>>934
聖杯戦争も今は昔。選定の剣を抜いてからずっと平穏とは無縁だったアルトリア・ペンドラゴンは、己の運命の相手と愛し合い、平穏に生きていた。今も二人が暮らす民家の縁側に私服姿で一人、夕食の材料調達に出かけている士郎を座って待っている。
お腹を大きくして。
(うーん……いくら私が通常の英霊とは違い生身とは言え、まさか赤子を授かるとは)
もはや魔力供給の言い分もなく、ただただ衛宮士郎と愛し合う者同士として身体を重ねまくった、あるいは快楽に溺れた結果としてのコレである。かつて心を殺して生き、最後の最期で己の鞘と巡り会って救われた彼女。背負っていた重責から解放された所為か、もはや恋人に抱かれることが大が三つ付く程好きになってしまった元騎士王さんであったが、しかしそれも当分の間ご無沙汰である。理由は明々白々。
(シロウは大喜びでしたし、マーリンの祝福も受けましたが……いよいよもって、剣としての私とは本格的にお別れなのですね)
騎士甲冑は脱ぎ、髪も下ろした。それでも彼女の鞘を自任する士郎同様、アルトリアも士郎の「セイバー」としてあったつもりだったが、もはや身重の身体で戦うことはできまい。どころか、じき母になる彼女が再び剣をとることなどと、少なくとも士郎はそう思っている。日々増してゆくお腹の子への愛しさと主に士郎の反応から得ている幸福感、それでも隠せない不安と名残惜しさ。以前それを己の恋人に打ち明けたことがあったが、士郎はそんな彼女を抱き寄せて、優しい声で言ったものだった。
(アルトリア……セイバーは、ずっと俺の剣だ。でも決して、戦うために振るわれる在り方だけの剣じゃない)
(これからは、鞘のがらんどうをずっと、埋めていてくれると嬉しい)
実はそれより前、士郎の正義の味方としての血が疼いたときアルトリアが逆に彼を抱き寄せて似たようなことを言っていた。「正義の味方としての貴方を愛している。これからは共に有ることで私を救ってほしい…幸せにしてほしい」と。それならば、どうして彼の言うことを拒めよう。
(早く帰ってきてくださいシロウ。貴方とキスしたくて仕方なくなってしまいました)
つらつら考えているうちにまた少しずつ恋人への愛しさと、もっと言うなら欲求をため込み始めたアルトリアはくせ毛をぴょこぴょこ揺らした。平々穏々、待つ時間すら至福。麗らかな日々の一幕だった。
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