉ」
確かに碌な準備もしていないわけで、なおかつ他陣営の動向すら特定できてない。
そのような現状で出来る手段といえば真っ当なら、穴熊か監視か。それが無難な選択肢として正しい“戦争”の流儀のはずだ。
偵察も無しに、攻め込むのは愚策というのを分かっているのがアレクサンドロス大王の麾下において名立たる後継者(ディアドコイ)――の中では無名のような弱輩なのだが、将軍まで登り詰めた男の見解である。
「ごめんね。貴方も叶えたい願い、あるのだろうけど」
「――お、おおん?」
殊勝な態度は不意打ちだった。そもそも負い目があるのは、ペウケスタスの方だった。征服王イスカンダルの盾、鍛冶神ヘパイストスが造り上げたトロイア戦争の大英雄アキレウスの盾。その絶好の聖遺物で自分みたいな三流が召喚されてしまったのだから。
「い、いや……俺の願いなんて、そんな大層なものじゃないんだ。夢は生きていた頃に見た。それをもう一度見たいっていう……そういうだけで、さ」
「そ。じゃあ、大人しく霊体化しておいて。電車乗るから」
「あー…………ほい」
何か上手く感情を利用されたような気がする。>>409
高速で移ろいゆく光景を、車窓から眺める。
アスパシア・テッサロニカの起源は『孤独』だ。この光景に代表される社会の営みから、人類という大きな共同体から、外れた魔術師の道とは天職という確信はある。それでも、あの一員となれたらどれだけ良かっただろう。孤独に耐え切れない弱さが、魔術師の道へと邁進させたのは間違いない。一族が、一家が、というのは言い訳だ。
何か変わるだろうか、この聖杯大会で、この優しい彼、ペウケスタスの見る世界が分かることで。
(でも何となく分かって来たわ。貴方は野心が無いんだ。きっとその一生をアレクサンドロス大王の楯持ちで、彼の矢避けで終わっても良かったのね)
口では騒ぎ立てるが、そこにあるのは無心だ。
それがアスパシアには心地良い。孤独を埋めようとするのではなく、孤独を孤独のまま寄り添っているその姿勢が。
(ありがとう、ライダー。貴方が私のサーヴァントで良かったと思う)
……南から西の、管理者が所有するであろう最優の霊地へと向かうまでに日差しは傾き、夕暮れに差し掛かっていた。
『もし管理者が……預託令呪とかで増強してきて抵抗してきた時はどうする? サーヴァントって宝具を除けばそう大した霊じゃないんだぜ』
一般人も乗り合わせる電車なのだから、その会話は両者のみで成立する念話だった。
『ん。対処法はまぁ、その管理者の命令を聴くな、とか?』
令呪に令呪を重ねられると、余程上手く命令(コマンド)を工夫しない限り、最新の命令が適用されるのだろうと思われた。令呪という魔力結晶の保有量は同等のはずだからだ。
三画を超えた令呪を相手が保有していた場合、上書き合戦は分が悪い。
『ルーラーじゃない、単なる主催者側にそこまでの特権があるかは微妙だけどな』
『でも小聖杯を保管しているのなら、状況によってはサーヴァント同士の戦闘になるはずよね。そこをコントロール出来ないのは危険だわ』
『じゃあ、こういうのはどうだ。まず偵察でヘタイロイの一~三騎程を突撃させる。そこで小聖杯を奪取できれば良し、出来なければ俺自身が突入する』>>410
ヘタイロイ。征服王イスカンダルの軍勢に参列したことによって、彼の偉業に後押しされる形で英霊の座に祭り上げられた者達のことだ。ただ、ペウケスタスの宝具で召喚される“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”は英霊の座から召喚されている、微弱な低ランクの単独行動スキルを持ち、宝具までは再現できない程度のサーヴァント……ではない。
盾に刻まれた記録が王の軍勢という形になったものだ。本物(というのも可笑しいが)ではない。
『小聖杯の位置を把握すれば、第一宝具で突入と即時離脱が両立できるはずよね』
『魔力消費で死にかけるから戦闘は無理だけどな!』
『構わないわ』
駅の改札から出て、管理者(知る由もないが檜葉という魔術師の一族だ)の屋敷に一直線に向かっていく。そして、その門の前で立ち止まった。
「インターホンでも鳴らすか?」
「まさか」
砂塵と共に世界が僅かに歪み――精悍な将兵が、三人の騎乗兵が現れる。
「行くぜ――AAAALaLaLaLaLaie!」
「「「AAAALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaie!!」」」
古代マケドニアの方陣の掛け声、ウォークライが響き渡ると同時に邸宅の門が騎馬によって勢いよく踏み壊された。>>411
第■回聖杯大会
二日目
行動→戦場:電撃作戦開始!
です!まだ戦場じゃないから戦場化?「さて、そろそろ時間か」
管理者邸から程近い路地で呟く。
普段から食事を行う事で魔力を少しでも高め、準備は万全。
昼食のツナマヨ、メロンパン、フライドポテトなんかも悪くはなかったが、夕食の餃子と回鍋肉はマスターが少し奮発しただけあって美味、これなら士気だって高まるというものだ。
何たって、今回はマスターを連れての大勝負。
小聖杯が手に入るかどうかがかかっている。
「アサシン、今回は『これ』を使うぞ」
マスターが渡してきたのは安物の宝石。
マスターが友人から一つだけ貰ったという試作礼装、飲み込むだけで込められた魔力が供給される回復アイテムだ。
一つしか無いこの宝石を躊躇なく飲み込み……一度の食事よりも多い魔力が身体を駆け巡るのを感じた。
「行くぞ。マスター」
既に管理者邸を囲むように、複数のサーヴァントの気配がある。
昨日の戦いを覗いてたか、それとも自力で辿り着いたか……まあ、どちらでも構わない。
他のサーヴァントの気配が動くのとほぼ同時に、俺達は管理者邸……その裏口へと駆け出した。モニターの一つに映し出されているのは管理者邸のキッチン。
最後に残った使用人が食べ終えたカルボナーラの皿を洗い終え、『当然のように』裏口から屋敷を出て行ったのが10分前。
それは、何時屋敷内で戦いが起こっても良いという証に他有りません。
ええ、小聖杯獲得の為に大半の陣営が参加するこの戦いは、本大会の縮図とさえ言えるでしょう。
「機会は平等……後は貴方達次第ですわよ」
モニターの向こうの参加者達へ、聞こえる訳が無いのに私はそう呟いた。第■回、アサシン陣営の乱戦出撃シーン+αです。
というわけで、改めて二日目管理者邸乱戦の開始を宣言します。
乱戦に参加する陣営は、出撃シーン投下をお願いします。
ナポさん、GMAさん、もし参加自体が厳しい場合はこのスレでも良いので連絡して下さい。
その場合、担当の陣営をどうするか意見等があると助かります。わたしの住処は灰色の世界だった。
一面に灰色の地面が広がり、大小様々な窪みがそこら中に点在する。上をみれば漆黒のスクリーンに、紺碧の球体が浮かんでいる。
仕えているのは皆が大好きな■■■■様。わたしも含めて多くの個体(民)が敬愛する、とっても素敵な方。
そんな■■■■様の為に命をかけて働くことがわたしの役目だった。
灰色の大地で跳ね回る日々。誇り高き役目を仰せつかったわたしは、永い刻の中を毎日楽しく過ごしていた。
その大地に、星条旗が立つまでは。
>>416
◇◇◇
ランサーを召喚してから三日程が経過した。敵陣営については僅かばかりの情報しかないが、未だこちらに損害ない。戦っていないから当たり前といえばそうなのだが。
「マスター、お皿洗っといたです。洗濯物出しといてくださいです」
ランサーの扱いにも少し慣れた気がする。彼女は基本的に世話を焼くのが大好きで、生きがいとしているのだ。
「あぁ、ありがとうランサー」
だからそれを邪魔しないように、かつ認めることで昨日のようなヒビを生まずに済む…かもしれない。
布団をたたみ、部屋の隅によせておく。こうしておくのが日本のマナーなのだ、とローガンは姉が話していた事をふいに思い出した。
「姉貴…かぁ…」
そういえば彼女は今何をしているのだろうか。ふらりと家に帰ってきたと思えばふらりと何処かへいってしまう。まるでシャボン玉のような人間だ。ローガンから見て遥か彼方、どんどん上にいってしまう。ふわふわ漂う彼女はいつか割れてしまうのだろうか。
鼻歌を歌いながら掃除をするランサーをみて、ふと過去の事を思い出す。エミリアがまだ起きていた時、彼女はメイドの仕事を「お手伝いするー」と言い出して、窓ふきだか床ふきだかをしていたことがある。だがエミリアは雑巾をきちんと絞りきれずに、床をビチャビチャにして怒られていた。>>417
「なあランサー。君に家族はいたのか?」
ローガンは何気なくランサーに質問した。ランサーの真名である『玉兎』とやらが実在のものであるなら、家族構成が民話や伝説として残っているかもしれない。だが結果は芳しくなかった。
「両親と双子の弟がいたです。…今はたぶん、ツキヨミ様と一緒にこの世からいなくなっちゃったです」
僅かに掃除の手を止めて話すランサー。度々出てくる『ツキヨミ様』という単語は恐らく日本の神話に登場する月の神、『月読命』のことであろうか。神話において語られている情報は少ない為に、クレイドルの知識を以てしても詳細は読み解けない。完全に手詰まりだ。
「駄目だ、わからない…」
ローガンは呻いてドサッと床に寝転がる。そのまま天井を見つめて、考えを巡らせた。
自らのサーヴァントのことを十分に知らないというのはなんとなく、まずい気がする。ローガンには『うちのサーヴァントは強くて可愛いご奉仕系サーヴァントです!それで十分です!』と開きなおれる程の自信がない。あらゆる情報と、視点と、知見を得て、はじめて己の血肉として使いこなせるようになる人間だ。感覚だけで勝って生き残れるほどの強さは無い。
「姉貴なら…どうしてたかな…?」
ついつい出来のいい姉と比べてしまい、軽く自己嫌悪に陥る。姉貴ならばもしかしたら、ちゃちゃっと勝ち残って聖杯を手に入れて、エミリアを救うかもしれない。何だかんだ言ってエミリアには甘かった。あの時自分が頭を下げて頼んでいれば、「いいよ〜」と軽く言ってホイホイ覇久間へと出かけていたかもしれない。
「えいや」
寝っ転がって考えていたら、ランサーに頬をつつかれた。こちらを覗き込むランサーの顔は逆さまに見えている。
「眉間にシワがよってたです。何か悩み事です?」
「ん…?マジか、そんなにか」
眉間のあたりを指でほぐしておく。ランサーはその間もじっとこちらを見ている。真っ赤な瞳で見つめられて、ついポロリと本音が溢れてしまう。
「俺、勝てるかな?」
昨日あったライダー陣営。魔術師としての格は甘く見積もっても7体3でこちらが劣っている。
そしてライダーのサーヴァント。あれはレベルが違う。ランサーとは比べ物にならないほど存在の『密度』が濃い。多分、相当名のある戦士であったのだろう。
>>418
アサシン、ライダー、バーサーカーと。倒さねばならぬ敵を見たローガンの心には迷いが生じていた。俺は勝てるのか、と。
「そうですねぇ…」
ランサーは両手をローガンの両頬に添え、ぷにぷにと触りだす。少し鬱陶しいが、無理に止めさせる程のものではない。
「いけるんじゃないです?」
「適当か」
ランサーはクスクスと笑った。白いアホ毛がそれに合わせて揺れる。
「マスター、自分がやるべきだと思った事は貫き通すべきです。たとえ相手がどんなやつでも、マスターは義妹さんの為に頑張るんです。―――その結果、誰が敵になったとしても…」
真紅の瞳が一瞬揺れた。しかしすぐに輝きを取り戻し、
「何をするにしても兎(わたし)に任せてくださいです。全力でサポート、もといお世話しますです!」
胸を手でドンと叩き、アピールするランサー。その仕草で何となく救われた気持ちになる。
不安は多い。それでもエミリアの為にと、自分でやると決めたのだ。今までとは違う。こちらは一人ではないのだから。
「ありがとう、ランサー。……よし、行くか」
そういうとローガンは起き上がって洗面台へ向かう。それを見たランサーは掃除用具を片付け始め、手早く部屋を整理した。
カラコンをつけ終えたローガンは礼装を取り出してランサーに呼びかける。
「とりあえず出かけよう。ここに籠もってても何も始まらない」
「はいです!」
五月一日。ニ匹のウサギは、勝利に向けての一歩を踏み出した。
>>419
覇久間ランサー陣営 5/1
「兎とウサギ、五月晴れ」西行が、体を傾けたことで垂れた髪の房を整えつつ質問を続けた。
「うーん……ワタシたちの常識ではわからない、種族的な面から発生する要素もあるかもしれませんね。あなた方は確か、ハルピュイアというのでしたっけ」
ハルピュイアという名前から連想されるのは当然ギリシアの幻獣であり神々の手下であるが、この際その手の先入観は一旦捨て、只の道の亜人種として分析しよう––––と、彼は一旦頭の中の幻獣辞典を捲るのをやめていた。
「はい–––––娘と私がハルピュイアで、他にもウェアウルフに、ケンタウロス、リザードマン……それに、アラクネなんかがよく見られる種族でしょうか。………変異種の存在は、皆さんもご存知でしょう?あれらの見た目の違いは、元になった種族から来ているものです」
(聞き覚えのある種族名ばかりだ。おかげで大体どんなもんがいるかは想像がつく––––)
鳥人に、人狼に、人馬に、蜥蜴人間に、蜘蛛人間。どれもこれもが神話伝承で見覚えのある名前である。人外フェチものの漫画なんかでは特に意味もなく付けられている種族名だが、何しろここは異聞帯であるが故にその命名経緯にも意味があるだろう。
何しろ、一般的な概念になってはいるが、汎人類史と全く変わらぬ発音で発せられているそれは明確に起源が存在するのだ。
(––––ふむ。なら、この名をつけた人物は少なくともギリシャ神話に関する知識を有していたってことになるんだろうな)
「へぇ。ところで、その種族名って、どうしてそう呼ばれているんでしょうね?」
「さぁ?」ミュンヘンが、何を言っているのかよくわからないという風に首を傾げた。「そういうものなのです。ずっと前から」
「そうですか………それにしても、大元は同じ生き物だというのに、変異種は皆さんを積極的に襲うのですか」
「……ええ。たまに––そうですね、数年に一度ぐらい発生する時期があって、それがもうそこらの魔獣とは比べ物にもならないぐらい強いものですから、それはもう大変で––––––––」ペラペラと話を進めていたミュンヘンだったが、途中まで来たところで慌てて「––––でも、普通は王都の兵隊さんか近所の自警団がなんとかしてくれるんですよ!」と付け加えた。>>421
(王都の兵隊、ねェ。少なくとも、王が民を見捨ててるってことはないって事か。口ぶりから分析しても、特に虐げられているように感じていたりはしないようだし––––)
ふんふんと頷き真剣にメモを取るポーズを取りつつ、西行がお得意の並列思考で考えをまとめていた。生い立ち等から来る事情で偉そうにふんぞり返っている輩は大嫌いだしそれらの気配には特別敏感な彼であったが、少なくとも目の前で(少々取り留めなくなってきてもいる)話を続けるミュンヘンからは虐げられたり日常的に恐怖を感じている者の気配は感じない。
(三号。この患者の治療法について、お前の意見は)
––––推論は立ててあります……総合的な知識量・対応力ならば貴方の方が上かと存じますが。
(いや、このチームにおける医者はお前だ。最終的に判断を下すのもな。俺が何でもかんでもやるんじゃ意味がないんだ––––だいたい、俺ァ生き物は治すより壊す方が得意なんだよ)
––––中二病みたいなことをおっしゃらないでください。
秘匿通信越しに、溜息をついている状態を表す信号が送られてきた。
––––そうですね……やはり、鍵を握っているのはシルトグリューンでしょう。様々な要因を考えても、それ以外にはありえません。
(ああ、その点には俺も賛成だ)
––––ですが、大量摂取が問題であると考えた場合母に出る症状が娘に出ない事の説明がつきません。第一、態々兵を差し向け変異種退治に励むような支配者が、そのようなデメリットの多いものを放置するかという点も気になります。獣避けに使えるとしても、あまりにも危ないようでしたら、先にそれが無くても暮らしていける文明の構築を目指すのでは?
(まぁ、少なくとも汎人類史の常識ではそうなるわな)
––––ですので、推論としてはですが……シルトグリューンは、必ずしも毒であるとは限らないのではないかと。鎮痛薬であり、致死毒でもある附子のようなものです。この推測が正しければ、彼女の病の原因は「摂取する薬が適量でないこと」になるでしょう。
(は。SchildGrünとはよく言ったもんだぜ。内外、両方から人間を守るって事か)
––––原因がこれなのであれば、シルトグリューンを適量摂取させるだけで解決できるはずです。もっとも、もしこの推論が外れていたり適量を間違えてしまえば、女性を一人殺してしまうことになりますけれど。
こんな夢を見た。
今日のこと。昨日のこと。もっと昔のこと。それらが、ぶつかりあって、砕けあって、融けあって、混ざりあって、感覚の端から端に流れていく。ある時はうねるように、ある時はフラッシュを焚くように風景は変わっていき、さながら思い出をスライドショーのようにして振り返っているようだった。
極彩色のマーブルの中から、最初に現れたのは郁とキャスターが寝泊まりしているホテルのロビー。ワインレッドの絨毯や大理石の壁、いかにも柔らかそうな天鵞絨のカーテンに、落ち着いた配色のテーブルとセットの椅子からは「均整のとれた絢爛」「衒いのない華麗」という表現がいやに合う。今までは何の気なしに見ていた情景だが、その空間から漂う安心感は郁に名残惜しさを抱かせるには申し分のないものだった。
今朝のことが浮かぶ。キャスターに引き摺られるようにしてホテルを発ち、ホテルスタッフに怪訝な顔をされた。それが郁にはどうしようもなく恥ずかしかったが、今であれば自分を連れ出したキャスターのことも考えられる。
「風立ちぬ、いざ生きめやも!」などと宣いながら郁を連れたキャスターは、その言葉の意味を知っているのだろうか。だが、知っているか否かよりも、今はその時の彼の一挙一動が──もっと言うと、その時の表情が引っかかった。
あれは、本当に楽しみで、本当に楽しもうという気概は当然に見えたが、それと同時に何かを憂いるような、或いは何かを気兼ねするような思慮も感じられた。それは一抹程度で、気のせいとすればそれまでといった程のものであるし、実際今夜のことでそういったように見えてしまっているようにも思えてくる。
そんなことを、明晰夢であるために冷静に考えている最中で景色がぐるりと揺らいだ。生暖かな風が通ったかと思うと、その頃には別の景色が広がっていた。
それは、誰が見ようと古墳としか言い表せないものだった。青い天涯へと手を伸べるように繁った木々の枝葉の合間から注ぐ陽光が、特徴的な形に整えられた土を光らせている。生憎古代史に格別親しんでいたわけではなかったために古墳自体の詳細は知れないが、そのどこか不思議な神聖さを感じさせる古墳は無論覚えている。郁がキャスターに引っ張られて訪れた場所だ。>>423
古墳に着くまでも、着いてからもキャスターは夢を見るように目を輝かせ、行く先々で、あれは何だ、これはどういうものだ、それはどうなんだとひっきりなしに郁に訊いて、郁がしどろもどろながらに答えると満足そうに笑みを浮かべていた。見るもの聞くもの知るもの全てをいとおしそうに眺め、同様に心底から慈しむように触れていた。ただ単に楽しむだけでは現れないような、彼の屈託のない喜色は忘れられない。
「いまのすべては過去のすべて、か…」と、古墳にてキャスターは不意になんとも感傷的な声色でそう呟いた。上代の者として、今に残る旧跡に思うところがあったのかもしれない。しかし、そこで見せた懐古と慈愛と、春先に残った雪に似たか細い悲嘆が紡いだような笑顔は、それだけに留まるもののようには感じられなかった。
もう一つ、古跡で気になったものといえば豊月神社と呼ばれる社だ。遠くはあるが折角だし行ってみようと足を伸ばしたのだが、社殿が鎮座する大首山からは季節と天候にそぐわない気味の悪い空気が蔓延しており、どういうわけか黒い靄も立っていた。それを感じ取った途端にキャスターは顔をしかめ、此処は止しておこう、と踵を返したのを覚えている。何故かは推測し兼ねるが、何か特別な魔術がかけられているのかもしれず、であれば不用意に近づくべきではないと考え郁も帰路を辿った。
あれは何なのだろう。何かあるとして、どうして神社なのだろう。目覚めたら調べてみようか。などと徒然に思案していると、やがて大きな光彩に襲われた。
「────ぇちょっと、もしもし?起きてくださいよ、ていうか寝てる場合じゃねーですよ!」
遠く遠くから、何者かの声が聞こえてくる。今までに聞いたことのない調子。一体誰だろう、と瞼を開くと、急に身体が大きく揺れた。>>424
「あぁ、良かった…いや起きなかったらどうしようかと…ってなにボーッとしてるんですか?全く危機感のない…」
郁が覚醒したのに安堵している目の前の男は、やはり見覚えがない。どこかでちらとでも見ていれば、絶対に覚えている。なんてたってその男は、品はあれど今日日時代錯誤にも程があるような某の一族的ゴシックファッションを纏っていたのだから。
「え、と…その…」
「なんですその、豆鉄砲が鳩を食ったような顔は。いやまぁ私貴方のこと知らないんですけど。目の前に人が倒れてちゃあねぇ…倒れたくなるのもわかりますがぁ」
言い淀む郁に対して、男は外見に似合わぬ間の抜けた口振りでつらつらと言葉を繋いでいく。周囲を見回すと、どうやら船の、甲板のようだ。
しかし、時々くる揺れは自然に起こる波のものにしてはいささか激しすぎる。まるで何かが外から波を立てているような──ふっと、海を見渡し、そこで漸く自分の置かれた状況を察する。
だって、居たのだから。水平線の先に、それが据わっていたのだから。
遠くからでも容易に視認ができる「それ」は、天にまで届くほどの巨体を持ち、こちらを木石のように見据え、時折手慰み程度に海面を無数の触手の一房で撫で戯れに船を揺らしている。静かに、それでいて過激に、嗤うように、それでいて無感動に、こちらに破滅を送ろうとしている。何が目的なのかもわからない。わかってはいけない。きっとそれにとっては、この船のことや船に乗った人間たちのことなど塵芥のように思っており、それを隠そうともしていないのだから。
「……で、現状は把握出来ました?」
無言で頷くと、男は短く鼻で息を吐く。つまりこれは、とても、とてもよく馴れた状況ということだ。恐ろしいことに。
「…じゃあ、ちょっくら船内にでも逃げてくれません?」
「…え?」
「え?じゃなくて。こっちも時間がないしマジヤバなんですよ」
「いや、その……どうするん、です?」
「どうするって、ちょっと追っ払うというか…こっちが退くというか…」
暗い色の髪を気だるげに掻き、さらと言う男に口が開いて閉まらない。これまでにあれと遭った記憶はないが、どう考えたってどうにかなるものじゃない筈だ。>>425
「だって、どう考えたって、無理ですよあんな…」
「だからですね、ちょっと無理するというか…まぁ、貴方が気にするべき話じゃないですよ。私は…大丈夫だと思います。たぶん、メイビー」
ごく軽い口調で話す男に緊張感はなく、だがどことなく焦りが見える。強がりが含まれているということであり、心音が早くなっていく。これも。これもだ。これも何度となく夢という現実で味わってきたものだ。いつも守られて。助けられて。救われてばかりで。何も出来てない。誰も救えていない。そうして、のうのうと生きている。何度目だ?きっと、両の手で収まらないほどだ。
「でも、でもそんなこと…まだ、また…!」
「ちょ、落ち着いてくださいよ。どうしたんです?」
「駄目、ですよこんなの…また…だって…何も、何も…」
気づけば、郁は男の服を掴んでいた。心音は破裂しそうなほどに激しくなっていた。足は震え、奥歯はカチカチと鳴り、呂律は回っていない。伝えたいことが、思っていることなどと絡み合って文にならずに口から出る。
ふぅ、男が小さく一息吐く。そして、郁の手をほどき、そのまま背を屈め顔を覗きこむ。ここに来て初めて、男はその目を郁に向ける。その双眸の色は深く、静かな侮蔑と憐憫がべったりと溶けかけの鉛のように沈んでいた。そうして、男は至って冷静な風に切り出した。
「…じゃあ、訊きますけど。貴方何が出来るんです?」
「………!」
「何があったかなんて知るつもりもないですけど、貴方が己の事情で取り乱して、犬死にするなんて私としても迷惑なんですよ。只の一般人だっていうのに……まぁ?この現状を打破する素敵で画期的な方法があるんなら別ですけど?何もなしに出てこられてもねぇ、困るんですよ」
「……………」
まくし立てるようにして男はひとしきり話し終えると、「…誰かを助けたいってなら、何かの役に立ちたいってなら、それ相応の覚悟と力を持ってくださいよ」と吐き捨て、郁を突き放すようにして甲板の先へと向かった。
言葉が出なかった。今となっては、男を追うことも止めることも出来ない。そして、そんな自分がどうしようもなく情けなくなった。郁は一般人ではない。魔術を知っている。魔術を使える。でも使えない。怖いからなどという、浅はかで単純な理由で。>>426
また、何かが足りなかった。もう心音も足の震えも収まっている。
振り返って、男の背を見遣る。見馴れた景色。勇気も知恵も力も我慢強さも足りなかった自分が見届けるしかなかった、勇気も知恵も力も我慢強さもある人の背中。宙に、届くはずもないのに手を伸ばす───その時だった。
「『なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな』」
何処かから響く声は、大変に聞き馴染みのあるもので。そうして、その和歌が眠る前にキャスター──柿本人麻呂が郁へ預けた紙に認められたものであると思い出すより早く、事は進んでいた。
見れば、空の陰鬱な雲の切れ間より煌々たる光が漏れ、それに照らされながら一艘の大きな帆船が降りてくるではないか。その船もまた優しく、炯々とした耀きを侍らせ、それにより異形のそれや水面自身も発光しているように照っている。帆船の中はその目を焼かんばかりの輝きによって窺うことも能わず、郁も、そして前方にいた男も呆然と立ち尽くすことになった。突発的で、常軌を逸した出来事ではあるが、それ以上にその船は神々しく、故に気が抜けてしまうのだ。
その異質さにはさしもの異形すらたじろがずにはいられないようで、目ともつかぬところを見開き、自身に迫る船を凝視することしか叶わないようだった。
やがて、帆船は異形にぶつかり、その衝撃で潰れるどころか加速し覆い被さるように水面下へと異形を追い込んでいった。それは、郁の目には億万劫に等しい程に長きものに思えたが、きっと一瞬のうちのことだっただろう。只々その瞬間は、自身を取り巻く全ての時間の流れが、山嶺に棚引く霞のようにおぼつかなく、また海の彼方へ没していく太陽のようにゆっくりと過ぎていくように感じ得た。>>427
斯くして、帆船が異形もろともに海へざんぶと沈み、そのけたたましい音ではっと我にかえった。それはどうやら男も同じようで、くるりと片足を軸にして郁へ向き直る。その顔は、先に見せた感情と大差はなく、しかしどこか呆れたようにも面白がるようにも見える色を差していた。
「…良かったですねぇ、貴方。足りない分、満ちているじゃありませんか」
何を、と訊ねようとし、頭頂から冷たい感触がする。それは頭を伝って顔を、胸を、指先を、腰を、そして爪先を包んでいく。塩っけの多い水分が、中途半端に開いた口からどっと入ってくる。足が甲板に定着せず、ふわと水中へ浮く。本来なら命の危機だというのに、郁の心は驚くほどに平静で、むしろしみじみ落ち着くほどであった。
青みがかった世界の中で、揺蕩う意識の中で、最後に男を視認できた。男もまた沈着冷静を極めていて、そして郁を認めると、ぼごと泡を出しながら口を動かし、何事かを伝えようとしている。
「せ、い、ぜい、が、ん、ば、れ────」
水中で聞こえない筈なのに、音が渡ってくる。そして最後の一音が発されるとほぼ同時に、郁の自我は沈んでいく身体に反して急速に浮かんでいき───。
「………」
暗転し、目が覚めた。カーテンから透けた光は紛れもなく朝の太陽のもので、着ている服は紛れもなく寝間着で、今いる場は紛れもなく、人数設定を間違えたホテル。すなわち、現実だ。
辺りを見てキャスターがいないことに気づき、その後すぐにそういえば飲み物が不足していたことを思い出す。安心して胸を撫で下ろし、またすぐに神妙な面持ちにわざとなる。
あの夢のこと。昨日のこと。一昨日のこと。これからのこと。それらが重ねっていって生まれた、自分がするべきこと。易しいことではないが、辛いと思うつもりはない。少なくとも、今は。
「…さて、と…」
ひとまずは朝食を作ろう、と足を動かし、両手で白いシーツのかかったベッドを押した。>>428
以上、覇久間術陣営5/1(未明)『夢想はやや歩くような速さで』でした。その怪人には名前が無かった。
それも当然のはずだ。突然現れて街を荒らしたそれが誰かなんて知る術が無いのだから。
人々が襲われ、新聞がこれを取り上げると狭い田舎の街に噂は一気に広まった。
ファントム麻酔医。ナチス博士。
そしてマッド・ガッサー。
『狂ったガス野郎』という通り名で呼ばれている事を知った怪人は気分を良くした。何か具体的なモノに正体を押し付けず、端的に自分の事を表したこの名の響きがただ心地良かった。
自分だけのモノがある素晴らしさを怪人は知った。
それからは連日民家を襲った。自分を忌み嫌った人間を襲い、自分を気に入ってくれた人間を襲い、一度襲撃した民家を再度襲った事もあった。
強いて理由を付けるのなら家から近かったぐらいだろうか。
とにかく自分を恐れてくれればそれでいい。街で昔自分と同じ手法で、暴れていたらしい不審者と関連づけられたが覚えてくれるなら何だって構わない。
そうして怪人は怪人らしく思うままに暴れて、暴れて、暴れてーーー>>430
◆◆◆
三つ闇が消え、四つめの朝日が昇った。
廃ビルの上でアサシンは力無く横たわっていた。見上げる空は灰色の雲で埋め尽くされていて、どこを見ても色は変わらない。
喉までこみ上げる圧迫感にアサシンは男の声でえずいた。血液が嫌に早く巡っていて気分が悪い。調子は悪いどころか普段より良好なのだが、それがただ不快に思えた。
「ふざけやがって…私は…俺は…怪人であって怪物じゃ…いや拙者何者だっけ…」
「おい」
上からかけられる声。この声のトーンが変わった事は一度もない気がした。剥き出しのパイプに手をかけて身体を起こすと、ウィリーがこちらを見下ろしていた。
影になっていてその表情は窺えないが、きっと仏頂面という言葉すら相応しくない無表情だろう。
「…何?僕はそんな気分じゃないよ。そろそろ宇宙に帰らせてもらいます」
「この聖杯戦争も脱落者が出てきた。俺の予想では同盟を結び、ある程度までは協力しようとする陣営が出てくるはずだ」>>431
この伏神の地で、聖杯戦争が始まった初日を思い出す。あのランサーを連れたマスターは明らかに魔術師らしからぬ行動を取っていた。思考が一般人に近いというのならばそれは脅威に値する。
ウィリーは自分の計算が完璧だとは思っていない。だからこそ計算を乱す存在は極力排除したかった。
「ランサーのマスターを見つけ次第、お前の宝具を解禁する。お前の宝具なら一瞬でも足止めは出来るはずだ。
そこを狙う」
ショットガンを取り出したウィリーはそう言った。魔術で強化されたショットガンで頭と心臓をほぼ同時に撃てば、いくらアサシンのナイフに耐えうる身体でも少なくないダメージを与えられるはずだ。そこに宝具の効果が加われば長くは持たないだろう。
そしてウィリーはカラスの使い魔を何匹か飛ばすと廃ビルの中へと戻ろうとする。一方的に告げられたアサシンはその背中に声をかけた。
「マスター!私実は昨日の事で半端なくやる気無いんだよ!だからさ、昨日のこと、一言でいいから謝ってよ!そしたら宝具も200%の力で出してあげるからさ!」>>432
昨晩。
地下の部屋で広がっていた肉と血の塊。ウィリーからすればそれすらも利用価値のあるものにしか映らなかった。
そう、どうしようも無くアサシンは弱いという事実を変えるための手段に。嫌がるアサシンのガスマスクは血で染まった。
「………」
ウィリーは沈黙を貫き通し、ついには立ち止まる事すらしなかった。
ジーパンにパーカーという普遍的な格好のはずの人間が、今のアサシンには歪に見えた。
入ったヒビは、大きくなるばかりだ。「やれやれ、蒲池の小娘は帰ったか……」
猜野の当主である男は辟易とした表情を浮かべた。
行方をくらませた芽衣とそのサーヴァントの捜索でも手を焼いていたというのに、それからしばらくして同じく御三家である蒲池夏美からの詰問があったのだ。
夏美は幼い頃から芽衣との面識がある、聖杯戦争の最中に邂逅すれば芽衣がマスターであることに違和感を持つのも当然だろう。
加えて召喚されたサーヴァントはあの制御不能の暴風だ。
破壊規模からしても下手を打てば神秘の漏洩は免れないだろう。
本来であれば、蒲池・監督役と一時協定を結び、自体に対処するところではあるが……
「監督役ならばまだしも、あの小娘に借りを作るわけにはいかない」
ただでさえ夏美を認めない猜野の当主のそんな意地によってその案は取り下げられた。
「それに、芽衣は仮にも神に纏わる使い魔を召喚したのだ……その強力な駒さえあれば他の六騎を屠ることも不可能ではあるまい……」
半分は見栄であっても、もう半分は戦術的な意味合いを含めて、情報開示を拒んだのだ。
「とはいえ、蒲池のサーヴァントも引けを取らぬだろうし、二階堂の輩も何を仕込んでくるか分からん……」
この段になっても猜野一門は聖杯戦争という儀式から降りた気は毛頭なかった。
「ひとまずは、芽衣とサーヴァントの捕捉だが……」
放つたびに破壊される式神を見遣りながら、猜野の男は頭を抱えた……。>>434
猜野 聖……猜野 芽衣の実姉にして彼女を覇久間の聖杯戦争に巻き込んだ元凶。
超能力の研究とオカルト雑誌への寄稿を生業とする女性。
俄に囁かれる覇久間における都市伝説を追うつもりだったのが、準備の段階で『植物との意思疎通が可能な超能力者』が大きな騒動を起こし、その事件の緊急性からそちらを優先し、覇久間の方の調査は妹に依頼したのだった。
幸い、事件は早期に集結したのだが、聖は今現在の芽衣の状況について何も知らされてはいない。
聖はというと何度か芽衣に連絡を送っているものの繋がらず、困惑していた。
猜野の本家の方も知らぬの一点張りで困り果てた聖は覇久間に縁ある数少ない知り合いに連絡を取ろうとした。
『──私だ……ってあれ?すぐバレた?流石は名探偵……ん?声優ラジオを流しながら電話をかけてくる知人は私しかいないって?そりゃあそうか……では、改めまして。こんにちは、アレン・メリーフォード。私は猜野聖、今回は貴方に相談があって電話したわ』
聖が電話したのは奇しくも芽衣と同じく聖杯戦争に関わる男──セイバーのマスターである探偵であった。
軽快な口調で話す聖だが、これは相手が顔見知りであるアレンだからであって、初対面の存在であればこうはいかない。
アレンとは超能力絡み(アレン側からすれば魔術絡み)のある事件で知り合い、今に至るまで交友関係は続いている。
『そう、依頼かな。貴方との関係にあまり上下は付けたくないけど今回はそうも言ってられない。なんせ可愛い妹絡みだからね』
自らが芽衣を危険に巻き込んでしまった罪悪感、そして何より数少ない話し相手として芽衣に依存気味な気質から、心情を曲げて、アレン・メリーフォードという一人の探偵への依頼主となる選択をした。>>435
『どうも覇久間に行ってから連絡がつかない。寄るだろうと思った猜野本家も『知らない』と言ってくる。あぁ、今回の以来は人探しなんだ。私の妹、芽衣を探して欲しい。うん、とりあえずは安否確認。どうせなら連れ帰ってきて欲しいけど無理は言わない、そっちにも、もしかしたら芽衣にだって事情があるかもしれないからね。うん、報酬はそっちの言い値でいい。あぁ、頼むよ名探偵』
そう言い終えてから電話を置き、聖は溜息をついた。
「余裕があったら私が覇久間に行ったんだけどなぁ……」
とはいえ今回の騒動の影響は強く、暫くの間は聖はその後処理とレポートに奔走する羽目になるだろう。
聖は祈りを捧げながら覇久間の方角を見つめていた。>>436
「──虫が、騒がしいな」
ヘーゼルの暴風が周囲を薙ぎ払う。
すると、その先々から人のカタチに切り取られた紙片が舞い散ってゆく。
確か、式神……陰陽師が使う小間使いみたいなヤツ。
覇久間に来て最初に聞かされた話を信じていいなら、恐らくは猜野本家の人達の差し金だろう。
(まぁ、何も言えずに出ていっちゃったしな)
ヘーゼルの暴走なので自身に責任は一切ないと思うが、それでも破壊される式神を見ていると申し訳なくなってくる。
(あんまり頼りたくないけど、せめて聖に連絡を取れれば……)
超常現象には詳しい姉なのだ、こう言う時ぐらい役に立って貰わなければ。
といっても、初日の騒動で携帯は猜野邸に置き去りになってしまったので連絡手段がないんだけど……
(財布はあるし、公衆電話が使えれば……)
そんな事を考えていると……
──ぐぅぅぅ、と腹の虫が鳴いた
「ッッッッ!!!!」
冷静に考えれば不思議なことではない、連れ去られて以降ロクに食事も摂っていなかったのだから仕方ない。
しかし、ヘーゼル……人ならざるモノ(本人曰く神)しかいないとはいえ誰かに空腹時の音を聞かれるというのはとてつもなく恥ずかしい事だった。「ク ハ ハ なんだ芽衣よ。腹を空かしていたのか?」
こっちの気も知らないで愉快そうに笑うヘーゼル。誰のせいだと思っているのか。
(ってアレ?これってチャンスじゃない?)
ヘーゼルとて私を飢え死にさせるつもりは無いだろう。
しかし、どう考えてもあの暴風にまともな食事が用意出来るとは思えない。となれば……
「ねぇ、ヘーゼル。食べるもの買ってきていい?」
ヘーゼルとて流石に山を下る事を許してくれるだろう。
そうなれば、コンビニにでも寄ってそこで電話を借りればいい。
なかなかの名案に自分でも感心したのだが、ヘーゼルは愉快そうに返した。
「ク ハ ハ、敵情視察も兼ねて下界に降るのも悪くない。妙案だな」
うん?思っていた反応と違って私は首を傾げる。
「もしかして、あなたも着いてくる気なの?」
「当然だろう。芽衣は我の契約者。片時たりとも手放すものか」
しまった、こういう奴だった……と思わず天を仰ぎ見る。
こんな厄災が平和な街に降り立った大混乱を引き起こしかねない。
それに外に助けを求めようとすれば絶対に何かされる。
「…………その、あんまり人目につけたくないから極力小さくなるか、高めのところを飛んでいてくれる?」
私はとりあえず今日の食事を優先してヘーゼルの同行を受け入れてしまった。
ヘーゼルは少しもぞもぞと蠢くとたちまちに弾け、小さな旋風に転じた。
私はの身長の1/6ほどの台風が六つ、それに取り囲まれながら、私は空は快晴だというのにレインコートを着込んで下山して行った。覇久間狂陣営+α 5/1『三者三様 それぞれの思惑』 了
>>422
「あぁ、すいません。私ばかり話してしまって」
「いえいえ、問題ありませんよ。人と話す事には精神を安定させる効果もあります」
そう言って西行は続けて?と促す。歓談による精神的効果もあるがこの調子でこの異聞帯の事を聞き出すことも目的だった。
実際その後火の着いた様に話し出したミュンヘンからは有益な情報も幾つか聞き出せた。
王国軍の兵達は『亜人兵』と呼ばれていてそれぞれが五種族から更に遺伝子操作によって創り出された屈強な戦士たちであること。ミュンヘンの夫は退役した亜人兵であること(この際「夫は国よりも自分を守ると言ってくれた」等と盛大に惚気られた)
そして夫との馴れ初めから楽しげに話し始めたミュンヘンを見て二人は情報収集を切り上げ、暫く聞き手に徹する事にした。
しかし楽しい時間はそう長くは続かず、時系列が現在に近付くにつれてミュンヘンの顔に陰りが見え始める。
「夫は私とミュウから変異種を遠ざける為に一人で戦って……変異種と相討ちになって、命を落としました。あとは皆さんが知るように病弱な私を養う為にミュウは命懸けで魔獣を狩るようになって…
本当はあの時、私が死.ねば良かったんです。いえ、今からでも私が死.ねばあの子は無理に魔獣を狩らずとも王都でも何処でも行けるのに…」
それは、これまで話し続けたことで勢いに乗り口をついて出てしまった秘めた本音。自分の為に我が子が危険を冒す事が、自分が娘を縛り付けている事が耐えられないという母親としての言葉。それは一概には間違いと言えないかもしれない。しかし
「──それは、違いますよ」
ミュンヘンと三号が顔を向けた先にはそれまでの人あたりの良さそうな表情が抜け落ちた西行が居た。>>440
痛々しいほどの沈黙が場を支配する。
ミュンヘンの喉から「ひ」と引きつったように息を呑む声が聞こえたところで、見かねた様子の三号があえて大げさに椅子を鳴らし立ち上がった。
「……マスター・キャスリーン。相手は患者です」
「………そうですね」
西行が静かに顔を抑え、その手が離れた時には、今一度しっかりと優しい微笑みを貼り付けていた。
先程までの沈黙はまるで幻だったのではないかと思わせるほどに、欠陥の見当たらない穏やかな笑顔。しかし部屋の温度が下がっている状態であることは依然変わりない。
「……少し、外に出ますね。あとはよろしくお願いします」放課後、亥狛はランサーを引き連れて玲亜の邸宅に訪れていた。
世間知らずの狼人間の目から見ても豪華だと思える彼女の根城はどうも落ち着かない、隣で実体化したランサーは落ち着き払って紅茶を啜っているのがひどく対称的だ。
勿論単に茶会に呼ばれたのではない。紆余曲折を経て晴れて二陣営が同盟を組んだのだから、お互いの今後の動向は明確にしなければならない。
さしあたって今夜どう動くのか擦り合わせる為の召集である。
陶磁器のティーカップを口に運ぶと、一息ついてから玲亜が口火を切る。
「……私としては伏神の街を脅かす陣営を優先的に排除したい。セカンドオーナーとしての責務は全うしなくちゃだもの」
「市民に積極的に攻撃するとしたら、アサシン陣営が思い付くな。
俺達の標的もアサシンとそのマスターだから東雲の方針に異論はないよ」
「アサシンもそうだし……後は先日ここを滅茶苦茶にしてくれたアーチャーもきっとそうね」
そう言いながら、玲亜の顔が不安に陰る。
先日この館の中で遭遇したアーチャーは来野について何か知っている風であった。アヴェンジャーが言う『臓腑の匂い』、アーチャーが示唆する友人の疑惑、そして極め付けは今朝方彼女の耳に入った来野の失踪であった。
教会の神父が言うには争った形跡も魔術の痕跡もなかったとの事で、どうやら彼女が自発的に出て行ったらしいのは明らかだった。>>442
自分の友人に纏わり付く不穏な気配。
本当ならば何よりも優先して友人を探し出したい、でも聖杯戦争という状況はそんな余分を許してはくれそうにない。
目まぐるしく変わる戦況はもう中盤に差し掛かり、戦闘は日に日に苛烈さを増していっている。
胃に鉛を注がれた気分だ。嫌になる程重苦しい。
「……何か気掛かりでもあるのですか?」
不意にランサーからの言葉が彼女を現実へと引き戻す。
「……いえ、いいえ、何でもないわ。単なる個人的な感傷よ。
それよりもアサシンの捜索よね、具体的にどんな姿だったのかは覚えてるの?」
だが亥狛はお茶請けの菓子を齧りながら少し申し訳なさげな顔を浮かべている。
「それが妙な話で、確かに殺されかけて強烈なインパクトがあった筈なのにアサシンの事について思い出そうとすると急にモヤがかかったように曖昧になるんだ。
………男だったか女だったか、そもそも人型だったかどうかすら今じゃ自信がなくって」
「記憶阻害の魔術か、宝具みたいね。……弱った、それじゃあ捜索のしようがないじゃない」
魔術に抵抗力のある魔術師ならばあるいは魔術や宝具を部分的にレジスト出来ていたかも知れないが、目の前の彼はただの一般人だ。
英霊の魔の手から生きていられただけでも奇跡に近いのだから、贅沢は言ってられないか。
そう考えていた玲亜だったが。
「だけど匂いだけは、微かにだけど覚えてる。……これは手掛かりにはならないだろうか?」>>443
「……匂い?」
「どんな匂いだったか憶えているのか」
今まで静観を貫いていたアヴェンジャーが口を開いた。
亥狛は僅かに残った『匂いの記憶』を必死に思い出そうと唸りをあげる。
「ええと、今迄俺が嗅いだ事の無いような。人工的な香りって言うか…危険な匂いだった、気がする。……まるで毒みたいな」
「毒、ですか」
〜〜〜〜
「んじゃあ一先ずはその『毒らしい匂い』を頼りに探すしかないか」
「にしても匂いとはな。顔や見た目じゃなく匂いが一番記憶に残ってるだなんて不思議なものこともある、まるで狗だな」
「ちょっとアヴェンジャー」と静止をかける玲亜だったが、亥狛は別段気にしてはいないらしかった。
「鼻は昔から良く効くんだ、おかげで地元の里では頼りにされたもんだ」
「そう言えばマスターの身の上話はあまり聞いた事がありませんでしたね、折を見て語り合いたいものです」
無邪気にもランサーは言ったが、亥狛は彼女の顔を視線から外しながら「いずれな」と言うだけであった。(結局、食べ物買いに来ただけだったな……)
ヘーゼルの監視のもと、私は嘆息した。
流石に店内には入ってこなかったものの、遅くなれば店ごと吹き飛ばす、みたいなことを言われた。
仕方なく、急いで日持ちしそうな食料を幾つか買ったのだが……私はあとどのぐらいこの生活を続けるのだろう。
(晴れてるのにレインコート来て、絶対変な奴だと思われたよね……)
もう、このコンビニは使えないだろう。
というか現状から逃れられたら二度と覇口間には近づかないけれど……。
「 ク ハ ハ、遅かったな芽衣よ。待ちくたびれてそこの看板でも吹き飛ばそうと思ったぞ……」
コンビニの自動ドアを抜けると、シャレにならないことを言いながら、フラカンが私を出迎えた。
「これでも急いだ方なんだけど……ヘーゼルはなんか欲しいモノあった?私の分しか買ってきてないんだけど」
「クハハ 我はサーヴァント。神として供物があるならば喰らうだろうが、必要というわけでもない。芽衣、貴様さえいればそれで十分よ」
……相手が相手なら殺し文句だったのかもしれないが、生憎こんな状況を生み出した旋風に言われても響くことはない。
「じゃあ、戻ろうか。森と結構、距離あるから急いで戻らないと日が暮れちゃう」
「……我が力を行使すれば一飛びなのだがな」
「それはもう勘弁してよ……」
あんな不安定な状態を再度体現するぐらいなら長時間歩く方がまだマシだ。
それにこんな状況だからこそ、街を見て歩いてみるのも悪くない。
歴史がありそうな建築物を横目に見ながら森への帰路を辿る。
その中で、私はサーヴァントを見つけてしまった。>>445
魔術師ではない私がなぜサーヴァントを見つけられたのか……なんてことはない簡単だ。
“私がその英霊の姿を知っているから”に他ならない。
(オードリー・ヘップバーンがどうして……ッ!?)
それは現代において広く知れ渡った、米国が美の象徴にして、銀幕の星。
写真で、映画で見たことがある……もちろん行き過ぎたファンのコスプレとも考えられるが、オカルトを信じない私でさえ魔法と感じてしまうような容貌までは再現できないだろう。
(“本物”の才媛(タレント)、死してなお永遠に輝く女優……)
同じ人間なのかと疑いたくなるほどの圧倒的な雰囲気(オーラ)に私は気圧されてしまう。
仮にもタレント志望である自分とは隔絶された存在を目の当たりにし、心がぐらつく。
(駄目だ……今の私じゃ、アレを直視出来ない)
ヴァイオリニストの王と言われた演奏家 ヤッシ・ャハイフェッツは、その天才性から他のヴァイオリニストの心を折ったと言われるけど、それと同じだ。
行き過ぎた天才性は時として他人を深刻なほど鬱屈させてしまう……。
「芽衣……アレは敵か?」
ヘーゼルの呼びかけでハッと下を向いていた顔を上げる。
初見では気づかなかったが彼女の隣に連れ立って紳士が立っていた。恐らくはマスターなのだろう。
一般人にすら馴染みある大女優であれど、サーヴァントである限り、ヘーゼルにとっては敵なのだ。そうだと分かれば容赦はしないだろう。
「違うな芽衣、アレは『貴様にとっての敵』なのかと問うている」
「なっ──!?」>>446
私の心を読んだかのように、ヘーゼルは私に再度問いを投げる。
(私はそんなこと思ってない……!私の目指すべきモノとは違うけど偉大な先人、そのはず……)
でも、果たして本当にそうだろうか。そう思っているなら私はどうしてここまで心を掻き乱されているのだろう。
「ク ハ ハ 芽衣よ、貴様の心は我が所有物だ。神域に土足で踏み入れる不届き者が在れば誅するのが神たる我が努めよ。敵の名を告げよ、猜野芽衣……」
ヘーゼルの言葉が酷く心に突き刺さる。
争いは嫌いだ。破壊しか齎さないヘーゼルだって別に好きじゃない。
だというのに私はその言葉にどうしても逆らえなかった。
「アレはオードリー・ヘップバーンだよ。私でも知ってる、天使様みたいな名女優。」
『オードリー』という名を聞いた瞬間、ヘーゼルが一際強い風を起こして笑った。
「ク ハ ハ ハ ハ !!『オードリー』ときたか!!なるほど、聖杯とやらは随分と趣味が良いと見える」
そう告げてからヘーゼルが六つに分けた自身の分身を収束させ、内四つを混ぜ合わせて、大きな竜巻を形成した。
「我等が敵を滅殺,せよ!『ハリケーン・オードリー』!!」
風雨の暴威が此度の聖杯戦争における剣の陣営へと降り注いだ。4/30 狂陣営 『破壊を此処に』 了
都会のジャングル、とはよく言ったものだとアサシンは思った。
日が暮れて街に人々が溢れかえり、密度が飽和する時間帯。ビルとビルの間をすり抜け、重力など存在しないかのように飛び回る。
室外機を足場にして高く跳躍すると空の闇へと姿はたちまち溶けていく。
「さーて、どこかなどこかな」
伏神市のランドマークタワー、と一部では称されているビルの窓枠に手をかけて街を見下ろす。アサシンが張り付いている階は既に電気が落とされていてこのあまりに怪人然とした姿は地上にいる誰にも認識できなかった。
「…いや難しいよこれ」
どこを見ても人が往来し、隙間など無いようにすら思える。それでも目を凝らしていると、ある一点に止まった。
スクランブル交差点の中央、足早に歩きながら辺りを見回す青年。その背格好に見覚えがあった。報告通りまだ生きている事に驚きながらも、マスターの指示を頭の中で反復させる。
そしてガスマスクの中で頬を歪ませた。
「よし、じゃあ始めよう!」
ランドマークタワーの屋上、伏神市を一望できるそこに登り噴射機を実体化させる。しかしその噴射機は日頃の物と違い、アサシンの体より数倍大きい物だった。
ガタガタと唸る駆動音。それは大量の煙を吹き出し周囲を濁った空間へと変貌させる。
そして、怪人はスイッチを入れると霧の中から街に向かって宣言した。>>449
「さぁ、震えろ市民!!構えろ正義!!」
あらゆる証言と噂を背負いし果てがこの街だ。
一世一代の大勝負、この瞬間だけは全てがこの怪人の引き立て役だ。
「私が、マッドガッサーが、帰ってきたぞ!甘き香りは死の入り口(テトラクロロエタン)!!」
遂に放たれたアサシンをアサシンたらしめる逸話の結晶にして宝具。かつてとある街を襲った恐怖そのものがアサシンの全てだ。
あらゆる生命体を蝕む毒ガスが都市部へと翼を広げ、牙を見せながら降りていく。
「あははははははは!!やった!やったよ!!私、凄いんだ!!本当に私はマッドガッサーなんだ!!!」
両手を上げ、歓喜に震えるその声は少女のものだった。
無辜たる人々は、まだ気づいていない。台風一過の二階堂邸。
あのバーサーカーに霊核を砕かれた以上、アサシンの消滅は時間の問題――だった。
ネブカドネツァルはその身を黒い汚泥、魔神で補って消滅を誤魔化している。7時間経てば肉体に魔神が定着して復元するのか、7日経てば受肉という形になるのか。それとも順当に消滅を先延ばしにしているだけなのか。紛い物のソロモンの指輪による支配能力“七つの時”が具体的にどれぐらい効果を発揮するのか把握できなかった。
指輪の発動によって自動的に付与される狂化、七つの時という逸話に伴う魔神が生み出す狂気によって、占星術や宝具の類が失われているからだ。もし宝具を使うことがあるならば、令呪が必要になる。
本来ならば監督役や、サーヴァントの守護を失った脱落者から徴収しても良いのだが、それはそれでなくても問題はない。
「ゲーティア、ちゃんと根は植えてきたのね」
「誰にものを言っている」
地図で指し示した地点は覇久間における西部、緋田古墳群。
「ちっ。日和ったわね」
「あの神社は霊体、聖杯に召喚されたサーヴァントにとって鬼門というのは気付いているだろうが」
「逆に言えば、そんな純度の低い――粗悪な魔力集積体を“聖杯”などと宣う奴らがいる」
ネブカドネツァル自身も万能の願望機、聖杯と呼ばれた存在だ。色が付いた無色透明など、もう万能ではないという意味を誰よりも理解していた。真に万能の願望機を名乗るのならば、心のない傍観者になるしかない。
今の彼女には“自分を騙して召喚したことへの怒り”と、“セイバーと決着を付けたい執着”の二種類の感情が存在した。その中で優先度の高いのはカタチにする必要がある以上、後者だ。
「な、何を言っている…アサシン! 貴様の役目は聖杯を獲得することだろうが!?」
二階堂宗次が狼狽の余り、声を荒らす。
「聖杯? 聖杯ならあるわ。ここにね」
そう言ってネブカドネツァルは聖杯、あらゆる願いを叶えるという器。形而上のもの――第三要素を汲み上げ、物質に転換する『第三魔法』の産物、それを特別でも無さげに投げ渡した。聖杯の魔術特性とは、理論をショートカットして、結果の恩恵だけを得るもの。願いを叶えるために、そこに至るまでの膨大な過程をクリアできて、なおかつ莫大なリソースを有しているのならば、それは何でも願望機であるという事でもあるからだ。>>451
“聖杯”の原典である器の状態にすることで概念的に安定した魔力資源であり、夢莉の令呪一画を消費して造ったものだ。最高位の魔術師に比肩するネブカドネツァルだからこそ、サーヴァントの身であっても一定の魔力資源さえあれば可能とする荒業だ。
「な、なんだと……!?」
「聖杯ならここにあるって言ったの」
「い、いや……聖杯とはこの聖杯戦争で勝ち取るもので、だな……」
「それはご老人には意味ないって薄々気付いていたでしょう? 流石に世界改変クラスとかの大それた不相応な願いは無理だけど、この魔力結晶を夢莉の魔術回路に接続すれば、貴方の失った右腕ぐらい簡単に戻るわ」
「そ…………そん、な」
皺が寄って肉が垂れた手に握られた聖杯を見つめる。
そうだ、自分が成し遂げたかったのは挫折を克服する勝利であって、聖杯というトロフィーを手にすることではない。
「私は、私はだな!」
いきなりの事で感情の整理が追い付いていないのだろう。何せ敗北という雪辱を晴らすために相当の年月を費やして準備してきたのだから。
こんなあっさりと終わって良いはずがない。
「そうよ、これからこの街どころじゃない最高の花火を上げてやんのよ」
ネブカドネツァルという少女が今まで見せた透明感のある微笑みではなく、心の奥底から湧き出た歓喜に身を染めた、獣の表情だった。楽しそうに、自信満々に誇るその笑みを前にして、この場で魅了されない者はいなかった。
ゲーティアがこの女の欲望に忠実な姿を見たのは、どれくらい前の頃だろう。だが、それでこそ我が主と言えるだろう。好戦的で冷酷非情。地表に這う虫けらを踏み潰す天上の威光。それこそが天上王ネブカドネツァルの由縁なのだから。
「あ、アサシン……」
「何かあったかしら、マスター」
自身のマスター、マスターだった少女に微笑む。
令呪も既に偽証された魔術王の指輪で簒奪済みだ。本当なら、マスターと呼ぶ必要はない。
「わ、私はアサシンが何をしようとしているか分からないけど……でも、せめてこれ。今度は前のバーサーカーみたいな……台風の時みたいな怖いことにならないでね?」>>452
手渡されたのは夢莉が庭で育てていたエーデルワイスの花だった。
「花言葉は……大切な思い出、勇気?」
「うん……お母さんが言ってたの、経験が自信になるって。きっと誰もがそうだって。だから」
だから――頑張って。
言葉の先は聞かなくても、分かった。
この子はそう言うだろうなという確信が、芽生えていたから。
覇久間一帯に念話が飛ぶ。
『――魔術回路を意図的に使用している者達に告げる。聖杯戦争に参加しているセイバー! 後6時間以内に私の下に辿り着かない場合、この覇久間全域を滅ぼすと心得よ』
古墳の中でも最も大きな、おそらくは豪族のものなのだろう、から成長した魔神柱が上空で巣のように神殿を形作る。魔術的な名前はソロモン神殿で間違いないのだが、あまりにも邪悪過ぎた。
蠢く魔神柱の集合体が吐き出す、空間が歪むほどの魔力は、逆に魔術の才能がない者への迷彩となり視認できなくさせている。かといって無視できるものではなく、彼女の真名ネブカドネツァルを知る者ならば、街を一つ滅ぼすというのが脅しで済むものではないと分かるだろう。
『応じねば、皆死ぬぞ』
ネブカドネツァルは肉食獣のように凄惨な笑みを浮かべて、手始めにどこを壊そうかと思案しつつあった。>>453
覇久間聖杯戦争アサシン陣営
5月2日
七つの時を越えて
以上です!聖杯戦争には七つのクラスのサーヴァントが呼ばれる。現在ローガンが確認しているサーヴァントは四騎。
まずローガンが呼び出したランサー、はじめに戦ったアサシン、暴風のような力を持つバーサーカー、そして昨日出会ったライダー。まだセイバー、アーチャー、キャスターには出会ってないが、アーチャー陣営はどうやらライダー陣営と接触はしているらしい。
「マスター、こっちは何もないですー」
ランサーからの報告を受け、索敵の術を解除する。
「ハズレ…か…」
ローガン達は覇久間市内の探索に徹していた。サーヴァントを召喚し、魔術師が自分の力を十全に発揮するためには工房が不可欠だ。だが、工房はどこにでも設置できるというわけではない。前提条件として魔力に困らない立地であることが求められる。そして人目につかない所。
そうなると自然と場所は限られる。覇久間の中で言えば、古墳群の辺りや神社のあたりだ。
「古墳群のとこはいない…か」
ローガンは荷物を片付けながら、地図で神社の場所を確認する。やがてランサーがピョンピョンと高く跳びはねながら帰って来た。>>455
「見たところ人が生活してる痕跡もないです。サーヴァントの反応も無しです」
「そうか、ありがとうランサー。荷物持つの手伝ってくれ」
はいですー、と言って魔術道具の詰まったバックを軽々と持ち上げる。サーヴァントの力は人間とは比べ物にならないという例を目の当りにしながらローガンは移動を始める。
のどかなものである。ローガンは考える。街を歩く人々は裏で魔術師達が戦い合っている事を知らない。先日の暴風雨も一過性の積乱雲として報道されていた。教会に顔を出すべきだろうか一瞬悩むが、別に目立った行動はしていないから必要ないだろうと思い直す。
付近のバス停についた。ちょうどやって来た市内を回るバスに乗って神社を目指す。覇久間の西と東に離れている為に、そこそこ時間がかかる。後ろの方の席に座り、流れる景色をぼんやりと見る。ランサーもローガンの隣に座り、ニコニコしている。
「何で笑ってるんだ?」
「です?兎(わたし)、笑ってましたです?」
「気づいてなかったのか?」>>456
ランサーは自分の頬を軽く触る。どうやら無自覚だったようだ。それにしては楽しそうに笑っていたので少し気になるローガン。何が楽しいんだ、と尋ねると
「マスターとお出かけしてるからです。兎(わたし)、それだけでも楽しいです。せっかく召喚されたんです。色んな事がしといた方がいいと思うです」
そう言ってランサーはニコッと笑う。その屈託の無い笑顔に、ほんの少しドキッとする。
しばらくすると神社の近くのバス停へと到着した。「豊月神社前」というバス停の名前でありながら本殿までは少し歩かないといけないようだ。
「大きいですね」
「ああ。スタッフを魔術で洗脳できれば、隠れる場所は多そうだ」
鳥居の前につくと、空気がピリつく気配がした。事前にここが一級の霊地である事は調べがついていたが、実際に来てみるとやはり気圧される。
ランサーが鳥居の前でペコリとお辞儀をした。何となくそれに倣ってお辞儀をしてみる。そして境内に足を踏み入れる。
その瞬間、空気が一変した。道路の喧騒や鳥のさえずりが、側にあるはずなのに遠くなっていく。張り詰めた空気がカミソリ刃のようにローガンの産毛をチリチリと焼いているような錯覚さえしはじめた。覇久間一の霊脈は伊達ではない。>>457
「―――っと、すごいな…」
あまりの魔力の濃さに一瞬たじろいだローガンは、自分の意識を保つように呟く。空気の違いを感じ取ったのか、ランサーも警戒している。早速調査をしようと準備を始めたその時、目の端に黒い影を捉えた。
「…………なんだ?」
本殿の奥の森。木々の間からこちらを観察するような無数の視線。ランサーもそれに気づいたのか、首を傾げて呟く。しかしながら、森の中には何かがいるようには見えない。人っ子一人いないような神社だ。誰かがいればすぐにわかる。
「言ってみるか…」
ローガンは礼装を装備し、荷物をもって森へと向かう。ランサーはローガンの3歩ほど前を歩きながら、周囲を索敵している。
「特に何もいないように見えるです。ですが、何か魔術的なものが仕掛けられているかもです」
そしてランサーが森の中に足を踏み入れる。
一歩、踏み入れた瞬間。木陰から『ソレ』は這い出してきた。
黒い霧のような、影のような『ソレ』はあまりに突然に、そして気配を感じさせずに現れた。まるで最初からそこにいたかのように、存在を誰にも気づかせなかった。
「なっ……?」
あまりに突然の出来事にローガンの反応が遅れる。ランサーが武器を取り出して構えるのと同時に、黒い霧はどんどん密度を増していく。
「下がってくださいです、マスター!」
ランサーと背中を合わせるように陣形をとり、礼装を起動して攻撃体制にうつる。敵の正体は不明。だがサーヴァントではない。何らかの使い魔のような存在であれば、ランサーと協力すれば突破出来るだろうと考える。黒い霧は品定めをするようにローガン達の周囲を漂っていたが、大きな口を開けるかのようにローガンへと襲いかかった。
「射出(Shot)―――!」
シングルアクションの魔力弾。だがローガンは詠唱一回につき数発撃てるように訓練している。その為、当たれば通常よりも多くのダメージを与えられるはず。なのだが。
するりと。ローガンの放った魔力弾は霧をすり抜ける。
「効かない!?馬鹿な!」
霧の勢いは止まらず、そのままローガンは霧に飲み込まれ―――>>458
何も起きなかった。
「何が…起きたんだ…?」
一瞬呆然としながらも霧の行く先である背後を振り返る。そこではランサーが霧を払おうと奮闘していた。
「こいつ…気持ち悪いです!来るな!です!」
だが、ランサーの攻撃に合わせて避けるようなこともせずに、霧は蠢いている。霧が払われることはなく、むしろ弄ぶようにランサーの周囲を漂う。サーヴァントの攻撃が効いている様子は全くない。
やがて影がランサーへと近づいていく。ジリジリと追い詰めるようにランサーの前方から飛びかかる――!
「危ない!」
ローガンは咄嗟に駆け出して、影のいない方向へとランサーを突き飛ばした。突然のマスターの行動に、ランサーは逆らうことなく飛ばされる。
「マスター!?」
玉兎は悲痛の混じった叫び声でローガンへと呼びかける。自らの主が身を呈して自分を守ったのに、自分は何も出来ない。ローガンは無残にもその身体を引き裂かれ―――
「やっぱりな…」
ることはなかった。ローガンは黒い霧の中で身を起こす。
「こいつは俺には何の影響も与えられない。大丈夫だランサー、今のうちに逃げよう」
そう言い終わるか否かの刹那。
ランサーの背後に黒い霧が迫っていた。先程とは比べ物にならないくらい素早く、それは大型の獣が獲物を捕食する瞬間のようにも見えた。
「あ」
反応が僅かに遅れたランサーは、そのまま影に飲み込まれて、消滅してしまう。
「おっと、それは少々困るな」>>459
瞬間、ローガンの横を何かが横切った。それと同時にランサーの近くの地面が弾ける。その衝撃によるものなのか、周辺に漂っていた影は一瞬払われる。その隙間を縫うようにローガンとランサーは飛ばされる。
衝撃によって吹き飛んだランサーとローガンは、森と外との境界あたりまで転がっていく。
「がぁっ……!はっ……!」
うまく受け身を取れなかったローガンは、身体の痛みを堪えるように呻く。視界の端でよろよろと立ち上がるランサーを捉えると、ゆっくりと身体を起こす。
「ランサー、退くぞ…。ここは危険だ…」
撤退の指示を聞いたランサーはそれに従う素振りを見せる。だが、霧はランサーを逃すまいと徐々に迫ってくる。
「やだ……よるな…ですっ…!来るんじゃねぇです!」
だがランサーの動きは鈍い。まるで生気を吸い取られたかのように、その四肢からは力が抜けているように見える。
「ランサー!………このっ!」
ヤケになったかのように魔力弾を放つが、効いている様子はない。ローガンにはもはや自分のサーヴァントを救う手段がないのだ。>>460
(いや…まだだ、まだある)
この身に宿った三画の令呪。これを使えばランサーを助けることが出来るかもしれない。
息を一つ吸うと、拳をグッと握りしめ―――
「まあ待て。人を救いたいなら、大局を見据えて行動しなければならんぞ」
ふと、肩を叩かれた。ローガンが振り向くとそこには弓を持った男が立っていた。白縹の髪をしていて、その瞳は何か引き込まれるような力を秘めている。マスターのローガンはその男がサーヴァントであることがわかった。
「クラス、アーチャー。故あって汝を手助けする」
そう言うとアーチャーは弓をつがえて、ランサーのそばの地面へと放った。音を超えて飛んでいった矢は地面を穿ち、衝撃波を発生させる。衝撃波はランサーの身体を押し、影の動きを一瞬止めた。
「ランサー!!しっかりしろ!大丈夫か!?」
森から脱出したランサーをローガンは抱える。どうやら息はしている為、生きてはいるようだ。ローガンはそれに安堵し、森に目を向ける。
森の中で黒い霧はじっとこちらを見つめるようにその場に『いる』だけだ。やがて興味を失ったのか、黒い霧は薄くなるように消え、森には静寂が戻った。
「どれ、汝のサーヴァントは傷ついている。吾の拠点に来ないか?少なくとも、身の安全は保証しよう」
ローガンはそう申し出てきたアーチャーをじっと睨む。
「根拠は何だ?俺がアンタを信用してもいいと思えるその証拠はなんだ?」
ローガンはランサーを後ろに庇うように立っている。サーヴァントに人間がかなうはずもないのに。それは意識しての行動か、それとも―――。
「証拠は今の状況だ。もし、吾がその気ならば汝の命は無い」
ため息を吐くように笑ったアーチャーはランサーを抱えると、ローガンに「ついてこい」と、顎で指示した。
「……わかったよ。ちょうど俺もアーチャーのマスターと会ってみたいと思ってたんだ」
森の中で兎とウサギは、狩人に出会った。>>461
覇久間槍陣営
5/1昼 [兎をみて犬を出す]オードリー・ヘップバーンとの戦いが終わった後、昨日と同じように酷く疲れた私は深い微睡みに沈んでいく。
私の意識に浮かび上がったのは以前夢にみたモノと同じ、緑に囲まれた神殿。
そこにはやはりこの前の一本脚の神らしきソレ、そしてその周りには人影がある。
以前とは異なり一本脚を信仰していた人々とは異なりあくまで対等と言った様子であり、一本脚はどうやらその影達に抗議しているようだった。
『人類(トウモロコシ)如きに星の首座を明け渡すなど正気ではない!神代は未だ終わりはしない!!』
どうやら、一本脚と同様にその影達は信じ難いことだけれど神様のようだった。
一本脚は神々から背を背け、歩き出す。
場面が切り替わる。
今度は正真正銘、人間のようだ。
だが、神に盲従し、神を恐れていたその態度はもう無くなっていた。
『貴様ら如きが我を見るな!我は他の神々とは違う!!決して貴様らが相手に引き下がりはせん!』
一本脚は強く、威嚇するように突風を齎す。
尊大な態度は変わらないが、今度は一本脚の方が人々に対して恐れや焦りを覚えている……そんな風にも感じ取れた。>>464
場面が切り替わる。
『忌々しいヒトの仔共、我が手足を裂き、胴を消し飛ばし、あまつさえ我が名を台風などという現象に陥れようなど……』
そこにあの一本脚の姿は見当たらなかった。
あるのは僅かな靄と巨大な竜巻(ハリケーン)だった。
そこからあの一本脚の──私の知っているヘーゼルの声が聞こえてくる。
(やっぱりコレは……ヘーゼルの記憶なんだ……)
天候を司る神であった者が零落して、摩耗して、身体を失い、世界から朽ち果てるまでの物語。
それを私は第三者として眺めていたのだ。
(でも、まだ終わりじゃない……?)
その再話は続く。
かつて多くの信者に恐れられた神は気候現象へと墜ちた。
たとえハリケーンを恐れようとも、崇める者も奉る者もいない。
誰もヘーゼルの意思に、存在に気づくことはない。
『ダレカ ワタシ ヲ ミツケテクレ』
幾年もの月日、孤独により疲弊したモノから最後に溢れ出したのは、そんな哀しい独白だった。>>465
場面が切り替わる。
風に流され、空に舞い上がり、世界を漂うヘーゼルの意識(モヤ)。
未来永劫言えないはずの孤独の只中にあったソレを『私』が視認する。
(えっ……?アレって私なの……?)
なぜ、ヘーゼルの記憶に『私』の姿が、瞳が映り込んだのか……思い当たる節は、ある。
(やっぱり、私の眼のせいだよね……)
私の眼は『未来の空模様』を映し出すことが出来る。
(私は……この眼を通じて、ヘーゼルに出逢っていたんだ!)
もっぱら、雨の日を予測するぐらいにしか使い所はないと思っていた。
けれどまさか、こんなカタチで、孤独を彷徨うオカルトな存在と縁を結んでいたなんて……。
『アレ ハ ダレダ? ワタシ ヲ ミツケタ ニンゲン ハ』
その時、ヘーゼルの磨り減ったハズの自我が甦る。
観測者、信徒の存在を得て自己を確立したヘーゼルは『私』の名を口に出した。
『アベノ……メイ……』>>466
その言葉を聞いた瞬間、私の意識は覚醒した。
目を覚ました時には既に夕方だった、昨夜の一件で相当消耗したみたい。
周りはいつもと変わらない木々に囲まれた状態だったけど、ただ一つ違和感があった。
「ヘーゼル……フラカンは何処に行ったの……?」
夢の情報からヘーゼルの正体を突き止めた芽衣は、どうしようもない胸騒ぎを感じながら夕暮れに染まる空を見上げた。
ヘーゼル、もといバーサーカー フラカン(ハリケーン)は森の上空にから覇久間の街並みを俯瞰する。
「人類(トウモロコシ)共が築き上げたモノ……ハッ、そのようなモノに興味は無い」
そう、猜野 芽衣という運命と出逢ったフラカンにとってはもはや覇久間という街はおろか聖杯すら興味はない。
自身のマスターである芽衣自身に指針が無かったが故に、己が願望を優先したフラカンではあるが、昨夜の邂逅でその認識は一変した。
オードリー・ヘップバーン。永遠の妖精と謳われた才女。
その才に刺激された芽衣の劣等感を受け、フラカンは『芽衣の敵』たるモノの破壊を最優先とした。
「ク ハ ハ 破壊を齎す我が暴威、その全てを我が契約者の為に使い潰そう!!」
フラカンが破壊するのは芽衣の心に戸惑いを生み出したセイバー:オードリー・ヘップバーン、そして猜野 芽衣に恩恵を与えぬ社会(セカイ)そのものである。
芽衣が未だタレントとして活躍できぬ事実に鬱屈しているならば、芽衣に活躍させることの無い常識(セカイ)を破壊する。
そんな歪んだ願望器が如く、フラカンは動き出す。>>467
会話が可能であってもバーサーカーはバーサーカーであるといったところか。
「芽衣が聖杯を望むのであれば、その時はその時だ。他の六騎を蹴散らし、聖杯を勝ち取るまで」
バーサーカーは叫ぶ、己が宝具であり本質であるその真名を解放する。
「──『嵐よ、その暴威を示せ(ハリケーン・ゴッデス)』」
その日……覇久間に嵐が到来する。5/1 狂陣営 『嵐よ、その暴威を示せ』 了
覇久間市の散策が終わった蒲池夏美とライダーは蒲池邸に帰宅すると、夏美がすぐに夕食の支度を始めた。家での食事は週ごとに決めてローテーションを組んでいる夏美であるが、今晩の夕食は豚肉の角煮と煮卵。そしてサラダだった。
「この肉、すごいトロットロだな! 獣臭い肉しか食ってなかったから新鮮だ」
ライダーは感嘆しながら角煮を頬張った。口の中で肉が蕩けるという未知な経験と美味さに衝撃を受けている。
「圧力鍋を使えば延々煮込むガス代と時間と労力をかけずに、二〇分くらいでトロットロの角煮が食べられるのよ。しかも、この豚バラ肉は一〇〇グラムなんと五八円!」
金銭に不自由がない夏美であるが、所帯じみた金銭感覚を持っていた。高級な食材を使えばよい、とは夏美は思わなかった。
「この煮玉子もいいな……」
「ふふふ、ありがとう。この半熟玉子は角煮の甘辛いタレでしみしみになっているからとても美味しくできたと思うよ」
夏美が数々の失敗を重ねて研究の末に到達した半熟玉子で旨味たっぷりの煮玉子は作られているのである。
夕食を食べながら、二人は今日会ったマスターやサーヴァントたちについて話し合った。時計塔や業界で名が売れているようなマスターはいなかったこともあり、彼らについて話すこともサーヴァントについてよりも少なかった。>>470
「アサシンは実は女性だったソロモン王とか考えてけど、ライダーの見立ては違うのね?」
「ああ、お前さんが気にしている指輪や使い魔の件を含めても、魔術王があいつってのはどうもしっくり来ないな。それに俺としては指輪もいいが、あいつの持つ剣も気になる……あ、黄身が」
半熟煮玉子から零れた黄身が白米にかかる。
「あー、もう。喋りながら食べるからだよ」
「お前は俺の母ちゃんか……。まあ、いい。アサシンの真名は保留だ。わからないことはわからないで棚上げするのも肝要だ。あいつが増上慢で強大なサーヴァントなのはわかっていたことだ」
「そうだね。あとはアーチャーとキャスターとランサーか。バーサーカーは今朝も話したけど分からないまま、セイバーは自分で名乗ってくれたし、偽名でも無さそうだったね」
「……そうだな。結局、真名がわかったのはセイバーだけか」
ライダーは清酒を器に注いで飲む。召喚されてからライダーは色々と酒を嗜んでいる。以前もジントニックとフライドチキンの食べ合わせが気に入っていると夏美に話していた。
「アーチャー、異邦の射手。あれは人ならざる性質を帯びていると見える。神性とは違う……俺には馴染みがないものだった」
ライダーは今朝会ったアーチャーへの所感を言った。>>471
「ライダーにも馴染みがない? 鬼とか竜じゃないってこと?」
ライダー──平将門は平清盛が武家の棟梁となる二〇〇年以上前に生きた平安時代の男だ。日本の闇が今よりもずっと濃い。その闇を呼吸してライダーは生きていた。そんな彼が馴染みはない、ということに夏美を悩ませた。
「弓の技倆(うで)は分からんが、あいつの目の良さ、握手したときの奴の体幹や手の力強さから言えばこの覇久間全域は奴の射程圏内だと心したほうがいいだろう」
「──」
ライダー自身、尋常ならざる弓の技量を持つ英傑だからこその油断のない見立てであった。
「ランサーはどうだった?」
「あれか、武人という動きや技の型じゃなかったな。……うーんなんか……獣に似てる」
「獣?」
「こう……虎とか熊じゃなくて何か軽捷自在な小動物みたいなヤツ」
「鼠とか兎? ……アタシはあの娘に会った印象は兎っぽい、と思う。あとマスターのほうも」
「ああ、兎、それっぽいな。マスターもそんな感じだ。兎に関する英霊か、誰だろうな」>>472
「かちかち山の兎、因幡の白兎、アルミラージ、三月ウサギ……」
夏美は思いつく限りの兎の名前を挙げた。だが、どれも夏美にもライダーにもしっくり来た答えにはならなかった。
「キャスターは日本人、あるいは東洋人みたいな顔立ちの男だったわね」
「日本の英霊だったとしても、やはり真名にはたどり着けないな」
「そうだね。衣装も現代の服に着替えていたし」
お手上げ、とばかりに夏美は嘆息する。行儀が悪いと思いつつテーブルに乗せた手に顎を乗せる。
「……結局、分からないってことが分かったってカンジだったなぁ」
落胆している夏美と異なり、ライダーは然程落ち込んではいない様子だった。
「もう良いさ。それに今日の目的は街の探索だからな」
「そうだったね。で、どうだった? この街は」
「意外と楽しいもんだった。かつて俺が治めていた土地と同じ場所とは思えなかったほどだ」>>473
ライダー──平将門は平安時代の武士であり、関東地方を制覇した豪族だった。平清盛が武家の棟梁となる二〇〇年以上前、朝廷に追われる人々を庇護したことがきっかけで時の天皇に謀叛を起こした。武力による関東独立をもくろみ、一時は関東一帯を支配下におさめ、新皇と称するまでになった。しかし、武運尽きて討ち死にして野望は潰えた。
「マスター。お前が、聖杯戦争の運営側であってもこの街や人々が傷つくことは極力避けたいと思っているのは知っている」
「! ……バレてたか」
夏美は虚を突かれ、そしてばつが悪そうに苦笑した。
「わかるさ。お前さんの顔に書いているぞ。当世に生きる人々――本来なら俺とはまあ、関わりのない連中だけどな。それでも、無辜の民たちだ。かつて俺が守ろうとしたあいつらと、なんの違いもあるものか」
だから、今度も彼らを守ろう、とライダーは言う。
「マスターのやり方は消極的と言えるし、勝利を目的にするならば温い。しかし、お前のその方針を尊重しよう」
関東の守護神としても祀られる男は、泰然として言った。
「……ありがとう。守護神様にそう言ってくれて嬉しいわ」
ライダーの強い眼差しをマスターは正面から受け止めた。>>474
「守護神などこそばゆいことを言うな。俺はどうせ、叛乱に失敗した地方豪族さ」
むすっとしたような面構えになるライダーだが、夏美はその表情が彼なりの照れ隠しだと知っていた。
「まあ、でも……さっきああ言ったあとに言うのもアレだけどさ、今の時代も良いことばかりじゃないよ。悪い人だっている。偉い人の中にも、そうでない人の中でも、ね」
「だが俺は、帝や増上慢どもの聖恩をたたえないとひどい目にあうような世の中より、有象無象を公然と罵倒できるような世のほうが好きだな」
「公然とね……」
「建前としては、な。それくらいは現世に召喚されて日の浅い俺でもわかる。でもな、それだけでもたいしたものだぞ。建前があれば、それをよりどころにして、『お前らは間違っている』と言ってやることができる。俺は、建前を最初(はな)っから馬鹿にしている奴を、どうも信用できないな」
「りっぱなことよ」
社交辞令でなく、夏美は呟いた。ライダーを武力だけの猪武者と思ったら、人物鑑定眼の貧しさを証明することになるだろう。戦場では獣めいた闘争心を剥き出しにする野性の獣性の豪傑。だが、ライダーには理性と知性が備わっており、それは鋭いというより骨太なものだ。>>475
4/30 ライダー陣営『トロトロの角煮』 了「蒲池から、神秘の隠匿という魔術世界の第一原則を破ったバーサーカーを討伐するという話が来た」
「蒲池の使い魔は普通ね。魔術師の紋章なのだからもっと面白くしないと」
「ならお前ならどんな使い魔にする」
「そりゃあ、魔神でしょ? あんたのことだけど」
「ぐうの音も出ないな」
二階堂邸に、烏が舞い込む。
赤い目、魔力に中てられた色をしている。
アサシンにとっては単なるライダー陣営だが、二階堂にとってはこの地で聖杯戦争を起こした御三家の一つ、蒲池の使者だ。
「境界記録帯(ゴーストライナー)とはいえ、仮にも英霊を召喚すると思いついた時点で“神秘の隠匿”などと黴の生えたこと、不可能に決まっているだろうが」
ゲーティアが呆れ果てた。
そも、サーヴァントとして現界する英霊とは、英雄に祭り上げられた人間霊だ。文明社会でも突出した偉業の持ち主が、どうして凡俗に紛れることが出来るだろうか。
アサシンは衰退期でも、神代の時代の人間だ。希薄化の中でも十二分に魔力濃度が高い世界の人間だ。かつて魔術が魔法であった頃、言葉には神性が宿り神言と成した頃。天上に輝く星辰を己が魔術回路に変える大魔術、惑星轟を受け継ぐカルデアの賢者その人だ。
――――凡俗風情が。
とは言葉を結ばなかったが、本心ではある。
「い、行くのか……結局、行かんのか?」
「その判断はマスターに任せるわ。そうよね、夢莉」
「ぇ。わ、私……? アサシンが決めた方が確実なんじゃ……」
「私はサーヴァントで、夢莉はマスターでしょ。自分の判断が誰かを害することもあるだろうし、救うこともあるかもしれない。そういう判断が出来なくてどうするの」>>477
「う、うう…………」
突然の責任に戸惑う。
急に早鐘を打つ心臓を押さえつけながら、制服に皺がつくほど握りしめながら。
「え、ええと……参戦します!」
「その心は?」
「あぅっ!? あ、あっと……単純にライダーとの同盟関係の維持、と。後は人命に関わって覇久間の警戒度を上げたくない、のと……」
「警戒度、ね」
アサシンの言葉端を捉えて、“事件が公になる前に解決”したいという意志を彼女なりに表現できている。
「…………決まりだな」
「ええ、そうね」
「夢莉は私が指定した位置にいて。条件が更新されるまで絶対に安全だから」
安全地帯として占ったポイントを指示して、守りをゲーティアに任せる。
マスター能力さえ高ければ、このような危険な戦闘区域にまで連れ出すことはなかった。近くにいなければ魔力のパスすら不安定となり、サーヴァントとしての戦闘が不安定になる以上は仕方ない。
(…………腐っても神性サーヴァント)
彼女達が辿り着いた頃にはもう、戦端は開かれていた。
肆乃森の木々を巻き込んで拡大を続ける、力の奔流。気流の塊。神話に謳われるほどの全能の視座を有していないとしても、星の息吹たる自然現象を大源とするのならば、それは定命とは遥かに規模が違う――――>>478
覇久間聖杯戦争アサシン陣営の5月1日
空も揺れ動く
ですアーチャーに案内され、到着したのは豪華な外装と内装のホテル。
自身が利用している寝床と異なり、最高級と言っても差し違えない場所に、ローガンがちょっと負けた気分になる。
(太々しい物言いのサーヴァントといい、高級ホテルといい、まさかアーチャーのマスターって……)
彼の脳内で想像される人物像。成金趣味で、金にモノを言わせたイヤらしい性格のメタボ中年がイメージされ、同盟を組みたければランサーの味わわせろなどと────。
そこまで考えて、ローガンは被害妄想を掻き消す。
まだ決まった訳でもないし、出会った事もない相手に失礼だ。
もしかしたら、想像した性格と真逆の可能性だってあるではないか……と、ここまで思考したところで最初のイヤらしい性格のイメージから離れられていない事に気づいた。
「でもなぁ……」
財力だけでも圧倒的敗北を喫しているのは確実であったので、気落ちする。
「ここだ」
アーチャーが扉の前に立ち止まり、霊体化してロックを外す。
その時部屋の奥から「な、何!? なんでいきなり開けてんの!?」らの悲鳴が聞こえたが、関係ないとばかりサーヴァントは扉を開けた。>>480
「さて、愚鈍でコミュ障極まりない吾がマスターと存分に言葉を交わすがいい」
「帰ってきて早々に罵声!?」
開帳された先には、燻んだ銀髪の少女が慌てた様子で立っていた────半裸で。
「い゛!?」
「ま、マスター! 見てはいけないのです!」
最低限の局部を隠す程度の薄着で、ほぼ半裸といっても変わらない姿だったのでローガンは驚愕し、ランサーは主人の視線を塞ごうとワタワタする。
乙女の柔肌を見られた当人は、突然の来訪者に硬直する。
「おい、私生活が自堕落なマスターよ。その見窄らしくみっともない姿をいつまで晒しているつもりだ。さっさと着替えるがいい」
「え、あ……………………はい」
言われるがままに少女────ブリュンヒルドは脱ぎ捨てられていた衣服を手に取り、黙々と袖を通していく。
その間、アーチャーは床に散らかってる物品を一つ手に持ち、ランサーに向かって投げ渡す。ミニチュアサイズのオルゴールだった。
「それを開いて耳に当てるがいい。傷の治癒と、ある程度の呪いも解呪できる」>>481
使い方の説明を受けるも、ランサーは怪訝な顔をする。
「案ずるな。そのがらくたに悪趣味な機巧は仕組まれてはおらん」
疑い深い彼女に、暗に早くしろとアーチャーは促す。
念を押されたので、恐る恐るといった手つきでオルゴールを開き、耳元に当てる。すると、ランサーの体にあった傷が見る見るの内に塞がった。
「サーヴァントにとっては微々たるものだが、多少はマシになったであろう。ほれ、治療は済ませたのだ、さっさと対談の準備を始めよ」
そうして互い向き合うマスター二人。
一方はサーヴァントが寄り添う形で緊張しており、一方はサーヴァントに完全放置された形で孤独に対面していた。憐れ。
しかし、相対しただけでどちらも声を一切発さず沈黙し、まるで初めてのお見合いで言葉が出ないような微妙な雰囲気になっていた。>>482
ローガンは思う。
彼女を見る限りでは、悪意のあるマスターのようには見受けられない。
年齢は自分と同じくらいか、少し歳下か。ただ、やや童顔なせいかもっと歳下に見える。
アーチャーがコミュ障極まりないなどと称していたが、確かに先程からこちらに話しかけようとしては口つぐむ仕草を数回はやっているので、人付き合いは苦手なのだろう。
同じくそこまで社交的ではない為か、その部分に関しては親近感を覚える。彼女ほど極端ではないが。
(それにしてもこの工房……)
視線のみを動かして見渡すだけでも感じる……この工房は乱雑しているようで安定した基盤で構築されている。
微かだが壁に刻まれている文字から察するにルーン魔術なのだろう。自身も浅学ながらも知識はあるので、少女が描いたルーンがいかに高度なものか理解できてしまう。
それに、先程のオルゴール型の魔術礼装は咒歌(ガルドル)を記録したものに間違いない。きっとルーン同様に彼女の魔術なのだろう。
彼女は優秀で、秀才だ。自分よりもよっぽど────と、いつもの悪い癖であるネガティブ思考に蓋をする。>>483
一方その頃、ブリュンヒルドは……。
(どどど、どうしよう!? アーチャーが知らない人連れてきたし、なんか兎みたいな子があたしに警戒してるし、なんて声をかければいいの!?)
完全にテンパっていた。
見事なまでの動揺。心の中で饒舌なブリュンヒルドは、表には九割の確率で出さないだろう数々の言葉を羅列する。
しかし悲しいかな、彼女が声に出すことはない。気心が知れた相手以外では、コミュ障なのだから。
余談だが、素肌の大部分を見られた事に関しては特に気にしていなかったりする。無頓着ここに極まれり。
「あー、俺はローガン。ランサーのマスターだ」
「え、あ、あぅ……ご、ご丁寧にどうも……」
目つきの悪い兎面は頭を抱えたくなった。
今の自己紹介のどこが丁寧だというのか。相手が動揺が否応にも伝わり、この少女は本当に大丈夫なのかとアーチャーに視線を送る。
「……………………ハッ」
鼻で笑われた。明らかに見下したような、まるで養豚場の豚を見るような眼差しである。
つまりは、似た者同士語(ども)り合えと告げているのだ。>>484
「……あの弓兵、先程からマスターに無礼千万です。処す? 処しますのです?」
「オネガイダカラナニモシナイデ」
これ以上話がややこしくなったら対談の雰囲気は一気に崩壊するだろう。
口数の少ないローガン、そしてそれ以上にコミュニケーション能力が欠如気味なブリュンヒルドがその様な空気の真っ只中にいれば、間違いなく場は沈黙に包まれる。
早い話、ここでの内気は非常に面倒くさい要素でしかないのだ。
だが、これでは埒が明かないので、ローガンは意を決して言葉を紡ぐ。
「単刀直入に言う……俺と、同盟を組んでくれないか?」一応、ここまでです。
お疲れ様
>>450
「これは……」
大きな目をさらに見開いて玲亜は驚愕する。
伏神市を一望できるランドマークタワー、その足元に広がる広場は地獄絵図だった。
仕事帰りの社会人に若いカップル、往来の激しい市街地の中心部を陣取るように敷設されたタワー前広場は、必然的にヒトが集まってしまう。
アサシンはそれを見越したうえでこの事態を発生させたというのか、だとしたら相当に悪辣な遣り口だ。
「酷いですね……」
ランサーは鎧兜の内側で怒りを露わにする。
死屍累々と倒れ伏す人々、その全員が呼吸器不全に近い状態に陥っていた。
「口を塞げ、お前もこうなりたいか?」
現界したアヴェンジャーは大きな手でマスターの口を覆う。視線の先はタワーの頂上を見据えながら、
「────あそこで間違いないな、ランサーのマスター」
「ああ」
横に立つ錫久里亥狛も同様に一点を見つめている。>>488
表情は険しく、嗅覚を鋭敏にして匂いの出所を探っているようだ。
発生源はとうに特定出来ていた。
「このまま広場の人間を放置するのも危ない、玲亜はここの人達を安全なところに避難させた後、人払いの魔術を掛けてくれ」
「亥狛君は────?」
大柄な青年は腕で鼻を乱雑に擦る、不快な匂いをシャットアウトするように。
「俺とランサーは、先にアサシンと交戦する」
「それだったらアヴェンジャーも一緒に加勢させるわ、一騎よりも二騎の方が有利に立ち回れる筈だもの」
「いや、それはいけません」
玲亜の提案を手を伸ばして制止するランサー。
「それをすると玲亜が無防備になってしまう、敵の目的が知れない以上単独行動は厳禁です。
アサシンと人知れず同盟を組んだ第三者が襲ってくるかしれませんし、アヴェンジャーは手元に置いておくべきです」
「───────」
まったくもってその通りであった。
今の状況は未知の危険が潜むやも知れないパンドラボックス、であれば、不用意な行動は慎んだ方が良い。
此処はもういつもの伏神市街中心部なんかじゃない、魔術の絡んだ戦場だ。
冷静にならねば、そう自分を律しようと玲亜は大きく息を吐く。>>489
「こっちが終わったらすぐ加勢に向かうから、それまではどうか────死なないでね」
「……………」
真っ直ぐ真摯に向けられた言葉、死ん.で欲しくない一心から放たれた感情の篭った一言。
それは紛れもない真意だからこそ、亥狛の心を揺らした。
亥狛はぎこちなさげに笑みを作ると、親指をぴんと立てる。
「大丈夫だ。ランサーだってついてる、玲亜こそ怪我するなよ」
そういうと、ランサーと共にランドマークタワーの壁面を駆け上がっていった。
正確にはランサーに抱えてもらう形で、だが。
ランサーはタワーの細かな凹面を取っ掛かりにしながら軽々と登っていき、瞬く間に点となって消えていった。
「二人とも……………、無事でいてね……!」>>490
タワーの頂上部に降り立つと、そこには本来ある筈のない異物が在った。
見慣れない機械だった。ゼンマイとタービンが無数についた精密機器、それでいて現代の機械類とは明らかに異なる趣きもある。
さながらスチームパンクの世界観から切り出した様な態とらしさの塊─────その至る箇所から煙が噴出している。
間違いなくこの騒動の原因はアレだ。
その巨大噴出器の上には少女の姿があった。
脚を退屈そうにパタパタとさせながら、待ちわびた来客の登場に身を乗り出している。
「よーやく来たか!ものすっごい待ったんだからね?」
よっ、と勢いをつけて噴出器から少女が飛び降りる。
巨大な機械は現在進行形で煙を吹き上げているというのに少女は平然としている。
恐らくは彼女がアサシンのサーヴァントなのだろう、そう亥狛は分析する。
(…………マスターの姿はないか、それにしても、この煙、鼻が曲がりそうだ)
思わず鼻を手で押さえる仕草を取る。
人とは比較にならない嗅覚の鋭さを持つ人狼にとってすれば逃げてしまいたくなる臭いの暴力。
嗅覚を敢えて人間形態の水準に落とす事で、耐え難い刺激臭を対処する。
とはいえ、その場凌ぎに過ぎない。
時間の経過と共に衰弱していくことは目に見えていた。
──────潰すなら短期決戦だ。以上です、アサシン陣営さんにパスします。
「単刀直入に言う……俺と、同盟を組んでくれないか?」
「はぁ、いいですけど……」
腹を括った言葉に対する返答は、なんとも弱々しくも軽い了承。
もう少し悩むとか、何かしらの条件を付けてくると思っていたローガンは、余りにも拍子抜けな返しにズッコケかける。
「い、いいのか!? 言っちゃあなんだけど、俺の実力は下もいいとこだし、アンタにメリットがあるとは思えないんだが……」
「如何にも事実だが、本当に自らぶっちゃけるとはな」
「そこ、うるさいのです」
アーチャーが茶々を入れるが、実際のところブリュンヒルド側に同盟を組む程のメリットは少ない。
三騎士の一つと共闘するという点は強みになるかもしれないが、当人が言った通り実力は然程高くないので利点となるかは微妙な評価となる。
しかしながら、少女はそれを良しとした。その事に疑問を抱いた彼は真剣な眼差しで相対するマスターを見る。
「えーと、あたしは別に、メリットデメリットとか考えてないし……そもそも参加したくてした訳でもないし……」
「……は?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! こんなあたしでごめんなさい!!!」
「ほうほう、睨みをチラつかせて恐喝とは、その人相の悪さの使い方を心得ているようだ」
「ち、違っ!? 別に睨んだつもりは……」>>493
「して、これ以上口下手な阿呆二人に任せては話が進まん故、端的に表明するならば此奴は偶然マスターに選定され、この闘争に参加している。巻き込まれたならば尻尾を巻いて逃げればいいものを、何をトチ狂ったのか此奴は要らん“負けず嫌い”を発揮して戦場に残留した……愚マスターに関してはこんなところだ。そして、そこの仏頂面は調査という名のサーヴァントと逢引などというお花畑丸出しの外出を仕出かし、自らを危険に晒しす愚の骨頂をやり遂げた哀れなマスター……以上が、摩訶不思議にも『類は友を呼ぶ』が非常に似合う出会いの経緯である。ふむ、吾には詩人の才があるやもしれんな」
無遠慮にも程がある弓兵は、続けていたら何時間かはかかるであろう対談を一刀両断し、簡潔に経緯を話した。
二人は深く傷ついた。ランサーが得物を手に取った。ローガンは休まる暇もなく止めに入った。ブリュンヒルドは未だにのの字を書いていた。
地獄絵図手前である。
「取り敢えず、協定は成立したって事でいいんだよ……な?」
「は、はい……よろ、よろしくお願いします」
見ていて不安になる協定成立の瞬間であった。
「改めて、俺はローガン=クレイドル。これから宜しく頼む」
「ぁ、あたしは、ブリュンヒルド・ヤルンテインと言います……」
「ヤルンテイン……もしかして、創造科の“魔銀保菌者(ミスリルホルダー)”か!?」
「ひゃい!? た、多分そうだと思います」>>494
面識はなかったが、ローガンはその名を知っていた。
創造科に所属している、魔銀(ミスリル)を生成し、それを材料として数々の魔術礼装を鍛錬する生徒がいると。
クライアントからの評判も上々で、依頼された作品の出来はどれも上等なものだとの噂だった。その噂の出処が、まさかの目前の少女だとは彼は思いもよらなかった。
(凡人じゃないとは分かっていたが、ここまでの相手だったとはな……内気過ぎる性格も予想外だったけれども)
未だ緊張が解れておらず、やや挙動不審なっている少女が時計塔で評判の鍛治職人には見えないが、ここに来てから目の当たりにした礼装、咒歌(ガルドル)、ルーンらの技術で本物だと受け入れるしかない。
性格はアレだが、そこに目を瞑れば能力の高い陣営を味方に付けたのだから吉と言えよう。性格が殆どを台無しにしている感は否めないが。
「じゃあ、友誼の証として」
ローガンは右手を差し出す。
それに対し、ブリュンヒルドはおずおずといった様子で同じように手を出し、握手した。
「えへ、えへへ」
思わず笑みが零れる。
先程の握手は友誼の証、つまりは友達になってくれたのだとブリュンヒルドは解釈したのだ。
元々友人が指で数えられる程度には少なく、内気な性格も祟って友人作りも得意な方ではない。しかし、 この都市にやって来て、聖杯戦争に巻き込まれるなどの災難はあったが、交友関係を広げる事ができたのだ。彼女にとってこれほど嬉しい事はない。>>495
(身嗜みはアレだが、見てくれは良いんだよな。笑った顔とか普通に可愛いし)
笑顔の少女を見て、ふとそんな事を考えるローガン。
「美少女たちに囲まれてご満悦のようだな」
その瞬間を見逃す筈のないアーチャーは、イヤらしい表情を浮かべて揶揄い台詞を入れる。
「べ、別に嬉しかぁ────」
「違うのです……?」
慌てて否定しようとしたら、今度はランサーが彼に不安そうな顔を向ける。
まさかの不意打ちに、ローガンは更に焦燥に駆られるハメとなった。
(こんのぉ、いつか倍返しにしてやるから覚えてやがれ……!)
こうして二つの陣営の協定は無事に終わった。
余談だが、ブリュンヒルドがうっかりアーチャーの真名を漏らしてしまい、お叱りの拳骨を脳天に食らって痛みの余り床を転がり回ったとか何とか。以上になります。
>>491
市街地の彼方此方から悲鳴が聞こえる。それらの声は空高く轟き街全体を揺らす、そうして波及するのは恐怖だ。
水面下で膨れ上がっていた畏れが一気呵成に破裂して、狂気の夜が彩られる。
そんな騒がしい夜を見下ろすのは女魔術師、シスカ・マトウィス・オルバウスだ。
缶コーヒー片手に高層ビルの屋上で物見遊山を洒落込む彼女は、風に金色の髪をたなびかせながら黄昏れる。
右手の令呪に視線を落とす。
令呪は二画、一画は今し方消費した。
後戻りは、もう出来ない。
「ま、やるなら今しかないよね」
独り言を呟いて、無骨なフェンスにもたれかかった。
そうして真っ暗な空を仰ぎ見る、まるでこれから地上で起こるだろう惨劇を観るに堪えないと言わんばかりに。>>498
そのままフェンスに全体重を乗っけると、黒一色の空から一転、逆さまのビル群のライトが目に入る。
「おおっ?あれは……」
その中に、一際高く聳え立つランドマークタワーを駆け上がる白い光が見えた。
魔力を纏って猛烈なスピードで上昇していくソレはランサーだ。その隣には自分の観察対象である人狼の姿もある。
ぶんぶんと彼等に向かって手を振ってみたが、反応はなかった。どうやら一心不乱に頂上を目指す彼等の目に自分は映っていないらしい────そう理解して安堵する。
今から自分が成す行いは、とてもじゃないが彼らに見せられない。
そんな罪悪感を胸に沈めてシスカはコーヒーを一口含む。不思議と味はしなかった。
街に落とされた一点の黒いシミ。
それは次第に白いキャンバスを黒に滲ませていく様に、市街地を恐怖に染め上げる。
「さ、ようやく仕事の時間だ“バーサーカー“。一切合切ブチ殺してやれ」>>499
ランサー陣営と別行動を取ったアヴェンジャーと玲亜はやっとの思いで昏睡状態に陥った市民達を安全な場所に避難させ、ランサー達が向かったランドマークタワーへ向かおうとしていた。
人の多い大通りを抜ける。主要な道路は混乱のせいで何処も渋滞、同様に歩道も野次馬と逃げ惑う人の群れでごった返しだ。
このままではいつ迄経ってもランサー陣営と合流出来ない。
そう考えた玲亜は多少遠回りでも裏路地を通過して迂回して─────そこで脚を止める。
「アヴェンジャー」
話し掛けるというよりも溢すように言葉を漏らす玲亜。
茫然と立ち尽くす彼女の目の前に広がっていたのは、人が捕食される光景。
散乱する肉片は、明らかに犬や猫のソレとは違う、人の脚だった。
バケツをひっくり返したように血が散乱していて、誰かが食べ散らかした跡がそこらかしこに散らばっていた。
出来の悪いスプラッタ映画でもこんな悪趣味な光景は見られない。
思わず一歩、後退る。
玲亜は凄惨な現場からやや視野を広げて、そうして漸く、その惨劇を作り出した存在の姿を捉える。
ソレはビルにへばりつく影だった。
路地裏の全部を覆うように蠕く黒い渦は、ギチギチと歯音を立てて骨を砕き呑む。
ばしゃり、と。
化け物の口から溢れた血が落ちてきて、玲亜の前で滝のように撥ねて、即物的な死の匂いが玲亜の恐怖を駆り立てる。>>501
「─────玲亜!!!」
アヴェンジャーの声で現実に引き戻された玲亜は、突然、世界が急転する。
アヴェンジャーに抱えられ移動する玲亜が見たのは、つい一秒前に自分達が立っていた空間が黒で埋め尽くされている光景だった。
注視すると、黒一色にみえた空間はその実無数の真っ黒な手が構成している事に気づく。
数百、数千もの腕が玲亜達を掴み取らんと手を伸ばしてきたのだ。
「なん、なの。アレ」
「喋るな舌を噛むぞ」
数少ない安全圏を足場に跳躍するアヴェンジャー。
飛び去った跡に雪崩れ込む無数の影。黒い渦は喧しい奇声を上げながら玲亜達を縊り殺さんと滑るように追い縋る。
爆発的に射出される黒い腕の一本が、高速で機動するアヴェンジャーの元へと伸びていく。
然しアヴェンジャーは空間から青く発光する剣を現出させると襲い来る腕を両断した。
が、断ち切られた腕はサラサラと霧散してまるでダメージを与えたという感覚はない。
「ふん、手応えナシか」
忌々しげに鼻を鳴らすと、一際高く跳躍し、先程より少し広い路地に躍り出る。
路地は避難が既に行き届いているのか人の気配はなかった。
アヴェンジャーの腕から解放された玲亜は改めて襲撃者を目視する。
大きな、大きな、黒い渦。
凝視しようものなら吸い込まれてしまいそうな、光すら逃さない闇は、その内側から夥しい怨嗟の声を漏らしながら接近してくる。>>348
その身が水でできた龍が超低空を駆ける様子は、細身ながらも激流の河川の如し。
『テリアル!上!』
「わかり切ったことを言わなくてもよろしいのですよ。ああ、申し訳ありません。そのような脳が……」
『うるさい早く!』
顕現した水の龍は、そのままルーカスを飲み込もうと最速最短で口を開けて迫ったのだが、すでに天使を驕る魔術師は幻影だけを残して空へと昇り始めていた。
翼を生やした魔術師はガラスの階段を幻(まぼろし)として作り、それを山星が見つけたことで階段は具体的な質量を持った実体となる。見つかってからはわざとらしいほどにカツリ、カツリと靴の音を立て、ルーカスは階段を上がっていく。
「どこへ向かっているので、魔術師さん?」
テリアルが渦を巻くように階段の廻りを昇り、ルーカスの真横で目線を合わす。
「それはもちろん、君を盤面から消せる位置へ」
水龍が口を開き、魔術師が左手の光球を構えた直後、精霊に迫る神秘のブレスと、天使が創り出した幻想のラッパが激突した。大音響の衝撃波と純粋な水の質量がせめぎ合い、弾き合う。
余波は山星を守る防壁にまで届いていた。意識のない(意識の移した)彼女が気づかないまま、結界内の空気さえも僅かながらに震わせた。
そしてそれを至近距離で受ける両者も、跳ね返された自らの攻撃を食らうことはないにせよ、一瞬のノックバックは受ける。
『また消えた!』>>503
「いいえ主殿、どうせ上ですよ。考えが浅いですね、あなたもあちらも」
そう言いつつテリアルが上を向くと、ルーカスは逆さまの下り階段に立っていた。
ルーカスもまた、逆さまに上を向いてテリアルに答える。
「あれれ、やはりワン・パターンは良くなかったかな」
「莫迦と煙と高慢ちきは高いところが好きですからねぇ」
「あはは、見上げながら見下ろすのも悪くない」
翼の魔術師が階段を上向きに降っていく。
ルーカスが左腕を上げ、下に向けると天使の輪を形成していた金星が彼の手のひらに収まり巨大化した。
「金牛宮にあるのは神の雷を纏うゼウスの白牛だよ」
『撃たせるわけが……!』
水の龍が車輪のように回転し、その尾で逆しまに立つルーカスを撃ち抜きーー
「僕はこっちだ、ヘビ」
ーーテリアル、その頭部の真横にルーカスが出現して、エウロペを載せた白牡牛が真横に伸びた左腕から水の龍に突貫した。
その角に雷を載せた白牡牛によって、テリアルが真横に大きく押し通される。
(やっぱり分からない、違いがない!?)
『テリアル!あなたから見ても幻影は見破れないの!?』
「無理ですねぇ、アレはおそらく感覚的に見破ることが出来ない類の虚像ですよ」
20メートルほど飛ばされたテリアルだったが、牡牛にその水の身体を巻き付け、締め上げ難なく砕き散らした。>>504
(直撃でもダメか……面倒だな……)
「もう一撃だけ牽制するか」
頭上の輪におうし座の金星が戻ると、ルーカスは続けざまに水性を左手に下ろしてアストライアーの正義の剣を具現化し、テリアルを斬り裂こうとそのまま巨大な剣を振るう。
しかし、その黄金の刃もテリアルを引き裂くことはない。流体金属のような虹の泥がテリアルより生じ、同じく刃として正義の剣を受け止めているのだ。
「…………雹菓泉終、潰れ去ると良いでしょう」
鍔競り合っていた虹の泥が形を変えて、黄金の剣を受け流す。アストライアーの正義の剣はそのまま在らぬ空を斬り消えていった。
対して雹菓泉終は蛇のように空を飛んでルーカスに迫り、彼の降っていた階段ごと一直線に表面の液体金属で砕いていく。ルーカスが具現化した等間隔のガラス板がリズミカルに破砕の音を立てて散って行き、それらは地面にたどり着く前に消えてしまう。
しかしルーカスは既にそこにはいない。彼は絶えず空中にガラスの階段を階段を作り続け、移動している。
「分かっていますよそんなことは」
(少なくとも目に見える)最後の一段を砕いた瞬間、テリアルの斜め右上上空に横向きに立って出現したルーカスに対し、虹の泥がウォーターカッターの如くして最短距離を最速で跳んだ。
「……!!」>>505
ウリエルの右翼が削れながらもそれを受け切ったためにダメージはなかったものの、よろめいた隙にテリアルが空を昇りルーカスを飲み込まんと迫る。
『貴方、騙し方自体はとても素直よね。実は真っ向勝負の方が好きなんじゃないの?』
「冗談じゃない……! 欺いてこそ魔術師だろう」
炎の剣に灯が燈る。ことここに及んでようやく後ろに振り返ることをしたルーカスが剣を振るうと、輝きの塊のような炎が爆発的に軌道を追う。
直接ルーカスを食いつぶそうとした水の龍の頭部が蒸発し、一瞬怯んでは元に戻る。
「……ここまでか、まだもう少し複雑に組みたかったんだけれど……!」
『テリアル!?』
ルーカスはたたらを踏みながらも、剣を振るった段から2、3段上がり、上がった先のガラスの階段を踏みしめヒビを入れた。
歌うような超高音、ドミノ倒しのような軽快さ。ルーカスが物理的な前後左右上下を無視して歩み続けた階段ーー現在は消え去り存在しないーーが、最上階から下に向けて砕けたガラスの軌跡を作る。それは山星やテリアルが視認していない部分まで含み、敢えて欠けさせていたパズルのピースを巻き込んで、強引に術式を完成させた。
「魂の階梯、生命の木の成長、それが示すのは人の心の動かし方! 人ならざるものは、人間の魂を1階から学び直してくるが良い!!」
『ちょ……!』
「おっと」
ルーカスを追っていたテリアルの長い身体に、ガラス辺で出来た光の針金がまとわりついて強引に地上へと引き摺り下ろす。>>506
『早くっ……動きなさいテリアル!』
「これは、…………すぐには無理ですね。強度はともかく術式自体の出来は良い」
ひもを千切るのは難しくなくても固結びを解くのは面倒なようなものです、とテリアルが続けている間に、ルーカスは支えを失ったーー術式の起動のために自ら踏み割ったーーことでテリアルに向けて垂直に落下していく。
すでに左手には巨光球が握られており、右手の剣には聖火が灯っていた。
「これは回避不可能ですねぇ。主殿、解けない知恵の輪を頑張るよりも踏ん張る心構えをした方がいいですよ?」
『アンタなんでそんな余裕なのよ!?』
ルーカスの左手に正義の剣が握られる。それはこれまでの巨大なものではなく、青年の身体に合わせた縮尺となっていた。
「レディ・ジャスティスの正義の剣は、下からでも横薙ぎでもなく『振り下ろし』が正しい断罪(ジャッジメント)になる」
右手に赤い炎の剣と、左手に黄金の正義の剣。ルーカスの落下着弾と共にそれぞれが聖火と星々の残光を引きながら、2つの剣で10を超える回数の斬撃がテリアルに打ち込まれた。
勝った。
素直に、そう思った。
余波で舞い上がった土埃を、余剰魔力が結晶化した翼で打ち払う。
すでに左手は空を掴んでいた。正義の剣を具現化していた光素は天使の輪に戻っている。
「痕も残らない……………………はずもない、か」>>507
直立していたルーカスの左後ろから低空で突撃してきたテリアルを右回転で剣を振り抜き迎撃する。
「はは、……弱ったな。もう抜けられるの」
「術式自体のできは恐ろしい完成度ですが、さてはこれは借り物でしょう。そもそも人でない存在に人間心理の迷宮を束縛術として用いる発想は良いのですが、ここの『半分こ娘』はともかく、純正の精霊をそのまま縛り付けておける出力はありませんよ」
一蹴であった。テリアルは先ほどの小娘の部分に猛抗議する山星をスルーして続ける。
「正義の剣と炎の剣についても同様です。大方、近代西洋魔術的な『不正な方法で魂の階梯をあげようとする罪』と『相応しくない存在を上位から撃ち落とす審判』で地面に縫い付けようとしたのでしょうが
「喋り過ぎだぞ水蛇風情。疲れているのか?貴様の休憩には付き合ってやらない」
「いえ充分。すでに宝石庭園は起動しておりますので」
天使の足元に、宝石の花が咲く。
その絵だけ切り取ればそこはエデンだったかもしれない。
「っ」
宝石が起爆するより1秒早く、剣が結晶を切り裂いて、輝く花は露と消えた。
しかしそれだけのはずはない。そもそも花一輪の土地を庭園とは呼ばない。すでに宝石庭園はルーカスの周囲100mに渡って展開されている。
風なんて吹かないのに花畑の花弁が散り、それは一枚一枚が致命傷を作る刃となってルーカスへと舞う。天使型魔術師は翼を花刃で削られながらも、射程範囲にまとまった瞬間聖火を灯して殺意の花吹雪を燃やし尽くす。
同時にテリアルは周囲の木々よりも一段高いところへ昇り、旋回を始める。>>508
「このまま、宝石と水で爆撃を続けて削りとるのが最適ですかね」
ぐるぐると廻る。
廻りながら宝石と鉱石を落としつつ、水のブレスでルーカスを狙い撃つ。
魔術師は剣と翼でそれを凌いでいる。
「相手が人間の魔術師である以上、これを続けていればそのうち勝てるでしょう。一応主殿もあちらも手傷は負った状態なので、我慢比べといえばそうなのですが、これならば向こうのほうが先に根をあげるはず」
『……まってテリアル、聞こえない』
「念話なので聞こえないということは」
『違う!!!あいつ、アレ!なに!!』
ウリエルを服にして着ていた魔術師は、剣を下に向けて立ち尽くしていた。
魔術師の胴体の中央部から、魔法陣が展開されて、それを左手で動かしているようだった。
術者を術の効力から守るもの。本来そういう定義である魔法陣がルーカスに迫る攻撃を阻んでいることは、そこまで驚くべきことではないのかもしれない。
しかし山星不湯花という名前で振る舞っている存在の、人間である部分がそれを見落としてはいけないと訴えていた。
どうしても、注視してしまう。
見たくないのに、見てしまう。>>509
あとで布団にくるまって怯えることになるのに、偶然見かけたホラー映画からテレビのチャンネルを変えることができないような心理。
胴体を輪切りにするように展開された魔法陣とは別に、翼の裏に星座板が映し出され、日付が進むように回転しているのが見て取れた。
よく見ると、胴の魔法陣には内部に時計の意匠が多く組み込まれていた。秒針と短針と長針がそれぞれの速度で回って時を進めていく。
「ーーーー」
紡がれたはずの声は爆撃音でかき消されて届かない。
直感があった。自分は今、恐ろしい何かを聞き逃したと。
「ー天ーー、10の…………」
『テリアル!!!!安全策も最善策もいらない!!なんでもいい!多少の負担なら気にしないから今すぐアイツをこの世界から消しとばして!!!』
時計が止まる。
進み続けていた時が止まる。
連動してルーカスの背後の星座板の回転も止まり、同時に魔術師の左手には一冊の本が握られーー
ーー直後に、戦場をブチ抜く爆音が響いた。>>510
爆音と共に戦場を分担していた毒の壁が崩れ去る。
キャスターによる毒壁への砲撃をランサーは凌ぎ切ることができなかったのだ。
宝石庭園の鉱石の柱を切り裂き花畑を刈り尽くして、ランサーがルーカスの元へ。そしてキャスターは礫で足場を作り、とんとんとんっとテリアルの元へと駆け上がって合流する。
「ずいぶんと派手にやってんねー?…………なんならこっちよりもド派手じゃない?水の龍対天使とかちょっと盛りすぎだろ」
「……………………ふーー。君は頼んだことも出来ないのかなランサー」
「それについては大変申し訳ない」
ルーカスの左手から本が消える。背後の星座板も消え去り、再展開されていた魔法陣も元の形状に戻り魔術師の体内へと収まって行く。
「結局なんだったんですかねぇ、アレ」
『緊張感足りなくない……?それとも感覚が違うの……?』
第3ラウンド。
退くにせよ押すにせよ、ここがファイナルラウンド。
「きちんと成果を出せたらこの失敗は不問にするよ、ランサー」
「言われずとも」>>511
material
・ルーカス(ウリエル)による三星座の攻撃は、テリアルをノックバックさせるに十分な威力を発揮できるものの、完全な状態でぶつけたとしても地名傷にはなり得ない。
・本展開において『炎の剣』の全開発動はなされていない。正義の剣と併用したのはあくまでも力を込めた通常発動の範囲である。
・封印術式はもともとルーカスの従姉、本家の正統後継者ウルティマが組み上げたものである。
・封印と強攻撃の連打により、平気な顔をしているがテリアルは多少はダメージを負っている。(ことにさせてください) 終盤、安全策である宝石庭園と遠距離爆撃戦法に切り替えたのは接近を避けたという理由が大きい。
・ルーカスは発動しかけた最後の切り札を仕舞い込んだ。ランサーという新しいカードが盤面に戻ってきたために、『そうするしかない』という状況から脱したためである。
・本戦闘においてこの術式が再展開されることは、(例えルーカスが死ぬことになっても)ありえない。
・『脅威』を正しく認識したのは山星不湯花の人間の部分のみであった。「……あ、アサシン……!」
夢莉が、暴風雨に濡れたからだろうか、それともバーサーカーの猛威を目の前にして畏れたのか。震えた体を気丈に支えて、唇を結んだ。
「あれは、台風だよね……きっと、この街も、全部飛ばしちゃうようなものだよね……?」
「このままだときっと、覇久間とかいう街は壊滅するでしょうね」
「それは嫌……嫌だよ……」
雨露か、それとも涙かは分からない。
でもこの子ならこういう時は泣いてでも私を見返すだろうな、という確信は持てた。
仕方ないな、とも思う。正直に言えば生前のネブカドネツァルならともかく、暗殺者(アサシン)としての側面を切り取られて一つの霊基を成立させたような存在には災害、天災の類は荷が重すぎた。
このような規模を相手取るなら、英雄としての力の象徴である三騎士あるいは戦場を駆ける指揮官たるライダー、占い師としてのキャスターで召喚されたかったが。
(無いものねだり、ね……)
だが、決して不可能ではない。特に暗殺者として召喚されたネブカドネツァルとして、別の戦い方もある。
「夢莉、そこ動いちゃ駄目よ。ゲーティアは夢莉のこと、お願い」
アサシンのマスターである夢莉のいる位置は、彼女のマスター適性の低さを鑑みたギリギリの位置で、そして周囲の地形に阻まれてバーサーカーからの被害を受けない完全な“安全地帯”だった。
占星術とは言うが、これはある種の因果の逆転だ。“幸運な方位を占う”のと同様の原理で、超短期的に因果律へと干渉し“安全地帯”を作り上げることができる。そこは示されたから幸運になるのか、幸運だったからそこを示すのか。誰にも証明できないからこそ、極小規模な因果律操作の魔術であるとされる。
ネブカドネツァルが宝具を使えば、バーサーカーの注意はこちらに向くだろう。そうすればそこはもう安全地帯ではなくなる。単に今、無事なのは概念的な死角にいるからに過ぎない。
そこを飛び出せば、ネブカドネツァルも荒れ狂う暴風の脅威に晒される。特に強力な防御手段がないアサシンには致命的だ。
だが、畏れを感じない。
「ナブー・クドゥリ・ウツル、バビロンの王、エサギラとエジタの扶養者、バビロンの王ナブー・アプラ・ウツルの子が告げる――――」>>513
――――『聖なるかな至上の星(ロード・カルデアス)』
それが天上王ネブカドネツァルの切り札と称される宝具。真名解放と共に守護障壁である半円状の天球が使用者を包む、はずだった。
「この森全域を、覆うのか」
ゲーティアが呟く。これから先の起こり得ることを予測して魔力を練る。
バーサーカーが顕現した一帯を包むことで被害を抑える、閉じ込める。それは確かに覇久間という街を守るという手段では有効的だったのだろう。だが、アサシンという一サーヴァントにとっては悪手も悪手。そのことは自身でも痛いほどよく分かる。
敢えて自分を守らない。それが何を起こすかは明白だった。
「所詮は、トウモロコシだったか――!?」
神に近い視座を得たとはいえ肉体という低次元の基盤に魂を降ろす、定命なのがネブカドネツァルだ。全能と称されたソロモンの指輪を有していたとしても、生命規模が明らかに台風そのものの具現であるフラカンとは根本的に違う。
無造作に身を振るわせた魔力放出ですら、ネブカドネツァルの半身を容易く抉る。
霊核が粉砕される。
肉が抉れ、骨が削られる。血が弾け飛ぶ。
「――――――!」
視界が多量の出血で薄れる。身体を作る魔力が失われていく。
痛みは無いが、感覚で致命傷の範囲であるというのは理解できた。
「ぁ――アサシンっ!?」
なるべく被害が出ない未来に繋がる可能性の糸を引き上げた分、その運命力の反動とも呼ぶべき代償に関しては仕方ない。
超短期的な因果律の操作。
“そうである”ように定義するのが、神秘学における占い。>>514
バーサーカーの身体を構成する嵐の気流を自身に集中させることで、一方向以外の部位の魔力放出を削減するようにしたのだ。あの意思をもつ台風の主観さえも意図的に誘導する呪いとして。しかし、何も無いところに有るようにすることは出来ない。例えば、あのバーサーカーは神気に対して優先的に狙うような戦い方をするが、相手として見られていないのであれば今のようには成功しなかっただろう。
アサシンに目を向けた、という一瞬の事実を誇張する呪詛。そういった見方もできる。
(……ま、零落したとはいえ狂化した神霊相手に交換率1:1なら釣り合っているでしょうね)
天蓋を覆う城壁の、門……外部から見れば、名高きイシュタル門であることが分かっただろう……が開き、バーサーカーの颶風、霊基を削る魔力放出に通り道が出来る。急速に宝具の展開領域から排斥されていく。横薙ぎに回転する風の流れが、極端に一方向に尖るようになる。本来の防御展開とは真逆の手法だからこそ可能な荒業だった。
螺旋を描いていた台風は、結果的に涙滴型のように変形する。
お陰でネブカドネツァルに向かう暴風雨は、台風の最も密度の高い部分となるが。それはターゲット集中という形で誘導に成功した証なので仕方ない。
「これで、風の壁は薄くなった――――」
英霊にまで祀り上げられた者達が、この意味を分からないほど愚鈍ではないと信じたい。
完全に消滅するレベルにまで摩耗した、エーテルの体は――もはや、下半身の霊基は流砂のように散り散りになっている。
だが。
「行け、人理偽証式ゼパル」
黒い汚泥のような魔神柱が、無秩序の霊子へと還元されかかっているネブカドネツァルの肉と成り繋ぎ止める。
浸食による同化、それとも悪魔との契約の履行か。無であったものがネブカドネツァルの肉体へと変成される。廃棄孔、悪性情報の澱み、人の悪感情の底――すなわち七年の狂気の淵へと落とすものが。もしゲーティアが魔神として在った場合、最低でも主従関係の逆転が、真性悪魔ならずしも魔人の受肉に等しい事象なのだが。
(霊基が一先ずカタチになるまでは俺の“中”にいろ)
意外にも、その選択はしなかった。>>516
覇久間聖杯戦争アサシン陣営
5月1日
[[天災は避けられぬもの、王の天敵なり]]
です~覇久間市の市街地側校外に聖堂教会に所属する聖杯戦争監督役の食満四郎助は、部下を引き連れて、西側郊外の肆乃森、八ツ原へ向かった。荒ぶる霊圧の根源がそこにある。
「け、食満さん!待ってください」
シスターや神父が前を歩く食満に呼び掛ける。吹き荒れる暴風は鍛えられた代行者たちでも進行を鈍らせる。
「すまないね、緊急事態だから先に行かせてもらう。君たちはあとかランサーついてきなさい」
背も高く、幅も広く、前後も厚い。年齢は三十代。まことに恰幅のよい、健康そうな神父であり、いつもは屈託のない両眼もいつにない真剣さがある。
しかし、食満はあたかも無人の野を行くようなスムーズさだった。
ゆったり歩いているにも関わらず、走行中の自動車を追い抜くスピードで進んで行く。
今頃、聖杯戦争に参戦するマスターたちは、周囲の空気中のマナに異常な乱れが生じ、それに同調した魔術回路が乱脈に陥っていることだろう。サーヴァントの知覚力には、この異常な魔力の発生源までもが明白なのかもしれない。
吹き荒れる大気の渦が徐々に覇久間市を包もうとしていた。
覇久間市は東京や横浜のベッドタウンだった。そこに唐突に台風が現れるというのは一大事だ。市内には多くの田園地帯を抱えているのだから作物への被害だって軽視できない。
「聖杯戦争はいつも予定調和には終わらないと聞いていたが……」
嵐を前にして、食満は険しい顔つきで見据える。嵐から発するその霊圧は、骨身を軋ませほどに苛烈であった。
ようやく食満に追い付いた代行者たちは、眼前の嵐に顔は強張る。いつもは自分たちを鼓舞してくれる筈の食満の様子に、ますます不安を掻き立てられてしまうのは食満の人柄だろうか。
とにかく、この人物の存在は教会の人々に奇妙な安堵感をもたらせている。その彼のいつにない緊張した様子はそれだけに不安になる。
「皆さんにご連絡しなければ……」>>518
ざっくりですが監督役サイドです。ここでバーサーカーの暴走が全陣営に伝達される、という展開になります。藤丸たちが駆ける通路では戦闘が急速に烈しさを増していた。カルデアのサーヴァントたちは無謀なまでの勇敢さで突進する。エル・シッドは機械仕掛けの敵兵の手もとに躍り込むと、『無形・失われし鋼鉄(コラーダ)』を刃渡りが一mを超える巨大な剣に変えて、大剣をふるって破壊し、床や壁に、また天井に飛散した残骸を降りかける。
様々な動物を模した機械兵たちは相手の勇猛さを意に介さず無感情に攻めて立ててる。大剣で肩を斬られたゴリラ型機械兵が、死の斜面を転げおちながらなお魔力光を執拗に連射するとエネルギーを使い果たして機能停止した。
「雑魚に構うな、目的はデン・テスラだ」
藤丸たちの前をエル・シッドは率先して進み敵を斬りつける。元はクリプターのサーヴァントとして彼に警戒されると思い、自身に裏切りの意志はないと示すため前に出て、彼と藤丸の間にリンドヴルムを挟んで通路を進んでいる。アインシュタインは最後尾で前衛の援護射撃をしている。
「ZIGAAAA!!」
動物型の機械兵たちが、通路の両側から挟撃の体勢をとりはじめた瞬間、藤丸たちに追いついてきた大嶽丸は猛然と突進し、顕明連の一閃で二機の敵兵を斬り倒した。なおひるまず躍りかかってくる熊型機械兵を、顕明連で薙ぎ払い横転させる。
「バーサーカー!」
「遅いぞ! 不良中年!」
「俺はまだ中年ではない!」
マスターの声に片手をあげて応じて、エル・シッドには吼えるように言い返した。
前方から走りよる機械兵の群を見て、アインシュタインはとっさに傍のドアをあけ、マスターを伴ってなかに飛び込む。駆動音があがり、四機のテッポウエビ型の機械兵が魔力光を放とうとしているのが見えた。
魔力光が交錯し、テッポウエビ型機械兵が大破した。室内にいま立っているのは、カルデアとエル・シッドと、十代に満たない少年である。>>520
少年は侵入者を見ても、わずかに眉を動かして向き直っただけである。剣呑な眼光のエル・シッドの姿が視界に入り、藤丸立夏の確信を高めた。
「あなたがデン・テスラ?」
少年は無礼な侵入者にむけてうなずいた。
「そうだよ。カルデアだね?それと久しぶり、エル・シッド」
問い返す声も、わずかの動揺すらおびてはいない。一時しのぎをしようとしない態度が、大嶽丸は気に入った。彼は宝剣を構え直した。無益と分かっているので、降伏をすすめたりはしない。
「俺はバーサーカー。大嶽丸だ、死ぬまでの短い間、覚えておいていただこう」
言うが早いか、宝剣が風を裂いて襲いかかった。昨日の朝食はパンとコーンポタージュにしたから……今日はハムサンドと野菜炒めにしてと……よし、出来た。
「出来たぞ、アサシン」
「おう。じゃあ、飯にしようぜ」
アサシンが霊体化を解除する。
常に実体化してるほうがアサシンも良いんだろうけど、二人で過ごすには手狭な部屋だし、魔力にも余裕が無いから、そこは我慢してもらうしか無い。
「ところで、マスター。セイバーの真名は心当たりあるか?歴史上は男でも実は女ってパターンもあるし、何か無いか?」
「いいや、全然。近代以降でサーベルみたいな剣だとジャック・チャーチルが思い浮かぶけど、バグパイプ吹いてないから違うだろうし……」
こんな新しい時代のサーヴァントが召喚されるとは思ってなかったし、ヒントすら見つからないからなあ……。
銃ならともかくサーベルって……。「そうか、なら仕方ないか。ああ、そうだ。一緒に居た女……あいつは解ったぞ。茅理銀河だ」
「ちょっと待て!?あの子は小学生位だった筈だろ?」
「その辺の絡繰は解らんが……写真に映ってる彼女が成長したらあんな感じになる筈だ。ただ、サーヴァントと渡り合えるあの力自体は想像すら付かん」
言われてみれば、似てる気がする。
一般人でも参加出来るとはいえ、小学生位の彼女が参加出来たのはあの力があったからなのか?
いや、考えても仕方ないか。
「しかし、彼女のサーヴァントはやっぱりキャスターか?」
「キャスターが支援してたからマスターが戦えてたのかもしれんし、その可能性は高いな。後はアーチャーも有り得るか、昨日の戦闘でもこちらを狙撃しようと待機してたかもしれん」
敵はもう一人居る、か……厳しいな。
前回の戦い自体、アサシンの方ですら互いの宝具次第で幾らでもひっくり返るようなもので、俺に至ってはあと十数秒でやられる所だった。
その上でもう一人のサーヴァントが敵に居るなら、このままだとあの陣営に勝つのは厳しいかもしれない。
「小聖杯……取るしかないな」以上、ゲリラ的に追加した第■回、アサシン陣営の会議シーンでした。
時系列としては二日目の朝になります。短いですが第■回剣術陣営小聖杯争奪戦参加シーンを投下します。
「【こちら銀河、配置に着きました、どうぞ】」
「【こちらハリー、現在ライダーらしきサーヴァントの突撃を確認。それ以外に障害物無し、風向きは良好本日は晴天なり…………いいかい?しつこいようだけど、あぶなくなったら脱出するんだよ?】」
「【大丈夫、わかってるよハリーさん…………キャスター、速度バフお願い】」
「【《…………わかった、cftp@k4d\=38]mk──────》】」
■■■>>525
『それ』に気づいたのは、戦場にいたサーヴァント……或いはマスターの誰かだったのかは定かではない。
だが、その僅かな『気づき』は徐々に一人ひとりに波及していく。
『それ』は遥か上空2000メートルからやってきた。
あれは鳥か───────否。
あれは飛行機か───────それも否。
ならば、あの箒に跨がるアレは何か。
それは
────────「cock-a-doodle-doo(コケコッコ)ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
────────茅理銀河(11歳・彼氏いない歴=年齢と同じ)であるッ!!!
高高度からの急降下突撃によって管理者邸への侵入を敢行しようとする茅理銀河(今日の朝ご飯はカレーうどん)であるッッ!!!!
意外に速度が出てけっこうビビってる茅理銀河(同性以外にモテた例しがない)であるッッッ!!!!>>526
以上です、銀河の急降下突撃(ほぼ墜落)でした。「根源に至って、何をしたいんですか?」
己のサーヴァントに問われるは、確かに至極真っ当と言うべき問題だ。
「そうね……特に意味はないわ。きっと、私の父も、祖母も、代々同じはず。習性、習慣のようなものよ。惰性なの。魔術師とは、そういうもの。人と似た、人を捨てきれなかった、別の生き物と思えばいいわ」
だから私たちは魔術と言った超越的な力に縋るし、普通の人間ではないのだからと非情で非道な選択が取れてしまうし、根源などといった「あるはずなのに夢物語」なものを追いかけて恋い焦がれてしまうのだ。
「だから、ベルリーズ家の魔術師は私で終わり。真っ当な人間が人外れた力になんて頼るものじゃない。地べたを這いずり回って幸福に生きていればいい。それが人だから。……魔術師という業は、私が断ち切る」
「……娘さんは、天才なのでしょう?」
「ええ、本当に。きっと彼女は最高傑作と言うべき存在でしょうね。魔術を扱うために生まれてきた、と形容されてもおかしくないほどの子。……でもダメ。ダメよ。愛しい子までを永劫の円環に閉じ込めてしまうわけにはいかないの。ゆっくりと蝕んでいく破滅への道を、辿らせてしまうわけにはいかない」
シルヴァは言う。それこそが、私が母として娘に出来る何よりものことだと。それでいて、私は魔術師としての悲願を捨てるつもりはないと。だからこそ、ここにて根源に至らんとする。
「だから、勝負に出ると」
「ええ。使い魔の偵察で色々と分かったから。……皆、ここに集まっているようだし。突撃はかけてみるべきじゃないかしら。エンターテインメントとしても、ね」
「わかりましたー。……美しく、残酷に。海の摂理を叩き込んで差し上げましょうとも!」
「ありがとう。……じゃあ、出かける前に数分用意をしないとね」
戦闘用の人形を組み立てようと作業机に座り込むシルヴァ。その邪魔をしてはいけないだろうとその場を少し離れようとした赤ゑいはふと、思ったように。人ではないからか、海の生物らしい率直な疑問として……「……マスターの言う、永劫の円環を狂おしいほどに娘さんが渇望していたのなら、それは抑圧なのではありませんか?」
「…………、?」
「いえ。では、ご機嫌よう。外で待っています」「───マスター、大丈夫か!?」
「は、はい…なんとか…!」
前から聞こえるキャスターの、焦りと不安感が混じった声になんとか反応する。なんとか、とつくのは、前後左右に吹きめく風の強さでキャスター持ち前の大声さえ掻き消されるほどで、且つ不用意に口を開けば、風に煽られ縦横無尽に方角を変えて降る雨粒が入ってきてしまうからだ。
郁は今、傘ではなく合羽を着て、走るのではなくキャスターに負ぶわれるようにして、突如として発生した嵐の中心、大規模に氾濫した魔力の根へと向かっている。20も超えた大の大人がこれとは相当恥ずかしいことだが、線病質な郁が走るとなると却ってキャスターに負荷をかけてしまうため致し方ない。
どうどうと音を立てて吹く風が、様々なものを落としていっている。瓦や看板は軽い方で、車や頑丈なフェンスが飛んでくることもざらだ。大樹が薙ぎ倒され、石垣が無残に壊れている。雨が寸分の隙間もなく天地を塞いでいる。上を見ようとすれば、激しい吹き降りに目を閉ざすしかできず鈍重な暗灰色の雲を仰ぐことさえ叶わない。このような天候は、台風がよく通る郁の故郷でだって今までになかった。日本史上に見ても一度二度ほどのものではないだろうか。
さても驚かされるのは、そんな悪天候の下でキャスターがなんとも機敏な動きで───郁を負っているというのに!───飛んでくる障害物という障害物を速度も落とさずに的確に躱して疾風のように地を駆っていることだ。キャスターは身体能力はからっきしな筈で、本人もそう憚らず話していた。だが、今この場でのそれはいち歌人が出せるかと言われれば出せないような速さだ。お陰で、市井が混乱しているのも相まって公家装束の男に背負われた合羽姿の男、という珍妙すぎるものを人々は気づいていない。
向かうは肆乃森、八ツ原。この速度だと、もう数分のうちに着けるだろう───そう考え、ふいと横を見遣り、思わず目を見開いた。
家が倒れている。そこそこに古めの家屋で、黄ばんだ壁が、へし折れた柱に囲われるようにして雨に打たれている。青い屋根瓦がそこかしこに散乱し、それに紛れて半透明のガラスがごったに濡れて鈍く輝いていた。いや、それだけなら良い。それだけなら、これまでも幾度かは見た。>>530
だが、だが。その白壁の下に、柱の間に、屋根瓦に挟まれて、ガラス片に飾られて、白い手が、腕が、埋もれていて。血が潦に溶け込んでいたのは。そして、その手の主を助けようと、風に吹かれれば木と共に飛んでいってしまいそうな子供が柱を退かしているのは、幾度も見ていない。初めてだ。
子供は懸命に、濡れるのも構わず柱を押しているが、唯一人の子供に持ち上げられるほど柱も軽くはない。子が親を助けんとしているのか。手の大きさからして母親だろうか。そも、手の主は生きているのだろうか。
色々なことがふつふつと湧き出で、そのいずれもを、違う、そうじゃないと一蹴する。助けないと。何であれ、どうであれ、助けないと。この驟雨がサーヴァントの仕業であるなら、それによる被害を無関係の人間が蒙ってはいけない。
「……キャスターさん…!」
「…おう、なんだ!」
「彼処に、家が、人が…」
「……なるほど、あいわかった!」
腹の底から声を出す。思考が上手く纏まらず、しどろもどろどころでないようなしゃべり方になってもキャスターはそれを解し、方向を転換する。倒壊した家屋の前に着くと、雨垂れやら涙やらで顔をぐちゃぐちゃにした子供が突然の珍客に目を丸くした。無理もない。
「あ、え…」
「大丈夫だ、大丈夫。小生たちに万事任せよ!いくぞ郁!」
「え、あっはい」
郁、と急に名前で呼ばれたことに一瞬面食らったが、只でさえ不信感を抱かれてもおかしくない状態の加速を抑えるためと気づき慌てて返事をする。
子供の柱を持ち、せーの、と全員で起こす。次いで二本三本と起こすと、考えたとおり、色白な30代の女性が、全身に打撲痕や切り傷を付けて伏していた。子供が半ば転ぶようにして女性に駆け寄る。>>531
「よし、童よ。まだ気力はあるか?」
「…………」
「……そうか。まぁ、今まで一人で持ち上げようとしていたのだ。よく頑張った!……なぁ、郁」
「…はい」
「お主、この女を運べるか?」
「…はい。出来ます」
今度は、キャスターが面食らったように眉を上げる。
「…本当か?」
「…はい。なんでもする、って、言ったじゃないですか。キャスターさん、は…先に向かってください」
郁の言葉に、満足したようにキャスターは頷く。
「わかった。でも、無茶はナッシングで頼むぞ?無茶したら、小生激おこぷんぷん丸だかんな?許さないかんな?」
「…わかってますよ」
久しぶりの砕けた調子に、思わず笑ってしまうのを堪えて、真面目な調子で答える。
「…よし。であれば、童よ。其方はこの男についていけ。此奴は生憎と避難所の場所を知らんから、教えてやって欲しい」
「……わかった」
「うむ!」
子供の返事を聞くと、キャスターはいつもの天真爛漫な笑顔をして子供の頭を、わしゃわしゃと豪快に、それでいて穏やかに、そして何よりも愛しそうに撫でた。
「では、小生は先に行って、この野分の大元をフルボッコにしてやっから。何かあったら、すぐに連絡しろ。終わるまでは、それまでは耐えろよ、マスター?」
「はい。…どうか、お気をつけて」>>532
「お互いに、な。……掛介麻久母畏伎伊邪那岐大神……そんじゃ、ばいならー!」
小声で何事か───恐らくは祓詞か何かを呟くと、キャスターは負ぶっていたマスターが降りた分一段と軽やかに、敏捷に走り去っていった。
さてこちらもと意気込み、伏している女性を抱えようとして目を瞠る。大きく腹を膨らませ…まるで、いや紛うことなく、妊娠していた。それも、大きさからして、懐妊して相当経っている。
「…………」
「……どうしたの?」
「いえ…行きましょう。道を、教えてください」
幸いにも息はまだある。気を引き締めて、矢のようになおも注ぎ続く雨の糸を睨み駆け出す。雨水の張った地を蹴る足は、何故だかいつもより軽かった。>>533
以上、5/1(昼)覇久間術陣営「何れの處よりか風至る」でした。「AAAALaLaLaLaLaie!」
特徴的なウォークライと共に突撃してくる影。
調度品が壊れるのを厭わず走るそいつを避けるのは容易いが、避けたら後ろに居るマスターが死ぬのは明白。
なら、鎚鉾で受け止めてしまえば良いだけの事。
「っ!?成る程、な!」
人影の正体は槍を持った重装騎兵。
その馬の両前足に鎚鉾を叩き込み、僅かな腕の痺れと引き換えにへし折る。
それに乗っていた兵士が落馬する前に飛び降りていたが、もう遅い。
構え直す直前に鳩尾に突きを放ち、よろめいた奴の頭に鎚鉾を振り下ろした。
さてと、倒れた馬にも止めを刺した所で……
「アサシン、もう一人だ!」
「ああ、知ってる!」今度の兵士は途中で飛び降りて馬だけを突っ込ませてきたのでそれを殴り倒す。
兵士はその隙を突こうとしてきたがもう遅い。
とっくに構え直した俺は余裕を持って槍による十一連撃を受けきり、鎚鉾を真横に薙ぎ払う。
更に振り下ろしから斜め上に振り上げと続け、避けるのに集中し過ぎて体勢を崩した奴の頭に上段から真っ直ぐに叩き付けた。
「終わった……?けど、こいつらは一体?」
ああ、間近でサーヴァントの戦闘を見るのは初めてか。
昨日は安全の為に少し離れてたしな。
まあ、素人だしこれだけ出来れば十分だろ。
「ヘタイロイ、だな。大方どこかのサーヴァントが召喚したんだろ。屋敷自体の仕掛けとは次元が違うが、単騎でサーヴァントを相手に出来るレベルでは無いな」
「ヘタイロイ……アレキサンダー大王の!?」
「それかその臣下だな。まあ、何処かの陣営の真名を絞り込めたと考えとけ」「なっ、何者!?」
あー、へっぴり腰になってやがる。
ま、突然現れたカボチャ男に愛馬の首を刈り取られたらこうなるわ。
で、後は簡単、三回程互いの武器をぶつけ合って、怯んだ相手を斬り伏せる。
そして、右手に炎を纏わせて強化ガラスとかいう窓を殴りつければ、防護魔術共々木っ端微塵。
「早いですね、バーサーカー」
「ま、俺でもこれ位はな」
窓から入って来たのは我がマスター。
何考えてるかよく解らん女だが、使い魔で小聖杯の情報とかを手に入れた手腕は悪くねえ。
お陰で、こうやって混乱に乗じて管理者邸に入り込んだ訳だし。
「それにしても、その服派手ですね」
「いや、それ今言うか!?」
確かに伝承通り服自体が光ってるけどな……やっぱ、この女不安だわ。以上、第■回の更新、アサシン陣営に加え、代筆でバーサーカー陣営も乱戦に追加しました。
バーサーカーの見た目ですが、それまで描かれてたのは人魂でしたがキャラページをみる限り大鎌を扱うのに人型形態かありそうな上に身長や体重が設定されてるので、ジャックOランタンのWikipediaにあった光る衣装を身に纏うカボチャ頭の男を採用しました。
宝具使用により人魂へと変化する形式です。
次の手番はここのえさんに、ライダー陣営の小聖杯奪取(書けそうなら他の陣営と遭遇したり銀河ちゃんが同じ部屋に着弾したり、といったシーンまで書いてもらって構いません)をお願いします。
なお、管理者の持っている預託令呪は、何処かの陣営が小聖杯を手に入れた時点で消滅します。「神の悪意(サマエル)か……!最高位の天使を召喚はおろかあまつさえ使役するとは、貴様、本当にサーヴァントか?」
サマエル。古くは創世の時。理想郷(エデン)において原初の人類に嘘と誘惑を嘯き、楽園から追放させた大罪の祖。
そしてその功罪を以ってソレは数多の存在と同一視され複数の権能を保有している。それが正しければ恐らく。
「正しく。私はただの一騎のサーヴァントに過ぎない身ですよ」
──この男は我々の天敵(殺.せる手段を持つ存在)だ。
「だが、所詮はサーヴァントの召喚物。その要になる召喚者が斃れれば何も問題は、ない!」
痛哭の幻奏(フェイルノート)を即座に破棄し、その手に現出したのは白亜と黄金の長剣。
無毀なる湖光(アロンダイト)。円卓最強の騎士、ランスロット卿がその生涯を共にした半身とすら呼べる聖剣。
蛇──、神話学において竜とも同一視される要素をもつサマエルに対しては最適解とすらも呼べる選択だ。
敏捷ステータスにモノを言わせて旋風の如く距離を詰めるアルトリウスの前に地面から黒い瘴気と共に黒い犬が湧き出でる。サマエルの眷属たる冥府の猟犬であろう。>>539
「フッ────!」
無毀なる湖光の宝具効果でランクアップしたステータスで見る間もなく立ちふさがる猟犬たちを切って捨てる騎士にサマエルが毒のブレスを吐きつける。
直撃。躱す素振りすら見せずに紫水染みた毒々しい煙に包まれる。一度の静寂。そして。
蒼い一筋の剣閃が霧を断ち切る。
姿を現したアルトリウスは汗を流しながらもやはり無傷。無毀なる湖光の保有する能力の1つ。特殊攻撃に対する回避能力向上が作用しているのだろう。
(……一筋縄では行きませんか。ですが)
そう。これは想定内だ。堕ちた“彼”といえど、その能力の出鱈目さは自身が一番良く理解している。その剣技もまた。だからこそ付け入る隙があると確信した。
そう判断を決めたキャスターは必要な措置を取る。
「創造より導かれし隠されし剣。幽界の泉は月を映しその光を身に宿す。この世の万物は堅牢にして透く、均衡を示さん!」
月の描かれた白い魔法陣から水銀で形作られた剣が、太陽の描かれた黄金の魔法陣から金剛石で形作られた透き通るような水晶の剣が二対出現し、猟犬を掃討したアルトリウスに襲い掛かる。
「ぬ……」>>540
「ぬ……」
先陣を切った水銀剣を聖剣で切り裂くもすぐさま散った水が結合し、再生する。第二波たる金剛石の剣はその桁外れな固さで一合、二合とその身を確かに切り崩しながらも健在を示す。
なるほど。分かりやすい時間稼ぎを弄してきたとアルトリウスは思った。
確かに現在のアルトリウスは無毀なる湖光を使用している。その消費魔力は聖杯からの魔力供給を受けているとはいえその流れを滞らせる程度のもの。長期戦による疲弊を狙っているのであろうが、無駄なもの。
(鎧袖一触にしてくれる!)
無毀なる湖光から燐光を迸らせ聖剣を一閃する。
「──無毀なる湖光(アロンダイト)!」
聖剣から繰り出された光の斬撃が伸長して魔術で作られた剣達を一撃の元粉々に粉砕し尽くす。
そして。
(さぁ、これで最期だ魔術師……!)
横合いから迫ってきたブレスを無毀なる湖光で相殺し、ただ瞑目し佇むキャスターに向かって魔力放出で増幅(ブースト)した神速をも超える速度で切迫する。>>541
(待て)
疾駆しキャスターの眼前にまで到達する刹那。違和感を覚える。
(サマエルはどこにいった……?)
あの巨体が視界に見当たらないことに気づいた。横合いからブレスが来たものであるから不意を打ってきたものと思ったがそれにしては気配をまるで感じない。
「そう、貴方は円卓を統べる者として代行する資格がある。その武器も十全に扱える──。けれど、やはり貴方は湖の騎士ではないのです」
──何もない空(くう)にこちらを嘲笑う貌を幻視した。
迎撃。困難。距離が近すぎてこちらまで聖剣に巻き込まれる。
「お、おおおおおおおォォォォォ!」
直感を頼りに全身を捻って左に逸れる。完全な回避が間に合わず突如出現したブレスに僅かにだが被弾する。だが、僅かでといえどそれは神をも殺.す毒。ただの一滴が忽ち致命傷になりかねない。
「気配遮断か……。厄介なスキルを!」>>542
なるほど。楽園に潜んだ蛇。神の目のある園で事を完遂させたのだから高度な気配遮断の1つも扱えるのは納得だ。
時間稼ぎは勿論だがキャスターの真の狙いはこれか。だが、やられぱなしは性に合わない。
新たに顕現させた獲物を激痛に苛まれる身体に鞭打ち、投擲の姿勢で固める。
「その槍は……!?」
アルトリウスが取り出したのは穢れないほど純白な槍。だがアルトリウスが手にした途端禍々しいほどの呪力を帯び始める。それを見て即座にキャスターは自己強化の魔術を組み立てる。
「自己強化・三重城壁!」
「聖槍呪罰・愁嘆悲劇(ロンギヌス)!」
聖槍がアルトリウスの手を離れ赤き竜に直撃し、その刹那の先アルトリウスを着弾基点として辺り一帯に強力な呪詛が撒き散らされ、アルトリウスはおろかキャスターすらも巻き込み、工房として作成された結界を破壊の限りを尽くしていく。>>543
「ぐ、おおおおおおおお」
刻一刻と死滅していく毒手をさらなる呪いで塗りつぶし、アルトリウスはそれ以上の侵食を許さないとばかりに聖剣で右腕を切り落とす。
「はぁ……、ハァ……」
切り落とした右腕を見てもはやこれは直らぬものだと察する。だが明星の魔王は見事撃滅せしめ、魔術師の敷いた陣は崩壊寸前。秒読みもまじかであろう。その魔術師も呪詛に当てられいくつも飛ばされた地面で倒れている。
そして先の混乱の最中仲間の1人が結界を脱出したのを察し口角を上げる。
「どうやら時間稼ぎのようだったが失敗に終わったようだな。マクベスは既にここを抜けた。そしてお前ももはや戦闘の出来る体ではないだろう」
「ええ、さすがはかの聖槍の呪詛。ただの余波にも関わらず、これほどとは……」
身体に力を籠めるも呪詛が停滞しているのか震え起こすだけで再び地に伏してしまう魔術師はそれでも、と指を一つ立てる。
「ですが。目的は果たしました」
「何?──な!?」>>544
突如地面を貫き自身を強襲した襲撃者を見てアルトリウスは瞠目する。
「これは、空想樹だと!?」
「えぇ、ここの空想樹は酩酊状態にありましたから。刺激を与えれば必ず似た匂いを持った者たちを狙うと考えていました。……一種の照応魔術ですよ」
工房の霊脈・魔術基盤を現実のものとリンクさせ全く同じ影響を及ぼさせるそれはなるほど中世を代表する魔術師の中でもとりわけ基盤に優れたこの男ならではの介入であった。
見ればキャスターの仲間(白雪姫)も一緒になって襲われているがあれは良いのだろうか。こちらにも届く怒声を聞く限り全く話していなかったのだろう。中には枝同士で絡み合うものまでいる始末。まさに戦場は混沌(カオス)そのもの。
「────シッ!」
工房の最中、キャスターを斬りつけるがその身体は無数の頁となって散乱する。
「転移、か」
抜け目がない。おそらくあのセイバーも転移したのだろう。曲がりなりにもここはまだ結界として機能している。ならばしばらくはここで空想樹の相手を努めなければならないか。
「……してやられたな」
そう、アルトリウスは聖剣を片腕で手繰りながら独り言ちた。(……騎兵がやられた。
ということは既に邸宅には“宝具を持たないサーヴァント以上の魔術師”、あるいは単純にサーヴァントがいる)
陽動のヘタイロイとは間を置いて、管理者である檜葉邸へと乗り込む。
小聖杯を保有しているのだから、サーヴァントの火力も想定済みだろう。気配遮断がない以上は、相手の処理能力を超える方法で崩さなければならない。
それは例えば、王の軍勢という飽和攻撃。あるいは反応速度を上回る俊足で。
「それじゃ、行って来ましょうかね」
「天球上からは正確な位置が把握できないけれど、高密度の魔力反応を感知しているわ。もしかしなくても交戦状態になるかも」
「了解」
こと誰も競えない手段(カード)がここにはある。最速で最短を狙えば良い。
「英雄の視る世界を、ここに現そう――『蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)』」
古代ギリシャの鎧とはまた異質な黄金の鎧に身を包み、トネリコの槍を構える。
その速力はまるで彗星の如し。
魔術のかけられた防壁も、階段も、調度品も、紙障子にすら劣る。
その様子は瞬間移動のように敵対者には映っただろう。
「――――なっ!? なぁっ!」
粉塵と共に壁を、床を、悉く貫いて現れるライダー。
管理者も当然ながら魔術師である。魔力反応は検知していた。だが、当世の常識から成り立つ想像を、はるかに超えた突然の事態に、ウェーブのかかった長い金髪を乱し、ただ驚愕するだけ。
檜葉靖彦。この第■回の管理者。預託令呪をもってして、聖杯大会を御しようと目論む男。
(貴方、人望ないのね。分かりやすくて助かるわ――自分以外にサーヴァントの対応ができるほどの魔術師がいないから、“自分で守るしかない”)>>546
ギリシャ最速の大英雄アキレウス、その青銅とトネリコの槍の有する神秘のワールドランキングはB+。A+が魔法一歩手前であるならば、瞬間的に大魔術へと至る文字通り、神代の代物だ。
現代の魔術師なぞの護りは、紙切れ同然。
「小聖杯、いただいた!」
『――違うわライダー! 上空!』
「cock-a-doodle-doo(コケコッコ)ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
遠雷のような叫び声とともにライダーが切り開いた穴に続いて、少女が落ちてくる。
真っ白な髪、赤い瞳。切れ長の目、目元に泣き黒子。
現代に生きる人間であるならば、確実に異形異質の証だ。
「なんっだ、こいつ……!?」
この少女だけではない。この管理者邸には多くのサーヴァント級の魔力反応が集まっているのを感じる。対して、こちらは抱えた小聖杯の奪取を優先しなければならない以上、槍は片手持ち。
魔力の増強によって宝具の行使時間が延長できるが、これは戦闘が成立する以前に対応すること自体が間に合わないか――>>547
第■回聖杯大会ライダー陣営
戦闘:造次顛沛
です。お願いします~倒れゆく人々。逃げ惑う民衆。
悲鳴をバックにアサシンはガタガタと揺れる噴出機の上に腰かけ、一瞬でパニックに染まった街を見下ろす。
「イイね!イイね!やっぱ知らない人が苦しむ所は…最高だな!!」
集団ヒステリーなどというふざけた説はもう死んだ。これからは怪人が起こした大きな事件として末長く語り継がれるのだ。
アサシンは世界に向かって親指を立てる。
「こんにちはヒストリー!!よろしくね!!私はマッドガッサー!!君に今から名前を刻む怪人の名前だよ!!」
頭の中から泉の如く湧き出る快楽に身を委ね、大笑いする。いつもよりジョークのセンスが冴えてると気づくとまたゲラゲラと笑い転げ、ガスマスクの上から目尻の涙を拭う仕草をした。
最早この現世に呼ばれた目的は実質果たされてしまった。後はどれだけ好きなことをしてやろうかと邪悪な本性がチラチラと姿を見せているとーーー
「ーーーアサシン」>>549
フェンスを軽く乗り越え、屋上に三点着地を決める大きな影。冷たく見据える視線がアサシンを刺す。
まるで絵本から出てきた様な鎧を纏った騎士に、抱き抱えられた青年。見間違えるはずが無い、召喚された初日に出会ったランサーの主従だ。
あの時こそ返り討ちに遭ったが、今のアサシンは血液の代わりに根拠の無い全能感が流れている。故に動揺などしない。
「よーやく来たか!ものすっごい待ったんだからね?」
本来の目的を再び思い出し、立ち込めるガスの中、爛爛と目の部分を濁った黄色に光らせる。大きなナイフを取り出して構えると同時に、ランサーも白く輝く槍を実体化させる。それは少し先すら見えないこの戦場でも確かな光を放っていた。アサシンには演出を邪魔する無粋な槍に映った。
「…あぁ、やっぱりランサーのマスターも生きてたんだ?実は凄い会いたかったんだよ…って君はそうじゃ無いみたいだね?それもそうか、私に殺されかけたんだもんね!!」
一方的に捲し立てるアサシンに二人は反応しなかった。怪人の戯事に耳を傾ける必要は無いと言わんばかりに。半ば予想していた乾いた反応にため息を一つ挟むと、その場から移動した。
何も知らない者からしたらそれはそよ風が吹いただけの様に感じただろう。
「ーーーイコマ!!」>>550
瞬く間に距離を詰めるとアサシンは亥狛の首元へとナイフを滑らせる。彼がそれを躱せたのは、目の前に出現した殺気に対し、咄嗟にしゃがむという賭けに勝ったからだろう。
鈍く光る刃は亥狛の頭があった空間を両断していた。
そしてそれを自覚し、呼吸を一つ挟むより早くランサーの槍の切っ先がアサシンの胴を穿つ。
「おっと!!」
空中にいるにも関わらず持ち前の身軽さを活かし物理法則を無視した角度で避けるが、ランサーからすればそれは想定内だ。槍を曲芸のように縦横無尽に振るう。不規則な軌道を描くその切っ先はアサシンを牽制しつつ、確かに首を狙う間合いだ。
そして下から突き上げる不意打ち紛いの一撃がアサシンに振るわれるがーーー
「何っ!?」
「本邦初公開、私は実はロボットだったりしたんだよ!」
ガキン、と何か硬いものとぶつかった鈍い音が響く。アサシンは自身の腕をスキルによって機械によって構成されたそれへと変質させていた。宝具にこそ遠く及ばないもの、その硬質性はランサーの槍を防ぐほどだということを状況が証明していた。
強烈な衝撃が互いの体の中に響き合う。アサシンはより屋上の中心へと後退し、ランサーはフェンスの近くにまで押し戻される。
しかし想定外のスキルを前にしても兜の中のランサーは剣呑な表情を湛えていた。目の前の敵は騎士の名に懸けて討ち滅ぼすべき悪鬼なのだと、より確信が強くなっただけだ。>>551
「今のうちに…!!」
対魔力で毒を防いでいるランサーがアサシンを引き付けている間に、亥狛は煙霧を裂いて未だにガタガタと震えながらガスを吐き続ける装置へと近づく。宝具であるはずのそれを止めればこのガスも止められるはずだ。
自分がここにいるにも時間は限られている。今この瞬間も毒によって命が削られていて、ランサーに頼っている場合では無い。
彼の本来纏っている神秘は悠久の時を生きる死徒すら上回る。故に百年の歴史すら、あやふやなアサシンの宝具に勝てない道理は無いのだがーーー
「ぐっ…!!」
近づく度に毒ガスの瘴気が濃くなっていく。足元がふらつき、目の前が暗くなっていった。しかし歩は止めず、一歩ずつ前へ進んでいく。
近づいて初めて気づいたがこの機械は想像以上に大きい。止めるにはこの体だけでは無力というしか無い。
だから人では無く狼のそれへと変わればまだ少しだけ耐えられるはずだ。詠唱のために口を開ければそれだけでガスが入ってくるのは勿論理解している。
だがこれ以上、耳に入る悲鳴も目に映る倒れ込む人も増やさない。確固たる決意こそが今の亥狛を動かす。
月が見えずとも、顔も知らない誰かの為に狼は吠えた。
「…Än、der!(…変質、せよ!)」
亥狛の右肩から先の服が弾け飛ぶ。白銀の毛並みの上からでも見える筋肉は丸太の様な太さだ。
敢えて全身に魔力は回さず右腕だけに集中させた。どちらにしろ、ガスによる体力の消耗を考えるとこの一撃で終わらせるしか無い。
振りかぶり、全体重を乗せて握り締められた拳は重い煙を突き破って装置へとブチ当たった。>>552
「上手く行ったようだな」
風上に位置するビルの屋上。
毒ガスが溢れ出し地上へと零れ落ちていくのを確認しながら、ウィリーは何にも包まれていない剥き出しのウィンチェスターライフルを取り出す。
冷ややかな鉄の引き金は持ち主の性格を表しているようだ。よく手に馴染む。
目標はただ一つ。アサシンがランサーの気を引いているうちにランサーのマスターを撃ち抜く。禍々しい毒ガスの中に赤色を添えよう。
ライフルを構えると真っ直ぐに銃口を向ける。本来ここまでの遠距離狙撃に適した銃では無いのだがーーー
「ーーー魔術なる名あれば全ては等価値」
幾度と無く唱えた詠唱を口にする。瞬間、光の粒子が銃口に集まっていく。マナ、エーテル、魔素といった大気中の魔術的存在を一つ残らず収束させていく。
数秒後には銃身が淡い光で満たされていた。狙う先にランサーのマスターの身体を捉える。万が一殺しきれなかったとしても宝具による毒が回れば長くは持たないだろう。
「我が手に全てはーーー何?」
計算に穴がない事を再確認し続きを詠唱しようとするがそれは止められた。そして銃を下ろし、目の前の光景を凝視する。
「何だアレは」>>553
アサシン達がいるランドマークタワーの側面を壁を破壊し、ガラスを落としながら駆け上がっていく黒い影。そう、影としかアレは形容できない姿をしていた。
アサシンの毒ガスに少しも怯まないそれが通った後は、全てを吸い込んでしまったかの様に何も残っていなかった。そしてよく見るとその影は黒い闇の部分から無数の、それこそ数えきれないほどの人の腕がランドマークタワーにしがみ付いてた。
まさしく異形。
「アレが…サーヴァントととでもいうのか?」
記憶のどこにも見当たらない不定形の黒い化け物。まるで虚数魔術が意志と形を持って現れた様だ。
常人なら魂ごと汚染されてしまいそうな人外を前に、ウィリーは念話で指示を飛ばす。
「聞こえるかアサシン。作戦は中止だ。今すぐそこから逃げろ」
(は?何でさ。私はあの宝具と心中するつもりなんですけど!!!)
「お前では対処できないサーヴァントがそっちに向かっている。だから離脱しろ」
(うぇ…)
実際のところ、ウィリーは一向にスピードを落としていないアレがサーヴァントなのかどうか確信が持てなかった。しかし、魔術師の理性の奥にある生物の本能が告げていた。
アレを相手にしてはいけない、と。>>553
「あぁもう全く…しかしサーヴァントって何だろ?ねぇランサー!君の仲間ってここに来る予定!?」
ランサーに大声で呼びかけるが、返答は大気を震わさせる突きの一撃だった。この毒ガスによって作られた暗闇の中でさえランサーの穂先は曇ることが無い。
その事を少しだけ腹立たしく思いながら機械の腕でガードを選択する。そして後方へと後退りながらナイフを取り出したその時だった。
強烈な破砕音。
まさか、と思い振り返ると宝具である装置の上半分が見事に吹き飛んでいた。歯車が断面が血のように吹きこぼれる。最後に大きく震えるとガスは出てこなくなった。それが断絶魔だった。
「…え?は?いやちょっと待ってくださいよコレは…私の人生の結晶がああも無残に…」
その横には肩で息をしながら獣の片腕を抑える亥狛。何がどうしてこうなったのかは一目瞭然であった。
「ね、ねぇランサー。叩いても許される機械っていうのは年代物のテレビだけじゃ…」
震える声で呟く。次の瞬間アサシンは予備動作も見せずに走り出した。瞬く間に視界から消えた小さな影を追うと、亥狛の隣にまで移動していた。>>555
「悪いけど宝具代としてコイツは貰っていくぜ!さらばだ!!アデュー!」
その非道で矜恃の欠片も感じさせない行為はランサーの闘志に火を注ぐだけだった。槍を握りしめるでない力が篭る。
「外道が…!!」
鬼気迫る怒りを兜の下に隠し、首と胴体を切り離さんと前傾姿勢で突進するランサー。聖杯戦争の中でもトップクラスの敏捷が発揮される。
しかし、アサシンはその行動を予想していたのか亥狛の首元にナイフを突きつけ触れさせる。亥狛も振り解こうとするが、酸素が足りない頭でも、その冷たい感触が何を意味するのか悟った。
そしてアサシンはそのまま身を翻し、周辺のガスが吹き飛ぶ勢いで空へと跳躍していった。
「…イコマ!!」
声と念話の両方で呼びかけるが亥狛からの返答は無い。ランサーは己の無力さを噛みしめ、そしてその感情を全て槍先に込める。もう毒ガスによる浸食など彼女を止める理由にはならない。
白亜に輝く槍は、主人に答える様に光の筋となりて、真の騎士道をこの混沌の戦場に示すーーー!「ここも外れか……」
他より厳重なセキュリティー故に期待して入った部屋は、応接室だった。
目立つように展示された、ふわっとした金髪で眼鏡の青年の肖像画が今は少しムカつく。
大会前に管理者と会った時の話だとあいつの祖父らしいけど……いや、余計な事考えるのは止めよう。
「しかし、侵入してから大分時間が……何!?」
目の前を突風が通り過ぎた。
思わず閉じた目を開けると、壁をぶち抜いて何かが駆け抜けたかのような惨状。
誰かが屋敷への被害に構わず一直線に進んだのは明白だった。
「土煙でよく見えねえが、後を追うか」
「ああ、行こう」「チッ、遅かったか……」
「いや、此処で奪えば良いだけだ」
俺達が辿り着いた時には、小聖杯は見知らぬサーヴァントの手に落ちており、管理者もまた倒されていた。
マスターを連れてないそのサーヴァントは鎧の形状が先程倒した騎兵に似ていて、その主である事は想像がついた。
だが、それ以上に目を引くのは彼が手にした丸盾……他の装備とはデザインからして違う。
そんな彼と睨み合うのは、魔女形態の茅理銀河。
彼女の周りに天井だったものが散らばっており、天井を突き破って突撃なんて無茶苦茶をやったらしい……さっきの轟音はそれかよ。
「うわっ、アサシンまで来ちゃったか……」
「くっ、それにまだ……っ!?」盾持ちのサーヴァントの背後にカボチャ頭の男が出現した。
炎を纏った大鎌で首を狩ろうとするカボチャ頭の男もまたサーヴァント、外見からして真名はジャックOランタンといった所か。
それはさておき、周囲に気を取られて気付くのが遅れた盾持ちのサーヴァントにとっては致命的な事態……しかし次の瞬間、カボチャ頭の男は壁に叩きつけられていた。
盾持ちのサーヴァントの姿勢からして槍の柄で殴りつけたらしいが、その動きは全く見えなかった。
「うわぁ、派手にやられたね。バーサーカー、大丈夫?」
そう言いながら俺達が通って来た穴から出てきたのは女性……参加者の一人、リザ・ハロウィン。
「っ……まだやれる。というか、ここで逃げたら強い陣営が小聖杯を手に入れて敵になるし、そうなったら苦労しそうだ」
膝を突いた状態から立ち上がるカボチャ頭ことバーサーカー。
たった一撃、それもとっさに振るわれた柄で殴られただけで膝を突くあたり、どうやら余り打たれ強くないらしい。
すると、今度はこの部屋唯一の扉が開く音がした。
「あら、私達も混ぜて下さらない?」
現れたのは異形の槍を手にした和装の女サーヴァント、そして彼女を従えるマスター、天音木シルヴァ。
俺が参加者の中で最も強い魔術師だと思った人が、此処に現れた。以上、第■回の乱戦開始を投下しました。
>>556
状況は急を要している。
討伐対象であるアサシンは亥狛を拐って今もなお逃走中だ。放っておけば殺されてもおかしくはない非常事態、にもかかわらずランサーは未だランドマークタワーの頂上で足踏みしていた。
原因は突如襲撃してきた正体不明のサーヴァント。
黒い霧の塊みたいな姿をした怪異は、霧の奥底から無数の手を伸ばしてランサーの四肢を絡めとろうと襲いくる。
百を超える腕の束を一薙ぎするも、戦況に好転の兆しは無し。
百を切断されれば二百、二百を裂かれれば千と、腕の数を増やしていく霧の怪異はまるで自己学習を繰り返す人工知能のように無機質に、それでいて的確に最適解を下す。
完全なる消耗戦。
霧の怪異よりもアサシンの追跡に注力したいランサーの額に焦りの汗が垂れる。
こうしている今も亥狛は命の危機に瀕している、サーヴァントである筈の自分は一体何をしているのか。
「く、キリがありませんね」
白銀の槍が輝きを増す。
ランサーの心象を具現化した精錬なる槍は、彼女の意思に呼応して強度を上げる性質を有している。
切り崩すならば強烈な一撃を。
槍の穂先に意識を集中させて、魔力を篭める。
マスターと距離がある今宝具を開帳させるのは魔力消費の都合上避けたかったが、やむを得ない。
研ぎ澄まされた槍に限界まで上乗せされた魔力が悲鳴を上げている。ギアを限界まで上げたエンジンのように金切り音を響かせて、敵を切り裂かんと今か今かと待ち構える。>>561
「いい加減、そこを退いてください────!『無穢なる…」
確りと握り締めた槍、狙う先は霧の奥底に潜む怪異。
限界まで引き絞った一撃を爆発的に前方に、放とうとした。
「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ ───────!!!」
意識の外から、人間大の殺意が乱入してきた。
ヒトの形をした暴威。今の彼を形容するならばそういった言葉が浮かんでくる。
腕が、脚が、歯が、カレを構成する全てが殺意と獣臭に塗れていた。
最初、ランサーはまた新たな敵かと身構えたが、そこ姿を捕捉してすぐに考えを改めた。
「アヴェンジャー、その姿は!」
それはランサーも良く知る同盟相手のサーヴァントだ。
だがその姿はランサーが知っている彼とは大きく異なっている。
全身は獣の毛で覆われて、獰猛に唸る様子は正に人型の獣。現代ではヒトの世界から去って久しいとされた幻想種、人狼そっくりであった。
良く見れば所々に生々しい血が滲んでいる。ここに来るまでに凄惨な戦いがあった事が容易に想像がつく。
半ば狂化にも近い状態のアヴェンジャーが怒り狂ったまま霧の怪異に立ち向かう。
霧の化け物は即時標的をアヴェンジャーに切り替えたのか、無数の腕を槍のように狼男に射出した。
黒に染まった手刀は鋭利な刃物に等しい殺意を籠めて、アヴェンジャーの喉、心臓、太腿……とにかく急所という急所目掛けて飛んで行く。>>562
それら全てを紙一重で回避、或いは叩き伏せながら獣化したアヴェンジャーが猛進する。
暴走したダンプカーもかくや、凡ゆる障害物を押し退けて一直線に霧へ向かう。
「────────」
「………!」
その一瞬。
アヴェンジャーはほんの一瞬であるがランサーの方を見た。狂気に血走った瞳の中に確かな理性を残しながら、瞳で訴えかける。
『ハヤク、イケ』
と。
見ると、ランドマークタワー頂上を覆うように分布していた黒霧は疎らになっていた。
間違いなくアヴェンジャーの撹乱の賜物だ。
「恩に着ります!」
時間はない。
一息でランサーはタワーを跳び降り、亥狛が遺した痕跡を辿るのであった。以上!伏神ランサーandアヴェンジャー陣営でした。
「思うに、最初は手段だったのではないだろうか」
「急にどうしたんだい?」
試験官の中の液体を揺らしながらそう語り掛けてきた大鳳京介にルーカス・ソーラァイトは疑問符を浮かべる。
「以前大鳳家(うち)の悲願が根源では無かったことに面食らっていただろう?それから考えてみたんだ。神獣程の神秘を内包した生物を作り出せたなら根源に至るアプローチの一つや二つは実行出来るのではないか。とな」
「なるほど。最初は根源への手段として研究していた事が時を重ねるうちに目的と手段が入れ替わった、と」
ペンを動かし自分の作業を再開しつつルーカスが相槌を打つと京介は試験官の中身を瓶に移す。
「根拠の無い仮説だがな。しかし俺はあながち間違っていないと思っている。」>>565
「その仮説は甘く見積すぎだと僕は考えるよ」
「その根拠は聞かせてくれるだろうか?」
来客用のティーカップがプレートに重なる。
「単純に、神獣クラスの神秘強度は根源に至るほどではないと判断したからだね」
テーブルに手をついて金色の青年は立ち上がりつつも続けた。
「不幸な双貌塔の事件で名を売ってしまったイゼルマは『究極の美……おっと、『究極の人面美』か。最低でも、挑む段階でこの制度が必須だろう」
「つまり、鋭さが足りないと?」
「具体性が足りないと言い換えてもいいかな」
京介が先ほどまで降っていたフラスコについて、さわっても?と確認を取るルーカス。
「あまり他の家の極点を話しすぎても刺されかねないから割愛して、『冠位指定』という具体的な目標を持つ君主クラスや、うちで言うと『世界の再現』のような到達点。要するに『何で』根源に行って、『何を』魔法として持ち帰ってくるかがなければたどり着けないだろう」
そう言いながらジャケットのポッケットからーーどうやってかーー赤い液体に胎児が浮いたフラスコを取り出し、振って見せる。
「かつて極点に至っただれとも知れない錬金術師が、持って帰ってきたのが第3魔法でなのだからね。日本の青崎は何で、何を、持って帰って来たのやら」
ルーカスはフラスコの蓋がしっかり締まっていることを指で確かめてから、京介にそれを投げ渡す。
「まだ挑む気概があるのなら、はっきりとした道筋を立てなければ、たどり着くどころか歩き始めることすら出来ないよ。そしてたどり着いても時間切れで締め出される。うちの本家当主(おじいさま)の純粋元素のようにね」『私は歌おう。歌いあげよう。おお、神よ。あなたの愛はここから離れたもうた』
「願おう、私は願おう。深く深く。胸を焼き焦がす情は深く、世界を作ろう。ああ、誰にも私の世界を渡すものか」
「私は世界を塗り替える。私はあなたを愛している。あなたの望む世界を作ろう」
【あなたの愛を、教えてください】
「ぐ、ん……?胃が痛いな……精神干渉か」
【あなたの愛を、叫んでください】
「なにか、おかしいな」
【あなたの愛を、願ってください】
ノイズ、ノイズ、ノイズ、ノイズ。視界は蜃気楼のようなものに掻き消えてなにも見えないし耳にはザァザァと雑音しか響かない。肌の感覚は薄れ、なにも匂いがしなくなり、ただ一つの極点へと思考は導かれ……
「お気を確かに、マスター。……いえ、視点を変えてください」
ランサーに振るわれた槍がランサー達の四方を取り囲むように振るわれる。一種の毒の区画が出来上がったことにより、霧も雑音も全て掻き消える。しかしそれは毒で区切られた区画のみであり、その周りは変わらず霧が満ちている。敵の姿は、見えない。「精神干渉ではなく……感覚器官に直接か?いやでも、最初のアレは明らかに物理的なそれでは」
「恐らくアレは導入を精神部分に定めたのだろう、と。最初さえ対処すれば特に問題は」
「流石の英霊様だねぇ、目が……いやいや、勘がいいのか。あー、そこの金髪の坊ちゃん?ルーカス君だっけ。気にすることない、アレは人間という種族なら誰でも引っかかるもの。獣性でも宿さない限り人には避けられないものだから」
「催眠術の導入……脳の錯覚から感覚器官かと思ったんだけれどね。精神への呪詛は取っ掛かり、そこから環境のすり替えで物理的に感覚器官を惑わしたのか。対呪を施しても解けないわけだ。まさしく詐欺師だね」
「人は目やら耳やらに頼りがちだからなぁ。そこの槍使い君とか、獣みたいなのならそうもいかないんだけども」
『そして星に感覚はない』
何の予備動作も見せずランサー達の周りに現れた火種が、起爆したダイナマイトのように大きく爆ぜ、包み込む。火種に包まれていた宝石が火に釣られて内に宿した魔力を暴発し、手榴弾の如く熱と破片を弾丸よりも早く撒き散らす。
「全く、危ないものだね。君もよっぽど力押しだと思うけど」
『やっぱりその魔術は押し通せないか。……で?力押しじゃないのが見たいの?』
「魔術師ならね」
『もう見せてる』
甘く甘く甘く甘く──────息が詰まりそうなほどの蜜の香り。宙を舞う美しい花は麗しい魚を、空に満ちる水は水底を。胸に響くは人を引き摺り込む人魚が如き歌。
「春の日の 霞める時に 墨吉の 岸に出で居て 釣船の とをらふ見れば 古のことそ思ゆる」
『常世辺に 住むべきものを 剣太刀 汝が心から おそやこの君』「浦島太郎は帰れない。元より彼は乙姫(神)のお膝下。逃げようたって乙姫様が逃がそうとしなけりゃどうしようもないのさ」
脚を引く。行かないで、お願い逃げないで。私と共に生きていて。逃がさない、逃したくない。だから離さない、あなたが立ち止まってくれないのなら、私があなたの手を取って、脚を一生引いてあげるもの。
伸びた岩の手がランサーとルーカスに引き付き縋る。切り払っても打ち払っても待って待ってと足を引く。いや、空気自体が重く固く鈍い。歌が響く限りそれは二度と止まらない。
「呪歌(ガルドル)……っ、この、かなり強力じゃないか……!」
『私の祖はフィンランドの出なの。フィンランドと言えば呪歌じゃない?そういうこと』
「………舐めないでくれるか、僕とランサーを」
振るわれた槍の毒が行かないでと引き止める腕を無慈悲に斬り裂き、遣わした白牛が蹂躙し踏み砕く。元よりルーカスが描いたのは『ウリエル』という名の大天使。どちらも単独なれば精霊と英霊の呪歌など弾きようもなく、しかし技を合わせれば飴細工のように引きちぎる。
「それにしても、何さ。ルーカス君は魔力が尽きないのかね?俺としてはちょーっと煩わしくって何とかしたいんだけれど」
「うるさい、君の相手は同じサーヴァントの僕だろう」
「いやっ!ケダモノー!」
あいも変わらずランサーの宝具は断片的に展開されている。その攻撃は受けたら死ぬ、というものでありキャスターとしてはとても辛い。
「呪いをかけようとも思ったけどさー……ルーカス君ってばこわぁい。俺がうまーくかけられないよう場を浄化の炎で満たしてやがる。その上概念照応で地形破壊なんて馬鹿みたいだね。すごい才能だよキミィ」
「抜かせ。サーヴァントと人ではかなりの違いがある。僕がお前の呪術を封じられるのは一重に魔力の分配だろう」
「賢い賢い。将来有望だね。そうなんだよねぇ、マスターの精霊化は中途半端だしテリアルのそれも半端だし……地脈からのマナ吸収がうまくできなくってー、俺もあっちも魔力バカ喰いなんだよねぇ」
「『おいこらジジイ、うるせぇぞ』」
「いやーん!……でもねでもねー?うちのマスターも天才なわけ」ランサーがキャスターを狙いつつ不湯花にも毒を飛ばし、ルーカスがランサーの補助をしつつ不湯花を狙う。それら全てをキャスターが一手に請け負い始めたのでもう何をせずとも何かを企んでいるということがわかりきってしまっている。
「お前達の考えは浅くないか?本当にそれで勝つと?」
「そりゃあ、ねぇ?今ここで全部の魔力を使い果たしても良いって思ってるわけ」
「ブラフか、真実か……マスター?あんまり耳を傾けないほうが幸せになれるかと」
『……お待たせ、出来たよ。
木花佐久夜毘売、参出て白しけらく、「妻は妊身めるを、今産む時に臨りぬ。是の天つ神の御子は、私に産むべからず。故、請す」とまをしき。爾に詔りたまひけらく、「佐久夜毘売、一宿にや妊める。是れ我が子には非じ。必ず国つ神の子ならむ」とのりたまひき』
「っ……ランサー。毒を溜めろ。アレが出た時に一撃で吹き飛ばせるように」
「了解」
それが何かはわからない。わからないがルーカスという存在はそれを確かに知覚した。次いで、ランサーもそれを感じ取っていたからこそ最大限に二人とも力を込める。
『爾に答へ白しけらく、「吾が妊みし子、若し国つ神の子ならば、産むこと幸からじ。若し天つ神の御子ならば、幸からむ」とまをして、即ち戸無き八尋殿を作りて、其の殿の内に入り、土を以ちて塗り塞ぎて、産む時に方りて、火を其の殿に著けて産みき』
『開け────木花開耶姫』ポン、と「最初からそこにあった」ように生えるのではなく現れた地面を埋め尽くす花。ああ、それは繁栄の女神。日本における天皇の祖、死せども死せども尽きぬ桜色の奇跡。
『爾に大山津見神、石長比売を返したまひしに因りて、大く恥ぢて、白し送りて言ひけらく─────』
「っ、ランサー!アレを止めろ!」
ルーカスが起こしたアストライアの剣が、ランサーが起こした猛毒の大槍が花畑を焼き焦がす。一つ二つ三つ焼き残し、そこからまたねずみ算のように栄え盛るがそれでいい。次に発動すべきそれは防がれた。
「けど、まあ。うん。それでいいんだ、こっちは」
「何を────これは、魔術が」
「魔術回路は起こせる。オドだって生成できる。けど、魔術がうまく組み立てられないでしょうねぇ。内のオドしか頼れない」
「場のマナの独占……チッ、アインナッシュか!」
『いやでも、賢いよ。今のが出てたらもう完全だったのに。ちょっとしたらマナも使えるようになるし』
「これでの一番の利点は俺が使うマナ、だよねぇ」
確かに、一時的に使えないというだけで場に満ちるマナはとても濃い。これだけあれば魔術の行使には難なく使えるほどに。
「マナの条件は一緒。アンタも俺らも使い放題。なら何が違うのか?……使い方だね」
毒の壁を破壊する際、キャスターが起こした現象が、再び巻き起こった。
「俺は騙すのが他よりも得意でね。その条件でいくと、ルーカス君もそうなのかもしれないけれど。………ね、どっちがより事実をでっちあげれるか、試してみよう?」魔術解説
豊玉姫
フィンランドの呪歌理論を応用しつつ舞台創作で擬似竜宮城を創造。「浦島太郎を引き止めた乙姫」という物語を創作した「相手を引き止める」ための呪術
木花開耶姫
「繁栄」「穢れの否定」の山星に伝わる大魔術。アニムスフィアにおける星光の魔弾のようなもの。本来ならば繁栄、という属性の如く栄え盛った大量の花々が土地のマナを掌握しつつ敵対者を排他……ぶち○す、というものであるが今回は用途を変え、生み出された大量の花は地脈から吸った魔力をマナとして放出する。一輪でも残っていればまた大量に生産する、といったもの
石長比売
詳細不明。寿命、肉を持つもの……第三魔法に手を伸ばしていないものならばこの魔術の危険性は発動前に察知する
木花開耶姫ありきの魔術なのでこの戦闘中は二度と発動できない行動方針
割と逃走に力を入れる。キャスターが大規模な第二宝具を使えるようになったのは大量に生み出されたマナを少しテリアルが吸収して魔力源に、かつ変化の元となるマナが大量に生み出されたため(マナを対象に第二宝具で物体に変化させる)「あまり気にならさないでください。少し隊長を崩しているようです」
退出した西行のただならぬ振る舞いに慌てるミュンヘンに、3号は柔らかく諭す。
3号にとっての西行は生みの親であり、迷宮の如き精神構造をした上司でもあった。
その複雑怪奇な在り方は付き合いが長い3号にすら全貌を把握出来ているものではなく、今は当たり障りの無い言葉でお茶を濁すほかなかった。
そして―――ミュンヘンのその言葉は、他ならぬ3号にも逆鱗となる。
「ところで、今の言葉の意味を詳しく聞かせていただいても?」放たれた暴風がアレンとセイバーの華奢な体躯を薙ぎ払った。隣にいたアレンをセイバーが抱きかさかえ、風の勢いに乗って跳躍。宙で三回転を決めて何事もなく着地する。
「失礼、見苦しいところをお見せしましたね。これではまるで立場が逆だ」
「冗談。これで何事もなかったのなら私は必要ないじゃない。吹き飛ばされたマスターを受け止めるくらいはしないとね。サーヴァントの名折れだわ」
女性が男性をお姫様抱っこする。そのシチュエーションがおかしくて、顔を見合わせ苦笑する。しかし、瞳は笑っていなかった。
アレンは音もなく魔術を起動する。術式・スプリガン。身を守るための結界であり、その場の地形と同化する能力を与えるもの。
まずは安全を確保し、敵の出方を確認する。その流れはあまりにもスムーズで、彼がいかに修羅場をくぐってきたかを如実に表していた。
「暴風……いや、台風にしか見えませんね。貴方はどう思いますか? セイバー」
「同感ね。ま、ここでひきこもっていても仕方が無いか……我が国の本質は民にあり(My country not a place, it's a people)」
いたずらっ子のような笑顔のまま唱えられた呪文と同時、眩い雷電がセイバーを包むこむ。次の瞬間。彼女の細腕に、閃光を纏う鉄槌が握られていた。
『倣・小道具』の一つである『雷神の鉄槌(トール・ハンマー)』。ハリウッドのシンボルと謳われる彼女が手にした数多の小道具の一つ。ある大作ヒーロー映画シリーズで使われたそれは、とある神話の神が振るいし稲妻の戦鎚。
「マスター! とりあえず一発殴ってみましょうか! 飛び込んでみないとわかるものって絶対にあるから!」
紫電の瞬く鉄槌を掲げ、セイバーが眼前に現れた風の化身へと飛び込んでいく。
それはまさしく雷神VS風神。
21世紀の日本にて、神話の戦いが幕を開けた。>>566
「気概があるのなら、か。ならばやめておいた方がいいな。そもそもこの仮説もただの想像でしかない訳なのだし、元から神獣の作成が目的だったのかもしれないのだから」
君達のような真っ当な魔術師からすれば異端なのだろうがな。と肩を竦めて締め括る。そしてルーカスから渡されたフラスコの中身を眺めながら呟く。所謂話題変えだ。
「思えばホムンクルスは扱ったことが無かったな。ホム……ほむら…いや、まだどうするかも決めていない段階で名付けは時期尚早だったな」
「名付けといえば君の使い魔はとても個性的な名前のものが揃っていたね」
京介の独特なネーミングセンスから繰り出される奇妙な名前の使い魔達はあまりにも酷いと改名させられたものがいるレベルである。
「センスは兎も角名付けをするという行為が重要なんだ」
曰く使い魔契約を結ぶ際に名付けを行いパスを強固に結ぶことで知能の高い動物となら意思疎通が可能になるという。
「知能の高い動物。具体的には?」
「貴族たるもの狩猟をしてみるのはどうだろうかと猟犬向きの犬種を何種か揃えている。その中から気に入ったものを選ぶといい」
そう言って京介が工房の一角のカーテンを開けると数匹の犬がケージに入れられて待機していた。>>577
「ほう、猟犬かあ」
何かが琴線に触れたのかルーカスの声のトーンが一段階上がった。
「不勉強で申し訳もないのだけれど、犬種から教えてもらってもいいかな?」
「もちろん。まずは大分類として飼い主が仕留めた獲物を回収してくるハウンドタイプ、獲物を発見する役割をもつポイントタイプ、あとは実際に獲物を仕留める格闘タイプがあるな」
京介の解説に対してルーカスが口を挟む。
「その中なら僕が興味を引かれるのは格闘型かな」
「いいだろう、ああ、言い忘れていたけどタイプ内でも大型犬から小型犬までのサイズの差があるんだが」
「中型から大型が好ましいかなぁ。小さいのなら狩猟ではなくて可愛がる方に見えてしまうからね」
「なあ、ところでさ、使い魔とかそういうのに関係のないペットとかは居ないのか?」
「ん。居ないよ、そういうことには手を出してこなかったからね。人間にしか興味がなかったんだけれど、いい機会を貰ったよ」
「そうか。それは良かったよ」
「腰を追って悪かったね、どうか続けてくれないか」
「ラブラドールやゴールデンのような種類のいるレトリーバーや、ビーグルとかダックスフントが有名なスパニエル犬種、あとは日本の芝犬なんかも実は条件を満たしているな」
そこまで聞いてルーカスはぶつぶつと独り言をこぼしながら考え込んでしまう。
「そうだな……この中にいるのだと……」(雷の槌……コレは北方の雷神、いや違うな……)
フラカンは嵐の神であると同時に天候の神でもある。
本来ならばフラカンという神霊にとっては雷すらも自身の領分である。
零落した残滓であれど、神に纏わる雷であれば出処に見当はつく。
だが真にそれが北の雷神(トール)が持つとされる『悉く打ち砕く雷神の槌(ミョルニル)』であるのならば、この程度の威力で済むはずもない。
(神々の権能を戯画化した、『雷神の槌』を源流とする偽性の雷(イミテーション)と言ったところか)
神霊フラカンであれば気にもかけぬモノであるが、人の観測により成り立つ現象 ハリケーンたるフラカンにはそれが脅威であると認識された。
あらゆる神秘を暴き、征服する『文明』の恐怖をフラカン自身が身をもって経験しているが故に。
(不快だ……担い手は戦士では無いな)
──弱い、最優のセイバーたる英霊としては拍子抜けだ。
少なくとも力量でいえば先日相対したライダーやアサシンの英霊には遠く及ばないだろう。
それがフラカンが分け身の戦闘を通じて感じ取った評価だ。>>579
(だが、小癪にもしぶとくはある。戦士というよりも舞踏家の類か)
フラカンがここまでの能力を発揮出来る相手となれば、時代でいえばかなり若い英霊だろう。
だというのに、セイバーはフラカンの猛攻を凌いでいる。
激しい風雨を槌から放たれる雷撃により裂き、そのまま追い風に変えて台風の中を突き進んでいる。
それこそがセイバーが強い英霊というよりも、巧い英霊であることの証左だ。
神霊であったフラカンにとって踊りや演目は自身に捧げられるモノであったが故に、それを為すモノが優れた歩法や間合い取りを可能とすることも理解していた。
(男の方もひとかどの魔術師らしい……精霊に由来する守りか)
マスターの方も何らかの魔術式により自身を守っていることは理解出来た。
対してフラカンのマスターである芽衣は未だにオードリー・ヘップバーンが嵐の中を翔ける様に呆気に取られていた。
(我の戦いぶりではなく、奴を見るとは……到底許せることではない……!)
嫉妬に燃えるフラカンは残された分体の一つを『ハリケーン・オードリー』に取り込ませる。
「ク ハ ハ ハ ハ!我が分身たる『ハリケーン・オードリー』、崩せるモノなら崩してみせよ雷使い!」
その勢いは留まることを知らず、よりいっそう強く、破壊を撒き散らした>>576に続くカタチでお願いします
悠然と佇むランサー。その態度は一見すれば傲慢と取られてしまう。ああ、だからこそ。それは英雄たる二人を惹きつけるには十分すぎた。
「じゃあ遠慮なく」
「引き裂いてやろう」
ライダーとアサシン。振るわれた槍と矛は並大抵の存在ならば武器を使わず受け止めれば肉も骨も容易く断つ。
「あら、まあ。うふふ」
片方を槍で、片方を腕で弾く。耐久力というよりはその細腕に込められた筋力ありきの荒技だろう。杜撰で身体能力に頼った一振り。しかしそれが様になっている。
「お返ししますね」
先ほどとは一転、正確無比にライダーの首元を狙った刃。勿論、歴戦の戦士であるライダーはその程度軽々と槍で防御する。するのだが。
「おっ、も……っっ!」
「失礼ですね。……そこの御仁は、どうされるので」
想定外の筋力に跳ね飛ばされる。受け身が完璧で傷はひとつもないが距離を離されたことには変わりない。……そしてアサシンの方を流し目で振り返ると共に。一瞬ではあるがアサシンの動きが硬直する。「これは……みりょ」
「遅いですよ」
刃というよりも鈍器と称する方が、切るというよりも殴るといった方が正しいと思えるべき一撃がアサシンを狙う。
………それを、するりと滑るように体を逸らせ、スレスレで当たらないようにする妙技。正しくアサシンが一騎当千の戦士である証。かの大戦を生き抜いた英傑である。
「勘がいいのか、目がいいのか、勝負に強いのか……どうしましょう」
「抜かせよランサー。見たこともない英霊だな。着物からして日本か?」
「その槍の技もおかしなものよ。人の常道からは外れていると感じられるのに貴様のあり方としては至極真っ当に感じてしまう」
「私に言われてもー、こまりますー」
「元気なのは良いことね。やりたいことをやるのが一番だし。たまにはヘイトを買っても悪くはないけれど」
本来であればランサーを陽動に。陰ながら相手マスターの首を絞めて意識を落とすなりなんなり、というのが戦の定石ではあろうが。生死が絡んだ闘争にルールなどあってない。正々堂々を守るものもいるがそうでないものもいて当然だ。しかしこれは戦争ではなく大会。己は芸師。観客を楽しませるためにここでコソコソとしていては申し訳ないだろう。
「銀河ちゃん、だったかしら。私と戦ってくれるんだったっけ?あと、リザちゃんも」
「はい!よろしくおねがいします!」
「……?とりあえず自分以外の奴らを減らせば良いしおばさんから倒してもいいよ」
「いい心構えね。ふふ……」
フッと指で何かを手繰り寄せるような様子。それだけでで大勢の人形をバッグから呼び出して。「遊んであげて。といっても、彼女達はオートマタなんかじゃないんだけれど」
武器を持った人形達が攻撃を仕掛けてくる。数十体ほどのそれは同じ人形師である魔術師から見てみればそれ相応に手が込んだものであろうということは易々とわかる。持ち主が心血注いで仕上げた一級品ではない、と判断出来るのは作り込みに対する性能の粗さだろうか。
「私が直接制御をしてるから、ワンパターンなのかもしれないけれど、我慢してね?」
「やぁっ!はぁっ!……うわぁっ、人形さんの腕がバラバラに……あれっ!直ってる?」
「燃やそうと思ったら甘いのじゃはたき落としてくるしキツイの打っても中々燃えなーい。めんどくさーい」
銀河が戸惑いながらも一体二体と的確に破壊し続け、リザが片っ端から燃やし尽くす。ポコポコと湧く人形達に側から見れば人間二人が不利かと思うかもしれないが、二人の顔色は全く乱れておらず、余裕もありありであることがわかるためにそうではないと伺える。
かといってシルヴァがジリ貧なのかと思えば、その数が尽きることはないしなにより彼女の言葉を信じるならばこれは戯れ程度で本気ではない。つまり焦るような状況ではないのだ。
「…………っ!」
故に。魔術も未熟、殺しも犯したことのない、清廉潔白な青年はそこに賭け、伸ばした鎖で人形師を殴るしかなかった。手加減と緩さが満ち満ちているこの戦いの状況に一筋の強烈な一手をなによりも強烈な相手に叩き込むことこそ、己が勝ち残るための王道─────!
「そう。立派ね」硬いものと硬いものがぶつかり合った甲高い音が響く。そう、丁度その音の高さは金属と金属がぶつかり合うような……
「なんでっ……弾かれた、結界か!」
「違うわよ。移動する結界を張れるのは一級の結界術師だけ。単純に私が物理で返しただけ」
しゅるしゅるしゅるとシルヴァを取り囲み、キラキラとした光沢に照り映える細長い糸。そしてそれらさ全て糸元がシルヴァのグローブに結びついている。
「隠せていると思って?あなたが最初から私を警戒していたことは、気づいていたから。それなのに最初から攻撃をしようとは思ってない様子だったし、様子を見て動くのかと」
「………だったら、どうするんですか」
「決まってるわ」
パスっ。軽く乾いた音。スパン、とハリセンで尻を叩かれる音にも似ていたような気がするが。その音がなった瞬間、ツーっと斎藤の頬に赤い一筋ができていた。
「ここで勝ちます。私が人形に頼るだけと?」
「驚いた。すごい、接近戦もお得意なんですね」
「私の娘の方が強いわ。殺し合いも、魔術の腕も。
………改めてこんにちは。名を、オーレリア・ベルリーズ。名はオーレリア。苗字がベルリーズにございます。魔術師としての名、なんですよ。
──────さあ、ごめんあそばせ?」双介の連絡先にかけているゲルトは、珍しく険しい顔をしていた。
音信不通のジェームズ。軍人である筈の彼が、大事な事項を忘れることは決してないと断言でき、加えて連絡が取れなくなったのは聖杯戦争が終盤に差し掛かったこの時期。
間違いなく何がおかしいと、執行者としての勘が警告を鳴らす。
「出てくれよ、黒野くん」
電子音が一回、二回、三回鳴ったところで、目当ての相手が電話に出る。
『もしもし、ゲルトか? どうしたんだ?』
相手の声を聞いて、ゲルトは一先ず安堵する。
この状況でジェームズと連絡が取れないとなれば、もしかしたらと思ったからだ。
しかし、よくよく考えてみれば彼はサーヴァントと行動を共にしているので、何かが起こる事自体難しい。
サーヴァントの意識を掻い潜って事を起こすなら話は別だが、生憎と残ったマスターとサーヴァントはゲルトと双介の二陣営のみなので、その線も無いに等しいだろう。
ただ、ジェームズの件が気がかりなのでモヤモヤは拭えない。>>586
「いや、ちょっとエセ忍者と連絡が取れなくなってね。少しキナ臭いと感じて、君にラブコールを送っただけさ」
『……考え過ぎじゃないのか? 少し時間を置いて、また連絡すれば』
「それがそうもいかない。連絡事項は彼が決めて事で、且つ元軍人の仕事人であろうジェームズは連絡に出ない事はない。無論、オレも心のどこかで杞憂なのではとも思っている……だけど、執行者としての勘がキナ臭いと警告してるのさ」
『執行者としての勘……それって、信用できるのか?』
「さーてね?」
心配が杞憂に終わったので、普段通りとぼけた態度を取ってみせる。
「ただ、ちょっと穏やかじゃないのは確信を持って言える。だから、君も注意した方がいい」
『……わかった。受け取っておく』
少し間があったが、聞き入れてくれたのでゲルトが満足げな顔になる。
通話の内容で確実にランサーに行き渡っている筈なので、サーヴァントが警戒心を抱いてしまえばマスターへの被害はほぼゼロになるだろう。
────相手の心配なんて、俺も甘くなったねぇ。>>587
この聖杯大会を通して、ゲルトに心境の変化が訪れていた。
何事も自分第一で、他人などにの字。
己が生き残る為ならどんな手も使い、関係のない物事は全て切り捨ててきた。
周囲は敵だらけだど思い込むことで警戒を怠らず、いつの日も自らの安寧を守ってきたのだ。
そんな自分が他人を気遣うなどと、この短い期間に変化した気持ちのありように思わず笑みを浮かべる。
きっとそれは、黒野双介という青年と出会ったからだろう。
打算で共闘した競争相手。しかして、ゲルトにとっては久しぶりに逃げずに接した第三者だった。
性格も能力も、良くも悪くも一般規定値で、特に秀でた何がある訳でもない。けれども、その普通さがゲルトにとって良かったのだ。
お陰で多少だが肩の荷が下りて、本当の意味で余裕が持てるようになったのだから。
「さて、俺からのお小言はこれまで。明日はいよいよ決戦だ。俺は勝つつもりで聖杯を取りに行くから……楽しみしているよ」
『俺だって負けるつもりなんてさらさら無い。全力全霊をぶつけて、絶対に勝ちに行くからな』
電話越しからでも伝わる覚悟を決めた声。
決して虚勢ではなく、本当に勝利するという気迫が感じ取れる。>>588
「ああ、そうだね。俺にとっては、絶対に負けられない戦いだから────」
────明日の戦いに水を差すようなら……何があろうとも、徹底的にすり潰す。どうしてこうなった。
対して同盟も組んでない筈の各陣営がほぼ同時に我が屋敷へと侵攻……預託令呪では明らかに対処仕切れない数だ。
下手にどれかを脱落させに動けば、その隙を他の陣営に突かれるだけ。
我が父が政争に敗れて以来、檜葉……いや、ハルピア家には不遇の時代ばかり。
かつて有望な者への株分けを繰り返して勢力を広げたハルピア家一門すらも、その有力者の大半が潰えている。
マーニ・リトルは時計塔に残るが、新しい後ろ盾を得れないまま派閥争いに巻き込まれ、暗殺された。
イリア・ダイヤは我等と同様に外国に逃亡するも、子に魔術回路が現れる事なく遂には没落した。
そして、かつての一門で無事だった家系の中で最もマシだった者を手駒にしたこの計画もまた、崩れようとしている。
そして、それを決定付けるかのように屋敷の壁が次々と破られ、
「――――なっ!? なぁっ!」
それを為したサーヴァントを視た直後、強い衝撃と共に私は意識を失った。「ひぎゃあぁぁぁっ!」
拳銃を持った緑髪の少年が呪詛に倒れました。
バル・海川、スタンガン程度の電気魔術を扱う魔術使い……日常の退屈さから道を踏み外して犯罪紛いの行為を続け、今まさに命を散らした愚か者。
「チッ、楽な仕事の筈が……畜生!」
海賊の如き髭の男が手斧に火を灯して駆け出しました。
ジョージ・ベルダッチ、元は定職に付かない荒くれ者だったという評判の悪い魔術使い。
かつて村一つ程度の領地を収めていたベルダッチ家は魔術に手を出したが為に破産し没落、その魔術師としての遺産を偶然見つけたのが彼だとか。
しかし、逃げても無駄だと判断出来る位の経験は有るようですが、それだけです。
ええ、もう既に詠唱は終わってますから。
「げえええっ!」
バルを葬ったものと同じ呪詛はジョージへと。
悲鳴は長続きしません……苦しむ事なくすぐに死にますもの。
私は、一般的な黒魔術師のように敵を無駄に痛めつける幼稚さ等持ち合わせて居ませんので……。
そして、もう一人。「ひぎぃっ!?」
少し遠くから、断末魔が一つ。
茶髪の青年が、物理的な衝撃へと変換された霊障により心臓を潰され、ビルの屋上から転げ落ちる。
ジャック・キャイヌ、参加者から令呪を奪う為、管理者邸から出てきた所を襲おうとしたグループのリーダー。
家系自体は平凡でしたが、周囲の物体や地形から無数の刃を錬成する程の魔術使い……最も、格下と侮った敵を倒すのに慣れ過ぎて己の実力を過信したのが運の尽きでしたけど。
奇襲で囮諸共殲滅する策は用意出来ても、それを見抜かれる可能性を考えてすら無いのでは、こんなものです。
ともあれ、この三人で『不審者』の処分は終わりですわね。
「それに、あちらも次の段階のようですし……脱落者の保護に管理者の確保、気を抜いてはいられませんわね」
そういう私の腕には、管理者に余計な手を加えられる前の預託令呪が現れていました。という訳でゲリラ的に第■回乱戦の裏側を。
ちなみに、『不審者』とは聖杯や令呪目当てに襲撃を目論んで侵入した者達の事。
とはいえ、今回の話で全滅してます。「ーーーっはぁ、っ!!」
息を吸い込む。
毒が血管の中を巡っているのか、視界にモヤがかかっていた。今にも油断すれば途切れそうな意識を無理やり繋げて目を開く。
「ひぃーやっぱりランサーは怒ると怖いね〜」
この知らない雑居ビルの屋上にまで亥狛を連れてきて投げ出した張本人であるアサシンは、剥き出しのパイプにもたれ掛かると感慨深そうにそう言った。
そして亥狛の顎にそっと手をやって、目線を合わせた。
「あ、う、お、おまえ、は」
「あぁ、ガスのせいで上手く喋れないし聞こえにくいんでしょ?本来なら嘔吐や嗜眠でそれどころじゃ無いんだけど…まぁ皆まで言うなって。私が喋るから」
アサシンはケタケタと馬鹿にしたように笑う。
連れ去られた際の急な高低差のある移動と毒ガスにより身体に力が入らず、今の亥狛はただ目の前の状況を見て聞くことしか出来ない。
「何で連れ去ったのか聞きたいんでしょ?まぁマスターから逃げろって指示されたのもあるんだけどさぁ…これ、見てよ」
アサシンは再び手を伸ばす。
その黒い手袋に包まれ、肌を少しも見せない手は亥狛の頬に触れて撫でーーー無かった。>>594
アサシンの手は確かに亥狛の頬に触れているというのに、感触がまるでしない。目の前の事実と五感が噛み合わず亥狛は戸惑う。
「簡単に言うとさ、私の霊基がもう大分ズタボロの豆腐なのよね。次に戦闘したら戦闘する前に自滅しそうなぐらいには」
アサシンの出自はアメリカの片田舎で起こった毒ガス事件であり、その事件の犯人こそがアサシンである。これによってアサシンは英霊の座に反英霊として登録された。
しかし、それだけだ。
アサシンは恐れられこそしたがイギリスに現れた霧の殺人鬼よりは知名度が低く、アサシンは騒がれこそしたが当時の世界大戦によってその名は響かなかった。
根本的なところアサシンはマイナーであり、悪行すらも影響力を持ち得ない。
つまるところアサシンの持ちえる霊基はサーヴァントとして限界まで脆弱だった。
そのためーーー
「私はね、私らしくない行動を取ったらその時点で霊基にヒビが入るんだ。そう、例えばナイフを振るったり、人の肉を食べたりとかね」
マッドガッサーはナイフを持っていなかった。
マッドガッサーは人の肉を食べなかった。
マッドガッサーは毒ガスを一度に大量に撒かなかった。
名前を持たない愉快犯は、所詮マッドガッサー以外には成れない。>>595
「まぁ予兆はあったんだけどね…私生まれてから一度も我慢した事なんて無かったから遅かれ早かれだったんだけど」
ノイズが走る右腕を見つめる。身体にあまり力が入らないのはアサシンも同じだった。
サーヴァントとしてはハズレの中のハズレであり、考えられないぐらいの例外であるとガスマスクの中で自嘲する。
「そんな未来とかタライとか言ってられる場合じゃない今だからこそ君に聞きたいんだよ私は。君の他の参加者を蹴落としてでも叶えたい願いって、何なの?」
その問いかけを受けた亥狛は目を見開く。
朦朧としていた意識が急速にクリアになる。それほどまでこの問いかけに対する答えは自分を支えていたのだと気付かされた。
「俺は、混ざり物では無く人間になる。彼らのような輝きに、俺も近づきたいと聖杯に願う」
亥狛はそう断言した。
あの日、脳裏に深く焼き付けられた姿。亥狛の価値観を揺るがした善性。
それこそが亥狛をこの極東の狂気に包まれた儀式にまで導いたのだ。
「…は?」>>597
「そう、人外なんだよ!!!そんな力があるのに人になりたい!?意味わかんないって!!人間になるなんて罰ゲームだよ!!!人間なんて弱いし鈍いし毒ガスですぐ死ぬんだよ!?君みたいに人外の力があった方が絶対良いって!!!そうに決まってる!!ふざけた事を言うなよ!!!あぁ、そうだ!!それならその力私に頂戴よ!!人外の力があれば怪人なんかじゃ無くて怪物にだって、未確認生物にだって、宇宙人にだって、神様にだって、何にだってなれるんだよ!!!人なんかつまらない縛りに捉われなくて済むのに!!!そうすれば私だって知る人ぞ知るマイナー怪人なんかじゃ無くてもっと有名になって、誰もが恐れる存在になって!!!こんな惨めな弱小サーヴァントじゃ無くてもっと世界を恐れさせてマスターにだって敬ってもらって!!!うわわぁぁぁ!!?理解が出来ない!!!!理解が!!!出来ない!!!?」>>598
最早その目線は亥狛には向けられていなかった。
狂乱したように頭を激しく振りながら、数少ないアイデンティティである己の存在すら否定しながら支離滅裂な言葉を並べてアサシンは叫ぶ。
ノイズがかかり消えかけているその手は、行き場がないのかただ闇雲に振り回されていた。
ただ亥狛は漠然と、きっとアサシンに対して最悪の回答をしてしまったのだとどこか俯瞰的な視線でそう思った。
やがてアサシンはひとしきり叫ぶと歩くたびに身体が崩れそうになるのも構わず亥狛の肩を両手で掴む。感触は無いはずだが、やけに熱があるように感じた。
「はーっ、はーっ、はーっ…。今すぐに考え直してくれランサーのマスター。人間なんかになったところで私みたいなしょうもない犯罪者になるかもしれないんだ。君が一部の人間みたいな善人になりたいなら、その人外の力で誰かを助ければ良い。無理に人間になる必要なんて無いんだよ…!!」
そのアサシンの叫びを亥狛は妄言だと切り捨てられなかった。
黒と灰色に色褪せた空。形を保つことすら限界が近づいているガスマスクの向こうからの言葉に亥狛はーーー>>599
鬼気迫るアサシンの叫び。
思わず気圧されてしまいそうで、でも黙っている訳にはいかなかった。
怒りで上気したガスマスク、その背後で曇天は忙しなく流れていく。今にも雨を降らしそうな空模様。
「それは無理だ。アンタが人間に価値を見出せないように、俺は怪物に価値を見出せない。
確かに怪物には力がある、人よりずっと頑丈だし、毒にだって死に辛い────でもそれがなんだっていうんだよ?」
痺れの残った手でアサシンの肩を押すと、思いの外簡単に体勢が崩れた。馬乗りになっていたアサシンはよろめいて尻餅をつく。
まるでサーヴァントらしからぬ、いや、それだけ彼女が弱っている事の証拠なのだろう。
でも躊躇わない。死に体の英霊を真っ向から拒絶する準備は出来ていた。
「俺はそんなただ強いだけの強さなんか求めちゃいない、俺は、本当の強さが欲しいんだ」
「───でもそれは人間にならなくちゃいけない理由にはならない。さっきも言ったけど、その願いは怪物のままだって叶えられるんだ。そうさ!強いまま、本当の強さを手に入れられる、君は特別なままで良いんだってば!!」
座り込んだまま両手を広げるアサシン。腕を振り上げる挙動さえもしんどそうで痛ましい。>>600
「………違うんだ、その特別は、刺になる。仮に俺が怪物のまま歩み寄った所で待ってるのは拒絶だ。
俺が人狼である限り人と交わる事は絶対に出来ない。今は姿を似せて上手く誤魔化してるけど、いずれボロが出るのは明らかなんだ。
だから、俺は、ニンゲンになるべきで。いや、ならなきゃいけないんだ」
気が付けば自分の拳に生温かい感触がした。
見ると、血が滲むくらいに拳を握りしめていることに気付いた。
「ぷっ、くくく……くひっ、ヒヒッ」
視線を元に戻すとアサシンは勘弁してくれと言わんばかりに笑い転げる。
「アーッハハハハハ!ハハハ、ヒャハハハハハハッ!!ウヒーッヒ、か、勘弁してくれよ!ジョークを言うのもほどほどにしてくれるかなぁっ!」
それを見下ろす亥狛の内心は穏やかではなく。
腹が煮え繰り返る思いを仕舞い込んで、唸るように「何がおかしい」とだけ言った。
いや、それだけしか言えなかった。
「何がおかしいって、もう全部だよ!一から十まで矛盾だらけじゃないか君ィ。
ニンゲンにならなきゃ拒絶されるって、薄々理解してる時点でもう理屈として破綻してるって気付こうよ!!
人間が煌びやかで輝かしい生き物だってホントのホントのホントのホントのホントーに心の底から真剣にそう思ってるのなら絶ッッッ対、今みたいな発言はしないよねぇっ!?」
「違う。人じゃなくても生き物は皆んな排他的だ。それは群れを守る意味では仕方のないことであって、それが人間の価値云々には繋がらない。お前が言ってるのはただの屁理屈だ」
「かもね。でも君よりはスジが通ったコト言ってる自信あるぜ?
ねーねー、本当に人間って憧れる価値ってあるのかなぁ〜?たかだか一匹の怪物を許せないニンゲンなんかに生まれ変わるだけの価値ってあるのかなぁ〜っ?」拝啓、故郷のお母様
お母様、お元気ですか?あたしは今、日本にいます。たまたま聖杯戦争という儀式に巻き込まれて、口の悪いサーヴァントに硝子のようなこの心を傷つけられながらも元気にやっています。
そうそう。あたし、日本で二人も友達が出来ました!お二人とも魔術師で、一人は目つきが悪いウサギみたいな人。もう一人は困っていたあたしを助けてくれた、素敵な女性。今度、食事をご一緒することになったの!はじめての経験だからちょっと緊張しています。
またお手紙書きますね。色んな思い出話を持ち帰りたいな。
ブリュンヒルドより
◇◇◇>>603
覇久間市の殆どをおさめる魔術師の名家、蒲池家。一般の人間の家と比べてもかなり豪華なその屋敷のダイニングでは、険悪な空気が流れていた。
(どうしよう………)
ブリュンヒルドは内心頭を抱える。彼女のコミュニケーションスキルでは、この空気を和ませる方法が思いつかないのだ。恐る恐るこの微妙な空気の原因となっている人物に視線を移す。
原因の一つはローガンのサーヴァント、ランサー。彼女はこの家の主である夏美と顔を再びあわせて以降、捕食者が獲物を狙うかのような瞳で辺りを見渡していた。
彼女のマスターであるローガンは、彼らを家へと招く夏美の誘いを断りきれず(ブリュンヒルドが食い気味に話を進めていた為でもある)に、あろうことか昼食を共にするという流れになってしまったのだ。
「この女………料理ができる………です?」
衝撃を受けたように呟いたランサーの言葉を聞いた者はアーチャーしかいない。その時からランサーは、(優れた武人であれば気づけるようなものだが)僅かな殺気を放っていた。
「うーん、ちょっと人数が多いかな……。待ってて、すぐなんか作ってくるから」
そう言って夏美がダイニングを立ち去る時も、背中をじーっと見つめていたランサー。
当然ながら夏美のサーヴァントであるライダーもこの屋敷にいるわけだが、自らの主に敵対的な態度をとるサーヴァントを見過ごすわけがない。ランサーが下手な行動を取らないように茶をすすりながらそれとなく見張っているのだ。
>>604
さらに厄介なのはブリュンヒルドのサーヴァント、アーチャー。彼も一人の戦士である。その為、ランサーとライダーの力を推し量る目的でこの二人を観察している状態だ。武装していないとはいえ、ライダーだけではランサーとアーチャーを相手取り、家を傷つけずに戦うのは不可能に近い。
それによりライダーは普段のような態度を取れず、ややピリピリした態度で夏美の料理を待っているのだ。
(こ、こんなんじゃ駄目だ…とと、友達との食事なんだから………なんとかしなきゃ…!)
ブリュンヒルデは助けを求める為にローガンを見た。しかしローガンは部屋をキョロキョロと見渡し、時折舌打ちをして頭を抱えるばかり。これではどうにもならない。
「おい、ランサーのマスター。こいつをどうにかしてくれ。気が散って休めやしない」
ついにライダーが口を開いた。湯呑みを置いて、顎でランサーを示す。ローガンはランサーをちらりと見ると、こう答える。
「敵地のど真ん中だ。警戒するなっていうほうが無理な話じゃないか?」
対するローガンはこう言い放った。もはや和気あいあいとした空気は作れないだろう、とブリュンヒルドは感じた。なにせマスターもサーヴァントも互いにライダーに対して敵対心を隠そうとしていないのだ。ローガンからすれば一度同盟を持ちかけ、断られた経緯がある為警戒するのは当然のことなのだが、ブリュンヒルドはそんな心情を知る由もない。
>>605
自らのサーヴァントに目を向ける。アーチャーは素知らぬ顔をして部屋の隅で腕を組み、ライダーとランサーの様子を伺っている。どうやらこの状況をなんとかしようという意思は無い様だ。
(ちょっと、あなたもなんとかしてよ…。このままだと私、居心地悪すぎてどうにかなっちゃうよぉ…)
(知るか。吾にそこまで求めるでない。汝の対人関係にとやかく言うつもりはないし、吾としては寧ろ、ここで争ってくれた方が都合が良い。ランサーとライダーを共倒れさせられるかもしれんからな)
(ばっ…!?ちょっ!?何言ってるのよ!)
突然の発言に驚くブリュンヒルド。うつむき加減ではあったが、その表情が一瞬崩れる。
(当たり前だろう。これは聖杯戦争だ。仲良しこよしのお遊戯会では無い。いずれは殺し合う定めなのだからな)
アーチャーの言葉に、ブリュンヒルドの心は締め付けられる。聖杯戦争とは本来『人を殺してでも』叶えたい願いを持つ者が参加するもの。偶然とはいえ、それに巻き込まれたことを嘆くばかりだったブリュンヒルドにはどうしても『当事者(参加者)』としての意識が持てない。
だからこそ、アーチャーの言葉にこう返した。
「でも…せっかくみんな仲良くなれそうなのに……なんかやだなぁ…」
>>606
その場にいた全員の視線がブリュンヒルドに向けられた。念話ではなく、無意識に呟いていたらしい。気配に気づいたブリュンヒルドが顔を上げると、ライダーと目があった。その鋭い双眸は、内面を覗きこまれるかのような錯覚さえ覚える。
「ほう……」
不意にライダーが手を伸ばそうとしてきた。
「ヒェッ……」
悲鳴のような息が漏れる。何か不用意な事を言っただろうか。地雷を踏んだのだろうか。サーヴァントのスペックでこれから自分は殺されるのではないか。
一瞬の間に様々な考えが去来する。頭が押しつぶされるように重たく、張り詰めた空気が流れる。
ローガンは魔力を練りはじめ、ランサーが一瞬身を引き、アーチャーが矢を取り出そうと身構える。その時、部屋のドアが開く音がした。
「おまたせー、ご飯出来たよー」
ドアが開いたその瞬間、張り詰めていた空気が一気に弛緩した。そこにいたのはエプロン姿で鍋を抱えるこの屋敷の主、夏美の姿であった。>>607
「おお、やっとこさ飯の時間か。待ちくたびれたぞ。…む、カレーか」
先程までライダーが放っていた殺気のような緊張感は一瞬にして消え、和やかな雰囲気を纏っている。とてもランサーと睨み合っていたとは思えない。
「みんなの好みがわからないから、とりあえず誰でも美味しく食べれそうなものにしといたけど……」
「な、な、な…夏美ちゃ〜〜ん!!」
若干涙目になりながら夏美へとすがりよるブリュンヒルド。こちらをじっと見つめるランサー。詳しい状況は掴めないが、なんとなく夏美は察した。
「ライダー、この子に何かしたの?」
「んにゃ、俺はただ面白い女だと思っただけだ。何もしてはいない」
釈然としない解答だが、しがみついてくるブリュンヒルドから鍋を守る為に追求を後回しにすることにした夏美。
「俺は帰るよ。このまま昼食をごちそうになるのも申し訳ないし…」
なにされるかわからないし、という言葉を飲み込んでローガンは席を立ち、ランサーを連れて帰ろうとする。
だが、ランサーは用意されていた食器などをテキパキ配膳しはじめ、自らもスプーンとフォークを持って椅子に座っていた。食べる気マンマンである。>>608
「………ランサー?」
「料理の腕をみてやるです。従者(サーヴァント)として、負けるわけにはいかないです…」
謎の対抗意識を燃やすランサー。ローガンは内心で頭を抱えた。
「お前…ここは敵の拠点だぞ?」
「あら。私は別に気にしないわよ?ランサーもこう言ってるし、せっかくだから食べていきなよ」
「俺が気にするんだ。なんだよせっかくだからって」
「まぁつべこべ言わずに食っていけ。夏美の料理は美味いんだ」
ローガンはため息を一つついて、部屋にいる人物を見渡す。ブリュンヒルドは既に食事の姿勢に入っている。アーチャーは…まだ部屋の隅にいる。恐らくランサーは食事を終えるまではここを立ち去る気がない。この状況で一人で帰るのも非常に都合が悪い。
「…わかったよランサー。君がそういうなら付き合うよ」
ローガンは椅子に座り直し、目の前の食器を手に取る。そうしている間に、夏美はテーブルの上に配膳をし終えていた。
「じゃあ、食べましょうか。せーの、いただきます」
やがて全員の前に料理が置かれると、夏美によって音頭が取られた。
こうして、三陣営の食事会がはじまったのだった>>609
ハクマ聖杯戦争 5/1 お宅訪問>>578
ルーカスがケージの一つの前で立ち止まる。
「この子がいい」
「ほう、ゴールデンレトリバーか。いいじゃないか、そいつの忠誠心は折り紙付きだぞ」
ケージの中で伏せた状態で目を閉じていた犬は自分が選ばれた事を理解したのか目を開けるとむくりと起き上がりルーカスの方を向き直る。そしてお座りの姿勢を取るとワンと小さく鳴き頭を軽く下げる。その姿はまるで忠誠を違う騎士のようでルーカスは「ほう」と声を上げる。
「ここに居る犬たちは子犬の頃からうちの所有する山で俺の使い魔が育てた。だから躾も教育も済んでいる」
「それは、大丈夫なのかい?」
その質問はもしもこの場にいる二人が敵対した場合、土壇場で裏切られやしないか。文字通り飼い犬に手を噛まれるなんて事にならないかを案じたものである。
「その心配は無用だ。俺達の仲だろう?────冗談だ。名付けを行い契約を結んだ時からこれの忠誠はルーカス・ソーラァイト一人に捧げられる。もしもその時が来たら育ての親だとか関係無くうちの使い魔を噛み殺.すことだろう」
なんでもない事のように冗談を交え答える京介は「当然、うちの使い魔より強くなっていればの話だがな」と付け加えた。>>611
「……まあ、自分の役割に忠実なのは良いことだね」
ルーカスはケージを開き、垂れた頭に手のひらを乗せて軽く撫でてみる。すると、従順な彼は姿勢を崩さずにそれを享受した。
「相性が良さそうでなによりだ」
「うん。反抗的で無いのは前提として、すり寄りすぎてこないのが良い」
ルーカスは手を離して一歩下がる。開かれたケージの中で忠実に座っている犬を京介が促して外に出してやった。
立ち姿はケージの中で受けた印象よりも大きく、しっかりとしていて、力強い。それでいつつも無用に乱暴な動きではなく弁えの見られる姿であった。
「あとは名付けの儀式だな」
そう言いつつ京介はルーカスに首輪を手渡す。金属プレートは刻印を待つフラットで、正式な命名が未だなされていないことを示している。
「ああ、うん。ええと、そうだね」
右手を自分の顎にやりながらルーカスは左手で首輪を受け取った。
「あまり捻った名前ではないけれど」
「名付けはセンスと直感だよ」
頭の中で名前になろうとしている文字列を繰り返しながら、うん、うんと幾度か口に出してルーカスは告げた。
「うん……うん、来るがいいよ、エゼルハンド」
彼は不躾に吠えるのではなく、ルーカスの持っている彼の首輪に自ら首を添えることでそれに応えた。
「ところでその心は尋ねても?」
「古典語での尊さと猟犬のハンド、日本的にはハウンド表記だったかな、の組み合わせだよ」
「なるほど、貴人(たかひと)みたいなものか」第一回の続きが書けましたので投稿します。
参加者の皆さまはご確認ください!>>615
はたまたある一家は、家のテレビで。
「あなた、もう始まるわよ!」
「ちょっ、ちょっと待て! 急に電話が」
「お兄ちゃん、頑張って……!」
そして開催地であるスノーフィールドでは、まさに最高潮の盛り上がりを見せつつあった。
「さあらっしゃい! 本日限りの、スノーフィールド決戦屋台だよ! ホットドッグにチュロス、コーラにビール! 何でも揃えてあるよ!」
「ここの観客席はもう一杯だ! 他所へ回るよう誘導しろ!」
『本日午前9:00より、南部方面の道路は封鎖となっております。ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解いただけますよう――』
「おい、そこの! どさくさに紛れて街を出ようとするんじゃない! 死にたいのか!?」
「何でもいいから、さっさとはじめろー!!」
客引き、誘導、警告、あるいは野次。怒声は束となって圧倒し、まるでそれ自体が巨大な生き物であるかのように錯覚すらさせる。
普段のスノーフィールドを知る者であれば、間違いなく唖然としただろう。
何しろ今や、その賑わいはNYや首都にも引けを取らない程にも達しつつあったのだから。
そんな狂騒の中にあって、黒野たちがどこにいたのかというと……。>>616
「……」
「……」
スノーフィールド南方、大通り。
普段は街の大動脈その一部として、東西北に通じる他ルート共々物流・交通双方の要を担う道であり、多くの自動車が行き交う場所。
その只中を、俺とランサーはバスに乗せられ走っていた。
無論このバスも大会運営が用意したものであり、運転手を除けば俺たち以外の乗客はいない。
そんなバスの行き先はというと――。
「……まさか、こんな形で挑む事になるとはなぁ」
事の起こりは今朝のモーテル前。決戦を覚悟しいざ外へ出た瞬間、俺たちは複数の大会スタッフに囲まれた。
『黒野双介さんですね? すいません、大会の事で少々お話がありまして――』
そのまま同じく待機していたバスに連れ込まれ、伝えられたのは本大会の決着場所に関する指定だった。
『本来であれば、このように指定はせず最後までマスター同士の選択と決定に委ねるのが規則です』
『ですが、何分今回は初開催。その決着戦ともあれば、せめて最後は有終の美を飾るにふさわしい場で行いたいという意見も運営側に一定数ございまして』
と、その後も色々何かと事情について説明していたが……要約してしまえば、以下の通りだった。>>617
・最終決戦となる場所は大会運営が指定する。
・その代わり、決戦場までの移動。また帰還まではきっちり運営が保証する。
・運営側からの援助は、これまで通り。最終決戦だからといってどちらかに肩入れしたり、またハンデを課す事もない。
・決戦場までは移動させるが、その後の展開はマスターとサーヴァント次第。ただし――
「『くれぐれも、市街に過度な被害を齎すような行為は慎んでいただきたい』ね」
「何とも大した方針転換だ。上の方で何かあったのでは、と勘繰りたくなるものだな」
「……俺も、正直そう思う。けど、こればっかりは考えてもどうしようもないだろ」
情けない話だが、俺からこの大会にどうこうできる力はない。所詮日本の一学生、ゲルトや朽崎のように修羅場をくぐってきた経験もなければルーカスのような魔術も持たない。
よしんば刃向かった所で、サーヴァントの維持を運営側が担っている以上勝ち目はゼロに等しい。下手をすれば、故郷に残してきた家族だって――
(結局、全部言い訳だけどな)
自分には何もない。ただ法外の運に恵まれ、訳も分からないまま生き残り、ついにはこうして最終決戦へと臨むに至った。>>618
聖杯大会に賭けるだけの望みでさえ、持ち合わせていない。それが俺、それが黒野双介という人間だ。
だけど――何故だろう。不思議な事に、罪悪感はあっても負い目や悔しさは感じない。
代わりに感じるのは、晴れがましさ。ある種の諦観というか悟りにも似た、清々しさだけがあった。
(俺にできる事はない。この大会を止めさせる事も、裏で蠢いてる奴らをどうにかする事も。大本である大聖杯を破壊する事だって――無理な相談だ)
運営からしてみれば、俺はさぞ扱いやすい輩だろう。
大した願いらしい願いも持たず、抱いた欲もささやかなもの。万一暴走されたとしても、『揉み消し』だけなら造作もない。
こんな大会を開けるような連中だ。それこそ、海も国境も越えた先の地方都市に住む一家族を始末するなど朝飯前な話だろう。
(だったら、乗ってやる)
俺が何かを仕出かす事を警戒してるのなら、『俺は』最後まで何も仕出かさない。
最後の最後、決着がつくその瞬間まで、この大会運営が望む『マスター』としての自分を全うしてやる。
『君は、君のすべきを、君の歩くべき道を、歩けては……いるのかな……』
ルーカスの問いかけが甦る。
少なくとも、あいつは身体を張ってでも何かを残そうとしていた。『何』を残したのか俺にはわからず、そしてそれが俺と『非日常(あいつら)』を隔てる壁そのものなんだろうとも。
なら――俺がやるべき、歩くべき道はただ一つだ。>>619
「ランサー」
「?」
「勝つぞ、この戦い。勝って聖杯を手に入れる、それで全部終わりだ」
今更といえば今更過ぎる念押し。傍からすればそうとして思えない発言だっただろう。
だが――ランサーは、全て理解したと言うかのように、いつもの笑顔で頷いた。
「――無論だ、黒野よ。其方がこの先、如何なる選択を選んだとしても――某は、其方の友として最後まで付き合おう」
(最後まで、か)
相変わらずの言葉遣いに、心中の照れくささを堪える。
思えば、よく彼もこんな自分と付き合ってくれたものだと思う。扱いにくい宝具に低ステータスなサーヴァントと、魔術どころか神秘のしの字も知らない一般人マスター。今振り返っても、真っ先に退場しなかった事が奇跡としか思えない。
それでも。俺たちは今、此処にいる。
何もかもが運任せで、紙一重や綱渡りと呼ぶにもご都合すぎる積み重ねだったとしても。
だったとしても。為すべき事は、まだ残っている。>>621
以上です
続きに関しては、またゲルト陣営さんと応相談という事で!お待たせしました。
第■回術陣営側の投下を開始します。プライマルアーマーに換装した銀河が、大量の人形相手に大立ち回りを繰り広げる。
あるものは拳で打ち砕き。
あるものは蹴りで切り裂き。
あるものは関節を極めて折り砕き。
あるものは投げ飛ばして壁・地面・別の人形などに叩き付ける。
「デェリァッ!!!」
人形の一体が振り下ろしてきた武器を横から弾き、カウンターの拳打を二発叩き込む。
後ろから来た人形には肘打ちで迎撃、横合いから同時に仕掛けてきた人形には肘打ちの反動を利用し、裏拳とカウンター気味のハイキックで吹っ飛ばして別の人形達に叩き付けた。>>624
「お次は、これだ!」
【ANIMA!】
プライマルからアニマに換装、金型が開くと同時に鋭い飛び膝蹴りからの肘と膝での挟み込みで人形の一体を破壊する。
「ウルルルル…………!」
銀河は、破壊された人形を押さえつけながら、獣のような呻きを上げ威嚇するように周囲を睨めつける。
人形、人形、人形。
人形が己を取り囲む。
「ガルルァッ!!」
追加パーツによって手の甲に付いた爪を展開し、人形を輪切りにしていく。
「オオァッ!!」
また別の人形に組み付き、頭にガジガジと齧り付き乱暴に鉄槌打ちを何度も叩き込む。
「あぐあぐ…………グ、ガァッ!」
かじっていた人形の頭部を咬筋力に任せて千切り取り、空中でバック転。
着地と同時に、後ろから襲いかかってきた人形を爪を用いて縦に寸断する。>>625
「次はこれッ!」
【GUNCERESS!】
左右から襲いかかってきた人形を受け流して同士討ちさせると同時にピースを交換。
「変身(トランス・オン)!」
金型を利用し、全方位からの攻撃を防ぐ。
金型が開き、妙齢の魔女のようになった銀河が姿を現した。
「魔法少女……─────以下省略!」
口上を省略して、フィンガースナップを行う。
すると、かわいらしい小悪魔のようなメカが中空に浮かぶ魔方陣から現れた。
「か、かわいい…………おっと!」
思わず見とれて意識が逸れた銀河の死角から来た人形の攻撃を魔女帽に搭載されたレーダー《ソーサリーシグナル》が察知、それを避けつつ足払いで転倒させる。
飛び退き、壁を背負った銀河は箒を構え、トリガーを引く。
電ノコのような音を立てて一斉に放たれた魔力弾は、大量の人形を穴だらけにしながら吹き飛していった。
「カ・イ・カ・ン……なんちって!」
「これもやっちゃうかァ!」
【INVELEMENT!】>>627
以上です。
どんどん人形が壊れた傍から自己修復しているため、俄然囲まれているという状況は変わっていません。外に出てみれば、その脅威度はすぐに理解出来た。街一面を覆う嵐。吹き荒ぶ強風に叩きつけるような雨。
「これが…バーサーカーの力…!?あ、あり得なくない!?サーヴァントって、ここまで出来るものなの!?」
ブリュンヒルドが雨の音に負けないように叫ぶ。魔術で通信していなければこの大声もかき消されてしまうだろう。ローガンははやる気持ちを落ち着かせながら考察を進める。
「嵐を……呼び起こす?東洋の神話か?いや、これは……?」
ライダー陣営と別れたのは失敗だったか。ローガンは軽く舌打ちする。東洋の歴史には詳しくない為、夏美からの意見も聞きたかったが、浅学の身であるローガンではバーサーカーの真名には辿りつけなさそうだ。
「(もっとも、わかったところでどうしようも無いだろうしな…)」
ある程度状況を俯瞰できる高台に辿り着いたローガンは、その惨状を目の当たりにした。民家の屋根は吹き飛び、看板は倒れ、木々や車が宙を舞う。かなりの距離離れているはずのローガンにも、雨風は痛いほど叩きつけられる。そこにあるのは明確な災害。ヒトが止めることの出来ぬ自然の猛威。
こんなものと戦えるのか。僅かに、しかしくっきりと、ローガンの心に『恐怖』が染み出してくる。>>629
「大丈夫です、マスター」
不意に手を握られた。ランサーだ。こちらの瞳を赤い目でじっと見つめてくる。
「兎(わたし)はデキる従者(サーヴァント)です。あんな五月蝿いの、一捻りしてやるです!」
グッ、と自信満々にガッツポーズをするランサー。だがパーカーから除く腕には未だ完全には癒えていない傷が残っていた。自分のせいで、つけてしまった傷が。
「そうだよな……いつまでも怖じ気づいてちゃいられないよな…!」
礼装を起動し、魔力を全力で回す。サーヴァントにこれ以上の負担はかけられない。こっちは全てをかけているんだから、迷いは無しだ。油断もしない。
「バーサーカーは現状危険だが、俺達の目的は他の陣営の戦力を調査することだ。戦闘によって消耗した、バーサーカーを叩くくらいの気持ちでいい。大事なことは『死なないこと』だ。いいな?」
はいです!と、ランサーは大きな声で返事をして槍を構える。暴風の勢いはとどまることを知らず、街を飲み込まんばかりの勢いに成長していく。
大きく息を吸って、吐く。そしてローガンは荒れ狂う暴風を見据えた。既にライダーや他の陣営が向かっているかもしれない。「勝てる」なんて言わない。ローガンはただ、「負けない」でいればいい。諦めなければ、多少はマシになる、ということを経験が知っていた。
「行け!ランサー!」
嵐の中へと兎が飛び出し、暗雲に向かって大きく跳ねた。>>630
5/1 槍陣営バーサーカー討伐戦導入
兎、嵐に飛ぶ暴威を増した風の化身が更なる破壊を生む。その暴風はアスファルトを剥ぎ取り、アレンのいる方向に砲弾として放たれる。
「マスター! 危ない!」
叫ぶのと同時、雷神の槌を手放したセイバーが抜き身の西洋剣を握る。その鋭い切っ先が、アレンに肉薄した瓦礫を両断した。
(ありがとうございます、セイバー……今のは……)
(ああ。私の剣はね、伸びるのよ。最大で5キロ。言ってなかったかしら)
(まったく……貴方には驚かされてばかりだ)
間一髪のところを伸縮する剣に救われたアレンは自らのサーヴァントの力に嘆息する。昼間は彼女との信頼を築くために『戦い』に関する話は一切しなかったが……先程のハンマーといい、この大女優には一体どれだけの隠し玉があるのか―――これは使えそうだ。アレンは静かに、それでいて迅速に今後の作戦を組み立てる。
(セイバー。僕にいい考えがあります)
(へえ。なにかしら? 名探偵さん?)
思考の時間は十数秒かそこら、答えを叩きだしたアレンは―――宝石の如き瞳を嗜虐の色に濁らせ。
(貴女の伸びる剣で、敵のマスターを狙いましょう)
そんな、とんでもないことを発案した。>>632
(……構わないけど。場所はわかるの? 確かに私の剣は伸びはするけど、居場所がわからない相手を狙えるほど便利ではないわよ?)
(ああ、そういうことなら)
首肯、抜刀、一閃。電光石火の早さで抜き放たれた太刀が、目の前の電線を一刀両断にした。そこから覗くのはネットワークケーブル。
恐らく今頃は、ここら一帯のネット環境が大変なことになっているだろう。
(……見えた。4時の方向です。これでは不足ですか?)
感電を恐れずに触れたアレンの指先から光が奔る。
行使したのは歯車狂い(グレムリン)―――機械を狂わせ、ネット環境を通じて対象をハッキング、あるいは同調させる。
アレン・メリーフォードの視界は今、町中の監視カメラとリンクしていた。
現在の日本において、監視カメラというものは増え続けている。加えて言えば覇久間は関東に属する都市だ。
―――アレン・メリーフォードからすれば、この街は彼の掌の中に等しい。
(いいえ、十分よ!)
そして、妖精と呼ばれた女が再び剣を振るう。
剣先は虚空へ向け、鋭く、正確に。
5キロに及ぶハリウッド殿堂の道路、その地に伸びる龍脈を鍛えし刃が狂戦士の主人に迫る―――!以上です
規格外の長剣が──明確な死が芽衣に迫っていた。
恐怖で身が竦む。逃げることも抗うことも出来ない。
(嗚呼……いつだってこうだ)
猜野芽衣の人生はいつだって間も悪ければ、運も悪い。
(ヘーゼルを召喚したのが……捨てられなかったのがいけないの?)
今になって後悔しても仕方ない。でも、そう思わずにはいられなかった。
ヘーゼルを無責任に見捨てられなかった。責任を持つつもりだった。
だが、芽衣には覚悟が足りなかった。サーヴァントという武力を持つ上で、他者と争い……命のやりとりをする覚悟が。
ヘーゼルは圧倒的で、自分にはソレを抑えれば被害を出さずに済むと……思い上がっていた。
(結局、私は“選ばれた”人間じゃなかったんだ……)
何故、剣士(ヘップバーン)が再度この世に現れたのか……自身に剣を振るうのか、芽衣には分からない。それでも……
(そうするのがきっと正しいんだろう。だって彼女は……あんなにも美しいんだから)
彼女の美しさを見て、納得と諦観を浮かべていた。
──でも、死にたくはないなぁ。>>635
◇
「カーラ、ダイアナ!!噛み潰せ!!」
芽衣に迫り来る刀身を二対の旋風が挟み込む。
風雨が描く螺旋が、さながら白刃取りの如くギチギチとセイバーの得物に噛み付く。
竜巻の間には並の物体が粉々に砕け散るほどの圧力がかかっているはずだが……
(これは、星の遺物か……忌々しい!)
フラカンのソレは剣を破壊出来ず、押し止めるのみだった。
(だが、破壊出来ないならばそれはそれでやりようはある……)
捕らえた長剣の刀身を暴風で引き寄せることで綱引きのようにセイバーの本体を手繰り寄せる。
最優たるセイバーに勝るほどの暴力が災害たるフラカンにはある。
(忌々しい、腹立たしい、赦し難い!!)
フラカンの身を支配するのは自身の契約者である芽衣への攻撃への憤懣。
いくら狂戦士であるフラカンであっても、マスター狙いが聖杯戦争での一つの定石であることは理解している。
しかし、それでも……
《アレはオードリー・ヘップバーンだよ。私でも知ってる、天使様みたいな名女優。》
フラカンの思考に去来するのはセイバーに対する芽衣の承継と劣等意識の綯い交ぜになった言葉。
彼女に天使と称されながら、彼女に名女優と評されながら……
「理想すらも芽衣に仇なすかッ!ならば、我が“全神全霊”をもってして貴様等の願望の尽くを蹂躙してくれるッッ!!」>>636
憤怒は突風を伴い、周囲の物体をを蹴散らし、意図せずして敵マスターの術中にあった監視カメラを破壊する。それが宣戦布告となる。
猛り狂った零落神性。もはや止められぬ、といったところでピタリと風は止まる。
──死にたくはないなぁ。
フラカンは気づいたのだ。芽衣の死にたくはない、という願望とフラカン自身の現状。
後代の英霊相手ほど出力が上がるフラカンの霊基は、近代の英霊(オードリー・ヘップバーン)と早退すれば神代の英霊に匹敵するスペックとなる。
しかし、当然ながらその分だけマスターである芽衣に負担を掛ける。
見れば、芽衣は先程から目を瞑ったまま、荒い息で胸元を抑えていた。
このまま戦闘を続行すれば、彼女の生命にかかわる。
「……命拾いしたな。だが、貴様等は。芽衣を脅かす全ては我が破壊し尽くす」
そう告げて、吹き荒れていた突風は収束し、芽衣を担ぎ、空へと舞い上がる。
神霊としての誇り、サーヴァントとしての本懐に背を向け、フラカンはセイバーの前から遁走した。
◇
ここまでです「あー……これは、なんとまぁ…」
マスターと別れ街中を駆けキャスター、柿本人麻呂が辿り着いたのは肆乃森。しっちゃかめっちゃかに降ってきたり煽られてきたりした大小さまざまな人工物、或いは植物を潜り抜けた先に広がっていたのは、もはや超自然的と形容しても差し支えないほど強大な嵐と、それを囲って多種多様な手段を用いてそれに対抗する他陣営のサーヴァントたち。自覚はあったが、相当に遅参してしまったようだ。
嵐を起こすような強力なサーヴァントとはいかようなものか、と思ったがまさか嵐そのものとは思わなんだ。もしくは、宝具で嵐と一体化でもしたか。現状、その答えを述べてくれる者はいない。皆人麻呂の登場にさえ関心を示す気配なく交戦している。
数本の太い矢が風を切って飛ぶが、残らず暴風によって流される。宙を馬が駆っている。兎の耳をした────昨日マスターである男性と懇ろになっていた少女が武具を手に果敢にぶつかっている。この場には不釣り合いなのではないかと思えるような風貌の女性が、伸縮する剣を携え嵐を睨み、公園で出遭った少女と男が魔術で、キャスターである人麻呂よりもだいぶと緻密な魔術で牽制している。が、そのいずれもが嵐を仕留める決定打には届かない。
「原因ってなると、やっぱ…」
不意に向かい風にあおられ転びそうになるのを、近場の大樹を掴んでなんとか回避する。
そう、この嵐の脅威は何と言っても強風と驟雨だ。風によって物理的な攻撃は軌道をそらされ外れるし、雨によって地面はぬかるみ足を取られそもそも攻撃に専念できない。嵐の、嵐であるが故の恐ろしさが端的に表されている。
だが、この状況。人麻呂には打開策がある。
『───テステス、しもしもマスター。こちらキャスター。応答どうぞ』
『────え、あっ…あ、キャスターさんですか…えぇと、こちら郁です、どうぞ…』
『よしよし、通じてはいるな。急にですまんが、宝具を使ってもいいか?』
『宝具って…あの…』
『大丈夫、ダイジョーブ博士。主の危惧してるほうじゃあない。この野分を止めるにはこれしかなさそうなんでな、キャスターさん、胡坐もかいていられないデース』
『それは…良かったです。宝具のほう、了解しました。……どうぞ』
『うむうむ。あいわかった。39つかまつる!したらば!』>>638
マスターとの通話を切り、場に似つかわしくない安堵とも得意ともとれる笑みをこぼす。ここまでくればこっちのもんだ、とまでは言わずとも、これで嵐の脅威の多くは取り除けるだろう。そこを他のサーヴァントたちに頑張ってもらう。今はそれが一番の勝ち筋だ。
「……『花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ』か…」
ふと、そんな詩が浮かぶ。それは、共同戦線を張っているサーヴァントたち、ひいてはそれらのマスターの行く末を指してもいるようで、はたまた、嵐に罹災し分かたれた無辜の者たちのことを指しているようで。しかし、だからこそ、今この時を重んじれと、己を叱咤し嵐へ顔を向ける。石やら雨やら枝やら瓦礫やらが撲ってくるが、臆することなく人麻呂は声高に謡う。平穏への帰途を、別離への哀歌を、勝利への筋道を────キャスターが「柿本人麻呂」であるが故に持つ言葉を。
「『桜花
咲きかも散ると
見るまでに
誰れかもここに
見えて散り行く』
────狂ひ咲きとて一時の花房に揺られし野分の波の間哉。故あって始めし言違。然れば皆皆奔走す。武運長久虚々実々、その背を押すは我が言の葉。その身を慰むるは我が祝詞」
「────『言霊行幸・人麻呂影供(ことだまのさきわうくにぞ まさきくありこそ)』」
最後を締めくくると同時に、人麻呂の身から淡い、燭光のような光が輪のようになって周囲に広がっていく。やがてそれは嵐を、それを囲うサーヴァントたちを、肆乃森を包んでいき、留まることを知らない。
無論ただ光ったわけではない。その後の現象こそ宝具の骨頂。言違の髄。
風が勢いをなくし、雨が異なる物へ変わる。儚い色をして、ちらちらと、はらはらとサーヴァントたちへ降り込めるそれは桜花。どこからともなく、季節外れの花弁が視界を彩る。
それだけではなく、人々の体温を雨と共に奪い体力を削った暴風は温もりと穏やかさを内包した麗らかな恵風へと変じた。人世の悉くを壊さんとし、人々に怖れや嘆きを抱かせた嵐の猛威は失せ、戦う者を鼓舞し、喪った者を慰める春の恵みが現れた。>>639
人麻呂の宝具は、すなわち「言違」。世に溢れるありとあらゆる現象に人は言葉をつけ、意味を見出し、魂を宿す。その概念を言葉を介して反転、又はでんぐり返すのがタネとなる。とはいえ嵐も同じサーヴァント。いずれ勢いを吹き返すのは目に見える。魔力の方は問題なく、つまるところこれからは他のサーヴァントたちのスピード勝負だ。
前方を見遣ると、あっけにとられはしてもすぐに皆我に返り今が好機と各々攻撃を展開する。本調子、いやむしろ絶好調といったところか。
「敵の防御の要を潰しただけでなく味方をバフれるとか、マジ小生ジーニアスだわー。言霊界のハンカチ王子だわー」
自画自賛をするも、人麻呂にかかずらったり突っ込んだりする者は誰もいない。そもそも存在を今ので漸く気づかれたぐらいではないか。
ともかく、これから人麻呂がすべきことは嵐の勢力のぶり返しに備え、それを押さえ続けること一点に尽きる。他から見れば相当呑気してそうだが、当然そんなことはない。が、今はひとまず余裕がある。即刻倒してほしくはあるが、その前になるたけ長いことサーヴァントたちを観察して少しでも多くの情報が欲しくもある。
「ふふん、こんなこともあろうかと!」
そう言いながら懐から取り出したるは双眼鏡。人麻呂がすることは唯一つ。座して待つ。ついでにその間に情報も収集する。警戒している風にして、すとんと腰を下す。
なんでお前何もしなかったんだ、などと糾弾されれば、皆に適宜支援ができるように慎重に身構えていた、と答える。嘘は言っていない。全て真心からの考えだ。それ以外にちょっとした二心があるという、ただそれだけ。
「どうせなら、この戦いが終わったら宴会でも……っと、これは死亡フラグってやつだったわ」
また独り言を放つ。彼の関心は、もうすでに戦いの後に向いているようである。>>640
以上、覇久間聖杯戦争キャスター陣営5/1「残りし花も又散る花なれば」でした。うわっ、困った事になったなあ。
此方を取り囲んだ人形達は燃やしてもすぐに再生するし、そもそも針や弾丸を叩き落としてくるからこれ以上近寄らせないので精一杯。
いや、周囲を見渡す余裕あるけど、攻めに転じれない。
バーサーカーは他のサーヴァントと乱戦状態。
どうにか逃げようとする小聖杯持ちを妨害するのは一致してるからマシだけど、全員が無差別に攻撃してるし……。
人形使いのオーレリアさん、だっけ?と戦ってる少年はじわじわと追い詰められてるし……あ、今光の鞭?で薙払ってるのは銀河さん……でしたっけ。
【ANIMA!】
獣人みたいなのに変身して、光の鞭を潜り抜けた人形を殴り飛ばす。
その背後に居た人形が刀を振りかぶったら、振り向いてそいつを殴り飛ばす。
「まだまだ!」
攻めに転じて、飛び蹴り、サマーソルト、再びジャンプして両手の爪を振り下ろす……よく動けてますけど、少し危なっかしいですね。
着地の隙に距離を詰められてますし。【PRIMAL!】
再び変身した銀河さんが左手の掌打でクナイを受け止めるとほぼ同時に、右手の手刀で頭を叩き割る。
それでまた一体倒れるけど、まだ囲まれてるし……ちょっと援護射撃してみよう。
此方に居る人形を燃やすついでに、あっちの人形を燃やしてっと……。
銀河さんが囲んでた最後の一体に拳を振り下ろして、そのまま他の人形達の群れに向けて殴り飛ばした。
「ありがと、お姉さん」
人形に関節技をかけて、そのまま関節部を凍らせて砕きながら銀河さんがお礼を言ってます。
良い子ですね。
「良いよ。あの人形相手にするのの面倒だし」
再びのサマーソルト、手甲から伸ばした刃で左右への二連斬り、回し蹴りからの空中ソバット。
此方の援護射撃もあって少しずつ銀河さんとオーレリアさんの距離が縮まってきて……けど、予想外の形で戦況は塗り替えられた。この戦いには宝具・令呪を除いた最後の切り札……大会の為に学友から貰った魔術師なら誰でも扱える、使い捨て式ルーンストーンを持ち込んでいた。
皮袋の中に十数個が入ったそれ等の戦果は……最初に放たれた小規模な魔力砲撃で相手を少し驚かせただけだった。
天音木シルヴァ……いや、オーレリア・ベルリーズは強い。
火球・風刃・激流・石柱といった攻撃は軽くあしらわれ、加速や防壁といった強化も全く通用しなかった。
そして今、ベルカナのルーンによる思考加速も彼女の戦闘経験の前に効果時間切れとなった。
残るルーンは3つ。
「勝つ為にあらゆる手段を講じる姿勢には好感が持てますが、付け焼き刃が過ぎますよ」
恐怖を誤魔化すように、ウルズのルーンで威力を強化した袖口の鎖を放つ。
しかし、最初の一撃と同様にその一撃は弾かれた。
「借り物の礼装のようですが、神秘(しゅつりょく)が足りませんね」
「ま、まだだ!」
テイワズのルーンによるバックアップで、ポケットに入ってる鎖を全て射出。
今出せる最大の攻撃……その全てが迎撃された所で、世界が塗り替わった。「『晴天重なる小世界(アレクサンドロス・コスモス)』」
そういう声が聞こえたと思ったら、青空が広がる砂漠に居た。
あの部屋に居た者の内、盾持ちのサーヴァント以外の全員が一纏めにされている。
そしてそれを真っ正面に見据えるのは、無数のヘタイロイ。
こんな事が出来るサーヴァントは……?
『固有結界だ。盾持ちのサーヴァント、ライダーの宝具だ。マスター、こっちも弟達を……じゃなきゃ、此処で擦り潰されるぞ』
使えばほぼ確実に真名がバレるであろう宝具の使用……だが、大体動く前に俺の意思を確認していたアサシンがあそこまで言う以上、他に手は無いのだろう。
そして、魔力に不安がある以上、小聖杯を持たない状態で宝具を維持し続けるには……。
「令呪を以て命ずる。宝具を使え、アサシン」
「一つの肉塊より産まれし、99人の弟達よ。今一度、お前達の命をくれ。『兄弟よ、此処に集え(カウラヴァ)』」その言葉と共に99人のサーヴァントが光と共に現れ、
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運D 怪力D
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力D 幸運D 仕切り直しD
筋力E 耐久D 敏捷E 魔力D 幸運D 自己改造D
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 投擲:短刀D
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 投擲:指弾D
といったステータスが並んでいく。
そう、アサシン:ドゥルヨーダナと合わせてカウラヴァの百王子が此処に揃った。
「ドゥフシャーサナはマスターを守れ」
「おう!任せろ、兄貴!」
そう叫んだ弓持ちの男がカウラヴァの次男、ドゥフシャーサナ。
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運E 戦闘続行C
と、ビーマとの因縁といったエピソードが有るからか、唯一ステータスやスキルにCランクを持ち、兄同様にアスリートの如く引き締まった身体をしている。「ヴィカルナは俺に付け」
「へへっ、兄貴の背後は意地でも守りますぜ」
槍を持った細身の男がそう返す。
筋力D 耐久E 敏捷D 魔力D 幸運E 直感D
というステータスを持つ彼が、パーンダヴァとの賭博の際に途中で制止しようとした人だったか。
いや、今はそれよりも。
「アサシン、ライダーの真名はディアドコイの一人、ペウケスタスの筈だ。あれだけのヘタイロイを召喚出来て、特徴的な盾を持ってるなら恐らく……それと、これを!」
「ああ、ありがとな」
最後に残ったフェイヒューのルーンでアサシンの幸運値をブースト。
サーヴァント相手だと効果は微々たる物でも、やらないよりはマシな筈。
「俺はライダーを狙う。弓持ちは援護射撃を。残りの皆はあの軍勢を押し止めろ」
そして、雄叫びと共に双方の軍勢が駆け出した。以上、第■回の更新でした。
>>602
「何…?」
亥狛はそう返すことしか出来なかった。反論の言葉が思い付かなかった。
願いの否定をいとも容易く行ったアサシンは、そのまま亥狛の正面に胡座をかいた。
「人間はね、どうしようもなく根本からダメなんだよ!本当に綺麗ならばーーーこんな頭のおかしな戦争なんて開かないんだから!」
違う、と亥狛は口にしようとした。だがそうはならなかった。
聖杯戦争はサーヴァントを使役し、手段を選ばす他の参加者を蹴落とし、一般人を巻き込み、最後の一人になるまで殺しあう。亥狛も参加者である以上、その一人に過ぎない。
遠くから聞こえる救急車のサイレン。誰かの苦痛の叫び。
人間になりたいという彼の願いは、折り重なった苦しみと犠牲の上にしか成り立たない。
亥狛は自分に問いかける。目の前で消えかけている怪人と自分の違いは何だ?
「………」
「もう一度聞いてあげるよ。本当に人間になりたい?私みたいなのになりたい?怪物のままでいた方が…まだマシかもよ?」ライダーの召喚した騎兵隊の数は圧倒的だ。
アサシンの召喚したサーヴァント達が食い止めてるから俺でも対処出来てるけど、正直厳しい。
アサシンが召喚した奴の内、弓を持ってる奴は、アサシンのマスターに付いてる一人を含めて残り二人……いや、さっきマスターに付いてない方が投槍で頭を砕かれて残り一人。
他の奴等は剣とか槍とか斧とかで戦ってるけど、槍で首を貫かれたり、右脇腹を刺されて倒れた所を馬に踏み荒らされたりでジリ貧。
他にも、ランサーが魅了した兵士の腹を貫いたり、変身を繰り返す少女が左ジャブからの右正拳突きで心臓を破裂させたりしてるけど、ライダーの所まで辿り着くには距離が遠過ぎる。
そして、俺も敵の密度が多すぎてライダーの元に転移出来ず、落馬しても立ち上がって戦おうとする敵兵に囲まれる始末。
敢えて大鎌を短めに構え、槍の間合いよりも近くへと飛び込んで首を刈り取っていくが……。
「ぐはっ!」
兵士の一人が隠し持った剣が、俺の鳩尾に突き刺さる。
咄嗟に火を放つが、奴を焼き払う直前に再び剣が腹を貫く。
致命傷……敵の居ない所に転移するのが限界だった。
そんな俺に、マスターからの念話が届く。
『やられましたね……仕方ないですけど、このままでは終われないでしょう?』
『ああ……だが、もう立てないぞ……』
『じゃあ、これなら……令呪三画を以て命ずる。再び立ち上がり、限界を超え、全てを焼き尽くせ!』振り下ろし、振り上げ、薙払い、唐竹割り……一向に減らないヘタイロイ。
弟達は一人また一人と倒れていき、最早半数が命を失っている。
そんな時だった。
「『憐れみの火(ウィル・オ・ザ・ウィスプ)』」
致命傷を負って戦線離脱した筈のバーサーカーの宝具だ。
その身を炎へと変え、ヘタイロイを焼き払っていくバーサーカー……今にも崩壊しそうな霊基を令呪か何かで無理矢理繋ぎ止めているその姿は自爆特攻とさえ言えるだろう。
軍馬に跨がったライダーへと向かう炎、それに対してライダーは盾を構え……。
「『蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)』」ライダーの宝具……盾より展開される極小の世界が炎を容易く防いだ。
だが、炎はこれでは満足出来ぬと周囲のヘタイロイを燃やしていき……俺の弟達を諸共に、いや、この俺すらも焼き尽くすつもりのようだ。
ランサーや銀河とは違い、既に敵陣深くに居る俺は、ヘタイロイ共が邪魔で逃げ切れない。
「兄貴!」
ヴィカルナが後方に槍を投げた。
陣形に隙間が出来るヘタイロイ……全てを察して逃げる俺。
弟が命と引き換えに開いた血路……なら、
迷わず駆け抜けるしかないだろ。
そして、俺の背後で消えていく熱量。
弟達ごとヘタイロイを焼き払った炎が……バーサーカーが消滅した瞬間だった。以上、第■回の更新でした。
>>650
思考は黒へと塗り潰されていく。
負の想念は更なる負の感情を生んで、心はより深い方へと沈んでゆく。
人間になりたいが為に聖杯戦争に参加したのに、人里に降りて目の当たりにするのは人間の嫌なところばかり。
本当にコレが自分が追い求めていた人間というやつなのか?
そもそも自分の思い違いだったんじゃないのか?
そんな気持ちに襲われる。
以前から自覚していなかった訳じゃない。
けれど、まさかそんなつもりはないと、何処か心に蓋をしていたのかも知れない。
ソレが今し方になって蓋をこじ開けて顔を出しただけのこと。
否が応にも向き合わなきゃいけない、そんな時間なのだ。
目を疑いたくなる光景が広がっている。
その原因は聖杯戦争であり、ひいては自分達の選んだ行動の結果だ。
「───、────」
息が詰まる。
仮面の怪人が言うように、人間の本質は悪なのだろうか。
ヒトという生き物は願いの為ならば他者を容易に踏み躙れる者達なのだろうか。>>656
────人の根っこが本当に悪なら、あんな言葉は出てこない筈なんだ。
“……アイツが、悪な訳がないだろ“
握る拳に力が宿る、それは目の前の相手を否定する為の力。
アサシンの言葉を肯定すれば、あの日屋上で交わした言葉でさえ嘘と欺瞞に満ちたものに変わってしまう。
そうしたらもう、玲亜とは素直な気持ちで二度と逢えない気がする。
それだけは、ダメだ。
目の前にいるのは手負いとはいえ英霊(サーヴァント)、自分の命を容易く猟り奪る術を持つ者。
此処には自分を護ってくれるランサーはいないし、下手をすれば気分を害して刃を向けてくるかも判らない。
でも此処は譲っちゃいけない。
「……違う、人間に汚いところがあるとしても。そればっかりじゃない。
確かに悪い面もあるだろうし、間違いも犯す。けれど人間の本質は決して捨てたものじゃあない」
「知った風な口で言うんだね」
「俺はもう知ってたんだ。答えは既に提示されてたんだ、ずっと身近なところに。
ただ近過ぎて気付かなかっただけだ」>>657
そう、指針は既に示されていた。
亥狛自身が憧れるに足る“人間“というカタチへと至る羅針盤。
それさえあれば、迷いはしない。
たとえ暗く寒い夜が続こうとも。
「けれど目の前の惨状は現実だ。この私という怪人は現実だよ。
君が聖杯を得ようとする限り犠牲は避けられない、私と同類になるのは避けられないさ。
蹴落として、薙ぎ倒して、死屍累々の山の上にしか聖杯は舞い降りてこないんだよ」
「だからと言って関係ない誰かが傷付く必要なんてない。
自分達だけで完結すれば良いはずなのに、誰も望んでいないのに意味のない犠牲が出るのだとするなら、それはきっと誰かが望んでそうしてるってコトだ。
────俺が憎むべきなのはきっと、無意味に人を傷付けて回る誰かなんだろうよ」以上です。
>>661
>>662
>>663
>>664
>>666
>>667
>>668
フレ「かしこまりましたー。少々お待ちくださいね」
ナン「……店長、店長」
フレ「? どうしました?」
ナン「バゲット、無いです。さっき賄いに使っちゃって」
フレ「ええっ、貴方、普段はコンビニで済ませるくせになんで今日に限って……!」
ナン「ちょっと買ってきますね! 5分で帰ってくるんで!」
フレ「それはいいですけど、誰かに見られないようにしてくださいね! 真っ昼間からか空飛んでるところを見られたら大変なことになるんで! ほら、透明化の礼装も持って行って持って行って!」
ナン「はーい! いってきまーす!」
フレ「やけに聞き分けがいいような……! ちょっとナンシーさん! あなたもしかしてただ空を飛びたかっただけでしょ!? ……行っちゃった。もう。申し訳ありませんポルカさん。そういうわけなので、バゲットは少々お時間頂きますね……………というかみなさん、もしかして今の会話聞かれてました?」>>669
ポルカ「つってもシーザーサラダとコニャックは出してくれんだろ?なら別にいい。オレもドリーンさんみたいにつまみは持ってきていましたし、テキトーに食っとくわ」>>669
アンゼ「聴こえるし感じるけどぉ。……ま、特段気にする事でもないと思うわぁ。私としては、この場にいるだけで大分楽しい状況なわけだし?」>>669
恋「あ、お気になさらず〜」ナン「ただいま戻りましたー!!!!」
フレ「背中! 背中背中!! 背中の羽根見えてるから! しまってしまって!!!!」
>>670
フレ「いらっしゃいませー。空いてるお席へどうぞー。ザッハトルテとミルクティーですね、少々お待ちくださいね」
>>673
フレ「うう……普段はこんなんじゃないんですよぉ……もっとこう、大人の隠れ家、的なあ……」
>>679
ナン「正確には従魔憑依(ポゼッション)で翼を生やして飛んでるだけで、私も飛行魔術単独じゃ無理だよ。浮くのが限界ってところかな。まあそれも羽根に頼ってるんですけどね! ははは! はぁ……虚しい」
>>680
フレ「いやあまあ、確かに便宜上私達がホストにはなってますけど。あの子も元は魔術師ですからねえ。基本接客とか無縁でしょ? ある程度目をつぶってもらえると助かりますね」>>686
桃夢「失礼を承知で言うけど、タケコプターじゃ駄目やったん?」>>690
フレ「ええ、腕によりをかけたザッハトルテを提供してみせますとも」
ナン「空の神秘、かあ……考えることは同じなんですねえ……」
>>691
ナン「そうでしょそうでしょ? この辺は魔術も化学もそう変わらないなって私は思ってます。航空力学とかめっちゃ面白いですし」
>>692
フレ「お待たせしましたポルカさん。こちら燻製ベーコンとスモークチーズのバゲットです。チーズの方大変熱くなってますので気をつけてお召し上がりくださいね」
ナン「拝竜魔術、でしたっけ? 翼を生やして飛行、くらいは出来そうですけどねえ……いいな、竜の翼とかめちゃくちゃかっこいいな……!」
>>694
フレ「いらっしゃいませ……お疲れ様です。こちらのお席にどうぞ。ご注文が決まりましたら私かナンシーさんにお声かけください。材料があれば大体のものは作れるので」>>707
ポルカ「まぁなっ?はしたないと思われてしまうかもしれねぇけど、オレは割と大食漢でね。それに加えて食事を残す、という行為は嫌いなものでして。そうだルナさん?私のシーザーサラダ、ご一緒に如何ですか?」>>700
桃夢「それならどうぞ。美容効果にうってつけやで」黒江「賑やかになってきたわねぇ。やっぱり、魔女の宴はこうじゃないと」
>>732
ポルカ「こっちでもいいですよ?燻製ベーコンとスモークチーズのシーザーサラダとバゲット
、分けてやる」>>740
黒江「それはそうよ、黒魔術師だもの。注文と言えば、私のたまごサンドとホットココアもまだかしら?」>>750
ルナ「あれ最初の優しいおねえさん…? わっかりましたー」>>752
恋「やったーお友達。そしたらこっちでお互いの弟妹について話しましょう?丁度注文してたスイーツも来たことだし」
注文に関しては適当なタイミングで描写省いて届く感じのイメージ。広大な砂漠に広がる巨大なクレーター。そこが最終決戦の会場になると説明され、バスから下ろされた一行は各々の感想を零す。
「なんだこれ……砂漠の中にクレーターって、自然現象で起きるものなのか?」
「否、微かにだが魔力の残香を感じる。これはもしや────」
双介とランサーの呟きにアーチャーは答える。
「ええ、この残痕はサーヴァントによるものでしょう。少なくとも対城宝具以上の出力が衝突したものだと」
「こりゃ、壮絶な前回だったみたいだね。末恐ろしい」
呆れた様子でゲルトはため息をつく。
次にその末恐ろしさをなぞるのは自分たちであるという嘆息も含めてのものだ。
「それで、いよいよ最後の戦いなわけだ……黒野くんは準備できてるかい?」
「……ああ、覚悟は昨日済ませてきた」
威勢を張り、ゲルトを見据えるように相対する。
その目に迷いはない。恐れはどこかに残っているかもしれないが微々たるものだ。
一般人家庭の出身で、聖杯大会という儀式がなければ魔道とは決して交わることのなかった彼は、随分と勇ましい顔つきに成長していた。>>754
「はは、いい目をしてる。オレなんかとは大違いだよ」
「なんか、アンタは最初の頃と印象が変わったな。いつもヘラヘラして軽薄な奴だと思ったのに、今は……自嘲ばかりしてる」
「オレからすれば君は眩しすぎてね、その分、自分の影の深さが浮き彫りになって嫌になっちゃうんだよ。元来、オレは暗い性格をしてるんでね、実際にはこれが平常運転なのさ」
ゲルトは肩をすくめる。
そう、彼にとっては後ろ向きな性格は素で、軟派な性格はそれを覆う仮面に過ぎない。
誰一人として信用せず、軽い言動も、浮ついた気持ちも、全ては他人との距離を計り、一定の壁を作ろうとしているからだ……それに引っかかる地雷系の女難は生来の運の悪さだが。
これまでの人生は忌々しいの一言で済ませられる程に酷く、人間という生き物に対して信用を完全に無くしてしまった。
信じられるのは自分のみ。それ以外は全て“人の姿をした悪鬼”としか認識できない────故に、黒野双介という人物のと出会いは、予想外の心変わりを齎らした。
聖杯大会という接点で知り合った一般人。魔術回路もなければ、魔術の世界すらロクに知らないにも関わらず興味本位で凄惨な戦いに身を投じた青年。
ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の愛情の中で育った、ごく普通の感性の持ち主。
戦いに勝ち残る為、彼と同盟を結び、必然的に接する機会があった……その中で、ゲルトは当たり前の人間性を垣間見た。
危惧していた悪意はなく、恐れていた異常性も見当たらない“ごく普通な人の姿”。
今まで勝手に敬遠して、触れ合う機会のなかった当たり前に、いつしかゲルトは毒気を抜かれていた。壁を作ることを忘れていた。
もしかすれば、これまでの間突き放してきた女性たちとも向き合っていれば、もっと早くに感じていたかもしれない。
そんな考えに至るほどに、黒野双介の存在と、聖杯大会という数日の時間は彼の姿勢を劇的に変えたのだ。>>755
「さて、ずっと立ち話もなんだし、黒野くんに提案がある」
「提案?」
「ああ、きっと君にとっても悪くない話だ。この最終決戦……戦闘はサーヴァントのみで、マスターの介入は無しとする、だ」
「はあ!?」
突拍子もない提案だった。
その内容は双介側の戦況はただ優位にするものであり、ゲルトには何のメリットもない。にも関わらず、このような提案を持ちかけてきた執行者に対し、双介はやや怪訝な視線を送る。
「そんな疑いなさんなって。特に仕込みをしようって腹じゃない。ただ単に、最後に君と残れたんだから公平な戦いにしようかなってね。マスターの干渉が有効になれば、サーヴァントが戦っている最中に君の首は簡単に取れる……分からない訳じゃないだろう?」
「……だからこそだ。あんなに聖杯を求めていたアンタが、どうして?」
「心境の変化としか言えないね……納得できなくとも、納得する他ないんだよね」
「……分かった」
双介は提案をのんだ────否、のむしかなかった。
相手側から自身にとって好条件を提示してくれたのだ、これを逃す手はない。それに、絶対に勝つと決めた以上は、仮令イージーレベルを選択しようとも勝利しなければならない。
この決戦場に立つ上で固めた、彼なりの意思の表れだ。故に止まらず、止まれず、立ち止まる事は許されない。>>756
「よし、決まりだ。サーヴァントも双方とも、異論はないね」
槍兵と弓兵、戦いで勝ち残った二騎は静かに頷いた。
「それじゃ、スタートの合図は公平になりように……このコインが地面と接触した瞬間にしよう」
そう言ってゲルトは懐からコインを取り出す。
なんの変哲もないアメリカ貨幣の1ドルコイン。種も仕掛けも……魔術さえも施されていないのは、ランサーの眼力からも確認できているので、何も言うことはない。
「開始の火蓋はこれ一度きり。泣いても笑っても後戻りはできない。これぞ“Sword,or Death”……は言い過ぎか。兎に角、お互いの栄光の為に────」
前口上を終え、ゲルトは硬貨をコイントスの要領で弾く。
空中に投げ出された硬貨は、アーチを描きながら両者の間に落下していく。>>757
『────────』
一触即発の緊張感のせいか、地面と接触するまでの合間が異様に長く感じてしまう。
まるで、コインの一回転が一秒に感じてしまうように、心臓が刻む鼓動と連動しているかのように思えた。
まだか、まだかと、内心に燻りが積もり、双介は生唾を飲み込み、ゲルトはゆっくりと閉じていた目蓋を開く。
そして────砂漠に小さな鐘が鳴らされた。蒲池夏美は他の陣営のマスターやサーヴァントたちとの食事を終えて、片付けの最中、異質な悪寒に見舞われた。
「──!」
まったく励起されてないはずの魔術回路が、まるで痙攣するかのように疼く。妖精眼が周囲の空気中のマナに異常な乱れが生じているを見て取った。その異常に同調した魔術回路が乱脈に陥っているのだ。
それは彼女だけに起きていることではないだろう。同じことがブリュンヒルドやローガンにも起きていると思われる。ライダーたちサーヴァントもその知覚力から異常を感じ取っていることだろう。
「これは……八ツ原みたい」
夏美の妖精眼は異常な魔力の発生源までもが明白だった。ライダーが黙って席を立つ。冷厳なる覇気を漂わせる彼は、既に戦場に臨む戦士の雰囲気だった。
「あの野分の影響だな?」
「え……ああ、バーサーカーのことね。たぶんそうよ」
聖杯戦争の監督役である食満四郎助から、各マスターのもとへ連絡が入ったのはそのすぐ後だった。
夏美やライダーの判断と行動は迅速だった。先行してライダーがバーサーカーのほうへ向かい、夏美が後を追った。
神馬を駆るライダーは暴風を斬り裂きながら移動する。神威を含むその風雨はライダーや神馬の身に降り注ぎ、ぶつかるたびに彼らの侵攻を阻む。
神気を帯びた雨風がライダーの身体にまとわりついて重さを感じ、心なしか求黒の走力も減速している気がする。大気を伝播するバーサーカーの気配に、これまでにない激戦を予感してライダーは面頬の奥で獰猛に笑った。>>759
短いですが、以上です時間になりましたので男子会を始めます。メンバーと話題を貼りますね。
参加者
在原業平:ディック
黒野双介:ひーさん
山中鹿之介:黒鹿さん
日向優人:灰さん
スィレン:中納言さん
高円寺:島さん
・話題:サーヴァントに対しては歴史的な出来事の実情インタビュー、マスターに対しては普段どんな生活をしているか等
カフェ・アントラクト。
そこはあらゆる世界線、因果律、時間軸から解放された(細かいことは気にしなくていい)世界。
その日、店内の一画では男子会が開催されていた。
「よく集まってくれた。この会合、幹事は私が務めさせてもらおう」
揃った面子に向かって、洗練された美男子──在原業平がそう宣言した。
六歌仙の1人。『伊勢物語』の主人公「昔男」のモデルと言われる。和歌が巧みで、平安時代を代表する色男として名高い近衛府の花である。
「せっかくの機会だ、当事者視点の歴史を話の種にでもしてもいいんだぞ」>>761
スィレン「やぁ。みんな久しぶり。……もしかして、少し遅れてしまった?」
席に座り、荷物を置く。気兼ねはなくとも、その一挙手一投足にはどこか楽し気な心地が見え隠れしている。
それもそのはず、なんせ日本人の知り合いとの再会、そして日本の偉人との邂逅だ。幼少期から日本について興味を持ち続け、本やテレビの特集なんかで情報を集め、それでも憧れが尽きずにいた、そんな国。そこをよく知る人々とこうして話し合いの機会を得られれば、スィレンとて興奮してしまう。実際、支度には普段の三倍手間取ってしまった。
「えぇっと…レモンティーを頼めるかな…いや、でも、どうせなら抹茶ラテっていうのも…」
この通り、上がりっぱなしである。>>766
「友達、ね」
近くの席に座った『英霊』たちにそれとなく目を向ける。
片や平安時代の歌仙、片や山陰の麒麟児と呼ばれた忠臣。
初めて会った時は新手の冗談か妄想癖のある変人かと真面目に疑ったものだが……その後、両者につらつらと当時の風景や出来事を語られてからは深く突っ込まない事にしていた。
それはそれとして日向よ、お前大学生にもなってそのTシャツはどうなんだ。>>782
「む? そ。そうか? いかんな、ついその気になってしまう」>>793
スィレン「本当?なら、聞かせてほしいな。無理にとは言わないけれど…」>>795
うわあ!しょっぱなから名前ミスです。>>799
一番上座にドカッと腰を下ろしてアイスコーヒー(アイコ)を注文します。>>808
「あ!?なんだよすでにもらってんのかよ!いいな!日向!!俺、まだもらってねえんだけど!!!」>>807
鍾太郎「おう、サンキュー……すみませーん!フレンチフライ二つ!」>>826
鍾太郎「ア、アハハ……」注文したフレンチフライを五本とってもしゃもしゃやる>>813
実はユージーン、本音と建前はよく理解してるから部屋着にでも着てやってくれるなら全然オッケーって感じの人。普通は人は正論だけじゃ生きていけないのは知ってるからこそ絶滅危惧種な優人を気に入ってる訳です。
「課題…うっ頭が…」
>>814
「元気してたー?俺は勿論元気りんりんだよ」
>>815
「生きてるよ!普通命の危機なんて滅多に無いってば」
>>816
「そうなのかー。あれか、ユージーンの友達みたいなお金持ちなのかな?知らなかったならこれから知っていけばいいんだよ」
>>817
素で間違えたー!(スライディング土下座)
「あっと間違えた、ごめん。そっか、じゃあこれは今度俺が着ることにするよ。せっかく後ろに七・七のバックプリントも入れたしな!」
>>818
「それ和歌じゃなくてバカじゃなかったっけ?」色々書いてたらツッコミ(ボケ)が乗り遅れたぁ!
>>836
「おう、俺も元気満々マンだわー」>>844
鍾太郎「なんだこれ!?…………いややっぱなんだこれ!?」>>836
スィレン「お金持ち…君たちの基準でどうかはわからない、けれど、まぁ、お金に困っている方じゃないのは確かかな。……うん、今、いろいろ知らなかったことが分かったよ…」
>>839
スィレン「それなら、もしかして君は……その、お金に困ってたり…?」
>>843
スィレン「あ、そうなの。…日本の文化は、僕が思ってた以上に奥が深いね…もっといろいろ本を読んでおかないと…」
>>845
スィレン「ご、ごめん……い、いや、そんな口に出すほどの事でもないけれど…知らないことばかりだったんだなって思って…ちょっと驚いた、というか、なんだか遅れてる気がしてしまってね」
ナプキンで拭き、踊り場でしっちゃかめっちゃかに重い思いの踊りを見せる三人を眺め、ため息交じりにそうつぶやくように話す。「無知の知」という言葉があるが、それを自分が体感するとは露とも思っていなかっただけに、恥じらい以前の、悔しさ以上の気分が沙羅のように心にかかる。「踊る阿呆に見る阿呆、酒は飲んでも飲まれるなー。俺飲んでないけどー!あはは!」
黒野くんと入れ替わりで踊りに参加するけど絶対それハカ違う。「乗ってきた、乗ってきたぞ! 影も残さぬ我が踊りを披露してくれよう!」
>>851
「ん?うちは別に困ってへんよ。確かに財布握ってる人が物凄い浪費家やからすごい勢いで金は出てくけど、同じかそれ以上の勢いで入って来よるし。どちらかといえば、同級生とか見てて感じる事やな」>>852
「……お前らは本当は酒飲んでいるんじゃないか?」
業平は呆れながら踊り狂う男たちに愛想のない手拍子をしていた。>>857
嗚呼、鍾太郎……。すまない、俺にできる事は帰ってきた時に備えてレモネードを頼むくらいしか。
黒野「レモネードと、ついでにジンジャーエールおかわり、と」
しかしこの喫茶店、つくづくめっちゃハイテクである。
タッチパネル形式での注文とかカラオケくらいでしか見た事ないぞ。>>861
鍾太郎「ウィーっす」回転を止してホバリングしながら戻って片付けを始める宇宙ゴリラ>>861
「ははは………なんかぐだぐだやけど、たまにはこういうのもええなぁ。じゃ、片付けを……
……え?ウェイトレスさん?やっとくって?そりゃまぁ、助かります」とりあえず、今日飲み食いした分は出しておかないとな。
といっても実質飲み物だけなのでたかが知れてるのだが。
黒野「じゃあ業平さん、これよろしくお願いします(自分の分の支払いを渡しつつ)」>>852
スィレン「みんな違ってみんな良い、とか…じゃ、ダメかな?」
心寂し気に笑いながら、拍手を送る。
>>857
スィレン「そうだね。これから、もっといろいろなことを学んで、色んな本を読もうと思う。そうしたら、きっともっといろんな人を幸せにできるだろうしね」
>>861
スィレン「……もうそんな時間なのかぁ。…ふわぁ、ぁ。確かに、眠くなってきたよ。…それじゃあ、次会うときはもっとたくさん、日本について勉強してくるよ。今日は楽しかったよ、Au revoir」
荷物をもって、少し眠たげに目をこすって皆に手を振り扉に向かう。
「次会うときは、和歌を一首詠えるくらいになりたな」などと考えながら、朧気に、夢心地に、時計塔の膝元、ロンドンへ。>>868
「くそっ、こいつ大人だ!鹿之助、ここは従うしかなさそうだぜー・・・・・・!!」>>871
黒野「あ、さようならー」
…何というか、掴みどころのない人だったな。
この喫茶店では珍しくないタイプだけど、他の人とはまた違った感じが漂っていた。
地に足が着いてないというか、同じ景色を見ているようで違ってるような……いや、この辺はいいか。>>872
業平「なんだオケラか。だったら店主に頼んでバイトするしかないな!誰に借りても借りたほうも貸したほうも忘れては踏み倒しが確定しているからな!」>>871
鍾太郎「じゃあなー」ノシ>>876
黒野「ま、俺と鍾太郎はまた明日にでも会えるんだけどな」
だがまあ、言わんとしている所は分からなくもない。
どれだけこの中で盛り上がっても、一度出ればそれっきり。外で再会することはまずないし、そもそも本当に出会っていたのかさえおぼつかない。
……だからこそ、俺は何だかんだ言いつつここに通う事をやめないのかもしれない。>>882
鍾太郎「いや、そこは太っ腹だろ……」ヌモーン>>883
黒野「お、おう。そうか……頑張れよ……(同情するような目で)」>>886
黒野「そっか、じゃあ気をつけてな!」
さて、俺もそろそろ本格的に帰るとしよう。
本音で言えば名残は尽きないが、あまり残しすぎるのもよくないと言うし。
かくして、本日の摩訶不思議な時間はこれにてお開きとなったのであった。
黒野「それじゃ皆さん、俺も失礼します。またいつか、ここで!」第一回聖杯大会の続き張ります
参加者の方はご確認よろしくお願いします>>888
コイン(それ)が地面に落ちた時、何が起きたのか。正しく認識・把握できた者は限られていた。
一瞬、かつほぼ同時。クレーターのほぼ対極となる場所でソニックブームめいた突風が発生し、距離を置いていたマスター達さえも転倒しかける。
それがサーヴァントによる『ただの突進』であると気づいた時、既に両者はクレーターの中央で削り合う真っ最中だった。
「――――ッ!」
「フッ、――!」
片や神代の英霊、片や中近世寄りの英霊。両者の間には、ただ生きた時代のみでは収まらない圧倒的な格差がある。
戦闘経験、魔力総量、宝具の質と色々あるが……一番は、やはりその身体能力。俗にステータスと呼ばれるそれは、余人が思うよりも遥かに英霊の間に明確な壁を作っている。
ましてこの世界においては、古さこそが神秘の正義。太古に近づけば近づく程、創世に至れば至る程。その性能(チカラ)は残酷なまでに互いを分かつ。
にもかかわらず。ランサー――山中鹿之介は、アーチャー・后羿と渡り合えていた。
四日目に発動した第三宝具により、ステータスが大幅に底上げされたというのもある。事実今のランサーはスペックだけで見れば筋力・耐久共に互角であり、敏捷と幸運に至っては上回ってすらいる。
魔力だけは望むべくもないが、相手がキャスターではなく、また魔術戦を主軸としない后羿である以上これもまた許容の範囲内。>>889
「ハァッ!」
「ッ! ぐうっ!」
だが、それがランサーの有利を保証するかと問われれば、明確に否だ。
ステータス上では互角であっても、ランサーとアーチャーとでは各々潜り抜けてきた修羅場の『質』が違う。太陽落としの逸話に始まり、数多の怪物・魔性を倒してきたアーチャーの戦闘力は、単純なスペックシートに留まらない。
むしろランサーにとっては、『これだけ手を尽くしてようやく互角手前』とさえ言える状況だった。
「――まったく。分かっていた事ではあるが、とんでもないなお主は……!」
一瞬の内に十数合、さらにそこから数十もの連撃を交わす両者。最後の一撃でランサーが押し負け、わずかながら距離が空く。
距離と言っても踏み込めばすぐに迫れる程度だが、ことこのアーチャーに限ってはその短ささえ万里に匹敵する長さ。
たちまち嵐の如き猛射がランサーのいた場所を穿ち、クレーターをより深く抉り抜いていく。
ランサーもまたフェイントを紛れ込ませながら接近を試みるも、その全てを的確に見抜いたアーチャーがたちまち矢衾を作り上げる。
現代の射手、槍使い、あるいはいかなる武芸者にも臨むべくもない攻防戦。その光景を、互いのマスターのみならず中継を通して全世界の人間が固唾を飲んで見守っていた。>>890
『なあお前ら。誰でもいいからこの戦闘まともに見れてる奴おりゅ? いたら実況よろ』
『無茶言うなw こんなん心眼でもなきゃ追いつけねえよww』
『サーヴァントぱねぇ。英霊マジ半端ねえ』
『俺、明日から弓道始めよっかな』
『じゃあ俺は槍術……は、近所にないから薙刀習う』
『正気に戻れ一生かかってもアレの真似とか無理だから!www』
「嘘でしょ……これが、サーヴァントの戦い……?」
「あなた」
「――双介の奴、とんでもない戦いに首突っ込みやがって。帰ってきたら説教じゃすまさんぞ」
「ヒャッハー! 最高だぁ!」
「これだよこれ! やっぱ聖杯戦争ってなこうでなくちゃ!」
「苦労して一番いい席取った甲斐あったぜ! こんなもん、特等席で見なきゃ損だろ損!」
「――サーヴァント戦による周囲の被害、想定よりやや下。これより警戒範囲を縮小します」
「くれぐれも人間のスタッフは近づかせるなよ。あくまでドローンと視覚偽装を施した使い魔だけだ! それも、絶対にクレーター上空には飛ばすな。相手の仕込みと間違われて撃ち落されるぞ!」
「魔力供給システム異常なし。大聖杯からの供給、滞りなく進んでいます」
「野次馬への警戒は怠るな。命知らずのパパラッチ共が忍び込んでる恐れもある、怪しい姿を見つけたら警告なしで排除しろ」>>891
多くの人間、特に観客にとっては刺激的な祭典。参加者の家族や大会運営スタッフにとっては、切実かつ緊張に満ちたひと時。
そんな各々異なる空気の中、当の参加者――マスター達はどうしていたかといえば。
「……? おい、あれ」
「何だよ? ――!」
『それ』に、最初に気づいたのが誰だったのか。この瞬間においては意味を為さない。
ただ一つ、彼あるいは彼女は『それ』を見た。
クレーターの淵、死闘の風景を見守るマスター達の顔。
その、表情は。
「わらって、やがる……!」
それは、いっそ猛々しくすらある笑顔だった。
封印指定執行者であるゲルトは元より、一般人である黒野でさえも、その光景に目を奪われている。
興奮、高揚、熱狂、あるいは歓喜か。彼らは自分たちでさえ気づかぬ内に口の端を歪め、憑りつかれたようにクレーターの中の戦いを覗き込んでいた。
「「――ッ!」」>>892
迫るランサーと、距離を取りつつ接近戦もこなすアーチャー。
ここまでお互い宝具を切らず、ただの攻撃のみに終始してきた二人。クレーター内は戦闘の余波でズタズタに荒らされ、さながら砲爆撃の後めいた状態となっている。
「――ふふ」
「……ははっ」
だが、双方に疲弊は見られない。
むしろ身体が温まったと言わんばかりに、お互い笑みすら浮かべていた。
「見事だアーチャー。いや、事ここに至っては真名で呼んでも構わぬか?」
「ご自由に、ランサー。貴方こそ大したものです。その武芸――紛れもなく、数多の戦場を駆け抜けてきた勇士のそれに他ならない」
「讃えてくれるな。主一人忠義も果たせなんだ、半端者の業よ」
「……その割には。ずいぶんと、晴れがましい顔のようですが」
アーチャーの指摘にランサーは背後を振り返る。
隙だらけの動きだったが、不思議とアーチャーは射貫く気になれなかった。
「忠義の形は一つ限りではない。そう、教えてくれた者に恵まれた。それだけの事だ」
「――そうですか」
矢を番え、アーチャーの目がランサーを捉える。
「ならば。私も、尽くすべき者の為に全霊を尽くすとしましょう」
かくして。何十、何百度目になるかもわからない攻防が仕切り直される――!>>893
こちらからの投稿は一旦ここまでになります
次はゲルト陣営さん、投稿お願いします
具体的にはアーチャーから攻め込む等の形で燃え盛る火が、最後の灯火であるかのように燃え盛る。ウィル・オ・ウィスプ。南瓜頭のハングドマンが最後の最後に見せたショーは多くの敵を煉獄へと連れて還ったのだ。
死者の炎は青い炎だという。東洋、日本では鬼火と言われるそれは超高温であること以外にも死体から発生した可燃ガスが燃えることで発生するものだというが。
「最後の最後に激しく、蒼く蒼くなるほどに熱く熱く燃え盛る、という方が私は好きよ。少なくとも今の散り方なら」
「大層なことですこと」
念話でランサーが語りかけてくる。きっと炎をじっくりと眺めているのだろう。それの意識の傍に、その炎から抜け出て駆け抜ける流星の如き英雄と炎の英雄を見る。
「あら、マスター。いかがなさいます?」
「いいえ、もう大丈夫。真名は割れたから」
二つの宝具の真名開放を聞くことで、あのライダーの姿は割れてしまったも同然だ。
「トロイアの盾を持ち、かの征服王に付き従った男。ディアドコイが1人、聖楯のペウケスタス。ああ、彼がライダーだったのね」
アサシンのマスターも、キャスターのマスターも近い。近くて近くて、きっとこのままあぐねていたら追いつかれてしまうから。
「ランサー」
「はい」
「私を連れて行って」
「御意に」いかにステータス上遅いとはいえサーヴァント、誰からも狙われていない状態のフリーのランサーがマスターであるオーレリアの下に駆けつけ抱き上げ颯爽と飛び去ることは不可能などではない。
「どうします、これからぁ」
「ライダーを仕留めます。恐らくあれはかの大英雄アキレウスへと仮定的変生をして扱うもの。真名ペウケスタスであることに変わりはないけれど、消費魔力とそれに見合う戦闘力はアキレウスそのものだから」
「つまり?」
「アスパシア・テッサロニカ……彼女がこの戦いの最中に半永久的に展開できるわけがない。そこを突きます」
ランサーに対して何割かをカットしていた魔力供給をフルにする。ランサーのその膨大な魔力消費に、工房のサポートなしではゴリゴリと吸い取られていくがそれに動じず機会を伺い続ける。
「花開いて(フローラ)、天駆けて(アルクメネ)、雨降って(ティシュトリヤ)、世栄えて(プリトゥヴィ)
夜は出逢う。美しいあなたと。夜は穿たれる。また新しい黄昏が欲しいから。あなたは別れ、出逢い、そして寄り添う。
────── 夜穿の逢花」
オーレリアの周りにほのかに光りながら現れた四つの蕾。四大属性をそれぞれ宿したその花はそれに照応する自然霊が封じ込められた石を喰らうことで花開き、そこから溢れ出る濃密な属性四つがランサーの槍に絡み込む。夜を穿ち穏やかなりし光で迷い行く旅人たちの道先を照らす。誰かの導き手になれるよう、誰かの光をさらに強めることができるように作られたこれは、そうやって全てに対して満遍なく光を零し散らす。
「大いなる大地の愛をもって、今こそ征服者が一人を穿つ」
「怪物は英雄に討ち倒されるのが世の常と言いますけれど……ええ、近頃の物語は型破りも当たり前と聞きますの」
ライダーの宝具が揺らいだ瞬間を狙って、ランサーの猛毒が染み込んだ四つの魔力を纏う槍がライダーに向けて駆け抜けた。>>571
「ランサー」
迫りくる脅威に対して、ルーカスは背後の翼を縮めて━━魔力光の放出を弱めて━━テレゴノスに背中を預ける。
「任せるよ」
「全く軽々しく言ってくれるよ!!」
直線的に最短距離を走る弾丸と曲射しつつも正確に頭上から降り注ぐ砲弾、さらには呪符により属性を纏わされた岩石すらも、ランサーとルーカスを目掛けて打ち出されて行く。
そしてそれらをランサーは直感によって回避する。本来ランサー・テレゴノスの機動性は、背後に背負う防衛戦よりも身軽に駆けることが出来る現在のような状況に適性があるのだ。
さらに彼のスキルである生存本能A+がテレノゴスの敏捷を上昇させ、直感スキルと組み合わせることにより最大効率での回避行動を可能としていた。
「それで! なにかしらこの状況を突破する策でも思いついてくれるんだろうね!? 正直俺の生存本能が痛み分けで撤退させた方が断然良いと告げているのだが!!」
「いや、多少無理を押してでもキャスター陣営はここで始末するよ。 痛み分けでは意味が無い。 勝負を始めたのなら死ぬまでやるべきだ」
「負けず嫌いッ!かッ!」
腕の中のマスターと話しながら槍の穂先で砲丸を撃ち返す。そのまま魔力放出のように毒の勢を吹き散らして周囲に迫っていた凶器を腐り溶かさしむ。
「失敬な!まるで人がバトル・ジャンキーかのような」
「そうじゃなかったら何なんだ!!」
言いつつもランサーは槍の刃に毒を滴らせ収束させ、魔力でコーティングし、薙の斬撃として空中のキャスターに振り払う。>>898
扇状に拡散した斬撃は、しかし当然のようにキャスターの幻をすり抜けていく。
…………ご丁寧に斬撃の通った後に『 お お は ず れ 』のおまけ付きだ。
「目で見て反撃するから駄目なんだよ詐欺師の思考を読まなくちゃあ」
「だからそれが」
「左後ろからテリアルの攻撃がくるから僕を降ろして」
ルーカスはランサーの腕からするりと抜け出す。天輪を形作る星々々を左手に下ろし、質量ある映像として生み出したラッパの吹き口を炎の剣で打ち据えた。
破裂音が爆発する。そしてその衝撃派が、幻術で隠された鉱石結晶の濁流を暴いて砕き散らす。
「たぶん……この方向」
ラッパのベルがひとりでにルーカスの意図した方角へ向いた。今度はマウスピースを縦に殴り付けて2度目の大音響を爆裂させる。
《うるっ……さいっ…………!》
(「ランサー、キャスターが援護射撃して来そうだから迎撃して」)
念話で語りかけたルーカスだが、ランサーは聴き終わるよりも早く槍を振るった。彼の直感はそうさせた。
刃の跡を引く紫の残光がキャスターの砲撃を腐らせる。
ヘドロのように溶け落ちた鉄がルーカスの真横に滴っては、幻らしく世界に溶けて消えていった。
「……さては勘だな、マスター?」
「君と同じだろうに」などとこぼしながらマスターは語る。 「結局、高位の術者同士がぶつかり合ったら心理の読みあいでしか幻術は突破出来ないよ」
「それは流石に強がりかな?じゃあ読んでやるけどきみの目的って自分を囮にしてランサーの奇襲でしょ?」
まるで四方をコンクリートの壁に囲まれているかのような反響音として、キャスターの声が響く。当然ながらその声から正確な位置を探ることはできない。
「あんた方の魔術とこっち側の『変化』の性質が近いのは、おそらく間違っちゃあいない」>>899
「どちらも視聴者の存在を前提にしている、という点においては」
「そっち方のは前提じゃなくて依存でしょー、そこが強がりだって言うのさね」
くっくっくっ、と愉快なふりをしてキャスターが笑う。
「とはいえ騙し騙され騙し返すのが幻術屋のやり方だろう?騙せるもんなら騙してみせなっての」
「僕の魔術は僕が真実を決めるものなんだ、嘘つきや詐欺師と一緒にしないでもらえるかなぁ?」
キャスターが指で印を組むのとルーカスが翼を広げるのは同時のことだった。
魔術師とランサーの立つ地面が広範囲に不自然にひび割れ、筍が顔を出す。それは瞬きの間に成長して竹槍の林になり二人を飲み込んでいく。
「マスター」
「切らなくていいランサー、というか切っても意味がない偽物だから!」
天使を喚起した魔術師は、翼型に噴出する光の束で背景を書き換えた。二人分の人型を串刺しにして、上空でバラバラにするはずだった竹林が黄色い炎によって根本から焼却される。
山火事のように燃え広がって砕ける竹の中に、中身が光り輝くもの一つ。
『中籠の中には三寸の稚児。その輝きは月の借り物。いと美しうて瞳は惹かれん。天野香久山その中で、覚め待つ姫を竹取り抱えて!』
「ランサー!」
言うが早いか。槍が竹の光る部分の少し上を切断すると、虚になっている中身から光る人魂がふわりと抜けて空に溶ける。
そしてそれが消えるまで、ルーカスは光の球から目を離せない。
「視覚誘導!?また面倒な」
「さてじゃあここで、本物どーれだ!」
キャスターが指を弾くとルーカスが根本を焼いて倒れていくすべての竹に、光の球が入る。強制的に視線を誘導する輝きが瞬時に100個を超え、まともな照準すら脳の処理ごと破壊する。
「ランサー!正解は『全部』だ!誘導は耐魔力で切れるだろ、全部切って解放しろ!!」>>900
「了解マスター」
キャスターの改竄が一瞬なら、ランサーの速度もまた瞬き。崩れる竹の高層群を切断して3桁の人魂を解放し、ルーカスを視覚の迷路から引き摺り出した。
「さてここで問題だ、君が焼いたその竹林、いつから炎が俺のものに入れ替わっていたでしょう?」
バラバラと降り注ぐ燃える破片たち。
それらはまるで手加工されるがように幾重にも重なった竹籠となって二人を閉じ込め、さらに火の勢いを増す。
「その問題に意味はない!ランサー、0.5秒だけ僕が書き換える!」
幾重にも幾重にも、そして何重にも重なった呪術的に燃える網に、ルーカスの作る映像が重ねられた。それは外部への脱出口。キャスターが化かす世界そのものを無理やり上から塗り替え直して作った穴である。
ランサーがルーカスを抱えて燃える籠の中から脱出した。その動きは最速の名を持つクラスに相応しい俊足であったが、抜け出たほんの数瞬後、キャスターの宝具とルーカスの具現化が重なった空間がバグったようにひび割れてキャスターが化かす世界に塗り戻された。
「…………っ!!ぅ…………ぅエッ!かはっ…………!」
「ッ!?」
「いいから早く撃てよランサァァ!!!」
空に浮くキャスターに対して、ランサーは穂先に毒魔力を収束させ発射する。さながらウォーターカッターの様にして直線を走る毒液は、空中で弾性のものにぶつかった。そのままキャスターの目の前で勝手に逸れて遥か遠くの空へと吹き飛んでしまう。
「……同系統とはいえ、まさか上書き干渉までしてのけるとはねぇ」
「いっしょ…………する……な」
「ああ、はいはいはいはいそうだったな。じゃあこっちに勝手に騙されてなさいよ」
今度は空が化かされる。ありえないスピードで青空に暗雲が立ち込めると、腹の底まで響く衝撃音が起こり始めた。
「ラ……………………」
「分かってるよ、もう!」
一瞬かつ似た系統とは言え、無理やり具現化で世界を歪めたフィードバックをもろに受けたルーカスは、またもランサーに抱えられたまま雷を回避させてもらう。>>901
さらに降り注ぐ万雷に加えてキャスターによる地形変化も重ねられ、足を取られつつも回避を成功させ続けるランサー。
「ん……?なんか変だわな。いくら直感持ちで足の速いランサーってったって限度があるだろうに」
現在のランサーは固有スキルである生存本能A+で無理やり敏捷値を上昇させ続けている状態である。追い込まれれば追い込まれるほど足の速さが上がる性質を、マスターを回避し続けねばならないという条件でさらに強化しているのが実情であった。
それにしても当然ながら限度はある。
「押しどきですかね」
『キャスター、援護するから』
「おっ、頼もしいねぇ」
「…………おいおい、そこまではさすがに」
「ぁ…………ぼくが……」
キャスターの仕掛ける果てのない落雷と足場の破壊にテリアルを介した不湯花の援護がさらに重なり弾幕と化す。極限状況に対して臨界まで敏捷を上げ切ったランサーへの、ルーカスによる予測演算が重なり限界ギリギリで回避が続く。>>902
しかし回避が成功しているとしても全体の流れそのものはキャスターの組が握っている。恐ろしいレベルでの弾幕でランサーの組を足止めしつつじりじりと下がればそれでいい。
「これにて終い……にしたいモンだなぁ」
雷のばら撒き圏よりわずかに広く、キャスターの握り拳に合わせ空間が圧搾される。そのまま握った手で指を鳴らすと押し込められた空気の反作用で爆発が起きた。
回避しきれずランサーが吹き飛ぶ。マスターを内側に庇った状態で背面に爆風を受けてキャスター達とは反対の方向へと大きく交代させられてしまう。山星不湯花が発動した木花開耶姫の領域からも強制的に退場させられた。
キャスターとそのマスターが、遠い。
・・ ・・・・・・・ ・・・・
「なあ!これでいいのか、マスター!」
・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・
「ああ、これでいい、木花開耶姫の領域範囲は見切った!!!」
自らのマスターを抱えたまま、ランサーはマナが異常に濃い領域の境界線を全力疾走を開始した。>>903
一方で反対側。キャスターとそのマスターの組もまた、引き下がるために濃密にマナが満ちたエリアから外部に出ていくその瞬間。
大幅にルーカスとランサーを後退させたのち、さらに移動経路を変更した上で木花開耶姫により過剰なほど供給される魔力で追跡妨害用の術式をも仕込んである。最短距離で足の速さを頼っての追撃は不可能だ。ランサーはともかく、キャスターの宝具を極小時間とはいえ相殺しようとして反動を受けたルーカスの方が保たない。
はずであった。
【束ねた光は、煌めく流星の尾を引いて】
「Stars were made of the light」
ルーカスとランサーを振り切ったはずの山星不湯花の正面に、彼がいた。天使の光輪を作っていた三つの星が全て剣に降りて、エネルギーの噴出でできた翼を背負って、罪人を裁く剣の炎を限界まで怒らせて正面に振りかぶっていた。
『これは━━』
「ズラされましたね。私たちが木花開耶姫の範囲から出るとすれば、その境界線は必ず通ることになりますから」
『純粋に足止めするんじゃなくて、私たちが向かう方向に先回りしようってこと。上等じゃない返り討ちにしてやるわよ!』
テリアルが迎撃の用意を取る。全力で一撃をぶつければ決して打ち破れない威力ではない。むしろ鍔迫り合いに勝利できるなら、純粋な力押しで目の前の敵を消滅させられるだけの力はある。
しかし間に合わない。奇襲の利点はここにあった。全力の大振りを準備してから仕掛けたルーカスとそれを見てから動いた方では出に差が出る。
自ら選んだルートを、自ら走ることにより断頭剣にたどり着くまでの時間を削ってしまっている。
「裁くのは、【神の灯】の名を借りた、このッッ!僕様━━━━!!」
「そのためにキングが出てきちゃあ世話ァないのさ、魔術師殿」>>904
『偽か真か』。ランクEXの対界宝具、その鋒。
キャスターは指先一つを向けて、その宝具でルーカスの攻撃をキャンセルした。
魔術師が先に行っていたことではないか。無いものを塗り替えてあることにできてしまうなら、空を化かして無くして仕舞えばそれでいい。ルーカス・ソールァイトがここまでに、このために剣に集めた聖火の属性が消滅する。それはつまり彼が喚起したウリエルの全特性を、まるきり消去させるに等しい。当然のことだ。彼は全霊をここに賭けた。賭けに負けたものは賭け金を払うだけだ。
『これでやっと終わりね』
「ああ、僕たちの作戦は、最初に狸が言ったように━━」
あれだけ自らが目立つことに掛けたマジシャンは、はっきりと自分のタネを明かした。
「━━僕を囮にしてランサーの奇襲だよ」
一方で大地。たいそうな翼を生やしていたくせに飛べなかった魔術師をテリアルに向けて投げ飛ばしたランサーは、今度は自らが跳ぶために力を込める。
【ディリティオ━━
「父を仕留めし━━
ルーカスの全力を剥奪したキャスター。テリアルと不湯花が先を行き、しんがりから自らのマスターを支援した隠神刑部へと穂先を向けて、ランサーがボウガンのように地面から跳んだ。
━━━━トラゴーディア!!!】
━━━━悲劇の毒槍!!!」>>905
…………now loading.........
…………material opened.
・ルーカス・ソールァイト、ランサー、山星不湯花(テリアル)、キャスター、全員が木花開耶姫の射程圏内から離れた
・ランサーの生存本能による敏捷強化はまだ残っているが、そう遠くないうちには解除される
・ルーカスの喚起したウリエルは今回完全に掻き消えた
・ルーカスは今回囮になるつもりで真正面に出たので、一度はテリアル経由の攻撃をしのぐ用意はある
→二度目は防ぎきれず大ダメージを負い、三度目を受ければ流石に保たない
・ランサー陣営は彼らが打てる手をほぼ全て打ち尽くした
→今回の攻撃を凌がれれば返す手は残っていない
→撤退するキャスター陣営を見送ることしかできないだろう>>658
「………」
今度はアサシンが黙る番だった。
ランサーのマスターを黙らせる方法なら幾らでもあるはずだ。怪人らしく文字通り口を塞いでもいいし、彼を折るための言葉だってある。
だが。
アサシンにはその一手が出来なかった。高い壁が怪人の前に立ち塞がる。それは風すらをも通す気はないらしい。
「だから俺は倒す。自分の勝手だけで暴れるような奴を。そして…そんな奴には願いを叶えてほしくない」
亥狛は顔を上げるとアサシンを見る。ただ顔を合わせただけではない。アサシンの、黒いガスマスクの奥を見ていた。
「………チッ」
その目をアサシンは知らなかった。だがどうにも既視感があり、そして同じぐらいの嫌悪を覚えて毒づいた。
答えを得た目だ。それはこの雨の中でも光り輝き、闇すらをも恐れないだろう。誰かを恐怖させる瞬間こそ呼吸が出来るアサシンとは真逆に位置する。
「分かり合えないとわかった時は残念だと思ってたよ。けど違う。今は…ただ君を殴ってやりたい!!」>>907
言葉と同時に手が出た。飛び上がるようにして腕を伸ばし、亥狛を殴ろうとする。だが、その手はすぐに止められた。
他ならぬ、亥狛の手によって。
平手で受け止められた拳はそのままギリギリと握られ返していく。
「何っ…!?」
アサシンの膂力は英霊としては低いかもしれないがそれでも人を捻り潰すには十分すぎるはずだ。
例え今の自分が崩壊しかかっていても、毒ガスによって弱った人間など相手にならない。しかしアサシンの拳は彼に届かない。
「殴りたいだと…!?それはこっちのセリフだ…!!」
亥狛の腕は変質などしていなかった。ただの人間でしかないはずの腕が、そこにはある。何故だ。どうして。理屈を超えた現実を前に、怪人の頭を疑問が埋め尽くす。
「ふざけんな!!今は殺されろ!!それが怪人に追い詰められた奴の宿命だ!!逆らうな!!」
「…自分勝手すぎるってお前よく言われるだろ!」
アサシンは腕を引くと亥狛の肩を掴んで押し倒してマウントを取ろうとする。だが、それよりも早く亥狛の拳がカウンターとしてアサシンの腹に直撃し、アサシンの体を宙に浮かした。
「ぐえっ!?」>>909
ナイフを握り直すとランサーに向き合う。最早、逃げ道は断たれた。
遠くから聞こえる雷鳴が、因縁をつける為の戦いの幕を切った。>>612
首輪をつけられたエゼルハンドは、パタ、パタ、と静かに何度か尻尾を振った。
「ええと、これでよかったのかな?」
「ああ、これで使い魔と主人の繋がりは出来ている」
京介に問題無しのお墨付きを貰って、ルーカスらほっと息をつく。
「ところで、使い魔には魔術的な能力を載せることができるわけだが」
「うん。それはもう決めてあるから」
ルーカスは右手にばらりと光素を出現させると、そのまま片手の上で五つを合わせて必要な式に組み替えた。
「目と、鼻を。犬の視界は人間のそれとは異なるけれど、ここでは人の目と同じように物事を見ることが出来るようになること。あと共感覚的に嗅覚と視覚を繋げることをしようかなと」
「……結構地味だな?地味というか堅実なのか、もっとこう派手な感じかと思っていたよ」
「むぅ……地味とはなんだい地味とは。結構これが重要なんだよ。僕の光素は人間の視覚が前提だから」
「まあその内容なら肉体的な負担もそこまで無かろうか」
じゃあ準備するからちょっと待ってくれ、と京介が言って、そのままテキパキと場を整える。
「いいぞ。じゃあその刻印をエゼルの魔術回路に合わせて接続すれば完了だ」
「ああ、ありがとう」
ルーカスが空いた左手でエゼルの魔術回路の位置を確認して、そこに右手で創作した魔術式を繋ぐ。
少ないとはいえ負担の掛かる作業にエゼルハンドは僅かに身じろぎ唸ったが、毅然とした姿勢を崩すことはしなかった。
「お疲れさん、これで使い魔契約は完了だからな」
京介がエゼルの首のあたり撫で上げてあやすと、それだけでエゼルは落ち着きを取り戻した。ローガン=クレイドル、ブリュンヒルド・ヤルンテイン、蒲池夏美の三人のマスターが、サーヴァントを連れて肆乃森で顔合わせ。三人とも魔術で雨水が自分を避けるようにしているため、濡れてることはない。
ライダーは腕を組み、マスターたちを斜に見下ろしている。アーチャーやランサーもマスターたちから引いて控えている。
「これではどうしようもない」
「そうだね。……嵐じゃいくら攻撃して意味ないよ」
ローガンとブリュンヒルドは同時に視線をめぐらして、雨が降る空を眺めた。自分と同意見の者の存在を確認したことで、安堵感の存在は疑いようもなかったが、苦々しい気分が胸の底をめぐるのは避けがたい。山場もなく、執拗な戦闘の連続と、その結果が無意味であることは、徒労感の重荷を彼らの心と肩にもたらしていた。
「私の妖精眼で空を見ても、バーサーカーの魔力が満ちていて見えないわ……」
まるで大きな生き物のはらわたを覗き見ているようで、夏美は眩暈がしてきた。
「なるほど、野分であるバーサーカーはこの空一帯がやつの身体か」
「そうなの。しかも、風雨も普通じゃないし……」
「……」
夏美は焦燥に駆られている。暴走しているバーサーカーのマスターが旧知の仲であるから、その身の安全を気にしているのだ。
「汝らの討議も、長いわりに、なかなか結論がでないようだな」
そう言ったのは静観していたアーチャーだ。
「奈辺にいるバーサーカーのマスターを仕留めればあれも消滅するだろう」
「バーサーカーのマスターは、アタシの知人なの。この聖杯戦争に巻き込まれてしまっただけで、どうしても助けたいのよ……」
夏美の緊張と不安で表情が硬く、白磁のような肌もいつもより白く見える。
「助けたいと言っても……」
ブリュンヒルドは自身のサーヴァントと夏美の間を視線が行ったり来たりしている。内心、マスター殺しも仕方ないと思いつつあるが、夏美を慮って言い出せずにいる。
自身のマスターの口下手をフォローするつもりはなかったのだろうが、アーチャーは夏美に語り掛ける。
「汝はこの土地の守り人であったな。一本の木もひきぬかず、一個の石もよけずに、森林に道を拓くことはできないのだぞ」>>912
夏美にもアーチャーが言おうとすることはわかる。それでも用意に認めることも夏美にはできなかった。夏美の緊張と不安で表情が硬く、白磁のような肌もいつもより白く見える。
「……アーチャー、あなたは芽衣さんを撃てるの?」
「居所を特定できれば吾がやってみせよう。それとも汝のライダーにやらせるか?ライダーの弓技でも可能であろう」
魔性の瞳が夏美からライダーへと向けられる。
「まあ、造作もないことさ。だが、しかしだ。アーチャー」
兜と面頬で表情の見えないライダーは、自身のマスターの肩に、いかつく節くれ立った五指の大きな手を置いた。夏美の肩に優しく力強く包み込むものがあった。
「まだ、マスターを潰すしかない、というのは早いだろう?あと1人にも話を聞いてみからでもいいだろう」
胡乱げに夏美はライダーを見上げる。
「───ほう」
「何か、まだあるのか?」
ローガンの問いには答えず、ライダーは虚空に眼を向ける。
「見ているのだろう!キャスター!こちらへ来い!!」
ライダーは誰にともなく夜空に向けて、大音声を張り上げた。>>913
以上です。中納言さん、よろしくお願いします。「見ているのだろう!キャスター!こちらへ来い!!」
風雨と桜花入り混じる中、森にそんなライダーの大音声が響いた。木々がガタタと揺れる。無論、それは声のせいではなく勢いを吹き返してきている風のためであるが、それでも声のせいと思えるほどに威圧感がある。
しかし、これはキャスター、人麻呂には大きな助け船である。話を盗み聞きしていたところ、何やら不穏な────出来れば避けておきたいような話をしていたため物申したくはあったものの遠方から見守るばかりであった人麻呂が入る隙がなく、いつ出るべきかと悩んでいたのだから。
「はーい、はいはい、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」
座した状態から立ち上がり、木々の間を抜け、颯爽とライダーたちの前へ降り立つ。そこにいたのは、ライダーとマスターの少女、ランサーのマスターの男、そして初見のサーヴァント───話の限りアーチャーであろう───とそのマスターであろう華奢な体躯の少女。皆が人麻呂の方に目をやっているが、その目に宿す表情は千差万別だ。特に、ライダーのマスターの傍でこちらを窺う少女の目つきは人麻呂を本格的に警戒し怯えている。
「おあっと、もしや小生警戒されちゃってる系?だいじょーぶだよ可愛い異国のお嬢さん、小生ってば優しさランキング三年連続モンドセレクション受しょ────」
「その煩い口は今すぐ狩ってほしいという証左か?」
猶更に怯え竦む少女と人麻呂の間に男が立つ。角の立った言葉遣い、苛立ちを隠す気もない姿勢。手に持った弓矢は今にも人麻呂の身体を射貫いてしまいそうだ。
「…まぁ、そこまでにしておけ。キャスターよ、女との付き合いには気を付けておくべきだぞ」
「…わかってる、わかってるよ。そんな、生者と死者の恋愛とか、野ざらしじゃあるまいし…其方も、そう警戒なさんな。北方の大英雄さん」
「………わかるの…?」
素直に半歩退きつつ、それでも臆していない表れとして言葉の節々から類推した男の真諦を小出しにする。マスターであろう少女の目が揺れ、小さな声でそう呟いた。ということは、当たりだ。>>915
「そりゃあもちのろん、小生ってば情報戦にて最強だからな!」
朗らかに笑いかける人麻呂と、諫めるように睨んでくるアーチャーに、可哀そうに少女は縮こまって顔を伏せてしまった。
「……それで。この道化に何を求めるのだ?ライダーよ」
「あぁ。キャスター、今までの話は、その様子だと盗み聞いていた故解るだろう?」
「盗み聞きたぁ人聞きの悪いことを言うねぇ……ま、聞いてたけど」
「それで、お前はどうなんだ」
「んー」
容貌魁偉たる男二人に詰められる形である人麻呂だが、気取らぬ姿勢で頬を掻き上空を見遣る。焦らすような態度に、アーチャーは忌々しそうに眉根を寄せる。
「そんな不機嫌そうにしないでおくれよ。無論小生は反対さ、超反対、テラ反対」
「その、今様気取りで癇に障る口ぶりは今は目を瞑ろう。して、そう言うのであれば何か策はあるのだろうな?」
「んー、んー…」
なおも逆撫でするような態度を示す人麻呂にアーチャーはもはや我慢の限界と言わんばかりに詰め寄る。バーサーカーを討伐するための議論をしているというのに、これではまずここで一戦起きてしまいそうだ。>>916
「何だ、言いたいことがあるなら速く言え。その言葉ごと射.殺.してくれる」
「おぉ、怖い怖い。……なら、率直に申し上げましょう」
ざあと風が吹き抜.ける。落ち着いた心を更に落ち着かせるように息を吐く。本当の戦いにおいては、人麻呂は文字通りのお荷物だ。役に立たず、それこそアーチャーの一矢で消滅してしまうだろう。だが舌戦ならば、この中のいずれにも負けはしない。そんな自負心を持ち、アーチャーに指さしをする。
「小生は、先も言った通りこの野分の主の殺.害には反対だ。…そして、先の其方らの態度にも異を唱えよう。
アーチャーよ、其方は言っておったな。“一本の木もひきぬかず、一個の石もよけずに、森林に道を拓くことはできない”と。だが、小生にしてみれば、その前提にこそ反駁させてもらおう。」
「小生は、其方らのように征野を駆け抜けたことなどない。武器を手にしたことも、策を弄じたこともない。そんな小生の言葉など、意見など、其方らには唾棄すべき世迷言と思うやも知れぬ。だが、しかし、な。」
語気を強める。街では、今も郁や他の常人たちがそれぞれに生きんと動いている。これ以上つらつらとお膳立てをするつもりはない。ただ、思うさまに、心からの言を告げる。>>917
「────戦争であるか否かなど些事たること。大勢が被害を蒙っているのも承知の上で言おう。其方らは、先ほど、一人の少女の命を奪おうとしておったのだぞ。」
「確かに、マスターである少女の息の根を止めれば、バーサーカーなるは勢いを失うかもしれぬ。其方らのマスターである者の友人が、知り合いがこれ以上犠牲にならないようにするためには、止むを得ぬ事かも知れぬ。しかし、彼の少女もまたライダーのマスターの知り合いだ。かけがえのない知己だ。」
「違うな。知己かどうかではない。」
「どんな理由であれ、訳であれ、事情であれ、“人を殺.すのに仕方のない時などない”のだ!」
「其方らは、生前仕方なく人を殺.めたのかもな。戦争だから。復讐だから。だがな、我らにはそれを避けて通れることだって出来るはずだ!」
「“仕方なく”流した血の後に流れる血は、其方らが思っているよりもずっと軽いものだ、ずっと薄いものだ、流させる身からすれば!」
「だが、そうではないだろう!我らは英雄、そう思われて座に召された者であり、そう信じた人の思いの上に、今、力を奮い、両の足で歩いているのだ。そんな者たちが“仕方がない”と少女を殺.める!生前とは訳が違うのだ!我らは、思われる、信じられる、仰がれる者として立たねばならぬ!」
「人とは、人の思いに応えることができる。人々の英雄とは、信仰に悖ることなどしない。──── 少なくとも、我は、其方ら人の和の中にて育ちし英雄たちをそう見ている」
風雨の声がする。木の花が、葉が散り落ちていっている。その一つ一つの音すらはっきりと聞こえるほど、場は静まり返っている。皆一様に、ふざけ切っていた人麻呂の舌鋒に瞠目している。
言いたいことを言い切ると、心の蟠りがすっと抜けた。むしろ、熱っぽくなってしまった自分に若干恥ずかしくなる。
「………まぁ、その。そう思はなむ、といったところで小生の心の声タイムは終了、ってことで……次!野分への対処策を話そうと思ひ染む!この策においては、まずアーチャーにだな……」
蟠りの失せた頭はよく廻り、すらつらと言葉を吐かせる。人麻呂の言葉が、彼らにどれだけ響いたかは推し量りかねる。
それでも、存在感とか戦闘力とか位とか、色々低めだった者なりの意見なのだぞ、と、届くわけでもないが人麻呂はそう心中で皆に釘を刺しておくのだった。>>918
以上、覇久間術陣営5/1(金)「散ッタ木ノ花イカホドバカリ」でした。そこは霧が立ち込め、空気淀む異界の地。天のごとく高い井、青銅の壁床が鈍い色を照らす遥か太古を思わせる。
それを一人の黒騎士が歩を進んでいた。まるでこの世の怨讐を煮詰めたような瘴気を発する鎧を纏った長身の人物は剣の柄を掴みながら視界の確保が困難な中でふと身を捩じり、転がるように身を投げ出した。
(また、罠(トラップ)……!)
疾風の鎌鼬がその首を刈り取るように吹き上がったのを見ながら騎士は冷や汗を流す。
ふ、と息をついたその瞬間、背後の側壁が砕け散り、土煙の中から伸びた何かが騎士に音速を超えて迫る中、積み重ねられた経験に基づき地を這うように距離を詰め抜きはなった剣で襲撃者の脚を切りつける。
(浅い!神秘の差、何らかの伝承防御……!)
微かにある鎧の隙間を縫うように渾身の力で切りつけたものの、それも成果は思ったより芳しくなく、又坐を通り抜けた時直観に従って丸盾を掲げる。高速で飛来した物体に撥ねられたように衝撃が走り事実水面を跳ねる石のように通路の彼方此方にぶつかって遠方に遠ざけられた。
煙を裂き現れた巨体。頭部の代わりに渦巻く深淵の暗闇から除く無数の目。黒騎士を殴り飛ばしたとされる腕がその一つであろう多腕。その怪物の名は、ヘカトンケイル。
やはり、この下層は何かがおかしい。
とうに消え去った神代の遺物が闊歩し、先ほどヘカトンケイルが破壊した壁は既に時間が巻き戻るかのように修復されている。
それ以上に懸念すべきは。
そこまで思考を巡らせた刹那、背後の壁が砕けちり、囲むように延ばされた腕に──潰された。>>920
2体目のヘカトンケイル。
まるで気配もなく不意をついたその個体は直ぐ様その手応えの無さに手群をほどく。
そこに果てた騎士の姿はなく。
その縛擊を回避した騎士はその左手。通路を全力で駆けていた。
(これ以上は不味い……。撤退して仕切り直す!)
息継ぎはせずに、身体が千切れるかのように。鎧がもたらす埒外な増幅にものを言わせる。霧煙る迷宮といえど巨人達からは己が庭も同然。三、五、十、二十──。次々と視界に増えていくヘカトンケイル達のごく小さな隙を突き、なおも、駆ける。対人戦闘・対死徒戦闘のノウハウならばともかく、巨人との闘いなど経験不足にも程があるからだ。少なくともこの鎧の持ち主、その最も偉大な騎士の記憶にはなく。あぁ、かつてのブリテンではこのような相手に剣を交えるなど終ぞ無かった……!
全力で駆け抜け、記憶の地図を頼りに幾度も角を曲がり、見つけた上層に向かう階段を駆け上がる。
「ハッ、ハッ、ハッ……!」
目を焼くような光を抜けた先は市街地の路地裏の一画。余人が近寄れぬようぬ人払いのされたそこに騎士は姿を現す。息を整えた騎士の鎧は靄となって姿を隠しその胸の内に吸い込まれるように渦を巻いて吸収される。
魔力が静まった場に残ったのは先ほどの黒騎士よりも二回りも年若い少女。
白を基調とした修道服に細工のような金の髪。透明感のある空の瞳。まだ幼さ残る薄白い顔立ち。肩ほどまでの髪は汗で張り付き、胸を押さえ息を切らす様は何とも言えぬ情動を湧き起こさせる。>>921
「……………………」
衣服を整え、つい今しがた自身が立っていた場所を何事もなく見やる。地面の図線で分かりづらいが、小規模の魔法陣を描いていている箇所があり、そこに魔力を通すことで転移門を起動させるという寸法である。とはいっても探索可能な人員がメイベルただ一人という状況もあって未だ第一層の探索で足を止められているが。
ふと、感慨から覚めたメイビスが影を縫って市街地区の大路地へと身を入れる。
銀金属めいた鉄鋼で作られた匣状の建造物を利用して開かれた露店が立ち並び、最近の話題となっているからか、喧騒が賑わっている。海外からの観光客も多く、夏であることからかビーチや森林浴を目当てにしている者もいるようだ。
しかし。
(暑い……)
そう、つい先ほどまで激しく動いていたこともあり、熱天の気候と通気性の悪い礼服を恨めしく思う。協会の教義として、この世の神秘は協会の元で管理されるべしということで探索に赴いてはいたものの、想像以上に難敵であった。それと同時に並行して燻っている火種を思い浮かべる。
「聖杯戦争、ですか……」
万能の願望器を巡る七人七騎による闘争。初期調査の結果、このペレス島の霊脈の活性化とそれと思わしき魔力反応からそれを”無為に”消費させるために協会が密に広め、その監督役として派遣された次第であるが、同時に二束草鞋をせよとは無茶ぶりにも程がある。
「けどそれも私達の家系を考えると当然のコトなんですけどぉ……」
扱いの悪さはしかと受け止めるべきと肝に銘じ、燦々と太陽が照り付ける中、協会へと足を向ける。>>923
深く深く。遠く遠く。
誰も一歩たりとも踏み入れられぬ深淵の底。
一寸の隙間もなく整合に形作られた鉄匣の中で。
カチリ、と何かが動く音がした。「────バーサーカーのマスターめに矢文ときたか。要は狂犬の飼い主の良識に賭けるとも受け取れるが?」
「大丈夫。さっきも言ったけれど、彼女は巻き込まれただけでこんな争いは望んでない筈よ。親しいという程の仲ではないけど、これだけはハッキリ言えるわ」
夏美の力説を胡乱げな目で見るが、彼女に瞳に迷いがなく、確固たる自信に満ちていた。
その姿にアーチャーは毒気を抜かれたように溜め息をつく。
「まあ、今更傍流にはならん。この集団において吾は少数派らしい故にな。規律を乱し、作戦の効率を下げるような愚策は吾の本懐ではない。して、キャスターよ。汝が持ち込んだ策だ、無論例の置き手紙は用意してあるのだろうな?」
「当たり前のさちこさんよ。小生が直々に執筆した詩神にも勝るとも劣らない語録、これで心を動かされない御人はいないってもんさ」
「御託はいい。あるなら早急に渡せ」
「うーん、さっきよりも刺々しい!」
イデアリストとリアリスト、相性の悪い二人のやり取りを無言で眺める観客たちは内心「コイツら案外仲いいだろ」と、真逆の感想を抱いていた。
犬猿の仲とまではいかないが、仲良く喧嘩するというのはこの光景を指すのかもしれない。
「随分と早く折れたではないかアーチャー。お前さんは好嫌いがハッキリしていて、てっきり最後まで意思を曲げないと思っていたんだがな」
「此奴の甘っちょろい主張に今回ばかりのみ乗っただけよ。口論は只々時間を浪費し、さっきも言ったように吾が少数派が故にこれ以上の議論は無駄と判断しての事ぞ」>>925
人差し指でキャスターの頬をぐりぐりとする。
「暴力も反対!」と抗議が飛んできているが、アーチャーはまるで意に介さず、そんな両者を呆れた眼差しで見るライダーだった。
「アーチャー……口悪いくせにもう打ち解けてる……」
「あ、アタシがいるから」
そして、弓兵をある種の同類として認識していたブリュンヒルドは、対人関係での敗北感と劣等感によりいじけ始め、それを夏美が慰める形となった。カオスである。
一通りの議論と作戦確認を終えた一向は、本作戦の第一関門の要であるアーチャーに視線をやる。
彼はこの場で一番見晴らしがいい地点に身を置き、魔性の目を以って辺り一帯を確かめていた。
「……バーサーカーのマスターらしき存在を発見」
「え!?」
アーチャーの報告に驚愕したのは夏美であった。
「アタシの眼でも魔力で掻き乱されて見えないのに、どうやって……」
「ふん、汝のそれは大気の魔力……大雑把に広汎の魔力を視認するものぞ。加えて、先天的な眼とはいえども結局は魔術由来の特異性だ。しかし、吾のは違う。魔力の奔流を認識できるという点は共通しているが、それとは別に生物に流れる魔力の循環を『点』として識別ができる……これは魔術に因らぬ“種族由来”故、根本的に汝のそれとは異なる」>>926
“種族由来”……弓兵の口から出たその言葉に、ライダーとキャスターが思考する。ようやく手に入った異国の英雄のヒントなのだから、このような事態でも真名を探るにはやめられない。
「さておき、吾は吾の仕事を熟すとしよう」
アーチャーの瞳に妖しさを増した金色が輝く。
その眼が捉えるのは嵐の中にて佇む妙齢の女。
標的に矢文を取り付けた鏃を向け、弦を引きながら魔力を上昇させる。
「ああキャスター、一つ言っておきたい事がある」
視線はターゲットに固定したまま、言葉を投げかける。
「汝の主張にケチをつけるつもりは毛頭ない。それこそが在り方であり、曲げる事のない矜持であると……だが、汝は知らない。この世には決して抗うなぞ無意味な“運命”があると。そしてそれは、仮令神々であろうとも避けようのない破滅であると────かような理不尽を前に、汝は希望的観測を謳い続けられるか?」
自分だけずけずけと言いたい事を発したタイミングで、矢を射る準備ができたようだ。
「嵐を突き破るには、これが最も手っ取り早い────宝具開帳、蒼天に翔べ『是、三射の翔(グシスナウタル・フラウグ)』」
弓から解き放たれた一条は、音速を切った。「トウモロコシに、神モドキ共が……我と芽衣の道を阻むとなれば容赦はせんぞ」
騎兵の武技が、弓兵の矢が、槍兵の槍と魔眼が、暗殺者と魔術師の術が暴風雨を逸らし、散らし、打ち消す。
されど、その全てが未だ霊核に届くことはない。
宝具により開放された魔力を伴った風雨の壁は時を経る毎に増大する。
平時はバーサーカーという位階に縛られたフラカンであっても宝具を使用すれば破壊力に限れば神霊級の魔術行使に匹敵する災害と化す。
だが真に恐ろしいのは複数騎の神性を持ったサーヴァントを目の前にしながら、劣等感を狂気の根底としていたフラカンは揺らいでいない、狂気に囚われているはずの狂戦士が、指向性を持たず平等にその暴力を振り撒いている事実であった。
サーヴァントは成長しない。それは絶対の原則。
まず、サーヴァントとは死者の影である。
『座』に登録された英霊の分け身に過ぎず、仮に現界を通じて変化がもたらされたとしても、それは一時的なモノだ。
しかし、バーサーカー:フラカン(ハリケーン)に関しては些か事情が異なる。
ハリケーン自体は狂戦士の枠に収められた現象であってもフラカンに限ってはそうでは無い。
ソレは呪詛にして残滓、思念体であり漂流物である。
生命の定義が肉体の有無であるならば、ソレはその定義から外れるモノ。
しかし死の定義が不変であるのならば、ソレはそれはその真理から逸れるモノである。
それは時代を掛けて摩耗と劣化を重ねるモノ。
故に死者の霊たる英霊でもなければ、貴き遺物たる神霊ですらない。
零落であってもそれは変化である。
バーサーカー:ハリケーンという霊基に寄生したソレはサーヴァントでありながら『変化』の可能性を持つモノに他ならない。
事実、フラカンは宝具の使用によって確実にその霊基を変容させている。
猜野芽衣という存在の為に、神霊という拘りさえ捨て去る執着がその在り方を再定義する。>>928
芽衣のためだけにある災害、彼女に相応しくない常識(いま)を破壊する、新たな摂理の管理者。
(あぁ、我が破壊は……芽衣の為の世に続く掃討であり粛正となる)
フラカンはもはやサーヴァントという軛から外れつつある。
崩れた土砂を、氾濫する川を、流れ行く雲を、吹き荒ぶ風を取り込んで……
フラカンは現世の自然、その巡りに組み込まれることで変則的な『受肉』を果たそうとしている。
一個の生命として根を生やすのではなく、一時の気候現象としてカタチを為す。
聖杯戦争という術式から外れ、大気の流れに沿ってこの世界を突き進む。
そうなれば、もはやサーヴァントとて手出しできる存在ではなくなる。
もちろん、代償は存在する。時が立てば風は解け、雨も止む。時間経過により再度世界に溶け込み、干渉手段を失う。
だが、フラカンはそれを良しとした。
ソレを止めることは、まだ誰にも適わない。
◇
「はぁっ、はぁっ……」
暴風の壁に阻まれた内側、台風の目にあたる位置。
フラカンが暴威を振るう中、猜野芽衣は地に伏していた。
宝具の使用、それによる魔力の徴収によって芽衣は相当疲弊していた。>>929
周囲の自然を巻き込むことで加速度的に被害を拡大するフラカンの宝具も初動はあくまで魔力で起こした風と雨である。
実態を持たないハリケーンという存在そのものの格を引き上げるにも等しい行為であり、相応の対価が要求される。
『晴眼』という異能を除けば、一般人に毛が生えた程度の素養しか持たない芽衣にとってあまりにも大き過ぎる負担だ。
(私は、何を間違えたんだろう……)
昨日までは上手く付き合えているつもりだった。
(いや、オカルトは信じないくせに神様(コレ)は信じようとしたのがそもそも都合が良すぎたのかな……)
どの道、過ぎた時間は戻ってこない。
フラカンの過去を知り、その生い立ちに憐憫を覚えたとしても、その感情は彼女の狂愛を超えて届きはしない。
呼び出した責任と見つけてしまった過去に私は相対しなければならない。
(フラカンのコレはどう取り繕っても私の願いのせいだ……)
ままならない現実を、思い通りにいかない不条理を破壊したいと思ってしまっていた。
変人で才覚に溢れた姉、自分よりも後からきて抜き去っていく後輩、いつまでも理想に近づけない自分、自分を認めてくれない社会……その全て対する不満。
セイバー……オードリー・ヘップバーンを見てから、その感情は一際強くなった。
覇久間に来てからも、魔術や儀式に振り回されて……そんなもの無ければいいと思ってしまった。
聖杯戦争に巻き込まれてから、その忌避感は一層強くなった。
だからフラカンは破壊する。芽衣の気に食わない常識/非常識(モノ)全てを……。
(決着をつけないと、私のせいだから……それに私はフラカンを知ってしまったから……)
本当は今も何故自分がこんな目に遭わなければならないのかと芽衣、運命を呪っている。
しかし、そうした感情を糧にハリケーンはより強く荒れ狂う。>>930
令呪に目をやる。これを使えばフラカンは止まるかもしれない。
しかし、今も拡大し続けるフラカンに絶対命令権として通用するかは魔術師ではない芽衣は計りかねていた。
一か八か、使用すればフラカンは止まるかもしれない……でも、それで止まらなかったらと思うと芽衣にはどうしても選択が出来なかった。
『芽衣よ、恐れるな……苦痛を与えてしまうことは詫びるが、それも一瞬のことよ』
フラカンから芽衣に向けて声が発せされる。
それは現在進行形で暴走しているモノとは思えないほど優しい声音であった。
『しばし、微睡みの中にいるといい。目を覚ませば、お前の望む世界が広がっている筈だ』
それは甘言だ。覚醒の先にあるのは取り返しのつかない罪の証だけだ。
『あらゆる望みを叶えよう。芽衣に害をなす全てを排除しよう。芽衣の理想に沿う世界を実現しよう』
それでもフラカンは芽衣に甘い言葉を囁き続ける。
不都合を配した都合の良い世界、それは生き物であるならば誰もが望んでしまう空想だ。
そして芽衣の手には空想を成し遂げる、災害(チカラ)がある。
平凡だった自身に舞い降りた万能の天災。
魔力を消費し、思考力の低下した芽衣はその誘惑を振り切ることが出来なくなっていた。
(散々、辛いことを味わってきた……フラカンにも出来ることをした、だったらお返しをもらっても……いいのかな)
芽衣の覚悟が揺らいだ、瞬間>>931
────ヒュン、と
一本の矢が飛来し、芽衣の足元に突き刺さった。
芽衣は驚いて倒れ込むが、恐らくそれは芽衣に向けた攻撃ではなかった。
なぜなら、その矢には細く折り曲げられた紙が括り付けられていたのだから……
「矢文、一体誰が……」
フラカンの暴風雨を突っ切る矢、夏美の連れていた騎兵の英霊か、或いは他の英霊かは分からないがサーヴァントによるモノなのは明らかだ。
芽衣は這って、その矢に手を伸ばし、手紙を解いていく。
その矢文に書かれていた内容は、短くまとめるならばフラカンの中、暴風の壁からの脱出方法とそれを利用した作戦の連絡だった。
(ここまで矢を飛ばせるなら、私自身を射抜いた方が手っ取り早いのに……そうしなかった理由は……)
思い当たる節はある。
ひとつはマスターの絶対命令権である令呪を頼りにしたいから。
もうひとつは……
(夏美ちゃんは……必死に考えて、この作戦を通したんだろう……)
芽衣自身より若いのに、彼女は芽衣を救うために英霊を説得したんだろう。
それがどのような覚悟かは芽衣には計り知れない。
魔術は信じない。ただそれでも。>>932
魔術師でありながら、私の為に悩んでくれた少女の思いを、無下には出来ない。
(悩みのない世界はきっと気楽なんだろう。でも、悩みを持ってるのは私だけじゃない……!)
人は誰しも生きるだけで悩み続けている。
その責務から解き放たれた時、芽衣が感じるのは自由であると同時に孤独だろう。
(ごめんね、フラカン。私はまだ、“悩むことが出来る自分”が惜しいんだ……)
万能であるモノの孤独を、芽衣はフラカンの記憶を通して知ってしまったから。
だから、フラカンの力は芽衣が背負うには重すぎた。
「令呪を……使う」
契約の印に光が灯る。バーサーカー陣営にとっては二度目であり、最後の令呪の行使。
『待て、芽衣……!何を……!』
その輝きにフラカンも動揺する。しかし、フラカンは芽衣を阻むことは出来なかった。
「私は、フラカンを手放すよ。だから、アナタも私を手放して……」
『待て、芽衣……やめろ、そんなことをすれば……グァァァ■■■■■■■─────!!』
「アナタは私に拘るべきじゃなかったんだ……私もアナタを縛るべきじゃなかった。だから、責任は私が取るよ」
フラカンの風が芽衣を巻き上げ、『台風の目』から弾き出す。
安全地帯から脱すれば、精神的支柱を失い暴走する風雨の餌食になりかねない。『プロローグ 〜 召喚』
詩(うた)が聴こえない。産まれてから7歳の誕生日の前の日まで、ずっと一緒だったのに。
誰に聞いても、「お前には姉など居なかったのだ」とばかり。姉と自身を産んだはずの両親ですら。つい先ほどまで私と一緒に遊んでいたのに。
違う、姉——照文意音(いおん)は確かに居たのだ。
私はそれからずっと姉を探し続けている。できれば連れ戻して……叶わずば、せめて姉が存在したことを証明したい。
詩(うた)は聴こえない。ただ波の音がする。
両親すら姉の存在を認めなかったことで、一周回って私は不信を放り投げた。
姉は何者かに攫われた。そいつが姉の生きてきた情報全ても抹消したのでは無いか。私だけは何故かそれを免れた。恐らく姉と私が一卵性双生児だったから。姉と同じ遺伝情報を私もろとも抹消するのが困難だったのではないか。
そんなことを朧げに考えている。
さすがは観光地と名高いペレス島、カフェもレベルが高い。甘めの紅茶を啜りつつ、道ゆく人をぼんやりと眺めながら、あの日から今までのことを一つ一つ思い返し。
成人してからは暇を見つけては世界中を巡り、それでも手がかりはカケラも無い。神秘に近しい照文の知覚を以てしてもだ。これでも巫女としての素養はそれなりにあると自負しているのに。
(ひょっとするとこのセカイの外——)単なる神隠し(それであれば恐らく照文なら判る)ではない、法則すら違うどこかに。浮かぶ最悪の想像にそっと頭を振って。
それを知るためにも今回の儀式——聖杯戦争で願いを叶えなければならない。
幸いにして英霊召喚は神降ろし、つまり高次の存在に呼びかける照文の得意分野だ。
少しく奥まった、観光客はまず訪れない場所。さほど大きくは無いものの、霊脈が地表に近づいているのが照文の知覚では明らかである。聖(きよ)めた水で魔法陣を描き、柏手(かしわで)を一つ。
低く高く、そしてどんどんと高く高く。ラー、と声帯を震わせて自らを調律していく。懐に入れた小竜のコヒーラと同調する。想いと共にエネルギーを高め。角、尾、翼、鱗、いずれも青く輝く竜の器官を知覚する。それも超え、半ば忘我に入る。祝詞が口をつく。
「来たりませ、来たりませ。詩(うた)になりし我が声に応え来たりませ。謳いませ、謳いませ。常世(とこよ)に響くその誉(ほまれ)。現世(うつせみ)に響くその名こそ。我は詩巫女、神楽もて継ぐが定めにて。我と汝が心願叶え給えと畏み畏み申し奉る」
前奏が終わる。準備の整った場にエーテルが集まっていく。「素に銀と鉄(EaSaI)《愛の力もて言霊の力を聖化する》。 礎に石と契約の大公(BiPoSaC)《聖なる世界に戦う為の命を招く》。降り立つ風には壁を(WtW)《我が魂と精神により》。 四方の門は閉じ(CAG)《変化し破壊せよ》、王冠より出で(SfC)《願いを伝え》、王国に至る三叉路は循環せよ(aCTtK)《その果てを創造せよ》。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)(FFFFF)《接続せよ》。繰り返すつどに五度(RFt)《生命を我が元へ導く》。ただ、満たされる刻を破却する(JBtToF)《未知なる世界の予兆を我に》。――――告げる(CALL)《あなたを呼びます》。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に(YwCtM MFiDoYS)《光の魂は慈悲深くも変化する そして魔と邪悪とを光へと導く》。聖杯の寄るべに従い(BGotHG)《悪清める焔もて来たれ》、この意、この理に従うならば応えよ(AIOmIaR)《魔祓う聖なる生命よ》。誓いを此処に(OiH)《業を焔に》。我は常世総ての善と成る者(IbaGotW)《聖なる力もて我は悪なる己を清めん》、我は常世総ての悪を敷く者(IaOtaEotW)《聖なる力もて我は邪を愛に染める》。汝三大の言霊を纏う七天(YaShwTS)《強き光の君》、抑止の輪より来たれ(CfCoD)《闇を超え来たれ》、天秤の守り手よ(GoB)《世界の悪の制御者よ》!
ノタリコンで謳うように唱えられた呪文に、魔法陣が光り輝く。端的に聖杯に働きかける表の意味と、本来英霊があるべき座——高次意識帯に呼びかける詩としての二重の意味を持つ詠唱。リュウとの混血と伝えられる、照文の一族の秘伝。
魔法陣の輝きが頂点に達した時、そのうちに風を伴い人影が現れる。そして影は問う。
「サーヴァント、キャスター。僕を喚んだのは君か?」
同調と魔力の行使で疲れ切っていたものの、問いには応えねば。
「ええ。キャスター。私が御身を呼ばわりました。この身は御身の現世に於ける楔となり標(しるべ)となりましょう」目の前の人物は自分より僅かに背が高い。癖のある黒髪と浅黒い、いわゆる欧州人にオリーブ色と評される肌。一見したところ現代のギリシャにもいそうなごく普通の少年に見える。しかし、特徴的な交差した前髪の下、葡萄酒色とオリーブの葉の色が混ざったような深い目の色と、端正に過ぎる面差しが覗く。それらは完全美を体現する神との混血であることを主張する。
「そうか。僕の名はイオン。アポロンの子たるイオンだ。アテナイ生まれのデルポイ育ち、アテナイの王子にしてアカイアのヘリケーを興したのはこの僕だ」
その名を聞いて、私は息を呑む。偶然にしたって出来過ぎだろう。
いや、高次意識帯にアクセスするにあたって、集合無意識を介した共時性が働くのは必然だったのかもしれない。
一瞬固まった私に彼——英霊の方のイオンが僅かに不審げにする。
「ごめんなさい、姉と、いなくなった姉と同じ名前だったから、その、びっくりしちゃって……」
「……そうか。それで、君の名も聞こうかマスター」
「私の名はネイ。リュウとまじわりし照文が一族の巫女の音意です。ネイとお呼びくださいませ」
「よろしく、ネイ」
「こちらこそよろしくお願いします。イオンとお呼びしても?」
「そうだな、聖杯からの知識で確認する限り、トラキア人が今でもこの名を使っているようだな。寧ろクラス名で呼ぶより安全かもしれない」「ではイオン。私は先ほど申しましたように行方不明の姉の意音を探しております。せめて手がかりを得たく、万象願いを叶えるとされる聖杯を求めております。互いの利益が相反しないよう、無理にとは申しませぬができれば願いをお聞かせいただけますか?」
恐る恐る告げると、彼は困ったような顔をする。
「ネイ、東方のやり方なのかもしれないが僕に過剰に謙(へりくだ)る必要はない。僕の願いは、亡くなる前にもう一度だけ、妻ヘリケーにまみえ、できれば別れの挨拶を交わすことだ。それなりに長く生きた、幸福でもあった、今更死の運命を変えようなどとは思わない。ただ、僕はあの愛する地で、彼女に看取られるか看取るかすると思っていたのに、それが叶わなかったことだけが心残りなんだ」
青年に差し掛かろうとする少年の姿であるのに、虚空を視る姿からは確かに歳月の重みを感じられた。
しかし次の瞬間彼は哀しみを表情から消すと、私に快活に微笑んで言う。
「よしっ、君も疲れているようだし、まずはゆっくりと休みながらでも僕のことを説明しようじゃないか! 代わりにネイ、君のことも聞かせてよ」
私はそれにしっかりとうなづき返した。確かに戦力把握は大事である。
「イオン、わかりまし……わかったわ」
言い直した私に、彼は満足げにニヤリと笑んでみせる。そして一回ポンと手を打った。「よし、じゃあ場所を移ろうか!」
そういうと彼は私を抱き上げた。手足をばたつかせてもビクともしない。
「なっ、私は自分で動けます!」
「そんなこと言ったって足腰が立ってないじゃないか、ここは安心して僕に任せておきなさい」
確かに彼に身を委ねると安心感は感じられた。恋人というよりは、姉と同じ名前だからか家族に対するようなそれ。高次存在との恋愛も照文的には悪くは無い、寧ろ推奨すらされるが、首都に妻の名をつけるほど愛している男とは無いだろうな、とぼんやりした頭の中でも確信できた。
そして何より、彼と一緒だったらきっと姉の捜索も何もうまくいく、とそう信じられて——
『巡り逢う、東西の巫者たち』紅茶じゃなくてコーヒーですね、飲み物を間違えました……
第■回、更新します。
バーサーカーだった炎が収まった。
アサシンは無事だが、その弟達は俺の護衛だったドゥフシャーサナしか残って居ない。
しかし、ライダーもまた周囲に居た兵を失ってる……攻撃のチャンスだ。
「逃がさないよ!」
腕に光の鞭を生やした怪人に姿を変えた銀河が、その鞭を横薙ぎに一閃し、ライダーを乗せた馬の首をへし折る。
馬から飛び降りたライダーは更に後ろに跳躍し、追撃として放たれた鞭の振り上げを回避。
しかし、跳躍した方向にはアサシンが居る。
ただ、ランサーの方が近い……エワズのルーンストーンは既に使ってて速度強化は出来ないが、アサシンの速さなら……。
その時、ランサーの魔力が膨れ上がる気配を感じた。
「ヤバい!」四色の光を纏った槍を構えて駆け出すランサー。
その速さはそれまでの動きとは比べものにならない位に速く、距離の差もあって同じく走るアサシンでは追い抜けない。
対するライダーは宝具の連続使用でいよいよ魔力が尽きたのか動きが鈍く、固有結界も揺らいでいき……その心臓をランサーの槍が貫いた。
ライダーの盾による防御は、後少しの所で間に合わなかった。
「ぐふっ……英雄どころか、それすら超える怪物とは、な……すまねえ、マスター……」
固有結界が崩れ、ライダーもまた消滅していく。
令呪どころか宝具すら使わずにライダーを倒してみせたランサーの手には小聖杯。
魔力供給にボーナスを得たランサーを倒す余力は、色々と消耗した今の俺達には無い。
「畜生!逃げるぞ、マスター」
「ああ」
アサシンも判断は同じだった。
射出した鎖は……糸で切断されてて回収する必要は無いな。
といった所で、アサシンが俺を抱え、ドゥフシャーサナが矢を連射する。
狙いを付けずにばら撒かれた矢を目眩ましに、俺達は管理者の屋敷から逃げ出した。以上、ライダー退場とアサシン撤退でした。
第■回を投下させていただきます。
>>946
「――――――――――――――――――――――――――――――え?」
ランサーがライダーを刺し穿つ光景を見て、銀河の動きが止まる。
アサシン陣営は即座に撤退、ライダーが消滅し周囲の景色が元に戻る。
小聖杯がランサー陣営の手中に収まった。
「え……あ……せいは、い……」
「……」
オーレリアが銀河をちらりと一瞥、逡巡した様子を見せ、向き直って戦場から脱出しようとする。
「待────────────────────────!!!」
我に返り、ランサー陣営を追撃しようとする銀河。
オーレリアは一切振り向かず、フィンガースナップ。
瞬間、こぶし大の硬い実をつけた植物が床を突き破って、銀河の腹部めがけて叩き込まれた。
「げ、っほ……」
顔面・胸元・足・膝・腕……無数の植物がラッシュの如く身体に衝突し、銀河は錐揉みしながら屋根を突き破り、外へと吹き飛ばされた。
@@@>>947
@@@
轟音が鳴り響き、何かが屋敷から勢い良く飛び出していくのを、固有結界から締め出される形となったキャスターとセイバー陣営が目撃する。
「《あれは────────────────……!?》」
「銀河ちゃん!?」
バラバラと装甲の破片を撒き散らして、吹き飛んでいく銀河。
それを確認した瞬間、まず飛び出したのはセイバーのマスターであるハリー・ウォーカー。
それに続いてキャスターとセイバー、キャスターはセイバーの持つ軍刀に風を『巻きつけ』、セイバーはそれを振るい『風の道』を作り出した。
「────────────────────────Twip!(飛べ!)」
ハリーは巻き上がる風に乗り、放物線の頂点に到達したキャスターのマスターをすばやく抱きとめ、着地。
「大丈夫!?銀河ちゃん!!」
「わたし、ひ、と」
「《マスター……?》」
「わ、た……わた、し……私……ひとを、私……!」
そのとき、彼女はこの『大会』の本質を知った。
これは『ルール』と言う薄布に包むことで『大会(ゲーム)』に見せた、サーヴァントたちにとっての『戦争(ころしあい)』なのだと。
所々がひび割れ、バラバラになった彼女の身を守るはずの鎧は、今の不安定になった心を表すかのようだった。>>948
投下は以上です。
知らぬという罪、知るという罰。たとえ影法師であっても彼女にとっては『命』だった。- 950あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:19:23ID:czMjgyMjU(14/23)NG報告
- 951あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:21:16ID:czMjgyMjU(15/23)NG報告
>>950
ロード・エルメロイII世「英霊は揃った。総数は九騎。何かがおかしい。数が多い。聖杯大戦としては足りない。枠が中途半端に増えた理由は、黙り込む聖堂教会が知っている。一体何を狙っているのか? 訝しみながらも、それぞれの陣営は己の目的のため、戦場へと向かう。戦いはまだ先の話だ。次回『始まるを告げる鐘』!」
ハダリー「Not even justice,I want to get love and truth!!」
ロード・エルメロイII世「愛と真実は見えるか!?」
始まりを告げる鐘
日本、福岡県、県庁所在地。
そこにある教会の一角。
時刻は夕方の少し前。
数人の教会関係者が集っている。
夏休みを利用してキャスター陣営とランサー陣営、バーサーカー陣営が来たことで全ての陣営がこの地に揃い、監督役として派遣されたジル・セレナードがこれから起こる戦いの始まりを宣言する。
「これより、ハカタ聖杯戦争の開催を宣言します。皆さん、各陣営の拠点に通達を」 - 952あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:25:54ID:czMjgyMjU(16/23)NG報告
>>951
この一言に反応した、彼女の以外の聖堂教会の面々が一斉に姿を消す。
彼らを見送ったジルは、不安であった。
それもそうだろう。
今回の聖杯戦争に参加した英霊は、九騎という微妙に中途半端な数字だ。
マスターが最初から2人という陣営もある。
それ以前に令呪が無作為に配布され、挙句の果てに譲渡不能で剥がそうとすれば過大な負荷が肉体にかかる仕様という始末。
不安にならない方が異常だ。
この件は、本場四川省出身の料理人が作る麻婆豆腐を報酬として冬木市の麻婆神父と魔術師殺しに調査を依頼してある。
しかし、調査は難航しているようで、神父の一人娘であるシスターの報告によるとかなり難航しているとのこと。
もう座して待つしかないため、ジルは少し腹を括った。
「……晩御飯、シーホークのレストランで食べよう」
括ったついでに晩は高級店で腹を満たすと決めた。
そんな彼女を他所に、通達に向かった面々が各陣営に開催を知らせる。 - 953あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:26:44ID:czMjgyMjU(17/23)NG報告
>>952
数十分後。
市内の複合商業施設の敷地内にあるホテル。
12階にある一番大きなスイートルーム。
そこを拠点としたアーチャー陣営は、同じホテルにある別のスイートを拠点としたアサシン陣営と話し合っていた。
上品な服を着た少年とゴシック調のスーツを着こなした男がアーチャー陣営。
オーダーメイドのスーツを着た小柄な青年とチャイナドレスを纏った黒髪の白人女性がアサシン陣営だ。
「譲渡不可能でしたか。最初から生還だけを目的としていましたから、その点には気付けませんでしたね」
「無理もありません。僕も信頼できる部下に代役を任せようとして、偶然気付きましたから」
メレク・アルマソフィアと李達龍(リー・タールン/オリヴァー・リー)が令呪の仕様に関して話し合う。
参加はするが最初から優勝は度外視で無事に生還して『経歴に箔を付ける』のが目的であるメレクと、『アサシンが強力なので俄然優勝してみたくなった』だけの達龍。
マスター同士に殺しあう理由が無いため、準備段階で偶々遭遇した際にそれを知った両者は早々と結託。
そもそも、サーヴァントに関してもアーチャーは聖杯を求めておらず、この街に今日を撒き散らしたくて仕方が無いだけときている。
この二つの陣営で、聖杯を求めているのはもうアサシンだけだ。 - 954あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:29:33ID:czMjgyMjU(18/23)NG報告
>>953
「ご両人、どうか聖杯を必要とする私の事情をお忘れなく」(※英語で喋っています)
「忘れるものですか。僕の優勝は貴方にかかっているのですから」
達龍もアサシンも、互いに向け合う笑顔は悪役のそれ。
だが、達龍の経歴は調査済みであるメレクは気にしない。
「利害は完璧に一致しているが、我々にはカバーし合えない弱点がある。私は直接戦うタイプではないし、アサシンは知名度が高過ぎてすぐに真名が判明してしまう。まあ、福岡県(ここ)に来る前、メレクが対策済みなのは君達に連絡済だが」
知名度は日本においてそこそこ低いが、直接的な戦闘力は高い英霊。
今回の聖杯戦争においてこれをクリアしている英霊は複数いるが、幸いにもメレクが偶然それをクリアした陣営の一つと接触しており、聖堂教会の関係者が開戦を通達したのを受けて彼はその陣営に連絡したのだ。
「あちらにはこのホテルにある和室スイートを拠点として提供しておきました。作戦会議をしたいのでこの部屋に来て欲しいと連絡済です。あ。噂をすれば影、と言うところでしょうか。メッセージが来ていますよ」 - 955あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:31:37ID:czMjgyMjU(19/23)NG報告
>>954
元々メレクはホラー映画の映像ソフトやホラー漫画等を購入するために、利便性を追求して魔術師としては珍しくスマホを入手していた。(親と親戚は上手く言い包めた)
今回、日本で使えるプリペイドSIMを調達し、自分のスマホに入れておいたのでSMSも音声通話も可能である。
なので例のメッセージは件の陣営から来たのだ。
内容は短く「ドアの近くだから開けて」とだけ。
それを見たアーチャーは使い魔に命じてドアを開けさせる。
学生服を着た双子とスーツ姿の男の3人が入ってきた。
「久方ぶりだな、アルマソフィア卿とアーチャー。そして初めまして、アサシン陣営の御二人。私はランサー。この2人はフィアナ・バックヤードにデクスター・バックヤードだ」
達龍とアサシンに自分とマスター達を紹介するランサー。
それに合わせてフィアナとデクスターも達龍とアサシンにお辞儀した。
同時刻。
アルターエゴ陣営が長期宿泊している、海の見えるホテル。
35階にある寿司割烹。
伍桃夢(ウー・タオマァン/ドリーン・ウー)達はカウンター席で夕食と洒落込んでいた。 - 956あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:32:27ID:czMjgyMjU(20/23)NG報告
>>955
「早かったら、明日にでも他の陣営が激突するやろうな。ワテらはあくまでもヒット&アウェイに徹すんねん。ほんで最後の最後に聖杯を掠め取る。これが一番効率的かつ、安全やで」
「目的を考えたらそれが最善ですね」
寿司が来るまでの間、飲み物を手に英語でこれからの方針を改めて確認する桃夢とリディア・ツキオカ。
2人を他所にアルターエゴは酔えないのをいいことにかなりのペースで酒を飲んでいる。
「珍しいなぁ。そないに飲むやら」
「きっと、緊張しているせいかもしれません。飲み過ぎは良くないと分かっているのですが……」
かく言う、珍しがった桃夢も日本酒を飲んでいる。
先祖帰りの弊害で肉体の成長が緩慢で、うっかりで不老長寿となってしまった影響で、見た目は小学4~5年生ぐらいにしか見えない。
はっきり言って絵面はよろしくない。
桃夢も自覚はあるようで、酒を頼む時にパスポート(生年は誤魔化してある)を提示して高齢者だと証明した。
実際、見た目のせいで子供が飲酒していると勘違いされた事が何度もあるため、外食時はなるべく飲酒を控えている。
そういう意味では桃夢の行動も珍しいといえる。
一方、同じくカウンター席にセイバー陣営がいたのだが、幸いにもお互い気づいていない。
セイバーもかなりのペースで酒を堪能しており、今はマスターの片割れであるソフィ・セーレイズの酌で熱燗を飲んでいる。 - 957あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:32:58ID:czMjgyMjU(21/23)NG報告
- 958あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:34:28ID:czMjgyMjU(22/23)NG報告
>>957
ソフィには確固たる目的がある。
「『WASP』という組織が、仲間達に残る実験の悪影響を全て無くせるほどの医療技術を獲得する」。
生前の内に目的を果たしたセイバーに聖杯へとかける願いは無く、ヴィオランテもそれが見つからず悩んでいる。
だからこそ「ソフィの願いは成就させなければ」と意気込んでいるのだ。
ロード・エルメロイII世「明日、戦いが始まる。理由と目的はそれぞれ。マスターの願いのため戦う英霊、願いのために戦う英霊達とマスター達、生き残る道を模索する英霊達とマスター達、優勝そのものが目的となったマスター、婚活成就のため一丸となる陣営。九つの陣営が動き出す。次回、『キャナル会戦』!」
ハダリー「Not even justice,I want to get love and truth!!」
ロード・エルメロイII世「愛と真実は見えるか!?」 - 959あやか『Fate/Planetary System of Holy Grail~聖杯惑星爆現~』◆8UqAuWjxP.2020/12/25(Fri) 23:35:39ID:czMjgyMjU(23/23)NG報告
>>958
以上です。
短いけど今回はここまで。
さて、次回は戦闘シーン書くのは確定しているけど、どの程度の分量になるのやら。 >>934
神馬に乗り天空を駆るライダー。目指すは嵐の中心、バーサーカーの霊核。
ライダーの周囲で、世界が回転した。嵐そのものの躯体、神威の具現。吹き荒れる暴風雨は有重力状態にもかかわらず、まるで無重力であるかのようにライダーと神馬を振り回す。瞬間、上下感覚が失調し、自分の場所を見失いそうになるがライダーと神馬はすぐさま平衡と安定を蘇らせ、周囲を観察する余裕を取り戻す。超一流のパイロットであっても、ライダーほど即座に対応する不可能であろう。
軋む狂戦士の霊基、渦巻く積乱雲により轟く雷鳴。闇と光が一瞬ごとに位置を入れかえ、互いの領域を侵蝕しああっている。闇は無限の厚みと深みによって光を封じ込め、光は瞬間的な生命の解放でそれに抗っているように見えた。
「天を駆け、野分を相手に挑戦。そうそう出来ないな」
ライダーは野獣めいた笑みを面頬で隠し、神霊級の魔術行使に匹敵する災害と化したバーサーカーの猛威を突き破るように疾走する。
雨粒はその密度と暴風による流動の速度によって嵐は攻防一体幾重にも展開された鉄壁の防御陣となっていた。
嵐による常時続く雨粒による打撃と、こびりつく雨水の重量、そして嵐の内部で起きる雷が、ライダーを苛み、傷つける。本来であれば五体も不朽不滅の鉄の身体を持つライダーだが、それを維持するための魔力も今はこれから使おうとする宝具のために温存している。
「……っ!」
鑢がけされるかの如き強烈な風雨、さらに雷撃で霊核が砕かれる。落馬して、瀕死の巨体をのたうたせながら、五体が裂ける。残留魔力のほの白い光をちらつきつつ、ライダーは落下していく。雷撃が煌めいて闇を焼く。
いたるところで稲妻が交差してる空で、ライダーはまるで逆再生した映像のように元通りになる。
──ここで命をひとつ使うことになるか。
ライダーは生前、七人の影武者を従えていたことから、影武者の数だけ代替生命を持っていた。蘇生宝具『妙見祈願・七天武者(なむみょうけんだいぼさつ・ななつのかげを)』によって、ライダーは戦線復帰して求黒に拾われて、再び疾走する。>>960
旋回──上昇──降下。見えざる道が虚空にあるかのように高速で移動する。移動しながも弓に矢をつがえる。
ライダーは、自然体のまま、力ある言葉を口にした。
「南無八幡大菩薩……我が武錬、御照覧あれ!『真言・北辰妙見菩薩(オン・ソチリシュタ・ソワカ)』!」
ライダーが弓を撃ち放つ。撃ち出した矢の連撃が、バーサーカーの風雨を相殺、撃ち破っていく。
一本の矢につき暴風の壁を破って道を開いていく。その威力よりも眼を見張るのは、連撃そのものの速さと異常な軌道であった。
一度に二本から三本の矢をつがえ、眼にも止まらぬ速さで弓を引き続けるライダー。のみならず、その矢はまるでそれ自体が意志を持っているかのように空中で軌道を変え、暴風雨を突き破り消し飛ばしていった。
消しきれない、避けきれない風雨は鎧で受け止め、威力を無力化している。
「■■■■■■──ッ!」
天空を轟くバーサーカーの咆哮とともに、雷の嵐がライダーに襲いかかった。
「ありがとうな、求黒……!お前の命、燃やすぜ!」
対するライダーは無言のまま一際大きく弓を引き絞る。
大弓が激しく撓み、真っ二つにへし折れようかというその瞬間に力を解き放たれ───清廉な神気を纏わせたうねる軌道がそのまま巨大な大蛇か竜のように見える七本本の矢。風も雨も雷さえも、全てを喰らい潰しながら天空を覆い尽くす。
技術と神気の極致たる宝具『真言・北辰妙見菩薩(オン・ソチリシュタ・ソワカ)』。太刀を握れば無呼吸無拍子の空間すら切り裂く煌光の連撃となり、槍を握れば連続同時攻撃を可能とする御業そのものが宝具である。
そして今、ライダーから放ったれた矢は、神馬・求黒の神気を重ねて纏わせることでより一層の強大化を実現していた。求黒は妙見菩薩から授けられた神馬。妙見菩薩とは玄天上帝、つまり玄武のことである。求黒は玄武の神性を継いだ玄武の子にあたる神獣なのである。玄武の水を司る神気がライダーの矢に乗せて強化されるだけでなく、バーサーカーの暴風雨が持つ水の気を呑み込み強大化してバーサーカーを傷つけることになった。
(耐えてくれよ、求黒!)
興奮が内側から霊基を灼きつくすようだったが、溶岩の熱流のなかに屹立する岩があるように、ライダーの精神の一部に冷えた部分が残る。>>961
求黒が嘶く。余計なことを考えるな、矢を引けとライダーを叱咤するような鋭い嘶き。
───お前も……マスターも、とんでもない阿呆だよ。
ライダーは面頬の奥で呟いた。求黒が自分を犠牲にしたのはこの土地とそこに住む民を守るため。夏美が戦力の弱体化をさせてでもバーサーカー討滅を望むのも、やはりこの土地と民を守るためだ。戦い勝つことよりも、守ることを優先した戦友と主。
───阿呆だが、嫌いじゃないと思う俺も阿呆か。
ライダーのクラスで現界した彼は守護神としての側面が強調されているからなのか、あるいは救いを求める声を無視することができなかった生前から性情なのか、彼にはわからなかった。
求黒は虚空を蹴り移動して、ライダーが矢を無窮の闇を貫いたのだった。
無彩色と有彩色が視界一杯に炸裂する。光球の中心から暗黒の虚空へ吐き出され、虹色の粒子となって天空の一隅を万華鏡の輝きで飾った。
「■■■■■■■■───ッ!?!?!!!」
霊基を壊滅的に破壊され、断末魔が天空に響き渡る。ライダーの視界は光と影の奔流に満たされていく。
霊基の崩壊による超高熱の爆風は、もし地上で起きていれば生者のことごとくを死者の列に加えていただろう。めくるめく光の巨塊が出現した。急速離脱するライダーは光のかたまりを直視できなかった。地上から様子を見守る夏美たちの視界に対する光の侵略は、一分間以上も続いていた。
爆発光の最後の余光が消え去り、空が闇へ回帰すると、ライダーは地上へ帰還する。息が上がり、身体が消滅寸前の求黒だが、姿勢を崩さずライダーを地上に届けるために走り続ける。例え余命幾ばくもなくとも背に乗せる主を目的地に届けることこそ、求黒の矜持であるのだから。>>962
以上です。ライダーがバーサーカーに致命傷与えて霊核を破壊しました。こんばんは、下畑来野です。新聞記者です。
・・・・・・嘘です、少し盛りました。〇〇高校の新聞部です。
でも、ゆくゆくはそっち方面でエースになることは確定であるところの事実なのですから、少々前借りして悪いこともないでしょう。
傷つく人もいないですし。
ところで、私は今、かの有名な「ペレグリヌスベース」、通称「ペレス島」に来ているのです。
数年前の地震で突如地中海に姿を現したこの島は、今やオカルトの最前線!
海底から現れたときにはすでに巨大な木々が生い茂っていたり――そこかしこからギリシャ細工のような装飾品が発見され、連日のニュースで一時期はお茶の間をにぎわわせたりもしました。
豊富な鉱物資源のために周辺各国が行った熾烈な取り合いの結果、“どの国も干渉しない独立した存在にしよう”という協定が結ばれ、名前の通り主のいない巡礼者(ペレグリヌス)となったこの島は、ヴァチカンに次ぐ小さな国家とみなされることもあります。
これも一説には、この島に残された超文明をアメリカが独占するためだとか。きな臭いですね。
そんな島に私がいるのは、もちろんこの島の秘密を暴くため!・・・・・・というわけでは残念ながらなく、単なる父のお仕事の付き添いです。
この島の産業に出資している人たちが集まるパーティーがちょうど夏休みの期間にかぶっていましたので、顔みせで引っ張られてきたわけです。
本来であれば親友の2人と旅行に行く予定だったのですが・・・・・・無念。
こうなったら少しでもいい思い出を!という事で、皆さんお酒が入って宴もたけなわであるところのタイミングでこっそり抜け出し、島の散策に繰り出したのです。
当然狙うはビッグニュースなわけですが、困ったことにここ2、3年ですっかり「ベース」を名乗るのにふさわしいほど開発されてしまったこの島はその大部分がコンクリートやアスファルトで、面白そうなところがありません。
おのずと足は、島の最西部にあるわずかばかり残された古代樹の森へと向かいました。>>964
さすがに古代樹というだけあって、私が抱きついても手が回りきらないような太く、大きな樹がたくさん立ち並んでいます。
屋久島のような苔むした神秘的な世界を想像していましたが、実際は乾燥した気候のせいか低木のほかは土の色が見え隠れする程度で、今着ているような動きにくい服装でも割と入っていきやすそうでした。
たまに地面が軽く踏みならされて獣道のようになっているところがあるため、もしかしたらお手入れが入っているのかもしれません。
私は少し拍子抜けしながらも、スマートフォンの明かりを頼りに、暗い森の奥へ慎重に進んでいきました。
元々は海底にあった島。大型の動物などいるわけがありません。
そう頭では理解しているのに、木の葉がそよぐたび、または踏みつけた木の枝が爆ぜるたびに飛び上がりそうになります。去年親友たちと入ったお化け屋敷の、数倍以上のドキドキです。
・・・・・・よし!やっぱり今日はこれくらいにして帰りましょう!ドキドキに耐え切れずに心臓が止まっちゃっても困りますし!!
そう決心を固めたときでした。
目の前に突然光の柱が現れたのは。>>965
「サーヴァ――うわあ!?なにここ、服が!服がすごく引っかかるっ!!?」
あわただしい声に瞑った目を恐る恐る開くと、
華奢で中性的な面立ち。
流れるような白銀の髪をあみこんだ大きなみつあみ。
その髪色に合わせるように純白の肌には、すらっと高い鼻を挟むようにして大きな緋色の瞳が埋め込まれていて。
中性的な顔立ちからは女の人なのか、それとも男の人なのかはわかりませんでしたが、とにかく今まで見たことの無いような綺麗な人が腰を抜かした私と相対するように立っていました。
・・・・・・いえ、「立っていた」は嘘でした。
正確には、羽織った純白のマントを枝にひっかけて宙ぶらりんになっていました。なにやら首元を掴まれて持ち上げられた猫ちゃんのようです。
その人はしばらくもがいていましたが、私の視線を感じるとフフンと得意げに鼻を鳴らして、ぶら下がったまま踏ん反りがえりました。
「ルドッ・・・・・・!サーヴァント、ライダー。召喚に応じて参上した!君がライダーのマスターだね?」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・?
いえ、違います。>>966
◆◆◆◆◆◆
「召喚した覚えがない?本当?ライダーは確かに助けを求める声を聴いたのだけれど・・・・・・」
降りるのを手伝ってあげお礼の言葉を受けた後、ライダーさんは私と同様に困惑した様子で尋ねてきました。
「そういわれましても。ライダーさんは何しにここに?」
「うん、ライダーはサーヴァントとして『聖杯戦争』に参加しに来たんだよ。そして、君がマスターだ。その手の甲に『令呪』があるから、それは間違いない」
言われてそっと目を落とすと、確かに右手の甲に不思議なデザインのタトゥーのようなものが浮き上がっています。
ここ数日痣みたいになっていて、どこかにぶつけたかな、なんて思っていたのですがのですが、それが急にはっきりとした形になったようです。
「これがあると、その、ナントカって言うのに参加することに?」
「『聖杯戦争』だよ。本当に何も知らない一般の人なんだねえって、ライダーもびっくり。ええっと、大まかに説明するとね――なんでも願いをかなえる権利を巡って、7人の魔法使いが昔の偉い人の霊を呼び出してペアを組んで、命がけで戦うんだよ。それで、最後まで残ったペアだけが願い事を叶えられるんだ」
「ということは、ライダーさんも?」
「うん。ライダーも元々は昔の偉い人だよ。今は参加するために『サーヴァント』っていう体をもらっている状態。当然、ライダーも願い事を叶えるために来たのだけれども・・・・・・うーん・・・・・・」
頭を抱えるライダーさん。
未だに実感がわきませんが、どうやら私は大変なことに巻き込まれてしまったのかもしれません・・・・・・?>>967
ペレス聖杯戦争、騎陣営召喚シーン。以上です。『気をつけろよー。お前が狙うのはバーサーカー。もしかしたら敵味方区別なく全てを壊し尽くす化け物かもしれねぇ』
「わかってる。大丈夫大丈夫!きっと仲良くなれる」
『狂ってるやつに仲良くなるも何も……。
………というか、なんでお前、バーサーカーなんて召喚したんだよ。従わせるとかそういうの、嫌いだろう』
「………英雄っていうのは戦い続けたものだ。それが国を導いた王だとしたら、誰かに王たる自分が膝を屈するというのは嫌なことだろうし、それが誰かに仕えた騎士ならば、主と崇めたもの以外の忠を仰ぐのは屈辱だと思う。なら、僕はそれを両者が気にしないで済む方法で戦いたい。自分勝手だとは思っているんだけどね」
『狂ってる方が良いっていうのは、エゴの押し付けじゃないのかね』
「僕以外に聖杯戦争に参加した友達がいて。その人も今回の召喚予定の英霊を召喚したらしいよ。そしたら……うん、そういうのに抵抗がないって言ってたから。でも、とりあえずちゃんと謝ろうと思う。もし怒って殺されちゃうなら……その時はその時だね。仕方ないことをしてしまうんだから」
側から見たら少年一人で喋っているような光景。それは少年の内に潜むものと話し続けているのだが、そんなことは知覚する術がない。アドニス・メルクーリとその内に宿るジェラールが仲良く話している。二人にとってはそれだけの普通な光景である。
「聖杯戦争……英霊という高位の存在を己が体と聖杯によって繋ぎ止め、それらを用いて戦う戦争……」
魔法陣を描きながら、アドニスはその仕組みについて思いを巡らせる。
その理念は神に類似する古き貴く畏き存在を下ろし、世の光を集めんとするメルクーリの考えに非常に似ているからだ。己が体を要石とする星の神子、ガイアの触覚が源流であるメルクーリ一族。その最高傑作であり、人ならざる神秘を宿すアドニスはその仕組みを他人事とは思えない。
………別世界線、どこかで起きたバタフライエフェクトの末においては聖杯の器となり得たアドニスにとって、それは何ら間違いではない。「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が祖神セレナ・アマリリス・メルクーリ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する
──────── Αρχή(セット)」
普通の人間、いや魔術師だったとしてもあり得ないほどの魔力。練り上げられるそれと、アドニスという極大の依代から導き出される英霊はかつてケルトを震撼させた大魔王。
「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
─────誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──────」
巻き起こる旋風と閃光が晴れた先に、アドニスが召喚したサーヴァントはいた。
「………あれ?えっと、なんであの子(バロール)じゃなくて、僕が…………いや、そういうことか。まあいいや。
バーサーカー、バロール。召喚に応じました。あなたが僕のマスターですね?」
目を瞑った、蒼い蒼い髪色の少年がそこにいた。いるはずだ。大仰な鎧も、なんの武器もなく、目を閉じているのにこちらに向けて笑いかけてくる美少年。……しかし、アドニスとジェラールが感じた異物感は的確に本質を捉えていたのだと思われた。他の何にもわからない、パスが通じたこの二人だからこそ感じ取った異物感。「おい、なんだお前」
銃弾よりも速く、アドニスの内側からジェラールが飛び出し鋭く尖った爪と拳をぶつけんとする。その神秘は並外れており、当たりさえしたのならばサーヴァントさえ傷つけ得る魔術とは違う古き神秘そのもの。
しかし、その一撃を受け止めることもなく、少し屈むだけでかわしてしまうその存在はなんなのか。
「やめて、ジェラール。手を引いて」
「………けど、ダメだろ。こいつはこの世にいちゃいけない、それぐらいお前でもわかる」
「話を聞かないことには、何もわからないでしょう。
………ごめんなさい、いきなり乱暴な真似をしちゃって。心から謝罪します。それと質問を一つ……本当にあの巨人王バロールであってる?」
「………厳密には神話において猛威を振るったバロールとは違うというか、同じであって同じでない、というようなものなのだけれど……ええ、まあ。バーサーカーの狂気と巨人族の凶暴性が掛け合わさった結果、本来出てくるはずのなかった側面のバロール、という認識をしてくれると嬉しいな」
あっけらかんと答えるその様子と、嘘をついているように感じないその気質から質問を重ねていく。
「こちらのサーヴァントとして動く気は、ある?」
「もちろん。そも、サーヴァントというのはマスターたる存在の命令に従って働くものだろう。よく従者扱いだの使い魔扱いだのに怒る英雄たちもいるけれど、僕としては『魔術師の魔力を受け活動する使い魔』の枠組みに則った上で召喚されることが前提なんだから弁えた方が良いとも思っている」
「さっきの一撃で、僕たちのことが嫌いになった?」
「いや全然。僕の素性を知ったらおかしくもないかなぁ、なんて思ったり」
「じゃあ、最後に。………その素性というのは?」まるで眩しい日差しに照らされてしまった雪のように、溶けて消えてしまいそうな微笑は崩さない。そのまま当然というべき問いに答える。
「巨人王バロールが得た直死の魔眼……その魔眼という肉体に宿った、いや、繋がったというべきか。ともかくそれに宿った『 』……君たちが根源というものとほぼ同義のもの。つまり、うん。根源接続者というのが僕さ。………まあ、バロールとの契約で接続者としての全能はほとんど一切合切使えないんだけどね。ようはただの少年なのさ」
終わりです- 973ペレス弓陣営『Don't call me Little Red Riding Hood』◆4QvCgGuW1A2020/12/27(Sun) 18:16:54ID:Q3NTQwMzY(1/5)NG報告
「ああもう、なんでこうなるのかねえ俺ってやつは」
溜息と愚痴を漏らしながら準備していたチョークで方陣を描く。
最終的に『壁』で上書きをするのだから関係ないかと気づいた時には、既に方陣は完成していた。
時間の無駄、労力の無駄。この聖杯戦争に参加すると決めてから、ことごとく運が悪い。
直前で大仕事が舞い込み、手持ちの武装を随分と消費し、触媒を準備する暇すらなかった始末。
少しでも太い客になればと思った大会社の社長とやらは、俺の援護があったにも関わらず仕事外の場所でくたばっていた。
なんだよ、仕事が終わった勢いでお姉ちゃんを呼んで羽目を外しまくった結果テクノブレイクって。そこまで面倒見切れるかアホくせえ。
―――とにもかくにも、俺こと景伏弦は。この最悪の状況で、サーヴァントを召喚せねばならなかった。 - 974ペレス弓陣営『Don't call me Little Red Riding Hood』◆4QvCgGuW1A2020/12/27(Sun) 18:18:27ID:Q3NTQwMzY(2/5)NG報告
>>973
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する―――封(セット)」
イメージするのは、組み立てられる立方体。
『形』を定めた『箱』を魔力で作り上げ、それを何層にも重ねていく。
「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
想像通り、目の前には立体の方陣が展開されていた。
想像通り、というのが肝だ。想像と実際の出力に差異が無い。すなわちそれは、俺の魔術回路が絶好調であることを示している。
「―――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」 - 975ペレス弓陣営『Don't call me Little Red Riding Hood』◆4QvCgGuW1A2020/12/27(Sun) 18:19:37ID:Q3NTQwMzY(3/5)NG報告
>>974
さあ、最初の運試しと行こうか。聖杯さんよ。
触媒も何も無い相性召喚。この不運を踏み倒せる英雄様が来るか、運も何もねえポンクラが来るか。
お前と俺、真剣勝負ってやつさ。
さあ行くぜ。吠え面かくなよ? 見せてやるさ。不死身の男と呼ばれたこの俺の力ってやつをな―――!
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――」
衝撃、そして閃光。
フラッシュグレネードが可愛く思えるような光が一面を支配し―――その先には、小柄な人影が立っていた。
「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上したわ。
貴方が、私のマスターということでいいのかしら?」
「…………………………赤ずきん?」
問いかけに答えるのも忘れて、ファーストインプレッションが思わず口に出た。
赤いずきん、赤い外套、赤い髪。何から何まで赤い色彩を湛えた真紅の少女。
三つ編みということも含め、俺が何度となく読み聞かせてきたあの世界的に有名な童話の主人公そっくりだった。 - 976ペレス弓陣営『Don't call me Little Red Riding Hood』◆4QvCgGuW1A2020/12/27(Sun) 18:19:52ID:Q3NTQwMzY(4/5)NG報告
>>975
「―――私を赤ずきんと呼ばないで」
刹那、怒気を孕んだ言葉より先に耳にした『あまりにも聞き覚えのある金属音』に、俺は反射的に身を逸らした。
「OK、OKだ。俺が悪かったから、まずはそいつをしまってくれ。いいだろ?」
突きつけられたのは、少女の身長を優に超え、俺のタッパにも届きそうなほど長大な猟銃だった。
なるほど。こいつは確かにアーチャーだ。納得いくぜ、くそ。
「私はパウサニアス……まあ、聞き覚えがないでしょうから。赤ずきんでもブランシェットでも好きに呼んで頂いて結構だけれど」
「おいおい。じゃあ俺はなんでお前さんに殺されかけなきゃならないんだ」
「お馬鹿ね。それはそれ、これはこれよ。自己紹介が済んでいるならともかく、ファーストインプレッションを口にするのは感心しないわ。それともあなたは、太っている人のことを初対面で豚と呼ぶのかしら?」
「わかった、わかったよ。俺が全面的に悪かった」
小言を続けるアーチャーに頭を下げて詫びる。なにが相性召喚だよ。得物が同じってだけじゃねえか、アホめ。
「俺は景伏弦。職業は傭兵だ」
「ああ、道理で。同じ匂いがすると思ったわけだわ。
これからよろしくね、マスター。同じ穴のムジナ同士、せいぜい上手くやりましょう。貴方の腕前、狩人(わたし)も期待しているわよ?」 - 977ペレス弓陣営『Don't call me Little Red Riding Hood』◆4QvCgGuW1A2020/12/27(Sun) 18:20:07ID:Q3NTQwMzY(5/5)NG報告
>>976
以上です 「いやぁ、気持ちいいね~っ!」
思わず叫んでしまう程、潮風が心地良い。自分の半生というか、かなり前までは森の奥でグースカ寝ていた訳だから、こういう開放的な場所は非常に好みだ。楽しくなってくるし、最近の生活範囲であるロンドンでの移動手段は車や飛行機がメインだったのもあって新鮮さもあるのかもしれない。
この船旅の目的であるが、つい先週掴んだペレグリヌスベースという地中海に現れた構造物島で開催されるという大儀式、”聖杯戦争”とやらに参加する為である。聖杯戦争について知ったのは戯れにグレムリンの使役の練習をしていた折にグレムリンの一体が拾ってきたのが情報源だ。割と不確実性も高い為、正直言えばそこまで覚悟?とか決意?のようなモノは無いというのが本当の所だ。
「でもま!JAPANのラノベやコミックじゃ戦いの中で芽生える友情!とかあったし、ボクもそういう事できるかも知れないよネ。楽しみ~。魔術の実地試験にもなりそうだし、椅子に座ってうだうだしてるのは窮屈だから、こういうのがボクには向いてる、、、筈!!」
その後は船内で食事したり、召喚儀式に備えて寝だめしたり、自分なりに船旅を楽しめたと思う。レストランは食べ放題形式というか色々な料理を楽しめたので、非常に美味しかった。>>978
そうこうしているうちに、ペレグリヌスベース島に到着である。自分のキャリーバッグを持ちだし、入島審査官には元気いっぱいに
「Sightseeing!!」
を告げて島への第一歩を踏み入れる。いやぁ、朝日が眩しいけど、心地いいな!さて、これからどうしようか…。そもそも聖杯戦争への参加ってどうすればいいのかな?令呪が体のどっかに出現すればいいみたいだけど、その為には参加申請の手続きとかしなきゃいけないんだろうか。とりあえずは朝食を取ったり、これからぺレス島で過ごす為の拠点、、、ホテル?なんかも決めないといけないなぁ。まぁ数日ぐらいなら野宿とかネカフェ的な所でも問題ないけど、やっぱりベッドでがっつり睡眠をとれるに越した事はないんだし。
「…痛っ」
なんて事を考えていると、胸の間にチクッとした痛みが走る。んん?おっぱいに触れて探ってみると、胸の谷間に幾何学的な刺青っぽいモノが浮かんでいた。
「おっ、コレが令呪かぁ。。。カッコいい!!」
そうだよね?多分そうだろう。魔力的なモノは感じるし、しっかり三画のマークだし。さて、それじゃあ拠点探しを継続しつつ、下準備とか色々始めて、夜を待とう。自分の魔術は都市の眠る欲望や神秘を基盤にするものなんだから。ならやはり、一番魔力が高められるのは人々が帰路につき始める夕方~夜な訳で。さ、まずは街の商店街とか観光名所なんかへのちょっかいや冷やかしを楽しむぞ~!!>>979
さて、良い感じに夜が深まってきた。さっきまでピザやら肉やらをたっぷり食べて、魔力も十分。そんなボクが今居るのは、ちょっとアウトローな人達のたまり場にでもなってそうな路地裏。こういう所に対して人は想像力を働かせ、良い感じに神秘(っぽいモノ)も溜まるのだ。もしかしたら澱んでいるのかもしれないが、魔術の実行なんてオカルティズムな儀式を行うにはまさにうってつけ、という訳だ。
召喚の魔法陣をアスファルトの地面へと現代アートの如く書きなぐり、テキトーなスーパーで買ってきた生肉を召喚陣の前に安置する。そして使いきったスプレー缶とチョークのゴ/ミや蝋燭の余りなどの召喚陣の制作に使ったは一旦ヨソに放置して英霊召喚の詠唱を始める。
勿論、人払いの魔術は発動済で結界も貼ったので、神秘の隠匿はバッチリである。さぁて、やるぞ~!!>>980
「The labor we delight in cures pain.(ボクの魔導の始まりだ!鍵束を持って門を開けろ)」
「…Life is but a walking shadow.(…此度の魔術は英霊召喚、過去の誰かをご招待!)」
詠唱の開始と共に、周囲の光が漂い始め、この『場』が満ちていく感覚を覚える。
「I will preach to thee. When we are born,we are cry that we are come to this great stage of fools(そうともボクは貴方を呼ぼう。もしや願いは成就せず、無駄死にの可能性もある。それならトライはムダだって?)」
ボクの刻印が疼き、魔力回路も絶好調に駆動。良い感じだ。今んとこミスはしてなさそうだね。
「No!(そんな事はありえない)」
「All the world's a stage,And all the men and women merely players;.(”誰”にも”いつ”にも価値がある。個人に必ず役割一つ)」
ゾクゾク、ぞわぞわ。背筋に寒気は走る。
「Life's but a walking shadow, a poor player That struts and frets his hour upon the stage And then is heard no more.(それなら貴方を舞台に挙げて、私の踊りの相手としよう。舞台にあげれば死人でも、喋れる台詞はある筈さ!)」
「To be, or not to be: that is the question.(さぁ、この手をとって。一緒に戦で踊ろうぜ!)」
すると。召喚陣に魔力が集束していく風になった直後、その塊を切り裂くように雷鳴が轟き暴風が吹き荒れた。ん、ちょっと危ないかも。。。そして目の前が晴れると、そこには。>>981
「初めまして。我がマスター、マジェスティあるいは己の友となるかもしれぬ貴方。サーヴァントサタン、現界致しました。クラスはアサシン、のようですね」
そこには、ねじれた角や牙、爪、折れた翼を持つという特徴を持つ異形の青年(半裸)が立っていた。おお、彼がボクのサーヴァント、って訳か…。え、真名、サタン!?
「宣言しましょう。己が、汝様の従僕です。汝様と良き旅、良き試練がありますように。どうかよろしくお願いします」
マジかぁ!凄いぞボク!まさかまさかサタンなんていうすっげぇ存在を召喚できるなんて!なんかイメージされるサタンよりも悪魔感無いけど、それでも全然問題ナシだよ!やったぁカッコいい!!
「そ、そうだよ!初めまして!ボクの名前は刹那・ガルドロット!これからよろしくね、サタンさん!」
いやぁ、さっすがボク!天才なのでは?なぁんて、つい自画自賛しちゃいそうなぐらいに良いスタートダッシュだよ!うふふ、今夜は眠れそうにないかも。。。色んな意味で!!
まだ宿泊地決まってないし!!とりあえずは何でもいいから拠点を決めて、我がサーヴァントな彼、サタンと一緒に作戦会議、かな?第■回、二日目終了のSS投下しますね。
「二日目も終わりですわね」
敗退したマスターの保護に、不正を働いた管理者の処分……その他の片付けも含め、漸く乱戦の後処理が終わりました。
「前に報告した通り、此方で討伐した侵入者は三名。炎と氷の銃弾を操る魔術使い『栗栖闘牙』、H&K MP7で武装した出っ歯の傭兵『トマー・ニーグ』、小規模な水の魔術を扱う来栖出身の若き魔術師『小出太陽』……やはり大聖杯の奪取を企んでいたが、『骸骨』すら倒せないようではな」
ユーリの報告。
しかし、栗田東に続いて小出太陽とは……管理者といい、この街の魔術師のモラルは低いと言わざる負えませんね。
大会の準備時に小出太陽と顔を合わせた時の浮かびましたが、もう終わった事。
赤みがかった黒髪を逆立てたその姿を、頭から捨て去ります。
「けどさ、二騎も落ちた割には少ない被害で済んでるよね。前に日本で開催した時とか、街への被害が酷かったし」
「学習塾を拠点にしたアーチャー:イリヤームーロメツと、その付近の小学校に陣取ったライダー:スブタイ……人払いは出来てるからって全力での潰し合い。途中、漁夫の利を得ようとしたキャスター:アルキメデスを二人掛かりで倒したりしつつ、最終的にはアーチャーの勝利で終わったけど周囲は瓦礫の山ばかり」
「優勝したランサー:李書文のマスターが賞金を全額復興費用に寄付してくれて良かったわ」「大変だったと言えば大会中に、生きたまま首を鋸で切断する猟奇殺人鬼が現れた回とかもだよね。セイバー:シャルル=アンリ・サンソンのマスターが捜査に協力してくれたからすぐに逮捕出来たし、それであの陣営は視聴者からも人気出たよね」
「ホント、罪が重い相手程避けられない斬首の剣閃というジャイアントキリング向きの宝具に加えてそのヒーロー性。そこで敗退したとはいえ、アサシン:加藤段蔵との一騎討ちも名勝負だったし」
一段落して気が抜けたのもあって雑談が弾んでますわね。
しかも、過去の聖杯大会となると話題は幾らでも出てきますし。
私だって時には過去の大会へ思いを馳せたくはなりますけど、まだまだ大会はこれからですので。
「さてと、まだフォーリナーという詳細不明のエクストラクラスが存在しています。既に此方の判断で大聖杯を破壊する許可が出ていますし、気を抜くのは此処までですわよ」
本部と魔術協会の協議により、大聖杯の破壊許可は既に降りています。
破壊しないに越したことは無いのですが、最悪の事態は避けなければなりません。
そして、フォーリナー陣営が『準備』を整えつつあるのも事実……気を引き締めなければいけませんわね。以上です。
これで二日目は終わり、三日目に移ります。「───────真名解放、か」
その宝具の名───────つまるところ、父を殺めた毒槍というそれと、ギリシャ語で刻まれた宝具。なるほど、一万四千年前にかの機神が栄えその後も様々な神話が紡がれたあの世界では、そういう逸話を持った英霊が存在した。
大魔女キルケーの息子にしてトロイア戦争の英雄オデュッセウスの息子、テレゴノス。かの大英雄をも殺めた毒槍をこちらも宝具を使わずして防げる確証が何処にあろうか。そんなものはない。こちらもこちらのできる限りの宝具開放で相手をしなければならない。
(リソースが無い、のぉ…………)『偽か真か』の行使条件は二つ。一つは展開規模によって増大する魔力の消費と、もう一つは展開をするにあたって使用する変化元……つまり媒体だ。
魔力の消費自体はマスターから搾り取ればどうにでもなる。しかし問題は媒体の方。キャスターとしてはいつもいつも大気中に満ちるマナを変化させて様々な物を作り出し戦っている、のだが。
大気中のマナは枯渇寸前、とまでは言わないがかなりの量が減少していた。その理由は恐らくテリアルのマナ大量吸収と、ルーカスの魔術行使によるマナの消費だろう。先ほど自分が世界を塗り替える上でマナを媒体に使った後だという事実も痛い。残存しているマナの量ではこの宝具を受け止め切れるほどのリソースは算出できない。
かと言って極大の呪術を放とうと思えば、術式構築に時間を取られてしまうだろう。本来撃ちあえるほどの威力でないものを己が技術によって引き上げるのだからやはりコンマ数秒のズレは生じてしまうし、歴戦の英雄がそれを逃すのはあり得ない。
「はぁー………仕方ないか」
なけなしのマナで風の刃を作り出し、それで両腕を落とす。サーヴァントの体はエーテル体。つまりその体は生物の肉ならずとも確かにそこに存在する「エーテル」であり、それは本質的には大気のマナと同じものであると。
「腕2本分に濃縮されてるエーテルがあれば……なぁ!!」
噴き出す血も幾らか利用して、その全てを扱って宝具で対抗する。作り出すは古き竜の躰。かつて悠久の時を経て巡り会ってきた竜種の爪、鱗、尾、様々な部位へと騙してそれらを毒槍へと叩きつける──────「テリアル、形態解除。それで生じた余分なリソース全部キャスターに回して」
『御意』
こちらもまた、取る行動は一直線。精霊化に回していた吸収した魔力全てをマスターのパスを通してキャスターに叩きつける。魔力の奔流にマスターの血管の節々の断裂が見られるがその程度で気にすることはない。
「………………!!」
「さぁてさて我慢比べと行こうじゃないか!当たれば怖いが当たらなきゃいいのさ!んならば腕二つなんぞ安いもんじゃなぁ!」
「口調が隠せていないぞ、キャスター……!」
宝具と宝具の激突による衝撃、爆発。その粉塵の中素早く飛び退くキャスターに対し追い縋ろうと駆け抜けるランサー。互いの宝具が互いに命中することはなかった証左と共に激しい戦闘はまだまだ続く。
両腕を失ったキャスターに追いつくランサー。先ほどまでと違い、好き放題世界を嘘で作り替える土台がキャスターにはもうない。ならばそのまま切り捨てるだけ。少しは白兵戦もできるようだが、その両腕を失った状態ですることなど何もない。
「腕がなければ印を結べぬ。結べなければ同胞を呼べぬ」
──────ならば、腕を生やそうではないか。
神通力で浮かしたるは懐に忍ばせていた人形の残り全て。それらはキャスターが肉体を変化させるプログラムとも呼べる呪術で作り出した己が肉体の分体そのものであり、それつまりこれはキャスターの体の代わりをすると同時に体そのものにも変化できる肉の代物である。
ぐじゅりと音を立て、人形が解け肉となり腕を構成する。人形の枚数が足りず片腕は完治、もう片方は肘までであるが片手があれば事足りる。「伊予の国の松山に。八百八の我が子連れ、統べるは民と妖なり。我が神通力は果てを見抜き、操り、全てを導く甘き嘘。
さあさ見せましょう百鬼夜行。全て全てを騙くらかして、あの時の復讐を!
────────『八百八狸』よ、今ここに」
現れるは総勢八百八匹の狸たち。それぞれが宿す霊格は少ないが、それでも人やただの畜生ならざる年月を過ごしてきたことが窺える様相だ。
「これじゃあただの狸の群れだ。そうじゃない、儂らは古き世からの百鬼夜行。ゆえに、このまではよくもなかろう。狸とは化かし騙すものであるが故に」
第二宝具によって狸たちの身が転じる。鳥山石燕が描いたとされる百鬼夜行絵巻……そこに現れる化生たちそのもののような姿に変化する。それは変化の術でそうであると見せかけたものなどではなく、紛れもない本物。本物となっている。
「───────これにて、御免」
戦うためならば長時間展開せざるを得ず、故に信じられないほどに消費してしまうだろう魔力。しかし、今この状況は逃げるためにあり、逃げるための術を放つのにいつまでも長ったらしく宝具を発動する必要はない。ランサーを殺さず時間稼ぎに使用してもなんら問題はない。キャスター……隠神刑部の神通力を用いた早駆けならば一瞬で事足りる。
────────化け狸で構成された百鬼夜行。その奔流がランサーを包むのと同時にマスターを抱え神速通に類似する歩法を試みたのはわずかの猶予の時であった。「さて、予定通り令呪も浮かんだしやっていこうか」
「召喚陣の準備オッケー!」
「ん、ご苦労さまフィルニース」
ペレス島郊外に三人の人影在り。
一人は大鳳飛鳥。この地で聖杯戦争が行われると知り触媒を用意してやって来た魔術師である。
もう一人はフィルニースと呼ばれた黒髪褐色の少女。少女の姿をしてはいるがその正体は呪いと血で形作られた生きた礼装であり召喚陣に使われている血液や生贄もこれから供給されたものである。
そしてもう一人は
「触媒はここに置けば良いですか?」
シュルルと包帯に包まれた触媒、古い瓦礫のようなものを解き召喚陣の真ん中に置く同じく包帯に身を包んだ女性的なフォルムの人。否、人型に巻かれた包帯そのものであるその者の名はシャリーファ。彼女もまた飛鳥(と彼女の義姉)によって命を吹き込まれこの世に生を受けた礼装である。
この二体の礼装であり使い魔を使役する戦闘スタイルとその後に相手の死体が残らないことから大鳳飛鳥は『屍肉喰らい[スカベンジャー]』と呼ばれている……のだが本人はそんな異名も何処へやらと柔らかい雰囲気を発している。
「ありがとうシャリーファ。朽崎さんが用意してくれた触媒、『トロイアの城壁の欠片』。何千年も前の瓦礫が今も残ってるなんてどんな材質なんだろ…」
一見石のようだがある種金属のようにも見える不思議な物質は飛鳥が聖杯戦争に参加すると知り彼女の魔術の師である朽崎遥がコネを手繰って手に入れた触媒。言わずと知れたヘクトールやトロイア側の英霊、城壁を破ったオデュッセウスを初めとするアカイア側の英霊といったトロイア戦争に参加したサーヴァントを狙えるAランク触媒であった。
「どうせならヘクトールやオデュッセウスみたいなビッグネームがいいなー、なんて」
そう言いつつ飛鳥は召喚陣に向けて手を突き出した。「告げる/セット!
素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には古き魔女オードリー、更に古きは西の祭司!」
飛鳥の先祖は魔女狩りから逃れてきた魔術師でありその起源はケルトのドルイドであったと言われている。
「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ[みたせ]、閉じよ[みたせ]、閉じよ[みたせ]、閉じよ[みたせ]、閉じよ[みたせ]。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
詠唱に呼応するように召喚陣が光を発し、そよそよと風が吹き始める。召喚が上手くいっていることを確認し飛鳥の口元に笑みが浮かぶ。
「────告げる!
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────!!」
詠唱が終わると共に辺りを眩い閃光と激しい風が駆け巡る。思わずよろけた飛鳥をシャリーファがそっと支える。
風に伴う土煙が晴れるとそこには鎧のような意匠を散りばめた衣を纏った少女が立っていた。少女は手に槍と盾を持っており、体を捻りながら自分の体を確認しやれやれと言った様子でため息をつくと飛鳥達の方を見て────
「初めまして、私はパラス・アテナといいます。あなたが私のマスターですね?」
そう花の咲くような笑顔を三人へ向けるのであった。「うわ、可愛い…。じゃなくてパラス・アテナ…アテナ!?」
パラス・アテナの笑顔に思わず思ったことを口走ってしまった飛鳥が気を取り直して名乗った真名を反芻し改めて驚愕する。パラス・アテナとはオリュンポス十二神の一柱アテナの別名であるのだから当然である。
「あ、残念ながらアテナとは別人です。私はアテナがパラス・アテナを名乗る理由になったパラスの方です。ほら、パラディオンの」
「なるほどぉ。おっと、質問に答えなきゃね。私があなたのマスター、大鳳飛鳥です。よろしくね、パラスちゃん」
マスターである証に左手の甲に浮かんだ令呪を見せつつ自己紹介する。同時にフィルニースとシャリーファについても軽く紹介する。
「よろしくお願いします。それにしても私を呼び出すなんてどんな触媒を?」
そう言ってパラスは自分が召喚された召喚陣の中に転がっている石の中から『トロイアの城壁の欠片』を見つけ出し拾い上げる。
「なるほど、これなら確かにポセイドン様やトロイアに縁のある私が召喚されるのも道理ですね」
「あ、そうか。トロイアの城壁に加護を与えたポセイドンってトリトンのお父さんだったね」
飛鳥の言葉に頷きながらそっとパラスはそれを懐にしまい込む。飛鳥もまたそれを咎めたりせず思い入れのある品なのだろうと解釈しフィルニースとシャリーファに辺りの片付けを命じ始めた。そして誰にも聞かれない小さな声でパラスが呟く。
「こんなもの現世に残してたら大変なことになりますよ、ポセイドン様…」終わりです。
こ、こやつ召喚して第一声がうわ、可愛いとかマジか…いや私もパラスちゃん可愛いと思うから仕方ない。
トロイアの城壁の欠片…一体何の材質で出来てるんだ(すっとぼけ)来野「美しいです、世界一!」
ルドルフ2世「当然のこと!」
来野「昇る太陽、海の白浜の化身!!」
ルドルフ2世「うむ、ライダーは実はそうなのだ!」
来野「月が沈むのは、ライダーさんと顔を合わせることに恥じ入るから!!!」
ルドルフ2世「いやはや、そこまで言われるとさすがに照れるよ!」
来野「つぎ、私も!私も!交代お願いします!!」
ルドルフ2世「うん、了解だよ。任せて!」
ルドルフ2世「メガネの奥に輝く瞳がとってもキュート!」
来野「いやあ、それほどでも」
ルドルフ2世「頭脳明晰、悪を切る正義のジャーナリスト!!」
来野「えへへぇ」
ルドルフ2世「その手に握るペンの前には剣なんて飴細工同然だよ!!!」
モンストロ「パファ・・・・・・」
来野「世界の平和はこの下畑来野にお任せください!」>>996
以上です。
スレッドの終わりも近いので、とりあえず幕間を!「………目、見えないの?」
「五感全体がかなり」
アドニスの問いにバーサーカーが答える。目が見えない割にはしっかりとアドニスの視線を捉えその声を聞き逃さないようにしているあたりそのようには見えないのだが。
「死とは生命全てに共通するものです。僕の目はその全てを捉える。……魂というものがよく見えるんですよ。だから何も見えないし聞こえないけど大丈夫。あらゆる物事の本質を魔眼で捉えているから、聞こえるし見えます。肉体的なものではなく霊的なものを捉えていると思ってくれるといいかもしれません」
魔眼を閉じた少年はそう語る。つまり、何の問題もないから心配しないでいいのだと。
「……てっきり全能を使っているのかと」
「いえいえ。使いませんよそんなもの。使うわけないのです。使おうとしたらあの子に怒られるし、それは僕も嫌だから」
「………あの子って?」
「この体本来の持ち主……つまり、人格主導権を握ったバロールですよ」
「へぇ………その人もちっちゃいの?」
「生前ならば人間など蟻のように扱うほどですが……さて。サーヴァントなら190cm台では?本人がそうなるよう体の大きさを調節させたがってるので」「じゃあなんで、君はそれよりも小さな少年の姿なの?」
「………僕という存在が生まれたのがバロールの幼少期……つまり直死の魔眼が開眼した頃ですからね。それを体が反映してしまっているのではないかと!」
「あやふやだなオイ。そんなんでうちのアドニスを守れんのかお前」
アドニスの胸から腕だけを出し突っかかってくるジェラール。どうやらバーサーカーの得体の知れなさに未だ警戒心を抱いているらしく、常に殺気が濃密だ。
「そこらのサーヴァントよりも強いとは自負しているとも!汎用性が高い初心者から上級者まで使えるサーヴァントさ!………マスターの魔力量なら、僕よりあの子の方が強いと思うんだけどね」
「じゃあその肝心のバロールはなんで出てこないんだ」
「僕もそう思って引っ張り出そうとはしたんだよ。そしたら『こんなおもしれぇことになってるのに俺が出張るのはつまんねぇだろ。せっかくなんだからお前が外の世界の生ってもんを体感してこい』って出るつもりがないらしくて。ごめんね」
本来の人格はバーサーカーの方よりも曲者らしい。そう考えたら、これぐらいの気質の方がアドニスには馴染みやすいのかもしれない。そう思ったジェラールは殺気をいくらか和らげ……
「まあサーヴァントとしての服従心は僕より強いし戦闘もあっちの方が豊富だしあっちの方が魔眼暴走のリスクはないんだけどね」
「やっぱお前駄目じゃねぇかよ!!」スレ埋めにこちらも小話程度を。お粗末様でした
聖杯大会本戦統合スレNO.4
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